かみだのみ(作者 ゆうそう
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 その所作は祈りにも似て。
 握りしめた掌の中では、くしゃくしゃになった紙が一枚。
 結果は分かり切っているけれど、それでも、そうしていればその中身はまだ確定しないのだと。
「今回は全体的に出来がよかったぞー。平均点も76点ぐらいだなあ」
 聞こえてくる声への反応は悲喜こもごも。いや、どちらかというと、安心したような空気が強いか。
 それを感じる自分自身がどちらかなどとは言うまでもない。
 がさり。
 確認を先送りし続けていた紙を、そっと開く。
「……はあ」
 そこに刻まれた点数は見慣れた赤。平均にすら届かぬ赤。
 どうして。あれだけ頑張ったのに。
「――だからこそだなあ。それに届かなかった者はより励むように。いいなあ」
 見つめ続けた一点から視線を外し、チラリと教壇に向ければバッチリと目が合ってしまった。
 胃が締め付けられるように身を縮こませる。
 嗚呼、あれは自分自身に告げられたものなのだろうと、理解するは当然か。
 すぐにその視線は 外れた/外した けれど、それでも縮こまったままの胃はなかなか戻ってくれそうにない。
 より励むように。なんて、誰かは気軽に言ってくれるけれど、これでも私は頑張っているのだ。
 だと言うのに、だと言うのに、結果がいつも付いてこない。それは勉強にしても、運動にしても、なんにしても。
 心の裡で淀んだ空気が、重い溜息となって口から零れた。
 ――カサリ。
 教壇で解説が行われ始める中、それとは違う音が耳に届く。
 どこからか。目の前からだ。
 誰が放ったかは分からない。チラリと小さく周囲を伺うも、誰も反応はしていない。むしろ、不審げな目を向けられるばかり。
 伝言メモを回してくれという類ではないようだ。
 普段ならそんな不審なモノなど無視もしたのだろう。だけれど、今は違う現実に逃避したかったのかもしれない。
 誰のモノでもないのならと、がさり紙を広げてみれば。
『いつもなんでも上手くいかないアナタに朗報を。このおまじないをすれば、きっとアナタも何でも上手くいくように変われるよ』
 そんな文章と不思議な刻印。
 それは悪戯かとも思ったけれど、現実逃避の頭は違う答えを導き出す。
 もういっそ、神頼みもいいのかもしれない。なんて、不思議とそう思えてしまったのだ。
 手の中で、ぐしゃりと赤点の答案用紙が再び潰れ、小さく小さく丸めれらた。それこそ、誰にも見つからないぐらいに。ないものとするかのように。

「その結果としてぇ、図らずも邪神が召喚されてしまうのですけれどもねぇ」
 頭の上で作り物な兎耳を揺らし、そう語るのはハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)。
「皆さん、迷宮災厄戦お疲れ様でしたぁ。折角ならぁ、バカンスにでもご案内したいところなのですけれどもぉ、そうはいかないようなのですよぅ」
 アリスラビリンスで行われた戦争が終結したのはついこの間の事。
 だけれど、世界はその一つだけでなく、数多とある。同時並行して他の出来事が起こるのはままあることではあった。
 そして、今回のこれも、その内の一つ。
「舞台はですねぇ、UDCアースのとある私立学園ですぅ」
 そこは中高一貫の学園であり、増改築を繰り返された敷地内は慣れていない者にとってはまるで迷路のようでもあるのだそうだ。
 今回、そこで邪神の召喚が企てられているのだと言う。
「と言ってもぉ、本人達にはその自覚はないのでしょうけれどねぇ」
 勉学にせよ、運動にせよ、秀でていない部分は誰にしもあるもの。その劣等感を利用し、おまじないと称して学生達の間に邪神召喚へと繋がる儀式を広めた者があったのだ。
 故に、彼ら彼女らは、それをそうと知らずに実行し、積み重なった情念とも言えるものが邪神召喚へと至る鍵となってしまうというのが、今回の出来事である。
「ですがぁ、それはまだ未来のお話ぃ」
 既に幾つかのおまじないがなされている可能性はあるものの、完全な邪神召喚へと至るだけの積み重ねはまだそこにはない。
 だからこそ、猟兵達が介入を行うだけの時間も、まだそこにはあるのだ。
「おまじないの内容はですねぇ、分かっている範囲ですとぉ、学園に何かを隠すことのようですぅ」
 その何かこそが重要なのであろうが、そこは残念ながらと言ったところ。また、もしかすれば、それ以外にも何かしらの条件が含まれている可能性も否定は出来ない。
 猟兵が介入出来ることがあるとすれば、まさしくその解明こそが第一であると言える。
 その何かを特定するべく聞き込みし、それから探すのもいいだろう。
 当たりを付け、最初から学園内で怪しいものを調べつくすのもいいだろう。
 他にも、そういうことをしそうな生徒をマークし、現場を抑えるのもいいかもしれない。
 手段や方法は様々であり、それこそ猟兵に一任される部分でもある。
「ただですねぇ、相手――生徒達ではなくぅ、これを画策した方も何某かの妨害は想定していると思われますのでぇ、その辺り、ご注意ですよぅ」
 調査の段階で直接的な妨害はないだろうが、それでもポルターガイストのような怪奇現象の類は起こる可能性は高い。
 それへの対処もあれば、より安全に行動できるかもしれない。
「神頼みが悪い事だとは言いませんけれど、それでもそれが邪神とあっては見過ごせません。どうか、皆さんの手で止めてあげてください」
 銀の鍵が宙に翳され、世界と世界を繋ぐ扉が開く。
 道中、お気をつけて。そんな言葉を背に受けながら、猟兵達はその扉を潜るのだ。


ゆうそう
 オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 戦争が終わり、また新たな事件の気配が。
 今回の依頼は、学園が舞台の邪神召喚阻止となります。
 第1章はオープニングに示させてもらった通り、UDC発生の要因を特定して阻止することになります。
 聞き込みをするも、手当たり次第に動くも、自由に動いて貰えればと。
 第2章、第3章では戦闘となります。
 学園での戦闘となりますが、敵は学園そのものには不慣れですので、その何某かの要素を利用できれば有利に立ち回れる可能性もあります。
 勿論、正面からぶつかるのも問題はありません。

 それでは、皆さんの活躍、プレイングを心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『UDC召喚阻止』

POWUDCの発生原因となりそうなものを取り除く
SPD校内をくまなく調べ、怪しげな物品や痕跡がないか探す
WIZ生徒達に聞き込みを行い、UDCの出現条件を推理する
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


シャト・フランチェスカ
祈り、情念
それらを糧に文章を書く身としては
無辜の心を儀式なんかに悪用されるのを見過ごすわけにはいかないな

《シェリ》、【偵察】の力を貸して
終わりのチャイムが鳴ったら、この教室に集合しよう

学校に来るのは初めてだ
制服なんて着るのもね
放課後、教室に残っている女の子たちに声をかけてみよう

来週、転校してくる予定なんだ
内緒だよ
流行り物とか、噂とか
知りたくて忍び込んでしまったのさ

やがて鐘の音
シェリは何かを見つけられた?

初めての場所に気持ちが昂っているのかもね
宣戦布告をしてやりたい気分だよ
どこかで見ているかもしれない「きみ」に宛て
これも立派なおまじないさ

チョークで黒板に書きつける

「彼らの祈りは、彼らだけのもの」


 夕暮れの灯火が差し込む廊下で、ゆらりゆらりと影が遊ぶ。
 それは行きかうヒトビトの影でもあり、複雑怪奇にと建て増しされ続けた校舎の影。そして――。
「学校に来るのは初めてだ。制服なんて着るのものね」
 シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)が影もまた。
 歩調に合わせ、その身に馴染まぬ衣の上をさらりと紫の編みが撫でては揺れる。
 窓越しに、扉越しにと聞こえてくるさざめきは、部活動に勤しむ学生のものか。はたまた、放課後の解放感を満喫する学生のものか。
 だが、そこに視る景色が何色であるかは、また人それぞれ。明日への希望を視る者もあれば、俯いて地を見続ける者もあろう。
 夢も、希望も。挫折も、劣等も。
 今を生きる若き芽達の集まる場所であればこそ、渦巻くそれらは多様にして色濃くと。
「どうにしても、青春なのではあろうけれど」
 それが薔薇色にしても、灰色にしても、だ。
 さて、シャト・フランチェスカは筆に生きる者である。
 言の葉に魂を込め、情念を込め、祈りを込める者。
 故にこそ、この地に渦巻くそれらが如何に得難く、大切なモノなのであるかを識っている。
 薔薇色にしても、灰色にしても、何色にしても、それはきっと彼ら彼女らだけのモノ。
「それを儀式なんかに悪用されるのを見過ごすわけにはいかないな」
 だからこそ、それを利用する者の存在は捨て置けなかった。
 頑固にして気儘なシャトが自らを動かすには、充分すぎる理由であったのだ。

「亡きヒメは──喰いたらぬと啼き、悔いたらぬと哭く」

 詠うように告げれば、夕暮れに伸びるシャトの影が大きく踊る。
 だが、それも一瞬の事。瞬き一つをした後には、そこには何も変わらぬ影だけが伸びていた。
 ただ、名残りのように、桜の花びらが風もないのに揺れていて、その枝の下で紫の色が揺れている。
 桜の木の内には、青に染まらんとする紫陽花の内には、さて、何が眠っているのだろうか。眠っていたのだろうか。
 元の姿を取り戻した影は何も語らず、ただそぞろに歩むのみ。
 ――カラン、カタリ。
 影踊る廊下の中に、枯れ枝の如き音を忍ばせ、広げながら。

「すまないね。輪の中に加えてもらって」
「ううん。うちらもただ駄弁ってただけだし、面白そうなことはかんげーだよ」
「かんげー……ああ、歓迎か」
「そうそう。見慣れない子がいるなーって思ってたらそれが転校生だなんて、すっごい情報じゃん!」
「まだもう少し先の話だからね。内緒に頼むよ」
「おーけーおーけー」
「うちら、結構口堅いから任せてよ」
 紛れ込んだ学舎の中、シャトが目をつけたのは教室に残り、世間話に花を咲かせる二人の女生徒。
 当たり障りのない挨拶から、そろりと忍ばせるは自身が転校生なる情報。
 最初は胡乱気な視線を向けていた二人であったが、その情報と見慣れぬシャトの姿に視線は興味津々と早変わり。
 日常の中で新たな刺激に飢えている彼女らからすれば、シャトのその情報は垂涎のものであったのだ。
 だからこそ、日常の新たなる刺激――転校生であるシャトの情報を少しでも得んと、彼女らはすぐ様とシャトを受け入れていた。
 そんな彼女らの様子に、シャトは内心の苦笑を押し殺す。
 人の口に戸は立てられぬと言うけれど、彼女らの口も同様であることなど観察するまでもない。
 だが、別にそれはそれで構いはしない。今、重要なのは、それを取っ掛かりとして聞くべきことを聞き出すことなのだから。
「――流行り物とか、噂とか。そういうのを知っていれば、早く馴染めると思ってね」
「それで忍び込もうだなんて、シャトさんってすごっ!」
「うちはそんな勇気ないわー」
「ふふ、その勇気に免じて、何かないかい?」
「あー……そういえば、最近何か流行ってる噂あったよね?」
「ほう?」
「何でも上手くいくようにーとかっていうおまじないでしょ? うちも聞いたわ、それ」
「それ、詳しくいいかな」
「お、食いつくね」
「そういうの、好きな感じ?」
「そんなところさ」
「なるほど。シャトさんはおまじない好きっと。あ、で、うちが聞いたのは――」
 そして、語られるは呪いの内容そのもの。
 学園に何かを隠すということはシャトも聞き知ってはいたが、その何かとは当人にとって否定したいものだという。
 例えば、上手くいかなかったテストの答案用紙であったり、部活動で用いる道具の一部であったりだ。
 それを人に見つからぬよう隠した上で、上手くいかない自分を変えて下さい。と、深夜に学園へと向けて祈ればいいという、至極簡単なおまじない。
「まあ、眉唾なんだけどね」
「でも、実際にやったことのある子もいるって話じゃん?」
「そこまで縋らなきゃダメなのかなあ。シャトさんはどう思……って、シャトさん?」 
「ん、ああ。とても興味深い話だったから、つい聞き入ってしまっていたよ」
 思った以上に、そのおまじないというのは学園内に沁み込んでいる。その事実に、そして、得た情報を咀嚼することに、シャトは思わずと思索の海に浸っていた。
 だからこそ、彼女らの会話に乗ることへ少しだけの間が開いてしまったのだ。
「シャトさんは――」

 ――その間に、一人の少女が口を開きかけ、妨げるように鐘の音が響いた。

「――って、やばっ、もうこんな時間! 見回りが来る前に帰らなきゃだ」
「うわ、はやいねー」
 彼女が問おうとしていた言葉は慌ただしさの中に、あっという間に溶け消えた。
 ガタリ、ガタリ、カタリ。
 素早く鞄持ち、荷物持ち、二人の女生徒は立ち上がる。
「シャトさんも早く帰らないと先生にどやされるよー」
「おや、その報せの鐘だったのか。なら、僕ももう少ししたら帰るとしよう」
「粘るのもの程々にね。じゃ、また会えるといいね!」
「ばいばーい!」
 帰ろうとしないシャトへの不思議もあったのだろうけれど、それよりも自分達が怒られることへの拒否感が勝ったのだろう。二人組の女生徒はシャトへと手を振り、瞬く間に教室を後にしていく。
 残ったのは鐘の音の残響と、夕暮れに染まるシャトの姿。

「――シェリは、何か見つけられた?」

 そして、シャトだけにしかいない教室に、カタリとまろび出る枯骨――シェリと呼ばれた者達の姿。
 その身が持ち運ぶは、丸められた紙屑に使いこまれたスパイク等、一見すればガラクタにしか見えない数々。
 だけれど、それが何であるか今のシャトには理解できる。
 それは切なる願いそのもの。今を打破せんと足掻き、その果てに藁にも縋った者達の情念そのもの。
 シャトに見つけられた以上、そこに込められた情念が利用されることはもうない。
 カツリ、カツリ。
 足音響かせて歩み寄るは、教室飾る黒の板。
「さて、彼らに代わって、私のおまじないを『きみ』に届けよう」
 響かせた足音と同じぐらいに硬質な音を立てて、黒板の上をチョークが躍る。
 一文字、一文字と書き連ねる度、シャトは自身の内側に渦巻く昂ぶりを感じ取っていく。
 そして、カッと音を立て、最後の一文字が書き上がった。
 そこにかかれた言葉/おまじないとは。

「彼らの祈りは、彼らだけのもの」

 無辜の心を悪用する者への。ヒトの願いを踏みにじる者への宣戦布告そのもの。
 夕暮れが沈み、夜の帳が周囲を染める中、シャトの声が静かに学園の内にて響き渡った。
 さて、その声は届いただろうか。きっと、届いたことだろう。
大成功 🔵🔵🔵

ライカ・ネーベルラーベ
隠したもの探しねぇ……
特に得意なわけじゃないけど、聞き込みよりはマシか
直接探しに行こう

手がかりは特にないし、この手の所に通ってた記憶もないからカンが全く働かないけど
目印になりそうなものは一つある
「妨害があるなら……つまり、妨害が激しくなる場所がアタリに近いってことでしょ」
怪奇現象の気配を頼りに捜索を行うよ
「この程度の現象、驚けもしないしね」

何かを隠すっていうなら(モノ、だよね……?)それっぽい怪しい動きの生徒が探せば居るでしょ
そういうのの後を追って怪奇現象に遭遇すればビンゴかな


え?この格好?
制服ある場所に潜入するんだから、着て変装しないと目立つでしょ?


 昇って、下って、曲がって、歩いて。
 無計画――とまではいかなくとも、限られた敷地の中で増築に増築を重ねた校舎は、まるで迷路のよう。
 それはこの学園に通う生徒であってすらそう思うものであるのだから、学校というものに馴染みがない者にとっては猶更であろう。
「……この手の所に通ってた記憶もないから、カンが全く働かない」
 ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)の過去は白紙。
 もしかすれば、そこにかつては学校というものに通っていた記憶があったのかもしれないけれど、今は混濁の果ての中。あったかどうかも定かではない。
 だから、その記憶なきライカにとって、勘を働かせようにも、この馴染みの無い空間ではその基となるものがないのだ。
「隠したもの探しねぇ……どうやって探したものやら」
 休憩時間の喧騒の中でぺたりぺたりと上履き鳴らし、歩調に合わせて制服の衣がひらりひらり。
 学校という場所である以上、そこに潜入するには適した服装があるもので、ならばと選んではみたものの、着慣れぬ衣装の肌触りはどうにもくすぐったい。
 困った。困った。いや、大して困ってもいない。
 躁鬱の間を行き来する心は、矛盾した言葉を脳内で弾き出す。だけれど、ライカの騒がしき心の裡とは裏腹、その顔に浮かぶはまだ物憂げのみ。
 故に、そこにあったのは儚き学徒の姿であり、幸いにも学園という景色にライカは馴染めていたのであった。
「さて、今のところは手がかりも特になし、と」
 隠されたものが何であるのかは分からないままに、それでもと捜し歩いて時幾つ。
 校舎の全てを渡り歩いた訳ではないけれど、ぐるぐると歩き続けて、随分とその構造に詳しくなってしまっていた。
 だが、肝心のものは霧の中。迷宮に隠された宝――と言えるかどうかは分からないけれど――はまだ見つからない。
 とは言え、だ。最初からいきなりそれらしきものが見つかるなど、ライカも期待はしていない。
「ま、そうだよね。なら、視点を変えよう」
 目星を変えて、物からヒトへ。
 直接と宝が見つからないのであれば、それを隠そうとするヒトを見出せばいいのだ。
 何かを隠そうというのなら、それはそこに不自然を生じさせることだろうから。
「なんて、この場所にとっては不自然のわたしが言うのもおかしな話かもね」
 軽口を友にしながら、そろりと配り歩く視線。右を見て、左を見て、前を見て、後ろを見て。
 廊下で騒ぐ男子生徒。教室で輪を作る女子生徒。様々、様々。
「……ん」
 その中で、ひっそりと賑やかさから離れ行く気配の一つ。男子生徒が背を丸め、まるで急ぐかのように。
 そして、その方向は――。
「確か、準備室とか書いてあった部屋があったかな」
 渡り歩く最中、ライカの脳内でマッピングされた校舎内。広げられた地図を思い浮かべれば、彼の向かう方に何があったかの心当たり。
 教室から離れるそこは――人の気配も少なかった筈だ。
 ぺたりぺたりの音はなく、獲物を見定めた獣の如き無音がその後を追った。

 ――ガタリ、ゴトリ。

 到底、資料の類を準備してくれと頼まれたとは思えないような音が聞こえ来る。
 しかし、それも暫くのこと。思案するように響いていた音は次第に鳴りを潜め、納得の気配と共に静けさを取り戻す。
 そして、ガラリと扉が開けば、周囲を確認しながら出てくる男子生徒。誰も居ないを確認し、急ぎ日常の中へと駆け足で戻っていく。
 それに声を掛けるような野暮を、物陰に隠れて見聞きしていたライカはしない。
 というよりも、声を掛けて騒ぎになる方が面倒だから。
「鬼が出るか、蛇が出るか」
 カラリと静かに扉を開き、潜ればそこは埃の香り。
 ガタガタと彼が動き回っていたからか、攪拌された空気はより一層とそれを感じさせていた。
 棚が並べられ、ダンボールが乱雑に積まれた景色。開いている箱からは、もう使われていない教材らしきものが顔を覗かせてもいる。
 彼はそのどこかに上手い事隠していたのだろう。そこに何かを隠したという意識がなければ、誰も気づかないままであったことに違いない。
 だけれど、そうと意識してみれば、薄く積もった埃に段ボール箱を動かした形跡。ライカにしてみれば、一目瞭然であった。
 真新しい痕跡に近づき、手を伸ばせば。

 ――古びた三角定規が飛び、黄ばんだ紙が淀んだ空気の中を舞い踊る。

「随分な妨害だ。でも、この程度の現象、驚けもしないね」
 これが一般人相手であれば、十分過ぎたとも言える。
 だけれど、ライカは猟兵であり、この程度の超常など超常と語るまでもない。
 飛来した三角定規を掴み取り、逆にそれで視界を塞がんとする紙を薙ぎ払えば、部屋は元の静けさを取り戻す。
「まあ、でも、妨害があったってことはアタリでもあったんでしょ」
 ヒトの動きを目星としてはいたけれど、同時、ライカは怪奇現象の有無もまた判断材料にと考えていたのだ。
 そして、実際に起ったことを考えれば、それはもう確信へと変わるに十分。
 周囲への警戒を怠らず、大人しくなった三角定規を手にしたまま、ライカは段ボール箱へと手を掛けた。
「……手紙?」
 それは可愛らしく封をされた手紙であった。
 ――さんへ。
 そう書かれた封筒は、この埃臭い部屋の中にどこか甘酸っぱい気配を漂わせる。
 なんとも形容しがたい表情がライカの顔に浮かんでいた。
 中を改めてもいいけれど、それはそれでなんだか。
 何故、それを彼が隠したかったのかは分からない。出したのか、出せなかったのか。背景を想像することも出来るけれど、ライカにとって関係のないそれ以上は考えることを頭が拒否していた。
 だけれど、これが当たりであることは間違いない。
「あー、まあ、青春ってやつなのかな? まあ、そういうのもなんでしょ、きっと」
 ぶっ飛んだところもあるライカではあるが、今はそれを開かず、そっと回収をするのみに留めるのだ。
 少なくとも、これで彼の情念が邪神召喚に利用されることはないだろう、と自身を納得させて。
 カラリと再び戸を開き、廊下へとライカは歩み出る。
 淀んだ空気とは違う外の空気は、少しだけライカの心を洗ってくれた。
成功 🔵🔵🔴

フィーナ・ステラガーデン
しれーっと学園の制服に着替えて潜入よ!動くのは休み時間ね!
んー。どうしようかしら?
そもそもおまじないしちゃった学生は別に邪神を召還しようとしてやったわけじゃないのよね?
じゃ、正面から聞きましょ!
スパーン!(教室のドアを開く音)
「あー!おまじないの方法書き間違えたわー!」(決して小さくない棒読み)
で、教室内の見渡して「おまじない」って言葉に反応した生徒を探すわ!
いなければ次の教室!いれば接近よ!

そーよ!おまじないを用意したのは私よ!(大嘘)
何を隠そう私は魔法使いなのよ!(案外本当)
(手の平に炎を出し消してみせる)
で、どこに何を隠したのかしら?
え?書いた本人が知ってるはず?んー・・忘れたのよ!!


 静けさを打ち破った鐘の音は、長く、短く。
 合わせて、あちらこちらからと学園に満ちていく賑わい。
 それらは、お昼の休みを示す合図。
 退屈な時間からのひと時の解放に生徒達も、教師達ですら、束の間の休息と羽を伸ばす。
 誰かは昼食をいそいそと取り出し、誰かは購買へと向かって走り、誰かは仲良き友へと会いに行く。
「なんだか、すごく賑やかなのね」
 その賑わいは表面上だけにしても、此処が平和である証拠なのだろう。
 そんな喧騒に包まれる学園の中、堂々と廊下の真ん中で揺れる金色――フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)。
 着慣れた赤と黒を今は学園の制服へと変えて、足取り確かと歩を刻む。いや、時折ふらりと横道――学食や購買の香りへ惹かれそうになるものの、辛うじてその足は横道にズレることなくと。
「……まあ、また後でね。後でね!」
 お昼休みという自由な時間は有限だ。だから、そちらに時間を使う訳にはいかないのだ。いかないのだ!
 とは言え、折角と潜入したのだから、この学園が如何なるかを知っておくのも重要だろうから、後で行く事は忘れまいとフィーナは頭のメモ帳にしっかりとそのことを刻み込むのである。
 そして、断腸の想いで、後ろ髪を強く惹かれながら、それでも足を進めた先、そここそが彼女の目的地。

 ――スパーン!

 いっそ軽快な音を立てて、教室の扉が開かれた。
 誰もの視線がその音の原因――扉を開け放ったフィーナへと集まる。
 一瞬の静寂。
 誰だ。え、誰? あんな子いたっけ? 可愛い子じゃん。
 教室に残っていた生徒達の脳内に浮かぶ無数の疑問符。
 それもそうだろう。昼休みに突如として見知らぬ、しかし、同じ制服を着た誰かが入ってくれば。
 だが、誰もその疑問を口にしない。
 誰かが一言でも、貴女は誰。と口にすれば違ったであろうけれど、誰も何も言わないのだから、きっと誰かの知り合いか何かなのだろう。という暗黙の内に納得をしてしまったが故に。

「あー! おまじないの方法書き間違えたわー!」

 そして、その静寂を打ち破ったのは、この静寂を齎した張本人。
 注目が集まっているのもなんのその、ふすー、ふすー。と口笛の真似をしながら、決して大きくはないが小さくもない独り言。
 突然現れて、突然の独り言。それに、いったい何のこと、と思う者もいたことだろう。
 だけれど、だ。
 ――チラリ。
 口から空気の抜ける音を奏でつつ、横目で教室を視たフィーナの赤眼は、『ソレ』を見逃さない。
 期待通りの結果にニコリと笑って、するりとそれへと近付く教室の中。
 まるでモーセが海を割ったかのように、その進路が割れていた。
「じゃ、ちょっとお話しましょ!」
「……え。え? え!?」
「お邪魔したわね!」
 金色の嵐は目的の――おまじないの言葉に、ぴくりと肩を震わせて反応した女子生徒の手を掴み、猛然と教室を後にしていく。
 女子生徒も突然の出来事に抵抗など出来ず――出来たとしても、無意味であっただろうけれど――困惑を顔に浮かべ、フィーナと共に教室の外へ消えていった。
 残されたのは、呆気にとられた空気。しかし、それも瞬く間にアレは何だったのかという喧騒に塗り潰されるは当然か。
 教室に日常が舞い戻っていた。
 ただ、その喧騒の中で、誰しもの頭にはドナドナが流れていたとかいなかったとか。

「で、最近流行のおまじない、したのよね?」
「い、いきなり……あなたは誰なんですか!?」
「どーどー、落ち着きなさい。あなたも、何か不思議な感じの刻印が入った手紙、受け取ったでしょ?」
「! なんで、それを」
「ふふ、ようやく話を聞く気になったみたいね! そう! 何を隠そう、あのおまじないを用意したのは私よ!」
 勢いのまま連れ込んだ学食の片隅。
 樹を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中とまでは言わないが、混みあう学食の片隅であれば、喧騒そのものが彼女らの存在を覆ってくれる。
 誰しもが自分の昼休みを満喫することに集中しているからこそ、彼女らの対談になど注意が払われることはない。
 そして、そんな中、連れ込んだ勢いのまま、フィーナはその口からするりするりと勢いなくさぬままの言葉を告げるのだ。
「え、本当に?」
「刻印のことまで知ってるのよ。本当に決まってるでしょ!」
 勿論、嘘である。
 だけれど、女子生徒もこの突然の状況に未だ頭の中が整理出来ぬ最中、更に勢いで押され、更には真実も含まれた嘘を並べられれば、正気へ立ち返るどころではない。
 彼女にとって、今は非日常真っただ中なのである。だから、眼をパチパチと慌ただしく瞬かせ、ただただフィーナを見つめるのみ。
「で、でも、なんで急にそんな……」
「私、実は魔法使いなのよ! それで、ちょっと手違いというか、間違ったおまじないを広げちゃってね!」
 テヘリ。
 舌までは出さずとも、悪戯な笑みを一つと零す。
 だが、突然魔法使いなどと言い出したなら、ヒトはどういう風な反応をするだろうか。
「……帰っていいですか?」
 こういう反応もするだろう。
 混乱から一気に立ち返り、女子生徒はどこか生温かい眼をフィーナに注ぐ。
 これはあれだ。若気の至りを見守るかのような、そんな生温かな。
「あ、信じてないわね? なら、証拠を見せてあげるわ!」
「いえ、そういうのはもう大丈夫で……ええ!?」
 生温かな目が、驚愕に染まる。
 それもまた当然だろう。種も仕掛けもないフィーナの掌で、突如として炎が小さく煌いて、またパッと火の粉の名残を小さく残して消えていくのを見たのだから。
 驚愕のまま、女子生徒はフィーナの手を握り、遠慮もなくとタネを探すが何かが出てくる筈もない。
 魔法使いという一点においては、それはまさしく真実でもあるのだから。
「信じてくれた?」
「……はい」
「なら、いいわ」
 信じた。その素直さと言うべきか、幼さと言うべきか、そこに少しばかりの心配を混ぜつつも、フィーナは続ける。
 手は、握られたままであった。
「で、あのおまじないのことなんだけれど、どこに何を隠したのかしら?」
「? どんなものを隠すかは、魔法使いさんなら知ってるのでは?」
「ん! んー……のよ」
「え?」
「忘れたのよ!」
 いけしゃあしゃあ。堂々と嘘を吐く。
 だけれど、間違ったおまじないを流布してしまう位なのだ。忘れることもあるだろう、と女子生徒はその嘘をすら最早呑み込む他にない。
「それって、言わないと駄目ですか?」
「駄目ね。あのおまじないのままだと、願い事は叶わないわ。むしろ、悪いことが起こる可能性もあるの」
「え、えぇ。それは……困ります」
「だから、教えて頂戴。悪いことが起きる前に」
「……分かりました」
 そこからは、ある種の懺悔でもあったのかもしれない。
 この女子生徒は美術部に在籍しているらしいが、最近、どうにも思うように絵が描けないらしい。
 線の一筋、色の一塗り、そのどれもが納得いかず、周囲との差が気になりだして仕方がなかったのだ、と。だから、そんな自分を変えて貰うために、このおまじないを頼り、美術部の一角に自分の筆を隠したのだ、と。
 幸い、まだ隠したのが今日であったため、このおまじないの最後の締めとなる、夜に行われる祈祷はされていなかったのは救いと言うべきか。
「話してくれて、ありがとね」
「まだ、間に合うでしょうか?」
「勿論よ。今からそれを回収すれば、きっと間に合うわ。間に合わせて見せる」
 それは嘘や気休めの言葉などではなく、本当の言葉。
 ガタリと立ち上がるフィーナは既に次を見て、燃ゆる心は足を動かす。
 瞬く間に学食を出ていく姿は、まるで、嵐のように女子生徒の瞳に映っていたのだ。
 その心の赴くままに動くフィーナの姿は、一つの線を描くにも悩み、萎縮していた女子生徒自身にとって、どこか眩しく。
「もう一回、頑張ってみようかな」
 そんな言葉を零させるほどに。
 そして、フィーナが宙を踊る石膏像を蹴散らして無事に筆を回収するのと、フィーナの輝きに感化された少女が新たに筆を執るようになるのは、もう少し未来の話。
 だけれど、確かに、ここに一つの情念は邪神召喚に利用されることなく、昇華されたことは間違いない。

「ところで、美術室ってどっちかしら!」
「え、あ、案内しましょうか?」
「お願いするわ!」

 勢いのまま出て行って筈のフィーナが、勢いのままに帰ってくる。
 もう少し、少なくともこのお昼休みの間、女子生徒にとっての非日常はまだ続きそうであった。
大成功 🔵🔵🔵

オリヴィア・ローゼンタール
がっこう、ですか
アルダワのそれと違って、勉学に特化しているようですね
出自上、こういう学ぶ機会に恵まれなかったので気分だけでも味わわせていただきましょうか

セーラー服の姿に変身して生徒として潜入
【目立たない】ように、さも普通の生徒のような態度を心掛ける
昼休みのご飯は……軽くパスタか、ハンバーグ定食か……むむ

放課後、隠されたものを探して回収
階段の下、屋上の隅、校庭の木の根元
見つからないようにと思うほど、逆に目印のある分かり易い場所を選んでしまいがちなものですよね

ひと気のないところで怪奇現象が起これば――竹刀袋に隠しておいた刀、金剛不壊を抜き放つ
魔人の鍛え上げた刀の迫力(威厳)で【除霊】する


 世界が違えば、文化も違う。
「がっこう、ですか。アルダワのそれと違って、勉学に特化しているようですね」
 災魔や魔王を封印していた迷宮が地下にあるでもなく、蒸気機関の織り成す景色があるでもない。
 ただ、迷路のような造りは何処か共通しているような気もするが、それはこの学園の特徴であって、全ての学園に当てはまる訳ではないだろう。
 そんなUDCアースにおける学園の中を興味深げと歩き回るは、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。
 修道服の衣を今は脱ぎ置き、纏うは清純の白。翻るは濃紺。そう、今の彼女は違うことなき学生。セーラー服なるを纏う、女学生なのだ。
 だから、そんな彼女が学園内を闊歩するのはなにも不思議ではない。例え、そのセーラーに靡く、麗しき銀の髪に見惚れる者が出てきていたとしても、問題はないのである。
 そして、そんなオリヴィアが今ある場所と言えば――。

「昼休みの御飯は……軽くパスタか、ハンバーグ定食か……むむ」

 学食の真っただ中。
 食券の販売機を前にして悩む姿は、その衣装も相まって、珍しくの年相応にも見えていた。
 本来の目的はいいのかと言う者も、もしかすればあるかもしれない。こんな所で悠長に御飯の吟味をしている場合かという者もあるかもしれない。
 だが、敢えて言おう。良いのだ。
 学園の日常に溶け込むためにも、立ち振る舞いは学生のそれでなければなるまい。
 ならば、お昼休みにすることと言えば、まずは昼食を摂るに間違いはない。きっと。
 そんな思考があったのかなかったのかはさておき、オリヴィアの指先がパネルを踊り、ポチリと押したボタンの一つ。
「よし。ハンバーグ定食といきましょう」
 販売機が購入のお礼代わりと食券を吐き出して、オリヴィアはこれと心決めた食券を片手にいそいそとおばちゃんの下へと向かうのである。
 背筋をしゃんと伸ばして歩く姿ではあったけれど、その後ろ姿はなんだかんだと満喫しているようにも見えていた。
 ダークセイヴァーというオリヴィアの出自上、こういう場所とは縁遠かったであろうことは想像に難くない。それ故、普段は抑え込んでいるその翼を、僅かばかりと広げることがあっても、きっと良いことであろう。
「嗚呼、美味しいですね。美味しい、です」
 賑やかな喧騒の中で食べるハンバーグの味は、ほんの少し、いつもと違う味がした気がしていた。

 ――閑話休題。

 学園の校舎内を歩き回り、グラウンドを歩き、中庭を歩き、オリヴィアが探索と散策を兼ねていれば、気付けば放課後の鐘が鳴る。
 ぞろりぞろりと校舎からヒトの波が吐き出され、家路につく生徒達の姿。
 その数の多さはアルダワ学園よりは少ないだろうけれど、それでも、一つの建物の内部にこれだけの人間が詰め込まれていたのかと、オリヴィアは目を丸くする。
 そして、訪れるは静寂の時。
 喧騒の主である学生達が居なくなれば、残るは仕事を片付ける教師や警備員達といったところか。
 勿論、居残った学生が居ないかと見回る教師も居るだろうけれど、それに見つかる程、オリヴィアの潜った修羅場は生温くなどはない。
 ヒトではない影が数多と伸びる薄暗い校舎の中を、彼女は竹刀袋片手にと闊歩するのだ。
「さて、こうも静かであれば、探し物もしやすいというものですね」
 するりするりと歩を刻み、時間を掛けて歩き回った学園内の地図は完全に頭の中。
 探し物がなんであるかは杳として知らずであるけれど、秘すのであれば、そこには見つかってはならぬという意図がある筈。
 そうであるのなら、それを目星として探すがオリヴィアの採った案。
「見つからないようにと思うほど、逆に目印のある分かり易い場所を選んでしまいがちなものですよね」
 隠された物が誰かに見つかってしまわないだろうか。
 その意識が本来目に付かない場所に隠す筈のものを、自分自身の目には届く範囲へと隠させてしまうものである。
 だから――。
「やはり、当たりではありましたね」
 『ソレ』がそこにあるのは当然のこと。
 人気が絶え、夜の帳が夕暮れの紅を染めつつある中庭。その中央に立つ、大きな大きな木の根元。
 柔らかな柴が周囲を囲む中、一部、触れれば明らかな土の柔らかさが。
 軽く掘り返せば、ほろりと姿現すその姿――ビニール袋に包まれた、紙の束。
 失礼。と思いつつ、中を改めれば、それは赤丸よりもチェック――間違いを指摘する印の多き答案用紙であった。
「……これが、そうなのでしょうか。いえ、そのようですね」
 その是非を判別は出来ずとも、隠されているという点においては回収しておいて悪い事にはならないだろう。
 オリヴィアがそう判断し、紙をスカートのポケットに仕舞いこむと同時――影が舞った。
 揺れる輪郭は黒。人の形を為そうとして、しかし、失敗してしまったかのような不定形の人影。
 それは中庭のあちらこちらから立ち上がり、立ち昇り、オリヴィアを取り囲むのだ。
「これが怪奇現象……怨霊というよりは、残留思念を無理矢理に形としたような感じですね」
 のろのろと近づくそれに宿るは明らかなる害意。
 されど、そこにあるはただの女学生などではない。数多の戦場を越えてなお、立ち続ける戦乙女。

 ――夜の帳の中、黒を断ち抜けるは金剛の輝き。

 竹刀袋から抜き放つそれは目にも止まらぬ一閃で、オリヴィアに触れようと伸ばされていた人影の手を、身体を断ち飛ばす。
「是なるは、魔人の鍛えし刃。一度抜かば、玉散るとなるは貴方達の命。それを知ってなおと来るのなら、悉くを斬り伏せてあげましょう」
 オリヴィアの手の中で、硬質なる輝きがまだ僅かと残る夕暮れの名残りを弾いて燃える。
 その刃に、オリヴィアの気迫に、人影の輪郭が大きく揺れたは動揺の示しか。
 されど、人影達に止まるという選択肢はない。
 オリヴィアが回収したものを手放さない限り、退くという選択肢は人影に用意されてなどいなかったのだ。
 のそり、のそり。
 再びと輪が縮まっていく。
「よろしい。であれば、露と消えなさい」
 ならば、宣言の通りと全てを刃にて斬り伏せるのみ。
 タンと軽やかに白と紺とが舞い踊り、銀の軌跡残して駆け巡る。
 オブリビオンとすら呼べぬ相手であれば、そこに苦戦の二文字があろう筈もない。
 夜の帳が夕暮れの全てを覆うまでには、その全てが跡形もなくと消えていた。
 そして、オリヴィアの姿もまた無事のまま、秘されし情念の一つを無事にと回収を終えるのであった。

 なお、僅かな後日談。
 銀髪の見慣れぬ女子生徒と暗がりに踊る人影という新たな噂が学園内で生まれていたのは、また別のお話。
成功 🔵🔵🔴

トリテレイア・ゼロナイン
UDC組織に裏工作や偽装書類を依頼
姿形は異能で違和感なくとも、潜入に有利な『制服』が無いなら『肩書』が必要です

赴任直後の臨時採用教員を選択

聴覚センサーでの●情報収集で『おまじない』の話題にする生徒達見つけ『迷ってしまったので道を教えて欲しい』
などと会話に参加

(子供の学び舎としての学校へ通った経験皆無、作り話ですが)
先生の頃は願い事の紙を教師の机に隠して数日後に回収する半ば度胸試しでしたよ
隠すと言っても自分のロッカーなんて安全な場所ではないんでしょう?

権利の侵害ですが、子供達の安全を鑑みれば致し方ありません
得られた情報元に推測
隠しカメラの要領でUCを仕掛け回収

送られる映像に何か映るかもしれません


 理事長室にある大きな机。
 その机の上に、ぺらりと一枚の紙が踊っている。
 それは教員の臨時採用を示す何の変哲もない履歴書で、内容も当たり障りのないもので、だけれど、あまりにも異彩を放つものでもある。
 その顔写真には騎士兜の顔が張り付けられており、名前欄にはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。その名前が書かれていたのであった。

「伝手というのは、やはり大切なものですね」
 トリテレイアが誰に憚ることもなくと闊歩するは学園の中。
 UDCアースにおいて猟兵達を支援もしてくれるUDC組織。その伝手を使って、彼はこの学園へと潜り込んでいたのだ。臨時教員として。
 勿論、学生の身分を使うことも出来たであろうけれど、制服の袖を通すにはトレイテレイアはあまりにも大きかった。だから、彼は制服と言う身分証明ではなく、臨時教員という肩書を選んだのであった。
「さて、何か分かるといいのですけれど」
 昼休みの喧騒は、雑多な音の波としてトリテレイアの聴覚センサーを揺らす。
 その中から必要な情報を抜き出し、選び取り、真相へと至らんと試みるのだ。

「――……休みは、どこに行く?」
「――……ちゃん! コロッケパン1つ! え、もうないの!?」
「――……おまじないかぁ。本当に効くのかな」
「――……ら! 廊下は走らない!」

 雑多な、雑多な、雑多な。その中でトリテレイアが拾い上げた一つの言葉。それは恐らく、誰聞かせるものではなく、独り言のように呟かれた物であったのだろう。
 本来であれば喧騒の波に揉まれて消える筈の音であったけれど、トリテレイアの聴覚センサーだけはそれを逃さず、間違いなくと捉えていた。
「あの方……のようですね」
 その音源へと緑の光を向ければ、そこには所在なさげと佇む小柄な男子生徒の姿。
 その手には、まるで周囲から隠すかのように何かが握られていた。
 話しかけるべきか。話しかけるべきなのだろう。
 自然を装い、周囲を見渡しながら、トリレテイアは男子生徒へと近づいていく。
 彼もまた近付きくるトリテレイアに気付きはしたようだが、俯き、そっと身を翻そうとする。
 だけれど、それよりも早く。
「すいません。お聞きしたいことがあるのですが」
 トリテレイアが声を掛ける方が先であった。
 びくりと身を震わせ、恐る恐ると振り返る男子生徒。
 言葉はないが、その目が言外に、なんでしょう。と問いかけていた。
「昼休みの最中に申し訳ありません。この学園に赴任してきたはいいものの、未だ慣れず……良ければ道を教えて欲しいのですが」
 丁寧な物腰。礼節に富んだ所作。その一つ一つが、トリテレイアの人となりを示す名刺の如くと。
 そして、それはトリテレイアが男子生徒を怒ったり、注意するために話しかけた訳ではないと伝える。警戒が、僅かと緩む気配がした。
「あ、先生でも迷うんだ……じゃなくて、ええと、どこに行きたいんですか?」
「資料を取りに行くよう頼まれたのですが、その準備室の方向を見失ってしまいまして」
「そうなんですか」
「そうなのです。ですので、もしお手隙であれば、案内などしてもらえると助かります」
「……他の先生に聞くとかじゃ?」
「はは、迷うのはこれで何度目かで、流石にこれ以上聞くのも憚られるのですよ」
「大人でも、そういう人っているんですね」
「お恥ずかしながら。この部分は治したいとは思うのですがね」
 自身の恥ずかしい部分――演技ではあるが――を晒したトリテレイアに、男子生徒の心からは警戒心は完全に消えていた。
 だから、どうせ用事もないので、その案内をしてもいい。という返事が出るのは、必然でもあったのだ
 そして、二人は連れ立って喧騒から離れていくのであった。

「ところで、聞いた話なのですが」
 道すがら、沈黙を貫くも悪くはないが、それでは男子生徒と接触した意味をなさぬ。
 故に、トリテレイアは一歩と踏み込むべくと声を掛ける。
「なんでしょう?」
「なんでも、最近は学生達の間で、自分を変えるためのおまじないが流行っているのだとか?」
「そう、なんですか?」
「ああ、いえ、別段咎めるのではなく、私も先程話したように治したい部分があるので、あやかれたらと」
「……先生になる人でも、そう思うんですね」
「勿論です」
「僕が聞いた話だと、ですけれど、自分の中で変えたいものを学園の何処かに隠して、それで、その日の夜に学園に向けて祈るって聞きました」
「なんと、そうなのですか」
 最初の警戒こそあれど、それを叱るためではなく自身もあやかりたい。と言えばこそ、男子生徒は素直にそのまじないの内容を話す。
 きっと、それが彼が独り言で漏らした効くかどうか分からないおまじないであろうことは明白であり、その内容の一部は事前に聞いていた内容と合致するものでもあった。
「ははあ。そういうのは、どの世代にもあるものなのですね」
「先生の時にも?」
「ええ、自分を変えるではないですが、先生の頃は願い事の紙を教師の机に隠して、後日、回収できるか。なんて、半ばの度胸試しでしたが」
「案外、先生もやんちゃだったんですね」
「分かりし頃など、そのようなものですよ。それに、続きですが、案外、そういう所でも、見つからないものなのですよ」
「えー、本当に?」
「本当ですとも。経験者が保証しましょうっと、此処が準備室ですか」
 話が盛り上がれば、校舎内の道程など瞬く間。
 気付かぬうち、その教室を示すプレートへと掛けられた資料準備室の文字が二人の前。
「ありがとうございます。お蔭で、昼休みの間に辿り着けました」
「ううん。僕も、色々お話を聞けて楽しかったです」
「それは良かった。多少のお礼代わりにでもなったのなら、幸いというものです」
 それでは、廊下は走らぬように気を付けて。はい、失礼します。
 そんな簡素な別れ。
 消えゆく男子生徒を廊下で見送って、そして。

「――頼みましたよ」

 資料室の扉を潜るトリテレイアの背後、小さく輝く妖精が、男子生徒を追いかけていった。
 それは彼を追跡させ、彼が隠すであろう物を回収するための策。
 男子生徒のプライバシーや権利を侵害することになるだろうけれど、安全のためでもある。感じる筈の無い僅かな苦みを噛み潰し、トリテレイアは断腸の思いでそれを為すのである
 そして――。
 男子生徒がトリテレイアの言葉に感化され、素直にと隠した教壇の中、くしゃくしゃに丸められ、隅に追いやられたプリントが1枚。それは英語の問題用紙で、点数は――語らぬが良いであろう。
「その教科が苦手で、変わりたかったのですね」
 なんとも微笑ましきことではあるが、その念が利用されるは防がねばならない。
 そろりと妖精達がそれを回収し、トリテレイアの下へと運んでいく。

 ――一瞬、妖精越しのカメラに人影。

 見つかったのか。いいや、違う。
 それは女子学生の姿をしていたけれど、しかし、この学園の制服とはまた異なる制服に身を包んだモノ。
 怪異の類か。いや、それにしてはその存在は確かなもの。
 ――ブツリ。
 映像を中継していた妖精の一機が潰え、その一部が欠ける。女子生徒の姿が消える。
 今から交戦に向かうか。否。目的達成は出来ている以上、まだヒトの気配が多き学園内で事を起こして被害を広げる訳にはいくまい。
「あれが、今回の黒幕であったのかもしれませんね」
 祈りを捧げるは夜と男子生徒は言っていた。ならば、恐らく黒幕が動き出す時間もまた。
 回収を果たした妖精達を迎え入れつつ、トリテレイアは偽りの身分を脱ぎ捨てる時の近きを感じていたのであった。
大成功 🔵🔵🔵

天狗火・松明丸
此れが学び舎というものか
通う童にでも化けて
人目を欺いてゆくとしよう

学生宛ら、子供の容姿に制服を纏い
つい、踏み入れた事のない領域を物珍しく眺めてしまう

…さて、失せ物探しだったか
一先ず、知識の在り処として本のある場所は如何だ
図書室や、資料室と言った所で目立たぬように
耳を欹てりゃあ聞こえる噂もないかねえ
かみさまとやらに願い事でも唱える奴は居ったりしてな

それから、人の気配のない教室
試してみたい事がある
鍵の一つを取り出して、徐に呟く
――嗚呼、帰りたくないなぁ

俺を異物と見れば弾くやもしれん
動きがありゃあ儲けものだが
無けりゃ結界術でも仕込んでおこう
虱潰しだが戦場になるのなら
何ぞ、引っかかるやもしれんしな


 くるりくるりと万華鏡。
 色変え、形変え、姿変え、無限無数と千変万化。
「そうだな。童の姿が相応しいか」
 潜り込む先が子供の通う学び舎ならば、それに合わせるが流儀であろう。
 例えそれが、人を化かすにせよ、潜り込んでの失せもの探しにせよ、だ。
 天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)は、ゆらり火の如くとその姿を揺らめかせ、青年の姿から彼の言う童が姿へと。
「ふむ。こんなでいいもんかね?」
 年若きの姿で試すがめすと着慣れぬ制服の衣を引っ張って、その感触を確かめる。
 髪に流れる焔のような一房をすら隠した彼は、違うことなき学生そのもの。
 これであれば、例え知らぬ土地に踏み込んだとしても、誰も注目などすまい。
「では、人目を欺いてゆくとしよう」
 いざ、遠き過去、隣人たる妖怪を忘れて久しき世界の一端へ。その目を化かし、欺きながら。

 ――とは言うものの、踏み入れたことなき場所というのは物珍しくもあるもの。

「ほお。これが当世の学び舎ってやつか。随分、昔と違うもんだ」
 さて、彼の言う昔とは木造校舎のみの時代か。それとも、寺子屋の時代か。それは彼のみぞ知るところ。
 だが、かつてに比べれば、鉄筋コンクリートに囲まれた校舎やステンレス製の窓枠にはめ込まれた硝子、賑わう学生達の数等、様々が違うことだろう。
「普通ってのも、俺が知るのと変わっちまってんだろうなぁ」
 その変化は妖怪変化の類もかくや。まるでこの世界そのものが松明丸を化かしにかかっているかのよう。
 零す吐息に様々なかんしんを乗せながら、松明丸の視線はくるりくるり。
 それを松明丸が本来の姿でしていれば、明らかに学園の風景から浮いていたことだろうけれど、今は学生の身なりを映す姿であればこそ、誰も彼へと注目などしない。
 講堂を見て、中庭を見て、理科室、音楽室、そして――。
「そう言えば、失せもの探しが本題だったか」
 見上げた先にはプレートへ書かれた図書室の三文字。
 扉静かに開け、潜った先には学園内の喧騒とは別世界。
 チラリと、管理担当なのだろうか。神経質そうな男性教員が受付から松明丸を見て、すぐに視線を外す。
 扉の締まる音がやけに響いて、それも消えれば、残るはページをめくる音と本棚を物色するような音。
 学園内を見てきたようにぐるりと見渡せば、人の数は存外に少ない様子。
「人目に付かぬでは、丁度いいのかもしれねえな」
 こそりと零す独り言。
 いつまでも突っ立つでは怪しまれると、松明丸自身も本棚を物色すると見せかけて棚の森へと足を向ける。
 新しきから古きまで、様々な蔵書の香りが彼を包む。
 また、本棚を物色する音が聞こえてくる。
「……ん?」
 だけれど、それは先程から手あたり次第。まるで、目当ての本を探すというよりは、目当てとなりそうな場所を探すかのような。
 目当ての本があるのであれば、そうでなくとも、ジャンルがあるのであれば、ある程度、その音が聞こえてくる場所は同じであろう筈なのに、その音は奥へ奥へと人の目を避けるかのようであったのだ。
 だから、松明丸はそれに疑問を浮かべ、そろりと人化かす時のように音も立てずと隠れ近付く。
「――……これも、最近借りられてる。こっちも……どんだけ読んでんだよ。こんな訳の分からねえ本」
 本棚挟んだ向こう側。聞こえてくる声は男性のもので、やはり、本を探すではない様子。
 ――これは、当たりかも知れねえな。
 願い事の一つも唱えてくれれば確定ではあるけれど、そうも容易くいきはしない。
 音の移動に合わせて、そろりそろりと松明丸も移動して。
「この辺り、この辺りなら流石に大丈夫だろ。貸出も……よっし。ここ2、3年なしだな」
 聞こえ来るはガサリと乱雑に何かが挟み込まれる音。パタンと閉じられ、本棚にゴトリ。
 明らかに、何かを隠したと聞こえる。
 満足気な吐息。そして、それを為したと思しき男子生徒が松明丸へと気づくことなく、その場を離れていく。
「ははあ、こりゃあ耳を欹てるまでもなかったか」
 居なくなった彼が居たであろう本棚へ。
 ひのふのみのと数えつつ、題名読めぬ本の背表紙達を右から左へと指差しながら、目を向ける。
 そうすれば、明らかにとごく最近動かされたらしき、他の本達に比べ、僅かと前に出た本が一冊。
 手に取れば更にそれは明らかで、頁と頁の間に隙間。
 はらりと捲ってそこを開けば、ほら、大当たり。
「かみさまとやらに願い事をかける程のもんなのかねぇ」
 お化けには学校もなければ、試験だなんだもありはしない。
 だから、その赤に染まった答案用紙は、妖怪達にとっての人間の不可思議なのかもしれない。
 だが、ひとまずとその紙を折りたたんで懐に忍ばせれば、情念の回収の一つも終わりを告げる。
 さて、まだ他にもと探してもいいけれど、その前に細工の一つもしておこう。
「何ぞ、引っかかるやもしれんしな」
 それは先を見据えた行動で、この後に備えた行動。
 聞けば、学園を舞台に大立ち回りをする可能性もあると示唆されていたのなら、その準備をするも当然か。
 敷くは結界。彼方と此方の境界定め、それを踏み越える者を選り分けるためのもの。
 だが、松明丸が準備をするも当然ならば、相手方とて同じこと。
 情念の欠片を回収され、更には土地に手も加えられんとすれば。
「同類……って訳でもなさそうだ」
 それを妨げんとするは、また当然のことでもある。
 ガタリゴトリと本棚揺らし、宙を舞い遊ぶは空飛ぶ怪異。分厚い本達が頁を口の如くと開きながら、松明丸を取り囲む。
 そこに垣間見える意思は本達のものというよりは、この怪異を繰る者のものなのであろうか。
 ――逃がさない。
 その意思が透けてみえた。
「化かして、脅して、逃げ惑うを愉しむって手合いじゃあねえようで」
 ならば、松明丸とて遠慮など無用。
「俺を異物と弾くつもりなら、焼け落ちるも覚悟の上でくるといい」
 ――飄々とした声が響き、炎の翼が宙舞う本達を撫でた。

「図書室で何を騒いでいるんだ。静かに……あれ?」

 ガタリゴトリの物音は、流石に消せるものではなし。
 その音に惹かれて注意のためと教員が近付けば、しかし、そこには何もない。本が舞った形跡も、炎で炙られた形跡も、まるで化かされたように何もない。
 ただ、ひゅうるりと、冷房が効いている筈なのに生温かい風が一瞬だけ吹き抜けた。
成功 🔵🔵🔴

花房・英
なんでも上手くいく、か
甘言だな
だけど、頼りたくなる気持ち分からなくはない
ヤバイことになるなんて、想像もしないだろうしな

転入生の体で潜入する
何かを隠そうとする人達は、何かしら劣等感や疚しさを抱えてるのかもしれない
なら、挙動にそれが現れるかも
例えば周囲を窺うような素振りを見せるとか
そういう動きをする生徒が居たら跡をつける
入った部屋や隠し場所を見つけられたら、リトルハッカーでマッピングしていく
隠し場所はひとつとも限らないから、念のためにな
隠した物も分かるといいよな
隠し場所に近づいたら、怪異にも警戒する
なんか飛んできたりしたら、クロから盾を出して弾いてから掴むなりしよう
備品とかなら壊さないようにする


 この世はなんとも儘ならぬ。
 花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)とて、幼少を実験体として扱われねば、普通に学校へと通うこととてあったことだろう。
 だが、この世にもしもなどはなく、今こそが自分自身なのだ。
「だけど、なんでも上手くいくという甘言に頼りたくなる気持ちも分からなくはない」
 英が転校生の身なりで潜入したこの私立学園。そこに実しやかと流れる噂――おまじないは、何でも上手くいく自分に変われるという類のもの。
 多くの者はそれを眉唾と信じぬであろう。
 しかし、遊び半分で、藁にも縋る想いで、それをしてしまう者も居るであろうことは想像に難くない。
 誰だって、変われるのなら変わりたい部分を、劣等感に思う部分を持っているであろうから。
 だから、英はそのおまじないを甘言と断じながらも、分からなくもないと言うのである。興味がない。でもなく、別に。でもなく、分からなくもない、と。
 それはもしかすれば、英なりの、不器用ながらの理解の示し方であったのかもしれない
「おまじない程度でヤバイことになるなんて、想像もしないだろうしな」
 平穏が脆く儚いを知るは、超常を日常とすればこそ。
 そうではない生徒達に、それを想像しろというのは無理からぬことでもあろう。
 故にこそ、英達がここにあるのだから。

 ――制服の衣が静かに揺れて、英は学校というものの廊下を歩く。

 その眼差しは迷路のような学園の中で自分自身の位置を確認するようでもあり、その実、生徒達をこそ見つめるもの。
「当たり前だけど、色んな人が居るもんだな」
 慣れない人間観察。
 普段であれば植物相手に用いるであろう観察眼を、今は他人へと向ける。
 休み時間を僅かでも無駄にすまいと廊下を駆けていく者、きゃいきゃいと話へ夢中となる者、体調が悪いのか俯きながら歩く者、様々と。
 その誰もにもそれぞれの想いが大なり小なりあって、行動や仕草に出ていのが英にも見えていた。
 そして、だからこそと、目当てともなるであろう人物をその中から見出せるのだ。
 ――視線の先、俯く素振りを見せながら周囲を窺い、人気少なきに足を運ぶ女子生徒の姿が。
「分かり易い……いや、だが、まだ決まった訳じゃないか」
 何かを隠そうとすれば、そこにはどうしても意図が滲み出てしまうもの。行動にせよ、仕草にせよ。
 だから、それをひとまずの目星として、英は彼女の警戒の外から跡をつけるのだ。ゆるり、ゆるりと散策のような歩調で。

 ――昇って、下って、曲がって、歩いて、右往左往。

 あそこでもなく、ここでもなくと歩き回る女子生徒。その跡をそっとつける英。
 隠し場所をここと決め切れないのは優柔不断からなのか。それとも、絶対に見つけられたくないという程に強い願いがあるからなのか。
 だが、その彼女も遂にとその動きを止めた。
「……家庭科室?」
 そこは複数の調理台が並び、棚には調理皿等が置かれた部屋。
 窓越しにそっと様子を窺えば、パタリカチャリと物の動く音。
 片付けをしているという雰囲気ではないことを思えば、それは間違いなく、何かを隠そうとするかのような。
「見つかりそうなもんだけど」
 料理部などでもあればアウトであろうけれど、此処に隠すと決めたのは件の女子生徒だ。ならば、英からとやかくとは言うまい。そも、何かを隠したとしても、それは回収されるものであるのだから。
 カチャリカチャリと音が鳴り、ガタリゴトリと棚が鳴る。
 それも暫くと響いてはいたが、再びに音が逆の順番にと響けば、入口の扉へと近づく気配。
 英が身を隠せば、カラリと音立て女子生徒。再びと周囲を窺いながら、来た道を小走りで戻っていく。
「何を隠したんだろうな」
 代わりに自身を扉から家庭科室内へと滑り込ませ、探し出すは隠されしモノ。
 人のプライバシーを覗くようでもあったけれど、それはそれで致し方なしと割り切るは英であればこそ。
 そして、それは程なくして見つかるのだ。
「写真だが、家族写真か?」
 その手に収まるは、件の女子学生と二人の大人の男女が映された写真。恐らく、英が零した通りのものなのであろう。
 何故、それを隠したのか。
 このおまじないは、なんでも上手くいく自分に変われるというものであった。
 ならば、彼女は家族関係においてでそのように願いたかったのか。だからこそ、彼女なりに誰にも見つからぬ場所を探したかったのか。
 それは件の女子生徒にしか分からぬことで、それ以上に想像の翼を広げる程、英もまた無粋ではなかった。
 だけれど、その写真を傷つけぬようにと回収したは、無関心を決め込みながらも何だかんだで面倒見も良い英なりの誠意でもあったと言える。

「取り返すつもりなのは分かるけど、そんなにいきりたつなよ」

 仕舞いこんだ手とは逆の手と指で挟み取るは、飛来する包丁の一つ。
 続けて二つ、三つ。お供に皿の乱舞も添えて。
「こっちとしては学園の備品を壊すとかは避けたいんだ」
 撃ち落とす、叩き落とすは簡単ではあるけれど、それはつまり不自然な欠けを此処に生み出してしまう。
 それで何かの不都合が生まれる訳ではないだろうけれど、痕跡は残さぬが最良なのも確か。
 跳んで躱すは狭き室内。
 しかし、室内に置かれた調理台が回避の選択肢を狭め、包丁や皿が進路を塞ぐ。
 流石に回避は困難か。
「怪異って言っても、このぐらいならな」
 いいや。回避の選択肢を狭めるということは、飛来するそれらの進路も限定されるということ。
 飛来するそれらが突き刺さるは、エネルギーの盾。突き刺さるそれを絡めとり、縛り、それ以上に動くを許しはしない。
 英に対してそれ以上の追撃こそが困難と知れば、まるで嘘のように包丁達は動きを止めていく。
「あ。待て、せめて、宙で動きを止める……」
 ――んじゃない。と言うより響いたは、がしゃん。
 思わず、天上を見上げる。
「こっちが折角、壊さないように気を付けてたってのに」
 溜息と共に視線を戻せば、飛び散る白磁の欠片達。
 怪異として飛んでいた皿もその力を失えば重力に引かれるのは当然で、そうなればその結果も当然で。
 後で組織に補充を頼まないとか。と、頭痛の種に早変わり。
 だが、邪神召喚の足掛かりとなるモノは回収出来たのだ。それを自身への慰めとしつつ、英は電子端末を手にするのであった。
成功 🔵🔵🔴

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

おまじないとか神頼みとか、学生に限らず好きな人って多いわよねぇ。まあそこらへんは個人の好みだからどうこう言う気はないけど。

新任の先生なり教育実習生として潜り込むのが無難かしらぁ?
よっぽど特殊な授業がある専門学校でもなければ、位置はともかく教室とかの内容はそう変わらないわよねぇ?なら、「普段使わない教室」とか、「構造上人通りの少ない箇所」ってのはある程度絞れるはず。物を隠すんなら、やっぱり第一候補はそういうトコよねぇ。●扼殺で忍び込んで探索してみましょ。

今まで色々やってきたけれど。
…ホント、人生何が役立つかわからないわねぇ…


「先生、さようなら~」
「はぁい、気を付けて帰るのよぉ」
 放課後の鐘が鳴り、学園の入り口から吐き出されていく学生達。
 それを見送るは黒髪の、甘く蕩ける蜜の声。
 大きく手を振る彼らに、小さくと手を振り返すはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。
 背後に結んだ三つ編みはいつものであったけれど、その服装はいつもに非ず。バーテンダーの服装を脱ぎ、新たにと纏うはフォーマルのスーツであったのだ。
「……教育実習生を装うのも、楽じゃないわぁ」
 彼女がこの学園へと入りこむに使った肩書こそが、それ。
 その出で立ちと積み重ねてきた人生経験とを活かせば、思いの外にとそれはティオレンシアに嵌っていた。
「今まで色々やってきたけれど、ホント、人生何が役立つかわらかないわねぇ……」
 とは、本人の談。
 そして、その結果こそが先程の一連の会話。彼女は違和感なくとこの学園に溶け込んでいた証拠なのである。
 人気少なくとなり、ふぅと溜息の一つも付けば、これからこそが彼女の本来のお仕事の時間。
「おまじないとか神頼みとか、学生に限らず好きな人って多いわよねぇ」
 今回の依頼の発端が、まさしくそのおまじないに関わるもの。
 教育実習生を装えば、イベントや日常の変化に飢えている学生達は自らとティオレンシアの下へと足を運ぶ。
 純粋に勉強のことを聞きたい者もいれば、ティオレンシアが気になって世間話と話しかけてくる者もいる。その世間話の中には下らない話もあれば、馬鹿に出来ない情報もある。そう、例えば――。
「自分にとって変えたいことにまつわるもの。それを誰にも見つからないように隠すことがおまじないだったのねぇ」
 おまじないの内容も転がり込んでくるものなのだ。
 勿論、そうやって自分からその話を持ち込んでくる生徒がそれをしている可能性は低いだろう。だが、本来のターゲットではないだろう、そういった生徒にまで知れ渡る程ということは、水面下では随分と広がっているのかもしれない。
 世間話や下世話な話は大人の余裕で聞き流し、肝心の情報こそは己の内に抜け目なくと取り込んで。
 海千山千の闇を相手にしてきたティオレンシアであればこそ、たかだか普通の子供相手であれば、その程度は造作もない事であった。
「まあ、そこらへんは個人の好みだからどうこう言う気はないけど」
 ティオレンシア自体には、そのおまじないに掛けるような願いはないけれど、その願い自体は否定するものではない。
 本来であれば放っておいてもいいものだけれど、その願いが邪神召喚に悪用されるとなれば話は別。
 それを防ぐためにこそ、こうしてわざわざと教育実習生に擬態したのだから。
「さて、そういうのを隠すとすればぁ……まあ、普段使わない教室とか、人通りの少ない場所よねぇ」
 迷路のような学園ではあるけれど、実際のアルダワなどの迷宮を知る者からすれば、児戯のようなもの。
 ティオレンシアは脳内に地図を広げ、候補をピックアップしていく。
「こういう時、肩書って便利でもあるわぁ」
 放課後の時間でも自由に歩き回れ、なおかつ、鍵掛けられるような教室でも怪しまれることなくと入りこめるのだから。
 鼻歌までは零れずとも、人差し指に引っ掛けた鍵の束をくるりくるりと一廻し。
 廊下から差し込む夕暮れが伸ばす影も、合わせて一緒にくるりくるり。
「それじゃあ、第一候補から行ってみましょうかぁ」
 犯人を追い詰めるではないけれど、失せもの探しの妙は昔取った杵柄そのもの。

 ――ガラリと戸を引き開けて、見回す先には楽器の山。

 そこは音楽準備室。
 普段は様々な音色奏でる楽器達が、その役目を静かに休ませる場所。
 ティオレンシアの勘が囁いた。
「あるわねぇ。ここ」
 ピアノ、ドラムに鉄琴、木琴。その他様々な楽器が床に棚にと並べられ。
 しかし、勘の囁きに反し、この場所に特段の変わった物がある様子もなし。
 勘が外れたのか。いや、そんなことは。
「音楽室の怪って言ったら目を動かす音楽家の肖像だと思ってたけれど、案外、直接的なのねぇ」
 ――ない。そう感じると同時、夕暮れに伸びる影が動く。
 それは飛来する太鼓の鉢であり、勢いは当たれば良くても怪我は免れぬほどの。
 だが、そこにあるは一般人ならぬ、ティオレンシア。はしりと、その手の中に受け止めるのだ。
 それが呼び水となったのだろうか、一斉に動き出すは楽器達。宙に浮かび、地を這い、ティオレンシアを圧し潰さんと。
「ふぅん……そういうこと。いいわぁ、なら、あなた達の役目を思い出させてあげるわねぇ」
 手の内で暴れなくなった鉢をくるりと持ち直し、迎撃の構え。薄く細められているティオレンシアの瞳が、鋭さを増していた。
 そして、その瞳の鋭さに負けず劣らずと鉢が閃けば、叩きのめされるは楽器の乱痴気騒ぎ。
 元よりオブリビオンでもないただの怪異であればこそ、猟兵たるを止めるには役不足もいいところであったのだ。
 だから、それが瞬く間と鎮圧されるは当然で、静けさを取り戻すのも当然であった。
「運動にもならなかったけれど、目当てのものはコレかしらねぇ」
 静寂の中、コツコツと足音立ててティオレンシアが近付くのは楽器ケースの一つ。いや、正確に言うのであれば、この音楽準備室の中にあって、唯一と乱痴気騒ぎに参加しなかった物。
 そこにはきっと意味があることで、恐らく、それこそが当たりなのだろう。
 ガチャリとケースを開いてみれば、そこに横たわるはサクソフォン。ケースの内側には丁寧に名前まで。学校の備品ではないことは明白であった。
「まあ、一時の回収ということで」
 木を隠すなら森の中であるように、その持ち主は楽器を隠すならとここを選んだのだろう。
 何故、隠したのか。それは敢えてとティオレンシアも言葉にしない。
 想像は出来たとしても、真実はその当人にしか分からぬことであろうから。
 だから、あくまでも邪神召喚にその願いが悪用されぬよう、回収に留めるのみにしたのである。

 ――カラカラ、パタン。

 荒れた準備室の中を片付けて、気付けばすっかりと日も暮れて。
 ティオレンシアは夜の帳が夕暮れの灯りを包む中、静かに扉閉めてその場を後にするのであった。
 その背を見送るように、ポロンとピアノが鳴いた気がしたけれど、きっと気のせいであろう。
成功 🔵🔵🔴

カイム・クローバー
学校…ねぇ。順番決めて比べ合うんだろ?…聞いてるだけでゾッとする。

とはいえ、校舎自体は面白そうなモンだ。あちこち歩くぜ。
【忍び足】で歩きつつ、閉まった扉は【鍵開け】で中に侵入。人の気配は避けつつ。
邪神教団のアジトとか、地下の隠れ家とか、普段は陰気臭い場所ばかりだから、こういう場所もたまには新鮮で良い。
おまじないの事も忘れちゃいない。モノを隠すのが条件なら、人が来ないような場所に隠すってのは鉄板さ。普段は施錠している部屋とか。
人通りが少ない場所を歩いてるのは怪しい生徒を見付ける為ってのもある。見付けたら【追跡】しつつ、後を追ってみるぜ。
モノを見付けて、面白そうなモンなら【盗み】で頂くのも悪くねぇ


 空は吹き抜け、爽々と風が吹き抜ける。
 そこは見晴らしの良い高台――などではなく、学園全体を見通せる屋上。
 普段は鍵が掛けられて人の出入りを禁止されている筈の場所。まして、今は授業の真っ最中だと言うのに、そこにはあり得ざる人影があった。
「学校……ねぇ」
 しみじみと呟いたは、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)。
「順番決めて比べ合うって……聞いてるだけでゾッとする」
 身震いするように両の腕を擦る。
 それはあながちの間違いでもないけれど、完全に正しいという訳でもないだろう認識。だが、カイムにとっては縁遠い場所のことであるが故、それが今のところ訂正されることもない。
「だけど、校舎自体は面白そうなモンだ」
 見下ろす先の校舎には人が数多と居る筈なのに、授業中であるが故、しんと静まり返った学園はなんだか不思議な空間に見えて仕方がない。
 普通であれば人が集まったなら、相応の喧騒があるだろうに。
 建物としての構造もではあるが、その不思議もまたカイムには面白く見えていた。
「んじゃあ、まあ、あちこち歩いてみるとするか」
 なら、興味に惹かれるまま、冒険気分で探索するのも悪くはない。
 実際に授業を受けろとなれば端正な顔も嫌悪で歪んでいただろうけれど、そうでない今は好奇心にと輝きを見せる。
 ――土産話の一つにもなるしな。
 この世界の片隅――具体的に言えば、横浜から少しはずれた位置――にある和洋館。その主であり、カイムにとっての想い人を脳裏に浮かべ、彼は意気揚々と歩き出すのだ。しんと静まり返る学校の内側へと。

「案外、明るいもんだな」
 きちんと屋上への扉に施錠をし直し、入りこんだ校舎の中。クリーム色の壁は窓から差し込む光を受けて、その白を柔らかくと。
 そこはカイムが想像していたような、順番を決め合い、比べ合うにしては陰気臭さとは程遠い。
 むしろ、普段、カイムが便利屋としても猟兵としても、潜入を図ることが多い邪神教団のアジトや地下等と比べれば、万倍マシというもの。
 潜入という同じ手段を取っているにも関わらず、見える景色が違うという新鮮さにも、カイムは楽し楽しと好奇心を胸の内で躍らせる。
 ――抜き足、差し足、忍び足。
 昔取った杵柄で、カイムの足は全くと言っていい程に音を立てず、動いてなおと衣擦れの音も立たぬ。
 それよりも、だ。
「――……は、出席番号6番。太田、答えて見ろ」
「えー、俺っすか?」
「お前以外でこのクラスに太田は居ないだろ」
「あー……分かりません」
 聞こえ来る授業の声の方が大きい位だ。
 建物の景色にも気を惹かれてはいたが、授業というものにも興味が惹かれれば、時折と脚を止めては耳欹てて。
「番号でも管理されてんのか。はは、俺には合わなさそうだ」
 学生としての授業への参加はやはり難しそうだと扉越しに理解を深め、またそろり。
 そもそもとして、ここに来たのは学園見学や授業見学に来た訳ではない。
「そうそう、忘れちゃいない。おまじないとやらの事も探さねえとな」
 この学園にて広まる噂――おまじないを利用して邪神召喚を企てる何某の陰謀を防ぐことこそが優先事項なのだ。
 そのためにこそ、こうしてかつて得た技術の集大成を活かし、潜り込んでいるのだから。
「お宝を隠すのが条件なら……王道としては人が来ないような場所に隠すってのが鉄板かね」
 条件で言えば、先程侵入を果たしていた屋上のように、普段から施錠がされているような部屋か。
 人通り少なきを歩く怪しい人物を追ってもいいが、授業中の今に廊下を歩き回る人物など、そうはいない。居るとすれば、それは体調を崩した生徒か、はたまた、授業のない教師か、カイムぐらいのものであろう。
 だからこそ、カイムは人気の少ない施錠された部屋という目星を付けて探さんとするのである。

 ――下り、曲がり、昇り、時に隠れ、より人気のなき方へ。

「……この辺、なんか匂うな」
 辿り着いた先は講堂の入口。幸い、今は体育の授業を内部で行っている訳ではないようで、人気は皆無。
 広い空間の中、しんとした静寂だけが入り口に佇むカイムを圧するようにして漂うのみ。
 だが、その程度で臆するカイムであろう筈もない。
 講堂の中を突っ切り、その傍らにある倉庫へとその足を向けるのだ。
「当然、鍵はしてあるよな」
 ガチリと硬いは南京錠。しかし、カイムからしてみれば、なんのことはないただの鍵。
 便利屋の嗜みと言わんばかりに素早くと針金取り出しピッキング。硬きは脆くもその鍵を開け放つのだ。
「日の当たらない場所ってのは、どこも似た様な匂いだな」
 それは埃の匂いでもあり、淀んだ空気の匂いでもあり。
 折角と今回は新鮮な気持ちを味わっていたのに、結局のところはこういうところに行きつくのだから難儀なものだ。
 カイムは肩を竦め、何の迷いもなくと倉庫の内へと入りこむ。
 探すはバスケットボールが山と積まれた籠の中、畳まれ並べられたパイプ椅子の隙間、そして。
「ん、なんかあったな」
 重ね置かれたマットの最下層。床との間にそれはあった。
「ええと、ビブスって言うんだったか?」
 鮮やかな蛍光イエローは皺だらけ。だが、確かにマットの下へ、それを隠す意図と共にあったのだ。
 マットの中間層などであれば、偶然挟まったとも言えなくはないだろうが、最下層と床の間ともなれば、それを偶然の一言で片づけるには難しい。
 なにより、だ。
「はは、バスケットボールが一人でに跳ねてやがる」
 籠の内より一つ、二つ、三つ、四つ……転がり出ては跳ねて飛び。
 バウンドの音を倉庫内に響かせて、カイムの周りを動き回る。
 これが怪異なのであろうと当たりを付ければ、当然、それが現れた原因も理解ができる。カイムが手に持つ、そのビブスこそが隠されていたものである証拠。
「なら、こいつは頂いてかないといけねえよな」
 面白そうなモンでもないが、置いておく方が面倒ごとに繋がるとカイムは知っているからこそ。
 それをさせじとバスケットボールが弾丸の如くと跳ね飛び来るが、それをカイムは片手で弾き、ビリヤードの如くと他のボールへぶつけて、ぶつけて。
「今回は盗み……じゃなく、こいつの回収が本題でな。あんたらの相手をいつまでとはしてられないのさ」
 だから、おさらばよ、と。
 ボール同士をぶつけて乱した輪。その一瞬を突いて、彼は瞬く間にと来た道を駆け抜ける。
 倉庫を抜け出し、講堂を突っ切り、その入口へと。
 ――バタン。
 扉締めれば、手足のなきボール達には追う術もなし。
 修羅場とは言うに及ばずとも、一つの峠を潜り抜けた実感にカイムの口から吐息が零れた。
「ふぅ……さて、あんたの大事なモンの一つは貰ったぜ」
 ニカリと自信に満ちた笑みと共に、誰に言うでもなくカイムはビブスを見せつけるように掲げる。
 そして、そのまま立ち去るカイムの背中。
 次第に遠くなっていくそれへと向け、扉へと悔し気にぶつかるボールの音が響いていたが、それもまたいつしか消えていった。
成功 🔵🔵🔴


第2章 集団戦 『不幸少女』

POW ●現実は必ず突きつけられる
無敵の【完璧になんでもこなす最高の自分】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD ●数秒後に墜落するイカロスの翼
【擦り傷や絆創膏の増えた傷だらけの姿】に変身し、武器「【赤点答案用紙の翼】」の威力増強と、【本当は転んだだけの浮遊している妄想】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ ●同じ苦しみを味わう者にしか分からない悲痛な声
【0点の答案用紙を見られ必死に誤魔化す声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 夜の帳が降りきって、全てが宵闇に包まれた学園。
 人気はなく、聞こえるは虫の鳴き声のみ。
 ――その筈であった。
 学園の講堂。その内側にて、宵闇へと滲むように灯った焔の一つ二つ、三つ、四つ。
 ボッと音立て、円を描くようにして灯ったそれは、まるで魔法陣。
「お救い下さい、お救い下さい、私達をどうかお救い下さい」
 陣の傍には影幾つ。
 その姿はバラバラで、だけれど共通するのは学生服を纏った少女であるということ。
 この学園の生徒か。――否。
 それは過去より滲み出たオブリビオンの少女達。
 何を望んでも叶わず、何をしても敵わず、かみに縋るより他なかった者達の末路。
 彼女らこそが、学園におまじないを流布した黒幕。
 学園の生徒達の願いをもって、己が願いを叶えんとするためにおまじないを広めた張本人。
 そして、学生達の願いと祈り。少女達の願いと力をもって、魔法陣は輝きを放つ。天の彼方より救済の神を呼びださんと。
 しかし。
「だめ、やっぱり足りない」
「陣は反応してるのに……猟兵達が邪魔をしたから」
「このままじゃ、不完全な形でしか……」
 それは猟兵達が尽力が故に、完全なる形での召喚へと至ることは出来ていなかった。
 口惜し気に臍を噛むは少女が一人。口惜し気に爪を噛むは少女が一人。
 誰もが一様に救済を祈りながら、奇跡を願いながら、口惜し気に。

 ――魔法陣の光ではない、新たなる光が扉の開く音と共に講堂へと差し込んだ。

 誰と問うまでもない。
 このタイミングで少女達を妨げにくる存在があるとすれば、それは――。
「猟兵! まだ、私達の邪魔をしに!」
 オブリビオンを討つ者達。猟兵の他にありはしない。
 広められたおまじない。その内容には夜に祈りを捧げるという文言があったと知るは一部の猟兵。
 ならば、その時こそが黒幕の動く時であろうと推察が至るも当然ではあった。
 それを掴んだ者達によって他の猟兵達も知る所となり、ここに彼ら彼女らは現れたのだ。
「もう不十分でもいい! あの方をお呼びするの!」
「完全でなくとも、きっと私達を救ってくださる! 私達を変えてくださる!」
 少女達が魔法陣を、そこから呼び出されつつある者を守るかのように立ち塞がった。
 彼女らの叫びの通り、不完全と言えど、既に召喚の術式は発動している。
 術式が不完全であるため、その先より降臨するであろう存在も十全と力を振るえる訳ではないだろう。だけれど、それでもこの世界に解き放ってはならないものであることは間違いない。
 故に、いち早くとこの少女達を退け、それと対峙する必要性がある。
 立ち塞がる少女達へと立ち向かうべく、その先へと辿り着くべく、猟兵達もまたそれぞれの得物を構えるのだ。
 世に知られざる戦いが、幕を開ける。
フィーナ・ステラガーデン
ところがどっこいそんなことはさせないわ!(登場と同時に火球を飛ばす)

(敵UC後)
無駄に強くなるわね!?
でもあんたらせっかく幸せになりやすかったのにもったいないわね!

だってそうでしょ?幸せとか不幸とかって自分の気持ちよね?
気持ちってギャップで浮き沈みするわ!
例えばそうねえ・・貧乏人が普段食べてるご飯をある日金欠が理由でお金持ちが食べることになったら、そのお金持ちは多分不幸に思うと思うわ!
目が普段見えてる人が突然見えなくなったら不幸だけれど、生まれつき目が見えない人は不幸だと思わないとかそういうことよ!
つまり!何でも出来るようになったあんたは幸せになりにくくなったってことよ!

弱体後に容赦の無いUC


 邪神召喚による救済こそが少女達の目的。
 だが、その救済が少女達にのみ向けばまだいいが、オブリビオンという存在である以上、世界そのものにも影響を与えることは想像に難くない。
「ところがどっこいそんなことはさせないわ!」
 だからこそ、開口一番と火を噴いたはフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)。
 宝石を戴く愛杖を突きつけ、放つは火球。燃やすべくとするは、少女達の向こうにて輝く魔法陣。
 ――轟ッ!
 ぶつかり、撒き散らし、舞い踊るは炎の舞。
 しかし、燃えたのは――。
「させないわ! 私達は救って、もらうの。助けて、もらうの!」
「根性があるんだかないんだか!」
 不意打ち気味の火球に反応し、魔法陣を守るべくと己が身を盾とした少女の一人、二人。
 その身を炎に巻かれながら、倒れ伏しながら、フィーナを睨む。
 少女達は一人一人でありながら、総体としての一つであるが故ではあるのだろうけれど、それでも、躊躇なくと自身の身を盾とした彼女ら。だが、言っている内容は他力本願そのもの。そのちぐはぐさに、フィーナの背中で流れる汗の一滴。
「でもね! そうやって盾になり続けるのも、限界ってもんがあるんじゃないの!」
 フィーナの背後で、その意思に応えた炎がとぐろを巻く。
 それが何よりも雄弁に語っていたのは、燃やし尽くすという意思そのもの。
「かみさま、かみさま! どうか私達を――!」
 お救い下さい。という言葉ごと、解き放たれた炎の蛇が彼女らを丸呑みにし――魔法陣が強く強くと輝いた。

 ――蛇は火の粉と成り代わる。その身の内より弾けたが故に。

「あは、あははははは! かみさまは、やっぱり私達を見捨てなかったわ!」
「突然のパワーアップとか、脈絡ってもんがないわね!」
 火の粉に照らされ、その身の内より現れたのは誰あろう、呑まれた筈の少女達。だが、フィーナによる牽制の炎を受けただけで、その息も絶え絶えとなっていた先程までの彼女達と同じとは思えぬ。
 そう、彼女らは正しく救われたのだ。
 その背後にある魔法陣。まだ召喚のなされていない、救済のかみを呼ぶための魔法陣。そこから彼女らへと流れ込んできた力によって。
 そして――。
「ふふ、うふふ。これが、違う私達。もう失敗に泣くことも、嘆くこともない、不幸少女だなんて呼ばせない私達!」
 その力を糧として、彼女らは自分達を創りかえる。望めば叶い、誰にも敵うだけの自分達へと。
「他人の褌で何偉そぶってるのよ!」
 フィーナは炎を再びと巻いて、燃やし尽くさんとするは少女達のその身。
 だけれど。
「……こんな感じかな?」
「――あっぶな!」
 その炎にぶつかるは――否、呑み込み返すは同種の力を宿した炎。
 少女達から放たれた炎の大顎がフィーナの炎を喰らい、先程のお返しとばかりにフィーナへと迫ったのだ。
 それを紙一重と躱せたはきっと幸運で、フィーナはその紅を丸くする。また一筋、その背中に汗が流れた。
 完璧になんでもこなす自分。
 少女達は自分自身をそのように創造しなおしたが故、フィーナの炎を真似て、そして、繰ったというのだ。
「……無駄に強くなるわね!?」
「いいえ、無駄ではないわ。これが、新しい私達なのだもの」
 くつりくつりと嗤うは、加虐の笑み。
 これまでの上手くいかなかった自分自身、その鬱憤を晴らすように。
 少女達の後ろで、炎の蛇がとぐろをまいた。その大顎で今度こそフィーナを呑み込まんとして。
「ふふん。猿真似も充分だけれど、あんたらはそれでいいの?」
「……いいに決まっているわ。こうなりたくて、ようやく私達は完成出来たんだから」
 だが、そのとぐろを前にしても、フィーナの不敵な笑みは変わらない。
 その不敵さは、炎の蛇を解き放たんとしていた少女達の想定にはなきもの。
 追い詰める側に立ったのは少女達で、追いかけられる側に立ったのはフィーナである筈なのに、と。
「なら、あんたらはそこで足を止めてしまえばいいわ」
「なにを、言っているの?」
「分からない? あんたらは、もう幸せにも、それ以上にもなれないって言ってるのよ!」
 あーあ、勿体ないわね! なんて、大袈裟に身振り手振りで。
「そんなことはないわよ。私達は、これから幸せになるの。より良い存在になるの」
「そうね。今は、一時は、それを満喫できるでしょうね」
「なら、いいじゃない」
「でも、それはいつまでかしら?」
「……何?」
「だってそうでしょ? 幸せとか不幸とかって自分の気持ちよね? 気持ちってギャップで浮き沈みするわ!」
 例えば、裕福な人物が没落でもして粗食を食べることになったら、それはきっと不幸なこと。だが、その粗食が常である人であれば、それは不幸でもなんでもない。
 例えば、目が普段見えている人がその視界を奪われれば、それはきっと不幸なこと。だけれど、生まれつき目が見えない人にとっては、それは不幸でもなんでもない。
 幸福への階段を上れば上る程に、落ちた時の衝撃は酷いものなのだ。
 それになにより、幸福への欲求は満たされていなければこそ。既に満たされ、自分自身を完成させてしまった少女達に、それ以上の幸福はありはしない。
「――つまり! 何でも出来るようになったあんたらは幸せになりにくくなったってことよ!」
 あるとすれば、フィーナの語った不幸への転落のみ。
「ふ、ふん! そんなこと……ないわ!」
 嘘。
 突きつけられた真実に、少女達の背後で炎が大きく揺れていた。
 それは彼女らが自分自身の行きつく先を想像し、その心の内を揺らしてしまった何よりの証拠。
「それ以上、変なことを言う前に焼き尽くしてあげる!」
 解き放たれる蛇は、辛うじてその姿を維持するのみ。少女らに宿っていた力が、急速に萎んでいくのが目に見えて。
 脆き牙。崩れつつある大顎。
 だけれど、それは確かにフィーナへと迫る。
「ふふん。自分に自信がないから、自分を装ってもそんな風にすぐ揺らぐの。教えてあげるわ。炎ってのは、こういう風に燃やすものよ!」
「か、かみさま!」
 揺るがぬ自信/自身はその積み重ねが、歩んできた時間があればこそ。
 崩れる蛇の迫りくるを前にして、杖を掲げての仁王立ち。

「――その他力本願ごと、まとめて消し炭にしてやるわ!」

 掲げた先で瞬く間にと練り上げられたは、大きな大きな火球の一つ。
 フィーナの号令一つでそれは雨となり、迫りくる蛇を打ちのめす。いや、それだけではない。少女らをも巻き込んで、辺り一面を火の海と変える。
 雨が止めば、残るはぱちりぱちりと火の粉の遊び。
 少女らが抱いた幻想ごと、炎の雨は全てを塗りつぶしたのであった。
成功 🔵🔵🔴

花房・英
俺も正直生きづらい
他人のせいにするのは楽だった
でも、俺は悪くないのにって嘆くだけじゃ何も変わんなかった
自分で出来ること知って、出来ない部分は出来ないなりにやってくしかないんだ
嫌なとこばっか目に着くけど、俺にとって生きるってそういうことだ
だから、俺は俺の仕事をする

無銘を使って近接戦
0点の嘆きには回答欄でもズレてたか?と内心疑問に思いながら
手近な敵から斬り付けて、花の刻印を与えていく
敵の動きに意識を向け、フェイントやカウンターを組み込む
刻印を与えられたらいいから、傷は浅いものでも構わない
後はUC発動で追い討ちをかけよう

…他人が救ってくれる事がある事も知ってるから
俺は多分幸運だ


 嘆きの声、祈りの声、かみに救いを求める声。
 この世の無情へと圧し潰された者達は、蜘蛛の糸を求めて天へと向けて謳い続ける。
 この世の生きづらさから救って欲しい、と。
「俺も正直、生きづらい」
 小さく、けれども確かにとそう零したのは、花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)。
 世界の残酷さを、ヒトの無情さを知る彼であるからこそ。
 そして、その顔は俯き、前髪が隠す瞳はその表情を読み取らせない。
「なら、一緒に祈りましょう?」
「そして、私達を顧みないこの世界を変えるの」
 そう願うのであれば、猟兵であっても構わない。と、少女らは英へと手を差し伸べる。
 それは甘い甘い毒の蜜。手を取れば最後、味わえば最後、元の場所へと戻ってはこれない毒の蜜。
 英は差し伸べられる手へと向けて、応えるように自身の手を伸ばす。

「――それでも、俺は俺の仕事をする」

 英の手が跳ね、その手に握られていた折り畳みナイフが、まるで手品の如くと刃を開き、差し伸べる少女らの手に握手の代わりと一筋の傷を刻んだ。
「――ッ!?」
「どうして! あなたもこの世界に嫌気が指しているのではないの!?」
 悲鳴の声は甲高く。
 刻み込まれた一筋の傷を庇うようにして少女らは手を引き、英から距離取り後ずさる。
 生じたその距離こそ、互いの拒絶の証。
「どうしてだって? 当然だろ」
 紫の鋭き眼光が、少女達を見ていた。
 その眼光へと気圧されるように、少女らがまたじりと後退り、距離が開く。
「自分が生きづらいのは誰かのせい。そうやって思うことは楽だった」
 血ぶりの如くと刃を空へと振れば、奥にて輝く魔法陣と焔の光を反射して、銀閃が闇の中に軌跡を描いた。
「でも、俺は悪くないのにって嘆くだけじゃ何も変わんなかった」
 少女らを視界に納め、刃構える姿は油断なく。
「自分で出来ることを知って、出来ない部分は出来ないなりにやっていくしかない」

 ――嫌なとこばっか目に付くけど、俺にとって生きるってそういうことだ。

 感情込めた訣別の声は厳かに。
 生きづらさを抱えるのは同じであったとしても、それでも、やはり英は彼女らとは違うのだ。
 落第点を突き付けてくる世界の方こそが間違いであり、自分達を否定する世界こそが間違いであるとする彼女らとは。
 だが、少女らとて心の奥底では理解している。間違っているのは自分達自身である、と。
 だからこそ、かみに縋るより他なかったのである。かみさまが救ってくれるのなら、自分達はきっと間違っていなかったのだという欺瞞を得るために。
 しかし、英の言葉は、その欺瞞を容易く剥ぎ取る言の葉の刃。
「違う、違うわ! 悪いのは私達じゃない!」
 少女の声は、最早悲鳴そのもの。欺瞞を剥ぎ取られ、突きつけられた彼女ら自身の間違いを誤魔化すかのように。
 そして、その声へと賛同するように響くは、声を上げた少女以外からの声。
 そうだ、と。間違っているのは私達ではない、と。落第点を突き付けられるは世界にこそである、と。
 共感は連帯感を生み、自分達の導き出した以外の答えを排斥するための熱狂へと変わっていく。
「そうやって、そもそもとして自分達の答えがズレていることから目を逸らすんだな」
「問題自体が間違っているのよ。あなたも、そう」
「……そうかよ」
 紫の光は少女らの熱狂をどこまでも醒めた眼差しで見守るのみ。
 分かり合うことは、不可能であった。

 ――熱狂は炎となり、炎は自分達以外を燃やし尽くさんと英へと迫る。

 飛び退り、躱した後で炎が弾けた。
 撒き散らされる熱にチリチリと英の皮膚が危険を訴え、呑まれれば跡形も残らぬと伝え来る。
「紅蓮の花と言うには、趣に欠けるか?」
 その美しさが朝顔や紫陽花より遠いと感じるは、それの生じた経緯が故か。はたまた、そこに宿る感情へ既に興味も失せていたからか。
 咲き誇る、咲き誇る、咲き誇る。
 されど、英はその養分となるつもりもなく、なることもなく、紅蓮の花咲く中をひらりひらりと跳び交い、踊る。
「余裕ぶったって、近付けなければいつか!」
「そうだな」
 だが、如何に躱し続けているとは言っても、少女らの懐に踏み込めぬではその言う通り、英本人が認めたように、埒もあかぬのではないか。

「なら、もういい頃合いだろ」

 ――いいや、最初から既に準備は出来ていたのだ。
 火の粉の名残の中、ひらりはらりと蝶が舞った。
「なに? どこから出てきたの!?」
 それは何処からともなくと飛来して、数を増して、少女達へと群がっていく。そこにあるのが甘い蜜宿す花であると知っているかのように。
 少女達とて突然の闖入者に驚くばかりではない、炎で、その手で、蝶達を懸命に払いのけんとする。
「あんまり興奮しない方がいい。余計に集まってくる」
「やっぱり、これは貴方ぷぁ」
「忠告したばっかりだろ」
 群がる蝶の数は容易く払いのけられるものではなく、少女達の身体も、熱狂も、瞬く間にと蝶で埋もれていく。
 抗うように最後までじたばたと、英に傷つけられた――花の刻印咲いた手が動いていたが、それも時期に蝶の中。
 それこそは英の呼びだした蝶の群れ。彼へと感情の機微を与えた者へと群がる電子の蝶。

 ――静寂が舞い戻る。

 蝶の山がはらりと解ければ、そこには最早何もない。誰も居ない。
 ただ、電子の蝶が零す鱗粉が、まるで彼女らの魂の名残のようにきらきらと輝いては消えていく。
「……俺は、他人が救ってくれることもあると知ってるから」
 きっとそれはなによりも幸運なことで、彼が彼女らにならなかった要因。
 小さな洋館と古びた古本屋の光景が、知らず彼の頭を過っていく。
「それに――」
 最近、ようやくとこの世界が色付きだしたんだ。なんて、それは言葉にするにはまだ気恥ずかしさも、怖さもあるから言葉にはしきれないけれど。
 続きの言葉を零す代わりに英は僅かと紫の光を和らげて、ただ静かに蝶が零す全ての鱗粉が消えるのを見守っていた。
成功 🔵🔵🔴

ライカ・ネーベルラーベ
救い?たぶん、そんなものないと思うけどなぁ
「少なくとも、わたしには無かったよ。だからわたしはわたしで勝手にやるって決めたんだ」
自分を助けてくれるのは自分だけ
邪魔するやつはぶっ壊す、それで十分

【雷火砲】で敵を狙い撃ちにしていくよ
地の利なんて無いけど、それは相手も同じ
なら自前のスペックでゴリ押すまで
「焼かれて堕ちろ、天使にもなれない敗残者がァ!」
一度負けて、死んだのはオマエも同じだろうに。帰還兵――敗残兵。

「空に上がれば自由になれると思った?生憎そこは、生きるには厳しい冷たい世界だったよ」(紙の翼で宙に浮く少女たちを見て)


 一度、死の淵に至ったは互いに同じ。
 だけれど、少女らは骸の海へと沈んで、過去の残骸として現実へと浮上し――。
「救い? たぶん、そんなものないと思うけどなぁ」
 ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)は、天の国へとあがり、そして、生身の身体と引き換えに現実へと墜ちた。
 たったそれだけの違いではあるけれど、とても大きな違い。
「そんなことはありません。かみさまはきっと私達を救いを齎して下さるの」
「はは。少なくとも、わたしにはそんなものは無かったよ。だからわたしはわたしで勝手にやるって決めたんだ」
 だからこそ、少女達は自分達を救いあげてくれるかみさまを信じられる。
 だからこそ、ライカは自分を見放したモノの救いなんてを信じはしない。
 そこに相互理解という言葉があろう筈もない。
「寂しい人」
「アナタ達が寂しいだけでしょ」
 かみさまの救いに縋って、そうでもしなければ自分すら保てないだなんて。
 そんな言外の意図に、少女達の顔が憤怒に歪む。ライカの顔は少しも変わらない。
「図星を突かれたからって、そんなに怒らないでよ」
「あなたの命を燃やせば、きっとかみさまに私達の居場所を報せるのに、いい灯台の灯りとなることでしょう」
「そんな遠まわしじゃなくて、もっと簡単にいいなよ」

 ――邪魔するやつはぶっ壊すってさ。

 少女達はその背に燃ゆる紙の翼を負い、ライカはその身に雷光を纏う。
 その言葉こそが、開戦の合図となったのだ。

 宙より舞い踊るは燃ゆる紙の羽根。
 少女達の背中からひらり、はらりと燃え落ちて、触れたものにその炎を移さんと。
 そして、それを弾き、焦がすは雷の網。
 バチリバチリと互いを喰らい合い、鬩ぎ合う。
 互いが互い、地の利を生かそうにも講堂という限られた空間ではそれにも限界がある。
 しいて言うのであれば、宙を立体的に使わんとする少女達に若干の有利。四方八方。ライカを取り囲んでその羽根を逃げる隙も与えぬと舞い散らす。
「ほら、この翼だってかみさまが与えてくれたんです」
「今にも燃え尽きそうな翼だなんて、そんな不良品をくれるかみさまとやらとは分かり合えそうにないわ」
 翼は燃え続けているのに、尽きるという気配はない。その点において、彼女らがいつか地に墜ちるを期待することは難しそうであった。
 いつまでもと炎と雷との鬩ぎ合いを続けるは、ライカに不利か。
 ならば――。
「あら、諦めたんですか?」
「いいや、自分を助けてくれるのはいつだって自分しかいないってだけ」
 雷の網が不意にと消え去り、燃ゆる紙の羽根がライカの身へと殺到せんと舞い踊る。
 鬩ぎ合いに勝つことは、確かに諦めたのかもしれない。だけれど、それが勝利を諦めたことにはつながらない。
「ねえ」
「なんでしょう? 降参の言であれば聞きませんが」
「アナタは空に上がれば自由になれると思った?」
「勿論です。彼方より来るかみさまをお迎えして、私達は願いを叶えてもらうんです。私達の望む、自由の世界へと飛び立つために」
「そう。なら、これは一つの忠告」
「拝聴しましょう」
「生憎そこは、生きるには厳しい冷たい世界だったよ」

 ――霧散していた筈の雷が、ライカの掌で踊っていた。

 集められ、束ねられたそれは、ただの雷ではない。触れた者すべてを焦がす、プラズマの輝き。
 天へと掲げれば、それだけで降りくる紙の羽根が触れるより先に燃え尽きた。それはまるで、数秒先の少女達の未来を指し示すかのように。
「皆さん、散って――」
「――させる訳がないだろう! 焼かれて墜ちろ、天使にもなれない敗残者がァ!」
 撃ちだすは、光球のまず一つ。
 ここが広大な戦場で、彼我の距離に開きがあったのであれば、回避の猶予も多少はあったことだろう。
 だけれど、ここはあくまでも講堂で、少女達がその翼で天高くと逃げようにも天井と言う限界が待ち構える場所。
 彼女らはどこまでもどこまでもと飛んでいるつもりで、結局のところ、定められた枠の中で浮遊していたにすぎなかったのだ。そんな彼女らが天使を気取るなど、それこそおかしな話でしかない。
 そして、せめてもの回避運動と、散開を指示する少女の一人がそれを告げきるより早く、瞬きも許さぬ速度で飛来した光球に呑まれて墜ちた。
 少女達の間に奔る動揺などお構いなしと、二つ目、三つ目。
 翼ごと燃やして溶かす太陽が、自らと近づいてきて少女達を悲鳴ごと呑み込んでいく。
 太陽の灯火が消え去る頃には、後に残るは燃ゆる羽根の名残のみ。それとて、講堂の床へと辿り着くより早く、燃え滓となって風の中に溶け消えるのみ。

「一度負けて、死んだのはオマエも同じだろうに。なァ、帰還兵/敗残兵」

 同じ淵に立ったと言うのに、どうしてこうも違ってしまったのか。
 ぽつりと漏らした言葉もまた、風にのって溶け消えていく。
 ライカが頭上を見上げれば、プラズマの余波によって天井というものはなくなり、星空だけが映っていた。
成功 🔵🔵🔴

カイム・クローバー
…擦り傷やら絆創膏の増えた姿ってのが本当の姿かどうか分からねぇが、目の前の少女も、上手くいかない現実と向き合って来たんだろ?
方法はともかく、変わりたいって気持ちは分かる気がする。

けど、俺は便利屋でね。今の状況を黙って見てる訳には行かねぇんだ。
先に手は出さず、少女の答案用紙の翼を【残像】と【見切り】で躱しつつ、右手に魔剣を顕現。
下らねぇ点数なんざ燃やせば良い。アンタを縛る理由にならねぇよ。飛翔する答案用紙の翼目掛けて、刀身の黒銀の炎の【属性攻撃】を【範囲攻撃】で焼き尽くす。
落下する少女は両手で受け止めるぜ。――これ以上、転ぶ必要もねぇさ。
撃つべきは銃弾は一発。少女への痛みは最小に。
ゆっくり休みな


 負った傷は懸命の証であったのか。少女らなりの足掻きの証であったのか。
 魔法陣から少女達へと流れ込む力が、少女らの姿を変えていた。生傷だらけ、絆創膏だらけの姿へと。
「それが本当の姿かどうか分からんが、あんたらも上手くいかない現実と向き合って来たんだろ?」
 語り掛けるは、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)。傷だらけの、燃ゆる翼の少女らへと向けて。
「そうだよ。あたしらだって、最初からこうだった訳じゃない」
 カイムと相対する少女らの中で、ショートカットの少女が代表するように答える。
 燃ゆる翼――燃え続ける答案用紙で出来た紙の翼は、きっと、彼女らの悲嘆そのもの。
 嘆いて、俯いて、それでもと足掻いて、それが全て無駄であった証。心と身体に傷ばかりが増えた証。
「でも、あたしらじゃどうにもならなかった。だから、かみさまにだって頼るんだ。もう、頼るしかないんだ!」
 きっと、幾度もの挫折が彼女らの心を折ったのだろう。転んだまま、立ち上がることすら出来ない程に。
 だから、彼女らは最早自分の足で立ち上がることを諦め、かみさまという名の救いの手が自分達を立ち上がらせてくれることを祈ったのだ、願ったのだ。
 私達を変えて下さい、と。この世界そのものを変えて下さい、と。

「――変わりたい気持ちは分かる気がする」

 カイムの顔に自信満ちた笑みは今はなく、あるのは真摯なる光。
 過去を隠したところで、秘したところで、そうであったという現実は変わらない。だから、根本からの変化を求める気持ちへの理解をカイムは示す。
 その願いを否定されると思っていた少女らの顔に、驚きと困惑が広がる。
「なら、あたしらを放っておいて――」
「だけれど、方法がよろしくねえ。あんたらのそれじゃあ、この世界が破滅しちまう」
「……やっぱり、否定するんだ」
「期待させちまって、すまねぇな。けど、俺は便利屋でね。今の状況を黙って見てる訳には行かねぇんだ」
 驚きを失望に変えた少女らの背中で、その感情の昂ぶりを示すかのように一層と燃え上がる翼。それを視界に納めつつ、カイムは苦笑いの一つを浮かべる。怒らせちまったなあ。なんて、零しながら。
「あたしらの邪魔をするってんなら、消えろよ!」
 激情は声となり、舞い散る炎の羽根となり、少女らの願いに立ち塞がるカイムを焦がさんと。
 ひらり、はらり。
 散る羽根の動きはいっそ優雅で、そこに込められた感情とは裏腹に穏やか。
 だけれど、少女らの背中から一斉に落とされたその数は、その速度の遅さを補うだけのものがある。
 降り積もる雪、降りしきる雨。それらの間隙を縫って動くが困難なように、その紙の羽根の合間を駆け抜けるもまた同じ。
「消えてもやれねぇ」
 少女らの願いの何一つとして叶えられはせぬ。
 だが、せめてその激情を受け止めんと、彼女らに先んじて動くを自ら封じていたカイム。その手に顕現させるは、神殺しの。
 ――斬。
 舞い散る羽根を断つは、黒炎の軌跡。
 影すらも残さずと描かれた剣閃。それは的確にカイムの身へと到達する羽根のみを選んで断ったのだ。
 舞う羽根/紙を断つ技量の、それを見切る技量の、高さは如何ほどか。しかし、それが並大抵のものではないと理解するは可能。
「なんだよ、それ。それだけの力を持つあんたに、あたしらの何が分かるってんだよ!」
 一つの高みとも言えるその技量は、どこにも至れなかった少女らの劣等感を刺激するに余りある。
 背中で燃ゆる翼が、更に更にと燃え上がっていく。少女ら自身の身すらも焦がさんとする程に。
「もうやめろ。それ以上は、自分自身を失うだけだ」
 燃えて、燃えて、その先にあるのきっと燃え尽きた後の墜落。それを唯一と理解するのは、冷静を保つカイムのみ。
 だからこそ、止まれ。と声を掛けるが、少女らがそれで止まることはないであろうことも、彼はまた理解している。
 故に――。

「下らねぇ点数なんざに、比べ合いなんざに、アンタが縛られる必要はもうねぇよ」

 その劣等の源たる燃ゆる翼を断たんと、カイムは力強くと地を蹴り、跳ぶ。
 床を蹴り、立ち塞がる障害を斬り伏せ、少女の身に届けと力強く。
「ち、近づくな!」
「いいや、断る!」
 舞い散る羽根も、近付く程に感じる燃ゆる翼の熱も、カイムがその脚を止める理由にはなり得ない。
 ――手を差し伸べるように褐色の腕が閃き、少女とすれ違いざまに黒炎が翼を断った。
 少女が感じるのは一瞬の浮遊感。どこか慣れ親しんだ、転ぶ間際の浮遊感。
 ならば、次に来るのは地に落ちた衝撃であろう。と、頭の中に僅かと残った冷静さがそう囁く。
「結局のところ、あたしらにはこれがお似合いってことだよな」
 少女は衝撃に備えて、目を瞑る。その口元には諦観が浮かんでいた。
 ――だが、衝撃はいつまで経っても訪れない。
 代わりに感じていたのは――。
「間に合ったな」
 温かな誰かの腕の感触。
「あんた、なんで……?」
 恐る恐ると目を開けば、そこには柔らかな紫の光。
 翼断たれた少女が落ちるより早く、少女とすれ違った先で壁を蹴ったカイムがその身を捕まえていたのであった。
「これ以上、アンタが転ぶ必要もねぇさ」
 腕の感触と告げられた言葉。
 その二つの温かさは、きっと、少女らが何よりも欲した温かさ。
 自分をすら焦がす炎も、熱も、本当は少女にとって必要なかった。必要であったのは、ただそれだけのこと。
 劣等感の証から切り離された少女の胸に、それは歪まされることもなくじんわりと広がっていく。
「お、おい。泣くなよ」
 ぽろぽろと少女の目から零れ落ちたのは涙。
 嗚咽があった訳ではない。ただ静かに零れ続ける突然のそれに、如何なカイムとて驚きは隠せぬもの。泣く子には勝てぬのだ。だけれど、受け止めた少女の顔から険が取れたに気付けば、その瞳は再びの柔らかさを取り戻す。
「おう。今迄、よく頑張った」
 カイムが笑いかければ、少女の涙は溢れて止まらぬ。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう」
「いいや、いいんだ」
 少女を支える両の腕。その一つをそっと外して、引き抜くは黒鉄の銃。それを、そっと少女の額に押し当てて。
「もう、ゆっくり休みな」
 引き金を引いてもなお、少女からの抵抗はなかった。
 乾いた音が一回だけ響き、その衝撃に宙へと舞った涙の粒の一滴。きらりきらりと散っていく。
 雫が宙に溶ければ、カイムの腕の中の重さも掻き消えて、同じくと周囲の少女らも消えていた。
大成功 🔵🔵🔵

シャト・フランチェスカ
無敵の自分を描けるソウゾウの力、か

羽根ペンで描き出す軌跡が
毒を孕んだ雨の如く降り注ぐ

ほら
それは紛れもなく「力」なんだ
きみたちは願う力を持っている
理想を抱くことができる

●UC
紅いインクで綴る
《かみさまはすくう
夢は巣食われ
悪意に掬われ
救われたのは誰の心か》
場面に似合わぬ紙飛行機がすいと飛び

いいかい
「今、私は満ち足りている」と宣言してご覧
心を揺らがせてはいけないよ
ひどく簡単なルールだろう

かみさまは何かを捧げないと救ってくれないのかい
学生でなくなっても救い続けてくれるかな
きみたちには力がある
力があるから今回も行動した
その祈りの矛先は
きみたちの未来じゃなくていいのかい

信じるものはすくわれる
そうでしょう?


 しとりしとりと雨が降る。
 しかし、講堂の中で降りしきるそれがただの雨であろう筈もない。
 それはシャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)が、その羽ペンで描いた想像の力。
「僕でさえ、このぐらいのソウゾウが出来る。年若きの姿をとるキミ達なら、もっとだろう?」
 荒唐無稽を想像するは、年若きの宿命。寝物語に憧れて、絵本の世界に憧れて、空想の世界に憧れて。
「勿論だよ。いつだって考えてた。いつだって求めてた。完璧な自分を」
 そして――現実を知るのだ。
 濡れそぼる学生服が張り付く不快。ずしりと重くなるそれは、儘ならなかった少女自身を示すかのよう。
 冷たさが身に沁み込んで、毒の如くと体温を奪っていく。かつての現実のように、心を蝕まんとしていく。
 だけれど、だ。それを否定するためにこそ、少女らは決起したのだ。
 脳裏に描く完璧な自分自身へとなるために。
「わたしは『私』になるんだ!」
「そう。それは紛れもなく『力』なんだ。きみたちは願う力を持っている。理想を抱くことができる」
 魔法陣から流れ込む力は少女の理想/願いを叶えるだけの力を持つ。
 しとりしとりと雨の降る中、少女の衣服が瞬く間に乾いていく。
 しとりしとりと雨の降る中、少女の身体はもう濡れなどしない。
 現実を振り払う力を、少女は得たのだ。
「これが私。かみさま救ってもらった私」
 嬉しそうに、どこまでも嬉しそうに微笑む姿は外見の年相応。その幼さに、シャトはそっと目を閉じる。そして、目を開いた時には雨が止んでいた。このまま雨を降らせ続けたところで、少女の理想に瑕疵の一つも付けることは出来まい、と。
 文字を綴り、想像の世界を創造するシャトであればこそ、その理想の姿の頑強さが理解出来ていた。
「おや、雨はもういいんだ?」
「想像に限りはなくとも、インクには限りがあってね」
 だから、降らせるのはやめたんだ、と。
 そんなことよりも、有限なるインクでしたためねばならぬ文言がシャトの脳裏に浮かんだから。
 さらり、さらり。
 紅いインクが紙をなぞる。文字を綴る。
 筆の踊りが足を止めれば、その紙は折りたたまれて紙飛行機に。
「そら、受け取って」
「なんだい。随分ともって回ったやり方をするね」
 口で言えばいいのに。なんて、口さがなく。
「それじゃ風情というものがないよ」
 ついと指先で紙飛行機が飛ばされて、狙いは違わず少女の前。
 それがただの紙飛行機でなければ、少女が理想の自分になったことに浮かれていなければ、決して受け取りはしなかっただろう。
 だが、少女はそれを受け取ってしまった。
 さて、何を書いたのか。少女は好奇心のままに紙飛行機の手紙を開ける。

《かみさまはすくう 夢は巣食われ 悪意に掬われ 救われたのは誰の心か》

「なに、これ?」
「きみはなんだと思う? 想像してご覧」
 それでこそ、言葉遊びの趣もある。とは、シャトの言。
 突然の、まるで教え導くかのような言葉に、少女は僅かと眉を顰める。
 だが、それでもそれを無視してシャトを襲わない辺り、その心根の本性が僅かと垣間見えた気がした。
「さて、考え中のキミに追加の注文だ。きみは今、満ち足りているね?」
「……その通りだよ。私は生まれて初めて、満ち足りている」
「そうだね。その通りだ。なら、心を揺らがせてはいけない。それが『ルール』だ」
「なんなの? さっきから」
「簡単なお遊びさ」
 既に手紙は受け取られた。ならば、シキを創めるとしよう。カンショウの幕は上がっているのだから。
 宣言はなされ、ルールは敷かれていた。少女の気付かぬ間にと。
「さて、完璧なキミになったきみに質問だ」
「さっきから随分とおしゃべりだね」
「いいじゃないか。完璧と豪語するを前にしたのなら、文章を書く身としては取材の一つもしないとね」
「もう、これ以上あなたに使う時間はないよ。かみさまをお迎えする時間がなくなってしまう」
「そのかみさまは、何かを捧げないと救ってくれないのかい?」
「……え?」
「学生でなくなっても、救い続けてくれるかな?」
「何を、言ってるの?」
「きみたちには力がある。だから、今回も行動した。だけれど、その祈りの矛先はきみたちの未来じゃなくていいのかい?」
 捲し立て、息もつかせず、思考の整理などさせないかのように、シャトは言葉を矢継ぎ早。
 それが剣も、槍も、弓矢も持たぬ、シャトの刃。
 シャトは言った。かみさまは代価を求めるのか、と。
 シャトは言った。学生でなくなっても救い続けてくれるのか、と。
 シャトは言った。その祈りは未来に向けてのものでなくていいのか、と。
 そうだ。少女らの願いは、あくまでも学生時代という時期に限定されるもの。幾ら自身の思う完璧を得たとしても、それが社会という現実に、それより先の未来でも敵い続けるとは限らない。
 形持たぬ刃が、少女の理想を傷付け、その身の内に毒を注ぎ込んでいく。
 ぐらりぐらりと揺れるは少女の視界。立っているだけの筈なのに、地面が揺れているかのように足が覚束ない。
「そんな、ことは……」
「ほら、戸惑ってる場合じゃないよ。考えないと」
 思考を切り替えようとしても、理想に突き立てられたシャトの刃がそれを許さない。
 抉られ、捩じられ、傷を開かれ、思考を逸らすことができない。
 だから、無意識に想像は加速する。
 理想の、完璧なる自分を創造できるだけの想像力を持つ彼女であるからこそ、自分の悪い未来を想像してしまえるのは必然。
 さあ、理想をすくおう。
「あ、嗚呼、そんな、嘘だ。そんな未来なんてある筈が……」
「信じる者はすくわれる。そうなんでしょ?」
 桜の花が咲いている。紫陽花の花が咲いている。
「じゃあ、改めてきみに問おうか。きみは今、満ち足りている?」
 ――答えは、なかった。
 ぱん。と軽い破裂音。
 それはルール通りに心揺らぐを貫き通せなかった少女の末路。
 灰かぶりの少女は理想の自分になりきれず、魔法の解けた身は地獄の業火に招かれて。
 はらりはらりと舞い散る灰色の中、シャトの彩だけが鮮やかに咲いていた。
成功 🔵🔵🔴

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

他者に縋ることで歩みを止めてしまった存在…ある意味、すごく「らしい」オブリビオンねぇ。
まあどんな理由があろうと敵だし殺すけど。

あら凄い、ホントに何でもできるのねぇ。
…ところで疑問なんだけど。「どうしてまだここにいる」のかしらぁ?
だってそうでしょ?「完璧な自分」になったんだから、もうわざわざカミサマを呼び出して縋る必要なんてないじゃない。
――ひょっとして。まだ何処か「完璧」じゃない、って自覚があるのかしらぁ?

弱体化したら、カノ(炎)の銃弾と焼夷手榴弾の〇投擲で纏めて○焼却しちゃいましょうか。
――イカロスの翼は、焼き墜とすのが作法でしょ?


 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)と相対するは、随分と古いタイプの制服を着込んだ少女。
 オブリビオンとは、過去より現在に沁みだした存在である。
 ならば、そういった昔の姿を取るものが居てもおかしくはないだろう。
 だが、それ以上に、だ。
「ある意味、すごく『らしい』オブリビオンねぇ」
「それはどういう意味かしら?」
「それこそ、自分が良くしっているんじゃない?」
 オブリビオンに未来というものはない。過去に縋り、世界を壊す事こそが彼らの本懐であればこそ。
 故に、このティオレンシアの目の前の存在は、なによりもそれらしいと言えるだろう。
「分からないのぉ? 分からないなら言ってあげるわぁ。他者に縋ることでその歩みを止めてしまったあなた達は、何よりもそれらしいって言ったのよぉ」
 かみさまなんてものに縋るしかない彼女らを嘲笑するように。
 実際のところ、ティオレンシアからすればその祈りの内容だとか理由だとかには意味を持たない。敵だから殺す。それだけのこと。
 だけれど、そう言うことが彼女らにとっての急所になると感じたからこそ、敢えてと口に出したに過ぎない。
 そして、それは的確でもあったと言える。少女の真白き顔面が、さっと朱色へと変わった。
「私達の理想を理解しないのなら、消えるといいわ!」
「そんな理想の理解なんて、真っ平御免よぉ」
 ティオレンシアがその愛銃を引き抜くと少女が魔法陣より流れ込むかみさまの力で理想を完成させるは同時。

 ――銃口より吐き出された弾丸が、少女の前にて火花を散らすこともなく浮かんで止まる。

「無駄よ。銃弾なんて、私達にはもう届かない」
 それはまるで魔法の如く。いや、ある意味ではそれは魔法だったのだろう。
 自分自身を害するモノを跳ねのけ、蹂躙し返すこそが彼女の理想。
 くるりと止められた弾丸が向きを変え、ティオレンシアへと向き直る。
「兵隊さんはこうやって撃っていたかしら?」
 ばん。と物真似、指鉄砲。
 しかし、それはただの物真似に収まらず、宙に縫い留めていた弾丸をティオレンシアへと撃ち返すのだ。
 だが、ティオレンシアとてそれをそのまま受け止める程に呆けてはいない。
 コマ落としの如くと吐き出す銃弾は五発。
 一発は撃ち返されたそれと衝突させ、もう四発は少女への贈り物として。
「無駄だって言ったじゃない」
 だが、その四発とて同じ事。最初の一発と同じく、少女の前にて宙に浮かぶへと留まるのみ。
「あら凄い、ホントに何でもできるのねぇ」
「当然よ。これが私達の理想であり、かみさまが叶えてくれた理想だもの」
 今度はこちらが嘲笑する番とばかりに、少女の顔へと浮かぶ嗤い。
 さて、侮辱へのお返しはどうしてくれようか。なんて、その胸中で思考が渦を巻いているのが透けて見えた。
 だから。
「あー、降参ねぇ。魔法みたいなことをされたらぁ、私には突破しきれないわぁ」
 ティオレンシアはもう降参と、黒曜石の銃を足元に落とす。ついでに、手もあげ、白旗代わり。
「……なによ。急にそんなことを言ったって、許してなんてあげないわ」
 真っ向からの敵意にであれば、少女も敵愾心をむき出しにも出来ただろう。だけれど、そうでなければ彼女はやはり一介の少女でしかないのだ。
 例え、理想としての自分――その力を身に着けたとは言っても、その本質までもが変化している訳ではなかった。
 手をあげ、無力を示すティオレンシアを前として、少女はただ狼狽えたように弾丸を宙へと浮かばせるのみ。
「ところで疑問なんだけど。あなたは『どうしてまだここにいる』のかしらぁ?」
「……何を言っているの?」
「血の巡りがよろしくないわねぇ」
「馬鹿に――」
「――してないわよぉ。だってそうでしょ? あなたはもう『完璧な自分』になったんだから、もうわざわざカミサマを呼びだして縋る必要なんてないじゃない」
 ぐさり、ぐさり。
 弾丸は通じずとも、言葉が届くことは既に証明済み。
 ならば、手を変え品を変え、攻める向きを変えるだけだ。
 その百戦錬磨の手管と経験こそがティオレンシアの強みにして、未熟なる少女にはないもの。

「――ひょっとして、まだ何処か『完璧』じゃないって自覚があるのかしら?」

 致命の一言。いや、既にこの状況に陥っていたことこそが、少女の致命。
 ティオレンシアが銃を捨てた段階で、彼女は宙に縫い留めていた弾丸を解き放つべきだったのだ。ティオレンシアに言葉など許すべきではなかったのだ。
 だけれど、それは出来なかった。理想は力ばかりで、その未熟までを変えていなかったが故に。
「そんな、ことは!」
「ほら、動揺がもう顔に出てる。未熟ねぇ」
「――五月蠅いッ!」
 四発の弾丸がくるり。向きを変えてティオレンシアに穂先を向ける。
 だけれど、彼女の足癖がそれよりなおと速かった。
 蹴り上げるは足元に落としておいた愛銃。掲げていた手ですぐさま掴み、銃口を向け直す。
「知っているわ! 見えているわ! それの弾丸は六発しか――」
「――入らないって? そんなこと、誰が決めたのかしらぁ?」
「え、嘘、なんで、もう銃弾が……!」
 吐き出されるは七発目、八発目、九発目――機関銃もかくやとリボルバーの口から弾丸が吐き出される。
 それこそ少女からすれば魔法のように見えたことだろう。
 だけれど、それは突き詰めた純粋なる技量の賜物。魔法の如き域まで達したティオレンシアの。
 吐き出された弾丸は撃ち返された四発などものともせず、雨霰となって少女を襲う。
 今度は、それが宙に縫い留められることはなかった。僅か、何かの壁を撃ち抜くような抵抗こそあったものの、それを貫き、少女の身へと。
 揺らいだの障壁こそ、彼女の理想であったのだろう。だけれど、ティオレンシアの言葉で揺らいでしまった心は薄紙の如くでしかない。
 銃弾を身に受け、最早と抵抗も出来ず、ドサリと倒れる音一つ。
「ついでに、これも贈ってあげるわぁ。イカロスの翼は、焼き墜とすのが作法でしょ?」
 ピンと安全弁を引き抜かれたそれは焼夷手榴弾。
 弧を描いて放られれば、それは見事少女の下へ。
 ボンと音響かせれば、あっという間に火の海の出来上がり。
「理想を抱いて高く飛ぼうとするのはいいけれど、身の程を知るってのは大事よぉ。いい授業になったわねぇ」
 これでも教育実習生なのよ、実は。なんて、嘘でもあり本当でもあることを嘯いて。
 そして、少女の抱いた理想は二度と舞い上がることもなく、炎の海に融け消えていった。
成功 🔵🔵🔴

天狗火・松明丸
紙と神で、正にかみに頼る訳か
てすと?だとか試験が如何とか
てんで分からねえな…

先程見つけた答案用紙を広げてみるが
何ぞ書いてあるかも俺には読めん
自分の名が書けるだけでも上等だと思うがなあ
…早く捨てて仕舞えば良いものを
真っ赤な印ばかりの紙を翼に変えちまって

さて、気に入りの木の葉で娘らを真似て見せよう
傷だらけで冴えない、失敗ばかりの不幸な少女に

化けた己が首に朱い祟り縄を引っ提げれば
鏡写しの顔で、にんまりと笑う
不幸少女の、その不幸をこそ呪ってやろうか
何時しか娘ら自身に及ぶだろう呪詛を掛け
かみにも手の届かぬところへ結んでしまおう


 その未来は紙頼み。
 その願いは神頼み。
「何ぞ書いてあるかも俺には読めん。自分の名が書けるだけでも上等だと思うがなあ」
 天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)が懐から取り出した1枚の紙。
 それは日の昇る内に松明丸が回収した答案用紙。赤色一色に染まったそれは、そこかしこに散らばる紙にもよく似ている。
 また、はらりとよく似た紙が舞い落ち、床の上にて降り積もった。
 その出所――頭上を見上げれば、そこには傷だらけ、絆創膏だらけの少女。背に負った紙の翼をカチカチ山の狸もかくやと燃え上がらせて、そこにある。
「あー、てすと? だとか試験が如何とか、てんで俺には分からねえな……それを背負う、お前さんはどうだい?」
「僕らには大切なものなのさ。それで将来が決まりかねない。それで未来が決まりかねないぐらいに」
「ただの紙きれ程度でか。人間とは俺達以上に不可思議だ」
 それでかみに頼る訳か。なんて、一人納得の松明丸。
 音を重ねることで対象を、意味を広げるは、まじないの範疇だからこそ。
 ただ、それでもその紙きれ一枚――複数枚で未来すら変わることに、人の世の不思議と首を傾げるのみ。
「妖怪には分からないか」
「だろうなあ。だが、そんなに辛そうに背負うなら、早く捨てて仕舞えば良いものを」
 燃ゆる翼は時折と少女の身すらをも焦がし、少女の顔に僅かと苦悶が浮かぶ。
 だけれど、それを少女は捨てられなかった。骸の海に沈んでしまう程に積み重なるまで、その重さに潰されるまで。それが人間の世で生きるのに必要であったから。
 だが、もう彼女は違う。
「でも、そのお陰で僕らはかみさまに救ってもらえるんだ」
 苦悶の顔に笑顔が浮かぶ。
 骸の海に沈んでしまったが故、そこから救いあげてくれるかみさまに出会えるのだ、と
 彼女の身は既に過去の骸。その存在は人の世から浮いている。
「真っ赤な印ばかりの紙を翼に変えちまって、どこまで行こうってんだ?」
「それは勿論、僕らの理想を叶えてくれるかみさまのところまでさ」
 どこまでも行けるのだと少女らは考えているけれど、後付けの燃ゆる翼ではどこまでもとは行けはしないだろう。
 その翼は途中で燃え尽き、墜落することなど目に見えているのに、それでも少女らは初めての光に目が眩み、そんな事実にすら気付けない。
 それはまるで鬼火に誘われた迷い人か、はたまた、誘蛾灯に飛び込む虫のようなものであった。
 もしも。もしも、燃ゆる翼で飛べる者があるとすれば、それはヒトならざる者。生まれつきの炎の怪異に他ならぬ。
「そいつは……難儀な話だねえ」
 そのことに気付く炎の怪異は、苦虫を噛み潰したかのように。
「キミが素直に僕らを見送ってくれるなら、僕らは戦う必要なんてない」
 そんな様子を露とも気付かず、少女は謳う。炎が焦がす。
「そうやって、生前も周りが見えなかったんだろうなあ」
「え?」
「いいや、なんでもないさ。ちょいと鏡を見せてやろうってな」
 疑問符を浮かべる少女の顔を瞼の裏に焼き付けて、指の間で挟み持つは燃ゆるような木の葉。
 どろん、ぱっぱと煙を一つ。
 煙が晴れれば、そこにはくるり姿の万華鏡。松明丸の姿ではなく、同じ少女の二人目が。
「それは僕のつもりかい?」
「それ以外のなんに見える?」
 二人目の少女――松明丸が、少女の顔で少女に出来ぬ笑みをにんまりと。
「なら、その首に掛かった縄は余計だね」
「いいや、こいつこそが大事なのさ」
 ちょいと触れて指し示すそれは、朱い、朱い縄の結び。
 それが松明丸の動きに合わせて揺れる度、少女の脳裏にちらつく映像。
 温かな食卓の香り。団欒がそこにはあって、恐る恐るとテストを出せば、団欒の内の誰かがそれを手に取る。降りくるのは掌。しかし、それは叩くためのではなく――。
「――……ぁ、ハァ。ゲホッ、ゲホッ」
 あまりにも幸福すぎて、目が覚めた。
 呼吸を忘れていた身体は喘ぎ、空気を求めて催促を繰り返す。
「おや、目覚めちまったか。加減てのは難しいもんだ」
 ゼエゼエと少女は荒い息の止まらぬまま、鏡写しの己を見た。
「なにを、したんだ……」
「言っただろ。ちょいと鏡を見せてやろうって」
「でも、あれは……僕じゃ、ない」
「そりゃそうだろう。鏡ってのは、反転した世界を映すもんじゃないか」
 二人目の少女の姿――よく見れば、左右の反転した少女の姿は、またにんまりと人を化かしたように笑う。
 松明丸が行ったのは、ある種の呪い。
 音を重ねてその意味を広げるように、姿を重ねる――それが人形であれ、鏡であれ――も呪いであれば極普通の手管。
 松明丸は少女と自分を重ねることで、その存在を結び、自身を介して呪いを届けていたのだ。
「さて、夢物語もまだまだ途上。その続きを見せてやろう」
 松明丸が語れば、まるで炎へ揺らぐ景色のように、それだけで少女の視界が朧と滲む。
「やめ、やめろ。やめろ! 僕にそれを見せるな。そんな温かさなんて、僕は知らない!」
 だが、抵抗叶うは言葉のみ。既に松明丸と少女の存在は結ばれているのだ。故に、身体は弛緩し、夢幻への誘いに抗う術などありはしない。
 それになにより、不幸な夢であれば心からの拒否も出来ようが、それが幸せな夢であれば、心のどこかでそれを受け入れてしまうのも致し方のないこと。

「お前さんのその不幸をこそ呪ってやろうか」

 不幸をこそ呪う。それは、彼女の存在の根本を揺らがすこと。
 松明丸の言葉を道標に、少女の思考が奈落の底へと墜ちていく。
 ――掌が柔らかくと頭を撫でる。その手の持ち主を見れば、よく頑張った。と口がその言葉を形作る。心の澱が、解けていく。
 力なく横たわり、眠る少女の横顔から零れた一滴。
「どんな夢を見ているのであろうなあ」
 幸せな夢か、現実離れの夢か。だが、少なくとも、どこぞのかみが与えたであろう救いとは、また違うものを見ているのは間違いない。
 ほろりほろりと零れる雫に、ちょいとばかり脅しが過ぎたか。なんて、松明丸は胸中にて零す。
 化かし、脅かす妖怪も、女の涙には滅法と弱かったのである。
 元の姿で困ったように頬掻けば、少女の姿はいつしか光の粒子へと変わり、蛍火のように宙へと舞い、散っていった。
 もうきっと、彼女の魂にかみさまの手が届くことはないだろう。
 彼女の魂は、幸福の夢へと結ばれたのだから。
大成功 🔵🔵🔵

トリテレイア・ゼロナイン
完璧で最高の自分…ならば、私を打ち倒し証明する必要がありますね

無造作に、緩やかに
UC使用し敵集団に接近
センサーの●情報収集で●見切るは相手の身体能力と挙動に配置

無防備な挙動で攻撃誘導
僅かな足運び、身体の逸らしで躱し
軽いステップとターンで位置をずらし同士討ちも誘発

何故、捉えられないか
それはご自身の力と決断を過信しているから
疑い改めぬ限り私にいいように踊らされますよ

弱体化見逃さず格納銃器展開
近接武装も併用し一掃

…何かに縋りたい
その感情は理解出来ます

多くの命と心を取りこぼし、御伽の騎士でない我が身を幾度も呪った私には

ですがあの力は…あの『天使』はあってはならないモノです

…また、辛い相対となりますね


 完璧の証明とはなにか。最高の証明とはなにか。
 少なくとも、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)にとって、未熟たる己一人も倒せぬでは、そうとは言えまい。
「皆様は私を打ち倒し、それを証明する必要があります」
 そうでなければ、完璧で最高の自分などとはとてもとても。
 ゆるりとした歩調。無造作な足運び。
 一歩、また一歩と少女達との距離を詰めるその姿は、いっそ無防備ともとれるかのような。
「そんな無造作に近寄って、私達じゃ何も出来ないと高を括っているの!?」
「いいえ、そんなことはありません」
 どこまでも真摯なその響きは、トリテレイアのその言葉が真実だと雄弁に語っていた。
 だが、だからこそ、その真摯さが少女らの激情を殊更にと煽るのだ。
「いいわ。かみさまから頂いた力で、あなたをスクラップに変えてあげる!」
 私達は完璧に、何でもこなすのだ。その証明となるのであれば、トリテレイアの一人など、と。
 少女達の声に応えて背後の魔法陣が輝けば、その願いを叶えて理想の自分へと少女達を変えていく。
 姿形こそ変わらないけれど、確かに、その内より感ずる力の圧が増していた。
「そうです。その力で、向かってきてください」
 その変化を前にしても、トリテレイアの姿勢は変わらない。
 ただ悠然と、まるでその身でもって教え導くかのように少女達の動きを待つ。
 ―― 一歩。
 トリテレイアが悠然と踏みしめたそれ。
 少女達が猛然と踏みしめたそれ。
 互いの距離を埋める足取りは違えども、彼我の距離を埋め合うは同じ。
 最早、激突は必至。
 炎上する紙の弾丸が空を裂いて駆け、一拍を置いて少女達の腕が風を裂いて唸りをあげる。
 だが。
「大振りでは当たらず、徒に危険を増やすばかりですよ」
 少女達の掌からするりと逃げ落ちるは白銀の色。
 彼我の距離が埋まる速度から相手の速度を予測して、ほんの僅かと歩調を変えただけ。
 それだけで炎上の弾丸は標的を失い、虚空の先へと流れていく。
 それだけで一拍の間は少女達がトリテレイアを追い詰めるためにではなく、トリテレイアが少女らの動きを視るための時間へと変わる。
 たった一つの動作が全てに繋がり、最小の動きで最大の効果をあげていた。
「私達の教師にでもなったつもり!?」
「確かに、肩書としてはこの学園の教師でもありますが、残念ながら、この学園に所属していない皆様の担当にはなれませんね」
「そうやって、上から言って!」
「……事実を伝えているだけなのですが」
 挟み込むように突撃してくる少女らをステップ一つで受け流し、置き土産と残した足で片方の少女の態勢を崩せば、悲しくも無残な正面衝突が巻き起こる。
 ぎゃん。と悲鳴の一つも上がれば、続く少女達の尻ごみで攻撃の手が止まっていた。
「とは言え、です。仮にも教師の肩書を得ているの以上、指導も仕事の一つでありましょう」
 引いていき、距離を取っていく少女達を前に、トリテレイアは教鞭代わりと人差し指の一つを立て語る。
「何故、皆様は理想の自分となったにも関わらず、私を捉えられないか理解できていますか?」
 反応は、ない。
 捉えきれていないと認めることは、完璧となった自分自身がそうでなかったと認めることに繋がるから。
 その反応なきを想定していたトリテレイアは、それを気にせずと続ける。
「それは、皆様が御自身の力と決断を過信しているからです」
 得た力は強く、大きく。
 しかし、それはただそうであるだけで、それを使いこなす当人がそれに相応しいだけの経験を積んでいなければ、意味もない。
 自転車にしか乗れないようなヒトに、突然とスポーツカーを与えたところで、それを乗りこなせる筈もないのだ。
「その力をそのまま振るって良いか疑い、考え、改めぬ限りは、私にいいように踊らされ続けますよ」
 言葉は変わらずとない。
 だけれど、先の攻防とすら言えぬ一戦が、少女らの脳裏で何度も何度も流れては消える。
 理想を叶えるだけの力を得た筈なのに、完璧になった筈なのに、どうして、傷の一つも付けられなかったのか。
「やっぱり、私達じゃ――」
「駄目よ! それ以上の言葉を発しては! 信じるの、私達を、かみさまを!」
 元より、少女達の心根は他者より自身の悪しき面を捉えやすい。だからこそ、彼女らは不幸少女であり、かみさまに救いを願ったのだ。
 ならば、理想を叶えた筈なのに、それが上手くいかない現状を前とすれば、押し込めた筈の悪癖が顔を覗かせるのも無理からぬこと。
 弱音が零れるを止めようとする声もあったけれど、一度走り出した疑念はもう止まらない。
 揺らぐ、揺らぐ、力が揺らぐ。心の弱きを突かれた力が、揺らいでいく。
 少女達がその力を得た時と同じように、その姿の変化はなかった。だけれど、急速にその内に宿っていた力が萎んでいくのがトリテレイアには分かった。

「口八丁手八丁。騎士を標榜する者として心苦しくはありますが、その心の隙を突かせて頂きます」

 急速な力の変化に付いていけずに忘我する少女達を前として、トリテレイアが展開するは銃火の鎧。
 ガシャリと音立て姿を見せた宇宙時代の刃達は、一斉にその鋭き牙で少女達に喰らい付いていく。
 一人倒れ、二人倒れ、三人倒れ、瞬く間と積み上げるは少女であった者達の骸。
 これが力あるままの彼女らであれば、こうも簡単にはいかなかったことだろう。
 カラカラと弾薬の尽きるを示す音が鳴り響く頃には、少女達の姿は最早講堂のどこにもない。再びと、骸の海の底へと沈んでいったが故に。
「……何かに縋りたい。その感情は理解できます」
 静けさを取り戻した戦場で、トリテレイアは懺悔をするようにぽつりとつぶやく。
「多くの命と心を取りこぼし、御伽の騎士ならぬ我が身を幾度も呪った私には」
 だが、後悔の念こそあれど、そこにはかみさまに願うような想いは何一つとてない。その後悔を含めての、トリテレイアであればこそ。
 緑の光を向けた先で、残された魔法陣の光が淡く輝き続けている。
「ですが、あの力は……あの『天使』はあってはならないモノです」
 空の彼方より救済を謳い続けるかみさまの――天使の姿が、トリテレイアにはもうそこへ見えていた。
「……また、辛い相対となりますね」
 少女達の遺した/喚んだソレとの邂逅は、もう間近。
成功 🔵🔵🔴

オリヴィア・ローゼンタール
想像力は大事です
理想を抱き、それに近付かんと努力するのは素晴らしいこと
ですが、現実に背を向け、耽溺するのは断じて違います!

神を心の支えにするのはいいですが、助力を請うのはお門違いです
天は自ら助くる者を助く
無心で努力し、万全を期し、十全を尽くし、限界を超えた者への最後の一押しなのです
自身の研鑽を捨てた者を神は救いはしない!
もしも応える者あらば――それは悪魔です!

セーラー服の姿のまま
神速の踏み込み(ダッシュ)で間合いを詰め、高く飛び上がる前に翼を斬り落とす
【鏖殺の魔剣】、敵の血を啜った凶刃はその冴えを増し、偽りの蝋翼を次々と斬り捨てていく
蝋翼を騙るならば、その果ての墜落も覚悟の上でしょう?


「お救い下さい、お救い下さい、私達をどうかお救い下さい」
 それは確かに救いを求める声ではあるのだろう。
 だけれど、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)にとっては、その声はただ現実から背を背けるためのもののようにしか聞こえていなかった。
 ――コツリ。
 ローファーの音が講堂に響く。
 それはオリヴィアのモノであったのか。それとも、少女達のモノであったのか。
 だが、互いが互いを認識し合い、向き合ったということだけは確か。
 妖しく輝く魔法陣から零れ出る力が風となり、オリヴィアと少女達の紺色を揺らす。
「想像力を持つことは大事でしょう。理想を抱き、それに近付かんと努力することも、また素晴らしいことです」
 両者の間に流れた沈黙を破ったのは、オリヴィアの声。
 一見すれば、少女達の行動を称えるかのよう。
 しかし、赤のフレームの奥に輝く金色は刃の如くと鋭く。
「ですが、現実に背を背け、耽溺するのは断じて違います!」
 少女らの祈りから受け取た印象を、言の葉の刃は切れ味良くと両断する。
 今でこそ学生のような出で立ちをしてはいるものの、本来のオリヴィアは神に祈り、その徒として迷える者を導く一助となるが使命。
 だからこそ、彼女らの手前勝手な、ひいては、神というものを歪める祈りを許してはおけなかったのだ。
 それが大喝一声を彼女にさせ、講堂へと木霊させていた。
「それはアナタの教義でしょう? 私達の教義ではないわ」
 容赦なき叱咤は少女達の内に反発を生む。
 少女達の方が数に勝るが故に、その年若きが故に、その理屈を認めることが出来ないのだ。
 ざわりと、彼女らの背中で紙が舞う。膨れ上がる敵意を示すかのように。
「いいえ、いいえ。如何なる神であろうとも、その神を心の支えにするのはいいですが、助力を請うのはお門違いなのです」
 敵意を剥き出しとする彼女らを前にしてなお、オリヴィアの瞳に怯えはない。むしろ、彼女らを教え諭すようにと。
「天は自ら助くる者を助く。無心で努力し、万全を期し、十全を尽くし、限界を超えた者への最後の一押しなのです」
 決して、ただ助力を請うただけの者に手を差し伸べることはない。
 研鑽を忘れ、己が救済のみを求める者に応えるものがあるとすれば、それ即ち。

「もしも、もしも研鑽を捨てた者に応える声があるとするならば――それは悪魔です!」

 自らの背中を見るがいい。その背に負うた翼は、果たしてかみの与え給うたモノなのであるかを。
 オリヴィアの言葉が指し示す少女らの背後、その背中より伸びたるは燃ゆる翼。
 それは美しき純白の翼に遠く、神の愛に燃ゆる炎の激しさに遠きもの。ただ、じりじりと黒煙をあげる紙の翼は、自らの身をも破滅に導かんとするかのようなそれ。
「違うわ。これこそ、私達を導いてくださるかみさまの恩寵よ」
「そう、無様に地に転がり、傷を増やすしかなかった私達を助けてくださった力の証」
「私達に理想の世界へと飛び立つ翼を与えてくれたの」
 自らを焦がさんとするそれにも気づかず、少女達はそれを恍惚とした表情で受け入れるのみ。
 気付かないのだろう。気付けないのだろう。それこそがオリヴィアの言う研鑽の証――例え、落第点であろうとも、過去の骸と堕ちる前の少女達自身の努力の結晶であろうとは。
 ぱちり、ぱちり。
 一枚、また一枚と火の粉をあげて、少女達はその背から自らの証を零し続ける。少女達が空に浮かばんと望む代償として。
「悲しきことですね」
「悲しくなんてないわ。むしろ、喜ばしいぐらい」
 それを惜しむオリヴィア。
 それを惜しまぬ少女達。
 価値観の相違は、最早と覆せるものではなかった。
 ならば、これよりは言葉を交わすではなく、威をもって語るが時。

 ――燃ゆる紙が舞う。
 ――地を踏み砕くが如き音が響く。

 その身を絡めとり、燃やさんとする紙吹雪の中、オリヴィアは駆け抜ける。
 舞う紙が視界を遮らんとするその向こう、間隙より少女らが空に羽ばたかんとする姿が見えた。
 天井があるとは言え、高く高くと飛びあがられれば、手の内にて修める刃を得物とするオリヴィアでは些かの不利。
 だからこそ――。
「せめて、その命が業火と包まれる前に引導を渡して差し上げましょう」
 踏みこむ脚の力をより強く。
 ばきり、と。正しく地を――講堂の床を踏み砕き、オリヴィアの身が加速する。
 燃ゆる紙が多少とその身に触れたところで、聖炎の加護篤きオリヴィアの蝕むには些かと火力が足らぬ。その身を燃やし尽くしたければ、三昧真火か天からの火でも持ってくる他ないだろう。
 纏わりつく紙を蹴散らして、炎を蹴散らして、飛び込む少女が一人の懐。
 まさかの正面突破に、少女の顔に驚愕が見えていた。

「禍き凶刃よ、生き血を啜れ――!」

 斬の音すらも響かぬ程に、するりと少女の身を断ち抜けるは魔人の刃。その刃には、紅の一滴とて付くを許さず。
 その勢いのまま剣閃止まぬ一太刀、二太刀、三太刀と闇浮かぶは銀の軌跡。
 オリヴィアが少女らを置き去りとして駆け抜ければ、遅れてばしゃりばたりの崩れる音。
 何が崩れたのかなど、振り返って確認するまでもない。

「蝋翼を騙るならば、その果ての墜落も覚悟の上でしょう?」
 ――ああ、ですが、それすらも、もしかしたらあなた達の望みであったのかもしれませんね。

 己の過去をすら犠牲として、今とは違う場所に辿り着きたかった少女達。
 理想の天上ではなく地の底にて何を思うかは、かみさまでも分からない。それは、彼女らのみぞ知るところ。
 カチン、と。祈りのように刃収まる音が響いた。
成功 🔵🔵🔴


第3章 ボス戦 『ノーズワンコスモス09』

POW ●無気力なる果ての夢
【千切れた自らの羽 】を降らせる事で、戦場全体が【全て満ち足りた理想の世界】と同じ環境に変化する。[全て満ち足りた理想の世界]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD ●全き善なる光
【記憶に刻まれた傷と経験を癒し消す優しい光】【身体に刻まれた傷と鍛錬を癒し消す柔和な光】【心に刻まれた傷と戦意を癒し消す暖かい光】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ ●願いは叶う、何度でも
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【集めた誰かの成し遂げたいとするエネルギー】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は奇鳥・カイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 講堂に満ちるは静寂。
 立ち塞がる少女達を退けた今、猟兵達が魔法陣に近づくを妨げる者はない。
 だが、既にその術式は発動され、少女達との交戦の中、その発動を感じた者もあるであろう。
 誰もが油断なく、ソレの出現へと備え、得物を構え続ける。
「いのりが きこえました」
 そして、静寂の中で響いたは穏やかな声。
 戦場の空気が残る中で聞くには、その声はその場にはまるでそぐわぬ。
 だと言うのに、その声のたった一つが戦場の熱を洗い流すのだ。
 そぐわぬのはその声でなく、その場そのものであるとでも言うかのように。
「ねがいが きこえました」
 魔法陣より零れ出る光は真白く、清廉なるそれ。
 誰もそこから視線を逸らしてなどいなかったのに、気付けば『ソレ』は魔法陣の上に顕れていた。
「あなたがたのねがいは なんでしょう」
 星の輪を戴く『ソレ』。
「わたしは けっしてみすてません」
 四枚の翼を広げた『ソレ』。
「いかなるときも わたしが そばにおります」
 空の彼方、星降る彼方より招きに応じ顕れたは。
「どうか どうか だれもがしあわせでありますように」
 救いの願いによりて顕現するモノ。その名をノーズワンコスモス09。
 全ての願いを満たし、全ての傷を癒さんと、星の輝きと共に降臨を果たしたのだ。

 ――Knows One Cosmos.
 私/宇宙はあなたの願いを聞き届けます。

 夢が、光が、願いが、講堂を満たしていく。
 それに呑み込まれてなおと抗うか、呑み込まれるより早くと転進し反撃の機を窺うか。はたまた、他の手段を取るか。
 猟兵達は――。
カイム・クローバー
へぇ、『誰も見捨てない』ね。随分と殊勝なコトだ。オマケに誰もが幸せであるように、と来たか。――そんなアンタに一つ質問だ。アンタの造る世界でなら人同士の喧嘩や些細な揉め事も起きねぇのか?

起きねぇってんなら、そんな世界は御免だぜ。俺はこんな性格だからよ、多少の揉め事や喧嘩事ってのはいつも付き纏ってくる。
(降ってくる千切れた羽を見ながら)――けどよ。それがキッカケで仲良くなった猟兵の友人なんてのも居てね。ま、要するに『全て満ち足りた世界』なんざ退屈過ぎるって事さ。
UCを発動させ、理想の世界とやらを焼き払うぜ。綺麗すぎる世界は逆に人間の可能性ってやつまで奪っちまう。こんなモン、存在しない方が良いだろ?


 星の輝きが流れ星のように、きらり、きらり。
 誰しも一度はしたことがあるだろう。誰しも一度は耳にしたことがあるだろう。
 流れ星が消えるまでに願い事を三度唱えられたなら、その願いは叶う、と。
 であるならば、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の視界の中で浮かぶ真白き光は、消えることなき流れ星。
 ヒトビトの願いを叶えるために、救いを齎すためにと輝き続ける星なのであろう。
「へぇ、『誰も見捨てない』ね。随分と殊勝なコトだ。オマケに幸せであるように、と来たか」
 確かに、そいつはかみさまだ。なんて、まるで褒めたたえるかのように。
 だが、その言葉とは裏腹、輝きに向けられるカイムの瞳はなお鋭く。
「そうです だからこそ わたしは ここにふってきました」
 幾千、幾万の願いを聞き続けた星の彼方より、その救いの手を齎すためにと。
 ――はらり。
 音にすれば、きっとそんな儚い音が聞こえたことだろう。
 しかし、実際には音もなく、ノーズワンコスモスが大きく広げた翼から千切れ落ちた羽根が宙に舞い踊る。
 ふわり、ひらり、はらり。
 羽根が踊る度、世界が白に満たされる。
 講堂の床は消え、壁は消え、天井は消え、その全てが白に。
 真っ白に染まった世界は上下がなく、依って立つべく大地の感覚すら喪失させる。その浮遊感は、まるで此処が宇宙かのように。
「これがアンタの言う理想の世界の体現か?」
「いいえ これはきっかけです」
「きっかけ?」
「はい このしろいせかいにいろをあたえるのは みなさんです」
 全てが満ち足りるように、いつか見た夢のように。
 誰しもの夢を混ぜて、雑ぜて、交ぜて、理想の世界へと。
 だけれど、それは矛盾を孕むのではないか。ダレカの理想とダレカの理想が必ずしも同じでないように、全ての夢を混ぜれば、そこにあるのはきっと混沌。
 だが、それでもその世界はきっと成り立つことだろう。
 それが夢である限り。誰しもが誰しもの夢に溺れる限り、矛盾などあってないようなもの。

 ――そして、真白き世界に彩が灯る。

 カイムの視界に浮かんだのは、果たしてどんな彩であったのか。
 想い重ね合うダレカの姿か。林檎と桜の佇む和洋館で、煌びやかなリゾートホテルで、錆付いた鉄門の向こうにある洋館で、語り合うダレカの姿か。はたまた、その全てか。どれでもない別のナニカか。
「あなたのしあわせを りそうを ゆめみてください」
 それは確かに溺れたくなるような理想の世界。

「――アンタに一つ質問だ」

 だが、浮かんだ理想を前にしても、紫の瞳はそれに囚われてなどいない。
 纏わりつく幻影を一顧だにせず、鋭き瞳はノーズワンコスモスのみを見据えている。
「それにこたえることが のぞみであれば」
「望みだとかじゃない、単なる確認だ」
「そうですか」
「そうだ。アンタの造る世界でなら、人同士の喧嘩や些細な揉め事も起きねぇのか?」
 その質問の意図をノーズワンコスモスは理解できなかったのだろう。
 二人の間を天使の羽根が数枚、舞い踊っては通り抜けていく。
 その時間を置いて、星の輝きが口を開いた。
「――あなたが それをねがうひとが いるのなら」
 それが理想であれば、この夢の世界ではきっとそうなることであろう。
 そして、そう願わぬヒトがこの世に誰一人としていないという保証はない以上、恐らくは、そうなることもまた確実。
「そろそろ あなたもゆめにしずみましょう そのおだやかなねむりに わたしはよりそいます」
 白を染める彩はより濃く、寄せては返す波のように夢が現実を呑み込んでいく。

「悪いが、そんな世界は御免だぜ」

 だが、引き抜かれた刃の音は、夢の小波を破る音。
 純白に抗うは黒銀なる炎の灯火。
「なぜ ですか」
「俺はこんな性格だからよ、多少の揉め事や喧嘩事ってのはいつも付きまとってくる」
 ――幻影振り切るように刃を滑らせれば、描かれる軌跡の黒銀が夢の世界に爪痕を残す。
「けどよ。それがキッカケで仲良くなった猟兵の友人なんてのも居てね」
 ――世界を染め上げんとする羽根を断つは、先刻の紙の羽根を断つにも似て。
「ま、要するに『全て満ち足りた世界』なんざ退屈すぎるって事さ」
 ――渇望が、理想を喰らっていく。
 衝突なき世界であれば、なかったであろう出会い。
 誰しもが理想に溺れ、他者を顧みない世界であれば、なかったであろう出会い。
 その縁がカイムを現実へと繋いでいた。目の前に広がる理想など色褪せる程に、それよりも余程と彩濃い現実の世界が。
「――殺せるモンは神や化物だけにあらずってな」
 終末の黄昏を握り込む手に力を。
 理想の世界を蹴飛ばして、高く高くと跳んだ宙。
「ねがいを うけいれないのですか」
「綺麗すぎる世界は逆に人間の可能性ってやつまで奪っちまうのさ」
 願いを叶える、救いを与える。
 その行動は確かにその善性へと基づくものなのであろう。だけれど、その行動が必ずしも善きモノになるとは限らないのはカイムの言の通り。
 故に。

「こんなモン、存在しない方が良いだろ?」
 
 ――必滅の刃は夢を裂き、願いの星を斬り裂いたのだ。
 はらり、と天使の羽根が儚く宙に散る。
 だが、それはもうこの世界を白に染めることはなく、自身の血にて赤く染まるのみ。
 その赤こそが、現実への帰還を示すなによりのものであった。
大成功 🔵🔵🔵

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

あー…そういう類、かぁ。
端的にいえばこのカミサマ、「0からプラスに引き上げる」じゃなくて、「現状を全肯定・改変して0を0のまま満足『させてしまう』」のねぇ。
こういうモノを「縋って変わりたかったイカロス」が呼び出すなんて随分と皮肉じゃないの。

ゴールドシーンにお願いしてエオー(前進)とウル(猪突)で強化、全力○ダッシュで一気に○切りこみかけて●滅殺を叩き込むわぁ。至近距離なら成功率がどうのとかの紛れも少ないでしょ。
…生憎だけど。あたし、他人に施された物って基本信用してないのよねぇ。
誰かに理由なく与えられたものは、誰かの気紛れで奪われる…そういうモノでしょ?


 ――はらり。
 その音もなく、宙を舞い散り滑るは白羽根。
 地に落ちる星の輝きが欠片。
 降り積もる度に世界/現実は白く、白く、白く、漂白の彼方。
「あなたのねがいも かなえましょう」
 呑み込み、広がる白は幾人かの猟兵と同じく、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)も、その身の内へと。
 そして、その内に取り込んだ者の理想を反映し、白は様々な彩を帯びていくのだ。
 希望、夢、理想、願い、祈り。
 その様々な彩へと。
「あー……そういう類、かぁ」
 浮かぶ星の輝きと広がる夢の世界を前にして、かの言葉を耳にして、ティオレンシアの顔には納得の色。
 だけれど、それはノーズワンコスモスの言葉へと納得してのものではない。
 広がりつつある夢の世界を前にしても揺るがぬ、醒めたそれ。
「あなたは ゆめをみないのですか」
「そんな訳ないわよぉ」
「なら どうして あなたのゆめは――」

 ――しろいままなのですか。

 誰しも願いや理想というものは大なり小なりあるもので、それを現実に上書きすることこそが、このノーズワンコスモスの力の一端。
 だけれど、様々と彩を帯びていく中で、ティオレンシアの周囲だけは未だに白。
 それを不思議そうに、不可思議そうに、星の輝きは首を傾げるのだ。
「生憎だけど。あたし、他人に施された物って基本信用してないのよねぇ」
 トントンとリズムを刻むように、靴がきちんと履けているかを確認するかのように、その爪先が大地を叩く。
 ティオレンシアからしてみれば、これはごく普通の思考で、何一つとして不思議がることもない。
 誰かに理由なく与えられたものは、誰かの気まぐれで奪われる。
 かつて世界の底から這い上がり、一角の人物にまで大成したティオレンシアであればこそ、その途上でそういった経験も数多としてきたことであろう。故にこそ、その考えが彼女の身体には沁みついていたのだ。
「まあ、あなたの場合は施し以前の問題な気もするけれど」
「どういうことでしょうか」
「訊ねてしまうようじゃ、駄目よぉ」

 ――声は至近。鼻と鼻とが触れ合いそうになる程の至近。

 確かに開いていた彼我の距離は、一拍の間を置かず零へと至っていた。
 それはまるで、ノーズワンコスモスが突如として出現したを再現したにも似て。
 だけれど、それにとて絡繰りはある。
 ティオレンシアの持つペン――それに住まう鉱物生命体に『お願い』して、彼女はその身を強化し、最速最短をもって星の輝きへと肉薄したというだけのこと。

 ――瞼の裏に隠されていた赤と片目の金色とが交わり、見つめ合うは一瞬。

 これ以上の会話は必要ない。なにより、彼女の言葉の意図を読み取れぬでは願いを叶えるなどとてもとても。
 音より速く、ティオレンシアの手が霞む。
 舞い散るは白の羽根ではなく、きらりきらりと弾丸の煌き。
 それを彼女は――。
「ここは戦場で、星の輝きだけでどうにかなると思ってるなら……ちょぉっと甘いんじゃないかしらねぇ?」
 ――勢いのまま、ブッ叩いたのだ。撃鉄を落とすの代わりにと。
 雷管が叩かれて、薬莢の中の火薬が一斉に弾けて踊る。
 ほぼ零距離からのそれを躱す術など、ノーズワンコスモスにはない。いや、零距離でなかったとしても、それに回避が出来たかどうか。
 ――かの身体が衝撃に弾け、羽根が幾度目かと舞った。
 ひらり、はらりと儚く舞い落ちるそれではあるが、自身の赤に染まったそれに現実の世界を上書きするだけの力はない。
 ドサリと音立てたは星の輝きが地に伏せる音で、理想の世界が崩れる音の代わり。
 白が押し退けられ、現実がその下から顔を覗かせ始めていた。

「あなたのそれは0からプラスに引き上げるじゃなくて、現状を全肯定・改変して0を0のまま満足『させてしまう』だけなのよぉ」

 だからこそ、それは施し以前の問題なのだ。
 それはティオレンシアの言う通り、願いを叶えると言うには程遠いシロモノ。
 これが完全な形で召喚されていたノーズワンコスモスであったならどうであったかは不明だが、少なくとも、ティオレンシアを始めとする猟兵達の活動により不完全として召喚されたそれはそうでしかなかった。
 それとも――。
「こういうモノを『縋って変わりたかったイカロス』が呼び出すなんて随分と皮肉じゃないの」
 呼びだした少女達の願いが、あくまでもそうであったからこそなのか。
 だが、どうにせよ、ティオレンシアが都合の良い夢に酔う筈など、最初からあり得る筈がなかったのである。
 現実への帰還――いや、夢見ぬティオレンシアであれば、現実の方が帰還したと言うべきか――は、星の墜落をもって、ここに果たされた。
成功 🔵🔵🔴

トリテレイア・ゼロナイン
機械よりも機械らしい邪神
願望映す『鏡』
…私が変わらぬ限り、アナタの示す物も変わりませんね

間に合わなかった、救えなかった命

そして

オウガに成り果てたアリス
邪神に覚醒した護衛対象の少女
私と同じく英雄の物語に憧れ、その不在に絶望し、吸血鬼に捧げられた己と母を陥れた同胞と世界への復讐の為に『過去』となった男

騎士として『救う』のではなく『殺めた』存在

皆救われた『めでたしめでたし』の世界
戦機の騎士が不在の世界

御伽の騎士が活躍する為の悲劇は
御伽噺の中だけで良いのですから

…難儀な思考回路を得たものです

『めでたしめでたし』は『おしまい』
私の我儘です

だから
『今』を生きる人々の為
騎士として
何度でも

さようなら、私の理想


「どうか どうか だれもがしあわせでありますように」
 その白は現実を塗りつぶし、理想の彩をその上に重ねていく。
 その理想は後悔の、自責の念が強ければ強い程に、強固となりて。
「……私が変わらぬ限り、アナタの示す物も変わりませんね」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の眼前に広がるは、ちぐはぐな世界。継ぎ接ぎの世界。
 そこはアリスラビリンスであった。
 そこはダークセイヴァーであった。
 そこはサムライエンパイアであった。
 そこは――。
 白を彩る景色は様々で、だけれど、共通するものが一つだけ。
 少女が笑い、とある男が母を気遣い歩く姿、赤子あやす母親――様々な、様々なヒトビトの姿。その誰もが、そこに悲観も諦観も、絶望も浮かべず、ただただ日常を謳歌する姿。
 そのヒトビトはトリテレイアにとって、どこかで見覚えのある――否、トリテレイアがトリテレイアである以上、決して忘れることなき者達の姿。
「一度読み取られたのであれば、映し出されてしまったのであれば、再びと同じを見るは当然でしたね」
 トリテレイアにとって、それとの邂逅は既に一度。故に、そうなるであろうことは、それを視てしまうであろうことは、誰よりも自身が理解をしていた。
 身体の傷であれば塞ぐことも叶おう。まして、機械の身たるトリテレイアであれば、部品を取り換えれば跡形もなくと。
 だけれど、心の傷――その記憶領域に刻まれたものは、そうはいかない。
 それを消すということは、トリテレイアの今迄を全て否定することでもあるがために。
 だからこそ、理想の世界を映し出された時、その光景が広がるのは必然と言う他にはなかったのだ。
 何故なら、かの者はノーズワンコスモス。願いを叶える、救済の星。機械よりも機械らしく、相対する者の願望を映し出す鏡であればこそ。
「あなたのねがいは なんでしょう」
 淡々とその声は響く。
 響けば響くほどに、トリテレイアの内なる理想が現実を塗りつぶし、より一層と彩は濃く。
 間に合わなかった命がそこにある。救えなかった命がそこにある。殺めずに済んだ命が、そこにはある。

 ――眩しき光景に手を伸ばさずに済んだは、二度目であればこそ。

 それに、だ。これが二度目である以上、手を伸ばそうとも、その手がこの世界に伸ばせぬこともまた、誰知らずとも己がそれを理解していたから。
「全てが救われた『めでたしめでたし』の世界に、私は……戦機の騎士は在らず」
 それを奪ったのは、それを殺めたのは、それを救えなかったのは、誰あろう、トリテレイアであるが故に。
 実際にはそうではない。そうさせてしまったのは世界で、そうさせてしまったのはオブリビオンで、トリテレイアに全ての非がある訳ではない。
 だけれど、だからこそ、御伽の騎士を標とするからこそ、トリテレイアには己の掌から零れ落ちた命を忘れられない。忘れられよう筈もない。
 こうして、自身がなければ、今も彼ら彼女らは『今』を生きていたのではないかと、夢/理想に観てしまう程に。
「我ながら、難儀な思考回路を得たものです」
 零れ落ちた言葉に宿っていたのは、きっと苦笑。

「ですが、『めでたしめでたし』は、もう『おしまい』」

 この光景は、あくまでも私の我儘だから、と。
 機械の腕を持ち上げて、希薄となった腕を持ち上げて、伸ばす先は理想の光景に――ではなく、数多の戦場を共にと駆けた刃。彼ら彼女らの命を奪った、その刃。
 トリテレイアの怪力であれば本来は感じ得ない筈の、そのずしりとした重さは、きっと現実/信念の重さ。
「私は幾度でもこの刃を振るいましょう。『今』を生きる人々の為。騎士として、何度でも」
 その度に、トリテレイアの電子頭脳――心の奥に降り積もるノイズはあることだろう。だけれど、それでも、と。
 理想に背を向け、現実/天使と向かい合う。
「りそうは そこにあります」
「ええ、その通り。だからこそ、私はこう言いましょう」

 ――さようなら、私の理想。

 この世界において何よりも重たい刃が、薄紙のように景色を切り裂いた。
 現実が、還ってくる。
成功 🔵🔵🔴

天狗火・松明丸
これが此度のかみなるものか
…かみさまとやらも大変だよなあとは、つくづく思う

誰かの祈りと願いに応え、叶えた先が
結局のところ破滅しかねえのなら
お前さん、いったい何の為に
遠いところから降りてきたのやら

この身は妖が故、祈ることも願うことも無い
満ち足りることも、しあわせと云うのもよく解らぬ
すっからかんで、なんにもないのだ

……だが、そうさな
俺でも一つ、望むとすりゃあ
お前さんの驚く顔が見てみたい

火の羽根ひとひら、真白き羽根とは似ても似つかぬ黒焦げと
交換しましょと唆せば、純白を灼く炎に変わる
夢の端まで焼いてゆこう

感情を喰う物の怪の頼みだ
満たしてくれると言うならば
宙を越えて、海の果てまでお帰りよ


 ヒトの願いを聞き届け、ヒトの願いに応え為す。
「……かみさまとやらも大変だよなあ」
 つくづくと。
 ほろりほろりと積もるかみの如き真白き羽根を、その先にある輝きを天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)を見上げながら。
「それで だれかがすくわれるのなら」
「なんとも殊勝な話だ」
 浮かぶ輝きに嘘は視えぬ。
 感情を食む妖怪であればこそ、その言の葉に宿るものに嘘はない、と。
 だが、だ。だがしかし、だ。
「生憎と、この身は妖が故、祈ることも願うこともない」
 松明丸は妖怪化生、ヒトの感情を薪として燃ゆる焔。
 であればこそ、この降り積もる白に覆われた世界――ヒトの理想を彩となす世界に取り込まれる謂れもなし。
「ようかいには のぞみはないのですか」
「そうさなあ……」
 顎に手をあて、ひとしきり。
 松明丸の周囲では、ただただ白の羽根がほろりほろり。彩はつかぬままに、ほろりほろり。
 満ち足りるも、しあわせもよく解らぬ我が身。そも、満たすべき器が、解すべき器が自身にあっただろうか。などと、思考は逸れに逸れ。
 そして、その横道逸れた先に行きつくは。
「ああ。すっからかんで、なんにもない俺だけれど、一つ、望むとするところがあったな」
「そうですか なら、わたしはそれをかなえましょう」
「おお、本当かい?」
「はい ねがいへのみちによりそい てらすがわたしであれば」
 その答えに松明丸は、そうかそうか。とにんまりと笑み。
 その笑みをヒトが見たのであれば、それはきっと警戒なりをしたのだろう。その、ヒト喰うような笑みを見たなら。
 だが、それこそ相手はヒトに非ず。その笑みの意味を解することもなく、警戒することもなく、ただ己の役割を果たさんと。
「そいじゃあ一つ」
 ほろり舞い散る真白き羽根をその掌に。
「わたしのはねが ほしかったのですか」

「――交換しましょ、そうしましょ」

 花一匁の歌に似せ、白の世界がコロリと返った。
 燃えて、燃えて、燃えて、紙が燃ゆる如くと広がる焔。白を食み、理想を食み、感情を食み、瞬く間にと燃え広がる。
「これが あなたののぞみですか」
「ちょいと、お前さんの驚く顔が見てみたくてね」
 燎原の火の如くとはよく言ったもので、その焔を止めるものはこの世界にはない。
 むしろ、かみを燃やすに火はうってつけであり、この世界に満ちる理想/感情が故に焔は良く燃えた。
 理想の果てまで、夢の果てまで、松明丸が語ったように灼熱と反転させながら。
 松明丸の口内に――胸の内に広がる清涼なる白とは程遠い、黒煙の味。
 さて、それはかの輝きの驚いた味であろうか。
「ちょいと苦いな」
「りそうが やけおちていますから」
「そりゃ確かに苦みもするか。こんなに焦げ付いちまってるんじゃあな」
 言葉は淡々と。だが、確かな苦みという味は、それの宿す感情がヒトの感情とはまた違うからこそか。
 すっからかんの器に満ちていく苦みに、松明丸の顔にも苦笑が浮かぶ。
 味わえば味わう程にと苦みを増していくのは、きっとこの世界が燃え尽きかけているからだろう。終わりかけているからだろう。
 ノーズワンコスモスが松明丸の望みを聞いてしまった時から、きっとこうなることは決まっていたのだ。

「なあ、お前さん」

 だから、ここから先の問い掛けは蛇足なのだろうけれど。
「はい なんでしょう」
「誰かの祈りと願いに応え、叶えた先が結局のところこうでしかないのなら――」
 松明丸が指し示すは、燃え広がる世界。
 誰も彼もの願いに応え、最後には自身の破滅をも齎す証。
「――お前さん、いったい何の為に遠い所から降りてきたのやら」
 こうした手前はあるけれど、それが心底からの不思議で松明丸は問うた。
「それはもちろん すくいのために」
 寄り添う果てが、救いの手を差し伸べた果てが、この燃ゆる景色であったとしても。
 願い叶える流れ星とは、大凡にして願い事を言い終わるまでに燃え尽きてしまうであったとしても。
 ――どうか どうか しあわせでありますように。
 それは、どこまでもどこまでも真白の言葉。
 その清涼感が一瞬だけ松明丸の内を吹き抜けて、しかし、それもまたすぐに苦みの中へと埋没していく。
「……かみさまとやらも大変だよなあ」
 もう一度、最初に零した言葉をつくづくと。
 そして、白/理想は現実へとクルリと還った。
成功 🔵🔵🔴

ライカ・ネーベルラーベ
ほしのそらより来るカミサマ、ねぇ……
オマエが、虚ろなわたしの空洞を埋められる力を持っていたとしても、オマエになんか頼ってはやらないよ
「だってサァ!そんなカミサマの玩具に成り下がったら、何のために死んでも生きてきたのかわかんないじゃないかアハハハハハハァー!」

さあ、カミサマを殺そう
それが出来る力は、この手の中にある
たとえ光がぐちゃぐちゃなわたしを漂白するとしても
――この怒りにも似た戦意を消し去ることなど出来やしない

チェーンガンブレードでその身体、ぶった斬ってあげるよ
耳障りな声が聞こえなくなるまでバラバラに刻んであげる!


 理想は脆くも崩れ落ち、しかし、願いの星は己の血に濡れながらも未だと輝きを保つ。
 それが存在理由であるために。それがその機能であるがために。
「ほしのそらより来るカミサマ、ねぇ……」
「わたしじしんが それをなのったことはありませんが そうであってほしいとねがうのなら」
「はは、なら、あの敗残者達はそうでないものに祈ってたって訳。それこそ笑い種じゃないか」
 自分の理想に溺れて、文字通りの藁を掴んだ少女達。浮かぶ瀬もなく、骸の海へと沈んでいった少女達。
 いや、正確に言えば、そこに叩き墜としたのはわたしだったか。なんて、ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)は胸中を零すばかり。

「それじゃあ、カミサマも殺そうか」

 ノーズワンコスモスの自覚がどうあれ、その存在は神の如くであり、その存在はヒトの理想を惑わせる。
 それはこの世界にとっての害悪に他ならず、バラバラに解体するだけの理由に足る。それを為すだけの力が、ライカにはあるのだから。
 ――その手が起動の意図を為せば、ガォンと回転刃が嘶いて。
 手の中で暴れるその震動は、彼女の心そのものか。
「オマエが、虚ろなわたしの空洞を埋められる力を持っていたとしても、オマエなんかには頼ってやらないよ」
 寄り添われるなんて、それこそお断り。
 その拒否を叩きつけるべく、理想の世界から元の形を取り戻した講堂の床を蹴る。
 一歩、二歩、三歩。
 流星の如き勢いは他の誰よりも速く、それだけで星へと手を届かせるには十分で――星の輝きが広がるにも十分であった。
 ――千切れた羽根の為した白とは違う、柔らかな光がライカを照らす。
 それは軽やかに、柔らかにとライカの身を包んで、心を擽って。

 身体が軽い。
 その身の八割を占めた機械の重さから解き放たれたかのように。
 身体が温かい。
 その身の全てに命の証が駆け巡っているかのように。
 心は凪のように。
 記憶の混濁の果て、千々に乱れ続けた心が嘘のように。

 星の輝きに喰らい付かんと振り上げていた刃が、力なくと下ろされる。
 ただほんの少し、力を込めて振り下ろせば、それだけで刃が到達していたであろうに。
「いたみは ありません もう おこらなくていいんです」
 ダレカがナニカを言っている。音は耳に届けども、今のライカには意味として届かず。
 星の光は身体の、心の、記憶の、全ての傷を癒す輝き。そして、同時に、その経験を、その鍛錬を、その戦意を塗りつぶす輝き。
 それを正面から受けたライカであったが故に、その脚が止まるは致し方なき事。
「私、ワタシ、わたし……」
 ライカという存在を塗りつぶした光。
 経験を、鍛錬を、戦意を、真っ新になってしまった彼女は自身を定義できず、動けず。
「そうです おだやかに すこやかに」
 こんなところでなにをしていたのだか、という疑問だけが彼女の内に。それを解決せんとライカが周囲を見れば、誰だか知らない幾人かも、同じように動けずいる様子。

 ――無意識に、生身の指先が胸元に触れた。

 つるりと、ナニカに引っ掛かることもなく指先が滑る。
「……?」
 それは当たり前の筈なのに、何にも引っ掛かることがなかったという事実こそが、ライカの心に引っ掛かる。
 違う、チガウ、ちがう。
 始まりは小さな疑問。しかし、触れれば触れる程にそれは膨れ上がり、『傷』を開く。

「わたしは過去、わたしは残骸、わたしは■■■■――!」

 絶叫が木霊して、静穏を破る。
「なぜ みずからときずつくのですか」
 星の輝きが強まり、再びとその傷を塞ごうとするが、開いた傷はもう塞がらない。
 身体が重い。身体が冷たい。心が荒れる。
 そうだ、それこそがライカ・ネーベルラーベだ。半人半機たる自身だ。
 この程度の光などに――。
「この怒りを、戦意を、完全に消し去れる訳がないだろうがァァァァ!」
 ――屈する彼女ではない。
 流れ落ちる紅。生身が再び機械と代わる激痛。だけれど、ライカの内にて燃え上がる戦意は確か。

「オマエらの玩具に成り下がるなら、何のために死んでも生きてきたのかわかんないじゃないかアハハハハハハァー!」

 哄笑。
 だらりと力なく下がった腕はもうない。その耳障りな声を、輝きを、塗り潰して刃も嗤う。
 そして、今度こそ、その刃は拒絶の意思をもって振り下ろされた。
 頼んでもないのに勝手に寄り添ってるんじゃない、と叩きつけるように。
成功 🔵🔵🔴

フィーナ・ステラガーデン
オリヴィア(f04296)と合流

何突然出てきて自分が与えるものは全部正しいみたいな顔してんのよ?
いい?願いっていうのは与えられるもんじゃなくて勝ち取るもんなのよ!

邪神の元へ向かうオリヴィアを援護する為に後ろから火球を放つわ!
でも敵のUCによってこっちの攻撃は当たらない、敵の攻撃は当たる状況になりそうね!

あんたの顔を見たらまたイライラしてきたわ!生憎私は負けず嫌いなのよ!
私の攻撃が当たらないなら、UCをオリヴィアと邪神が重なるように直線に撃つわ!
光から炎でオリヴィアを守るように、斬り込めるように道を作るわ!
仲間を信じるってのはあんたみたいな奴には死んでもわかんないでしょーね!!
(アドリブ大歓迎)


オリヴィア・ローゼンタール
フィーナさん(f03500)と合流

荘厳かつ神秘的……なるほど、只人ならばその威容に畏れ慄き、神と見紛うでしょう
だが、その在り方はまさしく人の願いを貪る悪魔――!

セーラー服のまま
斬撃を叩き込もうと駆ける
私が前衛を務めます!

害意とは異なる意思で放たれる光
故に悪意を避ける見切りが通用しない
記憶が、鍛錬が、カタチを喪い、泥のように溶け落ちて――

――まだだ!(因果超越・永劫の勇士)
これまで積み重ねてきた全てを消し去って幸福だと?
ナメるなよ。私は、私と私を取り巻く全てを手放さない

フィーナさんと視線による無言の意思疎通
燃え盛る黒炎を突っ切って、渾身の力で斬り裂く


 どこかで見た金色だと思っていた。
 どこかで見た銀色だと思っていた。
「どうしたのよ、その格好」
「ええ、まあ、学園に潜入するにはと思いまして。そちらも同じでは?」
「まあね!」
 燃え落ちる理想の外で遭遇したは、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)とオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)が両人。互いが互いに見慣れぬ衣服に目を丸くして。
「でも、これも奇遇ってやつね!」
「そうですね。フィーナさんが居てくれるのなら、心強いことは間違いありません」
「ふふん、頼ってくれて大丈夫よ……って言うのも、今更よね」
「ふふっ、そうかもしれません」
 偶然にせよ、必然にせよ、共闘をすること幾度。
 今更と互いに距離を推し量り合う必要もなし。

 ――焼け落ちた理想の中から顕れるは、紅の滴零す星の輝き。

 それは二人を照らすように、周囲の誰をも照らすように、未だ輝きを失わず燦然と。
「すくいは あったとおもったのですが」
 焼け焦げ、切り裂かれた羽根の残骸。
 見せた理想に間違いはなかった筈なのに、とそれを不思議そうに眺めて。
 それ自体が間違いであったという事実に気付かぬ姿は、猟兵の心に波紋を立てる。
「あんた!」
「はい」
「何? 自分が与えるものは全部正しいみたいなつもり?」
「あなたたちのねがいどおりでは あったはずです」
「……なるほど。只人ならば、それを神と見紛うことでしょう。ただし、都合の良い、と付きますが」
「わたしじしんが それをなのったことはありませんが そうであってほしいとねがうのなら」
「いいえ、いいえ。少なくとも、私はそれを神とは言いません」
「では なんと」
「人の願いを貪り、弄ぶその在り様をこそ、悪魔と言うのです!」
「そうね! それに願いってのは本来、与えられるもんじゃないわ! 勝ち取るもんなのよ!」
「では わたしにむけていのられた あまたのねがいとはなんなのでしょう」
「そんなもん、私が知る訳ないでしょ! 空の彼方だなんて遠くに居すぎて、空耳でもしたんじゃない?」
 与えられる願いへの決別をここに。否定をここに。
 ――ガォンと近くで誰かの嘶き響けば、一番槍の影が跳ぶ。
「私が前衛を務めます!」
「ええ、任せたわ。その分、援護は大盤振る舞いしてあげる!」
 その影に後れを取らぬと、オリヴィアが紺を翻して講堂を駆ける。フィーナの杖より生じた紅蓮を伴って。
 ノーズワンコスモスがヒトならざるとは言っても、一度に二回と動けるだけの俊敏さはない。ならば、対処出来るは斬撃か紅蓮かのどちらかにだけ。残す片方は止められなどしない。
 ――本来であれば、だが。
 オリヴィアを包んでいた筈の紅蓮が、なんの前触れもなく掻き消えた。
「はぁ!?」
 フィーナの驚きの声も無理からぬ。
 必滅を期して放ったそれが、何の所作もなくと打ち破られたのだから。まるで、最初からそれ自体がなかったかのようにと。
 だが、そうであったとしても、オリヴィアの足は今更と止まりはしない。何かしらの絡繰りがあるのだとしても、それごと踏み越えるのみ、と。

 銀閃が宙に軌跡を描き――それを塗りつぶして輝きが広がった。

「オリヴィ……!」
 声すらも輝きの中に溶け消えて、オリヴィアの耳にはもう何も届かない。
 ――どろり。
 脳裏に焼き付いた悲劇/記憶が溶けた。
 ――どろり。
 身に刻んだ傷痕/鍛錬が溶けた。
 ――どろり。
 心に根付かせた信仰/戦意が溶けた。
 ――どろり、どろり、どろり。
 必死に形を保とうとするけれど、泥の如くとなったそれは掌をすり抜け、零れ落ちていく。
 オリヴィアをオリヴィアたらしめる全てが跡形もなくと。
 それは星の輝きが放つ善意の光。傷を癒す光。
 苦しまぬように。健やかであるように。平穏であるように。
 そう願ってのもの。そういう願いが、多くと捧げられていたからのもの。
 故にこそ、そこには悪意というものはなく、ただただ善意だけがある。
 だが、それが例え善き意思から齎されるものであったとしても、傷の根本――その記憶や鍛錬、戦意をすら溶かす。自我を確立させる全てを失ったヒトがどうなるかなど、想像するまでもない。
 ――そこにあるのは、魂宿さぬ人形と同じ。
「くるしまぬように すこやかであるように へいおんであるように」
 星の輝きは輝きの中で謳い続ける。
 ――ならば、全てを失う前に、せめて。

「オリヴィア! オリヴィア! しっかりしなさい!」
 棒立ちとなったオリヴィアを視界に納め、フィーナはしきりにとその名を呼ぶ。
 だが、返答はない。
 正気を失っているのは明白であり、輝きが原因であることもまた。
 故にこそ、フィーナも幾度とその紅蓮を放ちはするけれど、それは何度したところで始まりに同じ。
 害意は星の輝きに届くことはなく、掻き消えるのみ。
「あなたも へいおんのうちに」
「ふざっけんじゃないわよ! 寝かしつけなんていらないっての!」
 だが、輝きを止める術はなくフィーナもまた、其れに包まれ――。
「……あれ?」
 意識を失うことは無かった。いや、光が何かに遮られたと言うべきか。
 ――大丈夫です。
 輝きの中に、どこか見知ったオーラの彩がきらり。聞こえた声は果たして幻聴の類か。
 だが、そのオーラは閉じられた翼の如くと確かにフィーナを包み込み、善意の光が彼女の身を侵すを妨げる壁の如く。
 何であるかは、最早考えるまでもない。
「ああ、もう! 生憎と私は負けず嫌いなのよ!」
 やられっぱなしも性に合わなければ、借りの作りっぱなしも同じくと。
 まわせ、回せ、廻せ、思考を誰よりも何よりも。
 ――光の特性と性質を脳裏に刻み、己に刻んだ手の内を顧み、下した結論に戦意を燃やす。
「光ごと、燃やす!」
 くるくると回転した思考の導き出した答え。
 其れは紅蓮とは異なる漆黒。全てを呑み込む黒い炎。
「善意! 清廉潔白! 上等よ! その片っ端から蹴り飛ばしてあげるわ!」
 杖の先に生じたそれを差し向ければ、奔る黒炎が軌跡を描く。
 だが、ノーズワンコスモスに差し向けるでは、先の繰り返しと消えるだけなのではないか。
 ――否。
「オリヴィア!」
 それは、その名の主を取り戻すための。
 フィーナを守る輝きのように、その炎がオリヴィアを取り囲み、壁となる。
 光が、遮られた。

 ――どろ、り。
 溶け落ちる感覚が止む。
「オリヴィア!」
 響いた己の名を呼ぶ声が、此度こそはとその耳へと飛び込んだ。
 そして、心に広がるは熱。どろりと溶けたそれを燃やし、固めるための熱。
 それを受け取ってなお、立ち止まり続けるが許されるであろうか。いや、許さぬ。なにより、『オリヴィア』自身が。
「まだ、だ……」
「どうして きずつこうとするのですか」
「これまで、これまで培ってきた、全てを、消し去って幸福だなどと」
 まだ舌が上手く回らない。
 だけれど、だけれども、これだけは伝えねばなるまい。

「――ナメるなよ!」

 手に力を。足に力を。
 星の輝きでは、泥臭くもヒトの力が為したそれを止める事は出来ない。
「あんたみたいな奴には死んでもわかんないでしょーね! 仲間を信じるってのは!! 足掻くっていうのは!!」
 フィーナの黒炎は光を呑み続け。
「私は、私と私を取り巻く全てを手放さない」
 それの生み出した道をオリヴィアはのそりと進む。
 そして、限界を超えた先でオリヴィアの重き一刀が、黒炎の加護と共に振り抜かれる。
 輝きが、喪われていく。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

花房・英
人間なんて、ひとつの枠にはめられやしないだろ
みんな好き嫌いだって違うんだし
誰かの幸福が誰かの不幸ってこともあるんじゃねぇの?
『見捨てない』、『誰もが幸せに』なんて。耳障りのいい言葉だけど……俺には歪んで聞こえる
心から望んだ気持ちとか寄る辺なさから縋る気持ち、別に否定はしないけど
願いを叶えるために、誰もが幸せになるために。どれだけの代償がいるんだろうな

あんたは答えを知ってるか?
尋ねながらもUC主体で攻撃
誰もが幸せに、なんて言いながら他人の成し遂げたいって願いを自分のために使ってんのな

モヤモヤしたやりどころの無い気持ち、どうしたらいいんだろうな


 見捨てない。誰もが幸せに。
 その言葉の耳障りは良いものだ。
 だけれど。
「誰かの幸福が誰かの不幸ってこともあるんじゃねぇの?」
 その矛盾は、花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)の内にて、モヤリモヤリと。
 ヒトは一人ではない。十人十色の言葉がある通り、十人あれば十人が違うであろう。
 それをたったひとつの幸福という型に嵌め込むなど、土台無理な話。
 英自身が語ったように、誰かの幸福は誰かの不幸で在り得ること。だからこそ、英にはノーズワンコスモスの言葉が心に引っ掛かって呑み下せなかった。
 理想の世界であるのならそれも可能ではあろうけれど、それは既に燃え尽きて、ここはもう現実だからなおさらに。
 故に、英は星に問うたのだ。その矛盾をこそ。
「だれもがしあわせには なれるはずです」
「どうして言える?」
「わたしは すべてをみすてません」
 誰かの幸福で誰かが不幸になるのなら、その不幸になった誰かの願いも叶えればいい。それでまた誰かが不幸になるのなら、また、また、また。
 それは永劫に続くであろう螺旋。
 見捨てないとは、それに付き合い続けることを言うのであろう。
「歪んでるな、それは」
「それでも こうふくをいだくことはできます」
「……俺は心から望んだ気持ちとか、寄る辺なさから縋る気持ちとか、そういうのは別に否定はしない」
「はい」
「だけれど、その願いを叶えるために、誰もが幸せになるために、どれだけの代償がいるなろうな」
 幸福と不幸のシーソーゲーム。
 その均衡が叶うまでに、いったいどれだけの嘆きがこの世に生まれるであろう。
 それをすら救いあげると星は言うけれど、一度生まれた嘆きを癒すのは生半可なことではない。
 それを英は身を持って知っている。未だと、一歩を踏み出す怖さがあることを知っている。
 心に刻まれた傷はいつまでもじくじくと痛み続け、血を流し続け、忘れさせてはくれないのだ、と。
「――ああ、そうか」
 不意に、腑に落ちた。
「だからこその、さっきの光か」
 他の猟兵達を包んだ光。全き善なる光。
 それは傷を癒すものであり、その対象は身体だけでなく、記憶にすら、心にすら作用して。
 そして、その代償こそが経験であり、鍛錬であり、戦意であり、つまり、その人を形作る全て。
 不幸になるのは他人と比べるから。他人と比べるべき自分を失えば、そもそもとして不幸も幸福もありはしない。
 幸福の願いを叶えると共に、不幸の傷を癒し続ければ、それはきっと、確かに、全てを救えることだろう。
「そんなの御免だけどな」
 だけれど、それを救済となど、英は呼びたくなどない。
「代償の答え合わせは、それでよかったか?」
 星の輝きは何も答えない。
 ただ、英が目の前の存在から感じた歪さの答えが、そこには出ていた。

 ――蝶の羽ばたきがはたり、はたり。

 感情と言う名の蜜に誘われて、電子の蝶が舞い遊ぶ。
「やっぱり、あんたはかみさまじゃない。立派な邪神だよ」
 矛盾の願いの果てには、きっと平穏が広がっていることだろう。
 ただし、そこにはもうヒトという存在はいないのかもしれない。ということを除けば。
「誰もが幸せに。なんて言いながら、結局のところはそうなんだな」
 その在り様は、行動理由は、確かに善であったとしても、それから齎されるものが善であるとは限らない。
 やはり、オブリビオンはオブリビオンであり、世界を滅ぼす要因そのもの。
 はたり、はたりと蝶が星へと群がっていく。
 本来であればその羽ばたきが星に届くことはなかったのだろうけれど、集められた学生の願いが不十分である中で、更には猟兵達との戦いの中での消耗が、それを届かせていた。

 もやり、もやり。
 解は出たというのに、心の雲は晴れることもなし。
「……どうしたらいいんだろうな」
 やりきれなさ。救われなさ。様々な想いが心の裡にて交差する。だが、もうその願いを叶える、応えるかみさまはもう居ない。
 だが、どうしたらいい。と言いつつ、その解もまたとうに出ているのだ。あとはその一歩を踏み出すだけ。
 だから、英はそっとこの場を後にする。その想いを零せるであろう誰かさんのところへと向けて。ただ、素直にありのまま零すかどうかは、英次第であるけれど。
成功 🔵🔵🔴

シャト・フランチェスカ
🔴白い長髪
左の眼窩から桜が咲きこぼれ
右目は赤く
嫣然と微笑む無垢な狂気

みんなの願いを叶えてくれるなんて
あなたはすごいのね

ところでそれは矛盾しないの?
ある人が「争いたくない」と言い
ある人が「争いたい」と言ったなら
どんな望みが叶えられるのかしら
それとも世界が分岐してしまうのかしら
滅べと願えばみーんな滅びるのかしら

私は欲張りだからなんでも欲しくなってしまうわ
ねえ、「みんな」の中に
「かみさま」は含まれている?
かみさまの願いを叶えるのは誰なのかって
ずっと気になっていたの

ねえ聞いて!
私はかみさまが欲しい!
蹂躙してしまいたい!
それからそれから
私がかみさまになることもできるのかしら!
ねえ、叶えてくれるよね?


「みんなの願いを叶えてくれるなんて、あなたはすごいのね」
 白い髪が夜に踊り、桜の花びらはいっそ無邪気に舞い踊る。だけれど、その顔に残った右目の色は赤。空浮かぶ狂気の月如き、真っ赤な。
 その姿こそ、シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)。これまでの蕭然たるとではなく、嫣然たると微笑むこそは。
「それが わたしへのねがいならば」
 誰をも幸せへと。
 対峙するシャトともう一人を眺め、見据える輝き欠けた星。
「すごいわね、すごいわね」
 シャトは童子もかくやと囃し立て。

「――ところで、それは矛盾しないの?」

 微笑みの裏に隠した刃を突き立てる。
 ノーズワンコスモスは言ったのだ。
 見捨てない、と。誰もが幸せでありますように、と。
 だが、それは現実で叶えるにはあまりにも荒唐無稽で、矛盾に満ちている。
「むじゅんは しません だれもがしあわせには なれるはずです」
「そうなの?」
「わたしは すべてをみすてません」
 隣の誰かと同じ疑問符。故に、同じ答え。
「なら、ある人が『争いたくない』と言い、ある人が『争いたい』と言ったなら、どちらの望みが叶えられるのかしら」
 それは当然の問いであろう。
 誰しもの願いを叶えるというのなら、その矛盾した願いでも叶えねば理に適わぬ。だけれど、それを両方共叶えるということは、どちらかの幸福が奪われることに他ならず、見捨てたことになるのではないか、と。
「それとも、物語のように世界が分岐してしまうのかしら」
 栞を挟んであちらこちら。アドベンチャーブックのように右往左往。14へ行けとなるのか。それとも、それ以外へ行くことになるのか。
「ああ、もしかしたら、滅べと願われてみーんな滅びるのかしら」
 二の句も告げさせぬ言の刃の濁流。
 ざくりざぷりと星の言葉をバラして、流して。
「ねえ、どうしよう? 私は欲張りだから何でも欲しくなってしまうわ」
 その結末も、どの結末も。
 だが、未来への選択肢は数多とあれども、選び取れる未来はただの一つのみ。
 だからこそ、その欲深きを叶えるために、シャトは文豪でもあるのかもしれない。
 その結末も、どの結末も、その筆を執り、現実の如くと綴ればいいのだから。

 ――インク滴る羽ペンが数多と周囲に浮かぶ。

 どう書こう。ああ書こう。そう書こう。
 二つの腕では足らぬから、シャトが思い描く空想を書き留めるには足らぬから。
 最早、矛盾についての指摘は二の次で、思い描いたそれを得ることが第一で。
 ああ、だが、とても大切なことを忘れていた。
「ねえ、『みんな』の中に『かみさま』は含まれている?」
「わたしに ねがいはありません ただ だれをものねがいをすくうだけです」
「そうなんだ。かみさまの願いを叶えるのは誰なのかって、ずっと気になっていたの」
 ノーズワンコスモスはみんな、みんなと言うけれど、なら、その当人のことはどうなのだろう。
 文字を、物語を、結末を描くには、それはとても大切なこと。
 何故なら、シャトにとってはかみさまもまた、結末へと至るための登場人物の一人であるからこそ。
「なら聞いて!」
「はい」
「私はかみさまが欲しい! 蹂躙してしまいたい!」
 いっそ艶やかに桜は綻び、狂気に揺れた。
「それからそれから、私がかみさまになることもできるかしら!」
 滴るインク、羽ペンの鋒が星へと向けられる。
 その肉の一片、骨の一欠けら、血の一滴すらを蹂躙/理解し、己が内に取り込まんとするように。
 そうすることで、より生きたかみさまが書けるのだ、と。自分自身がかみさまとなったように書けるのだ、と言うように。

「ねえ、叶えてくれるよね?」

 答えは返らぬ。そも、答えなど聞いてはおらぬ。
 そう問いかけた時には、もうその鋒が餐の時とばかりに星の輝きへと殺到していたから。
 ノーズワンコスモスにも守りはあれど、不十分な召喚の上に他の猟兵達との戦いが消耗を加速させていた。故に、シャトの狂念を防ぎ切ることなど不可能。
 インクの代わりに、ポタリと血の色が零れ落ち、床に広がっていく。
 だが、その名残も魔法のように消え去って、そして、誰も居なくなった。
 かみさまへの願いは、もう届くことはないだろう。
 ――いや、もしかすれば、どこかの文豪が気儘と筆執った時、彼女の書く物語の中だけで、その姿には触れることが出来るのかもしれないけれど。
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年09月17日
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴