北天より来たりて齎す者
●たったひとつのもの
それは本来ならば人の耳に届かぬはずの歌声であった。
美しい湖面が映し出す星々が震える。それは水面が揺れているからであって、実際に空の星が揺れているわけではない。
けれど、静かな湖面を揺らすのは歌声だった。
少女の歌声であるとかろうじてわかる程度の声。けれど、その声は確かに湖面を揺らしていた。
徐々に、徐々に……先刻よりも強くなっている。微々たる変化であったが、それはもはや止めようもないほどに加速していく。
「おそらのうえから、あなたをすくいにきました。わたしは、けっしてみすてません。やめるときも、うれうときも。わたしがそばにおります」
声が聞こえる。
声が。声が。声が。
耳にこびりついて離れない。湖に住まう鳥たちは皆、一様に姿をくらませた。その声に、歌声から逃れるように逃げ去ってしまった。
今此処にいるのは自分だけ。
ぞわりと肌が泡立つ。何も考えられない。どうしようもないほどの恐怖が襲ってくるけれど、それを振り払うこともできない。
それはどうしようもなく―――。
満ち足りた幸福なる理想。
あらゆる記憶の中にあるトラウマを癒やす光。
何かを成し遂げたいという思いも、どうでもいい。このままがいい。ずっと変わらずにこのままがいい。
―――心地よい。
「どうか、どうか、しあわせでありますように」
●喪われた竜神信仰
かつて竜神たちが封じた邪神の一柱。その龍脈に寄る封印は容易には破れず、氷に閉ざされた封印の地は溶けては凍結を繰り返し、海や気候で刻一刻と変化することによって同じルートを辿ることができない。
もはや誰も邪神が封印されし、つるりとした氷一つ付かぬ真っ黒な石柱状のモノリスへとたどり着くことはできないはずだった。
だが、そうはならなかった。
竜神たちの話を元にUDCアースの調査を進めてみても、彼等の記憶する場所に邪神が封印されしモノリスは存在していなかった。入念に調査を何度も行って、ようやく辿り着いたのは日本であった。
その日本の龍脈の上に存在する湖の辺りにある村を訪れたUDCエージェントが次々と失踪し、その行方は知れない。
だが、最後にエージェントたちが送ってきた情報は皆、同じであった。
「―――救われたい」
たった一言。それだけを残してUDC組織のエージェントたちは連絡を絶った。
もはや疑いようがない。
エージェントたちが消えてしまった村に邪神が封印されたモノリスが存在するのだ―――!
●龍脈封印
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まりいただきありがとうございます。今回の事件……皆さんに追って頂くのは竜神信仰喪われし村における龍脈封印によって封じられた邪神のモノリスです」
ナイアルテは詳しい資料のまとめられた紙束を猟兵たちにそれぞれ手渡す。
それは日本における龍脈の位置と、今回の事件の場所……湖の畔にある寂れた村の地図を示していた。
「みなさんは既に嘗てUDCアースにおいて邪神が竜神の皆さんによって封印されていたことはご存知かと思います。カクリヨファンタズム世界の発見によって竜神のみなさんと知り合うことができたことによって、かつて封じた邪神たちの封印の場所を詳細に聞き取りすることができました」
それによってUDCアースのUDC組織と猟兵が連携し、各地を調査したのだが、その殆どに龍脈あるいはレイラインと呼ばれる『大地に流れるエネルギー』を利用した封印が存在しないことがわかったのだ。
どこに消えてしまったかわからない龍脈封印を調査するのは大変な労力であった。
今回発見された龍脈封印が施されたと思わしき村には、僅かながら竜神信仰の痕跡があるようなのだ。
「はい。殆ど喪われてしまって痕跡しか残らない伝承が残っているようなのですが、これを調査し、龍脈封印された邪神を見つけ出して討ち果たしていただきたいのです」
現地に調査に向かったUDCエージェントたちは、全て消息を断ってしまっている。これはどう考えても、すでに邪神やそれに類する眷属たちが動いているとしか思えない。
このままでは星辰揃いし時にはじまるという『大いなる戦い』において、猟兵たちが不利になってしまうのも明らかだ。
「今回、皆さんの行って頂くことは三つです」
ナイアルテの指が三本立ち上がり、指折り数えていく。
ひとつは喪われてしまった竜神信仰の痕跡が残る湖の畔の村にて、龍脈封印の伝承について調査する。
ふたつめは、発見された龍脈封印の周囲に巣食うUDC怪物の打倒。
そして、みっつめ。
「これが今回の本題でもあります。発見した龍脈封印を解き、封印されている邪神を討ち果たしていただきたいのです」
本来であれば、尋常ならざる強大なる邪神である。
だが、深き眠りより目覚めた邪神は、それ故に弱体化しているのだ。この機会を逃す手はない。『大いなる戦い』の前に完全復活する邪神を一体でも減らすことは、猟兵たちにとって有益なことである。
「はい。危険な戦いになることは重々承知でありますが、どうぞお願いいたします。『大いなる戦い』が始まった瞬間、邪神の餌食になってしまうのは、湖の畔にある村の人々のはずです……UDCアースに住まう人々の生命が危険に晒されてしまうのは、あってはならないことです」
故にナイアルテは再び頭を下げる。
救える生命があるというのならば、救って欲しい。その切なる願いに応えるように猟兵達は次々と転移していく。
その背中を見送り、猟兵達の無事をナイアルテは願わずにはいられなかった―――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はUDCアースにおいて、竜神たちが龍脈の力によって封印した邪神の所在と思わしき竜神信仰の痕跡を探索し、封印の場所に救うUDCと邪神を打倒するシナリオになります。
●第一章
日常です。
UDCアースのとある湖の畔にある寂れた村へと赴き、龍脈封印の伝承について調査しましょう。
村人も存在しており、フラグメント内の三つから選んで探索していただきます。
●第二章
集団戦です。
第一章の結果を受けて判明した龍脈封印の周囲に巣食うUDC怪物たちを打倒しましょう。
龍脈封印から溢れる魔力をすするために集まっているため、圧倒的な数のUDCが存在しています。
●第三章
ボス戦です。
発見された邪神の封印された龍脈封印を解き、中の存在する邪神を討ち果たしましょう。
本来であればとてつもなく強い邪神ですが、深き眠りにより目覚めたばかりであるため、本来の力を発揮しきれていません。
倒すなら今しかない、というほどに強力な存在ですので、それでもなお有り余る力でもって猟兵の皆さんの前に降臨することでしょう。
それでは、邪神跋扈するUDCアース、その龍脈封印によって封じられた邪神をめぐる戦いの物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 冒険
『竜脈封印の伝承』
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POW : 巨石を動かしたり、沼の底に潜るなどして、竜神信仰の痕跡を探索する
SPD : 探索範囲内全域をくまなく歩いてまわるなど、足を使って竜神信仰の痕跡を探し出す
WIZ : 村に伝わる昔話や童歌の調査、村の古老との会話などから、竜神信仰の痕跡を探ります
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
龍脈。
それはレイラインとも呼ばれ、かつてUDCアースにおいて竜神たちが邪神の封印に用いた魔力溢れる場所である。
竜神たちの記憶が正しければ、本来今回の邪神封印ははるか北……北極点に存在していたはずなのだ。
けれど、猟兵とUDC組織の調査によって判明したのは、そこに『邪神封印』は存在しないという事実のみ。
その足跡をたどり、漸く辿り着いたのが、この竜神信仰の痕跡が僅かに残る日本の寂れた村。
小島が浮かぶ湖の畔に存在する田舎町……町と言うには最早少なすぎる人口。村といった方が正しいような有様である。
あちこちに祠のようなものが存在していたり、神社、鳥居が見え隠れする。
それは徐々に湖に近づくにつれて数を増やしている。
邪神封印が流れ着いてきた先が、この村であるというのならば、必ずどこかに竜神信仰の痕跡と共に存在しているはずなのだ。
猟兵達はUDCアースの寂れた村へと降り立ち、竜神信仰の痕跡を探さなければならない。
住まう人々は驚きつつも歓迎しくてれるだろう。何の悩みもない、穏やかな表情のまま―――。
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】WIZで調査
竜神、龍脈、かぁ
ドラゴンと一緒にいる梓にとっては
結構興味を惹かれるワードじゃない?
この村を訪れたUDC組織の人達は失踪しているけど
村自体はパッと見何の変哲もないように見える
龍脈封印に深入りさえしなければ無事に過ごせるのかな
村の人達は何かを知っていて
敢えて触れないようにしているのか
そもそも時代と共に忘れてしまっているのか…
村人達と交流しつつ探ってみよう
梓って見た目だけは威圧感あるけど
子供と遊ぶの上手いなぁとか思いつつ
俺はちょっとしたお店に入って
買い物しつつ店主さんと会話を試みる
俺よりも前にこの村に来た人(UDC組織)はいた?
その人達は何をしてどうなった?とか
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】WIZで調査
んー、どうだろうなぁ
邪神を封印したという功績は凄いが
俺にとって竜は共に居る存在であり
「神」と言って崇め奉るのは何だか違うんだよな
肩の焔と零を撫でてやりつつ
村を回る際には、わざと村人達に
焔と零を見せびらかすように歩く
竜神では無いが竜の姿をしているこいつらを見て
村人達はどんな反応をするのか
もしかしたら子供と老人でも反応が変わるか?
子供達がドラゴンに釣られて寄ってきたら
遊ばせてやりつつ話を聞いてみる
こいつらよりももっとでっかいドラゴンの
すっごい話とか知らないかー?とか
俺が村の外で調査(遊び?)している間に
店に入って調査している綾と
あとで合流して互いに情報を共有
その村は自然豊かではあるものの、交通の便や過疎地ということも相まって人の行き交う道筋が薄まりつつある場所であった。
湖の畔であるということは、景観麗しくリゾートホテルなどの事業も有り得そうなものであったが、それさえもない。
ただ細々と、けれど確かに人の紡いだ歴史が繋がれてきたことを感じさせる、そんな村だった。
交通の便が悪いということは、此処まで至るのにも現地の人間でなければ一苦労するものである。だが、猟兵たちは皆転移によってこの場所へと降り立つが故に、皆一様に何故こんな自然豊かな場所が過疎地になってしまうのかと思うほどであった。。
「竜神、龍脈かぁ……ドラゴンと一緒にいる梓にとっては結構興味を惹かれるワードじゃない?」
灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、そう言って隣に並び立つ乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)へと語りかけた。
「んー、どうだろうなぁ。邪神を封印したという功績は凄いが、俺にとって竜は共に居る存在であり『神』と言って崇め奉るのはなんだか違うんだよな……」
当の本人である炎竜である焔と氷竜である零がじゃれつくようにして梓の首周りをぐるりとよじ登ったりしているのをあやし、なでながら梓は言う。
友に在るのが当然。
それが彼にとっての竜であって、信仰の対象になるのかと言われたら彼自身は首をひねる事柄だった。
あまりにも近すぎるから、そんな風に感じるのかも知れない。
それに世界が数多あるように、人の抱える価値観や信仰の体系もまた星々のように数多あるものであろう。そこから一つの星を掴んだようなものだ。
梓にとっての竜とは、やはり焔と零のように互いに寄り添うものであるのだから。
「そういうものかな……さて、調査に乗り出そうか。この村を訪れたUDC組織の人達は失踪しているけど……」
綾が視線を村に巡らせる。
人の多くない村。UDCアースにおいては田舎の中のさらに田舎、といった具合の寂れた村だ。そこだけ見れば、たしかに村事態はぱっと見たかぎりでは何の変哲もないように見える。
「一見普通の村だよな。竜神信仰は喪われてしまったという話だが、痕跡が残っているのなら、焔や零を見て村に済む連中がどんな反応をするのか……そこに鍵があるかもしれないな」
梓は敢えて竜である焔と零を見せびらかすようにして村へと歩いていく。綾も当然後をついていくのだが、やはり人通りが少ない。
子供らの姿は時折見えるが、こんな田舎の村に人が訪れるということ事態が珍しいのだろう、遠巻きに梓と綾を見つめている。
「龍脈封印に深入りしなければ、無事に過ごせるのかな……」
それとも、村の人達は何かを知っていて、敢えて触れないようにしているのか。それとも時代と共に忘れてしまっているのか……。綾の疑問は尽きない。
なにせ、どこからどう見てもおかしい雰囲気はない。
今も話を聞いている村唯一の雑貨店の老人も穏やかな気性なのか、珍しい外からの人間の来訪であっても快く対応してくれる。
「こんにちは。少し訪ねたいんだけれど、いいかな?」
綾はにこやかに微笑みながら、雑貨店の老人……店主へと尋ねる。
その雑貨店の外で梓がよってきた子供らと戯れている。梓のああいうところを見ると、あんな成りをしているのに子供と遊ぶ、打ち解けるのは上手だなぁ、と感心してしまう。
わぁわぁ、と雑貨店の外が騒がしいのは梓と子竜たちが子供らと戯れているからだ。なんとも微笑ましいのだが、本当に見た目が威圧感ある梓を知らない者が見れば、あまりのギャップに驚く事間違いなしであろう。綾にとっては、相棒の一面でしかないけれど、それでも微笑ましいことには違いなかった。
「俺よりも前にこの村にきた人はいた? ここから何処に行くとか、何かをするって言っていなかったかい?」
そう尋ねると、店主は朗らかに応える。
何か民間伝承を調査している学者さんだと名乗る者が何人かやってきた、と。自分もこの村に伝わる古い言い伝えを教えたのだと応えてくれる。
曰く。
子供は湖には近づいてはならない。大人が漁をするのは構わないけれど、小島には近づいてはならない。年代によって湖に近づいていい距離というものが伝承として残っているのだ。
何でも叶えてくれる神が小島には住んでいるが、あらゆるものを叶えてくれるが故に、叶えた願いの代わりに人としての何か大切なものを抜き取られてしまうのだと言う。
「―――なるほど。ありがとう。助かったよ」
綾は礼を告げて外に出る。
雑貨店の外では、まだ梓と子竜、そして子供たちが遊び続けていた。もう、まったく。そんな風に肩をすくめて綾は梓へと切り上げて情報を共有しようと持ちかけ、子供たちと別れて、湖へと歩いていく。
「子供たちの反応、どうだった?」
「なんだろうな。怪物とか異形とか、そういう目で焔や零を見ていなかった。かと言ってペットだとか、神様とか、そういう上下に見た感じでもなかった。ただ、俺達と同じ珍しい来客が村にあった、くらいの感じだったな」
梓は所感ではあったが、子供らとの交流を通じて、そう判断していた。
竜神信仰は喪われてしまっている。ならば、そこに信仰の対象として竜を奉る雰囲気はない。けれど、UDCアースにおいて竜を連れた存在は猟兵と共にいるが故に違和感なく目に映る。
人によってはペットのようなもの、として認識するものもいるだろう。
それもない。
ならば、と思って焔や零よりも大きなドラゴンやすごい話はないかと聞いてみるも、子供たちは何も知らないようで、焔や零と戯れることに夢中になっていた。
「いつもどこで遊んでいるのか、とか昔から伝わる歌はないのかって聞いてみたんだが……」
そこからは綾が得た情報と相違はないようだった。
昔から伝わる伝承。湖に近づいてはならない。
しかも、歳を重ねた年代によって湖の周辺に近づく距離が定められている。
「……子供は湖に近づくことすら許されない。けれど、大人は湖に近づいて漁をするまでは許されている。けれど、小島には近づくな……なあ、これって」
どう考えても、湖に何か関係があるとしか思えない。
子供にあって大人にないもの。大人にあって子供にないもの。
何でも叶えてくれる神が住まう小島。
「UDCエージェントは、大人。小島に近づきすぎて、失踪した……?」
二人の意見は一致した。
必ず、湖に何かが在る。そう確信して、二人は湖へと近づいていくのだった―――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
姫川・芙美子
POWで判定です。アドリブ歓迎。
カクリヨで暮らしてた頃は、竜神さん達にはお世話になったものです。懐かしいですね。
信仰が残っている村があると知れば喜ばれる事でしょうね。彼らの為にも正義の為にも必ず守りぬきましょう。
湖から広がる様に村が出来ています。湖底を探ってみましょう。
【化術】【水中戦】で水中呼吸可能な体に変化し、潜ります。
【視力】【暗視】を駆使して【情報収集】を行います。
何らかの人工物や、不自然な痕跡なとがないか、泳ぎ回って調べてみましょう。
力仕事が必要なら【隠れ鬼】を呼びます。水中なら人目もないから大丈夫でしょう。
鬼達の【怪力】で岩や障害物等を持ち上げて貰って調査してみます。
UDCアースに隣接する世界としてカクリヨファンタズムが語られるのは、猟兵にとっては記憶に新しい事実であった。
かつて邪神蔓延るUDCアースにて、信仰心を糧に生きてきた竜神たちが人々の願いを受けて龍脈による魔力によって邪神の数々を封印した。だが、竜神たちや妖怪、俗に怪異と呼ばれる者たちへの信仰や恐れといった感情は文明が発展するにつれて喪われていった。
それ故に妖怪や竜神といった者たちは幽世。つまりカクリヨファンタズムへの移住を余儀なくされたのだ。
その竜神信仰の痕跡が、今回の事件の渦中である湖の畔にある寂れた村にあると聞いて、姫川・芙美子(鬼子・f28908)はカクリヨファンタズムで共に暮らしていた竜神たちのことを思い出していた。
「カクリヨで暮らしてた頃は、竜神さん達にはお世話になったものです。懐かしいですね」
寂れた村の雰囲気は、文明の進んだUDCアースにおいても、隣接する世界出身者である芙美子にとって、近い雰囲気を持つものであったことだろう。
どこか一世代、二世代も取り残されてしまったかのように、どこか寂しげな、それでいて懐かしいような雰囲気が村には残っていた。
彼女の懐かしいという感情は、きっとこの村の雰囲気に当てられたものであったのかもしれない。
「信仰が残っている村があると知れば喜ばれることでしょうね。彼等のためにも正義の為にも必ず守り抜きましょう」
もしも、この村の付近にあるという邪神封印が『大いなる戦い』の時に放たれれば、この村は言うまでもなく邪神の餌食になってしまうだろう。それはなんとしても阻止しなければならない。
竜神信仰は完全に喪われているわけではなく、薄れているだけ。そんな希望があるのならば、芙美子は故郷であるカクリヨファンタズムに住まう竜神たちに良い報告ができると、意気込みを新たにするのだった。
彼女が目をつけたのは湖から広がるようにして村が出来上がっているという事実だ。
確かに食料となる湖に住まう魚や、それに引き寄せられた鳥、獣達が居るがゆえに人々が糧にするものには困らないだろう。そうやって出来上がった村であるということはすぐに見て取れた。
ならば、その湖にこそ、邪神封印があるのではないかと芙美子は化術によって水中呼吸が可能な魚の姿となって潜る。
「水質は……綺麗なものですね。少し冷たい水……」
化術で魚になっているとはいえ、彼女の肌に感じる水の冷たさは夏の湖のそれとは思えないほどに冷たい。
魚や他の水棲の生物の生態系には関係していないようであるが、何故こんなに水が冷たいのだと訝しむほどである。
「……何らかの人工物や不自然な痕跡がないかと思いましたが―――ッ!?」
彼女が湖の畔から徐々に中心部へと調査を続けていく最中、その瞳が捕らえたのは湖の底にあってはならないもの。
「な、なんで、こんなところに……?」
彼女の目の前、湖の底にあったのは、氷塊であった。
氷の塊。
本来であれば浮力によって水中に多くの体積を残しつつ、その一角を湖面に浮かび上がらせていないといけないはずの氷塊が、湖底に沈んでいるのである。
そして、仄かにその湖底が光っているのを芙美子は見逃さなかった。
「もういいよ」
空間に隠れた見えない鬼たち―――隠れ鬼(カクレオニ)が彼女の言葉を合図に放たれる。
氷塊の下、仄かに光る湖底に何が在るのか、鬼達の腕力で持って氷塊を持ち上げようとしたのだ。
凄まじい質量の氷塊を鬼たちが一斉に持ち上げる。
そこにあったのは、ある竜神の印。よくよく周囲を探れば、その印は湖のあちこちに点在している。
「……やはり、湖の小島。中心に邪神封印があるのかもしれませんね」
芙美子の視線は自ずと湖の中央、小島に向けられる。
氷塊が竜神の印を塞いでいたのは、すでに邪神封印からこぼれた魔力が形をなした結果なのかもしれない。
封印されている邪神の力の凄まじさ、その一端を垣間見た芙美子であったが、それでも彼女は立ち止まらない。
正義のために。
そして、何よりも故郷の竜神たちに痕跡と言えど信仰の痕が残っていたことを伝えるために、芙美子は湖の中心……小島へと向かうのだった―――。
成功
🔵🔵🔴
黒髪・名捨
●POW
しっかし、龍神の封印ねぇ…なあ寧々なんか知らねーか?(寧々「知らん。さぼるでない地道な調査が大事じゃぞ。」)
はい、さーせん。
しょーがねぇ。
オレの『第六感』
寧々の『野生の勘』を頼りに、怪しい場所を虱潰しに調査すっか。
とりあえず、怪しい巨石を『怪力』で動かしたり、『トンネル掘り』で壊れた廃屋の周囲を掘り返したりして『情報収集』
いや、疲れたわ。マジで…って何だ寧々?
(寧々「旦那が集めた情報、妾の『世界知識』そして、勘…それが示す一番怪しいのはここじゃ!!」)
いや、そこ沼の中…泳げないんだけど…はい寧々の『結界術』でカバーしてもらって沈んできます…
あと寧々の推理って割と…なんでもないです。
そこは一見して寂れた田舎町であった。
静かすぎるほどに静かであり、人の行き交う路も人気がない。どこまで言ってもすれ違う人もいない。
人口密度の低い、既に過疎地となってしまったといってもしかたのないほどに寂れた田舎の中でもさらに田舎。自然は豊かであるけれど、それを観光にも活かしきれていない。そんな印象の町……いや、村だ。
訪れた黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は小さく言葉を吐き出し、己の頭の上に陣取るようにした喋る蛙『寧々』へと呼びかける。
「しっかし、竜神の封印ねぇ…… なあ寧々なんか知らねーか?」
カクリヨファンタズム出身の喋る蛙『寧々』にとって、竜神と言えばUDCアースの隣に存在するカクリヨファンタズムにおいて、かつてこの地において邪神を封印した存在である。
ならば、同じカクリヨファンタズムに住まう者として、何かを知っているのではにないかと期待したのだ。
「知らん。さぼるでない。地道な調査が大事じゃぞ」
ぺちん! と名捨の額を蛙の掌が叩く。
横着するなということなのだろう。僅かにそんな期待がないわけではなかったのだが、見事に見透かされてしまった。
「はい、さーせん。しょーがねぇ……」
調査は足で稼ぐ。
そういう地道な調査こそが、本命へと近づく第一歩だ。何事も踏み出さなければ得ることも、出会うこともできはしない。
名捨の第六感とも言うべき感覚と寧々の持つ野生の勘を頼りに寂れた田舎町を練り歩く。
なんとなく気になった巨大な岩。
それを名捨の怪力で動かしてみたり、壊れた廃屋の周囲を掘り返したりと様々なことに挑戦してみたが、結果は芳しくない。
「いや、疲れたわ。マジで……」
湖の畔に在るがゆえに、豊かな自然に囲まれている。そんなところを虱潰しに探していくのは、名捨と言えど大変なものだった。
疲労を癒やすように木々の木陰にあった岩に腰掛けて休憩していると、寧々が何やら気合の籠もった表情になる。
「……ってなんだ、寧々?」
やたらと自分の頭をぺちぺちと叩くものだから、長い前髪がさらに鬱陶しいことになってしまう。
「旦那が集めた情報、妾の知識。そして、勘……それが示す一番怪しいのは……」
そこじゃ! と名捨の頭の上でぴょんこと飛び跳ね指差す先にあったのは、沼。
沼である。
え、と思わず名捨もたじろいでしまう。
「いや、そこ沼の中……泳げないんだけど……」
ぺっちん! とまた額を叩かれてしまう。つべこべ言うなということなのだろう。尻に敷かれているというか、まさに額に乗っかられている状態ではあるのだが、名捨は渋々と言った体で沼の中に沈んでいく。
結界術でカバーされているとはいえ、あまり気持ちのいいものではない。
わずかに寧々の推理って割と……雑だよね、と言う言葉を飲み込んだ。これ以上言うと、きっと額を叩かれるだけではすまない。
そんな思いを秘めながら名捨は沼の底……いや、違う。沼の底が何処かにつながっている。
「……!」
あながち寧々の推理も捨てたものではない。沼は湖底とつながっていたのだ。結界術で身を覆われているからこそ、無事でいられた。
目の前の湖底には、何か車輪のようなものの残骸が湖底から湖の中心にある小島の方へと分布している。
これが一体何の残骸であるのか、今だ理解できないが、名捨にとって、これが集まるように続く小島になにかあると確信させるだけの物証であることは間違いない。
「どちらにせよ、湖の小島まで行かないとなんにもわからないってことか。ある意味ここからショートカットだったのかもな」
寧々の推理に感謝しつつ、名捨は湖底を進み、小島へと向かうのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
先行した人の話は全部、湖の中心の小島にこそ邪神の封印があるって示唆しているわね。
それじゃあ、その小島を徹底的に調べましょう。一木一草余さず残さず、草の根分けてでも。
もちろん、自分で乗り込むほど無謀じゃない。
「式神使い」で黒鴉召喚の式を多数生みだし、小島を高く低く飛んで探らせる。
できれば、あたしの頭の中に3D映像として結像出来れば理想ね。
行動に移す前に、自分とアヤメを囲むように円を地面に描いておく。
アヤメ、あたしがもし異常な行動を始めたら、「結界術」であたしと黒鴉の式の感覚リンクを遮断して。
これはあなたにしか頼めない。よろしくお願いするわ。
さあ、準備は調った。――舞え、小さき夜の欠片たち!
猟兵達は時に己の得た情報を後続の者たちに残す。
それはオブリビオンの脅威に対抗するためには必要なことであり、その情報を持ってさらにオブリビオン事件を解決に導くことができるかもしれないからだ。
寂れた田舎町……いや、もう村と言ったほうがしっくり来るほどに人気の少ない村を村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は行く。
すでに情報を得ていた彼女の足は真っ直ぐに湖に浮かぶ小島へと向かっていた。
「先行した人の話は全部、湖の中心の小島にこそ邪神の封印があるって示唆しているわね」
ならば、彼女がすべきことはたった一つである。
彼女のユーベルコード、黒鴉召喚(コクアショウカン)によって召喚された鴉に似た鳥形の式神が一斉に彼女から飛び立つ。
「―――舞え、小さき夜の欠片たち!」
多数召喚した黒鴉の式神たちが、湖に浮かぶ小島の上空を高く、低くと様々な高度から探索を始める。
ゆかりと黒鴉の式神は五感を共有している。
頭の中にはすでに、3D映像のように島の全容が見えてきているのだ。
「さて、蛇が出るか……」
事前に彼女は式神であるアヤメと自身を囲むようにして円を描いた結界術を発動させる仕掛けを作り出していた。
それはもしも、小島に封印された邪神によって何か異常な行動を取らされるなどの妨害を受けた時、外部からの干渉を絶つためだ。
そのトリガーをアヤメに任せているのだ。
「これはあなたにしか頼めない」
その言葉は式神であるアヤメを信用している以上の、信頼といっても言葉が足りないくらいの気持ちがあるが故であった。
「おまかせください。きっとだいじょうぶですから!」
そう言ってアヤメはゆかりの傍で控えていてくれる。それが心強くもあり、ゆかりは五感を共有した黒鴉の式神から送られてくる視覚情報から小島の情報を構築していく。
別段変わったものがあるように思えない小島。けれど、それは視覚的な情報だけの話だ。小島が邪神封印が為された何かが存在することを決定づけるように黒鴉たちの挙動がおかしくなる。
視界が明滅する。
いや、違う。明滅しているのは確かだけれど、何かゆかりの中に逆流するような―――。
「これ―――魔力が漏れてる!」
龍脈の魔力を使った邪神の封印。この小島に魔力が溢れているということは、それは即ち封印にほころびが生まれ、そこから漏れ出す魔力が小島を覆っているということ。
そして、五感を共有している黒鴉達が、その聴覚を通してゆかりの耳に歌声のような、美しくも悍ましい何かが入り込んでくる。
背筋が泡立つ。
圧倒的な存在感なのに、どこにでもあるような、どこにでもいるような、そんな声。気がつくと背後に誰かが立っているような、そんな奇妙でありながらも恐ろしい気配。
膝が震える。
自分の聴覚を通して、何者かが自分の心を―――。
「―――ください! 目を覚ましてください!」
それは一瞬の出来事だった。結界術が発動し、ゆかりと黒鴉の式神を繋ぐ感覚のリンクが遮断されたのだ。
目の前にはアヤメの涙ぐむ姿。
ああ、とゆかりは得心行く。魔力によって逆流してきた何者か。それがなんであるのか、頭は理解していないけれど、身体が理解していた。
あれが、邪神。
己の心を身体を奪おうとするのではなく、満たして溢れさせようとする願いを叶えるだけの存在。
あらゆる欲望、願いを叶えられてしまえば、人はどうなるか。
その恐ろしさの一端をゆかりは、味わったのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
世界各地の騎士の御伽噺を収集する趣味もあり、現地の方に伝承を尋ねるのは依頼中の密かな楽しみでもあったのですが…
行方不明者がいるとなるとあまり時間は掛けられません
少々強引な方法ですが
UDC組織に偽証書類など用立ててもらい
『消息を絶った方のご家族から依頼を受けた探偵』として聞き込み
フィールドワークを装い失踪したエージェントの足取りを追います
このお写真の方に心当たりは御座いませんでしょうか?
彼らもプロ
滞在した民宿か、民家か、別の場所か
不測の事態に備え現地のセーフハウスか何処かに収集情報を纏めている筈
それを探りましょう
彼らの救助も出来れば最上ですが…
この地に住まう人々の安寧の為、無駄にはしません
UDC組織のエージェントたちは、猟兵達と違ってユーベルコードを使える者ばかりではない。
けれど、日々、狂喜を齎す邪神たちの痕跡を追う彼等もまた世界のために戦う者たちである。そんな彼れが消息を絶ったということは由々しき事態である。
そこに邪神の影があることは疑いようもなく、ただ『救われたい』という一様なるメッセージを最後に残したことが不可解であった。
UDCアースに降り立ったトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は機械騎士である。だが、まったく無味乾燥なる簡潔なる日々を送る者でもない。
彼の密かな趣味。
それは世界各地の騎士の御伽噺を収拾することであった。こうしてグリモア猟兵から事件の情報を聞き、そこから現地の者に伝承を尋ねるのは、事件の最中とは言え、密かな楽しみでもあったのだ。
「ですが、行方不明者がいるとなるとあまり時間は掛けられません」
少々強引な方法であるが、トリテレイアはUDC組織に無理を言って偽証書類の類を用立ててもらっていた。
それは『消息を絶ったエージェントの家族から依頼を受けた探偵』という立ち位置で、彼等が消息を絶った寂れた村での聞き取りを容易にするためのものであった。
フィールドワークを装えば、疾走したエージェントの足取りを追うこともひと目に怪しく映ることもないだろう。
けれど、その心配は杞憂に終わりそうだとトリテレイアは感じていた。
それはあまりにも村の中に人気がないからだ。寂れた田舎町と言えど、ここまで寂れるものであるのかと思うほどに人気はない。子供らの声はときおり聞こえるし、村に一つしか無い雑貨店に人はいるようであったが、ここまで過疎化が進んでいるとは思えなかったのだ。
「このお写真の方に心当たりは御座いませんでしょうか?」
トリテレイアは雑貨店の主である老体に尋ねる。
写真はすでにUDC組織から用立ててもらっている故に、ぬかりはない。その写真をいくつか提示する。
それを見て、雑貨店の主はうなずく。
数週間前、一ヶ月前、と人の往来がない故に、こうやって外部から人がくれば記憶に留まるのだろう。
特に隠し立てしていることはないようだった。
確かに彼等は此処を訪れている。調査のためもあったのだろうが、拠点として構え、雑貨店に顔を出したということは、この近辺に彼等の滞在した民宿や民家が存在しているはずだ。
「ありがとうございます。ご主人、彼等はこの村のどこに滞在していたか、ご存知ではないでしょうか?」
彼等もプロである。不測の事態に具え、現地のセーフハウス、つまりは何処かに収拾した情報を纏めて保険をかけているはずだ。それを探るべくトリテレイアは主人から聞き及んだ民家へと向かう。
そこはアパートというよりは、古民家のような出で立ちであった。
中に入ると埃っぽい。アイセンサーが情報を精査していくと、ろくに掃除が施されていない。どうやらエージェントが消息を絶つ前にメッセージを送った日付と一致している。
「……何かデータベース、もしくは情報端末があれば……」
スキャンしていく情報、天井裏に反応がある。
天井裏を探れば、そこにあったのはメモリスティック。なるほど、とトリテレイアはうなずく。下手に机や地面に接した場所に隠すよりは、この場のほうが安全であろう。
すぐさまにメモリスティックにアクセスし、内包されている情報を読み取る。
―――。
―――。
ねが―――叶え■■■存在。―――。
北天―――齎す。
与える。与える。与える。与える。与えて、与えて、全て叶えて、全てを。全てを。全てを。全てを。
「―――ッ! 違いますね。これは……情報とは言えない。いえ、情報であるのでしょうが、これは……」
思念の類。
エージェントの思念ではない。人を器として何か別のものが、このメモリスティックに残した得体のしれないもの。
確かにエージェントたちは優秀だったのだろう。もしも、自分が役目を全うできなくても、次に訪れる者のために足跡を残して、情報を引き継いでもらおうとしたのだ。
けれど、すでにこの情報媒体自体が、罠なのだ。
思念に影響される人体、有機生命体であったのならば、防ぐ手立てもなかったことだろう。ウォーマシンであるトリテレイアだからこそ、この思念を遮断できたのだ。
「……すでに邪神の手に落ちていたわけですね。最早彼等は……いえ、この地に住まう人々の安寧の為、無駄にはしません」
トリテレイアは、僅かに黙祷し、メモリスティックを掌の中で握りつぶす。
僅かに残っていた情報、湖の小島。
その封印の所在であろう場所へと彼は駆け、一刻も早く邪神の存在を討ち果たそうとするのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
竜脈封印の事を調べれば
邪神を縛る封印の事もわかるかな
聞いてもはぐらかして答えようとしないんだよなぁ
まあ、わかったところで
どうしたいかってのはあるんだけど
竜脈の流れに関する資料を調べておくよ
流れの途中なのか竜穴のようなスポットがあるかで
大まかな位置は推測できるだろうしね
それとUDC組織から
消えたエージェントのGPSの記録を見せて貰い
彼らの足跡と報告、滞在時間から史跡の在りかを
消息を絶った点から封印の位置を推測するよ
推測した情報も元に歩き回って情報を集めるよ
史跡を確認しつつ封印のありそうな方へ向かおう
依頼じゃなければ散歩して気持ちいい景色なんだろうけどね
湖が見渡せる丘があるなら少し寄ってみようかな
かつてUDCアースにあったという竜神信仰。
それは文明の発達によって徐々に廃れ、人々の感情を糧に生きる竜神たちは信仰という感情を得られぬままに衰退の一途を辿った。
滅びるしかなかった彼等はUDCアースに隣接する世界、幽世―――カクリヨファンタズムへと移住し、そのまま竜神信仰は忘れ去れられた。
邪神を封じた竜神。
その龍脈を用いた封印を調べ上げれば、邪神を縛る封印の方法もわかるのではないかと期待して、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、今回の事件に挑んでいる。
「聞いてもはぐらかして答えようとしないんだよなぁ……」
彼の体のうちに存在する邪神。
己を女性の体へと変えた邪神は融合を果たし、時に協力してオブリビオンと相対することもあるのだが、今だ邪神を縛る封印のことについて訪ねても、はぐらかされるばかりで決定的な情報を得たことはない。
故に、今回知り得た龍脈封印。
それを調べ上げれば、晶の求める答えも得られるのではないかと考えたのだ。
「まあ、わかったところで、どうしたかってのはあるんだけど」
求める答えがあったとして、それをどのように活かすか。そこまではまだ考えの結論が出ていない。
ある意味で宙ぶらりんな状態では在る。
けれど、前に進むためにはこうやって得られる情報を一つ一つ解いていくしかないのもまた事実である。
すでに晶はUDC組織からの協力を取り付け、消えたエージェントのGPS記録を得ていた。彼等の足跡と報告、滞在時間から史跡の在り処を。
そして、消息を絶った点から封印の位置を推測しようとしたのだ。
GPS情報はどれも湖で途絶えている。
間違いなく、彼等は最後、湖へと向かい、そこから連絡が取れなくなっている。自ずと、邪神封印は湖のどこかにあることは、はっきりとわかる。
「けど、なんでみんな揃いも揃って消息を絶つんだろう……一度目はわかる。不測の事態があっても対処が難しい。けれど、二度目は……」
そう、一度目に消息を立ったエージェントの残した情報から対策、もしくは何らかの策を講じるはずだ。
けれど、一度目、二度目、三度目とエージェントたちは忽然と消息を絶った。
「……湖に何かあるのは間違いないけど、もしかして、これも邪神の誘導?」
そう、おびき寄せられている。
そんな直感が働く。しかも、それは抗いようのないものであるのかも知れない。そうでなければ、エージェントたちが幾度も何の情報も残さずに消えてしまうわけがない。
湖が見渡せる丘を見つけ、晶はそこへと登っていく。
それは脇道にそれた散歩のようなものであったけれど、晶にとっては湖の全容をしるためには必要なことだった。
「依頼じゃなければ散歩して気持ちい景色なんだろうけどね……」
彼女の視界にあるのは、湖。その中央に存在する小島。
それを視界に収めた瞬間、晶の中の何かが警告を発する気がした。泡立つ背中。動悸がする。汗が溢れ始める。
間違いない。
感じるのだ。邪神の存在を。あの湖の小島から。それは理屈では言い表せない感情であったのかも知れない。
ふらり、と足が進む。抗いがたい欲求。救われたい。救われたい。望みを叶えて欲しい。叶えてくれると心がもう知っている。
「―――っ!」
頭を振る。びっしりと肌に浮かび上がった汗が飛び散る。嫌な汗だ。動悸を治めるように深呼吸をして、晶は落ち着いた瞳を湖へ向ける。
「あそこだ。あそこに、邪神封印が―――ある」
己の求めるものが、己が求めると知る者が、あそこに在る。その確信を持って晶は、湖へと駆け出すのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『廻るパンドラ』
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POW : 終末理論
【激しい爆発】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 臨界点突破
【高速で接近し、爆発】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 革命前夜
【爆発音】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵達は寂れた田舎町―――村に伝わる伝承や、以前この地へとやってきたUDC組織のエージェントたちの足跡をたどり、邪神封印の所在であろう湖の小島へとやってきていた。
小島に近づけば、それは最早疑いではなく、純然たる事実として目の前に広がっていた。
龍脈を用いた邪神封印。そのほころびより溢れる魔力をすするように集まった邪神の眷属たちが小島に跋扈していた。
小島のどこに、これほどの眷属たちが潜んでいたのか。
そして、それが今の今まで隠蔽されていた事実に驚愕する他無い。邪神の眷属―――『廻るパンドラ』は、その車輪の如き体をゆっくりと回転させながら、薄気味悪い焔を巻き上げ、猟兵たちに迫る。
これだけの魔力が溢れているのだ。
邪神封印のほころびは相当なものとなっているだろう。このまま時間をかけ、ゆっくりと確実に邪神の封印が解かれてしまえば、この地に住まう人々は元より、UDCアースに住まう人々もまた危険に晒すことになる。
一刻も早く、邪神の眷属たちを討ち果たし、邪神封印を解かなければならない。
完全なる邪神は強大の一言に尽きる。
猟兵達の戦いは今、速度を持って為されなければならないのだった―――!
村崎・ゆかり
邪神の封印、かなり弱ってるみたいね。急がなきゃ。
「降霊」にて執金剛神降臨。
巨体が振るう長物で、一気に眷属を「なぎ払う」わ。死角のフォローは、アヤメ、お願い。特に後ろががら空きだから。
私の動きは執金剛神様の動き。だから正確に邪神の眷属を討滅出来るよう、無駄のない動きを心がける。
漏れてくる邪神の気配は「浄化」と「呪詛耐性」で抵抗するわ。さっきは後れを取ったけど、種が割れてれば対策も打てる。
眷属の爆発攻撃は、「オーラ防御」で防ぐ。もちろん、自爆される前に討滅を狙った上での話。こちらの攻撃をすり抜けてこられた場合の対策ね。
アヤメ、そっちは大丈夫!?
そろそろ終わりが見えてきたわね。一気に片付けましょう。
物言わぬ邪神の眷属『廻るパンドラ』が、その車輪のような、水車のような体を回転させる。ぐるり、ぐるりと薄気味悪い色の炎を噴出させながら空へと舞い上がる。
それは龍脈を介した邪神封印のほころびより漏れ出る魔力を啜ったが故に、その力を強大なものへと変えた凄まじき力。
この邪神封印を完全に解けきるまで守護するため、そして、その邪神を不完全なまま封印より解き放ち、討ち果たそうとする猟兵を駆逐するために宙を舞う。
その光景はある意味で世界の終末を思わせるかのような、奇妙な光景だった。
寂れてはいるが自然豊かな村の湖に浮かぶ小島は今、邪神をめぐる戦いの場として、猟兵達の正念場を迎えていた。
「邪神の封印、かなり弱ってるみたいね。急がなきゃ」
この小島を探っていた際、邪神の放つ狂喜によて正気を喪っていた村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は起き上がるなり、式神のアヤメと共に駆け出す。
彼女の言葉通り、邪神封印はほころび始め、このまま放置していては邪神が完全復活を遂げてしまう。
そうなってしまえば、邪神復活の余波でどんな影響が世界に起こるかわからない。今はまだ本調子ではないけれど、それでも急がなければならない。
目の前に広がる光景、『廻るパンドラ』の群れがゆかりの行く手を阻む。
「オン ウーン ソワカ。四方の諸仏に請い願い奉る。其の御慈悲大慈悲を以ちて、此の時此の場に御身の救いの御手を遣わしめ給え!」
ゆかりのユーベルコード、執金剛神降臨(シュウコンゴウシンコウリン)が輝く。それは彼女の2倍は超えるであろう巨躯を持つ甲冑と金剛杵で武装した執金剛神の召喚であった。
薙刀を構えるゆかりと同じ動きをする。つまるところ、彼女の行動がそのままトレースされて、執金剛神へと伝わり、自身の持つ薙刀を巨大化させた大薙刀とでも言うべき長物でもって、ゆかりの敵を討つ。
「死角のフォロー、アヤメ、お願い!」
前面への敵へは、巨大な執金剛神の力は絶大である。無差別に放たれる爆発も、オーラの防御で防ぐことができるが、一方背面に対しては不意打ちを討たれてしまえば脆い。
式神アヤメに背中を任せ、ゆかりは戦場となった小島を駆け抜ける。
すでに漏れ出る邪神の気配は己の身に宿す浄化の力と呪詛への耐性でなんとか対抗できている。
これが本格的に復活した邪神のものであれば、どうなるかわからない。
「さっきは遅れを取ったけど、種が割れてれば対策も打てる!」
振るう大薙刀が空を舞い、爆発を引き起こす『廻るパンドラ』を薙ぎ払い、断ち切っていく。
薙ぎ払う攻撃で持って打ち倒す事自体は難しくない。けれど、数が多すぎるのだ。中々進む事が難しい。
かといって、一気に事を進めようと突出しすぎれば、自爆されて退路を立たれてしまう。
ここで今は堪えるしかない。他の猟兵達も駆けつけてくれることだろう。
「アヤメ、そっちは大丈夫!?」
背中合わせに互いの鼓動が聞こえる。
敵の数は多く、漏れ出る魔力を啜った邪神の眷属の力もまた強い。だが、ここで退いては己達だけではない、UDCアースに住まう人々の危機なのだ。
それは式神のアヤメもわかっていることである。うなずき、互いを気遣いながらも目の前の敵を薙ぎ払い、討ち続ける。
敵の数は減ってはきている。もう少し、もう少し……その長く感じられるほどの戦いの最中、アヤメは微笑む。
「大丈夫です!敵の数だって無限ではないのですから……!」
戦いは続く。
けれど、終わりは見えてくる。ゆかりはアヤメと共に戦場を駆ける。執金剛神の巨躯が終末を謳う『廻るパンドラ』を薙ぎ払い、その活路を開くのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
黒髪・名捨
●
ふう、ひでぇー目にあった。
やっぱり水中活動の手はちゃんと用意したほうがいいな。
今度スイミングスクールに通うか?
●
パンジャンドラムの邪神か。
まーいいが…んじゃ、頑張りますか。
長い髪の毛を振り回して『範囲攻撃』+『なぎ払い』足元を攻撃して『体勢を崩す』…ってまて、こいつの足元どこだ?えーっと、車輪?…。車輪をなぎ払って『部位破壊』+『マヒ攻撃』で車輪の回転を止める…。
『ジャンプ』して軸部分に飛び乗ると『踏みつける』とそのまま破壊…。ってなんだ寧々?(寧々「みとられんの。あとは妾に任すのじゃ。」)
あ、『神罰』の雷が…って誘爆したー。
『オーラ防御』を展開しつつ、『ダッシュ』『残像』で安全圏に回避―ッ
「ふう、ひでぇー目にあった」
湖から小島へと這い上がる黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は水の滴る長い黒髪をふるって水気を飛ばす。
その頭の上で同じように喋る蛙の寧々もまた頭を振って水気を飛ばしていた。
名捨は寧々の野生の勘を頼りに沼から湖底へといたり、この小島までショートカットを果たしていた。
溢れる魔力。
それを肌で感じた名捨は、己達の辿った道筋が正しかったことを感じていた。
だが、それはそれとして、やはり水中活動の手をちゃんと用意したほうがいいと、今回の出来事を通じて再認識する。
「今度スイミングスクールに通うか?」
そんな名捨の言葉に、ぺちんと寧々が額を叩く。巫山戯たことを言ってる場合か、というように寧々の指先が宙に浮かぶ巨大な歯車……水車の如き巨体を回転させ、薄気味悪い色の焔を噴出させる邪神の眷属『廻るパンドラ』の姿を指し示す。
「パンジャンドラムの邪神か」
陸上地雷―――パンジャンドラム。
その姿をもしたであろう邪神の眷属の姿は、見る者にとっては驚きと興奮を呼び起こしたかも知れないが、名捨にとってはどちらでもよかったのだろう。
「まーいいが……んじゃ、頑張りますか」
黒く長い髪を靡かせ、名捨が戦場となった小島を駆け抜ける。薄気味悪い焔を上げ、回転したまま突撃してくる『廻るパンドラ』を長い髪を振り回して薙ぎ払い、態勢を打ち崩す。
そこへ飛び込み、名捨の蹴撃が放たれ、車輪の一部を薙ぎ払うようにして破壊し動きを止める。
だが、動きを止めただけでは陸上地雷そのものの『廻るパンドラ』の放つ無差別なる爆発を防ぐことは出来ない。
放たれた爆発から身を翻し、名捨はさらに『廻るパンドラ』の軸へと蹴撃を踏みつけるようにして破壊し、霧散させる。
だが、これで漸く一体。
宙に舞うようにして回転を続ける『廻るパンドラ』の数は圧倒的である。
「数が多すぎるな……一々叩き壊すのも限界あるだろ……ってなんだ寧々?」
頭の上でふんぞり返っていた寧々がぺちぺちと名捨の頭を叩く。
それは名捨にはない己の力を使うという合図であった。
「みとられんの。後は妾に任すのじゃ」
それはまさに稲妻(プラヅマ)と呼ぶに相応しき寧々の真の姿。化術で変じた姿であろうとも、寧々が放つ神罰の雷が、虚仮威しのものであるとは限らない。
これを良妻の仕事であるという寧々の言葉には、名捨も未だ納得したわけではないのだが、本人が言って聞かないのだから、どうしよもうない。
次々と放たれる神罰の雷が、邪神の眷属である『廻るパンドラ』の体を穿つ。一撃で完全に倒しきれるものではなかったが、陸上地雷を模した姿は、その中身までももしているのだろう。
龍脈から漏れ出た魔力を溜め込んでいた体に神罰の雷が落ちれば―――。
「あ、神罰の雷が……って誘爆したー」
そう、雷が溜め込んだ魔力を巻き込んで大爆発を引き起こす。一つの爆発が起これば、周囲に存在していた『廻るパンドラ』の体へと飛び火し、さらなる爆発を引き起こしていく。
それはまさに地獄絵図であった。
神罰によって叩き落されたが故に、その爆発は凄まじく、周囲一帯に展開していた邪神の眷属たちはことごとくが誘爆の焔へと飲み込まれ、霧散し消えていく。
名捨は寧々を抱えてオーラで防御しながら誘爆の焔の中を駆け抜ける。
「あちっ! 寧々、やりすぎだ……」
けれど、腕の中で蛙の姿になった寧々はなんとなしご満悦である。これが良妻の良き仕事ぶりであると信じて疑わない胆力に名捨はもう何も言えることはなかった。
安全圏に駆け抜け、そのまま邪神封印を目指す。
より溢れる魔力が、その濃度を増す。ほころびを見せた邪神封印。一刻も早く完全なる邪神を外へ出すこと無く、不完全な復活の邪神を打ち倒さなければならないのだ―――!
成功
🔵🔵🔴
姫川・芙美子
……輪入道?
『パンジャンドラム。前世紀の自走式地雷です。』懐のタブレットに封印された雲外鏡が教えてくれます。
ありがとう。人里近くに爆弾ですか。時間はありませんが駆逐しておきたいですね。
無数の【鬼火】を呼び出し展開。敵の接近を【ダッシュ】でかわしつつ、それぞれを敵に撃ち込み攻撃。
エネルギーを吸収する性質を持つ炎。敵の纏った炎を吸収させます。あれが推進力なら動きを止められるかも。
爆発しそうになったら【結界術】【大食い】の応用で炎を拡大、包み込んで爆発のエネルギーを吸収。
威力を増した鬼火達に、次々とパンドラ達を喰わせていきましょう。爆発音で強化された敵には、こちらも鬼火を合成して巨大化し殲滅します。
湖に浮かぶ小島。
それこそが邪神封印の存在する場所であった。今や猟兵たちが集い、戦場となった小島は邪神の眷属が跋扈していた。
龍脈を介した封印故に、その封印がほころべば、そこから龍脈の魔力が溢れ出し、その魔力に吸い寄せられるようにして邪神の眷属たちが集う。まさに魑魅魍魎の巣窟となった小島は、巨大な車輪が合わさったような、水車のような形をした『廻るパンドラ』が薄気味悪い焔を巻き上げながら宙を舞い、邪神封印を解き、邪神を打倒しようとする猟兵を迎え撃つ。
「……輪入道?」
炎に包まれた牛車の車輪に男性の顔がついた妖怪と酷似していたため、姫川・芙美子(鬼子・f28908)は思わずつぶやいてしまった。
見上げた先に奇妙な色の焔を巻き上げながら、空を飛ぶ車輪あれば、たしかに彼女の言う通り、見慣れた妖怪、輪入道であろう。
それを訂正するように懐に収められたタブレットに封印された妖怪『雲外鏡』が言葉を発する。
『パンジャンドラム。前世紀の自走式地雷です』
かのタブレット端末はなんでも教えてくれる。とても便利で有り難いアイテムなのだ。
その『雲外鏡』に礼を告げて、芙美子は駆け出す。
そう、猟兵たちに残された時間はあまりにも少ない。邪神の封印がほころび始めているということは、完全復活を果たしてしまう可能性を示していた。今回の事件、その肝は邪神封印を見つけ出し、不完全な復活を遂げた邪神を討ち果たすことにある。
自然と封印が解け、完全復活してしまった邪神は、猟兵の想像を絶する強力な存在なのだ。
これを放っておけば、どうなるか―――。
「人里近くに爆弾ですか。時間はありませんが駆逐しておきましょう―――一ツや二ツや三ツや四ツ……」
芙美子のの数を数える声が響く。
それは数を数える度に増えていく鬼火(オニビ)であった。エネルギーを食らって威力を増す魂の炎が、芙美子の前面に展開する。
駆け出し、芙美子を狙って飛び交う『廻るパンドラ』の猛攻を躱しながら、鬼火が放たれ、その薄気味悪い炎を吸収していく。
それこそが、彼女のユーベルコードであり、鬼火の能力である。
龍脈の魔力を吸収して噴出する炎は、鬼火とは相性が良い。炎である以上、その炎を取り込み、己の力に変換する力は凄まじい。
「鬼火たちよ、あの炎を食い散らしなさい。あの炎が推進力ならば!」
そう、パンジャンドラム。
自走式と呼ばれるように、噴出する炎によって回転し敵陣へと突撃させる兵器である。それを模している以上、その噴出する炎を吸収してしまえば、推進力はなくなり『廻るパンドラ』は動きを止められてしまうのだ。
「……! 自爆するつもりですか。ですが!」
自走できなくなった地雷は爆散する他無い。一気に弾ける『廻るパンドラ』たち。その爆発凄まじく、至近にいた芙美子を巻き込む爆風となって襲う。
だが、その爆風のエネルギーすらも鬼火は食い尽くし、芙美子を護るのだ。
「さあ、鬼火たちよ。もう腹は十分膨れたでしょう!」
鳴り響く爆発音。
それは『廻るパンドラ』たちに共感を呼び、その力を増す。けれど、力を増すことができるのは、此方も同じなのだ。
芙美子の号令で鬼火たちが一つに集まり、巨大化する。それは極大の炎。巨大なる鬼火が爆発音によって強力になった『廻るパンドラ』の前に火柱の如くそそり立つ。
「―――殲滅しなさい」
掲げた手が振り下ろされた瞬間、極大の鬼火が降り注ぎ、目の前の『廻るパンドラ』たちを一掃する。
それはさらなる火柱を弾けさせるが、それすらも鬼火はエネルギーとして吸収し、小島を中心に広がる爆風を湖の湖面や畔にある村へと余波が飛ばぬように気を使う。
敵は討つ。
村は護る。
それこそが正義の味方である芙美子に課せられた使命であり、科せられた枷でもあったかもしれない。
けれど、芙美子はそれすらも纏めて背負って立つことができる。
それだけの度量を持った猟兵なのだから―――!
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
原始的な設計の自走爆弾兵器ですが、邪神の力で十全な機能を発揮していますね
あんな物が人の生活圏に侵入すれば…
一体たりとも小島から出す訳にはいきません
邪神本体との戦いも控えている以上、爆発のダメージは最低限に抑えなくては
剣を腰にマウント
肩部と腕部格納銃器での●乱れ撃ち●スナイパー射撃
弾頭はUC選択
炎の超高温でロケットや内部の爆薬を誘爆させ遠距離から処理
熱と音が激しい以上●情報収集はレーダー測定選択
各敵の距離と現在位置を把握
脅威度を●見切り的確に破壊
近づかれた際の爆風は●盾受けで防御
先の情報資料は敵の強大な精神干渉能力の片鱗
備えとして自己●ハッキングによる演算機能への防壁を構築も行っておきましょう
『廻るパンドラ』。
それは極めて原始的であり、なんとも言い難い形状の兵器をもした邪神の眷属であった。おそらく自走式地雷パンジャンドラムをもしたであろう姿は薄気味悪い炎を巻き上げながら宙を舞う。
邪神封印の存在する湖の小島の中に、今までこれだけの数が潜んでいたこと。そして、それを終ぞ今まで発見することの出来なかった事実に驚愕しつつも、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はアイセンサーから送られてくる情報を正確に分析していた。
「原始的な設計の自走爆弾兵器ですが、邪神の力で十全な昨日を発揮していますね」
本来であれば、自走式地雷を模したものであるのなら、その致命的欠陥をも再現しているであろうと推察されたが、龍脈によって為されている封印がほころんだことによって、溢れる魔力をすすり、その力は嘗て人が設計し、思い描いた通りの性能を発揮しているようであった。
「あんな物が人の生活圏に侵入すれば……一体たりとも小島から出す訳にはいきません」
そう、邪神の眷属の前に人の力はあまりにも弱い。
猟兵にとっては数の多い厄介な敵であったとしても、湖の畔の村に住まう人々にとっては、それだけで村が壊滅しかねない脅威なのだ。
剣を腰へとマウントし、その腕と肩に格納された銃器が露出する。
「邪神本体との戦いも控えている以上、ダメージは最低限に抑えなくては―――騎士が火攻めとは……笑い話にもなりませんね」
己の今の姿を顧みて、トリテレイアは自嘲する。
肩、腕と銃器にまみれた姿は騎士というイメージから程遠い。だが、確実に湖の畔の村を護るためには、必要な機能だ。
その格納銃器に収められた弾頭は、超高温化学燃焼弾頭(消火用薬剤封入弾と併用推奨)(ヘルファイア・バレット)。水中、真空での燃焼を実現した薬剤封入弾である。
銃口がきらめき、宙を舞う『廻るパンドラ』へと放たれた弾丸が、その車輪を合わせたような体に突き刺さり、瞬時に炭化、その内部に含まれた爆発的な魔力の誘爆を引き起こし、一気に炎を噴出させる。
「私の背後より先は行かせません……あなた方はここで潰える運命。その尽くを撃ち落としてご覧にいれましょう」
爆炎が上がり、その渦中で誘爆を続ける『廻るパンドラ』たち。
けれど、誘爆を逃れた個体が爆発を引き起こしながらトリテレイアに迫る。爆炎と轟音によってセンサーの各種は殆ど役に立たない。
トリテレイアのアイセンサーは優秀であるがゆえに、あらゆる情報を収拾してしまう。それ故に、これだけの爆発音や光源が煌めく最中にあっては、逆に目がくらむのと同じようなものなのだ。
「ですが、レーダー測定があります」
トリテレイアの頭上から迫る『廻るパンドラ』の巨躯。それがトリテレイアを踏み潰さんと上空より落下してくるが、大盾を構え、受け止める。
大地が衝撃と重量に負けてひび割れるも、いなすように『廻るパンドラ』を地面へと叩きつけ、格納銃器から放たれた弾丸が撃ち、爆炎とともに霧散させる。
構えた大盾によって爆風を防ぎ、前へ進む。
足を一歩進める度に、邪神封印に近づいていることが、トリテレイアの電脳に伝えられる。
あの強力な精神干渉能力。
あれこそが邪神の力の片鱗に違いない。機械の己だからこそ、あの程度で済んだのだ。故に、もしも邪神が復活した場合、あの力はウォーマシンであるトリテレイアをしても脅威であるかもしれないのだ。
故に自己の演算機能への防壁の構築を行い、アップデートを繰り返しながら邪神封印へと近づいていく。
「封印されている邪神が如何なる存在であっても、人々の驚異となるのならば―――」
それは取り除かなければならない。
人々を、その安寧を護るのが騎士の役目であるというのなら、志半ばで倒れたUDC組織のエージェントの分まで己が全うしなければならない。
その思いを炉心にくべ、燃えるような騎士道精神を持ってトリテレイアは進むのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
元に戻りたい
今の悩みから救われたい
論理的にわかっていても感情を抑えられない
この状態で戦うのは危険だね
しっかりなさいですの
ここにも神はいますの
…邪神だけどね
まあ、ひとまず落ち着いたから感謝かな
それとあれはパンジャンドラム?
あの有名な?
若干気は抜けるけどもUDCだからね
妙な被害が出ないようにしっかり倒そうか
女神降臨を使用
邪神から溢れる魔力に集ってるなら
こっちに誘導できないかな
飛行しつつガトリングガンの範囲攻撃で打ち抜こう
爆発物を抱えているなら誘爆による
同士討ちも狙えるしね
射撃を抜けてくるのがいたら
使い魔に石化させて停めたり
神気で時間を停めて防いだりするよ
戦闘力を増強しても動きを封じれば無意味だしね
元に戻りたい。今の悩みから救われたい。
それは切実なる願いであり、ごく普通の男性であった佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)にとっては、戦う理由でもある。
そのために猟兵として日夜戦い付けているのだ。これは邪神の精神干渉。わかっている。頭では、論理的にはわかっているのに、それでも感情が抑えられない。
それを客観視できている今はいい。この状態で戦う事自体が危険であると理解できている。
龍脈による封印。その封印がほころびを見せ、溢れる魔力をすするように集まった邪神の眷属たち『廻るパンドラ』。その車輪を合わせたような水車のような形をした奇妙なる炎を巻き上げて宙を舞う姿はあまりにも気味が悪い。
ぐるり、ぐるりと舞いながら、爆発音を響かせる。次々と『廻るパンドラ』たちは爆発音を響かせながら、回転する速度を増して晶の周囲を取り囲む。
頭が回らない。
「しっかりなさいですの。ここにも神はいますの」
体の奥から響く声。己と融合した邪神の声が聞こえる。ふてぶてしいというか、なんというか。己がこうなってしまった原因であるのだが、それでもその声は晶にとっては最早体の一部である以上、心に響くものであった。
「……邪神だけどね」
けれど、それで心が落ち着くのだから不思議なものである。感謝したっていい。そんな気分になる程度には晶も落ち着く。
「あれはパンジャンドラム……? あの有名な?」
珍兵器として、という意味ではたしかに有名な兵器であろう。自走式地雷。その姿をもした邪神の眷属の姿は、落ち着きを取り戻した心で見ると、なんとも木が抜けるUDCであると言えただろう。
「妙な被害が出ないようにしっかり倒そうか―――小っ恥ずかしいけど、我慢我慢」
宵闇の衣を纏い、可憐なるドレス姿に変身した晶が携行型ガトリングガンを構え、飛翔する。
ここに、女神降臨(ドレスアップ・ガッデス)は相成った。その姿は、まさに邪神そのもの。晶の体を変えた封印されし邪神の姿そのものであった。
龍脈から漏れる魔力故に、自身に融合した邪神を封印した魔力とも同一ものであろう。それならば、魔力をすするために集った眷属たちを自身に惹きつけることも可能ではないかと考えたのだ。
「撒き餌としてっていうのが、なんとなく気に食わないけど、そうも言ってられないからね―――!」
次々と飛来する『廻るパンドラ』たち。
薄気味悪い炎を巻き上げながら迫る姿は、その威容と相まって凄まじい迫力がある。けれど、威力の上がったガトリングガンの弾丸の前には無意味だ。
魔力を爆発物として噴出しながら回転するのならば、火器による誘爆は免れまい。放たれた弾丸が、その巨躯を撃ち貫き、誘爆を引き起こしながら爆発霧散させる。
「同士討ちも狙えるね!」
誘爆するのならば、爆発する味方の炎の巻き込まれて次々と連鎖的に炎が上がる。ガトリングガンの斉射を抜ける者があったとしても、周囲に漂う使い魔たちが石化させ、神気が時間を停滞させて叩き落とす。
「いくら戦闘力を増強しても動きを封じれば無意味だよ。さあ、邪神封印までの道を開けてもらおう!」
放たれるガトリングガンの弾丸が雨のように降り注ぎ『廻るパンドラ』たちを次々と爆発霧散させ、封印へと道を開く。
飛翔する宵闇のドレスがはためき、邪神封印の知識、その一端を得ようと戦場となった小島を駆け抜けるのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
小島にこんなのが居たとはな
しかもこいつら、よく見たら
顔みたいなのがついてて気持ち悪いな…
こんなの子供達が見たらビビって泣いてしまう
さっさと片付けるぞ綾!
うわっ!?気持ち悪い顔が高速で
迫ってくるとかもはやホラーだな!?
UC発動、氷属性のドラゴン達を召喚
向かってくる敵の群れを
氷属性のブレス攻撃で迎撃
ガッチガチに凍らせて一時的に爆発を抑え込む
そいつらが爆発する前に
ドラゴン達の頭突きや尻尾アタックで
敵の群れに向かって吹っ飛ばす!
周りを巻き込みながら自爆させて
効率良く数を減らしていく作戦
上手く行けば他の奴の爆発も誘発して
更に大惨事に出来るかもしれないな
たーまやー、ってな
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
さっきの子供達とすっかり仲良くなったようだねぇ
梓の言葉に少し微笑ましさも覚えつつ
島の人達はここには近づいてはならないと
言い伝えられているから、人目を気にせず戦えるのは幸い
でも、特に子供とかは興味本位で
いつ近付いてしまうか分からないから…
早く掃除するに越したことはないね
ふむ、まともに近接攻撃で相手すると
爆発されて面倒そうだね
まずは自身の手を斬りつけUC発動
強化した反応速度とスピードを以て
向かってくる敵の動きを見切り
こちらに来る前にナイフを投げて迎撃
梓のドラゴン達によって氷漬けされた奴は
バットのように構えたEmperorで
そーれっと敵の群れ目掛けて打ち込む
ちょっと楽しいかも
宙を舞うパンジャンドラム。
その光景はある意味で不気味なものであった。本来は地を這う自走式地雷。けれど、今は龍脈封印のほころびより溢れる魔力をすすり、十全なる力と機能を持った邪神の眷属『廻るパンドラ』。
薄気味悪い炎を巻き上げながら、高速で回転し、湖に浮かぶ小島である戦場の空を支配する。その一つとて、畔の村に突っ込んでしまえば人々にこれを止める手立てはない。
どこまでも蹂躙されるしかないのだ。
「小島にこんなのが居たとはな……しかもこいつら、よく見たら顔みたいなのがついてて気持ち悪いな……」
乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、空に浮かぶ『廻るパンドラ』の姿にしかめっ面を浮かべてしまう。
これだけの数が小島に潜んでいたことも驚嘆に値するが、これまで発見されずにいたこともまた驚愕の事実であった。
「こんなの子供たちが見たらビビって泣いてしまう。さっさと片付けるぞ綾!」
共に並び立つ灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)に呼びかけ、梓が戦場となった小島を駆け抜ける。
その背を負いながら、綾はなんとも微笑ましいものを見たような気分になるのだ。
「さっきの子供たちとすっかり仲良くなったようだねぇ」
それはとても微笑ましい光景であった。
あんなに梓が子供たちに好かれるとは思ってもいなかったものだから、新たな一面を見られたようで嬉しかったのかも知れない。
それに梓の言う通り、邪神の眷属が一体でも村へと降りたってしまえば、梓が危惧する通りのことが怒ってしまうだろう。
島の言い伝えで此処に近づいてはならないと言われている。ひと目を気にせずに戦えるのは綾にとって有り難いことであった。
だが、特に子供は興味本位で、いつ近づいてきてもおかしくない。仲良くなったお兄さんが、と姿を追ってきていたとしたら、それは自己に発展しかねないことだ。
「そうなる前に早く掃除するに越したことはないね」
空に舞う『廻るパンドラ』たちが一斉に梓と綾へと突っ込んでくる。
噴出する炎は、龍脈封印のほころびから啜った魔力によって強化され、凄まじい勢いで持って二人を狙う。
「うわっ!? 気持ち悪い顔が高速で迫ってくるとか、もはやホラーだな!? ―――集え、そして思うが侭に舞え!」
梓のユーベルコード、竜飛鳳舞(レイジングドラゴニアン)が輝く。召喚された氷の属性を持つドラゴンたちが一斉に氷のブレスを吐き出し、噴出する炎すらも凍りつかせ、梓たちに接近を許さない。
ゴトゴトと重たい音を立てて地面へと落ち、そこへ綾が駆け込む。
その手にしているのは、ハルバード。斧の反対側がハンマーの形状になったEmperorをまるでバットやゴルフクラブのようにスイングして凍りついた『廻るパンドラ』を敵の群れへと叩き込むのだ。
「ちゃんとついてきてね、梓」
それは綾のユーベルコード、ヴァーミリオン・トリガーによる凄まじき力。己の血液が付着したハルバードは、その重量を無視したかの如き高速の取り回しが可能になる。強化された反応速度とスピードの前に綾を捉えることのできた『廻るパンドラ』はいない。
投げつけるナイフによって、内部に溜め込んだ魔力が誘爆するも、梓の召喚したドラゴンたちが瞬時に氷のブレスで凍りつかせ、爆発を抑え込む。
さらに氷漬けになった『廻るパンドラ』たちをドラゴン達の頭突きや尻尾が薙ぎ払い、未だ凍りつかぬ群れへと叩き込むのだ。
綾も次々とハルバードのハンマーの部分で、そーれっ、と無邪気な笑顔を浮かべながら叩き返していく。
「ちょっと楽しいかも」
「たーまやー、ってな!」
綾の言葉に梓が応じるようにドラゴンたちに指示を出す。まるでパスワークを繋ぐようにして氷漬けになった『廻るパンドラ』が頭突きや尻尾によって綾の前に集められ、そこにすかさずハルバードの一撃がかっ飛ばす。
氷漬けの『廻るパンドラ』と未だ空を舞う群れがぶつかり合って自爆していく。炸裂する魔力の炎が爆炎のように小島の上空を染め上げていく。
まさに、それは花火のようであった。
ただ、炎の色は薄気味悪いものばかりであるがゆえに、夜空を彩る花火のようにはいかなかった。
けれど、これで邪神封印のほころびに群がる邪神の眷属達は片付いた。
残すは龍脈によって封じられた邪神を討つだけだ。
だが、それこそが今回の事件、その最大にして最後の難関であることを、解けかけた封印から発せられる重圧によって、二人は知るのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ノーズワンコスモス09』
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POW : 無気力なる果ての夢
【千切れた自らの羽 】を降らせる事で、戦場全体が【全て満ち足りた理想の世界】と同じ環境に変化する。[全て満ち足りた理想の世界]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD : 全き善なる光
【記憶に刻まれた傷と経験を癒し消す優しい光】【身体に刻まれた傷と鍛錬を癒し消す柔和な光】【心に刻まれた傷と戦意を癒し消す暖かい光】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 願いは叶う、何度でも
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【集めた誰かの成し遂げたいとするエネルギー】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
イラスト:Shionty
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「奇鳥・カイト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
邪神の眷属たちを一掃した猟兵たちが見たのは、龍脈によって封印された邪神が収められているであろう、黒い板状のモニュメント―――モノリスであった。
表面はどれだけの時間が立っているのか理解できないほどに、『作られた時』と寸分たがわぬ姿を猟兵達の前に晒していた。
唯一、この邪神封印が、この湖の小島にあったものではないということを示すように、祠の周囲は永久凍土の如き氷に覆われている。
かつて北極点に存在したという邪神封印。
如何なる超自然の原理か、はたまた何者かが移動させたのかはわからない。
けれど、ここに邪神封印が存在するということが、変えようのない事実。
猟兵達の力によって、モノリスの封印がほどかれる。
真っ黒な石版が真っ白な色へと変わる。
不完全なる復活。そして、封印より目覚めたばかりの本調子ではない邪神の姿が顕現する。
「あなたはなにをほっしますか。あなたはなにをのぞみますか。あなたはなにをねがいますか」
それは言葉の羅列にしか過ぎないものであったのかもしれない。
白き翼を持つ少女。
その邪神の名を 『ノーズワンコスモス09』 。
全ての願いを叶え、全ての痛みを癒す者。あらゆる者の幸せを願い、叶える存在。救済を求めるものには救いを。心の奥底に在るであろう些細な傷跡も許さぬ白紙の存在。
全てを真っ白に。
全てを元の白き石版に還す者。
「わたしはあなたのそばにいます。いつだっています。どんなときも、かたときもはなれません。わたしはそうあるべきもの。あなたのそばにいることがわたしのしめい。あなたのいたみ、あなたのなやみ、あなたのくるしみを、すべてかいほうするもの」
さあ、と手をのばす白き天使の如き少女。
欲望も何もかも満たそうとする微笑み。
けれど、その充足感は猟兵にとっては不快なものであった。人は欠けているからこそ、何かを欲し生きる。
欠けることのない、喪わない人生に人は歩みを止める。歩みを止めることは、生きるということをやめること。
充足を求めるが、充足してしまえば、人の生命は終わる。完璧になった瞬間にあらゆるものが終わってしまうのと同じように、邪神 『ノーズワンコスモス09』 は、人々の充足を持って世界を白紙に戻す者なれば。
人にとって望みを叶えることは、幸せなことであるのかも知れない。
その機会を猟兵は永遠に奪ってしまうかもしれない。それを理解した上で猟兵達はすでに知っている。
永遠に続く白色よりも、一瞬に輝く虹の一滴こそが、生命の輝きであると。
ならば、これを討ち果たさなければならない。
「りょうへい。りょうへい。わたしはあなたたちを」
微笑む天使。
―――ことごとくみたしておわらせましょう。
黒髪・名捨
●
本気で酷い目にあった…。
しかも寧々…。満足して寝てやがるッ!!
しかし、やっとこさ見つけたか…。
なるほど、強敵そうだな。今がチャンスという情報は間違ってなかった!!
(んな、相手の前で寝るなよ…)
●
さて、行くか。
まずは『マヒ攻撃』+『毒使い』を付与した長い髪の毛で『なぎ払い』『体勢を崩す』これで少しは動きを阻害しただろう。
今のうちに接近する…。
全て満ち足りた理想の世界?
悪いが満ちることもないし、理想も知らねぇ。
そしてその力が人を迷わすなら…消えてもらう!!
『覇気』と『気合い』あと『破魔』を込めた神砕でユーベルコードごと討ち抜く。
何も満ちないから…人は求めて歩いていけるんだよ…。たぶんな。
邪神の眷属達の誘爆する爆風の中を駆け抜けてきた黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)にとって、目の前の存在の姿は肌にひりつくものであった。
「本気でひどい目にあった……しかも寧々……満足して寝てがやるッ!!」
自身の頭の上でぷかぷか鼻提灯が浮かびそうなほどの熟睡である。
目の前に顕現した邪神封印より開放された『ノーズワンコスモス09』の千切れた羽が舞い散る。
「あなたはなにをのぞみますか。なにをほっしますか。なにがひつようですか」
それは問いかけですら無い。
その言葉の意味を理解してすら居ない。やっと思いで見つけた邪神の姿に名捨は、たしかに情報通りである感じた。
この邪神が十全の、完全なる状態で復活を遂げていたのならば、即座に世界は千切れた羽に埋め尽くされ、あらゆる生命体は、己の欲するものを全て叶えられ、生きることをやめてしまうだろう。
UDC組織のエージェントたちが消息を絶ったのも、この力の片鱗なのだろう。
封印された状態の、力の片鱗であっても容易にエージェントを亡き者にした力は、不完全ながらの復活であっても、名捨をジリジリと追い詰める。
「なるほど、強敵そうだな……」
そんな相手の前で寧々は寝ているのだから、大物というか、胆力の凄まじいというか、もしくは名捨が負けるはずはないと確信しているからか。
そのどれが真実であるかはわからない。
わからないけれど、名捨にとっては、それで十分だった。
「さて、行くか」
千切れた羽が舞い散る戦場を名捨の真っ黒な髪が靡き、駆け抜ける。その長い髪を振り回し、『ノーズワンコスモス09』の態勢を崩そうと画策する。
ふわりと身体が揺れるようにして、その少女のような身体が態勢を崩すようによろめく。あまりにも弱々しい姿。脆弱な少女そのものである。
けれど、名捨の瞳には、目の前の邪神がそんな見た目通りの存在ではないことを肌で感じ取っていた。
「これがあなたののぞみですか。これがあなたののぞんだことですか。あなたののぞみは―――これですべてみちたりるのですか?」
その言葉はあまりにも悍ましいものだった。
望み、望み、欲するもの。
名捨にとって、それは己の手で掴み取るものだ。もたらされるものではない。
「全て満ち足りた理想の世界? 悪いが満ちることもないし、理想も知らねぇ」
戦場は今や全てが満ち足りた白い羽に満たされた理想の世界そのもの。
真白の世界。
どこにも偽り無く、どこにも渇望無く、どこにも絶望のない世界。
あるのはただ、満たされ終わったという生命のみ。
そんな最中に名捨は立ち、咆哮する。
「そして、その力が人を惑わすなら……消えてもらう!!」
覇気が名捨の身体を覆う。裂帛の気合が白い羽根を吹き飛ばし、一気に踏み込む。
白と黒。
それはまさに対極にして背中わせの存在。
交わることのない白と黒。
かたや、全ての望みを叶える者。かたや、それを否定する者。
「オレの意思が悪を討つ…神砕ッ!!」
その拳の名を神砕(シンサイ)と言う。放たれた一撃が、『ノーズワンコスモス09』 のユーベルコードを穿ち、破壊する。
白い羽に包まれた戦場が砕け、霧散する。それは否定の一撃。
「何も満ちることがないから……人は求めて歩いていけるんだよ……」
それがどんなに艱難辛苦に満ちたものであったとしても、玉を磨くが如く、人の生命を、人生を磨く。
それ故に輝ける物を人は手にするのだろう。
それがいつになるのかもわからない。手に入るのかもわからない。
けれど人生は続くのだ。
どんなに辛いことがあったとしても、どんなに全てを喪ったとしても、歩みを止めぬ限り人の生命は続いて、輝ける何かを手にすることもできるはず。
「……多分な」
未だ自身も確証は持てた試しはない。
けれど、名捨は歩みを止めない。満ちることなく、飽くこと無く、歩んでいける。
それを証明するような拳の一撃が、全て満ち足りた理想の世界を、砕くのだった―――!
大成功
🔵🔵🔵
姫川・芙美子
全てが満たされた世界。あるいは正義なのかもしれません。
ですが、私は貴女に抗います。
【百鬼夜行】。装備の【封印を解き】強化。
「黒いセーラー服」を護符に変え【結界術】【拠点防衛】、前方に隙間なく並べ光を遮断。
更に「黒襦袢」の【闇に紛れる】能力を解放、影の衣で防御。
視界も遮られますが「タブレット」で【情報収集】。敵の位置を教えて雲外鏡。
【霊毛襟巻】を伸ばして【怪力】の【なぎ払い】で攻撃です。
「正義の敵は悪じゃなく他の正義」。よく言われます。その通りです。
だから私は正義の味方なのです。力なき正義が力ある正義に蹂躙される事がないように。
苦難の道の先にあるものに辿り着こうとする人々の為に、貴女を倒します。
千切れた白い翼が満ちる、全てが満たされた世界が拳の前に砕けて散る。
それは世界に満ちた希望と願いを打ち砕くものであったのかもしれない。満ち足りたものを破壊する。それはある意味で停滞を破壊することと同じであった。
全て満ち足りるということは、人の歩みを止める。満ち足りた者は渇望しないが故に、新たなるものを求めようとはしない。
既に完結しているがゆえに、歩みは止まり、生命もまた止まる。
「なぜひていするのです。わたしはひていしません。あなたも、あなたののぞみも、なにもかもひていはしません。あなたによりそいましょう」
幼き少女の如き天使の姿をした邪神『ノーズワンコスモス09』が、己のユーベルコードを打ち砕かれたとしても、微笑みを絶やすことはなかった。
ただ、その場に在るだけで、その微笑みが全てを覆い隠していく。
「全てが満たされた世界。あるいは正義なのかも知れません……」
姫川・芙美子(鬼子・f28908)はたしかに、邪神『ノーズワンコスモス09』の言葉、その力が為すところをみて、そう悟ったのかもしれない。
傷みも、トラウマも、何もかもが癒やされる。
それは人が傷みに敏感であり、恐るからこそである。その傷みやトラウマを癒やすのであれば、それ即ち正義であると考えられる。
けれど、と芙美子は顔を上げる。
視線の先にある天使の如き姿をした邪神を見つめる。微笑み返す邪神の笑顔は確かに全てを委ねてしまいたくなる。
「ですが、私は貴女に抗います―――封印限定解除」
それは宣言であり、宣誓であった。
己の黒いセーラー服を護符へと変ずる。それはユーベルコードの輝きであり、彼女の身に纏う妖怪『蝶化身』の封ぜられた本来の力を解放するものであった。
姿を変えた護符が芙美子の周りに展開され、結界術を構成する。
それは紙一枚入る隙間もないほどにびっしりと張り巡らされる。一部の隙もない鉄壁なる結界術。
さらに妖怪『影女』の封印された闇襦袢で多い、光が透過することも防ぐのだ。
「なぜそこまでひていするのです。こばむのです。あらがうのです。すべてをうけいれてしまえばたしかなすくいがあるというのに。きずつかなくていい。きずつけなくていい。あらそうこともいがみあうこともなくていいというのになぜ」
その光はあらゆるものを透過して、人の心に干渉する光。
けれど、封印を解かれた芙美子の妖怪を封じた力が、その光を尽く遮断する。
こちらの視界をも遮ってしまうが、芙美子はお化けタブレットに封印された妖怪『雲外鏡』へと語りかける。
「邪神の位置を教えて、『雲外鏡』」
闇の中でお化けタブレットの液晶画面が輝く。
自分のアイコン。そして邪神のアイコンがタブレットの画面に浮かび上がる。彼我の距離がわかれば、妖怪『饕餮』が封印された霊毛襟巻が自由自在に結界の外へと飛び出し、伸縮自在なる襟巻が邪神『ノーズワンコスモス09』の身体を薙ぎ払う。
光が陰り、邪神の身体が宙から地面へと叩きつけられる。
「『正義の敵は悪じゃなく他の正義』。よく言われます。そのとおりです」
結界から飛び出す。
光は既に消失している。恐れはある。自分の正義と邪神の齎す物の正義。
それはぶつかり合ってしまうことは避けられないものであった。どちらが間違っているわけでもない。
人によっては邪神の齎すものは甘美なる誘いであったことだろう。
苦しみ、哀しみ、何もかもを癒やす光。それに救いを見出す者だっているだろう。けれど、その救いを求める者の心にだって違う正義が宿っている。
「だから私は正義の味方なのです。力なき正義が力ある正義に蹂躙される事がないように」
鬼の封印された腕が鉤爪の如き威容を齎す。
邪神の齎す救いは、一切の容赦のない力ある正義であろう。押し付けていると言ってもいい。救う。救わねばならない。人は誰かに救われるものではない。
自分自身の力で自身を救うことができる生命であるのだ。
だからこそ、『ノーズワンコスモス09』の齎す救いは、正しいが故に正しくないのだ。
「苦難の道の先にあるものに辿り着こうとする人々の為に―――」
そう、人の歩みは遅々としたものかもしれない。
人外なる者にとっては焦れったく思うものでもあるのかもしれない。けれど、神と名乗るのならば、どうか手助けはしてほしくはない。
前に進む意志を持つ者に差し伸べる手は、道の半ばでもたらされるものではなく、辿り着いた先で差し伸べられるものであるべきだから。
「貴女を倒します―――!」
放たれた鉤爪、鬼の手が、その手を切り裂く。
己の手で切り拓く未来こそが、人が自身を救う力があると、前に進むことのできる存在であると証明するように―――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
望む者か。あたしが求めるのは、愛しい人たちの心だけ。それを力ずくで曲げられたいとは思わないわ。つまりあなたには私を満たすことが出来ない。
さあ、邪神討滅を始めましょう。
自身とアヤメに「浄化」と「呪詛耐性」を付与。
アヤメ、分身での攪乱お願いね。
回避もしないような敵なら、これが一番。九天応元雷声普化天尊玉秘宝経!「全力魔法」雷の「属性攻撃」「破魔」を乗せて。
ヒトはそれぞれの色を持っているから美しいのよ。どこかが欠けているから、その欠落を埋めるためにヒトは生きる。全てをかき消す忘我の“白”には退場願うわ。
さあ、雷撃で「なぎ払い」、薙刀で「串刺し」に。そろそろこの世から消えてくれるとありがたいんだけど?
引き裂かれた手から噴き出す血潮が白き翼を染める……否、その血潮でもっても白き翼は染まらない。
邪神『ノーズワンコスモス09』は猟兵の一撃によって滴る己の赤き血を見ても、どうずることなく血まみれの手を猟兵へと差し伸べる。
「あなたののぞみはなんですか。あなたがほしいものはなんですか。あたえましょう。もたらしましょう。あなたがのぞむものをのぞむだけ。みたされますように。すべてがみたされてしまいますように」
謳うように、祝うように、『ノーズワンコスモス09』は少女の如き天使の姿のまま、その力を振るう。
千切れた羽が戦場を満たしていく。
全てが満たされた世界。それこそが、この小島を覆う凄まじき邪神の力の一端であった。もしも、完全復活を果たしていたのならば、邪神の力はこの小島のみならずUDCアースを全て侵食せしめただろう。
「望む者か。あたしが求めるのは、愛おしい人達の心だけ。それを力ずくで曲げられたいとは思わないわ」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は千切れた白い羽が舞い散る、全てが満たされた世界において、真っ向からそれを否定する。
人の心は何か別のものによって満たされることはない。
心の底から、源泉のように溢れるものによって満たされるものである。穴が開いているのであれば、己で塞がなければならない。枯れてしまったのであれば、呼び水を己で生み出さなければ、心はいつまでたっても満たされることはない。
そこに誰かの力が加わることは、捻じ曲げることにほかならない。
「つまりあなたには私を満たすことが出来ない」
ゆかりの隣にいる式神アヤメと自身に浄化と呪詛に耐える力が付与されていく。
この力がどこまで『ノーズワンコスモス09』の放つ光に耐えられるかわからない。けれど、これに打ち勝たなければ、そもそもゆかりの生命はない。
「みたされないのですか。みたしても、みたしても、たりないのですか。なら、もっとみたしましょう。そそぎましょう。あふれてもあふれても、つぎからつぎにそそぎましょう」
それでも尚微笑む天使の如き邪神。
その微笑みのどこにも偽りはなかった。けれど、あれは紛れもなく邪神である。人類の敵であり、猟兵の敵だ。
アヤメが撹乱するように分身で邪神の周りを飛び交う。
けれど、邪神は微笑んだままだ。
「回避もしないような敵なら、これが一番―――九天応元雷声普化天尊! 疾っ!」
放たれるは周囲の視界全てが紫電に侵食されるような激烈なる落雷。
それはユーベルコード、九天応元雷声普化天尊玉秘宝経(キュウテンオウゲンライセイフカテンソンギョクヒホウキョウ)の一撃。
凄まじき雷撃の一撃は、ゆかりの全力を込めた一撃であった。
「ヒトはそれぞれの色を持っているから美しいのよ。どこかが欠けているから、その欠落を埋めるためにヒトは生きる。全てをかき消す忘我の“白”には退場願うわ―――!」
雷撃の一撃を受けても尚微笑む邪神。
あの時感じた背筋が泡立つような感覚が蘇る。己の意識全てを白で塗りつぶすかのような、凄まじき精神干渉。
あれにまた自身が晒される。
それは言いようのない恐怖であったのかもしれない。
けれど、その背中をそっと優しく押す手があった。知っている。ゆかりはもう、それを知ってる。
何か声が聞こえたような気がするけれど、それはゆかり自身の放つ裂帛の気合にかき消された。後でちゃんと聞こう。それだけが今、ゆかりの正気を保つたったい一つの欠片。
「―――ッ!!」
雷撃を纏う薙刀が振るわれ、『ノーズワンコスモス09』の身体を薙ぐ。そのまま薙刀の刀身が紫電纏ったまま突き立てられる。
噴き出す血が、その白き身体を染め上げていく。
「わたしはみすてません。あなたをすてません。あなたをあきらめません」
傷つけられながらも、なおも言葉を紡ぐ。
それは呪詛の如き言葉であった。
けれど、ゆかりにはもうそれは意味を為さない言葉だ。
どれだけの呪詛が、怨嗟が彼女を襲おうとも、ゆかりにはもう取り付く島もない。
「そろそろこの世から消えてくれるとありがたいんだけど?」
放たれた雷撃が、邪神の身を穿つ。
大切なひとかけら。己の背を護るアヤメの存在が、ゆかりの心を邪神の手から守り続けてくれていた―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
あれは…
大火の事件、私に赤子を託して息絶えたエンパイアの女性
到着した時点で竜によって壊滅していたA&Wの妖精集落の人々
オブリビオン化したそれを私は…
UDCアースで邪神として覚醒した少女
「覚えていて欲しい」
討った彼女の最期の願いはメモリーに刻まれて
数え切れぬ人影
御伽の騎士ならぬ我が身呪った忘れ得ぬ『取りこぼした』無辜の人々
その姿が濃くなると同時
我が身が薄れて
『めでたしめでたし』の世界
闘争でしか存在意義果たせぬ戦機の騎士は不要
…読み取られましたか
ですが
『今』を生きる人々が動かすこの世界
私の夢で壊すわけにはいきません
御伽の騎士でなくとも
私は騎士なのです
…お恨み下さい
邪神と人々に
再びの永訣の一振りを
紫電が戦場となった小島に明滅する。
千切れた白き羽が周囲を再び満たしていく。それは全て満ち足りた理想の世界へと塗りつぶす白色。
「わたしはあなたのそばにいます。かたときもはなれることはないでしょう。あなたのきず。あなたのくるしみ。あなたのなやみ。あなたの―――」
『ノーズワンコスモス09』の優しげな声が戦場に響き渡る。
彼女の攻撃は一度もなかった。これからもきっとない。ただ、それは他者を傷つけないと言うだけで、他者を侵食しないという意味ではない。
誰の心にも傷がある。
忘れ得ぬ傷。忘れてはならない傷。どれだけ表面が綺麗なものを持っていたとしても、それを磨くための傷は必ず存在している。
それが人というものであり、生命という存在の在り方であろう。
傷つかぬ生命はない。
それは例え有機的なものではなく、無機物で構成された存在であっても、その炉心が燃え、電脳が懊悩するのであれば、また等しく。
「―――あなたのむじゅんもすべてゆるしましょう」
微笑みは純白の天使そのものの穢れなきもの。
故に、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はアイセンサーではない、電脳のゆらぎが見せる映像を見ていた。
大火の中で息絶える女性。託された幼い生命。震えるのは己の機械の体にはない機能であるのに、視界の中が揺れ動く。
妖精集落は間に合わずオブリビオン化した。それを己はどうしたか。
「―――これ、は」
読み取られている。
視界に突きつけられる映像。これが現実であると、突きつけられる。変えようのないもの。変えられないもの。不変なるもの。己の電脳なかで生き続ける少女の姿。
願いは叶えられる。
『覚えていて欲しい』
その願いは正しく叶えられていることだろう。己の電脳の中でUDCアースの邪神として覚醒した少女の面影が囁く。
それは傷だ。
機械騎士は傷つかない。けれど、その電脳に刻まれたデータは、どれだけの手段でもってデリートしようとしても消えることはない。かすれることなど無いのだ。
取りこぼした生命は数多に。
いつだってそうだ。己の指の間からこぼれ落ちていくのは、いつだって無辜なる人々の生命だ。電脳のゆらぎが見せる幻影は、色濃くなっていく。数え切れぬほどの人影。
けれど、その人影の数だけトリテレイアは記憶している。鮮明に。忘れることなく、いつまでもデータとして残り続ける。
「『めでたしめでたしの世界』……」
それがトリテレイアの求める『全て満ち足りた世界』であったことだろう。そこに闘争でしか己の存在意義を果たすことの出来ない戦機の騎士は不要である。
「あなたのそんざいはむじゅん。けれどわたしはみとめましょう。そのむじゅんも。すべてみとめましょう。さあ―――」
手を差し伸べる『ノーズワンコスモス09』の微笑みは、抗いがたい救いの手であった。
「認めましょう。確かに私は、私の目指す平和な世界には、『めでたしめでたしの世界』には不要。ですが『今』を生きる人々が動かすこの世界を―――」
アイセンサーのゆらめきが消え、次の瞬間、その機体から白い粒子が溢れ出る。アイセンサーが輝きを取り戻し、トリテレイアの機体の周囲を渦巻く白い粒子が収束していく。
手にしているのは、ケーブルにつながった柄。刀身のない剣の柄であった。
それこそが、コアユニット直結式極大出力擬似フォースセイバー(ダイレクトコネクトセイバー・イミテイト)である。
極大の白き輝き放つ巨大剣を構える。
確かに己の存在は矛盾そのものであろう。騎士であろうとする機械。平和を目指す戦うための機械。
「私の夢で壊すわけにはいきません。御伽の騎士でなくとも、私は騎士なのです」
「はい、あなたはただしくきしなのです。ひていしません。こうていしましょう。あなたはきしなのです。むじゅんをかかえていても、おのれのそんざいじたいがあらそいをもとめるものであったとしてもわたしはひていしません」
微笑みは、攻撃の意思ではない。
けれど、それでもトリテレイアは巨大剣を振りかぶる。
「……お恨みください」
そうすることで己の抱える何かが晴れるかもしれない。いや、晴れることはない。その矛盾を抱えていかなければならない存在であると自覚しているのだから。
だからこそ、トリテレイアは、この剣を振るう。
邪神と人々の間につながる結びつきを、それが例え救いを齎すものだとしても、振るうは永訣の一振り―――。
白き極大の剣が小島の大地を抉り、その一撃で持ってトリテレイアは、己の電脳のゆらめきを振り払うのだった。
それが騎士として、誰かのために戦うと決めた己自身で決めた、『己の存在意義』であるのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
どんなおどろおどろしい邪神が出てくるかと思えば…
見た目は邪神というよりまるで女神のようだね
そして言っていることも一応、ね
白い羽に包まれた真っ白な世界
これはさ…「誰」にとっての満ち足りた理想の世界?
結局は君にとっての自己満足の世界なんじゃないの
俺にとっては、生きていることを実感出来る
赤い世界のほうが好きだな
先程自分で斬りつけた手から流れる血を眺めながら
俺はこの世界を赤に染めて、君の理想を否定する
Phantomの紅い蝶を戦場に飛ばす
白い世界にこの子たちはよく映えるね
白い羽に触れた蝶たちはUCで赤い鎖へと姿を変え
羽の持ち主である邪神本体へと伸びていく
無数の鎖で邪神を捕縛
乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
望みを叶えてやるだの救ってやるだの…
その手の甘い言葉を投げかけてくる
オブリビンはこれまで何度も見てきた
それだけ人ってのは欲深くて
付け入る隙がいくらでもある生き物なんだろう
どれだけ大金があっても
友人や恋人に恵まれていても
五体満足で怪我も病気も無く過ごしても
それでも人の欲望は尽きないだろう
だから結局「全てを白に」という手段しか無いんだろうな
それは救いではなく、ある意味諦めだ
綾が邪神の動きを封じたらこちらもUC発動
焔の圧倒的な炎をお見舞い
この世界を赤に染めるというならこいつも適役だろう?
お前にも、そして猟兵にも
人の心を完全に救うなんて無理なんだよ
それが出来るのはその人自身だ
極大の白き剣が邪神『ノーズワンコスモス09』の身体を打つ。
その一撃の威力は言うに及ばず。小島の大地が削れ、えぐれるほどの一撃であった。これまで何度も猟兵達の攻撃にさらされても『ノーズワンコスモス09』は微笑みを絶やさなかった。
どれだけ傷つけられたとしても攻撃してくることはなかった。
ただ、純粋なるほほ笑みを浮かべたまま、呼びかけるだけなのだ。
「りょうへい。りょうへい。あなたたちはなにをのぞみますか。なにをほっしますか。なにをもとめますか。わたしはあたえましょう。もたらしましょう。すべてすべてかなえましょう。わたしはそのためにあるべきものであるのですから」
どれだけ傷ついても攻撃の意思は感じられなかった。微笑み、手を伸ばし続ける。けれど、それ自体が邪神としての攻撃であることを猟兵達は知っている。
「望みを叶えてやるだの救ってやるだの……その手の甘い言葉を欠けてくるオブリビオンをこれまで何度も見てきた」
乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)にとって、それは過去の化身の甘言。その常套句に他ならなかった。
どれだけ世界が満たされた光景を目の前に広げたとしても、梓にとってそれは無意味なものだった。
それにその甘言は容易に抗えるものでもないということをよく知っている。
「それだけ人ってのは欲深くて付け入る隙がいくらでもある生き物なんだろう」
それは認めざるを得ない。救われたいと願う気持ちは誰にだってあるものだ。否定できるものではない。
けれど同時に救わなければ、と思うのもまた人である。
「どんなおどろおどろしい邪神がでてくるかと思えば……見た目は邪神というよりもまるで女神のようだね」
そして、言っていることも一応ね、と灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は苦笑いする。
隣に立つ梓の言い分もわかる。うなずきを返し、綾は駆け出す。あれは猟兵にとって倒さなければならない存在だ。
どれだけ救世を謳おうとも、邪神でありオブリビオンである以上、その在り方は世界を必ず壊す。
白い羽根に包まれた真っ白な世界を駆け抜ける。
「これはさ……『誰』にとっての満ち足りた理想の世界? 結局は君にとっての自己満足の世界なんじゃないの」
その言葉に邪神『ノーズワンコスモス09』は微笑む。
「みんなにとってのみちたりたせかいなのです。わたしはそうあるべきものであるがゆえにそうするしかないのです。それいがいをのぞみません。わたしにのぞみはありません。わたしはかなえるもの、もたらすもの」
微笑みの言葉は、あまりにも遠い。
それが機械的なものであるかもしれない。異質なるものに人の感性が、綾のこれまで歩んできた轍が、それを拒否する。
「俺にとっては生きていることを実感できる赤い世界の方が好きだな」
ユーベルコードのトリガーとなった己の切りつけた手から流れる赤き血潮。その赤色を眺める。
掲げた手から流れる血の赤こそが、綾にとっての世界。
自分が、自分であると証明できる唯一にして絶対。
「俺はこの世界を赤に染めて、君の理想を否定する―――離してあげないから、覚悟してね」
綾のユーベルコードが赤く輝く。
それはロンサム・ファントム。紅き蝶たちが戦場に舞い飛び、白き羽の世界を埋め尽くさんとする。
「どれだけ大金があっても、友人や恋人に恵まれていても、五体満足で怪我も病気も無く過ごしても、それでも人の欲望は尽きないだろう」
梓の背後で炎竜、焔が吠えたける。
その身のうちに宿した炎が、激情が、梓の中にある心に呼応するようにして、燃え盛る。
「なにものにもはてはあるのです。しがすべてのせいぶつのしゅうちゃくてんであるのであれば、わたしはそのときまでかなえつづけましょう」
微笑む『ノーズワンコスモス09』の姿はまさに天使そのものだ。
言葉通り、あの邪神は人の願いを、欲望を叶え続けるだろう。満たされるまで、どれだけの時間を欠けても、その身に宿した権能のままに。
「だから結局『全てを白に』という手段しか無いんだろうな。それは救いではなく、ある意味諦めだ」
梓が手を掲げる。まるで綾はそれがわかっていたかのように、放たれた紅い蝶を『ノーズワンコスモス09』に触れさせ、その姿を鎖へと変貌させる。
「白い世界にこの子達はよく映えるね」
紅き鎖は、がんじがらめに天使の如き白き邪神を絡め取る。それは如何なる物であっても引きちぎること叶わずの鎖。
けれど、邪神は微笑むばかりで、抵抗らしい抵抗をしない。
「ええ、それがあなたののぞみならば。わたしはきえません。わたしはあなたのそばにいましょう」
「―――いいや! お前の役割は此処で終わらせる! 悦べ、この炎を拝んで死ねる事を!」
炎竜、焔の放つは、星火燎原(スーパーノヴァ)。
この白き世界を赤に染めるというのであれば、炎竜、焔の放つ炎のブレスは適役であろう。すべてを赤に。それは始原にして至高の炎。
放たれた火球の如き一撃は『ノーズワンコスモス09』の真白き姿を炎へとくべる。
「お前にも、そして猟兵にも―――」
梓はその言葉を諦めと共に放ったわけではない。
わかっている。知っていたことだ。
「人の心を完全に救うなんて無理なんだよ」
他の誰であっても為し得ることではない。誰かの傷は誰かのものであって、他人のものではない。
救いを求めるのは、人として当たり前の心の発露であろう。人を救おうと思うのもまた人の心の善き一面である。
けれど、結局の所。
他者の言葉は、為すことは、いつだってそうだ。
誰かの背中を押す程度にしかならない。
そう―――。
「それができるのは、その人自身だ―――」
それは諦観ではない。
誰かを信じること。人の心を信じることこそが、誰かの救いになるのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐伯・晶
全ての願いが叶うか、夢のような話だね
元に戻れればどんなに嬉しいか
でもこの力に身を委ねたらその先が無いよね
女神降臨を使用しガトリングガンで攻撃
舞い散る羽と邪神を薙ぎ払うよ
あらゆる願いを叶える力
とても素晴らしいですの
でも、自力で封印から抜け出す事もできないのに
私を封印から解き放つ事はできないですの
元には戻りたいけど混ざった存在を2つに分けるのは難しいよ
不完全な復活で力が足りてないのにできるとは思えないね
願いは叶わなかったとはいえ
封印の隙間が広がったのは僥倖ですの
お礼に永遠を差し上げますの
神気で周囲の羽を固定しつつ
使い魔と邪神の力で石化させよう
黒でもなく白でもない灰色
案外それくらいが丁度いいのかもね
紅き蝶と極大の火球が、白き満たされた世界を塗りつぶしていく。
それは完全なる『満たされた世界』を破壊し尽くすものであった。誰かにとっては、ほんとうの意味での救世であったのかもしれない。
けれど、それは齎されていいものではない。
人の心の強さを、善き心を信じることの出来ない者の戯言にしかすぎない。
人はいつだって自分自身の力で立ち上がることができる。何度打ちのめされ、殺されてしまったとしても、人は負けない。負けるようには出来てない。
「全ての願いが叶うか……夢のような話だね。元に戻れればどんなに嬉しいか」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、燃え尽きた白き世界に一人立つ。
その言葉は偽らざる本心であった。
元の姿に戻りたい。戻れるのならば、一刻も早く戻りたい。
「ならばわたしがかなえましょう。あなたののぞみ。あなたのくるしみをすべてなかったことにしましょう。わたしならばそれができます。わたしはあなたのそばにいます。どんなことがあってもみすてることはないでしょう」
白き天使の如き邪神『ノーズワンコスモス09』が、その身を裂かれ、穿たれ、燃やし尽くされようとも、微笑みのままに手をのばす。
肉体的な損壊は意味を為さない。
そうとでも言うかのように晶へと手を伸ばすのだ。
「でも、この力に身を委ねたら、その先が無いよね―――」
その身にまとうは宵闇の衣。
本当は恥ずかしくて、嫌だ。元が男性である以上に慣れてしまってきている自分にすら嫌悪が募る。
けれど、女神降臨(ドレスアップ・ガッデス)は成される。己が望まなければ、力を与えないのがユーベルコードであるのならば、今まさに晶を包み込む輝きは一体なんであろうか。
手にした携行型ガトリングガンが凄まじき勢いで弾丸を雨のように打ち出す。
その尽くが邪神の身体へと吸い込まれていく。舞い散る羽も、何もかもが弾丸の前に霧散して消えていく。
「あらゆる願いを叶える力。とても素晴らしいですの」
晶の中の邪神がつぶやく。
けれど、自力で封印から抜け出すことのできぬ邪神に、晶の身体の中にいる邪神の封印を解くことなどできようはずもない。
それは最初からわかっていたことだ。この体に融合した邪神。一つの器に二つの魂がある状態。
言わば撹拌された卵のようなものだ。それを再び完全なる黄身と白身に戻すことは容易ではない。
「わたしならばできます。できなくともできるまでそばにおりましょう。かたときもはなれません。あなたのおわりがこようとも、かならずわかちましょう」
『ノーズワンコスモス09』の身体が輝きを放つ。
それは今まで集めた『誰かの成し遂げたい』という願い、祈りを集約した光だった。
それは『ノーズワンコスモス09』の持つユーベルコード。あらゆる願望を叶える杯に満たされた誰かの願い。
「かなえましょう。かなえましょう。ねがいは、いのりは、なんどでもかなえられましょう」
だが、その光が放たれる瞬間、晶は肉薄する。
「不完全な復活で力が足りてないのに、できるとは思えないよ―――それに、今だって」
晶の持つ携行型ガトリングガンが火を噴く。
その弾丸は過たず『ノーズワンコスモス09』の身体を穿ち、その体を霧散させていく。数多の猟兵達の攻撃が、邪神の不完全なる肉体を討滅していくのだ。
「願いは叶わなかったとは言え、封印の隙間が広がったのは僥倖ですの。お礼に永遠を差し上げますの」
晶の中の邪神が放つ神気が周囲に舞い散る灰に成りかけた白き羽を固定し、その力を、権能を振るう。
霧散し消えていこうとする『ノーズワンコスモス09』の身体が石化していく。
だが、石化した端から、その白き邪神の体は霧のように立ち消えていく。その表情に哀しみも、憎悪も何もなかった。
あったのは微笑みだけ。
「かなえましょう。わたしはあなたののぞみをかなえましょう。そのためにわたしは―――」
やってきたのですから。
その言葉はきっと晶には届かなかった。
なぜなら……。
「黒でもなく、白でもない灰色……案外それくらいが丁度いいのかもね」
そうつぶやく晶の顔は晴れやかなものであった。
全てを救う、満たすと世界に囁いた邪神の痕跡は一片として世界に残らずに消えていく。白と黒。晶はきっと、その中間に立つ灰色なのかもしれない。
どっち付かずの存在であったとしても、中庸足り得ることこそが、もっとも難しい道であろう。
けれど、晶は頭を振る。
「―――いつだって、難しい道の方が正しいのさ」
だから、後ろを見ない。
どれだけの時間がかかったとしても、己の望みは己が叶える。そのために晶にはまだ歩む二本の足があるのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵