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魔狼が守護せしは医獄の地底都市(作者
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「あらぁ、今日はどうされましたか~?」

 太陽はおろか、月や星の光さえ届かぬ、はるかな地の底にて。
 蠱惑的な衣装と笑顔をした女吸血鬼の甘ったるい声が響いた。

「娘が、熱を出して……昨日から咳も止まらなくて……」
「あらあら、それは大変ですね~。すぐに診てあげましょう~」

 対面するのは一組の母娘。襤褸切れのような薄汚い衣服を纏い、今にも折れてしまいそうなほどに痩せ衰え、媚びへつらうような振る舞いと恐怖の色が表情に染み付いている。
 その様子は、この地の底の都市を支配するものが誰であるのかを如実に表わしていた。

「それじゃあ、まずは採血しますね~」
「きっと風邪だと思いますけど、念の為にお薬も出しておきましょう~」

 吸血鬼の看護師は慣れた様子で病に罹った子供の容態を確認し、注射器の針を刺す。真っ当な治療のようにも見えるが、実態は真逆。血を採り過ぎれば患者は弱り、薬は過ぎたれば毒となる。彼女達の行動はすべて、人々をゆっくりと蝕んでいく死の処方箋である。

「大丈夫。すぐに良くなりますよ~。治療費だって取ったりしません~」
「心配しないでくださいね~。それとも、私達の腕が信用できませんか~?」
「い、いえ、そんなことは……ヴァンパイアの皆様のご温情に感謝致します……」

 医療の知識のない人々も薄々は気付いているだろうが、他に頼れるものはない。「怪我や病気になった人がいればすぐに診せるように」と吸血鬼が言えば、それがこの都市における絶対の法なのだ。

「ここに居ればみんな安全に暮らせるんですよ~」
「外から何かがやって来ても、番犬が守ってくれますからね~」

 残酷に笑う女吸血鬼の視線のはるか先、地上と地底を結ぶ門の前には一頭の狼がいた。
 首輪のような「何か」を首筋に寄生させた、灰毛の魔狼。かの者はこの地底都市に侵入するものを阻む最強の番犬にして、都市と外界を閉ざすものでもあった。

「グルルルルルルル……」

 番犬として使役される魔狼は、彼方を見つめながら静かな唸り声を上げる。
 今宵も、その次の宵も、また次も。地底都市には終わらぬ絶望が繰り返される。


「辺境伯の紋章の調査に成果がありました。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「近頃、ダークセイヴァーでは上位のヴァンパイアから『辺境伯の紋章』なるものを与えられたオブリビオンが人類の生存圏を脅かす事件が多発しています。この『辺境伯』を撃破したところ、確保された『紋章』から新たな敵の拠点を予知することができました」
 ダークセイヴァーの各地にある広大な「地底空洞」の中に築かれた巨大な地底都市。そこには地上世界との交流を絶たれた人々と共に、数多くの吸血鬼が生息していたのだ。

「リムが予知した『地底都市』は、ほとんど地上と変わらない環境が作られています。都市を支配するのは『ヴァンパイアナース』と呼ばれる下級の吸血鬼達で、都市に暮らす人間達はみな彼女らの餌であり玩具に過ぎません」
 吸血鬼の中でも医療を専門とするヴァンパイアナースは、看護と称した非人道的な医療活動で人々を苦しめることを好む。閉鎖された地底都市で怪我や病にかかれば否応なく彼女らの世話になる他になく、助けを請いながら「治療」によってじわじわと弱っていく患者の姿を見ることを、彼女らは何よりの悦びとしているのだ。
「都市の人間は誰も地底から出たことがなく、地上の存在すら知りません。皆、ここで吸血鬼に虐げられながら暮らしていくことを、当たり前のことだと思ってしまっています」
 だが、このヴァンパイアナース達も、真なる支配者の手下に過ぎない。予知によれば辺境伯に『紋章』を与えた者達は、地上世界に加えて地底都市の数々をも版図としながら、自らはさらなる地下深くに居座っているらしい。

「絶望の下にいる人々を救うためにも、さらなる深層への手がかりを得るためにも、地底都市の攻略は急務だとリムは考えます」
 幸いにも医療専門であるヴァンパイアナース達は戦闘においてはそれほどの脅威ではない。だが戦いが苦手であるにも関わらず、彼女らが地底都市の支配者たりえているのは、武勇の欠如を補える強大な『門番』が居るからだ。
「地底都市の入り口には『暴威をふるうもの』と呼ばれる一頭の雌狼のオブリビオンがいます。対話や説得に応じる事はなく、都市に近付く者があれば持てる力の全てを破壊に用い、行く手を阻んでくるでしょう」
 元は暴風のようにダークセイヴァー各地に出没し、村や砦を食い荒らしてきたという恐るべき魔獣だが、いかにしてか現在は地底都市の『番犬』として使役されており、その首元には首輪のように、不気味な触手と宝石の体を持つ虫型オブリビオンが寄生している。
「これは『番犬の紋章』と言って、『辺境伯の紋章』と同様に宿主を強化するオブリビオンです。しかしこの紋章によって強化された『暴威をふるうもの』の力は、辺境伯の比ではありません」
 地上世界の領主達が猟兵以上に警戒する「同族殺し」でさえ、この魔狼にかかれば一噛みで屠れる雑魚も同然。たとえ猟兵が死力を尽くして戦っても、傷一つ付けられるかどうかさえ怪しいほどの、恐るべき手練である。加えて対話には応じないものの人語を理解するほどの知性もあり、ただの獣のように罠に嵌められるような相手でもない。

「唯一の勝機は『番犬の紋章』です。これは宿主を強化するものであると同時に弱点でもあり、これに対する攻撃だけが唯一、魔狼にまともなダメージを与える手段になります」
 極めて強大な力で地上を脅かした辺境伯を、さらに凌駕する地底の番犬――しかし裏を返せば、この『暴威をふるうもの』さえ撃破すれば地底都市の防備は丸裸も同然となる。

「番犬を撃破して地底都市に突入できれば、その先の攻略は大分楽になるはずです」
 都市内にいるのは戦闘力においては『暴威をふるうもの』とは比べるまでもない、非力なヴァンパイアナースばかり。ひとつ派手に暴れて敵を倒しまくってやれば、これまで彼女らに虐げられていた都市の人間達も勇気づけられることだろう。
「地底都市の攻略に成功した後のことについては、住人達の身柄は幾つかの『人類砦』が受け入れを表明してくれています。彼らに事情を説明して説得し、地上に移動するための手助けをお願いします」
 あまりもたもたしていれば、異変を察知した他の地底都市から増援がやって来てしまう。隷属を絶対とされた環境で悪に虐げられ、心身共に傷ついた民衆に、闇に負けない希望の光を示し、地上へと誘わなければならない。
「様々な困難が予想される依頼ですが、皆様なら可能だとリムは信じています」
 リミティアは信頼の眼差しで猟兵達をまっすぐに見つめながらそう語ると、手のひらにグリモアを浮かべ、恐るべき番犬と医の吸血鬼が待ちうける地底都市への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」





第3章 日常 『闇に閉ざされた世界に、癒しの光を……』

POW力仕事を手伝ったり、勇壮な英雄談を語る。
SPD破壊させた施設を修復したり、軽妙な話術や曲芸で楽しませる。
WIZ怪我や病気を癒したり、美しい歌や芸術で感動させる。
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 地底都市に突入した猟兵達によって、都市を支配していたヴァンパイアは殲滅された。
 医療を弄び人々を苦しめていたヴァンパイアナースは、長年の悪行の報いを受ける形となり――闇に閉ざされた地底都市は、ここに邪悪なる支配から解放されたのであった。

 だが、戦いを終えた猟兵達にはまだ、もうひとつ重要な仕事が残っている。
 地上から隔絶されたこの地底都市で、ヴァンパイアに虐げられてきた住民達。
 彼らをここから安全な(それも比較的、という話だが)地上に脱出させなければ。

「ヴァンパイア様を倒してしまった……」
「あなた達は、何者なんですか?」
「一体、どこからやって来たんですか……?」

 地底都市の住民の多くは、今だ自分達が解放された事実を理解していないようだった。
 彼らにとってはこの都市が世界の全てであり、地上世界の存在さえ知らなかったのだ。
 それでも横暴な吸血鬼達を劇的に倒すところを見ていれば、猟兵が味方であることは彼らにも分かる。ただ今はまだ、降って湧いた"希望"に実感を持てず戸惑っているのだ。

 もたもたしていれば、地底都市が制圧された事実は他の都市にもいずれ伝わるだろう。
 残党の逃亡も許さず完全な殲滅に成功したため、情報の伝播には今しばらくの猶予はあるだろうが、いつかは異変に気付いた他都市のオブリビオンが確認のためにやって来る。
 それまでに住民を避難させる必要があるが、長年の圧政を受けてきた彼らは心身ともに深く傷ついており、怪我や病に苦しむ者も多かった。

 まずは彼らに事情を説明し、それから怪我や病を治療し、希望を与える必要がある。
 あのヴァンパイアナースどもが行っていたのとは違う、心身を癒やす本当の"治療"が。
 ここから地上の『人類砦』までは相応の距離もある。今の状態の彼らでは長旅には耐えられないだろう。

 闇に閉ざされた地底都市に、癒しの光を。
 人々の心に、闇に負けない希望の光を取り戻すために、猟兵達は手をさしのべる。
カタリナ・エスペランサ
掃討も一段落。さて、まずはきちんとした手当てからだね
住民たちには【天下無敵の八方美人】の《コミュ力+礼儀作法》で話しかけて信用を得ていこう
アタシたちは猟兵。ここみたいに吸血鬼たちの席巻する外の世界で、皆をその支配から助ける為に戦ってる“ダークセイヴァー”さ

住民からケガ人や病人の事を聞いたらそっちに急行、【衛生兵特級資格】を活かし治療に移るよ
《祈り》加護を与える魔術的な処置と《医術》技能を組み合わせ《救助活動》、すぐに動けない人は《式神使い》で召喚した眷属に運ばせる

知らない事は教えよう、足りないものは補おう
ただキミたちにはこれからの日々を健やかに生きてほしいな
アタシが戦ってるのはその為なんだから


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

やれやれ…オペは終わったか
ならば、次はアフターケアだな

医術で重度の怪我や病に侵された者を見極めたらUCを発動
患部にメダルを当てて対象を治療する
まずは身体を治さなければ気力も萎えたままになるからな

そのままでいいから聞いて欲しい
私達は貴方達を地上へ迎えるために来たんだ

地上に出るのを恐れる者には根気強く説得を行い
吸血鬼の報復に恐怖する者には我々の仲間が必ず助けに行くと約束をする
虐げられてたとは言え彼らにとっては故郷の地でもある
それを捨てる事に渋る者も出るだろうが…吸血鬼共の暴虐に耐えて暮らすよりはマシな生活ができる筈だ

この場所にいる全員を助けたいんだ
だが、まずは身体を治してからだな


「やれやれ……オペは終わったか。ならば、次はアフターケアだな」
「掃討も一段落。さて、まずはきちんとした手当てからだね」
 地底都市に巣食うヴァンパイアナースという病原体を駆逐したキリカとカタリナは、それぞれの武器をしまうと、残された住民の治療や説得のためにさっそく行動を開始する。
 横暴な支配者が突然いなくなったことに、住民には驚きと喜びの狭間で戸惑っている者が多くいる。まずは彼らの信用を得なければ、地上への移住どころの話ではないだろう。

「あなた方は、一体何者なのですか……?」
「アタシたちは猟兵。ここみたいに吸血鬼たちの席巻する外の世界で、皆をその支配から助ける為に戦ってる"ダークセイヴァー"さ」
 おずおずと問いかけてくる住民達に、カタリナは堂々とした態度と笑顔でそう答える。
 光の失われた世界で絶望に抗い希望を取り戻す『闇の救済者(ダークセイヴァー)』。
 自分らもその一員なのだと告げれば、人々はまるでおとぎ話を聞いたような顔をする。
「外の世界……この都市の外にも、人が生きているんですか……?」
「ヴァンパイアと戦う……そんな事ができる人が、他にもいるなんて……」
 外界の情報を得られない環境で、吸血鬼の恐ろしさを心身に刻みつけられてきた彼らには、突拍子もない話のように感じられたのだろう。カタリナも口だけで説明してすぐに理解が得られるとは思っていない。時間は限られているが、ここは根気よく説得すべきだ。

「アタシたちはキミたちを助けに来た。まずはそれだけは信じてほしい」
「ここの住民の中で、怪我や病を負った者はいるか? 私達に診せてもらいたい」
 カタリナに続いてキリカがそう呼びかけると、住民達はまだ半信半疑といった様子ながらも、彼女らを自分達の住居に案内する。人が住む場所としては余りにみすぼらしく不衛生なその家屋には、ボロボロのベッドに寝かせられた傷病者が何人もうずくまっていた。
「ヴァンパイア様にも何度も診ていただいたのですが、一向に良くなる気配がなく……」
「当然だろうね。あんなヤツらの治療じゃ病状を悪化させるばかりだよ」
 【衛生兵特級資格】を持つカタリナは顔をしかめながら、すぐさま傷病者の治療に移る。元は大したことのないケガや病気でも、人を弄ぶのをこよなく愛する吸血鬼達は、時間をかけて症状を悪化させてきたのだろう。容態は深刻だが――まだ手遅れではなかった。

「まずは身体を治さなければ気力も萎えたままになるからな」
 カタリナと同様に医術の心得があるキリカは、横たえられた重症者それぞれの患部を見極めて、妖怪「大蝦蟇」の描かれたメダルを当てる。【秘薬・大蝦蟇之油】と同じ効果を宿したこのメダルには、あらゆる傷をたちどころに癒やし、病魔を消し去る力があった。
「うぅぅ……あれ……?」
「いたく……ない……?」
 その薬効は劇的であり、苦しげに呻いていた病人の顔からは苦痛の色が消え、怪我人の出血は止まり化膿していた傷もきれいに癒える。ユーベルコードがもたらす秘伝の妙薬の力を目の当たりにした人々は、「奇跡だ……!」と目を丸くしていた。

「ここは病人を寝かせておく環境じゃないね。別の場所に移したほうが良さそうかな」
 一方のカタリナも身につけた技能の数々を駆使し、傷病者の救助活動に尽くしていた。
 祈りによって癒やしの加護を与える魔術的な処置と、合理的な知見に基づいた医術を組み合わせた彼女独自の治療は、元々の症状に加えてヴァンパイアナースから受けた"治療"の後遺症も癒やし、明日をも知らない状態だった患者を快方に導いていく。
「ヴァンパイア様の治療と、ぜんぜん違う……」
「こんな気分は初めてだ……」
 これが本当の"医術"と"治療"なのだと知った人々の口から、思わず驚きの声が漏れた。
 患者の容態が安定したところでカタリナは眷属を召喚し、動けない者を外に運ばせる。
 空気の淀んだ不衛生な家屋の中よりも、新しく看護用のスペースを準備したほうが良いだろう。彼女の拠点防衛のスキルがあれば、簡易的なものはすぐに作れるはずだ。

「こーんなスキル、出番が無いならそれが一番なんだけど」
「それが必要とされる機会が多いのも悩ましい話だな」
 設営した看護用の拠点で、互いに肩をすくめ合いつつ治療を続けるカタリナとキリカ。
 重症者の治療がひととおり終われば、次は比較的軽症のケガ人や病人にも治療を施していく。大蝦蟇のメダルの在庫はまだまだあるし、医療器具や医薬品にも余裕はまだある。
「もう助からないと思っていました……」
「あなた方は命の恩人です……!」
 傷病により半ば生を諦めていた者達は、彼女らの献身的な治療に涙を流して感謝する。
 人々の目には優しく手当てを施すふたりの姿が、天使のように見えていたことだろう。

「そのままでいいから聞いて欲しい。私達は貴方達を地上へ迎えるために来たんだ」
 急を要する治療が一段落したところで、キリカは改めて地底都市の住民に語りかける。
 虐げられていたとは言え、人々にとってここは故郷の地でもある。吸血鬼の報復はもちろん、地上に出るのを恐れる者もいるだろう。それでも、ここを出なければ明日はない。
「吸血鬼に襲われても、我々の仲間が必ず助けに行くと約束する。故郷を捨てる事に渋る者もいるだろうが……吸血鬼共の暴虐に耐えて暮らすよりはマシな生活ができる筈だ」
 不安を抱える人々に、キリカは根気強く説得を行う。悪しき吸血鬼を討ち倒し、苦しむ人々を治療した彼女のこれまでの行動の数々が、その言葉に確かな説得力を与えていた。

「知らない事は教えよう、足りないものは補おう」
 そのためにアタシたちは来たんだからと、カタリナもまた朗らかな調子で呼びかける。
 地上での暮らしで心配事があるなら、どんな些細な質問にも答える。傷病の治療の他にも、必要なものがあるなら手配する。彼女の言葉にはけして安請け合いとは思わせないだけの力強さが宿っていた。
「あなた達は……どうして、見ず知らずの私達にここまでしてくれるのですか……?」
 なにか見返りが必要ではないのかという住民の問いに、カタリナは笑顔でこう答えた。
「ただキミたちにはこれからの日々を健やかに生きてほしいな。アタシが戦ってるのはその為なんだから」
 この残酷な世界で、人々に笑顔と希望、そして未来を。それが彼女の偽りのない願い。
 猟兵として、芸人として、魔神の化身として――彼女が戦い続ける理由はそこにある。

「この場所にいる全員を助けたいんだ。だが、まずは身体を治してからだな」
 優しい微笑みを浮かべながらそう言って、また人々の治療を再開するキリカ。カタリナもそれに合わせて、怪我や病を背負った人々の容態をひとりひとり丁寧に診察していく。
 最初は不安や戸惑いばかりだった住民達の心にも、そのうちに段々と変化が起こり始めていた。言葉にしきれないほどの感謝の想いと――まだ知らぬ地上に対する希望と共に。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

雛菊・璃奈
住民達に地上から来た事、ここがどういう場所なのかや人類砦の事など、事情や状況の説明をしつつ、後続でラン達とミア達、メイド6人を呼び寄せ、医療道具と炊き出し(おにぎり、お味噌汁)を持参して合流…。

炊き出しを配る組と医療道具で怪我の手当てをする組に分かれてそれぞれ町の人達に振舞うよ…。

弱った身体を元に戻すには栄養を摂るのが一番だからね…。
地上へ出た後も移住地へは時間も掛かるし、怪我を治しつつ、しっかり体力を回復させないとね…。

後はヴァンパイアナース達が使ってた拠点から使える物資(主に医療道具や薬等)は貰って、移住先へ持って行くようにした方が良いかも…。
この世界じゃ中々手に入り難いだろうしね…。


「わたし達はこの都市の外……地上から来た猟兵だよ……」
 貴女達は何者なのかと問う人々の疑問に答え、璃奈は事情と状況の説明を行っていた。
 住民達が世界の全てだと思っていた地底都市の外に、広大な世界が広がっていること。そこがどういった場所で、こことどう違うのか。これから必要になる情報は数多い。
「地上にも吸血鬼がいて、危険なのは変わらない……でも、各地に吸血鬼の支配が及ばない場所があって、わたし達はそこを『人類砦』と呼んでいる……」
 そうした各地にある人類砦の幾つかが、この地底の人々を迎え入れる準備を整えていると聞いても、住民達はすぐにはピンとこないようだった。芳しい反応はなかなか引き出せないが、そこにふわりと食欲をそそる美味しそうな匂いがどこからか漂ってくる。

「炊き出し!」
「おにぎり!」
「お味噌汁!」

 匂いのしたほうを振り返ってみれば、そこには璃奈の従者であるメイド人形のラン、リン、レンが、大鍋いっぱいの味噌汁と山ほどの握り飯を用意して人々を呼び込んでいた。
 この時のために後続として呼び寄せられた彼女らは、持参した炊き出しの品をニコニコと笑顔で振る舞う。それを目の当たりにした人々の腹が「ぐぅぅぅ~」と大きく鳴った。
「た……食べていいのかい……?」
「弱った身体を元に戻すには栄養を摂るのが一番だからね……」
 璃奈がこくりと頷くや否や、人々は勢いよく握り飯にかぶりつき、味噌汁をすする。塩と米と味噌、それに少々のおかずが入ったシンプルな料理だが、ヴァンパイアの圧政下で満足な糧を得るのも叶わなかった地底都市の住民にとって、それは最高のご馳走だった。

「ケガを診せて下さい」
「すぐに治療します」
「痛くありませんよ」

 炊き出し組とは別の場所では、同じくメイド人形のミア、シア、ニアがケガ人の手当てを行っていた。"治療"という言葉にいい印象のない住民達は物怖じするが、もちろん彼女らの行為は適切な意味合いでの治療であり、間違っても症状を悪化させるものではない。
「ううっ……あれ、痛くなくなった……?」
 最初はビクビクしていた人々も、ミア達の手当てで傷の具合が良くなると、ホッとしたように表情が柔らかくなる。ただ怪我人を無為に苦しめるのが目的だったヴァンパイアナースと、献身的なメイド達とでは、手際の良さも治療の結果も比べるまでもなかった。

「地上へ出た後も移住地へは時間も掛かるし、怪我を治しつつ、しっかり体力を回復させないとね……」
 徐々に皆から明るい雰囲気が広がっていくのを感じて、璃奈は快さそうに目を細める。
 空腹が満たされ、痛みが消えれば、気持ちも自然と前向きになっていくものだ。最初は夢物語のようだった「地上への移住」も、今なら少しは実感をもって考えられるだろう。
「みんなはここをお願い……」
「「はーい!」」
「「お任せを」」
 璃奈は6人のメイドにそのまま炊き出しと手当てを任せると、自らは人だかりから遠ざかる方へと向かう。地底都市の人々が忌避して近寄らないその場所には、かつてヴァンパイアナース達の拠点として使われていた診療所があった。

「使える物資は貰って、移住先へ持って行くようにした方が良いかも……」
 悪しき目的にしかそれを用いなかったとはいえ、ヴァンパイアナースが同族の中では稀有な医療に精通する吸血鬼だったことは事実。その拠点には彼女らが使っていた医療道具や医薬品がまだ大量に残されていた。
「この世界じゃ中々手に入り難いだろうしね……」
 正しく使用すれば多くの命を救えるこれらの物資を、主なき後も放置しておくのは余りに勿体ない。璃奈は綺麗に棚に並べられた薬瓶や器具を回収し、荷物袋の中に押し込む。
 ナースの拠点に備蓄されていた物資には、他にも食糧や清潔な衣類などもある。こうした品々が今後の住民は勿論、移住先の『人類砦』の暮らしで役立つのは間違いなかった。
大成功 🔵🔵🔵

カビパン・カピパン
「ヴァンパイア様を倒してしまった」
「主任です」
「あなた達は、何者なんですか?」
「主任です」
「一体、どこからやって来たんですか?」
「主任です」
「……」
「主任です」
話が何一つ噛み合っていない。
住民達から怪訝な顔で見つめられる。一人が突っ込もうと思った時、カビパンの声が響く。
「一列に並びなさい」
プレッシャーに負けた住民は一列に並ぶ。

ハリセンを構え、住民達を前から順にしばき始めた。女神のハリセン一撃で怪我が心身が癒されていく。何が起きている、何故こんな事に。脱力感が包んだ住民達も困惑。
しかし、馬鹿馬鹿しさ故に、これからどうすればではなく、何とかなるんじゃ?そんな希望の感情が自ずと湧いてくるのであった。


「ヴァンパイア様を倒してしまった……」
「主任です」
 目の前で起こったことがまだ信じられないといった様子で、呆然と呟く都市の住人達。
 これまで絶対の支配者として君臨してきたヴァンパイアが、外からやって来た者達にあっという間に倒されてしまったのだ。現実を把握しきれない者がいても無理はなかった。

「あなた達は、何者なんですか?」
「主任です」
「一体、どこからやって来たんですか?」
「主任です」
「……」
「主任です」

 人々は近くを通りがかった猟兵に口々に問いを投げかけるものの、話が何一つ噛み合っていない。真面目な質問をする相手としては、その猟兵――カビパンは相手が悪かったと言わざるを得ないだろう。何を聞いても彼女から返ってくるは「主任です」の一言のみ。
「主任とはいったい?」
「主任です」
「あなたのお名前は?」
「主任です」
 終始この調子なものだから、住民達も次第に怪訝な顔で彼女を見つめるようになる。
 とうとう我慢しきれなくなった1人が突っ込もうと思った時――カビパンの声が響く。

「一列に並びなさい」

 謎の「主任です」botと化していたカビパンが初めて口にした意味のある言葉。その瞬間に発せられる異様なプレッシャーに負けて、住民達は言われるまま一列に並んでしまう。
「よし」
 綺麗にピシッと整列した人々を前にして、カビパンが取り出したのは女神のハリセン。
 まるで打席に立つバッターのように、フルスイングの構えでそれを振りかぶり――笑福一閃。スッパーーンッ!! と小気味いい快音を立てて、先頭に立つ住民がしばかれた。

「へぶしッ!!」
「ちょっ!?」
「何をするのですか?!」
 突然仲間がハリセンでしばかれたのを見て、並んでいた住民達はみな吃驚仰天する。
 しかしそれはすぐにさらなる驚愕と、そして困惑へと塗り替えられることになった。
「ああ……なんか、どうでもよくなってきた……」
「「はぁ???」」
 女神の力が宿ったハリセンでしばかれたその者の心身が、キレイさっぱり癒えている。
 身体中にあった怪我の痛みもなくなり、引き換えに妙な脱力感に襲われたその者は、寝ぼけたようなツラでその場にへたりこんだ。

「はい次」
「ふぎゃっ!!」
「べふっ!!」
 そのままカビパンは列に並んだ者を前から順番にしばいて、しばいて、しばきまくる。
 しばかれるたびに癒えていく心身の苦痛。何が起きている、何故こんな事に――住民達はこの不可思議で理不尽な現象を理解できず、脱力感に包まれたまま困惑するばかり。
 しかし、その余りの馬鹿馬鹿しさ故に、彼らの心の中にはこれからどうすればいいかという不安よりも、楽観的な希望の感情が自ずと湧いてくるのだった。

「まあ、何とかなるんじゃ?」
「地上ってのがホントにあるなら、行ってみるのも悪くないかもー」
 最後の1人をカビパンがしばき終える頃には、辺りはすっかりだらけきった空気で満ちていた。不安だの絶望だのといったシリアスな雰囲気をかき消す、ギャグ時空の空気が。
 彼らに必要なのは悲観ではなく、これまでの苦痛を癒やす脱力とお気楽さと前向きさ。
 ひと仕事を終えた【ハリセンで叩かずにはいられない女】は、どこか満足げな表情でハリセンをしまうと、楽観的になった人々を置いてどこかへ去っていくのだった――。
大成功 🔵🔵🔵

フレミア・レイブラッド
【虜の軍勢】で「メイド・オン・ザ・ウェーブ」と「メイド・ライク・ウェーブ」で眷属にした「万能派遣ヴィラン隊」(総勢多数)を魔城から召喚。
また、【魔城スカーレット】で城の備蓄から医療品(UDCアース等で買い込んだもの)を運び込んでメイド達に使用を指示。

ヴィラン隊の【あらゆるニーズにお答えします】による【医術】で住民達の健康状態のチェック、怪我の治療、病気の症状に合わせた薬の処方(医療品の市販品)をさせるわ。

本当は早速ヴァンパイアナースの子達にも手伝わせようかと思ったのだけど…住民からすれば今まで散々好き勝手した相手だし、そんな相手が手当てするって言っても流石に住民が不安がったり警戒しそうよね…。


「わたしの可愛い僕達……さぁ、いらっしゃい♪」
 ヴァンパイアナースとの戦いを終えたフレミアは、続いて住民達の救援のために【虜の軍勢】を発動し、己が居城である【魔城スカーレット】に待機する眷属が一員、メイド服に身を包んだ「万能派遣ヴィラン隊」を召喚する。
「ご用命を承ります、フレミア様」
 万能の名に恥じずあらゆるニーズに答えることを信条とした彼女らは、一分の乱れもない所作で主君に頭を垂れる。フレミアは微笑で応じると、忠節なる配下に早速命を下す。

「ここにいる住民達の健康状態のチェック、怪我の治療、それから病気の症状に合わせた薬の処方を。治療に必要になる医療品は、城内の備蓄からの使用を許可するわ」
「かしこまりました」
 ヴィラン隊はもう一度フレミアに拝礼すると、その指示通りに直ちに行動を開始する。
 魔城スカーレットには今回のようなケースに対応できるよう、各世界で集めた物資が保管されている。その中にはUDCアース等の医学が発達した世界で購入した医薬品もあった。

「失礼致します」
「え……あ、貴女たちは……?」
 突然現れたメイドの集団に、目を白黒させる地底都市の住民達。そんな彼らの困惑をよそに、ヴィラン隊は手際よく診察を行い、容態に応じた治療プランを確立し、実行する。
 特に病状の重い者を優先して薬を処方し、怪我人には傷口の消毒や止血を。傷病を患ってはいないが健康状態の芳しくない者には、消化によい食事や点滴で栄養補給をさせる。
「次の方、どうぞ」
「具合の悪い方はどうか仰って下さい」
「薬や医療品には十分な余裕があります」
 てきぱきとして無駄のない、それでいて丁寧なヴィラン隊の治療活動。それは地底都市の住民がこれまでヴァンパイアから受けていた"治療"とは、まったく異なるものだった。

「こんなに楽になったのは初めてです!」
「ああ、ありがとう、ありがとう……!」
 ヴィラン隊の治療を受けた人々はみな、喜びの表情を浮かべて感謝の言葉を口にする。
 肉体の傷や病を癒やすことは、心に刻まれた傷にも良い影響をもたらす。昏く沈みがちだった地底都市の雰囲気も、治療を始める前よりずっと明るくなったように感じられた。
 その様子を眺めていたフレミアはふっと微笑んで、"あの子達"に治療をさせなかったのはやはり正解だったようだと安堵する。

(本当は早速ヴァンパイアナースの子達にも手伝わせようかと思ったのだけど……)
 純粋な医術の腕前は確かなものを持っているヴァンパイアナース。フレミアの眷属となった者たちであればその技を悪用することもなく、有能な看護師にして医師としての活躍が期待できる――とはいえここの住民からすれば、今まで散々好き勝手した相手である。
「そんな相手が手当てするって言っても流石に住民が不安がったり警戒しそうよね……」
「面目次第もございません……」
 ふうと溜息をつく彼女の後ろで、ナース達は恐縮しきった様子でしゅんと頭を下げる。
 眷属になる前とは別人かと疑うようなしおらしさからして、どうやらこの娘達はすっかりフレミアの虜のようだ。

「……とはいえ、せっかくの人手を遊ばせておくのも良くないわね。裏方として薬の運び出しや、カルテの作成なんかをお願いできるかしら?」
「! はい、もちろんです!」
 フレミアがふと思いついたように仕事を与えると、ヴァンパイアナース達はぱっと表情を明るくして城に飛んでいく。これで多少なりと汚名を雪げると張り切っているようだ。
 万能派遣ヴィラン隊の治療活動のほうも変わらず順調で。忠節にして有能な吸血姫の眷属達の働きによって、地底都市に蔓延していた病魔の闇は次第に晴らされていった。
大成功 🔵🔵🔵

七那原・望
わたし達はヴァンパイア達と戦う猟兵です。この地底の外……地上から来ました。

いずれ新たなヴァンパイアが来るでしょう。
だからあなた達は此処から脱出しなくてはいけません。

地上にはヴァンパイアの支配に抗う砦があるのです。
そこにあなた達を虐げる者はいません。
あなた達は自分の為に生きることが出来るのです。

そこへ行く為にもまずは心と身体を癒やさないとです。

残しておいた【癒竜の大聖炎】で周囲の人々の治療を。
治療が終わった人には治療漏れが出ないように、まだ治療を受けてない人を連れてきてもらいましょう。

アマービレでねこさん達を呼んでみんな和ませ、持ち込んだ果物を配り、【歌】と【踊り】でみんなの心を解きほぐします。


「わたし達はヴァンパイア達と戦う猟兵です。この地底の外……地上から来ました」
 横暴なる支配者の突然の死に戸惑う人々に向けて、望は落ち着いた調子で語りかける。
 狭い地底都市の中に閉じ込められて生きてきた彼らには、いきなり多くを語っても混乱させるだけだろう。必要な情報のみに要点を絞って、なるべく明瞭な説明を心がける。
「いずれ新たなヴァンパイアが来るでしょう。だからあなた達は此処から脱出しなくてはいけません」
「ま……また、ここにヴァンパイアが……?」
 事情を呑みこみきれていない人々も、またあの圧政と苦難の日々が再開されると聞かされれば反応は顕著だった。誰だってあんな地獄に戻りたくはない、そのための方策があるとも聞かされれば、興味を引かせるのにも効果的だったようだ。

「ですが……その"地上"という所に行けば、本当に安全なのですか?」
「ヴァンパイアが追ってきたら、また元の暮らしに戻ってしまうのでは……」
 これまで聞いたこともない新天地への移住に、不安を覚える者も当然ながら多かった。
 彼らの不安を払拭するために、望はあえてきっぱりとした力強い調子でこう答える。
「地上にはヴァンパイアの支配に抗う砦があるのです。そこにあなた達を虐げる者はいません」
 絶望の闇と戦う猟兵と、その志に共鳴した闇の救済者(ダークセイヴァー)達が築いた『人類砦』。そこまで辿り着けば、もうこれまでのような辛い暮らしをする必要はない。

「あなた達は自分の為に生きることが出来るのです」
「自分のために……」
「自由に……?」
 望のその言葉は、ヴァンパイアのために"生かされて"いた人々の心に深く染み込んだ。
 これまで考えることもなかった――否、考えることを許されなかった生き方を提示され、人々の目に光が灯る。それを見た望はふっと微笑みながら、炎の玉を手元で踊らせる。
「そこへ行く為にもまずは心と身体を癒やさないとです」
 ヴァンパイアナースとの戦いで残しておいた【癒竜の大聖炎】を操り、周囲の人々を治療する。癒やしと浄化をもたらす竜の焔は、人を焼くことなくその身を蝕む負傷や病、誤った"治療"による後遺症などを、たちどころに焼き祓っていった。

「まだ治療を受けていない人がいれば、連れてきてください」
「ええ、わかりました!」
 治療漏れが出ないようにと望が呼びかければ、治療の終わった住民達が晴れやかな表情で駆けていく。それは肉体的な苦痛がなくなった喜びもあるだろうが、何より精神的な苦痛――闇に閉ざされていた人生に、新しい生き方を示してもらった歓喜が大きかった。
「元気になったら、みんなで地上に行くのです」
 そんな彼らの心を解きほぐすように、望は白いタクトを振って鈴の音を鳴らし、ねこさん達を呼び寄せながら歌い踊る。幼きオラトリオが奏でるその歌声は天上の音色のように清らかで、白翼を羽ばたかせて舞う様は愛らしくも美しいものだった。

「"地上"に行きましょう」
「私たちの生き方を、私たちで決めるために!」
 無邪気に戯れるねこさんに和まされ、天使の披露する舞いと歌に心を解きほぐされて。
 地底都市の人々は瞳に"希望"の光を宿し、口々にそう語り合う。長き支配の絶望から解き放たれて、彼らは今、自らの意思で未来へと歩き始めようとしていた。
大成功 🔵🔵🔵

セシリー・アリッサム
難しい話はちょっと、自身が無いわ
ただ、(あくまで今の所は)もう安全だって事を
ここの人達に伝えないと
それに、遠くまで移動しなきゃならないから……
わたしが今出来る事を、精一杯やるわ

狼狽える人々の一団のの中へ入り
特に怯える子供らの手を取って話を聞く
まずは安心してもらう所から
それから、わたしの事を話すわ
わたしもね、ずっと闇の中にいたの
何度も心が折れそうになった
でも、一人じゃないって、分かったから
だからあなた達も、大丈夫よ

【生まれながらの光】――希望の祈りを込めて
怪我を負った人、心を塞いだ人、一人ずつ
手を取ってそれらを癒していくの
かつてわたしがそうされた様に
今はわたしの番だから……一人でも多く、助け出す


(難しい話はちょっと、自身が無いわ。ただ、もう安全だって事をここの人達に伝えないと)
 うまく事情を説明できるだろうかという緊張を抱きながら、セシリーは人々の様子を見る。都市の支配者がいきなり倒されたことで、住民たちはこれからどうしたら良いのか不安がっている。彼らを導くことができるのは、ここにいる自分たち猟兵だけだ。
(それに、遠くまで移動しなきゃならないから……わたしが今出来る事を、精一杯やるわ)
 耳元につけたアリッサムの飾り――母とお揃いの花にそっと触れて、勇気をもらって。
 すう、と小さく息を吸ってから、セシリーは狼狽える人々の一団の中に入っていった。

「もう大丈夫よ。あなた達を傷つける者はみんなやっつけたから」
 まずは安心してもらう所から始めようと、優しく静かなトーンで語りかけるセシリー。
 あくまで今の所は、ではあるが。逃亡するヴァンパイアナースも全て討伐できたことで、この都市の状況が他の地底都市に伝わるのには時間がかかるだろう。少なくとも住民を避難させるまでの当面の間は、ここは安全だと言って間違いはない。
「ほんと……ほんとにだいじょうぶなの……?」
「もう、いたいお注射されたり、にがいお薬をのまされたりしない?」
 怯えるような表情でそう問いを返してきたのは、まだ年端のいかない子供たちだった。
 絶望に慣れてしまった大人よりも、まだ繊細な感性を残した彼らの恐怖は人一倍だろう。微かに震えるその子らの手を、セシリーは包み込むようにそっと掴んだ。

「怖かったんだよね。あの吸血鬼に辛いことを沢山されて」
「うん……病気になったらどうしようって、いつもこわかった」
「ころんで擦りむいたりしたら、すごくしみるお薬をぬられるの」
 子供らの口から語られるのは、虐待としか言いようのない悲惨な暮らしのエピソード。
 あのヴァンパイアナース達は相手がまだ幼いからと言って情けをかける性格ではなかったらしく、寧ろ泣き喚くさまを殊更楽しんでいたのではないかという節さえ感じられた。
「おとうさんも、おかあさんも、みんな死んじゃった……」
「なきたくても、ないちゃだめなの。ないたら病気かもしれないっておもわれるから」
 目に一杯に涙を溜めながらそう語る子供らの話に、セシリーは黙って耳を傾けていた。
 しゃがんで目線を合わせ、優しく手を取って。これまでは吐き出すことも許されなかった悲しみの数々に、小さく相槌をうちながら。

「わたしもね、ずっと闇の中にいたの」
 子供たちの話を聞き終えてから、セシリーは自分のことを話し始めた。愛する家族や慎ましくも幸福な日々を、ヴァンパイアの侵略によって全て失ったあの日から、彼女の人生には数え切れないほどの苦難があった。猟兵とした覚醒したとはいえ、まだ年若い娘がたった1人で暗夜の世界を旅しなければならなかったのだから。
「何度も心が折れそうになった。でも、一人じゃないって、分かったから」
 彼女がここまで旅を続けられたのは、依頼や戦いを共にする猟兵――そして、魂となっても自分を支えてくれる父と母の愛があったから。どんなに冷たくて、いつ明けるかも分からない闇夜の中でも、希望の光はあるのだと教えてもらった。

「だからあなた達も、大丈夫よ」
 希望の祈りを込めて少女が囁やけば、その身は【生まれながらの光】によって煌めく。
 母から受け継いだ奇跡の力を以て、セシリーは人々を癒やしていく。怪我を負った人、心を塞いだ人、その一人ずつの手を取って、優しく励ましながら。
「あったかい……」
 光に照らされてぽつりと呟いた子供の瞳に、もう絶望の涙はない。
 闇に閉ざされていた人々の心に、セシリーの希望が伝わっていく。

(かつてわたしがそうされた様に、今はわたしの番だから……一人でも多く、助け出す)
 人々を安心させるための穏やかな表情に秘められた決意。奇跡の使用に伴う疲労にも構わず、懸命に癒やしと希望をもたらさんとするその有り様は、正しく聖者の心根だった。
 自分が誰かから受け取ったものを、今度はここにいる人たちに伝えるために――セシリーの献身によって救われた人々は、この日見た彼女の姿を、きっと生涯忘れないだろう。
大成功 🔵🔵🔵

エウロペ・マリウス
降って湧いたような希望を、外部のボクらが叫んだところで心には響かないだろうから
まずはしっかりと治療からだね

行動 WIZ

最終的には、清浄なる魔力の調和(クラルス・コンコルディア)での完全回復を、とは思うけれど、その前に

ボクの手持ちのアイテムのアスクラピウス(野営道具)を展開
簡易な野外病院で【救助活動】しつつ、【医術】による治療を行うよ
じっくり1人1人を【慰め】、【鼓舞】することも忘れずに
長年の圧政の影響は、深刻だと思う
身体さえ癒やせればいいというわけでもないし、
心だけで動けるほど、希望というものに馴染みがないはずだから

しっかりと、己の意思で進む決心が付くまで寄り添って、
それから完全回復だね


「降って湧いたような希望を、外部のボクらが叫んだところで心には響かないだろうから」
 突然のことにまだ戸惑っている人々に、助かったのだという実感と、猟兵は信用できるという認識を持ってもらうために。エウロペは手持ちのアイテムの中から「アスクラピウス」を展開する。
「まずはしっかりと治療からだね」
 持ち運ぶ際には魔力によって縮小されているそれは、広げれば一通りの診療設備や寝泊まりのための寝袋が常備された、簡易な野外病院となる。医術の心得もある彼女はまず、ここで治療を行いながら人々との交流を深めるつもりだった。

「それじゃあ、傷を見せてもらえるかな」
「は、はい……」
 アスクラピウスにやって来た人々は、おっかなびっくりといった様子で診察を受ける。
 彼らにとって病院や医者と言えばあのヴァンパイアナースをイメージするのだろうから、警戒されるのは仕方ない。なるべく緊張を解きほぐすようにエウロペは微笑みかける。
「心配しなくても、あの吸血鬼なんかよりも腕は確かなつもりだよ」
 弱者の命を弄ぶことにしか眼中になかった連中とは、比べられることすら業腹だが。ともかく彼女は用意してあった医療具を使って、人々に正しい意味での治療を施していく。

「今日までよく耐えてきたね。この傷も、すごく痛かったはずなのに」
 乱雑に縫われ化膿させられた患者のケガを診て、慰めるように語りかけるエウロペ。
 誤った処置を正して適切な治療を施しながら、彼らの苦難をねぎらい励ましていく。
「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます……!」
 彼女の治療を受けた人々は口々にお礼を言い、中には感極まり涙を流す者さえいた。
 身体の痛みが消えたからだけではない。患者を慮るエウロペの優しい言葉が、彼らの心に染みたのだ。

(長年の圧政の影響は、深刻だと思う)
 外界から隔絶され、吸血鬼に支配されたこの都市で、人々が味わってきた受難は察するに余りある。身体的にも、精神的にも、彼らが受けてきた傷は絶望するのに十分過ぎた。
(身体さえ癒やせればいいというわけでもないし、心だけで動けるほど、希望というものに馴染みがないはずだから)
 彼らがここから外の世界へ踏み出せるようになるには、心身両面のケアが必須となる。
 だからエウロペはやって来た患者の1人1人をじっくりと慰め、鼓舞することを忘れない。それはとても根気のいることだったが、だからとて彼女は投げ出したりはしない。

「俺達……皆さんが言ってた"地上"ってところに、行ってみようと思います」
「ここでヴァンパイアに怯えているより、新しい世界で頑張ってみたいから」
 やがて人々はただ状況の変化に戸惑うのではなく、これからの事について前向きな意見を口にするようになる。それは彼らに寄り添い続けてきたエウロペの献身の成果だった。
 しっかりと、己の意思で進む決心が付いたのを見て、少女は満足そうな表情を浮かべ――"治療"の最後の締めくくりとして【清浄なる魔力の調和】を発動する。

「我が癒し手の魔力(マナ)を贄に。かの者の傷よ、調和せよ、調和せよ、調和せよ」

 ひらひらと野外病院の上空から降りしきる氷の結晶が、人々の病や傷を癒やしていく。
 辺りには完全回復した人々の喜びの声があふれ、エウロペの元には数え切れないほどの感謝の言葉が送られる。そこにはもう、彼らの未来を閉ざす絶望は影も形もなかった。
大成功 🔵🔵🔵

春乃・結希
戦いを見てた人達はきっともう大丈夫
私達を信じてくれるはず
でも、ずっと苦しめられて来た人達やけん
さっきの喧騒に怯えて、まだ家から出て来れてない人もいるかもしれない
…with。ちょっとお散歩してみよう

人気の無い方に向かって歩く
人の気配に注意して…あ。あの家はまだ誰か居るみたいやね?
…こんにちはー。ちょっと道に迷っちゃって…
あれ、怪我してるんですか?もし良かったら私に手当てさせて貰えません?よく怪我するから慣れてるんです。ほら。
綺麗に巻かれた包帯を見せて

慣れた手つきで応急処置をしつつ
…ね、外に出てみませんか
みんなに紹介したい人達が居るんです
希望を信じて、闇と戦う砦の人達
…世界は、絶望ばかりやないよ


(戦いを見てた人達はきっともう大丈夫。私達を信じてくれるはず)
 地底都市を解放するための戦いを終えた結希は、ほっと息を吐きながら辺りにいる人々の様子を見る。事態が飲み込めずに戸惑う者、不安そうにする者、態度は様々ではあるが、自分たち猟兵に不審や疑惑の眼差しを向けるような者はいない。
(でも、ずっと苦しめられて来た人達やけん。さっきの喧騒に怯えて、まだ家から出て来れてない人もいるかもしれない)
 そう考えた彼女は「……with。ちょっとお散歩してみよう」と背負った愛剣に囁きかけ、人気のない方に向かって歩いていく。どこかにじっと隠れ潜んでいる住民はいないかと、人の気配に注意しながら。

「……あ。あの家はまだ誰か居るみたいやね?」
 火が消えたような寂しい通りを歩くうち、結希は一軒の建物に目をとめる。廃屋なのではと疑いそうになるほどボロボロの家だが、窓の隙間からは微かに明かりが漏れていた。
 コンコンと扉をノックしてみると、中から閂を動かす音が聞こえ、くたびれた印象の女性が顔を覗かせる。
「どちらさまですか……? 見覚えのないお顔ですが……」
「……こんにちはー。ちょっと道に迷っちゃって……」
 警戒している相手になるべく良い印象を与えようと、朗らかな表情で話しかける。それとなく観察してみると、その女性の腕に血のついた包帯が巻かれているのが目についた。

「あれ、怪我してるんですか?」
「え……ち、違います、これはっ」
 指摘を受けた女性は慌てた様子で腕を後ろに隠す。この都市ではどんな些細な怪我でも発覚すればヴァンパイアの"治療"を受けなければならない。それを恐れての反応だろう。
 やはり彼女はまだ、この都市のヴァンパイアが猟兵の手によって倒されたことを知らないのだ。それを確認した結希は、怯える女性にある提案をする。
「もし良かったら私に手当てさせて貰えません? よく怪我するから慣れてるんです。ほら」
「え……?」
 綺麗に巻かれた包帯を見せると、女性はきょとんと目を丸くする。勝手に手当てなんてしたら、ヴァンパイアの定めた法に背くことになるのに――だが、にこやかな笑顔とじくじくと疼く腕の痛みに負けて、よく分からないままお願いすることにした。

「わ、痛そう。我慢しないでちゃんと手当てしないとダメですよこれ」
 古い包帯を取り替えて慣れた手つきで応急処置をしつつ、女性に話しかけ続ける結希。
 その行為が吸血鬼の"治療"とは異なるちゃんとしたものだと分かれば、女性のほうも少しは彼女に気を許した様子で、おずおずとしながらお礼を言う。
「……ありがとう」
「いえいえ。化膿しちゃう前で良かったです」
 清潔な白い包帯をくるりと巻き終えて、処置を終えた結希はにっこりと笑う。
 その憂いのない表情につられて、女性も小さくはにかむような笑みを返した。

「おかーさん、だいじょうぶ……?」
 すると家の奥から、女性の子とおぼしいまだ小さな子供が、ひょこりと顔を覗かせる。
 どうやら結希のことを不審者やヴァンパイアの手先でないかと警戒して、隠れているよう言いつけていたようだ。女性は「疑ってすみません」と謝るが、結希はいいですよと気にしていない調子で答え、代わりにまた新しい提案を持ちかける。
「……ね、外に出てみませんか。みんなに紹介したい人達が居るんです」
「紹介したい人……? それは、どんな方なんですか?」
「希望を信じて、闇と戦う砦の人達です」
 この地底都市の外にも人はいて、ヴァンパイアの支配に抗っていることを語る。自分たち猟兵もその一員で、ここに来たのは彼女らを『人類砦』に迎えるためだということも。

「……世界は、絶望ばかりやないよ」
 ここに閉じこもっていては見ることのできない希望が、外の世界にはたくさんある。
 私達がそこに連れていきますから――と、手を差し伸べる結希を、女性と子供はまるで夢でも見ているような表情で見つめていた。
「……急な話で、何がなんだか分かりません……でも……」
 信じたいという想いがほんの少しでもあったから、女性は差し伸べられた手を取った。
 信頼の証として握られたその手を、結希は嬉しそうに笑いながらしっかりと引いて、仲間のいるところまで彼女たちを案内するのだった。
大成功 🔵🔵🔵

ジュリア・ホワイト
よし、最後の仕上げというわけだね
生憎医学的な治療は不得手だから、それは人に任せるとして……
ボクは人々を奮い立たせる方に力を向けよう

「今日の戦いで分かってくれただろうか。吸血鬼達は絶対不可侵の支配者じゃない。戦い、勝つことも可能な存在に過ぎないんだ!」
「無論、容易な話じゃないさ。でも、皆で知恵と力を合わせて抵抗すれば、ただ嬲られ搾取されるだけじゃない結末を迎えられるとボクは信じているし、キミ達にも信じて欲しい!」
「外の世界――地上には、そうやって吸血鬼と戦う人達の砦がある。そこならここより安全だろうし、望めば戦いにも加われる」
「だから皆、ちょっとだけ頑張ってほしい。皆で希望の地に歩いて行こう!」


「よし、最後の仕上げというわけだね」
 ヴァンパイアとの戦いに勝利を収め、ヒーローの勇姿をこの地に知らしめたジュリアは休む間もなく、人々の救援と説得という今回の依頼の肝心となる仕事に取り掛かった。
(生憎医学的な治療は不得手だから、それは人に任せるとして……ボクは人々を奮い立たせる方に力を向けよう)
 傷ついた肉体を癒やすのは苦手でも、絶望に沈んだ人々の心に希望の火を灯すことはできる。それがヒーロー――悪に立ち向かう者の使命であり、本領発揮でもあるのだから。

「今日の戦いで分かってくれただろうか。吸血鬼達は絶対不可侵の支配者じゃない。戦い、勝つことも可能な存在に過ぎないんだ!」
 治療を受けた人々を地底都市の広場に集め、ジュリアは通りのよい大声で演説を行う。
 彼女をはじめとする猟兵の戦いを見ていたなら、その言葉を疑う者はいないだろう。どうあっても敵わないと思っていたヴァンパイアが、まるでおとぎ話の悪役のように倒されるところを、彼らははっきりと目の当たりにしたのだから。
「無論、容易な話じゃないさ。でも、皆で知恵と力を合わせて抵抗すれば、ただ嬲られ搾取されるだけじゃない結末を迎えられるとボクは信じているし、キミ達にも信じて欲しい!」
 特別な力を持ったジュリアたち猟兵ですら、苦戦を強いられるようなヴァンパイアはいる。それでも決して諦めなかったからこそ、この地底都市を解放することもできた。どれほど強大な敵でも、皆で協力すれば打ち破れない相手はいないのだ。

「外の世界――地上には、そうやって吸血鬼と戦う人達の砦がある。そこならここより安全だろうし、望めば戦いにも加われる」
 猟兵の戦いに感化され、共にヴァンパイアの支配に抗おうと決意した闇の救済者達(ダークセイヴァー)。彼らが築き上げた『人類砦』についてジュリアが熱く語ると、最初は実感のない夢物語を聞いているようだった地底都市の人々の表情も次第に変わってくる。
 ジュリアの発した言葉を通じて、情熱という名の炎が燃え移ったように。胸にこみあげる熱いものを感じた人々は、いつしか彼女から目を離せなくなっていた。

「ヴァンパイアに支配されない人類の砦……本当にそんな所が……?」
「あるさ。だってボク達はそこから来たんだから」
 他ならぬ自分らがその証明だと、胸を張ってジュリアは言う。すでに地上各地にある幾つかの『人類砦』では、地底の住民を受け入れるための準備を整えてくれているはずだ。
 決して豊かとまでは言えないが、それでもこことは比べものにならない生活ができるだろう。少なくともそこでは怪我や病に罹っても、"治療"されることに怯える必要はない。

「だから皆、ちょっとだけ頑張ってほしい。皆で希望の地に歩いて行こう!」
 【立ち上がれ良き人々よ、希望の光はここにある】――ジュリアの演説から小さな勇気を受け取った人々は「やるぞ!!」「おおーっ!!」と大きな声で彼女の号令に応えた。
「もう、俺たちはヴァンパイアの言いなりになんてならない!」
「希望っていうのが本当にあるのなら、どこへだって行くわ!」
 皆が絶望に立ち向かう意思を持つことが、希望への第一歩になる。そう信じているからこそ、ジュリアは眩しそうに目を細めながら、彼らの立ち上がる姿を見つめていた。
大成功 🔵🔵🔵

トリテレイア・ゼロナイン
(比較的健康な住人集め)
地上への道行は女性や子供、老人にとって酷な物
出発には万全の体勢が必要です
その為の物資の収集にご協力を願います

彼ら彼女らをこれから護るのは皆様です
頼りになる所を見せて上げてください

UCで吸血鬼の居住区探査、物資集積状態把握
それに従い医療品、食料を優先し運び出し

(重量ある芸術品持ち出そうとする一幕に出くわし)
そこの方

…旅で嵩張らぬ貴金属の方が宜しいかと
後で集積所にご案内しましょう

そして非常時故、許されることお忘れなきよう
懐のそれ
同じ真似を見逃す程地上も余裕はありませんよ

明日の糧得る為の略奪…戦しか能無き騎士の限界ですね

いえ
創造に治癒…彼らの手で為される未来の為
今は出来る事を


「皆様、よく集まってくださいました」
 地底都市の広場に呼び集めた住民達の前で、トリテレイアはまず最初に感謝を述べた。
 集められたのはここの住民の中でも比較的健康で体力のありそうな者達だ。人々の治療や説得が順調に行われている中で、彼は段階をもうひとつ先に進めようとしていた。
「地上への道行は女性や子供、老人にとって酷な物。出発には万全の体勢が必要です。その為の物資の収集にご協力を願います」
 食糧、衣類、医薬品。長旅が予想される『人類砦』までの移動に必要となるものは、両手で数えても足りないだろう。猟兵の中には自前で物資を持ち込んできている者もいるが、それでも不足するものはこの都市内から持ち出すほかにない。

「彼ら彼女らをこれから護るのは皆様です。頼りになる所を見せて上げてください」
 トリテレイアからそのように発破をかけられれば、彼らも奮い立たざるをえない。吸血鬼の支配下だったこれまでとは違い、自由になるとはその分の責任を負う事なのだから。
「けれど騎士様。俺たちが持ってる食糧なんかをかき集めても、この町に住んでる全員分にはとても……」
「問題はありません。物資の回収場所については既に当たりを付けてあります」
 一般市民が貧しい暮らしを強いられている都市でも、モノはある所にはあるものだ。
 それは即ち、この地底都市の支配者だったヴァンパイアナースの居住区の事である。
 トリテレイアは事前に【自律式妖精型ロボ 格納・コントロールユニット】から発進させた妖精型ロボにこの区域を探査させ、物資が集積されているポイントを発見していた。

「こちらです」
「うわぁ……!」
 騎士と妖精に案内された先で人々が目にしたのは、これまでに一度も見たこともないような豪華な部屋といかにも高価そうな調度品。クローゼットにはたくさんの綺麗な衣服が詰め込まれ、食料庫には山程の肉やパン、そして棚には貴重な医薬品の瓶が並んでいる。
「まずは病人に必要な医療品、それから食料を優先し運び出してください」
「わ、わかりました!」
 自分達が塗炭の苦しみにあえいでいる中、ヴァンパイアはこんな豊かな暮らしをしていたのか――今更ながらにふつふつと湧き上がる怒りを感じながらも、人々はトリテレイアの指示のもとで物資の回収を行う。家主が討伐された今、それを咎める者は誰もいない。

「作業は順調なようですね……そこの方」
「は、はいっ?!」
 要所で手を貸しながら人々の様子を見て回っていたトリテレイアは、ふと壁にかけられていた大きな絵画を持ち出そうとする一幕に出くわす。声をかけられた男はギクリと肩を跳ね上がらせ、バツが悪そうな顔に冷や汗をたらす。
「え、えぇと、騎士様。これはその、つい出来心で……」
「……旅で嵩張らぬ貴金属の方が宜しいかと。後で集積所にご案内しましょう」
「……へっ?」
 叱られるとばかり思っていたところに予想外の事を言われて、思わず目を丸くする男。
 トリテレイアとて窃盗に寛容なつもりはないが――これからの地上の生活に、食糧や薬の他にも先立つものが必要となるのは事実だった。重量のある芸術品よりも楽に運べる宝飾品類を、強欲なヴァンパイアたちが溜め込んでいたのはもっけの幸いだった。

「そして非常時故、許されることお忘れなきよう」
 やむを得ぬことを認めつつも、トリテレイアは彼らがこれに味を占めないよう釘を刺しておくのも忘れない。自由を得た人々が盗人に堕落するようなことがあってはならない。
「懐のそれ、同じ真似を見逃す程地上も余裕はありませんよ」
「き、肝に命じます……」
 全てお見通しのうえで目溢された手癖の悪い男は、反省した様子で立ち去っていった。
 それを見送ったトリテレイアは改めて周囲を見回す。目配りが利いているおかげで手荒な事にはなっていないが、現状の行為を客観的に言い表せばやはり空き巣か略奪だろう。

「明日の糧得る為の略奪……戦しか能無き騎士の限界ですね」
 戦いのために創られたこの手と思考回路では、人々に示せる道はこれがやっとだった。
 せめて道を外さぬように指導しつつも、晴れやかな気分にはなれない。本当にこれが正しかったのだろうかという疑問も一瞬、脳裏をかすめるが――。
「いえ。創造に治癒……彼らの手で為される未来の為、今は出来る事を」
 けして清廉とは言えぬ手段でも、それで彼らの明日が繋がるのであれば構いはしない。
 この行為を糧として、彼らがより善き未来を紡いでくれることを信じて、機械仕掛けの騎士は回収作業を続行するのだった。
大成功 🔵🔵🔵