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魔狼が守護せしは医獄の地底都市

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #番犬の紋章 #地底都市

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「あらぁ、今日はどうされましたか~?」

 太陽はおろか、月や星の光さえ届かぬ、はるかな地の底にて。
 蠱惑的な衣装と笑顔をした女吸血鬼の甘ったるい声が響いた。

「娘が、熱を出して……昨日から咳も止まらなくて……」
「あらあら、それは大変ですね~。すぐに診てあげましょう~」

 対面するのは一組の母娘。襤褸切れのような薄汚い衣服を纏い、今にも折れてしまいそうなほどに痩せ衰え、媚びへつらうような振る舞いと恐怖の色が表情に染み付いている。
 その様子は、この地の底の都市を支配するものが誰であるのかを如実に表わしていた。

「それじゃあ、まずは採血しますね~」
「きっと風邪だと思いますけど、念の為にお薬も出しておきましょう~」

 吸血鬼の看護師は慣れた様子で病に罹った子供の容態を確認し、注射器の針を刺す。真っ当な治療のようにも見えるが、実態は真逆。血を採り過ぎれば患者は弱り、薬は過ぎたれば毒となる。彼女達の行動はすべて、人々をゆっくりと蝕んでいく死の処方箋である。

「大丈夫。すぐに良くなりますよ~。治療費だって取ったりしません~」
「心配しないでくださいね~。それとも、私達の腕が信用できませんか~?」
「い、いえ、そんなことは……ヴァンパイアの皆様のご温情に感謝致します……」

 医療の知識のない人々も薄々は気付いているだろうが、他に頼れるものはない。「怪我や病気になった人がいればすぐに診せるように」と吸血鬼が言えば、それがこの都市における絶対の法なのだ。

「ここに居ればみんな安全に暮らせるんですよ~」
「外から何かがやって来ても、番犬が守ってくれますからね~」

 残酷に笑う女吸血鬼の視線のはるか先、地上と地底を結ぶ門の前には一頭の狼がいた。
 首輪のような「何か」を首筋に寄生させた、灰毛の魔狼。かの者はこの地底都市に侵入するものを阻む最強の番犬にして、都市と外界を閉ざすものでもあった。

「グルルルルルルル……」

 番犬として使役される魔狼は、彼方を見つめながら静かな唸り声を上げる。
 今宵も、その次の宵も、また次も。地底都市には終わらぬ絶望が繰り返される。


「辺境伯の紋章の調査に成果がありました。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「近頃、ダークセイヴァーでは上位のヴァンパイアから『辺境伯の紋章』なるものを与えられたオブリビオンが人類の生存圏を脅かす事件が多発しています。この『辺境伯』を撃破したところ、確保された『紋章』から新たな敵の拠点を予知することができました」
 ダークセイヴァーの各地にある広大な「地底空洞」の中に築かれた巨大な地底都市。そこには地上世界との交流を絶たれた人々と共に、数多くの吸血鬼が生息していたのだ。

「リムが予知した『地底都市』は、ほとんど地上と変わらない環境が作られています。都市を支配するのは『ヴァンパイアナース』と呼ばれる下級の吸血鬼達で、都市に暮らす人間達はみな彼女らの餌であり玩具に過ぎません」
 吸血鬼の中でも医療を専門とするヴァンパイアナースは、看護と称した非人道的な医療活動で人々を苦しめることを好む。閉鎖された地底都市で怪我や病にかかれば否応なく彼女らの世話になる他になく、助けを請いながら「治療」によってじわじわと弱っていく患者の姿を見ることを、彼女らは何よりの悦びとしているのだ。
「都市の人間は誰も地底から出たことがなく、地上の存在すら知りません。皆、ここで吸血鬼に虐げられながら暮らしていくことを、当たり前のことだと思ってしまっています」
 だが、このヴァンパイアナース達も、真なる支配者の手下に過ぎない。予知によれば辺境伯に『紋章』を与えた者達は、地上世界に加えて地底都市の数々をも版図としながら、自らはさらなる地下深くに居座っているらしい。

「絶望の下にいる人々を救うためにも、さらなる深層への手がかりを得るためにも、地底都市の攻略は急務だとリムは考えます」
 幸いにも医療専門であるヴァンパイアナース達は戦闘においてはそれほどの脅威ではない。だが戦いが苦手であるにも関わらず、彼女らが地底都市の支配者たりえているのは、武勇の欠如を補える強大な『門番』が居るからだ。
「地底都市の入り口には『暴威をふるうもの』と呼ばれる一頭の雌狼のオブリビオンがいます。対話や説得に応じる事はなく、都市に近付く者があれば持てる力の全てを破壊に用い、行く手を阻んでくるでしょう」
 元は暴風のようにダークセイヴァー各地に出没し、村や砦を食い荒らしてきたという恐るべき魔獣だが、いかにしてか現在は地底都市の『番犬』として使役されており、その首元には首輪のように、不気味な触手と宝石の体を持つ虫型オブリビオンが寄生している。
「これは『番犬の紋章』と言って、『辺境伯の紋章』と同様に宿主を強化するオブリビオンです。しかしこの紋章によって強化された『暴威をふるうもの』の力は、辺境伯の比ではありません」
 地上世界の領主達が猟兵以上に警戒する「同族殺し」でさえ、この魔狼にかかれば一噛みで屠れる雑魚も同然。たとえ猟兵が死力を尽くして戦っても、傷一つ付けられるかどうかさえ怪しいほどの、恐るべき手練である。加えて対話には応じないものの人語を理解するほどの知性もあり、ただの獣のように罠に嵌められるような相手でもない。

「唯一の勝機は『番犬の紋章』です。これは宿主を強化するものであると同時に弱点でもあり、これに対する攻撃だけが唯一、魔狼にまともなダメージを与える手段になります」
 極めて強大な力で地上を脅かした辺境伯を、さらに凌駕する地底の番犬――しかし裏を返せば、この『暴威をふるうもの』さえ撃破すれば地底都市の防備は丸裸も同然となる。

「番犬を撃破して地底都市に突入できれば、その先の攻略は大分楽になるはずです」
 都市内にいるのは戦闘力においては『暴威をふるうもの』とは比べるまでもない、非力なヴァンパイアナースばかり。ひとつ派手に暴れて敵を倒しまくってやれば、これまで彼女らに虐げられていた都市の人間達も勇気づけられることだろう。
「地底都市の攻略に成功した後のことについては、住人達の身柄は幾つかの『人類砦』が受け入れを表明してくれています。彼らに事情を説明して説得し、地上に移動するための手助けをお願いします」
 あまりもたもたしていれば、異変を察知した他の地底都市から増援がやって来てしまう。隷属を絶対とされた環境で悪に虐げられ、心身共に傷ついた民衆に、闇に負けない希望の光を示し、地上へと誘わなければならない。
「様々な困難が予想される依頼ですが、皆様なら可能だとリムは信じています」
 リミティアは信頼の眼差しで猟兵達をまっすぐに見つめながらそう語ると、手のひらにグリモアを浮かべ、恐るべき番犬と医の吸血鬼が待ちうける地底都市への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、悪辣なヴァンパイアに支配された地底都市の攻略と、住人達の救出が目的となります。

 第一章では地底都市の門番である『暴威をふるうもの』との戦闘になります。
 戦場は広大な地底空洞の内部となり、存分に暴れられるだけのスペースと、ダークセイヴァーの地上と変わらない最低限の光源(地底に自生する光る苔によるものです)は確保されています。
 ですが寄生虫型オブリビオン『番犬の紋章』によって強化された『暴威をふるうもの』は恐ろしく強大で、紋章以外への攻撃はほとんどダメージを与えられません。
 当然、攻撃面においても苛烈を極めるため油断は命取りとなります。どうか全力で挑んでいただきたく思います。

 無事に番犬を撃破できれば、第二章は地底都市内部での集団戦です。
 死の医療で人々を虐げる「ヴァンパイアナース」は悪辣ですが戦闘力は高くありません。隷属させられていた人々に希望を示すためにも、派手な活躍を見せつつ戦えば、その後の展開が有利になります。

 敵を殲滅し都市を攻略すれば、第三章では住民の救助活動を行います。
 地上についての説明と説得はもちろんのこと、心身ともに傷ついた彼らが無事に地上まで辿り着けるように手助けをしてあげてください。
 地底都市の住民の受け入れについては、地上世界各地の「人類砦」が担当します。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『暴威をふるうもの』

POW   :    アッシュ・ローズ
単純で重い【粉塵と鋭い砂礫を広範囲にまき散らす爪】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    赤月の残響
【出血と聴覚異常をもたらす魔性の咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    永遠の断絶
全身を【敵を斬り刻み攻撃を阻む漆黒の旋風】で覆い、自身が敵から受けた【あらゆる行動(治療行為含む)】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リグ・アシュリーズです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジュリア・ホワイト
最初に倒すべきは最大の難敵か
確かに、理に適っているね
寄生型オブリビオンによって強化された魔狼、恐ろしいプレッシャーだよ

「だがね、どんなものにも弱点はあり――弱点が分かっているなら全力でそこを突き続ける。戦いの秘訣さ」

敵は距離を取ろうが動き回ろうが回避不能の咆哮で攻撃してくるか
なら、こちらは攻撃のポジショニングに専念できるというものさ

【裁きの一撃は天より来る】で弱点だという首の寄生虫を狙い撃とう
血が出ようが、耳が聞こえなくなろうが……見えてさえいれば、撃ち抜くのに支障はない!
「ちょっと体中が痛いぐらいで!ヒーローが諦めると思わないことだね!」



「最初に倒すべきは最大の難敵か。確かに、理に適っているね」
 月の光さえ届かぬ地下の大空洞で、ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)は心臓を射抜かれるような殺気を肌に感じていた。地の底に築かれたヴァンパイアの秘密都市、その城門を守るは強大なる魔狼の番犬――『暴威をふるうもの』。
「寄生型オブリビオンによって強化された魔狼、恐ろしいプレッシャーだよ」
 前進突破を常とするジュリアでさえ、それ以上先に進むことは本能が一瞬の躊躇を感じさせた。地底都市という重要拠点を守るために、上位の吸血鬼から絶大な強化を授けられたオブリビオン――その実力は、尋常の手段では一矢報いることさえ敵わないだろう。

「だがね、どんなものにも弱点はあり――弱点が分かっているなら全力でそこを突き続ける。戦いの秘訣さ」

 警鐘を鳴らす踏切を踏み越えるような気持ちで、ジュリアは力強く一歩を踏み出した。
 その瞬間、闇の奥から灰色の瞳を煌めかせて、『暴威をふるうもの』が咆哮を上げる。
「ウオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!!」
 大気が震え、地面が揺れる。音の爆弾とでも言うべき物理的衝撃を伴った魔性の咆哮は、地底都市に近付くものを無差別に破壊する。それが『番人の紋章』にて強化されたユーベルコード【赤月の残響】の威力だった。

「敵は回避不能の咆哮で攻撃してくるか」
 距離を取ろうが動き回ろうが、"音"そのものを武器とした攻撃にさほどの意味はない。
 ジュリアの全身からは刃物で切り刻まれたように血が流れ、聴覚は正常な機能を失う。
 鼓膜と共に三半規管にもダメージを負ったか、平衡感覚を失った身体はふらりとよろめき――グッ、と両脚に力を込めて踏みとどまる。
「なら、こちらは攻撃のポジショニングに専念できるというものさ」
 彼女が構えるのは黒い大型拳銃サイズの精霊銃『No.4』。適切な射撃姿勢を取り、圧縮蒸気のエネルギーをチャージする――望むはただ一撃、一発の銃弾で、敵の唯一の弱点だという『番犬の紋章』を狙い撃つために。

「血が出ようが、耳が聞こえなくなろうが……見えてさえいれば、撃ち抜くのに支障はない!」
 闇の中でも目を凝らせばはっきりと見える。魔狼の首元に取り付いた、ブローチ大の寄生虫型オブリビオンが。首輪のようにピッタリと絡みついたまま動かないソレに、全ての集中力を注いで照準を安定させる。
「――――――!!!!!!!」
 魔性の咆哮はなおも激しさを増す。だがジュリアにはもうそれが聞こえていなかった。
 鼓膜が破れた耳からは止めどなく血が流れていく。聞こえるのは自分の身体の中から響く心臓の音だけ。限りなく無音に近い世界で、筆舌に尽くしがたい激痛に苛まれながら――それでも彼女は、握りしめた銃把を決して手放さない。

「ちょっと体中が痛いぐらいで! ヒーローが諦めると思わないことだね!」

 この先に、救けを待っている人がいるのなら。ヒーロー・オーバードライブは立ちはだかる全ての悪(ヴィラン)を突破し駆けつけよう。それがヒーローとしての矜持ゆえに。
 チャージ完了、【裁きの一撃は天より来る】――『No.4』より放たれし閃光が地底を照らす。それは狙い過たず『暴威をふるうもの』の首筋の、『番犬の紋章』を撃ち抜いた。
「グオゥッ!!!?」
 魔性の咆哮に代わって魔狼の口から上ったのは苦痛の悲鳴。ジュリアがありったけの蒸気を籠めた銃撃を、正確に弱点に撃ち込まれたのだ。何者であろうと無事では済まない。
「ここは通して貰うよ……必ずね!」
 血まみれの姿で、なおも精霊銃を握ったまま、ヒーローは改めて宣戦布告する。
 暗黒の地底都市から人々を救い出すための戦いは、まだ始まったばかりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
この闇の世界にも、少しずつだけど、光が見えて来ました
…みんなにも見せてあげたいな
外を知らないまま、絶望の地下で一生を終えるなんて、絶対勿体無いもん

紋章へ一撃与えられればいい
それだけで充分な力が、『with』にはあるから【重量攻撃】【鎧無視攻撃】
…信じてるからね。『with』。

UC発動
攻撃の機会を逃さないために、距離は取らず地上で戦う【勇気】
出血は焔が塞いでくれるから問題ない
聴覚には最初から頼らない
相手から絶対に目を逸らさずに動きを予測し
回避できる時は反応速度で回避
難しければ受け止め【武器受け】
少ないチャンスを絶対逃さない【カウンター】

近接戦は私の唯一の取り柄…負ける訳にはいかないんです【覚悟】



「この闇の世界にも、少しずつだけど、光が見えて来ました」
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)がぽつりと口にしたのは、ダークセイヴァーの地上世界のこと。彼女を含めた多くの猟兵の尽力によって、絶望に堕ちるのを待つばかりだった世界には『闇の救済者達』や『人類砦』といった希望の萌芽が生まれ始めている。
「……みんなにも見せてあげたいな。外を知らないまま、絶望の地下で一生を終えるなんて、絶対勿体無いもん」
 今はまだ太陽の輝きには届かないけれど、多くの人々の手によって紡がれてきた希望を、彼らにも――旅人は最愛の恋人である大剣『with』を手に、地底都市の番犬に挑む。

(紋章へ一撃与えられればいい。それだけで充分な力が、『with』にはあるから)
 愛剣に対する無限大の信頼を支えに、結希は【緋色の翼】を広げる。煌々と燃え盛る炎の双翼は地下空洞を照らし、その奥に立ちはだかる魔狼をはっきりと浮かび上がらせる。
「……信じてるからね。『with』」
 剣に囁きかけながら前に出る彼女の髪は白く、瞳は赤く、真の姿へと近付いていき――竦まず近付いてくる新たな敵に、『暴威をふるうもの』は【赤月の残響】を解き放った。

『グオオオオォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!』

 地下空洞に反響し、増幅し、襲い掛かる音の衝撃波。『番人の紋章』により強化されたユーベルコードの攻撃範囲から逃れるのは容易ではなく――こちらの攻撃機会を逃さないためにも、結希はあえて地上で距離を取らずに戦うことを選択した。
(出血は焔が塞いでくれるから問題ない。聴覚には最初から頼らない)
 音波に全身を切り刻まれながらも、鮮血と火の粉を噴き上げて猛進する。聴覚に異常をきたし、魔性の咆哮が聞こえなくなっても、相手からは絶対に目を逸らさず魔剣を握る。
 咆哮だけでは止められないと悟ったか、『暴威をふるうもの』は灰毛に覆われた前脚を振り上げ、ナイフのような爪で敵を引き裂かんとする。だがその動きを予測していた結希はユーベルコードで強化された反応速度を以て、紙一重のタイミングで攻撃を回避する。

「近接戦は私の唯一の取り柄……負ける訳にはいかないんです」
 ここで遅れを取るようなら、どのみち退いたところで勝機はない。処刑台に足を踏み出すような心地で、凄まじい殺気と暴威に晒されながら、それでも最前線で斬り結ぶ結希。
 避けきれない攻撃は『with』の刀身を盾にして受け止める。そのたびに衝撃が骨身に響き、時が経過するにつれて真の姿の力を不完全ながら引き出している負荷が身体を蝕む。
 だが――呼吸すら満足にできないほどの緊張と苦痛の連続の中でも、彼女は絶対に弱音を吐かない。両手で握りしめた最愛のひとの手応えが、このひとと一緒なら絶対に負けないという自信が、折れぬ信念となってあらゆる負荷を抑え込む。

「希望を結ぶ為の、私の想い」
 絶望がたゆたう地の底で、闇を焼き払い、希望を導くために、結希はさらに前に出る。
 魔狼の爪が肌をかすめていった刹那、一瞬だけ斬り込む隙が生まれる――その数少ない攻撃のチャンスを、彼女は決して見逃さなかった。
「『with』……お願い!」
 万感の思いを込めて剣を振るうと、焔に包まれた刀身が真白く染まる。その一撃は過たず『暴威をふるうもの』の首筋に寄生する『番犬の紋章』を捉え、そして斬り裂いた。

「グガアッ!!!!」
 剣の重さと使い手の想いを乗せた渾身の斬撃を受け、魔狼はたまらず吹き飛ばされる。
 対する結希も格上相手との真っ向勝負が祟り、相当のダメージを負っている――だがそれでも、彼女の口元にはやりきった笑みが浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
悪趣味な魔狼ですね。
早く排除しましょうか。

【第六感】と【野性の勘】で敵の動きや攻撃を【見切り】、回避を。
粉塵と砂礫は【オーラ防御】で防いでいきます。

攻撃回数重視の【Lux desire】を【全力魔法】【スナイパー】で番犬の紋章のみを狙ってピンポイントで狙い撃っていきます。

仮に敵が近くに来た時は回避からのフィーネやオラトリオによる【カウンター】で番犬の紋章を斬り裂いてしまいましょう。

必要に応じてアマービレで呼んだねこさん達にお願いして、こちらの攻撃を当てやすくするように魔法による【援護射撃】をしてもらうのです。

辺境伯を超える力を与える紋章、ですか。
多分、更に上の紋章もあるのでしょうね……



「悪趣味な魔狼ですね」
 医を弄ぶ吸血鬼が支配する地底都市、その番犬として立ち塞がる『暴威をふるうもの』に対して、七那原・望(封印されし果実・f04836)は嫌悪感を隠そうともしなかった。
「早く排除しましょうか」
 黄金に輝く勝利の果実「真核・ユニゾン」を手に、オラトリオの証たる翼で宙を舞う。
 その双眸は目隠しに覆われていても、対峙する敵の気配は見落としようがない――戦いで傷を負った魔狼はなおも激しい殺気を放ち、その爪を力強く振るった。

「ガウッ!!」
 並みの領主レベルならば一振りで屠れよう、剛爪による【アッシュ・ローズ】。引き裂かれた大地から大量の粉塵と砂礫がまき散らされ、空中にいる望の元にまで襲い掛かる。
 望の第六感と野生の勘が全力で警鐘を鳴らす。咄嗟にオーラの防壁を張りながら身を翻しても、ナイフのように鋭い砂礫が数発、彼女の肌と翼を切り裂いた。
「これが辺境伯を上回るという力……誇張は無さそうですね」
 崩れかけたバランスを空中で立て直しながら、敵の力量を改めて実感する。
 だが幼くとも彼女も猟兵、ここに来て怖気付くような軟な気性はしていない。

「全ての望みを束ねて……!」
 望が真核・ユニゾンに力を込めると、地下空洞を埋め尽くさんばかりの膨大な光の奔流が放たれ、『暴威をふるうもの』に降り注ぐ。果実に詰まった願望のエネルギーを解放する【Lux desire】――その光条は全て魔狼の首にいる『番犬の紋章』のみを狙っている。
「グルル……ッ」
 魔狼はその巨体に見合わぬ俊敏な挙動で身を躱すが、スペースの限られた地下で、手数を重視した攻撃の全てを避けきることは叶わなかった。幾つかの光条が首筋の寄生虫を射抜き、そのたびに狼の口から低い唸り声が漏れる。

「ねこさん達も力を貸してください」
 望は果実より光を放ち続けながら、鈴のついた白いタクト「共達・アマービレ」を振って魔法猫の群れを呼び出した。少女の友達である猫たちはそのお願いに「にゃぁん」と可愛らしく一声鳴くと、魔法による援護射撃で彼女の戦いを支援する。
「ガゥ……ッ!」
 猫の魔法に魔狼の防御力を超えられるほどの威力はない。だが少しでも動きを牽制できれば、そのぶん望の攻撃がピンポイントに『紋章』に当たりやすくなる。光と魔法による波状攻撃を受け、『暴威をふるうもの』の身体には着実にダメージが重なりつつあった。

「ウオォォォォッ!!」
 だが敵も防戦一方に収まるような手合いではない。粉塵と砂礫を撒いて猫を追い散らし、大地を抉りながら疾走する。その先にいる望には、かの魔狼の牙が自分の喉笛を噛み千切ろうとしているのがはっきりと予測できた。
「一度でも直撃すれば致命傷でしょう。ですが……」
 傷ついた翼を羽ばたかせ、全神経を研ぎ澄ませて攻撃を躱す。そして回避の際に互いが交錯する一瞬に、取り出したのはアネモネの花咲く純白の大鎌――「罪華・フィーネ」。
「近付いてきてくれるのなら、隙が出来るのです」
 刹那、三日月のような軌跡を描いて、真白き刃が魔狼の『番犬の紋章』を切り裂いた。

「ギャウッ!!!?」
 首筋――正確には紋章から血を噴き出しながら、悲鳴を上げる『暴威をふるうもの』。
 紙一重のカウンターに成功した望は小さく息を吐くと、油断なくフィーネを構え直す。
「辺境伯を超える力を与える紋章、ですか。多分、更に上の紋章もあるのでしょうね……」
 今だ底知れぬ吸血鬼勢の全貌。果たしてこの番犬を突破した先に何が待っているのか。
 先を見据える少女の思考は、すでにこの地底都市のさらに奥深くに向けられていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

カビパン・カピパン
「トリッピー。倒してきて」
『向こうはケルベロス、こちらは種のない西瓜って感じですわ』
くだらない漫才していると狼にバレた。

「私以外はどうなってもいい、私だけは助けて!」
しかし、甲高く吠える狼の様子がおかしい。
『これ、相棒に発情しているとちゃいまっか』
御年22歳にして初めて惚れられた相手が、オブリビオンでしかも雌だなんて悲しすぎる。

「愛は受け取れないわ…猫派だし」
愛を受け入れないなら、無理矢理にでもと言わんばかりで狼が襲い掛かってきた。複雑な愛をテーマに絡み合うカビパンたち。

『今や!』
その隙を狙って、トリッピーが弾丸のような速度で急降下し、番犬の紋章をハンティング。魚鷹の名に恥じない攻撃をした。



「トリッピー。倒してきて」
『向こうはケルベロス、こちらは種のない西瓜って感じですわ』
 猟兵が地底都市の番犬と激しい戦いを繰り広げている最中、カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)は相方のトリッピーとくだらない漫才を繰り広げていた。
 ここがヴァンパイアの支配する地の底の領域だろうとも、彼女のマイペースさに変わりはない。どんな地獄でもハリセン片手にボケ散らかし、ギャグの世界を作り出すのがカビパン流である――とは言えそれを敵が見逃してくれるかどうかは、また別の問題だが。

『なあ相棒、狼はんがこっち見とるで』
 トリッピーに言われてカビパンが振り返ってみれば、刺し貫くような視線を向ける『暴威をふるうもの』と目が合った。流石にあれだけ呑気に漫才を続けていればバレもする。
「私以外はどうなってもいい、私だけは助けて!」
「ウオオォォォォンッ!」
 ものすごく身勝手なカビパンの命乞いは、甲高い魔狼の吠え声によってかき消された。
 しかし何やら様子がおかしい。敵はこれまでのように即座に襲い掛かってくるのではなく、彼女のことをまるで観察するようにじっと見つめている。

『これ、相棒に発情しているとちゃいまっか』
 『暴威をふるうもの』の異変を、トリッピーはそう解釈する。まさかまさかの結論に、さしものカビパンも若干ショックを受けた顔をして、すごく嫌そうな調子でぼやいた。
「御年22歳にして初めて惚れられた相手が、オブリビオンでしかも雌だなんて悲しすぎるんですけど」
 実際のところ、これまでダークセイヴァーの各地で破壊の限りを続けてきた魔狼が、突然愛に目覚めた可能性は低いような気もする。戦闘中に無意味なようにしか見えない不審な行動を取り続けるカビパン達の真意を読めず、警戒しているというのが妥当な筋にも思えるが――言葉の通じない狼と人間では、互いの気持ちは勝手に解釈するほかないのだ。

「愛は受け取れないわ……猫派だし」
「グルルルル……ッ」
 申し訳なさそうに謝罪すると『暴威をふるうもの』は全身を漆黒の旋風で覆い、低い唸り声を上げて襲い掛かってきた。愛を受け入れないなら、無理矢理にでも――殺意に染まった狼の瞳が、そう言っているようにカビパンには感じられた。
「ごめんなさい!」
 【永遠の断絶】を纏った魔狼と「女神のハリセン」を振るうカビパン。【ハリセンで叩かずにはいられない女】の力で戦場がギャグ時空と化したことで、両者の間にある実力差は縮み、複雑な愛をテーマに絡み合うふたり(カビパン視点)の戦いが繰り広げられる。

『今や!』
 その隙を狙って、トリッピーが弾丸のような速度で上空から急降下。その鋭いクチバシを突き出して、『暴威をふるうもの』の首筋に寄生した『番犬の紋章』をハンティング。
「ギャウンッ?!」
 思わぬ横槍を入れられた魔狼は甲高い声を上げてたじろぎ、つつかれた紋章から血が吹き出す。魚鷹の名に恥じない攻撃をしたトリッピーは「どや?」と言いたげな態度で飛び去っていき、その間にカビパンは全速力で愛の押し売りから逃げ出したのだった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

エウロペ・マリウス
厳しい戦いになりそうだね
極力、他の猟兵と共闘したいところだけれど……はてさて
どうなることやら

行動 WIZ

ご親切に敵は番犬
ボクに存分に敵意を存分に向けてくれそうだね
犬故に動きが速そうだし、漆黒の旋風を纏っている状態
その中で1点を狙って攻撃を与えるのは至難の業だね
ならば
ボクがとるべき手段は、これ、かな
【空中浮遊】と【空中戦】で、相手との距離をとって

「揺り椅子の哲学者よ。施行せざる力は崩れ、理は偽りへ成り果てた。故に傲慢を以て、その権威を標せ。愚者の磔刑(プレヘンデレ・カウサ)」

戦闘に絶対は無い
だから、拘束が上手くいっても油断せずに
【属性攻撃】の氷属性による火力強化しつつ、【誘導弾】で紋章を狙い撃つ


フレミア・レイブラッド
相変わらずこの世界のヴァンパイア達はロクでもないわね…。
吸血鬼に飼われる犬コロが…わたし達の邪魔をするんじゃないわよ!

【吸血姫の覚醒】発動。
強敵な上、弱点が限られているという事で、隙を作り最大のチャンスに一撃に全力を込めて攻撃。

覚醒の魔力によると凍結の魔弾【属性攻撃、高速・多重詠唱、全力魔法、誘導弾】連射でダメージを与えられなくても外皮で凍結させて動きを止め、更にその上から【念動力】で二重拘束。
敵の動きを封じた隙を突いて、全力で魔槍を紋章に【串刺し】にし、串刺し状態で全魔力を集束した【限界突破、力溜め】【神槍グングニル】を発動し、零距離から消し飛ばすわ!


番犬風情が…!
真祖の姫を舐めるな…っ!!



「厳しい戦いになりそうだね」
 雪のように白い翼を羽ばたかせ、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)は戦いの推移を観察していた。猟兵達は善戦しているものの、地底都市の番犬たる『暴威をふるうもの』はやはり強大であり、一筋縄では打倒できないであろうことが分かる。
「極力、他の猟兵と共闘したいところだけれど……はてさて、どうなることやら」
 戦場を見回してみると、丁度1人、紅い槍を構えた金髪の女性が魔狼に向かっていくのが見えた。そろそろ自分も動くべき頃合いだろうと、エウロペは氷の結晶を意匠化したエレメンタルロッド「コキュートス」を手に、前線へと赴く。

「相変わらずこの世界のヴァンパイア達はロクでもないわね……」
 一方、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は苦虫を噛み潰したように顔をしかめながら、吸血鬼連中の所業に憤りを感じていた。希望を知らぬ人々が弄ばれ続ける絶望の地底都市――そんな場所を見過ごしておく理由があるはずもない。
 都市の門を守るのは、漆黒の旋風を纏った魔狼『暴威をふるうもの』。番犬の紋章によって強化されたその力は肌で実感できるが、そんなものに彼女は恐れを抱きはしない。

「吸血鬼に飼われる犬コロが……わたし達の邪魔をするんじゃないわよ!」
 激情を高らかに叫びながら、フレミアは【吸血姫の覚醒】を発動。その身から解き放たれた魔力は戦場を紅く照らし、今だ幼さを残していた容姿は17~8歳程に成長を遂げる。
 これが真祖の血統に連なる吸血姫の真の力。その莫大な魔力を彼女は囁くような詠唱で練り上げ、絶対零度に迫ろうかという冷気を帯びた、凍結の魔弾に変えて撃ち放つ。
「グルル……ッ!!」
 魔弾は的確に『暴威をふるうもの』を捉えるが、しかし真祖の魔力を以てしても、さしたるダメージは与えられていないようだった。攻撃を受けたことで【永遠の断絶】の旋風は勢いを増し、さらに力を増した魔狼の爪が、お返しとばかりにフレミアに襲い掛かる。

「く……っ」
 背中から生えた4対の翼を翻し、辛くもその一撃から逃れるフレミア。しかし空を切った剛爪はそのまま大地を深々と引き裂き、粉塵と鋭い砂礫を周囲にまき散らす。それは至近距離にいたフレミアのみならず、その後方にいたエウロペにまで襲い掛かった。
「やはり見逃してはくれないか。賢い狼だね」
 目の前の敵を意識しながらも、魔狼は周囲の警戒も怠ってはいない。飛行の高度を上げて塵礫を回避しつつ、氷姫は射殺すような鋭い敵意と殺気が向けられているのを感じた。

「まだよ!」
 他方、近距離から砂礫を浴びたフレミアは魔槍「ドラグ・グングニル」の柄を回転させてそれを防ぎながら、なおも凍結の魔弾を連射する。強敵な上、弱点が限られているのも承知の上。ダメージの通らない攻撃を彼女が続けるのには確固たる作戦があった。
「ガルルッ」
 魔狼は黒風の残像を描きながら戦場を駆け、魔弾の嵐を凌ぎながらなおも爪を振るう。
 幾つかの命中弾はあっても、それは分厚い毛皮と外皮によって阻まれ、骨身には届かない。その戦いは一方的にも思われたが、しかし実際には僅かな変化が起こり始めていた。

「犬故に動きが速いし、漆黒の旋風を纏っている状態。その中で1点を狙って攻撃を与えるのは至難の業だね」
 その変化に気付いたのはエウロペだった。『暴威をふるうもの』の名の通りに暴れ回る狼の外皮が、何度も魔弾を浴びせられたことで凍結し、動きが少しずつ鈍りだしている。
 この強敵を打倒するのに必要なのは、弱点である『番犬の紋章』に攻撃を叩き込むための隙を作ること。フレミアも、そしてエウロペも、ふたりの考えは一致していた。
「ならば。ボクがとるべき手段は、これ、かな」
 距離を取ってもなおひしひしと感じる敵の殺気を受けながら、氷姫は杖を掲げる。
 清浄なる白の魔力をその身から放ち、虚空に呼びかけるような調子で呪文を紡ぐ。

「揺り椅子の哲学者よ。施行せざる力は崩れ、理は偽りへ成り果てた。故に傲慢を以て、その権威を標せ」
 冷気と共に現れるのは、凍りついた青薔薇に彩られた鎌を持つ死神。氷の姫を守護せんとするように傍らに寄り添ったそれは、『暴威をふるうもの』に冷たい殺気を送り返す。
 ご親切にも存分にエウロペに敵意を向けてくれた魔狼に対し、この死神は決して容赦をしない。振りかぶった鎌の軌跡から、数え切れないほどの楔型の十字架が放たれる。

「愚者の磔刑(プレヘンデレ・カウサ)」

 上空より降り注いだ十字架の嵐は、標的の四肢を大地に縫い止め、磔にする。
 凍結により動きの鈍っていた魔狼は、その攻撃を避けることができなかった。
「グルルル……ッ!?」
 驚いたような唸り声を上げる『暴威をふるうもの』。彼女は四肢に力を込めて楔を引き抜こうとするが、それよりも一拍早く、今度は見えない力の鎖がその巨躯を縛り上げた。
「捕まえたわよ……!」
 それはフレミアが得意とする念動力。覚醒に伴ってその効力も大幅に強化されている。
 凍結、磔刑、そして念動による三重拘束によって、暴威の魔狼はついに動きを止めた。

(戦闘に絶対は無い。だから、拘束が上手くいっても油断せずに)
 恐らくは二度と無いであろう、この好機を確実にものにせんと、エウロペは持てる魔力を杖先に集束し、己が得意とする氷属性の魔弾に変えて放つ。その照準は言うまでもない、魔狼に有効打を与えうる唯一の弱点――首筋に寄生した『番犬の紋章』だ。
「闇を穿つ射手がつがえしは白銀の矢 白き薔薇を持たぬ愚者を射貫く顎となれ」
 誘導効果を付与し強化された【射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)】は、過たず紋章を狙い撃つ。極寒の冷気が傷から体内に浸透し、魔狼が苦しげな声を上げた。

「グ、ガゥ……ッ!!」
「まだ終わりじゃないわ……!」
 白銀の魔弾に射抜かれた『暴威をふるうもの』に追撃を重ねるはフレミア。真祖の魔力により燃えるように赫々と輝く「ドラグ・グングニル」の穂先が、紋章を串刺しにする。
 二人がかりで作りだした最大のチャンス、これっぽっちの戦果で終わらせるつもりはない。彼女は紋章を突き刺したまま、持てる全ての魔力を魔槍に集束させ、神すらも屠る必滅の槍――【神槍グングニル】を発動した。

「番犬風情が……! 真祖の姫を舐めるな……っ!!」

 己が矜持と全身全霊を込め、限界を超えたフレミアの零距離からの一撃。目も眩むほどの真紅の閃光が、巨大な槍となって『暴威をふるうもの』を貫き――そして吹き飛ばす。
「グガアアアァァァァァァァァッ!!!!!?!」
 地下空洞に反響する魔狼の絶叫は、かの者が受けたダメージの大きさを物語るもの。
 強大なる地底都市の守護者は、猟兵達の猛攻によって徐々に後退を強いられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
… まさか、地下に吸血鬼達の世界が広がっていたなんて…

…道理でいくら地上を探っても大物に辿り着けなかった訳ね

UCを発動し"怪力、御使い、韋駄天、動物会話、狩人、生命吸収"の呪詛を付与
●サバイバルの狩猟知識と●動物と話す力を戦闘知識に加え、
魔狼の殺気や言葉から行動を先読みして攻撃を見切り、
命中する箇所を●オーラで防御している隙に回避する

…術式換装、獣狩り…!

…っ、流石に強い。だけど獣なら動きは読めるわ…!

敵の咆哮は"風精の霊衣"に魔力を溜めて中和して、
第六感が隙を捉えたら早業の●ダッシュで懐に切り込み、
紋章を狙い大鎌で突き刺し●生命力を吸収し、
●怪力任せに大鎌をなぎ払い傷口を抉る2回攻撃を行う



「……まさか、地下に吸血鬼達の世界が広がっていたなんて……」
 そう呟いたのはリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。ダークセイヴァーの各地で数え切れないほどの吸血鬼を狩ってきた彼女にも、地の底に潜むヴァンパイアの都市の存在までは思いもよらなかったようだ。
「……道理でいくら地上を探っても大物に辿り着けなかった訳ね」
 しかし今、秘密のヴェールはついに暴かれた。この地底都市を解放したさらにその奥に『紋章』を与えるほどの上位のヴァンパイアがいる――ならば、挑まない理由は皆無だ。

「ガルルルル……ッ!!」
 無論、その道行きに立ちはだかる『暴威をふるうもの』は、易々と通してはくれない。
 主人より『番犬の紋章』を与えられしかの魔狼は、射殺すような殺気の籠もった眼でリーヴァルディを睨め付けると、耳をつんざく魔性の咆哮を上げた。
「ウオオォォォォォンッ!!!」
「……術式換装、獣狩り……!」
 敵の殺気から攻撃の予兆を感じ取ったリーヴァルディは【吸血鬼狩りの業・千変の型】を発動。装束に施した呪詛の性質を瞬時に更新し、獣と戦うのに適した型に切り替える。
 それにより展開された"風精の霊衣"は、音波を遮断するオーラの障壁となって【赤月の残響】の威力を中和するが――それでも、直接ではないにせよ音の衝撃波を受けた頭は耳鳴りがするし、身体からはナイフで切りつけられたようにじわりと血が滲みだす。

「……っ、流石に強い。だけど獣なら動きは読めるわ……!」
 咆哮を放った直後に飛び掛かってくる魔狼の動きを、リーヴァルディは察知していた。
 狩猟を始めとしたサバイバルの技術を強化する"狩人"に、獣の言葉を理解する"動物会話"。その他にも「黎明礼装」に施された数々の術式が正確な敵の行動予測を可能にする。
「グルルルッ!!」
 ただ漫然と防御するだけでは、この魔狼の猛攻は凌げまい。攻撃が命中する箇所にオーラを集中させ、障壁が爪牙を食い止めている隙に身を躱す。先読みを誤れば無防備に八つ裂きにされかねないリスクもあるが、地力の差を埋めるにはこれが最善の戦法だった。

「……狙うはただ一つ」
 敵の首に寄生した『番犬の紋章』をきっと睨みすえ、反撃に転じるチャンスを窺うリーヴァルディ。嵐のような『暴威をふるうもの』の攻勢にも、決して隙がないわけでは無い――剛爪が振るわれた直後に生じる僅かな間隙を、彼女の第六感は捉え損なわなかった。
「……ここで番犬と遊んでいる暇はないの。その首輪、狩らせてもらうわ……!」
 "韋駄天の呪詛"により強化された踏み込みにより、疾風のごとく魔狼の懐に切り込む。
 その手で振るうは漆黒の大鎌"過去を刻むもの"。数多のオブリビオンを刈り取ってきたその刃は狙い過たず、『番犬の紋章』に突き刺さった。

「グルゥゥッ?!」
 忌まわしき吸血鬼の牙のごとく、魔狼の首筋に突き刺さった大鎌の刃は"生命吸収の呪詛"によってその生命を吸い上げる。苦悶に喘ぐ魔狼がそれを引き抜く隙を、リーヴァルディは与えなかった。
「……押し切る……!」
 "怪力の呪詛"による身体強化を全開にして、力任せに大鎌をなぎ払う。深々と抉られた傷からは洪水のように血が溢れ出し、『番犬の紋章』には大きな裂傷が刻みつけられた。
 持てる術式の数々を駆使したリーヴァルディの戦技。人の知恵と技術の結晶ともいえるその業は恐るべき魔獣の暴威をも制して、さらなる出血と後退を強いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシア・アークライト
あの同族殺しを一噛みで屠れるだなんて、まったく出鱈目な強さね
でも、その先に虐げられている人達がいるって言うんなら……やるしかないわよね

番犬の紋章――
番犬に相応しい力を与える一方で、その心をも番犬に堕とすみたいね
だって、貴方よりずっと弱い奴らが都市の中で愉しんでいるっていうのに、貴方はここで独り寂しく待ちぼうけ
それを何とも思わないなら、“番犬”と呼ぶしかないわよね?

3層の力場を情報収集用に展開し、敵の動きを把握
残りの力場を防御用に展開し、自分や味方への攻撃を防ぐ

敵が飛び掛かってきたなら、UCを発動
ゆっくりと流れる時間の中で力場を攻撃用に集約し、紋章の効果や概念ごと破砕するように叩きつける


カタリナ・エスペランサ
次の大物は番犬か、望むところだね
ヒトを虐げる吸血鬼の尖兵。仕留める理由には十分だ

ダガー二振りを《武器改造》し屠竜刀に再錬成、【閃紅散華】発動。《ダッシュ》で《切り込み・先制攻撃》を仕掛けよう
敵の攻撃は《第六感+戦闘知識》の直感と理論を組み合わせ《見切り》、《空中戦》で機動力をフル活用して対処。咆哮は《破魔+カウンター》で空気の振動ごと断ち斬りダメージを殺す

纏う紅雷は調律の権能。自己《ハッキング》により《ドーピング+限界突破》、聴覚異常も回復させ《継戦能力》を維持するよ
織り交ぜる羽弾の《零距離射撃+爆撃》は牽制。《早業+怪力+属性攻撃+鎧砕き》を更に強化、斬撃と蹴技の連撃を紋章に叩き込んでいこう



「あの同族殺しを一噛みで屠れるだなんて、まったく出鱈目な強さね」
 おそらくは地上世界のオブリビオンのほとんどを凌駕するであろう、地下世界の番犬『暴威をふるうもの』――その規格外の実力と圧倒的な暴威を、アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は今、まざまざと目の当たりにしていた。
「でも、その先に虐げられている人達がいるって言うんなら……やるしかないわよね」
 激闘繰り広げられる戦場でも、彼女の見据えるのは今だ城門の閉ざされた地底都市。
 一片の希望さえも知らぬまま絶望に苛まれる人々を救うために、彼女は一歩前に出る。

「ガルルルルル……ッ」
 都市に迫る者に気付いた『暴威をふるうもの』は、低い唸り声を上げて敵を威嚇する。
 並大抵の人間であれば、それだけで心臓が止まるような殺気。しかしアレクシアは怯むことなく、むしろ口元には挑発的な笑みを浮かべて、目の前の魔狼に言い放った。
「番犬の紋章――番犬に相応しい力を与える一方で、その心をも番犬に堕とすみたいね」
 魔狼の殺気がさらに強まる。首筋にじわりと冷や汗がつたうも、彼女は強気な態度を断固として変えず――念動力による力場をゆっくりと戦場に広げながら、挑発を続ける。
「だって、貴方よりずっと弱い奴らが都市の中で愉しんでいるっていうのに、貴方はここで独り寂しく待ちぼうけ。それを何とも思わないなら、"番犬"と呼ぶしかないわよね?」
「グルルルルル……ッ!!!」
 人語を解するだけの知性のある魔狼は、その侮辱に憤ったように牙を剥き出しにする。
 しかし怒りに任せた爪牙が振り下ろされるよりも一瞬早く。紅い雷光が地下空洞を翔け抜け、目にも留まらぬ速さで魔狼の懐に切り込んだ。

「次の大物は番犬か、望むところだね」
 その閃光の正体はカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)。【閃紅散華】による紅雷で全身を覆い、速度を飛躍的に強化した彼女の手には、愛用のダガー二振りを改造再錬成した大振りな屠竜刀が握られている。
「ヒトを虐げる吸血鬼の尖兵。仕留める理由には十分だ」
 完全に敵の機先を制したその斬撃は、過たず敵の『番犬の紋章』に一筋の刀傷を刻む。
 唯一の弱点に傷を付けられ、『暴威をふるうもの』の表情が怒りと苦痛に歪む。膨れ上がった膨大な殺気は、全てを吹き飛ばす魔性の咆哮となって爆発した。

「ウオオォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!」
 戦場に轟く【赤月の残響】は物理的な威力を伴った衝撃波となり、周囲にいる者を無差別攻撃する。カタリナは直感と理論の組み合わせによってその反撃を予期していたが、強化された彼女の機動力を以てしても、至近距離での音の爆撃を躱すのは容易ではない。
「それなら……っ」
 カタリナは返す刀を振るって大気の振動そのものを断ち斬り、少しでもダメージを殺そうと試みる。それでもなお、強烈な爆音に鼓膜が破れかけるが――そこに見えない"何か"が立ちはだかって衝撃波を遮断し、彼女の窮地を救った。

「大丈夫?」
 それはアレクシアが展開した、念動力による力場の防壁だった。彼女は同時にコントロールできる12の力場のうち9層まで防御に割いて、自身とカタリナの身を守ったのだ。
「ここまで防御に力を使ってやっとなんて、やっぱり強いわね」
「今のは少し危なかったかな。でも、勝てない相手じゃない」
 ふうと汗をぬぐうアレクシアに、カタリナは笑顔で応じながら、仕切り直しとばかりに双翼を羽ばたかせて距離を取る。逃すものかと『暴威をふるうもの』は前脚を振り上げ、追撃の【アッシュ・ローズ】を地面に叩きつける。

「粉塵と砂礫に気をつけて」
 魔狼の攻撃に先駆けてアレクシアが警告を発する。挑発中に彼女が情報収集用に展開しておいた3層の力場が、ソナーのように敵の動きを把握し、次の行動を予測可能にする。
 剛爪により深々と抉り裂かれた大地から、大量の粉塵と鋭い砂礫がまき散らされ、猟兵達に襲い掛かる。だがそれも来ると分かっていれば対処しようが無いわけではない。
「すこし天井が鬱陶しいけど、これだけ広さがあれば十分!」
 カタリナは地下空洞の中を縦横無尽に飛び回り、砂礫の嵐をことごとく回避していく。
 その身に纏う紅雷は魔神"暁の主"が司る"調律"の権能――その力で自らを調律することで彼女は限界を超える機動を可能とし、先程の音撃で受けた聴覚異常も回復させていた。
 砂礫をかいくぐって再び敵に接近すれば、紅雷の色に染まった翼から羽弾の雨が返礼とばかりに『暴威をふるうもの』に浴びせられる。威力はさほどでは無いものの牽制としては十分、魔狼が反撃を振るわんとする時にはもう、彼女はまた上空に飛び去っている。

「グルル……ッ」
 空中にいる敵を撃ち墜とすよりは、地上にいる敵を先に潰すほうが容易と判断したか。
 粉塵を撒いた『暴威をふるうもの』が次の攻撃の標的に選んだのはアレクシアだった。
 砂礫の弾幕を力場で凌いだ彼女の目と力場から伝わる感覚には、粉塵を切り裂いて巨大な魔狼が飛び掛かってくるのがはっきりと分かった。
「さっき言われたお返しってこと?」
 "番犬"と呼ぶにはあまりにも凶暴極まるその形相に、アレクシアは皮肉げに口元を歪め――その瞬間に【時間操作】を発動。世界はまるで水を打ったように静まり返り、颶風のごとき魔狼の疾走が、赤子が這うよりも鈍く、遅く、緩慢となる。

「私だけの時間よ」
 自らの命の時間を代償として、時の流れを自在に加速・停止・逆転させるその力。ゆっくりと流れる時間の中で、ただ1人正常な速度での行動が可能なアレクシアは、これまで防御と情報収集に徹してきた力場の全てを、満を持して攻撃用に集約する。
「―――ッ!!」
 見えざる力の高まりを感じた『暴威をふるうもの』は焦燥を顔に浮かべるが、時の歪みに囚われたままでは回避行動を取ることさえままならない。そして魔狼の動きが止まったこの好機を突くのは、アレクシアだけではなかった。

「その目を以て焼き付けよ、その身を以て刻みつけよ。此処に披露仕るは無双の演武」
 調律の紅雷によって時の遅滞を上回るほどに加速して、魔狼に迫るは閃風の舞手。
 握りしめた屠龍刀と両脚に履いたレガリアスシューズが、閃紅を纏って強化される。
「――要するに。後悔しても遅いって事!」
 閃紅散華の名にふさわしく、光が閃く刹那のうちにカタリナが放った斬撃と蹴技は9度。的確に『番犬の紋章』のみを狙った神速の連撃が叩き込まれ、魔狼の巨体が宙に浮いた。

「グ……ガ……ッ」
 間延びした悲鳴を上げ、水の中をもがくように舞い上げられる『暴威をふるうもの』。
 完全に無防備となったその瞬間、その好機を、時を支配する者は断じて見逃さない。
「さようなら」
 宣告と共に、全能を込めて叩きつけられるアレクシアの力場。それは『番犬の紋章』の効果や概念さえも粉砕する窮極の鉄槌となって、『暴威をふるうもの』を打ちのめした。
「―――――ッ!!!!!!」
 その直後、時は再び動き出し、宙に浮いていた魔狼は弾かれるように吹き飛ばされる。
 轟音を立てて地面へと叩き落される巨体――その首筋にしがみ付いた寄生虫型オブリビオンに大きな亀裂が走ったのが、アレクシアとカタリナには確かに見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
日光を嫌う傾向ある吸血鬼
その拠点が地下世界とはよく考えられたものです

初戦に最大戦力との交戦は戦えば戦う程に装備を消耗する私にとって好都合
地下世界の住民解放の為、押し通らせていただきます

粉塵と砂礫の●目潰しや擦過等の悪影響は戦機の身には軽微(●環境耐性)迫る爪を脚部スラスターでの●スライディング滑走で回避しつつ腕部以外の格納銃器を●乱れ撃ち

やはり痛痒も感じませんか…

壁際に追い詰め突撃する番狼の頭部に腕部銃器の●スナイパー射撃で反撃
●目潰し用ペイント弾を

御伽の騎士の怪物退治のお供は魔法の武具に知恵と勇気

UC使用
挙動の乱れた攻撃を見切って躱し、紋章を剣で一突き

浅知恵と最後の一つは私も備えていますよ



「日光を嫌う傾向ある吸血鬼。その拠点が地下世界とはよく考えられたものです」
 太陽を恐れる必要のない、闇が支配するヴァンパイアの地底都市。なるほど理にかなった立地条件だとトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は判断する。
 この都市を含めた地上と地下を統べる上位のヴァンパイアは、さらなる地の奥底で人類の絶望をあざ笑っているのだろう。その邪悪な所業の一端が明らかとなったからには、これ以上人々が苦しむのを見過ごすことは、騎士としてあるまじき選択だった。

「初戦に最大戦力との交戦は戦えば戦う程に装備を消耗する私にとって好都合」
 頭部と肩部に格納された銃器を展開して、トリテレイアは地底都市の番犬と対峙する。
 魔狼『暴威をふるうもの』――何者かに与えられた『番犬の紋章』によって強化されたその実力は絶大だが、目的達成の障害となるのであれば排除するのみ。
「地下世界の住民解放の為、押し通らせていただきます」
「ガルルル……ッ!」
 堂々たる騎士の宣言に対し、魔狼の返答は剛爪の一撃だった。大地を抉る【アッシュ・ローズ】の猛打が粉塵を巻き上げ、戦場の視界を閉ざすと共に鋭い砂礫を撒き散らす。
 優秀なセンサーと強固な装甲を持つウォーマシンのトリテレイアには、この程度の目潰しや擦過傷は軽微な悪影響しかもたらさない。脅威となるのはやはり本体からの攻撃――砂塵に紛れて飛び込んできた『暴威をふるうもの』が、その名に相応しき蛮力を奮う。

「スラスター出力最大、緊急回避……!」
 トリテレイアは脚部のスラスターで地面を滑走し、迫る魔狼の剛爪を辛くも回避する。
 反撃とばかりに銃撃を仕掛けるものの、撃ち出された銃弾は分厚い毛皮の鎧と外皮で止まってしまい、一滴の血も流すことはできなかった。
「やはり痛痒も感じませんか……」
 機銃の乱れ撃ちを意にも介さず襲い掛かってくる『暴威をふるうもの』に、後退と回避を強いられるトリテレイア。だが地下世界がいかに広大と言えども、その空間は有限であり、地底都市を収める地下空洞の壁際へと彼はじりじりと追い詰められていく。

「グルルルルル……」
 一見暴れ回るだけのような『暴威をふるうもの』には、狩猟者としての知恵があった。
 脅威を見せつけて敵を追い立て、逃げ場のないところまで誘導する。狩りにおける基本のひとつを忠実に実行した魔狼は、獲物にトドメの一撃を振り下ろさんとする。
「――仕留めたと思ったその時こそ、相手は反撃の牙を研いでいるものです」
 だが、その時。トリテレイアの両腕部の装甲が開き、その中から二門の銃口が現れる。
 ギリギリまで見せずにいた隠し玉。放たれた銃弾は狙い過たずに突撃してくる『暴威をふるうもの』の頭部に命中し、異臭とともに内包されていた塗料を撒き散らした。

「ガル……ッ!?」
 いかに優れた防御力を誇ろうとも、こればかりは――目潰し用のペイント弾を食らっては、平常のままではいられまい。敵の挙動が乱れた隙を逃さず、トリテレイアは【戦機の時間】を起動する。
「御伽の騎士の怪物退治のお供は魔法の武具に知恵と勇気」
 電子頭脳の演算力がフル回転し、騎士の思考・動作速度を数倍にまで跳ね上げる。相対的に緩慢となった世界で、彼はスローモーションで振り下ろされる爪をこともなく躱す。

「浅知恵と最後の一つは私も備えていますよ」
 機体にかかる過負荷により駆動部から白煙を噴き上げながら、儀礼用長剣を抜くトリテレイア。実時間にすればほんの1秒足らず、敵が見せた隙を超加速により引き伸ばして――繰り出された刃は『暴威をふるうもの』の唯一の弱点、『番犬の紋章』を一突きにした。
「ギャウ、ッ!!!?」
 喉から絞り出すような叫びが戦場に響き、魔狼の首筋から真っ赤な血飛沫が噴き出す。
 機械騎士の剣に貫かれた紋章の亀裂はさらに大きくなり。後ずさる魔狼の動きにも、それに伴ってか徐々に陰りが見え始めてきていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
まさか、地下にこんな都市を作っていたとはなぁ。
活気もなく、見窄らしいばかりだが……吸血鬼が餌場にするには十分と見える。
門番を気取る駄犬とその飼い主どもを倒し、早々に人々を解放しようじゃないか!

最初は敵の動きを観察するため、防御に徹する。
魔力を流して強化した視力で敵の行動を見切り、踊るようにして攻撃を回避。ついでに紋章の位置を探るぞ。
紋章の場所が判明したら、精霊銃を抜いて『片恋の病』で撃ち抜こう。
さしもの漆黒の旋風も、強化されていない状態ならば僕の弾丸は防げまい。

生憎だが──たかが番犬程度に、遅れをとる訳にはいかないな!

※アドリブ&絡み歓迎


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン…辺境伯の紋章を追ってきてみれば、こんな地下にまで手を伸ばしていたとはな

まずはあの番犬を斃さねば入場もままならんな
装備銃器で弾幕を張り敵の動きを阻害
距離を取りつつ敵のUCをよく観察して情報収集
攻撃軌道と紋章の場所を見極める

なんともまぁ凶暴な番犬だな
しかし、私の躾は厳しいぞ…文字通り、「死ぬほど」な
まずは、「お座り」だ

敵が弾幕を抜けて爪の一撃を叩きつけてきたらカウンターでUCを発動
爆発的に舞う砂礫をデゼス・ポアの刃で叩き落し、紋章に強力な蹴りの一撃を撃ち込む
事前に攻撃軌道を読んでいれば正確に撃ち込めるだろう
敵が怯んだら更に装備武器で紋章に追い討ち攻撃をかける
最後は「伏せ」だ



「フン……辺境伯の紋章を追ってきてみれば、こんな地下にまで手を伸ばしていたとはな」
「まさか、地下にこんな都市を作っていたとはなぁ。活気もなく、見窄らしいばかりだが……吸血鬼が餌場にするには十分と見える」
 闇と悪意に満ちたダークセイヴァーの地下へ足を踏み入れたキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)とシェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)を待ち受けていたのは、悪辣なヴァンパイアが支配する地底都市。門はまだ固く閉ざされていても、街そのものが死んでいるような活気のなさが、そこにいる住民の暮らしぶりを外に伝えてくる。

「まずはあの番犬を斃さねば入場もままならんな」
 眉をひそめながらキリカが視線を向けた先にいるのは『暴威をふるうもの』。地上世界で権勢をふるう領主達を遥かに凌駕する力を与えられた、地底都市の無慈悲なる守護者。
 ここで彼の者を打ち破れなければ、地底都市の救済など夢でしかない。愛用する銃器の銃把を握りしめる彼女にシェーラも頷くと、宴の開演を告げるように高らかに叫んだ。
「門番を気取る駄犬とその飼い主どもを倒し、早々に人々を解放しようじゃないか!」
 声が地下空洞に反響し、呼応するかのように魔狼も動き出す。【永遠の断絶】を体現した漆黒の旋風を纏い、猛然と襲い掛かってくるその姿は、まさに地獄の番犬を思わせた。

「グルルルルル……ッ!!!」
 振り下ろされる魔狼の爪は大地を抉り、まき散らされた粉塵と砂礫が旋風に乗って勢いよく猟兵達に襲い掛かる。迂闊に近付くのは危険と判断した2人は敵との距離を取りつつ、まずは防御と観察に徹する。
「ただ地面を引っ掻いただけでこの威力とはな」
「なんともまぁ凶暴な番犬だな」
 シェーラは両目に魔力を流して視力を強化し、敵の動きや飛来する砂礫の軌道を見切って踊るように回避する。一方のキリカは自動小銃"シルコン・シジョン"と機関拳銃"シガールQ1210"のトリガーを引き絞り、少しでも敵の接近を鈍らせるよう弾幕を散りばめる。

「しかし、私の躾は厳しいぞ……文字通り、『死ぬほど』な」
「番犬がこんな態度では、飼い主の程度も知れたものだな」
 圧倒的な力を誇る敵の猛威に晒されながらも平常心のまま、口の端に小さく笑みすら浮かべてみせるキリカとシェーラ。これまでにも幾度の激闘や死線をくぐり抜けてきたこの2人にとっては、この戦いもまだ絶望するには遠すぎる。
「ガルルルッ!!」
 遠距離から削るだけでは埒が明かないと判断したか、『暴威をふるうもの』は直接その爪で獲物を引き裂かんと距離を詰めてくる。秘術や聖句によって強化された銃弾も、分厚い毛皮と漆黒の旋風に弾き飛ばされ、その進撃を止めることは叶わない。

「来たか。だがもう見極めは済んでいる」
 弾幕を抜けて近付いてくる魔狼の動きも、その首に寄生した『番犬の紋章』の位置も、シェーラはしかと把握を終えていた。剛爪と烈牙が届く間合いに入られるよりも一瞬早く、流れるような素早い手さばきで精霊銃を抜き放つ。
「さしもの漆黒の旋風も、強化されていない状態ならば僕の弾丸は防げまい」
 敵から受けたあらゆる行動に応じて魔狼を強化する【永遠の断絶】。だがこれまで2人は防戦に徹していた為に、その効力は不十分――今ならば、この距離ならば撃ち抜けるという確信をもって、彼はトリガーを引き絞った。

「生憎だが──たかが番犬程度に、遅れをとる訳にはいかないな!」

 放たれしは【戯作再演・片恋の病】による愛憎の弾丸。それはいかなる障害もものともせずに、吸い込まれるように魔狼の首に飛んでいき――『番犬の紋章』に突き刺さった。
「グ、ギャウッ!!!?」
 何十発もの弾丸を意にも介さなかった『暴威をふるうもの』の口から、苦痛の悲鳴が漏れる。首から血を流しながらふらりとよろめいたその隙を、もう1人の猟兵は見逃さない。

「さあ、行くぞ」
 魔法工学の粋を尽くして作られた「アンファントリア・ブーツ」を履き、力強く踏み込むキリカ。極限まで強化された運動能力と身体能力は、彼我の距離を一瞬でゼロにする。
「グル……ッ!?」
「ヒヒヒヒヒッ」
 魔狼は深手を負った直後の不安定な体制のまま、強引に【アッシュ・ローズ】を繰り出して砂礫を舞い上げるが――キリカの傍らに浮かぶ呪いの人形「デゼス・ポア」が、錆びついた刃を放ってそれを叩き落とす。事前に攻撃動作を読んでいたからこそ可能な迎撃。
「まずは、『お座り』だ」
 その直後、ブーツにより強化されたキリカの蹴撃が、魔狼の首筋の紋章にめり込んだ。

「グギャウッ!!?」
 対人技の域を超え、大戦艦すらも轟沈せしめるほどに、純粋な威力と衝撃を高めた【サバット】。その一撃を弱点に叩き込まれては『暴威をふるうもの』も無事では済まない。
 脛骨が砕けるような威力をピンポイントに受けて、ついに魔狼は"お座り"するように膝を屈する。それでもなお、旋風を巻き起こして抵抗の姿勢を見せているが――追い打ちをかけるように飛来した銃弾が、破損した紋章をさらに深く抉る。
「往生際の悪い駄犬は、そこで斃れていろ!」
 決して的を外すことのない愛憎の弾丸。その射手たるシェーラは弾丸よりもなお鋭い眼差しで魔狼を射抜き――間髪入れず、キリカの漆黒の踵が断頭台の如く振り下ろされる。

「最後は『伏せ』だ」

 豪快に叩き落された一撃が『暴威をふるうもの』の首にめり込み、大地を陥没させた。
 地面はまるで隕石の墜落現場のようなクレーターと化し、倒れ伏した魔狼の首筋で『番犬の紋章』の亀裂が広がっていく。
「グ、ガ、ゥ……ッ」
 紋章が完全に破壊されるまで、もうひと押しといったところだろう。
 絶大な力を誇る地底の番犬にも、終焉の時が徐々に迫りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナギ・ヌドゥー
この世界の真の支配者は地下深くに居るだと……地獄の底の深層まで潜る事になりそうだな。

この魔狼、確かに今までの敵とは比べ物にならない程の暴威を感じる。
無傷で勝つのは不可能、あの紋章を破壊するにはダメージ覚悟で接近するしかあるまい。
己が身体など戦う為の道具の一つに過ぎん
敵の咆哮で出血しようが【ドーピング】藥を投与し前進する
聴覚異常は【第六感】で補う
オレの【殺気】は咆哮如きで止められんぞ!
近付いて敵の直接攻撃を誘う
ソウルトーチャーよ、盾となり魔狼を受け止めろ!【盾受け】
受けと同時にUC「禍ツ肉蝕」発動
この零距離なら躱せまい!
敵の動きを封じ【捕縛】番犬の紋章を斬り落とす【切り込み・部位破壊】



「この世界の真の支配者は地下深くに居るだと……地獄の底の深層まで潜る事になりそうだな」
 明らかとなった"敵"の本拠地への手掛かりに、ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)はそう独り言ちる。ヴァンパイアが支配する、人々の絶望に満ちた地底都市――だがこの先にはより深い闇が、まさに生き地獄と称するに足る絶望が待っているかもしれない。
「グルルルルルル……ッ」
 いずれにせよ、その地獄の一丁目に足を踏み入れるためには。目の前に立ちはだかる『暴威をふるうもの』という番犬を倒し、地底都市への入場権を掴み取らねばならない。

(この魔狼、確かに今までの敵とは比べ物にならない程の暴威を感じる)
 無傷で勝つのは不可能、あの紋章を破壊するにはダメージ覚悟で接近するしかあるまいと、ナギは冷静な思考と覚悟のうえで『暴威をふるうもの』との距離を詰めようとする。
「グルルルルル……グオォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!」
 地底都市に近付くものに魔狼が浴びせるのは【赤月の残響】。地下空洞に反響する魔性の咆哮が、音の暴風雨となってナギの身体を引き裂き、鼓膜を破り、出血を強いる。だが、それでも彼は一向に歩みを止めようとはせず、薬の入ったケースを懐から取り出す。

「己が身体など戦う為の道具の一つに過ぎん」
 強化人間の精神を安定させる薬物――投与量によっては強化剤にもなる「ブーステッド・ドラッグケース」を自分に投与し、出血を補う。ドーピング頼りの強引な前進は、後で肉体に副作用が出ることも承知のうえで、彼は迷いなく咆哮の発する元へ迫っていく。
「―――――!!!!!」
 聴覚の異常により、魔性の咆哮はもう聞こえない。潰れた耳の代わりは第六感で補う。
 互いに一触即発の距離まで近付いたうえで、彼は血塗れのまま鬼気迫る形相で叫んだ。
「オレの殺気は咆哮如きで止められんぞ!」
 強化人間ナギがその精神に宿した、自我と理性を蝕むほどの強烈な殺戮衝動。咎ある者を狩り尽くさんとする残虐な本性の片鱗を目の当たりにして、『暴威をふるうもの』はゾッと総毛立った。

「―――ッ!!」
 この人間は、確かにここで殺しておくべきだと、知性と本能が訴えるままに魔狼は前脚を振り上げる。その先に備わる5本の剛爪が、直に獲物を屠らんと振り下ろされる瞬間――ナギはもう一度血を吐くように叫んだ。
「ソウルトーチャーよ、盾となり魔狼を受け止めろ!」
 その刹那、魔狼とナギの間に飛び込んだのは呪獣「ソウルトーチャー」。咎人の肉と骨で錬成され、主の血を餌として駆動する忌まわしき拷問兵器が、魔狼の爪を受け止めた。
 肉が引き裂かれ、骨が断たれる音が響く。辺境伯をも凌駕する強大な魔獣の一撃、文字通りの肉壁を使っても何度も防げるものではない――だが一度凌げれば十分と、ナギは受けと同時に【禍ツ肉蝕】を発動する。

「この零距離なら躱せまい!」
 咆哮により流れたナギの血を代償として、ソウルトーチャーから放たれたのは屍肉の触手と骨針。それは正に目前にいる『暴威をふるうもの』の身体を束縛し、動きを封じる。
「ガウ、ッ!?」
 ほんの数秒でも捕縛が叶えば十分。呪獣の縛めの中でもがく魔狼へと、ナギは「歪な怨刃」を振りかざし――その首に宿る『番犬の紋章』を斬り落とさんと全力で叩きつける。
「落ちろ!」
「ッ、ガァッ!!!」
 硬質なものを抉る確かな手応え。切り裂かれた紋章と首からはどす黒い血が噴水のように溢れ出し、魔狼の苦悶が戦場に響く。かの番犬の最期の時は、刻一刻と迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
強化された魔狼…どんなに強力だろうと倒せない敵はいない…それを見せてあげる…!

【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…!
無限の終焉の魔剣を顕現させ、媛神の呪力で更に強化し、連続一斉斉射…!
同時に呪力の縛鎖で敵の動きを封じ、ダメージを与えられずとも魔剣と鎖から強力な【呪詛】を送り込み、敵を弱体…。
こちらの攻撃(行動)で強化されたとしても、それ以上に弱体化させれば無意味だよね…。

敵の攻撃が強大であり、それが更に強化されるなら…こちらはそれを逆手に取るまで…。
敵の攻撃はアンサラーの反射【呪詛、カウンター、武器受け、オーラ防御、早業】で跳ね返し、攻撃を逆用…。
紋章に【ultimate】を叩き込むよ…!



「グルルルルル……ルオオォォォォォォォォォォォ……ッ!!!!」
 猟兵との激戦を経て、魔狼『暴威をふるうもの』は窮地に立たされていた。上位者より与えられた『番犬の紋章』という名の首輪は破損し、蓄積したダメージは計り知れない。
 だが、それでもなお地底都市の守護者に残された力は絶大。殺意に満ちた漆黒の旋風をその身に纏う魔狼を前に、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は決意の表情で告げる。
「強化された魔狼……どんなに強力だろうと倒せない敵はいない……それを見せてあげる……!」
 どれほど強大な敵であろうとも、自分達は必ず打ち破り、人と世界を守ってきた。揺らがぬ自信と決意を支えにして、彼女は【九尾化・魔剣の媛神】の封印をここに解き放つ。

「我が眼前に立ち塞がる全ての敵に悉く滅びと終焉を……封印解放……!」
 吹き荒れる漆黒の旋風を押し返さんという勢いで、璃奈の身体からあふれ出すのは莫大な呪力。九尾の妖狐へと変化した彼女の力に導かれて、数え切れぬほどの"終焉の魔剣"の写し身たちが周囲に顕現し、その切っ先を『暴威をふるうもの』に向ける。
「行って……!」
 一本一本が絶大な力を秘めた魔剣と妖刀を媛神としての力でさらに強化し、連続一斉斉射。地下空洞を埋め尽くさんばかりの刃の豪雨を避けきる術は、さしもの魔狼にも無い。

「ガルルルルルッ!!」
 璃奈の猛攻をその身に受けた『暴威をふるうもの』だが、『番犬の紋章』に加え【永遠の断絶】により強化されたその肉体は、魔剣の掃射を浴びても殆ど傷ついていなかった。
 並みのオブリビオンであれば消滅するであろう攻撃でも、怯ませるのがやっとという圧倒的な実力――だが、それは璃奈とて織り込み済み。彼女は魔剣を放つのと同時に呪力の縛鎖を作りだし、敵の動きを封じ込めんとする。
「捕まえたよ……」
「グルッ!?」
 灰色の巨躯に絡まる縛鎖、そして無限の魔剣からは凄まじい呪力が送り込まれ、魔狼を蝕む。たとえダメージを与えられずとも敵を弱体化させるのが、璃奈の真の狙いだった。

「こちらの攻撃で強化されたとしても、それ以上に弱体化させれば無意味だよね……」
 敵のあらゆる行動に比例して戦闘力を増大させる【永遠の断絶】は確かに脅威だ。故にこその対策を魔剣の媛神は講じていた。強化と弱体化の天秤が釣り合い、これ以上の強化が望めなくなった『暴威をふるうもの』は憎々しげな形相を浮かべて璃奈に襲い掛かる。
「グルルルルゥッ!!!」
 たとえ強化が止まってもその力は未だ絶大。生命力吸収の力を得た剛爪が、目の前の獲物を八つ裂きにせんと振りかざされる――対する璃奈が構えるのは魔剣『アンサラー』。

「敵の攻撃が強大であり、それが更に強化されるなら……こちらはそれを逆手に取るまで……」
 呪力を込めた魔剣の刃と、旋風を纏う魔狼の爪がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
 それだけで吹き飛ばされそうな程の衝撃が璃奈を襲う――だが彼女はぐっと四肢に力を込めてその場に踏みとどまると、アンサラーに籠められた"報復"の魔力を発動させた。
「ギャウッ!!!!?!」
 交錯の直後に悲鳴を上げたのは『暴威をふるうもの』だった。アンサラーの魔力は敵から受けた攻撃の威力を本人へと反射する。たとえ猟兵の攻撃で傷付けられなくとも、魔狼自身の攻撃をそのまま跳ね返されれば、ただでは済まなかったようだ。

「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……。その力を一つに束ね、我が敵に究極の終焉を齎せ……!」
 敵の攻撃を逆用して魔狼の体制を崩した璃奈は、この機を逃すまいと詠唱を紡ぎだす。
 それは顕現させた魔剣・妖刀の力を一つに集束し、絶対的な"終焉"をもたらす大技。その手元で完成された究極の一刀を、彼女はありったけの呪力と膂力を込めて叩き込んだ。

「『ultimate one cars blade』……!!」

 闇よりも深い漆黒、無の如き終焉の呪力を束ねた一太刀が捉えるのは『番犬の紋章』。
 敵の力源にして弱点である寄生虫型オブリビオンが、真っ二つにその身を両断される。
「―――ッ!!!!!!」
 声にならぬ絶叫を喉奥からほとばしらせ、どうと地に倒れ伏す『暴威をふるうもの』。
 首輪の証たる紋章は、今や半分しかその身に残っておらず。終焉の刻は、さらに迫る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリー・アリッサム
空中浮遊でそっと近づき魔狼の様子を観察する
あなたも、利用されているだけなの?
それとも……本当に悪い狼なのかしら?

「――止めなきゃ」
どちらでも、放っておけば皆が傷つく

【烈火斬影】――パパ、お願い
「あの狼を、止めて」

敵の攻撃が届かない位置に陣取り
戦う父の亡霊を鼓舞しつつ手助けを
火を放ち少しでも狼の動きを抑える罠を張るわ

「紋章……パパの時と同じ」
狙いを伝え、一気に攻め立てる
覚悟はしてきた。多少痛くても
絶対にパパがやっつけてくれるって信じてる

血を流し、音が徐々に薄れても
呼び出した剣狼はもう止まらない
刃を交えれば交えるだけ
魔狼の手の内が明かされるだけ

「……今よ、パパ!」
全力高速多重詠唱で追撃の焼却弾を!



「あなたも、利用されているだけなの?」
 戦いが終わりに近付いていく中、セシリー・アリッサム(焼き焦がすもの・f19071)は静かな眼差しで『暴威をふるうもの』の様子を窺っていた。それは身内――オブリビオンとなった肉親が『辺境伯の紋章』を与えられ、上位者に利用されていたがゆえの問い。
「それとも……本当に悪い狼なのかしら?」
 空中に浮かびながらそっと近づき、問いを投げかけても、魔狼から帰ってくるのは背筋も凍るような殺気だけだった。これほどに気性の荒い魔獣がいかにして『番犬』となったかは不明だが、たとえ利用されているのだとしても、その凶暴性は生来のものに思える。

「――止めなきゃ」
 どちらでも、放っておけば皆が傷つく。決意と共にセシリーが呪杖「シリウスの棺」をかざすと、その頭にあしらわれたオーブから星の力があふれ、地下世界を照らしていく。
 その輝きを道標にして、喚び寄せるのは【烈火斬影】――一度は絶望と恩讐に沈んだ彼女の父の亡霊が、誇り高き人狼の騎士としての姿を取って、地底の戦場に顕現する。
「――パパ、お願い。あの狼を、止めて」
 愛しい娘の声に、白き鎧を纏ったその騎士は静かに応じると、荘厳なる極刀を構える。
 兜の奥の眼差しから感じられる鋭い気迫。それに触発されるかのように『暴威をふるうもの』も吠えた。

「グルルルルルルルオオォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!」
 地底世界に木霊するは【赤月の残響】。耳にした者に出血と聴覚異常を強いる魔性の咆哮に対して、セシリーは範囲から逃れようと後退し、逆に白狼騎士は正面から踏み込む。
「ぅ……っ」
 地下で反響する音波から完全に退避することは難しい。敵とはまだ十分な距離があったにも関わらず、セシリーの鼓膜は耳鳴りを訴え、白い肌からは鮮血がにじみ出している。
 だが彼女は怯むことなく、掲げた杖から蒼白い炎を『暴威をふるうもの』に向かって放つ。それと同時に最短距離を駆け抜けた白狼騎士が、極刀『禍色』を魔狼に振り下ろす。

「ガルル……ッ!」
 正面からの一太刀を『暴威をふるうもの』は躱そうとした。だが彼方より飛来した蒼炎が彼女の行く手を遮り、一瞬ながらも動きが止まった隙を突いて白狼騎士が斬り掛かる。
 手応えはあった。だが、傷は浅い。魔狼に寄生する『番犬の紋章』は半ば砕けかかっているものの、今だに並みのオブリビオンを凌駕する絶大な力を宿主に与え続けていた。
「紋章……パパの時と同じ」
 強化の幅こそ違えども、それが『辺境伯の紋章』と同種の存在ならば対処も同じはず。
 セシリーがそれを伝えると、白狼騎士は『紋章』に狙いを絞って一気に攻め立て、魔狼も負けじと爪牙を剥き出しにして吠え猛る。

「ウオオオォォォォォォォォォォンッ!!!!!」
 その名に相応しい暴威を振りまきながら赤月の残響を撒き散らす魔狼の前で、セシリーも白狼騎士も次第に傷ついていく。ここに至ってもなお負傷をものともしない苛烈な猛攻――だが絶大な力をその身で実感しても、少女の心は折れはしない。
(覚悟はしてきた。多少痛くても、絶対にパパがやっつけてくれるって信じてる)
 娘から父に対する無上の信頼。それを背負った白狼騎士は一歩も退かず魔狼と斬り結ぶ。どれほど血を流し、音が徐々に薄れても、一度喚び出された剣狼はもう止まらない。
 そして極刀と剛爪での剣戟を交えるたびに、騎士は魔狼の手の内を学び、徐々にその動きに対応していく。一見、これまでと変わりないような戦いぶりを見せてはいても、辛いのは敵も同じであることを――魔狼にも限界が迫ってことを彼の慧眼は見抜いていた。

「グルルルルル……ッ!」
 一合ごとに冴え渡る白狼騎士の太刀筋に、次第に押され始める『暴威をふるうもの』。
 ここは一旦仕切り直すべきだと、後退し体勢を立て直そうとするも――いつの間にか、地を這うように彼女の周りを囲んでいた蒼い炎の軌跡が、それを阻んだ。
「……今よ、パパ!」
 仕掛けた炎の罠に敵が掛かった瞬間、セシリーが叫ぶ。直後、猛火の如き気魄を漲らせて踏み込んだ白狼騎士の一閃は、ついに魔狼の弱点である『番犬の紋章』を断ち斬った。

「……同類のよしみだ。せめて安らかに眠れ」
 兜の奥から発せられた言葉は、同じ『紋章』に囚われた狼に果たして届いたかどうか。
 極刀の刃が魔狼の血に染まった直後、追撃の焼却弾が「シリウスの棺」より放たれる。
「……あなたの役目は、これで終わりよ」
 戦場を鮮やかに照らす蒼茫の炎は、昂ぶるセシリーの激情に呼応して敵を焼き尽くす。
 紋章を失った魔狼に、もはやその熱量に耐えうるだけの力は、残されていなかった。

「グウウウゥゥゥァァァァァァァアァ――――!!!!」

 最期に残された叫びが意味するのは断末魔か、あるいは『番犬』の任よりの解放か。
 地底都市の守護者たる『暴威をふるうもの』は、ここに打ち滅ぼされたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『ヴァンパイアナース』

POW   :    少しだけチクっとしますね~♡
【注射器】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【血液を抜き、採血しやすい血管の位置】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD   :    今日はどうされましたか~?
対象への質問と共に、【自身の周囲】から【同僚ヴァンパイアナース】を召喚する。満足な答えを得るまで、同僚ヴァンパイアナースは対象を【様々な医療器具】で攻撃する。
WIZ   :    お薬の時間ですよ~♡
【謎の薬品】を籠めた【注射器】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【内部器官】のみを攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「な……何が起きたの?!」

 最期の瞬間に『暴威をふるうもの』が発した絶叫は、地底都市内の者の耳にも届いた。
 それが都市を外界から隔て続けてきた『番犬』の敗北であるとすぐに理解できた者は、一般市民は勿論のこと、都市の支配者である吸血鬼達の中にもほとんど居なかった。

「まさか……敵?」
「そんな、番犬の紋章を与えられたあのワンコに勝てるやつなんて……」

 困惑するヴァンパイアナース達が顔を見合わせる中、閉ざされていた門が開いていく。
 その向こうから現れたのは猟兵達。ヴァンパイアが世界を支配して以来、この地底都市が外敵の侵入を許したのは、恐らくはこれが初めてのことだろう。

「だ……誰……?」
「あなたたち……どこから来たの……?」

 都市の住民達は、都市の外からやってきた猟兵達に戸惑いの視線を投げかける。生まれた時からこの地底都市で暮らし、地上の存在すら知らぬままヴァンパイアに虐げられてきた彼らには、この状況が絶望から抜け出せる「希望」だということも分からない様子だ。
 一方のヴァンパイア達は流石にこれが地上からの敵襲であることは理解している。しかし最強の番犬がまさか倒されるとは思っていなかったらしく、明らかに浮足立っていた。

「ど、どうしましょう……?」
「どうしましょうって……に、逃げるわけにもいかないわ~」

 足並みも揃わぬまま外敵を迎え撃たんとするヴァンパイアナース達。しかし無抵抗な一般人相手に医術を弄び続けてきただけの彼女らに、どれほどの戦闘力があるのだろうか。

「き、きっとワンコを倒したあとで、向こうも消耗しているはずだわ」
「この都市はわたし達のもの。あなた達も"治療"しちゃいますよ~!」

 注射器を片手に襲ってくるヴァンパイア達と、その様子を固唾を呑んで見守る住民達。
 医獄の地底都市を制圧し、絶望に囚われし人々に希望を示すための戦いが始まった。
フレミア・レイブラッド
あの犬コロを倒した事で、どうやら、力量差は理解してる様ね。
貴女達は住民達を苦しめたけど、非道な殺戮といった行為までは行ってないからね。
逃がしはしないけど、降伏は受け入れるわよ。

【吸血姫の覚醒】で真の姿を解放して姿と力を誇示。
降伏を促して、それでも向かってくる相手は真祖の魔力を用いた魔弾【高速詠唱、誘導弾】で消し飛ばすわ。
悪いけど、歯向かうなら慈悲を掛ける程でも無いしね。

降伏を受け入れるなら、【魅了の魔眼・快】【催眠術、誘惑】で魅了した上で一応、眷属として迎えようかしら。
見た目は可愛らしいし、戦闘力は無くても、(一応でも)医術の心得があるなら、役に立つでしょうしね♪



「あの犬コロを倒した事で、どうやら、力量差は理解してる様ね」
 あからさまに浮き足立っている都市内の敵の様子を見て、フレミアは優雅に微笑んだ。
 都市の支配者であるヴァンパイアナースは吸血鬼としては珍しく医術に長けているが、その力は束になっても紋章で強化された『暴威をふるうもの』とは比較にさえならない。
「貴女達は住民達を苦しめたけど、非道な殺戮といった行為までは行ってないからね。逃がしはしないけど、降伏は受け入れるわよ」
 戦う前から結果のわかりきった戦いに、フレミアはせめてもの情けとして自分に降るよう勧告する。番犬を討ち倒した真の姿と力を【吸血姫の覚醒】によって誇示し、気品のある微笑みで敵勢を威圧する様は、まさに吸血鬼の姫君――あるいは女王の風格であった。

「ば、バカにしないでちょうだい~!」
「猟兵なんかに降伏して、この都市を明け渡せっていうの~?」
 吸血姫の威風に気圧されてはいても、ヴァンパイアナースたちにもプライドがあった。
 1人1人で立ち向かっても勝ち目はないなら、数で畳んでしまおうと、周囲から同僚のヴァンパイアを召喚し、注射器や様々な医療器具で一斉に襲い掛かってくる。
「あくまで戦って死にたいなら、望み通りにしてあげるわ」
 降伏を促したうえで、それでも向かってくる相手にフレミアは一切容赦をしなかった。
 彼女がささやくように呪文を唱えただけで、空中に描かれた魔法陣から無数の魔力弾が発射され、押し寄せる敵集団を消し飛ばす。絶大なる真祖の魔力を用いて紡がれたその魔術は、一発一発がヴァンパイアナースを滅ぼすのに十分過ぎる威力を誇っていた。

「ひ……ッ?!」
 それまでの虚勢じみた強気な態度から一転、真っ青に青ざめるヴァンパイアナース達。
 慌てて逃げるような間さえなく、魔力弾の豪雨は無慈悲なる破壊を巻き起こしていく。
「悪いけど、歯向かうなら慈悲を掛ける程でも無いしね」
 あの『暴威をふるうもの』に比べればこの程度、たかる羽虫の群れを払うようなもの。
 愛用の魔槍を振るうことさえなく、真なる吸血姫としては牽制程度の弾幕のみで、フレミアは立ちはだかる敵を殲滅していく。

「ひ、ひ……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」
 一合すら交えることなく同僚が消し飛んでいく様子を見せつけられれば、歴然たる力の差は理解できただろう。ガタガタと恐怖で震えながら、もはや恥も外聞もなく地面に額を擦り付けんばかりの勢いで、許しを請うヴァンパイアナースが続出した。
「それは降伏を受け入れるということかしら?」
「はっ、はい! もう二度と逆らいません!!」
「そう。それじゃあ……わたしの眼を見なさい」
 フレミアは戦意を喪ったヴァンパイアナース達に【魅了の魔眼・快】で催眠をかける。
 強烈な快楽を伴う魔性の視線に見つめられた彼女らの心はまたたく間に陥落し、新たな主君への隷属と忠誠を誓うのであった。

「見た目は可愛らしいし、戦闘力は無くても、医術の心得があるなら、役に立つでしょうしね♪」
 新たなる眷属を迎え入れて、フレミアは満足げな表情でにっこりと微笑む。これまで悪用しかされて来なかったとはいえ、一応はヴァンパイアナースの医療技術は本物である。
 命じれば負傷者の手当てや看護などに使える局面もあるだろう。ナース達はこれまでの非礼を挽回すべく「誠心誠意お仕えします~!」と、力強く意気込むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
はっ!
弱者をいたぶるばかりだった者達がこのボクを止められると?
「ならば教えてあげよう……ヒーローというのはね!助けを待つ人がいる限り、ノンストップで突き進むんだ!」

事ここに至っては、ただ勝つだけでは不足だろう
この後の説得の為にも、住人達が目を瞠るような圧倒的な力で鮮やかに勝って見せようじゃないか
「希望の象徴というものを、理屈ではなく心で感じて貰う!」

屋根の上とかポールの上とか、目立つところに陣取って
【降り注げ破滅の火、過去の栄光を燃やし尽くせ】でナース達を焼滅していこう
これが手持ちで一番派手な技だし
接近して注射器を刺そうとしてくる個体が居ても
動輪剣で排除出来るし、そもそも装甲には刺さらないしね



「はっ! 弱者をいたぶるばかりだった者達がこのボクを止められると?」
 無謀にも自らの前に立ちはだかった敵集団に、ジュリアは敵意を込めてそう言い放つ。
 蒸気と共に沸き立つ気迫が、ヴァンパイアナース達に力の差を実感させる。だが彼女らとて何の勝算も考えずに戦おうとしている訳ではない。
「あの番犬がそう簡単にやられるはずはないもの……」
「きっと戦いの後でお疲れでしょう? わたし達が"治療"してあげますよ~」
 確かに『暴威をふるうもの』との戦闘の直後で、ジュリアの身体は万全とは言い難い。
 魔狼の攻撃から受けたダメージはまだ残っているし、疲労を癒やす暇もなかった。そこにきての連戦であれば、あるいはと敵が考えるのは無理もない事だろう。

「ならば教えてあげよう……ヒーローというのはね! 助けを待つ人がいる限り、ノンストップで突き進むんだ!」
 そんなヴァンパイアナースの甘い考えを突き放すように、ジュリアは高らかに叫んだ。
 疲労を感じさせない力強さで地面を蹴り、近くにある中で一番高い建物に飛び乗る。屋根の上で堂々と仁王立ちする彼女の勇姿は、敵からも住民達からもよく目立っていた。
(事ここに至っては、ただ勝つだけでは不足だろう。この後の説得の為にも、住人達が目を瞠るような圧倒的な力で鮮やかに勝って見せようじゃないか)
 目指すのは絶望なんて吹き飛ばすような大勝利。悪のヴィランを正義のヒーローがやっつける、痛快なヒーローショーのような――そんな戦いなら彼女はむしろ望むところだ。

「希望の象徴というものを、理屈ではなく心で感じて貰う!」
 発動するのは【降り注げ破滅の火、過去の栄光を燃やし尽くせ】。ばっと両手を伸ばしてポーズを取ると、周囲に燃え盛る石炭の塊が幾つも浮かび上がり、闇に包まれた都市を煌々と照らしだす。ジュリアの手持ちのユーベルコードの中で、これが最も派手な技だ。
「炎と大地は機関車の友だからね。力を貸してくれ、精霊さん!」
 彼女の呼びかけに応え、ちょこんと肩に乗った「運転士精霊さん」もビシッとポーズを取る。その直後、燃える石炭は流星群のようにヴァンパイアナースの群れに降り注いだ。

「な、なんなのですかこの力は……きゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?!」
 炎と土の属性を複合させたジュリアの石炭弾は、一発一発が敵を撃破するのに十二分な威力を誇っていた。弱っているとばかり思っていた相手の測り知れぬパワーを目の当たりにして、ヴァンパイアナースは逃げる間もなく焼き尽くされていく。
「す、すごい……!」
 その光景は、物陰に隠れている都市の住民達にも当然見えている。自分達を弄ぶ残酷で絶対的な支配者達が、圧倒的な力に焼き払われていく――それはヴァンパイアの命と共に彼らの心に溜まっていた澱んだなにかをも、まとめて焼滅していった。

「ま、まだですよ~!」
 幸運にも石炭の流星群から生き延びたナースは、蝙蝠の翼を羽ばたかせてジュリアのいる屋根の上まで舞い上がり、謎の薬品が詰まった注射器を突き出してくる。これだけ明白に実力を見せつけられて、まだ反撃する気力や根性が残っていただけ大したものだ。
「無駄だよ」
 しかしその一撃はジュリアの装着する白いパワードスーツ"プラチナハート"の装甲にカキンと弾かれる。ぽっきりと折れてしまった注射針を見て、ナースの表情は今度こそ真っ青になった。

「覚えておくといい、それが絶望だ。キミ達が人々に与え続てきたものの報いだ!」
 ヒーローらしい勇ましい口上と共に。ジュリアの手の中で唸りを上げる「残虐動輪剣」。大上段より振り下ろされた一太刀が、ヴァンパイアナースを真っ二つに両断する。
「ギャアァァァァァァァァァッ!!!!!!」
 ヴィランらしい断末魔の絶叫を上げて、吸血鬼は灰に還る。崩れ去った骸が風に吹かれて消えていくと、都市のどこかから「やった!」という歓声がちらほらと聞こえてきた。
 痛快でインパクトの大きいジュリアの戦いぶりと勇姿から、思惑通り"希望の象徴"を感じて貰えたようだ。人々の心に灯った希望の火が、少しずつ地底都市中に広がっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
治療、ねぇ?
お前達の言う治療とは、病人から生き血を大量に搾取し、人体を破壊するほどの量の薬を無理矢理押し込む行為なのです?
それってわたしの認識では刺殺と毒殺って呼ぶのですけど。

これが本物の治療です。
【癒竜の大聖炎】を【全力魔法】で発動し、数個だけ自身の周囲に残し、敵ユーベルコードの薬品を実質無効化します。
それ以外の多くの【癒竜の大聖炎】は地底の人々の元へ送り、なるべく大人数の治療を。

【第六感】と【野性の勘】で敵の動きを【見切り】、回避。

後はお前達病巣をこの地底……いえ、この世界から摘出するだけです。
アマービレで呼んだねこさん達と一緒に【多重詠唱】【全力魔法】【一斉発射】で纏めて【蹂躙】します。



「治療、ねぇ? お前達の言う治療とは、病人から生き血を大量に搾取し、人体を破壊するほどの量の薬を無理矢理押し込む行為なのです?」
 自分達の愉悦のためだけに、癒やしとは真逆の目的でその技術を悪用するヴァンパイアナースの所業を、望は静かな――それでいて冷ややかな怒りの籠もった口調で糾弾する。
「それってわたしの認識では刺殺と毒殺って呼ぶのですけど」
「私達に玩ばれるしか能のないゴミ共には、正しい"治療"ですよ~!」
 この期に及んでも敵は悪びれることもなく、望のことも"治療"しようと注射器を持って襲い掛かってくる。その器内に籠められた薬品の正体は不明だが、およそ生体にとって有益な薬効を示さないであろうことは確かだ。

「癒しと為り邪悪を祓え」
 望が祈りを唱えると、黄金の王笏「翼望・シンフォニア」から【癒竜の大聖炎】が放たれ、彼女を中心として渦を巻く。愛しき比翼連理の灯火から贈られたその力は、あらゆる邪悪を祓い、毒を浄化し、負傷を治癒する効果を持つ。
「な……なに、この炎は……っ!!?」
 87の火球に分かれた竜炎は広大な地底都市のすみずみまで広がっていき、誤った治療に苦しめられていた人々を癒やしていく。この力が望にある限り、薬品を扱うヴァンパイアナースのユーベルコードは、実質無効化されたも同然であった。

「痛くない……咳も止まった……」
「こんなに身体が軽いのなんて初めて……!」
 癒竜の大聖炎によって"治療"の悪影響だけでなく本来の傷病までも癒やされた人々からは、口々に驚きと喜びの声が上がる。地底都市の雰囲気が少しずつ明るくなっていくのを感じ取って、望は満足そうに小さな微笑みを浮かべた。
「わたしたちの患者に、何てことをしてくれたの~?!」
 当然ナース達は黙っていない。まるで玩具を取り上げられた子供のように癇癪で顔を真っ赤にして、注射器を握り潰さんばかりに固く掴んで、猛烈な勢いで飛び掛かってくる。
 だが、先程戦った『暴威をふるうもの』と比べれば、その脅威には狼と蚤ほどの違いがある。直感で敵の動きを感じ取った望はふわりと羽ばたいて、危なげなく攻撃を避けた。

「"何てことを"はこちらの台詞です。これが本物の治療です」
 共達・アマービレを揺らす望の手つきに合わせて、周囲に残しておいた数発分の聖炎が揺れる。それと共に魔狼との戦いでも協力してくれた魔法猫の群れが、再び姿を現した。
「後はお前達病巣をこの地底……いえ、この世界から摘出するだけです」
 にゃぁん、と重なりあうねこさん達の鳴き声が詠唱となり、魔力が膨れ上がっていく。
 友達と一緒に望が紡ぎ上げる全力の魔法は、眩き黄金の炎嵐となって、悪しきヴァンパイアの群れに放たれた。

「ひ、いや、いやああぁぁぁぁぁぁっ!!!?!!」
 邪悪を祓う聖炎の一斉射撃に蹂躙され、灰も残さずに消滅するヴァンパイアナース達。
 その美しき輝きが広まるところから地底都市――ひいてはダークセイヴァーという世界を蝕み続けていた"毒"は消え失せ、優しき癒やしが人々にもたらされるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
「狼狽えるな!」
ピンチだったヴァンパイアナース達の所に颯爽と現れたカビパン。

「「しゅ、主任!!」」

「何を手間取っているの。この程度は想定内でしょう、早く片づけなさい!」
「す、すみません…」
ここはカビパンワールド。元々残念だったのか、混乱しているからなのか。彼女達もノリに巻き込まれてしまった。
「貴女たちに真の戦い方を見せてあげるから、目に焼き付けておきなさい」
言ってる事はやたらと格好良く、頼もしい。戦いが苦手な彼女達からすれば尚更である。
「――行くわよ!」
全員が固唾を飲んで見守る。

「鼻から牛乳」

もはやどう反応したらいいか全員が困惑する。ウケない彼女達にキレたカビパンは、ハリセンでしばき倒した。



「ど、どうしましょう~」
「このままじゃ私達~……」
「狼狽えるな!」
 猟兵の攻勢を受けて、ピンチだったヴァンパイアナース達の所に颯爽と現れたのはカビパンだった。地底都市を解放する側である彼女がどうして都市を支配するオブリビオン側に付いているのか。それは誰にも分からないが、彼女の姿を見たナース達はこう叫んだ。
「「しゅ、主任!!」」
 主任とはなんぞや。それに答えてくれる人間もここには居ない。カビパンはただ【ハリセンで叩かずにはいられない女】として、シリアスな戦場をギャグで染め上げるだけだ。

「何を手間取っているの。この程度は想定内でしょう、早く片づけなさい!」
「す、すみません……」
 女神のハリセンを持って偉そうに腕組みをするカビパン主任に、ナース達は恐縮したように頭を下げる。ここはもう絶望ではなくギャグが支配するカビパンワールド。元々残念だったのか、混乱しているからなのか。彼女達もノリに巻き込まれてしまっていた。
「貴女たちに真の戦い方を見せてあげるから、目に焼き付けておきなさい」
 キリッと厳しい表情をしたまま、カビパンは颯爽と前に出る。言ってる事はやたらと格好良く、頼もしく。瀟洒な将校服を着こなす佇まいからは歴戦の風格すら漂っている。
 戦いが苦手なヴァンパイアナース達からすれば、その姿は尚更勇ましく映っただろう。

「――行くわよ!」
 バサァと外套を翻して身構えるカビパンを、その場にいる全員が固唾を呑んで見守る。
 一体何をするつもりなのか。まさか本当に裏切るつもりなのか。そんな困惑と疑惑と不安と期待が入り混じった空気が張り詰めていく中、彼女はすっと鼻先に手を当てて――。

「鼻から牛乳」

 ――その瞬間、空気が凍った。質量さえ感じるような重苦しい沈黙がその場を占める。
 誰一人としてクスリともせずに、お互いに顔を見合わせる。今のはいったい何なのか、ひょっとしてギャグのつもりなのか。もはやどう反応したらいいか全員が困惑していた。

「――そこはちゃんと反応しなさいよ!」
 沈黙を作ったのがカビパンなら、その沈黙を破るのもまたカビパンだった。ウケないナース達にキレた彼女は、ブンブンとハリセンを振り回して手当り次第に敵をしばき倒す。
 ナース達からすれば実に理不尽極まりない話である。だが重ねて言うがここはカビパンワールド。彼女のペースに合わせたギャグが支配する世界であり、その環境に適応できなかった者は空気読めないヤツとして死あるのみである。
「これじゃ私がスベったみたいじゃない! 貴女達みんな芸人失格よ!」
「いやみたいも何も実際スベって……ギャーーーッ!!!?」
 バシーンとハリセンにしばかれたヴァンパイアナースが都市の外までふっ飛んでいく。
 ギャグを理解しない者にはギャグの制裁を。バシーンバシーンと快音が響き渡るところ、世界は彼女のノリに従い、シリアスな空気などかき消されていく。

「よくわからないけど……なんかすごい……」
 そんな具合に吸血鬼共をしばきまくるカビパンの勇姿(?)に、感銘を受けた人々もいたとかいなかったとか。ともあれ地底都市の攻略そのものは順調に進んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
治療…?
貴女達の行為は人々を苦しめるだけ…。
そんなものは治療とは言わない…。
医術は苦しむ人々を救う為のもの…。
人々を助ける為の技術を苦しめる為に使う貴女達を、わたしは許さない…!

【unlimited】を展開し【呪詛】で強化…。
更に黒桜を構えて降伏を勧告し、従わなければ、黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】と共に魔剣の連続一斉斉射で近づける前に全て殲滅するよ…。

救出前に救援や上のヴァンパイアに報告されると厄介だしね…。
悪いけど、逃がすわけにはいかないよ…。

ちなみに、住民を人質にしようとかする相手は、呪力の縛鎖で拘束した上で【unlimitedΩ】を叩き込むよ…。
卑怯者に容赦はしない…



「よくもわたし達の治療を邪魔しましたね~……」
「治療……? 貴女達の行為は人々を苦しめるだけ……。そんなものは治療とは言わない……」
 憎々しげに恨みがましい視線を向けてくるヴァンパイアナースの集団に、璃奈は涼しげな表情でそう言い返す。病や怪我に悩まされる人々を玩具にして弄ぶ、そんな行為を本気で"治療"だと言っているなら、彼女らはヤブですらない――居ないほうが何倍もマシだ。
「医術は苦しむ人々を救う為のもの……。人々を助ける為の技術を苦しめる為に使う貴女達を、わたしは許さない……!」
 普段は表情に乏しい魔剣の巫女の瞳に、怒りの炎が灯った時。手にした呪槍・黒桜の穂先から呪力の奔流があふれ出し、美しくも触れがたき漆黒の桜吹雪が地底都市に舞った。

「一度だけ、罪を償う機会をあげる……従わなければ、全て殲滅するよ……」
 舞い散る桜の花びらの中から【unlimited curse blades】を展開し、凄まじい呪力を帯びた魔剣・妖刀を何百本と従えたうえで、璃奈はヴァンパイアナースに降伏を勧告する。
 どんなに鈍い輩でもこれほどの力を誇示されれば、彼我の実力差は容易に悟れよう。だが、長く都市の支配者として君臨し、傲慢に肥大した自尊心とプライドがをれを拒んだ。
「番犬一匹倒したくらいで、いい気にならないでください~!」
「高貴なるヴァンパイアの私達が、猟兵風情に降伏するなんてありえません~!」
 薬品の詰まった注射器を構えて、ナース達は一斉に璃奈を"治療"しようと襲い掛かる。
 身の程をわきまえぬ傲慢故に、彼女らは最後の命綱を自らの手で断ち切ってしまった。

「それが貴女達の選択なら……」
 もはやかける言葉は不要と、璃奈は待機させていた魔剣達を黒桜と共に一斉斉射する。
 巫女の力によって強化された呪われし刃は、あの『暴威をふるうもの』も効果があった。今は九尾化の封印を解放していないとはいえ、呪槍の力が代わりに加わっている。
「――――ッ!!!?!」
 戦闘力では番犬にはるかに劣るヴァンパイアナースに、耐えられる理由は絶無だろう。
 怒涛の勢いで押し寄せる呪力と魔剣の大嵐に呑み込まれた彼女らは、悲鳴を上げる暇すらなく消し飛ばされた。

「救出前に救援や上のヴァンパイアに報告されると厄介だしね……。悪いけど、逃がすわけにはいかないよ……」
 璃奈達の目的は地底都市に囚われた人々の救出。そのために懸念となる要素を極力排除するために、彼女は矢継ぎ早に魔剣を連続発射してヴァンパイアナースを殲滅していく。
 その圧倒的な力を前にして、敵は彼女に近付くことすらできない。抵抗を試みようとした判断が誤りだったと悟っても後の祭り、ナース達の顔はみるみる絶望に染まっていく。
「こ、このままじゃ、まずいわよ~……」
「ど、どうしたら~……そ、そうだわ!」
 それでも何とか生き延びる術を模索したナース達は、この都市の住民達に目をつけた。
 固唾を呑んで戦いを見守っていた人々と、邪悪な笑みを浮かべた吸血鬼達の目が合う。

「貴女達はこいつらを救けに来たのでしょう? だったらこいつらを盾にして~……」
「ひっ……?!」
 抗うすべのない住民を人質にしようと、卑劣な魔の手を伸ばすヴァンパイアナース。
 だが、その手が人々に触れる前に、璃奈の紡ぎあげた呪力の縛鎖が彼女を縛り上げた。
「ぐっ?! な、なにっ……」
「卑怯者に容赦はしない……」
 窮地に陥った敵が人質を取るくらいの行動を、璃奈が予期していないはずがない。むしろそれは彼女の逆鱗に触れるという意味で、およそ考えられる限り最悪の選択肢だった。
 直後に放たれたのは極限まで呪力を強化された【Unlimited curse blades Ω】。全てに終わりをもたらす"終焉"の魔剣が、愚かな吸血鬼の命運にも終止符を打った。

「わたし達が来たからには、ここの人達に手出しはさせない……」
 静かに、かつ断固とした調子でそう宣言しながら、荒ぶる魔剣と呪力を操る璃奈。
 その姿は吸血鬼には恐怖を、そして人々には希望を、深く心に刻みつけていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
山場は超えたけど本番は此処からだね!
さぁ解放の第一歩だ、未来を照らす先触れだ! 盛大に盛り上げていこうか!

【暁と共に歌う者】を発動、85の不死鳥を放ち地底都市を照らそう
《ブームの仕掛け人+全力魔法+歌唱》で響かせる魔性の歌声は吸血鬼に対しては威圧し呪縛する《精神攻撃+ハッキング+恐怖を与える+マヒ攻撃》として、味方や市民に対しては活力と希望を与え加護を授ける《覇気+鼓舞+祈り》として働く
同時に歌声に乗せた魔力で領域を掌握、《結界術+拠点防御》の要領で都市と市民を保護するよ

後は弱体化した敵の動きを《見切り》、《空中戦+ダンス+パフォーマンス》に《早業+怪力》を合わせ鮮やかに仕留めていこう



「山場は超えたけど本番は此処からだね!」
 魔狼との激戦の火照りも冷めやらぬうちに、カタリナは地底都市の内部へと勢いよく飛び込んだ。その顔には消耗を感じさせないような、明るく朗らかな笑顔が浮かんでいる。
「さぁ解放の第一歩だ、未来を照らす先触れだ! 盛大に盛り上げていこうか!」
 いけ好かない支配者気取りどもを退治するのは勿論だが、人々に未来へ進む希望を与えるのは旅芸人としての本分でもある。最高のパフォーマンスを皆に見せつけようと、此度の彼女は大いに張り切っていた。

「“我在る限り汝等に滅びは在らず、即ち我等が宿願に果ては無し――来たれ我が眷属、焔の祝福受けし子等よ!”」
 開幕の口上がわりの詠唱を口ずさんで、カタリナが披露するのは【暁と共に歌う者】。
 その身に宿した魔神の眷属、劫火の身体を持つ不死鳥の群れが、戦場高くに放たれる。
「ッ、眩しい……なんなのですか、これは……?!」
 総勢85羽の不死鳥の羽ばたきは、闇に包まれていた地底都市を真昼の如く照らしだす。
 暖かな炎の輝きと共に嘴から奏でられるのは、美しくも妖しき魔性の歌声。それは吸血鬼に対しては威圧と呪縛を、味方や市民に対しては活力と希望を与える幻惑の歌だった。

「なんだろう、これ……すごくあったかい……」
「こんな気持ちになるのって、初めてかも……」
 不死鳥が運んできた魔神の加護を受けて、都市の人々は不思議な感覚に戸惑っていた。
 生まれてからずっとこの都市に囚われてきた彼らは、地底に自生する光り苔よりも明るいものを見たことすらない。初めて感じる"明るさ"と"暖かさ"――吸血鬼の支配下では知ることもできなかった"心地よさ"を受けて、その表情はだんだんとほころんでいく。
「これが"希望"だよ。キミたちの未来に待っているものだ!」
 不死鳥が紡ぐ魔歌にあわせて、カタリナも楽しそうに歌を奏でる。その歌声に乗せられた魔力は可聴範囲内を彼女の領域として掌握し、ある種の結界術の要領で、吸血鬼の悪意から都市と市民を保護する拠点を作り上げた。

「くぅ……ぴぃちくぱぁちく、やかましいです~……」
 暁と共に歌う者達が人々に希望を与える一方で、ヴァンパイアナースは不快感を露わにする。太陽を想起させる焔の加護も、響きわたる魔性の歌声も、闇と共に生きる彼女らにとっては恐れや嫌悪の対象でしかなく、戦闘力も大幅に弱体化しているのが見て取れた。

「悪いけどキミたちの出番はここまでだ。時代遅れの支配者はご退場願おうか!」
 眩い焔から逃れるように、ふらふらとよろめくナースの頭上からカタリナが急襲する。
 自慢の双翼を羽ばたかせ、踊るような華麗な動きで振るわれるダガーの閃きは、目にも留まらぬ早業で標的の命を刈り取った。
「ギャ……ッ!!?」
「よ、よくも……ッ」
 あの『暴威をふるうもの』と戦った直後では、彼女らの動きなど止まっているも同然。
 様々な医療器具による反撃を容易く見切り、閃風の舞手は鮮やかに敵を仕留めていく。

「きれい……」
 戦場にて披露される美しいカタリナの演武に、いつしか人々はまばたきを忘れていた。
 磨き上げられた技と力が織りなす芸術は、見る者の心に深い感銘を与え――それは地底都市にさらなる希望の反響を広げていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

さて、あの番犬は手強かったが
飼い主の方はどうだろうな?

まずはシルコン・シジョンとオーヴァル・レイを装備
弾幕による制圧射撃と自在に動くビーム砲の攻撃で、敵集団の先頭を潰して出足を挫く

「なるべく派手に」と言うオーダーだったな
ならば…Viens!Conquérant!

UCを発動
パワードスーツに身を包み、レーザーガトリング砲やビームライフルで敵を圧倒する
腐った血の匂いがする病棟も破壊しようか、ここの人々にとってはそこは恐怖の象徴だろうからな
質問と共に現れた同僚ヴァンパイアナース共々破壊しつくそう

ああ、質問にも答えてやろうか
今日はこの都市に蔓延る病原菌を根絶しに来たんだ
手遅れになる前にな



「さて、あの番犬は手強かったが、飼い主の方はどうだろうな?」
 絶望の支配する地底都市へと足を踏み入れながら、余裕のある笑みを浮かべるキリカ。
 問いかけの体を取ってはいるものの、眼の前に立ちはだかる連中からは『暴威をふるうもの』のような威圧感も脅威も感じられない。その態度が不満なのか、ヴァンパイアナース達は眉をつり上げると怒りのままに問いを返した。
「ずいぶん舐めてくれるじゃないですか~……今日はどうされましたか~ッ?!」
 その瞬間、周囲から同僚のナースが次々と召喚され、様々な医療器具を持って襲い掛かる。質問の答えがどうであろうと、彼女らに"患者"を無事に返す気がないのは明らかだ。

「そういきり立つな。まずは小手調べといこう」
 だがキリカはナース達の怒りを意にも介さず、シルコン・シジョンのトリガーを引く。
 同時に卵型の浮遊砲台「オーヴァル・レイ」を飛ばし、銃弾とビームによる制圧射撃を仕掛ける。
「きゃぁッ!?」
 聖なる箴言を込められた弾幕と、自在に動くビーム砲台による攻撃は、敵の出足を挫くには十分な威力だった。集団の先頭にいた吸血鬼が悲鳴を上げ、灰塵となって滅び去る。
 やはり、都市の支配者を気取るこのナース達では、束になっても『暴威をふるうもの』には敵わないだろう。まして、その番犬を討伐したキリカ達猟兵が負ける理由は皆無だ。

「『なるべく派手に』と言うオーダーだったな。ならば……Viens! Conquérant!」
 敵の力量を測り終えたキリカは、まるで特撮ドラマのヒーローのように高らかに叫ぶ。
 すると彼女が纏うバトルスーツ「ヴェートマ・ノクテルト」の上から漆黒の追加装甲が召喚・装着され、重武装強化型パワードスーツ【コンケラント】が完成する。
「その全てを蹂躙してやろう……!」
 一瞬の装着プロセスの後、視界内にてたじろぐヴァンパイアナースの集団をロックオンした彼女は、背部にマウントされたレーザーガトリング砲「Étonnement」、さらに手に持ったビームライフル「Colère」による、壮絶な蹂躙射撃を開始した。

「な、なな、なんですかソレ……ぎゃうッ?!」
「そ、そんなの聞いてな……きゃぁぁぁッ!?」
 地底都市を照らすレーザーの軌跡は、悪しき吸血鬼を滅ぼす破壊の矢。秒間数百発のペースでばら撒かれる死の光は、逃げ惑うヴァンパイアナースを容赦なく撃ち抜いてゆく。
 その圧倒的な力を目の当たりにして、勝てないと悟ったナースの中には建物の中に逃げ込む者もいたが――キリカは躊躇うことなく攻撃を続行する。
「吸血鬼共と一緒に腐った血の匂いがする病棟も破壊しようか、ここの人々にとってはそこは恐怖の象徴だろうからな」
 ライフルの下部に装着されたグレネードランチャーから大型の榴弾が発射され、忌まわしき建物もろとも中にいたヴァンパイアを粉々に粉砕する。敵が何人同僚を喚ぼうとも、Conquérant――征服者の名を冠するそのスーツの強大な火力の前では、誤差の範疇だった。

「ああ、質問にも答えてやろうか」
 会敵の際にナース達からかけられた問いを思い出して、キリカはスーツの中でにやりと笑う。どうされましたかと、ここに来た理由を問われたなら、その理由は1つしかない。
「今日はこの都市に蔓延る病原菌を根絶しに来たんだ。手遅れになる前にな」
 病状はかなり深刻なようだが、幸いにもまだ手の施しようはある。しつこいハエのように人々にたかる病の元凶――ヴァンパイアナースの群れをレーザーの熱線で"消毒"する。
 断末魔と共に敵が蒸発するたびに、地底都市の病状は快方へと近付く。同時にキリカの派手な戦いぶりは、それを見ていた人々の心にも強烈な印象を残したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
……悪いけれど
ボクはキミ達の在り方を許せない

行動 WIZ

【空中浮遊】と【空中戦】を使用
空中で、冷静に・冷徹に・無慈悲な口調で厳かに詠唱
今まで、キミ達がどれだけ殺し、どんな殺し方をしたかは、ボクは知らない
でもね
己が絶対強者であることを良いことに命を弄んだ罪
弄ばれた者達の手によって、裁いてもらうといい

「終焉の怨嗟。憎悪の颶風。廓大し・結び・安寧を欺け。死にその身を窶す復讐者よ、敵を喰らう顎となれ。反逆の黙示録(リベリオン・アポカリプス)」

彼らは、キミ達にとっては取るに足らない弱者だった者達
一時の間、死後の安寧を捨て、復讐のために死を欺き現世に舞い戻った
今度は、キミ達が弄ばれ、絶望を胸に死ぬといい



「……悪いけれど、ボクはキミ達の在り方を許せない」
 そう告げるエウロペの口調には、凍えるような冷たい怒りが宿っていた。地底都市の支配者を気取り、人々の生命を弄び、あまつさえ人を救うための医術を人を傷つけるために悪用するヴァンパイアナース――許す道理が見当たらないとは、まさにこの事であった。
「ふ~んだっ。貴女の許しなんて求めていませんよ~」
 対するナース達は悪びれもせず、挑発的な態度で謎の薬品が詰まった注射器を構える。
 その薬液がどれだけの人間に投与され、また苦しめてきたのかと考えるだけで、エウロペの胸にはさらに熱いものがこみ上げてくるのだった。

「今まで、キミ達がどれだけ殺し、どんな殺し方をしたかは、ボクは知らない」
 でもね、と言葉を紡ぎながらエウロペは杖を構える。ふわりと空中に浮かびながらヴァンパイアナースどもを見下ろす眼差しは冷たく、その周囲には雪と氷がちらつき始める。
「己が絶対強者であることを良いことに命を弄んだ罪。弄ばれた者達の手によって、裁いてもらうといい」
 冷静に・冷徹に・無慈悲な口調で厳かに詠唱し、招き寄せるは憎悪と怨嗟。生を弄ぶ略奪者に、縷々たる苦痛に満ちた死を与える為に、彼女が紡ぐユーベルコードの名は――。

「終焉の怨嗟。憎悪の颶風。廓大し・結び・安寧を欺け。死にその身を窶す復讐者よ、敵を喰らう顎となれ。反逆の黙示録(リベリオン・アポカリプス)」

 荒れ狂う雪と白薔薇の中から姿を現したのは、白骨で造り上げられた巨大な船だった。
 その甲板上に乗船するのは、やせ細りボロを着た何百人という男女の幽霊。その格好はいずれも、この地底都市に暮らす住民達のそれによく似ている。
「な……なぁに、こいつらは……」
「彼らは、キミ達にとっては取るに足らない弱者だった者達」
 幽霊船から感じられる物々しい雰囲気に、さあっと青ざめながらたじろぐナースども。
 エウロペはそんな連中に淡々とした調子で幽霊達の由来を語る。彼らは一時の間、死後の安寧を捨て、復讐のために死を欺き現世に舞い戻ったのだと。

「今度は、キミ達が弄ばれ、絶望を胸に死ぬといい」
 揺り籠の氷姫がそう告げるや否や、骨船の乗組員は怨嗟の叫びを上げながら憎きナースどもに襲い掛かる。その手に持つのは氷でできた注射器を始めとした医療器具の数々――生前、彼らが死に至る理由となった"治療"方法を、そっくり再現するための武器だ。
「ひ……来ないで、くるなっ、やめなさいッ!?」
 ナース達は慌てふためきながら注射器を振り回して抵抗するが、一度死を体験した彼らにはどんな薬も毒も意味はない。数にものを言わせて取り押さえると、冷たい氷の注射針を血管に突き立てる。

「ひギぃ……ッ!!!?!」
 注入されたのは氷点下の魔薬。体内を流れる血液から凍っていく苦しみに悶え、支配者としての威厳もかなぐり捨てて、無様にもがきながら息絶えていくヴァンパイアナース。
 他にも血を抜かれる者、メスで切り刻まれる者。自分たちがしてきた"娯楽"をそのままやり返される形で、彼女らはみな壮絶な苦痛とセットでの死を亡霊から与えられる。
「ゆ、ゆるして、おねがい……っ」
「命乞いをするのなら、ボクじゃなくて彼らにじゃないかな」
 縋りつかんばかりの様子の吸血鬼に触れられないよう、汚らわしいと言わんばかりの態度でエウロペは高度を上げる。仮に彼女が止めたところで、一度解き放たれた死者の怒りは、もう抑えようがなかっただろう。

「たすけ……」
 命乞いの言葉は怨嗟の声にかき消され、亡者の集団の中に吸血鬼達の姿が消えていく。
 これ以上ないほどの因果応報を、もっとも相応しい形で、彼女らは引導を渡されることになった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
あ、ナースさんちょうど良かった!
さっきのわんこ、遊んでたら元気が良すぎて怪我しちゃったんですよー
ほらこことか、こことか……ちょっと診てくれませんか?

痛覚を下げてくれている『defying』の効果をあえて抑えて手当てしもらいます
普段ならどれだけ痛くても我慢しますけど今は我慢しません!

あ、そうそう、そこめっちゃ痛いです……
優しくしてくださいね……痛っった!!(蹴る)【怪力】
あっ、ごめんなさい!思わず手……やなかった足が出てしまいましたっ
我慢するので、もう一回お願いします……
……痛てぇっ!?(蹴る)【カウンター】

もー!優しくしてって言ったやないですか!もういいです後で自分でやりますから!



「な……なによこいつら、強すぎるわ~……」
「本気でこの都市を陥とすつもりなの~……」
 止まる気配もない猟兵達の攻勢に、ヴァンパイアナース達は危機感を覚えだしていた。
 都市の防衛を『暴威をふるうもの』に任せきりだった彼女達の実力では、やはり勝ち目はない。そこにふらりと近付いてきたのは、漆黒の大剣を背中にしょった結希であった。
「あ、ナースさんちょうど良かった! さっきのわんこ、遊んでたら元気が良すぎて怪我しちゃったんですよー」
 敵であるはずのナースの姿を見るなり、彼女は気さくでノリの軽い態度で話しかける。
 いつもなら必要に応じてナノマシン「defying」で痛覚レベルを下げられるはずだが、今の彼女はなぜかその効果も抑えがちにして、負傷が痛むままにしていた。

「ほらこことか、こことか……ちょっと診てくれませんか?」
 ぐいっと衣服をまくって『暴威をふるうもの』との戦いで受けたケガを見せる結希。何かの罠かとも身構えるヴァンパイアナース達だが、真正面からあの魔狼に立ち向かった彼女の傷が深いのは事実で、並みの人間であれば今すぐ安静にするべき重傷に見える。
(これは……チャンスかも……?)
 相手が万全な状態ならばともかく、手負いなら自分らにも勝ち目があるかもしれない。
 そう考えたナース達は内心ほくそ笑みながら「は~い、痛いところはどこですか~?」と、甘ったるい声と笑顔で結希の"診察"を始めた。

「あ、そうそう、そこめっちゃ痛いです……」
 彼女の怪力ならば振りほどくのも容易だろうに、結希はあえて敵の治療に身を任せる。
 しかし痛覚を鈍らせる「defying」の効果は抑えたまま。そんな状態でここのヴァンパイアナースの手当てを受ければ、どんな痛い目にあうかは火を見るよりも明らかで――。
「優しくしてくださいね……痛っった!!」
「ごふッ?!」
 無遠慮で不躾な手が傷口に触れた瞬間、結希は悲鳴を上げながら反射的に足を上げた。
 脚力を超強化する蒸気魔導ブーツ【wanderer】を履いたままの彼女の脚撃は、目の前にいたナースのみぞおちに突き刺さり、サッカーボールのように吹っ飛ばす。

「あっ、ごめんなさい! 思わず手……やなかった足が出てしまいましたっ」
 結希はぺこりと謝るものの、蹴飛ばされたナースは壁に突き刺さって戻ってこない。
 それを見た同僚達は青ざめるが、当の"患者"はなおも彼女らの治療を希望していた。
「我慢するので、もう一回お願いします……」
「そ、そう。ちょ、ちょぉっと痛いかもしれないけど、暴れないで下さいね~……?」
 この調子ならまだ不意をつくチャンスはあるかもしれないと、ナースたちは診察を再開するが――普段ならどれだけ痛くても泣き言ひとつ言わずに我慢できる結希も、今だけはまったく我慢する気が無かった。

「……痛てぇっ!?」
「げふッ!!!」
 また迂闊に傷口に触れてしまったナースが、カウンターのひと蹴りで壁のシミになる。
 彼女は自分達の手に負える患者ではないと、ヴァンパイアナース達が悟ったときには既に遅し。我慢の限界に達した結希はガタンと立ち上がるとぷんすか怒りを露わにする。
「もー! 優しくしてって言ったやないですか! もういいです後で自分でやりますから!」
 抜き放つは魔狼をも屠りし愛剣『with』。一旦キレた患者が暴れだせば『暴威をふるうもの』より遥かに低い戦闘力しか持たないナース達に、それを抑えるのは不可能だった。

「お、落ち着いて~。少しだけチクッとするだけですから~」
「嘘です! 絶対グサッとやるつもりです!」
 注射器片手になんとか宥めようとするヴァンパイアナースを、もはや問答無用とばかりにブッ飛ばす結希。最初からそうすれば良かったのでは? などと問うのは野暮だろう。
 蹴って斬って叩いて殴る。怒れる患者の逆襲によって、それまで数多の患者を弄んできたナース達は「ぎにゃ~ッ?!」と悲鳴を上げて、残らず叩きのめされたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
住人達に希望を持たせるためにも、吸血鬼は駆逐せねばならないが……。
敵がコレでは、傍から見ると酷い絵面なのでは?

敵の攻撃手段が注射器によるものならば、『珠聯璧合』で的を増やそうか。
心苦しいが、精霊達には一撃貰えば自爆するよう言いつけておこう。針が刺さった状態で爆破すれば、注射器の中の薬品は当然、敵にかかるはず。
注射器自体の破片や爆発の余波もある。戦闘能力に乏しい敵を倒すには充分だろう。

僕自身は撃ち漏らしや、逃げようとしている敵を精霊銃で撃ち抜いていくぞ。
一方的な虐殺は趣味ではないのだが、敵のやってきたことを考えるとなぁ……。
どうにも、後味の悪い仕事になりそうだ。

※改変、アドリブ、絡み歓迎



「住人達に希望を持たせるためにも、吸血鬼は駆逐せねばならないが……。敵がコレでは、傍から見ると酷い絵面なのでは?」
 容姿のうえでは見目麗しい女性の姿をしたヴァンパイアナース達を見て、シェーラはあまり気が進まなそうに呟く。猟兵達と対峙すれば相対的に"か弱い"部類となる彼女らを一方的に叩きのめすのは、少年の美意識とは些かそぐわない行為のようだった。
「なにを悩んでいるのですか~?」
「お姉さん達が頭の治療をしてあげましょうか~」
 だが地底都市の住人達は、彼女らの美貌に隠された悪辣な本性を知っている。そして彼女らもまた、敵の戸惑いにつけ込むのを厭うような、殊勝な心がけは持っていなかった。

「躊躇っている暇は無さそうだな。敵の攻撃手段が注射器によるものならば、的を増やそうか」
 注射器を手に襲ってくる敵に対して、発動するのは【彩色銃技・口寄せ・珠聯璧合】。
 各々が"掃除"用の戦闘デバイスを持った、メイド姿の家事精霊達がシェーラの周囲より姿を現し、吸血鬼の集団を迎え撃つ。
「あらあら、あなた達も"治療"をご希望ですか~?」
 増えた精霊も、猟兵よりは与し易い相手だと思ったのだろう。危険な薬品がたっぷりと詰まった注射器を振りかざし、嗜虐的な笑みを浮かべて"患者"の柔肌に突き立てる――。

「お薬の時間ですよ~……ぎゃぅッ!?!!」
 ――その瞬間、ナースの目前にいた精霊は、持っていたデバイスと共に爆発を起こす。
 彼女らは予め、敵から一撃貰えば自爆するようシェーラに言いつけられていた。注射針が刺さった状態で爆破すれば、中に入っていた薬品は当然、敵自身にかかることになる。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁっ?!!!」
 注入した相手の内臓器官を破壊するような強烈な劇薬だ。爆発の余波や注射器の破片に合わせてそんなものを浴びてしまっては、当の製薬者本人でさえひと溜まりもなかった。

「心苦しいが、素早く敵を倒すならこれが一番有効だろう」
 自爆する精霊達には後で謝っておこうと考えつつ、シェーラは戦いの様子を俯瞰する。
 元より戦闘能力の乏しいナース達は、爆発と自分の薬品で壊滅的な被害を被っている。勝ち目がないと事実を突きつけられた彼女らが、撤退を決断するのはすぐの事だった。
「や、やっぱり駄目よ、逃げましょう~」
「悪いが、そうはいかない」
 尻尾を巻いて背中を見せた吸血鬼を、精霊銃より放たれた彩色の弾丸が撃ち抜く。
 爆発の討ち漏らしや逃げようとする敵は、シェーラが手ずから葬る。鮮やかなまでに洗練された彼の「彩色銃技」は、どんな相手だろうと決して的を外しはしない。

「一方的な虐殺は趣味ではないのだが、敵のやってきたことを考えるとなぁ……」
 心に蟠りは残っていても、それで腕が鈍るような未熟な射手ではない。いかに主義に反していようと、ここで彼女らを仕留め損なうのは害しかもたらさない事も理解している。
 複数の銃器を曲芸のように操り、矢継ぎ早に放たれる弾丸は的確にヴァンパイアナースを仕留めていく。だがその光景を見ても、今ばかりはシェーラの心に達成感は乏しい。
「どうにも、後味の悪い仕事になりそうだ」
 それでも住人達のために、為すべきことを忘れずに――少年はトリガーを引き絞る。
 その区域にいた吸血鬼の集団が全滅したのは、それから程なくしてのことであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
派手に戦い住人に解放を印象付ける必要がありますが…
知能持つ相手、人質などの発想に至る前に趨勢を傾けましょう

脚部スラスターUCで都市を疾走
センサーの●情報収集で敵と住人の所在把握
剣や盾を当たるを幸い●なぎ払い格納銃器も展開
●乱れ撃ちスナイパー射撃で強襲
住人に近づくナースから彼らをかばいつつ排除

この装甲、そんな針が通用するとお思いですか
杭打機でも用意することです

(極太注射器抱えた個体出現)

…成程?

剣を一閃●武器落とし
注射器強奪怪力で殴打

注射器掲げ

このような道具を使う輩に命を弄ばれるなどあってはなりません!
ヒトの尊厳ある明日を創る為、立ち上がる時が来たのです!
私達がその道行きをお守りいたしましょう!



「派手に戦い住人に解放を印象付ける必要がありますが……知能持つ相手、人質などの発想に至る前に趨勢を傾けましょう」
 実力的には『暴威をふるうもの』に及ぶべくもない相手でも、トリテレイアは決して油断をしない。脚部スラスターを吹かして滑るように地底都市を疾走し、各種センサーを駆使して敵と住民の所在を把握――現在位置から最も近い目標へと、最短距離で接近する。
「うぅっ……ま、負けませんよ~……!」
 雄々しき【機械騎士の突撃】の勢いにヴァンパイアナース達は既に気圧され気味だが、支配者としてのちっぽけなプライドが彼女らから逃走という選択肢を捨てさせた。騎士が構える剣に比べれば余りに貧相な注射器を武器に、徹底抗戦の構えを取っている。

「この装甲、そんな針が通用するとお思いですか。杭打機でも用意することです」
 疾走の勢いを落とさぬまま敵陣を強襲したトリテレイアは、当たるを幸いとばかりに剣や盾でナース達をなぎ払う。その巨躯に見合った質量とパワーに、それを動かすスピードが伴った突撃戦法は、か細い注射針をへし折り敵を蹴散らしていく。
「きゃあぁぁぁぁぁっ?!」
 都市に響き渡るナース達の悲鳴。たった一合の交戦だけでも、騎士と彼女らの間にある圧倒的な実力差は理解できただろう。しかしトリテレイアはそこで攻撃の手を緩めることはなく、全身の格納銃器を展開して銃弾の雨による追撃を乱れ撃つ。

「ま、まずいです~……こうなったら、適当なゴミを盾にして……」
「そうはさせません」
 住人に近づこうとするヴァンパイアナースの足元に、的確に撃ち込まれる一発の銃弾。
 まるで此方の動きを読んでいたかのような正確な狙撃に、彼女がびくりと背筋を震わせた直後――旋回して住人を庇える位置に回り込んだトリテレイアが、儀礼剣を振るった。
「ぎゃぁっ!!?」
 袈裟懸けに斬り伏せられて灰に還る吸血鬼。機械騎士はそれを確認すると「もう大丈夫です、ご安心下さい」と礼儀正しく住人に語りかける。その騎士然とした振る舞いや大きく頼もしい背中は、吸血鬼の悪意に晒されてきた人々に安心感を与えるのに十分だった。

「だったら、これはどうですか~!?」
 そこに1人のヴァンパイアナースが、自分の背丈よりも大きな極太注射器を抱えてやって来た。いったいどこから持ってきたのだろう、そして何に使うものなのかはさっぱり不明だが、性悪な彼女らのことだ、おそらくロクな理由ではあるまい。
「この針ならあなたも"治療"しちゃいますよ~!」
「……成程?」
 杭打機でも用意することだとは言ったが、まさか杭打機並に巨大な注射器を用意してくるとは思わなかった。しかしその余りにも大きな医療器具はナース本人の手にも余るらしく、重量を支えきれずにヨタヨタよろめいている。

「失礼」
「あっ」
 軽く剣を一閃しただけで、ナース秘蔵の極太注射器はあっさりと彼女の手から落ちた。
 トリテレイアはそれを奪い取ると、怪力任せに思いきり敵を殴りつける。ゴスンという鈍い音と「ぎゃん!!」という甲高い悲鳴が響き渡り、また1人の吸血鬼が灰に還る。

「このような道具を使う輩に命を弄ばれるなどあってはなりません!」
 吸血鬼からもぎ取った注射器を高々と掲げ、トリテレイアは声高に住民へ呼びかける。
 人を救うための医術で人を傷つけ、医療器具を残酷な拷問具や武器に変える――許すまじきヴァンパイアナースの所業から、ただ耐え忍ぶだけの時間は終わりを告げたのだと。
「ヒトの尊厳ある明日を創る為、立ち上がる時が来たのです! 私達がその道行きをお守りいたしましょう!」
 人類の未来と希望を高らかに唱えながら、常に人々の前に立ち、恐れず敵陣に突撃する機械騎士。その言葉と勇姿は、絶望に浸かっていた人々の心に少しずつ火を灯していく。
 "希望"という言葉さえ知らなかった地底都市の住民の間で、何かが変わり始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシア・アークライト
ようやく、この地下都市の主の御登場ね。

今までさんざん人を虐げて楽しんできた貴方達がたったの一撃で死んだりしたら、貴方達に玩具として弄ばれ、殺されてきた人達が報われないわよね。
だから、特別よ。
貴方達には十分に反省する時間をプレゼントするわ。

敵の全身を力場で包み込み、念動力で注射器を取り上げる。
敵が身動きできなくなったことが確認できたなら、UCにより敵の時間を加速。
注射器を心臓に突き刺した後、全身を力場で捻じり上げる。

私にとっての1分は、貴方達にとっての100時間。
時間はたっぷりあるわ。好きなだけ反省の言を述べなさい。

もっとも――。
力場で塞いでいるから外には何も聞こえないけど。



「ようやく、この地下都市の主の御登場ね」
 難敵だった『暴威をふるうもの』を下し、開かれた城門から地底都市に足を踏み入れたアレクシアは、狼狽する吸血鬼共を鋭い眼差しで睨みつける。このヴァンパイアナース達がこれまでにこの地で為してきた悪行は、伝え聞いた限りでも悪辣極まるものであった。
「今までさんざん人を虐げて楽しんできた貴方達がたったの一撃で死んだりしたら、貴方達に玩具として弄ばれ、殺されてきた人達が報われないわよね」
 全身からほとばしる念動力のパワーを陽炎のように発散させつつ、彼女は静かに語る。
 ただゴミのように始末するのは簡単なれど生ぬるい。自分達の役目はこの地にはびこる絶望を打破し、人々に希望を――虐げられ続けてきた彼らの心身を救うことなのだから。

「だから、特別よ。貴方達には十分に反省する時間をプレゼントするわ」
「わたしたち、反省するような事なんて何もしてません~!!」
 アレクシアの宣告に対し、ナースは悪びれもせずに言い返すと注射器を片手に襲い掛かる。都市の人々にも投与してきた謎の薬品で、彼女も"治療"してやろうと言うのだろう。
 しかしその攻撃は魔狼の俊敏さに比べれば、子供がじゃれかかって来るようなもの。アレクシアがすっと手をかざすと、念動の力場に包み込まれた敵はピタリと動きを止めた。

「な、なにこれ……?」
「う、動けない……!」
 ナース達は見えない拘束を解こうともがくが、アレクシアの力場は彼女らごときの力で破れるものではない。そのまま念動力で注射器も取り上げられ、為す術ない状態となる。
 敵が完全に身動き取れなくなったのを確認できたところで、アレクシアは『暴威をふるうもの』相手にも使用したユーベルコード――【時間操作】を発動させる。
「これが私からのプレゼントよ」
 番犬との戦いでは敵を減速させるのに使ったその力で、今度は敵の時間を加速させる。
 力場に閉じ込められたまま、ヴァンパイアナースの体感時間は十倍、百倍、それ以上の速さで流れだす。彼女らの認識上では、突然周りが遅くなったように感じられるだろう。

(な……なにが起こっているの……?!)
 理解が追いついていない連中の青ざめる様子を見ながら、アレクシアは取り上げた注射器を片手に近付いていく。そして無防備な彼女らの心臓目掛けて針を突き刺すと、まるで雑巾を絞るような無造作さで、その全身をギュゥッと捻じり上げる。
「な……なにするの……やめ……やめなさ……あぎいぃぃィィィィッ!?!!!」
 ヴァンパイアナースは注射針が胸に食い込んでいく様子や、自分たちの身体があり得ない方向に捻じ曲がっていく様子を、スローモーションで見ていることしかできなかった。
 自分達が調合した薬品が内部器官を蝕む。ミシミシと音を立てて身体が壊されていく。
 内外から襲いかかる壮絶な激痛に悲鳴を上げても、それはまだ始まりでしかなかった。

「私にとっての1分は、貴方達にとっての100時間。時間はたっぷりあるわ。好きなだけ反省の言を述べなさい」
 アレクシアの視点からは早送りにしたビデオのように、吸血鬼の表情が目まぐるしく変化し悶え苦しんでいるのが分かった。薬品が心臓を止め、力場が肉体を粉砕するまでの短い時間は、ヴァンパイアナースにとっては数日分にも匹敵する長い長い拷問期間と化す。
 それは後悔し、絶望し、心折れるには十分すぎる時間。スローモーションの世界で終わりの見えない苦痛に苛まれる彼女らは、やがて目の前にいる処刑人に懺悔を口にする。
「ゆるして……おねがい……わるかったから……ころして……」
 息も絶え絶えに紡がれたのは介錯を求める言葉。しかしアレクシアは眉1つ動かさない。

「もっとも――。力場で塞いでいるから外には何も聞こえないけど」
 敵が何を口にしようとも意味はなかった。オブリビオンを始末する専門家であるアレクシアが彼女らに与えるのは、一瞬にして永劫の反省と後悔と絶望の時間、ただそれだけ。
 全ては無駄だと悟ったヴァンパイアナース達は、絶え間ない激痛のせいで意識を逃避させることもできぬまま――自分達が弄んできた命の報いを受けることとなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリー・アリッサム
「治療……違うわ」
誰も治ってなんか無いじゃない
誰も助けられてなんて……!

空中浮遊で敵の状況を把握して
退路を塞ぐ様にそっと移動する
数は多いけど大丈夫、わたしも一人じゃない
己を鼓舞して高速詠唱――呼び出すのはあの人

「……ママ」
背後に呼び出した母の霊に祈る
あの悪しきを全て滅する様にと
【蒼炎嵐舞】――己が得物を蒼き炎の礫に変えて
母の霊を毒の花弁に。逃がさないわ
これなら注射も届かないでしょう?

入り組んだ地形ならば辻に炎の罠を投げ放って
幾ら飛ぼうと真っ直ぐ進めない様に
そうして進路を狭めたら
誘き出した吸血鬼に本命を――
特大の焼却魔法を全力多重詠唱を喰らわせる
これで吸血鬼を全て、焼き焦がす
覚悟はいいかしら



「治療……違うわ」
 悪しきヴァンパイアナースがこの都市で為した事を、セシリーは真っ向から否定する。
 鬼灯のように赤いその瞳に、無表情では隠しきれぬほどの、大きな怒りをたたえて。
「誰も治ってなんか無いじゃない。誰も助けられてなんて……!」
 空中から敵の状況を俯瞰する彼女は、ぎゅっと「シリウスの棺」を握りしめながら口元を引き結び――すでに敗退しつつある敵集団の背後を取るように、そっと移動を試みる。

(数は多いけど大丈夫、わたしも一人じゃない)
 ここには仲間の猟兵と、なによりかけがえのない家族がいる――近付いてくる敵影を前にして小さく深呼吸して己を鼓舞したセシリーは、素早くユーベルコードの詠唱を行う。
「……ママ」
 呼び出すのはあの人。背後に伸びる影の中から音もなく姿を現したのは、かつて"忘れ去られし聖女"となった母の霊。一度は怒りへ、災いへ、呪いへと転じたその祈りは今、愛しき娘のもとで再び世界を救済する力となる。

「なに、こいつら……っ?!」
 他の猟兵の攻勢から逃げ延びてきたヴァンパイアナース達は、退路を塞ぐ少女と聖女を見てぎょっと目を丸くする。あからさまな狼狽を見せる彼女らとは対照的に、セシリーは落ち着き払った態度で杖を掲げ、呼び出した母の霊にこう祈りをかける。
「……あの悪しきを全て滅する様に」
 その瞬間、母の霊は無数の庭薺の花びらに。杖は無数の蒼炎の礫と化して、鮮やかに戦場を乱れ舞う。其は闇を払い、遍く悪意を蝕む【蒼炎嵐舞】――すべては彼女と、そしてこの都市の人々の明日を守るために。

「逃がさないわ。これなら注射も届かないでしょう?」
 ここは大通りからは離れた路地の裏。入り組んだ辻々に放たれた蒼炎と花弁は、撤退してきたヴァンパイアナース達にとっては避けようのない罠となり、彼女らを焼き蝕んだ。
「ぐ、ぅ……熱い……苦しい……ッ!!!」
 灼熱の蒼炎は元よりとして、聖女の加護たる庭薺には毒が宿る。傍目には見惚れるほど美しい火の粉と花びらが舞い散る様は、悪しき者たちを殲滅する無情な攻撃でもあった。

「どうしましょう~……?!」
「どうしましょうって……進むしか……ッ」
 それでも他に退路のない吸血鬼は、蒼炎と花弁が吹き荒れるなかを強引に飛び抜け、突破を試みる。だが進路も狭められ、強風に煽られるようなふらふらとしたその飛び方は、セシリーにとってはいい的でしかなかった。
「本命を使うなら、今……!」
 彼女の身体から昂ぶる魔力が蒼茫たる炎となり、凄まじい熱量を秘めた超特大の火球を作り上げる。この一撃で目の前にいる吸血鬼を全て、焼き焦がすために――その熱量と、何より意志の輝きに満ちた少女の眼差しに射竦められ、敵はビクリと背筋を震わせた。

「覚悟はいいかしら」
 冷たく短い宣告と同時に、自らの全力を込めた特大火球を敵群に食らわせるセシリー。
 炎と毒によって力と機動を制限された敵に、それを防ぎ、あるいは避けるすべは無い。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!!?!!!」
 断末魔の絶叫と共に炎に呑まれた彼女らは、灰の一片も残すことなく完全焼却される。
 誰1人としていなくなった路地裏で、散りゆく花びらと火の粉の中、アリッサムの少女だけが、静かな祈りを捧げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…敵は経験が足りないけど数が多い。油断はしないように…

…私が囮になる。釣れた獲物から狩りなさい

UCを発動し十数人の吸血鬼狩人を召喚
全員に叩き込んだ戦闘知識を元に周囲の闇に紛れさせ、
自身は武器改造を施した"写し身の呪詛"を付与

…っ、ヴァンパイアさま、この騒ぎは一体…

…こ、この指は、割れたガラスで切ってしまって…

あ、あはは…。あなた様方のお手を煩わせる訳には…

猟兵の存在感を消す娘の残像を身に纏い、
吸血鬼の第六感に干渉する魔力を溜めた血を指先から滴し、
獲物のふりをして大通りを歩いて敵を誘きだし、
死角から浄化した銀の銃弾を乱れ撃たせて仕留めて回る

…次の地点に向かうわ

…どうしたの?そんな微妙な顔をして…



「……敵は経験が足りないけど数が多い。油断はしないように……」
 ヴァンパイアが支配する地底都市に突入したリーヴァルディはまず、【吸血鬼狩りの業・血盟の型】により召喚した自らの弟子――十数名の吸血鬼狩人達にそう言い含めた。
 改めて釘を刺されるまでもなく、少女が手ずから鍛え上げた彼らに、宿敵たる吸血鬼を前にしての慢心は皆無のようだった。手ずから叩き込んだ戦闘知識に基づいた、闇に紛れ姿を隠すすべも、師にはまだ遠く及ばないものの、なかなかに堂に入ったもの。
「……私が囮になる。釣れた獲物から狩りなさい」
 この様子ならば任せられると判断したリーヴァルディは、教え子達に作戦を伝えると、自らは改造を施した残像操作の呪術――"写し身の呪詛"を付与。か弱い娘の残像を纏い、この地底都市の住人を装いながら、ふらふらとした足取りで大通りに姿を現した。

「ああもう……やってくれたわね……猟兵め……!」
 その頃には既にヴァンパイアナース達は猟兵の攻勢を受けて組織的な抵抗力を失い、散り散りに応戦や撤退を行っている有様だった。すまし顔をする余裕も失い、猟兵への怒りや憎しみを露わにして逃げ延びる彼女らは、ふらりと飛び出してきた少女と鉢合わせる。
「……っ、ヴァンパイアさま、この騒ぎは一体……」
 その少女――リーヴァルディはヴァンパイアナースを見ると怯えたようにびくりと肩を震わせ、顔色を窺うような上目遣いでぼそぼそと問いかける。残像を用い、ただ玩弄されるだけに過ぎない無力な獲物を装った彼女から、猟兵としての存在感は隠匿されていた。

「えぇい、あなたたちには関係のないことで――」
 苛立ち混じりに少女を払いのけようとしたヴァンパイアナースの視線が、ふと一点に釘付けとなる。見れば少女はケガをしているようで、指先からポタポタと血が滴っていた。
「……こ、この指は、割れたガラスで切ってしまって……」
 相手が自分の指を見ていることに気付いた少女は、咄嗟に手を後ろに回すが――この窮地で、美味そうな"糧"を前にした吸血鬼が、食欲を我慢できるはずもない。リーヴァルディはそうした敵の心理も見越して、第六感に干渉する魔力を自らの出血に含ませていた。

「あ、あはは……。あなた様方のお手を煩わせる訳には……」
 弱々しい愛想笑いを浮かべながら、じりじりと後ずさる少女。嗜虐心をそそる小動物めいたその所作に、ヴァンパイアナースは舌なめずりをしながらにっこりと微笑みかける。
「ダメですよ~、どんな小さなケガでも油断しちゃあ。私がちゃぁんと"治療"してあげますから~……さあ、痛いところはどこですか~?」
 いつの間にか周囲には彼女の同僚が現れ、注射器やメスなどの様々な医療器具を持って少女を包囲している。美味そうな血の匂いに誘われたか、彼女らはもはや捕食者としての本性を隠そうともせずに、少女の細い首筋や手首から赤い甘露を吸い尽くそうと――。

「……ええ、本当に。油断してはダメよね」

 ――その直後、戦場に響き渡るのは十数発の発砲音。囮となったリーヴァルディを包囲したヴァンパイアナース、そのさらに外側から敵を取り囲んだ血盟の狩人達が、敵の死角より奇襲を仕掛けたのだ。
「な、ぁ――ッ!!?」
 乱れ撃たれるのは吸血鬼の弱点となる、浄化された銀の弾丸。その身を焼き焦がす白銀の弾幕に、ヴァンパイアナース達は嵌められたことをようやく悟ったものの時既に遅し。
 "写し身の呪詛"を解除したリーヴァルディは、敵が無惨に撃ち倒されていく様を、それまでの演技とはまるで異なる酷薄な表情で見下ろしていた。

「あ……あなたたちは……一体……」
「……我ら、夜と闇を終わらせる者なり」
 事切れる間際の問いかけに、冷然たる調子でそう答え、リーヴァルディは外套を翻す。
 そこにあるのはもう、銀の銃弾に心臓を撃ち抜かれた、吸血鬼達の遺灰しかなかった。

「……次の地点に向かうわ」
 一区域の残敵を掃討したリーヴァルディは、いつもと変わらぬクールな調子で語るが。
 仕留め役を果たしてのけた彼女の弟子達は、戦果を喜ぶでもなく微妙な素振りをする。
「……どうしたの? そんな微妙な顔をして……」
「師よ。やはり囮となるのは貴女よりも私達の誰かで良いのでは……」
 師匠に無力な演技をさせてまで、危険な役を任せるのは気が咎めると、そう言いたいらしい。それを聞いた少女は、そんなことかと言うように、ふっと小さく微笑を浮かべて。
「……最も危険な役だからこそ、私がやるのよ。まだあなた達には任せられないわ」
 そう言われてしまえば、今だ己の未熟を自認する彼らには、納得せざるを得なかった。
 ――その後、闇に紛れて奔走するリーヴァルディと吸血鬼狩人の集団によって、地底都市を支配していたヴァンパイアの残党は、余さず仕留められることとなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『闇に閉ざされた世界に、癒しの光を……』

POW   :    力仕事を手伝ったり、勇壮な英雄談を語る。

SPD   :    破壊させた施設を修復したり、軽妙な話術や曲芸で楽しませる。

WIZ   :    怪我や病気を癒したり、美しい歌や芸術で感動させる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 地底都市に突入した猟兵達によって、都市を支配していたヴァンパイアは殲滅された。
 医療を弄び人々を苦しめていたヴァンパイアナースは、長年の悪行の報いを受ける形となり――闇に閉ざされた地底都市は、ここに邪悪なる支配から解放されたのであった。

 だが、戦いを終えた猟兵達にはまだ、もうひとつ重要な仕事が残っている。
 地上から隔絶されたこの地底都市で、ヴァンパイアに虐げられてきた住民達。
 彼らをここから安全な(それも比較的、という話だが)地上に脱出させなければ。

「ヴァンパイア様を倒してしまった……」
「あなた達は、何者なんですか?」
「一体、どこからやって来たんですか……?」

 地底都市の住民の多くは、今だ自分達が解放された事実を理解していないようだった。
 彼らにとってはこの都市が世界の全てであり、地上世界の存在さえ知らなかったのだ。
 それでも横暴な吸血鬼達を劇的に倒すところを見ていれば、猟兵が味方であることは彼らにも分かる。ただ今はまだ、降って湧いた"希望"に実感を持てず戸惑っているのだ。

 もたもたしていれば、地底都市が制圧された事実は他の都市にもいずれ伝わるだろう。
 残党の逃亡も許さず完全な殲滅に成功したため、情報の伝播には今しばらくの猶予はあるだろうが、いつかは異変に気付いた他都市のオブリビオンが確認のためにやって来る。
 それまでに住民を避難させる必要があるが、長年の圧政を受けてきた彼らは心身ともに深く傷ついており、怪我や病に苦しむ者も多かった。

 まずは彼らに事情を説明し、それから怪我や病を治療し、希望を与える必要がある。
 あのヴァンパイアナースどもが行っていたのとは違う、心身を癒やす本当の"治療"が。
 ここから地上の『人類砦』までは相応の距離もある。今の状態の彼らでは長旅には耐えられないだろう。

 闇に閉ざされた地底都市に、癒しの光を。
 人々の心に、闇に負けない希望の光を取り戻すために、猟兵達は手をさしのべる。
カタリナ・エスペランサ
掃討も一段落。さて、まずはきちんとした手当てからだね
住民たちには【天下無敵の八方美人】の《コミュ力+礼儀作法》で話しかけて信用を得ていこう
アタシたちは猟兵。ここみたいに吸血鬼たちの席巻する外の世界で、皆をその支配から助ける為に戦ってる“ダークセイヴァー”さ

住民からケガ人や病人の事を聞いたらそっちに急行、【衛生兵特級資格】を活かし治療に移るよ
《祈り》加護を与える魔術的な処置と《医術》技能を組み合わせ《救助活動》、すぐに動けない人は《式神使い》で召喚した眷属に運ばせる

知らない事は教えよう、足りないものは補おう
ただキミたちにはこれからの日々を健やかに生きてほしいな
アタシが戦ってるのはその為なんだから


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

やれやれ…オペは終わったか
ならば、次はアフターケアだな

医術で重度の怪我や病に侵された者を見極めたらUCを発動
患部にメダルを当てて対象を治療する
まずは身体を治さなければ気力も萎えたままになるからな

そのままでいいから聞いて欲しい
私達は貴方達を地上へ迎えるために来たんだ

地上に出るのを恐れる者には根気強く説得を行い
吸血鬼の報復に恐怖する者には我々の仲間が必ず助けに行くと約束をする
虐げられてたとは言え彼らにとっては故郷の地でもある
それを捨てる事に渋る者も出るだろうが…吸血鬼共の暴虐に耐えて暮らすよりはマシな生活ができる筈だ

この場所にいる全員を助けたいんだ
だが、まずは身体を治してからだな



「やれやれ……オペは終わったか。ならば、次はアフターケアだな」
「掃討も一段落。さて、まずはきちんとした手当てからだね」
 地底都市に巣食うヴァンパイアナースという病原体を駆逐したキリカとカタリナは、それぞれの武器をしまうと、残された住民の治療や説得のためにさっそく行動を開始する。
 横暴な支配者が突然いなくなったことに、住民には驚きと喜びの狭間で戸惑っている者が多くいる。まずは彼らの信用を得なければ、地上への移住どころの話ではないだろう。

「あなた方は、一体何者なのですか……?」
「アタシたちは猟兵。ここみたいに吸血鬼たちの席巻する外の世界で、皆をその支配から助ける為に戦ってる"ダークセイヴァー"さ」
 おずおずと問いかけてくる住民達に、カタリナは堂々とした態度と笑顔でそう答える。
 光の失われた世界で絶望に抗い希望を取り戻す『闇の救済者(ダークセイヴァー)』。
 自分らもその一員なのだと告げれば、人々はまるでおとぎ話を聞いたような顔をする。
「外の世界……この都市の外にも、人が生きているんですか……?」
「ヴァンパイアと戦う……そんな事ができる人が、他にもいるなんて……」
 外界の情報を得られない環境で、吸血鬼の恐ろしさを心身に刻みつけられてきた彼らには、突拍子もない話のように感じられたのだろう。カタリナも口だけで説明してすぐに理解が得られるとは思っていない。時間は限られているが、ここは根気よく説得すべきだ。

「アタシたちはキミたちを助けに来た。まずはそれだけは信じてほしい」
「ここの住民の中で、怪我や病を負った者はいるか? 私達に診せてもらいたい」
 カタリナに続いてキリカがそう呼びかけると、住民達はまだ半信半疑といった様子ながらも、彼女らを自分達の住居に案内する。人が住む場所としては余りにみすぼらしく不衛生なその家屋には、ボロボロのベッドに寝かせられた傷病者が何人もうずくまっていた。
「ヴァンパイア様にも何度も診ていただいたのですが、一向に良くなる気配がなく……」
「当然だろうね。あんなヤツらの治療じゃ病状を悪化させるばかりだよ」
 【衛生兵特級資格】を持つカタリナは顔をしかめながら、すぐさま傷病者の治療に移る。元は大したことのないケガや病気でも、人を弄ぶのをこよなく愛する吸血鬼達は、時間をかけて症状を悪化させてきたのだろう。容態は深刻だが――まだ手遅れではなかった。

「まずは身体を治さなければ気力も萎えたままになるからな」
 カタリナと同様に医術の心得があるキリカは、横たえられた重症者それぞれの患部を見極めて、妖怪「大蝦蟇」の描かれたメダルを当てる。【秘薬・大蝦蟇之油】と同じ効果を宿したこのメダルには、あらゆる傷をたちどころに癒やし、病魔を消し去る力があった。
「うぅぅ……あれ……?」
「いたく……ない……?」
 その薬効は劇的であり、苦しげに呻いていた病人の顔からは苦痛の色が消え、怪我人の出血は止まり化膿していた傷もきれいに癒える。ユーベルコードがもたらす秘伝の妙薬の力を目の当たりにした人々は、「奇跡だ……!」と目を丸くしていた。

「ここは病人を寝かせておく環境じゃないね。別の場所に移したほうが良さそうかな」
 一方のカタリナも身につけた技能の数々を駆使し、傷病者の救助活動に尽くしていた。
 祈りによって癒やしの加護を与える魔術的な処置と、合理的な知見に基づいた医術を組み合わせた彼女独自の治療は、元々の症状に加えてヴァンパイアナースから受けた"治療"の後遺症も癒やし、明日をも知らない状態だった患者を快方に導いていく。
「ヴァンパイア様の治療と、ぜんぜん違う……」
「こんな気分は初めてだ……」
 これが本当の"医術"と"治療"なのだと知った人々の口から、思わず驚きの声が漏れた。
 患者の容態が安定したところでカタリナは眷属を召喚し、動けない者を外に運ばせる。
 空気の淀んだ不衛生な家屋の中よりも、新しく看護用のスペースを準備したほうが良いだろう。彼女の拠点防衛のスキルがあれば、簡易的なものはすぐに作れるはずだ。

「こーんなスキル、出番が無いならそれが一番なんだけど」
「それが必要とされる機会が多いのも悩ましい話だな」
 設営した看護用の拠点で、互いに肩をすくめ合いつつ治療を続けるカタリナとキリカ。
 重症者の治療がひととおり終われば、次は比較的軽症のケガ人や病人にも治療を施していく。大蝦蟇のメダルの在庫はまだまだあるし、医療器具や医薬品にも余裕はまだある。
「もう助からないと思っていました……」
「あなた方は命の恩人です……!」
 傷病により半ば生を諦めていた者達は、彼女らの献身的な治療に涙を流して感謝する。
 人々の目には優しく手当てを施すふたりの姿が、天使のように見えていたことだろう。

「そのままでいいから聞いて欲しい。私達は貴方達を地上へ迎えるために来たんだ」
 急を要する治療が一段落したところで、キリカは改めて地底都市の住民に語りかける。
 虐げられていたとは言え、人々にとってここは故郷の地でもある。吸血鬼の報復はもちろん、地上に出るのを恐れる者もいるだろう。それでも、ここを出なければ明日はない。
「吸血鬼に襲われても、我々の仲間が必ず助けに行くと約束する。故郷を捨てる事に渋る者もいるだろうが……吸血鬼共の暴虐に耐えて暮らすよりはマシな生活ができる筈だ」
 不安を抱える人々に、キリカは根気強く説得を行う。悪しき吸血鬼を討ち倒し、苦しむ人々を治療した彼女のこれまでの行動の数々が、その言葉に確かな説得力を与えていた。

「知らない事は教えよう、足りないものは補おう」
 そのためにアタシたちは来たんだからと、カタリナもまた朗らかな調子で呼びかける。
 地上での暮らしで心配事があるなら、どんな些細な質問にも答える。傷病の治療の他にも、必要なものがあるなら手配する。彼女の言葉にはけして安請け合いとは思わせないだけの力強さが宿っていた。
「あなた達は……どうして、見ず知らずの私達にここまでしてくれるのですか……?」
 なにか見返りが必要ではないのかという住民の問いに、カタリナは笑顔でこう答えた。
「ただキミたちにはこれからの日々を健やかに生きてほしいな。アタシが戦ってるのはその為なんだから」
 この残酷な世界で、人々に笑顔と希望、そして未来を。それが彼女の偽りのない願い。
 猟兵として、芸人として、魔神の化身として――彼女が戦い続ける理由はそこにある。

「この場所にいる全員を助けたいんだ。だが、まずは身体を治してからだな」
 優しい微笑みを浮かべながらそう言って、また人々の治療を再開するキリカ。カタリナもそれに合わせて、怪我や病を背負った人々の容態をひとりひとり丁寧に診察していく。
 最初は不安や戸惑いばかりだった住民達の心にも、そのうちに段々と変化が起こり始めていた。言葉にしきれないほどの感謝の想いと――まだ知らぬ地上に対する希望と共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
住民達に地上から来た事、ここがどういう場所なのかや人類砦の事など、事情や状況の説明をしつつ、後続でラン達とミア達、メイド6人を呼び寄せ、医療道具と炊き出し(おにぎり、お味噌汁)を持参して合流…。

炊き出しを配る組と医療道具で怪我の手当てをする組に分かれてそれぞれ町の人達に振舞うよ…。

弱った身体を元に戻すには栄養を摂るのが一番だからね…。
地上へ出た後も移住地へは時間も掛かるし、怪我を治しつつ、しっかり体力を回復させないとね…。

後はヴァンパイアナース達が使ってた拠点から使える物資(主に医療道具や薬等)は貰って、移住先へ持って行くようにした方が良いかも…。
この世界じゃ中々手に入り難いだろうしね…。



「わたし達はこの都市の外……地上から来た猟兵だよ……」
 貴女達は何者なのかと問う人々の疑問に答え、璃奈は事情と状況の説明を行っていた。
 住民達が世界の全てだと思っていた地底都市の外に、広大な世界が広がっていること。そこがどういった場所で、こことどう違うのか。これから必要になる情報は数多い。
「地上にも吸血鬼がいて、危険なのは変わらない……でも、各地に吸血鬼の支配が及ばない場所があって、わたし達はそこを『人類砦』と呼んでいる……」
 そうした各地にある人類砦の幾つかが、この地底の人々を迎え入れる準備を整えていると聞いても、住民達はすぐにはピンとこないようだった。芳しい反応はなかなか引き出せないが、そこにふわりと食欲をそそる美味しそうな匂いがどこからか漂ってくる。

「炊き出し!」
「おにぎり!」
「お味噌汁!」

 匂いのしたほうを振り返ってみれば、そこには璃奈の従者であるメイド人形のラン、リン、レンが、大鍋いっぱいの味噌汁と山ほどの握り飯を用意して人々を呼び込んでいた。
 この時のために後続として呼び寄せられた彼女らは、持参した炊き出しの品をニコニコと笑顔で振る舞う。それを目の当たりにした人々の腹が「ぐぅぅぅ~」と大きく鳴った。
「た……食べていいのかい……?」
「弱った身体を元に戻すには栄養を摂るのが一番だからね……」
 璃奈がこくりと頷くや否や、人々は勢いよく握り飯にかぶりつき、味噌汁をすする。塩と米と味噌、それに少々のおかずが入ったシンプルな料理だが、ヴァンパイアの圧政下で満足な糧を得るのも叶わなかった地底都市の住民にとって、それは最高のご馳走だった。

「ケガを診せて下さい」
「すぐに治療します」
「痛くありませんよ」

 炊き出し組とは別の場所では、同じくメイド人形のミア、シア、ニアがケガ人の手当てを行っていた。"治療"という言葉にいい印象のない住民達は物怖じするが、もちろん彼女らの行為は適切な意味合いでの治療であり、間違っても症状を悪化させるものではない。
「ううっ……あれ、痛くなくなった……?」
 最初はビクビクしていた人々も、ミア達の手当てで傷の具合が良くなると、ホッとしたように表情が柔らかくなる。ただ怪我人を無為に苦しめるのが目的だったヴァンパイアナースと、献身的なメイド達とでは、手際の良さも治療の結果も比べるまでもなかった。

「地上へ出た後も移住地へは時間も掛かるし、怪我を治しつつ、しっかり体力を回復させないとね……」
 徐々に皆から明るい雰囲気が広がっていくのを感じて、璃奈は快さそうに目を細める。
 空腹が満たされ、痛みが消えれば、気持ちも自然と前向きになっていくものだ。最初は夢物語のようだった「地上への移住」も、今なら少しは実感をもって考えられるだろう。
「みんなはここをお願い……」
「「はーい!」」
「「お任せを」」
 璃奈は6人のメイドにそのまま炊き出しと手当てを任せると、自らは人だかりから遠ざかる方へと向かう。地底都市の人々が忌避して近寄らないその場所には、かつてヴァンパイアナース達の拠点として使われていた診療所があった。

「使える物資は貰って、移住先へ持って行くようにした方が良いかも……」
 悪しき目的にしかそれを用いなかったとはいえ、ヴァンパイアナースが同族の中では稀有な医療に精通する吸血鬼だったことは事実。その拠点には彼女らが使っていた医療道具や医薬品がまだ大量に残されていた。
「この世界じゃ中々手に入り難いだろうしね……」
 正しく使用すれば多くの命を救えるこれらの物資を、主なき後も放置しておくのは余りに勿体ない。璃奈は綺麗に棚に並べられた薬瓶や器具を回収し、荷物袋の中に押し込む。
 ナースの拠点に備蓄されていた物資には、他にも食糧や清潔な衣類などもある。こうした品々が今後の住民は勿論、移住先の『人類砦』の暮らしで役立つのは間違いなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
「ヴァンパイア様を倒してしまった」
「主任です」
「あなた達は、何者なんですか?」
「主任です」
「一体、どこからやって来たんですか?」
「主任です」
「……」
「主任です」
話が何一つ噛み合っていない。
住民達から怪訝な顔で見つめられる。一人が突っ込もうと思った時、カビパンの声が響く。
「一列に並びなさい」
プレッシャーに負けた住民は一列に並ぶ。

ハリセンを構え、住民達を前から順にしばき始めた。女神のハリセン一撃で怪我が心身が癒されていく。何が起きている、何故こんな事に。脱力感が包んだ住民達も困惑。
しかし、馬鹿馬鹿しさ故に、これからどうすればではなく、何とかなるんじゃ?そんな希望の感情が自ずと湧いてくるのであった。



「ヴァンパイア様を倒してしまった……」
「主任です」
 目の前で起こったことがまだ信じられないといった様子で、呆然と呟く都市の住人達。
 これまで絶対の支配者として君臨してきたヴァンパイアが、外からやって来た者達にあっという間に倒されてしまったのだ。現実を把握しきれない者がいても無理はなかった。

「あなた達は、何者なんですか?」
「主任です」
「一体、どこからやって来たんですか?」
「主任です」
「……」
「主任です」

 人々は近くを通りがかった猟兵に口々に問いを投げかけるものの、話が何一つ噛み合っていない。真面目な質問をする相手としては、その猟兵――カビパンは相手が悪かったと言わざるを得ないだろう。何を聞いても彼女から返ってくるは「主任です」の一言のみ。
「主任とはいったい?」
「主任です」
「あなたのお名前は?」
「主任です」
 終始この調子なものだから、住民達も次第に怪訝な顔で彼女を見つめるようになる。
 とうとう我慢しきれなくなった1人が突っ込もうと思った時――カビパンの声が響く。

「一列に並びなさい」

 謎の「主任です」botと化していたカビパンが初めて口にした意味のある言葉。その瞬間に発せられる異様なプレッシャーに負けて、住民達は言われるまま一列に並んでしまう。
「よし」
 綺麗にピシッと整列した人々を前にして、カビパンが取り出したのは女神のハリセン。
 まるで打席に立つバッターのように、フルスイングの構えでそれを振りかぶり――笑福一閃。スッパーーンッ!! と小気味いい快音を立てて、先頭に立つ住民がしばかれた。

「へぶしッ!!」
「ちょっ!?」
「何をするのですか?!」
 突然仲間がハリセンでしばかれたのを見て、並んでいた住民達はみな吃驚仰天する。
 しかしそれはすぐにさらなる驚愕と、そして困惑へと塗り替えられることになった。
「ああ……なんか、どうでもよくなってきた……」
「「はぁ???」」
 女神の力が宿ったハリセンでしばかれたその者の心身が、キレイさっぱり癒えている。
 身体中にあった怪我の痛みもなくなり、引き換えに妙な脱力感に襲われたその者は、寝ぼけたようなツラでその場にへたりこんだ。

「はい次」
「ふぎゃっ!!」
「べふっ!!」
 そのままカビパンは列に並んだ者を前から順番にしばいて、しばいて、しばきまくる。
 しばかれるたびに癒えていく心身の苦痛。何が起きている、何故こんな事に――住民達はこの不可思議で理不尽な現象を理解できず、脱力感に包まれたまま困惑するばかり。
 しかし、その余りの馬鹿馬鹿しさ故に、彼らの心の中にはこれからどうすればいいかという不安よりも、楽観的な希望の感情が自ずと湧いてくるのだった。

「まあ、何とかなるんじゃ?」
「地上ってのがホントにあるなら、行ってみるのも悪くないかもー」
 最後の1人をカビパンがしばき終える頃には、辺りはすっかりだらけきった空気で満ちていた。不安だの絶望だのといったシリアスな雰囲気をかき消す、ギャグ時空の空気が。
 彼らに必要なのは悲観ではなく、これまでの苦痛を癒やす脱力とお気楽さと前向きさ。
 ひと仕事を終えた【ハリセンで叩かずにはいられない女】は、どこか満足げな表情でハリセンをしまうと、楽観的になった人々を置いてどこかへ去っていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
【虜の軍勢】で「メイド・オン・ザ・ウェーブ」と「メイド・ライク・ウェーブ」で眷属にした「万能派遣ヴィラン隊」(総勢多数)を魔城から召喚。
また、【魔城スカーレット】で城の備蓄から医療品(UDCアース等で買い込んだもの)を運び込んでメイド達に使用を指示。

ヴィラン隊の【あらゆるニーズにお答えします】による【医術】で住民達の健康状態のチェック、怪我の治療、病気の症状に合わせた薬の処方(医療品の市販品)をさせるわ。

本当は早速ヴァンパイアナースの子達にも手伝わせようかと思ったのだけど…住民からすれば今まで散々好き勝手した相手だし、そんな相手が手当てするって言っても流石に住民が不安がったり警戒しそうよね…。



「わたしの可愛い僕達……さぁ、いらっしゃい♪」
 ヴァンパイアナースとの戦いを終えたフレミアは、続いて住民達の救援のために【虜の軍勢】を発動し、己が居城である【魔城スカーレット】に待機する眷属が一員、メイド服に身を包んだ「万能派遣ヴィラン隊」を召喚する。
「ご用命を承ります、フレミア様」
 万能の名に恥じずあらゆるニーズに答えることを信条とした彼女らは、一分の乱れもない所作で主君に頭を垂れる。フレミアは微笑で応じると、忠節なる配下に早速命を下す。

「ここにいる住民達の健康状態のチェック、怪我の治療、それから病気の症状に合わせた薬の処方を。治療に必要になる医療品は、城内の備蓄からの使用を許可するわ」
「かしこまりました」
 ヴィラン隊はもう一度フレミアに拝礼すると、その指示通りに直ちに行動を開始する。
 魔城スカーレットには今回のようなケースに対応できるよう、各世界で集めた物資が保管されている。その中にはUDCアース等の医学が発達した世界で購入した医薬品もあった。

「失礼致します」
「え……あ、貴女たちは……?」
 突然現れたメイドの集団に、目を白黒させる地底都市の住民達。そんな彼らの困惑をよそに、ヴィラン隊は手際よく診察を行い、容態に応じた治療プランを確立し、実行する。
 特に病状の重い者を優先して薬を処方し、怪我人には傷口の消毒や止血を。傷病を患ってはいないが健康状態の芳しくない者には、消化によい食事や点滴で栄養補給をさせる。
「次の方、どうぞ」
「具合の悪い方はどうか仰って下さい」
「薬や医療品には十分な余裕があります」
 てきぱきとして無駄のない、それでいて丁寧なヴィラン隊の治療活動。それは地底都市の住民がこれまでヴァンパイアから受けていた"治療"とは、まったく異なるものだった。

「こんなに楽になったのは初めてです!」
「ああ、ありがとう、ありがとう……!」
 ヴィラン隊の治療を受けた人々はみな、喜びの表情を浮かべて感謝の言葉を口にする。
 肉体の傷や病を癒やすことは、心に刻まれた傷にも良い影響をもたらす。昏く沈みがちだった地底都市の雰囲気も、治療を始める前よりずっと明るくなったように感じられた。
 その様子を眺めていたフレミアはふっと微笑んで、"あの子達"に治療をさせなかったのはやはり正解だったようだと安堵する。

(本当は早速ヴァンパイアナースの子達にも手伝わせようかと思ったのだけど……)
 純粋な医術の腕前は確かなものを持っているヴァンパイアナース。フレミアの眷属となった者たちであればその技を悪用することもなく、有能な看護師にして医師としての活躍が期待できる――とはいえここの住民からすれば、今まで散々好き勝手した相手である。
「そんな相手が手当てするって言っても流石に住民が不安がったり警戒しそうよね……」
「面目次第もございません……」
 ふうと溜息をつく彼女の後ろで、ナース達は恐縮しきった様子でしゅんと頭を下げる。
 眷属になる前とは別人かと疑うようなしおらしさからして、どうやらこの娘達はすっかりフレミアの虜のようだ。

「……とはいえ、せっかくの人手を遊ばせておくのも良くないわね。裏方として薬の運び出しや、カルテの作成なんかをお願いできるかしら?」
「! はい、もちろんです!」
 フレミアがふと思いついたように仕事を与えると、ヴァンパイアナース達はぱっと表情を明るくして城に飛んでいく。これで多少なりと汚名を雪げると張り切っているようだ。
 万能派遣ヴィラン隊の治療活動のほうも変わらず順調で。忠節にして有能な吸血姫の眷属達の働きによって、地底都市に蔓延していた病魔の闇は次第に晴らされていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
わたし達はヴァンパイア達と戦う猟兵です。この地底の外……地上から来ました。

いずれ新たなヴァンパイアが来るでしょう。
だからあなた達は此処から脱出しなくてはいけません。

地上にはヴァンパイアの支配に抗う砦があるのです。
そこにあなた達を虐げる者はいません。
あなた達は自分の為に生きることが出来るのです。

そこへ行く為にもまずは心と身体を癒やさないとです。

残しておいた【癒竜の大聖炎】で周囲の人々の治療を。
治療が終わった人には治療漏れが出ないように、まだ治療を受けてない人を連れてきてもらいましょう。

アマービレでねこさん達を呼んでみんな和ませ、持ち込んだ果物を配り、【歌】と【踊り】でみんなの心を解きほぐします。



「わたし達はヴァンパイア達と戦う猟兵です。この地底の外……地上から来ました」
 横暴なる支配者の突然の死に戸惑う人々に向けて、望は落ち着いた調子で語りかける。
 狭い地底都市の中に閉じ込められて生きてきた彼らには、いきなり多くを語っても混乱させるだけだろう。必要な情報のみに要点を絞って、なるべく明瞭な説明を心がける。
「いずれ新たなヴァンパイアが来るでしょう。だからあなた達は此処から脱出しなくてはいけません」
「ま……また、ここにヴァンパイアが……?」
 事情を呑みこみきれていない人々も、またあの圧政と苦難の日々が再開されると聞かされれば反応は顕著だった。誰だってあんな地獄に戻りたくはない、そのための方策があるとも聞かされれば、興味を引かせるのにも効果的だったようだ。

「ですが……その"地上"という所に行けば、本当に安全なのですか?」
「ヴァンパイアが追ってきたら、また元の暮らしに戻ってしまうのでは……」
 これまで聞いたこともない新天地への移住に、不安を覚える者も当然ながら多かった。
 彼らの不安を払拭するために、望はあえてきっぱりとした力強い調子でこう答える。
「地上にはヴァンパイアの支配に抗う砦があるのです。そこにあなた達を虐げる者はいません」
 絶望の闇と戦う猟兵と、その志に共鳴した闇の救済者(ダークセイヴァー)達が築いた『人類砦』。そこまで辿り着けば、もうこれまでのような辛い暮らしをする必要はない。

「あなた達は自分の為に生きることが出来るのです」
「自分のために……」
「自由に……?」
 望のその言葉は、ヴァンパイアのために"生かされて"いた人々の心に深く染み込んだ。
 これまで考えることもなかった――否、考えることを許されなかった生き方を提示され、人々の目に光が灯る。それを見た望はふっと微笑みながら、炎の玉を手元で踊らせる。
「そこへ行く為にもまずは心と身体を癒やさないとです」
 ヴァンパイアナースとの戦いで残しておいた【癒竜の大聖炎】を操り、周囲の人々を治療する。癒やしと浄化をもたらす竜の焔は、人を焼くことなくその身を蝕む負傷や病、誤った"治療"による後遺症などを、たちどころに焼き祓っていった。

「まだ治療を受けていない人がいれば、連れてきてください」
「ええ、わかりました!」
 治療漏れが出ないようにと望が呼びかければ、治療の終わった住民達が晴れやかな表情で駆けていく。それは肉体的な苦痛がなくなった喜びもあるだろうが、何より精神的な苦痛――闇に閉ざされていた人生に、新しい生き方を示してもらった歓喜が大きかった。
「元気になったら、みんなで地上に行くのです」
 そんな彼らの心を解きほぐすように、望は白いタクトを振って鈴の音を鳴らし、ねこさん達を呼び寄せながら歌い踊る。幼きオラトリオが奏でるその歌声は天上の音色のように清らかで、白翼を羽ばたかせて舞う様は愛らしくも美しいものだった。

「"地上"に行きましょう」
「私たちの生き方を、私たちで決めるために!」
 無邪気に戯れるねこさんに和まされ、天使の披露する舞いと歌に心を解きほぐされて。
 地底都市の人々は瞳に"希望"の光を宿し、口々にそう語り合う。長き支配の絶望から解き放たれて、彼らは今、自らの意思で未来へと歩き始めようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリー・アリッサム
難しい話はちょっと、自身が無いわ
ただ、(あくまで今の所は)もう安全だって事を
ここの人達に伝えないと
それに、遠くまで移動しなきゃならないから……
わたしが今出来る事を、精一杯やるわ

狼狽える人々の一団のの中へ入り
特に怯える子供らの手を取って話を聞く
まずは安心してもらう所から
それから、わたしの事を話すわ
わたしもね、ずっと闇の中にいたの
何度も心が折れそうになった
でも、一人じゃないって、分かったから
だからあなた達も、大丈夫よ

【生まれながらの光】――希望の祈りを込めて
怪我を負った人、心を塞いだ人、一人ずつ
手を取ってそれらを癒していくの
かつてわたしがそうされた様に
今はわたしの番だから……一人でも多く、助け出す



(難しい話はちょっと、自身が無いわ。ただ、もう安全だって事をここの人達に伝えないと)
 うまく事情を説明できるだろうかという緊張を抱きながら、セシリーは人々の様子を見る。都市の支配者がいきなり倒されたことで、住民たちはこれからどうしたら良いのか不安がっている。彼らを導くことができるのは、ここにいる自分たち猟兵だけだ。
(それに、遠くまで移動しなきゃならないから……わたしが今出来る事を、精一杯やるわ)
 耳元につけたアリッサムの飾り――母とお揃いの花にそっと触れて、勇気をもらって。
 すう、と小さく息を吸ってから、セシリーは狼狽える人々の一団の中に入っていった。

「もう大丈夫よ。あなた達を傷つける者はみんなやっつけたから」
 まずは安心してもらう所から始めようと、優しく静かなトーンで語りかけるセシリー。
 あくまで今の所は、ではあるが。逃亡するヴァンパイアナースも全て討伐できたことで、この都市の状況が他の地底都市に伝わるのには時間がかかるだろう。少なくとも住民を避難させるまでの当面の間は、ここは安全だと言って間違いはない。
「ほんと……ほんとにだいじょうぶなの……?」
「もう、いたいお注射されたり、にがいお薬をのまされたりしない?」
 怯えるような表情でそう問いを返してきたのは、まだ年端のいかない子供たちだった。
 絶望に慣れてしまった大人よりも、まだ繊細な感性を残した彼らの恐怖は人一倍だろう。微かに震えるその子らの手を、セシリーは包み込むようにそっと掴んだ。

「怖かったんだよね。あの吸血鬼に辛いことを沢山されて」
「うん……病気になったらどうしようって、いつもこわかった」
「ころんで擦りむいたりしたら、すごくしみるお薬をぬられるの」
 子供らの口から語られるのは、虐待としか言いようのない悲惨な暮らしのエピソード。
 あのヴァンパイアナース達は相手がまだ幼いからと言って情けをかける性格ではなかったらしく、寧ろ泣き喚くさまを殊更楽しんでいたのではないかという節さえ感じられた。
「おとうさんも、おかあさんも、みんな死んじゃった……」
「なきたくても、ないちゃだめなの。ないたら病気かもしれないっておもわれるから」
 目に一杯に涙を溜めながらそう語る子供らの話に、セシリーは黙って耳を傾けていた。
 しゃがんで目線を合わせ、優しく手を取って。これまでは吐き出すことも許されなかった悲しみの数々に、小さく相槌をうちながら。

「わたしもね、ずっと闇の中にいたの」
 子供たちの話を聞き終えてから、セシリーは自分のことを話し始めた。愛する家族や慎ましくも幸福な日々を、ヴァンパイアの侵略によって全て失ったあの日から、彼女の人生には数え切れないほどの苦難があった。猟兵とした覚醒したとはいえ、まだ年若い娘がたった1人で暗夜の世界を旅しなければならなかったのだから。
「何度も心が折れそうになった。でも、一人じゃないって、分かったから」
 彼女がここまで旅を続けられたのは、依頼や戦いを共にする猟兵――そして、魂となっても自分を支えてくれる父と母の愛があったから。どんなに冷たくて、いつ明けるかも分からない闇夜の中でも、希望の光はあるのだと教えてもらった。

「だからあなた達も、大丈夫よ」
 希望の祈りを込めて少女が囁やけば、その身は【生まれながらの光】によって煌めく。
 母から受け継いだ奇跡の力を以て、セシリーは人々を癒やしていく。怪我を負った人、心を塞いだ人、その一人ずつの手を取って、優しく励ましながら。
「あったかい……」
 光に照らされてぽつりと呟いた子供の瞳に、もう絶望の涙はない。
 闇に閉ざされていた人々の心に、セシリーの希望が伝わっていく。

(かつてわたしがそうされた様に、今はわたしの番だから……一人でも多く、助け出す)
 人々を安心させるための穏やかな表情に秘められた決意。奇跡の使用に伴う疲労にも構わず、懸命に癒やしと希望をもたらさんとするその有り様は、正しく聖者の心根だった。
 自分が誰かから受け取ったものを、今度はここにいる人たちに伝えるために――セシリーの献身によって救われた人々は、この日見た彼女の姿を、きっと生涯忘れないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
降って湧いたような希望を、外部のボクらが叫んだところで心には響かないだろうから
まずはしっかりと治療からだね

行動 WIZ

最終的には、清浄なる魔力の調和(クラルス・コンコルディア)での完全回復を、とは思うけれど、その前に

ボクの手持ちのアイテムのアスクラピウス(野営道具)を展開
簡易な野外病院で【救助活動】しつつ、【医術】による治療を行うよ
じっくり1人1人を【慰め】、【鼓舞】することも忘れずに
長年の圧政の影響は、深刻だと思う
身体さえ癒やせればいいというわけでもないし、
心だけで動けるほど、希望というものに馴染みがないはずだから

しっかりと、己の意思で進む決心が付くまで寄り添って、
それから完全回復だね



「降って湧いたような希望を、外部のボクらが叫んだところで心には響かないだろうから」
 突然のことにまだ戸惑っている人々に、助かったのだという実感と、猟兵は信用できるという認識を持ってもらうために。エウロペは手持ちのアイテムの中から「アスクラピウス」を展開する。
「まずはしっかりと治療からだね」
 持ち運ぶ際には魔力によって縮小されているそれは、広げれば一通りの診療設備や寝泊まりのための寝袋が常備された、簡易な野外病院となる。医術の心得もある彼女はまず、ここで治療を行いながら人々との交流を深めるつもりだった。

「それじゃあ、傷を見せてもらえるかな」
「は、はい……」
 アスクラピウスにやって来た人々は、おっかなびっくりといった様子で診察を受ける。
 彼らにとって病院や医者と言えばあのヴァンパイアナースをイメージするのだろうから、警戒されるのは仕方ない。なるべく緊張を解きほぐすようにエウロペは微笑みかける。
「心配しなくても、あの吸血鬼なんかよりも腕は確かなつもりだよ」
 弱者の命を弄ぶことにしか眼中になかった連中とは、比べられることすら業腹だが。ともかく彼女は用意してあった医療具を使って、人々に正しい意味での治療を施していく。

「今日までよく耐えてきたね。この傷も、すごく痛かったはずなのに」
 乱雑に縫われ化膿させられた患者のケガを診て、慰めるように語りかけるエウロペ。
 誤った処置を正して適切な治療を施しながら、彼らの苦難をねぎらい励ましていく。
「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます……!」
 彼女の治療を受けた人々は口々にお礼を言い、中には感極まり涙を流す者さえいた。
 身体の痛みが消えたからだけではない。患者を慮るエウロペの優しい言葉が、彼らの心に染みたのだ。

(長年の圧政の影響は、深刻だと思う)
 外界から隔絶され、吸血鬼に支配されたこの都市で、人々が味わってきた受難は察するに余りある。身体的にも、精神的にも、彼らが受けてきた傷は絶望するのに十分過ぎた。
(身体さえ癒やせればいいというわけでもないし、心だけで動けるほど、希望というものに馴染みがないはずだから)
 彼らがここから外の世界へ踏み出せるようになるには、心身両面のケアが必須となる。
 だからエウロペはやって来た患者の1人1人をじっくりと慰め、鼓舞することを忘れない。それはとても根気のいることだったが、だからとて彼女は投げ出したりはしない。

「俺達……皆さんが言ってた"地上"ってところに、行ってみようと思います」
「ここでヴァンパイアに怯えているより、新しい世界で頑張ってみたいから」
 やがて人々はただ状況の変化に戸惑うのではなく、これからの事について前向きな意見を口にするようになる。それは彼らに寄り添い続けてきたエウロペの献身の成果だった。
 しっかりと、己の意思で進む決心が付いたのを見て、少女は満足そうな表情を浮かべ――"治療"の最後の締めくくりとして【清浄なる魔力の調和】を発動する。

「我が癒し手の魔力(マナ)を贄に。かの者の傷よ、調和せよ、調和せよ、調和せよ」

 ひらひらと野外病院の上空から降りしきる氷の結晶が、人々の病や傷を癒やしていく。
 辺りには完全回復した人々の喜びの声があふれ、エウロペの元には数え切れないほどの感謝の言葉が送られる。そこにはもう、彼らの未来を閉ざす絶望は影も形もなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
戦いを見てた人達はきっともう大丈夫
私達を信じてくれるはず
でも、ずっと苦しめられて来た人達やけん
さっきの喧騒に怯えて、まだ家から出て来れてない人もいるかもしれない
…with。ちょっとお散歩してみよう

人気の無い方に向かって歩く
人の気配に注意して…あ。あの家はまだ誰か居るみたいやね?
…こんにちはー。ちょっと道に迷っちゃって…
あれ、怪我してるんですか?もし良かったら私に手当てさせて貰えません?よく怪我するから慣れてるんです。ほら。
綺麗に巻かれた包帯を見せて

慣れた手つきで応急処置をしつつ
…ね、外に出てみませんか
みんなに紹介したい人達が居るんです
希望を信じて、闇と戦う砦の人達
…世界は、絶望ばかりやないよ



(戦いを見てた人達はきっともう大丈夫。私達を信じてくれるはず)
 地底都市を解放するための戦いを終えた結希は、ほっと息を吐きながら辺りにいる人々の様子を見る。事態が飲み込めずに戸惑う者、不安そうにする者、態度は様々ではあるが、自分たち猟兵に不審や疑惑の眼差しを向けるような者はいない。
(でも、ずっと苦しめられて来た人達やけん。さっきの喧騒に怯えて、まだ家から出て来れてない人もいるかもしれない)
 そう考えた彼女は「……with。ちょっとお散歩してみよう」と背負った愛剣に囁きかけ、人気のない方に向かって歩いていく。どこかにじっと隠れ潜んでいる住民はいないかと、人の気配に注意しながら。

「……あ。あの家はまだ誰か居るみたいやね?」
 火が消えたような寂しい通りを歩くうち、結希は一軒の建物に目をとめる。廃屋なのではと疑いそうになるほどボロボロの家だが、窓の隙間からは微かに明かりが漏れていた。
 コンコンと扉をノックしてみると、中から閂を動かす音が聞こえ、くたびれた印象の女性が顔を覗かせる。
「どちらさまですか……? 見覚えのないお顔ですが……」
「……こんにちはー。ちょっと道に迷っちゃって……」
 警戒している相手になるべく良い印象を与えようと、朗らかな表情で話しかける。それとなく観察してみると、その女性の腕に血のついた包帯が巻かれているのが目についた。

「あれ、怪我してるんですか?」
「え……ち、違います、これはっ」
 指摘を受けた女性は慌てた様子で腕を後ろに隠す。この都市ではどんな些細な怪我でも発覚すればヴァンパイアの"治療"を受けなければならない。それを恐れての反応だろう。
 やはり彼女はまだ、この都市のヴァンパイアが猟兵の手によって倒されたことを知らないのだ。それを確認した結希は、怯える女性にある提案をする。
「もし良かったら私に手当てさせて貰えません? よく怪我するから慣れてるんです。ほら」
「え……?」
 綺麗に巻かれた包帯を見せると、女性はきょとんと目を丸くする。勝手に手当てなんてしたら、ヴァンパイアの定めた法に背くことになるのに――だが、にこやかな笑顔とじくじくと疼く腕の痛みに負けて、よく分からないままお願いすることにした。

「わ、痛そう。我慢しないでちゃんと手当てしないとダメですよこれ」
 古い包帯を取り替えて慣れた手つきで応急処置をしつつ、女性に話しかけ続ける結希。
 その行為が吸血鬼の"治療"とは異なるちゃんとしたものだと分かれば、女性のほうも少しは彼女に気を許した様子で、おずおずとしながらお礼を言う。
「……ありがとう」
「いえいえ。化膿しちゃう前で良かったです」
 清潔な白い包帯をくるりと巻き終えて、処置を終えた結希はにっこりと笑う。
 その憂いのない表情につられて、女性も小さくはにかむような笑みを返した。

「おかーさん、だいじょうぶ……?」
 すると家の奥から、女性の子とおぼしいまだ小さな子供が、ひょこりと顔を覗かせる。
 どうやら結希のことを不審者やヴァンパイアの手先でないかと警戒して、隠れているよう言いつけていたようだ。女性は「疑ってすみません」と謝るが、結希はいいですよと気にしていない調子で答え、代わりにまた新しい提案を持ちかける。
「……ね、外に出てみませんか。みんなに紹介したい人達が居るんです」
「紹介したい人……? それは、どんな方なんですか?」
「希望を信じて、闇と戦う砦の人達です」
 この地底都市の外にも人はいて、ヴァンパイアの支配に抗っていることを語る。自分たち猟兵もその一員で、ここに来たのは彼女らを『人類砦』に迎えるためだということも。

「……世界は、絶望ばかりやないよ」
 ここに閉じこもっていては見ることのできない希望が、外の世界にはたくさんある。
 私達がそこに連れていきますから――と、手を差し伸べる結希を、女性と子供はまるで夢でも見ているような表情で見つめていた。
「……急な話で、何がなんだか分かりません……でも……」
 信じたいという想いがほんの少しでもあったから、女性は差し伸べられた手を取った。
 信頼の証として握られたその手を、結希は嬉しそうに笑いながらしっかりと引いて、仲間のいるところまで彼女たちを案内するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
よし、最後の仕上げというわけだね
生憎医学的な治療は不得手だから、それは人に任せるとして……
ボクは人々を奮い立たせる方に力を向けよう

「今日の戦いで分かってくれただろうか。吸血鬼達は絶対不可侵の支配者じゃない。戦い、勝つことも可能な存在に過ぎないんだ!」
「無論、容易な話じゃないさ。でも、皆で知恵と力を合わせて抵抗すれば、ただ嬲られ搾取されるだけじゃない結末を迎えられるとボクは信じているし、キミ達にも信じて欲しい!」
「外の世界――地上には、そうやって吸血鬼と戦う人達の砦がある。そこならここより安全だろうし、望めば戦いにも加われる」
「だから皆、ちょっとだけ頑張ってほしい。皆で希望の地に歩いて行こう!」



「よし、最後の仕上げというわけだね」
 ヴァンパイアとの戦いに勝利を収め、ヒーローの勇姿をこの地に知らしめたジュリアは休む間もなく、人々の救援と説得という今回の依頼の肝心となる仕事に取り掛かった。
(生憎医学的な治療は不得手だから、それは人に任せるとして……ボクは人々を奮い立たせる方に力を向けよう)
 傷ついた肉体を癒やすのは苦手でも、絶望に沈んだ人々の心に希望の火を灯すことはできる。それがヒーロー――悪に立ち向かう者の使命であり、本領発揮でもあるのだから。

「今日の戦いで分かってくれただろうか。吸血鬼達は絶対不可侵の支配者じゃない。戦い、勝つことも可能な存在に過ぎないんだ!」
 治療を受けた人々を地底都市の広場に集め、ジュリアは通りのよい大声で演説を行う。
 彼女をはじめとする猟兵の戦いを見ていたなら、その言葉を疑う者はいないだろう。どうあっても敵わないと思っていたヴァンパイアが、まるでおとぎ話の悪役のように倒されるところを、彼らははっきりと目の当たりにしたのだから。
「無論、容易な話じゃないさ。でも、皆で知恵と力を合わせて抵抗すれば、ただ嬲られ搾取されるだけじゃない結末を迎えられるとボクは信じているし、キミ達にも信じて欲しい!」
 特別な力を持ったジュリアたち猟兵ですら、苦戦を強いられるようなヴァンパイアはいる。それでも決して諦めなかったからこそ、この地底都市を解放することもできた。どれほど強大な敵でも、皆で協力すれば打ち破れない相手はいないのだ。

「外の世界――地上には、そうやって吸血鬼と戦う人達の砦がある。そこならここより安全だろうし、望めば戦いにも加われる」
 猟兵の戦いに感化され、共にヴァンパイアの支配に抗おうと決意した闇の救済者達(ダークセイヴァー)。彼らが築き上げた『人類砦』についてジュリアが熱く語ると、最初は実感のない夢物語を聞いているようだった地底都市の人々の表情も次第に変わってくる。
 ジュリアの発した言葉を通じて、情熱という名の炎が燃え移ったように。胸にこみあげる熱いものを感じた人々は、いつしか彼女から目を離せなくなっていた。

「ヴァンパイアに支配されない人類の砦……本当にそんな所が……?」
「あるさ。だってボク達はそこから来たんだから」
 他ならぬ自分らがその証明だと、胸を張ってジュリアは言う。すでに地上各地にある幾つかの『人類砦』では、地底の住民を受け入れるための準備を整えてくれているはずだ。
 決して豊かとまでは言えないが、それでもこことは比べものにならない生活ができるだろう。少なくともそこでは怪我や病に罹っても、"治療"されることに怯える必要はない。

「だから皆、ちょっとだけ頑張ってほしい。皆で希望の地に歩いて行こう!」
 【立ち上がれ良き人々よ、希望の光はここにある】――ジュリアの演説から小さな勇気を受け取った人々は「やるぞ!!」「おおーっ!!」と大きな声で彼女の号令に応えた。
「もう、俺たちはヴァンパイアの言いなりになんてならない!」
「希望っていうのが本当にあるのなら、どこへだって行くわ!」
 皆が絶望に立ち向かう意思を持つことが、希望への第一歩になる。そう信じているからこそ、ジュリアは眩しそうに目を細めながら、彼らの立ち上がる姿を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(比較的健康な住人集め)
地上への道行は女性や子供、老人にとって酷な物
出発には万全の体勢が必要です
その為の物資の収集にご協力を願います

彼ら彼女らをこれから護るのは皆様です
頼りになる所を見せて上げてください

UCで吸血鬼の居住区探査、物資集積状態把握
それに従い医療品、食料を優先し運び出し

(重量ある芸術品持ち出そうとする一幕に出くわし)
そこの方

…旅で嵩張らぬ貴金属の方が宜しいかと
後で集積所にご案内しましょう

そして非常時故、許されることお忘れなきよう
懐のそれ
同じ真似を見逃す程地上も余裕はありませんよ

明日の糧得る為の略奪…戦しか能無き騎士の限界ですね

いえ
創造に治癒…彼らの手で為される未来の為
今は出来る事を



「皆様、よく集まってくださいました」
 地底都市の広場に呼び集めた住民達の前で、トリテレイアはまず最初に感謝を述べた。
 集められたのはここの住民の中でも比較的健康で体力のありそうな者達だ。人々の治療や説得が順調に行われている中で、彼は段階をもうひとつ先に進めようとしていた。
「地上への道行は女性や子供、老人にとって酷な物。出発には万全の体勢が必要です。その為の物資の収集にご協力を願います」
 食糧、衣類、医薬品。長旅が予想される『人類砦』までの移動に必要となるものは、両手で数えても足りないだろう。猟兵の中には自前で物資を持ち込んできている者もいるが、それでも不足するものはこの都市内から持ち出すほかにない。

「彼ら彼女らをこれから護るのは皆様です。頼りになる所を見せて上げてください」
 トリテレイアからそのように発破をかけられれば、彼らも奮い立たざるをえない。吸血鬼の支配下だったこれまでとは違い、自由になるとはその分の責任を負う事なのだから。
「けれど騎士様。俺たちが持ってる食糧なんかをかき集めても、この町に住んでる全員分にはとても……」
「問題はありません。物資の回収場所については既に当たりを付けてあります」
 一般市民が貧しい暮らしを強いられている都市でも、モノはある所にはあるものだ。
 それは即ち、この地底都市の支配者だったヴァンパイアナースの居住区の事である。
 トリテレイアは事前に【自律式妖精型ロボ 格納・コントロールユニット】から発進させた妖精型ロボにこの区域を探査させ、物資が集積されているポイントを発見していた。

「こちらです」
「うわぁ……!」
 騎士と妖精に案内された先で人々が目にしたのは、これまでに一度も見たこともないような豪華な部屋といかにも高価そうな調度品。クローゼットにはたくさんの綺麗な衣服が詰め込まれ、食料庫には山程の肉やパン、そして棚には貴重な医薬品の瓶が並んでいる。
「まずは病人に必要な医療品、それから食料を優先し運び出してください」
「わ、わかりました!」
 自分達が塗炭の苦しみにあえいでいる中、ヴァンパイアはこんな豊かな暮らしをしていたのか――今更ながらにふつふつと湧き上がる怒りを感じながらも、人々はトリテレイアの指示のもとで物資の回収を行う。家主が討伐された今、それを咎める者は誰もいない。

「作業は順調なようですね……そこの方」
「は、はいっ?!」
 要所で手を貸しながら人々の様子を見て回っていたトリテレイアは、ふと壁にかけられていた大きな絵画を持ち出そうとする一幕に出くわす。声をかけられた男はギクリと肩を跳ね上がらせ、バツが悪そうな顔に冷や汗をたらす。
「え、えぇと、騎士様。これはその、つい出来心で……」
「……旅で嵩張らぬ貴金属の方が宜しいかと。後で集積所にご案内しましょう」
「……へっ?」
 叱られるとばかり思っていたところに予想外の事を言われて、思わず目を丸くする男。
 トリテレイアとて窃盗に寛容なつもりはないが――これからの地上の生活に、食糧や薬の他にも先立つものが必要となるのは事実だった。重量のある芸術品よりも楽に運べる宝飾品類を、強欲なヴァンパイアたちが溜め込んでいたのはもっけの幸いだった。

「そして非常時故、許されることお忘れなきよう」
 やむを得ぬことを認めつつも、トリテレイアは彼らがこれに味を占めないよう釘を刺しておくのも忘れない。自由を得た人々が盗人に堕落するようなことがあってはならない。
「懐のそれ、同じ真似を見逃す程地上も余裕はありませんよ」
「き、肝に命じます……」
 全てお見通しのうえで目溢された手癖の悪い男は、反省した様子で立ち去っていった。
 それを見送ったトリテレイアは改めて周囲を見回す。目配りが利いているおかげで手荒な事にはなっていないが、現状の行為を客観的に言い表せばやはり空き巣か略奪だろう。

「明日の糧得る為の略奪……戦しか能無き騎士の限界ですね」
 戦いのために創られたこの手と思考回路では、人々に示せる道はこれがやっとだった。
 せめて道を外さぬように指導しつつも、晴れやかな気分にはなれない。本当にこれが正しかったのだろうかという疑問も一瞬、脳裏をかすめるが――。
「いえ。創造に治癒……彼らの手で為される未来の為、今は出来る事を」
 けして清廉とは言えぬ手段でも、それで彼らの明日が繋がるのであれば構いはしない。
 この行為を糧として、彼らがより善き未来を紡いでくれることを信じて、機械仕掛けの騎士は回収作業を続行するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
彼等を解放したのは良いが……さて、何から手を付けたものか。

まず必要なのは治療だろうか。それから、安心感を与えること。
『信じるものは報われる』。対象は治療の必要なもの全員だ。
先程の戦闘から、医療行為自体に忌避感を持っているものがいるだろうことは想像に難くない。このUCならば僕が直接触れる必要はないし、寝ている間に回復させてしまえる。患者にしてみれば、寝て起きたら元気になっていた、ぐらいの感覚のはず。不安を与えることもないだろう。

人類砦に向かうまでには、少し猶予がある。
まずはゆっくり休むといい。

※改変、アドリブ、絡み歓迎



「彼等を解放したのは良いが……さて、何から手を付けたものか」
 事情の説明、今後の説得、傷病者の治療。戦いを終えても山積する問題を頭の中で並べ、どれから片付けるべきかとシェーラは思案する。稼ぎだした猶予は焦るほど短くはなく、されど悠長にしていられるほど長くもない。迅速かつ的確にこなしていく必要がある。
(まず必要なのは治療だろうか。それから、安心感を与えること)
 そう考えた彼はやつれた人々の元へと向かうと、静かにユーベルコードの詠唱を紡ぐ。
 【戯作再演・信じる者は報われる】。それは人に安らかな夢と癒やしをもたらす、慈愛の光を放つ術式だ。

「母の腕に抱かれるように。暖かな日差しに誘われるように。微睡みの中に光を夢見て。眠れ、愛し子よ」

 少年から放たれる光は陽だまりのように優しく暖かく、柔らかに人々を包み込んで眠りへと誘う。抵抗する余地もなく意識を失った彼らの表情は、みな安らかなものだった。
(先程の戦闘から、医療行為自体に忌避感を持っているものがいるだろうことは想像に難くない)
 このユーベルコードならばシェーラが直接触れる必要はなく、寝ている間に回復させてしまえる。患者にしてみれば、寝て起きたら元気になっていた、ぐらいの感覚のはずだ。

「人類砦に向かうまでには、少し猶予がある。まずはゆっくり休むといい」
 人々に不安を与えることなく、安らかな癒やしのまどろみをもたらしていくシェーラ。
 眠りに落ちた人々はどんな夢を見ているだろうかと、すこし気になって顔を見てみる。
 横暴なヴァンパイアの圧政に虐げられ、怪我や病に苦しみ、明日をも知れぬ生を送ってきた地底都市の住民。その口から紡がれる寝言は、彼らのささやかな願いであった。
「むにゃ……おなかいっぱい……もうたべられないよ……」
「おかあさん……びょうき……なおったよ……」
 食べるものがあって、家族がいて、なにより健康的な暮らし。それは本当なら人が生きるうえで当たり前の――だが、この世界においてはどうしようもなく手にしがたい生活。

「……叶うとも。きっと」
 ほっそりとしたシェーラの手が、眠っている人らを優しい手つきで撫でる。この地底都市から地上に――『人類砦』に移り住めば、そうした暮らしも決して夢ではないはずだ。
 目を覚ましたら地上の話をしよう。そこも地底と同じで辛いことは絶えないが、それでも覚えている楽しい出来事を、なるべく多く。彼らが地上に希望を抱いてくれるように。
「夢の続きは地上で、だな」
 まどろむ人々にそっと毛布をかけてやると、少年はその枕元でそっと子守唄を奏でる。
 透き通るように美しく、そして優しい歌声が、地底都市の静寂を満たしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
UCを発動して"写し身の呪詛"を武器改造し、
"誘惑、舞踏、道化師、軍略、演者"の呪詛を付与

猟兵や吸血鬼の●演技をした残像達に●団体行動を取らせ、
●ダンスや●パフォーマンスを交えて●存在感を放ちつつ、
猟兵や地上の説明しつつ地上に向かうように●誘惑する

…これより語るはこの天井よりも高き世界の物語

…彼の地もまた闇に覆われ、悪辣な吸血鬼共が人類を支配していた

…百年の長きにわたる支配に変化が訪れたのは二年前…
何処からか現れた英雄…猟兵が支配者を討ち始めたこと

…解放された人々は猟兵達のように支配に抗う道を選んだ

希望の地、人類砦を築き圧政に怯えず自由に生きる為に…

そして猟兵達が解放した人々を受け入れる為に…



「師よ。言われた通り、町の人達を集めてきました」
「……ありがとう。これだけ集まれば十分ね」
 地底都市の中心にある大きな広場で、リーヴァルディは弟子達と言葉を交わしていた。
 その周りには呼び寄せられた町の住民達が集い、一体何が起きるのだろうかと興味深そうにしている。その中には既に、猟兵から傷病の治療を受けた者も混ざっているようだ。
「……それじゃあ始めましょう。……術式換装」
 十分に人が集まったところでリーヴァルディは【吸血鬼狩りの業・千変の型】を発動し、"写し身の呪詛"にて作り上げた残像に呪詛の術式を付与する。その内容は人々を魅了する"誘惑"や"舞踏"、耳目を引きつける"道化師"や"演者"、はたまた"軍略"など様々だ。

「……これより語るはこの天井よりも高き世界の物語」

 術式を纏った残像の"役者"達を広場に並べて、リーヴァルディは開幕の口上を述べる。
 彼女のそれは猟兵や地上世界についての説明を、一種の演劇風に仕立て上げたものだ。
「……彼の地もまた闇に覆われ、悪辣な吸血鬼共が人類を支配していた」
 吸血鬼に扮した残像が、広場の中心で笑みを浮かべる。ゾッとするほどに酷薄で、しかし妖艶さをも感じさせる迫真の演技に、人々は震え上がりながらも目を逸らせずにいた。
 残酷な"吸血鬼"の領主はか弱い"民"を虐げる。ただ言葉で語るだけでなく残像のパフォーマンスも交えることで、少女の解説はより人々の心に印象付けられる。

「……百年の長きにわたる支配に変化が訪れたのは二年前……何処からか現れた英雄……猟兵が支配者を討ち始めたこと」
 広場の中心にまた新たな役者が躍り出る。"猟兵"の役を与えられたその残像は、勇ましい身振りで武器を構え"吸血鬼"と刃を交える。まるで踊るように華麗な殺陣に、人々は思わず手に汗を握り――激しい攻防のすえ、ついに"猟兵"は"吸血鬼"の領主を討ち倒した。
「……解放された人々は猟兵達のように支配に抗う道を選んだ」
 "猟兵"は虐げられていた"民"に手を差し伸べ、立ち上がった"民"は感謝を仕草で示す。
 両者は互いに手を取り合って、それからも悪しき"吸血鬼"に立ち向かっていく。彼女らの周りにはやがて1人、また1人と仲間が増え、やがて大きな集団となっていった。

「希望の地、人類砦を築き圧政に怯えず自由に生きる為に……」
 それが闇の救済者達(ダークセイヴァー)が築き上げた『人類砦』の成り立ちである。
 今や吸血鬼の暴威にも屈しない、確たる拠点を作りつつある"猟兵"と"民"たちは、今度はその手を観客側へ――この公演を見ていた地底都市の住民達に向かって差し伸べる。
「そして猟兵達が解放した人々を受け入れる為に……」
 舞台を締めくくるリーヴァルディの言葉と共に、残像達の仕草は「共に行こう」と、都市の住民達を誘っているように見えた。いつしかすっかり彼女らのパフォーマンスに引きつけられていた人々は、驚きながらもその手から目を離せなかった。

「わたしたちも……連れて行ってくれるの?」
「……決めるのは貴方達よ」
 地上の人々のように抗うのか、それとも服従を続けるのか――道を選ぶのは本人の意思だと、リーヴァルディは決断を促す。人々は微かに迷うような素振りを見せたものの、ここまでの説明を聞いて、また猟兵の行いをその身で実感した彼らの答えは決まっていた。
「……行きます。僕たちも地上に」
「もう、支配されたままでいるのは嫌だから」
「自由に生きるために、私達も抗います!」
 力強い決意を口々に叫び、立ち上がる地底都市の人々。そこにいるのは吸血鬼の搾取と支配を受けるただの奴隷達ではなく、新たな闇の救済者達(ダークセイヴァー)だった。

「……歓迎するわ」
 普段表情に乏しいリーヴァルディの口元に、優しげな微笑が浮かぶ。
 絶望の支配から脱し、希望の光を心に宿した人々を祝福するように。


 ――かくして、猟兵達の救援を受けた地底都市の人々は、明日を求めて地上に向かう。
 傷病者の治療から移住のための物資の支度まで準備は万全。それからの旅路については省略するが――結論として、彼らは無事に各地の『人類砦』まで辿り着くことができた。
 頭上を覆う地面のない、この新天地で彼らが生きていくには、まだ多くの困難があるだろう。それでも――彼らは猟兵達から示された希望を支えにして、力強く生きていく。

 魔狼の番犬が守護せし、医獄の地底都市。
 かの地に渦巻いていた悲劇は終焉し、猟兵の新たなる一歩が地底に刻まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年09月19日
宿敵 『暴威をふるうもの』 を撃破!


挿絵イラスト