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カガミのオリ

#UDCアース

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#UDCアース


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 電車に乗っていくらか先の見た事もない無人駅、先住種族が暮らしを成して覇権の簒奪を虎視眈々と狙う地下世界、あるいは無明の先のブラックホールの向こう側――ことほどさように世界に異界は溢れている。それは三十余の世界にとどまらず、そこやかしこに溢れている。
 地図にもないし証人もいないネットロア、定説による絶滅の論拠や利用される地下資源、人体をスパゲッティのように変形させる非情の重圧――そのいずれもが異界の存在あるいは旅程を否定しているにも拘わらず、それらはなおも夢やロマンに後押しされて、根強く存在を囁かれている。

 大小を問わねばもっと日常、たとえば通学路や学校内なんかには無数である。夜のプールの水底に、トイレの個室の三番目に、褪せたる壁のヒビの中…。

 あるいは、階段踊り場の古い姿見、映る景色のその向こうに。

●鑑と檻
「ガキッてェのは色ンなこと考えるもンだよなァ」
 感心したように述べるのはグリモア猟兵の我妻・惇である。彼が言及しているのは今回の事件のきっかけとなったものについてだ。
 それは、とある学校に通うローティーンの女子生徒たちと、幾人かの男子生徒が関わる“おまじない”に端を発していた。
「なンでも、階段の踊り場の大鏡の前で夜中の何時に望みを唱えると誰だか何だかが叶えてくれる、ッてなことらしいな」
 闇への恐れ、異界への憧れ、どうにもならない現状からの逃避……そんな噂が流行るに至る、若者らしい情動ならいくらでも挙げられるし、それこそネットロアや都市伝説、学校の怪談なんかのよくある物語に埋もれさせるのは簡単なものである。ただしそこに、UDCが絡んでいなければ。

「テメェ以外の誰かをどォこォしてやりてェッてな願いには、これが効果テキメン、きッちり問題を起こしてくれるッてなことらしいンだよなァ」
 要するに、意中の相手に振り向いてほしいという願いは叶わずとも、恋敵を排除してほしいということならば聞き届けられるというもの。具体的には“転校”していくということである。

「誰が願ッたかも分からねェし、どこの階段の鏡かも正確には分からねェ」
 こういったおまじないによくある通り、願ったことを誰かに言ったら罰則が生じるということらしく、実行した人間の口からは証言を聞けない。時々口にする者もあるらしいが、武勇伝の真偽は眉唾ものだ。
「校内での怪しいヤツとの接触も見受けられねェし、ンだのに鏡の存在が確実にガキどもに伝わッてるし……」
 姿の見えない扇動者に頭を悩ます赤毛の男の耳に、『裏サイト』という言葉が届く。若い学生にしてみれば常識と言っても差し支えない程に、その存在が知れ渡った情報交換手段であるが――。
「……何か分からンが、そォいうやり方があンのか?」
 きょとんとしながら猟兵から説明を受け、やっぱりよく分かっていない顔で概要を飲み込むと。
「そッち方面に詳しいヤツがいンなら調査頼むわ。誰がやッたとか、いつどこでやッたとか、手がかりが拾えンならなンでも良いや」
 餅は餅屋ということである。依然傾げる首に見える僅かな哀愁は見ないことにすべきだろう。

「ンでともかく、鏡を突き止めりゃ夜中に行ッて、まじないの真似事でおびき寄せりゃ良い。呼びつけりゃ出て来るから各自でどンどン引き摺りだして、親分出るまで繰り返しだ」
 学校側には話を通せるため、侵入などについては考える必要はない。該当する鏡を特定し、願いを言って敵を呼び、それぞれに撃破するだけである。
「まァこそこそガキ狙ッてるよォな連中だし、大したこともねェだろ……ッと、むしろ戦闘に紛れ込ンでくるガキがいたらそッちの方が厄介だわな。余裕があッたら何とかして来ねェようにしてみるのもアリかもな」
 たまたま戦闘中に、おまじないを実行しようとする生徒はいるかもしれない。調査の段階で牽制してみたり、脅してみたりしておいても良いだろう。それだけ補足すると、グリモア猟兵は皆を送り出す準備へと移る。

「ガキッてェのはホント、色々考えるもンだよなァ……」
 小さなつぶやきは、対比的に自身の加齢を憂うようで――聞こえないことにすべきなのだろう。きっと。


相良飛蔓
 お世話になっております、相良飛蔓です。今回もお読みいただきありがとうございます。

 第1章は冒険パートです。聞き込みや直接の裏サイトへのアクセスにより、おまじないという名の儀式の詳細を突き止めるべく動いてもらいます。要点は『いつ』『どこ』の2点です。証言の真偽や警戒心なんかも注意点かもしれません。1章で集めた情報に基づいて場面転換です。

 第2章集団戦『嗚咽への『影』』、負の感情からなる怪異です。基本は各個撃破、希望あればor適宜連携もやります。戦闘に際してはそれぞれに願いごとを決めて呼び出してもらいます。願いによってはすっと出て来なかったり良くない現れ方をしたりもするかもしれませんし、工夫次第で良い条件で始まるかもしれません。

 第3章ボス戦『夢の現』、夢魔の類です。集団戦に引き続き精神に作用する攻撃を主とします。欲望に付け込んだり苦手なものを召喚したりとイヤらしい感じなので、ご留意ください。

 以上のような感じです、よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『『邪神スクール』恋悩みし少年少女たち』

POW   :    学生と意見交換し、告白現場に向かう

SPD   :    自分の足で歩き、学校内の生徒に聞く

WIZ   :    知識や魔法を使って、裏サイトを探し出す

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リック・ランドルフ
やれやれ、何処の学校にもあるんだな、そういう噂話。……ま普段なら人の噂は75日で、噂が消えるのを待つが、……今回はガチ話なんだよな。…と、なりゃ、さっさと噂の元を突き止めて、終わらせねえとな。

グリモアベースでの話を聞く限り、裏サイトに直接アクセスして情報を集めるのが有力らしいが。……ま、残念ながら俺のような中年にそういったネットテクニックは…ない。となれば、やることは一つ、普段通り、聴き込むしかないな。

聴き込む対象は……そうだな、ここはオラついてるやつ、気軽そうな奴。…所詮、不良とかスクールカースト上位のその辺に聞いてみるとするか。(コミュ力、言いくるめ、情報収集)



●基本のキ
「やれやれ、何処の学校にもあるんだな、そういう噂話」
 金髪碧眼に頑丈そうな巨躯、それでいてほんの少しだけくたびれた雰囲気を感じさせる偉丈夫、リック・ランドルフ(刑事で猟兵・f00168)は感心したような、呆れたような声音で呟いた。
 彼は刑事であり、職業柄もあって物騒な噂やその背景に触れる機会は少なくはない。少年少女の流行ならば小さな火種で野火の如くに広まりもするし、その大半は根拠もあってないような下らないものだったりもする。
 そんな場合は沈静も早く、人の噂も七十五日というところだが。
「……今回はガチ話なんだよな。となりゃ、さっさと噂の元を突き止めて、終わらせねえとな」
 本当に事件であるのなら、解決するのが彼の仕事であり、決意であり、信じる道である。

 グリモアベースでの説明によれば、情報交換の場として有力と目される“裏サイト”へのアクセスが近道であるらしい。あるらしいのだが……
「残念ながら俺のような中年にそういったネットテクニックは……ない」
 培った技術と経験は裏切らないものだが、知り合ってもいなければ裏切るも何もないものだ。となれば、やることは一つ。
「普段通り、聴き込むしかないな」
 当然ながら、鍛えた能力に頼るしかないだろう。そのノウハウはリックにとって、裏切ることのない強力な武器だ。

「少しいいか」
 猟兵に声を掛けられたのは、階段脇にたむろする不良少年たちである。思い思いに個性的かつ攻撃的な衣装を身に纏い、反射的にリックに向けたその視線すらも攻撃的で鋭いもので。
「あァン? ……お、おォ」
 と素早く振り返りながら斜めに見上げ――見上げる視線の急勾配に、思わず少し後退り。
「鏡の“おまじない”について、何か知らないか?」
 すぐさまビビッて大人しくなる少年の様子にさしたる反応を示すでもなく、刑事は少年たちから聞き取りを開始した。

「時間は『午前二時』、『東校舎の踊り場』のどれか……と」
 警戒する証言者たちをなだめてすかして言いくるめ、ついでに自動販売機で人数分の飲料を買い与えてやり――やむを得ない犠牲である――得られた情報はそんなところである。すぐさま核心とは行かないが、足掛かりとしては上々であろう。共有すべき情報の整理をしながら、リックは次の手掛かりを得るため、再び歩き出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

千頭・定
鏡って嫌ですよう。
等身大な自分が写るなんて怖くて怖くて。
しかし、学校内とはいけません。
学校は安全に勉強する場所ですので!

制服に着替えて可愛い女子高生になります。
転校生装って、イケイケな女子に案内をお願いしましょう !
世間話をしつつ、噂を聞いてみます。
私の学校では七不思議なんてありましたがーここにも七不思議なんてあるんですか?

えー!恋愛なお願いも叶えてくれるんですか!
ドキドキしちゃいますよう…!
試した方とかいるんですか?

私も好きな人がいましてー、なんて続けます。
おまじないの方法でも、書いてありそうな裏サイトでもわかったらラッキーです。



●ホントかな?
(鏡って嫌ですよう。等身大な自分が写るなんて怖くて怖くて)
 当校の制服に身を包み、転校生に扮した千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)は、歩きながらこう考える。十五歳という相応の年齢からその姿に違和感はなく、先を歩く少し派手な装いの女子生徒ともそれほど大きな違いはない。その案内人に余計なことを言って、不審がらせる必要もないだろう。
「私の学校では七不思議なんてありましたがーここにも七不思議なんてあるんですか?」
 なので定は、不自然でない話題を選択した。実際には直球ストレートで核心に切り込んでいるのだが、少年少女の中で怪談好みなどはそれほど珍しくもない。
「あ、気になる?そういうの好き?じゃあ聞いて聞いて!」
 実際目の前の女子生徒も、嬉々として話題に乗ってきた。話したくてたまらない様子の少女と、元来お喋りである猟兵、話が弾むのは当然と言えよう。熱のこもった早口を興味深そうに聞き、時に的確な相槌を織り交ぜながら、定は新たな情報を引き出すよう試みつつ。
「えー!恋愛なお願いも叶えてくれるんですか!ドキドキしちゃいますよう…!」
「そうそう、もうバッチリよ! あたしはやったことないけど!」
 足取りもノリも軽やかに、定は確実に証言者の心を掴んで行く。

「これこれ、これがその鏡なんだけどさ」
 いくらか弾み、早足になった歩みに追従するうちに、定は鏡の前へと導かれていた。東校舎の『二階と三階の間』、各階に二つあるうちの『北側』に位置する階段の踊り場である。先の聞き込みによれば、午前二時に願いごとを言うらしいのだが……。
「ん?そんだけだよ、夜中に鏡の前で願いごと言うだけ」
 あっけらかんという女子生徒。細かく色々と尋ねても、答えは変わらない。さらに言えば、時間の縛りすら口に上らないのである。

「試した方とかいるんですか?」
 この問いに対しては、少女が自信ありげに答える。
「うん、ホントにやった先輩に聞いたんだ。この鏡の前で、好きな人がカノジョと別れるようにって……あれ?」
 はたと、首を傾げる。そうして怪訝な顔で、不思議そうに、つぶやいた。
「そういえば、どの先輩だっけ……おっかしいな、昨日聞いたばっかりのなのに…」
 結局、うんうんと唸る彼女の口からは、ついぞ先輩の名前が出ることはなく、スマートフォンからも、時々覗くという裏サイトの痕跡が見つかることはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

塩崎・曲人
なるほど?
アルダワにも変なジンクスとか有ったが
こういう怪談話は珍しかったなぁ
あっちはガチで生死が掛かってた分
ある意味現実的だったのかもしれねぇが

それはそれとして……真夜中に行われる儀式の詳細を突き止めろ、ってんなら方法は簡単だ
真夜中の学校に潜入して張り込めばいい
「少なくともここの生徒が夜中にこっそり入り込める程度にはユル警備なんだろ?楽勝だ」

完全に日が沈んだ後に校舎内に潜伏
定期的に階段を巡りつつ、当直のセンセ相手にスニーキングごっこだ
いや居るか知らんけど

で、鏡の前に居る生徒と遭遇したら時刻と場所を確認した後
不良っぽいツラで凄んで追い払おう
「オウ、なんだコラ」
他の場所で会ったら泳がしてから上記



●わかりやすいコワさ
「なるほど?」
 塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は受け取った情報を反芻しながら、やや鈍く頷いてみる。
「アルダワにも変なジンクスとか有ったが、こういう怪談話は珍しかったなぁ」
 生活と冒険が密接に関わり、常に生死が掛かっている世界と、表面的には危険が遥か遠くにあって、身の安全が土台として存在している世界とでは、若者の執心するものも違ってくるものだろう。
 だからこそ、危険を孕む未知の世界、異界の扉へと手を伸ばす。日常に乏しいスリルというものに抗いがたい魅力を見出してしまうのだろう。

「それはそれとして……真夜中に行われる儀式の詳細を突き止めろ、ってんなら方法は簡単だ」
 彼においては自身の辛苦を伴う経験則として、この世界の常識においては先人の努力や知恵の結晶たる金言として、共通の見解が存在する。
 すなわち、『百聞は一見に如かず』。要するに、曲人がしようとしているのは、そういうことである。
「少なくともここの生徒が夜中にこっそり入り込める程度にはユル警備なんだろ?楽勝だ」
 もっとも、たとえそれなりの警備を敷いていたとしても、逃げたり隠れたりを得意とし、それこそ命を懸けてその技を磨いてきた曲人にとっては、掻い潜ることも容易いだろうが。

 そうして夜、辺りは闇に包まれる。境界もなく暗がりに溶けた教室の扉を開けて、聞き耳を立てつ夜目を凝らしつ、曲人がのっそりと現れる。当直の職員に見つからぬように注意を払い、横柄に、それでいてこそこそと、同じく潜む不届きな生徒の姿を探して校内を歩き出した。

 数度の周回を経て午前二時、暗い階段の踊り場でスマートフォンのバックライトに顔を浮き上がらせる、気の弱そうな少年の姿。そこに歩み寄る曲人の風貌は――特に肩に担いで見せた鉄パイプはとても迫力があり、見下ろす表情は目を合わすことすら恐ろしいような。
「オウ、なんだコラ」
 明らかに施設に関係のない侵入者は男の方である。明らかではあるのだが……。
「ご、ごめんなさい」
 かくして少年は悲鳴のような声をあげ、スマートフォンを取り落として一目散に逃げてしまった。
 覗いてみれば、画面に表示されているのは例の裏サイトの一部。やはり時間は『午前二時』、しかし続いて『1-2階南』の記載である。
「場所、変わんのか?」
 間も無く画面の照明は消え、触れば認証を求められ、この場でそれ以上の情報は得難いようだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィリヤ・カヤラ
鏡にお願いすると叶えてくれるかぁ……
色んなおまじないがあるんだね。

とりあえず時々連絡してる女子高生さん達に
メッセージ送って聞いてみよう。
聞いてみるのはおまじないの「場所」と「時間」だね。
女子高生さん達はUDCアースの情報も
色々教えてくれるから助かるんだよね。
今度お茶一緒するからって交換条件でダメ元で
「裏サイト」も教えてもらえるか聞いてみよう。
サイトが分かれば詳しい人に調べて貰っても良いしね。
会って教えるって感じならすぐ行っちゃうし、
場所だけでも分かれば現地に見学に行こう。



●デンパ・デンパ
「鏡にお願いすると叶えてくれるかぁ……」
 “おまじない”の多様性に感嘆しつつも、どこか気のない様子のヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)。彼女にしてみれば、それはきっと他人事なのである。願うことは自ら叶えるもので、他者――あまつさえ何者かすら分からないような存在に頼るものなどではない。
 それにきっと彼女のそれは、一介のUDCごときに叶えられるような代物ではない。

 短い思索のうちに、ヴィリヤの持つ端末より通知音が鳴り、持ち主の注意を引き寄せる。内容はメッセージの受信、もっと言えば、彼女の送信した、件のおまじないについての質問への返信である。
 相手は数人の女子高生で、少なくともダークセイヴァー出身者のヴィリヤよりもUDCアースの俗文化に明るく、年齢的にも僅かながら事件の渦中に近い人々だ。
 場所と時間に重点を置いて、情報の収集を頼んでみると、真贋問わずの玉石混交があっという間に集まってきた。それらの出所を求めれば、その大半は友達の友達、いわば顔も知らない他人である。信憑性は推して知るべしと言ったところだが……

『友達に、弟のスマホで弟の学校の裏サイトに入って、弟の名前でヘンな噂流すのが趣味って子がいるんだけど――』
 その前置きは重要ではないが、その内容には何だか説得力がありそうだ。
 話によれば、可哀想な弟のスマホの画面に願いを叶える鏡のことが書かれていたらしい。その文面は明らかに少年個人に向け『午前二時に』『1-2階南の階段で』と記されており、弟の姉は心当たりがないと言う。
「これかな」
 虚実入り混じる報告を丁寧に見ていたヴィリヤがその報告に目を留める。噂の内容も、裏サイトによる伝達も、条件に合致するものだ。より深く聞き出すために、交換条件を携えてさらなる情報の獲得を図る。
『その学校の裏サイト、入り方って教えてもらえるかな? 今度お茶一緒するから』
 そう訊ねてしばらく待つ。駄目で元々のつもりの質問であり、予想通りの空振りを思った頃に、通知音が響いた。画面にはURLとパスワードらしい文字列、そしてご丁寧にも話題の書き込みの、トピック名まで一目瞭然なスクリーンショット。もう一つおまけに、とても嬉しそうな表情の、ややプレッシャーのこもったスタンプがひとつ。
「間違いなさそう?」
 ほぼ確信に近い。端末をしまうと、ヴィリヤは裏付けのため、その目的地へと向かう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
【かんさつにっき】

以前アルダワでヤンキーした時にはスカート丈の長い女学生だったけど
ん、今日は膝丈の制服で転校生装う
小太刀もお似合う(こくり頷き)
まつりん、ふわ耳出てる(ぎゅっと押込んでみる)

わたしは転校して来たご挨拶兼ねて生徒会室に
生徒の代表者なら学校内の動向もよく把握してる筈

確認したい事ひとつ
前の学校の裏サイトで流れてたここの噂
生徒会室の掃除用具入と壁との隙間に
お相撲さんの幽霊が挟まっている…(ごくり)
他にも、願いが叶う鏡がある、とかもあったかな
願いを叶えた子がよく通っていた鏡は……確か、南の階段の2階?

場所ははったり
具体的に提示した方が反応分かりやすい気がする

情報仕入れたら3人で共有し精査


木元・祭莉
【かんさつにっき】の三匹が謎を斬る!

転校してきた、木本・祭郎でっす!
妹の杏子ともども、ヨロシクねー♪

新聞部と生徒会にくっついて行ったあと。
おいらも調査しなくっちゃだ!

クラスの子たちと仲良くしよっと♪
なんか帰りにファミレス寄ってだべだべするのが中学生だって聞いた!
ドリンクバーなら奢ってあげるよー♪

この学校の制服、可愛いよねー。女子の可愛さ150%あっぷ!
え、ウチの妹がカワイイ?
コダちゃんも?
そだね、カワイイかも??

クラスに馴染んできたら、徐々に情報収集ー。
潜入用に買ってもらったすまほ!(じゃじゃーん)
……使い方わかんないやー。誰か教えてー!

そいえば、この学校、裏サイトあるの?
へえ、どんなのー??


鈍・小太刀
【かんさつにっき】
制服着て転校生として潜入
中学校?祭莉んも杏も年齢ピッタリね
私も(胸の成長的に)違和感ないって?
う、うるさーい!

情報通を探すなら新聞部とか?
匿名情報の信憑性はさておいて
読者の本音を把握するには裏サイトは好都合
情報源として使ってるよね、きっと

入部希望で見学に
今までの記事を見せて貰い情報収集開始
オカルト系記事を書いてる部員に目星をつけて
こっそり話を聞いてみよう

「実は私、幽霊が見えるの。今もほらあの校庭の桜の木の下に…」
鎧武者のオジサン呼んで興味惹いてから本題に
「東校舎の階段付近にも嫌な空気を感じるのだけど、何かあった?」
おまじないの詳細を教えて貰うよ

カガミのオリ
オリガミの力、とか?



●寄りて散りて
「転校してきた、木本・祭郎でっす! 妹の杏子ともども、ヨロシクねー♪」
 元気な笑顔に元気な声で教壇の上から挨拶する人狼の少年の表情は、中学生にしては些か幼いようにも見えるが、間違いなく13歳、中学生相当の年齢である。
「よろしく」
 言葉少なに穏やかに、殊更の笑顔などは作ることもなく、妹も続けて挨拶をする。妹といっても双子の彼女は、同じ年齢でありながら雰囲気は大きく違い、13歳とは思えないような大人びた落ち着きを見せている。落ち着きのない兄の頭をぎゅっと押しておとなしくさせる――実際にはその頭から飛び出したふわふわの獣耳を引っ込めさせるためである――様子などは、彼女の方が姉のようですらある。

「祭莉んも杏も年齢ピッタリね」
 転校生としての挨拶の後、授業を経ての昼休み。三人の猟兵が合流し、本格的に調査に向かう道中である。先ほどは偽名を用いて自己紹介を行っていた木元・祭莉(かしこさが暴走したかしこいアホの子・f16554)と木元・杏(だんごむしサイコー・f16565)の兄妹に向けてからかうような口調で言うのは、別の学年に編入……あるいは潜入した鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)である。
 それぞれに合わせて誂えられた男女の制服は、確かに相応の年齢の双子にはよく似合っている。瞳の色や顔立ちもあって、廊下ですれ違う在校生を次々と振り向かせる。
 当然ながら、それらの視線に捉えられているのは二人だけではない。
「小太刀もお似合う」
 彼女もまた注目を集めているのだ。並ぶ二人よりはやや抜けた身長も助けて、細身ながらもすらりとしたスタイルに見せている。快活そうでありながらもどこか大人っぽさを感じさせ……当然である、彼女は17歳で高校二年相当であり、単純に周囲より年上なのだ。
「違和感ないよー」
 祭莉も頷きながら評する。その目線が僅かに顔より下なのは、身長差のせいであり、決して他意のないものだ。その胸……もとい発展途上な……もといスレンダーな体型が中学生の制服にマッチしているとか、そういった意図は決して……
「う、うるさーい!」


 曲折を経て、三人は目星をつけた調査場所へ向かう。
「生徒の代表者なら学校内の動向もよく把握してる筈」
 まずは杏の標的、生徒会室へ。
 と言っても、普通はあまり寄り付かない場所であるため、怪しまれないためには何かしらの名目が欲しい。一応は『転校のご挨拶を兼ねて』ということではあるのだが、違和感は否めない。案の定、入室して軽い挨拶をした猟兵を囲んで向く視線は、依然として胡乱げなものである。
 めげない杏は指を立て、確認したい事ひとつ、と別の本題の存在を告げる。
「前の学校の裏サイトで流れてたここの噂……生徒会室の掃除用具入と壁との隙間に、お相撲さんの幽霊が挟まっている……」
 立てた指をそのままに用具入れを指し示せば、近くに座っていた生徒ががたりと椅子を鳴らして立ち上がり、跳び退った。かくしてその一言で、胡散臭さはそのままながら、“杏子”はここに立つ筋だった理由を手に入れたのである。即ち“目的不明の転校生”から“オカルトマニアの転校生”へと。
 室内の空気を掌握した杏は、見渡しながら次の手を打つ。
「他にも、願いが叶う鏡がある、とかもあったかな。願いを叶えた子がよく通っていた鏡は……確か、南の階段の2階?」
 その言葉に、他より少し大きく身動ぎした者がいた。噂のディテールについてはただのブラフだが、まんまと乗ってきたようである。
 動揺によってそれが見当違いでないことを示しつつも、しかしその生徒は口をつぐみ、それ以上を示すことはなかった。話すことを怯えさせるだけの要因が、あるのかもしれない。


 続き、小太刀の標的は新聞部だ。匿名とはいえ校内新聞の読者である生徒たちの本音を把握するために、裏サイトは格好の情報源として利用されているだろう、というのがその理由である。
「入部希望で、見学に来ました」
 在室の部員は執筆中であるらしく、皆とても忙しそうである。小太刀は見学しながら室内を回り、その中で目当ての文章を書く者を見つけると、手が止まるタイミングを狙ってひっそりと声を掛けた。
「実は私、幽霊が見えるの」
 途端にばっと振り返り、見開かれた目は疑い半分、期待半分といった様子の、迷いのある輝きを湛えていた。
「今もほら、あの木の下に……」
 乗ってきた生徒にすかさず指さしてやると、目で追った少年は慌てた様子で立ち上がる。
「な、な、な……!」
 そう、彼にも見えてしまったのだ。霊能力を持つ者に示され、感化されてしまったせいか、この世ならざる者、死したる壮年の武者が……
「なんか陽気に手振ってるけど……?」
 それは地縛霊とかではなく、ユーベルコードで呼び出された武者の亡霊、通称『おじさん』である。陽気なのは彼自身の性格だし、それを強引にごまかすのは小太刀の仕事である。
「ひ、東校舎の階段付近にも嫌な空気を感じるのだけど!?」
「あ、あぁ、それなら――」
 すると半分呆気にとられたまま、彼は知っている情報を開示してくれた。
「なんか、聞くたび変わるんだよね。同じ人にもう一度聞きに行くと、みんな必ず『知らない』って言うし」
 噂の舞台になる階段は東校舎のものだけだが、より正確な対象となる鏡は、3階建ての南北の、四つの階段のうちのどれであるか定かではないとのことだ。『いつもそこで行き止まるんだ』と少年は肩をすくめて溜め息をつくのだった。


「おいらも調査しなくっちゃだ!」
 最後は祭莉の番。彼の調査の場は校外となるため、少し時間をおいての放課後である。
「ドリンクバーなら奢ってあげるよー♪」
 その転校生はクラスメイトたちに気さくに声を掛け、初日から早速ファミレスへの寄り道を提案する。誘いに応じた生徒は割と多く、到着した店のテーブルでは窮屈そうに座ることとなってしまった。ちなみに男子ばかりである。
「この学校の制服、可愛いよねー。女子の可愛さ150%あっぷ!」
 奢りのジュースも全員に行き渡ったところで、祭莉は元気にしゃべりだす。中学生男子にとってはいくらかデリケートな話題に果敢に切り込んでいく転校生のあっけらかんとした様子に
「……俺は、イトウとか、可愛いと思う」
「だよな」
 別にそこまで恥ずかしがることでもないんじゃないか、と思わされた少年たちが、祭莉の発言を肯定し始めた。そのまま徐々に話は盛り上がり、やれ誰が可愛い誰が好き、という風に、それぞれの好みや秘密を暴露し、共有することとなっていく。その中で祭莉の妹や別のクラスの銀髪の少女の名前も挙がったのだが――
「そだね、カワイイかも??」
 最終的には、言い出しっぺの転校生が一番ぴんと来ていない表情をしていたのだった。

 こう言った秘密の共有は仲間意識を生み、概してその口を開きやすくさせるものである。初手の話題選びの妙と、猟兵自身の人懐こさとによって友達らしくなったところで、祭莉は自身のスマートフォンを取り出して見せる。真新しいそれは、今回の潜入にあたって買ってもらったものだそうだ。
「記念にみんなで写真とろー!」
 ……としたのだが、何ぶん今まで持っていなかった文明の利器である。加えて持ち主自身が機械に特別強いわけでもないために……
「……使い方わかんないやー。誰か教えてー!」
 すぐさまクラスメイトへと助けを求めることになってしまった。色々聞くうちに諸々の設定や登録、ついにはオススメのサイトの紹介なんかまで進んでいく。こうなればもう親切心などではなく、彼らも完全に楽しんでいる。
「そいえば、この学校、裏サイトあるの?」
 と、投げ込まれた質問に対し、既に祭莉を仲間と認識している少年たちは、流れるように裏サイトのリンクを共有し、ログインできる状態にしてしまったのだった。

 ……と言っても、しつこいようだがこの猟兵はその端末の扱いに熟練しておらず、結局は解散したのち、杏と小太刀と合流してから一緒に見ることになる。
 どっちにしても、皆向かうのは夜の学校だ。クラスメイトたちを見送ってから、祭莉は皆と逆方向、所在のわからぬ怪異のもとへと走っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『嗚咽への『影』』

POW   :    嗚咽への『器』
戦闘力が増加する【巨大化】、飛翔力が増加する【渦巻化】、驚かせ力が増加する【膨張化】のいずれかに変身する。
SPD   :    嗚咽への『拳』
攻撃が命中した対象に【負の感情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【トラウマ】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    嗚咽への『負』
【負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【涙】から、高命中力の【精神をこわす毒】を飛ばす。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 学校とは子どもにとって、檻のようなものである。
 こうあれかしと大人たちから押し付けられた理想の姿の鋳型に合わせ、鑑の重石を押し付けられて自らを変形させる、窮屈な場所。
 その中で鬱積したモノは、願いとなりて鏡に投げられ、親の求める姿ではなく、自ら望む姿を写し、されど所詮は変わらぬ卑屈に、心の底に淀んで溜まり、淀みはいつしか呪いとなる。
 鏡のうちにも淀んで溜まり、澱は深さもかたちも隠し、その危うさも悲しみも、包み隠され、呪いがいつしかおまじない。


 調査を経て深夜、儀式の規定の時間である午前二時よりもいくらか前、猟兵たちはすでにそれぞれに東校舎へ集まっている。
 敵が出現するのは階段踊り場の鏡ということだが、この校舎に該当する場所は、南北の1-2階、2-3階と4か所が存在している。いずれが正しいかは確定しておらず、さらにはもしかしたら正しい場所を知っている生徒が訪れているかもしれない。
 どうにか一般人の危険への接近を妨げ、事件の元凶となる鏡を早々に突き止め、敵を排除する必要がある。

 人を傷つけたり除いたりするような願いをかければ、敵は鏡からすんなりと現れる。猟兵の力をもってすれば、工夫次第で他の引きずり出し方もあるかもしれない。

 注意深く耳をすませば、学校内にごくわずかに反響する足音が二つ。一人は見回りの教師として、もう一つは……さて。
ヴィリヤ・カヤラ
一応、場所は教えてもらった裏サイトを確認してから、
校内は『聞き耳』を立てて周囲の音に注意して鏡まで行くね。
もし戦闘音がしたらその方向に直行するよ。

見回りの人に見つかると面倒だから
大人なら隠れてやり過ごして、
学生だったらお化けが出るから危ないよって、
影の月輪で大型の狼を作って脅かしてみよう。ごめんね。

鏡の前で人を傷付ける願いをするんだよね。
自分でも良いのかな?試しちゃおうかな。
うーん、私を壊して欲しい…とか?
全然思ってないけどね!

戦闘は敵の動きを細部まで気にしながら、
敵の攻撃は避けるか武器で防いで。
影の月輪で捕まえられるか試しつつ、
【ジャッジメント・クルセイド】を使うね。
影だから光はどうかな?



●1-2階 南
 端末を片手に教わった目的地へ至ったヴィリヤ・カヤラは、自身の姿をその闇に染ませ、足音も息すらも闇に溶かして、その場に在った。聞き耳を立てて足音を探り、近付く気配に意識を向けてその目を凝らす。ほんの僅かな月光を集める金の瞳は、薄く淡く、光る。
 聞こえる足音はゆっくりと近付いて来ている。息を呑む音、不規則に進み止まる足取り――恐らくは忍び込んだ生徒であろう。ヴィリヤがしばらく階下を見つめていると、果たして気弱そうな少年の姿が現れた。闇に浮かぶ金の目は僅かに細められ、見上げた少年はひっ、と小さな悲鳴を上げた。
 闇に浮かぶ双眸は彼を竦ませ、思い通りにならない身体はより強い恐怖と焦りを生む。恐ろしくも目が離せないでいると、冷たく静かで、優しい声。
「お化けが出るから、危ないよ」
 声を合図にしたように、闇の中に朧に見える闇の輪郭がずるりと蠢いたかと思うと、更なる黒が大きく高く盛り上がる。それはのたうつように暴れ、形を変え、薄らと見えた鏡も壁も塗りつぶし、真黒な狼の姿に――
「ひあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ――なる間に、“可哀想な”少年は弾かれたように走り出し、悲鳴と足音を響かせながら、ものすごい勢いで去ってしまった。見送ったヴィリヤは、僅かに苦笑し、影の狼を足元に引っ込めながら「ごめんね」と小さく呟いた。

 気を取り直し、背後の鏡へと向き直ると、願う内容を考える。条件は、人を傷付ける願い。
(自分でも良いのかな?)
 猟兵はふと、不穏なことを考える。我が身の傷への忌避感の薄い彼女にとっては、別段ためらわれるものではない。実際にヴィリヤは、その願いをこともなげに口にした。
「私を壊して」
 ともすれば艶をも感じられるようなその言葉に応え、鏡からは黒い人影がずるりとその身を乗り出し、真っ暗な床にその両足を置くと――影はそのまま、動かなくなった。先ほどから床に展開したままの影なるUDC・月輪が敵を捕らえたのだ。黒き影は黒き影に搦められ、闇と影とがその境目を曖昧にする様子に、ヴィリヤは無感動な視線とその指先を向け。
「影だから光はどうかな?」
 やはり一切の躊躇なく、ユーベルコード・ジャッジメントクルセイドを放った。閃光が怪異を一瞬で霧消させるが、眩さに眉を僅かに顰めるだけの猟兵。
 赤の他人への興味などは元来薄いヴィリヤである。その感情、ましてその残滓などに取り入られる義理や余地など、一片だってあるはずがない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

塩崎・曲人
候補が4つあって正解がわからねぇ、か
どれかが正しくて他が間違い……じゃねぇなコレ
「どれも正解で、タイミング次第でポイントが切り替わる。又は場所の指定はフカシでどこで儀式をしても呼び出せる、だろうな」
なら分担して全部で試すのがいいだろ

オレは縁のあった1-2階南に行くかね
他の猟兵と被ったら河岸を変えるが

一般生徒が居ないのを確認してから(居たら勿論追い払う)敵を呼ぼう
願いは……だめだ、搦手は思いつかねぇ
「今学校にいる人間が怖い目に会いますように、っと」
させるつもりは無いけどな

出てくりゃ後ははっ倒してくだけだぜ
「トラウマは人並みにあるがね!それで立ち止まるようならそもそもここにゃ居ねーんだよボケが!」



●2-3階 南
「どれかが正しくて他が間違い……じゃねぇなコレ」
 塩崎・曲人は拾ったスマートフォンを弄びながら、噂について考察を巡らせる。というよりは、“鼻を利かせる”という方が相応しいかもしれない。
「どれも正解で、タイミング次第でポイントが切り替わる。又は場所の指定はフカシでどこで儀式をしても呼び出せる、だろうな」
 仮にいずれかが“アタリ”なら誰かが戦端を開き、そこに皆が駆け付ければ良い。どの鏡もがそうならば、それぞれで叩けば良い。そう結論付けた青年は、他の猟兵の動向を見てはそちらから背を向け、手薄となった鏡を目指し、相談なく分担することにした。

 初めに狙った鏡には既に金の瞳が映っていたため、曲人はひとつ上階の鏡の前に陣取った。願いに鏡は応えることなく、しんと耳障りな静寂が少し尾を引く。それからすぐ、下の方で遠ざかっていく情けない悲鳴と、軽い舌打ちの音が空間に響いた。
「ハズレか」
 面白くなさそうに、吐き捨てるように小さな声で独り言ちる。そのすぐ後に、またもすぐ下から、ガラスや壁に跳ね返り照らす白く眩い閃光。今度はさらに強く舌打ちの音をひとつ響かせ、猟兵は下階に向かうのだった。

 程なく到着した先で、今度は曲人が鏡の前に立つ。少し考えるも、やはり特別気の利いた願いなんかは浮かばない。仕方なく彼は、無難な内容を口にした。
「今学校にいる人間が怖い目に会いますように、っと……」
 投げかければもう一度、黒い影が這い出して来る。鏡を扉とするように、向こうの部屋から呼びかけに応え、こちらの部屋に訪れるように。そうして全身が出てきたところで、矢庭に男が頭部を掴み、壁を目掛けて叩きつける。
「させるつもりは無いけどな!」
 始まった喧嘩、無防備に突っ立っている方が“悪い”のだ。

 表情も質量も感じさせない人型の影は、やはり一切の恐怖も覗かせないまま、叩きつけられた姿勢そのままに反撃の拳を放ち、曲人の顔面を捉えた。よろけて下がった猟兵が、顔を上げたその視界には、煙る何か、燻る何かが這っていた。正体不明の恐怖や苦痛が、彼の思考や呼吸を奪い、心を冒し――しかし構わず、曲人は殴りつけ、殴り続ける。
「トラウマは人並みにあるがね!それで立ち止まるようならそもそもここにゃ居ねーんだよボケが!」
 正体なき顔を捉え、理不尽に仲間を増やそうとするそれを見据え、より強く、より重く――貫くほどに拳を埋めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リック・ランドルフ
…アイツ等の情報、時間と場所は合ってたか。…ま、校舎の場所は違ったが、ジュース代ぐらいなら仕方ねえか

さて、それじゃ行くか。

とりあえず、下からだな。相手は鏡とはいえ、もしかしたら逃げるかもしれない可能性もあるかもしれないしな

見回りの教師やもう一つ、この足音が聞こえたら、…あまりこの仕事では使いたいないが、警察バッチを見せて、踊り場には近寄らないよう呼び掛ける。(言いくるめ、コミュ力)

鏡に願うのは…昔、といってもほんの数年前、俺が猟兵になるきっかけとなったUDCを呼んでみるとしよう。…正確にいえばUDCになった殺人犯だが。

…よ、久しぶりだな。…あの時はビックリしたぜ。そんで、早速で悪いが…終わりだ



●1階 廊下より
「ま、ジュース代ぐらいなら仕方ねえか」
 夜の校舎の昇降口、ぼやくように呟いて、リック・ランドルフが見渡す。得た情報からは正しい鏡の位置までは特定できず、最終的には多少のリスクを負って足で探す形になってしまったことが、その渋面の理由であろう。
「さて、それじゃ行くか」
 支払ったのは決して大した金額ではない。そう割り切ることにして、男は闇の向こうを睨む。開いた財布の寒々とした闇に比べれば、一寸先の闇など恐るるに足るものではない。

 犯人が逃げる可能性も考え、まずは下のフロアから念入りに調べる。程なく、猛烈な勢いで足音が迫って来た。
 それは、停止は疎か原則すらすることなく、大柄なリックの正面よりぶつかり、そのまま弾かれて転がされてしまった。その少年は、眼を閉じ俯き全速力で走っていたようだ。
「悪いな、大丈夫か?」
 気遣い手を伸べる男の姿は、座り込んだ少年から見ればさぞや大きなことだろう。
「危ないから踊り場には近寄らないように……」
 と、身分を証する警察バッヂを見せながら注意喚起をしようとする間に
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!」
 またも叫びながら、這うようにして逃げ去ってしまった。向かった先はリックが来た昇降口の方なので、とりあえずはまぁ……安全は確保されたようだ。

 閃光を目にし、咆哮を耳にしたその後で、今度はリックが鏡の前へ。トラウマや苦い過去――思い起こすのは、UDCとなった殺人犯であり……リック自身が猟兵になるきっかけとなった相手。
「……よ、久しぶりだな」
 浮かべた面影は願いと受け取られ、その像を結ぶ。おぼろげながらも形を得た虚ろなその影に、刑事は退がり声を掛ける。
「あの時はビックリしたぜ」
 事件の記憶の共有者へ向け、懐かしげに苦笑を浮かべながら言う。当然ながらその相手が、罪を償って出所した犯人などでないことは分かっている。所詮は、一瞬の感傷だ。
「そんで、早速で悪いが……終わりだ」
 数歩下がりながら、殺人犯の影が鏡から完全にその身体を這い出させるのを待った猟兵は、その完了と同時に懐古を終えると、手慣れた様子で拳銃を構え、影の額を、撃ち抜いた。対UDCに特化された特殊弾は、UDCに擬態したUDCへ甚大な被害を及ぼすと、何の成果も願望も結実させることなくその存在を消失させた。
 あるいは、ひとつの願いを叶えたと言えようか。凄惨な事件を未然に防ぐことこそが、刑事の悲願で本懐なれば。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
【かんさつにっき】

丑三つ時
…夜は午後9時に寝る派だけど頑張る
わたしは南2Fへ
暗く延びる廊下はひたひた足音だけが聞こえ…静か
(うとうと)

(はっ)大丈夫、寝てない

小太刀の作戦に乗って
ん、なら攻撃は任せて
うさみん☆の踊りで動きを遅くして
……
緩慢な動きは眠気を誘う
つい、うとうとすると拳を避けきれず
胸に広がる負の感情

…この間、知らぬ間にまつりんがわたしの分のお肉を食していた
まつりんのばか、消えちゃえ

!もう一体出た

まつりんが消されちゃういなくなっちゃうわたしが願ったから
小太刀も鏡の中に…いなくなる
ひとりは嫌、置いてかないでっ…

…ふわしっぽ
まつりん、いた
小太刀も、鏡の外

ん、もう大丈夫
怪力フルパワーで影を殴る


木元・祭莉
【かんさつにっき】デス!

へへー、見て見て、記念写真♪
え、裏サイト?
うん、なんか登録してもらった!

……コダちゃん?(わかるよねって顔)

ふんふん。(サイト閲覧中)
今日も誰か来るのかなあ?

誰か来ちゃったら、足止めして、行き先聞かなきゃ!
学生さんに出会ったら、自分もおまじないに来たフリで話しかけるね。

キミ? ドコ行くの?
あ、ザンネン。それ、ハズレ。
おいらも、さっき行って来たトコなんだー(サイト見せ)

がっかりびっくりを励まして無事に帰した後。
コダちゃんアンちゃんのトコに、ぴゅんっとワープ!

場所、聞いてきたよ!
あれ、コダちゃん、アンちゃんいじめた!?

え、いじめたのコイツ?
むうー、みんなでタコ殴りだー!!


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

祭莉ん?やれやれ仕方ないなぁもう
携帯受け取り裏サイト確認
って何コレ、目当て以外の裏サイトもある様な?
全く中学男子って奴は(溜息

候補は4つか
文字通り確定してなかったり
鏡の奥の世界も繋がっていて
入口は一つとは限らない、なんてね

願いなら任せて
(実家に電話して)父とバッチリ喧嘩してきたわ
あんのピーマン親父の靴下に穴があく呪いをかけてやるんだから!
…それと、家に帰りたくないからさ
『鏡の中の世界に私も連れてってよ』

何とか誘き出せたら
勿忘草色のオーラと獅吼影牙で防御しつつ
破魔の属性持つ矢の雨で浄化する
背負わされた恨みも涙の雨もここでお仕舞いにしよう

杏…お肉の恨みは恐ろしいね
あ、祭莉ん来た!



●2階 南 道中より
「へへー、見て見て、記念写真♪」
 木元・祭莉はクラスメイト達と撮影した集合写真を映し出した画面と一緒に、鈍・小太刀に向けて満面の笑顔を向ける。必要な情報はそこではないので、小太刀はそれを受け取ると、軽快に操作し画面をウェブブラウザへと切り替えてやる。
「仕方ないなぁもう……って何コレ」
 登録されたブックマークを確認し、順に目を通してやると、そこに一人の男子生徒のオススメサイトが飛び込んできた。
「コダちゃん?」
 少女が目を逸らしつつ半眼で睨んだ先には、祭莉のきょとんと首を傾げた表情。操作の覚束ない持ち主自身はよく分かっていないようだが、中学男子のオススメサイトと言えば、大抵は――まぁそういうものである。
「全く、中学男子って奴は……」
 余計な知識の多い見知らぬ中学生男子と、あまりに知らない目の前の中学生男子を一からげにして、小太刀は大きく溜め息を吐いた。

 それはともかくと学校の裏サイトを見渡してみれば、同様の噂についての話題は多くも、確定的なものはやはり見当たらない。
「今日も誰か来るのかなあ?」
 画面を覗き込む少年と
「文字通り確定してなかったり……鏡の奥の世界も繋がっていて、入口は一つとは限らない、なんてね」
 考え込む少女。いずれの顔もバックライトの青白い光に照らされて、廊下の暗闇に映し出されて不気味なものとも見える。

 と、そこで。
 照らされる顔が同時に後ろを振り返る。彼らは三人組である。ここまでのやり取りに一切参加していないもう一人の存在を思い出したかのように、揃ってぱっと振り向くと――
「……大丈夫、寝てない」
 どうやら無事な様子の木元・杏がそこに立っていた。無事と言ってもいくらかふらふらして、足元は頼りない。普段午後九時に寝る健康優良児の彼女にして見れば、午前二時という時間は非常に過酷な条件であると言えるだろう。なにしろ『草木も眠る丑三つ時』というほどだ、“杏”だってきっと漏れなく眠るだろう。重ねて極端に静かなほぼ無人の学校である。いつどのタイミングで、立ったまま眠ってしまっても不思議はないのだ。
「……頑張る」
 ともあれ、彼女のその言葉を信じるしかない。祭莉は聞こえる尋常ならざる足音に駆け出し、小太刀は杏を伴って、戦闘の気配がうかがえる階段の踊り場へと向かった。


「願いなら任せて」
 年長者としてか、より危険な部分は自らが請け負うことにした小太刀。願いの言葉にどれほどの強制力があるかも分からないため、普段の戦闘よりも不測の事態を考慮してのことだろう。
「あんのピーマン親父の靴下に穴があく呪いをかけてやるんだから!」
 実際に電話をかけ、わざわざ同居していない父親との衝突を生み出し、怒りの感情を新たにし……と、必要あるのかどうかは分からないが、周到に根回しまでしてきた彼女の鬱憤は最新版である。反して求める呪いはなんというか、稚拙なものではあるのだが……きっと鏡の呪いの主はクライアントのニーズに応えるよう、上手に解釈してくれることだろう。
「ん、なら攻撃は任せて」
 杏はその後ろに控え、鏡からの怪異の出現に備える。可愛らしい戦闘人形をくるくると踊らせながら準備を整え、リズミカルに拍を取って首を振る様子は、陽気なセッションのようでもあり――
「はっ」
 その実、やはり睡魔に堪えかねて、船を漕いでいるのだった。父娘の戦いだったり睡魔との戦いだったり、この世は実に争いや軋轢に溢れている。

 人形の踊りはユーベルコードのそれである。それが踊っている間は、楽しめない者はその行動の自由を大きく制限され、緩慢な動きしか出来なくなる。必定、嗚咽のみをその身に宿す黒い影は、鏡からずるずると這い出すなりその身を制約に囚われるのだ。
 その様子を見る杏は、緩やかなそれに更なる眠気を掻き立てられ、集中力を強烈に奪われていた。そんな中聞こえる小太刀の声、その願い。
『鏡の中の世界に、私も連れてってよ』
 夢うつつに耳に届いたそれは、うっすらと少女の焦燥を煽る。そうして散漫な意識しか持ち合わせない少女に対し、たとえ動きが遅くとも、嗚咽の拳が届かせられるのは、難しいことではなかった。


 衝撃に小さな呻き声をあげ、杏の意識は急速に覚醒し、明度を取り戻していく。それに反して胸の裡は、負の感情に暗く昏く塗りつぶされ。
 思い起こされるのは先日の事。兄である祭莉が妹の分の肉を平らげてしまった時の事。通常であればそんなこと、ちょっと怒ってちょっと喧嘩して、ちょっと経ったら忘れて元通りになるような事である。なのに、その感情はまったく鳴りを潜める事もなく、急速に大きく膨れ上がり――
「まつりんのばか、消えちゃえ」
 それは呪詛として、杏の口から転がり出でた。もはやそれは少女の意思ではないのかもしれない。慰める手を求める悲痛な叫び声たちの、そうしてその手を引きずり込む、卑屈な叫び声たちの。

 ずるり、と。新たに黒い影が鏡より現れる。それは杏を目指すことなく、階段を経て廊下へ向かわんとしている。その標的は間違いなく、祭莉であろう。
「まつりんが消されちゃういなくなっちゃうわたしが願ったから」
 焦る少女の思考は形を結ばず、身動きを取ることもできなくなっていた。対峙するものは自らの裡の恐怖。自身の中で際限なく膨れ上がるそれに立ち向かう術を、13歳の少女は見失ってしまっているらしい。

「杏!?」
 燐光を纏い、獅子を従え戦う小太刀の呼びかけにも、答える余裕はなさそうだ。小太刀の願いは“父の靴下”と“鏡の世界”と二つ聞き届けられ、二体の影を呼び出してしまったのだ。不測の事態に平静を失い、小太刀もまた杏のユーベルコードに搦められその動きを緩慢なものとしていた。
 苦戦する様子に瞳をさらに揺らし、口の中で呟く杏の表情は、今にも悲愴に溺れそうに見える。
「小太刀も鏡の中に……いなくなる」
 浮かんでしまった想像は、もはや振り払えない程に少女の思考を、視界を侵蝕し――
「ひとりは嫌、置いてかないでっ……」
 震える喉の小さな叫びが、震える瞳の小さな涙が、零れて弾ける、その刹那。
「おまたせーっ!」
 場違いに明るい声は、恐らくこの場のどんな光よりも、眩い物に見えただろう。


 少しの間だけ別行動をしていた祭莉が、ユーベルコードを行使して仲間の元へ訪れた時には、あまり芳しくない状況であった。それは敵が多いとか小太刀が苦戦しているとか、そういうことではない。

 何故だか分からないが、妹が泣いている。

「コダちゃん、アンちゃんいじめた!?」
 いつものように小太刀が否定の言葉を吠え返し、敵の姿を指し示す。怒りが半分、安心が半分、前者を発散するために、杏を庇い立ち睨みつける。
「……ふわしっぽ……まつりん、いた」
 触れた尻尾の馴染んだ感触は、杏を現実へと連れ戻す。一人で戦えない恐怖や悲しみも、二人であれば容易に跳ね除けられるのだ。牽制しつつ後退してきた小太刀の背にも安堵し。
「ん、もう大丈夫」
 今度の大丈夫は本物らしい。勝てない睡魔も立ち去った今、杏の調子は万全だ。
「みんなでタコ殴りだー!!」
 応じて祭莉が声を上げれば、小太刀は弓を曳き絞り、迫る怪異に狙いを定め、暗きに黒き矢を放つ。
「背負わされた恨みも涙の雨も、ここでお仕舞いにしよう」
 集められ、凝り固められた感情を、一掃するために。浄化の矢は狭い中に無数に降り注ぎ、影たちを縫い、貫き。
「いっくよー!!」
「ん、怪力ふるぱわー」
 息を合わせた二つの拳は、白炎を白光を纏い、黒き暗きを照らすが如くに、嗚咽の影を消し飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

千頭・定
真夜中の学校!
お友だちと行ってみた2-3階の北側の鏡に向かってみましょうか。

自身を中心に、鋼糸をロープワークで展開しながら歩きますよう。警戒です。
張った鋼糸が私以外に触れたり、振動を感知したら逃げ足で隠れます。
もし候補地に向かおうとしている方がいれば、寄生UDCで脅してお帰り頂きます!

それでは願いごとです。ドキドキ。
兄様を倒したいです。ぼこぼこに!

本当にでるとは。気分は真っ青。肝は冷え冷え。
ぼこぼこにされたトラウマが走馬灯として流れました。

距離をとって鋼糸で拠点防御。
鋼糸で攻撃しつつ、集中して隙を狙い拘束。
早業で移動し、首にダガーを突き立てます。

願い事なんて、気軽に言うものじゃないですね。



●2-3階 北
「真夜中の学校!」
 鼻歌のひとつでも飛び出しそうな軽快な足取りで、廊下を歩くのは千頭・定である。知った場所の普段と違う面だったり、内緒の潜入だったり、さらに加えて彼女の好奇心旺盛な性格を考えれば無理もない。しかし、『好奇心猫を殺す』とはよく言ったもので……
 そんな定が向かっているのは、日中に“お友だち”に案内してもらった鏡の前である。彼女が歩くその周囲には、夜目には視認できない鋼糸による、その陽気さや懐こさとは別人の手のもののような警戒網が複雑に展開されている。それは道を大げさに遮ることはせず、領域への侵入者の存在を伝え、確実に定の死角を潰していく。
そうして鋼糸の監視網に校舎の大部分をおさめつつ、彼女もまた問題の鏡へと駆け付け、その前へ立つ。

「それでは願い事です」
 逸る気持ちに胸を高鳴らせながら、輝く瞳で映る自身を見据えながら、掛けたその願いは
「兄様を倒したいです。ぼこぼこに!」
まったくもって血の気の多いものだった。誰かを傷つける願いであるには正しいのだが、この場合『自分自身の手で』というニュアンスがあるようにも見受けられる。それでもどうにか叶えんとして出て来るのが律義な怪異ではあるのだが。

 かくして影はまた、形を成して這い出て来る。現れたるを叩こうとしたその時、喚んだ本人が戦慄した。
 まさか本当にでるとは。どこか確度の低い、うそ寒いような気持ちで願いを掛けた定であったが、実際目の当たりにした敵の姿に、血の気は逃げ去り、浮いた心も潜み沈んで、寒いどころか凍えるまでの怖気に襲われる。似ているのだ。少なくとも彼女自身にとっては、恐ろしいまでに――トラウマを激しく呼び起こすまでに。
 それでも息を呑み、ついでに恐怖も呑み込んで、少女は距離を取り、すぐさま鋼糸の障壁を展開する。分け入ろうとすればそれを操り傷を与え、隙を見ては動きの自由を奪う。
 実体がないながらも刃を身体に食い込ませ、絡め取られる怪異の表情は、貼り付けたように楽しげなまま。
「願い事なんて、気軽に言うものじゃないですね」
 嗤う表情すら虚影である。冷静に観察し、気付いてしまえばなんてことはない。雁字搦めに押さえ込み、首にダガーを突き立ててやれば、恐るべき兄の姿をしたそれは、呆気なく崩れ消えてしまった。脅威の残滓に引き切らぬ冷汗を拭いながら、溜め息まじりに少女は呟いたのだった。
 此度の猫は、死なずに済んだようである。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『夢の現』

POW   :    夢喰み
【対象の精神を喰らうこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【戦意の喪失】で攻撃する。
SPD   :    魂攫い
【深層の欲望を見抜く視線】を向けた対象に、【欲を満たし心を奪う空間を創り出すこと】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    心砕き
いま戦っている対象に有効な【対象が最も苦手とする存在】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルメリー・マレフィカールムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●伝染る 移る 写る
 鏡の中に世界はあるか。仮にあるなら繋がっているか。此方の鏡より彼方の鏡へ、未だ見ぬ先へ鏡を伝いて――さて、内なる世界は檻であろうか、外の世界は自由であろうか、いずれが内で外なりや、いずれが此岸・彼岸なりや。
 たとえ在れども見えぬなら、鏡の世界は夢の裡、夢に過ぎねば無いのと同じ。鏡は映すばかりにて、向こう側など在りはせず。そんなものよりも。

 各々手にする機械の方が、未だ見もせぬ遙けき先へ、気軽手軽に辿り着く。夢見る鏡の世界より、そちらが余程異界であろう。その中で望んで集まり傷つけあって、行き交う言葉の棘や角など、心の澱に触れるには充分すぎる場であろう。
 見初めて、取り入り、心を喰うには、大きな像が望ましい。できれば小さな画面ではなく、人の姿をまるごとうつす、大きな鏡などが、望ましい。

●映る
 幾らかの望みを掛け、その度に現れた幾体かの影を排除してやって後。さらに猟兵が鏡の前に立つと、その奥に像を結んだ者は、誰の願いにも応じてはいない、誰が想像したものでもない像であった。獣の頭骨のような頂部の下に闇色の外套、中からは無数の赤い触腕が覗いており、明らかに人の姿ではない。鏡面よりぬるりと現れる様子などは、現実にここに存在しているかどうかすら怪しい物である。どうやらこれまでの嗚咽への影とは違う――おそらくは噂の発端、首謀者だろう。

 猟兵たちの頭に僅かな頭痛と不快感。どうやら精神的に影響を及ぼそうとしているらしく、放っておけば戦うどころではない色々なものを受信させられてしまうことだろう。
 幸い周辺は一部の猟兵の脅迫的人払いや鋼糸の結界などによって、一般人の進入の危険性はない。狭い戦場も見様によっては敵を追い詰めやすいと言えるだろう。面倒で厄介なことになる前に、陰湿な悪夢を叩きのめしてしまおう。
リック・ランドルフ
…さて、ようやく犯人のお出ましか。…こりゃまた、猟奇的というか、儀式くせぇというか…ろくでもない犯人って感じだな。……ま、とりあえずだ。……その仮面、ぶっ壊してやるよ。

まずは拳銃で牽制しつつ、距離を取って、相手の出方を疑う。そして、、ここは校舎、銃弾が壁やら床やらに当たらないよう、しっかり狙って撃つ(スナイパー、クイックドロウ)

と、なんだ?奴の目が怪しく光っ――


俺の欲望?そりゃ…ちとこの歳で言うのは恥ずかしいが、…平和だよ、世界平和。皆が笑って、誰も傷付かない。…そんな、ガキみてえな夢だ。

だから分かる。この世界は偽物、無理な夢だからな。


というわけで、残念だったな(棍棒でのフルスイング、鎧砕き)


塩崎・曲人
ケッ、だまくらかして喰えそうな相手じゃないと分かった途端これかよ
「出会い頭に毒電波垂れ流しにしてきやがって。電波法違反でお仕置きすんぞコラ」

そりゃ、誰だって自分の肚の内なんざ探られたくねぇに決まってる
オレ様だって触れられたくねぇ事の一つ二つはあるさ
それを自在に暴けるってんだから、ある意味神の如き力だよ
(だからまぁ、この光景もそうなんだろう)
『安く見られたくない、一目置かれたい』という欲望を満たす空間に飲み込まれるも
自分はまだ自分で納得できる存在じゃない、という想いから幻影の呪縛を打ち破る
「違うんだよド畜生!」

「……他人のプライバシー遠慮なく冒して行きやがって。覚悟はできてんだろうなオイ」



●かなうは難し
「……さて、ようやく犯人のお出ましか」
 姿を現した禍々しいそれに、距離を取ったリック・ランドルフはどこか冷めたような視線を投げる。今どきの学び舎で煙を燻らせるわけにもいかないし、口元にも視線にも、熱が宿らないのは無理もない。
 さらに言えば、ようやく出てきた怪異の風体も、猟奇的というか儀式臭いというか――さらに言ってしまえば古典的、語弊はあるが“よくある”ろくでもない犯人のそれである。溜め息だって出ようというものだ。
「……ま、とりあえずだ」
 冷たい視線や投げやり気味な言葉に気を悪くしたかは分からないが、出し抜けに伸ばされた触腕の一本を、リックは正確かつ迅速な狙いで撃ち抜き千切る。
「……その仮面、ぶっ壊してやるよ」
 その視線は冷静で、その視線は挑発的。そして、紫煙の上る銃口は、熱い希望に燃えていた。

「ケッ、だまくらかして喰えそうな相手じゃないと分かった途端これかよ」
 UDCにとっては思いもよらなかったであろう衝撃に、頭痛や不快感を与えていた不明の攻撃が緩んだ。その隙を見逃さず塩崎・曲人が速やかに一歩踏み込み、飛び込み、一撃を見舞う。
「出会い頭に毒電波垂れ流しにしてきやがって。電波法違反でお仕置きすんぞコラ」
 詰め寄った頭骨はいかにも覚えやすい“顔”である。黒衣の胸倉をつかんだままに、青年は咎人を睨め上げる。応えて睨み返すように、怪物が異形の眼窩を向けると――不意に、鈍く怪しく、光った。


 怪しく光った頭骨の虚の、リックが眩さに瞬いたその刹那、階段の踊り場の光景は、全く明るい世界へと変じていた。
 皆が明るく笑い合い、自身以外の誰もが武器など持たず、傷つかず傷つけず、その可能性すら考えもしないような、能天気なまでの平和な景色に、男はしばし呆気にとられ――それから僅かに肩を竦めた。
「俺の欲望?」
 いかに高邁な希望であろうとも、とどのつまりは欲望である。見果てぬ夢のために、誰かを踏み台にして、犠牲にして……
「……平和だよ、世界平和。皆が笑って、誰も傷付かない。……そんな、ガキみてえな夢だ」
 たとえば今、目の前に広がる光景のような。絶対的に理想的な、絶望的に理想的な、夢物語。実際リック自身も、やや自嘲気味の照れ臭そうな苦笑を浮かべている。

「そりゃ、誰だって自分の肚の内なんざ探られたくねぇに決まってる。それを自在に暴けるってんだから、ある意味神の如き力だよ」
 笑う刑事の表情などは、曲人の目には映らない。UDCの目の輝きも、暗きに澱む階段も、彼の意識には届かない。そこに広がり見えるのは、自らを称賛し、崇敬する者たちの目の輝き、明るく眩い日の下である。一瞬呆気にとられた曲人だったが、その後は馴染みの目つきの悪さで、気分悪げに鼻を鳴らす。
(だからまぁ、この光景もそうなんだろう)
 絶え間なくぶつけられる幻の狂熱をうんざりしたようにあしらい、聞き流しながらも、その目元には力が篭り、険しいものとなっていた。曲人が囚われた世界もまた、自身の理想を強制的に具現化されたものである。『安く見られたくない、一目置かれたい』というそれは、実に普遍的に人の心に底の見えない隙間を生み出す、取り入りやすい欲望であったろう。

 そう、“見果てぬ夢”なのだ。
「だから分かる。この世界は偽物、無理な夢だからな」
 それでも諦めきれず、その犠牲となり、その礎となるのは、リック自身。そんな突然に都合よく、目の前に現れることなんてないのは、リックが一番良く知っている。
「違うんだよド畜生!」
 飽くなき敬意を向けられぬ原因は、それを得るために戦い変わるべきは、曲人自身。自分がまだ自分で納得できる存在じゃないのは、曲人が一番良く知っている。

 だからこれは、幻想だ。


 さすがに幻の中で拳銃を撃ったりして、学び舎に物騒な弾痕を穿つわけにもいかない。リックは敵へと目測を付けると、手加減なしの剛腕でもって棍棒を振り抜いた。硬くも軽い手ごたえをその手に感じた直後、周囲は元の暗い校舎に戻っていた。
「というわけで、残念だったな」
「……他人のプライバシー遠慮なく冒して行きやがって。覚悟はできてんだろうなオイ」
 入れ替わりに曲人が詰め寄ったときには、UDCの身体は既にロープで拘束されていた。無数の触腕と複雑に絡み、外そうにもそのまま身動きを取ろうにも、一筋縄ではいかないようである。幻想に囚われる前の再演のように外套をむずと掴むと、ユーベルコードの猿轡を拳と一緒にねじ込んでやる。勿論怒りは一撃で収まるはずもなく、次々と重さと速さを増しながら見舞われるのだった。
 リックは哀惜の篭った溜め息をもう一つ、小さく吐いた。刑事は甘言を素直に受け入れられるほど幼くはなく、青年は怒りを容易く引っ込められるほど大人ではない。しかしいずれも、敢えて老若を問わずとも、夢の遥けきは知っているのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木元・杏
【かんさつにっき】
山羊の顔…?身体は…マントの中は何も無い、虚無
貴方は満たす腹を持っていないのに、何を求めて人の欲を喰らうの?
そう、コケコケ言うたまこの如く……んむ?

あ、まつりん…尻尾が負け犬
仕方ない、わたしが夢の現やっつけるべしと懐刀を構えきっと視線を合わせた瞬間

こ、ここは…焼肉店?
くっ…、眠気の後にはお腹が減る、その本能をつかれた感
お肉の香ばしい匂い、じゅーと焼く音
止めないで小太刀。これは食さねばならぬヤツ
だって、お腹空いてくらくらする…

まつりんの掛け声と共に無駄に戦闘(食欲)本能をかき立てられ、夢の現目掛けて【鎌鼬】
お肉で惑わされた恨み思い知れ

帰りにハンバーガーなる朝ごはん食べて帰りたい


木元・祭莉
【かんさつにっき】デス!

アンちゃんいじめた、許さない!
廊下を封鎖して、二人を守るように鏡に対峙。
さぁ、かかってこいー!

あ、嫌な予感する。
ギャー、やっぱり出たー!(巨大たまこ顕現)
超ダッシュで後退、コダちゃんの陰に隠れる!
尻尾を丸め、力弱く威嚇。

よし。白楼炎発動!
ゆらゆらり、たまこ小屋が出現。
ほら、おうちだよ。ごはんもあるよ、おとなしくおやすみ?
たまこがおとなしくなったら、反撃!

え、お肉?
おいら、アンちゃんのお肉、横取りしたコトないよ?(ぶんぶん)
……ぷりんなら(ぽそ)

ボスにお肉を投げつけて。
アンちゃんGO!
おいらも!

ふー。
これで、おまじないしても大丈夫!
裏サイトに「おっけー」書き込んどこっと♪


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

なるほど鏡の悪魔
らしい恰好の奴が出て来たじゃないの
相手してやるわどこからでもかかって来なさ…
(召喚された巨大ピーマンを前に固まる

ふん、こんなの食べなきゃどうって事な…
ちょ、口に向けて投げるなー!?
こうなったらこっちも奥の手を
オジサン後は宜しく!

頷くオジサン
ピーマンを槍で刺し炎で焼いてもぐもぐ
食材は無駄にしない主義らしい
でもピーマンだけじゃ寂しいのか
お肉堪能チャンスな杏が羨ましそう

…って杏、それ罠だから!?

オジサン、お肉ならあっちのたまこは?
食べたら本物たまこに怒られそう?成程
あ、祭莉んのお肉に反応した

そろそろ夜明け
夢は夢に現は現に
UDCは鏡じゃなくて骸の海に還りなね

お腹空いた



●カルビとかしわと野菜盛り
「アンちゃんいじめた、許さない!」
 木元・祭莉は先の怒りを収めることなく、背には二人の仲間を庇い、猛る気炎と同様にその毛を逆立て鏡の怪異を威嚇する。守られる二人も油断なくその敵を睨みつけ。
「なるほど鏡の悪魔、らしい恰好の奴が出て来たじゃないの」
 不敵に笑って鈍・小太刀。その言葉の通り、山羊らしき動物の頭骨に形を成さない身体を包む黒マントと、不気味さについては満点の姿である。しかし所詮は策を弄して隠れるばかりの姑息者、対峙して恐るに足るものではない。
 対して木元・杏は警戒心を顕わにしつつ、その異形を見据え、見逃すまいと観察する。
「貴方は満たす腹を持っていないのに、何を求めて人の欲を喰らうの?」
 たとえば何者でもない自身への強迫的な焦燥感、たとえば何物かを奪い得る無数の強欲な腕、たとえば、それでもなお満たされ得ない、腹中の虚無感――誰かの悲しみ、心象の具現であるのなら、満たす腹無きはその表出であるのかもしれない。しかし所詮は心を離れて鏡に巣食う、思いの澱の影法師、すくうことなど叶いはしない。
「相手してやるわ、どこからでもかかって来なさい!」
「かかってこいー!」
 怖い物知らずの若人たちは、慣れぬ頭痛も物ともせずに、闊達に咆えて戦端を開く。恐るべきを知らぬ者たちは、それを写して心を苛むUDCにとってはさぞや難敵であるのだろう。


 されど心を揺さぶるは、恐怖や後悔だけではない。
「こ、ここは……焼肉店?」
杏の睨んだUDCの眼窩が怪しく光ったかと思えば、香ばしい香りに油の弾ける音……煙りて霞むその景色は紛れもなく、焼肉店であった。もちろん幻であり、巻き込まれた祭莉と小太刀には疑うべくもない拙策なのだが……
「くっ…、眠気の後にはお腹が減る……本能をついた巧妙な罠……」
 ……たったひとりにおいて、効果は抜群だ。
「……って杏、それ罠だから!?」
「止めないで小太刀。これは食さねばならぬヤツ」
 理性的な制止の言葉も、今の彼女には届かない。感じるその空腹も、標的である杏のみに与えられた幻覚であるのだが、それはもはや使命感へと転化しうるほどに強い衝動、強い欲求――まあ要するにこの猟兵、単純に腹減りすぎてふらついている。あくまで幻覚だけど。
 ともあれそんな感じで、杏は小太刀の声を振り切って、金網の上で焼ける上等な肉を速やかに殲滅すべく、その席に着くのであった。無限に増殖し、さりとて決して腹を満たすことのないそれは、夢の現が糧とする、嗚咽と夢によく似ている。
 さて、何故に喰らうのか――その幻は、少女に問いを投げ返した。


 夢の焼肉に舌鼓を打つ杏の目を覚まさせるため小太刀と祭莉が近寄れば、その金網を庇うようにしながら少女が恨めしげな視線を返す。どうやら兄に奪われた肉のことをまだ根に持って警戒しているらしい。先程事情を聞いた小太刀が伝えれば、彼は不思議そうな表情で首を横に振った。
「え、お肉? おいら、アンちゃんのお肉、横取りしたコトないよ?」
 今度はふたりの少女が不思議そうな顔をする番である。記憶違いか勘違いか、それとも犯人が別にいるのか――警戒が緩んだその瞬間に
「……ぷりんなら」
よせば良いのに小さく呟く兄の告白を、妹が聞き逃すはずもなく。改めて目を三角にすると、戦利品を守る野犬のように厳戒態勢へと戻ってしまった。

 ともあれ、肉焼き網から引きはがす為、未だ正気と見える二人のうち、まずは小太刀がその卓上に目を向け――その瞬間に硬直した。あったのは恐ろしく悍ましく、直視に堪えぬ物体。その色もその形もその匂いも、全てが小太刀に認識を拒ませるようなそんな、悪意の塊――巨大ピーマンである。これもまた彼女のための幻覚だ。
「ふん、こんなの食べなきゃどうって事な……」
 無理やり強がる小太刀の言葉を遮って、そのピーマンは勢いよくさらなるピーマンを“射出”した。目標はもちろん
「ちょ、口に向けて投げるなー!?」
悲鳴のような声をあげながら、小太刀はピーマンから逃げ出した。

「あ、嫌な予感する」
 野性が強いと勘も良い。それでも祭莉は覗き込むしかない。そして
「ギャー、やっぱり出たー!」
 予感の通りの幻覚は襲ってきた。焼き網から飛び出したのは、巨大なニワトリ。猛然と駆けてくるそれは、兄妹に飼育される“たまこ”の記憶と、大きさ以外は寸分違わぬ姿をしていた。そしてその鶏こそが少年の恐怖の対象なのだ。
 祭莉もまた悲鳴をあげながら脱兎のごとく逃げ出した。三人の心を揺さぶるものは、つまりこういう具合である。


 幻の店内も現実の踊り場も、大して広いわけではない。逃げる小太刀も追い抜き背後に隠れた祭莉も、すぐさま壁際へと追い込まれてしまった。少年は尻尾を丸めて隠しながら力ない唸り声で威嚇を試み、少女は前に立ちながら、ピーマンを防ぐために口を固く引き結んでいる。どうやら二人の幻はそれぞれ本人にしか干渉を許さないらしく、自身の力でなんとかするしか道はないようだ。
「こうなったらこっちも奥の手を……」
 先に意を決したのは小太刀であった。ユーベルコードを行使し、巨大ピーマンを睨みつけ――
「オジサン後は宜しく!」
丸投げした。
 自分の力で召喚したんだから誰が何と言おうと彼女自身の力である。召喚された武者の霊は頷き槍を構えて、投げられるピーマンを次々と刺し貫きながら見る間に標的に肉薄し、一突きでそれを沈黙せしめた。勢いのままにさらに進み、進み……金網の前、杏の正面に座った。
「何?食材は無駄にしない主義?」
 追い駆けた小太刀の少し呆れたような声に、オジサンはまた頷き、意気揚々と槍ごと巨大ピーマンを炙っては美味しそうに食べ始めた。召喚者の好き嫌いを暗に窘める意図があるかどうかは定かではないが、彼は程なく大小すべてのピーマンを駆逐するのだった。

 肉も恋しく杏の手元を眺めているがやはり干渉できず、霊体らしく恨めしそうな表情の武者に対し、小太刀は思いついたように指さして言う。
「オジサン、お肉ならあっちのたまこは?」
示された先では祭莉がなおも鶏と向き合い、決死の戦いを繰り広げていた。
「ほら、おうちだよ……」
 ユーベルコード・白楼炎によって築かれた鶏小屋。こちらもまた飼い鶏・たまこの住処を写した幻である。記憶から生み出された敵であれば、その記憶にある対処法によって乗り切ることができるはず。
「ごはんもあるよ、おとなしくおやすみ?」
 及び腰のまま、できるだけ刺激しない、優しい声で呼びかけ続ける祭莉の努力の甲斐もあって、強敵は悠然とその住処へと帰っていく。家は家主を取り込み、一個の幻としてその姿を掻き消えさせると、店内の喧騒はついに、杏が肉を焼く音だけとなった。


「反撃!」
 天敵さえいなければ今度こそ本当に怖い物なしである。少年は威勢を取り戻し、その嗅覚で見えざる敵を探してやると、取り出した何かを投げつけた。
「アンちゃんGO!」
 呼びかけられて視線をあげた、今なお口いっぱいに肉を頬張る杏の目が捉えたのは、今まさに宙を舞う――肉であった。瞬間、声もなく、間髪もなく、躊躇もなく、少女は跳び出した。追従するように武者の霊も突進し、おいらも!と祭莉も加わると、ひとつの肉を目指して駆ける。構えた槍と、拳と、それから懐刀――幻に囚われた杏には肉を焼くトングに見えているのだが――三つの武器は過たず、一点を目指して打ち抜いた。

 不意に焼肉店は消え去り、周囲は踊り場へ戻る。見渡せど異形の姿はなく、やや置いてけぼりの小太刀は遠い目で、ぽつり。
「UDCは鏡じゃなくて骸の海に還りなね」
 そろそろ夜明けも近いころ、逢魔の時は疾うに終わって、夢は夢へと、現は現に、在るべきように戻るころ。
「お腹空いた」
 そしてもうすぐ朝ごはんの時間でもある。匂いだけの焼肉は、空腹を著しく助長した。実際それに踊らされて食べ続けた杏などは特に……
「帰りにハンバーガーなる朝ごはん食べて帰りたい」
にくさ余って食欲百倍、がっつり食べる気満々だ。学校裏サイトへの書き込みをしていた祭莉も、端末をしまうと小走り気味に二人を追いかける。在るべからざる怪異を除けば彼らもまた、その日常へと帰り行く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヴィリヤ・カヤラ
黒幕さんかな?
少し嫌な感じがするね。

学校内は壊せないから気を付つけて。
【四精儀】で氷の霧を広げておいて、
足元から凍らせて足止め出来るかやってみようかな。

苦手な存在……
うーん、吸血衝動だけになった自分かな。
そうなった事はないけどね。
まあ、今でも吸血衝動はあるけど、
血を求めて手当たり次第に誰かを襲ったりはした事は無いし。
そんな姿は父様には見せられないから、
そうなる前に自分で何とかするかな。

……だから、目の前の存在も自分で何とかするね。
ついでに、こんなのを見せた黒幕にも
一発入れないと気が済まないかな。
客観的に見られたのには感謝だけどね。

影の月輪で包んで食べてあげるね。
大丈夫。痛くないようにするよ。



●誰かのこと
 現れた人影そのものに、特別の好悪の感情はない。同様に、その写し身の瞳にも感動の色は見受けられず、虚ろに凪いでいる。それは鏡のようによく見慣れた、猟兵自身の姿。
「少し嫌な感じがするね」
 ヴィリヤ・カヤラの前に現れたそれは、望むものではなく忌むものである。直感した彼女は身構え、小さく素早く詠唱を行う。俄かに気温が下がり、ぱきぱきと小さく音を鳴らしながら氷の粒を無数に湛えた霧が辺りを覆い、触れる先の壁や鏡を霜の銀色で包みながら、伝いて敵の足を取る。
 しかし試みは、寸でのところで不調となった。危機を察知したのか、それとも抱えた衝動を抑えることができなくなったためか、その足を縫い付け果せるより先に、虚像のヴィリヤが地を蹴りぱきりと音を立て、オリジナルへと跳び掛かったのだ。現れてすぐとは異なり、爛然たる目と炯然たる牙を剥き、いかにも凶暴な表情を貼り付けたそれは、ヴィリヤにとって忌むべき姿――吸血衝動に支配された、自身の姿であった。

 彼女自身がそうなった事はまだない。勿論種族の生態として全く切り離せる衝動でないのも事実ではあるが、同意の上や倒すべき相手や、いずれにしても彼女の場合は時と場合と相手を選んでの吸血を徹底している。間違っても目の前の偽物のように、自制もできずに誰とも構わず襲い掛かるようなことはあり得ない。
 こんな、醜く弱く情けない姿は、立ち向かうべき宿敵に、胸を張るべき大切な人に、見せたくないし見せられないから。
「……だから、何とかするね」
 実なるヴィリヤの金色の瞳にも、小さな怒色の火が点る。

 その姿がたとえ自身そのものであろうと、特別の好悪の感情はない。だから、殺すにも喰らうにも、特別の抵抗感はない。獣のように向かい来る女を、猟兵は携えた刃で迎え撃つ。開いた口に切先を突き入れ一息に刺し貫き、倒れたその敵を影の月輪で包み込んだ。飽き足らず広がる影は、敵する怪異の本体をも諸共に呑み込んで行き――その最期に気遣いをひとつ。
「大丈夫。痛くないようにするよ」
 虚像の彼女に痛みがあるかは分からないし、あったとしても潰れた脳幹はきっと痛みを伝えはしない。それでもヴィリヤは小さな感謝の気持ちも併せ、淡然なるも心を投げる。綺麗さっぱり失せたる後も、幻なればその衝動は満たされざるが、堪えられぬ程のことではない。
 心を持たぬ怪でも、耐えるを知らぬ獣でもなく、人たる者のその身なれば。

成功 🔵​🔵​🔴​

千頭・定
奥に隠れていたなんて…悪い方です!ぷんぷん。
鏡に住むのはよろしいですが、お友達に危害を及ぼされては困ります。
お仕事を開始しますよう。

欲は優秀な兄達への劣等感から。バカにさせない。いつか必ず足元を掬ってみせます。

兄様たちをキルキルして…私の圧勝!
まずは頭を垂れていただきます。それから、それから。

ー殺人鬼の心が満たされません。
キルキルしても、次のキルキルに欲が出てしまうもので。
そもそも先程の影のように、私が勝てるわけがないんですけどね!
さしずめ今の欲は目の前のキルキルになります。

現の夢はいりません。
海へおかえりくださいませ!



●隠す 隔す
「奥に隠れていたなんて……悪い方です!」
 ぷんぷんと怒りらしい擬音を提げて、千頭・定が可愛らしく怒り顔を異形へと向ける。どうやらやり口の狡さと、友達への危害の可能性がその中軸となっているらしい。いかにも少女らしく、素直で健全な感情と言えよう。ただしそれに起因する行動は、いびつと言えるのかもしれない。手指の鋼糸が閃いた。
「お仕事を開始しますよう」

 而して先制したのはUDCであった。定の得物が照り返したは、その眼窩より差したる光、去りては少女を囲む影。彼女を囚う彼女の欲は。
(兄様たちをキルキルして…私の圧勝!)
その求むるは勝れること、その根幹は劣等感、植えつけたるは優秀な兄たち――囲みて並ぶ影たちは、ちょうどその顔をしていた。
 違うのは、その表情。各々が定に刃を向けつつも、顔には畏怖を貼り付けて、侮りや蔑みは窺えない。いかにも目の前の定が、自身よりも遥かに上位の強敵であるかのように。
「まずは頭を垂れていただきます。それから、それから……」
 願うままに圧倒し、無様に地に伏させ、苦悶の表情を端から並べる。うきうきと高揚した様子で容易く“兄様たち”を捻り、挫き、縊り、それから……否、それだけ。

 溜め息をついた定の前には、変わらず立ったままの、影なる兄たちの姿。
「そもそも先程の影のように、私が勝てるわけがないんですけどね!」
 倒せる兄など、茶番も良い所である。それほどまでに兄様たちは優秀で、それほどまでに少女の挫折は根深いのだ。
 容易く圧倒された誰でもない誰かの幻は知らぬうちに消え失せ、この手に残るのは虚ろな感触のみ。差し出された甘い虚構は、殺人鬼としての少女の心を寸毫たりとて慰めることはなく。

 欲は満たされねば膨れ、膨れ上がれば逃げ場を求める。
「さしずめ今の欲は目の前のキルキルに」
これまた可愛らしい擬音のようなそれは、反して非常に物騒な欲望。対する誰かを、切る。殺す。相手に望むは当然ながら、手応えのない幻影などではなく。
「現の夢はいりません。海へおかえりくださいませ!」
 改め願いに応えた姿、骨の頭のUDCを、切って殺すべく求めつつ、危険を除くべく阻みつつ――定は人体においてあり得ぬほどの瞬発力跳躍力でもって床をひとつ蹴ると、瞬く間もなくその異形へと肉薄し、腕の一本・衣の一片を残さず余さず微塵に裂きて、心を僅かに潤した。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 あるいは男の拳に捉えられ、あるいは少女の刃に貫かれ、そしてあるいは影に呑まれ、細切れに切り裂かれ。誰が最初に虚構を脱し、誰が最後に手応えの薄いUDCを仕留めたのかは定かではない。もしかしたら、鏡の中だかネットワークの世界だかに逃げ去ったのかもしれないが――とりあえずどの猟兵も、敵の気配が消えたのを確認してその場を後にした。

 朝になり、生徒たちが登校してくる。戦闘の痕跡も不穏な気配も一切残らない、至って普通の朝。変哲のない鏡は次々と階段を上る生徒たちを映し、落し物のスマートフォンはいつの間にか職員室に届けられ。そこに生きる彼らにとっては、退屈で、窮屈で、昨日と変わらぬ地続きの、きっと安全な日常。
 その夜と朝の間に、毎日数時間だけ隔絶された異界があったことを。そしてその異界が昨夜を境になくなったことを、きっとほとんどの生徒は知らず、きっとほとんどの生徒が忘れる。

 代わりに。

 同時に現れ、消えるようにいなくなった数人の“何かが見える”転校生。時期を同じくして目撃された刑事。学校裏サイトに残された『おっけー』という送信者不明の書き込み。そして、夜闇に浮かぶ金色の目――様々の噂は照らし合わされ摺り合わされ、加速度的に尾ひれを得て、一つの怪談として完成されていくのは、それから間もなくのことである。

最終結果:成功

完成日:2020年09月29日


挿絵イラスト