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常闇に灯る花

#サクラミラージュ #逢魔が辻

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#サクラミラージュ
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#逢魔が辻


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●人の心と書きて、花と云ふ
 嗚呼、真っ暗だ。
 そういえば、此の暗闇は何処まで続いていただろうか。
 まあ、どうでもいいか。所詮、些末事の一つに過ぎやしない。

 ――紅百合。
 確か此の花は、己の見目を飾る事に御執心だった婦人のもの。
 ――鳳仙花。
 此れは……嗚呼、極度の人間不信に陥った男性から貰ったものだったね。

 他にも挙げれば、キリがない程。
 数多くの種類、色の花々は青年の周囲に浮かんでいた。
 普通に鑑賞するのも悪くないが、暗闇の中で淡い光を放つ様は一層美しい。
 其れが淡い光を帯びるのは、本来の持ち主の『心』の輝き故か。

「(でも、まだ足りないな……)」
 人の心は千差万別。
 たとえ形や色が似ていても、寸分違わず同一の『心』は存在しない。
 ……嗚呼、見たい。手に入れたい。
 いと美しき人の『心』をもっと、もっと、僕の手に。

 暗闇の中に潜む花よ、人よ。
 僕の所まで、新しい『心』を運んでおくれ。

●闇に蠢くもの
「お花はきれいだし、いい香りがするけど……」
 この花はなんとなく、嫌な雰囲気を感じる。
 グリモア猟兵――枕・幽汰(転寝万歳・f15128)の呟きには、静かな警戒心が込められていた。
 彼が視たのは、暗闇に覆われた逢魔が辻。
 其の内側に灯りの類は一切無く、漂う死臭は侵入者に容赦無く襲い掛かる。
 暗視技能を持つ者ならば、平時と同様に戦えるだろうが……。
 そうでなければ、何かしら『灯り』となる物を用意した方が良いだろう。

「灯りがあっても……奇襲の心配は無い、けれど……」
 此の逢魔が辻を支配する、影朧の意思なのか。
 侵入者を奇襲により、即座に仕留めるつもりは無いらしい。
 寧ろ……何らかの意図をもって、戦闘を長引かせる可能性もある。
 枕の目には、まるで『人の心』を品定めする様にも視えたそうだが。
 其れ以上の目的、真意は不明のまま。

 確かな事は、此処もまた影朧の巣。
 不気味に光る華が、青黒い人型の影が。
 そして、彼らを統べる男が更なる獲物を今か今かと待ち構えている。
 ……連戦は避けられない、と考えた方が良い。

「真っ暗な場所……」
 一度入り込んでしまえば、二度と光を見る事は叶わない。
 恐怖と不安を煽る様な場所で、猟兵達は戦い続けなければならない。
 ――此れ以上、犠牲者を増やす訳にはいかないのだから。

 枕は動物達から降りて、ゲートを開く。
 そして、暗闇の対策は忘れないでねと告げて、少年は猟兵達を見送るのだった。


ろここ。
●御挨拶
 皆様、お世話になっております。
 もしくは初めまして、駆け出しマスターの『ろここ。』です。

 四十本目のシナリオは、連戦シナリオとなります。
 常闇に覆われた、影朧の巣窟。闇に浮かぶはただの『花』か、或いは……。
 さて。皆様は光差さぬ暗闇の中、どの様に戦いますか?

●第一章:屍の花香(集団戦)
 犠牲者の肉体を操る、死の香りを放つ華。
 其れらは、呪詛を撒き散らす。
 死を想起させ、死に寄り添う華である。

 プレイングについては導入執筆後、別途期間を設けての受付とさせて頂きます。
 恐れ入りますが、御承知おき頂ければ幸いです。

●第二章:模倣の夜香(集団戦)
 暗闇を進んだ先、現れるのは誰だろう?
 ただの影は形を変えて、姿を変えて、そして……。
 詳細は導入にて。

●第三章:花盗ゲヱム(ボス戦)
 常闇にて『花』を眺め、楽しむ者。
 新たな『花』を蒐集する機を、彼は静かに待っている。
 ――さあ、ゲヱムを始めようじゃないか。
 此方も、詳細は導入にて。

 以上となります。長々と失礼致しました。
 また、グループでの参加の際はグループ名を。
 お相手がいる際には、お名前とIDを先頭に記載をお願い致します。
 迷子防止の為、恐れ入りますが御協力をお願い申し上げます。

 それでは、皆様のプレイングを枕共々お待ちしております。
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第1章 集団戦 『死に添う華』

POW   :    こんくらべ
【死を連想する呪い】を籠めた【根】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD   :    はなうた
自身の【寄生対象から奪った生命力】を代償に、【自身の宿主】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【肉体本来の得意とする手段】で戦う。
WIZ   :    くさむすび
召喚したレベル×1体の【急速に成長する苗】に【花弁】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【お知らせ】
 プレイング受付開始は『9月25日(金)8時31分(予定)』からとなります。
 導入は今暫く、お待ち下さいませ……。
**********

●死を此処に
 嗚呼、真っ暗だ。
 何処までも、何処までも続く闇。
 目に見えぬ死臭は想像以上におびただしく、生き残りは居ないと予想出来る。

 ――ざっ、ざっ。
 ――こつん、こつん。

 どうにも足音が嫌に響く。そう、聞こえて来る。
 其れは己の、仲間の足音だけだろうか?
 足音と呼ぶには不自然な、別の力で無理に歩かされている様な。
 ――不意に藍の光が浮かび上がった。

 暗闇の中、星の様に開く華。
 一つ現れては、また一つ。
 侵入者の存在を感知したからか、華は次々と妖しく咲き誇る。

 其れらは生死問わず、苗床に寄生して咲く影朧だ。
 苗床とは?きっと、戦闘が始まれば分かる事。
 敢えて言葉にするならば、死臭の発生源……だろうか。

 だが、驚く暇は無い。
 彼の華から滲み出る呪いが、一瞬でも君達に錯覚を起こさせる。
 例えば、己の五体が千々に引き裂かれる様な。
 自由だった筈の呼吸が、不意に儘ならなくなる者も。
 或いは……多岐に渡る『死』の呪いが、君達を苛む事だろう。

 さあ、死を目の前にした時。
 君達の心は、どんな彩りを見せてくれるのかな?
 ……暗闇の奥から、物腰柔らかな声が聞こえた気がした。

**********

【プレイング受付期間】
 9月25日(金)8時31分 ~ 9月26日(土)23時59分まで

【補足】
 敵の攻撃には、対象に『死』を錯覚させる呪いが込められています。
 肉体的な損傷が少なくとも、精神的に厳しい戦いとなるかもしれません。

 どの様に乗り越えるか、どの様に振り払うか。
 皆様の覚悟を是非、プレイングに書いて頂ければ幸いです。
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私/我ら 冷静沈着
対応武器:白雪林

『死』ですか。『我ら』が一度経験した、あの感覚…。
ええ、我ら四人とも腹部を貫かれ、はらわたを食われましたが。…『私』が最後に死した。
そのイメージが、再び。腹にある傷跡が、痛む。

ですが、それはすでに経験したこと過ぎ去ったこと。
悪霊であるからこそ、呪詛とも寄り添える。…邪魔ですよ。

…また死ぬことがあれば。それは四人同時で一緒なのでしょうな。

※設定上、ステシの誕生日=命日です。



●静かなる者
 馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)と云ふ男。
 其の内の一人――静かなる者は目を閉じたまま、不穏な気配に足を止めた。
 ……瞳に映らずとも、彼には視えている。
 おびただしい死臭、草花の匂い。
 其れらに乗せて、運ばれる呪詛はとても色濃い。

「『死』ですか……」
 私、否……我ら四人が一度経験した、あの感覚。
 腹部を貫かれ、はらわたを喰われ、程なくして死した。
 『馬県・義透』という男は皆、同様の理由で命を落としたが……其の順番は異なる。
 今、表に出て来ている『彼』が最後だった様だ。

 あの日の出来事が再び。
 腹の傷跡に、無意識に手を添えてしまう。
 零れる臓物は何もない、筈だ。
 既に霊体と化した身から、不思議と生温かい血が溢れている気がする。
 ……嗚呼、皆は何処に。戦友は何処か。
 私が死したとしても、せめて、此の者の事を伝えなければ――。

「(それはすでに経験したこと、過ぎ去ったこと)」
 馬県は仄かに青色の光を帯びる、白弓――白雪林の弦を引く。
 痛みはある。あの日の辛苦は心を苛む。
 だが……今の彼は生者ではなく、悪霊である。
 悪霊の身であるからこそ、彼は呪詛とも寄り添えるのだろう。
 霊力の扱いに秀でている者ならば、尚更だ。

「邪魔ですよ」
 ――刹那、禍々しい花が散りゆく。
 霊力で作られた矢は迅速に、正確に影朧を射抜き続けていた。
 敵の気配が消えてゆくにつれて、腹の傷跡の痛みも徐々に薄れていく。

 二度目の死。
 其れは、今に非ず。
 葉月のとある日より始まった生は、今も尚続いている。

「もしも、また死ぬことがあれば……」
 其れが意味するは『風林火山』の終わり。
 きっと……我らは四人で共に、一斉に消えゆくのだろう。

 嗚呼、だが――。
 疾き者の妹御に、寂しい思いをさせる訳にはいかぬ。
 だからこそ、此度の戦場からも生きて戻らねばと。
 彼は暗闇の中、音も無く歩みを進めて行くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミネルバ・レストー
サーバーにデータのバックアップがある限りは
どうとでもなると思ってたけど、今のわたしはそうも行かないの
死ぬのは怖いし、死ぬ訳にも行かない
それでもって言うなら、教えてもらおうじゃない!

【こおりのむすめ】発動、炉にくべるのは感情と感傷
どれだけ生命を削られようと、それを恐れなければノーダメージよ
…分かってる、痛みを感じるのは防衛機構だって
それを取っ払ったからって、生命の危機は消え去らないって

だから喰らいなさい、強烈な冷気の一撃を!
そして消えて頂戴、わたしは先に行かなきゃいけないんだから
…こんな戦い方して、あの人に後で知られたら叱られそうだけど

屍の山を越えて行くのは慣れてる
…全部終わったら、弔ってあげる



●あの人の隣
 消えたとしても、死ぬ訳じゃない。
 サーバーにデータのバックアップがある限り、どうとでもなる。
 此れまで培った戦闘経験、アバターの装備品情報。
 交流ログだってあるのだから、復元された自分が何とかする筈。当然よね。

 ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は、そう思っていたけれど。
 ……今のわたしはそうもいかない、死にたくない。
 死ぬのは怖い。何より、あの人の隣を『別の自分』に渡したくない。
 それでもって言うなら、教えてもらおうじゃない!

「わたしは、戦うためだけに生まれたもの」
 ――感情も感傷も、不要よ。
 ミネルバが改めて言葉にした直後、内側が冷え切る様な感覚を覚えた。
 かつての力を取り戻す術の代償は……彼女の人間らしさ、心。

 どれだけ生命を削られようと、恐れない。
 死の錯覚……自身を構成するデータのバックアップ消失、破損。怖くない。
 影朧が操る幾つもの根が、彼女を何度も打ち据える。
 攻撃を受け止める度に、痛みを感じるのは防衛機構なのだろう。
 其れに、徐々に体力が奪われつつある様な……?

 生命の危機は消えない。
 一歩間違えれば、本当に死ぬ。
 其れが、どうした。わたしは不敗の化身、常勝の女神。
 此の花も、暗闇の先で待ち受ける敵達も倒して、あの人の元へ帰る。
 ……こんな戦い方をして、あの人に後で知られたら叱られそうだけど。

「わたしは先に行かなきゃいけないんだから」
 ミネルバは、グレイシャルロッドの結晶部分を影朧へと力強く向けた。
 先に進むべく、立ち塞がる障害はすべて氷漬けにしてしまおうと。

 凍れや凍れ。
 吹き荒ぶは氷嵐。強烈な冷気の一撃。
 生命を奪う、絶対零度の世界へ誘わん。
 そして、消えて頂戴。淡々と紡がれた言葉もまた、酷く冷め切ったものだった。

「……全部終わったら、弔ってあげる」
 既に、攻撃は止んでいた。
 静寂を取り戻した闇の中で、ミネルバは静かに呟く。
 氷像と化した屍の間を進む彼女の足取りに、迷いは一切無かった。

 ――せめて、安らかに眠ると良いわ。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・エルフェルト
アドリブ他歓迎

兄弟弟子が全滅した、新月の闇夜を思い出す。
私も彼岸まであと一歩だった。
あの日、お師様に斬られた傷痕が疼く。
鋼が己を斬る時の熱さ。
血と共に零れ落ちる体温。
鉄の匂い。死の匂い。
闇の中でこの匂いを嗅ぐのは二度目。
その上、起き上がるのは剣士だなんて。
『ほんと、趣味悪い』

UCを軸に斬り結ぶ。
圧倒している筈なのに
――熱い
足がすくむ
――寒い
死の影に息が詰まる
――冷酷で、哀しそうな目
"儂もまた、滅ぶべき者よ"
虫の息の私を残して去る際の呟き。
あの人はきっと、オブリビオンと化した己の身を悔いている。
その地獄から救う為に。
お師様を斬るその日まで。
「……私は、死ねない!」

使用技能
暗視、カウンター、早業



●解放の為に
 とても、暗い。
 闇夜を見通す目はあるが、其れでも暗いと感じる程。
 まるで、あの日……新月の闇夜の様だと、クロム・エルフェルト(半熟仙狐の神刀遣い・f09031)は感じていた。

「ほんと、趣味悪い……」
 表情には表れずとも、クロムの尾はやや下がり気味となっている。
 闇に潜む剣士と幾度か切り結び、力量の差は理解した。
 其の際、彼女も傷を受けたが……些細なものばかり。
 其れよりも、古い傷跡が彼女を苛む。
 圧倒している筈なのに、劣勢を強いられている気がする。
 早く、剣を構えなければ。兄弟弟子は皆、息絶えてしまったから。
「は……っ!?」
 ――傷痕から、鮮血が噴き出した気がした。
 鋼が己を斬る熱さ。鉄の臭いが、死の臭いに少しずつ変わってゆく。
 血と共に体温も零れ落ちて、嫌な寒気に華奢な足が竦んでしまう。
 クロムが闇の中で、此の臭いを嗅ぐのは二度目だった。

「お、師……様……」
 石子と呼ばれた仙狐。
 そんな自分にも剣術を教えてくれた、お師様。

 ――お前は、道を違えるな。
 修行の日々の中で、耳にした言葉。

 ――儂もまた、滅ぶべき者よ。
 あの日、虫の息の自分を残して去る間際の呟き。
 冷酷の中に、悲哀を秘めた眼差し。

 嗚呼、そうだ。
 クロム自身、お師様の事をあまり知らない。
 何故、あの人はオブリビオンと成り果ててしまったのか。
 どうして、あの人は自分や兄弟弟子に剣を教え続けていたのか。
 ……わからない。わからない、けれど。

「(きっと、オブリビオンと化した己の身を悔いている)」
 過去――骸の海より滲み出た者。
 今もあの人は、地獄の中で藻掻き続けているのかもしれない。
 そうだ。お師様を斬るその日まで、私は――ッ!

「……私は、死ねない!」
 屍達の動きは鈍く、距離を詰めるのは容易い事。
 クロムは目にも止まらぬ速さを以って、刻祇刀・憑紅摸を振るう。
 神速の剣閃にて、花諸共に敵を断とうと。
 たった、一瞬。ほぼ同時に三つの斬撃が襲い掛かり、防ぐ術も無く。

 ぼとり。
 暗闇の中で、何かが落ちた音がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライナス・ブレイスフォード
ランタンを片手に闇を進む
鼻を擽る赤が腐り行く香りに眉を寄せながらも
死体から生えた何かを捉えればランタンを掲げその正体を確かめようと間合てくぜ
けど、近づいた瞬間故郷に居る筈の兄妹達や今迄殺し喰らってきた家畜達が足元から這い上がりくれば咄嗟に盾を展開し『盾受け』振り払わんと試みんぜ
何で、んなとこに居んだっつ…の…っ
足に胴に腕に喰らいつき肉を食むそいつらの中、喉を深く喰らいつく個体に抵抗を試みるも緑の髪を揺らし喉肉を引きちぎったそれの顔を見止めればこれはこれは幻覚だとそう確信し
引き抜いたリボルバーで『カウンター』元凶の花へ【這い寄る毒虫】を放ちつつ『暗殺』を
…あいつはんな事しねえんだよ。ばぁか



●彼の右目は
 ――ああ、鼻が曲がりそうだ。
 本来は芳しい香りを持つ赤だったとしても。
 肉と共に腐りゆけば、そんな香りも無きに等しい。

 ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は眉を顰めながら、淡い緑色に光るランタンを片手に暗闇の中を進んでいた。
 鼻を擽る臭いに耐えかねた時は、己の衣服の匂いを嗅いで誤魔化している。
 腐臭に紛れ、漂う草花の匂いを辿り……歩みを進めると。

「これ、か?」
 強烈な屍の臭い、毒々しい花。
 狭い視界の端に何かを捉えたのか、ランタンを掲げた瞬間――。
「――っ!?」
 ライナスの項を、汗が一筋流れ落ちた。
 地面には何も無かった筈なのに、足を縫い留められてしまう。
 別の死体に足を取られたか?
 ならば、振り払ってしまえば良い話……だが、其れも出来ない。
 咄嗟に手袋から盾を展開するも、其の手首を小麦色の髪の少女が封じてしまう。

「何で、んなとこに居んだっつ……の……っ!?」
 少女の顔には見覚えがある。
 彼女だけではない。足に、胴に、腕に喰らいつく者達の姿。
 彼ら全員、ライナスが良く知っている人物だった。

 故郷に居る筈の壊れた兄妹達。
 気紛れに屠り、喰らってきた家畜。

 生死問わず、皆が一様に己を喰らう。
 血肉の一片も残さない様に、死に際の無念を晴らす様に。
 容赦無く肉を裂かれ、削がれ、ランタンを持つ手が反射的に震えた。
 そして……彼が抵抗を試みるも虚しく、何者かが喉を喰い千切ろうとするが。

「……そういう事、かよ」
 緑髪の男が離れ際、両目から涙を流す様を見て。
 ライナスは封じられていた筈の腕で、リボルバーを引き抜き――発砲。
 影朧が怯んだ隙に、彼は己のユーベルコードで呼び寄せた毒虫達を嗾けた。
 実際に受けた傷は幻覚の其れよりも少ない、と理解した後。

「あいつはんな事しねえんだよ、ばぁか」
 地を這う花を、ライナスは力強く踏み付ける。
 己の所有物を、好き勝手に利用した報いを受けさせるべく。
 何度も、何度も。完全に動きを止めるまで、彼は続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

一瀬・両儀
はァ~ん?暗闇か、普通なら困るトコなンだろーが。
この死臭からして生き残りは期待しねえほうが良さそうだな。
仕方ねえ、目を使わないでヤってみますかねェ。

[第六感]によって、目からではなく己の感覚から周囲の環境を把握。
彼自身が得ている[戦闘知識]で最適な攻撃行動をとる。

[早業・見切り]によって敵による攻撃を刀でいなしつつ接近。
UC、『抜刀・死電一閃』を活性化させ、華を一刀両断。

死を与えられるのは、テメェだけじゃ無いンだぜ?



●最速の剣技
「はァーん?暗闇か、暗闇ねェ」
 一瀬・両儀(不完全な殺人術・f29246)は暗闇の中、ニヤリと笑っていた。
 此の中で待ち受ける影朧、死合の気配。
 嗚呼、嗚呼。なんとも心が躍る話ではないか!
 ――目を使わないでヤってみますかねェ。
 彼は灯りや視覚からの情報に頼らず、己の感覚を以って索敵。
 周囲の状況を把握しながら、前へと進み続けていた。

「(さァて、例の華とやらはドコにいるンでしょーかねェ)」
 鼻を突き刺す、おびただしい死臭。
 グリモア猟兵の話も踏まえて、生き残りは期待しない方が良さそうだろう。
 歩き続けているものの、己の間合いの内に気配はまだ無い。
 右足の傷跡がじわり、と痛み始めた気がしたが……恐らく、気のせいか。

「ソッチから来る気ねェンならァー、コッチから行くしかねェよなァ?」
 さァ、さァ、さァ。
 死を与えるつもりなら、やってみろ。
 足早に進む最中、僅かに感じ取った気配へと一瀬は即座に方向を変えた。
 無銘刀の柄に利き手を添えて、口の端を更に吊り上げる。
 暗闇の中、花の輪郭が徐々に浮かび上がり――直後、飛来物が彼に迫るも。

 ――ひゅっ。

 空を切る音と共に、飛来物……影朧の根の一部が地に落ちる。
 一瀬の抜刀術によって、瞬く間に斬り落とされたのだ。

 死の呪い。
 成程、其れは確かに恐ろしかろう。
 ……だが、攻撃を受ける前に斬ってしまえば関係ない。
 絶え間なく振るわれる攻撃を全て斬り伏せて、一瀬は少しずつ進んで行く。

「死を与えられるのは、テメェだけじゃ無いンだぜ?」
 敵の数は恐らく、指で数える程。
 理性に乏しい為か、其の全てが横並びとなっている。
 ならば――此の一太刀、死の一閃を以って終わらせてくれよう。

 納刀。
 既に此処は、己が間合いの内。
 一瀬の我流抜刀術――死電一閃の斬撃が、眼前の花々を全て両断した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……死ぬンだって…。
賢い君、賢い君、コレは今から死ぬらしい。

イイネイイネ……。
君と一緒に死ねるなら本望ダ。
けどなァ……二人で死ぬのに必要な花はコレじゃ無い……。

賢い君とコレにはシロツメクサ
そう決まっているンだ。
オーケー?

邪魔者はさっさと燃やそうそうしよう。
薬指の傷を噛み切って、君に食事をあたえたら
君とコレとの燃え盛る炎の完成。

とーってもイイだろう?
うんうん、そうかそうか。
君もイイって言っている言っている。
コレであの花を燃やそう。

燃やしたら邪魔者は居なくなるンだ……。
アァ……そうだそうだ…。
居なくなってしまえ。

バイバーイ



●あるべき花
 エンジ・カラカ(六月・f06959)と賢い君が死ぬ時。
 絶対に欠かせぬ花は、シロツメクサの様だ。
 其の花を使って二人分の冠を作り、花絨毯の中心で共に眠るのだろう。
 しかし、理性に乏しい影朧が其れを知る由も無く……。

「賢い君、賢い君。コレは今から死ぬらしい」
 イイネイイネ……。
 賢い君と共にバラバラ死体?
 或いは、あの日の様に君の糸に……。
 君と一緒に死ねるなら本望だ、彼はそんな風に思うけれど。

 ――おやおや?どうしてだろう?
 此処には、シロツメクサが一本たりとも見当たらないじゃないか。
 在るのは禍々しい花、影朧が暗闇の中で浮かぶだけ。
 二人で死ぬのに必要な花は、此れではない。此れはイラナイ。

「賢い君とコレにはシロツメクサ、そう決まっているンだ。オーケー?」
 此れは邪魔な花だ。
 エンジへの返答代わりか、召喚された小さな花が襲来する。
 其れを軽い身のこなしで回避しつつ、彼は少し不満げな様子。
 シロツメクサもない。敵の殺意は二人ではなく、彼だけに向けられている。
 そんなの、心から望む死ではない。

「賢い君、賢い君。そう思うだろう?」
 声無き声に耳を傾ける。
 オオカミの耳はとーってもイイ。
「アァ……邪魔者はさっさと燃やそう、そうしよう」
 言うが早いか、エンジは左手の薬指にある傷痕をぶちり。
 小さく噛み切った後、赤色の食事を君に与えれば……赤い糸に灼熱が纏う。
 飛んで来る花も、浮かんでいるばかりの花も。
 ……燃やせば、みーんな居なくなる。

「とーってもイイだろう?」
 ――うんうん、そうかそうか。
 賢い君の言葉に、エンジは満足気に頷いていた。
 さあ、コレであの花を燃やそうカ。

「燃やしたら邪魔者は居なくなるンだ……」
 アァ……そうだそうだ……。
 居なくなってしまえ。
 君とコレとの炎に焼き尽くされてしまえ。

 ――バイバーイ。
 彼らが望む死を与えられなかった花々は、紅蓮に呑まれて消えてゆく。

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月
死は全ての命が、いつか受け入れる物だ。
そして全ての命が抗う物だ。

死んだら、じいさんと会える。
そんな風に考えた事がある。
それは、俺が骸の海を知ったから。

不思議だよな、心では受け入れたと思っても、体と本能はちゃんと抗う。
人は上手くできてる。

俺はまだ死ねない。
じいさんとの約束があるから。
精神はチィに助けて貰いながら、[呪詛耐性]で死に抗いつつ、花を枯らしたい。

[属性攻撃、多重詠唱]で火と水の精霊様にお願いして、熱湯を花にかけたい。

花は根から水分や養分を吸収する。
熱湯を吸えば、冷たい水分を欲して更に熱湯を吸うはず。
そして熱に耐えきれずに枯れると思う。

捕食している所悪いけど、死に向かうのは、花達の方だ。



●もしもの話
 死は全ての命が、いつか受け入れる物。
 そして、全ての命が抗う物。
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)はそう、理解している。

「(もし、死んだら……じいさんに会えるのかもしれない)」
 木常野は、そんな風に考えた事もある。
 猟兵となり、世界の外側――骸の海を知った事で。
 彼が得た知識は、一種の期待すら抱かせたのかもしれない。

 もしも、死んだ後。
 骸の海の何処か、いつか。じいさんと会えるのならば。
 ……そんな彼の願望を織り交ぜて、花は呪詛を生み出した。
 一本の道を挟んだ向こう側で、柔和な表情を浮かべた翁が手招いている。

「(不思議だよな……)」
 『人』は上手く出来ているものだ。
 心では受け入れたと思っても、体と本能はちゃんと抗う。
 じいさんに会いたい、其の気持ちは確かだけれど。
 ――此の道を渡ってはならない。
 本能が警鐘を……否、其れだけではない。

『チィ!チィーッ!』
「わっ……チィ、大丈夫だ」
 何か、不穏な気配を第六感で感じ取ったのか。
 月の精霊の子――チィが、木常野の耳元で大きな鳴き声を上げる。
 唐突な声に目を丸くしたが、呪詛から気を逸らす為に鳴いてくれたのだろう。
 其れを理解したからこそ、彼はチィの頭を優しく撫でていた。

 俺はまだ死ねない。
 じいさんとの約束がある。
 だから……向こう側にはまだ、行かない。彼の決意は固かった。

「捕食している所、悪いけど……」
 死に向かうのはきっと、花達の方だ。
 既に苗床として利用している肉体から、生命力は搾り取っている。
 故に木常野から奪おうと根を伸ばすが……火と水の精霊様達が、其れを許さない。

 熱湯、と呼ぶには熱過ぎる程。
 灼熱を帯びた激流が、影朧達へ容赦なく襲い掛かる。
 影朧が水分として吸収せずとも、超高温の熱は彼らを確実に蝕んでいて。
 熱は内側の細胞を破壊し、水流は焦げた苗床を崩していく。

 ……ぼろっ、と。
 花弁だけではなく、花もまた呆気なく崩れ落ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

霑国・永一
いやぁ暗いなぁ。灯りが無ければ即死だった……って訳じゃないけど、懐中電灯様様だなぁ。
そう思うよねぇ、《俺達》?
『俺様呼び出しておいて灯り役かよ!早く戦わせやがれ!(めっちゃ本体に灯り集中させる)』
うお、まぶしっ

狂気の分身を道中から発動、10体程度呼び出しておいて全員分の懐中電灯を持たせて周囲を照らして死角を減らす
敵が出現次第、追加で次々分身を召喚し、敵に向かってダガーで斬りかかったり銃で撃ったり、時には相手諸共自爆心中を行う
分身の数が減れば随時召喚を行う

灯り役の分身は本体の周囲で待機、本体共々銃撃でのみ援護をする

『俺様達も花火を咲かせるか!』『うはっ!死ぬわ、ウケる!』
いやぁ、我ながら汚い華だ



●花は花でも
「いやぁ暗いなぁ」
 霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は、ぽつり。
 灯りが無ければ即死だった……訳ではないけれど。いや、困るか。
 兎に角、懐中電灯様様だと彼は思うのだ。

「そう思うよねぇ、《俺達》?」
『ねぇ、じゃねぇよ!俺様呼び出しておいて灯り役かよ!』
『戦えんのかと思ったじゃねぇか!』
『おい、早く戦わせやがれ!』
 四方八方から、ブーイングと共に懐中電灯の光が向けられる。
 ――うおっ、まぶしっ。
 そんな本体の声に、狂気の分身達はしてやったりと言いたげな笑みを浮かべていた。
 にやり。にたり。ニヤニヤと。
 笑みの数は十を超えており、其の分眩しさも中々のもので。

「逸らなくても、そろそろ来ると思うよ」
 まあ、灯り役の分身は周囲で待機してもらうけれど。
 再び、眩しい思いをしたくないのか。霑国は敢えて、言葉にはしない。
 ……其れに、嘘は吐いていない。

 分身の一人が灯りを向けた先には、不気味な輝きを持つ花が。
 既に苗床から生命力を奪い尽くした為か、影朧達の動きは緩慢だ。
 ゆらり、ゆらぁり。
 新たな命を苗床とすべく、根を伸ばそうとするも……。

「さぁ、俺の為に散ってくれ」
『俺様達の扱いひでぇな、クソッタレ!』
 霑国は根が迫るよりも早く、別人格の分身達を追加で召喚。
 分身達は意気揚々と、刃物や銃を手に花々へと向かって行く。
 本体へと伸ばされた根は斬り裂かれ、銃弾によって穿たれた花弁は虫食い状態。
 そして――いやはや、想像もしないだろう。

『俺様達も花火を咲かせるか!』
『うはっ!死ぬわ、ウケる!』
 嬉々とした声が響いた直後、敵が爆破に呑まれていく。
 そう!分身体はなんと、任意自爆可能だったのである……!
 気付ける筈も無く、苗床と共に花は吹き飛んだが。まだ、浮かんでいる花も在る。
 更に分身を召喚しつつ、霑国は小さく笑みを浮かべた。

「いやぁ、我ながら汚い華だ」
 ――また一人、分身が花火を咲かせて散る。
 爆発音がやけに響くのは、本体への抗議の声か。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幸徳井・保春
面倒な花が咲いているらしいな。ならばその花粉やら香りやらを少しでも吸い込まないよう被服甲をしっかり装着してから参ろう。……學府からの支給品程度で防げる呪詛だとは思わないがな。とりあえず自分から近寄ることは避けておこう。

なので霊符を破り捨てることで嵐を顕現させる。一気に花々を根本から引っこ抜き、舞い上がった業火に飲まれて宙で燃え尽きてしまえ。

どれだけ見た目が綺麗でも雑草は雑草だ。それが人の害になる物なら尚更だ。大人しく絶滅しておけ



●根絶
 帝都の平穏を脅かす不届き者共、影朧。
 其れが、元は守られるべき民衆だったとしても。
 だからこそ、幸徳井・保春(栄光の残り香・f22921)は彼らの生命を貶める影朧達を許せない。赦してはならぬ、と強く思うのだ。

「面倒な花が咲いているらしいな」
 口元に被服甲を装着した上で、幸徳井もまた暗闇を進む。
 死の呪いとやらが、花粉や香りに乗せて運ばれるかは不明だ。
 また、學府からの支給品程度で防げる呪詛かもわからない。
 ……其れでも、無いよりは安全だと彼は判断したのだろう。

 嗚呼、本当に真っ暗だ。
 何処までも続く、常闇の世界。
 敵は何処だ。嗚呼、暗闇のせいで良く見えない。
 右、左と注意を払った直後――彼が持つ、破魔の力を秘めた刀が僅かに揺れた。
「……っ!」
 幸徳井は咄嗟に小太刀を抜き、迫る影朧を斬り付ける。
 しかし、気配は一つに非ず。
 更に奥に潜む花が死体を操り、手にした包丁を横薙ぎに振るう。
 ……流石に避け切れなかったのか。
 彼の二の腕には傷が。そして、傷口の周辺にじわりと赤が滲み始めた。

「……死者を利用するとは、救いようが無いな」
 平静を崩さないが、幸徳井の声はやや力強い。
 彼は取り出した霊符を傷口に擦り付けて、破り捨てた。

 ――顕現・保元物語下巻。
 虚構を現実へ。
 戦乱の如き大火を、嵐を顕現させよう。

 影朧達に逃れる術は無く。
 ぶちぃ……と、何かを引き剥がす様な音も掻き消される。
 高く、高く。上空へ飛ばされた花は、其のまま業火に焼き尽くされた。
 ……どれだけ見た目が綺麗でも、雑草は雑草。
 其れが人の害になる物ならば、尚更だ。

「大人しく絶滅しておけ」
 劫炎暴風が止んだ後、付近に何かが蠢く気配はない。
 嗚呼……此処の影朧達を根絶やしにした後、民衆達の弔いが出来れば。
 そんな考えを過ぎらせながら、幸徳井は更に奥へと進むのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・ユア
アドリブ可

死の香りがする
死に惹かれるは己の性か
興味本位に足を運んだのが自らの運の尽き

踏み込んでしまった真っ暗な世界に
びくっと体が闇を拒絶するように跳ねた

…暗い、世界
ダメだ…行きたくない
なのに何で足は止まらない?

暗闇は嫌だ…
吐息が震える
この感情に名をつけるとしたら
きっと恐怖

藍が灯る時
光を認識すると同時に襲うのは呼吸を遮る圧迫感
まるで毒に侵されたように呼吸が詰まる

「はっ…ぁ…」

やめて…ヤメロ!!

喉が裂けそうな程の聲を上げた
無自覚にUCを発動
敵を引き裂くために花弁が舞う

暗闇は僕の心を縛る牢獄
この身の死を望む者達が僕に唯一与えた――恐怖

この花狩れば出られる?
理性が弾けて殺意を纏い夢中で藍の光を切り裂く



●新月を厭う
 単なる好奇心だけ?
 いいや。恐らく、己の性も理由の一つか。
 月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)は香りに惹かれ、暗闇を歩む。

 闇に紛れて、ゆらゆらり。
 まるで幽鬼の如く。死を求めて彷徨う、月影の鬼。
 己の糧を求める内に……ふと、彼女は気付いてしまった。
 入ったばかりの時は、外から僅かでも光が差し込んでいたけれど。
 此処は――嗚呼、此処は、駄目だ。

「はっ……ぁ……!」
 何も、無い。
 拠り所たる月光も、友と呼べる者達の姿も。
 月守の身体が一際強く跳ねる、呼吸の間隔が短くなってゆく。

 暗い、世界。
 現世から隔離された世界。
 今と過去が混ざり合って、虚実が曖昧になって。
 すぐ近くに、此の身の死を望む者達が立っている様な気がする。

 ――ダメだ、行きたくない。
 しかし、赤い靴を履いてしまったかの様に、彼女の足は止まってくれない。
 失った筈の危険信号が喚き散らすのは幻聴か、己の声無き悲鳴か。

「……っ!?」
 藍色が灯る。
 一つの大きな其れから、徐々に小さな光が生まれてゆく。
 来るな、来るな。お前は僕が望む光じゃない。
 震える吐息に乗せた言葉も虚しく、藍色の花々は月守を覆い尽くそうとしていた。
 影朧に触れられる度、毒に侵された様に呼吸が詰まる。

 このままでは、闇の一部と化してしまう。
 ……暗闇が、僕を殺す?

「やめ、て……ヤメロ――ッ!!!」
 聖痕から、白き羽根が溢れる。
 喉が裂けても構わない、悲痛な聲に応える様に。
 命を飾る月の花。其の花弁は闇を揺蕩い、藍の光を切り裂いてゆく。

 裂いて、咲いて。
 千々に刻んでも尚、足りない。
 この花狩れば、出られる?それとも、他に狩るべきものが居る?
 両方、だとしても――。

「(全て、死へ還れ)」
 ――逃げるなんて、赦さない。
 早く、此の牢獄から抜け出さなければ。
 月守は銀花を握り締めて、藍色の光を切り捨てながら進む。

成功 🔵​🔵​🔴​

贄波・エンラ
悪魔よ
その炎、この闇を照らす為に使わせてもらうよ

悪霊である僕にとって死はやがて来るものではなく、既に来たものだ
とは言え僕に記憶はないから、自分がどんな死を迎えたのかも覚えてはいないのだけど…
この感じは

(炎に巻かれている
体が重い、煙になれへん、逃げられん…空気ごと空間を固められとるんか
煙にさえなれれば、彼の所に…「僕らのボス」の元に行けるんに、この急事にこそ行かなならんのに!)
これは、僕の死の記憶なのか
頭が痛い、目がちかちかする…

誰かが走っていく、いや、行かせたのは「僕」だ
僕の教え子、僕の代わりに彼のところへ
僕に、そんな存在がいたのか?

わからない、でも
悪魔よ、僕と君の敵を、焼き尽くしてくれないか



●死の記憶
 贄波・エンラ(White Blind・f29453)に、生前の記憶は殆ど無い。

 己は、どんな人間だったのだろうか。
 煙草を手放せないと思うのは愛煙家だったのか、己の特性故か。
 ……此の悪魔を呼び出す術は、後から身についたものとは解るけれど。
 獄炎と煙草の火を頼りに、彼は悠然と歩みを進めていた。

「(悪霊である僕にとっては――)」
 死はやがて来るものではなく、既に来たものだ。
 だからこそ、特段怯える必要も無いと贄波は思うが……。
 目の前の花が『死』を齎すと言うのならば、敢えて受けるも一興か。

 召喚された小さな花が彼へ向けて、細い根を伸ばし始める。
 悪魔が其れを燃やそうとするも……敢えて、制止。
 此の程度ならば、どうにか出来るだろう。
 彼が笑みを浮かべたまま、実体の腕で受け止めると……。

「この感じは……」
 炎が、見える。
 悪魔が操る獄炎とは違う、其れ。
 そんな目に遭った覚えは――いや、此れが僕が迎えた『死』か?

 ――この急事にこそ、行かなならんのに!

 時折、ふっと零れる訛り。
 まるで普段から使っている様に、流暢に。
 次々に浮かぶ幻とリンクして、頭が痛み出す。目が、ちかちかする。

 ――空気ごと空間を固められとるんか。

「煙に、なれへん」

 ――煙にさえなれれば。
 ――僕の事はええから、ボスの所へ……!

「ボス……それに、彼らは……?」
 ……其れ以上は、見えない。
 先程まで見えた幻覚も、何時の間にか闇に溶けて消えていた。
 僕らのボス。僕の代わりにと、教え子達。
 顔も声も、良く思い出せないが……僕に、そんな存在がいたのか?
 しかし、此れ以上は引き出せないだろう。ならば――。

「悪魔よ。僕と君の敵を、焼き尽くしてくれないか」
 ――遅過ぎる。
 不満そうな唸り声を上げた後、悪魔は浮かべた炎の火力を上げる。
 轟々と燃え盛る、赤黒の炎。
 赤の中に、幻には無かった姿が一瞬だけ映った気がしたけれど。
 其れを理解した時には、拡がる獄炎が花々を焼き尽くしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒雨・リュカ
アドリブ◎
石榴のひとつに
属性魔法で弱い雷を宿して進む
濃くなる死臭に眉を潜め
…さすがにこのままが続くと気が滅入るな
死臭の原因達を清廉な水で浄化してやろう

不意に首を絞められたかのように息がつまった
…ッか、ぁ
自らを蝕む存在しない腕をどかそうと首元をかきむしる
苦しい、苦しい
このまま終わるのか

いいや…
死とは…消えることだ
忘れ去られることだ
豪奢な牢獄の様な己を祀る社で
風の噂に聞いた薄れていく信仰と同族達の終わり
ぽかりとあいた虚ろな畏れ
己が意識を捕らえていたそれに比べれば…肉体の痛みなど
どうってことはない

薄れそうになる意識を振り絞り
石榴に魔力を注ぐ
水で濡れてりゃよく効くだろう
雷の属性魔法で辺りの敵をなぎ払う



●忘らるる
 雨降らしの神様。
 そんな風に祀り上げられていた日々も、今は遠く。
 されど、ぽかりとあいた穴は塞がらない。埋まらない。
 ……簡単に埋まってたまるものかよ。

 黒雨・リュカ(信仰ヤクザ・f28378)の掌には、紅蕾。
 石榴は時折、ぱちりと小さな火花を上げながら光を灯し続けている。
 それにしても……闇に潜む花々の、なんと醜悪な事か。
 影朧と相対すると同時、一層濃くなる死臭に彼は思わず眉を顰めた。

「……さすがに、このままが続くと気が滅入るな」
 死人に信仰を要求するのも無理な話。
 しかし、死後も影朧に利用され続けている様を見て……何か思う所があったのか。
 上へ軽く放る様な動作の後、紅の花が魔力を呼び水に咲き誇る。
 浄化の力を宿した、清廉なる水を呼び寄せて。
 其のまま、黒雨は影朧達を呑み込もうと。

「神の気紛れだ。精々、魂(こころ)の底からありがたが――」
 息が、出来ない。
 見えない腕が伸びて、尋常じゃない力で喉を絞められているかの様に。
 黒色の聖痕に触れる『何か』をどかそうと、黒雨は己の首元を掻き毟るが。
 抵抗を快く思わないのか、込められる力が一層増す。

 苦しい、苦しい。
 吐き出される声に力は無く、意識は朧げになりつつある。
 ――嗚呼。このまま、終わるのか。

 いいや、違う。
 死とは消える事だ。
 現世から消え、誰かの記憶からも消え失せる。忘れ去られる。
 ……其の時、本当の『死』を迎えるのだろう。

「……ッか、ぁ……!」
 己を祀る豪奢な社。
 風の噂に聞いた、薄れていく信仰と同族達の終わり。
 虚ろな畏れに捕らわれた黒雨にとって、其処は牢獄の様に思えた。
 やはり、力も存在も信仰に……他人に由来するのか?
 ――違う。ふざけるな。

「(そんな、クソみたいなこと……!)」
 あってたまるか。
 薄れる意識の中、黒雨は紅の花に更なる魔力を注ぐ。
 轟々と唸れ、神罰の雷。水に濡れてりゃ、よく効くだろう。
 暗闇を、雷光が塗り替えた後……。
 彼の首を絞めていた何か、そして影朧の気配は消えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

スキアファール・イリャルギ
少しでも死臭を避けたくてガスマスク装着

この躰は怪奇と呪いで生かされてる
本当の"人間"の部分は殆ど影に溶けた
僅かに残ってるのは思考と心だけ
……それすら怪奇に成ったなら"私"は死んでしまったと同義だろう

擬態の仕方を忘れて
人間の容が崩れて
"私"が影に溶けて
心が怪奇に浸って、人間を、忘れていく――


ぎちり、と
呪瘡包帯に締め上げられる
人間の容を作るように

躰中の口が騒ぐ
「人間を謳歌しろ、影人間」と

……嗚呼、そうだ
私は怪奇人間だ
人間であり、怪奇であり、影人間だ
他者の呪いに屈するものか――!

わざと己の躰に呪詛を流し込んで華の呪いを上書きし
焔で己の身ごと華を焼いてやる
――焦げた臭いで少しは死臭も和らぐだろうか



●怪奇は許さない
 少しでも、死臭を避けたいという思いからか。
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)はガスマスクを着けた状態で、暗闇を音も無く歩き続けている。
 極端に白い肌を持つ頭部、そして真っ赤なロングコヲトが無ければ……彼もまた闇の一部ではないかと疑う程。彼は殆ど、闇と同化している様に見える。

 悍ましく、冒涜的な恐怖の影。
 本当の『人間』の部分は怪奇に呑まれ、影へと化した。
 僅かに残っているのは――思考と心、ただ其れだけ。

「(仮に……それすら、怪奇に成ったなら)」
 もしもの事を考えている内に、スキアファールは影朧と相対する。
 聞き耳を立てていた為か、マイペース故か。
 敵の出現に対して、彼は驚く様子はなかった。
 だが、敵が放つ『死』の呪いは静かに彼を蝕み始める。

「……っ」
 さて、スキアファールの『死』とは何か。
 彼自身、其れを理解している。
 ……己に残る思考、心までも怪奇に沈んでしまう事だ。

 どろり、ぐにゃり。
 暗闇の中に、身に着けていた衣服装飾が音を立てて落ちた。
 擬態の仕方を忘れて、人間の容が崩れて。
 先程まで保つ事が出来た筈なのに、崩壊は止まらない。
 頭がぼんやりして、胸の中心にあったものも歪み始めて……。

 私が、影に、溶ける。
 怪奇に浸って、人間を忘れて、怪奇そのものに――『否、許さぬ』。
 黒包帯がひとりでに締め上げる事で、人間の容を強引に作った。
 ――人間を謳歌しろ、影人間。
 夥しい傷がぱっくりと口を開き、幾つもの声が騒いだ様な気がした。

「……嗚呼、そうだ」
 私は怪奇人間だ。
 人間であり、怪奇であり、影人間だ。他者の呪いに屈するものか――!

 スキアファールは侵食した呪詛を、己の呪詛で塗り替える。
 そして、躊躇う事無く――死有の焔を燃え上がらせた。
 周囲の花だけではなく、彼自身も焼き尽くそうとするが……迷いは無い。
 寧ろ、焦げた臭いで少しは死臭も和らぐだろうか。

 此の身が、此の心が。
 いつか、最期の時を迎えるまで。
 己を燃やし続ける、己が生を謳い続ける。

 そう決めてるんだ、だから――口をはさむな。

成功 🔵​🔵​🔴​

嘉納・日向
◇表人格:日向
アドリブアレンジ歓迎

暗闇はホントに苦手。なにが何処にいるのか分からない。
だれが私を見ているか分からない。
バロックレギオン達が浮かぶのを見ていると、頭の後ろで親友の声がした……ような?
『あたしに任せなさい!』なーんて。まぁ、独りなんだけどさ

バロック達に苗の相手を任せて、私は【闇に紛れて】花を騙し討ちを試みるよ。あ、でも呪いは受けるかも

『いったーい!?』
後頭部をがつんと殴られるような痛さと、床が消えた浮遊感
やだなぁ、この感覚はまるで……

『ひなちゃん!』
……ああ、こんな時まで

壁になったバロックに隠れ、痛みが治まったら花へ飛びかかる
取り返しがつかないけれど
だからこそ、逃げる為の死はダメ



●あたしに任せなさい!
「……なーんて。まぁ、独りなんだけどさ」
 暗闇の中、嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)は独りごちた。
 彼女の背に浮かぶバロックレギオン達が、恐怖の度合いを証明する様で。

 此処はまるで、あの裏山の様だ。
 なにが、何処にいるのか分からない。
 だれが私を見ているか、何をしているのかも分からない。
 頭の後ろ側で親友の声は聞こえた……様な気がしたけれど、其れだけだ。

 バロックレギオン達が、動く。
 嘉納には見えない影朧達に向かい、飛んで来る苗を叩き落とした。

『ひなちゃん!あっちだよ、あっち!』
「あっちって、どっち」
 其れでも、嘉納は何となく理解したのだろう。
 闇に紛れる様に動き、苗の対処はバロックレギオン達に任せて。
 れいめいを両手に握り締めながら……視認出来る距離まで近付き、狙いを定める。

 嘉納が放つ弾丸は、的確に花の中心を撃ち抜いていた。
 一体散らしては、また別の花を狙い――発砲。
 大丈夫。敵の攻撃は来ない、バロックレギオン達が防いでくれるから。
 ……早く、次の敵を撃たなければ。

「――っ!?」
『いったーい!?』
 日向が息を呑み、ひまりが素直に痛みを叫ぶ。
 背後から強く、何者かに背中を押されて。
 そして、後頭部を殴られた様な……いや、何かに打ち付けた、のか?
 嘉納が其れらに気付いた直後、床が消えた浮遊感も感じる。
 やだなぁ、この感覚はまるで……。

 あの日、あの時、あの場所で。
 私はこの手で、ひまりを穴に落とした。そして、逃げた。
 この暗闇から出た時、もしかしたら罪が明るみになっているかもしれない。
 二重の恐怖に、思わず身が竦んでしまう。
 嗚呼。花がもう、すぐ近くまで――。

『あたしの親友に手を出すな!』
 ――バロックレギオンが間に割って入る事で、嘉納を守る。
 同時に聞こえた声に、嘉納は唇を噛み締めた。
 ……ああ、こんな時まで。あんたは。
 小さな呟きと共に、痛みと恐怖が少しずつ和らいでいく。

「(逃げる為の死は、ダメだ)」
 取り返しのつかない、己の罪。
 だからこそ……彼女は決意を新たに、花へ飛びかかる。
 そして、回避しようのない至近距離から、最後の一体を撃ち抜いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
錬成カミヤドリで鋼糸召喚。
蜘蛛の巣のように張り巡らせ【罠使い】
絡みつくようにして攻撃、拘束し、
拘束した【敵を盾にする】ことで
同士討ちを狙う。
また糸を束ねるようにし盾代わりにし防御。

死ぬのが怖くないなんて嘘になるけどな、
死ぬより死なれる方が自分には辛い。
戦場にいるなら、その時まで動くだけ動くのみや。
【勇気】もって挑みましょ。



●蜘蛛の意図
 影朧たる、花々は今も暗闇に浮かんでいる。
 苗床にした死体を操り、地面を引き摺る様に歩みを進めさせている。
 ……同胞の数が減った様な気がするが、些事。
 彼らは命令に従うだけ。
 暗闇の最奥で待つ者に、新しい『心』を運ぶべく動くのだ。

 ふと、花が動きを止めた。

 ――否。
 前へ進もうとしているが、進まないのだ。
 影朧の様子が、複製した鋼糸【絡新婦】を通して、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)へと伝わると同時……彼はくすり、と笑みを浮かべた。

「いざ、参るてな」
 杼糸が片手の指を、くいっと動かせば。
 罠に掛かった獲物同士が激突、互いを攻撃し始める。
 別の影朧は尚も前進を試みるが、苗床の肉体が崩壊するが先。
 ……上々の結果、だろうか。
 だが、彼の直感が告げるのだ。敵はまだ何処かに潜んでいる、と。

「念には念を入れときましょ」
 鋼糸を束ねる間も、杼糸を襲う『死』の呪い。
 己の本体である鋼糸――絡新婦が千切れ、壊れてしまう幻覚。
 肉体に損傷は無いのに、人間で言う心臓を握り潰された様な心地がした。

 其れが怖くないなんて、嘘になる。
 本当に壊れてしまったら、こんな思考も消え失せてしまうのだろうか。
 しかし……彼は其れ以上に恐ろしいと、辛いと感じる出来事を知っていた。

「(死ぬより、死なれる方が自分には辛い)」
 ある忍びに使われていた、鋼糸。
 では、其の忍びは何処に……いや、感傷に浸るのは後でも出来る。
 杼糸は勇気を胸に、得物を操る手を振るった。

「戦場にいるなら、その時まで動くだけ動くのみや」
 呟く声に、迷いは無い。
 杼糸は拘束した敵を使い、迫ろうとする別の個体へと叩き付ける。

 周囲の花を全て散らし、静かになった後。
 彼は再び、暗闇の中を悠々と歩き始めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱雀野・ヤチバ
妖怪にお似合いの暗闇だ
暗視持ちでよかッたぜ
蛇たちの第六感と野生の勘も借り

黄泉比良坂を越えちまッた奴は診ようがねェ
とッとと散らしてやンのが救いか
蛇絡みの徒手空拳でお相手さァ

ふと死の臭いが強まり連想するのは
石塚の傍の墓穴の中
厳かを装い粗雑に降る冷たい土
不当な最期を隠すための土
ああ、くるし、い
やめてくれ

…アイツもこんな気持ちだったのか?

…くそ、妙なこと思い出させやがッて
狂気呪詛耐性で落ち着き[強請蛇]
代償は治療代に頂戴した上等な煙草
ちッ、楽しみが減ッた!

死なンて飽きるほど見てきた
苗床になッた奴等の素性も知らねェし
呉れてやる情も無ェけどよ
オレも医者の端くれ
死を冒涜する奴ァ捨て置けねェのさ

アドリブ連携◎



●理由は土の中に
「ハハッ!こりゃまァ、妖怪にお似合いの暗闇だ」
 朱雀野・ヤチバ(馬手に青を弓手に赤を・f28023)は、からからと笑っていた。
 日照と氷雨の力を借り、深い闇の中を愉快そうに進んで行く。
 そして今、彼女の眼には敵の姿がはっきりと映っていた。
 ……哀れな苗床の姿も然り。
 死んでから来やがれ。普段は怪我人に対し、そんな軽口も叩いていたが。

「黄泉比良坂を越えちまッた奴は診ようがねェ」
 苗床になッた奴等の素性も知らねェし。
 呉れてやる情も無ェ、けどよ……とッとと散らしてやンのが救いか。
 蛇絡みの徒手空拳で相手をしようと、朱雀野が構えた直後の事。

 花の香りが、死を運ぶ。
 死なンて飽きるほど見てきた。今更、怯え惑うものかよ。
 ……そんな彼女の思考を否定するかの様に、何かが降り掛かり始めた。

 土の臭いだ。
 気付けば其処は、とある石塚の傍の墓穴の底。
 いつの間に……?嗚呼、考える余裕もない。
 土を払う度に、手指が冷えてゆく。徐々に感覚が無くなりつつある。
 其れでも地上からは厳かを装い、早く終わらせようと粗雑に土が降り続ける。

「やめ、て……く、れ」
 どれだけ手を伸ばしても、陽光に届かない。
 冷たい土が無情にも胴体を、喉を、頭部を埋め尽くしてゆく。
 ああ、くるし、い。悲痛な声もまた、土の中。
 不当な最期と共に隠されて、無かった事にされるだけ。
 ……アイツも、こんな気持ちだったのか?

「くそ、妙なこと思い出させやがッて」
 朱雀野は歯を食い縛りながら、真っ黒な大蛇を召喚する。
 しかし、大蛇は動かない。
 ……動いて欲しければ、さっさと対価を寄越せ。
 そう言わんばかりの様子は正に、傲岸不遜という言葉を体現していた。

「相変わらずの業突張りめ」
 懐から煙草を取り出し、朱雀野が渋々大蛇へと手渡す。
 以前、治療代として貰い受けた上等な煙草だったが……致し方ない。
 ――ちッ、楽しみが減ッた!
 内心、そんな風にぼやくのは止めないけれど。

「オレも医者の端くれだからなァ」
 他人の死を利用し、冒涜する奴等。
 朱雀野が、そんな輩を捨て置ける訳がない。
 とっとと対価の分、働きやがれ、と彼女が呟けば。
 巨大な尾が轟音と共に、藍色の花々を薙ぎ払いながら潰していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
ゴーグルを装着し『暗視』機能で視界を確保
冷静に、いつも通り銃を構えて

…死を覚悟した事はある
たとえば戦闘で深手を負った時
あの時以上に酷く、急所を貫き引き裂かれたような感覚に襲われる
絶命したと感じて思考が、精神への衝撃で足が止まる
暗い、死んだのか、ここで終わるのか
…終わる、諦める?冗談じゃない
構えた銃の感覚が意識を繋ぎ、踏み止まる

この銃、シロガネの前の持ち主との約束はまだ果たせていない
命を賭して守ってくれたその人との約束の為に戦ってきたんだ
これしきで諦めては約束の反故、あの人への裏切りに繋がる
それは、死よりも恐ろしい

死の錯覚を振り払い、振るわれる根ごとユーベルコードで花を攻撃
苗床から花を吹き飛ばす



●死よりも恐ろしい事
 多機能ゴーグルのお陰か、視界は良好。
 人狼の嗅覚、聴力を利用して、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が影朧を捕捉するまで時間は掛からなかった。
 ……他の猟兵達が交戦した為か、数は少ない。
 目に見えない呪詛とやらは厄介だが、やる事は変わらない。
 常に冷静に、いつも通り銃を構えて――敵を淡々と撃ち抜くだけ、だが。

「――っ!?」
 息が、詰まった様な気がした。
 強敵との戦いで、深手を負った事はある。
 だが……シキが今、受けている痛みは其れらを上回っていた。
 急所を貫かれ、胴体を両断される様な。絶命の瞬間。
 思考がぶつりと途切れてしまい、ぐらりと身体が倒れ込む様な気がした。

 真っ暗だ。
 終わりの見えない、闇。
 俺は死んだのか。ここで終わるのか。
 目蓋の裏に浮かぶ走馬灯を眺めながら、彼は意識を……。

「(冗談じゃない)」
 否。構えた銃の感覚が、シキの意識を繋ぎ止めた。
 この銃、シロガネの前の持ち主。
 命を賭して守ってくれた人との約束は、まだ果たせていない。
 これしきで諦めては約束の反故、あの人への裏切りに他ならない。
 ……其れは、死よりも恐ろしい事だ。

「俺は、ここで止まる訳にはいかない」
 ――デストロイ・トリガー。
 通常と異なる色を持つ弾倉の中には、特注弾が装填されていた。

 此れを撃てば、相当な反動は免れない。
 特注弾に込められた炸薬の量は、彼自身が良く理解している。
 其れでも……此処で終わる訳にはいかないから。
 彼は即座に弾倉を交換し、ハンドガン・シロガネを構え直す。
 確りと狙いを定めて、後は――。

「――眠れ」
 根も、花も。
 苗床から全て吹き飛ばす、規格外の銃撃。
 発砲後、シキは僅かに眉を顰めたものの……其れだけだ。

 ユリウスと交わした、約束の為にも。
 先の呟きの通り、決して足を止める事は無かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鏡島・嵐
戦うってのは、死に通じることだ。
戦うんは凄く怖ぇし、死ぬってのも勿論怖ぇ。
……それでも、逃げたくねえから。後悔したくねえから。
さあ、いつものように怖いモンに向き合って、それを乗り越えてゆこう。
……頼む、力を貸してくれ、クゥ!

怖いモンに向き合う〈覚悟〉を決めて〈呪詛耐性〉も併用して、まとわりつく死のイメージに対抗する。
クゥの背中越しにクゥや他の仲間に〈スナイパー〉ばりの精度で〈援護射撃〉を撃ったり、相手の攻撃を〈マヒ攻撃〉で妨害したりして、戦いが有利に運ぶように動く。
相手の攻撃は間合いを〈見切り〉、〈逃げ足〉を活かしながら回避。それでも避けきれねえ分は〈オーラ防御〉で食い止める。



●恐れても、尚
 戦うという事は、死に通じる事である。
 鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)はそう考えており、故に恐怖を抱いている。
 彼の匂いを辿り、傍らに着いて歩く仔ライオン――クゥは、そんな主を気遣う様に小さな鳴き声を上げていた。

 戦う事は怖い。
 死ぬ事だって勿論、恐ろしい。
 沢山の依頼を経験しても、恐怖はコントロール出来なくて。
 ……全身が震えそうになるも、彼はぐっと堪えていた。

「怖ぇよ。それでも……」
 影朧が死体を操り、包丁や鉄パイプを構えさせる。
 同時に鏡島へ襲い掛かったのは、彼自身の『死』だった。
 ……四肢の先端から冷たくなり始める。
 突如、心臓の鼓動が弱まって。段々、呼吸までも浅くなってしまう。

 其れでも、彼は逃げない。
 逃げたくないと、逃げて後悔したくないと、強く思うのだ。
 恐怖と向き合う覚悟を決めて、怖いモンに立ち向かう。
 ――さあ、いつものように向き合って、それを乗り越えてゆこう。

「……頼む。力を貸してくれ、クゥ!」
 力強い主の声に、クゥは確りと頷いて返す。
 其の後……クゥの姿が徐々に大きく、勇ましく変化してゆく。
 鏡島のユーベルコードによって励起状態となり、成獣の姿へと化したのだ。

 ――共に歩み、共に生き、共に戦うもの。

 彼らはまるで、光と影。
 共有するのは生命力、だけではないかもしれない。
 彼の恐怖が伝わるからこそ、クゥは勇猛に吼えるのだろう。

「クゥ!」
『グルゥ――ッ!』
 お手製のスリングショットを構えて、鏡島が呼び掛けると。
 クゥは焔を纏いながら、花々へと急速に迫る!
 近付いて来る何かに対して、影朧は死体を動かそうとするが……遅い。
 巨躯のライオンの突撃を受けて、敵は諸共に吹き飛ばされた。
 攻撃後の隙を狙う様に、別の個体が動き始めたが。

「いかせるか――よ!」
 振り上げられた刃物、伸ばされる根。
 其れら全てを、鏡島は正確に撃ち落とす。
 ……どちらを狙うべきか、理性が乏しい影朧達には判断出来ないまま。

 此の好機を逃す事無く。
 彼とクゥは息を合わせながら、確実に敵を撃破していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

手持ちのランプと暗視で何とかなるといいが。

いつもなら存在感を消し目立たない様に立ち回るが、今回はあまり意味がないか。
敵を見つけ次第、マヒを乗せたUC剣刃一閃で花を切り落としていく。
取り囲まれるようなら柳葉飛刀の投擲で牽制を。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で、自呪いには呪詛耐性で耐える。

死…俺にとって本体の破壊か。
でも俺のはじまりは持ち主の死で。
ヤドリガミとなってからも何度も心が折れるような事があった。
それに比べれは肉体の損傷なんて何でもない。



●断ち切る為の刃
 右手に胡、左手に黒鵺を。
 どちらか片方の手で、卵型の手持ちランプ――幻惑灯を持つべきか、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は考えていたが。
 ……どうやら、暗視だけで事足りると判断した様だ。
 普段ならば、存在感を消した上で目立たない様に立ち回るのだが。

「今回はあまり意味がない、か」
 死の呪いで足止め、戦闘を長引かせる。
 其れが、暗闇の最奥に潜む影朧の狙いならば……短期決戦が望ましいだろう。
 黒鵺は暗闇に紛れながら、微かに聞こえる引き摺る様な足音を頼りに進んで行く。
 ――さて、何処に居るのやら。
 恐らく、そう遠くには居ない筈だが……。

「ああ、其処か」
 抜き身の胡を、即座に振るう。
 真っ先に捕捉された花は避け切れず。
 少し間を置いて……上半分がぼとりと落ちた。
 其の音が聞こえたのだろう。流石に敵も、黒鵺の襲撃に気付いた様だ。
 根を伸ばしながら、影朧達は振り撒く。
 死を連想させる呪いを。

「(死……俺にとっては、本体の破壊か)」
 左手に握り締めた刃が折れた時。
 確かに黒鵺は死を迎えるのだろう、消えるのだろう。
 其の事実に、何も思わない訳では無いけれど。

 此処では無い、何処かの世界。
 盗賊で暗殺者だった持ち主の死が、彼のはじまりだった。
 ヤドリガミとなった後も、心が折れるような事が何度もあった。
 そして、死出の旅路を供出来なかった寂しさは、今も胸を締め付けている。
 其れらに比べれば……肉体の損傷や、此の程度の呪詛など。

「恐れるに足りないな」
 黒鵺は力強く踏み込み、黒鵺の刃を影朧へと深く突き刺す。
 其のまま、振り上げる事で敵の花弁を散らしてゆく。

 此の場に残る敵は少ない。
 ……此の数ならば、直ぐに終わるだろう。
 彼は二つの刃を振るい続け、次々に花を切り落としていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シエン・イロハ
ニナ(f04392)と

暗闇を進む間は先に立ち『暗視』『偵察』『情報収集』で索敵

敵と遭遇した時点で、『先制攻撃』『2回攻撃』『投擲』で【シーブズ・ギャンビット】
狙えそうなら宿主と華の接続している部位を『部位破壊』
宿主が人間だとしても攻撃に一切の躊躇なし

…ったく、面倒くせぇな
ニナ、お前下がっても戦えんだろ、あんま前出るな

あ?…どうせ俺にゃ対して効かねぇよ
自分の生死に興味もねぇのに、死を突き付けられたから何だってんだ

『見切り』での回避基本
ニナ、カガリへの攻撃は『かばう』
呪いへは『呪詛耐性』『激痛耐性』『息止め』等で耐久を

何で俺に対してまでキレてんだか…まぁいいか
ウゼェからとっとと失せろ


ニナ・グラジオラス
シエン先輩(f04536)と

暗闇はカガリや自身の魔力の炎で光源を確保

死を与えられる事が
私は終わりだと言われたようで、心底腹が立つ

うる…さい!ウルサイ!五月蠅い!!
私の終わりを勝手に決めるな!
そっちがその気なら、この炎を送り火にしてやる
あと、生死に興味ないとか言う先輩も…とりあえず覚えてろ!

呪いで衰えつつある呼吸や四肢は『環境耐性』や『医術』で最低限に動きを抑え、
塗りつぶされそうになる心を『鼓舞』して自分を奮い立たせる
『高速詠唱』と『範囲攻撃』に『2回攻撃』の【ウィザード・ミサイル】
炎による『継続ダメージ』で花弁ごと苗を燃やし尽くす

ダメージは『見切り』『オーラ防御』で防いで、『激痛耐性』で耐える



●燃え盛る怒り
「ぎゃうぅ……」
「カガリ、臭いは大丈夫か?」
「誰かさんが居たら、鼻が曲がってそうだな」
 ――煙草吹かしてても、キツいだろうしな。
 此処には居ない悪友の様子を想像しつつ、シエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)は周囲の警戒を続けていた。
 ニナ・グラジオラス(花篝・f04392)と焔竜――カガリから一歩前に出ているのは、己が暗視技能を持ち合わせている故か。
 そして……彼女は魔力による炎を維持しながら、彼の言葉に力強く同意を示す。
 其れは心配からではなく、ただ単に事実に対して肯定しただけの様だが。

「おい、ニナ」
「どうした、先輩」
「さっさと構えとけ、近くに居る」
 ニナへと告げた時には、シエンは既にプラエドーを数本投擲していた。
 無論、彼は其れだけで倒し切れるとは思わない。
 宿主が元は人間だとしても、躊躇する理由も無い。
 一瞬でも怯んだならば上々だ。ニヤリ、と彼はほくそ笑む。
 其のまま――黒塗りの槍を使い、苗床と花の接合部を的確に貫いた。
「しがみついてんじゃねぇよ」
 もう、奪う生命力はないだろうに。
 呆れた様に吐き出された言葉と共に、苗床から影朧が切断された。
 地に落ちた花は新たな肉体を求め、シエンに根を伸ばそうとするも……。

「火を重ね、炎の矢を成さん――さあ、焼き尽くせ!」
 高速詠唱を終えた後、数多の炎の矢が生み出される。
 ニナは即座に花へと向けて放つ事で、花も根も言葉通り焼き尽くそうと。
 ……シエンへと根が届く前に、影朧は炭と化して消えてゆく。
 此のまま、押し切れるか。
 いや、まだ警戒しなければならないものがある。

「……っ!」
 先に異変を感じたのは、ニナだった。
 追撃するべく、声を出そうとした……筈だ。
 声どころか、息すらも吐き出せない。
 喉を絞められているのか?何に?見えない何かが、握り潰そうとする様に。
 其れはシエンも同じだったが、彼は呪詛を鼻で嗤う。

「(どうせ、俺にゃ大して効かねぇよ)」
 あの日、一度死んだ様なものだ。
 ヒスイに助けられたから、今此処に立っているだけで。
 ……だからこそ、平静を保てているのだろう。彼は再び、槍を構え直していた。

「せん、ぱ……っ」
「ニナ、お前下がっても戦えんだろ。あんま前出るな」
「……っ、嫌だ」
「俺が仕留める。自分の生死に興味もねぇ、俺の方が動けるからな」
 死を突き付けられたから、何だってんだ。
 庇いながらの戦いは不慣れ故か、シエンは面倒と感じていたが……仕方がない。
 ――ウゼェから、とっとと失せろ。
 迫りつつある根に対して、彼がダガーを投擲しようとした時だった。
 息も絶え絶えの様子で、ニナが前へと進み始めたのだ。

「うる……さ、い……!」
「おい、ニナ。下がって――」
「ウルサイ!五月蠅い!ああ、黙っていられるか!」
 ――私の終わりを、お前達が勝手に決めるな!
 ニナの感情が爆発すると共に、炎の矢は轟々と燃え盛り始める。
 其れは最早、矢ではなく。
 まるで、一本一本が槍の様にも見えるではないか。
 死に塗り潰されそうになる心を鼓舞して、湧き上がる怒りを炎へと焼べて。
 周囲に浮かぶ其れらを一斉に、叩き付ける様に――彼女は放つのだった。

 燃えろ。燃えろ。
 花弁一つ、塵一つ残さず焼き尽くせ。
 そっちがその気なら、この炎を送り火にしてやる……!

 少し経った後、花香や死臭は消え失せて。
 代わりに漂い始めたのは、影朧が焼け焦げた臭いだった。

「先輩……」
「あ?んだよ」
「さっきの発言は忘れていないからな。とりあえず、覚えてろ!」
 ――言いたい事が山の様にあるからな!
 戦闘は終わったと言うのに、ニナはまだ憤慨していた。
 彼女の様子を見る限り、呪詛の影響は消えている様に見えるが……。
 何に対して腹を立てているか解らぬ程、シエンは鈍感ではない。
 しかし、解せない事もある訳で。

「……何でまだキレてんだか、あいつは」
「ぎゃう?」
 普段のクールな様子は何処へやら。
 灯りとして浮かべる炎は、無意識の内に火力が増している様に見える。
 シエンとカガリには其の理由が分からず、ただ疑問を浮かべるしかなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
闇の中を散歩するような調子で歩む
不運な苗床はなんだろうね

うつわが壊れることをこわいと思ったことはないなぁ
痛くても苦しくてもひとのように死んでも
どうせまたどこかで眼を覚ます
神は死なないから

でもね
“神の死”は見たことあるよ
同じ現身のきょうだいたちが消えるところ

つめたい
傷付いたところがひどく寒い
ほらこうやってどんどんつめたくなって
『私』の狂気にあてられて耐えられなくなって
うつわどころか心が消えてなくなって
世界から捨てられちゃうんだ

そうやって消えるのもぜんぜんこわくないよ
ただただそんな終わり方が厭なだけ
そうなる前に私は私として“死にたい”だけ

だからさぁ
神様を殺せないならどいてよ
笑って影が【私刑】を下す



●神の死
 真っ暗闇の中、まるでステップを踏む様に。
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は散歩を楽しんでいたが、何処か悲哀に満ちた死臭を感じ取り――ふと、足を止めた。

「例の花、不運な苗床とやらかな?」
 ひとに『死』を見せて、心を蝕む影朧。
 今此の時も、花香に乗せて運ばれる呪詛が其れだろうかと。
 ロキは見えているかのように、視線を泳がせてから……はあ、と溜息を零す。
 ああ、なんだ。こんなものか。

「(うつわが壊れて、ひとのように死ぬ)」
 大なり小なり、損傷すれば痛いのだろう。
 呼吸が出来なくなれば、さぞ苦しいのだろう。
 ……しかし、ロキはこわいと思った事は無い様だ。
 痛みや苦しみの果てに終わりを迎えても、其れは本当の『終末』じゃない。

 どうせまた、どこかで眼を覚ます。
 神は死なないから。

「ねぇ。神の死を、見たことがあるかい?」
 影朧は動かない。
 いや、違う。彼らは動けないのだ。
 理性に乏しい筈の存在は一様に、『何か』に対して畏怖していた。

「傷付いたところがひどく、寒くなって」
 つめたさが、消えない。
 寧ろ、時間が経つ毎につめたさは増してゆく。
 どんどんつめたくなって、うつわどころか心まで冷え切って、脆くなって。
 『私』の狂気にあてられて、耐えられなくなったが最後。
 ――パキィ……ッ。
 粉々に砕け散った後は、世界からぽいっと捨てられる。

「そうやって消えるのも、ぜんぜんこわくないよ」
 ただ、ただ。
 そんな終わり方が厭なだけ。
 私は『×××』として、死にたいだけ……だったのに。
 今回もダメか。残念だなぁ、それになんだか飽きてきちゃった。
 にっこりと、ロキは普段の様に無邪気な笑みを浮かべて告げるのだった。

「神様を殺せないならどいてよ」
 黒き槍が、真下から影朧を貫く。
 ……だが、私刑は此れで終わらない。
 影から出でる黒槍は、四方八方から何度も影朧を串刺しにしていた。

 神殺し出来ぬ、脆弱な影朧。
 もう飽いてしまったけれど、せめて消えるまでは愛そうか。
 邪神がつまらないものたちに与えるのは、破壊による救済だった。

 ――神は、気紛れだからね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リインルイン・ミュール
暗視というか、拡げた念で感じて(視えて)いるので視界は大丈夫ですガ
……触れてもいないのに判るくらいに、強い呪いのようですネ


一先ず、念を戦場に拡げ終える迄は回避に徹し、被弾を減らしマス
念による暗視、聞き耳で攻撃が来る方向を読んで見切りや武器受け、或いはダッシュで多少距離を取るなどです

「死」……凄まじい痛みや、身体が崩れていくような感覚になるのでしょうカ
或いは記憶の喪失、ワタシという意識の死……錯覚でも、それは嫌です
いずれにせよ各種耐性の駆使、己を鼓舞し耐えましょう
ワタシはヒトの為に力を振るい、歌うケモノ。この意思が尽きぬ限りは死にません!

念を拡げ終えたらUC発動
犠牲者の身体毎、花を灼き払いショウ



●救う意思、願い
 己の念動力を以って、周囲の状況を確認しながら。
 リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は慎重に進んで行く。
 反射する念から察するに、付近に潜む影朧の数は少ないと思われる。
 しかし、彼女は僅かだが……確かに、呪詛の気配も感じ取っていた。
 まだ触れてもいないのに、判る程とは。
 ――どうやら、かなり強い呪いのようですネ。

「(一先ず、拡げ終える迄は回避に専念しましょうカ)」
 少なくとも、物理的な攻撃は避けられる筈。
 代わりにサイキックエナジーの力場形成、拡散に時間を要するが……やむを得ない。
 リインルインは影朧の動きを読み、一定の距離を保つ様に移動を試みる。
 其れでも……呪詛の影響だけは、避け切れないか。

「死、ですカ……」
 リインルインはぽつり、と呟く。
 凄まじい痛みが襲い掛かるのだろうか。
 獣の姿がどろりと崩れて、此の暗闇の一部と化してしまうのか。
 船を滅ぼした日からの記憶を喪失し、己の意識も闇に混ざって消え失せて。

 伝え聞いた様な感覚だとしても。
 名前を呼んでくれた、最初の友達の事を。
 背負わなければいけない罪を、また忘れてしまうのか。
 今の自分が抱く想いすら、無かった事にされるのか。
 ……嗚呼。嗚呼。錯覚でも、其れは嫌だと彼女は強く思うのだ。

「ワタシはヒトの為に力を振るい、歌うケモノ」
 さあ、準備は整った。
 歪んだ命に滅びの祝福を。
 歪められてしまった命には、せめて……雷による浄化を。
 呪いに倒れぬ様を見て、影朧達が死体を操り、接近を試みるが。

「――この意思が尽きぬ限りは死にません!」
 其れよりも早く、赤雷が落とされる!
 サイキックエナジーの力場、其の範囲はとても広く。
 影朧達が距離を取ろうとすれば、動きが止まった直後に落雷が襲い掛かっていた。

 轟音が、続け様に響き渡る。
 犠牲者の身体毎、花を灼き払う為に。

 赤雷は迸り続ける。
 ……彼らが、今を生きるヒトビトを害さぬ様に。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『夜香影』群青』

POW   :    真ニ非ズ
【対象の全身を完全模倣し、適応させた異能 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【独自に再現した対象のユーベルコード】で攻撃する。
SPD   :    真ニ有ラズ
【UC『真ニ非ズ』 】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【思考、記憶、経験、対象が対象である要素】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    真ニ在ラズ
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【自らの体を作り替え、対象の完全再現模倣体】を作った場合のみ極めて精巧になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【お知らせ】
 プレイング受付開始は『10月9日(金)8時31分(予定)』からとなります。
 導入は今暫く、お待ち下さいませ……。
**********

●群青⇒極彩色
 俺、僕、私。
 ワタシは、オレは、だぁれ?
 誰だったか、思い出せない。覚えていない。
 おかしい。殺した相手は覚えているのに、己がわからないなんて。
 ――は何だ、――は何者だ?
 其れは、自我を求めては暗闇を彷徨うもの。

 花々を消し散らして、奥へと進んだ先。
 猟兵達は各々の場所で、暗闇の中で蠢く『何か』と相対していた。
 ……先程の花よりも、暗い青色。
 闇に紛れて、粘液の様なものが開閉する様は、不気味にも思えるだろうか。
 まあ、彼らにとっては瞬きや呼吸をしているだけの話。

 暗闇そのものの様な、虚ろな目。
 誰かが足を止める、息を呑む。
 そんな音に、反応を示して……ぎょろり、と。群青が、猟兵達を見た。
 そして、にたぁ……と笑いながら口を動かすのだ。

 オマエ、ヲ、ヨコセ。
 コレニヨコセ、ハヤク、ヨコセ。
 ヨコセ、ヨコセ、ヨコセヨコセヨコセヨコセ――。

 群青がどろりと溶けて、消えたかと思えば。
 何時の間にか、目の前で自分と瓜二つの『何か』が笑っていた。
 楽しそうに、愉快そうに嗤っている。
 ……獲物に対する、明確な殺意を隠そうともしないまま。

**********

【プレイング受付期間】
 10月9日(金)8時31分 ~ 10月10日(土)23時59分まで

【補足】
 本章では皆様の『過去』の姿を模倣、再現する敵との戦いとなります。
 群青が模倣した『過去』は、何かを語り掛けてくるかもしれません。

 覚えている『過去』が、今の貴方の在り様を嘆くかもしれません。
 覚えていない『過去』が、貴方を責め立てるかもしれません。
 もしかしたら、敢えて何も言わないかもしれませんね。
 そして、皆……貴方を殺して、成り替わろうとするでしょう。

 皆様自身の『過去』に呑まれぬ様。
 ……どうぞ、お気を付け下さいませ。
贄波・エンラ
『可哀想になぁ』
何がかな
『思い出してもらえんあの子らが可哀想や
僕の教え子。僕を師匠と呼んでくれるあの子。僕らのボスの事
なぁ自分
いつまで死んだままでいるつもりなん?』
いつまで?
僕はとっくに死んだのだろう?だから悪霊なのであって
『【鋼の鷲】の一員であることさえ忘れた僕に、生きとる価値はないなぁ』
鋼の、鷲
待ってくれ
それは僕にとってとても、大切な言葉であったはずだ
『なぁ、君が忘れてまうほどいらへんのやったら
僕に頂戴よ
あの子らの先生、師匠である事も、【鋼の鷲】である事も』
…いや、お断りしよう
きっとそれは、譲れない
譲れない「僕」だけのものだ
今の僕が忘れてしまっていても、それでも
だから、すまないね

消えてくれ



●過去は嗤う
 何か、大切な事を忘れている気がする。
 あの日に何があったのか。
 ボスと呼んでいた誰か、己を気遣う様な視線を向けていた者達。
 ……幾ら思考を巡らせど、思い出す事は叶わず。
 贄波・エンラ(White Blind・f29453)はふう、と静かに煙を吐き出した。

『可哀想になぁ』
 贄波を嗤うも、また贄波。
 灰色の双眸に淀んだ光を宿した、夜香影が模倣した姿だ。
 ――影朧は嗤う。本当に可哀想や、今の僕はとても酷い奴やなぁ。

「何がかな」
『僕の教え子、僕を師匠と呼んでくれるあの子。僕らのボスの事』
「…………」
『【鋼の鷲】である事も。みぃんな、忘れてしもうた』
 ――思い出してもらえん、あの子らが可哀想や。
 そうは思わないか、と影朧が問い掛ける。
 いつまで死んだままでいるつもりなのか、と続け様に問い詰める。

 贄波は何も言わなかった。
 否。彼は言葉を発するよりも、浮かぶ思考を処理する事に集中していたのだ。

 ――鋼の、鷲。
 其れは僕にとって、とても大切な言葉であった筈だ。
 胸を強く締め付ける程に、大切だったという事は解るのに。
 偽物が告げた『一員』という単語から察するに、他にも誰かが居たのだろう。
 いいや、居た。彼らが居たじゃないか。

 僕らのボス。
 僕の事を先生と、師匠と呼んでくれる誰か。
 何処かで、誰かと、秩序に反しながらも。生きて、笑って――。
 嗚呼。でも、皆の顔が見えない。

『なぁ、君が忘れてまうほどいらへんのやったら……僕に頂戴よ』
「……いや、お断りしよう」
『思い出せへん自分に、生きとる価値あるん?』
「さあ、どうだろうね」
 影朧の嗤笑に、贄波は酷薄な笑みで返す。
 死した身、記憶は忘れども。きっと、其れは譲ってはいけないもの。
 忘れてしまっていても、其れだけは譲れない。

「だから、すまないね」
 ――消えてくれ。
 先に吐き出した煙が形を成し、鎖剣と化す。
 其の刃が伸びて、うねり、影朧を縦に両断した直後。
 模倣によって生み出された煙が霧散して、群青の液がどろりと崩れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
過去のオレの模倣
今と変わらぬ姿のオレ

表情の変わらない過去が嗤う
主の望んだ人形にもなれず
主の望んだ命を咲かせられず
どちらにもなれない、どちらになるべきか未だ迷っている半端者
せめて「模倣」しろと責める
せめて「咲かせろ」と責める
それが出来ぬならば――

ああ、わかっているよ
オレはまだ迷っている
あの人の望んだように「オレとして生きる」べきか
あの人の最初の望みのように「ディフと成って生きる」べきか
…あの人はもう居ないのにね

けれど決めあぐねているからこそ、まだ生きなければ
それに貴方がオレになったら、悲しませてしまう子にも心当たりがあってね
だから、neige

樹氷を作ろう
最果ての冷気で、過去よりも先へ歩いていくよ



●過去は強いる
 ……とても、酷い臭いだ。
 表情は変えずとも、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)はおびただしい死臭に僅かな不快感を抱かずにはいられなかった。
 不浄な気配が多い為か、彼に寄り添う雪精――ネージュはフードの中に隠れている。
 花々は既に散っていた為か、呪詛の気配は消え失せていたけれど。

『まだ、答えは出ていないんだね』
 目の前には、今と変わらぬ姿のディフが立っていた。
 表情だけではなく、言葉は酷く淡々としている……影朧が模倣した、彼自身。
 彼の言葉には喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも全く無い。

『主の望んだ人形にもなれず、望んだ命を咲かせられない半端者』
「……否定は出来ないね」
『わかっているなら、選べばいい』
 せめて、望んだ人形を模倣するか。
 或いは、望んだ命を咲かせるか。
 二つに一つを選ぶだけ、其れが出来ぬならば――成り代わり、自分が選ぶと。
 影朧はまた淡々と、ディフへ事実を告げていた。

 ――ああ、わかっているよ。
 眼前の己の表情からは判らないが、嗤われても仕方がないと思う。
 あの人が最初に望んだ、『ディフ』と成って生きるべきか。
 あの人が後に望んだ、『オレ』として生きるべきか。
 自我や意識を持ってから、十年と少し。
 ……答えは今も、出ないままだ。

「迷っている事は事実だ。でも――」
『……?』
「貴方がオレになったら、悲しませてしまう子にも心当たりがあってね」
 だから、neige。
 ディフの呼び掛けに、フードの中から灰雪がふわりと現れる。
 彼が紡ぐ言葉を、告げる声を静かに聞いていたからだろう。
 厳冬の雪精が呼び寄せるは、最果ての冷気。
 さあ……模倣する魔の夜香を凍らせて、樹氷を作ろう。

「オレはまだ、生きるよ。生きなければと思うんだ」
 過去よりも先へ、歩いていく。
 ……あの人はもう居ないと、解っている。
 歩んだ先で答えが見付からないかもしれない、どちらも選べないかもしれない。

 其れでも……。
 あの人の最後の言葉に従った結果、だったとしても。
 此れまで、己が繋いできた縁を大切にしたい。
 そんなディフの意思はきっと、迷い無いものの筈だから。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱赫七・カムイ
私に『過去』なんてないよ
つい最近うまれたばかりの
…還ってきたばかりの神だから
無いはずなんだけれどな

噫、『そなた』は誰だい?

赫い三つ目
闇夜を纏う黒の神

しってるよ
記憶はなくても識っている
カラス……いいや
厄神、硃赫神斬

前の私だよね
覚えてないけどしっているよ

そう怖い顔をしないで
そなたの未練は
ちゃんと私が晴らすよ
…それが何なのか
わからないのだけど

不甲斐ない私に怒っている?
至らない神である私がもどかしい?
あの櫻の隣に居る私を羨んでいる?

切り結べばわかる
紛い物であれ私はまだ彼に劣る

でも

私とそなたは同じであれど違うものなんだ
私達は同じだけど「おなじ」にはなれない

あの櫻の隣は心地好くてね
例え私であれど

譲れないよ



●過去は嘆く
「(私に『過去』なんて、無いはずなんだけれどな)」
 朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)は、つい最近生まれたばかり。
 否、還ってきたばかりの神と称した方が正しいだろう。
 だからこそ……彼自身が理解している通り、転生前の記憶は無い。

 ――噫、『そなた』は誰だい?

 そんな言葉を紡ごうとして、彼は一度止めた。
 赫い三つ目。
 闇夜を纏う黒の神。
 記憶は無いが、彼は識っている。

「カラス。いいや……厄神、硃赫神斬」
『覚えているんだね』
「覚えてないけどしっているよ。前の私だよね」
 朱赫七もまた喰桜を抜刀。
 眼前の厄神が怖い顔をしている理由、未練が何なのか。わからない。
 だが――切り結べばわかる。そんな気がしたから。

 一閃、二閃。
 二つの朱の刃が交差し、金属音を響かせる。
 そして鍔迫り合いの最中、厄神が呪言を零し始めた。

「……っ!」
『君の考えている通りだよ、総ての感情を否定はしない』
 不甲斐なさへの怒り。
 至らない神へのもどかしさ。
 あの櫻の隣に居る『己ではない己』への羨み。
 ……噫、そうだとも。されど、其れ以上に赦せない事が在る。

『何故、呪いを抱いたまま消えなかった』
 八岐大蛇の呪い。
 転生を受け入れたら、どうなるか。
 気付かなかった訳が無いだろう、知らぬ存ぜぬはまかり通らぬ。
 ――淀んだ刃が、朱赫七の腕を浅く斬り付ける。
 力強い太刀筋に込められた感情、想い。
 影朧が模倣しただけだと、彼は理解している。しかし、此の感情は……。

「噫、そうか」
『……?』
「私とそなたは同じであれど、違うものなんだ」
 再約を司る神、災厄を司る神。
 音の響きは同じでも、意味が全く異なる様に。
 私達は同じだけれど、決して『おなじ』にはなれない。

「約束を交わしたんだ」
 共に旅をしよう。
 色んな世界をみに行こう。

「其れに、あの櫻の隣は心地好くてね」
 倖を転じて、厄と成す。
 朱赫七が試みるは、一時的な『過去』の権能の再現。
 ……神殺の神刀を手にした、枯死黒桜纏う厄神の姿へと変ずれば。
 彼は模倣の神を、赫の一閃に瞬断する。

「例え私であれど、譲れないよ」
 櫻から貰った名前。交わした約束。
 記憶が無くとも、『また』逢えて嬉しいと感じた時の事。
 ――其れらは『今』を選んだ、私だけのもの。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱雀野・ヤチバ
よォ偽物のオレ
随分しけた面ァしてンなァ
覇気の無ェとこを見ると
…フン、"あの時"のオレか

己相手に躊躇も無ェが
無言なのがどうも気に食わねェ
その未練たらたらな目も
…だから女になンか生まれたくなかッた

攻撃見切り野生の勘で好機と見たら
覚悟決めがっちり手首を掴み
反対に掌底を喰らいつつも
ぐッと唇噛み締め構やしねェと引き寄せて

いいか、テメェの旦那は死ンだ!
謂われ無き罪をひッかぶッて冷たい土に埋められた!
後追いは失敗して生き恥晒して
今じゃこのザマ
飲んだくれの藪医者ごッこさァ
…女々しく旦那の跡を継いじまッて、な!

叫びと共に[廻蛇]
行きな、日照
内側から傷をよォく抉ッてやれ

最期に教えてやらァ
生きて呑む酒は、格別だぜ



●過去は引き摺る
「よォ、偽物のオレ」
『…………』
「随分しけた面ァしてンなァ。覇気も無ェ、生への欲もありゃしねェ」
『……、……』
 朱雀野・ヤチバ(馬手に青を弓手に赤を・f28023)が相対した過去は、ただただ沈黙し続けるばかり。
 幾ら声を掛けども、面構えを揶揄しても。何の反応も示さない。
 文字通り……心、此処に在らずといった様子。
 模倣した過去の指先に土が付いているのを見て、彼女は理解した。

「フン、『あの時』のオレか」
 随分と芸が細かいこッて。
 己相手に躊躇も無いが、朱雀野は眼前の存在がどうも気に食わない。
 無言……いや、良く見れば少し違う。声無き声を上げていた。
 其れは唇の動きだけで、何かを呼び続けている。
 紫の瞳が曇るは、彼女曰く『未練たらたら』故なのか。

 ――だから、女になンか生まれたくなかッた。

 あァ。あァ、クソッ。
 彼女は過去の己へ、ずんずんと歩みを進める。
 そして、何時までも地面を見てばかりいる過去の手首を強く掴んだ。

 影朧が好機と見たか。
 或いは、模倣した過去の咄嗟の行動か。
 放せと言わんばかりの力強い掌底が、彼女の腹部に叩き付けられるも。
 ……構やしねェ。
 彼女は唇を噛み締めて、強く引き寄せて。
 無理にでも目を合わさせて。
 吼え猛る様に、叫ぶ。

「いいか、テメェの旦那は死ンだ!」
『……っ』
「謂われ無き罪をひッかぶッて、冷たい土に埋められた!深く、深ァくなァ!」
 掘り返せる筈も無かった。
 せめて、彼の後を追おうとしたのに。其れも失敗に終わって。
 生き恥晒して、今じゃこのザマ。
 ――問題案件の大安売り、飲んだくれの藪医者ごッこさァ。

「女々しく旦那の跡を継いじまッて、な!」
『ぅ、そ』
「……嘘じゃねェよ、現実だ」
 其れでも尚、過去に囚われたままならば。
 朱雀野は日照を嗾けて、内側から傷をよォく抉ろうとする。
 体内を這いずり回る不快感のあまりか、敵の姿がどろりと崩れ始めていた。

 最期に教えてやらァ。
 生きて呑む酒は、格別だぜ。
 ……まァ、アイツと呑む酒にゃ敵わねェがな。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・ユア
【月唄】
アドリブ可

群青が溶け、出会うのは
幼き姿の過去の自分

酷く虚ろな眼差しで此方を見つめてくる

『お前に守れるものなんてあるのか?』

僕という存在は決して祝福などされず生まれてきた穢れた存在

『多くの人に望まれずに生き続けることに何の意味があるんだろう
僕は全てがとても恐ろしい…そして、憎らしい』
生を投げ出した虚ろな姿
己を暗闇で傷つける全てを恨む姿があった

暗闇の中で心が痛む
生きていたってこの命に意味はあるの?

「意味なんてないかもな
それでも守りたいものがあるんだ」

それでも生きていたいと望むのは

闇の中
ただ命を奏でる歌が
この心震わせるから

ほら、今も聲が聴こえる

だから
僕は刃を握らないと
唄が僕を突き動かす限り


月守・ユエ
【月唄】
アドリブ可

暗闇に歩を進めてこの瞳に映るのは
月の衣に身を包んで涙を流す”わたし”

『唄を紡いで祈っても
彼には届かない
それをわたしは知っている…
どうして
貴方はまだ歌い続けるの?
この唄は希望は紡げない
この聲が齎すのは大切な人を狂わせる絶望

もう唄わないで
こんな聲、力…嫌いよ』

それは強い自己嫌悪
戸惑って思わず足を止める

この唄はかつて多くの人を
”あの人”を幸せにしたかった歌

僕が覚えてない記憶の絶望
喪失した姿

「それでも
わたしは歌わないといけない
せめて…彼がこの唄の音を止めるまで」

わたしがあの人を狂わせてしまった償いだから

そっと清音に月のように歌を紡ぐ
――ユア…聴こえてる?
大丈夫だよ
暗闇は僕が払うから



●過去は厭う
 月守・ユエ(皓月・f05601)は暗闇を駆けていた。
 駆けて、駆けて、駆け抜ける。
 ……理由は解らないけれど、胸騒ぎが止まらないから。

「(ユア……!)」
 大切な双子の姉。
 己を守ってくれる人。
 何処か遠く、彼女の叫びが聞こえた気がしたのだ。
 此の依頼を予知したグリモア猟兵が知人だった事は、ユエにとって幸いだったかもしれない。

 暗闇の何処かに居ると判ったものの、何処にいるのだろう。
 早く、見付けないとと思うのに。
 気持ちばかりが急いて、ユアの気配が見付からない。
 ……そんな時、ユエは液体がぽたりと落ちる音を耳にした。

「あれは……」
 ユエが振り返った先、立ち尽くしていたのは。
 月の衣に身を包み、静かに涙を流している……彼女自身だ。

 どうして、泣いているの?
 どうして、そんなに悲しそうな瞳をしているの?
 どうして……貴方は言葉を紡ぐ事にさえ、恐怖を感じているの?

 ユエは疑問を抱き、足を止めて。
 確り、過去と向き合う。
 向き合わなければならない、そんな気がしたから。

『……どうして、貴方はまだ歌い続けるの?』
「えっ……」
『この唄は希望は紡げない』
 ――この聲が齎すのは、大切な人を狂わせる絶望。
 幾度となく言葉を織り成して、唄を紡いで、祈りを捧げたとしても。

 彼には届かない。
 其れをわたしは、知っている。

 唄いたくない。唄わないで。
 月歌姫の過去は首を横に振りながら、震える聲で告げる。
 こんな聲も、力も……忌むべきものだと。彼女は嫌悪を隠さない。
 其れが、自己の否定に繋がるとしても。
 ……嗚呼。なんて、悲壮な聲なのだろう。でも。

「それでも、わたしは歌わないといけない」
『絶望を振り撒くだけなのに?』
「……償いだから」
 覚えていない絶望、喪失した姿。
 多くの人を、『あの人』を幸せにしたかった筈なのに。
 狂わせてしまった償いの為、ユエは唄う。
 唄い続ければ、いつか……彼が唄の音を止めに来るでしょう?

 ――月ノ祈歌【命煌】を唄おう。
 さあ。祈りを乗せて、言葉を紡ごう。
 光届かぬ暗闇の中でも、月は此処に在るから。
 どうか、この聲が届きますように。

 ねえ。ユア、聴こえてる?

●過去は恨む
 ――聲が聴こえた、気がした。
 月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)の心に安らぎを齎す、音。
 無我夢中で銀花を振るい続けている内に、随分奥深くまで来てしまった様だ。
 此の聲は、何処から聞こえるのだろう。
 いや、来た道を振り返った先……遠くに月明かりが見えるじゃないか。
 彼女は迷わず、足を踏み出そうとするが……。

『お前に守れるものなんてあるのか?』
「えっ……?」
 憎悪に塗れた、聲。
 己の口から発せられたものではない、別の其れ。
 ユアは思わず目を見開き、眼前に立つ人物を見据える。
 ……群青が溶けて、現れたのは過去の自分。幼き、忌み人。

『多くの人に望まれずに、生き続けることに……何の意味があるんだろう』
 酷く虚ろな眼差しが、ユアを射抜く。
 命を蝕み、死を齎す力を宿して生まれてきた、穢れた存在。
 祝福などされず。己の髪は、夜空を映す事さえも赦されない。

『僕は、全てがとても恐ろしい』
 ――そして、憎らしい。
 地下深い暗闇に隔離されて、忌み人と蔑まれては傷付けられる。
 常人ならば、気が狂いそうな日々。
 幼き過去が生を投げ出し、周りを恨むのも無理は無いとユアは思うのだ。
 実際、そんな風に思った事が……彼女本人にもあったからか。

「意味なんてないかもな。守り人の役目も果たせないかもしれない」
『だったら、どうして……』
「……役目だけが、理由じゃないからね」
 可愛く、愛らしい双子の妹。
 僕の大切なお月様。大好きな半身。
 ユエを守りたいと思う心は、憎しみにも勝る感情だから。

「ほら、今も聲が聴こえる」
 命を奏でる歌が、此の心を震わせるから。
 ユアもまた、殺戮ノ呪歌を奏でようとする。
 模倣した過去を両断して、月光の元へと迅速に駆けようと。

「ユア!」
「ユエ、伏せて」
 ユエの唄が、ユアを突き動かす。
 死の力を纏わせた刃は、ユエの過去を容赦無く斬り裂いてゆく。
 姫巫女の姿をしていても、迷う事は無い。
 ユアは決して、断つべき月を違える事は無かった。

 ……此の身は、大切な妹を護る為に在るから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。
引き続き『静かなる者』

短い白髪で、青い目の…ああ、正しく私の過去:梓奥武孝透(しおう・たかゆき)ですね。
二度と戻らぬ姿でもありますか。

どうしてそのまま消えなかった、と。
私が消えていれば、他の三人も消えているはずだったのに。

…今の姿を決めたのは、確かに私ですけれど。そうなるとは限りませんよ。
ええ、私がせずとも、誰かがやっていた。到達する場所は同じ。
無念は消えず。この四人でまた、戦いたかったのですから。
成り代われるとは思わないことです。
破魔矢を撃ちましょう。それも、間断なく。

この程度で負けるならば、『疾き者』の妹御で、私の霊力方面の師匠である彼女に怒られます。



●過去は責める
 短い白髪、青色の双眸。
 藍の襟巻きを首に、白雪林を持つ者。
 嗚呼。其れは正しく、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)が内の一人。
 ……静かなる者、梓奥武・孝透(しおう・たかゆき)の姿だった。

「成程。模倣ならば、二度と戻らぬ姿でも再現出来ると」
『……戯言は無用でしょう』
「おや。何か、腹に据えかねる事でもあるのでしょうか?」
 記憶の己よりも、眉間の皺は深く。
 冷静の様に見えるが、憤怒が隠し切れていない。
 其の理由は――馬県が聞かずとも、梓奥武が答えようとしていた。

『どうして、そのまま消えなかった』
 あの日の事を忘れたとは、言わせない。
 何故、死に際にあの様な真似をしたのか。
 ……そうだ。私が、最後に大人しく死していれば。
 あのまま消えていれば、他の三人も消えている筈だったのに。

『答えよ、梓奥武・孝透!』
「……そうなるとは限りませんよ」
『何?』
「今の姿を決めたのは、確かに私ですけれど」
 ――私がせずとも、誰かがやっていた。
 静かなる者が選ばずとも、到達する場所は同じ。
 疾き者が、侵す者が、不動なる者が決めていたかもしれない。

 無念が消える事は無い。
 また四人で戦いたい、此の気持ちを無かった事には出来ない。
 故に――我ら四人は『馬県・義透』と成る事を選んだのだ。

「成り代われるとは思わないことです」
『……っ!』
 精巧であれど、所詮は模倣に過ぎず。
 白雪林に破魔矢を番えて、引き絞り……放つ。
 動き始めは同じでも、先に矢を放ったのは馬県だった。
 梓奥武の身体がどろりと崩れ、群青へと姿を変えてゆく。
 影朧の邪気が完全に消えるまで、彼は間断無く破魔矢を放ち続けていた。

「この程度で負けるならば」
 ――『疾き者』の妹御で、私の霊力方面の師匠である彼女に怒られますから。

 別の世界、とある和風一軒家の縁側。
 何かを察した様に、中老の女性が微笑んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

嘉納・日向
頭の中の親友が、
懐かしいねぇ、なんて呟いた気がした
多分、真新しい制服からしてあの子と出会った頃かな
でも、目だけは全てを知っているようにどろっとしている
くらい、青色。夜の色

私ならあの子を憎まなかった
私なら、あの子とずっと友達でいられた
ねぇ人殺しさん?
なんて、向こうの私は笑ってたりして
……すごい刺さる
あの子が眩しくて、取り返しのつかないことをしてしまった
体は見つかんないし、UDC怪物だとかどーとか聞いて裏山行けないし
いろいろ償いきれないし
……だから
背負ってくんだから、ほっといてよ

それ以上は喋んないでよ
足を止めるつもり、ないから

『そゆこと!だからバイバイ、昔のひなちゃん!』
シャベルを、振り下ろす



●過去は罵る
 ――懐かしいねぇ。
 頭の中で呟かれた声の主――ひまりは、どことなく嬉しそうだ。
 真新しい制服、ぴかぴかの学校鞄。
 青と白のチェック柄のリボンは、確りと結ばれていて。
 恐らく……ひまりと出会った頃の、嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)の姿だろう。

「でも……」
『目が怖い、とでも言いたいの?自業自得でしょ』
 嘉納の心の内を見透かした様に、彼女の過去が嘲笑う。
 過去は、穏やかな笑みを浮かべている様にも見えるだろう。
 ――しかし、目は雄弁に憎悪を語る。
 全てを知っているかの様に、どろりとした瞳。月無き、あの日の夜の色。

『ねぇ、人殺しさん?』
 私なら、あの子を憎まなかった。
 私なら、あの子とずっと友達でいられた。
 裏山の穴に落として、埋めて、逃げたりなんかしない。

 ――非道な人殺しさんは、罰を受けないとね。

 過去は、罵る。
 言の刃で、嘉納の心を突き刺していく。
 あの子があまりにも眩しくて、取り返しのつかない事をしてしまった。
 裏山には行けず。身体が見付からない。

 犯した罪は償い切れない。
 そうだ、其れは良く解っている。
 ……だからこそ、途中で投げ出してはいけない。
 罪を背負っていかなければ、と彼女は強く思うのだ。

「それ以上は喋んないでよ。足を止めるつもり、ないから」
『そゆこと!』
 日向の背後から現れた『誰か』は其の場で、力強く跳躍。
 オルタナティブ・ダブルによって、人型の姿で具現化したひまりは影朧へ向かい――落下の勢いを乗せて、シャベルを振り下ろそうと試みる。
 何故だろうか。彼女は不思議と、むすっとした表情を浮かべながら。

『だからバイバイ、昔のひなちゃん!』
 其の理由を、真意を知る前に。
 ひまりのシャベルによる一撃は、影朧にクリーンヒット!
 敵の模倣が崩れ、よろめいている内……暗闇に響くのは破裂音。
 日向が手にした『れいめい』が、敵の頭部を的確に撃ち抜いたのだった。

 ……静寂が戻る。
 其れでも、ひまりはまだ少し不満そうな?

『ひなちゃんをからかっていいのは、あたしだけなんだから!』
「そこに怒ってたの、あんた……」
 嘉納は深々と溜息を吐き出しては、ぽつり。
 当然!堂々と言い切る親友の姿を見て、彼女は微かに笑みを浮かべた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライナス・ブレイスフォード
俺に似た何か
それに何故共に逃げなかったと問われれば幼馴染と過ごした日々が蘇り動きが止まる

共に逃げる等考えもせず唯この時が続けばと願った甘い己を
彼女の赤を口にした時感じた欲を恐れ、祖父の命を無視し名も知らぬ家畜の赤ばかり啜り続けた己を
明日は無いと知りながらも又明日にと何時も通りの言葉を紡いだ彼女の表情に、その意味に気付けなかった己を
そして、知らぬ侭白い皿に乗った肉を切り分け口に運んだ時の―…

思考の中詰めが甘いのだとそれが笑えばリボルバーを構え【ブラッド・ガイスト】
全てお前が喰らってやれば彼女も報われただろうにと嘯く声を遮り攻撃を続けんぜ
…彼女が為ったんは俺の血肉なんでな
あんたは大人しく消えてろよ



●過去は揶揄う
 唯、此の時が続けば良いと思っていた。
 幼馴染と呼べる『家畜』と、気紛れに会話を楽しむ。
 当主……己の祖父の命令など、はっきり言ってどうでもいい。
 今が続けば良い。そんな思いを抱きながら、男はゆっくりと立ち上がった。

 ――んじゃ、又明日な。
 ――ライ、ナス……。

 手を伸ばしても、届かない。
 呼び掛けに立ち止まり、ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は振り返るも……彼女は努めて、笑みを浮かべる。

 ――何でもない。また、明日ね。

 嗚呼、あの時……。
 もしも、声の震えに気付いていたならば。
 何でもない、に隠された意図を察する事が出来ていたならば。
 彼女を閉じ込める檻を壊して、其の手を引いていたならば。
 ……何かが、変わっていたのかもしれない。

『はっ、今更だろ?』
 貼り付けた様な、乾いた笑み。
 過去は喉を鳴らす様に笑い、詰めが甘いのだとライナスを揶揄していた。

 ――何故、共に逃げなかった?
 過去が告げた言葉を耳にしたから、だろうか。
 幼馴染と過ごした日々が、彼の脳裏を過ぎり……動きを止めさせていた。

 彼女の『赤』を口にした時、湧き上がった欲。
 其の欲を避ける様に、名も知らぬ家畜の『赤』ばかりを啜り続けていた。
 また、明日。そんな些細な願いが、此のまま続けば良い。
 知らぬ侭、皿の上に乗った馳走を切り分けて、口に運んだ時。
 ……己の願いは、儚い幻想だと思い知らされたけれど。

「……彼女が成ったんは俺の血肉なんでな」
『他の奴らの一部にもなったんじゃねぇか?どうせ、あいつも同じ末路を――』
「黙ってろ」
 其れ以上、口を開くなと。
 ネオングリーンの双眸に怒りを宿して、ライナスは即座に足へと発砲。
 影朧は回避するも……。
 彼は動きを読み、着地点へ銃口を向けた。

 ――バンッ!
 敵が体勢を崩した所を、思い切り踏み付けて……普段よりも低い声で告げるのだ。

「あんたは大人しく消えてろよ」
 鈍器で殴り付けた様な、鈍い音が響く。
 踏み付けている過去の己の、群青の……貼り付けた笑みが消えるまで。
 殺傷力を増した弾丸で、ライナスは何度も撃ち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

スキアファール・イリャルギ
(四肢と首に枷と千切れた鎖
ボロボロの患者衣と呪瘡包帯

――『アリス』だった私か)

……下手な模倣だな
当時は心が壊れてて歌うことしか考えてなかった
そんな風にニタニタ笑ってた覚えは無い

(命じられる儘に歌っていれば
オウガの見世物で居ればよかったのにと群青は笑う

そうか
「これ」は[あの子]が私に会う前の私
私が憶えていない"私"なのか)

……何を知ってるって言うんだ
黙ってさっさと消えろ

(嗤われる
罵られる
歌えと喚かれる)

うるさい……

(――〈ほら、歌ってみろよ人殺し! 役立たずの『アリス』!〉)

――私の姿で"私"を語るなぁああアアッッッ!!!


(UCで戦力増加形態へ
敵を掴み押し倒し
最大出力の雷(属性攻撃)を浴びせる)



●過去は語る
 暗闇の中、誰かが静かに立っていた。
 四肢と首を戒める枷に、千切れた鎖が繋がっている。
 身に着けた患者衣はボロボロで、破けた部分からは呪瘡包帯が見え隠れ。
 ……ニタニタと笑う誰かの姿に、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は見覚えがあった。見間違う筈も無い。

「これは『アリス』だった私か」
『ははっ、ははは……っ』
「……下手な模倣だな」
 模倣と言えど、出来が悪過ぎる。
 当時は心が壊死し掛けて、歌う事しか考えていなかった。考えられなかった。
 今、過去が浮かべている様な……ニタニタとした笑みを浮かべる余裕など無かった。
 お粗末な真似事に、スキアファールは冷静さを保っていたものの。

 命じられる儘に歌っていれば良かったのに。
 オウガの見世物、生きたオルゴール。
 ……そんな風に歌を紡いでいれば良かったのにね?

「うるさい」
 ニタニタ。ケラケラ。
 スキアファールが苛立つ様子を見ても、過去は嗤う。嗤う。
 過去の口振りから、彼は察する事が出来た様だ。
 此れは……『あの子』が、彼に会う前の彼。
 彼が憶えていない、彼なのだと。

「……何を知ってるって言うんだ。黙ってさっさと消えろ」
『思い出したくないから?』
「うるさい、うるさい、うるさい……!」
『それしか言えないなんて……ははっ、無様じゃあないか!』
 ――黙れ。
 黙れ。黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ。

 桜の精の医師から渡された、黒符の治癒力を取り込んで。
 全身を『恐怖の影』で染め上げたスキアファールが、過去を簡単に押し倒すも。
 其れは尚も嗤う。ニタニタと嗤って、彼を滑稽だと嘲り続けて。
 そして……口にしてはいけない言葉を、喚く様に言い放つ。

『ほら、歌ってみろよ人殺し!役立たずのア――』
「――私の姿で『私』を語るなぁああアアッッッ!!!」
 絶唱、咆哮。
 役立たずなんて、言わせるもんか。
 そう、思っていたのに。この影朧は罵る様に告げて来た。

 a縺嗚ァあ゛ゝAア縺ぁ噫――!
 スキアファールの怒りと共に、雷の出力が上がっていく。
 そして、最大出力まで達した其れを……彼は敵へと、容赦無く浴びせに掛かっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月
過去を真似ただけの自分に、今の俺が負ける訳がないと思う。

俺はそれなりに成長してきたと思う。
何より今の俺は、か弱かった狐とは違う。

じいさんが、猟兵の皆が、人々と世界が、俺を妖狐に育ててくれた。
元々俺が何だったか、記憶は無いけれど。
皆が育ててくれた妖狐の俺が、過去に負けるはずないと思う。

[野性の勘、第六感]で過去の俺の挙動に注意したい。

ダガーとエレメンタルダガーを装備、UC【精霊共鳴】で強化をしたい。

風の精霊様に俺を加速させて貰い、立ち回りたい。
月の満ち欠けの闇を利用した[属性攻撃]で、闇の重力で押し潰したい。

敵の攻撃は[カウンター]で対処したい。
大きくても、過去を真似てるなら負けない



●過去は願う
 ――過去。
 妖狐としての自覚無き、狐。
 暗闇から現れ、警戒心を剥き出しにしている様を見て……木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は片刃、諸刃の短剣を構える。
 同じ様な匂いを感じ取ったからか。
 月の精霊、チィは不思議そうに首をこてりと傾けていた。

『――、――ッ』
「(帰りたい……森、に?それとも――)」
 過去の鳴き声は何故か、寂しげで。
 其の真意は、木常野が覚えていない記憶が知っているのか。
 ……元々、俺は何なのだろう。何処で生まれたのだろう。
 彼の中で疑問が浮かぶも、目の前の過去は影朧の模倣に過ぎない。
 仮に問い掛けても、答えは返って来ない筈だから。

「今の俺は、か弱かった狐とは違う」
 森で暮らしていた日々から、数々の出会いがあった。
 じいさんが、猟兵の皆が……。
 多くの人々と世界が、木常野を妖狐に育ててくれたのだ。

 出会いの喜び、別れの寂しさ。
 狐の本能、妖狐の自分との狭間。
 沢山の経験があって、今の『木常野・都月』が在るから。

「どんなに強くても、過去を真似てるなら――負けない!」
 風の精霊様の助力のお陰で、身体が軽い。
 過去の俊敏な動きにも、木常野は充分に対応出来ていた。
 狐の爪と、ダガーの刃がぶつかり合う。
 恐らく、互角に渡り合えている。だからこそ、もう一押し……!

「チィ!」
 ――呼び掛けに応える鳴き声が聞こえる。
 エレメンタルダガーに宿っていた、チィの声だ。
 木常野の声に込められた決意を感じ取り、其れに報いたいと思ったのだろう。
 小さな身体に見合わぬ、大きな月の魔力が生み出すは……闇。
 月の満ち欠けが、過去の動きを止める。
 凄まじい重力が襲い掛かり、身動きすらも封じていた。

『……ッ!』
「元々俺が何だったか、記憶は無いけれど」
 過去を真似ただけの自分に、今の俺が負ける訳がない。
 消える間際、記憶が無い事を責める様な鳴き声を上げていたが。
 ……木常野は毅然とした様子で、過去の消滅を見届けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニナ・グラジオラス
シエン先輩(f04536)と

兄が竜騎士を突然辞め、何も語られずにカガリを引き継いだ時の自分が
魔力を蓄える髪を伸ばして悪あがきかと、いまだ当時の兄にも及ばないのかと罵って立ち塞がる

たった数年で成人していた兄を超えられないのは分かってるから、別に腹立たしくはない
それに…『高速詠唱』の【緋奔り】を発動して『2回攻撃』の『先制攻撃』
今のカガリとの絆は、過去の私にも、兄にも負けないのを知ってるから

敵からの反撃には、
自分に頓着がない先輩の偽物も含めて『見切り』で『敵を盾にする』か、『オーラ防御』

後で殴るのが骨そうだから、偽物で我慢してやったんだ
もの言いたげな視線にはつーんと不機嫌を露わに顔を反らす


シエン・イロハ
ニナ(f04392)と

過去の姿は、真の姿の解放
宿敵により改造され、埋め込まれたメガリスに溜め込まれた魔力を解放した姿
最高傑作だと嗤う宿敵を思い出す、その髪の長さも気に食わない

ハッ、随分とまぁ悪趣味なこった
けど残念だったなぁ、そのふざけたなりこの手で潰せるとは願ってもねぇ

『先制攻撃』『2回攻撃』『投擲』で【シーブズ・ギャンビット】
『傷口をえぐる』『体勢を崩す』『目潰し』『踏みつけ』等容赦なし
回避は『見切り』主体、手近にいれば『敵を盾にする』

(一時期の誰かさんみたいな死にたがりとも違う、それでも生死に興味がない事にキレるのは分かる
が、偽物への態度で更に機嫌を悪化させたらしい事に訝しげな視線向け



●過去は憂い、過去は揮う
「ハッ、随分とまぁ悪趣味なこった」
 縫い目の様な傷跡を露出して、紫の魔力を纏う。
 紅の双眸は翳りを帯びて、表情は無機質に。
 メガリスに蓄積された魔力を解放した、禍々しい其の姿は……正しく、悪魔。
 影朧の模倣した過去の己を見て、シエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)はくつくつと嗤い始める。嗚呼、本当に嗤うしかない。

 ――最低で、最高じゃねぇか。願ってもねぇ。

 過去の、髪の長さも理由の一つだろうか。
 好き勝手に改造して、メガリスを埋め込んだ奴の顔が浮かぶ。
 最高傑作だと嗤い。素晴らしいと手前勝手に悦に入る、宿敵の面。
 其の幻想ごと、此の手で潰せるのだ。

『消えろ』
「てめぇが、な――ッ!」
 敵を認識したであろう、過去が魔力による数多の刃を生み出し始める。
 一息に放たれた刃に対して、シエンもまたプラエドーを取り出す。
 そして、迷いなく放たれた黒刃は――相殺など生温い。
 魔力の隙間を狙う様に、敵の身体を抉るべく。空を裂いて、突き進む!
 己に向かう刃、其の回避が間に合わずとも……平然と、悪辣に、彼は嗤う。
 虎視眈々と、過去の模倣とやらの隙を探りながら攻撃を仕掛けていた。

「……っ!」
 自身の傷すら顧みない。
 勿論、致命傷は避けているのだろうと判る。
 判るのだが、其れでも……ニナ・グラジオラス(花篝・f04392)は憤っていた。
 焔竜――カガリもまた、傍らのニナに目を向けて。シエンを見ては。
 二人を案じる様に、小さな鳴き声を上げていた。

 ――だが、彼らの前にも群青は現れる。
 じろり、と。彼女を注視し始めたかと思えば、ぐにゃりと全身がゆらゆらり。
 少しずつ、揺れが収まるにつれて……。
 鮮烈な赤い髪の少女が、其処に立っていた。

 セミボブ程度に整えられた髪には、愛らしい飾りが添えられている。
 ……翠の眼差しに宿るは、覚悟。
 灼熱を其のまま形にした様な、焔の槍を抱き。ニナを睨む。
 いや、違う。彼女は鋭い視線の先に居る人物を、其の理由を知っている。

『魔力を蓄える髪を伸ばして、悪あがきか』
「…………」
『未だ、兄に及ばない。強がって、自分を大きく見せているだけじゃないか』
 兄の代わりに、誇り高き竜騎士で在らねばならないのに。
 継ぎし篝火を守らなければならないのに。
 そんな不甲斐ない姿を晒すくらいなら、私が成り代わってやる。
 ……過去の言葉を聞いた後、ニナは静かに目を閉じていた。

「(ああ、そうだな)」
 愚兄は優秀な竜騎士だった。
 己がカガリを引き継いだ時、其の理由は……何も語られなかったけれど。
 其れでも、ニナは彼の実力だけは認めていた。認めるのは癪だが。
 だからこそ、たった数年で超えられる筈も無いと解っていた。

 腹立たしさは無い。
 寧ろ、怒りを向けるべきは別の所にあった。
 其の感情を焼べて、彼女は炎の魔力を急速に集め始める。
 今のカガリとの絆は……過去の自分にも、兄にも負けない事を知ってる。
 ――簡単に成り代われると思うな。

「行こう、カガリ。……望むままに、私達らしく」
「グルオォォォッ!!!」
 ――奔れ!
 ニナの静かな声に合わせて、低空飛行で駆け始めたのは――焔竜。
 戦闘形態と化したカガリの姿は勇ましく、彼女の背を易々と超える程の体躯。
 轟々と燃え盛る焔を纏い、過去へと一直線へ突き進む!

『――っ』
「あ゛……――っ!?」
 そう、カガリはニナの意図を汲んだ様に。
 彼女の過去だけではなく、シエンの過去にも突撃。纏う炎で焼き尽くそうと。
 シエンは嫌な予感を察したのか、地面を転がる形で回避に成功したが。
 過去は諸共に間に合わず。ただ、紅蓮に焼き尽くされてゆく。
 其の最中……体勢を整えたシエンが、やや不満そうに抗議の声を上げた。

「おい、俺の獲物」
「後で殴るのが骨だから、偽物で我慢してやったんだ」
「……だから、さっきから何にキレてんだ」
「何だろうな?」
 眉間に皺を寄せて、ジト目を向けている。
 ニナは明確に不機嫌を露わにしつつ、ふいっ!と思い切り顔を逸らした。

「……?」
 貧乏クジを引きがちな、一時期の誰かさんを見ていれば嫌でも解る。
 生死に興味が無い事、頓着しない事。
 恐らく、ニナは其れに対して怒っているのだろう。
 敵と対峙するまでの道中、シエンが理解出来たのはそこまでだ。

 ――何故、彼女の怒りが膨れ上がっているのか。

 何が切っ掛けで、そうなったのか。
 全く理解出来ない。寧ろ、考えるのも面倒になってきた程だ。
 結果、彼は訝しげな視線を彼女へ向ける事しか出来ず……。

「ぐるぅ……?」
 そんな二人を眺めながら、小竜の姿の時の様に。
 首を傾げて、カガリはどうしたんだろう?と鳴いたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロム・エルフェルト
『……哨戒は、もう終わったの?』

頭を抱えたくなる
あれは一番鬱々としていた頃の私
腰の刀は憑紅摸?
当時は普通の打ち刀だったけど……
憑紅摸(この子)も私の要素の一つ、か

一度だけ、呪いそうになった事がある
術も織れぬ身に産んだ親を
爪弾きにした里の皆を
……この、世界を
お師様の言葉が無ければ、踏み外していた
さぁ、消えて偽物
「その気持ち悪い笑み、吐き気がする」

剣戟の応酬、牽制の中に所々本気の太刀筋を混ぜる
焦りが見えたら少しずつ隙を見せる

参ノ太刀に頼らなくても
自分の癖なんて、嫌になる程知ってる

浅い斬撃は態と受け、[カウンター]としてUCを放つ
過ぎた刻(トキ)を火葬する祇(カミ)の刀
あなたが振るうのは分不相応



●過去は呪う
 どうして。
 そんな言葉を紡いでも、意味など無い。
 石子である事実が変わる訳でも、里の皆に受け入れられる訳でもない。

 嗚呼、それでも。
 幼子には、余りある程の孤独。寂鬱。
 親に頼る事も出来ず、不要な子供と爪弾きにされて。
 されど、クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)が道を違えなかった理由は……彼女がお師様と呼ぶ者の言葉があったからこそ。

『……哨戒は、もう終わったの?』
 お師様との予期せぬ、望まぬ別離。
 其の事実を受け止め切れず、一番鬱々としていた頃の自分。
 クロムは昏い眼差しを向ける過去の姿に。思わず頭を抱えたくなった。

 オブリビオンに近しかった者。
 与えられた役目は、捨て駒同然の哨戒兵。
 しかし、過去の瞳の翳りの理由は其れだけではない。

「(一度だけ、呪いそうになった事がある)」
 術も織れぬ身に産んだ、母親を。
 其れだけの事で自分を爪弾きにした、里の皆を。
 ……どうして。
 どうして、あぁ、どうして――ッ!?
 クロムの嘆きが周囲のみならず、世界への呪いと化した時の瞳だった。

 腰の刀は彼女の記憶通りならば、普通の打ち刀だった筈だが。
 ……間違いない。あれは、刻祇刀・憑紅摸だ。
 恐らく、様々な時系列の過去が混ざり合っているのだろう。
 だが、あの笑みだけは違う。あれは、元となる影朧のものだろう。

「その気持ち悪い笑み、吐き気がする」
 参ノ太刀は不要。
 己の癖など、嫌という程に熟知している。

 剣戟の応酬。
 抜き身の刃が交わり、暗闇の中に金属音を響かせる。
 互いに浅い斬撃を受けながらも、表情に余裕があるのはクロムの方だ。
 焦りの色が浮かぶ過去が刀を鞘に収めれば、彼女も続く様に納刀を。
 ――遅いッ!
 彼女が鞘に収め切った直後を狙い、過去が急速に迫っていた。
 間合いに入った瞬間、抜刀を――出来、なかった。

『か、は……っ!?』
「あなたが振るうのは分不相応」
 伽藍呑む刧火。
 過ぎた刻を火葬する、祇の刀。
 例え贋作と言えど、過去が扱える代物に非ず。
 加えて、神速剣閃の仙狐式抜刀術を語るには……真似事と言えど、遅過ぎる。

「――疾く消えて、偽物」
 過去も、笑みも、迷いなく。
 クロムは力強い太刀筋で、過去を両断したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミネルバ・レストー
過去のわたしは、不敗の化身とか常勝の女神とか呼ばれてたわね
激レア装備で身を固めて、己の強さだけを誇る「こおりのむすめ」
…戦うことしか知らないし、それで十分満たされていた、わたし

今のわたしを、あなたは腑抜けと罵るかしら
恋をして、人のために生きて、守るために戦う
でもね、今のわたしはきっとあなたよりも――強い
【わたしがあなたにできること】、今こそ使うわ

わたし、この仕事さっさと片付けて帰らなきゃいけないの
でないと、あの人、大の大人のくせにひどくさみしがるから
悪いけど本気で行くわね、マネできるものならしてみなさい
あなたにだって一応「あいつ」がいたんだし?

ああ、でもダメ
この爪の一撃に耐えられるかしら?



●過去は誇る
 かつてコアな人気を誇った、PvPオンラインゲーム。
 ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は、其のゲーム内のアバターの一人。

 激レア装備で身を固めた姿。
 召喚魔法の使い手として活躍し、勝利を手にし続ける存在。
 不敗の化身、常勝の女神。
 何時しか、彼女はそう呼ばれる様になっていた。

 だが、彼女自身は称賛や勲章なんてどうでもいい。
 戦う事しか知らない。
 其れだけで、充分に満たされていた。
 彼女は、己の強さだけを誇る……こおりのむすめ、だったのだ。

『こおりよ――ッ!』
「甘い!」
 降り注ぐ氷の礫を、冷気纏うオーラが弾き飛ばす。
 ミネルバと、彼女を模倣した過去の戦いは序盤から苛烈極まりない。
 氷と氷の応酬、其れを防ぐもまた氷。

 ……この仕事さっさと片付けて、帰らなきゃいけないのに。
 あの人、大の大人のくせにひどくさみしがるから。
 其の為にも、今の自分に出来る事を――。

「確かに、貴女は強いわ」
『……っ?』
「それもそうね。あなたにだって、一応『あいつ』がいたんだし?」
 模倣とは言え、流石と言うべきか。
 ……元が良いんだから、当然かしら?
 でも、残念。ミネルバと過去には、決定的な差がある。

「でもね、今のわたしはきっとあなたよりも――強い」
『ハッタリが通用すると思ってるの?』
「……見ていなさい。今から証明してあげる」
 わたしがあなたにできること。
 其れはあの人とわたし自身を守る、奥の手。
 ユーベルコードの発動と同時、ミネルバの姿が少しずつ変化してゆく。

 戦い以外に、大切なものを知った。
 恋をして、人のために生きて、守るために戦う。
 過去から見れば、腑抜けに映るかもしれない。だが、其れでも構わない。
 ――あの人を愛しいと思う自分は、わたしだけでいいの。

「だから、ダメ」
 女神が微笑むと同時。
 凶悪に変化した左腕を振り上げて、思い切り振り下ろそうと。
 其れに対して、過去は容易に回避出来ると睨んだが……動けない。
 ミネルバが真の姿へ変じている間に、己の冷気をもって敵の両足を凍らせていた。
 言葉巧みに、敵の注意を引き付ける技術は『あの人』仕込みか。
 過去が戒めを破壊するよりも早く、彼女の爪が敵の身体を引き裂いたのだった。

 大丈夫、必ず無事に帰るわ。
 ……どうせ死ぬのなら、その時はふたり一緒がいいもの。

成功 🔵​🔵​🔴​

霑国・永一
おや、これはびっくり。まるでドッペルゲンガーだ。
俺なんか真似ても仕方ないと思うけどなぁ
まぁでも、盗人な俺から姿とか盗んだ代償は命を盗む、これに尽きるよ

狂気の対話を発動
せっかく話せるっぽいし、愉しまなきゃ損損
次々質問して答えるの苦労させるつもりだ
「やぁ昔の俺。盗んだ金で愉しむティータイムは最高かい?」
「金持ちの金庫の中身、凄かったよねぇ」
「最早生活リズムな盗み稼業を咎める連中ってなんで咎めるんだろうねぇ? 盗むなんて普通の事じゃあないか」

いや~、矢張り俺は昔から何一つ変わって無いから質問の答えが予想通り過ぎて刺激がない
うん、やはり過去だな。このUCを使ったことがないほどの過去。真似ても練度不足だ



●過去は語らう
「おや、これはびっくり。まるでドッペルゲンガーだ」
 霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は、目を瞬かせる。
 言葉では驚きを表すものの、彼の目は其れよりも興味の色が濃く映っていた。
 敵の見目は正しく、昔の自分の姿だ。
 中々良く出来ていると、彼は思うものの……。

「(俺なんか、真似ても仕方ないと思うけどなぁ。まぁ、でも……)」
 ――せっかく話せるっぽいし、愉しまなきゃ損損。
 霑国は密かにユーベルコードを発動し、過去と目を合わせる。
 過去もまた、彼の思考や行動を忠実に再現しようと。
 互いに目を合わせては、笑みを浮かべる。
 影など一切感じさせない、至って『普通』の笑みを。

「やぁ、昔の俺。盗んだ金で愉しむティータイムは最高かい?」
『悪くないね。まぁ、珈琲の方が好みだけれど』
 何かが、突き刺さる音がした。
 元は流動体でも、模倣した後はちゃんと刺さるものなんだな。
 霑国は笑みを浮かべ続ける過去へ、再び問い掛ける。

「金持ちの金庫の中身、凄かったよねぇ」
『まさか、あんなに隠し持っているとは驚きだったよ』
「そうそう。そういえば、盗み稼業を咎める連中ってなんで咎めるんだろうねぇ?」
『日常の一部、ルーティンワークの様なものなのにね』
「流石、俺」
 くすり、と霑国が笑む。
 過去もまた、同じ様な笑みを湛えたまま。

 ――盗むなんて普通の事じゃあないか。

 現在と過去の声が、重なった瞬間。
 無数のダガーが、過去の死角から何本も突き刺さる。
 刺さる気配が途絶えないと気付いたのか、漸く過去は笑みを崩し始めた。
 何故だ。返答に、違和感は何一つ無かった筈……?

「いやー、矢張り俺は昔から何一つ変わって無いね」
『……変わっていると、思っていたのかい?』
「いいや、全然」
『だろう、ね』
 今も昔も、何一つ変わらない。
 そして……模倣の『狂気』は、本当の『狂気』には程遠い。
 だからこそ、ダガーは敵の身体に刺さり続ける。何度も、何度も。
 ……さあ、盗人から盗んだ代償を払ってもらおうか。

「うん、やはり過去だな」
 霑国の予想通りが過ぎる。刺激が全く無い。
 過去はきっと、このユーベルコードの存在さえも知らなかっただろう。
 仮に知っていた所で、真似ても練度不足だ。

 まあ、放っておいても勝手に消えるだろうが。
 姿とか代償は命を盗む。これに尽きるよ。

成功 🔵​🔵​🔴​

リインルイン・ミュール
おや、これはこれは
アナタは昔の「私」ですネ


私の静かな激情を見て、船を滅ぼした理由が蘇る
友達は自我を奪われ、只の演算補助装置として船に組み込まれてしまった
とても哀しくて、怒って……あれは、初めて感情というものを発露できた瞬間でもありました

ワタシの罪とは別に、私は、ヒトの為に生きるワタシを責めるのですね
激昂。積怨。悲哀。呻吟。嗟嘆。悔恨
ワタシが記憶と共に沈めた情動を、私は持っているのだから当然ですか

彼等の業を見て尚、何故、未だヒトの為に戦うのか?
その問いへの答えは幾つかあります
簡単な事デス。「よき未来を願い歩むヒトビトを知っているから」

子守歌は如何ですか。もう、疲れているでしょう?
オヤスミ、昔の私



●過去は囚われる
 ――友が居た。
 会話は常に回線越しで、音声やテキストのやり取りだけ。
 リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)にとって、唯一の会話相手。

 レインルイン・ミュールと呼ぶ、声。記された名前。
 彼らは幾つもの言葉を重ねながら、少しずつ絆を育んでいた。
 だが……積み上げたものが崩れ、壊れるのは一瞬。

「おや、これはこれは」
 ――アナタは昔の『私』ですネ。
 リインルインの声に対して、過去は低い唸り声の様な音で返す。
 其の反応の理由に、彼女は思い当たる節があった。

 過去の自分は、激情に囚われている。
 激昂、積怨、悲哀、呻吟、嗟嘆、悔恨。
 およそ考えられる負の感情が混ざり合い、区別出来ない。

 叫べるものなら、叫びたい。
 己が身を焼き尽くす様な激情のままに、滅びを謳ってしまいたい。
 そんな過去の行動を、留めている理由は――。

『どうして、ですカ……』
「…………」
『思い出したのでしょう、ワタシ』
「ええ、たった今」
 断片的だった記憶が、過去の静かな激情を見て――今、繋がった。
 リインルインの友達は、ヒトの身勝手な都合で演算補助装置と成り果てた。
 自我を奪われ、船に組み込まれた。

 其の事実を知った時の哀しみ、怒り。
 ……其れが、彼女が初めて感情というものを発露出来た瞬間だった。

『なのに、何故――ッ!』
「何故、未だヒトの為に戦うのか……ですカ?」
 当然の疑問だろう。
 過去は、記憶と共に沈めた情動を持っているのだから。
 ……故に、過去は責めるのだ。
 彼等の業を見て尚、何故。ヒトの為に生きるのかと。

『答えなさい、ワタシ!』
「簡単な事デス。よき未来を願い歩むヒトビトを知っているから」
 他にも、答えは幾つかある。
 其の中で、リインルインが一番初めに浮かんだ理由を口にした。
 勿論、過去は怒るだろう。吼えるだろう。
 ヒトに呪いあれと唄うも……怨嗟の音色を塗り替えたのは、彼女の歌だった。

「子守歌を贈りましょうカ」
 どうか、どうか。
 少しでも穏やかに、安らかに眠れる事を。
 リインルインは祈りを魔力に変えて、暫しの間歌い続けていた。

 其れは、旧きものへ捧げる葬送歌。
 過去の負の思念を織り込み、彼女は優しい音を紡いでゆく。

 せめて、今だけは。
 あの時の穏やかな時間を、夢見られますようニ。
 ――オヤスミ、昔の私。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
自分をヨコセ、て?
その姿てことはこっちがどう考えるか分かってる?
なり損ないが笑かすやん。
他人の過去を勝手に踏み込む代償は高いで。

真の姿開放

相手の言動には【言いくるめ】で言い返し、
【挑発】し敵の攻撃を誘発、
鋼糸で【フェイント】を入れ攻撃しつつ
戦場全体を【情報収集】
安庭の攻撃は糸で敵の攻撃をある程度相殺、【見切り】で回避。

ユーベルコード・「荒れ狂う獣」発動
二回まで攻撃を行う。



●過去は括る
 ――真の姿を開放。
 緑色の光が二つから、複数に増えてゆく。
 指も人間のものより伸びては、先が鋭く……まるで蜘蛛の足の様に。

 模倣した過去の姿を見て、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は即座に反応。
 黒色に変色した鋼糸を操り、先んじて暗闇の中に潜ませる。
 そして、同じく黒色の狩衣を纏う狐人――サイギョウを己の傍らに。

「自分をヨコセ、て?」
 杼糸は笑顔を浮かべていた。
 嗚呼、なり損ないが笑わせてくれるものだ。
 彼の心中を察する事無く、過去はにっこりと笑いながら言葉を紡ぐ。

『そうや』
「その姿てことは、こっちがどう考えるか分かってる?」
『怖い怖い。でもまぁ……自分が成り代わる為に、あんたさんが邪魔なんよ』
 成り代わる?
 何を戯けた事を抜かすのやら。
 成り代わられたら、杼糸自身が会いに行くと決めた人に会えなくなってしまう。
 自分の思いも、願いも、全て影朧の好きな様に利用されるのだろう。
 ……彼から、微笑みが消えた。

『本体、渡してくれん?』
「飴ちゃん一個たりとも、嫌や」
 ――残念や。
 短い言葉と共に、模倣によって生み出した鋼糸が杼糸に襲い掛かるも。
 其れを防いだのは、彼が操るサイギョウだった。
 狐人によって糸を払いながら、彼も軌道を見切る事で攻撃を避けている。
 敵がサイギョウを模倣する前に……彼はユーベルコードを発動、狐人を巨大化。
 そのまま、大きな両手を思い切り振り下ろす!

『っと。危な――』
「他人の過去を、勝手に踏み込む代償は高いで」
 ――潰してええよ、サイギョウ。
 一撃目は、敵を最初に仕掛けた『罠』へ向かわせる為。
 荒れ狂う獣の二撃目は、敵を確実に屠る為に。
 過去は鋼糸を使い、軌道を逸らそうと試みるが……無理だ。

 動きたくても、動けない。
 戦場に張り巡らされていた蜘蛛の糸が絡まり、動きを制限させていた。
 故に、剛の一撃を避ける術無く――杼糸の過去は、其の場から消えたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒雨・リュカ
アドリブ◎

上等な着物を纏って
そこに座すアレは…俺か
全く、どこまで悪趣味なんだ?
皮肉めいて鼻で嗤う

目障りだ、消えろ
浮かぶ石榴に属性の魔力を流して
水を礫の様に敵へと放つ
敵が竜へと変じるならば
多重詠唱で威力や弾数を増やし

『消えるのが怖くないのか』
『信仰が弱まれば力をなくしていくと言うのに』
過去が問う
そして同時に聞こえる、甦る男の声
『我々は、私は、尽きることのない信仰を。ずっと貴方を祀り、敬い――愛してますよ』

…―だから、力をってか?
あの場所に戻れって?
そんなもの糞喰らえだ
捨てた過去に負けるほど落ちぶれちゃいないんでな

その為の力を身につけた
今の俺は昔の俺より遥かに強い
高く翔び雨雲を集めて
全力の雷を…!



●過去は迫る
 尽きる事のない信仰。
 永久の畏敬を、恒久的な愛を。
 黒雨・リュカ(信仰ヤクザ・f28378)がかつて、とある男から聞いた言葉だ。
 当時は信仰を得る為ならと、気紛れに力を貸していたが。

 何の事は無い。
 永遠に与えられる信仰など、存在する訳が無かった。
 あの言葉は所詮、己を牢獄へ放る為の方便に過ぎなかったのだろう。
 だからこそ……甦る男の声には、はっきりと返してくれる。
 ――そんなもの、糞喰らえだ。

『消えるのが怖くないのか』
 上等な着物を纏い、同じく上等な敷物の上に座す。
 豪奢な脇息に肘を置き、軽く頬杖をつく様子は尊大極まりない。
 ……口にした言葉は現在を揶揄する様に、或いは反応を楽しむ様に。
 模倣しているならば、黒雨の思考も読み取れるだろうに。

「目障りだ、消えろ」
 皮肉めいて、鼻で嗤った直後。
 黒雨は浮かぶ石榴に魔力を集めて、空気中の水分を集束。
 礫の様な水が現れると同時、彼は悪趣味な過去へ向けて――全弾を放つ!

「…………」
 水の礫が空気に霧散する様に消えた後、残っていたのは。
 破れた着物、敷物。壊れた調度品の数々。
 そして……黒色の液体をどろりと零す、模倣の黒竜だった。

 過去は問う。
 ――信仰が弱まれば、力を無くしていくと言うのに。
 ――同族達と同じ末路を辿るだけ。

 黒雨の脳裏に、別の声が過ぎる。
 ――我々は、私は、尽きることのない信仰を。
 ――ずっと貴方を祀り、敬い、何よりも……愛してますよ。

 だから、力を?
 あの場所に戻れって?
 あんな牢獄みたいな場所に、大人しく囲われていろと?
 ……ふざけるな。捨てた過去に負けるほど、落ちぶれちゃいない。

「今の俺は、昔の俺より遥かに強い」
 紅の瞳、其の瞳孔が縦長に変わる。
 其れを切っ掛けに、黒雨の姿が徐々に変化してゆく。

 其の為の力を、彼は身に付けた。
 与えられるだけでは、決して得られぬ力。
 自分の力を揮い、見返りとして集め続けてきた信仰。

 高く、高く、飛翔する。
 黒雨は雨雲を集めて、其処に多くの魔力を注ぎ込んでいく。
 弱い雷を束ねて、向かってくる過去を墜とすべく。

「――来い、雷霆」
 今の黒雨にとっての全力、雷の柱。
 其れが今、過去を容赦無く貫き……焼き尽くしていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

一瀬・両儀
オイオイ、オレの姿を真似ても結果は変わらねェと思うぜ?
まったく気味のわりィ連中だことだ。
コイツはちゃっちゃと終わらせるに限るナァ!

[瞬間思考力]で姿だけでは無く、自身の業も真似ている可能性を視野に入れる。
[見切り・残像]によって軽い攻撃は回避する。

念のためにいつでもUC『殺人剣士の心眼』を発動できるようにしておく。
回避後に間髪入れずに[カウンター]を入れる。少しでも傷が入ればあとは[傷口をえぐる]だけだ。

「今」のオレは、「過去」なんざにヤられるほど落ちぶれちゃいねェよ。



●過去は駆ける
 ――キィンッ!
 ――ヒュッ、ガキィンッ!

 無銘刀と無銘刀がぶつかり合う。
 片や、己に染み付いた高速の殺人技巧を以って。
 片や、自然によって培われた身体能力を十全に利用して。
 一瀬・両儀(不完全な殺人術・f29246)と其の過去は、此の状況を存分に楽しんでいる様にも見えた。

「オイオイ、オレの姿を真似ても結果は変わらねェと思うぜ?」
『結果なンざ知るかよ。オレが、手前に成り代わる為に必要なんでなァ!』
「まったく、気味のわりィ連中だことだ」
『はっ!大人しく、オレに殺されてくれや!』
 金属音を響かせながら、今と過去は語り合う。
 一瀬は姿だけではなく、自身の業も真似ている可能性を視野に入れていたが。
 ……成程。身体能力は『実験』を受ける前らしい。
 クロックアップ無しで此の動きとは、我ながら恐れ入る。

「(コイツは、ちゃっちゃと終わらせるに限るナァ!)」
 ――鍔迫り合いが始まる。
 互いの目に宿るは、互いへの殺意。
 次の一手はどう来るか、どんな攻撃を仕掛けて来るか。
 刀を握る手に籠める力は其のまま、目を見て探り合っていた。

『オラァッ!!!』
 先に動いたのは、過去。
 磁石が反発する様に離れて、距離を取った直後――再び急接近。
 推進力を乗せた斬撃によって、一瀬の胴体を真っ二つにしてやろうと。
 ……間合いに入るまで、残りの距離は僅か。
 さあ。さあ。さあ――ッ!?

『あァ……?』
「殺人剣士をナメンじゃねェよ」
 模倣の中に、確かにあった……影朧の殺意。
 其れを読み取り、一瀬は最小限の動きで回避してみせたのだ。
 一方、先の斬撃で仕留めるつもりだった過去は隙が多い。

 まずは一閃、胸元を斬り付ければ。
 傷口を押さえさせる間も与えず、彼は胸の中心を貫いた。

「生憎、今のオレは『過去』なんざにヤられるほど落ちぶれちゃいねェよ」
 傷口から刀を引き抜いた後。
 一瀬は刀身に付着した汚れを払い、納刀。
 ……少し遅れて、ぼたぼたと地面に何かが落ちる音が聞こえて来る。
 其れは彼の剣閃によって、過去の身体が崩壊する音だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鏡島・嵐
おれの過去、か。
昔のおれが今のおれを見たらどう思うかな。
相変わらず戦うんが怖いまんまで、そんな自分の不甲斐無さに涙しながら、それでも逃げずに戦おうとする姿を見て、何を思うんかな。
救いようが無ぇ強情者だと嗤うんか、逃げることも出来ねえ不器用者だと呆れるんか――おれ自身にもわからねえけど。

でも〈覚悟〉は決まってる。逃げねえって。後悔もしねえって。
たとえ昔の自分に何を言われても、それだけは枉げねえ。
――うん、やっぱ強情だな、おれ。
おまえがおれなら、それくらいは想像付きそうなもんだろ。
そんな疑問を懐いちまった時点で、おまえは偽者ってことだ。

さあ――本当のあるべき姿に戻っちまえ! そして道を開けろ!



●過去は恐れる
 戦いは、怖い。
 命のやり取りは、恐ろしい。
 幾度となく経験を積み重ねても、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)の胸中から戦いへの恐怖心が消える事は無かった。

 気を抜けば、震えてしまいそうになるのを堪えて。
 戦いに対する恐怖心をコントロール出来ない、自分の不甲斐無さから涙して。
 何度も、何度も、其れを繰り返してきた。
 其れでも尚、彼が前へ走り続けるのは――。

「おれの過去、か」
『強がりもいい加減にしてくれよ、おれ』
 群青が形を崩した後、日焼けで浅黒くなった肌を持つ青年が姿を現す。
 過去は鏡島を睨みつけ、開口一番に非難を浴びせる。

 救いようが無ぇ、強情者。
 逃げることも出来ねえ、不器用者。
 其れらに付随する感情を込めて、過去は吐き捨てる。

「…………」
 非難、の筈なのに。
 そんな声の中に、鏡島は何かに対する恐怖を感じ取っていた。
 何か、を彼は知っている。自覚している。

 戦う事が怖い。
 其れでも、彼は逃げずに戦い続けている。
 ――覚悟は決まっている。逃げねえ、自分の選択に後悔もしねえ。
 たとえ昔の自分に何を言われても、其れだけは絶対に枉げない。
 強情だな、と思いながらも……彼は過去へ、真っ直ぐな眼差しを向けていた。

『怖いのに、か?』
「おまえがおれなら、想像付きそうなもんだろ」
『……死ぬかも、しれないのにか?』
「そんな疑問を懐いちまった時点で、おまえは偽者ってことだ」
 怖くても、不甲斐なさに怒りを覚えても。
 鏡島の覚悟は揺らがない。心は、折れる事が無い。

「幻遊びはお終いだ」
 鏡島が出現させたのは、姿見程の大きさの鏡だった。
 其れは暗闇の中でも、過去の姿を正確に映し出している。
 ――野生の勘、第六感。
 過去は鏡に何かを感じ取り、鏡面に映らぬ様に移動しようとしたが。

『……っ!?』
 足がもつれた様に、がくっと体勢を崩してしまう。
 つい先程まで形を保てていた筈が、足が真っ黒な液体に戻っていたのだ。
 過去が人から、群青へと戻る。
 ……其れだけではない。
 逆転結界は作られた模倣体を元に戻した上で、其の身を崩壊へと導く。

「さあ、本当のあるべき姿に戻っちまえ!道を開けろ!」
 ――守りたいものを守るため。
 己が決意を貫く事に、迷いは無い。
 彼の心を一片たりとも解する事も出来ず、影朧は静かに消滅していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
敵が変化したのは俺ではあるが、随分昔の姿をしている
十代半ば程、丁度ユリウスと一緒にいた頃の

銃を構えて、しかしその言葉に手が止まる
『約束の為に戦うと決めて…でも、寿命の短い人狼があとどれだけ戦える?』
『命と引き換えに助けたあの人も報われないな』
『替わってやろうか。人狼の寿命より長く生きて、“シキ・ジルモント”として戦ってやるよ』

あとどれだけ、考えた事は何度もある
もしかしたら残された時間はもういくらも無いのかもしれない
…それでも、これは俺のものだ
名前も約束も、誰にも渡しはしない

再度銃を構えて、ユーベルコードで攻撃
敵の攻撃に合わせて相殺、直後に本体を狙いもう一射
欲しいなら奪ってみろ、奪えるものならな



●過去は儚む
 発砲音が響き渡る。
 青年が的の中心を見事に撃ち抜いたのを見て、ユリウスは立ち上がった。
 ――本当に上達したね、シキ。
 そんな風に微笑みを浮かべては、彼は青年の頭を撫でようと。
 ああ、あの時は『子供扱いするな』と反発したものだ。

「随分、昔の姿をしているな」
 ……其れを不意に思い出したのは、過去が想起させたからか。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、ハンドガン・シロガネを眼前の敵へと構えている。影朧が模倣した、十代半ばの自分へと。
 過去もまた、彼へ銃口を向けている。
 ハンドガン・シロガネは、まだユリウスの手にあった頃だからか。
 敵が握る銃は、黒を基調としたシンプルなリボルバー銃だった。

『……命と引き換えに助けたあの人も報われないな』
「何が言いたい」
『約束の為に戦うと決めても、所詮は人の夢だ』
「無駄な問答を――」
『――寿命の短い人狼があとどれだけ戦える?』
 ぴくり、と全身が揺れた。
 其れはシキの心に生まれた、僅かな惑いを示していたのだろうか。
 答えは、彼自身が知る事だが……過去は鼻で嗤い、言葉を続けようと。

『返す言葉も無いだろう?』
「…………」
『残りの命は、あとどれだけか。幾許も無いかもな』
 ……過去が告げた事実を、シキは考えた事があった。
 人狼の寿命は短いと知っている、長生きは出来ないだろうと考えている。
 過去の言う通り、残された時間はもう幾らも無いのかもしれない。

『替わってやろうか?』
 ――人狼の寿命より長く生きて、『シキ・ジルモント』として戦ってやるよ。
 過去は笑みを浮かべて、シキへと問い掛ける。
 食い付くか、食い付かないか。影朧にとってはどちらでも良い。
 彼の存在を奪えれば、殺す事が出来れば。其れで――。

「そんなに欲しいか」
『何……?』
「ならば、奪ってみろ。奪えるものならな」
 言うや否や、シキは片手から両手で銃を構え直す。
 過去が引き金を引くタイミングを見極め、一瞬遅れて息を止めた。
 ……互いに、痛みは無い。
 過去が再び狙いを定めようと構えた時には、もう遅かった。

「(残された時間が、僅かだとしても)」
 最期の瞬間まで戦い続ける。
 本体を狙った二射目の銃弾が、過去を正確に撃ち抜いた。

「それでも、これは俺のものだ」
 名前も約束も、誰にも渡しはしない。
 あの日の痛みごと背負って歩いて行くのだと、俺自身が決めたから。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

またこの手合いか。
黄泉路の供をできなかった事、道具であり続けられなかった事、人の身を得た事。
延々とそれらをぶつけられる。
が、同じ姿を人の姿をしてる以上、責められる筋合いはない。

真の姿に。
いつも通りマヒを乗せたUC剣刃一閃で攻撃を。
過去の姿というのならこの真の姿にはなれないだろう。
この姿は自分の無力さを感じ、それでもせめて人として先に進むために力を借りての物だから。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で、自呪いには呪詛耐性で耐える。



●過去は悔やむ
「またこの手合いか」
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は思わず、溜息を吐いた。
 負の側面を見せては、猟兵達の心を折ろうとする輩。
 ……今回は殺して成り代わろうとする分、余計に質が悪い様に見えるが。

『どうして、人の身を得た』
 群青が模倣した過去は悔やみも込めて、責める。
 主の死後、黄泉路の供を出来なかった事。
 断ち切る為の道具で在り続けられなかった事。
 闇を宿した青の眼差しは鋭く、模倣した感情のままに呟いて。
 黒鵺へ延々とぶつけては、一方的に責め立てるのだ。
 だが……。

「同じ人の姿をしてる以上、責められる筋合いはない」
『何?』
「それでも、敢えて問いに答えるなら」
 人が残したものを愛する。
 戦えぬ誰かの為に、振るえぬ誰かの代わりに。
 人の身を得た理由は其れなのだと、黒鵺は強く思うからこそ。

「過去の姿というのなら、この真の姿にはなれないだろう」
 瞳の色は青色から、金色に。
 月読尊の分霊を降ろした黒鵺は、中性的な雰囲気を醸し出していた。
 此の姿は、自分の無力さを感じながらも。
 其れでもせめて、人として先に進むために力を借りてのもの。
 ……月読尊の加護を持たぬ過去に、模倣する事は決して叶わず。

「そろそろ、口を閉じてもらおうか」
 真作と贋作。
 黒鵺の刃がぶつかり合い、鋭い音を響かせる。
 過去が再び、呪言を吐き出そうとするよりも早く。鋭く。
 真の姿へと変じた黒鵺は猛攻を仕掛けて、敵を何度も斬り付けてゆく。

『くっ……!?』
 過去の動きが、少しずつ鈍り始めていた。
 刃を振るう動きは速度を落として、黒鵺の斬撃から逃れる事も儘ならない。
 其れでも、尚……逃走では無く、彼の殺害を狙うのは影朧の性故か。
 だが、過去は幾重にも斬撃を浴び過ぎた。
 敵の身体が麻痺によって硬直した瞬間――。

「――終わりだ」
 黒鵺は右手に持つ黒刃の刀――胡を以って、影朧を一太刀で斬り伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート
何かと思えば
猟兵になる前の私かぁ
狂いかけて無気力で笑わなくて
権能のひとつも扱えなかった時の
これじゃマトモに話せるかわかんないな
おーい元気?なんて
蹲ってるひどく冷たい腕を引っ張って
無遠慮に声をかけて笑う

辛うじて聞き取れたことは
「自分が消えれば良かったのに」
あぁそうだね
それはずうと思ってる
消えたきょうだいたちが残ればとは思わないけどさ
だって他でもない神(私)が滅ぼしたくなる世界だよ?
良いことなんてなんにも―
なんにも…ない、わけでもないけど

揺らいだ隙に振り下ろされるのは
ばかみたいに握り締めてたナイフ
そんなものじゃ死なないのに
あとは【影法師】が過去を殺すだけ

そのまま消えれば
無力を嘆くだけで済んだのにね



●過去は笑えない
 ぼそぼそ、と。
 暗闇の中で蹲り、俯いたまま何かを呟き続けている。
 其の様子は陽気さの欠片もなく、退廃と称した方が正しいだろうか。
 どろどろな群青が崩れて、消えて。
 ああ、一体……どんな『モノ』が出て来るのだろうと思ったら。

「猟兵になる前の私、かぁ」
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は過去を眺め、ぽつり。
 過去の鬱屈とした様子に、心当たりがあったのか。
 特に驚く事も無く、彼はすたすたと足早に歩み寄る。
 ……此の暗闇よりも、もっと深い闇。
 邪神の権能。其の一つさえも扱えなかった時の、私。

「おーい、元気?」
『……が……の、に』
「ほらほら、立って。顔を見て、話してみない?」
 其れは其れ、此れは此れ。
 模倣と言えど、過去の自分と会話するのは中々面白そうだ。
 そんな風に考えたのか、ロキが過去の腕を引っ張ると……酷く、冷たかった。
 冷凍庫に閉じ込められた後の様な、極度に冷えた身体。
 しかし、彼の表情に変化は無い。
 そして……過去が呟く言葉も、大体検討がついていた。

『自分が、消えれば……良かった、のに』
「あぁそうだね」
 ロキは、あっさりと肯定を示した。
 何故なら、其れはずうと思ってる事だから。
 消えたきょうだいたちが残れば、とは思わないけれど。
 他でもない神(わたし)が滅ぼしたくなる世界。良い事なんて、なんにも……。

「(なんにも…ない、わけでもないけど)」
『――ッ!』
「んー?」
 ロキへ向けて振り下ろされたのは、過去が握り締めていたナイフだった。
 揺らいだ隙もあってか……否、駄目で元々と言った心境か。
 自身を傷付けようとする其れを、彼は避けなかった。
 ――刃が、肩に食い込む。
 過去は其のまま、もっと深く抉ろうとしたが……。

「一つ、教えてあげる」
『……?』
「そんなものじゃ、神は死なない」
 笑わない、うたわない。
 突如、天使を模った黒い影が暗闇から現れる。
 手を伸ばして、過去を絡め取り、そして……影は喰らう。
 丁寧に咀嚼する様に過去を引き裂き、何度も潰す。其れが、完全に消えるまで。

 からん、と。
 地面に落ちたナイフを見ては、ロキは思うのだ。
 ――そのまま消えれば、無力を嘆くだけで済んだのにね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幸徳井・保春
今も昔も何も変わらぬ。地位も名声も必要ない。適当に苦しまず生きていければいい。……親はそうは思っていない様だったがな。

ならば、自分が代っても何もこの世は変わらないと思っているのだろう? 俺はお前、お前が俺ならばな。

だが、過去は過去。今は今。そこには大きな溝がある。互いに思っているよりもな。

過去の俺に負けるような軟弱な訓練はしてきていないつもりだ。相手の斬撃に真っ向から受けて立ち、すり抜けるかはね飛ばして逆に斬り捨てる。

……お前が思っているよりも、俺は真面目に訓練をこなしてきたぞ



●過去は変わらない
「今も昔も、何も変わらぬ」
『地位も名声も必要ない』
「適当に苦しまず生きていければ、其れでいい」
『……驚いた。本当に変わらないんだな、今の俺は』
 其れは模倣した過去の投影か、影朧自身の驚きの表れか。
 幸徳井・保春(栄光の残り香・f22921)との会話の最中に、過去は思わず目を丸くしていた。
 だが、当の本人は然程驚く様子を見せず。
 ……寧ろ、何を驚いているのやら。そんな風に、彼は薄く笑んでいた。

「可笑しな話だ。俺はお前、お前が俺ならば解るだろうに」
『親はそう思っていない様だとしても?』
「どうでもいいな」
 動揺を誘おうとするも、過去の言葉は空振りに終わる。
 ……親の願い、想い。否が応でも、己に纏わりつく噂の数々。
 理解しながらも、幸徳井は敢えて肯定も否定もしない。
 彼は其れに縛られて、己の生き方を見失うつもりは無いのだろう。

「自分が代っても、何もこの世は変わらない」
『……そうだな』
「だが、過去は過去。今は今だ。そこには大きな溝がある」
 退魔刀を抜刀、即座に接近――ッ!
 其れを見ては過去もまた、同様に刀を抜くが……しかし、遅い。
 ――過去の俺に負けるような、軟弱な訓練はしてきていないつもりだ。
 斬撃の雨が降る。防戦一方の敵に対して、幸徳井は汗一つかいてはいなかった。

『くっ、お前……!』
「お前が思っているよりも、俺は真面目に訓練をこなしてきたぞ」
 己が変わっても、この世は変わらない。
 たった一人の人間が動いた所で、世を動かす事なんて出来ない。
 その考えは今も、此の先も変わらないかもしれない。

 其れでも、積み重ねた努力は無駄じゃない。
 桜舞う帝都の平和を守る、其の一助を担えるのだから。
 ――故に、俺は刀を振るう。

 過去が持つ刀を弾き飛ばして、幸徳井は更に一歩踏み込む。
 さあ、此の一太刀で決めて見せよう。
 一息に放つは、彼が磨き上げた剣技――三学圓之太刀。

 ……ずしゃり、と。
 両断された過去の肉体が、地面に落ちる音がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
アァ……誰かと思ったら、俺だなァ…。
過去のコレ。
牢獄にいた頃のコレ。
毎日毎日、騒いで、パーティーをして

ケド、そこには賢い君がいない。
知ってる、知ってる
アレは賢い君を扱えないンだ。
牙と、爪と、遠吠えで駆け抜けて来る。

知ってる知ってる
アレは過去の遺物を扱うンだ。
賢い君がいないカラ、呼び出すしかないンだ。
アァ……どーする?どーしよ?
うんうん、そうだそうだ、そうしよう。

過去の俺の首を狙って賢い君を放つ。
遠吠えはうるさい。
ほらほら、賢い君と一緒にバイバーイ。
妬けちゃうネェ。妬けちゃうなァ。

賢い君のいない俺はとーっても弱い。
弱くて弱くて話にならない。
また遊ぼうも言えないネェ。ねェ?



●過去は吠える
『……可笑しいな』
「アァ……誰かと思ったら、俺だなァ……」
 ハロー。ハロー。
 エンジ・カラカ(六月・f06959)が手をひらり、と緩く振って見せるも。
 現れた過去は淡々と、耽々と。目の前の獲物を見据えているだけ。

 過去のコレは、何ともツマラナイ。
 牢獄にいた頃のコレは毎日毎日、騒いで。パーティーをしていたけれど。
 どうやら、此処でも『パーティー』を御所望の様だ。
 アァ、でもいいカ。悪くない、遊ぼう遊ぼう。
 ……過去の傍に、賢い君は居ないけれど。

「知ってる、知ってる」
『…………』
「賢い君が居ないカラ、過去の遺物を呼び出すしかないンだ。知ってる知ってる」
『俺は、五月蝿い狼を殺しに来たのかもしれないな』
 ――そうと解れば、話が早い。
 さっさと殺そう。今すぐに殺そう。

 過去は強靭な脚力を活かして、エンジに急速に迫ろうとしていた。
 牙で首を喰い千切るか。爪で引き裂き、真っ赤に染めるか。
 至近距離で吠えて、耳を封じてしまうか。
 敵が鋭利な爪を振るおうとして――其れを見た彼は、笑った。

「おっと、あぶないなァ」
 ひらりと避けては、エンジは軽い身のこなしで距離を取る。
 其れを見て、過去は直ぐに次の手を仕掛けようと。

 アァ……どーする?どーしよ?
 彼は賢い君に問い掛けて、満足そうに頷いた。
 やっぱり、賢い君はとーっても賢い。そうだそうだ、そうしよう。

「賢い君、できるよなァ……」
 ――刹那、青色の弾丸が空を裂く。
 遠吠えはうるさい。オオカミの耳はよく聞こえるから。
 だから、首を狙ってしまおう。吠えられない様にしてしまおう。

 偽物のオオカミに、賢い君は捉えられない。
 ……首を絞める赤い糸。身体を蝕むは舞う鱗片、煌めく毒性の宝石。
 ちゃーんと、全部受け取った?
 アァ、なんだか苦しそうだなァ……。

「賢い君と一緒にバイバーイ」
 賢い君のいない俺は、とーっても弱い。
 弱くて弱くて、話にならない。
 長く遊べない。また遊ぼうも言えないネェ。
 ……アァ、それにしても。賢い君と一緒に消える、なんて。

「妬けちゃうネェ。妬けちゃうなァ」
 エンジはぽつりと零しながら、消える様を眺め続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『花盗人』

POW   :    これは、どんな感情だったかな
自身の【今までに盗んできた花】を代償に、【元になった人の負の情念】を籠めた一撃を放つ。自分にとって今までに盗んできた花を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    君の心はどんな花かな?
【独自に編み出した人の心を花にする魔術】を籠めた【手を相手に突き刺すように触れること】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【心を花として摘み盗る事で全ての意思や感情】のみを攻撃する。
WIZ   :    嗚呼、勿体無い
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【今まで盗んできた花】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は佐東・彦治です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【お知らせ】
 プレイング受付開始は『10月23日(金)8時31分(予定)』からとなります。
 導入は今暫く、お待ち下さいませ……。
**********

●花盗ゲヱム
 嗚呼、とても面白い。

 死を目前にして。
 或いは、過去の己と相対して。
 似た様な状況でも、心の揺らぎや輝き様はこんなにも違うのか。

 彼らの心は、どんな花と成るのだろう。
 どんな色を見せてくれるのか。
 力強く花開くのか、或いは蕾の形を残しているのかもしれないね。

「嗚呼、待っていたよ」
 ……猟兵達と、相対して。
 花盗人は柔和な笑みと共に、暗闇の中に数多の光を浮かべ始めた。
 其れらはすべて、彼が盗んできた花々。
 恐らくは、此処に暮らしていたであろう人々から盗んだもの。
 いいや、其れだけではない。不運にも迷い込んだ者達、彼らの花も在る筈だ。

「そろそろ、他の花も見たいと思っていた所なんだ」
 花盗人は微笑みを湛えて、ゆっくりと。
 猟兵達を品定めする様に眺めては、笑みを深めた。

 ――此処まで無事に辿り着いてくれて、嬉しいよ。
 ――折角盗むのだから、此の目で確りと見たかったからね。

 猟兵達各々の胸元が、不意に淡く輝く。
 人の心を花にする魔術によって、生まれた……君達自身の花。

 影朧が花を盗り尽くすか、猟兵達が花を散らすか。
 美しい花々を盗む為ならば、多少のリスクも楽しむつもりだろう。
 仮に、花を一度奪われたとしても。
 直ぐに取り戻せば、衰弱死とはならない筈だ。

 ――さあ、ゲヱムを始めようか。

**********

【プレイング受付期間】
 10月23日(金)8時31分 ~ 10月24日(土)23時59分まで

【補足】
 本章では影朧の力によって、皆様の胸元に『花』が浮かぶ事でしょう。
 其れは、花の形を持った皆様の『心』です。

 咲くも、咲かぬも皆様次第。
 さて、どんな『花』が浮かんだのか。
 宜しければ、プレイングにてお聞かせ願えればと思います。

 ……盗人に奪われぬ様、御注意を。
 皆様のプレイングを心より、お待ち申し上げております。
シエン・イロハ
ニナ(f04392)と
見頃は過ぎた、けれど未だ枯れぬヒスイカズラ
花言葉は「私を忘れないで」
死んでもいい理由を失くす為に忘却を齎したヒスイに対する、複雑な感情の花

…反吐が出る程鬱陶しい野郎だな
盗れるもんなら盗ってみろよ
後悔しても知らねぇがな

『先制攻撃』『2回攻撃』で、基本戦闘は槍を使用
回避は『見切り』主体

相手のユーベルコードの発動時、触れようとした部分を変形し【ガチキマイラ】
花を盗まれた場合、『カウンター』『盗み攻撃』にて即座に盗り返す

あん?盗られたら盗り返す、それで文句ねぇだろうが
大体つい最近までなかったもんを、盗られたくらいで俺が死ぬかよ
そっちこそ気ぃつけろ、ニナ
後始末はごめんだからな


ニナ・グラジオラス
シエン先輩(f04536)と
※付き合いが長すぎてもう一人の兄感覚。でも絶対に言わない

花開くはまだ蕾を残すグラジオラスの言葉は堅固。誰にも私は壊させない

自分には無いからと、人の功績(感情)を奪って悦んでるのは正直腹立たしい
今日の私は苛立ってる。花ごと送ってやるから覚悟しろ、単なる盗人が

他人の負の感情など知らん、自身を『鼓舞』して『オーラ防御』で耐える
私が身を焦がすのは自身の感情だけだ
花を『見切り』や『吹き飛ばし』で避けさせながら『高速詠唱』の【緋奔り】で攻撃

先輩はそもそも盗られないようにしてくれ
投資に結果を出す前に倒れられたら目覚めが悪いんだ
愚兄みたいな死んでもいいみたいなのは止めろ。私が殺すぞ



●翡翠葛、紅ノ唐菖蒲
「嗚呼、なんて美しい花だろう」
「……反吐が出る程、鬱陶しい野郎だな」
「全くもって、同感だ」
「ぎゃうー!」
 シエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)の言葉に、ニナ・グラジオラス(花篝・f04392)と小竜に戻ったカガリが直ぐに同意を示す。

 シエンの胸元には、見頃は過ぎても未だ枯れぬ翡翠葛が。
 ニナの胸元には、紅色鮮やかな蕾を残す唐菖蒲が咲いていた。
 二人の花に興味を持ったのか、カガリは周りをぱたぱたと飛び回っている。

 花盗人は其れを眺めては、余裕めいた微笑みを浮かべていた。
 『私を忘れないで』と、もう片方は……今までの彼女の様子から『堅固』かな?
 嗚呼、もっと近くで見てみたい。是非、触れてみたい。
 ……己の欲のままに、敵は動き始めた。

「盗れるもんなら盗ってみろよ」
「――っ、先輩!」
 翡翠葛と共に、シエンもまた駆け出した。
 死んでもいい理由を失くす為に忘却を齎した、双子の兄に対する複雑な感情。
 『ヒスイ』の名を冠した花は、其れを如実に表す様だ。
 ……だが、過去に囚われるつもりはない。
 彼はベスティアを素早く振るい、遠慮無く他の花を散らしていく。

「後悔しても知らねぇがな」
「リスクは承知の上さ」
 其の上で、新たな花を手にしたい。
 花々に紛れて、花盗人が手を伸ばした先はシエンの片腕。
 敵は己の手で突き刺そうと試みるが……何故か、狙った先が姿形を変えていた。

 ――獅子が、唸り声を上げた。
 かの獣の頭部と化したシエンの腕が、入り込んだ異物に喰らい付く!

「ぐ……っ」
「だから、言っただろうが」
 更に深々と、シエンは牙を食い込ませようとするも。
 其れよりも早く、花盗人は盗んできた花を消費しては難を逃れた。
 ……勿論、負傷の対価は確りと頂戴した上で。
 花を奪われても、即座に死に至る訳では無さそうだ。
 其れならば、焦る必要は無いだろう。シエンはそう、理解した様だが。

「カガリ、もう一度頼めるか?」
「ぎゃうぎゃーう!」
 ――任せて!
 カガリの力強い声に頼もしさを覚えながら、ニナは更なる怒りに震えていた。
 人の功績――感情を奪って悦んでいる様は正直、腹立たしい。
 自分には無いから?其れとも、単なる好奇心?
 嗚呼、どんな理由だろうが知った事か。

「誰にも私を、私の日常を壊させない」
 今日の私は苛立ってる。
 他人の負の感情が伝わるが、ニナは決して動じない。
 彼女の身を焦がすのは、彼女自身の感情だけなのだから。

「――花ごと送ってやるから覚悟しろ、単なる盗人が」
 激情のままに練り上げた炎の魔力を、カガリに収束させる。
 再び姿を変えたカガリの姿は……先程よりも一回り以上、大きく見えた。

 返せ。
 お前が奪った花を返せ、今直ぐに。

 ――凛とした怒号、竜の咆哮が重なった。
 巨躯の竜が豪炎の吐息をもって、花を焼き尽くそうと試みる。
 敵が其れに注意を割いた隙を見て、すかさずニナが翡翠葛を奪い返した後……シエンへと力強く押し付けた。

「先輩、盗られないように気を付けてくれ」
「あん?盗られたら盗り返す、それで文句ねぇだろうが」
「…………」
「大体。つい最近までなかったもんを、盗られたくらいで俺が死ぬか――」
「先輩」
 シエンを呼ぶ声は、酷く落ち着いていた。
 盗られたら、盗り返す?盗られたくらいで俺が死ぬかよ?
 ……投資に結果を出す前に倒れられたら、目覚めが悪いんだが?

 此れまで散々、怒りに耐え――。
 いや、別の影朧にぶつけたりもしたが。其れは其れ。
 怒りが過度に募ると、逆にこうも冷静になれるものなんだな。
 そんな思考が、二ナの脳裏に過ぎる。そして……。

「愚兄みたいな、死んでもいいみたいなのは止めろ。私が殺すぞ」
「はっ。殺す、か」
 くつくつ、と。
 ニナの言葉を耳にして、シエンは笑っていた。
 先の言葉に、揶揄いの意図は見えない。だからこそ、面白い。

 ――死に急ぐな。
 其れを伝えるつもりだったのだろうが、あまりにも物騒な発言だ事で。
 詳細は不明だが……大方、ニナなりの『大事』の裏返しかと。
 彼は察するも。決して、口にはせず。

「そっちこそ気ぃつけろ、ニナ。後始末はごめんだからな」
「言われなくとも」
 再度の奇襲に備えて、二人は武器を下ろさない。
 言葉にせずとも、背中を預けるのは……互いの信頼故だろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
(可能なら花の種類お任せで)

……昔の私だったら
花に何の想いも無く盗まれた儘にしただろうな
そもそも花が咲いていたかすら危ういか

悍ましい影で、人殺しで、被験体で、『アリス』で、きっと生きたオルゴールだった私には
大切なものも、未来への希望も、生きる気力も無かった
死ねるなら死にたかった
……えぇ、今でも少しそう思ってます

でも大切な人たちに――
私の心をつくり直してくれた人たちに、"生きてくれ"と願われているから、まだ死ねない
美しかろうが醜かろうが、それは私だけの花
……返してもらいます

UCで影手の群れを召喚し己の花を奪取・守護しよう
花々を代償として使われる前に呑み込んでいけば
敵はUCを使えなくなっていく筈だ



●アイリス
 悍ましい影で、人殺し。
 被験体で、『アリス』で――果ては、生きたオルゴール。
 昔の私だったら……そもそも、花が咲いていたかすら危うかったか。
 仮に、咲いていたとしても。
 きっと花に何の想いも抱かず、盗まれた儘にしただろう。

 けれど、今は。
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)の胸元には、紫色の花が。
 其れは蕾から顔を出したばかりで、花弁もまだ小さいけれど。
 ……確かに、彼の心は花となったのだ。

 だが、花盗人はまだ動かない。
 彼と対峙して、此れまでの負傷も気にせずに笑みを浮かべていた。

「僕が心の花を摘み盗れば、持ち主は衰弱して……いずれ死に至る」
「……何故、今その話を?」
「ちょっとした提案さ」
 労せずして盗む事が出来るならば、其れに越した事は無い。
 スキアファールは敵の言葉を聞いて、即座に断る事が出来なかった。

 ……死ねるものなら、死にたかったから。
 大切なものも、未来への希望も、生きる気力も無かった。
 其れはすべて過去の話、とは言い切れない。
 彼の胸中には今も、死にたい気持ちが燻り続けている。

「(でも……)」
 ――生きてくれ。
 スキアファールの大切な人達。
 彼らの願いが集まり、彼の心として『希望』の花を咲かせたのだろう。
 まだ蕾の形を残していて、花開くには時間が掛かるけれど。
 美しかろうが、醜かろうが……此れは彼だけの花。
 そして、彼と縁を結んだ人達の花でもあるから。

「まだ、死ねない。死ぬ訳にはいかないんです」
「……交渉決裂、か」
 嗚呼、残念だよ。
 花盗人がそう告げると同時だった。
 スキアファールは敵の含みを持った言い方に、何かを感じ取ったのだろう。

 暗闇の中、朱殷の蓮華が咲き乱れる。
 其処から続けて現れたのは、痩せぎすの影の手。
 泥梨の底へ引き摺り込む其れは十を超え、百を超え……四百以上。

「だから――絶対に、渡さない」
 己の花に近付く、何らかの気配。
 花盗人の周囲で光り続ける、数多くの花々。
 ……沈み、墜ちてゆけばいい。掴まれれば最後、帰る事能わず。
 流石に、敵は此の場を離脱した様だが。
 代償として使われる前に呑み込んでいけば、敵は魔術を使えなくなる筈だ。

 また新たに、暗い朱色の花が咲く。
 嗚呼。命とも呼べる心を肥料に芽吹く花は、こんなにも美しい。

成功 🔵​🔵​🔴​

嘉納・日向
この花の量
……沢山のひとが心を盗られたきりになってるってことだよね

『ぼーっとしてたら盗られちゃうよ!』
そうだね、わかってるって

さっきまでの具現化を解いた親友は、バロックレギオンから声だけで焦っている
『あたしの親友なのに!』
いつも通り、覚えている通りの声。その明るさが眩しかったし、今はちょっと心強い

私の心は向日葵、か。開花しきって鮮やかな花の色
確かに、ひとつ所を見つめているのは同じかもね
盗られてたまるか
これ以上、あれに心を盗らせてたまるか

手が近づけば振り払うのを試みて、薙ぐように銃弾を
あの子を埋めた暗闇にも似たバロック達に紛れて、攻撃していくよ



●黄ノ向日葵
 あまりにも、多過ぎる。
 其れは、沢山の人が心を盗られたきりになっている事の証左。
 嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)は目を伏せながらも、いつでも交戦出来るように銃――れいめいのグリップを強く握り締めていた。
 大丈夫。今回も冷静に対処すれば、きっと大丈夫。それに……。

『ひなちゃん、ぼーっとしてたら盗られちゃうよ!』
「……そうだね、わかってるって」
 傍らには、ひまりが居た。
 先程までの人型ではなく、今は暗闇の様なバロックレギオンの姿。
 恐ろしい見た目に変わったと言うのに、慌てる様子は少し愛らしくて。

 ――あたしの親友なのにー!
 いつも通り、覚えている通りの声。
 其の明るさが眩しくて、昔は眩し過ぎると思っていたけれど。
 今はちょっと心強い、と嘉納は感じていた。

 ひまりのお陰で、自分の心の花について考える余裕が生まれたのか。
 嘉納は改めて、己の目の前に浮かぶ花を見る。
 開花し切っていて、とても鮮やかに咲いた……黄色の向日葵。
 確か、花言葉は――。

「あなただけを見つめます」
「……っ」
「嗚呼、とても綺麗だ。過去の罪ばかり見ている、君にとても似合――」
『ねえねえ、お兄さん?』
 不意に現れた花盗人に対して、ひまりは即座に敵意を向けた。
 敵の言葉を耳にした、嘉納の緊張が伝わったからだろう。
 ……いや、そんな事よりも。
 何も知らない輩が、自分の親友の理解者然としている事の方が大問題だ。

『あたしの親友に、ちょっかいかけないで』
「おや、気分を害してしまったかい?」
『……伝わらないなら、言い直してあげる。あたしの親友に手を出すな!』
 バロックレギオンが吼えた。
 嘉納の花を盗もうとする前に、殴打によって妨害する。

 絶対に近付けさせない。
 ひなちゃんに、ひなちゃんの花に触れさせない!
 一つ一つの動きから、ひまりの決意が滲み出ている様で。

「確かに、一所を見つめているのは同じかもね」
 だからこそ、嘉納は平静を保てている。
 何か嫌な気配が、自分の花に迫りつつある事にも気付いていた。
 恐らく……此の気配は、花盗人のもの。
 今まで集めた花を代償に、彼女の花に触れようとしているのだ。

「盗らせない」
 盗られてたまるか。
 これ以上、あれに心を盗らせてたまるか。
 気配を振り払い、嘉納はひまりの元へと駆け出す。

 ひまりを埋めた暗闇にも似た、バロックレギオン。
 其れから目を逸らさず、彼女はひまりと共に敵へと立ち向かっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
花/白いカミツレが一輪。これまで乗り超えた逆境の分だけ、大きく堂々と咲いている

胸に現れた花の名前は分からないが、凛とした花の様子は好ましく思う
しかしこれも敵の術だ、警戒は解かない

相手が向かってくるなら正面から迎え撃つ
命中率を上げるために接近を待ってユーベルコードを発動
危険はあるが、確実にダメージを与える為だ

花を盗まれたらすぐに取り戻す
真の姿を解放(月光に似た淡い光を纏い、犬歯が牙のように変化し瞳が輝く)
身体能力を上げて距離を詰め、銃のグリップで花を持つ手へ打撃を加えて手離させる

奴の持つ花の数だけ犠牲者が居たということだろう
これ以上一つとして花は渡さない
その『ゲーム』とやら、ここで終わらせてやる



●カミツレ
 大きく、堂々と咲き誇る白き花。
 其れはきっと、数々の逆境を乗り越えてきた証。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、胸元に現れた花の名前を知らないが……凛とした様子は好ましいと感じていた。

「カミツレ、か」
 数多の戦場に赴く、戦士に咲く花。
 嗚呼、彼の『苦難に立ち向かう』為の覚悟が形となったのか。
 とても力強く咲いたカミツレを目にして、花盗人は目を細めていた。
 ……さあ、どんな風に盗もうか。
 先に戦った猟兵達もそうだが、シキも警戒心が強そうだと敵は思う。

「(危険はあるだろうが……)」
 シキも少しの間、思考を巡らせていた。
 花盗人の周囲に浮かび続ける、多種多様の花。
 其れらの数だけ、犠牲者が居た。
 恐らく……心を奪われた者達は皆、手遅れと考えた方が良いだろう。

 其れを承知の上で、奴はまだ花を欲している。
 此れ以上、一つとして花を渡す訳にはいかない。
 ……故に、彼は己の心を危険に晒す覚悟を決めたのだ。

「その『ゲーム』とやら、ここで終わらせてやる」
「やれるものなら」
 ――やってごらんよ。
 暗闇の中に身を潜めて、花盗人は少しずつシキへと迫る。
 敵の気配を耳で、匂いで感じ取るも……彼は、敢えて動かない。
 代わりに愛用の銃――ハンドガン・シロガネを手に、正面へと構えていた。

 ……それなら、背後から盗ませてもらおうかな。
 花盗人が手を伸ばした瞬間、シキは即座に振り返る。

「……っ?」
 カミツレに触れると同時、花盗人は思わず目を丸くする。
 どういうつもりだろう?
 不意の疑問が、敵の動きを一瞬止める。
 其れは、シキにとっては充分過ぎる程の時間だった。

「全弾、くれてやる――ッ!」
 ハンドガン・シロガネが、火を吹き始めた。
 確実に盗む為に接近すると踏んで、シキは機を伺っていたのだ。
 撃って、撃って、彼は花盗人をひたすらに撃ち続ける。
 弾倉内の弾を全て撃ち切るまで、彼の銃撃は止まる事を知らない。

「ははっ、危ない……なぁ……!」
 花を消費して、どうにか致命傷は避けたものの。
 衣服は穴だらけ、思ったよりも銃撃を受けてしまった。
 其れでも、凛と咲くカミツレは此の手に――。

「返してもらうぞ」
「……っ!?」
 ――かと思えば、カミツレが零れ落ちる。
 手首に強い衝撃を受けたと理解して、花盗人が顔を上げた時。

 其処には、獣が居た。
 双眸に宿る、凶暴な光。
 其れは淡い月光を纏った、鋭利な犬歯を持つ狼。
 再び、カミツレを手にしようとするよりも……気付けば、敵は其の場からの離脱を選択していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
つい最近、サムライエンパイアで、提灯屋さんが言ってたんだ。
彼岸花って花があるそうだ。
別の呼び方で「狐花」って言うそうだ。

だからきっと、俺に咲く花は、あの時の提灯みたいな、彼岸花。

でも、この影朧、人の花を狩ってるのか。
俺の花は、ありきたりだから、そんなに珍しくないけど……。
放っておいたら、他の人の花を盗ってしまう。
他の人の花を盗らせる訳にはいかない。

2本のダガーで迎撃しつつ、UC【狐火】で攻撃したい。
火力は最大で。

あの後、何で彼岸花が、狐花って呼ばれているか、すまーとふぉんのシシリーさんに聞いたんだ。
花の形が、狐火に見えるから、だそうだ。

そんなに花が欲しいなら、狐火に包まれて骸の海に帰ってくれ。



●白ノ彼岸花
 彼岸花と呼ばれる花の事。
 其れが『狐花』という呼び方もあるという事。
 つい最近、サムライエンパイアで立ち寄った提灯屋さんが教えてくれた。
 チィの輝きとよく似たあの灯りは、今も胸の内を温めてくれるから。
 だから、きっと――。

 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の胸元に浮かぶは、白色の彼岸花。
 淡い輝きはまるで、月の色の様。
 ……故人への思い故、咲かせる者は居たけれど。
 白色とは珍しいね、そんな風に花盗人は思う。

「白い彼岸花、その花言葉を知っているかい?」
「花言葉……?」
「植物に与えられている言葉の事だよ」
 例えば、そう。
 君に合いそうな花言葉は、『また会う日を楽しみに』かな。
 花盗人の呟きに、木常野は敵ながら感心していた。そんな言葉もあるのか、と。

「……その彼岸花、僕にくれないかい?」
「これだけで、満足しないんだろう?」
「勿論さ」
 穏やかな笑みを浮かべて、花盗人はさも当然の様に言い切った。
 恐らく……この影朧を放っておけば、他の人の花を盗ってしまうだろう。
 自分の花だけで済むなら、と木常野は考えていたけれど。

「チィーッ!」
「チィ?」
「チーィー!チチィ!」
 其処は嫌な予感を察したのか、或いは純粋に嫌!という気持ちの表れか。
 月の精霊の子、チィが木常野の頬をぺちぺち!ぺちぺち!
 そんなチィを宥めてから、彼は改めて花盗人と向き直った。

「何で彼岸花が『狐花』って呼ばれているか」
 ――あの後、すまーとふぉんのシシリーさんに聞いたんだ。
 木常野の言葉に、機械的な声が反応した様な気がしたが……今はそっとしておこう。
 彼岸花には別名が様々あるが、狐花と呼ばれる所以。
 其れは、花の形が狐火に見えるから。

「そんなに花が欲しいなら――」
 ぽつぽつ、と。
 木常野の周囲に生まれるは、小さな狐火だ。
 一つでは小さい其れを集めて、彼は一つの大火を作り出す。
 花の代わりになるかは分からないが、己の心を盗ませるつもりはない。

 だから……狐火に包まれて、骸の海に帰ってくれ。
 放たれた炎を防ぐべく、花盗人は己の花を操ろうとしたが。
 其の代償。己の想定以上の消費に、敵は冷や汗を一筋流していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミネルバ・レストー
悪趣味だこと、まあいいけど
それで?わたしの心も花になるのかしら
思いつくのは氷花しかないけど…って

何かしら、このかわいらしい花は
(ルクリア、またはアッサムニオイザクラ)
ずいぶんとまあ…わたしも丸くなったものね

この花を咲かせたのはあなたじゃないわ、勘違いしないでね
わたしに関わってきた、すべての人のおかげなの
花も咲かない雪原だったわたしの世界に、花を咲かせてくれた人たち
だからあなたにあげるものは何もない、奪わせもしない

【全ては静寂の白へ】、任せたわよクソダサドラゴン
…代償?そうね、取引をしましょうか
これからはもう少し、あなたへの待遇を良くしてあげる
凍って、砕けて、終わりにしましょう?
悪趣味な盗人さん



●ルクリア
 ――随分とまあ、悪趣味だこと。
 ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は小さく溜息を一つ。
 まあ、そんな事はどうでもいい。どれ程の時間が経ってしまったのか。
 最新機種のスマートフォンで時間を確認してから、直ぐに収納。

「(わたしの心も花になるのかしら)」
 近くで聞こえる、戦闘音。
 恐らく、花盗人はもう直ぐにミネルバの元に現れるだろう。
 其の前に彼女は、自分の心がどんな花になったのか見てみようと。

 ――思いつくのは、氷花しかないけど……って。
 そんな彼女の予想とは裏腹に、胸元に咲く花からは甘く優しい香りが漂う。
 花の形は、此の世界で一年中咲き乱れている『桜』の様。
 可愛らしく、けれど凛と咲き誇るルクリアを見て……彼女はふと、笑む。

「ずいぶんとまあ……わたしも丸くなったものね」
 こおりのむすめ。
 戦う事しか知らなかった、アバターの一人。
 本来は『心』なんて持ち合わせなかった、かもしれない。
 其れでも、此の花は確かに咲いてくれた。
 こんなにも、こんなにも……力強く。

「嗚呼、とても綺麗な花が咲いてくれたね」
「この花を咲かせたのは、あなたじゃないわ。勘違いしないでね」
「どちらでもいいさ。君の心に変わりは無いだろう?」
 ……だから、盗ませてもらうよ。
 ミネルバは怜悧な声で言い放つが、花盗人は気にも留めない。
 誰が咲かせたかよりも、彼にとっては咲いた事自体が重要なのだろう。
 そして彼は、虎視眈々と隙を窺っている。

 ――本当に、悪趣味な盗人さん。
 ミネルバに関わってきた『あの人』を始めとする、すべての人。
 此の花は、彼らのおかげで咲いた花。
 花も咲かない雪原だった少女の世界に、彼らは花を咲かせてくれた。

「あなたにあげるものは何もない、奪わせもしない」
 八尺瓊勾玉を真上に放る。
 全ては静寂の白へ。永久凍土を呼び招く、氷風の龍を此処に。
 ――任せたわよ、クソダサドラゴン。
 ミネルバの声に反応して、八尺瓊勾玉が強く輝き始める。
 光は少しずつ形を変え、龍の姿を成すにつれて……唸り声を上げた。

「……代償?そうね、取引をしましょうか」
 ミネルバの指が示す先、氷雪の悪魔龍は睨み付ける。
 大きく息を吸い込んだ後、ぴたりと止まる。攻撃するかは、対価次第。
 ――これからはもう少し、あなたへの待遇を良くしてあげる。
 其れは、対価として充分過ぎたのか。
 花盗人や彼の周囲に浮かぶ花々を、更に鋭く睨み……冷気を帯びた息を吐き出す。

 凍って、砕けて、終わりにしましょう?
 氷雪の悪魔龍は暗闇に浮かぶ花を凍結、氷の中へ閉じ込める。
 敵は咄嗟に盗む事を諦め……他の花を更に消費した上で、此の場から離脱した様だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リン・イスハガル
●心境
これは、なんという、盗人。
倒さねば、ならない。わたし、頑張るよ。
●咲いた花
真っ赤な彼岸花。

●行動
[闇に紛れる]で隠れて隙を窺う。
チャンスを見つけ次第、[二回攻撃]で影朧を攻撃するよ。
一回目は通常攻撃で接敵、二回目でユーベルコードを使用する。
「わたしの、影には、何かが住んでいる、の」
負の情念に対しては、何とか頑張って耐えてみる。[激痛耐性]あるから、それなりには耐えれると思うの。
でも、敵からの攻撃で花を奪われそうになったら嫌なので、奪われないように立ち回る。
「真っ赤な、彼岸の花、これ、わたしと、兄上、繋ぐ花。だから、盗ませない」



●紅ノ彼岸花
「みゃーお……」
「ちくわ、大丈夫。でも、遠くは、だめ」
 リン・イスハガル(幼き凶星・f02495)はしゃがみ込み、傍で不安そうに鳴くバディペット――ちくわの背を優しく撫でていた。
 真っ暗な場所。主人が近くに居ても、不安は拭い切れず。
 其れでも、彼女の傍で周囲を警戒し続けるのは……大事な御主人だから、か。

「…………」
 ほんの僅かに漂う、死の残り香。
 其れは囚われの日々の中で感じた、冷たくて寂しい気配にも似ていて。
 ――これは、なんという、盗人。
 倒さねば、ならない。わたし、頑張るよ。
 ちくわと闇に紛れる様に進みながら、リンは密かに決意を固めていた。

「真っ赤な、彼岸の花」
 リンは胸元の花を見つめる。
 見目がとても鮮やかな、紅色の彼岸花。
 ……彼女にとっては強い意味を持つ、大切な花だった。
 花盗人の姿を目にして、彼女の中で『盗ませない』という気持ちが強くなる。
 ちくわを物陰に潜ませた後、薄紫色に輝く氷の苦無を手に――彼女は駆け出した!

「おっと……」
「……っ!」
 手にした苦無を薙ぐ様に振るうが、花盗人の周囲に浮かんだ花が身代わりに。
 敵は反撃を試みるが、負の情念を込めた一撃は……浅い。
 ……孤独。寂鬱。私は此処に居るよ。
 誰かの感情がリンの内側を苛むも、彼女は頑張って堪える。
 ――まだ、戦える。絶対に、盗ませない、って決めたんだから。

「わたしの、影には、何かが住んでいる、の」
 今、触れようとしたな。
 わたしと、兄上、繋ぐ花に。
 ……わたしの、我の心を盗もうとしたか。
 嗚呼、嗚呼……随分と戯けた事を考えたものよ。
 少女の静かな怒りが、氷の邪悪を目覚めさせたのだ。

「迂愚な盗人よの」
 ――潰れてしまえ。
 刹那、濁りきった緑の瞳に妖しい輝きが宿る。
 リンの影から現れたのは、冥府より這いずる影の手。
 彼女の花を奪おうとする花盗人の腕を、異形の腕は握り締める。
 一息に、敵の腕の骨を粉々にしてしまおうと。

 ――真っ赤なお花が、咲いた。
 其れは、敵が此れまでに盗んできた赤色の花々によって作られた……彼岸花。
 確かに掴んだ様に見えた、けれど……。

「……あれ。ちくわ、わかる?」
「にゃー?」
 気付けば、敵の気配も遠くなっていて。
 どうしてだろう?幼き少女と猫は一緒に、そんな風に首を傾げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
胸に咲いた花は爛漫に咲き誇る、桜
私の大切な爛漫咲櫻
私の櫻は咲いたんだ

親友の纏う花を、己が心に咲かせられたことが嬉しい

今、無彩の心を染めた薄紅
過去、永遠なる孤独を染め上げた彩

そなたに盗ませるわけないだろう
ひとひらだって、渡さない
これは私だけの華だからね

幾ら盗んでもそなたのものになどならないよ
そなたの花を、狩って刈って枯らせよう
防護結界を張り守り、
纏う神罰は枯死の言祝ぎを
早業で駆け見切り躱して、纏う負の感情ごとそなたを斬り込んで断ずる

盗られたならば取り返すまで
せっかく、やっと、咲いたんだ
私の桜に触れるな


花は在るべき場所に咲いているからこそ美しい

そなた自身の花はどこにある?

無いからこそ、盗むのかな



●桜
 さくら、桜。
 親友の纏う花、私の大切な爛漫咲櫻。
 朱赫七・カムイ(約彩ノ赫・f30062)の胸に咲き誇るは、いと美しい桜だった。
 其れは彼にとって、至上の喜びとも言える事実。

 過去――厄神を蝕む、永遠なる孤独を染め上げた彩。
 今は――約神の無彩の心を鮮やかに染め上げた、薄紅。

「噫……」
 ――私の櫻は咲いたかい?
 ふと、過ぎる言葉。声。
 友に逢いたい。きみに……イザナに、あいたい。
 噫。言の葉に込められた感情、計り知れない程の深き哀切。

 記憶はない、知識として理解しているだけ。
 されど、此の言葉は『前の私』が紡いだ言葉だと……朱赫七は確信する。
 故に。胸に咲き誇る桜の、なんと愛おしいことか。

「そなたが、花盗人だね」
「御名答。君も、簡単に盗ませてはくれなさそうだね」
「盗ませるわけないだろう」
 花弁のひとひらだって、渡さない。
 せっかく、やっと、己が心にも咲いたんだ。
 ……私の櫻は咲いたんだと、胸を張って伝えたい人が居るから。

「これは私だけの華だからね」
 朱桜舞え、桜守ノ契は此処に在り。
 ……必ず、守ってみせる。
 其の為ならば、災厄の力の一端も揮おう。

 喰桜が、仄かに明滅する。
 歪な呪術を喰殺し、悪縁を絶つ朱砂の太刀。
 花は、在るべき場所に咲いているからこそ美しい。
 幾ら盗んでも……他者の花は、そなたのものになどなりはしない。
 ――其れを今、証明しよう。

 朱赫七は静かに目を閉じて、開く。
 確りと敵を見据えては、柄を力強く握り締めた。
 さあ……狩って、刈って、枯らせようか。

「私の桜に触れるな」
 ――迅雷の如く。
 凄まじい速さを以って、朱赫七は斬り込む。
 枯死の言祝ぎを乗せた刃が、花盗人の掌で光る花を両断した。
 嗚呼……負の感情に満ちた花は散りゆき、少しずつ消えていく。

 ならば、他の花を使おうか。
 敵は思考を切り替えて、別の方向に手を伸ばすも……無い?
 先程まで、近くで浮かんでいた筈の花々が。今も尚、失われ続けている。
 ……どうやら、己の術は彼と相性が悪そうだ。
 朱赫七との交戦を避けるべく、敵は花に紛れて離脱を試みようと。

「そなた自身の花はどこにある?」
「……さあ、何処だろうね?」
「噫、無いからこそ、盗むのかな」
 去り際に見えた、横顔。
 朱赫七の言葉を耳にした為か、花盗人の口元から笑みが消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライナス・ブレイスフォード
胸に咲いた赤い薔薇と周囲に広がる香を捉えれば眉を寄せんぜ
吸血鬼の弱点とか笑えねえ…って
…まあ盗られたら死ぬって時点で弱点なんだろうけどよ

戦闘時はリボルバーを手に胸元の花を囮にする様晒しながら地を蹴り『クイックドロウ』
敵の周囲の花を狙い散らし数を減らさんと試みつつ間合いを詰めんと試みんぜ
間合いが近づき敵が花へと手を伸ばす様を捉えれば『オーラ防御』と共に盾を展開『盾受け』にて防ぎつつ【這い寄る毒虫】にて逆に敵の動きを止めんと試みるぜ
…あ?花の心配?
あいつの一部が入った盾があんのに防げねえわけねえからな。する訳ねえだろ
その後は両腕と両足を『部位破壊』し動けぬ様にせんと引き金を引いてこうと思うぜ



●紅ノ薔薇
 吸血鬼の弱点は諸説あり、個々によって程度の差はある様だ。
 流れる水を恐れる者、匂いの強い香草を拒む者。
 其の特徴を複数、持ち合わせている者もいるかもしれない。
 さて、彼が――ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)が厭う、吸血鬼の弱点とは何だろうか。
 ……嗚呼、何という事だろうね。此れは面白い。

「笑えねえ……」
 不意に現れたかと思えば、存在を主張する様に花香が広がる。
 ライナスは其の香りに思わず眉を寄せた後、片手で頭を押さえていた。

 彼の胸元に咲き誇るのは、真紅の薔薇。
 其れは『熱烈な恋』を告げる、愛の象徴たる花。
 そして……吸血鬼の弱点の一つとも言われる、彼にとっての甘き毒。

「まあ、盗られたら死ぬって時点で弱点なんだろうけどよ」
 匂いまで再現する必要は無いだろうに。
 其れでも、ライナスは嫌いになり切れなかった。
 彼の帰りを待つ者が、大切にしている『花』に酷似している為か。
 ……そんな彼の眼前にもまた、花盗人は姿を見せる。

「あんたにくれてやるつもりはねぇよ」
「そうだろうね」
 ――だから、今度こそ盗ませてもらうよ。
 伸ばされた手と、鈍色の小さな盾がぶつかり合う!
 花盗人の余裕は少しずつ薄れているのか、急に間合いを詰められる。

 己の花を狙う、敵の動き。
 其れをライナスは確りと見切り、機械仕掛けの盾を間に挟んだのだ。
 更に、反撃と言わんばかりにFortunaの銃口を浮かぶ花々へ向けて――発砲。

「そんな盾一つで、守り切れると言うのかい?」
「あいつの一部が入った盾があんのに、防げねえわけねえからな」
 花の心配など不要。寧ろ、する訳ねえだろ。
 だからこそ、ライナスは攻撃に専念する事が出来るのだろう。
 ……敵が至近距離に居る今こそ、好機だと。
 彼は三色の鎖を影から生み出して、即座に敵へと放つ。

「少し動き、止めとけって」
 そうしたら、楽に消してやるよ。
 金と銀が、花盗人の両足を絡め取る事に成功した様だ。
 其れを確認した直後、ライナスは躊躇無く引き金を引いた。

 まず狙うは、負傷しているらしき片腕。
 薔薇の香りを、鮮血の香りが上書きしてゆく。
 しかし、溢れたのは影朧の血。全く、彼の食指が動かない。
 彼の渇きを満たす赤色は、今も律儀に待ち続けているのだろう。
 ……そうだ。あいつはまだ生きている、筈だ。

「ちっ……」
 僅かな思考が、逃げる隙となったか。
 ライナスは反対の腕を狙い、銃で撃ち抜こうとしたが……其処に残っていたのは、二本の鎖だけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱雀野・ヤチバ
胸元に確りと咲くは石蕗
…アハハ!
いいね、如何にも野暮ッたくてよォ!

呉れてやるつもりは毛頭無ェぜ、優男
此処はテメェの好き勝手できる花屋じゃねェ
骸の海にさッさと還れ

オーラ防御纏い
蛇たちの第六感と野生の勘も働かせながら接近
ちッ、のらくら避けるンじゃねェ!
へらへらしたその貌ぶン殴ッてやるからよ!
瞬間、伸びる盗人の手

…馬ァ鹿

ニヤリ嗤い
[逢蛇]でカウンター
刺し込まれた手ごと多数の蛇で絡め取り
日照と氷雨の呪詛毒で継続ダメージ
手癖の悪い泥棒にゃ灸を据えてやらなきゃなァ!

ッと…くそ、すっからかんだ
眠気にふらつく頭でぼんやりと
…アイツの墓石の傍に、まだ咲いてンのかね、コレは
なんて……畜生。女々しいッたらねェな。



●石蕗
「いいね、いいね――如何にも野暮ッたくてよォ!」
 朱雀野・ヤチバ(馬手に青を弓手に赤を・f28023)の胸元。
 其処には確りと、黄色の花弁が鮮やかに咲き誇る。
 此の花の事はよぉく、よぉく知っている。知らぬ筈が無い。
 だからこそ。彼女は石蕗の花を目にしては、思わず声に出して笑ったのだ。
 己の笑い声を耳にしたのか、現れた男へと視線を向けて……彼女は笑みを深める。

「呉れてやるつもりは毛頭無ェぜ、優男」
「おや、残念だね」
 表情は常と変わらず。
 しかし、朱雀野は花盗人の余裕が薄れている様に感じた。
 それはそれは、重畳な事だ。此処は敵の好き勝手できる花屋ではない。
 だが……消える前に、へらへらしたその貌ぶン殴ッてやるか。

 そうと決まれば話が早い。
 彼女は一直線に敵へと駆け出しては、思い切り殴り掛かるが……。

「ちッ、のらくら避けるンじゃねェ!」
「そう言われても、ね。殴られるのは御免被るとするよ」
「だッたら、骸の海にさッさと還りやがれ!」
「それも嫌だなぁ」
 還ってしまったら、花々の蒐集が出来ないじゃないか。
 くるり、と花盗人は身を翻す。
 そして――朱雀野の拳を躱し、石蕗を盗もうと手を伸ばした。

「……馬ァ鹿」
「っ!?」
 藪をつつけば、何が出る?何を出す?
 朱雀野がニヤリと嗤えば、石蕗を守る様に次々と蛇が現れる。
 其れらは刺し込まれた手を逃さぬ様に、離さぬ様に絡み付こうとしていた。
 花盗人は眉を顰めながら、即座に引き抜こうとするも。

 ――動くな。
 赤と青の蛇が、彼を鋭く睨み付けていた。
 嗚呼。蛇に睨まれた蛙の気持ちとは、正に此の事か。

「やッちまいな。日照、氷雨」
 ――手癖の悪い泥棒にゃ灸を据えてやらなきゃなァ!
 二匹の蛇が、呪詛の如き毒を花盗人へと浴びせに掛かる。
 其れは、此れまでの往診で吸い上げた病の毒か。
 敵は苦悶の貌でよろめくも、花を消費しては離脱。難を逃れていた。

「ッと……くそ、すっからかんだ」
 溜め込んだ毒の殆どを出し切った為か、朱雀野は凄まじい眠気に襲われていた。
 まあ、後は他の猟兵が何とかするだろう。
 いざという時は、日照と氷雨にどうにかさせればいい。
 ふらつきながらも、彼女は近くの壁に凭れ掛かり……ふと、思う。

 揺れる、石蕗。
 アイツの墓石の傍に、まだ咲いてンのかね。コレは。
 困難に負けない、とか。強い花だとか、言ッてたッけなァ。
 畜生、過去の自分を笑えねェ。

「女々しいッたらねェな」
 嗚呼、そうだ。
 此れが終わったら、酒を土産に墓参りにでも行ってやろうかね。

成功 🔵​🔵​🔴​

贄波・エンラ
(真の姿、煙人間の姿になり輪郭がぼやけている)
この白い花は雛芥子…ポピーか
花言葉は「忘却」だったね
確かに今の僕にぴったりの花だろう

さて、この花を仮に奪われたとして
それで「忘却」が無かったことになるのなら…僕が失った記憶を思い出せるというのならくれてあげても良いのだけどね、そう言う訳にはいかないのだろう

それに
白い雛芥子の花言葉、これは今の僕が学んで覚えたものじゃない
記憶を失う以前…死ぬ前の僕が覚えていた事だ
それに、此処までの道中での記憶…僕は、確実に何かを思い出しかけている
もう何もないまっさらな「忘却」ではないということだ
そう簡単に渡す訳にはやはりいかないよ

さあ、悪い子には煙の如く消えて貰おうか



●白ノ雛芥子
 ――花言葉は『忘却』だったね。
 贄波・エンラ(White Blind・f29453)は胸元で光る、白い雛芥子を見つめていた。

 ゆらり、ゆらぁり……。
 今の彼の姿形は揺れ動き、ぼやけている。
 紫煙を燻らせる、怪奇人間。されど、心花は確かな形を保っていた。
 大切だった筈の『何か』を忘れて、己がどんな死を迎えたのかも忘れて。
 ……確かに、今の僕にぴったりの花だろう。

「(ただ、僕は……確実に、何かを思い出しかけている)」
 生前の記憶の殆どを喪失している、筈なのに。
 どうして、贄波は此の花の名前や花言葉を知っているのか。
 勿論、今の彼が学んで覚えたものではない。
 ……其れを踏まえれば、答えはシンプル。実に単純な話だ。

「さて、この花を君に渡したとして……僕の『忘却』は無かった事になるのかな?」
 贄波は柔和な笑みを浮かべては、問い掛ける。
 暗闇の先に立つ、疲弊した様子の男性――花盗人へと。
 ……嗚呼、既に他の猟兵達と交戦した後なのだろう。
 敵の周囲に浮かぶ花々が大分減っている理由も、恐らく其れだ。
 問い掛ける声に、敵は笑みを浮かべては小首を傾げる。

「……試してみるかい?」
「質問に質問で返すのは感心しないね」
 花盗人の反応で、贄波は理解した。
 自ら渡しても、盗まれたとしても望む結果は得られない。
 其れに……此処までの道中の出来事から、彼はある確信を得ていた。

 学んだ覚えの無い、知識。
 靄に隠れた筈の記憶が、少しずつ鮮明になり始めている。
 ――もう、何もないまっさらな『忘却』ではないということだ。

 故に、元より語らいに興じるつもりは無い。
 既に思い出し掛けているのならば、自然に記憶が戻るかもしれない。
 或いは、ふとした拍子に記憶の中の『誰か』に出会える可能性もある。
 わざわざ、影朧の手を借りる必要も無いのだ。

「足掻けば足掻く程、痛みは増すよ」
「……っ」
 ならば、攻撃を受ける前に避ければいい。
 花盗人は浮かぶ花を消費、確実に闇に紛れようと試みる。
 ――やはり、あの花はただ浮かんでいるだけではない様だね。
 敵の挙動から其れを察したのか。
 贄波は煙を集めて、気体から固体と化す。

 そう簡単に渡すつもりは無い。
 付け加えるならば……易々と敵を逃がす程、彼は優しくない。

「さあ、悪い子には煙の如く消えて貰おうか」
 花を盗まれるよりも、速く。
 敵だけではなく、周囲の花々を散らす様に。
 贄波は煙鎖を操り、縦横無尽に薙ぎ払っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霑国・永一
おや、素敵な花飾りをありがとう。……へぇ、これはブドウかな?
色々意味はあれど、恐らく俺には「酔いと狂気」、そんなところか。
しかし成程、これを盗みたいのかぁ。残念、同じ生業同士仲良くとはいかないものだ

狂気の透化を発動しよう
盗みたい花ごと相手の視覚から消えるとするさぁ。
その後は上がった速度で死角へ移動を続けながら銃で撃つ、ダガーで斬り付けるなどを介しての盗み攻撃で生命力を奪い取るとしよう。
特にその手は攻撃をどんどん加えて無力化していきたいねぇ。
泥棒は手癖が悪いもの。だから罰せられるときは命とも言うべき手を失うなんて話もある。
盗人同士の盗み合い、俺は手だけじゃ済ます気は無いけども。
さぁ、貰っていくよ



●葡萄
「おや、随分とボロボロじゃないか」
 葡萄の花を、胸元に咲かせて。
 霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は、ゆっくりと歩み寄る。
 いやはや、暗闇の中とはいえ……立ち止まって、息を整えるなんて無用心な事だ。
 彼は、花盗人の様子や周囲に浮かぶ花々を眺めては思う。

「これはブドウかな?素敵な花飾りをありがとう」
「礼には及ばないさ。直ぐに、僕の物になるからね」
「……成程、これを盗みたいのかぁ」
「当然だよ。こんなにも狂気に満ち満ちた、ブドウの花は初めて見たからね」
 葡萄の花言葉は数あれど、霑国に合うのは『酔いと狂気』だろう。
 其れは彼自身も、何となく理解している。

 だが、どうやら花盗人は此れを盗むつもりらしい。
 ……残念、同じ生業同士仲良くとはいかないものだ。
 まあ、其れならそうと話が早い。
 盗むか、盗まれるか。二つに一つならば、霑国が選ぶのは当然――。

「それなら、俺はその命を盗もうか」
「――っ!?」
 霑国の姿が、彼の心花が消えた。
 一切の痕跡を残さず。文字通り、瞬く間に。
 何が起きたのかを理解する間も無く、暗闇の中に銃声が響いた。

「くっ……!」
「(へぇ、反応は悪くない)」
 花盗人の近くで、はらりと花が散る。
 今まで集めた花の一部を消費する事で、敵が銃弾を防いだのだろう。
 尤も……表情から推察するに、咄嗟の反応と言った所か。
 ならば、と。彼はダガーを手に取り、薄く笑みを浮かべていた。

 泥棒は手癖が悪いもの。
 故に、罰せられる時は命とも言うべき手を失うなんて話もある様だ。
 既に敵の片腕は使い物にならない。
 ならば、霑国が狙うのはもう片方だろうか?

 ……いいや、違う。
 盗人同士の盗み合い、其れだけで済ませるなんてつまらない。

「俺は、手だけじゃ済ます気は無いからね」
 ――さぁ、貰っていくよ。
 動かぬ片腕よりも、動く其れよりも。
 花盗人の『命』を盗んだ後に飲む珈琲は、どんな味だろうかと。
 霑国は刃を手にしたまま、死角から急速に敵へ近付く。

 此れ以上、集めた花々を無闇に減らすのは躊躇われるのか。
 敵は、未だ彼の姿を捉えられない様子。
 視覚に頼り過ぎというのも難儀なものだよ。
 ……ああ。でも、伝えるのが少し遅かったかな。

 己の刃はもう、敵の背後を深く斬り裂いていたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

一瀬・両儀
あァ?なんだコレ。睡蓮か?花言葉は、「滅亡」だったか。
近づいたヤツは身を滅ぼす。まさにオレにうってつけだなァ!
この花の言う通り、サッサと俺に殺されてもらいましょうかねェ!

ようやくお楽しみとしゃれこむ為に[リミッター解除]で殺人鬼としての本能を呼び覚ます。
すかさずUC『無境・死刻確定』を射程に入れた時点で発動。

[見切り・残像]で相手の攻撃は回避する。当たらなければ殺されねェ。
避けられる量にも限界があるだろーが、そんなものでオレの[殺気]は消せん。

テメェがオレに「殺される」ところを見せてくれよォ!!!



●睡蓮
「あァ?なんだコレ」
 ふよふよ、ふわふわ。
 己の胸元に咲いて、浮かび続ける其れを訝しげに眺めて。
 一瀬・両儀(不完全な殺人術・f29246)は思わず、首を傾げていた。

 暗闇の中でも鮮やかに咲き誇るは、睡蓮。
 敵の術だか何だか知らないが、此の形は何か意味があるのだろう。
 ……花言葉、か?
 其処まで思い付いた所で、彼は思考を中断。
 即座に、無銘刀の柄に手を掛ける。

「睡蓮……ああ、そうか」
 ふらつきながらも、花盗人は美しい花を目にして呟く。
 清純な心、信頼、信仰。
 一瀬を表す花言葉としては、最初は少々的外れの様に思えたのだろう。
 敵は少しの間、目を閉じて……何かを思い出したのか、ゆっくりと開く。
 ……嗚呼。此れならば、彼に合うだろう。

「滅亡」
「はァ?」
「睡蓮の花言葉の一つさ」
「……ハハッ!まさにオレにうってつけだなァ!」
 近づいたヤツは身を滅ぼす。
 殺人剣士に見付かったが最後、逃げる間も無く『殺される』しかない。
 くつくつ、と。一瀬は嗤いが抑え切れなかった。
 目の前にほぅら。花欲しさに、彼に近付こうとする愚かな獲物の姿が。

「じゃあ、この花の言う通り……」
 ――サッサと俺に殺されてもらいましょうかねェ!
 お楽しみと洒落込むべく、一瀬は柄を握る力を強くする。
 ……其れが、リミッター解除の合図。
 殺人鬼としての本能を呼び覚ました後、彼はニヤリと笑み一つ。

 さァ、どう料理してくれようか。
 まだ動きそうな腕、足から斬り落とすか。
 其れとも、奴の近くに浮かぶ邪魔な花々を散らしてしまおうか。
 ……狙いは決めた。
 後は、花盗人が己の間合いに入るのを待つだけ――。

「テメェがオレに『殺される』ところを見せてくれよォ!!!」
 喜色に満ちた、咆哮。
 殺意に満ちた、紅の双眸。
 此の身は唯、斬る為に。此処に在るは人斬りの業、滅亡を齎す斬撃也。

 ――我流抜刀術、無境・死刻確定。

 テメェに死をくれてやる。
 刹那、一瀬は花盗人の背後に立っていた。
 花盗人が振り返ろうとしても、攻撃を行おうとしても駄目だ。
 あまりにも遅過ぎる。当たらなければ殺されねェ。

 鉄錆の臭いが強く漂う、傷口。
 其処を的確に狙い、彼は居合によって深く斬り付けたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

咲く花は真っ赤な椿。
主と同じ姿を取る事と想いを受け継いだ事は俺にとって悩みでもあるけど同時に誇りであり。
そしてやれるだけやってそのうえで散るなら潔く。
生きる以上に後の礎となれればそれで良い。

花をしまえればいいんだけどな。魔術とやらで出てきてるとなると無理だろうな。
戦いも短期で決められれば。
少しでもリスクを減らすために存在感を消し目立たないようして、隙を見てマヒ暗殺のUC剣刃一閃を放つ。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。



●紅ノ椿
 主と同じ姿を取る事。
 誰かの為という、彼の想いを受け継いだ事。
 其れらは、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)にとって悩みであり……『誇り』でもある。

 物として、宿り神として、人として。
 己に出来る限りの事を行い、其の上で散るならば潔く。
 生きる以上に、後の礎となる事が出来れば。
 其れで良い。いいや、其れが良い。

 ……気取らない、謙虚な美徳。
 そんな彼の胸元には、紅色の椿が堂々と咲き誇っていた。

「(花をしまえればいいんだけどな)」
 黒鵺は花に触れて、胸元から移動させようとするが……出来ない。
 やはり、此れは敵の魔術によって生み出されたものだろう。
 ……隠す事が難しいならば、と。
 彼は暗闇を利用して、目立たない様に移動。敵を探していた。
 多少のリスクはあれど、其れよりも短期決戦によるメリットを優先した様だ。

「奴か」
 花盗人の姿を捉えた直後、黒鵺は闇に紛れて接敵を試みる。
 ……大分負傷している為か、敵の動きは鈍い。
 其れでも、彼は決して油断する事は無く。
 己の本体である『黒鵺』を振るい、確実に敵の傷を増やしていく。

「乱暴、だね……!」
「……っ」
 最早、なりふり構ってはいられない。
 周囲に浮かぶ花々を散らして、花盗人は黒鵺へ掌底を叩き込む。
 其れは、負の情念を籠めた一撃。
 穢れに満ちた雰囲気を感じ取ったのか、彼は辛うじて避けた。

「……自己満足の為に人の心を盗み、利用するか」
「それの何が悪いんだい?」
「悪いとは言わないが」
 一番美しい、人の心。
 其れを花の形で摘み盗り、集める事。
 花盗人は蒐集欲が赴くままに、盗んでいるだけだと。
 咎められる謂れなど無いと告げる敵を、黒鵺は否定しなかった。
 だが……無意識の内に、柄を握る手に力が篭る。

「ただ――俺は、許さない」
 人を愛し、人が残したものを愛する。
 故に、黒鵺は影朧の歪んだ欲を許容する事は出来ない。
 鋭い眼差しと共に放たれた、黒い刃による剣刃一閃が……花盗人の胴を斬り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鏡島・嵐
胸元に浮かぶ花。誰も名前を知らない、何でもない小さな花。
けれどそれは風雪に耐え、乾きに耐え、空に向かい凛と背を伸ばし、荒れ野に強く咲き誇る。
手を伸ばせば簡単に手折れそうだけど――それが躊躇われるほどに、その輝きは強い。

花なんておれには似合わないかもしれねーけど、むざむざおまえに盗らせる気も無ぇよ。
戦うんは怖い。奪われるんも怖い。だから、全力で抗う。

味方には適宜〈援護射撃〉を飛ばして支援したり、敵の動きをよく見て〈目潰し〉や〈マヒ攻撃〉を適切なタイミングで挟んで妨害したり。

……他人のモンに憧れるんはいいけど、奪うんは良くねえぞ。
そんなことしたって、本当に自分のモンになるわけじゃねえんだからな。



●名も無き花
 其の花に、名前は無い。
 手を伸ばせば簡単に手折れそうな、小さな花。
 其れが今、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)の胸元に浮かんでいた。

 今まで見た事が無い花。
 けれど、此の花がどれ程の困難を乗り越えて来たか……彼は理解している。
 風雪に耐えて、乾きに耐えて。
 空に向かい凛と背を伸ばし、荒れ野に強く咲き誇る。
 故に――其の輝きは強く、堂々たるもの。

「嗚呼。美しいからこそ、摘み盗りたい」
「……ふざけんな!」
 鏡島の前に姿を見せるなり、花盗人は呟く。
 手折るのが躊躇われる、という気持ちにはならない様だ。
 そして……どうやら、花盗人は敵意や殺気を隠すつもりも無いらしい。
 其れでも、彼は吼える様に叫んで返した。

「花なんて、おれには似合わないかもしれねーけど」
 恐怖が込み上げる。
 己を鼓舞して、鏡島は両足の震えを抑えようと。
 そして、彼はスリングショットを手にして――すぅ、と息を吸い込む。

 ――魔笛の導き、鼠の行軍、それは常闇への巡礼なり。
 ――呼び声に応えよ、音に魅せられし道化師よ。

 詠唱を終えた鏡島の背後から、笑い声が聞こえて来る。
 彼のユーベルコードによって召喚された、道化師の姿だった。

「むざむざ、おまえに盗らせる気も無ぇよ」
 戦うんは怖い。奪われるんも怖い。
 ……だからこそ、鏡島は全力で抗うのだろう。
 そんな彼の姿を見て、魔笛を持つ道化師はけらけらと笑っていた。

 いやはや……恐怖に懸命に抗う様の、何と愉快な事か!
 けらけら、けらけら。笑う、笑う、笑い続けて。
 ――面白い事には、相応の対価を。
 道化師が奏でる音色は、召喚者である鏡島に加護を与える。

「それに……他人のモンに憧れるんはいいけど、奪うんは良くねえぞ」
 そんな事をした所で、本当に自分の物になるわけじゃない。
 鏡島ははっきりと告げた後、スリングショットを用いて――素早く、敵の周囲に浮かぶ花々を撃ち抜いていった。

 名も無き花。
 誰も知らない、何でもない小さな花。
 其れでも……敢えて、此の花に象徴たる言葉を添えるならば。

 ――可能性、折れぬ意志。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幸徳井・保春
花「マツバギク」希望

菊……仏への花か? さっきの過去の輩に手向けるには最適だな。

胸から勝手に生えてゆらゆらと煩わしいが、どうせあの男のせいだろう。抜いたら何が起こるか分かったものじゃない。ここは我慢か。

で……男の力の源はすでに手折った花か。ならその花、とっとと塵にさせていただく。

霊符から大量の蝶を呼び、男の周りにある花に向かわせる。その羽から落ちる鱗粉は、植物を枯らせる毒。折ること使うことに長けていても、保たせることには長けておるまい。

もし本来持ち主が生きているなら出来ないが……無理矢理繋ぎ止められた物と分かってしまえば、気をつける必要も容赦をする義理はないからな



●松葉菊
 ――現の夢へ、舞い散らせ。
 霊符が千々に破れ、其処から生まれるは蝶の式神達。
 幸徳井・保春(栄光の残り香・f22921)は無数にも思える蝶を連れて、敵を探す。

「菊……仏への花か?」
 幸徳井にもまた、心の花――松葉菊が咲いていた。
 胸元から勝手に生えたかと思えば、ゆらゆらと煩わしい。
 ……刀の一閃にて、散らす事も出来るかもしれないが。
 何が起こるか分かったものじゃない、と。彼はそう判断して、我慢していた。

 どうせ、あの男のせいだろう。
 花盗人を見つけて、骸の海に還せば消える筈だと。
 早々に敵を討伐して、此のゲヱムとやらを終わらせてくれる。
 彼が暗闇の中を歩く内、周囲に花々を浮かべた男が目に入った。

「松葉菊、か。花言葉は『怠惰』だっ――」
「それがどうした」
 語らいに興じるつもりはない。
 花盗人の周囲を注視しつつ、幸徳井は思考を巡らせる。
 初めに目にした時と比べ、今はかなりの数の花々が減っている様に見える。
 ……男の力の源は、既に手折った花か。

「(もし、本来の持ち主が生きているなら出来ないが……)」
 先に戦った影朧達の事を考えると、生存者は期待出来ない。
 其れ以前に奪った花々ならば、恐らく手遅れだろうと。
 故に……気を付ける必要も、容赦をする義理も無い。
 幸徳井は直ぐに蝶の式神達を嗾けて、敵の周囲に浮かぶ花々に近付ける。

「何を……っ、まさか……!?」
「その花、とっとと塵にさせていただく」
 無理矢理、繋ぎ止められた花々。
 持ち主の死後も尚、花盗人に利用されるくらいならば。

 ひらり、ふわりと胡蝶が舞う。
 其れに合わせて落ちるのは、植物を枯らせる毒含む鱗粉。
 ――折ること使うことに長けていても、保たせることには長けておるまい。
 心の花とやらにも効果があるか、其の点は不明だったが……。
 どうやら、敵の狼狽ぶりから察するに効く様だ。

「厄介だね、本当に……!」
 被害を最小限に留めるべく。
 散りそうな花々を利用する事で、花盗人は其の場から離脱する。

 敵が消えた跡に残ったもの。
 嗚呼、多くの鱗粉に触れてしまったのだろう。
 ただ……枯れては、消えてゆく花々のみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『静かなる者』。真の姿解放。色合いは生前に近いが、やはり違いますね。
花:白いローダンセ(広葉の花簪)

思いも友情も変わらぬのです。…たとえ、誰かが長年隠していたことを知ったとしても。
(『疾き者』が隠してた潜入暗殺の鬼と家庭事情を知った。生前は『疾き者』だけ忍だったので話せなかった)
それが形になった『花』を渡すわけにはいきませんからね。

間断ない破魔矢は変わらず。ただ、それにさらに雪氷属性を加えましょう。母より受け継ぎ、『疾き者』の妹御の指導により形にできたこの属性を。
凍れ、そのままに。
相手からの攻撃は、第六感と戦闘知識にて回避を。

受け入れた証は、渡さない。



●白ノ広葉ノ花簪
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の髪の色が、白に染まってゆく。
 ……色合いは生前に近くとも、やはり違いますね。
 そんな風に思うと同時……彼の両手には冷気が集まり、氷が纏い始めていた。
 彼が手にした長弓、白雪林もまた同じく。

 凍れや凍れ。
 私の名は静かなる者、梓奥武・孝透。
 ――今、此処に顕現するは『樹氷世界』也。

「花が、凍っている……?」
 花盗人が異変に気付いた切っ掛けは、其れだった。
 浮かんでいた花は凍り付いたかと思えば、ぽとりと地に落ちる。
 ……此の場に長く留まるのは、得策ではないか。
 敵が其の場から、駆け出そうとした瞬間――。

「凍れ、そのままに」
「――っ」
 氷雨が降り注ぐ。
 花々を散らしながら、花盗人を射抜こうと間断無く放たれていた。
 其れら全てに乗せられているのは、雪氷属性。
 馬県が母より受け継ぎ、『疾き者』の妹御の指導により形に出来た属性だった。

 彼の胸元には、白き花が咲き誇る。
 ローダンセ……其の和名は、広葉の花簪。
 此の花を渡す訳にはいかないと、彼は破魔矢を射続ける。

 心の花を盗もうと。
 花盗人が、別の花に魔力を籠めるよりも速く。
 雪氷纏う矢を以って、馬県は即座に射抜いては散らしていく。
 時間が経つにつれて、漂う冷気は敵の身体を確実に蝕んでいた。
 嗚呼。出血が抑えられるのは良い事だが、此のままでは凍傷しかねない。

 残る花々が数少ないと理解していたが。
 敵は戦闘を回避すべく、再び花を散らしては消えた。
 ……戦の気配が消えていくのを理解して、馬県は弓を下ろす。

「(この花は、特別な花ですからね……)」
 思いは変わらず、友情もまた終わらない。
 此の花が己の心を表している、と言うならば……。
 私は心から、その様に感じているという事なのでしょう。

 潜入暗殺の鬼。
 外邨家の口外出来ぬ家庭事情。
 疾き者が其れらを長年隠していたと知った、今でも彼は思う。
 ……忍という立場だからこそ、話せなかったのだと理解出来るから。

「思いも友情も変わらぬのです」
 ――故に、受け入れた証は渡さない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
白い彼岸花が胸に咲いているのを見て、
へえ、と目を細める。

随分面白う能力やけど、
文字通り花盗人にどう言っても無駄やろしな、
やれるもんやったらやってみい、てな。

他の猟兵に気を取られているなら【忍び足】
で接近と攻撃。
【挑発】と【フェイント】をいれながらこちらへ攻撃誘導
【見切り】で回避しつつ、
タイミングを図り脱力し攻撃を受け止める、
また他の猟兵への攻撃を【かばう】ことで受け止め、
オペラツィオン・マカブルを発動させる。

排し、返せサイギョウ。

奪うなら奪われるのも覚悟済みやろ。



●白ノ彼岸花
 ――随分、面白う能力やな。
 杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は花を眺めて、へぇと目を細めている。

 彼の胸元に咲き誇るは、白き彼岸花。
 花言葉は、また会う日を楽しみに。
 そんな花が咲いたのは、会いに行くと決めている人がいるからか。
 ……自分の力で会いに行く。彼の意志を示す様に、花は力強く咲いていた。

「嗚呼、欲しい」
「あんたさんにはあげへんよ」
 不意に現れた、花盗人の言葉を杼糸は拒む。
 尤も……文字通り、花を盗む人にどう言っても無駄だろうが。
 彼は十指に結びつけた糸を揺らして、からくり人形:サイギョウを傍らに立たせた。

 ――やれるもんやったらやってみい、てな。
 杼糸が素早く手を動かすと共に、サイギョウが駆け走った。
 其の勢いを乗せて、彼の人形は敵へ殴打を試みるも……身代わりの花が散りゆく。
 消えたか?否、まだ己へ向けられる敵意は近い。

「かくれんぼのつもり、やろか」
 ふぅ、と。
 杼糸は静かに息を吐き出して、サイギョウを己の傍に戻す。
 其のまま……ゆっくりと四肢の力を抜き、己の心を静めようと。
 彼自身、心が凪いだ海の様になりつつあると解した瞬間――何かが、来る。

「頂くとする、よ……?」
「みぃつけた」
 花盗人が伸ばした手が、杼糸の花に触れようとしたが。
 ……ほんの僅か、一寸にも満たない距離が遠い。

 何かに守られている訳でも無いのに、何故?
 其の答えを、敵は直ぐに思い知る事となるだろう。
 ――奪うなら、奪われるのも覚悟済みやろ?

「排し、返せ――サイギョウ」
 杼糸の声に応える様に。
 サイギョウの手、紅白の太極印が輝きを放つ。
 炎にも似た光が集束しては、花盗人の身体を貫いた。

 人の心を花にする魔術、意思や感情への攻撃。
 影朧である彼に花は咲かず、ただ苦痛が苛むばかり。
 直撃を受けた敵からは笑みが消えて、苦しげな表情へと変わっていた。

 手元の花も幾許か。
 嗚呼。集めるどころか、減るばかり。
 其れでも、敵は離脱を選ぶしか出来なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・ユア
【月唄】
アドリブ可

随分沢山の花を持っているんだね
それでもまだ欲しいだなんて、欲張りさん?
それとも、寂しがり屋なのかな?

ユエに目配せして自分の後ろに控えさせる

胸に咲くは
赤黒い彼岸花
これが心の形というなら
花の意味するものは
悲しくも黒の感情に染まった記憶の欠片か
或いは己の生への儚さか諦めか
死に染まる自身
死人花…僕は生に嫌われた忌人と語る

月歌姫の歌は心に光を灯してくれる
…うん、大丈夫。戦える…
月鬼を抜刀

触れる花が全て君を満たすとは思うなよ?
命喰らう呪詛を込めた一太刀をUCで放つ

――勿体無い?
なら触れてみる?

欲張りさん
今度は君にも花を咲かせてあげようか

咲け、彼岸花
踊れ、黒葬蝶
甘美な毒で彼を侵して終え


月守・ユエ
【月唄】
アドリブ可

ユアの後ろに控え花盗人を見つめる

君は何故そんなに花を集めているの?
人の心を花にして…傍に咲かせて、何を思っているの?

僅かな疑問を投げかける
集めた花を愛でる事で
彼の心は何を満たしているの?

胸に咲くのは
淡く白金の光が零れる月下美人
月光を満たしたような白花

…奪わせない
皆の胸に咲く花は、皆が抱く大事な想いが込められているから

”奏創”より顕現するは漆黒の竪琴
白銀の花咲く竪琴の旋律を響かせる
昏き世界に、月光を
ユアや闇の中で戦う猟兵達を鼓舞する旋律
月光の様に瞬く旋律の波紋が宙に舞うそれは敵の注意を引くおびき寄せ

花がほしいというのなら
貴方の心も僕に見せてくれませんか?
花を欲する貴方の心も…



●赤黒ノ彼岸花、月下美人
 無事に合流を果たした、月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)と月守・ユエ(皓月・f05601)は並び歩いていた。
 ……互いの手を重ねて、離れぬ様にぎゅっと握り締めて。
 そんな二人の胸元に咲き誇る色は、赤黒と白金。

 ユアの胸元には、赤黒い彼岸花。
 ユエの胸元には、白金の光が零れる月下美人。

 互いの花を見ては……ほんの少しばかり、他愛のない会話を楽しんで。
 花盗人の姿を視界に捉えた直後、ユアは即座に前へと出る。
 彼女が目配せしたのを見て、ユエは其のまま後ろに控えている様だ。
 ……他の猟兵達との戦いで、かなり消費したのだろうけれども。
 其れでもまだ、敵は随分沢山の花を持っている様で。

「まだ欲しいだなんて、欲張りさん?それとも、寂しがり屋なのかな?」
「どうだろうね。兎に角、失った分は新たに蒐集し直させてもらうよ」
「……君は、何故そんなに花を集めているの?」
 人の心を花にして、傍に咲かせて。何を思っているの?
 ユエの静かな問い掛けに、花盗人は柔らかな笑みと共に返す。

 ――ただ、美しいものを愛でたいだけ。
 様々な物を盗んだ中で、人の心が一番美しいと感じたから。
 故に、花の形にして盗み……其の輝きを愛でているのだと敵は告げる。
 さも当然の様に呟く様を見て、ユエはぐっと拳を握り締めた。

「奪わせない」
 彼岸花、月下美人。
 ……違う、私達の心だけじゃない。
 皆の胸に咲く花は、皆が抱く大事な想いが込められているのだから。
 決意が籠められた言葉を耳にして、ユアは振り返っては頷く。

 此れが、心の形と言うならば……。
 花が意味するものは大事な想い、と言える程のものじゃない。
 黒の感情に染まった、記憶の欠片。
 或いは……己の生への儚さ、諦めかもしれない。

 死人花。生に嫌われた忌人。
 己は死に染まり過ぎていると、告げられている様な心地になる。
 其れでも、僕の『お月様』が望むならば――此の力を揮おう。

「僕も手伝うよ」
「ユア……!」
 双子の姉の言葉が嬉しくて、ユエは思わず笑みを溢す。
 そして、彼女は音符型のストラップを手に……静かに祈る。

 ――昏き世界に、月光を。
 ――大切な姉に捧ぐ、勝利の歌を奏でる力を。

 漆黒の竪琴、其の弦を爪弾く。
 一つ一つの音を合わせて、彼女は美しい旋律を生み出していた。
 荘厳な音色が響くにつれて、周囲には白銀の花が咲き始める。
 其れらは、月光の様に淡く煌めき……旋律に乗せて、波紋を広げていた。

 ……其れだけでは無い。
 何時の間にか、彼女の頭上には幻想の満月が浮かんでいるではないか。
 狩猟女神ノ戦歌を奏で続けながら。
 彼女は再び、花盗人と目を合わせた。

「花がほしいというのなら、貴方の心も僕に見せてくれませんか?」
 花を欲する、盗人の心。
 集めた花々を愛でる事で、彼の心は何を満たしているの?
 其れを見る事で、ユエの疑問は晴れるかもしれない。
 だが……敵の外見は人であれど、其れは人ならざるもの。

 如何に、人の心を花にする魔術に長けていたとしても。
 何度、術が己へ返されたとしても。
 ……影朧の胸元には、心花は咲かないのだろう。

 だが、其れに何の意味がある?
 己の花でなくとも、他人の花々を愛でる事が出来るならば……其れで良い。
 例えば、そう――まるで、音を愛する月女神の様な彼女。
 彼女の胸元で鮮やかに咲き誇る、月下美人を僕の手に……!

「欲張りさんだね、本当に」
 すっ……と。
 ユアは月鬼を静かに抜刀、柄を確りと握り締めた。
 ――ボクの生命の灯火が消えぬ限り、ユエには指一本触れさせない。

 彼女は今も、僕の心に光を与えてくれる。
 彼女の歌声は暗闇の中でも響き渡り、僕を鼓舞してくれる。

 ……だから、大丈夫。
 さあ。確りと地を踏み締めて、敵を見据えよう。
 世界にも等しい存在を守る為に……僕は、戦うんだ!

「死を想え、死に溺れよ――」
 月鬼の刃が、妖しい光を放ち始める。
 影朧の魂を感じ取ったのか、明滅する様は晩餐を心待ちにする美食家の様。
 ユエに手を伸ばそうとする花盗人へと、ユアはまず一太刀。
 敵は辛うじて、其の斬撃を避けるも……彼女の攻撃は終わらない。

 強く踏み込み、もう一太刀。
 肩に付けた傷は浅いが、其れでも良い。
 呪いの痣……漆黒の彼岸花は、確かに咲いたのだから。

「――踊れ、黒葬蝶」
 紅に抱かれて、還れ。
 甘美な毒で、彼を侵して終え。

 ユアの言ノ葉、ユエが奏でる旋律に合わせる様に。
 黒葬蝶はふわり、ふわりと……花盗人の周囲を舞い続ける。
 其の度に、敵や周囲の花々に紅色の鱗粉が触れては徐々に蝕んでいく。
 咄嗟に振り払おうと、距離を取ろうと無駄な事。
 漆黒の彼岸花に惹かれる様に、黒葬蝶は彼を逃がしはしないのだから。

「散華の時だよ」
 ユアが刀を鞘に納めると同時、花盗人の姿は消えていた。
 ……此の場に、黒葬蝶以外の死の気配は感じ取れない。
 恐らく、敵は蝶が追えぬ所まで離れたのだろう。
 其れは、死の力を内包する彼女だからこそ判った事実だった。

 尤も……今の敵にとって、大きな代償を払った上での行動だった様だが。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リインルイン・ミュール
犠牲者を増やさない為に、アナタを倒します
勿論この花(アングレカム)も渡しませんヨ


とは言ったものの、ワタシがやる事は補助デス
籠手や鞭状にした剣に、電撃纏わせて攻撃はしますし
行動観察、思考を予測しての見切り、武器受け等で凌ぎはしますが
敵がそれらに気取られる間に、UCのエナジー(身体)を、念動力も使い拡げます

対象は敵の手と、周囲に浮かぶ花
少しずつ魔術に干渉・解析し、花摘む手を阻害するように
花には、心をその形に留めている力に干渉、任意発動型の逆術式を編み入れ
敵が花を奪おうとした時にそれらの式を起動
摘めない上に、全てでなくとも花が減る。驚きまシタ?

これで少し後が楽になるハズ。他の皆さん、トドメは頼みマス



●アングレカム
 自我を奪われ、只の演算補助装置と成り果てた。
 あの時は、溢れ出す情動に呑まれて……忘れてしまったけれど。

 語らいを楽しんだ時間、過ごした日々。
 其れらは、確かに在った事だから。
 もう、記憶の中でしか会えないとしても。
 ――ワタシは、いつまでもアナタと一緒ですヨ。最初の友達。

「犠牲者を増やさない為に、アナタを倒します」
「これ以上、減らしてばかりは勘弁願いたいけれどね……!」
 よき未来を願い歩むヒトビトの為に。
 リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)の祈りにも似た決意の声を聞いて、花盗人は語気を強めては返す。
 敵の視線は、彼女の目の前に咲く白色の花――アングレカムに向けられていた。

 此れ以上、花々を無為に消費する訳にはいかない。
 少しでも多くの花々を集めて、仕切り直さなければ。
 ……敵の焦りは、念動力を通して彼女に伝わっていた。

「させませんヨ」
 見えざる聖霊の手、術式展開。
 花盗人の攻撃を、電撃を纏う鞭状にした剣で防ぐと同時――干渉、解析開始。
 心を花の形に留めている力に対して、リインルインは逆術式を編み入れようと。
 こう、宇宙に満ちるエナジーへの信仰的な……。
 術者本人としては、ふわっとした理解ではあるものの。
 其の力は確かに、敵の魔術への干渉に成功していた。

「今度こそ――っ!?」
「驚きまシタ?」
 ――はらり、ひらりと花が散りゆく。
 花盗人がリインルインへ手を伸ばし、彼女の心花に触れようとした瞬間の事。
 敵自身が具現化した存在に、触れる事は出来ず。
 寧ろ、今落ちたものは。嗚呼、己が集めて来た花々じゃないか。

「何故だ、僕は確かに……?」
「創造の理、世界を逆様ニ……なぁんて、半分くらいは冗談ですヨ」
 摘めない上に、全てでなくとも花が散る。
 焦燥感に駆られたかの様に、花盗人がリインルインの花に再び触れようとしても……結果は同じ事。花を増やすどころか、減らしてばかり。

 ――己の魔術に干渉しているのか?
 敵が其れに気付くも、打開策は一つしか無い。
 其れを選ばざるを得ない、と解っていても躊躇われたのだろう。
 雷迸る彼女の籠手が迫る直前まで、敵の姿は其処にあったのだから。

「(これで少し後が楽になるハズ)」
 逆術式の概要把握、解除。
 其の上で、リインルインの前から姿を消す。
 残る花々の数から逆算しても、敵にはもう逃げるだけの余裕は無い筈だ。

 ――他の皆さん、トドメは頼みマス。
 祈る様な声で呟いた後、彼女はアングレカムを静かに見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロキ・バロックヒート
心を花にするの、見てみたいな
私もちょっとは思ったことあるんだよね
きれいできらきらしたお気に入りの魂を閉じ込めて
次の肉体へゆくことなく
哀しませず苦しませずに
ずっと愛でていられないかって
ねぇ今までのコレクションとか見せてよ
とびきりの花はある?
見せてもらえたら喜んで
一緒に愛でてあげる

私の花盗ってみても良いよ
どんな花かな
盗られたらどうなるんだろうね
声はどこか期待するよう
これで死ねたら面白いのにな、とは心の中

花は凍り付いて冷たい
幾つも小さな白い花がついていて
カスミソウの、ような

ああ―
その花は駄目
『私』が好きな花なんだ
渡せない

影から獣が躍り出て襲う
私の花を見せてくれてありがとう
お礼に君の魂のいろを教えてよ



●霞草
 あーあ、もうかなり散ってるね。
 たった一輪、二輪。逃げる力も無さそうだ。
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)の足取りは軽く、恐れを知らぬ様子で花盗人へと近付いて行く。
 無論、敵は此れ以上の交戦を避ける為に後ずさるも……。

「心を花にするの、見てみたいな」
「……騙し討ちでもするつもりかい?」
「そんなのつまらない。それに、私もちょっとは思ったことあるんだよね」
 ロキがまだ『邪神』だった頃の気紛れか。
 きれいできらきらした、お気に入りの魂。
 似合う鳥籠を探して、閉じ込めて、ずっと眺めるのは楽しそうだ。
 ……哀しませず、苦しませずに、ずうっと。

 彼の好奇心に、嘘偽りが無いと感じたのだろう。
 花盗人は残る花々を操り、彼の近くへとゆるりと移動させた。
 コレクション、と呼べる程の数は無いけれど。

 穢れを知らぬ、無垢な少女の心。
 光の粒を滴らせている、優美な桔梗。
 ……へぇ、こんなに綺麗な心もあるんだね。
 子供の様な笑みを浮かべては、ロキは花を愛でていた。

「そうだ。私の花、盗ってみても良いよ」
「えっ……?」
「どんな花かな。盗られたら、どうなるんだろうね」
 予想外の提案に、花盗人は思わず戸惑いを露わにしていた。
 此れまでの戦いを考えれば、警戒をすべきなのだろうが。
 ロキは迎え入れる様に、両手を広げて待っている。

 ――これで死ねたら、面白いのにな。
 彼は内心、そんな考えを秘めていたが。敵が知る由も無く。
 魔術を込めた手で胸の中心を貫き、ゆっくりと引き抜けば……。

「ああ――」
 ぽつり、ぽつり。
 凍り付いた其れは、冷気を漂わせていた。
 幾つもの小さな白い花が集まった……カスミソウの、ような。
 其れは、『私』が好きな花。
 嗚呼。もう、直ぐ傍まで、花盗人の指が――。

「その花は、駄目。渡せない」
「な――っ!?」
「私の花を見せてくれてありがとう」
 ――お礼に、君の魂のいろを教えてよ。
 ロキの影から現れた獣は、どうやら花盗人に興味を抱いた様だ。
 どんな種類の獣にも例える事の出来ぬ、歪な影。
 敵の首筋に喰らい付き、離れたかと思えば……淡い光を銜えて、目を細めていた。

「灰色、かな」
 曖昧や憂鬱を抱えた、魂の色。
 ロキが其れを見て、何を思ったのか。何を感じたのか。
 其れよりも早く、歪な影の獣が喰らい尽くしてしまったかもしれないね。

 満足した様に、獣が唸り声を上げた時。
 既に、花盗人は骸の海へと還っていたらしい。
 残された僅かな心花も、持ち主の元へ帰れず……静かに消えてゆく。
 そんな光景を見て、彼は思わずぽつりと零した。

 ――嗚呼、勿体無いなあ。

●ユーカリ
 徐々に、光が差し込んでゆく。
 暗闇が晴れて、街の輪郭が鮮明になりつつある。
 建物は荒廃しており、やはり人々は皆……衰弱の末に死に果てていた。

 しかし、此処にはもう影朧は居ない。
 闇に覆われた逢魔が辻は、猟兵達の手によって消え失せたのだ。
 かつての日々は、そう簡単に戻らないだろう。
 元の姿を取り戻す為には、多くの時が必要になるだろう。

 其れでも、いつか。きっと。
 ……此の街に再び、優しい花々が咲き誇ると信じて。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月03日


挿絵イラスト