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ことのは彩魚

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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(どこかな、どこかな)
 陽が黄昏色を地平線の向こうへ連れて行き、月が見張りを変わる頃。
 広大な敷地を、小さな妖が軽やかに飛び跳ね進んでいく。
 その寺院は大凡が水没していた。

 とてとて、ちゃぷん、ぱしゃ、ぴょん。
(あれかな、あそこかな)
 無限に想える長い回廊で、仔は只管何かを探していた。
 水溜まる道を飛び越えて、水草が絡む瓦屋根に登っては周囲を見渡す。
 よく見ると歩廊のあちこちに、水底に沈んでも尚立派に聳え立つ建造物に。
 至る所で大小様々白に曇って淡く光る『泡』が付いている。
(たまごどこかな、おさかなさん)
 あれじゃない、あの『泡』じゃない。もっと鮮やかな光じゃないと。
 中央に伺える厳かな本堂に目もくれず、淡い輝き一つ一つを探して回る。
 回廊と中庭の一部を埋め尽くす向日葵の花畑、突き進めば何処かの公園。
 幽世らしい、誰かさんの思い出がちぐはぐ繋る広い広い寺院の中で。
 目的の『泡』は、浅瀬の中を明るく照らす耀きを放っていた。
(あった。あえたね。きょうも、『声』をとどけにきたよ)
 小さな手が仄白い『泡』を優しく掬い上げる。
 聞いて欲しいな、色づく想いを。今日はね、好い事あったんだ。
 目を閉じて、額をくっつけ。口を開けて――。

「――? ――、――!」
 ごぼり。ぶく、がぽ、ぽ。
 声が出ない。口を開けたのに。
 息の吸い込みがまるで水中に居るような苦しさを伴った。
 思わず『泡』を落とし首を抑える。声が出ない、息が苦しい。何故、なぜ。
 足元の水が不気味にうねり、渦を巻いてせり上がってきても気が付けない。
 やがて骸魂の抱擁が小さな妖怪を覆い尽くし、嘆きの水へ飲み込んでいく。
 ごぽん。
 こぽ。

●彩魚に言の葉色を捧ぐ
「やあ、お仕事良いかな」
 和硝子のランタン片手にシュデラ・テノーフォン(天狼パラフォニア・f13408)が尋ねる。
 了解を得、ありがとうと柔らかく微笑んだ。
「場所はね、カクリヨファンタズム。色々沈んでる幽世があるんだ」
 兎に角広いその場所は、見事な創りの寺院を基礎になんとも摩訶不思議な光景になっているらしい。
 まず何故か高低差があり、そこかしこが水没している。
 急に深い水底へ続く回廊や、滝を受け四方から水を吹き出す多重塔があったり。
 更に不思議がそれだけでは留まらない。
 過去の遺物で構成する世界はツギハギのように別の思い出もくっついているそうだ。
「誰かの思い出に近い場所も、水没してるかもね……は兎も角」
 本題はこれから、とグリモア猟兵が浴衣の懐から一つの球体を取り出す。
 曇り硝子で作られたそれは、淡い白に染められていた。
「ソノ不思議な場所にね、こういった白い玉の『泡』がいっぱいあるんだ」
 これはサンプルね。なんて緩い調子で。
「『彩魚』っていう妖怪の卵なんだって。光ってるから夜に良い明かりになるそうだよ」
 大小様々連なって、水陸何処でもくっつく卵は幽世にほの明るい絶景をつくり出す。
 転送先は今夜に近いが、行動に問題ない位の数が光っているそうだ。
「生まれる寸前になるともっと強く光るんだって、ソレでね」
 卵から視線を猟兵達に移し、へらりと白いキマイラが笑う。
「何でも想いを込めた声を贈ると、言葉の色に染まった魚が生まれるんだって」
 誕生間近の耀きへ、心を込めた言の葉を捧げると卵が彩り豊かに染まるらしい。
 泡が割れ、水没世界に泳ぎだす彩魚もまた水没幽世の絶佳だった。
「でもね……どうやら『声』が消えたみたいなんだ」
 伝えたい言葉が音にならない世界で魚は色付かない。
 それ処か、生まれる彩魚を楽しみに寺院へ来た妖怪達も骸魂に飲み込まれてしまった。
「彩魚の卵を護りながら、骸魂に呑まれた妖怪達を救って欲しい」
 勿論、世界から『声』を奪った元凶も存在する。
「声を奪ったオブリビオンも潰して、声を妖怪達に返してあげよう」
 そうして世界を救ったら、水没幽世を楽しんでも良いんじゃないかなと言葉が続く。
「彩魚の卵に言葉をかけて君だけの色した魚を泳がせるんだ。楽しそうだろう?」
 折角浴衣コンテストもしたし、着替えて楽しむのも良い思い出になりそうだ。
「仕事が終わったら俺もそっち行くからさ、転送で着替えてくるとかもできるよ」
 とか? と不思議に思った猟兵に、シュデラは気の抜けた笑みを返した。
「うん。でも先ずは幽世を救わないとね。さァ行こう、狩りを始めよう」
 開始の声に応え、和硝子の灯りからグリモアの光が煌めき出す。
 瞬間、周囲の景色がパリンと割れて新しい世界を移し出した。


あきか
 あきかです、よろしくお願い致します。

●執筆について
 プレイング受付開始のご案内はマスターページにて行っています。
 お手数ですが確認をお願いします。

●シナリオについて
 大半が水没した寺院が舞台です。
 時間は黄昏時が過ぎた宵の頃ですが、『彩魚』の卵で明るいです。
 妖怪の声は失われていますが、猟兵の声は問題なく出せます。

『彩魚』とは?
 水没寺院のあちこちにくっつく、泡のような卵から生まれる魚の妖です。
 白く濁った卵は水の中でも外でも構わず存在し淡く光ってます。
 大きさは掌~西瓜くらい。卵の大きさと比例する魚が生まれます。
 割と丈夫な柔軟さと紙風船のような軽さ。
 水の中から出しても大丈夫な不思議卵です。

●一章
 幻想的な幽世で生まれる寸前の卵を探します。
 周囲よりも強い輝きを放つ白い泡が当たりです。
 取って保護するもよし。その場で護るのも構いません。
 必ず敵とは遭遇します。骸魂を倒し、妖怪もお救けしましょう。
 戦場は陸上、水中何処ででも。有利な場所を指定するのもOKです。

 また、水没世界には皆様の『思い出の場所の一部』も存在するかもしれません。
 例:紫陽花の花畑に思い出がある→回廊や水底に紫陽花が咲いてます。
 どうやら懐かしさを感じる場所に目的の卵を見つけやすいようです。
 勿論無くても構いません。どんな風に探すか書いて下さい。

●二章
 ボス戦です。
 卵を護りながら倒しましょう。大体一章の戦闘と同じです。
 ボスは卵を積極的に狙ってきます。

●三章
 水没幽世に彩魚を放ちましょう。
 想いを込めた言葉をかけると、色付いた魚が生まれます。
 誰かへ伝えたい言葉、何となしに浮かんだ気持ち等など呟いてみて下さい。
 色はお任せでも指定でもOKです。

 また、三章はシュデラがそこら辺におります。
 転送を使って浴衣に着替えましたもできます。
 更にシュデラに頼むと生まれた彩魚の色した飴細工をつくります。
 飴細工片手にのんびり水没世界と泳ぐ魚を堪能してください。
 単に着替えた、飴貰っただけ(グリモア猟兵描写無し)もOKです。
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第1章 集団戦 『浮き笹舟』

POW   :    月宵の抱擁
自身からレベルm半径内の無機物を【月光を纏う水流】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD   :    波渡りの嘆き
全身を【揺水の羽衣】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
WIZ   :    笹揺れの爪先
攻撃が命中した対象に【水に似た性質を持つ月光の輪】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【動きを阻むように絡み付く水流と紛れた光刃】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 聞こえてくるのは、水の音色ばかり。
 磨き上げられた木目の回廊が、寄せて返す真水の波で満ちていく。
 すぐさま生まれた水辺に、新緑の水草が早送りの軌跡を描き名も知らぬ花を咲かせた。
 どうやらこの奇妙な世界は常に生まれ続けているらしい。
 同時に、終焉も迎えようとしていた。

 声が失われた世界では意思を伝える音が響かない。
 代わりに飛び交うのは、死した妖の魂だった。
 助けを求める言葉すら出せぬまま、生きた妖怪達を骸が道連れと飲み込んでいく。
 成したのは、笹舟に水月を浮かべた波打つきれいな異形だった。

『彼女』達は散り散りに、沈黙の世界を泳いでいく。
 入り口から川が流れる本殿の中を、昇り始めた月を映す広大な池の上を。
 覗き込めば深い中庭の底に、沈みきった回転木馬が水流に押され緩やかに回っている。
 あの思い出にも、何処にでも。
 夜を照らす泡が在るのに。
 あれじゃない。違う。……探さなきゃいけない。何故だろう。なぜ。

 ――望む輝きはどこだろう。
スピーリ・ウルプタス
ダイ様宜しくお願い致します、とUC発動
跨っては陸も水面も滑る様に移動する大蛇と共に卵探し

「おや…これが『懐郷』の思い、というものでしょうか。
 胸の奥で中々心地よい締め付けを感じます」
他人事のように微笑み
目の前には、水に沈んだ書物たち。全て赤黒い色に染まり散らばっている。
見覚えのある色合いですね、と体沈め手に取ろうとすれば、すぐ傍に光る卵発見

「卵は引き受けました。ええ、この身全てでお守りしましょう」
敵が来れば卵抱えつつ、囮になるよう動き
「ッ随分手数の多い方ですね…いえ!本望です!」
一身に攻撃受けてもいっそ嬉しそうにズタボロ
(しかして卵はがっちり防御)
その隙に大蛇が噛みつきや締め付けで攻撃



●リメンバー・フェティッシュ
 質の良い革靴が浅い水溜りに綺麗な波紋を描いた。
 赤華絢爛を差し色に、整えられた上品な装い。
 首元を心做しかきつく締め直す、も水没幽世を見渡すスピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)の眼差しは柔らかい。
「ふむ……成程」
 低い位置で浮かぶ月は心許無く、夜を反射する水場は泡の灯が照らしている。
 視界に映る総てが何処ぞの幻想譚が一頁なのか、そんな錯覚を覚えながらも。
 近くで聴こえる落水の音に現在地の水嵩が増すのを感じ、思考に栞を挟んで一旦閉じる。
 徐に鎖で綴る『私』をひと撫で、無駄の無い仕草で掌を上に。
「ダイ様宜しくお願い致します」
 招く声に足元から不自然な漣が生まれ、すぐさま勢いを増し一つの流れが隆起して男の周囲に渦巻いた。
 先端が紳士の指先触れる頃、其れは黒い大蛇と成って艷やかな鱗を擦り寄せる。
 勝手知ったる間柄、挨拶短く畝るかの背へ跨った。

「おや」
 蛇腹を滑らせ泳ぎ、到達したのは水底が砂利を敷き詰めた広い場所。
 あれは確か、枯山水か。不思議と水中でも見事な作りに乱れはない。
 ただ何よりスピーリが気に留めたのは、一面の砂底に散らばる赤黒い書物達だった。
「……これが『懐郷』の思い、というものでしょうか」
 白い庭に、見覚えのある色合いが滴り染まる血の如き彩りを添えている。
 沈んでも尚鮮やかな表紙を、忘れる等出来はしない。
「胸の奥で中々心地よい締め付けを感じます」
 懐かしさを言葉にした顔は、酷く他人事のような微笑みに満ちていた。
 大蛇は相槌の代わりと潤う砂の庭園を進むも、名を呼ばれて静止する。
 膝上程の所で騎乗を止め、脚を水にそっと沈めていく。
 積み重なった一冊を手にしたのは戯れだろうか。
 引き揚げる最中、視界に急な眩しさを覚え一瞬の躊躇い後視線を移す。
 書の小山で大事に仕舞われていた泡は、周囲より一層光り輝いていた。
「ああ、見つけましたね」
 己と違う色の本を手放し、優しく卵を掬い出す。
 数頁分も満たない重さと未知の柔軟さを十分に確かめる時間は無かった。
 いつの間にか近くで笹の葉が浮かんでいる。
 月光が照らした瞬間、『彼女』はざぶざぶと音を立て異形の姿を現した。

「卵は引き受けました。ええ、この身全てでお守りしましょう」
 若きロマンスグレーの紳士が煌く卵を抱えて相棒を見上げる。
 返事は素早い行動へ、足掛けた黒蛇の尾が撓ると同時に高くヒトの身は跳躍した。
 終い迄洗練された動作で近くの回廊へ着地する。此処は未だ湿り気が無い。
 勿論水月抱く妖が追って来るので迷わず走り出す。
 敵意のうねりが宙を流れる捕縛の術と化す前に、卵をがっちり抱きしめた。
 最初は背を押し潰す程の衝撃で息が強制的に吐かされ、間髪入れず濁流が男を縛り上げる。
「ッ随分手数の多い方ですね……!」
 揺蕩う羽衣に包まれ溺れる苦痛が身を襲うも、でも。
 スピーリの顔は何だか嬉しそう。ズタボロでも嬉しそう。
 あれ、苦しいんじゃないの?
「いえ! 本望です!」
 何故なら彼こそ柔和なヤドリ変態ガミ。
 その称号に、偽り等無かった。

 一応囮の役目を完遂した結果、静かに近付いた大蛇に気付かれる事は無く。
 束縛者はされる側ごと黒い身体で締め上げられた。
 鎌首もたげ月を映す頭へと噛み付く。骸魂が喰われ縛めの水は自然へ還っていった。
 残るは蛇が咥える囚われていた妖怪と、開放された紳士のみ。
 確り護った己の本と輝く卵を胸に、悦び湛えた顔は……深く追求しないでおこう。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と

うん、不思議だし面白い
見つけたらつついてもいいかな…ってうん?
知ってるところ?

ああ
故郷か
何だかその響きだけでも素敵だけど…嫌いなんだ?なんで?
そう…
でも、一目見て故郷ってわかるんだから、不思議だね

街角?犬?瓦礫の下か……何かいるだろうか(覗き込んで
あ、卵だ

……俺は面白いと思うよ
お兄さんのことを知りたいと思うし、聞きたいと思う
なんだってね
俺には故郷がないから、そういう面でも興味深いし…
ああでもそうだね。先に戦闘
灯り木で手早く撃ちぬいていくよ
…え、何、俺褒めても何も出ないけど…
ああ、でもそうだね。じゃあ俺が昔ほんの少し、普通の子供みたいに住んでた時の町を探してみようかな…


夏目・晴夜
リュカさんf02586と

これが卵?不思議ですねえ
よし、ちゃっちゃと探しますか!

うわ、此処は
…私の故郷ですね
年中雪に覆われていた下らない街です
嫌いですよ。何もいい事なかったので

あ、でもこの街角は懐かしい
食べ物を探してたらこの瓦礫の下に白い犬がいて
首輪代わりに、雪に紛れないように、犬の目の下に印を…
…あー、面白くない話でしたね!申し訳ない
やっぱリュカさんって変わってますよね

まあ、故郷を離れて良かったですよ
こうしてリュカさんと遊べますから
それでは、今日も遊びましょうか

敵は妖刀で串刺しに
リュカさんがいると頼もしいです!
一瞬で敵を倒して下さるのでとても楽
あ。後でリュカさんの思い出の場所も探してみません?



●きみがいたまち
 雨宿り、というわけではないけれども。
 転送先の大きな山門が何故か緩やかな滝の下に在った為、仕方なく二人は一旦軒下に避難した。
「これが卵? 不思議ですねえ」
 並んで幽世を望む中、夏目・晴夜(不夜狼・f00145)の首が近くの泡へと傾き覗く。
 淡く光る卵はなんだかふわふわ柔らかそう。
「うん、不思議だし面白い」
 同じ付着物をリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)も眺めている。
 ただ控えめな輝きは、突くと我々が識る其れと同じ末路を辿る気がして躊躇われた。
 代わりに雨漏る透明な粒がぽたぽた落ちていき。
 泡がぽよんと跳ねる様に何となく、以前討った緑色が連想された。
 しかしこのまま居ても周囲に目標は無さそうなので。
「よし、ちゃっちゃと探しますか! 私の勘はこの中と言ってますね!」
 何処と尋ねる迄もなく、紫の瞳が後ろを向くので青の眼もそれに倣う。
 視線が同時に、水苔くっつく大扉に辿り着いた。
「きっと中も大雨ですね」
「まあ、濡れても戦えるし行こうか」
 皺一つ無い白と使い込まれた黒の手袋を扉に当て力を込める。
 あっさり開け放たれた先から吹く向かい風は酷く、冷たく感じた。
 瞬間、あれだけ耳に響いていた水流音が消え去って。
 身に降り掛かったのは――白く凍りついた元雨粒だった。

「うわ、此処は」
「うん?」
 後ろは雨水滴る山門。見上げれば、白牡丹。
 変貌した眼前の光景にフリーズしかけた二人は、片方の声で動き出す。
「知ってる所?」
 吐く息白く、更夜の位置を調節しがてらリュカが隣人を見る。
 横顔を包む柔髪が、景色に融けていきそうだった。
「……私の故郷ですね。年中雪に覆われていた下らない街です」
 液体ではなく凍てつく細やかな個体が支配する、何処かの街並み。
 見渡す限り降り積もる雪の量に晴夜の言葉が嘘でない事が良く解る。
「ああ。故郷か」
 心情の吐露と、新雪へ一歩踏み出す音が重なった。
「何だかその響きだけでも素敵だけど」
 誰でも持ち合わせる筈の意味に対し、蒼い少年の過去とは縁の無い言葉らしい。
 それでも好奇心が動いたか光景をあちこち視界に映す。
「嫌いですよ」
 彼等の常は無表情だ。その顔色を表現するなら白なのだろう。
 ただ。尻尾すら動かさず前を見る方は雪のように、冷たい色だった。
「……嫌いなんだ? なんで?」
 尋ねる言葉に距離ができる。もう相手が歩き出してる事を知り、返答予定も足を動かす。
「何もいい事なかったので」
「そう……」
 そっけない気もする短いやりとりでも、互いの雰囲気に変化は無い。
「でも、一目見て故郷ってわかるんだから、不思議だね」
 大袈裟なリアクションよりも、思った意味を素直に伝える。
 それが表面感情の少ない彼等の仲だった。

 二人分の足跡が、思い出に痕を残す。
「あ、でもこの街角は懐かしい」
 人狼が足を止めた先、少し崩れた一角もまた固形の水に没していた。
「食べ物を探してたらこの瓦礫の下に白い犬がいて」
 一点を見つめたまま、零す台詞は独白に近く。
 街角と犬に疑問符を浮かばせる相方の動きを追う事無く、唯見ていた。
 過日の、記憶を。
「首輪代わりに、雪に紛れないように、犬の目の下に印を……」
 あの瓦礫から、今にも。己が来ただけで飛び出してきそう。
 尻尾を振って、嬉しそうに。逢えて、嬉しいと、ふわふわのきみが。
「……あー」
 狼耳を揺らし頭を振る。飛び散る雪の量に、大分突っ立ってた事を知った。
「面白くない話でしたね! 申し訳ない」
 多分切り替えたのだろう(でも無表情)が改めて相手を探す。
「瓦礫の下か……何かいるだろうか」
 年下の少年は、遠慮無く思い出の奥を覗き込んでいた。
 むしろそのまま中へ入っていく。あ、と聞こえた声に思わず晴夜も腰を落とした。
 瓦礫の下に、白い輝き。
「卵だ」
 出てきたのは、目的の光を抱える雪被りの友人だった。
 マイペースに白を払い、黒の手がほらと光る泡を差し出して見せる。
 変わらない。ずっとそのままの、記憶通りの彼がいる。
「やっぱリュカさんって変わってますよね」
 期待したコメントではなかったので、リュカはこてんと首を傾げた。

 とりあえず卵は保護し、傭兵は突撃銃に手をかける。
「……俺は面白いと思うよ」
 淡々と、マガジンの装填を確認する。言葉も、落ち着いていて。
「お兄さんのことを知りたいと思うし、聞きたいと思う。なんだってね」
 灯り木に差し込んで、セーフティを外す。もう、無意識でも可能な動作だ。
「俺には故郷がないから、そういう面でも興味深いし……」
 ゆっくりバレルを上げていく。先は、知りたい相手へ。
 スコープ越しの顔は、少しだけ気の抜けた無表情だった。
「まあ、故郷を離れて良かったですよ。……こうしてリュカさんと遊べますから」
 白が降る空間で、銃口を向けられた相手は穏やかに告げる。
「それでは、今日も遊びましょうか」
「ああでもそうだね」
 先に戦闘。呟くと同時に、照準が少しだけ横にずれた。
 停止と同時に手早く発砲。蒼炎の弾丸は不夜狼の大きな耳を傷付ける事無く通過して。
 背後に迫っていた浮き笹舟にヘッドショットを決めていた。
「リュカさんがいると頼もしいです!」
 褒める間も揺水の羽衣で覆われた的を撃ち続け、瞬きの間に討ち終える。
「え、何、俺褒めても何も出ないけど……」
 言い終えるか位で異変に気付く。崩れる水妖の影にもう一体居たらしい。
 すぐさま追撃当てるも流れる動きで逃げていく。
 敵にとっては、射程範囲内から逃れる為の移動だったのかもしれない。
 その先に、瓦礫があった。それだけで。
 笹の葉に付いた銃痕へ悪食が突き刺さり、激しい音と衝撃を以て側の壁に縫い付けられた。
 仕掛けた狼は、壮絶な迄の真顔で凶器の柄に手をかける。
 刃が傷口を広げるも、獲物の叫びは聞こえない。彼等の『声』は無いのだから。
「返して下さい」
 それは何を、示すのか。
 利き手は骸魂を固定した儘、もうひとつを、裂いた口に突っ込んだ。
 暴れ抵抗し鋭利な腕を振りかざす水月に、眩い光が映り込む。
「――祈りを」
 発射寸前の輝きに、意識を向ける事しか出来なかった。
 シリウスが過去の波も雪の思い出も貫いていき、敵意失せた水が流れ落ちる。
 白い手が掴んでいたのは、白い小さな妖怪だった。

 黒い手も、最初に倒した水妖から囚われていた仔を取り出して。
「あ。後でリュカさんの思い出の場所も探してみません?」
 顔を上げると、やっぱり変わらない表情で見合わせた。
「ああ、でもそうだね」
 光る卵を抱えリュカが応える。
 さり気なくつつきながら視線は少し前から遠くに在る別の山門を見ていた。
 既に開いている入口向こうに、記憶違いでなければ覚えの在る景色が視える。
「じゃあ俺が昔ほんの少し、普通の子供みたいに住んでた時の町を探してみようかな……」
 確信は無いから曖昧に。それでも、行こうと返事が来るなら。
 雪解けが始まる街から、今度は君の町へ。

 歩き出す二人の道に、百日草が咲いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

樹・さらさ
早乙女・翼(f15830)君と同行。

声の無い世界、とはね。気の利いた台詞の一つも述べられないとは私にとっては凄まじく生き難い場所だな。

大半が水の中というのも動きにくい、足場の確保に翼君の手を借りさせてもらうよ。
「……ふふ、エスコートされる側に回るのは久しぶりだ」
思い出の場所か。思い浮かぶのは古びた劇場…初舞台がそんな感じの場所でね。
卵を見つけても、大丈夫と聞いているとはいえ水から出すのは感覚的に好まないな。問題ない、そのまま守るさ。
【Gabbia di smeraldo】
例え声が無くても足を置く場所さえあれば剣舞ならば関係はない。
若葉のように光る刃を剣と共に舞わせて骸魂を祓うとしよう。


早乙女・翼
さらさ(f23156)と

喉に手を当て
まだ来たばかりだから大丈夫、か
でも急ぐに越した事ないさね

水上を背中の羽根を大きく広げて飛びながら、さらさの移動の補助しつつ
足場から足場に彼女が飛ぶ際に手を貸して
はは、君のファンに見られたらエラい目に遭う奴だったかねぇ?

思い出の場所なぁ…
ふと思い出したのは、今は亡き恋人と見たコスモス畑
すると水中花となって隔世に揺れるそれが目に止まる

さらさ、アレじゃね?
卵を見つけ指さして
現れた敵から卵達を守る位置に着き、召喚した魔剣投げつけUC発動
相手の目を眩ませながら動き諸々阻害してやるか
彼岸花と秋桜の共演の中に見る剣舞に見惚れながら
俺も負けられないか、とサーベル振るおう



●水華パルコシェニコ
 透明に沈んだ世界で、鮮烈な赤が翼を広げ羽撃かせる。
 早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)が飛ぶ場所は大半が水面下だった。
 幽世を見下ろす最中、ふと片手に視線を落とす。
 手首を隠した己の其れを、同じ理由で外気と遮断している喉元に当て息を吸い。
 一つ、意味を成さない『声』を零す。耳に響いた結果に問題はなかった。
「まだ来たばかりだから大丈夫、か」
 意味有る音色に出し直し、体勢を本格的な偵察へと移行する。
 迷わぬ範囲を旋回後、青年は最初に降り立った場所へと戻っていった。
 其処で、同行者が待っている。

 待ち人は何時いかなる時でも清く凛々しく、美しく。
 例え舞台が殆ど水没し傾く多重塔の上だとしても。
「声の無い世界、とはね」
 落ち着いた、よく通る声。踵揃えた背筋は真直に。
 樹・さらさ(Dea della guerra verde・f23156)の出で立ち正に紳士だった。
「気の利いた台詞の一つも述べられないとは私にとっては凄まじく生き難い場所だな」
 観客居らずとも、仕草一つ一つに洗練さが窺える。
 胸に手を当て憂いを一言。伏せた視線に、影が舞い落ちて。
 優雅な動きで差し出す掌に血を染める様な羽根をひらりと収め、顔を上げる。
 王子様の元へ居りてきたのは柘榴色のオラトリオだった。
 現状伝える会話を交わし、理解したと彼女が頷く。
「大半が水の中というのも動きにくい、足場の確保に翼君の手を借りさせてもらうよ」
 口にした信頼を受け彼が再び飛翔する。
 赤き御使いの導きでハイカラさんは不安定な道を歩き出した。
 どこぞの斜塔が如き出発点から、先ずは己の脚で近くの瓦屋根へ。
 難なく渡るも次は少々距離があった。迷わず、さらさは手を伸ばす。
 すぐに翼の補助が入って彼等は濡れる事無く難を乗り越えた。
「……ふふ、エスコートされる側に回るのは久しぶりだ」
 楽しげな声に、手を貸す方も笑顔に成る。
「はは、君のファンに見られたらエラい目に遭う奴だったかねぇ?」
 非日常の世界で国民的スタアと、フォースナイトが手を取り合う。
 それだけでキネマのワンシーンが描けそうだった。

 移動する中で感じたのは、現在地が模型を乱雑に沈めた巨大な水槽のようだということ。
 元々寺院の一区画が在ったのだろうこのエリアは、狂った高低差で生じた矛盾をうけちぐはぐになっていた。
 斜めの回廊はまだしも、建物は横倒しの状態すら確認できる。
 ただ廃墟と呼ぶには構成物総てに崩壊や破損部分は無く綺麗なままで。
 更にあちこちで光る泡が水陸問わず夜を照らし、なんとも奇妙な絶景を造りあげていた。
 次の道を探す傍ら、彼岸の柘榴の思考が揺らぐ。
(思い出の場所なぁ……)
 先ず浮かんだのは、濃淡綺麗な紅色に咲く鮮やかな庭と。
 そして、花畑を共に見た愛しい隣人の姿。
 記憶の中で、恋人が笑う。その時と同じ感情を浮かべかけた顔が、ふと一点を向く。
 赤い瞳が映す先、泡の光に照らされて……思い出の欠片が水中で咲いていた。
 見間違いかと過ぎった思考は、一瞬にして覆る。
 次に示す予定の足場で芽が出て蕾が生え、一重に咲いて。
 其処だけではない。その先、もっと先。見開く視界で秋の桜が花開く。
 こっちだよ、と。聞こえた気がした。
「見事な秋桜だな」
 現在一緒に居る人間が発した声で我に返り、ホバリングで体勢を立て直す。
 改めて、二人は花道を進んでいった。

 やがて和製の多かった踏み場に洋造りの一部が混じり始める。
 到達したのは、舞台上が膝下程水に浸かる古びた劇場だった。
 入口どころか屋根も壁も無い、ただ演者が歌劇を行う為だけの場が存在している。
「思い出の場所か」
 客席が在ったであろう高い位置から、翡翠の瞳が見下ろし呟いた。
 羽を閉じ側へ降り立つ翼を横目に、さらさは変わり果てても尚色褪せない光景を眺め続ける。
「初舞台があんな感じの場所でね」
 数多のコスモスが、初めて演じた懐かしのステージで咲き誇る。
 穏やかな水流に揺れる様は踊るように。そして、何より目を引くのは。
「さらさ、アレじゃね?」
 水面に近付く男が指差す、主役の位置。
 花束の中心で存在を魅せるのは、今まで見てきたどの泡より輝いていた。
 濡れるも気に留めず近寄る二種の視線が先で、柘榴の実程の卵が二つ寄り添っている。
 西瓜位の泡も見た中であのサイズは、何だか小物みたいに可愛らしい。
 そう考えた彼女の思考は――瞬時にして切り替わる。
「翼君!」
 凛とした呼びかけは宣言。同じく気配を感じていた彼は導きの魔剣を喚び招く。
 振り向く二人の前で、不自然に隆起する水流。敵意が、肌を叩いた。
「大丈夫と聞いているとはいえ水から出すのは感覚的に好まないな」
 戦の女神もまた細身の剣を抜き放ち、満ちる水に緑水晶の燦めきを鮮明に映して。
 闘志は十分に、紳士の精神は仲良く身を寄せる光達を想っていた。
「問題ない、そのまま守るさ」
 同意代わりに緋紅の騎士も卵を守る位置に着く。
 骸魂が操る水塊に月が宿る頃、両手剣を軽々振り翳し投擲体勢を取って。
 二体のオブリビオンが形を成した瞬間、使い手は獲物を強く投げつけた。
 剣先が笹葉に触れる直前で、羽翼の結界が展開される。
「死天使の羽根と彼岸花、死に逝く者に捧げよう」
 飛び散ったのは深き紅の羽根と情熱の花弁。
 視界を艶やかに支配する無数にして唯一の彩りが、戦劇の開幕を高らかに告げた。
 意思有る水流と、指揮者が操る赤嵐がぶつかり合う。
 飛沫に蒼と紅が交差し何度も寄せては返す攻撃が激しさを増していく。
 拮抗を壊したのはもう一体の月宵だった。
「――っ」
 片手に感じた一瞬の痛み。隠し通す手首に、月光の輪が輝く。
 すぐさま彼を囚えるべく出現した束縛の水源。紛れる刃が、きらりと獲物を狙って。
 果たして其れは――第三の色によって、粉々に砕かれた。
「Gabbia di smeraldo」
 嘆きの縛めを撃ち破る、翠玉の刃。唱える者と同じ気高さで存在感を示す。
 ベリルの輝きは一振りに留まらない。気付けば、柘榴の空に新緑の森が出現していた。
 秋桜の庭に、禍々しくも月光を抱く水妖と猟兵が生み出す二色の奇跡が共演する。
 嗚呼此の舞台、なんと絢爛なことか。
 だが護るべき者が居る物語に、悲劇は相応しくない。
 悪役は、退場頂くべきなのだ。
「私達の舞台から降りて貰おうか!」
 クライマックスの始まりは、翠玉を飾る剣を手に幾何学模様を描く刃を引き連れ舞う女の剣戟から。
 応える浮き笹舟の鋭利な反撃は、目映い赤に阻害された。
 同じ色の曼珠沙華を髪に咲かす男は援護の最中、極上の演劇を観た気がして。
 否。見惚れない理由など無かった。
「……俺も負けられないか」
 気を取り直し、無事な手で片刃に繋る十字架を握りしめる。
 戦乱のシーンに飛び込む死天使が振るう刃も、美事であった。

 荒れ狂う流れが絶え、骸魂がハケる時がフィナーレとなる。
 剣を収めた二人は妖怪二匹を救出後、護りきった舞台の中心へと戻っていく。
 コスモスの花々に囲まれた卵達は、変わらぬ輝きを放っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎
濡れたら前髪下ろし

「声」が消えた世界は俺が未だ器物だった時の世界とよく似ている
伝えたくても届かねェ
言の葉の色に染まる魚、ねェ
(今の俺の言葉が何色なのか…この鏡(め)で視たい)
まずは「泡」を掬って救ってからだ

卵を水中捜索
紫苑や桜、アイビーなど四季の花が咲く
故郷に在った社に似た処で発見
大事に上着で包む
抱えて陸へ
敵が追ってきたら急いで陸へ上がり【杜の使い魔】使用
上空で戦闘

閃墨、頼む!卵を護るのを手伝ってくれ
お前が惹き付けろ

主な攻撃は八咫烏
八咫烏の翼で強風を起こす
水を竜巻状に巻き上げて敵へカウンター

自分は卵の保護と妖怪の救助優先
骸魂退治したら妖怪を捕まえ救助
八咫烏から降り妖怪達を連れて避難



●花鳥水月
 己が吐き出す沫は、淡く昇り境界で消えた。
 揺らぐ天上、月は朧に。感じるのは優しい浮遊感。
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の射干玉黒き艶糸がゆらりと湖中で戯れる。
 夕赤と青浅葱の瞳は、内側から広大な水没世界を見据えていた。
(『声』が消えた世界は俺が未だ器物だった時の世界とよく似ている)
 この幽世で失われたものは元々水中でも、難しく。
 あたかも自身の迄奪われた錯覚を覚えていた。
(伝えたくても届かねェ)
 ふと思う。例えば声無き水中の妖怪が居たとして。
 陸の者と如何に意思疎通をしていたのだろうか。
(言の葉の色に染まる魚、ねェ)
 足元で細やかに光る純粋な白は、未だ何の想いにも彩られていない。
(今の俺の言葉が何色なのか……この鏡(め)で視たい)
 でも今はやるべき事がある。物言わぬ宝物であった時では出来ぬ使命が。
 答えを得るには先ず、泡を掬って救ってからだ。

 眼下で平たく削られた石畳が続く。
 水底参道を進行の頼りに、男は泡の灯達に気を配る。
 もうすぐ生まれる個は何処。視線で問うても控えめな光が返るのみ。
 それでも冷静に動く視界にひらり、一片が入り込む。
 春告げる、暖の花。桜と認識した途端数多の花弁が大きな水流と共に彼を撫でた。
 穏やかな花群がひと時4月の華やかさを魅せ、過ぎていく。
 何処か誘うようだった優美の彩りに身は自然と参道より外れ往く。
 橙色の百合が咲き連ねる道を超え、紫苑が根を張る大門に手をかける。
 別嬪達に導かれ、色男は水圧を物ともせず開け放つ。
 視えた社は完全でないにしろ、望郷を呼び起こすには十分だった。
 一瞬の行動停止を復帰させたのは、思い出の光景で記憶に無いアイビーの蔓達。
 社の一角で複雑に絡まっている箇所に近づき、そっと中をかき分ける。
 刹那の眩さを終えた先、珍しいヘデラの花を照らす極上の輝きが其処には在った。
 宝物を扱うように両手で掬い、上着を脱いで包み込む。
 後は陸に出るだけ――が突然風雲児の視線は鋭く天を仰ぐ。
 大事に包を抱え一気に上を目指して泳ぎだした。
 その後を、不自然な水流が追跡していく。

 乾いた土に足を付け、濡れきった前髪を軽く流す。
 これから始まるのが戦なら、尚更身嗜みを整えなくては。
「古来より太陽神に司りし者よ」
 次に指先は、使い魔を喚ぶ術を描く。
「禍鬼から依り代を護られたしその力を我に貸せ──来たれ!」
 夜から剥がれ落ちそうな彩りを持つ大きな羽根が降り注ぐ。
 召喚されし眼光鋭き大烏が、形を成した水月を睨みつけた。
「閃墨、頼む! 卵を護るのを手伝ってくれ」
 付けられた名へ濡羽色を広げた式神が鳴いて応える。
 ヤドリガミを乗せ、月夜へ高く舞い上がった。
「お前が惹き付けろ」
 自分の最優先は抱く卵の保護、及び敵が抱く妖怪の救助となれば。
 オーダーを理解した八咫烏の力強い羽撃きが大気を揺さぶり強風を起こす。
 荒れ始めた揺水の羽衣に体勢を崩しながらも、浮き笹舟が鋭利な手を鳥へ向ける。
 空中で水流の斬撃と嵐の応酬が続く、しかし此れこそ猟兵達の狙いだった。
 気付く間等与えない、真下で練り上げた竜巻が水妖を飲み込み渦の柱と化していく。
 男はじっと、暴れ狂う現象の中心を睨んでいた。
「――其処だ!」
 命を受け閃墨が一直線に颶風へ突っ込んでいく。
 交差は一瞬。鳥が突き抜けた跡は、意思を失い地へと降る小雨があるのみだった。

 徐々に勢いを落とし陸地へ降り立つ。
 礼を告げたクロウの腕は、卵と小さな妖怪を確り抱き抱えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

蘭・七結
【彩夜】

ラン。久方ぶりの故郷は如何かしら
ふふ、喜んでいるのね
常よりもあかい耀きがまばゆいわ

水の中を往くなんて不思議ね
耳を澄まさずとも水の音色が触れてゆく
なんて心地が良い
彩魚が生まれ出でると云う卵は何処でしょう
見ぃ附けた、をしなくては

共に游いだランが双翅をはためかせる
わたしたちを誘っているのかしら
周囲には薄紅の彩がみえる
水底にサクラだなんて、

真白の往く先を手繰ったなら
いっとうのひかりを放つ卵と出逢うでしょう

嗚呼、盗人ならぬ妖が現れたよう
陸上へと戻り、この子を護りましょう
ラン、あなたの力を貸してちょうだいな
真白のひかりを、この子へと

喚び起こすのは黒鍵の刃
悪しき縁はちょきんと絶ち切るわ
さあ、ご一緒に


歌獣・苺
【彩夜】
ぷくぷくぷく…
水の音は好きだけど…
潜るのは怖い。
つい目を閉じちゃう。
けど…きっと大丈夫。
生意気でオネエ様だけど
頼もしい相棒のロイねぇも、
ゆぇも、なゆちゃんもいる。
きっと、大丈夫!

パッと目を開けると
万華鏡のような輝く世界に2人と2匹の姿。そして、ロイねぇも。

『やっと目ぇ開けたわね。…行くわよ。怖いなら…そばに居てあげるから。』

ロイねぇ…ありがとうっ!
さ、卵見つけよ♪

『えぇ。…苺!
あれにしましょう!』

えっ。
なんか無駄に大きくない…?
ま、いっか!
…わぁ、優しくて
希望に満ちた温もりだ

『!どうやらアタシの爪の餌食になる敵のお出ましね。ダメよ!孵化させて食べるのはアタシなんだから!』

…だめだよ?


朧・ユェー
【彩夜】

コポコポと音がする。
二人の姿が瞳に移る
七結ちゃんは蝶と戯れて楽しそうに
苺は水の中大丈夫でしょうか?
どちらも相棒と一緒のようですねぇ。

輝きが美しい卵は何処でしょうか?
水の中に向日葵の花が浮かぶ
嗚呼、なんて綺麗なのでしょう
ぴぃぴぃと黒い雛が鳴く
おや、あの卵がそうでしょうか?
ふふっ、みぃつけた。

そっと抱き締めると暖かい。
どうやら二人も見つけた様ですね。
小さな身体の黒い雛が一緒に卵を護ろうとしている
ふふっ、ありがとうねぇ。

二人や卵を護る様に近づくモノ達を漆黒ノ鏈のチェーンの楔で絡めて
卵や彼女達には近づかせませんよ。

屍鬼となった暴食グールが喰べていく



●彩夜の底に星華を観る
 幽世の中心で幻水滴らせる本堂の前は、不自然な程澄んだ水面に満ちていた。
 揺らいだ月星描くキャンバスの奥、重力無き秘密の其処で。
 ひらひら、ぱたり。舞い踊る。
 いっとうあかく鮮やかな、一頭の蝶が水流の風と遊んでいた。
 ――ラン。
 かけた声は沫と成り、こひつがいの輪郭に優しく触れて想いを伝える。
 久方ぶりの故郷は如何かしら。蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の問に、耀く鱗粉が意思を彩り嬉と答えた。
(ふふ、喜んでいるのね)
 眩さを収めた眸におなじを混ぜたなら、視界はすこうし移ろいで。
 零れる泡がひとつ、ふたつ。みっつめの先に、金の瞳とかち合った。
 こぽこぽ、こぷん。音がする。
 キラキラ煌めく白銀の髪を、戯れの沫が揺らして月へと逃げていく。
 周囲の泡が照らす、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)の仄白い優顔。
 ひとりと一人の戯れを映す眼差しは、音せずとも微笑ましそうだと伝えていた。
 応える柔らかな眼、ダンピール同士の声無き談笑は簡単に。さて、お次は。
(苺は水の中大丈夫でしょうか?)
 二人分の沫が昇る先へ、一緒に顔を上げていく。
(どちらも相棒と一緒のようですが)
 共に、目を閉じ身を任せた儘沈んでくる姿を見守った。

 ぷくぷくぷく。落ちていく。
 水の音は好きだけど、潜り往くのは怖さがあって。
 歌獣・苺(苺一会・f16654)は戸惑い迷いついつい闇を見続ける、けど。
 こぽん、沫が一つ。柔く長い兎の耳へほわんと触れた。
 ――毎。
 想いがすぅっと、伝わって。ぷくぷくもひとつ、髪を撫でる。
 ――マイさん。
 聴こえる、聞こえた。ゆぇも、なゆちゃんの声も。
 最後は直接、頬に触れた。自分のではない、柔らかな掌。
 それは生意気でオネエ様だけど、頼もしい相棒の感触に違わなくて。
 独りじゃない。私には、心を結ぶ好意達が傍に居る。
(きっと……大丈夫!)
 不安を払い、幕開けた世界は優しい輝きで黒兎を歓迎した。
 ゆっくり底へ降り立つと、尾を揺らす黒が近い色の毛並みへ頬寄せる。
『やっと目ぇ開けたわね』
 美貌の猫から、安心の色と心が届いた。
 ありがとうと元気な想いを込めて、今度は自分の肉球を呂色にぺたりとくっつける。
『行くわよ。怖いなら……そばに居てあげるから』
 頼もしい言葉に怖さを喰われ、前向く瞳は真っ赤に熟れて鮮やかだった。
(うんっ! さ、卵見つけよ♪)
 それは彼等の庭で良く見かける、誰かを笑顔にしたいと願う仕草と笑い顔。
 もう大丈夫だと目を細め、何処かを零白の手が指差した。
 征きましょうと告げる沫を置いて三人と二匹は歩き出す。

(水の中を往くなんて不思議ね)
 夜の奥底は本来ならば常闇で、散策には大変不向きなのだろう。
 だが彼等が捜索する場所は数多の瞬きが散らばっていた。
 まるで気分は大気圏の外、満天の光を連想させる景色が続いていく。
 一方鮮明に響くのは心地の良い水の音。触れる度、七結の足取りが軽くなる。
 ――彩魚が生まれ出でると云う卵は何処でしょう?
 一等星を探して水中銀河をふわふわり游ぎ征く。
 少し後ろの苺をちらり。空と勝手が違う移動に苦戦しながらもマイペースに付いて来て。
 踏み込む足場が少々悪かったのか、バランス崩す様子にとっさの手を伸ばしかけ。
 傍らの美猫と最後尾を優雅に務めるユェーがさり気なくフォローする一幕を見届けて、常夜の少女は微笑んだ。
 先へと戻る春染めの紫へ、花一華が爛々と欠片を零して映り込む。
 双翅はためかせる供がこころの糸を引くように、くれなゐこちらと飛んでいく。
(わたしたちを誘っているのかしら)
 ならば往こう、あのこの方へ。見返り美人が行き先託した視線と沫を後続に残す。
 意図を結んで皆一緒。幽世の蝶々が導くは、泡灯りに照らされ見事な竹林の路だった。
 水流に撓る群生、葉擦れの音は視覚から聴こえて来そうな程。
 不思議の世界へ迷い込む感覚に好奇心を刺激され、今はキマイラのウサギが先程より活発に動き出す。
 跳ねる沫は沢山皆の名を呼んでいるのだろう。深まる笑みを隠さずに、二人も後を追って。でも。
 ――ぴぃ。
 小さな小さな沫が、零月ノ鬼から浮かんでいく。

(……おや)
 イチイに蝶、イチゴに猫。彼の傍にも、相棒が居た。
 もふもふまあるい雛鳥は白い男に映える黒。嘴が甘くつんつん肩を刺激して。
 伝える仕草は、竹林の向こうを指していた。
 鮮やかな金色が其処を見てから前方に向き直る。顎に手を当て少々思案。
 ふと、顔を上げた。今度はレンズ越しの『瞳』が真直先を見据えている。
 それから笑って、一番近くの二叉尻尾な呂色猫へ言葉を送った。
 到達点へそうかからず合流しますね、と。
 そうして向き変え竹の壁を超えた先は、一面の黄色い太陽が埋め尽くしていた。
(嗚呼、なんて綺麗なのでしょう)
 水の中で、向日葵達が咲いている。月を見上げ、泡の光に包まれて。
 ――輝きが美しい卵は何処でしょうか?
 白が一人黒が一匹混じった所でこの絶佳が変わる事は無い。
 夏の水底を、するする歩む。雛の唄が、一番の輝きへと導いていく。
(おや、あの卵がそうでしょうか?)
 手を伸ばして、そっと。掬い上げる。
 暖かい卵へ、黒い雛もそうっと乗っかりもふんと身をくっつけた。
 微笑み一つ、子等をゆっくり抱き締めて。白い半魔は地を蹴り向日葵の花畑を後にする。
 目指すは先で見た、美しき光景へ。

 周囲を鮮やかに変えたのは、薄紅の彩り。
 真白の往く先堂々立つのは、注連縄結ぶ巨木の華。
(水底にサクラだなんて、)
 くれなゐこちら、おにさん、こちら。
 かみさまの樹に満開の優しいあか。枝に付くいのちは、どれも強い輝きに見えた。
(わぁ……すごい! とっても綺麗だよ、なゆちゃん!)
 燥ぐ泡色が、紅い半魔の意識を連れ戻す。
 心通わす、明るい呼び声。嗚呼、あなたは本当に。
 笑顔が二つ花咲いて、一緒に御神木の花園へと飛び込んだ。
 どれもこれも煌いてるけれども。どの子が一番? 悩んだら。
『苺! あれにしましょう!』
 ロイねぇの肉球指す泡に、二つの苺がまんまるく育つ。
(えっ。なんか無駄に大きくない……?)
 両手で挟む大きさは、多分此の樹一番の出来ではなかろうか。
 ま、いっか! なんて顔を見て、七結は増す笑みそのままに。
(見ぃ附け、た)
 ランが止まるいっとうのひかりをそうと、手に採った。
 ――わぁ、優しくて。希望に満ちた温もりだ。
 抱き締めるは、沫触れずとも同じ想い。
(ふふっ、みぃつけた)
 同じ輝き抱くユェーも無事合流して、ひとまず最初の任務は達成。
(どうやら二人も見つけた様ですね)
 三者三様、大きさ違うけれども卵の鮮やかな光りはお揃いで。
 良かったと、同じ笑顔を見せあった。

 嗚呼、と。ひとりが零す。
 盗人ならぬ妖が現れたよう。報せて意識を切り替える。
 保護の卵はみっつで今は十分そう。ならばと、猟兵達は空を目指す。
 大きな樹に寄り添い泳いだ先は、水面よりも上に在った。
 陸は月夜の本堂近く、依代の樹は殆ど沈んでしまっても尚綺麗で。
 胸いっぱい桜の香りを吸い込み呼吸を整えた頃、敵意は形を成していく。
『! どうやらアタシの爪の餌食になる敵のお出ましね』
 既に臨戦態勢済みの相棒に、慌てて苺は卵を仲間に預けその背へ飛び乗った。
 美しき毛並みに戦意を宿して揺水の羽衣覆う妖へ飛びかかる。
 水飛沫を散らし始まる戦いを横目に、半魔達は卵を桜の枝へ一度集めた。
「この子達を護りましょう……ラン、あなたの力を貸してちょうだいな」
 任されたとひらひらり。奇跡の鱗粉は真白に輝いて卵の子達へ降りかかる。
 護りを授けた泡上に、もふんと小さな身体の黒い雛が乗っかった。
「一緒に卵を護ろうとしているのかい? ふふっ、ありがとうねぇ」
 何処と無く任せろと言わんばかりの雰囲気に、いっとき笑みで顔が和らぐ。
 ふたりに守護を任せたら、二人は戦場へと向き直る。
 走り出す紅に白はゆっくり後を追う。その手に、漆黒の鋼を掴みながら。

『ダメよ、行かせないわ! 孵化させて食べるのはアタシなんだから!』
 口調は乙女でも、気迫は戦士の頼もしさ。
 が、若干どころかかなり聞き捨てならない台詞が聞こえた。
「……だめだよ?」
 一応釘差すものの、今は激戦中。1体と交戦しながら残り2体が生み出す水流を避けるギリギリの攻防を続けていた。
 一対1ならまだしも現状にやや押され始め、新たな月光を纏う流れが一人と一匹に襲いかかる。
「きざんで、納めて」
 魔の手は、殺人鬼が喚んだ黒鍵の刃に断ち切られた。
 悪しき縁を断絶された水流は無機物に戻り、水柱を立て底へと落ちていく。
 仕事を終えたまなくれなゐが苺一会へ逢いに来る。
「さあ、ご一緒に」
 言葉は手短に。真意は、アイコンタクトで交わされた。
 再開された月下の舞曲。だがそれは、3体から一人の存在を消す為のまやかし。
 紅苺の舞を堪能した者の鋭い手が、彼女達に届く事は無い。
「卵や彼女達には近づかせませんよ」
 いつの間にか。既に時は遅く。二人を狙っていた浮き笹舟達に想いのチェーンが絡みつく。
 絡まる楔にもがくも敵わず、手繰る男へ引き寄せられる。
 深い宵に、白はあまりに鮮やかで。
 獲物を掴んだ黄金の双眼は、惹き付けられる輝きを放っていた。
「……おや、お腹が空いたのかい?」
 終焉はお誂え向きな台詞で始まり、零白のグールドライバーが内に飼う禍々しき刻印は暴れだす。
 紅血の雫を喰らっても、足りないタリナイ暴食グールが封印を狂おしく食い破る。
「良い子だね、ディナーの時間だよ」
 悪夢だ。悪夢が生まれてしまった。
 巨大な黒が屍鬼と化す。腹が減ったと、口開く。
 丁度良い時間帯だ。良い月夜だ。いただきます。
 むしゃ、むしゃ、むしゃ、ごくん。

 満たされた鬼が、ユェーへ還る前にぺぺぺっとみっつを吐き出した。
 目を回す妖怪達の無事を確認して彼は七結と苺の姿を探す。
 名を呼ぶ声。見上げると、輝く卵の元で手を振る一人と見守る一人と三匹が笑っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『紺夜の蛟』

POW   :    蛟牙の鋭槍
【蛟の牙と鱗で鍛造された槍】で攻撃する。[蛟の牙と鱗で鍛造された槍]に施された【水の権能】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
SPD   :    血潮の如き水底へ
【黒い血の如き雨】を降らせる事で、戦場全体が【濁流と化した川】と同じ環境に変化する。[濁流と化した川]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    紺夜に舞い踊る翼
肉体の一部もしくは全部を【牙と鱗を持った無数の蝙蝠】に変異させ、牙と鱗を持った無数の蝙蝠の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ルゥナ・ユシュトリーチナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 骸魂から開放された妖怪達が、猟兵へ何かを訴えている。
「―――――! ……――、―――!」
『声』の代わりに、ごぽごぽ水中で沫を吐き出す音が零れた。
 あわあわ慌てても、やっぱり沫音しか出てこない。
 すぐにどう足掻いてもどうにもならない状態は理解したようだ。
 妖怪、若しくは妖怪達は次に身振り手振りで何かを始めた。
 彼等独特な動き過ぎて、よくわからない。踊ってるのだろうか。
 そのうち一度、ぺこりと頭を下げた。
 一回首を傾げてから、何度も頭を下げた。
 ぺこぺこ、ぺこり。ころん。
 頭を下げすぎて転がった。

 気が済んだらしい妖怪は、じっと自分を見つめている。
 彼等は猟兵達の『声』を待っているのだろう。
 ついて来い、と言えば邪魔にならないように追いかけて。
 隠れていろ、と言えば事が済むまで適当な所に身を隠す。
 何も云わなければ彼等は自分の判断で行動する。
 どの選択肢もこれから猟兵がする最後の仕事に、影響はしないだろう。

 最後の仕事。それは相手の方からやってきた。
 今までのものとは量が違う、意思を持つ水流が隆起し形を成していく。
 宙を流れ、姿を示す水の妖。それは、竜の姿をしているようだった。
 次の異変はその周囲に現れた。
 過去から這い出た異物の魂が、蝙蝠の形と化して水竜に襲いかかる。
 噛み付かれ、取り憑かれ、抵抗虚しく喰われていく。
 骸魂に血(身)を吸われた『蛟』は囚われ、ヒトの形をとり出した。
 清浄な水が流れ落ち、堕ちた者が眼を開け翼を夜空に広げる。
 笑みを浮かべた。やっと、やっと見つけたのだ。

 雑味は要らない、素材の儘がきっと美味しい。
 光る泡は『彼女』にとって、熟れた果実だ。
スピーリ・ウルプタス
妖怪さんたちにぺこぺこ返しながら
「隠れられそうな場所で、どうかその御身を守っていて下さい」

蛟の美しさに目を奪われていれば、あっという間にそれは呑まれ
別の意味で目を細め、見える範囲の光る卵の位置確認

「おや…互いにその身を削る戦法のようですね。
 ふふ、これは張り切ります」
無数の蝙蝠に変わる様に、嬉しそうにUC発動
本の3分の1程は光る卵たちの盾へ回せば、手数は少々不利か
ダメージ時「ッ…命の痛み、なんと扇情的で尊いのでしょう…」(悦)

「しかし…“それ”は貴方の命ではありませんね」
肉体と幾冊かを囮に
残る本を建物や茂みに紛れさせ、隙をついて的確に撃退
ご本人様の命と肉体であれば、もっと重く美しいでしょうねぇ



●蛇の道は
 ぺこる妖怪に、助けた側もぺこった。
 助けられた側が驚いて更にぺこり、ぺこり合戦は妖怪が転がる迄続き。
 見かねた黒蛇がもう一度仔を咥え立たせてから還っていった。
「隠れられそうな場所で、どうかその御身を守っていて下さい」
 スピーリは優しく微笑む。傍で護っても、きっと禁書のカミ的にはおいしいのだろう。
 ただ柔和な外見のヤドリ変態ガミな中身を見せて怖がらせたら申し訳ない。
 葛藤が末の言葉を、受け取った方はじっと見つめて。やがて。
 にこ、と笑った。
(だいじょうぶだよ、またあおうね)
 お礼の言葉は『声』が返ったら。
 信頼を置いて妖怪は回廊の向こうへ去っていった。

 静かに見送る紳士の近くで水面が不自然に揺れ動く。
「おや……」
 激しさを増す水流音と生じた風に白む焦げ茶の髪が流される。
 合間に覗く黒が振り返った。美しい、と呟く言葉は届いただろうか。
 彼の目を奪った蛟は異なる美貌へ変貌し、映す瞳は別の意味で細くなる。
 次に男は視線を周囲へ。状況を確認し『彼女』へ戻ると既に相手は行動を開始していた。
 挨拶も無く掲げた鋭い槍先が天を衝き、淀んだ空が黒い血の如き雨を降らせていく。
 澄んだ水を敵意で塗り替え、濁流が猟兵ごと回廊を押し流そうと勢い迫る。
 狂った川は木製の道を食い尽くすも、既にヤドリガミは跳躍した後だった。
 柔らかな笑みを崩さずヒトの足を駆使して流される残骸の上を渡り、黒い嵐から逃げおおせる。
 到達した先は、思い出散らばる枯山水の水場だった。
 追撃は紺夜の蛟から剥がれ落ちる。翼を広げ、鋭い牙を光らせて。
「互いにその身を削る戦法のようですね」
 無数の追跡者が辺りを囲む。嗚呼、それだと周りの淡い泡達も怯えてしまう。
 ならば護るのみ、幸い庇う事は得意だ。尚幸いの度合いは個人の感想によります。
「ふふ、これは張り切ります」
 意味深な笑みの理由が既に見えた気がするが、お付き合い頂こう。
 鱗を持つ蝙蝠達の攻撃と、鎖で縛られた本が大量に飛び出すのはほぼ同時だった。
 厳重で重厚なある意味凶器は突然の出現に驚く者共へ激突していく。
 運悪く吹っ飛んだ一匹の先に泡が在ろうと、壁と化した一冊に激突させる二重攻撃に昇華させた。
 奴等の狙いは彼が抱く光の卵唯一つだが、多勢なる大乱闘で周囲に影響が出ない筈がない。
 水張りの砂地を駆け回って泡を護り応戦する。だが如何せん数が多すぎた。
 一斉攻撃に自身の防御が間に合わず上質な装いが肉体ごと損傷する。
 それでも、スピーリは笑っていた。
「ッ……命の痛み、なんと扇情的で尊いのでしょう……!」
 傷が出来る、刺激が神経を通り脳へ至る。痛い。生きているから、痛む。
 苦痛が生を証明し命の喜びを身に記す。手段はアレだが、彼は今矛盾の愉悦を実感していた。
 恍惚、此処に極まれり。

「しかし……」
 かと思えば、今度は溜息ひとつ。視線は分身を操り高みの見物を決め込む者へ。
「“それ”は貴方の命ではありませんね」
 いつからだろう。いつの間にか。紳士は、スマートに事を運んでいた。
 水底に沈む赤黒い思い出達に紛れていたのは、自分自身。
「ご本人様の命と肉体であれば、もっと重く美しいでしょうねぇ」
 残念そうに告げた言葉が合図と成った。
 死角から集中砲火された『彼女』は禁書の群れに流され水柱を伴い地へと叩きつけられる。
 撃退された姿は消え、二種類の本が散乱する水場は波紋が静かに広がっていく。
 一つ息を吐き、視線を落とす。
 彼の掌で命が白く輝いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と


え、もう一回言って
……
う、うん。頼りにしてるよ
(俺が、しっかりしなきゃ

!?
(なぜ、武器を、手放す!

というわけで、転がりにくい建物の影に卵を隠す
「俺たちがいいっていうまで、ここでじっとしていて
と卵には声をかけて灯り木で迎え撃つつもり
お兄さんの背中越しに敵へ銃弾を撃ち込んでく
卵を守るの優先にするけれども、お兄さんの戦いもひやひやするので見ていられない
敵の攻撃を読んで、それを防ぐように銃弾を撃ち込んでいくよ
俺の寿命が縮むので、早めにご退場いただけたらと

戦闘が終わったら、無言で両手でお兄さんの頬っぺたを掴んで伸ばせるところまで伸ばす
(何か言っても無駄なのは経験上知ってるので


夏目・晴夜
リュカさんf02586と

リュカさんが卵を守り、ハレルヤがリュカさんを守れば万事よしですね
リュカさんが卵を守り、ハレルヤがリュカさんを守れば万事よしですね!
ええ、大船に乗った気持ちでどうぞ

敵の攻撃を塞ぐように正面へ回り込み攻撃
リュカさんや卵へ接近しようものなら妖刀を【投擲】し【串刺し】
妖刀を手放し丸腰になってまでリュカさんを助けようとしたハレルヤの心意気を褒めて下さってもいいですよ

投擲した妖刀をすぐに回収できなくても大丈夫です
蚊は潰すものなので、蹴り付け【踏みつけ】応戦します
最後はリュカさんが圧倒的な力で制圧して下さるので何も不安はないですが、
頬を伸ばされる理由はちょっとよくわからないんですけど



●■■が×た□□
 溶けたのは、果たして雪だけなのだろうか。
 黒髪が視た白髪の顔は、いつも通りだった。
 だったんだ。

 ぽた。と音がした。あぁまた雨か。
 一行は足を止めない。雨粒が、道にひとつの跡を残した。
 リュカの頬にも一滴落ちる。ぬちゃ。
 即座に少年は猟兵の視線を空に向けた。肌に触れた液体は、水ではない。
 先程迄広がっていた雪雲は消え、本来在る筈の星空を似て非なる色が埋め尽くす。
 不気味に増えていく雨量。戦いは既に、始まっている。
 敵はもう我々を狙っているのだろう、急ぎ迎え撃たなくてはならない。
 ならないんだ。視線を、平行に戻す……先に。
 何か違和感を、言い様の無い違和感を感じた。
 彼は傭兵だ。数多の戦場を見てきた、あらゆる意味でも。
 其処で沢山の表情を見てきた。どんな想いで戦っているかの貌を。
 その時の感覚が、何かを訴えてる。
「……」
 目が合った。向こうも、敵が来ている事を解ってる。
 雨量が増えた。黒い血のような、雨が降る。
「リュカさん」
 晴夜が口を開く。
「うん」
 やや強い雨が、土砂降りに変わる。
「リュカさんが卵を守り、ハレルヤがリュカさんを守れば万事よしですね」
 激しさを増す降水の音に言葉が重なる。ただ、聞き逃す事は無かった。
「え、もう一回言って」
 それでも聞き返す。足元に薄く、濁った膜が貼り始める。
「リュカさんが卵を守り、ハレルヤがリュカさんを守れば万事よしですね!」
 豪雨に晒された面は、いつも通り威勢の良い無表情だった。
 否。ほんの僅か、口角だけが片方。上がっている気がする。
「……う、うん。頼りにしてるよ」
 返事はしたが、内心は少しずつ水位を上げる濁った流れと似た心地で。
 蒼い眼差しが僅かに固くなる。其処に、星空は視えない。
「ええ、大船に乗った気持ちでどうぞ」
(俺が、しっかりしなきゃ)
 同じ色の想いが、一方通行に通り過ぎる。

 足首が血潮の如き水底に消えていく。
 時間がない、蒼炎は意識を一旦胸に抱く光に切り替えて走り出す。
「ついてきて」
 投げかけた声は届けばいい。すぐに水を弾く音が幾つか聞こえた、よし問題無い。
 目指すは行こうとしてた山門の先、一度境界を超える。
 懐かしいような気がする光景が在っても周りを見渡す余裕はない。
 急いで門の裏に卵を隠すと同時に、二匹の妖怪がひょいっと其処へ。
「俺たちがいいっていうまで、ここでじっとしていて」
 卵が転がらないよう寄り添う仔等を見届けてから、リュカは扉に手をかける。
 黒手袋で強く握り込み大門を閉めていく。ジニアの花を散らして流れ込む濁りを堰き止めた。
 これで戦える。指先だけで灯り木の弾数を確認しがてら視線を後ろへ。
 広がる視界、戦場が一面黒血の濁流と化した中を白い狼が駆け抜けていた。
 ヒトの形を成した『彼女』が門へ向かわぬよう正面に晴夜が回り込む。
 邪魔だと振り下ろされた槍に妖刀が喰らい憑き火花を吐き出す。
 弾かれ濁流に落とされようとも即座に這い出て跳躍した。
 白い毛並みに濁る黒が付こうが、皺の無い手袋が汚れようが。
 立ち上がり、立ち向かい、斬り付け、切り続け、攻撃する。
 止まない雨にいよいよ濁流が荒れ狂い足場を飲み込もうが構うものか。
 地が沈むなら他で補えば良い。崩れ行く建物の壁を蹴り跳ぶ姿は最早獣の本能とさえ思えた。

 彼は今、どんな顔をしているのだろう。
 スコープの中で躍る不夜狼は背を向けているから解らない。わからない、けれど。
 今すべき事は変わらない、雨の中など何度も戦った場だ。
 瞬き一つしない眼に星が瞬いた瞬間、銃声が精密な軌道を導き人狼の真横を通り抜ける。
 想定外の角度から来た流星が鱗で覆われた手を弾き敵の攻撃を中断させた。
 痛がる素振りを見せるが声は出ず、代わりに睨む瞳が傭兵を捉える。
 急旋回しターゲットを変更、水竜を操る者は一直線へ山門を護る少年へと向かっていった。
 リロードするには距離が短い。ならばとリュカが短剣に手を添える。
 散梅を抜き放つのと、紺夜の蛟から悪食の刃先が突き出たのは同時だった。
「!?」
 驚いたのは痛みに『声』無き悲鳴を上げる敵にではない。
 怒り狂う骸魂が再び向き合う先の猟兵が、己の得物を投げたことだ。
(なぜ、武器を、手放す!)
 更に驚愕すべきは丸腰が応戦する気満々ということ。
 強欲に傷口を狙った一投は確かに深いダメージを与えている。でも。
 弾を装填しすぐに構える。心から、ひやひやする感覚が身へ伝わった。
 確かに自分は後ろの門を、卵を守らなくてはならない。優先はこっちだ。
 だからと言って目の前で槍相手に肉弾戦を挑むお兄さんの戦いは見ていられない。
 大船は刺さったままの妖刀を回収する動きも見せず追撃に徹している。
 援護射撃にバランスを崩す標的へ、すかさず脚と尻尾で見事な弧を描く回し蹴りを叩き込む。
 ふらついた隙に一回転した晴夜がそのまま脳天を容赦無く踏みつけた。
「蚊は潰すものなので」
 喋ったと思ったら、足で獲物を濁流の底へ押し込んでいる。無表情で、何度も。
 踏み荒らすのは楽しいですね、等々。おや動かなくなりましたね、云々。
 静かになった水底へ、終わりですかねと抑揚無い調子で黒に塗れた手を伸ばす。
 馴染みの一振りを探す様子を眺め、肩の力と一緒に吐こうとした息は喉元で急停止する。
 探索者は不自然に広がる波紋を発見していた。福音が、絶望の未来を報せている。
 指はとっくに、トリガーを引っ掛けていた。
 銃口向ける先で昏い海から鱗の手が伸び、金で彩る首元を捕らえる。
 浮上した女の笑みを、夜明けの星が撃ち抜き――最悪は回避された。

 どろり、血のような黒の総てが『彼女』と共に融けていく。
 アサルトライフルを肩に掛け、俯き突っ立つ人狼の元へ往く頃には膝下程の水面に透明度が戻っていた。
 徐に手を下に、黒い掌には馴染まない刃を拾い上げ柄巻きを差し出す。
「……俺の寿命が縮む」
 真っ白い手が短い抗議ごと受け取り、ふわふわの耳を揺らして顔を上げる。
 星と灯を映す瞳が、漸く交差した。
「妖刀を手放し丸腰になってまでリュカさんを助けようとしたハレルヤの心意気を褒めて下さってもいいですよ」
 一息の返答に今度こそ、一息ついた。返事はしない。無言で距離を詰める。
 両手をあげて、掴んだ。むに。割と柔らかい。
 そのまま淡々と年上のほっぺたを思う存分横に引っ張る。
「ちょっとよくわからないんですけど」
 中々の伸び具合だ。これは新記録か、今まで録った事はないけれど。
 勿論疑問に返答はない。みょーんと無表情で伸ばしまくる。
「最後はリュカさんが圧倒的な力で制圧して下さるので何も不安はなかったのですが」
 そこじゃない。が何か言っても無駄なのは経験上知ってるので只管伸ばし続ける。
 山門の屋根から卵を背負った妖怪が様子を見に来るまで、記録は更新されていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

蘭・七結
【彩夜】

こぽ、こぽと
声なき声はあぶくと成りて
昇りゆく泡沫のうつくしいこと
嗚呼、転がった子はだいじょうぶかしら

声がなくとも構わない
此方を見据える眸に視線をかさね
共に往きましょう
言葉と共に想いを紡いで

輝きを宿す泡の卵
彩魚たるいのちを生み出すもの
あなたの糧には、させないわ

地上ならばあかい花が舞う
来たるめざめを祝福して
春の花嵐をご覧にいれましょう
あなたへと贈るのは鮮烈なあかのいろ
どうぞ、その眸で見うつして

麗しの闘魚さん
その夜色の尾鰭をひらめかせて
共に薙ぎ払ってくださるかしら
然と受け止めてちょうだいね

どうやらお終いの時がやってきたよう
終わりへと誘う黒きひとが往くわ
お気をつけあそばせ
嗚呼、遅かったかしら


歌獣・苺
【彩夜】

こぽ、こぽぽ♪
ふふ、いい音。
それがあなたの歌声なんだね!

ぽここここ♪
私の歌声はどう?
わ、転んじゃった…大丈夫?

混じり、合わさる眸に
うんっ!
とひと返事。
声は想いを伝えるのに
大切なもののひとつ
必ず取り返してみせる
もちろんこの卵も、守る

綺麗な花嵐に彼も
混ぜてあげてくれないかな!
『これは、
皆が麗しに魅了する咏』!

現れるのは美しい夜色の巨大ベタ。
「…やぁ!僕の愛しいマイ。今日も可愛いね…っと。おや、ロイじゃないか。ちょっと太ったかい?」

「なんですってェ!?」

ちょちょ、喧嘩してる場合じゃないってば!
今は小さな姿で
休憩しててねロイねぇ

さぁドル兄!
花嵐と共にその耽美な尾で
バシッと1発決めちゃって!!


朧・ユェー
【彩夜】

声なき声が何にを告げる
おやおや、転がった子は可哀想にねぇ
君たちは何処かへ隠れておいでと妖怪達へと伝えて

二人の眸の視線が合う
えぇ、そうだね。
この美しく輝く命の卵を奪われない
そして声を奪い返そうね

美しい彩紅の花が舞う
嗚呼、本当に君は美しいねぇ

おやおや、苺は大丈夫かな?
とても楽しそうだけど無茶しないようにねぇ。

二人の攻撃してる間の敵の隙をつき
道化
死を君に、死神が迎えに行くよ



●彩光の祉を
 金紫赤が大樹桜の枝上で、溺れそうな音を出す仔等を見守っている。
 こぽこぽ、ぽぽ。かぽ。
「こぽ、こぽぽ♪」
 楽しそうな返事は、猟兵の方から零れてきた。
「ふふ、いい音。それがあなたの歌声なんだね」
 丸くした妖怪の瞳に苺の笑顔が映ったら、何だか気持ちも移るようで。
 成程これも悪くない。そんな結論に至ったかは定かではないが、仔は一つ頷いた。
 ぽここぽ、こぽん、こぽ、こぽぽ~。
「ぽここここ♪ ふふ、私の歌声はどう?」
 好いと言わんばかりに身体動かす仕草を見たらもっと歌いたくなった。とくれば。
 たちまち始まる沫音の合唱、可愛らしい音の戯れに七結のかんばせが綻ぶ。
 隣でユェーも静かに微笑む。声なき声が告げるのは、きっと同じ想いなのだろう。
 こぽ、こぽと音のあぶくが桜を撫で空へと還る。
 花散らし、昇りゆくうつくしさを見送った。果ては春に隠れた星空へ。
「わ、転んじゃった……大丈夫?」
 慌て声に視線を戻す。先では仲良く歌い終え、お礼なのかぺこる妖怪数匹。
 からのひとり、転がっていた。
「嗚呼、だいじょうぶかしら」
「おやおや、転がった子は可哀想にねぇ」
 気遣うシンフォニアと器用に二つ尻尾を駆使して妖怪を起こす呂色猫の光景すら、微笑ましい。

 ふと、宵が深くなる。花曇りには昏すぎる空に零月ノ鬼が目線を流す。
 肩でくろい雛もぴぃと鳴く。指した水面に、不自然が渦巻いて居て。
 瞳で解読する迄もない。敵襲を報せる為の視界移動にこひいろひとつ、通り過ぎた。
 追いつく視界にひとすじの痕を飾ったしろい指先、止まる蝶々。
 半魔達に言葉は必要無かった、其々の寄添いが伝えていたから。
 少女は未だ、柔らかく微笑んでいる。花弁より軽い爪先で妖の元へ。
 牡丹に気付く仔等と重なる祉の眸。小さな沫が問い掛けたくてもどかしそう。
 今は声がなくとも構わない。見据える不安へ、口開く。
「共に往きましょう」
 桜降る夜差し伸べたのは、想いを編み仕上げた言葉の誘い。
 瞬く妖怪達がゆっくり意味を理解して、それでも戸惑い視線を彷徨わせる。
 いいの? いいの? 迷い着いた眼に、鮮やかな果実色が実っていた。
 混じり合う眸は甘く優しく見ていて、それで。
「うんっ!」
 明るく笑うひと返事。短い言葉に、総てを込めて。
 彼等が失った『声』だって想いを伝えるのに大切なもののひとつなのだから。
 必ず取り返してみせると、もちろん卵も守ると。揺らぐ事の無い意思を結ぶ。
 心はちゃんと伝わって、再びぺこぺこ。笑顔がふたつ、信頼を寄せる顔がみっつ。
 蝶と猫も傍に、次に皆はひとりと一羽へ顔を向けた。
 繋がっていく気持ちの糸を受け取ったのは白い月。
「えぇ、そうだね」
 眸の視線紡いで合わせ、最後はまだ眼の開かない眠り子宿す光の泡を見下ろした。
 この美しく輝く命の卵を奪われないように。
「そして声も奪い返そうね」
 あまりに穏やかな決意を告げ終えた時には、ユェーの両腕はいっとう輝く3つを抱いていた。
 二人のレディへ笑みを贈り、軽いステップでほぼ水没桜から降りていく。
 御神木を後にして猟兵達が選んだ地上は、かろうじて無事な本堂の屋根だった。
 鬼飾りの傍に卵を置いて、集まってきた妖怪達へは変わらぬ綺麗な貌のまま。
「君たちは何処かへ隠れておいで」
 今度は迷わず彼等は頷き瓦屋根を降りていく。
 代わりに、美味しくなさそうな雨が一粒二粒と降ってきた。
 徐々に増えていく黒い血の如き水滴、空を覆い尽くす禍々しき彩り。
 眼下の水面が徐々に濁っていく。渦が隆起し彼等の前に骸の塊を象った。

「輝きを宿す泡の卵……彩魚たるいのちを生み出すもの」
 翼を広げる紺夜の蛟に、常夜の少女が対峙する。
 黒に打たれても尚気高き姿、まなくれなゐの華がわらう。
「あなたの糧には、させないわ」
 向けたゆびさき、結わう真白。翔び立つ羽に、花弁がふうわり連れ添った。
 赤々紅舞う華颰、黒を弾いて彩夜を包む。光る泡も、勿論のこと。
 来たるめざめを祝福して、こわい夜を払う為に。
「春の花嵐をご覧にいれましょう」
 広がる、華やぐ、丹精込めて咲かせたこゝろを桜より劇的に鏤めて。
 幽世へ訪れたひとときの季節へ、眺める白い男が戯れに手を伸ばす。
 引き抜く仕草、指先に先ずはあかい牡丹一華を摘んだ。
「嗚呼、本当に君は美しいねぇ」
 呟く声に、きみが振り向く。優雅に交わる視線へ微笑みがふたつ。
 大丈夫、奪わせないよ。足元のみっつに寄り添う男へ頷いて。
 ならば安心と美しい彩紅の花は思う存分、吹荒ぶ。
 攫おう拐おう憂いも嘆きも。どうぞ、その眸で見うつして。
 あなたへと贈る鮮烈なあかのいろがくろい血潮と混じり合う。
 何方のいろが喰らい尽すのか、拮抗するなら『彼女』は次の術を解き放つ。
 命の鍵で開封したのは蛟の槍に施された水の権能。御する濁流が青の穂先に渦を巻く。
『苺!』
 頼もしい相棒の声に、呼ばれた兎が猫の手を差し出せば。
 魅惑の肉球へぽよんと何かが跳ね飛び、それはどんどん大きく成って。
「綺麗な花嵐に彼も、混ぜてあげてくれないかな!」
 黒血と紅華が舞い荒れる宵空の海へ耽美な尾が広く寛く描かれた。
「『これは、皆が麗しに魅了する咏』!」
 苺一会を包み込む、奇麗な綺麗な熱帯魚。甘美な夜は、降り注ぐ黒より麗しい。
『……やぁ! 僕の愛しいマイ。今日も可愛いね……っと』
 更に言葉も甘いなら、寄り添う美猫が辛い視線を投げかける。
 主を挟んだ視線を受けてから、さも今気付いたとばかりにドルチェは動いた。
『おや、ロイじゃないか。ちょっと太ったかい?』
 呼ばれたオネエがくわっと目開く。
『なんですってェ!?』
 新たな争いが発生しそうだが、本来の敵は既に攻撃態勢を整えていた。
 宙で操る濁った流れは禍々しい龍の擬い物。描いた人型も鋭槍を構え、今にも。
「ちょちょ、喧嘩してる場合じゃないってば!」
「おやおや、苺は大丈夫かな?」
 長耳揺らして慌てる姿へ、助け舟は割と近くから出された。
 白の半人が次に引き抜いたのは自称キマイラの淡い焦燥。
 戦う中でも常と変わらぬ穏やかな声色に、心が不思議と和らいで。
「とても楽しそうだけど無茶しないようにねぇ」
 小さく頷き、礼の代わりに気を取り直した顔をしてみせた。
「今は小さな姿で休憩しててねロイねぇ」
 落ち着いた相棒の言う通り。優先すべき先へ、縮んだ猫が移動する。
 泡の隣へ座るロイに守護を託して、ユェーが一歩前に出た。
 見渡す視界で攻の濁龍と迎撃の花嵐が重なり螺旋を描いている。
 絶佳の奔流は戦いの激しさを物語る。其処へ向かう、悠然とした巨大な一尾。
「麗しの闘魚さん」
 視線は真直、いのちのあかに捧げ続ける少女が謳う。
「その夜色の尾鰭をひらめかせて、共に薙ぎ払ってくださるかしら」
 狂おしくもうつくしい舞台に円舞曲が加わるなら心強い、だなんて。
 頼もしい人に想われたら惑う等在りはしない。
「さぁドル兄!」
 激流へ飛び込むドルツェに七結の花弁が付添った。
 狂瀾の流れに逆らい泳ぐ中でも、澄み切った苺の声はちゃんと届く。
「花嵐と共にその耽美な尾で、バシッと1発決めちゃって!!」
「然と受け止めてちょうだいね」
 声援を力に変えて、まな紅に導かれ。
 濁り水に潜んだ紺夜をその蛟牙ごと、華弁連れた彎曲美事な尾鰭で薙ぎ払う。
 見事な衝撃をその身に受け、血潮の如き水龍は飛沫と散っていく。
 後に残されたのはふらつく標的唯1人。
 羽撃く力も無く、堕ちていく。

「どうやらお終いの時がやってきたよう」
 告げる少女の背後で雨中の月が妖艶に微笑んだ。
 きっと牡丹も、おんなじかんばせ。
「終わりへと誘う黒きひとが往くわ、お気をつけあそばせ」
 でも嗚呼、遅かったかしら。忠告を聞く余裕もないみたい。
 なら構わないねと白い鬼が最後のカードを引き当てた。
「道化」
 黒い雨を呑み込んで、零黒の切り札が湧いて出る。
 奈落の使いは不穏な得物を持って、無慈悲な許可を待ち望む。
「さぁ、ショーの始まりですよ。彼の地獄への演武を御覧あれ」
 それは此の場で戦う全てへの宣言だった。
 彼の道化は平等だ。等しく全てへ、振り被った切っ先を向けてしまう。
 だから。
「死を君に、死神が迎えに行くよ」
 開幕と同時に放たれた大鎌の一振りへ。
 ちゃんと言葉を聞き届けたレディ達は、華麗に跳んで回避する。
 お迎えしたのは『彼女』だけ。
 ――君に、最高の死を。

 濁流を作った雲が晴れ、月星の空が返ってくる。
 標的は斬られたのち本堂前の湖へ落ちていった。
 水面は波紋が広がるのみで、もう気配すら感じない。
 するとぴぃぴぃ喜ぶ黒雛を皮切りに、大きなベタが皆を労う。
 ついでに卵を護った呂色猫をからかえば、今度こそ争いが勃発していた。
 止めに入る苺を、やっぱりユェーは微笑ましそうに見守って。
 こっそり戻った妖怪達に気付く七結の肩へ、ランがひいらり舞い降りた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

早乙女・翼
さらさ(f23156)と

妖怪くん達は少しばかり待ってるさよ
この迷える魂救えば声は戻ってくる筈だ

蛟、か
日本の古き伝承に水神として出てくる奴さね
生憎俺は神道じゃないけど…荒ぶる神は鎮めなきゃ、な
手首晒せば炎がそこに絡みつく

槍の攻撃に対し、UCで具現化した鎖を放って迎撃
絡み取る事が出来れば僥倖
当たれば鞭の様に撓らせて打つ

水に対して炎じゃ分が悪いかもだけど
そこの小さな命を護る為だ…割と思いと比例して、俺の炎は熱いさよ?
さらさの放った紙吹雪を巻き込みながら炎鎖放てば、良い感じに炎の嵐にならないかな
水すらも気化させて、悲しみも苦しみも纏めて焼き尽くしてやるさね

迷える骸魂もまた、救いがあること願って


樹・さらさ
翼(f15830)君と。

おやおや、ここの妖怪さんたちは随分と可愛らしいね。
ただ、これから戦いになるだろうから…近くにいたら危ないので隠れていてくれるかな?
我々の本分である仕事をしないとならないからね。

荒れた水がカタチをとれば舞台も大詰め、深き水の女王の御出ましだ。
おいそれと卵達を渡すわけにはいかないからね、気合を入れさせてもらうよ。
折角だから、記憶に残るこの壇上で成長した姿を披露することにしよう。
【Tuono verde alla fine】
一通り紅き花が舞い終わったならこの舞台もそろそろ幕を下ろそうか…勿論、退場するのは君さ。
見送らせて貰うよ、君の為だけに翠のスポットライトもつけて、ね。



●ブラーヴィ、ビス!
 光溢れる水庭で、秋桜が流れの儘に揺れている。
 助けた妖怪達がぺこぺこ身体を動かす度に、揺れている。
「おやおや、ここの妖怪さんたちは随分と可愛らしいね」
 ときめく台詞に片方の妖がぽっと赤くなった。どうやら乙女らしい。
 無理もない。一仕事終えても凛とした佇まいに陰り無いさらさの雰囲気は紛うこと無く王子様だ。
 顔を手で隠しまごまご始めた仔に翡翠の眼が瞬き数回、隣の柘榴色は楽しげに笑う。
 そんな翼の陽気と照れ頭を撫でるもう片方の様子を何度か交互に見て。
 こほんと、ひとつ紳士な咳払い。
「ただ、これから戦いになるだろうから……近くにいたら危ないので隠れていてくれるかな?」
 改めて彼等に避難を申し出る。礼儀正しく胸に手を当てるその仕草も効果は抜群だ。
 心做しか高速化した顔隠しの頷きを気遣うように、緋い天使が笑いかける。
「妖怪くん達は少しばかり待ってるさよ」
 落ち着かせ、言い聞かせ。ダメ押しで微笑んでみせる彼も中々の手練と見受ける。
 結局隣も赤くなり、揃ってまごまごした後漸く最後のぺこりを披露して踵を返す。
 が、一旦止まった。妖怪は猟兵と、近くで存在を示す強い光の卵を順に見ている。
 仕草は自分達だけ避難していいのか聞いてるようで。
 問われた二人は勿論と、頼もしい笑みを見せていた。
「我々の本分である仕事をしないとならないからね」
 卵も大丈夫、ちゃんと守ってみせるから。
 その意味も込めて言葉を返し、頷き離脱する仔等を見送った。

 入れ替わりに、最後の役者が登場する。
 澄んだ水で象る竜へ、骸の魂が取り憑きその身を濁らせて。
「蛟、か」
 変貌していく水妖へ呟きひとつ、それを聞き返す隣人へ一度視線を向けた。
「日本の古き伝承に水神として出てくる奴さね」
 生憎俺は神道じゃないけど……と言葉を濁し、すぐに顔を前に戻す。
「荒ぶる神は鎮めなきゃ、な」
 荒れた水がヒトのカタチを作っていく。どうやら舞台は、今こそ最高潮へと向かうようだ。
 鱗を鎧と着飾って、翼を広げた紺夜が笑う。視線は輝く泡ふたつへ。
「深き水の女王の御出ましだ」
 再び美しき剣を抜き、緑の戦女神が前に出る。
 今宵護るは王ではなく後ろで輝く小さな命。捕食者の視線を遮り、注意を引く。
「おいそれと卵達を渡すわけにはいかないからね」
 同じく騎士も泡を守護する位置に付く。徐に、片手首へもうひとつの指をひっかけた。
 覆い隠した封を解き、晒した切断痕から赤き炎が溢れ出す。
 紅蓮の奇跡は鎖と成って御使いの腕に絡みついた。
 赫赫照らす瞳も同じ彩り鮮やかに、唯真っ直ぐ青を映している。
「この迷える魂救えば声は戻ってくる筈だ」
「ああ、気合を入れさせてもらうよ」
 其々が得物を構えた瞬間、波紋が三つ大きく広がった。

 開幕する最後の水上劇、初手は穢れた蛟が飛沫を散らし猟兵達へ攻撃を仕掛ける。
 鋭い切っ先向けられた翼は緋色纏う腕を差し出し口を開く。
「主よ、罪深き者に裁きと戒めの業火を」
 迎撃の祈りに応え燃え盛る鎖が放たれた。交差の衝撃で飛んだのは火花ではなく水蒸気。
 激しいスチームが舞台演出を担えば一気に場面が加速していく。
 具現化した炎を撓らせ白煙に叩き込む。手応えは有ったが、霧が晴れた先に相手は居ない。
 気付く殺気は頭上から。空中旋回のち女は槍先向けて落ちていく。
 次は正しく、火花が散った。水晶の如く透き通った細剣が蛟牙を受け止める。
 鍔迫り合う姿もハイカラさんは優雅に力強く。双眼は、揺らがず敵を捉え続けた。
 この隙を見逃さず、炎鎖が水神の身より鍛造された鋭槍に絡みつく。
 吹き荒れる蒸気、二人がかりに押された『彼女』は命を捧げ槍の封印を解き放つ。
 権能を機能させステージに広がるあらゆる水分が動き出し敵に加勢を始めた。
 熱を奪う流れが猟兵達を襲い、白が周囲を曇らせる。
 勢いに拮抗が崩れ二人は一度距離を取った。
「水に対して炎じゃ分が悪いかもだけど」
 今度は見失わぬよう、晒す傷痕の手で紅蓮を操り煙を散らす。
 果たしてかの姿は客席が在ったであろう場所の、一番上から見下ろしていた。
 視線はやはり、護る子等へ。諦めて等いない、だがそれは互いに同じ事。
「そこの小さな命を護る為だ……」
 弱音なんて。否、彼岸の柘榴が内に秘めたる赫はこんなモノではない。
「俺の炎は熱いさよ?」
 浄化の力がより強い灼を引き出し今宵最高熱の明かりを灯すオラトリオを、半妖半魔が見届ける。
 不意に、穢れた青の身から一部が剥がれ落ちた。鱗が取れるかのように。
 次々零れる欠片は其々意思を持ち、やがて無数の蝙蝠へと進化した。
 お誂え向きだ、役者が出揃う。無数の敵意が降り注ぐ大舞台へ、さらさは堂々踏み込み顔を上げる。
 喝采の群集居らずとも、此処にスタアが立つなら手を抜く等あり得ない。
「折角だから、記憶に残るこの壇上で成長した姿を披露することにしよう」
 若葉を飾る水晶剣が月下に輝く。反射する眼差しもまた、シーンに映えた。
 向ける切っ先、巻き起こる旋風。上質な衣装が水滴の燦めき含んで舞い靡く。
「Tuono verde alla fine!」
 夜空の果迄通る声が、幽世に鮮やかな翠を招く。
 剣先から輝きが花開き欠片達が宙へ煌きを散らす。それは、紙吹雪と呼ぶには勿体無い程。
 緑雷を伴うスパンコールの輝きと牙を向く蝙蝠共が群れ成しぶつかり合う様は光彩陸離の世界を生み出す。
 エメラルドの稲妻が奔る度に、反射し燦めく紺水の鱗。飛沫散らし共に水へ還る。
 それでも尚、敵の猛攻は続く。『彼女』の全てを変異させ、一部を犠牲にさらさの雷を突破した。
 牙生やす大口開けて――喰らったのは、紅蓮の炎。
「悲しみも苦しみも纏めて焼き尽くしてやるさね」
 戒めの鎖炎がいつのまにか、舞台の至る所に張り巡らされていた。
 触れる鱗を燃やし尽くし、紙吹雪に赤を与えて更に輝かせる。
 彼岸花の天使が手に絡む業火を一気に引き抜けば、全ての鎖が動き出し激しい熱と風の流れを創り出す。
 巻き込む緑光の欠片を燃え上がる紅き花弁と昇華させ、火嵐が敵の全てを呑み込んだ。
「この舞台もそろそろ幕を下ろそうか……勿論、退場するのは君さ」
 炎雷塗れた骸魂が次々蒸気へ浄化されていく。果てが、視えてきた。
 翠玉の刃は天を指し、放たれ続ける紅鎖が紺夜達を一箇所に囚える。
「見送らせて貰うよ、君の為だけに翠のスポットライトもつけて、ね」
「迷える骸魂もまた、救いがあること願って」
 振り下ろし、薙ぎ払う。
 轟雷が異物の意思を貫き、灼熱の波で幕を引く。
 大量の蒸気が夜空へ還っていった。

 総ての奇跡が消え去った後は、透き通った水滴が優しく舞台上に降り注ぐ。
 光溢れる水庭で、秋桜が流れの儘に揺れていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『想いを馳せる地にて』

POW   :    迷い躊躇うことはなく、そのままの想いを馳せる

SPD   :    自らに言い訳や偽りの言葉を聞かせつつ想いを馳せる

WIZ   :    複雑な感情を抑え込もうとしながら想いを馳せる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 骸魂が撒き散らしていた穢れが消えていく。
 濁りが消えた幽世で、一つの水流が天へと昇った。
 隆起は何処までも透き通り、ゆっくり宙へ水龍の姿を描いて。
 其の身から、ぽたぽたと雫が落ちてくる。小雨が優しく、降り注ぐ。
 妖怪がひとり、天を見上げて雨を受けた。
 隠れていた仔も、誰も彼も。妖達は次々姿を見せて雫を浴びる。
 嬉しそうに飛び跳ねて、走り回って。
 そうして誰かが、手に輝く『泡』を取った。
 気付けば他の妖怪達も其々、輝き放つ命を持っている。

「……――ありがとう」

 沫音ではない。彼らの『声』が、そっと卵に伝わった。
 想いを乗せたことのはが、彩魚を包む白をゆっくり染めていく。
 それは暖かくじんわりと卵を包んで、柔らかな色合いに仕上がった。
 満足げな妖怪が卵をそっと、水へ戻す。
 色付いた『泡』が溶け、中から一匹の魚が生まれ出てきた。
 身に喜びと、鰭に感恩を彩って。
 彩魚が優雅に水没幽世を泳いでいく。
 ありがとう、たすけてくれて、こえをかえしてくれて、ありがとう。
 周囲から聞こえてくる言の葉に乗せて。
 感謝の色を乗せた彩魚達が、静寂に沈む地に鮮やかな息吹を与えていく。

 ――猟兵達よ。

 その『声』は、水のようにするりと鼓膜に浸透した。
 見上げた空で月星の輝きを身に鏤めた水龍が、此方を見ている。
 優しく雄大な一本の水流、その先端に優しい瞳が浮き出ていた。

 ――私と、仔等を。この幽世を救って頂き、感謝します。

 心做しか転送されてきた時よりも辺りに活気が出ているような。
 もし濁りが総てに満ちたらこの幽世は朽ち果てていたのかもしれない。
 でもそれは、選ばれなかった噺だ。
 蛟はもう一度、今ある現実と共に猟兵達へ感謝を伝えていた。
 そして是非、彩魚達に色を与えて欲しいと。
 此処に猟兵達が来た証を残して欲しいと、穏やかに告げた。

 誰かさんの思い出達に、清らかな水が満ちる世界で。
 輝き光る『泡』に想いを染めた彩魚を放とう。
 新しい卵を探しがてらのんびり散策して、妖怪達と遊ぶのも楽しそう。
 空を泳ぐ水龍に声をかけてもいいかもしれない。
 彼等は好意と感謝を以て応えてくれるだろう。
 驚異が無くなった、少しだけ賑やかで不思議な世界を。
 時間の許す限りゆっくり過ごすのもいいんじゃないかな。
 飴もあるよ、なんて誰かが言ったら。

 さて、どう過ごそうか。
百鳥・円
【揺籃】

幽世にとうちゃーっく!
んふふ、不思議な場所ですねえ

オシャレな飴細工!
こーんなステキな形にも出来るのですね
わたしも研究してみましょーかね

言葉を贈れば色付くのですね!
わたしの言葉にはどんな色が宿るのでしょ
おじょーさんの色も気になりますん

おやおや、ふふふ!
嬉しい言葉に羽ばたいてしまいそーです

わたしもやってみーましょ
せーの!
おじょーさんがだーいすきですよう!

さてはてどんな色でしょ?
おやや、なーるほど
おじょーさんの色もキレイですねえ

こっちの飴はやさしいお味ですよう
交換っこ!もちろん喜んで

持ち帰ることの出来ない生命
わたしたちの想いを宿した彩魚が二匹
お誕生日に祝福を
末永く元気に過ごしてくださいねっと


ティア・メル
【揺籃】

わーいっ
飴細工だよー
彩魚の形をしててかぁいいね


彩魚を放つ時に声をかけると色がつくんだって
どんな色でも円ちゃんとの思い出を彩ってく
れるから
なんだって素敵なんだよ

どんな言葉をかけようかな
んにー
円ちゃん、だーいすきっ!
大きな声で叫ぶみたいに

綺麗な色っ
えへへへへー円ちゃんへの気持ちってこんな色をしてるんだね
円ちゃんはなんて言葉をかけるのかな
わくわく!

わわっ
円ちゃんの彩魚も綺麗な色だね
円ちゃんから生まれたものだからかな
きらきら輝いて見えるよ

円ちゃんの飴はどんな味?
ぼくのと少し交換こしよう?

あまーくって、すっごく美味しいな
想いが蕩けて夢見心地の彩
んふふーお誕生日おめでたい
末永くお元気でね



●Blessing day
 月夜の幽世でぱきんと宙にヒビが入る。
 魚と遊ぶ妖怪達がなにかなと興味深げに集まって。
 ふと、ひらりひらり落ちる淡い花弁に気が付いた。
 それは境界の隙間から溢れていき、ぱりんと其処が割れたのなら。
 花籠華やかな二人が陽気に浅瀬へ飛び出した。
「幽世にとうちゃーっく!」
 元気いっぱい、百鳥・円(華回帰・f10932)の声が弾んで咲って。
「とうちゃーく!」
 勿論蕩けるティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)の声もご一緒に。
 甘めの春が軽やかに訪れたものだから、わあっと周りの妖達も喜び跳ね回る。
 皆でちゃぷちゃぷ足音鳴らしごきげんな挨拶を交わしていった。
「んふふ、不思議な場所ですねえ」
 改めて見回す此処は少しだけ賑やかな水没寺院。
 へんてこ高低差に建物だってちぐはぐだけれども。
 気ままに流れ満ちる清流も、色どり豊かな花達も楽しそうだった。
 そんな不思議で面白そうな世界の目玉と言われたら。
「彩魚を放つ時に声をかけると色がつくんだって」
「言葉を贈れば色付くのですね!」
 先に聞いてた話を声にした途端、住民達がずいずい距離を詰めてきた。
 おさかなさん、いろつけてくれる? こっち、こっちだよ!
 声と全身を沢山駆使して大歓迎。わいわい愉快にエスコートを申し出る。
 さあおでかけしよう、水龍が見守る世界を水音伴にみんな一緒で歩いてく。

 真水の波が引いては寄せる回廊は海岸のよう。
 砂浜駆ける真似事で戯れる合間、カランとひとつ重厚な音を遠くに聞いた。
「わたしの言葉にはどんな色が宿るのでしょ」
 白砂糖を詰めた色合の庭園はちょっぴり複雑まるで迷路な道のりだ。
 迷わぬよう手を繋いで抜けてく最中、間延びした声が疑問を零す。
 繋る先が赤い眼の横顔見やる。また一つカランと鳴って少しずつ響きが近くなる。
「どんな色でも円ちゃんとの思い出を彩ってくれるから」
 気持ちを映す瞳の湖面に浮かぶのは、ルビーに似た梅の甘露煮色。
「なんだって素敵なんだよ」
 振り向く足して紫の双眼へ、もう一度糖度高めの笑みをぷかり。
 そうしたら相手も負けない甘さを返してくれるって、わかってるから。
「おじょーさんの色も気になりますん」
 ほら、こんなにおいしいひととき。

 終着点の景色にひらりひらりと花弁が入り込む。
 自分達とは違う、でも同じ色の欠片達。妖怪があそこだよと指を差す。
 穏やかな滝を受ける巨木が在った。白と薄紅咲く双樹が複雑な根を水に沈めて聳え立つ。
 中心で枝葉と淡光に囲まれて、佳日に観たチャペルの鐘がカランと二人を呼んでいる。
 喜び勇んでご一緒ざぶざぶ、いっとう輝く『泡』は根本でふたっつ沈んでいた。
「どんな言葉をかけようかな」
 此処から本番とうんうん悩み、先に顔を上げたのはティアだった。
 つられて円も顔上げ尋ねようとした先は、んにーと企むきゃんでぃぞるぶ。
 悪戯顔がにまり緩んで、すぅっと息吸い。卵を、見て。
 ――円ちゃん、だーいすきっ!
 突然放たれた大声に、周囲で様子を伺っていた妖怪達がびびっと驚いた。
 叫ぶセイレーンに夢魔妖狐も最初はおやおやしたけれども。
 みるみる笑顔が、輝いて。
「ふふふ! 嬉しい言葉に羽ばたいてしまいそーです」
 ほらほらと黒い翼を揺らす仕草だって楽しそう。
 も一緒共に笑い合い、視線も揃って膝下の水底へ。
 片方の白が弾む『声』に呼応して、じんわり色を染めていく。
 割れるのも元気いっぱいに、そうして生まれたのは真っ白い身の彩魚だった。
 尾鰭はひらひらドレスのように、赤と青紫の彩り綺麗に染められている。
「綺麗な色っ」
 喜ぶ沙羅の花娘が足元に游ぎ来る魚を見下ろし、そして気付く。
 その背鰭は、銀色ひらひらヴェールのように花やいでいた。
「えへへへへー円ちゃんへの気持ちってこんな色をしてるんだね」
「おじょーさんの色もキレイですねえ」
 覗き込んだ隣人が微笑ましそうな顔からよしと軽く切り替えた。
「わたしもやってみーましょ」
 のんびり気合も入れ直し、もう一つの卵へと向き直る。
「円ちゃんはなんて言葉をかけるのかな、わくわく!」
 一人と一匹に期待の眼差し受けがてら、胸いっぱいに幽世の空気を吸い込んで……せーの!
 ――おじょーさんがだーいすきですよう!
 先程よりかは覚悟があったようだが、やっぱり周りで妖怪達がびっとなった。
 気にする事無く水面下へ視線を投げる。
「さてはてどんな色でしょ?」
 じんわりから元気いっぱいも一緒なら、出てきた彩魚もやっぱり身は真っ白だった。
 海色の鮮やかな鱗を鏤めて、砂糖菓子と見間違えそうな彩魚が先に生まれた一匹の元へ泳いでいく。
 その鰭に欲張りな程鮮烈な愛色を染め上げて。ひとつきりの彩り達が寄り添った。
「わわっ。円ちゃんの彩魚も綺麗な色だね」
「おやや、なーるほど」
 揺籃の間をすいすい連添う姿はとっても仲睦まじく。
「円ちゃんから生まれたものだからかな、きらきら輝いて見えるよ」
 見上げて互いを見つめる瞳もまた、きらきら煌めいていた。
 同じタイミングで笑う顔は、極上の甘さ。

 甘さと言えば、色付いた記念に二人へ甘味が届けられた。
「わーいっ、飴細工だよー」
 花散りひらひら鐘の下、水面から顔出す太い根に二人は揃って腰掛ける。
「オシャレな飴細工! こーんなステキな形にも出来るのですね」
「彩魚の形をしててかぁいいね」
 お揃いカラーの飴魚に彩魚も興味深そう、真下でくるくる泳いでる。
 わたしも研究してみましょーかね、なんて色んな角度で見てる姿も可愛らしい。
 見所沢山さて置いて先ずはお味とせーので一緒に試したら、ぱっと花開く喜色も二人同時だった。
「円ちゃんの飴はどんな味?」
「こっちの飴はやさしいお味ですよう」
 顔寄せ合って女子二人、仲良し同士の甘味話とくれば。
「ぼくのと少し交換こしよう?」
 シェアは甘美なお誘いと、差し出す貴女への気持ち色。
「交換っこ!もちろん喜んで」
 彼女の想いも差し出され、嬉し楽しと甘受した。
 結果は華咲く幸せのかお。
「あまーくって、すっごく美味しいな」
 味わう程想いが蕩けて夢見心地。でも決して、幻ではない現実が此処に在る。
 二人で導いた彩魚を見守って、甘さを余す事無く楽しんで。
 嗚呼なんて好き日だろう。
 持ち帰ることの出来ない生命、揺籃の想いを宿した彩り。
 おせわちゃんとするね、なんて。周りで遊ぶ妖も笑った。
 だから、また。逢いに来て。
「お誕生日に祝福を」
 今日はとっても素敵な日。生まれてくれた、大事な命にお祝いを。
「んふふーお誕生日おめでたい」
 白と薄紅降り注ぐ水の中、祝い言受けた二匹が花弁啄み遊んでる。
「末永く元気に過ごしてくださいねっと」
「末永くお元気でね」
 おめでとうおめでとう、妖怪達も祝うことのは沢山たくさん飛び交えば。
 カランカランと鐘が幸せな日に鳴り響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【彩夜】5名

めざめの時が近いのかしら
いのちの息吹がきこえてくるよう
もうすぐ、あなたたちに出逢えるのね
ふふ。ランも待ち遠しいのかしら

此方よリルさん、ルーシーさん
うまれたての魚へと彩を添えましょう

与うのは生誕の言祝ぎ
本日は、あなたたちのお誕生日ね
お誕生日おめでとう
出逢わせてくださってありがとう
如何なる彩を魅せてくださるのかしら

いきが出来る不思議な水のなか
共に游いで、ひと時をたのしみましょう
わたしも游ぎは得意ではないけれど
此度は、游ぐことが出来る気がするの

やわい波間に揺蕩って
うつくしい歌声に心を寄せる
嗚呼、とてもステキな時間ね

あたたかな温度が心の奥へと流るるよう
しあわせの糸が編まれて、結われてゆく


ルーシー・ブルーベル
【彩夜】

リルさん、リルさん
あっちにみんながいるわ!
手を振っていっしょにみなさんのそばへ

始めてお会いする
チョウチョさんや猫さん、ヒナさんにごあいさつ
ヨルさんもごあいさつ出来てエライわ
まあ
そのコがお魚さんのタマゴなのね

ようこそ世界へ
生まれてきてくれてありがとう
これからあなたたちは自分の力で泳いでいくのね
がんばって
おうえんしているからね

まだ泳ぎが上手といえないルーシーも
息ができるのなら水の中もへっちゃらよ
生まれたばかりのあなたたちと
少しの間泳ぎ舞いましょう
ふふ、何時か空も行ってみたいわね
ああなんて
あたたかくて、力強い色なの

清んだ水より澄んだ歌声が響き渡る
とてもステキ
最高のおたんじょう日プレゼント、ね


リル・ルリ
【彩夜】

ルーシー!いこう、皆がいるよ!
もうすぐ生まれるって
急がなきゃ
ルーシーと一緒に彩夜の皆の元へ游ぎゆく

ヨルも一緒だ
初めましての七結の蝶や苺の猫さんにもきゅっとご挨拶だ

ユェーに招かれ元気に応える
わぁ!間に合った?
おめでとう
世界は君を歓迎している
産まれたばかりの魚に微笑んで、君という世界がうまれた日を祝す…お誕生日おめでとの歌をうたう
ヨルも一緒にきゅっきゅと歌う
極彩色の世界を泳いで、君だけの彩を纏っていくんだよ

呼吸ができる水の中なら、皆とも一緒に泳げるんだ
心地よくて嬉しくて歌も笑顔も溢れる
ヨル、苺に泳ぎを教えてあげて

嗚呼、本当に!
心が満ちる素敵な贈り物をもらったよ
幸せはきっと
こんな彩をしている


歌獣・苺
【彩夜】

…ん?あ!リルくんにルーシーだ♪
ふふ、ロイねぇは初めましてだね!

「あら、あんたの友達にしては
幼いのと、派手な子じゃない
ルーシーに、リルとヨルね
アタシはロイよ。よろしく」

たまごが……!
…お魚さん
これから沢山の困難に
ぶつかるかもしれない
けれど『希望』だけは
どうか忘れないで
希望は、未来を飾る言葉だから
ずっと、離さないで
…おめでとう
ひとりと1匹の
祝福の歌声が聴こえる…♪

…ええっ、お、泳ぐの…?
あぁっ、まって、まってよう…
…?ヨルくん?泳ぎ方…
教えてくれるの…?
よ、ヨルししょー…!(涙目)
こんな感じ…?わ、泳げてる…!

あぁ…色んな彩の糸で
心が結ばれていく感覚。
私のーーーしあわせ。


朧・ユェー
【彩夜】

七結ちゃんも苺もお疲れ様でしたねぇ
ランちゃんとロイちゃんもね
お前もね、手の平の上の黒雛もぴぃと鳴いた

おや?リルちゃんとルーシーちゃん
えぇ、素敵なのが見れますよ?こっちにおいで

リルちゃんの歌声は心が温かくなりますね
これが誕生の歌
ふふっ、ルーシーちゃん泳ぎが上手ですね

次々に生まれてくる可愛い子達
黒雛も鳴く
えぇ、君もこうして生まれたんですよ。
皆と遊びましょうか

皆に愛され護られた君達はきっと幸せですね
誕生おめでとうねぇ

ふと、空を見上げて水龍を
空を泳ぐのも楽しそうですね

楽しそうな姿に声達
嗚呼、なんて幸せな時間



●彩逢いを絆ぐ
 もう一度、大きさ違うみっつの光とひとつの黒を拾い抱える。
 ふわふわの卵と負けない柔らかさの雛を抱き、のんびり地へ降り立った。
「七結ちゃんも苺もお疲れ様でしたねぇ」
 本堂傍、御神木近くの水辺に『泡』を下ろしてユェーは振り返る。
 二人のレディが足取り軽く付いて来て、更に賑やかなお供も続いてく。
「ランちゃんとロイちゃんもね」
 名を理解して、呼ばれた二匹も仕草で応える。
 硝子越しの金色を細めて白い半魔は奇麗に笑った。
 穏やかな雰囲気変わらぬ儘、掌に残った小さな子に視線を落とす。
 お前もね、と微笑む顔に手の平残った幼い鳥がぴぃと鳴いた。
 苺の傍にはロイだけで、ドルチェは争いの結果か仲裁されたかまたねをした様子。
 代わりについてきた妖怪達は『声』が戻って嬉しそう。
 到着と同時に先程合唱した黒兎を誘ってもう一度歌い出した。
 世界に不穏が消え去って、明るい唄声と優しい水音が響き渡る。
 もうすぐ生まれる白光の泡は、作りたての毛糸玉にも思えた。
「めざめの時が近いのかしら」
 七結がしろい手伸ばし、子猫をあやす仕草で戯れる。
 ゆっくり撫でて、不意に手を止め瞼を閉じた。
「いのちの息吹がきこえてくるよう。もうすぐ、あなたたちに出逢えるのね」
 掌感じる春の温度。微睡みながら言の葉を待ち望む、中の鼓動が伝わるようで。
 その指先に、くれなゐ散らす羽根が止まった。
「ふふ。ランも待ち遠しいのかしら」
 開けた視界につがいが游ぶ。風に乗せ、桜の欠片も連れ添って。
 不意に心地よい風一陣、パリンと綺麗な破裂音を鼓膜へ届ける。
「おや?」
「……ん?」
 二人の声につられ紅い半魔も顔を上げ。
 視線集める割れ空から、沫い人魚と蒼い半魔が飛び込んできた。

「リルさん、リルさん。あっちにみんながいるわ!」
 手作りお伴を片腕に、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)の青が世界を映す。
 指差す彼女の先ずは着地とリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)が秘色の合間から伸びる黒い羽と一緒に優しくエスコート。
 薄い水膜へ無事足付くのを雪融け蕩ける眼差しで見届けて、顔を上げた。
「ルーシー! いこう、皆がいるよ!」
 彼の声はホールに無くとも良く通り、歌唄いの言葉が縁を繋ぎ寄せ一足先の彼等に到着を報せる。
「あ! リルくんにルーシーだ♪」
 長耳ふわり、最初に誰だか気付いたのも歌謡いだった。元気な声を、相手へ返す。
 魅力的な肉球の手をぶんぶん振ったらとびきり笑顔もプレゼント。
「此方よリルさん、ルーシーさん」
 リボンと金の光彩弾ます華奢な振り手へ冠する牡丹も返して笑う。
 いらっしゃいと誘う蝶々はひらひら卵の上を旋回していた。
 ここだよここだよもうすぐだ。みっつの白が、春の空と花の瞳も鮮明に照らす。
「もうすぐ生まれるって、急がなきゃ」
 夜空も游ぐ半月闘魚が蒼華一輪導いて、ふたりいっしょにみなさんのそばへ。
 そうして実に華やかな五組の彩夜が集まった。
 先ずは初対面の方々へ、お楽しみ前にと己の宝物抱く少女がご挨拶に近寄れば。
 傍らに小さなペンギンも居りました。きゅぅう。
「ヨルも一緒だ」
 声は後ろから。呼ばれた雛は翼を片方上げて同意する。
 一人と一羽頷き合い集まってくれたチョウチョさんや猫さん、ヒナさんへ順番に。
 もきゅっと好い声三回したら、ヨルさんもごあいさつ出来てエライわとお褒めの言葉が降ってくる。
 のでまたもきゅうっと、嬉しそうに一鳴きしてみせた。
「あら、あんたの友達にしては幼いのと、派手な子じゃない」
 二つ尾揺らして美猫が自分の相棒を見る。何処と無く、微笑ましい貌で。
「ふふ、ロイねぇは初めましてだね!」
「ルーシーに、リルとヨルね。アタシはロイよ。よろしく」
 改めてはじめましての気持ちを結ぶ。意図は優しく、編み込まれた。
「リルちゃんとルーシーちゃん、こっちにおいで」
 そのまま和やかな会話が始まりかけたが、ユェーが優しく手招いて。
 気を引く男の足元で、みっつの光も存在を主張していた。
 パパ、と。幼い声が駆け寄ってくる。
「まあ、そのコがお魚さんのタマゴなのね」
 月光ヴェールを靡かせ、するりと人魚も輝きの元へ。
「わぁ! 間に合った?」
 間に合ったとも。光る『泡』の色はまだ雪のように真っ白だ。
「えぇ、素敵なのが見れますよ?」
 でもきれいな輝きは三つだけ。今の彩夜には、ちょっと足らない。
 どうしようかと悩む前に、揺蕩う尾鰭をちょいちょい突く黒い御手々。
 わりかし集中した視線の先でおんなじ輝き掲げたヨルがにっこにこ。
 もう一つは此処迄二個を運んできたのだろう、ひとりの妖怪が持っていた。
 これで等しい数ならば良かったと、始終見守っていた糸のはじまりが微笑んで。
「うまれたての魚へと彩を添えましょう」
 如何なる彩を魅せてくださるのかしら。七結の言葉に、五種の手が命を抱く。

 ――お誕生日おめでとう。出逢わせてくださって、ありがとう。
 最初の言葉はまなくれなゐが紡いで結わう。
 与うのは生誕の言祝ぎ。本日は、あなたたちのお誕生日なのだから。
 つがいが傍でこひいろはらはら散らし、染まりゆく『泡』を共に沈めた。
 ――ようこそ世界へ。生まれてきてくれてありがとう。
 次に絆ぐは控えめな蒼。ぬいぐるみと一緒に、『泡』を抱き締める。
 これからあなたたちは自分の力で泳いでいくのね。
 がんばって、おうえんしているからね。不変の想い込めて、卵を還した。
 ――おめでとう。世界は君を歓迎している。
 何処までも透き通る、黄金の旋律が言葉と縁を再び繋ぐ。
 極彩色の世界を泳いで、君だけの彩を纏っていくんだよ。
 歌姫の想い託した『泡』を、相棒がそぉっと水中に置いていく。
 ――皆に愛され護られた君達は、きっと幸せですね。
 続く想いも柔らかく結ばれ、『泡』に彼の白が確かに混ざっていく。
 小さな雛も祝をぴぃぴぃ唄えばぬくもり柔らかく移るように黒も彩られて。
 誕生おめでとうねぇ。告げた言ノ葉も、水へ戻す仕草も穏やかだった。
 ――希望は、未来を飾る言葉だから。ずっと、離さないで。
 お魚さん。これから沢山の困難に、あなたはぶつかるかもしれない。
 けれど『希望』だけはどうか忘れないで……おめでとう。
 最後に綴る願いは黒兎の心奥底から。苺一会が幸せ託し『泡』を放つ。

 五色の卵が、紬いだこころに応えて弾けた。
 隔離夜に祝うことのは彩る魚達が泳ぎ出す。

「たまごが……!」
 思わず苺は駆け出した。ちゃぷちゃぷ軽い水音立て水面に足先を漬ける。
 次々に生まれた可愛い子達は兎の周りをくるくる廻って彩り豊かな輪を描く。
 喜び燥ぐ黒い脚の近くで、黒い雛も楽し気に鳴いた。
「えぇ、君もこうして生まれたんですよ」
 指先であやしがてら、白い保護者が成果を眺める。
 躍る彩魚が少しずつ深い場所へ、かと思えば戻り今度は殆どが沈む御神木の方へ。
 何だか猟兵達を誘っている気がする。いっしょにおよごう、そんな雰囲気。
「……ええっ、お、泳ぐの……?」
 一応さっき水中に居たけれども、あの時は水底散歩が正しいだろう。
 翼は有っても水かきは無い。悩む自称キマイラの傍に、少女が二人寄り添った。
「わたしも游ぎは得意ではないけれど、此度は、游ぐことが出来る気がするの」
 最初に探検した際十分体験したが、あの中は何故かずうと居る事が出来た。
 此処は幽世。きっと、言葉で表せない理も在るのだろう。
「いきが出来る不思議な水のなか、共に游いで、ひと時をたのしみましょう」
 折角愉しい不思議があるのなら、アリスの様に好奇心の儘飛び込もう。
 大丈夫、皆が一緒だから。
「まだ泳ぎが上手といえないルーシーも、息ができるのなら水の中もへっちゃらよ」
 幼い瞳が後押しと見上げてる。紅蒼の半魔半人達を交互に見、ぎゅっと肉球を握り込む。
 決意が出来たら善は急げ、先陣切るのは一番泳ぎが得意な彼だ。
「呼吸ができる水の中なら、皆とも一緒に泳げるんだ」
 さぁ往こうかと春蕩け硝子の音色が跳ねて。
 うつくしい弧を描き、人魚は空から水へと遷り征く。
 水飛沫すら舞台演出と錯覚させる華やかさで、リルが泡灯りの水域へ飛び込んだ。
 彩り魚達と一緒に優雅な水中旋回魅せた後、顔と手を出して呼びかける。
 二番手と続くはかわいい式神。めいっぱい飛んだヨルを受け止め次を促す。
「あぁっ、まって、まってよう……」
 両手を握られ、肩に蝶足元に猫もくっつけば潮時だ。
 観念して女子三名プラスαはゆっくり身体を沈めていく。
 こぽこぽ沫を見届けて、残った一人と一羽が後追う一歩を静かに踏み出す。
 ふと、足を止め顔上げた。
 交差する透き通った視線、清流なる大蛟はずっと彼等を見守っている。
「空を泳ぐのも楽しそうですね」
 隣に大事な蒼花が居たら、何時か空も行ってみたいわねなんて笑いそう。
 和らぐ心を見透かした上空の眼差しが、同じ様に和らいだ気がした。
 水龍はゆっくり空を流れていく。厳かな身は常に地を沈める水面と繋がっていて。
 ひょっとしたら、此処の水は全てあの妖が一部なのだろうか。
 一度解析の鏡に手をかけて……そっと、腕を降ろした。
「皆と遊びましょうか」
 視線を掌へ。雛は今か今かと再びの潜水を楽しみにしているのだから。
 微笑み一つ、ユェーは皆の元へと脚進め。其の身に水を纏わせた。

「嗚呼、本当に!」
 出迎えた絶景に闘魚が咲う。
 水没する寺院と庭園、そして眼前で満開の神木が実に見事だ。
 鏤められた沫の光は物語を照らすスポットライトにも想えてくる。
 水葬街の座長がくうるり踊れば、彩魚が真似る。中々素敵な舞台が始まりそうな気がした。
 成らば唱おう今日を祝って、産まれたばかりの君達へ。
 君という世界がうまれた日を祝す……お誕生日おめでとの歌を贈ろう。
 律動乗せた人魚の声は水中に染み渡り、仲間達へ鮮明に届いてく。
 歌聲頼りに降りてくる双足の娘達へ、水底のシンフォニアは此処だよと響く泡沫をぷかりと放った。
 しろい指先で受け取ったのは、やわい波間に揺蕩う牡丹一華。
 うつくしい歌に心寄せ、穏やかな水流に互いの距離が縮まって。
 嗚呼、とてもステキな時間ね。微笑むふたりは楽しそう。
 それからくれなゐの眸が、まだすこうしだけ緊張気味の二人に移って。
 優しくそうっと、華やかな其処へと導いた。改めて苺と蒼の瞳が世界を映す。
 片方は再びの水中にやっぱり緊張気味、隣は百聞は一見に如かずを体験中で。
 始めて見ても、何度観ても。此処は不思議な水中幽世だった。
 確かなのはもう驚異が無いということ。柔らかな流れが緩く風の如く抜けていく。
 皆で游ごう遊ぼうと誘う魚へ、それでも戸惑う兎が居たら。
「ヨル、苺に泳ぎを教えてあげて」
 承ったと子ペンギンはやわいお腹をぽよんと叩いた。
(……? ヨルくん?)
 すいすいやってくる櫻沫の仔。一人処か三人の周りを泳いでみせる。
 泳ぎ方教えてくれるの? そんな眼差し受けたら誇らしげ。
 勿論だとも遊泳不安なレディ達、みんな纏めてみてあげよう。
 頼もしすぎる仕草にちょっぴりうるってきちゃっても此処は水中だ気付かれ難い。
(よ、ヨルししょー……!)
 そうして始まる一夜の水泳教室に、お魚さんも付き添えば。
 少しずつ、彼女達の遊泳が軽やかなものになっていった。

 縁は想う心が儘の彩を紬ぐ。
 上手く流れに身を乗せられるようになった少女へ、青い魚が寄り添った。
 密やかな蒼に染まる身体と、白に月光を添えた尾鰭を飾り付け。
 片目だけサンフラワーを想わせる鮮やかな金を抱いた彩魚がルーシーを誘い出す。
 追いかけた先に、もう一匹。青の子よりも一回り大きな白い魚が合流した。
 黒をひとすじ、銀を織り交ぜた月白の身に両目は鮮やかな黄金色に煌めいて。
(生まれたばかりのあなたたちと、少しの間泳ぎ舞いましょう)
 二匹は仲良く何処かへ向かっていく。蒼花の幼な子と、戯れながら。
 春の大樹から少し離れた先で景色は一変する。
 夏の花に囲まれて、大切な人がミオソティスを待っていた。
(ゆぇ、パパ)
 名を呼ぶ沫が溢れたら、向日葵畑に立つ彼がふふと微笑む。
(ルーシーちゃん泳ぎが上手ですね)
 そう言って、迎えて貰えた気がした。
 何時か二人で見た思い出が、この幽世でも綺麗に広がっている。
 忘れる筈の無い光景は解ける事無く彼等を繋いだ。

 練習中の兎には頼もしい相棒と同じ呂色の魚が近寄ってくる。
 鱗に数多の暖色が瞬く彩魚の、尾鰭だけは真っ白で。
 甘い赤を宿した目は一緒に泳ぎを覚えているようだった。
(こんな感じ……?)
 少しずつ感覚を掴んでいく。迷っても、伴や友に支えられて。
(わ、泳げてる……!)
 漸く、周囲を見渡す余裕が出来た。
 ペンギン先生と拍手を送るリルに御礼を示して、共に学んだ七結にも笑いかけ。
 改めて沫照らす世界を堪能しようとした苺の長耳にひとつ、低い音の波が届いた。
 浮遊する三人のすぐ近くで咲いたのは……絢爛輝く光の花。
 まるで想い出に祝われているようだった。
 色んな彩の糸で心が結ばれていく感覚に、満たされていく。
 気付けば近くの二人も、同じ様な貌で観ていて。
 大好きな人達と、暖かな気持ちが繋がっていく。
(それが、私の――しあわせ)
 大役終えた相方を労る人魚が、元気に游いでいく兎も見送った。
 彼女はきっと向日葵畑で驚く二人にも思い出噺をしに行くのだろう。
 そうして今日という新しい想い出が皆の心に結ばれていくんだ。
 心が満ちる素敵な贈り物をもらえて心地よくて、嬉しくて。
 笑顔溢れる闘魚の瑠璃染め髪に、ふと。何かが触れた。
 冬の彩に桜珊瑚が――否。
 桜の枝を引っ掛けた彩魚が居たので優しく救い出す。
 髪と同じ秘色の身に、夢幻の精彩滲ませた尾鰭が何より艶やかだった。
 そっと外した枝には春の花弁に紛れて剥がれた鱗がキラキラきれい。
 其れを見つめ、穏やかな流れへそっと乗せた。見送って、さぁもう一度!
 再び幕開ける櫻沫の歌劇、今度は春の謳も籠めようか。
 光花に花嵐、舞台は豪華だ。ヨルも一緒にきゅっきゅと歌う。
 清んだ水より澄んだ歌声が、何処迄もどこまでも響き渡る。
 五感全てを華やかに仕立てよう。
 幸せはきっと、こんな彩をしている筈。

 やがて想いは広がり太陽の花苑にも誕生の歌が届いていく。
(リルちゃんの歌声は心が温かくなりますね)
 暖かな『声』と、柔らかな光と、彩逢う想いが織り交ざる。
 楽しそうな皆の姿。嗚呼、なんて幸せな時間。
 近くで雛と魚と猫達と戯れていた歌う獣も心結ぶ音色を重ね合わせる。
 ひとりだけじゃない。誰も、彼もが。
 祝福と幸いを彩り景色を染めた。
 ああなんて。あたたかくて、力強い色なの。
(とてもステキ。……最高のおたんじょう日プレゼント、ね)
 彩魚が産まれ、『声』が還り――そして。
 花車なつまさきが、数多の色照らす水底へ踏み出す。
 見上げた先、沫光と花弁が降り注ぐ水空で紅い魚が幽世蝶と游んでる。
 手を伸ばす。ゆっくり、ゆうくり。嗚呼。
 濃紅、薔薇紅、韓紅、葡萄紅、黒紅、緋紅、真紅。
 あかいろなのに、あなたはとてもいろどり豊かね。
 七色鮮やか結合わせ、虹紅の彩魚が真白を散らして降りてきた。
 尾鰭だけ、素朴で暖かな赤茶色に揺らめいて。
 こゝろに夜明けの春が咲いていく。
(あたたかな温度が心の奥へと流るるよう)
 ひずんでも尚、しろい両手で七結は彩相をあわく抱きしめた。
 うたが聴こえる、いろが踊る。
 しあわせの糸が編まれて、結われてゆく。
 いとしき彩が出逢い掬ばれ織り上げられたのがこの光景だといふのなら。

 新たな想い出に、祝福を告げよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

櫻宵と一緒に散策する途中、みつけた泡ぶく
これが卵?
不思議だね
櫻宵

生まれるいのちを見守ろう
彩のない魚が、新しくどんな彩に染まるのか楽しみだね
私は櫻宵の孵す卵は桜色の子が生まれると思うよ
私のはどうだろうね
未だ己の彩を見つけられていないから…
けれど
大切なものは見つけたよ
隣で笑う櫻宵を優しく見やる

大切な私の友

そなたが幸いであることが私の願いなんだ
いつだって笑っていてほしい
うつくしい桜の彩纏い咲いていてほしい
そう願いを彩魚に添える

見て
櫻宵
やっぱりそなたの彩はうつくしい薄紅だよ
私は―朱砂?
…何だか嬉しい

この世界に生まれ出たことを祝おうよ
え、
私のことも、祝ってくれるの?
噫、ありがとう
彩が、灯るようだよ


誘名・櫻宵
🌸神櫻

見てカムイ
真珠のように綺麗な卵だわ

どんな彩を宿る子達が生まれるか一緒に見守りましょう
大切に抱えた卵に想いを込めてとかす

生まれたばかり…
まるであなたのようね、カムイ
生まれたばかりの私の神様
けれどカムイはこれから、極彩の彩を纏うわよ!

うふふ、桜の子がうまれるかしら?
私はカムイはきれいなあかい子が生まれると思うわよ

それは私も同じ
カムイは私の大事な友で
大好きな神様だもの

カムイの彩は
美しい朱砂だわ
私の大好きな彩

薄紅色のあいをこめて祝彩纏い游ぐ魚達に
そして「また」
うまれ舞い降りてくれたカムイにも
生まれてきてくれてありがとうと伝うわ

顔が赤いわ、カムイ
あなたが歩むこれからも
美しい彩に満ちていますように



●還桜
 見事な鳥居が在った。月光を受け硃が鮮やかに映えている。
 成程この寺院は歴史が永いらしい。此処では仏も神も等しく幽世だ。
 其の朱き門は今――散策中だった二人の境界に存在している。
 区画の手前で朱赫七・カムイ(無彩ノ赫・f30062)は立ち止まった。
 見つめる先夜の帳を抱いた銀朱の髪を照らすのは、淡い泡ぶく。
「これが卵?」
 確認の呟き。しかし之は聞いた輝きに及ばぬ光のようだ。
 さて求める球は何処だろうと視線を他へ移す。
 辺りに満ちる水の膜は膝下程の浅さ。其処へ、ひとひら華が流れてきた。
 控えめに気を引く、ささやかな誘いにそっと顔を上げる。
 門の向こう、花無き樹の下で櫻がひとり立っていた。
「見て、カムイ」
 誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の微笑む声が神櫻を引き寄せる。
 緩やかな水面に龍を彩る花を散らして、桜霞はゆうるり動き何かを見下ろした。
 すぐに戻ってくる視線。噫、在ったのだなとかち合う朱砂の桜は理解する。
 ちゃぷり、一歩踏み出す。花弁流れる参道をゆっくり、ゆうくり歩んでいく。
 両側に彼方へ続く咲かぬ並木、淡い光と月星だけが密やかに場を灯すのみ。
 水は手前に、神域へと。戻る流れの道を堂々逆らって。
 神は朱き境界の真中を通り、宵咲きの元へ辿り着いた。
 ふたりは静かに、笑い合う。

「真珠のように綺麗な卵だわ」
 細流が枝を通り白光へと降り注ぐ。
 生きた水に包まれて、隣同士に揺らぐ水面の光を届けていた。
 白い手がふたつを掬う。代わりに残る、華二片。
 ひとつを大切に抱える桜龍を眩しく見つめた。
「不思議だね、櫻宵」
 同じ大きさの卵を持つ己は、同じ貌をしているのだろうか。
 嘗ては見事な景色だったのだろう、今は飾らぬ樹に囲まれて。
 ふたりの桜だけは見事な華を纏っている。
「どんな彩を宿る子達が生まれるか一緒に見守りましょう」
 屠桜の提案に、硃桜は音無き頷きを返す。
「生まれるいのちを見守ろう」
 腕の中にはもうすぐ誕生する光。彩りを、待ち望んでいる。
 温かくなる命に少しの懐かしさと……親近感を感じた。
「彩のない魚が、新しくどんな彩に染まるのか楽しみだね」
 顔を上げず呟いた。視線合わさずとも、相槌が解る。
 この『泡』が割れたらどんな子が産まれてくるのだろう。
 猟兵と成って日は浅く、未だ己が彩りに迷う心が確かにある。
 未来は解らない、でも。悪い事だけでないことも十分識っているから。
「私は櫻宵の孵す卵は桜色の子が生まれると思うよ」
 こころの在るが儘を伝えたら、桜はまた一段とうつくしく咲いた。
「うふふ、桜の子がうまれるかしら?」
 口元隠し、しとやかに笑う。言葉に喜が色付いて。
「私はカムイはきれいなあかい子が生まれると思うわよ」
 返すことのはに瞠目する。悩みはお見通しのようだった。
 それでも、心は揺蕩う水底のようで。
「私のはどうだろうね。未だ己の彩を見つけられていないから……」
 輪廻は過去の色に塗れても、巡り至る今の身は白紙も同じ。
 決めかね惑う此の心に、果たして彩魚は応えてくれるのだろうか。
 けれど。
 今、確かな想いを申せと謂うのなら。
「大切なものは見つけたよ」
 交わる親しく近しい、華の眼差し。
 笑う顔を、暖かさに少しだけ胸が詰まりそうな想いで見やる。
 ――大切な私の友、どうか。いつだって笑っていてほしい。
 言葉は自然と『声』に成った。
 願いは、ちゃんと言えただろうか。聞こえただろうか。
 卵の色を確かめる前に、見返す春の色が和らいだ。
「それは私も同じ。カムイは私の大事な友で、大好きな神様だもの」
 噫乎、届いた。伝えられた。
 それだけで、永く呪と共に在った誰かの孤独が報われる気がした。
 其の想いも添えて、光を抱き締める。
 ――。
 不意に聞こえた相手の『声』。視線は何故か、卵では無かったけれども。
 伝わったのだろう、命はことのはに染められていく。
 共に光を水底へ。ふと、龍人が水に浸けた手で何かを拾い上げた。
 花を付けた桜の枝ひとつ。周囲は樹のみ、何処からか流れ付いたのだろう。
 滴る其れに煌きが混じる。花弁と違う、秘色のひとひら。あれは、
「……――」
 そうか、櫻宵。そなたはそんな顔をするのだね。
 愛を識る桜龍がこいした春で頬を染めた。
 これからもうつくしい桜の彩纏い咲いていてほしいと、思わずにはいられない。
(そなたが幸いであることが私の願いなんだ)
 次に胸へこみ上げてきたのは、柔らかな感謝だった。

「見て、櫻宵」
 名を呼ぶ神の貌は、優しさに満ちていた。
 少しの気恥ずかしさを心に隠して微笑み返す。
 離れる視線を追って、静かな水辺に波紋を見つけた。
「やっぱりそなたの彩はうつくしい薄紅だよ」
 月下に広がる宵槽で、桜が咲いて游いでる。
 ひらり、ひらりと春散らし。鰭舞う艶色は濃いを深めた。
 気のせいだろうか。せせらぎだけだった世界に、花芽が風と遊ぶ音がする。
「……カムイの彩は、美しい朱砂だわ」
「私は――朱砂?」
 桜の彩魚に、もう一匹の華が寄り添う。
 僅かに抱く闇色を朱砂の桜が包み込む身に、嘉日示す春の霞が尾に降りかかる。
 その目は無彩にも、如何様にも染められる万華鏡の中にも想えた。
 薄紅色のあいをこめて祝彩纏い游ぐ魚達。誕生した、新しい命。
「……何だか嬉しい」
 穴が空く程見つめて、漸く実感が湧いたらしい。
 時間を開けて零した感想に、微笑ましくなる。
「この世界に生まれ出たことを祝おうよ」
 嬉しそうな、声がする。嬉しいに満ちた、顔が向く。
 勿論、勿論よ。祝わなくちゃ。それに。
「生まれたばかり……まるであなたのようね、カムイ」
 想いを告げて、ことのはが伝わって。沢山たくさん、願われて。
 生まれたばかりの私の神様。
「え、私のことも、祝ってくれるの?」
 戸惑う視線はすぐにはにかむ表情に塗り替えられる。
 気付いてなかったのかしら。私の祈りを。
 ならばもう一度。何度でも。
 あなたが歩むこれからも、美しい彩に満ちていますように。
 願いを籠めて。『また』舞い降りてくれた、私の神へ。
 ――生まれてきてくれてありがとう。
 伝えたことのはで、朱桜が鮮やかに咲き誇る。
「噫、ありがとう」
 染まったのは、彩魚とあなた。
「顔が赤いわ、カムイ」
 視た光景は忘れない。

 顔の熱が体中に伝わって、涙腺を溶かしてしまいそうだった。
 堪えながら軽く胸を抑える。痛みではない想いが、胸を占める。
「彩が、灯るようだよ」
 こうして少しずつ、少しずつ。色付いていくのが心なのだとしたら。
 至る過程の惑いだって、悪くないのかもしれない。
「カムイはこれから、極彩の彩を纏うわよ!」
 頼もしく笑ってみせる、龍も居るのだから。
 往こう、未だ視ぬ彩りを灯す旅へ。

 二人が過ぎ去った参道に新しい泡が生まれて光を齎していく。
 命に照らされ満開の桜達がうつくしく還り咲いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
リュカさんf02586と
いいですねえ、探してみましょう

いつも女の子が?甘酸っぱい思い出ではないですか!
…その子はいつも沼に浸かってたんです?
ああ成る程、旅の思い出と混ざってるんですね
死にかけたとか怖っ…気をつけて下さいよ、ハレルヤが悲しみますから!

卵には行ってらっしゃい、お土産よろしくと声を掛け
今日も無事に終わりましたし、帰りに肉でも食いたいですね
なんて雑談からの真面目な話
いつだって心から頼りにしています
なのでリュカさんも私を頼って下さい

確かに私は少々迂闊かもですが、友人の危機に気付けぬ愚か者ではありません
リュカさんのその慎重すぎるところが好きなので
ハレルヤが守って差し上げますよ
今日みたいに!


リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
俺が住んでた町に似た場所とか探してみる?
…ああ、なんかこの街角の感じとかそれっぽい
ここ曲がった先でいつも女の子が待ってて…
あれ、毒の沼だ、これ
なんか混ざった
懐かしいな。毒で死にかけたけど

適当な話をしながらのんびり散策する
魚の色はお任せ。途中で泡を見つけたら面白半分触って歩く
特になんて難しい話をすることもないし、日常の話を…

…してたらふと、思い出した
そうだ、お兄さん
俺、前から思ってたんだけど、お兄さんはちょっと迂闊すぎると思う
でも、俺はお兄さんのそういうところが好きなので
その分俺がお兄さんを守るから
頼りにしてくれると嬉しい

…まあ、これくらいはまじめな話しても、いいだろう



●二人が得た誓い
 夜空の月が、とても綺麗に浮かんでいる。
 見渡したが嫌な気配はしない。ならばもう、戦うことはないのだろう。
 記録更新を止めたリュカは徐に灯り木の点検を始めた。
 散々伸ばされ、解放された方はちょっと拍子抜けしている。
 仕方ないのでそのまま簡単に武器の手入れをする様子を見下ろした。
「俺が住んでた町に似た場所とか探してみる?」
 視線を合わさぬまま、唐突な提案が聞こえた。
 なんてことはない。これが彼等の流れなのだろう。
「いいですねえ、探してみましょう」
 現に晴夜も気にする事なく返事も穏やかで。
 ちょっとだけ、歯を見せる顔を浮かべた。

 一度閉めた門を、再び黒い手が開けていく。
 リュカが真顔で扉を押す。晴夜は後ろで見てる。
 リュカが振り返る。晴夜は真顔で頷く。
 間。
「……。手伝ってください?」
「そう疑問形にせずとも、どんどんハレルヤに助けを求めていいんですよ!」
 という事で。改めて、白と黒の手で山門の扉は開かれた。
 最初に観た時と変わらない景色へ、堰き止められていた水が足元から流れていく。
 ただいまと言ったら、おかえりの声が聞こえそうな。
 決して冷たくない景色に、澄んだ水が流れ穏やかに広がっていた。
 無言で少年が進むので彼に案内を任せる形で人狼も後を追う。
 多少高低差があるものの、朧気な記憶を頼りに進めるらしい。
「……ああ、なんかこの街角の感じとかそれっぽい」
 足音はまるで雨上がりの水溜まる道を歩くようだった。
 他に人が居ない二人きり。ただそれだけでこの町は昔と変わらない雰囲気がする。
 それ程思い出と違わない一角で、一度少年の足が止まった。
「ここ曲がった先でいつも女の子が待ってて……」
 独り言のような確認の声をすぐ近くの立派な白い毛並みの耳が拾う。
「いつも女の子が?」
 途端に興味が湧いたか大人しく付いてきただけの後続が先頭を足早に追い抜かす。
「甘酸っぱい思い出ではないですか!」
 藪蛇ならぬ街角狼が此方も遠慮皆無でその先を覗き込む。
 覗き込ん……だ体制で止まった。
 間。
「……その子はいつも沼に浸かってたんです?」
 振り返った紫の瞳はとてもまっすぐで。逆に蒼い瞳は困惑する。
 え、なにそれと返すタイミングは確実に逃した。
 とりあえず白い頭の下から黒い頭も一緒に、もう一度街角を覗き込む。
 平和そうな町並みに、こぽこぽと不穏な音がする。
「あれ、毒の沼だ、これ」
 見るからに通ったらヒットポイントが削られる系の光景が在った。
 清流さんも其処だけ避けて流れる位、あからさまにヤバい色の沼らしい。
 大変だ。ハートフルが一気にバイオレンスになった。
「なんか混ざった」
 しかし当の本人がこの異変を一言で済ませてしまう。
「ああ成る程、旅の思い出と混ざってるんですね」
 相方もそれで納得してしまった。成程混ざったのなら仕方無い。
「懐かしいな。毒で死にかけたけど」
「死にかけたとか怖っ……気をつけて下さいよ、ハレルヤが悲しみますから!」
 なおアレは思い出の一部なので、効果までは再現されませんと大蛟が後に語られてました。

 そう言えば、と言ったのは何方だろうか。
「私達何か忘れてますね?」
 適当に話しながら、散策しながら。
 夜の町に所々街灯代わりになっている『泡』に、思い起こされる出来事が一つ。
 助けた卵どうしたっけ。
 同時に気付く。何も気兼ねなく歩いてるけど足元やけに明るいな。と。
 彼等は一緒に振り向いた。
 ぴかぴか光り続ける卵を持った妖怪達が、ずっと付いてきてる。
 照明係かな?
「なんかごめん」
 めっちゃ途中の泡は面白半分で触って歩いたのに肝心の卵を忘れてた。
 いえいえどういたしましてみたいなやりとり後、改めて二人は光を手に取る。
 さて何言おう。
 間。
「……今日も無事に終わりましたし、帰りに肉でも食いたいですね」
 思いつかなかったのか、相手から出た言葉は撤収後の予定だった。
 面食らい、さてどうしようと孵化のタイミングも失ったリュカは少し考えて。
 ま、いいかと。二人は卵を持ったまま再び歩き出す。
 特になんて難しい話をすることもないし、帰る迄に日常の話を……しようとして。
 ふと、思いだした。
「そうだ、お兄さん」
 すんなり合った視線の先でお勧めの焼き肉屋です? なんて返事がきた。
 まあそれは後で話すとして。
「俺、前から思ってたんだけど、お兄さんはちょっと迂闊すぎると思う」
 これくらいはまじめな話しても、いいだろう。
 先程の寿命が縮まったような感覚は正直まだ落ち着いてない。
 それくらい、気にかけているから。……無事で良かったなんて言葉は出さないが。
「確かに私は少々迂闊かもですが」
 雑談からの真面目な話でも、相手の雰囲気はそう変わらない。
 でも、なんだろう。説明するのは難しいけれども。
「友人の危機に気付けぬ愚か者ではありません」
 少しだけ色付いた顔の考えが察せぬ程、二人の仲は短くなかった。
 ドヤ雰囲気醸し出す白い狼に、気持ちの雪解けを感じる。
 ついた息は、足元を流れる川のように緩やかだった。
「でも、俺はお兄さんのそういうところが好きなので」
 視界を照らす色が、僅かに変わっていく。
 ――その分俺がお兄さんを守るから、頼りにしてくれると嬉しい。
 白い輝きに素直なことのはを染めて告げる。
「いつだって心から頼りにしています。なのでリュカさんも私を頼って下さい」
 返答は、同じ様な彩りで。それから序にと言わんばかりの態度に変わって。
「リュカさんのその慎重すぎるところが好きなので」
 ――ハレルヤが守って差し上げますよ、今日みたいに!
 珍しく表情筋が仕事をしていた。

 流石に毒の沼はビジュアル的に可哀想なので。
 二人は星空を映す澄み切った水面へと卵を還した。
 輝きが柔らかく割れて二匹の魚が泳ぎだす。
「行ってらっしゃい、お土産よろしく」
 声掛けたら一度晴夜の元へ白い魚がやってきた。
 ふわふわの鰭に、おいしそうな緑色の目の下は見つける為の印も在って。
 頷いたような仕草をひとつ。交わした眼差しは、とても頼もしそうだった。
 その隣では甲乙つけ難い大きさの魚がマイペースに泡を出している。
 ちょっとだけ、迷彩柄かなとリュカは思った。
 それくらい月星を飾る夜の水面と同じ彩りを身に描いていて。
 限りなく黒に近い蒼と、所々銀の鱗。
 靡く尾鰭は少年が首に巻くマフラーと同じ柄だった。

 水没した想い出の街を彩魚が並んで游いでく。
 あの子達はきっと、顔を見せる度逢いに来てくれるのだろう。
 今日の記憶と違わない、彩りで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
さらさ(f23156)と

手首に解けた包帯巻き付けながら
さっきの妖怪君達の様子を見つめ
声には魂が宿るとも言うけど
彩魚達が生まれてくるのはまさしく魂を吹き込んであげる…そんな感じなんだろうか

助けてあげた卵の元に
咲き乱れる秋桜の中で出会ったその子達は何色に染まるんだろうな
俺からは生まれてくる君達へ祝福を
素晴らしきこの世界へ、ようこそって迎えてあげよう
生への熱い思いを声に出し、言霊に託せば
その身を彩るは情熱たる彼岸花の色彩か
何となく俺の髪の花の色に似てる?なんて

ちょろちょろ泳ぐ魚達と一緒に歩みながら
そっくりに作って貰った飴細工を一緒に泳がせる様に動かして
はは、不思議そうな顔してるようにも見えるかねぇ


樹・さらさ
翼(f15830)君と

声が戻ったようだね
妖怪達にもう大丈夫と声をかけ、改めて辺りを風景を眺める
色々なものが混じったようなこの風景も見慣れれば中々に綺麗な世界だ、救えて良かったよ

この世界に自分の存在の証を残す、か
妖怪たちの動きに倣いそっと卵を掬う、かける言葉は……改めて考えると難しいね
この舞台を見せてくれて有難う、過去を振り返る事で改めて前を向く力をくれて有難う
叶うなら、君達と……此処にいる皆の幸せを

願いを込めて離した魚は何色になるのかな……やはり私が孵せば翠だろうか
どんな色でも水の中で舞う姿は綺麗だろうね

合わせて拵えて貰った翠の魚の飴細工を揺らして
美しい秋桜の舞台で暫し寛がせてもらおう



●カーテンコールに喝采満ちる
 闘争の音が止み、別の喧騒が聞こえてくる。
 決して不快ではない『声』達を、さらさは微笑ましそうに眺めていた。
「声が戻ったようだね」
 いつの間にか増えてる彼等が観客席辺りで燥いでいる。
 見ようによってはスタンディングオベーションをしている、ような。
 やがて喜びで飛び跳ねる妖怪がひとり、興奮気味にやってきた。
 こえがでたよと報告する仔にもう大丈夫と返したらそれは嬉しそうな顔をして。
 余程喋りたかったのか、数匹が取り囲んで矢継ぎ早に話しかけられる。
 それを凛とした佇まいの儘受け応える姿は流石スタアといった貫禄だった。
 楽しい光景から一旦視線を外し、翼は己の手首を瞳に映す。
 永劫消える事の無い、刻み込まれた切断痕を指でなぞる。
 すっと、柘榴の眸を細めてから包帯で静かに覆い隠していく。
(声には魂が宿るとも言うけど)
 きつく封を施し、ついさっき観た光景を思い浮かべる。
 素直な気持ちの言葉で色付く魚達は神秘的にも思えた。
「彩魚達が生まれてくるのはまさしく魂を吹き込んであげる……そんな感じなんだろうか」
 誰にともなく呟いた独り言に、そーかもーとお返事がありました。
 見上げた先の妖怪さん。あっという間に赤い天使も囲まれて。
 しばし舞台上のヒーローインタビューが続いたそうな。

 満足した妖怪達が、思い想いの場所で遊んでる。
 一段落と戻ってきたハイカラさんが改めて辺りを見回した。
「色々なものが混じったようなこの風景も見慣れれば中々に綺麗な世界だ」
 頽廃しているようも、芸術とも思える光景は今も少しずつ形を変え続けている。
 其処へ戦時とは違う澄んだ水が流れていく様は、幽世自体が生きているようにも思えた。
「救えて良かったよ」
 世界を包む夜空には、蛟がゆったり游いでいる。
 ひととき、目が合って。透明な眼差しが和らいだようだった。
 さて改めてと助けてあげた卵の元へ数歩の距離を辿り着く。
「この世界に自分の存在の証を残す、か」
 先に水龍が告げた言葉を思い返しながら、足元の輝きを見つめる。
 清らかさに包まれ咲き乱れる秋桜の中で出会った『泡』が丁度二つ。
「その子達は何色に染まるんだろうな」
 好奇心を口にする。隣人も同じ気持ちのようなので、早速と手を伸ばした。
 やはり水から出すのは気が引ける。ならば、我々が沈めばいい。
 屈んで指先が届く。触れたのは、優しい水の流れと不思議な弾力だった。
「俺からは生まれてくる君達へ祝福を」
 ――素晴らしきこの世界へ、ようこそ。
 天使が歓迎の言葉を告げる。それは御使いの告知か、否。
 そう、あって欲しいと願う彼自身の想い。
 命の重みを存分に識ってるからこそ、生への熱い思いを声にせずにはいられない。
 言霊がゆっくり、降り注ぐ。
 オラトリオが祝福を捧げるなら、王子様は片膝を付き頭を垂れる。
 まるで姫の目覚めを助けるかのように。
「かける言葉は……改めて考えると難しいね」
 僅かな迷いを口にするも、妖怪達と同じ様に両手で掬う仕草は心が通っていて。
 水面ギリギリ迄光を近づけ、そっと目を閉じた。
「この舞台を見せてくれて有難う」
 瞼の裏で上演されるのは嘗ての想い出か、今日の光景か。
「過去を振り返る事で改めて前を向く力をくれて有難う」
 ――叶うなら、君達と……此処にいる皆の幸せを。
 そうして二人は、色付く『泡』から手を離した。
 ことのはに乗せて、命が彩られていく。

 願いを込めて離した魚は、さて何色か。
「……やはり私が孵せば翠だろうか」
 呟いて、何となく隣へ視線を向ける。
 かちあう瞳は同じ様に揺れていた。即ち、未来は未知数だと。
「どんな色でも水の中で舞う姿は綺麗だろうね」
 考えても仕方ない。もうすぐ答えが産声をあげ……魚は鳴かないので、晴れ姿を楽しみに。
 間も無く光の膜が破れ、新しい命が生まれ出た。
 秋桜の水中庭園へ二匹がゆっくりと泳ぎ出す。
「その身を彩るは情熱たる彼岸花の色彩、か」
 いっとう鮮やかな、コスモスの群れに映える紅の魚はすぐに気付いた。
 生まれて始めてみた花が気に入ったのか、見つめては戯れるを繰り返している。
 鰭は揺れる花々と同じもの。身との境界は曖昧に、隠すような彩りで。
 そして、彼岸の赤に添えられた二つに気付いた。
(――あぁ)
 自分を呼ぶ、想い出の声。恋人と同じ色が真心の花を見ている。
 暫し動かなくなった翼にどうしたと、さらさの声が耳に届く。
 少し、間を置いて。
「何となく俺の髪の花の色に似てる? なんて」
 顔を上げ、小さく笑った。

 もう一匹は大きく優雅に舞台を回遊している。
 見事な尾鰭を靡かせ、翠玉が魚の形を成しているようだった。
 一つ不思議なのは、その目が角度や光の反射で様々な彩りを魅せている。
「遊色、か」
 どんな色でも、どんな姿でも。その輝きは失われる事無く、誇り高く。
 舞台を堂々と泳ぐ姿に、麗人は安心するような感覚を覚えた。
 彩りの魚と妖怪達がいるならば、この想い出も寂しくないだろう。
 遊泳は披露、舞台と花は永遠の演出、遊ぶ妖達は喝采だ。
 名の無い演目を日常と呼ぶのなら、願う光景は今なのかもしれない。
 小さく笑って、翼君。と声をかける。
「確か飴細工をもらえるのだったかな」
 そうさねと気楽な返答があれば、その少し後。
 魚と同じ彩りの飴を手に彼等は舞台を散策していた。
 それなにそれなにと興味津々に群が……集まる妖怪達も構いつつ。
 気のせいでなければ小さな水流も隆起し二人の近くで渦巻いたりして。
 すっかり賑やかになった世界をのんびりと堪能する。
 歩む度波紋が広がる道を彩魚も付いてくるので、翼は手元の飴と見比べて。
 視界の中、連ねるように動かしてみた。
 仕草に気付いたのか紅い魚が寄って来て、旋回している。
「はは、不思議そうな顔してるようにも見えるかねぇ」
 楽しげな声にさらさもつられて、自分が放った魚に拵えて貰った飴を翳す。
 揺らせば煌く目がじっと見てから同じように動いていた。

 猟兵達が選び取った未来が穏やかに流れていく。
「美しい秋桜の舞台で暫し寛がせてもらおう」
 二人が笑うと、周囲も心が弾んでいるようだった。
 喝采はまだまだ終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ捏造◎
真の姿時は全記憶保持
通常時は真の姿の記憶無

卵を護りきれて良かったわ
声も戻ったな

妖怪達を見て安堵と微笑
水没幽世を探検

俺が想う言の葉の色の魚
常春桜と弟に対して見てェケド
弟とは話し合いしたからまだイイが…
ハ、言うって決めたが…厭だなァ
”また”俺はあんな顔させちまうのかな

魚の詳細お任せ
水辺の睡蓮見た途端、真の姿に変化

・真の姿
金の長髪
白の漢服
不遜で冷淡
口調参照:夢の棺

「一時の感情如きで揺らぐとは
やはり器の玄は脆くて弱い
余の器でなければとうに見限っていたものを」

花に触れ溜息

「創造主の命故、充ちれば汝と交わろう
鬼の杜以前の空白
出生の秘密
総ては始まりから繋がっている」

元に戻る
手には泡が
金色の彩魚



●諸行夢常
 清らかな風の訪れに場の浄化を感じ、男は静かに息を吐く。
「卵を護りきれて良かったわ……」
 抱く『泡』に視線を落とし、違う色の双眼を和らげる。
 同じ視界で一緒に助けた妖怪から『声』を聞き、クロウは漸く微笑んだ。
「声も戻ったな」
 何度もお礼を告げる仔に仁義の漢は涼し気な眼差し共に返答短く。
 頼もしき其の在リ様に妖怪の目が輝いた。尊敬したようだ。
 名残惜し気に腕から降り、一礼捧げ妖はまたねと去っていく。
 さて、と。ヤドるカミは世界に向き直る。
 閃墨が飛ぶ天上に黄金の満月が輝いていた。

(俺が想う言の葉の色の魚)
 輝きを抱えた儘クロウは幽世を歩き往く。
 未だ、決めかねていた。惑う心が足取りも迷わせる。
 探検の場は彼方に広がる薄い水で覆われていた。
 足首も浸からぬ程の澄み渡る水面に月星が鮮明に写されている。
 まるで大鏡の上に居るようだった。
(常春桜と弟に対して見てェケド)
 悩む思考に波紋が広がり、煌く足元が不思議な揺らぎを見せ始める。
 映り込んだのは、常緑の蔓。誰の心を移したか複雑に絡み合うアイビーが男の足元へ伸びていく。
 でも其れは現実ではなく鏡像だ。触れた瞬間飛沫と成って消えてしまう。
 泡沫の影は彼が思う近しい者と言葉交わす光景にも観えた。それでも。
「弟とは話し合いしたからまだイイが……」
 陽は曇を想う。互いに秘めた感情有ろうと共に在れるのは、親しい創りのモノだからだろうか。
 水鏡のヘデラは小さな花を咲かせ、消えていく。
 次に世界を描いたのは――夜を凌駕する春の訪れ。
 点々と灯る『泡』が照らす桜華絨毯は、絶景だった。
 しかし芳しい景色もひとときの夢。見下ろす顔は憂いに満ちる。
「ハ、言うって決めたが……厭だなァ」
 脳裏で再生される、過日の春宵。
「”また”俺はあんな顔させちまうのかな」
 去っていった彼女の顔が、今でも。それでも、嗚呼。心が定まらない。
 何時の間にか足は止まっていた。

 眼前に、水辺の花が咲いている。
 幻ではない。神秘的な香りが存在を示している。
 惹かれる儘其処へ向かった。――クロウの意識は此処で一旦途切れる。
 水嵩が増すのを感じる中、最後に視たのは睡蓮の花だった。
 足取りに迷いが失せる。身を彩る、黒が白金に染められていく。
 深さは腰程になっただろうか。水中で、見事な漢服の裾が揺らめいた。
「一時の感情如きで揺らぐとは……やはり器の玄は脆くて弱い」
 真なる者の『声』は冷淡だった。不遜なカミがひっそりと、息を吐く。
「余の器でなければとうに見限っていたものを」
 伸ばした手で、睡蓮に触れる。
 不意に水面が揺れ波打とうと、仕草も視線も変わらない。
 杜の使い魔が傍に降り立つ。首垂れるのを横目に、目尻のみを飾る貌を上げた。
「創造主の命故、充ちれば汝と交わろう」
 情等とうに。さりとて嘗ての願いが縁を結ぶと謂うのなら。
「鬼の杜以前の空白、出生の秘密」
 余の事を欠片も記憶せぬ者へ、何れまみえると云うのなら。
 ――総ては始まりから繋がっている。
 此の彩りで一石を投じようが構わぬであろう?

 烏が鳴き翼を広げる。
 羽撃きに風を喚び嵐が水飛沫と睡蓮の花を巻き上げた。
 翔び立つ式神に、濡羽が舞う。
 全てが収まった時には光を抱く風雲児が居るのみだった。
 卵は手の中で割れ、金の彩魚が生まれ出る。
 クロウと同じ目を彩り姿を魅せつけた魚はすぐに背を向けた。
 彼等が言の葉を交わすは、何時の日か。
 今は未だと神々しき魚は深き所へ游ぎ征く。
 水底には、思い出の社が沈んでいた。


●言の葉が彩り泳ぐ
 猟兵達の言葉に染まる彩魚が水没寺院を優雅に泳ぐ。
 彼等の想いを抱いて、思い出へ今宵も逢いに行く。
 色褪せる事無い光景が流れ続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年10月12日


挿絵イラスト