平穏を脅かしていい理由
●怨み
サクラミラージュは不死の帝治める『帝都』の元、長き年月に渡り平穏が続く世界である。
そんな幻朧桜舞い散る世界は美しい。
平穏こそが人々の心を癒やす。それは傷つき虐げられた者たちの『過去』より生まれし影朧であっても変わりはない。
それ故に影朧たちは幻朧桜に引き寄せられるようにして集まってくる。そんな影朧は、その荒ぶる魂と肉体を鎮めた後、桜の精の癒やしを受けて『転生』という癒やしを得る。
それこそが影朧救済機関『帝都桜學府』である。
そんな『帝都桜學府』にて日々戦うユーベルコヲド使いたちにとって、今日は忙しない戦いの日々から開放される日。
―――華火大会である。
あちこちの通りには露店が立ち並び、昼間に咲く華火。それは火薬を用いた花火ではない。火薬の代わりに花々の花弁を詰め、青空の下に咲く大輪の花を咲かせる。
それが華火である。
神への感謝、願いと共に空へと舞い上がる花々は、その花弁を散らす。その一片をつかめば、籠めた願いが叶うとか……そんな平和な催しが執り行われる。
それを恨めしげな視線で見つめる者達がいた。
黒い鉄の首輪をつけた人間たち。こんなにも晴れやかな青空の下にあっても尚、昏き表情を覗かせる者達は、大通りを埋め尽くす平穏なる帝都の人々全てに恨みがましい視線を向ける。
「安寧に身を任せ、この歪んだ帝都……大正の世が続く世界をおかしいとも思わない愚民どもに鉄槌を」
ぎり、と歯が鳴る。
それは楽しげな、穏やかな日々に自分が加われないから妬むが故。歯がゆいのだ。自分はどうしてああではないのか。自分はどうして豊かではないのか。自分は、自分は、自分は。
結局の所、自分のことしか考えていない。
故に、その手の内にある弾丸のケースを仄暗い瞳が見つめる。
非人道的なる『影朧兵器』。サクラミラージュにおいて過去、大きな戦いがある度に使用された『グラッジ弾』の弾丸が己の役目を今か今かと待ちわびるように鈍く輝く。
そう、彼等は『幻朧戦線』。
帝都に、平穏に仇為す者たち―――。
●その怨みは君のものか
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
ほほ笑みを浮かべ、頭を下げる。不慣れであった頃の彼女を知る者がいれば、慣れ親しんだ所作だろう。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はサクラミラージュ。幻朧桜舞い散る大正の世続く世界です」
幻朧桜。それはサクラミラージュに咲く桜の名前であり、一年中咲き誇り、帝都の至るところに幻朧桜の花弁を見ることができるだろう。
そんな平穏が続く世界において、幻朧戦線と呼ばれる血気盛ん且つ衝動的に暴力的な者達が存在している。
今回の事件は、そんな『幻朧戦線』が引き起こす事件である。
「『グラッジ弾』と呼ばれる過去の遺物、『影朧兵器』が多数帝都に運び込まれ、その弾丸を使用した事件が引き起こされようとしています。場所は『帝都桜學府』の近くで催されている『華火大会』……その大通りです」
影朧兵器は、その多くが非人道的であるがゆえに今は禁止されているものばかりである。そうした過去の影朧兵器をどこからか持ち出してきたというのだ。
『グラッジ弾』―――その名が示すとおり、放たれた弾丸が人々を傷つけるだけにはとどまらず、周囲に『恨み』を浴びせ、周囲に影朧を呼び寄せる存在となってしまうのだ。
「そんな事になってしまえば、『華火大会』に集まってきた無辜の人々を傷つけるだけではなく、影朧を集め大混乱に陥ってしまうことでしょう。それはなんとしても未然に防がねばなりません」
ナイアルテの危惧は当然のものであった。
だが、その『グラッジ弾』を所持する者たちをどう探すのか。
「幻朧戦線の構成員たちは皆、共通して『黒い鉄の首輪』を身に着けています。群衆に紛れていますので、皆さんはまず現地に赴き、『華火大会』を楽しみつつ、幻朧戦線の構成員を探して下さい」
帝都の日常は平穏そのものである。『華火大会』も、そんな平穏なる催しの一つである。
言葉の響きは同じであっても花火大会ではない。昼に行われ、空に花々を詰め込んだ玉を打ち上げ、炸裂し空に大輪の花模様を浮かべる催しなのだ。
詰め込むのは花々だけではなく、平穏への感謝、願いなどが一緒に籠められている。
「はい……人々が平穏を、平和を願う催しで誰かを傷つける行いを許すわけにはいきません。幸いにまだ『グラッジ弾』はすぐに使用される気配はありません。これを追い、『影朧兵器』による悲劇を未然に防いで頂きたいのです」
そう言ってナイアルテは頭を下げる。
多くの人々が行き交う往来での大捕物。それは言うほど易いものではないだろう。だが、それでもやらなければならない。
平和な世界。確かに影朧による被害や悲劇はあるだろう。けれど、それでも平穏の中に生きる人々の生活を脅かす理由があっていいわけがない。
転移していく猟兵たちを見送り、ナイアルテは微笑む。きっと猟兵たちならばと信じているからだ―――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はサクラミラージュの事件になります。平穏な日常に潜む『幻朧戦線』が持ち込んだ『グラッジ弾』をめぐる戦いとなります。
●第一章
日常です。帝都……帝都桜學府の近くの大通りで催される『華火大会』を満喫しつつ、グラッジ弾を持ち込んだ人物を探しましょう。
幻朧戦線の構成員たちは皆、必ず『黒い鉄の首輪』をつけているので見つけることは容易いでしょう。
今回の催し、『華火大会』は昼間に行われています。花火と違って、昼間、快晴の元に行われる催しですので、暗がりは建物の影程度のものです。
●第二章
冒険です。グラッジ弾を持ち込んだ幻朧戦線の構成員たちは皆さんに見つけられると『幻朧戦線』を名乗り、同志たちと共に『帝都桜學府』の學舎へと逃走します。
近くにあった、というのもありますが、今回『華火大会』のために桜學府もまたユーベルコヲド使いたちが出払っているため、ほとんど人がいないということと、その學舎を影朧を誘引する場所へと汚染することも考えの中にあるようです。
グラッジ弾を使われる前に學舎の中へと侵入した幻朧戦線の構成員たちを捉えなければなりません。
●第三章
集団戦です。みなさんが追い詰めたグラッジ弾を持つ幻朧戦線の構成員たちは、その場でグラッジ弾を自分に使ったり、または近くにいた同志を撃ち抜いたりして、周囲を『恨み』が凝縮した空間へと変え、影朧の群れが出現します。
自害を食い止めたり、同志を撃つのを止めたとしても、どちらにせよ弾丸は発射され、『恨み』でその場は汚染されてしまいます。
汚染された空間に呼び寄せられるようにして出現した影朧たちと繰り広げられる乱戦を制しましょう。
それでは、幻朧桜舞い散るサクラミラージュでの猟兵の戦いを綴る一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『うちあげ華火』
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POW : 露店や屋台を巡って楽しむ
SPD : 舞い散る花弁をたくさん掴まえる
WIZ : 打ち上げ華火に願いを込め祈る
イラスト:シロタマゴ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
平穏なる日常。
それは幻朧桜が一年中舞い散るのと同じように変わらぬ日常のままに続くものであると思うのも無理なからぬことであった。
なぜなら人は平穏の中に心の安らぎを見出す。
それ故に人は平穏が失われる直前まで、この平穏が当たり前のように続いていくものであると信じている。どうしてだかわからないけれど、そう思ってしまうのだ。
失ってから本当に平穏の意味を知る。
失ってから出ないと人は知ることが出来ない。痛みを覚えなければ、人は前に進めない。
「教えてやらなければ。これが偽りの平穏であると。いつだって傷みは、不安は、直ぐ側にあるのだと教えてやらなければ……!」
人々が祈りと願いを籠めた華火が打ち上がる晴天の元、『黒い鉄の首輪』をした者たちが蠢く。
己が平穏でないのは誰のせいでもない。いや、誰かのせいでこうなってしまったと思うのもまた人の常である。
けれど、ぽっかりと空いてしまった、穿たれてしまった穴は……塞がなければならない。そうしないといつまでたっても心の平穏は訪れず、その穴はいつしか、ささくれて他者を傷つける。
「偽りの平穏に死を―――」
幻朧戦線の構成員たちは、その腕の中に影朧兵器『グラッジ弾』を抱えて、平温なる日常の中を泳ぐように進む。
それを打ち上がる華火が咲かさせる大輪の花だけが見下ろしていた―――。
カイ・オー
華火とは面白いね。世の中が平和で人生に余裕があれば、人間色々楽しい事を思い付くもんだ。
…いや、平和なだけでもないか。影朧っていう脅威に対抗する為の危機管理でもあるんだな、平穏を維持するのは。
その辺を理解しないで平穏を乱そうとする連中を捕まえるのが今回の仕事。しっかり稼がせて貰おうか。
あからさまに見回してたら警戒される。華火を楽しむ風を装おう。
屋台を見て回り、適当に飲み食いしながら舞い落ちる花弁をつかまえる。楽しげに視線をあちこちに向けながら黒い首輪の男を探す。
見つけたら、注視しないよう視界の端に捉え、適度な距離を保ちつつ動向を探る。
あいつらも素直に楽しめばいいだろうに。人生、拗らせると損だね。
夜の帳が降りた空に咲くのが花火なのだとすれば、このサクラミラージュで行われる晴天の元に咲く大輪の花は即ち、華火。
玉に籠められたのは神への感謝と祈り。そして願いだ。花々が詰め込まれた玉が晴天で炸裂すれば、ひらひらと様々な花の花弁が空より舞い落ちる。
その光景は幻朧桜が一年中咲き乱れるサクラミラージュにおいても、その桜の花弁に勝るとも劣らない優美なる光景となって人々の視界を楽しませたことだろう。
大通りは人々の往来でごった返している。それでも、この雑踏の中に『幻朧戦線』と呼ばれる平穏の世を見出そうと企む者達が潜んでいる。
この優美でありながらも、どこか優しさに溢れた催しを台無しにしようとする『幻朧戦線』の構成員たちが持つ『グラッジ弾』の炸裂だけはどうあっても防がねばならない。
そんな『華火大会』が行われている『桜學府』近くの大通りで、空を見上げる赤い髪の青年の姿があった。
カイ・オー(ハードレッド・f13806)は、空に咲く大輪の花々を見て、その心を楽しませていた一人だった。
「華火とは面白いね。世の中が平和で人生に余裕があれば、人間色々楽しい事を思いつくもんだ」
バーチャルキャラクターであるカイにとって、それは好ましいものであったことだろう。いつの世にも娯楽というものは必要であり、人心が乱れていては娯楽も生まれにくい。そういった意味では、サクラミラージュの大正の世が続く世界というのは、様々な娯楽が生まれていくには適した土壌であったのかも知れない。
「……いや、平和なだけでもないか」
そう、サクラミラージュには影朧という弱いオブリビオンが存在する。
その脅威を管理、対抗するための危機管理として、このような催しがあるのもうなずける。理と情、その二つを備えなければ影朧を鎮め、救済することはできようはずもない。
だからこそ、カイは許せない。
あの晴天に咲くあの大輪の花々は、人々の祈りだ。穏やかでありますようにと、自分だけではない誰かの心も穏やかであるようにと願う人々の想いが咲かせた華だ。
それを理解しないままに平穏を見出そうとする連中―――『幻朧戦線』を捕まえるのが、今回カイが請け負った仕事である。
タダ働きが多い故に、自身が営む探偵事務所は常に火の車なのだ。これは平穏以前の問題だとカイは頭を振る。
「いいさ、しっかり稼がせてもらおうか」
どうしたものかと思いつつも、視線を軽く巡らせる。ぱっと見た範囲にそれらしき者は居ない。
だが、それ以上あからさまな視線を周囲に向けては、カイ自身が目立ってしまう。それでは本末転倒である。
それ故にカイは少ない身銭を切りながら、屋台を見て回ったり、時折食事を楽しんだりする。
サクラミラージュの食べ物は文化が花開いた世界が故に、見た目も様々なものが多い。カイの鼻先を掠めた華火の花弁を一片掴む。
「―――願い、祈り、か。平穏を願うのなら、それに応えるのが俺の仕事だからな」
ちらり、とカイの視界に入り込む黒い色。
黒い鉄の首輪。それこそが、幻朧戦線の構成員の証。だが、その視界に入り込んだ黒い鉄の首輪に視線を向けない。
不躾な視線は、こちらの思惑を気取られる。
自棄になってここでグラッジ弾を放たれても困る。ここは泳がせてみるのも手であろう。カイはそっと自然に自分の歩く動線をずらし、視界に捉えた構成員の後を追う。
決して近づきすぎず、けれど遠ざかりすぎない距離。それこそが彼が探偵業を営むだけの技量を持っている証である。気取られぬよう、しっかりと尾行を続ける。
やはり、目的地は『帝都桜學府』の學舎だ。構成員の一人が歩く動線を見据えればカイにとっては予測など簡単だった。
「……あいつらも素直に楽しめばいいだろうに。人生こじらせると損だね」
まったく、とカイは嘆息する。
人の平穏を踏みにじる連中の考えることがわからない。誰かの大切なものを壊してまでの価値が、この平穏の崩れ去った先にあるのか。
その答えを聞くのは、まだ。
カイはゆっくりと、けれど確実に構成員の一人の後を置い続けるのだった―――。
成功
🔵🔵🔴
アレクサンドル・バジル
花火じゃなくて華火か。おもしれ―ことを考えるが、どんな感じに見えるのかね? 楽しみだ。
で、『幻朧戦線』だったか。夏の盛りに『黒い鉄の首輪』ってマジかよ。引くわ……
華火を楽しみながらぶらついて『幻朧戦線』を見つけたら、そいつが視界の外に出ない程度の距離を保ちながら、やっぱり華火を楽しみます。
屋台も見て回り、何かネタになるものがあれば購入。
邪魔にならないように『無限収納』にぽいと。
華火の綺麗な快晴の日に辛気臭い顔して何が楽しーのかね。
ああ、楽しくないから楽しんでる人間が許せないのか……嫌だねぇ。
アドリブ歓迎です。
「花火じゃなくて華火か。おもしれーこと考える」
そう言って、アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)はサクラミラージュ世界に降り立ち、件の『帝都桜學府』付近の大通りへと繰り出す。
すでに通りには人がごった返していて、UDCアースなどで見受けられる縁日のようなお祭りと同じ雰囲気だった。
なるほど、と得心がいく。言わば、サクラミラージュにおける祭り事なのだ。それを思えばアレクサンドルの心は踊る。これだけ平穏な世界もそう多くはない。
猟兵たちが赴く世界はいつだって戦いの種に満ち溢れている。
ここサクラミラージュも例外ではないが。比較的穏やかな文化花開く大正の世は、珍しい部類に入るだろう。
幻朧桜の花弁が舞い散る中、晴天を見上げる。
花火、と聞けば大抵は夜空に咲く火薬が見せる花のことを思い浮かべるだろう。けれど、華火大会はそうではない。
玉の中に花々と神への感謝と祈り、そして願いを籠めて空へと打ち上げる。アレクサンドルが顔を上げた瞬間、空に炸裂音が響く。
「お―――」
彼の視線の先にあったのは、晴天の青空に咲く色とりどりの花々が紡ぎ出す大輪の花。ひらひらと花弁が舞い落ちてくる光景は確かに絶景であった。
なるほど、華火と銘打つだけはある。
夜空に咲く火薬の華も見事であるが、昼間に見る花々が見せる光景もまた洒落ている。
平穏な世が続けば、こんなふうに花が人々の心を癒やすこともあるのだとアレクサンドルはしきりにうなずきながら華火大会を楽しむ。
しかし、とアレクサンドルは思うのだ。
「夏の盛りに『黒い鉄の首輪』ってマジかよ。引くわ……」
残暑と言えども今だ日差しは厳しいものがある。そんな最中に日の光を吸収しやすい、しかも素材は鉄。ある意味焼きごてのようになってしまうのではないかとアレクサンドルは想像しただけで辟易してしまう。
『幻朧戦線』の構成員の目印がそれであるがゆえに、アレクサンドルや他の猟兵も目星を付けることは容易いだろう。
そういった意味では助かるのだが、それでもやっぱり引いてしまう。
「わけわからんこと考える連中の考えることはよくわからんもんだよな」
考えても詮無きこと。そう思ってアレクサンドルは露店立ち並ぶ通りを歩く。その視界は常にあらゆる場所を探る瞳であった。
彼の視線から逃れられる者はいない。
それがわかりやすい目印をつけているのであればなおさらだ。
ちらりと見える黒色。即座にその視線を向ける。
「―――……あれか」
その金色の瞳の先には雑踏に紛れるようにして『桜學府』へと歩いていく男の姿があった。その首元には襟に隠すようにした黒い鉄の首輪があったのだ。
視界に収めたまま、アレクサンドルは後を追う。
といっても、そう即座に行動を起こすわけではない。こんな大勢の人々が行き交う場所で事を起こすにはあまりにもリスキーである。
「華火の綺麗な快晴の日に辛気臭い顔して何が楽しーのかね……おっと、店主、それ一つくれ」
幻朧戦線の構成員たちが何を考えて、平穏な日常を嫌うのかはわからない。理解できるとも思えない。
けれど、誰かの日常を、平穏を壊そうとするのであれば、それは止めなければならない。そんなことを思いながらアレクサンドルは露店で気になったものを次々と購入する。
戦いの前哨ではあるが、こんなにも心地よい天気と華々しい華火が打ち上がる日に楽しまないのは人生損していると言っても過言ではない。
食べ物や、置物……物珍しげなタペストリーやら何やら興味の赴くままにアレクサンドルは楽しむ。
そこで気がつくのだ。
平穏を嫌わない己と、平穏を嫌う『幻朧戦線』の構成員との違い。それは……。
「ああ、楽しくないから楽しんでる人間が許せないのか」
自分が楽しめないのは、自分が楽しみの環に加われないのは、それはきっと他人のせいだと思う、その心の闇がそうさせるのだ。
それを思えば、アレクサンドルは思わず言葉に出してしまう。
「……嫌だねぇ」
誰かが楽しんでいることが、自分を害することだと思うようになってしまっては、せっかくの人生も台無しである。
だれかを羨むことも、だれかを嫉むことも、どれもが自分を助けることには何一つならない。
アレクサンドルは、それでも誰かの平穏を護るために、幻朧戦線の構成員の後を付かず離れず負い続けるのだった―――。
成功
🔵🔵🔴
蓮見・津奈子
花火でなく華火。話には聞いていましたが、こうして見に来るのは初めてで…
本分は任務であるとはいえ、楽しみなものです。
『七変化』のオーラを調整し【目立たない】ような雰囲気を形成。曲がりなりにもスタアと呼ばれる身、気付かれれば無用の混乱を生じましょうから、気配は可能な限り薄く。
何処か腰を落ち着けられる場所――できれば、行き交う人々を見渡せるような小高い場所にて腰を下ろし、華火を楽しむとします。
…こうして、ゆるりと催しを楽しめる日々の、なんと尊いことか。
その尊さを知るは大事、けれども態々平穏を破壊してまで知らしめるべき理由はありません。
かの組織の企て、何としても阻止しなくては、ですね。
華やかであるということは、人の目を惹きつける力を持つということである。
それ故にサクラミラージュにおいて、スタァの存在はそれだけで力を持つ。人は美しいものや正しいものが好きだ。
そうありたいと願う。そうであって欲しいと思う。それはもしかしたのならば、身勝手な願いであったのかも知れない。
けれど、今、サクラミラージュの晴天の空に咲く大輪の華美の美しさは地上に咲く一輪の華よりも人の目を僅かな時間、刹那の間に惹きつけていた。
蓮見・津奈子(真世エムブリヲ・f29141)もまた地上に咲く一輪の華のような女性であったことだろう。
彼女自身がサクラミラージュにおいてスタアダムへと駆け上がり、一時はラヂオやキネマ……様々なメディアに引っ張りだこな存在であった。
そんな彼女が華火大会という人混みの多い場所に現れれば、それは相当な混乱を招くことは想像に難くない。いや、実際そうなってしまう可能性はあまりにも高かった。
「花火でなく華火。話には聞いていましたが……」
彼女の視線が大通りの人々と同じように晴天に咲く花々が舞い散る光景に釘付けになっている。
そう、以前の彼女であれば、きっと華火を見物するどころではなかったことだろう。皆我先にと彼女に殺到し、相当な騒ぎになるはずだった。けれど、今や彼女は猟兵である。
時と場合に応じて与える印象を変えるオーラ……七変化の如き目まぐるしく変わるカレイドスコープのように津奈子は、今やただの一般人のような印象しか人々に与えていなかった。
本来の任務……幻朧戦線が持ち込んだグラッジ弾を所有する構成員を、この往来の中から見つけ出すことを忘れているわけではないのだけれど、彼女にとっては初めての催しだ。
少しばかり見惚れてしまっても誰が咎めることだろう。
「……すごい」
ぽつりと声が漏れ出る。それは晴天の空に咲く花びらの美しさや、人々の願いや祈りが込められたものが、このような形で空を舞っていることに対して漏れ出た感嘆であった。
見上げていた津奈子の肩にぶつかる者がいる。そう、人の往来が多ければ、彼女のように立ち止まって見上げる者は障害物にしか過ぎない。
今の彼女はスタァのオーラをひた隠しにした存在。ぶつかっても彼女に詫びる者がいないが、それもまた新鮮なものであったのかもしれない。
微笑んで津奈子は何処か腰を落ち着けられる場所……できれば、行き交う人々を見渡せるような小高い場所に腰を下ろそうと周囲を見回す。
「あちらに確か神社がありましたね……」
少しばかり往来から離れてしまうが、神社の階段を上がれば、このひとの行き交う道を見下ろすことはできる。
雑踏を抜け、津奈子は神社の階段を上り、背後へと振り返る。
人の数が多い。誰ひとりとして同じ顔をした者がいない。背格好だってそうであるし、男性ばかりではなければ女性ばかりでもない。若いばかりでもなければ、老いたものばかりでもない。
「……こうして、ゆるりと催しを楽しめる日々の、なんと尊いことか……」
人の往来を見る。
それは彼女にとって久方ぶりの穏やかなる時間であったのかも知れない。けれど、それは何も往来を見て穏やかな気持ちになるためだけではない。
彼女の視界にちらつく『黒い鉄の首輪』を身に着けた存在。それこそが、彼女が探していた幻朧戦線の構成員たちの証。
彼女の緑の瞳が見開かれる。
見つけた、とも思ったし、僅かに惜しいとも思った。
この穏やかな時間も、空に舞う華火の美しさとも今は別れなければならない。彼女にとって優先されるべきは、この平穏な日常を過ごす人々である。
そのための力が彼女には今宿っている。自然と足が駆け出していた。
「この尊さを知るは大事、けれども態々平穏を破壊してまで知らしめるべき理由はありません―――」
人の求めるものは様々である。
人と人とはどうしたって違う人間であることは間違いない。理解しきれるものでもないのかもしれない。
けれど、その心の根底にある者は同じであると信じたい。
だからこそ、津奈子は駆ける。
かの組織、幻朧戦線の企てをなんとしても阻止しなくてはならない。その想いを胸に彼女は神社の階段を駆け下り、構成員たちの後を追うのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
エリー・マイヤー
文化があり、キレイな物を楽しむだけの余裕がある。
平和というのはいいことですね。
私の世界も、これくらい平和なら良かったんですが。
…ま、言っても仕方ない事ですね。
さて、黒い鉄の首輪の人を探さないとですね。
屋台の焼きそばやタコ焼きを楽しみつつ、周囲の様子を確認しましょう。
特に注意すべき人物は…
・人の流れに逆らうもの
・一人で行動するもの
・華火を見ないもの
・表情が硬いもの
といったところですか。
髪や被り物などで首元が隠れている場合は、
【念動力】でそれとなくズラして確認し、すぐに元に戻します。
見つけたら少し離れたところから追跡ですね。
しかし、この食料を持ち帰ることができれば
…いえ、今は仕事に集中しましょう。
平和の意味を知るためには、平和ではないことを知らなければならない。
それはある意味で正しいことなのだろう。
その平和の価値を、意味を、本当に理解しているのかと安寧に浸かる者たちは理解しない。そうであるからこそ、幻朧戦線の構成員たちは荒んだ心を、ささくれた心のままに他者を傷つける。
その傷を持って平和の価値を知れと。
けれど、エリー・マイヤー(被造物・f29376)にとって、その理屈はあまりにも許容できるものではなかったのかもしれない。
晴天の空。空より舞い散る花の花弁。行き交う人々の活気のある声。露店に立ち並ぶ見たこともないような品々。食料は潤沢で、あまりにの情報の大洪水にめまいがしてしまいそうにエリーは大通りの中の人混みを泳ぐように歩く。
口に加えた煙草が紫煙を立ち上らせる。その紫煙ですら青空は吸い込んでいき、彼女の目の前に一片の花弁が舞い落ちる。
「文化があり、キレイな物を楽しむだけの余裕がある。平和というのは良いことですね」
彼女もまた平和の価値を知るものであったことだろう。
自身の出身世界も、これくらいに平和であったのならばと考えてしまうのは詮無きことであった。
平和というものを知らぬ者が、平和の意味を解することはできない。常に争いが日常にある者にとって平和とは力ある言葉ではなく、ただの言葉にしか過ぎない。
けれど、エリーは猟兵である。
数多の世界を渡り歩くことができる存在。生命の埒外にある世界に選ばれた戦士である。
「さて、黒い鉄の首輪の人を探さないとですね……」
彼女の視線が大通りの往来を見回す。こんな場所に紛れて悪しき心でもって何かを成そうとするのであれば、どのような行動を取るだろうか。
手にした屋台の焼きそばとたこ焼きの芳しい香りが彼女の思考を僅かに鈍らせる。けれど、それも僅かなものだ。支障がでるわけもない。
そう、こんな時何か犯行を行う人物とは……人の流れに逆らう者、一人で行動する者、華火を見上げないものであり、表情が硬いもの。
そんな者など、この往来の中、数多く居るものではない。この場にいる人々の顔は皆、楽しい催事に夢中であり、皆心から平穏な日常を送っている者たちばかりだ。
「木を隠すには森の中……そんなところに一人だけ暗い顔をしているのであれば、目立つに決まっています」
エリーの瞳が捉える。
皆が晴天の空を見上げ、舞い散る花弁に手を伸ばす中、一人だけ昏い顔のまま地面を見つめたまま『桜學府』の學舎へと向かう者。襟元で首元が隠れているが、彼女には意味のないものだ。
「……確認だけはしておきましょう」
念動力が放たれ、襟元をずらす。気づかれない程度に、慎重に、繊細に。その念動の指先が襟元をずらした先にあったのは、見間違えることのない黒い鉄の首輪。幻朧戦線の構成員たちが必ず身につけているもの。
それを確認し、エリーは後をつけていく。おっと、忘れるといけない、とたこ焼きを一つ口の中に放り込む。
ソースの香ばしい匂い、ネギの香り。そして襲い来る熱々。思わず指に挟んだタバコを取り落しそうになる。
「……あふ。ん、しかし……この食料を持ち帰ることができれば……いえ、今は仕事に集中しましょう」
それは彼女の世界にとって、一つであっても貴重と思える食料。それが簡単に手に入る世界。持ち帰れるのならば持ち帰りたい。
けれど、それはどうしようもないことだ。今は諦め、為すべきことを為す為にエリーは往来を進む。
せめて、この平穏な世界は、己の世界と同じようにさせてはならない。
平穏ではない世界を知る者であるからこそ、平穏は破壊してはならないと知る。壊れてしまってからは、もう元には戻せないから。
似たような何かには戻せるかも知れないけれど、焦がれるような、あの日常は絶対に戻らないと知っているからこそ、何もかもが手遅れになる前に、と―――。
大成功
🔵🔵🔵
ユーイ・コスモナッツ
さっそく市中見回りに出ましょう
幻朧戦線の目的からして、
人の集まる場所のほうが遭遇率は高いでしょうから、
できるだけ賑やかなほうへ
屋台や店先を物色するふりをして、
人波をさっと見渡す
黒い鉄の首輪をみつけたら、
静かに近づきます
目印があるとはいえ、
こうも容易く発見できたということは、
構成員は相当な人数がいるとみて良いでしょう
この場でひっ捕らえたい気持ちを抑え、
【矮星の最大公約数】を使用
彼らの鞄や服のポケットに潜り込みます
いずれ、構成員同士で接触したり、
合流して情報交換などする時も訪れるでしょう
その時がくるまで、息を潜めて待機します……
人々が平穏を甘受できるのは、それを護る者がいるからこそである。
どんな時代、どんな世界においても、平穏の護り手の存在はあったことだろう。騎士を志す者にとって、それはある意味で当然の責務であったのかもしれない。
例えそれが銀河の海を征く時代の人間たちであったとしても、騎士とはかくあるべしと連綿と紡がれてきたはずだ。
晴天の空を彩る大輪の花々の花弁が舞い散る大通り。人が混雑し、ごった返す中にユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)の姿はあった。
さっそく市中見廻りにと出かけたのはよかったのだが、想像以上に人が多い。こんなにも多くの人々が平穏な日々を謳歌しているのは、彼女にとって喜ばしいことであっただろう。
「幻朧戦線の目的からして、人の集まる場所のほうが遭遇率は高いでしょうって思っていましたが……」
その大通りの人の多いことと言ったらユーイの想像を遥かに越えていた。
けれど、それでも彼女は周囲をさっと見回す。時折屋台や露店の店先を物色するふりをして、彼女の視線は幻朧戦線の構成員の証である『黒い鉄の首輪』を探す。
「―――!」
彼女の視界にちらりと映る黒い何か。首元を隠すように襟を立てた男性の姿が目に入る。花弁舞い散る風を受けて、一瞬であったが、襟元が乱れて、その首につけられた『黒い鉄の首輪』の存在をユーイは見逃さなかった。
静かに店先から離れて、その男性の後を追う。運良く見つけられことは僥倖であったけれど、ユーイは怪訝に思う。
ざっと見回しただけ、人混みの中を構成員たちは行くであろうという目星は合ったとは言え、こうも容易く発見できてしまうということは―――。
「相当な人数がいると見て良いでしょう……」
本当なら、この場でひっ捕らえてやりたいという気持ちがユーイの中からふつふつと湧き上がってくる。
敢えて泳がせないといけないということが歯がゆいと思ってしまうのだろう。それは彼女の心の中にある騎士精神であるとか、正義の心があるからこそだ。
「一寸の騎士にも五分の魂! ですっ」
ユーベルコード、矮星の最大公約数(ドワーフスターシルエット)を発動させ、全長3センチほどの小人へと変じたユーイは追いかけた男性のコートのポケットの中へと潜り込む。
ぐっとこらえたのは、ここで一人を捉えて騒ぎを起こせば、この華火大会に潜んでいる幻朧戦線の構成員たちの大半を逃してしまうか、もしくは自棄になって、この場……つまりは人でごった返す雑踏の中でグラッジ弾を使用されてしまうのを防ぐためだ。
時に騎士とは忍耐を強いられる者でもある。
それにいずれ構成員同士で接触したり、合流して情報交換をするときも訪れるかもしれない。
その時がくればユーイは即座に対応できる。
そのためのユーベルコードだ。コートのポケットの中は暑いことこの上ないけれど、これは季節が悪かったと諦めるほか無い。
「うう……我慢、我慢ですっ」
ユーイは思い返す。
大通りの人々の顔を。晴天に浮かぶ大輪の花々。その舞い落ちる花弁に手を伸ばし、平穏への感謝と祈りを込める人々の顔。
それは彼女が騎士を志す以上、必ず護り通さなければならないもの。
成すべきことを為すために。ユーイは今はただ、じっと堪えるようにして暑苦しさに耐えるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
エルヴィン・シュミット
【アドリブ歓迎】
華火大会、か…
空に大輪の華を咲かせ、平穏への願いを込める…
そんな催しを叩き壊そうとは、幻朧戦線の連中は相変わらず粗暴な連中だな。
奴らの考えてる事など知ったことじゃないが、罪もない人間に暴力を振るうなど認めるわけには行かん。
さて、奴らの特徴はハッキリしているのだからその一点にだけ集中してればすぐ見つかるだろう。
【ECLIPSE】の【変装】で帝都の一般市民になりすまし、更に【迷彩】と【目立たない】を全力で活用すれば街往く人々をじっくり観察しても簡単には見つからんだろう。
とは言え集中しすぎるのも損だ、今のうちに屋台で何かつまみにでもなりそうなものの一つでも買っておこうかな…。
華火大会とは、晴天のもとに行われる帝都―――サクラミラージュにおける独特な催しであったことだろう。
アックス&ウィザーズ世界を出身とするエルヴィン・シュミット(竜の聖騎士・f25530)にとって、あまり馴染みのないものであったかも知れない。彼にとって、華火に籠められた感謝と祈り、そして願いは純然たる平穏への架け橋にほかならない。
吸い込まれそうな気がするほど真っ黒な外套を羽織り、自身の姿を帝都に住まう人々と同じような姿格好へと変貌させる。
「空に大輪の華を咲かせ、平穏への願いを込める……」
何処からどう見ても帝都の一般的な青年にしか見えなくなったエルヴィンが小さくつぶやく。
良い催しであると心から思う。アックス&ウィザーズ世界においても、似たような平穏への願いを籠めた催しはあるかもしれない。
けれど、今ここでエルヴィンが感じている平穏とはまた違った意味合いを持つかも知れなかった。ここ、サクラミラージュは様々な文化が花開き、芽吹く黎明期の如き騒々しさがある。
一度、この世界に立ち入ってみれば、よくわかる。アックス&ウィザーズとはまた違った問題を抱えていたとしても、この世界は概ね平和である。
「平穏、か……そんな催しを叩き壊そうとは、幻朧戦線の連中は相変わらず粗暴な連中だな」
それがエルヴィンの幻朧戦線に対する印象であった。
この平穏の意味を取り違えた者たちの集まり。それが幻朧戦線である。誰も彼もが傷つき、平和を勝ち取ろうと戦った経験がないが故に、その尊さを知らずに、己が甘受するものを一時の癇癪で壊そうとするものたち。
「まるで癇癪持ちの子供の集まりだな。奴らの考えている事など知ったことじゃない」
だが、その癇癪が罪もない人間に暴力を振るうというのであれば話は別である。聖騎士として、他者を護ることを誓ったエルヴィンにとって、それは見過ごすことの出来ないものであった。
例え、己が斜に構えた面倒くさがりを装っていたとしても、立ち向かわねばならないのだ。
「おっと……集中しすぎるのも損だな。今のうちに屋台で何かつまみにでもなりそうなものの一つでも買っておこうかな……」
気負いすぎるのも良くはない。人の往来は多い故に、幻朧戦線の構成員たちが身につけている『黒い鉄の首輪』は目立ちやすいものだ。
そこに一点集中すれば、見逃すこともあるまい。そう思い、屋台のきゅうりの一本漬けや、焼き鳥などの匂いに胃袋を刺激された瞬間、エルヴィンの腋を抜けていく者の姿が視界の端に映った。
黒い鉄の首輪。
振り返る。そこにあった背中は、人混みに紛れるようにして大通りを『桜學府』の學舎へと抜けるように歩いていく。
「ああ、もう! こういう時のタイミングまで悪いとはな!」
店主に支払いをすませ、お釣りを! という声を背にエルヴィンは駆け出す。
釣り銭と構成員。
どちらを天秤にかけるかまでもない。今は追いかけなければならない。欠けだdすエルヴィンが振り返り、店主に手をふる。
「ああ、釣りはいい。今夜の飲み代にでもしてくれ」
そんなふうに気前の良いことを言ってから、自分が事件解決後に飲み屋の賭け事に興じようとしていて余分に持ってきた金銭のことを思い出して、僅かに後悔してしまう。
けれど、そういう楽しみも、僅かな後悔だって平穏な日常あってのことだろう。
まあ、いいさ、と頭を振ってエルヴィンは構成員の背中を追うように駆け出す。釣り銭を受け取る時間を与えなかったあいつらが悪い。
今日はとことんやろう。
そんなことを思いながら、エルヴィンは平穏を護るために大通りを疾駆するのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイムス・ドール
綿あめくださいなー
んんー、美味しい!一度食べてみたかったんだー。
あと食べてみたいのはー…カステラかな?
周囲を見渡し、屋台を見渡しながら情報収集。
お仕事もしなきゃねぇ。
『鏖殺鬼紙』ベビーカステラの包み紙の破片に変装させた紙片を飛ばし、
黒い首輪の人のポケットとかの隙間に滑り込ませる。
紙片のある位置はなんとなく分かるから、これで追跡。
ここでやるのはぁ…うーん、周りを巻き込んじゃうかな。
あっちが始める分には別に良いんだけど、…どっかで良い感じに襲えるといいな…
そんな事を考えながら、空に浮かぶ華火を眺める。
平穏かぁ…緩急あったほうが、楽しいもんねぇ……
サクラミラージュに咲く花は幻朧桜だけではない。
一年中咲き乱れている故に幻朧桜とは帝都の人々にとっては見慣れた日常の一部であった。けれど、今晴天の空に炸裂音と共に大輪の花を咲かせるように舞い散る花々の花弁は、彼等の平穏に対する感謝や祈り、そして願いが籠められていた。
そんな花弁が降りしきる大通りは人々でごった返している。
彼等の殆どは通りに面した露店を覗き込み、物珍しいものや、こういうときでしか食べることのできない食べ物を思い思いに楽しんでいた。
ジェイムス・ドール(愉快な仲間の殺人鬼・f20949)もその一人だった。
「綿あめくださいなー」
はいよ! と露店の主から綿あめを受け取る。白くてふわふわで雲のようで、まるで噛みごたえのないものであるけれど、甘くて不思議と頬がほころぶような気がした。
お気に入りの帽子に付かないように気をつけながら、雲を剥ぐようにしてジェイムスは綿あめを口の中に溶かしては飲み込んでいく。甘味が彼女の味覚を楽しませる。楽しいという感情が後から溢れてくる。
「んんー、美味しい! 一度食べてみたかったんだー」
初めての経験。
こんなふうに露店が立ち並ぶ光景というのも、もしかしたら初めてだったのかもしれない。道行く人々の顔がどれもこれも笑顔に近いものであるのもまた面白い。
「あと食べてみたいのはー……」
手にまだ食べかけの綿あめがあるというのに、ジェイムスは通りを見回す。どうせなら、催事を楽しみたい。そんなふうに思った時、彼女が食べてみたいと思っていたものが頭の中に浮かんできたのだ。
白い綿菓子に、黄色い……。
「ああ、カステラかな? だよね、これ丸いけれどカステラだよね?」
ベビーカステラを指差し、店主とジェイムスは会話をしながら周囲を見回す。ジェイムスの本当の目的は華火大会を楽しむだけではない。
この大通りに潜み、誰かの平穏を壊そうとする幻朧戦線の構成員たちを見つけなければならない。
彼等の抱える影朧兵器『グラッジ弾』はこんなところで炸裂させてしまっては、大量の影朧を誘引する『恨み』を撒き散らすことになってしまうからだ。
ベビーカステラを頬張りながら、周囲を見回す。
こんなにも笑顔に溢れている大通りの中、うつむくようにしながら歩く者がいる。それは悪目立ちするようなものであった。
見れば首元に黒い鉄の首輪。あれこそが幻朧戦線の構成員の証。
「お仕事もしなきゃねぇ」
ユーベルコード、鏖殺鬼紙(オウサツキシ)によって自身の体の一部をベビーカステラの包み紙の破片に変装させた紙片を見つけた構成員のポケットの隙間に潜り込ませる。
「ん、これなら紙片のある壱はなんとなくわかるからね」
無理に追跡して尾行されていると悟られてしまうこともない。だが、すぐさま構成員を捕らえるのは得策ではないだろう。
なにせ人通りが多い。
ジェイムスは考える。即座に捕まえてしまうのは可能だけれど、その際に起こる周囲への被害。それを考えると今すぐにどうこうするのは、どうしたって難しい。
他の構成員と合流した時が狙い時かも知れない。
「あっちが始める分には別に良いんだけど……どっかで良い感じに襲えない……よねぇ」
難しい。難しいことばかりだなぁ、とジェイムスは空を見上げる。
そこにあったのは晴天の空に炸裂しては大輪の花を咲かせる華火。花弁がひらりひらりと空から舞い落ちて、ジェイムスの帽子に落ちる。
「平穏かぁ……緩急あったほうが、楽しいもんねぇ……」
まっ平らなものよりも、多少凸凹していたほうが良い。そんなふうに考えながら、ジェイムスは、己の身体が変じた紙片の反応の後を追うようにしながら、ベビーカステラを指で弾いて口で受け止め、ハレの日の食べ物を満喫するのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
故無・屍
…祭りの喧騒に乗じて仕掛けるか。単純だが、賢い手立てだ。
奴らの行動の是非も、抱く想いもどうでもいい。
俺は俺の仕事をするだけだ。
祭りの中で不自然に苛立って、空の華火には見上げて喜ぶこともしねェ。
…そういう奴を見ればいい。
UCの使用、目立たないの技能も使用にて
指定された特徴を持った相手を見つけ次第追跡する
周囲の客に紛れ、不自然になり過ぎないように
……平和の願いを込めた花弁、か。
平和ってのはどれだけ綺麗事を並べた所で、その影にも過去にも争いと死が積み重なってるモンだ。
人は何時だって死骸の上を歩いてる。今この時さえだ。
――だが、そんな感傷は『今』を生きる奴に知らしめるほどの必要性も重要性も無ェことだ。
「……祭りの喧騒に乗じて仕掛けるか。単純だが、賢い手立てだ」
幻朧戦線の企みをそう評価したのは故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)だった。顔に傷跡残る眼光の鋭き男性。『故無き屍』と嘯くように名乗る彼にとって、幻朧戦線の構成員たちの行動の是非や抱く想い、理念などどうでもよかった。
ただ、そこにあったのは、己の仕事を全うするだけであるという意志だけだった。
空を見上げると晴天そのものであった。
夏の季節であっても残暑が続く空は青く、雲が高い。眩しそうに見上げた先にあるのは、空で炸裂する大輪の花々。その花弁が大通りに舞い落ちてる。
大通りを行き交う人々の笑顔ですら眩しいと感じてしまう。平穏という言葉が確かに似合う。サクラミラージュは大正の世が続く世界だ。
そんな世界にあっては、様々文化や芸術が花開き、騒々しくも華美なる光景を広げている。
「……幻朧戦線か。見つけるのは容易い」
そう、こんな時、他の人間たちが楽しんでいる時、平穏に鬱屈たる思いを描く者たちにとって、それがどれだけ眩しいものであるかわかっている。
その笑顔のまばゆさも、歓声も、何もかもが鬱陶しいと思ってしまう。怒りがこみ上げてくるのだ。
どうして自分はああではないのかと。どうして自分はあの輪の中に入れないだろうと、誰のせいでもない怒りに身体を焦がして、うつむくのだ。
そんな人間を探せばいい。
「―――いた……仕事といくか」
ユーベルコード、スキルマスター・ダーティが発動する。己の技能を高めるユーベルコードによって、屍の視界に映った黒い鉄の首輪をした幻朧戦線の構成員たちの姿を追う。
周囲の人々の影に紛れ、足音を立てずに追跡する。不自然すぎない程度ではあったものの、屍の尾行は完璧なものであった。
気配を感じさせない追跡者に感づくことができるものなど、オブリビオンや猟兵でなければ無理な話であった。
ましてや相手は一般人に毛が生えた程度の者。感づかれる理由を探すほうが難しい。
そんな屍の頬を撫でるのは、空から舞い落ちてきた色とりどりの花弁。
華火の花弁なのだろう。
「……平和の願いを込めた花弁、か」
その花弁を手に取る資格もないというかのように、花弁を躱すように尾行を続ける。胸に去来するものは一体如何なる感情であったことだろうか。
彼にとって平和とはどれだけの綺麗事が積み上げられ、並べ立てられたとしても、その影にも過去にも争いと死が積み重なっているものだ。
この平穏の日常であせも、いつだって死骸の上を歩くようなものである。たった今歩くこの道の下にだって。
それは真実であり、真理である。
疑いようのないことだ。そうして人の歴史は連綿と紡がれてきたのだ。どんな文化にも、どんな技術にも血の匂いのしないところなどない。
そうした血と汗が滲み出るようなものが結実を果たしたからこその、平穏。
「―――だが、そんな感傷は『今』を生きる奴らに知らしめるほどの必要性も、重要性も無ェことだ」
そう。過去の遺物は過去の遺物のままにしておけばいい。掘り返して持ち出したところで、それは異物にしかならない。
幻朧戦線がやろうとしていることは、ほじくり返さなくてもいい傷を徒に痛めつけるだけの行為。
例えそれが、どんなに大義名分を得ていたとしても、許されることではない。
止める。止めなければならない。
その意志と共に屍は平穏な日常を振り切るように、大通りを縫うようにして構成員の背中を追うのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
今回は華火大会を楽しみながら、目標を補足・追跡すればいいのね。
得意分野だわ。
「式神使い」で「偵察」用の黒鴉召喚。数はなるべく多く。
華火に巻き込まれないようにだけは気をつけつつ、群衆の中に混じった幻朧戦線構成員を補足し監視する。
彼らがアクションを起こすまでは、アヤメと一緒に花火大会を楽しみましょう。
お祭の風情を楽しもうと、二人とも浴衣姿。あたしは紫の蘭、アヤメは白菖蒲。もちろん、その下には荒事になった時のための動きやすい服を着てる。いざとなれば浴衣は脱ぎ捨てるけど、それはまだ先の話。
目標の動きがあるまで、じっくりお祭を楽しみましょ。この世界の屋台には何があるのかしら? 取りあえずは腹拵えからね。
晴天の空を彩る花弁の数々。
それはサクラミラージュにおいて華火と呼ばれる催しであった。同じ言葉の響きの花火が夜空を彩る火薬の華なのだとすれば、この華火は晴天の青空を彩る花弁が織りなす感謝と祈り、そして願いの華を咲かせる。
大通りは人でごった返している。
何処を見ても笑顔ばかりだ。けれど、そんな中にも不穏なる空気を纏う者が道をゆく。黒い鉄の首輪を身に着け、己達の抱える鬱屈たる想いを発露させようと腕の中に忍ばせた影朧兵器『グラッジ弾』を放つ機会を今か今かと待ち望んでいたのだ。
そんな彼等を上空から追い続ける一羽の鴉の姿があった。
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)のユーベルコード、黒鴉召喚(コクアショウカン)によって召喚されたカラスに似た鳥形の式神。
補足した幻朧戦線の構成員を常に監視、追い続けているのだ。
「この調子だとやっぱり狙いは『桜學府』ね。彼等が何かしでかすまでは、ゆっくりしましょ」
そういってゆかりは隣を歩く式神のアヤメと華火の舞い散る大通りを歩く。
久方ぶりの日常、その平穏な日々を楽しむ位は罰は当たるまい。そんなふうに思いながら、二人共浴衣姿で歩いてるのだ。
紫の蘭が足を運ぶ度に布地の上で揺れるように踊る。逆にアヤメの浴衣は白い菖蒲。互いに紫と白。
こういったハレの日であるが故にお互いの気持ちは高揚してしまうのも無理なからぬことだ。
それに晴天の下を浴衣で歩くというのも悪くはない。露店の明りで照らされる浴衣もいいが、太陽の光の下にある浴衣もいい。
「キレイですね―――……」
果たしてそれは、空に広がる大輪の華か、それとも隣に立つ華に言ったのか。
どっちに言ったの?
そう訪ねてもアヤメは微笑むばかりだった。後で絶対に聞き出してやろうとゆかりは思いながら、屋台や催しを楽しむ。
「下に荒事になったときのことを考えて動きやすい服を着てるけど、まだまだ先のことになりそうね。今のうちに腹ごしらえしておきましょうか」
「そうですね。あ、ラムネード。冷たい飲み物もあるんですね。あっちにもこっちにも。がっつり食べちゃいます? それとも軽く済ませておきます?」
そんなふうに互いに互いの楽しみが重なっていく。
空を飛び、幻朧戦線の構成員を追う黒鴉の視界は常にゆかりと共有されているため、見逃すこともないのだが、これはうっかり楽しみすぎてしまいそうになる。
それほどまでに華火大会の大通りは活気に溢れているのだ。
どこもかしこも笑顔ばかり。誰もが平穏なる日常を楽しんでいる。この平穏が崩れ去ってしまうかも知れないという不安に怯えることもない。
けれど、幻朧戦線は、それこそが平穏の価値を下げていると言う。曰く、偽りの平穏であると。
それは思い上がりであろう。
「何事も平穏無事、これが一番なのにね」
互いに腕を組みながら、大通りを歩く幸せ。誰かと隣をゆっくりと歩むという時間。そのどれもが平穏の中でなければできないことだ。
この平穏さえも脅かされるというのであれば、ゆかりは容赦しないだろう。
誰かの平穏が脅かされる時、いつだって次は自分の平穏であるのかもしれないのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『學舎事変』
|
POW : 広い構内を目のつく限り駆けずり回る
SPD : 隠された部屋や場所、見逃しがちな場所も見逃さない
WIZ : まずは考え、動機や原因、目的を探り、迎え撃つ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「―――何故だ、何故我々の企みが割れてしまったのだ!」
幻朧戦線の構成員たちが焦ったように走り続ける。影朧兵器である『グラッジ弾』を持ち、何箇所もルートを分けて『帝都桜學府』へとたどり着いたのはよかった。
けれど、自分たちがまさかすでに補足され尾行されているとは夢にも思わなかったのだろう。
彼等を追う影が徐々に迫ってきている。
今だ『グラッジ弾』は放たれていない。もっと効率よく、もっと『帝都桜學府』の中心で。もっと、もっと。
もっと被害を甚大にしなければならない。
「だが、我々は幻朧戦線! あのような市井のユーベルコヲド使いに引けを取らぬほど訓練を詰んできた! 各員奮戦せよ! 我らはこれより『帝都桜學府』の中心部にて『グラッジ弾』を使用する!」
駆け込んだ『帝都桜學府』の學舎。その中を一斉に駆ける構成員たち。
華火大会の日であったことが、不幸でもあったし、幸いでもあった。
學舎の中に人がほぼいない。
これならば、猟兵たちも周囲の人的被害にまで意識を裂かなくてもいい。ともかく、迅速にグラッジ弾を使われる前に幻朧戦線の構成員たちを捕らえなければならない。
超弩級戦力である猟兵たちだけがサクラミラージュの平穏を護っているわけではない。
それはこの『帝都桜學府』にてユーベルコヲド使いとして活躍する、學生たちもまた同じなのだ。
その学び舎を『恨み』で汚染させるわけにはいかない―――!
村崎・ゆかり
お楽しみの時間はお終いね。これからはシリアスで行くわよ。
ばさっと浴衣を脱ぎ捨て、動きやすい普段着に。
最短で追いつくため、飛鉢法で街路の上を一気に通過する。
敵はもう敷地内か。
オブリビオンじゃないから、生け捕り必須かしらね。
まあ、殺さないように気をつけましょう。アヤメもよろしく。
アヤメは先行して攪乱を。その後からあたしが鉢に乗って突撃する。
威力を上げた薙刀と、「全力魔法」の「衝撃波」で幻朧戦線の構成員を片付けていくわ。
急所は外すように、手足の一本や二本なら大丈夫でしょ。
この世界を乱すつもりなら痛い目を見るって、理解してもらわないとね。
制圧した人数が増えてきたら、アヤメに連中を運んでもらいましょ。
こんなにも空は青いのに『帝都桜學府』の學舎は今、招かれざる者たちの侵入を許していた。
幻朧戦線の構成員たちは、各々が影朧兵器である『グラッジ弾』を持ち、學舎の中心部を目指して走っている。
帝都のユーベルコヲド使いたちが学び、影朧に対する管理、対抗を志す學舎が『グラッジ弾』の『恨み』によって汚染されてしまえば、それは即ちサクラミラージュにおける影朧に対する対処が遅れてしまうことにほかならない。
「我々は、仮初の平穏、偽りの平穏を打ち破り、人々に真なる平和とは何かを問わねばならない! 止まるな! 走れ!」
幻朧戦線の構成員たちが口々に血気盛んなる衝動のままに駆け出す。
彼等の言葉はあまりにも過激そのものだった。自分たちの抱える衝動こそが正しいと信じて疑わない。
誰も止める者はいなかったのだろうか。いや、いたとしても彼等はきっと妄執とも言える思想に染まりきって止まらなかったことだろう。
その黒い鉄の首輪が、それを示すように鈍く輝く。
「お楽しみの時間はおしまいね。これからはシリアスで行くわよ」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)と式神アヤメが着ていた浴衣を脱ぎ去り、動きやすい普段着に早着替えを果たし、市中を駆け抜ける。
「ノウマク サマンタ ブッダナーム バーヤベ スヴァーハー。風天よ! 天吹き渡る其の風の効験を、ひととき我に貸し与え給え! 疾っ!」
ユーベルコード、飛鉢法(ヒハツホウ)によって華麗な戦巫女の盛装に変身したゆかりが鉄の大鉢に乗り込み、人でごった返す街路を一気に空から駆け抜ける。
すでに幻朧戦線の構成員たちは『帝都桜學府』の學舎の中へと入り込んでいる。
「何人かもうすでに學舎の中に侵入しているみたいです。生け捕りにしますか?」
アヤメの言葉にゆかりは頷く。
幻朧戦線の構成員と言えども、彼らは一般人だ。なるべく殺さずに生け捕りにして突き出したいと考えるのは当然の成り行きであったのかもしれない。
「まあ、殺さないように気をつけましょう。アヤメ、よろしくね」
先行するアヤメに撹乱の指示を出し、その後からゆかりは鉄鉢に乗って突撃する。
狭い學舎の中を鉄鉢が飛び、先回るりするように宿舎の裏口から入り込む。
すでに中ではアヤメが學舎の中心へいたろうとする構成員たちを足止めしている。
「なら、背後はがら空きでしょう!」
突入したゆかりの目の前にはアヤメに撹乱されて、背後が隙だらけの構成員たちの姿がった。
その背後から威力の上がった薙刀を振るうことによって放たれる衝撃波が構成員たちを強かに打ち据える。
「急所は外してあげる! 手足の一本二本は覚悟してもらうわ!」
この世界、サクラミラージュの平穏を乱すつもりであるのならば、痛い目を見る。それを思い知ってもらわないとならない。
二度と誰かの平穏を汚そうと、壊そうとするのならば、いつだって自分たちが現れるのだと言うようにゆかりの放った衝撃波に吹き飛ばされて、學舎の廊下に転がるようにして倒れ伏す構成員たち。
「此処は制圧完了っと―――アヤメ、ふんじばって頂戴。今は気絶してるみたいだけれど、下手に動かれたら厄介だから」
そういってゆかりは式神のアヤメに指示をだし、幻朧戦線の構成員たちを後からやってくる猟兵達の邪魔にならぬように運び出していく。
ここまでは順調に事が運んでいる。
予知の範囲が正しいのであれば、これからが本題だ。そのためには些か気合を入れ直す必要があるだろう。
まだほんのりと華火大会の露店に香っていた甘い香りが、ゆかりの鼻腔を掠めた―――。
大成功
🔵🔵🔵
ユーイ・コスモナッツ
構成員たちが集まったところで、
ユーベルコードを解除
もとの大きさに戻ります
志なき徒党は世を乱すのみ!
幻朧桜になりかわり、
ここに正義の鉄槌をくだしますっ
……とはいえまあ、斬るわけにもいきませんから、
抜剣はせず、鞘に納めたままで打ち据えます
数を頼りに取り囲んできたら、
改めて【矮星の最大公約数】を使用
するりと包囲網を潜り抜けたなら、
再びユーベルコードを解く
『どこを見ているんです? 私はこっちですよ!』
といったところで得意の跳び蹴り、
ユーイキーック!!
そのようにして構成員達の戦闘力を奪うことに成功したら、
用意しておいた縄で縛りあげてしまいましょう
幻朧戦線めしとったり!
ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)がユーベルコードによって忍び込んだ幻朧戦線の構成員のコートのポケットの外が騒々しくなる。
それは彼女が潜り込んだ構成員が他の幻朧戦線の者たちと合流したことを示すには十分な状況であった。
「我々はこれより、偽りの平穏をもたらし続ける『帝都桜學府』のユーベルコヲド使いを育成する學舎へと侵入する。中心部にたどり着いたら各員は、グラッジ弾を使用すること!」
やはり、それが狙いであるかとユーイはポケットの中で嘆息する。
人々の安寧を、平穏を見出そうとする輩。それを見過ごすことも、放置しておくこともできない。どれだけの理由があろうとも、どれだけ偽りの平穏だと言われたのだとしても、ユーイは知っている。
華火大会の大通りで見た、人々の笑顔を。
あれがもしも、偽りの平穏によって出た笑顔なのだとしても、あの笑顔の理由だけはどこにも間違いなんて無い。偽りなんてないのだから。
「志なき徒党は世を乱すのみ!」
小さな体になっていたユーイの身体がポケットの外に飛び出し、声が響き渡る。
「―――! 何奴!?」
ユーベルコードを解除し、ユーイの姿が元の身長へと戻り、その白い装束を翻し、宙に舞う。
幻朧戦線の構成員たちからすれば、突如として現れたユーイの姿に驚愕するしかない。けれど、彼らもまた訓練された構成員たちである。
即座にユーベルコードによって自分たちが尾行されていたのだと悟ったのだ。
「幻朧桜になりかわり、ここに正義の鉄槌を下しますっ」
鞘に収められたままの嘶く天馬の紋章が刻まれた白銀の剣を掲げ、ユーイは幻朧戦線の構成員たちと対峙する。
抜刀していないのは、彼女なりの気遣いであった。
剥き身の剣で彼等を打ちすえれば、斬りつけることになる。そうなれば、一般人である構成員たちの生命を奪うことは容易いものだ。
それ故にユーイは鞘に剣を収めたまま戦う。
「市井のユーベルコヲド使いか! だが、子供一人で我々に敵うと思うな! 囲め!」
ユーイの周囲を幻朧戦線の構成員たちが囲う。
それは彼女を今だ學府のユーベルコヲド使いとしてしか見ていなかったからだろう。あるいは、見誤ったと言ってもいい。
「一寸の騎士にも五分の魂! ですっ」
一瞬でユーイの姿が消える。
いや、消えたのではない。ユーベルコード、矮星の最大公約数(ドワーフスターシルエット)によって、その姿を全長3センチにまで縮小し、構成員たちの目を眩ませたのだ。
彼女を囲おうとしていた構成員たちの腋を抜け、包囲の外でユーベルコードを解除すれば、一瞬で瞬間移動したかのように包囲の外側からユーイの声が響く。
「何処を見ているんです? 私はこっちですよ!」
その声と共に勢いよくユーイの飛び蹴りが幻朧戦線の構成員の背中に繰り出される。彼女の得意な飛び蹴りを受けて、つんのめるように囲いの中に倒れ込む構成員を尻目に再び……。
「ユーイキーック!!」
再び放たれる飛び蹴り。ユーベルコードで小さくなり、姿をくらませ、解除と同時に繰り出される飛び蹴りはまたたく間に構成員達を學舎の床に叩きつける。
「ただのユーベルコヲド使いだと思って油断しましたね!」
そんなユーイを見て、一人の構成員が呻くようにつぶやく。
「ま、まさか……貴様、超弩級戦力の……ッ!」
そう、ユーイたち猟兵はただのユーベルコヲド使いではない。超弩級戦力。それがこの世界での猟兵たちを示す言葉である。
ユーイをただの女学生と見誤ったことが、幻朧戦線の構成員たちの誤算だった。
彼等を縛り上げ、ユーイは高らかに宣言するのだ。
「幻朧戦線めしとったり!」
ユーイの朗らかでありながら、高らかな勝利宣言は學舎に響き渡るのだった―――!
成功
🔵🔵🔴
エリー・マイヤー
もぐもぐ(おや、気づかれましたか。)
もぐもぐ(私の完璧とは程遠い尾行に気づくとは…まぁ当然の結果ですね。)
もぐもぐ(では、グラッジ弾とやらを使われる前に)
ごっくん
…掴まえさせてもらうとしましょうか。
さて、そういうことで学舎に正面から乗り込ませて頂きますね。
微弱な【念動力】をソナー代わりに撒いてサーチしつつ、
敵と遭遇したらまとめて【TK-G】で掴んで捕獲します。
そのまま振り回してシェイクしたり、
人同士をぶつけたりして戦意を喪失させましょう。
で、抵抗しなくなった人達を改めて【TK-G】で掴んで連行ですね。
そういえば、これ最大何トンまで掴めるんでしたっけ。
…まぁ、人間なら何人来ても余裕でしょうか。
それは一瞬の視線の交錯であった。
幻朧戦線の構成員はどうにもおかしいと思っていたのだ。大通りから『帝都桜學府』へと至る道すがら、ずっとその耳に響くのは人混みから放たれる歓声ではなく、何かこう、美味しそうに食べ物を食べる幸せな音ばかりだった。
一定の距離を保ちつつ、常に食欲を煽るような声。
「貴様―――なにも……」
振り返る幻朧戦線の構成員。すでに目的地である『帝都桜學府』も直ぐ側であったということもあるのだが、それ以上に常に耳に届けられる美味しそうな音に辛抱たまらなくなっていたというのもまた事実。
これから崇高なる使命が待っているというのに、こんな音を聞かされるのはある意味暴力よりも耐え難かったのだ。
「―――もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ」
幻朧戦線の構成員が振り返った視線の先にあったのは、エリー・マイヤー(被造物・f29376)の姿であった。
青い瞳と髪、落ち着き払った美貌は目をみはる者があったかもしれない。けれど、その美貌も、もぐもぐと何か言っているであろう声もわからないほどに頬張られた、たこ焼きや焼きそばが全て台無しにする。
特別に意訳するのであれば―――。
「おや、気が付かれましたか。私の完璧とは程遠い尾行に気がつくとは……まぁ当然の結果ですね。では、グラッジ弾とやらを使われる前に」
という言葉を発しようとしていたのだ。
すべてもぐもぐという音にかき消されてしまったが。ごくりと飲み込みエリーは変わらぬ表情のままに幻朧戦線の構成員を見据える。
「―――……掴まえせてもらうとしましょうか」
そこからはエリーの独壇場であった。
彼女が追っていた幻朧戦線の構成員を掴み上げる不可視なる念動力の手、そのままに『帝都桜學府』へと正面から飛び込む。
そのまま念動力で確保した幻朧戦線の構成員のままにエリーは學舎を駆け抜ける。すでに念動力を周囲に撒いてソナーのような要領で反響してくる反応を掴んでは、一気にユーベルコード、TK-G(テレキネシス・グラブ)によって、周囲を念動力で包、体全体を掴んで持ち上げるのだ。
「き、貴様、學府のユーベルコヲド使いか―――ああああ!?」
構成員が捕まり、声をあげようとした瞬間エリーの操る念動力の手が掴んだ構成員を上下に激しく揺さぶる。
それは絶叫マシンもかくやというべき圧倒的な衝撃でもって、彼等の意識を混濁させる。次々とエリーの圧倒的な力の前に構成員たちは念動力によって捕縛されていく。
その騒ぎを聞きつけた構成員たちが次々と彼女の元に集まってくるのだが、エリーにとってそれはまったくもって脅威にはならなかった。
「ほら、掴まえましたよ」
操る念動力の力は凄まじい。姿を見せた瞬間から、幻朧戦線の構成員たちは目に見えぬ力に捕らえられ、互いに互いの額をぶつけ合わされたり、揺さぶられたりと散々な目にあって戦意を喪失せしめられる。
その手際な見事というほかない。
一切の犠牲もなく、かと言って目立った外傷も与えずに無力化しているエリーは、幻朧戦線の構成員をしても異常なる力に映ったに違いない。
「ま、まさか……超弩級戦力が常駐していた、とは……」
がくりと気を失う構成員たちのつぶやきを耳にしてエリーは首をかしげる。
見つけた端から構成員たちをのしてきて、念動力で捕縛しているのだが……。
「これ最大何トンまでつかめるんでしたっけ」
己の念動力の限界を把握していなかったことを失念していた。だがまあ、まだまだ余裕そうだ。タバコを加え、火を付ける余裕があるのだから。
くわえタバコをしたままエリーはつぶやく。まだまだ幻朧戦線の構成員は學舎に侵入している。
だが、何も心配はいらない。なぜなら―――。
「……まぁ、人間なら何人来ても余裕でしょうか」
ここには超弩級戦力のエリーがいるのだから―――!
大成功
🔵🔵🔵
故無・屍
…フン、賢いってのは撤回だ。
遮蔽も障害物も十分にある学内に
大声を出しながら逃げ込むかよ。
アイテム:闇夜の衣を纏い、
UCの使用、目立たない、偵察の技能も併用、細かい場所も逃すことなく探索。
気配を殺し構成員を補足し、
暗殺、早業の技能にて敵を殺すことなく無力化。
可能であればあえて音を立てて複数人を誘き出し、
集まった所を上記技能にて音を立てることなく一網打尽に。
…即座に斬るのは御法度って指定だったな。
無力化させた以上はこいつらに構うのは時間の無駄だ。
とっとと次に向かうとするか。
…俺の邪魔になるから片付ける、それだけだ。
平穏な世界を守りたいとなんざ思っちゃいねェ。
……そんな資格は、俺にはもう無ェんだよ。
サクラミラージュにおいて、ユーベルコヲド使いとは影朧に対抗し管理するために必要な存在である。
超常の力を振るう姿は、それを持たぬ者にとっては憧れのものであり、また畏怖の対象ともなるだろう。故に、幻朧戦線は、その学び舎である『帝都桜學府』を『グラッジ弾』によって『恨み』で汚染し、己達の活動を邪魔されないようにと画策したのだ。
「我々の目的はすでに達成されたと言ってもいい! ユーベルコヲド使い何するものぞ! 同志諸君! 此処に我らの存在を知らしめ、この偽りの平穏齎す學舎を恨みの惨禍に包み込ませるのだ!」
幻朧戦線の構成員たちが一様にうなずき、學舎へと駆け込んでいく。
「……フン、賢いってのは撤回だ」
その様子を闇夜の如き衣を纏った故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は見ていた。
一度は賢しい者たちであると幻朧戦線に評を下したのだが、それは彼にとって過ちであることを認めなければならなかった。
合理的であった大通りからの、催事で警備が薄くなる日を狙っての計画の敢行。それを評価したのだが、屍にとって、今の彼等は恐れるものでもなければ、賢しい者達でもなかった。
遮蔽も障害物も十分にある学内。人が出払っているからといって、大声を出しながら逃げ込むというのは、あまりにも杜撰な手であるとしか思えなかった。
すでにユーベルコード、スキルマスター・ダーティは発動され、今の屍は學舎の中の日差しを受けて色濃く映される影の中に潜む者であった。
「……仕事と行くか」
物音を立てずに、それこそ世界から己の気配を切り取ったかのような流れるような一連の動作で影から這い出た屍が幻朧戦線の構成員の背中から一気に黒影が構成員の首を締め、意識を落とす。
ごとり、とその身体を床に落とすのは暗殺の生業としては間違いであったかもしれない。
けれど、屍にとって、この音は撒き餌にすぎないのだ。
順調に事が運んでいる時にこそ、人は些細な異音にも気を配る。彼等の背後から何かが落とされたような音が響けばなおさらである。
「……今、なにか音が……」
それが幻朧戦線の構成員が発した最後の言葉だった。不審な物音に気が付き、彼等は愚直にも後戻りしてきたのだ。
そのまま進んでいればいいものを、と屍は影の中で嘆息する。その早業は圧倒的な速度で持って、集まってきた構成員たちの意識を影によって絞め落とし、気絶させる。
「……即座に斬るのはご法度って指定だったな」
無力化された構成員たちを見下ろし、構うこと無く屍は學舎の中を駆け出す。時間が惜しいのはこちらも同じだ。
すぐさまに次の目標へと走る。
人はその姿を見れば、闇夜に紛れて帝都の平穏を護る正義の人に視えたかも知れない。そうであると行動が示していたのかもしれない。
けれど、それは屍にとっては結果論でしかない。
今の彼にとって、幻朧戦線の構成員は邪魔者以外の何者でもなかった。
「……俺の邪魔になるから片付ける、それだけだ」
次々と無力化されていく構成員たち。ごとり、ごとりと、失神した構成員たちが立てる音に幻朧戦線は恐怖のどん底……パニックに陥らされてしまう。
「平穏な世界を守りたいとなんざ思っちゃいねェ」
それはどんなに願われたとしても、詮無きことであった。今の彼にはその願いを受け止めるだけの、許容できるだけのものがない。
それ故に彼はうそぶいたのだ。『故無き屍』と。そう名乗ることにした己自身に―――。
「……そんな資格は、俺にはもう無ェんだよ」
その独白は、晴天の空から燦々と照らし出す太陽の光が生み出す色濃い影の中に吸い込まれて消えていった―――。
成功
🔵🔵🔴
ジェイムス・ドール
さぁて、楽しいお仕事だッと、あ、でも殺しちゃダメかなぁ…?
でも、無力化はしないとだっけ?となるとぉ…
怪力で校内をダッシュ。継戦能力、スタミナが続く限り走り回るよ!
情報収集、見切り、周囲を素早く確認して、動く者を見つけるよ。
みぃつけた!
無数の、小さな丸鋸刃を出して、念動力で浮遊、
逃げる背や隠れている相手に向けて投擲。
サクっと刺して『永続戦線』爆破!吹き飛ばして気絶、鎖で捕獲。
大丈夫、一瞬すっごく痛いだけ。これならちょっと雑に扱っても死なないよね!じゃ、出発!アハハハハハ!!
鎖でつないだ相手を怪力で引き摺り倒しながら、駆ける。
なお肉体疲労は超再生力で回復。
幻朧戦線の構成員のポケットの中のベビーカステラを包んでいた紙片が僅かに動く。
それはジェイムス・ドール(愉快な仲間の殺人鬼・f20949)がユーベルコードによって変じさせた身体の一部である。僅かに動くのは、その大元であるジェイムスが近くにやってきているということを示していた。
すでに『帝都桜學府』の學舎には幻朧戦線の構成員たちが侵入を果たしている。思った以上に侵入の進捗が速くないのは、猟兵たちが迅速に行動しているからだろう。
「さぁて、楽しいお仕事だッと、あ、でも殺しちゃダメかなぁ……?」
ジェイムスは猟兵であり、これから捕縛しなければならない幻朧戦線の構成員は一般人だ。オブリビオンであるのならばいざしらず、オブリビオンではない者を徒に殺すわけにはいかない。
ただ、彼女自身も自覚があるのだが、加減が効かないかもしれないという懸念はあった。殺すつもりがなくても、勢い余って死に至らしめてしまう可能性は大いにあったのだ。
「殺しちゃダメ。でも、無力化はしないとだっけ? となるとぉ……」
ジェイムスが帽子を片手で抑え、學舎の中を疾駆する。
それは彼女が愉快な仲間である以上に生命の埒外にある存在である猟兵故に、無限とも思えるような体力を存分に発揮し、圧倒的な速度で持って一気に自身の変じた紙片をポケットの中に持つ構成員の元へと駆けつける。
「みぃつけた!」
一瞬で距離を詰める。歯を剥くような笑顔のままジェイムスが無数の小さな丸鋸刃を身体のあちこちから出現させる。
それは彼女の持つ隠し丸鋸刃。念動力でコントロールされ浮遊する丸鋸刃をまるでチャクラムのように指先で輪っかの中に指を入れて投げつける。
「な、何者だ―――ガッ!?」
うろたえる構成員に投げつけられた丸鋸刃が逃げようとする構成員の背中を切り裂く。血が噴き出し、傷みに絶叫する声が學舎に響き渡り、ジェイムスの存在が學舎内に侵入した幻朧戦線の構成員たちに知れ渡ってしまうが、ジェイムスにとってはどちらでもよかった。
「大丈夫、一瞬すっごく痛いだけ」
永続戦線(エイゾクセンセン)―――それがジェイムスの発動させたユーベルコードの名である。己の身体より出現する回転丸鋸刃が当たった対象を爆破し、ジェイムスと丸鋸刃が当たった対象を腐りつなぐのだ。
しかし、それでは確実に構成員は死亡してしまう。だというのに、今だ鎖に繋がれた幻朧戦線の構成員は息絶えていない。それどころか、鎖に繋がれているだけで目立った外傷はないのだ。
それこそが彼女のユーベルコードの力である。鎖で繋がれた相手に超再生力を与える。つまるところ、その名の示す通り、ジェイムスがユーベルコードを解除するまで、永続的に戦い続けることのできるユーベルコードなのである。
構成員は己が死んでいないことに訝しむ。
「これならちょっと雑に扱っても死なないよね! じゃ、出発! アハハハハハ!!」
ジェイムスが鎖に繋がれたままの構成員を引きずり回しながら、學舎を駆けずり回る。構成員を見つけては回転丸鋸刃を投げつけ、爆破し鎖につなぐ。そしてまた駆ける。繋ぐ。走る。繋ぐ。走る。繋ぐ。走る―――。
歪なブライダルカーの如き、空き缶をつなげたような姿のまま疾走するジェイムスの笑い声が學舎中に響き渡る。
「楽しいねぇ! 楽しいねぇ! ブライダルカーごっこだねぇ! 楽しいよね。アハハハハ!!」
ユーベルコードの力で幻朧戦線の構成員たちは死ぬことはない。
けれど、その拷問の如き引きずり回すジェイムスは止まらない。絶え間ない傷みが彼等を襲う。
誰かの平穏を壊そうとした報いであろうか。
きっとジェイムスは止まらないだろう。なぜなら、これが彼女にとっての無力化であるからだ。戦う意志も、抵抗する意志も失わせる。
そのためには断続的な傷みが必要であるからだ。故にジェイムスは加減を知らない。加減を知らないがゆえに、取り返しの付かないことにならぬようにと考えたのだが、結果として構成員たちにとっては、最悪の結果として振るわれてしまうのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
エルヴィン・シュミット
奴らが動き出した!
こちらが付けているのに感づいたか!
奴らの持つ兵器の性質上、どこか開けた場所に集まろうとするはず!
ちょっと気が引けるが、【BLADE RUNNER】の【ダッシュ】と【地形利用】で学舎の中を走って【第六感】と【野生の感】も活用しながら奴らを探しだすぞ!
【フレースヴェルグ】には【偵察】を頼み人影を探させる!
奴らを見つけ次第勢いを乗せた【スライディング】と【踏みつけ】で思い切り蹴り飛ばしてやる!
命までは取る気はないが、大怪我は避けられんぜ!
奴らが集まるような場所が見つかればいいが、まずは一人ずつでも片付けて被害を減らすべきだ!
それはまるで斎の声のようであった。
幻朧戦線の構成員たちが口々に唱える言葉は、エルヴィン・シュミット(竜の聖騎士・f25530)にとってはどれも感化されるようなものではなかった。
口々に言うは『偽りの平穏』。
華火が舞い散る晴天の下に咲く、あの人々の笑顔を見ても尚、あれが偽りだ言う彼等の言葉にエルヴィンは耳を貸す気にはなれなかった。
ともあれ、幻朧戦線の構成員たちは動き出した。
「こちらが尾行けているのに感づいたか!」
エルヴィンたち猟兵の備考はどれも、そこまで悪手というわけではなかった。
ただ、エルヴィンにとっては、最速最善を心がけ用としたがゆえに、『帝都桜學府』の學舎に幻朧戦線の構成員が侵入したことは、遅きに失する。
「奴らの持つ兵器……グラッジ弾の性質上、どこか開けた場所に集まろうとするはず!」
銀の刃の意匠が光るインラインスケートを装着した足が大地を蹴る。いや、まるで剃刀の如き鋭き滑走でもって、學舎の中を駆け抜ける。
幻朧戦線の構成員たちが、もしも、影朧兵器であるグラッジ弾を最大の効率で持って使用するとするのならば、學舎の中央、それこそ中庭のような場所で使うであろうことは容易に想像ができた。
ならば、エルヴィンが為すべきことは決まっている。
「ちょっと気が引けるが―――!」
學舎の壁や床、天井を蹴って地面を蹴って走ることでしか進めない構成員たちの裏をかく。エルヴィンの履くインラインスケート、BLADE RUNNERの力を持ってすれば、走る路面は床だけではない。
壁が、天井が、あらゆる場所がエルヴィンの滑走路となって先をゆく幻朧戦線を追い詰めるのだ。
「フレースヴェルグ、人影を探せ!」
彼の持つ竜騎士の槍が変じ、小型のドラゴンが先行する。
構成員の数が多いのであれば、二手に別れた方が良いと判断したのだ。駆け抜ける學舎の中、フレースヴェルグの鳴き声が聞こえた瞬間、エルヴィンは踵を返す。
床や天井にインラインスケートの走った痕が刻まれてしまうが、緊急事態故に見逃して欲しい。そんなふうに思いながら、フレースヴェルグの鳴き声が聞こえた方角へと駆け抜け、ついに捉えた幻朧戦線の構成員へとスライディングのように滑走したエルヴィンの足払いが炸裂する。
「がっ、何―――!?」
背後からの強襲。それも速度をつけた足払いによって幻朧戦線の構成員が瞬く間に転倒させられる。
残るは3人。即座にエルヴィンは手で地面を打って天井へと跳ね上がる。インラインスケートの車輪が天井に触れた瞬間、學舎の中はすでにエルヴィンの檻のようなものであった。
上下左右凄まじき速度で跳ねるようにして、エルヴィンの蹴りが幻朧戦線の構成員たちに放たれる。
「生命までは取る気はないが、大怪我は避けられんぜ!」
瞬く間に昏倒する構成員たち。
それを見下ろし、エルヴィンはフレースヴェルグの鳴き声が告げる次なる目標へと駆け出す。
「一網打尽にしている時間はないか……まずは一人ずつでも片付けて被害を減らすべきだ!」
疾駆するエルヴィンの影がまるで残像にように學舎の中を駆け抜ける。
一発もグラッジ弾を使わせてはならない。
學舎を汚染されてしまっては、『帝都桜學府』の機能もどうなってしまうかわからない。影朧を誘引するのは『恨み』の感情だ。
もっと抜本的な解決が必要なのかも知れない。けれど、今はできることを一つ一つ積み上げていかなければならない。
それがどんなに途方も無い路であったとしても、足を踏み出せば必ず一歩前進する。
一足飛びに何事も為すことはできない。まずは一人ずつ。そう考えたエルヴィンの行動は確かに正しい行いであったのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドル・バジル
『帝都桜學府』の學舎で追いかけっこをして隅に追い詰めます。
どーした、鬼ごっこはもう終わりかい?
相手はしょーもないとは言え、今を生きる人間。
殺すのも生かすのも手間的には大差ないのなら生かすことを選びます。
死なさず後遺症も出ない程度の威力を見切って雷(属性攻撃×マヒ攻撃)を放って麻痺させて無力化。
その後、グラッジ弾を没収しましょう。
攻撃された場合は、避けると学府に損害が出るのでオド(オーラ防御)を纏った手で掴んで防ぎます。
お前らの主義主張に興味はねーよ。そういうのはこの世界の官憲でも裁判所ででも主張しな。
アドリブ歓迎です。
「どーした、鬼ごっこはもう終わりかい?」
飄々とした声色が『帝都桜學府』の學舎の中に響く。
かつん、かつん、と床を叩く靴の音が嫌に響き渡る。それを聞く幻朧戦線の構成員たちの心情は如何なるものであったことだろうか。
アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)は、そんなことに気を留めることなく幻朧戦線の構成員たちを學舎の隅に追い詰めていた。
「な、なぜだ……如何にユーベルコヲド使いと言えど、こんな簡単に我々が追い詰められるなど……!」
幻朧戦線の構成員の一人が呻くように叫ぶ。
それは当然の帰結であったのかもしれない。『帝都桜學府』のユーベルコヲド使いと言えど、ここまで圧倒的な速度で、一般人といはいえど訓練された構成員たちをまるで追い立て漁をするように追い詰めることなどできようはずもない。
それに目の前の男―――アレクサンドルはユーベルコヲドを使った気配すらない。
だというのに、自分たちは追い詰められている。その事実が、幻朧戦線の構成員たちの心を焦り以上の恐怖で染め上げていた。
「しょーもないとは言え、今を生きる人間だからな……」
じり、と一歩を踏み出す。
それは弄ぶための一歩ではなかった。神たる己の身。それが今を生きる人間とどうあがいても埋められない差があることもまた事実。アレクサンドルにとって、人間とはそういうものだ。
殺すも生かすも手間的には大差ないのならば、生かすことを選ぶ。
どちらでもよいのであれば、敢えて奪うこともあるまい。そうアレクサンドルは判断し、あっけらかんと笑いながら電撃を放つ。
次々と倒れていく構成員たち。死なさずに後遺症も出ない程度に出力をしぼった雷の一撃は、アレクサンドルにとっては大した手間でもなかった。
「そ、そんな力を持っていながら、何故、我々の、幻朧戦線の理念に共感しない! 我々の大義を理解できるはずだ! 偽りの平穏が続くなど、停滞でしかないと! 人が弛まず進化し続けるには争いが必須なのだと、何故理解しない!」
幻朧戦線の構成員が叫ぶ。
金切り声を上げて掲げるはグラッジ弾の装填された拳銃。その銃口がアレクサンドルを狙いつけていた。
轟音が響き放たれたグラッジ弾は着弾と同時に『恨み』を周囲に撒き散らす。
アレクサンドルは溜息をつくような素振りさえ見せて、その弾丸を指の間に挟み込むようにして摘み取る。
アレクサンドル自身の魔力……オーラを纏った手がグラッジ弾を掴み受け止める。炸裂はしていない。躱してしまってもよかったのだろうが、それをしてしまえば、學府自体が汚染されてしまう。
そうなっては自分たちが追いかけてきた意味がなくなってしまう。
「お前らの主義主張に興味はねーよ。そういうのは、この世界の官憲でも裁判所でも主張しな」
はぁ、とアレクサンドルはため息を付いて、拳銃の銃身を掴んで握りつぶす。
同時に雷撃が放たれ、最後の一人が気を失うようにして倒れ込んだのを見て、アレクサンドルは、また一つため息をつく。
「どうしてこう、極端なんだろうな。人間ってやつは」
手に残ったグラッジ弾を弄びながら、その弾丸に凝縮された『恨み』の濃さにまた辟易する。
人間の感情の発露というものは、神たる身を持ってしても、時として凄まじき力を発揮する。
皮肉なことに負の感情であればあるほどに、その力は増大し、また人から人へと伝播していく速度もまた早い。
救いようがないと思うだろうか。
否。この場に駆けつけたことこそが、すでにアレクサンドルの答えだ。
救いようがないだとか、そうであるとかではない。華火舞い散る空の元に咲いた笑顔。あれもまた人間の一側面である。
負の側面が大きければ、正の側面もまた大きくなる。
光が強くなれば、闇が濃くなるのと同じように。ただ、それだけのことなのだ。
「さて―――グラッジ弾は回収した。次はどう出る。幻朧戦線」
大成功
🔵🔵🔵
蓮見・津奈子
桜學府の学生さん達はこの世界の今を守り、未来を築く人達。
その学び舎を、過去の怨恨で穢すわけには参りません。
敵が目指す先は中心部。恐らく、この學府で本来ならば一番多く人が行き交うような場所でしょう。
先回りして、敵の行く手を塞ぐ形で立ちはだかります。
七変化のオーラを、今度は【恐怖を与える】形に調整、怯んだ処に発現・奇鬼怪力を発動した状態で接近、掴み上げた人を他の人に投げつけたりして制圧にかかります。
致命傷にならない程度に加減はしますが、骨の一本二本はお覚悟くださいね?
独り善がりな理想は、誰かの犠牲を強いるもの。
私をこんな身体にした人達も、きっとこの人達と同じ――
ユーベルコヲド使い。それはサクラミラージュにおけるオブリビオン……影朧に対抗し、管理するために集った超常の力を扱う者たちである。
彼等は『帝都桜學府』に集い、學舎で学び、影朧による事件や被害を未然に防ごうと活躍する。それは猟兵たちと目的を同じとするが、その力は超弩級戦力と呼ばれる猟兵たちのものとは比べるべくもない。
だが、それでもこの『帝都桜學府』はサクラミラージュにとって重要な場所であるのだ。
「桜學府の学生さん達はこの世界の今を守り、未来を築く人達。その学び舎を、過去の怨恨で汚すわけには参りません」
蓮見・津奈子(真世エムブリヲ・f29141)はすでに學舎の中央、中庭へと降り立っていた。
幻朧戦線が目指すのは中心分。おそらく、この學府で本来ならば一番多く人が行き交う場所。そこを影朧兵器である『グラッジ弾』で汚染してしまえば、撒き散らされた『恨み』に誘引された影朧たちが四方八方に放たれ、溢れかえっては取り返しのつかない事態になってしまう。
それをさせぬと津奈子は先回りしていたのだ。
目の前には幻朧戦線の構成員たち。今、津奈子が身にまとうオーラは七変化の如き多様さを以て、相対するものに恐怖を与える形に調整している。
見目麗しいスタァの彼女が放つ異様なる恐怖。
それは彼女がキネマに出演するほどの演技力を持っているからだとか、そんなことで説明できるものでは到底なかった。
幻朧戦線の構成員とて、一般人程度であるとは言え、訓練されてきた者たちだ。恐怖に対する耐性を持ってはいるのだろう。
「―――ひっ、な、なんだ、あれは……『アレ』はなんなんだ?」
呻く。恐る。それでいい、と津奈子は微笑む。その微笑みはかつての彼女と変わりないものであったはずなのに、どこか底知れぬ深淵を覗いてしまったかのような、底知れぬ恐ろしさが、構成員たちの身体を竦めさせる。
「致命傷にならない程度に加減はしますが、骨の一本二本はお覚悟くださいね?」
嫋やかな微笑み。
見惚れるような微笑。芳しき花の香りが漂う淑女であるというのに、一歩を踏み出される度にどうしようもない恐怖が構成員たちを襲う。一歩踏み出す津奈子に対して、一歩も動けない構成員たち。
「捕まえましたよ……」
それはあまりにもあっさりとした挙動であった。
津奈子の白魚のように細い指が構成員の襟を掴み、次の瞬間凄まじき力で持って別の構成員へと投げつけられる。
その膂力は淑女が持つには到底ありえぬ力。それこそが、彼女の持つユーベルコード、発現・奇鬼怪力(インボヲク・ストレンヂパワア)。
次々と投げられ、叩きつけられる大の男たち。津奈子という一見可憐なる少女が、それを成したとは誰も信じないだろう。
けれど、彼等の心には恐怖が植え付けられてしまう。
目の前の人の形をした何者か。淑女の皮をかぶったような、得体のしれない何者かに、どうしようもないほどの恐怖を―――。
「独りよがりな理想は誰かの犠牲を強いるもの」
微笑みは絶やさず。
けれど、決定的に違ってしまった微笑みは、最早別物。
心の中で津奈子は独白する。
自身をこんな身体にした人達も、きっとこの人達と同じ―――。
大成功
🔵🔵🔵
カイ・オー
ここからは時間との勝負だな。
連中は最大効率でグラッジ弾を使う為に移動してる。だが、効率を無視するならいつグラッジ弾を発動させてもおかしくはない。
追い詰めつつ、自分が追い詰められたと覚悟される前に拘束する。
【加速能力】使用。身体速度、思考速度を加速。PCゲームのチートプレイの様に高速で敵を【追跡】する。
一般的な学校の建築から、學舎の構造を【世界知識】で把握。【第六感】で敵の動きを読み追い詰める。
状態異常能力強化。【早業】で気取られずに背後に回り込み【捕縛】。縛り上げ声を出せない様にし、グラッジ弾を回収。助けてやったんた、恨むなよ。
【聞き耳】で構成員達の位置を探り、出来るだけ大勢を捕縛していこう。
覚悟とは常に何かを決断させるものである。
人はみな、追い詰められた時に尋常ならざる力を発揮する。火事場の馬鹿力などがよく言われるものであろう。
それは同じ人である幻朧戦線の構成員たちであっても同じである。彼等は皆、己の抱く思想の前には生命すらも厭わぬ決意を燃やしている。それは自暴自棄になっているからではない。
ただ己たちが信じる、信じ込まされているだけかもしれない信念に基づいた行動である。その結果例え、生命を喪ってしまったとしても構わないとさえ思うのだ。
「ここからは時間との勝負だな」
幻朧戦線の構成員たちが侵入した『帝都桜學府』の學舎の中を駆けるカイ・オー(ハードレッド・f13806)はそう考えていた。
幻朧戦線たちがもし、『グラッジ弾』を効率的に使用しようとするのであれば、それは常に最大の効果を見込んで使うだろう。
人はいつだってそうだ。
自分たちが優位に立った途端、欲張る。本来であれば最低限で良かったはずものでさえ、蛇足の如き戦果を欲するのだ。
それはバーチャルキャラクターであるカイにとってよく分かるものだった。幻朧戦線の構成員たちは今、最大効率でグラッジ弾を使うために移動している。
「だが、効率を無視する―――つまりは追い詰められれば、いつグラッジ弾を発動させてもおかしくはない」
「ならば―――! COMMAND:ACCELERATION:ENTER」
加速能力(サイコアクセラレーション)。それはバーチャルキャラクターとしての能力であり、システムの最適化による処理速度の強化。
ユーベルコードによる圧倒的な思考、身体の速度が加速する。それはさながら住まう世界が違うことを見せつけるような、圧倒的な加速力であった。
一瞬でカイは學舎の構造を把握し、駆け抜ける。そして、幻朧戦線の構成員たちがどう動くのかを計算し尽くした最小限、最速、最短の動きでもって學舎の中を走る彼等の背後を取る。
それは一瞬の出来事であった。
背後から回り込み、カイの手が構成員の口を塞ぐ。古流柔術を元にした体術が、その身に纏うオーラによって強化され、構成員を立ち所に組み敷く。関節を極めている上に口元を塞がれているため、構成員は助けを呼ぶことさえできない。
「―――!」
何事かを塞がれた口の中で言っているが、カイは構わなかった。少し腕をひねるだけでおとなしくなってくれるのは、ありがたかった。
彼等の懐を探るとグラッジ弾が一つ出てくる。これが件の影朧兵器というわけか、とカイは弾丸を弄びながら回収する。
「……助けてやったんだ、恨むなよ」
オーラと共に当て身によって構成員の一人を気絶させるとカイは次に捕縛するべき構成員たちの足取りを割り出す。
やはり一般人程度のレベルでしかない構成員を捕らえるのは容易である。グラッジ弾を焦らせて使わせることなく捕らえるのが肝要だ。
カイの狙いは間違っていなかった。
「さて、次は……と、報酬を貰う以上は仕事熱心にやらせてもらわないとな」
再び捕縛した構成員を隠した物陰から躍り出る。
瞬く間に構成員二人を捕縛し、次々とグラッジ弾を回収していくカイは、そこでおかしな事に気がつく。
一人あたり隠し持っていたグラッジ弾の弾数だ。
これまでカイが捕らえた構成員たちが持っていたグラッジ弾は皆一つか二つしか持っていなかった。
禁止された兵器であるから、数が揃えられなかった。もしくは、構成員を多く放つために数をバラけさせた。
だが、カイは探偵業を営むがゆえに胸騒ぎを覚える。
「おかしい……本当に数が揃えられなかったのか……まさか」
カイの第六感が告げる。
銃声が、學舎のあちこちから一斉に響き渡り始めた―――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』
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POW : 戦車殺しは我らが誉れ
【StG44による足止め牽制射撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【パンツァーファウスト】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 弾はイワンの数だけ用意した
【MP40やMG42による掃討弾幕射撃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : コチラ防衛戦線、異常ナシ
戦場全体に、【十分な縦深を備えた武装塹壕線】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:nii-otto
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
それは幻朧戦線の構成員たちの頭蓋から響き渡る轟音であった。
確かに猟兵達はグラッジ弾を幻朧戦線たちから取り上げ、回収していた。けれど、幻朧戦線は更に狡猾、周到であった。
もしも、自身たちが持つ弾丸で『帝都桜學府』を『グラッジ弾』による『恨み』によって汚染できない場合はどうするのか。
それは簡単なことであったのだ。いや、すでに學舎へと侵入を果たした時点で彼等の目的の大半は達成されていたと言ってもいいだろう。
奥歯に仕込んだグラッジ弾。
それを噛みしめることによって暴発させたのだ。もちろん、構成員たちの生命はない。その体は『恨み』によって汚染され、周囲に『恨み』を撒き散らす存在に成り果てる。
一人が噛み砕いてグラッジ弾を発動させた瞬間、連鎖するように捉えた構成員たちの頭蓋が弾ける。
そう、はじめから、己達の生命など勘定に入れていなかったのだ。
「―――国防軍擲弾兵大隊、前進せよ」
軍靴の音が學舎に響き渡る。
汚染されたのは幻朧戦線の構成員の肉体のみ。今はまだ、學舎事態に汚染は進んでいない。
だが、今まさに學舎に充満した『恨み』に引き寄せられるようにして、影朧が、『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』が進軍してきていた。
もしも、彼等を此処で食い止められなければ、きっと華火大会の会場である大通りへとなだれ込むだろう。
そうなってしまえば、惨劇が起こるのは目に見えている。
ならば、猟兵がやるべきことはシンプルだ。
恨みを拡散させない。影朧を全て討ち果たす。ただそれだけでいい。この恨みに誘引された影朧を全て打ち倒せば、學舎事態の汚染もまた防げる。
敵の数は圧倒的である。
だが、猟兵に後退の二文字はない―――!
村崎・ゆかり
忘れられた過去の亡霊ね。正しくオブリビオンって感じで、相手にとって不足は無いわ。
あなたたちはここで骸の海に還す。
呪術戦じゃない銃撃戦って苦手なのよね。
「オーラ防御」「呪詛耐性」を重ねた「結界術」で影朧の攻撃を耐え忍び、「高速詠唱」「全力魔法」炎の「属性攻撃」「範囲攻撃」「衝撃波」の不動明王火界咒を物陰から投げつける。
「集団戦術」で相手の出方を予測しつつ、天井に取り付いた黒鴉召喚の式で実際の動きを把握する。
アヤメ、分身で攪乱いける? さすがに集中攻撃されると圧力がきつい。
そっちは「浄化」と「除霊」で援護するわ。
片付いたら、また一緒に華火大会に繰り出しましょ。それを楽しみに、目の前の敵を祓う。
影朧兵器『グラッジ弾』による自害は、幻朧戦線にとっては最後の切り札であったのだろう。自分の生命すら軽々しく死へと追いやることのできる思想のどこに正義があるといえるのだろうか。
それほどまでに平穏が、誰かの平穏が憎いのだろうか。それほどまでに壊さねばならないものであったのだろうか。
死せる幻朧戦線の構成員たちは何も語らない。全てはもはや闇の中にしなかい。
グラッジ弾が使用された遺骸にまとわりつく『恨み』が呼び寄せるは、軍靴の音。何処からともなく現れるは、影朧―――オブリビオンである『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』 。
突撃銃を構え、圧倒的な数で持ってなだれ込んでくる彼等を迎え撃つため猟兵達は駆ける。
「忘れられた過去の亡霊ね。正しくオブリビオンって感じで相手にとって不足は無いわ」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、目の前に展開する『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たちを見据える。
彼等は相当な訓練を詰んできた本物の兵士だ。幻朧戦線の構成員のように戦いを知らぬ者たちではなく、すでに幾度も経験しあらゆるものが削ぎ落とされた無駄なき、戦争の部品として機能することを是とした者達。
そんな彼らを前にしてゆかりは、その動きの緻密さを黒鴉の式神が張り付いた天井からの俯瞰した光景によって思い知った。
「呪術戦じゃない銃撃戦って苦手なのよね……けど、やるしかないわ。アヤメ、分身で撹乱いける?」
おまかせを、と式神のアヤメが頷いて駆ける。
突撃銃の銃弾がアヤメの撹乱によってゆかりへと放たれる面の圧力を弱めてくれる。
次々と放たれる突撃銃の銃弾は雨のように的確に放たれている。その面の射撃は時に点として照射される。拡散と集中。此方の位置を的確に把握し、銃撃を放っているのだ。
「アヤメ、もういいわ!戻って―――ノウマク サラバタタギャテイビャク――……!」
既に十分な時間は稼いでくれた。
高速詠唱に寄る詠唱時間の短縮。全力の力を振り絞って一気に戦端をくじかなければ、かの影朧たちに押し切られてしまう。
時折放たれる対戦車擲弾の巻き上げる炎が凄まじい。結界術とオーラによって防壁を築いていなければ、今まさに炎に巻かれているのはゆかりの方であったことだろう。
だが、その炎も銃弾も、擲弾も式神アヤメのおかげでバラけている。
「片付いたら、また一緒に華火大会に繰り出しましょう。それを楽しみにしているんだから、こんなところで負けるわけにはいかない!」
放たれるは白紙のトランプ。
投げつけられたトランプから噴出した炎が、『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』へと放たれる。
それが彼女のユーベルコード、不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)の力である。
絡みつくような炎は、影朧である兵士たちへと巻き付き、その不浄なる身を灼き尽くす。
すでに天井に張り付いた黒鴉の式神によって、ゆかりの前に展開した影朧の総数とどのように陣を敷いたのかはわかっている。
うねるような炎が次々と影朧を焼き尽くし、その身を全て骸の海へと還していく。
「―――嘗ては国防の志だったのでしょうけれど……護る誰かもわからぬようになってしまったのなら、疾く骸の海に還してあげるのが良いでしょう。アヤメ、残敵確認。終わったら、ね?」
約束していたのだ。
この戦いが終わったのなら、また華火大会に戻ろうと。それを楽しみにしていたからこそ、些細な見逃しで台無しにはしたくはない。
それに學舎の外……晴天の元に咲く大輪の華、そして通りに咲いた笑顔の花々を散らすのは、ゆかりにとっても、あまりにも勿体ないと思えるほどに平和な光景であったのだ。
故に平穏を脅かしていい理由なんて、どこにもありはしないのだ―――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドル・バジル
何つーか、命が軽いんだよなぁ……
自分の命すら大事に出来ねー奴らが望む世界なんて見たいとも思わねーな。
そして、命を懸けた結果も此処で潰える。
……まあ、転生したらマシな人生を歩めればいーな。
基本的には『万象斬断』の技を使い、突きで蹴りで片っ端から両断していきます。
敵POWUCは足止め牽制射撃を見切って残像を残して回避。
残像相手にパンツァーファウストを放った瞬間に「残念」と両断。
一通り片づけたら「恨み」だらけの残骸たちのみを浄化の炎(属性攻撃×浄化)で処理。
あんま、得意じゃねーんだが、そのままにしとくのは不潔だしな。
アドリブ歓迎
幻朧戦線の構成員たちは、自害するように奥歯に仕込んだ影朧兵器『グラッジ弾』を使用した。それは一つの弾丸が弾けた瞬間、彼等全員に仕込まれた者が弾けるようにされていたのだろう。
猟兵たちが捕らえた者達、彼等も皆頭蓋が砕けるようにして、今はもう汚染され『恨み』を撒き散らすだけの存在へと成り果ててしまった。
それが彼等が臨んだ決死の覚悟であったのか、それとも強いられたものであるのか、それは最早知りようもない事実である。
鈍く輝く黒い鉄の首輪が、まるで怨嗟を紡ぐかのように不気味に残った遺骸を中心に『恨み』が溢れ出し、影朧を誘引する。
軍靴の音が響く。
それは圧倒的な数の兵士たちが學舎の床を打ち鳴らして進む音だった。それを聞きながら、アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)は嘆息する。
ため息が出るのも仕方のないことであった。
「何つーか、生命が軽いんだよなぁ……」
それは彼にとってあまりにも勿体ないものであるように思えた。飄々とした態度ではあったものの、目の前に転がる幻朧戦線の構成員であった遺骸を見下ろす瞳の色は伺い知れない。
「自分の生命すら大事に出来ねー奴らが望む世界なんてみたいとも思わねーな」
己の生命を大切に出来ないものに何ができるというのだ。
何も為すことなどできようはずもない。そして、それを強いる思想のどこに正義があるというのだ。正しさなど何処にもない。あるのは狂気と悪意だけだ。
「そして、命を懸けた結果も此処で潰える」
目の前には影朧『名も忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たちがずらりと隊列を汲んで突撃銃の銃口をアレクサンドルへと向ける。
どれだけ数が多かろうと、アレクサンドルには関係ない。為すべきことを為す。だが、その金色の瞳が捉えるのは、哀れなる影朧のみ。
放たれる突撃銃の弾丸。それは牽制射撃であり、面で他者を制圧する銃弾の嵐であった。
だが、アレクサンドルは前進を止めない。凄まじき速度で持って残像を残すほどの勢いで駆け抜ける。
弾丸の一つ一つを見切る。
常人であれば不可能であろう神業であっても、神たる身であるアレクサンドルにとっては、容易なことであった。
「これが牽制っていうことは、本命があるってことだろうが―――!」
放たれた擲弾。パンツァーファウストの弾頭が宙を往く。
あれが爆発しては、學舎もまともに保つとは思えない。爆発寸前を見切って、アレクサンドルの手刀が弾頭を両断する。
それは正しく空前絶後の光景であったことだろう。唐竹わりのように両断された擲弾の弾頭を魔力に覆われたオーラが包み込み、その内部で爆発させるのだ。
「―――残念」
それはお見通しであると言わんばかりにアレクサンドルは駆け抜ける。
大隊の牽制射撃など物ともせずに、切り込む。
その手刀の切れ味は名刀そのもの。あらゆるものを両断せしめる、その力こそがユーベルコード。
その名を―――万象斬断(ナンデモキレル)。
そのユーベルコードが輝く限り、アレクサンドルの目の前にあるあらゆる物体は―――。
「この世に切れないモノなど存在しないぜ?」
そう言わんばかりにことごとく両断させられる。影朧の兵士の胴や首が飛ぶ。それは凄まじき速度で持って放たれた手刀や蹴り。
薙ぎ払うような、暴風のようなアレクサンドルの攻撃の数々が瞬く間に影朧の兵士たちを霧散させ、骸の海へと還していく。
一陣の暴風が吹き荒れ、通り過ぎた頃には最早、影朧の影も形もなくなっていた。
「さて……あんま、得意じゃねーんだが、そのままにしとくのも不潔だしな」
圧倒的な数の影朧たちを切り捨て、アレクサンドルは『恨み』まみれの残骸とも言うべき、幻朧戦線の構成員たちの遺骸を目の前にする。
その金色の視線は何も言わない。
けれど、その手に宿した浄化の炎が彼等の抱いた平穏への『恨み』を浄化する。
どこにも誰かの平穏を脅かしていい理由なんてどこにもないのだ。
それがわかった時、アレクサンドルは思うのだ。
「……まあ、転生したらマシな人生を歩めればいーな」
きっと己の平穏を見つけられなかった、開いた穴を塞ぐことのできなかった者たちの末路であろう。
ならば、その道行がどんなものであれ、アレクサンドルはそう、思うのだ―――。
大成功
🔵🔵🔵
カイ・オー
ツメが甘かったか。
犯人の自害を食い止められなかった以上、探偵としては俺の敗北だ。
だが、猟兵としてはまだ負けちゃいない。影朧は倒す。華火を楽しんでる民間人を守る。それで二勝一敗だ。勝ち逃げは許さないぜ。
【念動能力】展開。【結界術】で周囲の空間に干渉、運動ベクトルを操作する電磁力場で戦場を包む。【オーラ防御】で自身を弾丸から守りつつ、【念動力】【捕縛】で飛び交う全ての弾丸を停止させる。學舎に弾痕を残しちゃ学生さん達も迷惑だろうさ。
更に力場を拡大。影朧達の動きを【捕縛】。
【カウンター】【誘導弾】で、停止させた弾丸を操り敵に撃ち返す。
パンツァーファウストを持ってるならそいつを狙って暴発させてみよう。
犯人の自害。
それは探偵にとっては、ある意味で敗北であった。カイ・オー(ハードレッド・f13806)にとって、最大の勝利とはグラッジ弾を回収する。使わせない。そして犯人である幻朧戦線の構成員たちを全て官憲へと突き出すことだった。
しかし、捕らえた犯人である幻朧戦線の構成員たちは次々と奥歯に仕込んだ『グラッジ弾』を弾けさせ、己の生命を賭して『帝都桜學府』を『恨み』溢れる空間へと変えようと画策したのだ。
「ツメが甘かったか」
そうつぶやくカイの顔には今だ敗北の表情は浮かばない。
これが敗北であるというのであれば、カイは立ち止まってしまったことだろう。けれど、カイは前を向く。
「犯人の自害を食い止められなかった以上、探偵としては俺の敗北だ―――」
だが、とカイはその瞳に宿る意志を些かも陰らすこと無く進む。その瞳の輝きは幻朧戦線の構成員たちが自害したからといって一欠片とて奪えるものではない。
「だが、猟兵としてはまだ負けちゃいない」
眼前に迫るは『恨み』に誘引されて現れた影朧『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たち。
軍靴の音が學舎の床を叩く音がする。構えた突撃銃の弾丸がカイに向かって雨霰のように放たれる。
だが、その弾丸がカイに届くことはなかった。
「影朧は倒す。華火を楽しんでる民間人を護る。それで二勝一敗だ―――COMMAND:PHYCHO-KINESIS:ENTER」
それは見えない攻防一体の力場を放つユーベルコード。
念動能力(サイコキネシス)。その力場は結界術と共に周囲の空間に鑑賞され、放たれた弾丸の運動ベクトルをも操る電磁力場で戦場をそっくりそのまま包み込むのだ
。
オーラによって守られたカイに弾丸が届く理は最早此処にはない。念動の力によって周囲に放たれた弾丸を全て空中で停止させる。
「學舎に弾痕を残しちゃ学生さん達も迷惑だろうさ……さあ、行くぞ、影朧たち……いや、名も無き兵士たちよ」
カイを中心として念動力の力場がさらに拡大していく。
この場において影朧である兵士たちがカイを狙えば狙うほどに空中に固定されるように弾丸が増えていく。それは即ちベクトルを操るカイにとって、こちらの攻撃の持ち手を増やすようなものであった。
「弾丸は十分……さあ、おとなしく骸の海へ還ってもらおうか!」
一時停止するように空中で停止していた弾丸の切っ先が、くるりと反転する。それは一斉に、規則正しく全てが影朧である『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』へと切っ先を向ける。
今、この場において全ての弾丸をコントロールするのはカイだ。
一斉に反転し放たれた弾丸たちが、兵士たちの体を穿つ。銃声は響かない。けれど、確実に弾丸が兵士たちにめり込み、その体を霧散させていく。
「おっと、そんな物騒なものは學舎にも被害がでる」
くるりと指差す先にあったのは、擲弾―――パンツァーファウストである。カイを狙うそれを放った弾丸が打ち抜き爆発させる。
轟々と爆炎が膨れ上がるも、その力のベクトルでさせ凝縮し力場の中へと消えていく。
「―――勝ち逃げは許さないぜ?」
指を鳴らす音が響いた瞬間、力場が消失し、その場に残されたのはカイだけであった。この場に誘引された影朧達全てを打倒し、霧散させた。骸の海へと還っていけば、もしかしたのならば、後々に桜の精によって転生されるかもしれない。
そうなれば、二勝どころか三勝である。
だが、カイはもうそんなことにはこだわっていなかった。學舎の窓から見える華火舞い落ちる大通り。そこを行く人々の笑顔が見えた。
「今回は、一敗を喫したが……華火を楽しむ民間人は誰ひとりとして、この騒動に気がついていない。それで良しとしよう」
幻朧戦線がどれだけ仮初の平穏を憎むのだとしても、カイはいつだって駆けつけるだろう。報酬も大切だけれど、平穏な日常もまた得難いものである。
青空に弾けるように広がる大輪の花々が、そんなカイの心を色とりどりの花弁で彩るのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
エルヴィン・シュミット
ちっ、最初っから捨て身でアレを使う気だったのかよ…
相変わらず何考えてんのか分かんねえ奴らだ…
しかしこうなっちまったもんは仕方ねえ、大事になる前にコイツらを片付ける!
まずは【ECLIPSE】の【迷彩】と【目立たない】で奴らの牽制射撃を凌ぐ!
それから【霊刀・菖蒲橋】の【浄化】【破魔】を込めた【SHOW DOWN】でその怨念ごと叩き斬る!
奴らに補足されたらまた【迷彩】を使って【ジャンプ】と【ダッシュ】で離脱し、同じ戦法で斬り込んでいくぞ!
とはいえ…敵が多すぎる!他の猟兵達も戦っているはずだが、刀一本じゃ限界がありそうだな…!
しかし、ここで俺が泣き言を言ってたんじゃ…サクラミラージュの未来が陰る!
幻朧戦線の構成員たちの頭が弾ける。
それは奥歯に仕込んだ影朧兵器『グラッジ弾』の炸裂する音であった。彼等の命を懸けた行為は確かに、己達の体を持って『恨み』を撒き散らす存在へと汚染されてしまう。
こうなってしまえば、『帝都桜學府』の學舎を汚染するという目論見は直接果たすことができなくなってしまっても、凝縮した『恨み』が誘引する影朧によって『帝都桜學府』は大混乱に陥ることは間違いない。
その証拠に軍靴の音が聞こえる。
まるで、幻朧戦線の構成員の遺骸に集まるようにして、影朧『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たちが突撃銃を構えて學舎へとなだれ込む。
「ちっ、最初っから捨て身でアレを使う気だったのかよ……相変わらず何考えてんのか分からなねえ奴らだ……」
エルヴィン・シュミット(竜の聖騎士・f25530)が舌打ちする。グラッジ弾を回収していたとしても、己の生命を担保に賭けるものなどいないであろうと考えていた隙を突かれたような形になってしまった。
目の前に展開する影朧の兵士たちの持つ突撃銃から放たれる弾丸を躱し、エルヴィンは真っ黒な外套を翻して弾丸の雨から逃れようと學舎を賭ける。
「しかし、こうなっちまったもんは仕方ねえ、大事になる前にコイツらを片付ける!」
初撃を凌いだエルヴィンが、その手にした柄に花札の根付が付い刀、霊刀『菖蒲橋』を引き抜いて闇より躍り出るようにして、影朧の兵士へと一撃を繰り出す。
「その怨念ごと叩き斬る!」
ユーベルコード、SHOW DOWN(ショウダウン)の力によって霊刀の業の冴えはさらなる鋭さを持って一刀のもとに両断せしめる。
一人を斬っては、外套を翻し、弾丸の雨を躱す。狭い學舎の中を飛び跳ねるようにして戦う姿は変幻自在そのものであった。
ここに来てよくわかったことがある。突撃銃から放たれる弾丸は、牽制の射撃というよりもマーキングの意味合いが強いのだ。
彼等影朧の兵士たちは、すでに『忘却されし』ものであるが、その装備のたぐいを見れば彼等が擲弾つまりはパンツァーファウストを運用するための部隊であることがよくわかる。
つまりは、突撃銃の弾丸さえ当たらなければ、後に放たれるであろうパンツァーファウストの爆風を気にする必要はないのだ。
「その戦法が仇になったな―――! そこだ!」
駆け抜け、次々と霊刀の剣閃が影朧の兵士たちを切り結んでいく。ずらりと放たれた斬撃によって崩れ落ち、霧散して消えていく横をエルヴィンは駆け抜ける。
「攻略法がわかったとは言え……数が多すぎる! 他の猟兵達も戦っているはずだが、刀一本じゃ限界がありそうだな……!」
外套によって身を隠す、打って出る。確かに効果的な戦法であったが、それは相手の数が少なければの話だ。
どうあがいてもまだまだ数は多い。いや、多すぎる。大隊というにふさわしい数であろう。
學舎のあちこちから銃撃の音が聞こえる。
他の猟兵達も己達の前に現れた影朧の対処に追われている。自分の持ち場が崩されれば、學舎の外へ―――華火大会を楽しんでいる人々の元へと影朧がなだれ込んでしまう。そうなってしまえば、あの大通りは地獄だ。
恨みがさらなる怨恨を産んでしまう。それは、決して許してはならない暴挙だ。
「しかし、ここで俺が泣き言を言ってたんじゃ……サクラミラージュの未来が陰る!」
手にした霊刀の柄を握る手に力が込められる。
負けてはいられない。此処で踏ん張らなければ、断ち切れぬほどの怨恨の連鎖に無辜の人々が絡め取られてしまう。
サクラミラージュの平穏は、壊してはならない。吼えるようにエルヴィンの裂帛の気合が響き、剣閃が次々と閃く。
大隊の兵士達は次々と霧散し骸の海へと還っていく。
それをどれほどの時間続けただろう。周囲には最早影朧の姿はない。疲労と汗にまみれた手が握る霊刀の柄がぬるりと滑る。
「―――ハァ……! これで、最後だ」
息を吐き出す。
思った以上に長丁場であったが、それでも一体たりとて影朧を大通りへと抜けさせることはなかった。
それは誇るべきことだ。
窓から見える大通り。華火の花弁が舞い落ちる、そこには守りたかった笑顔が華のように今もまだ咲き誇っているのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
故無・屍
…フン、死ぬ覚悟だけは一丁前だってか。
――下らねェ。
手前ェで作ろうとした世界を、その礎も土台も作らず、
自分の命で背負いもしねェで結局最後は他人…、それも過去の亡霊任せか。
俺としちゃ同意出来る部分もあったが…、これじゃ生かす理由もなかったな。
牽制射撃の後に本命の攻撃を叩き込む、か。
…だが、その流れ自体がユーベルコードならやりようはある。
パンツァーファウストの前の牽制射撃を受けた直後のタイミングでUCを発動
砲弾ごと対象を叩き斬り、斬撃に加え砲弾の爆発でより甚大なダメージを与える
カウンター、早業、限界突破の技能にてより正確な反撃を
…死ぬ覚悟ってのは軽いんだよ、背負って生きる覚悟に比べりゃ遥かにな。
その轟音が響いた時、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)は眉根一つ動かすことはなかった。
幻朧戦線の構成員たちが奥歯に仕込んだ影朧兵器『グラッジ弾』を弾けさせたのだ。それは自決を前提とした行為であった。
弾丸である以上、その濃縮された『恨み』を口内で弾けさせれば、構成員たちはタダでは済まない。それこそ自身の頭が吹き飛ぶことは考えうることであった。
己の生命を賭ける覚悟。それは己の死をいとわずに目的を達成するための強靭なる意志の力であったのかもしれない。
「……フン、死ぬ覚悟だけは一丁前だってか」
屍にとって幻朧戦線の構成員たちが語る言葉には、全てではないがうなずける―――同意できる部分もあった。
それに故に屍は幻朧戦線の構成員たちを殺さずに捕らえることにしたのだ。
その幕切れがこんな形になるとは思っていなかったのだ。その覚悟、その意志、そのどれもが猟兵達のまさか、という思いを掻い潜って事を成したのだ。
凝縮された『恨み』が構成員たちの頭部を吹き飛ばし、その遺骸を影朧を誘引するだけの存在へと成り果てさせる。
「―――下らねぇ」
吐き捨てるように屍がつぶやく。
その眼前にあるのは軍靴の音を打ち鳴らして、學舎の中を行軍する影朧『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士達。彼等は一様に突撃銃を構え、屍を打倒して華火大会の大通りへとなだれ込もうとしている。
止めなければならない。けれど、屍は一歩も動かなかった。
その身は今、怒りに……まみれていたのだろうか。それとも、呆れ果てていたのだろうか。その感情の名を推し量ることは出来ても、それが真実であるかは、彼の表情を見る者にはわかりかねることだった。
「手前ェで作ろうとした世界を、その礎も土台も作らず、自分の生命で背負いもしねェで結局最後は他人……それも過去の亡霊任せか」
空気が軋むような音を立てた気がした。
それは屍の心の奥から溢れ出る何かが、大気すら軋みあげるような重圧となって放たれていた。
それを切り裂くように突撃銃の弾丸が雨のように屍へと放たれる。
敵の装備を一瞥する。突撃銃に擲弾―――パンツァーファウスト。おそらく突撃銃の弾丸は牽制である前にマーキングなのだろう。牽制と同時にマーキング。その後に本命である擲弾を放って敵を殲滅する。
それが『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の持つメソッドでありドクトリンであるのだろう。
「なら、その流れ自体がユーベルコードならやりようはある」
両手を広げる。
面倒くさそうに、それこそ挑発するように。撃ってみろと言わんばかりの屍へと物言わぬ影朧の平氏たちが突撃銃の弾丸を見舞う。
その動きはよく訓練された一片の乱れも生じない見事な牽制射撃であった。弾丸が屍の肉体へと当たる直前に、その体に纏うは闇。
「―――纏めて潰しゃあ、それで終いだ」
その闇が巨大化し、刃のような形状へと一瞬で変化する。
それこそが彼のユーベルコード、暗黒剣・無尽(アンコクケン・ムジン)。パンツァーファウストの擲弾が放たれるのを視界に収めながら、その巨大な刃を刹那に振るう。
その動きは最小にして最短。最速にして神速。闇の刃が放たれた直前の擲弾の砲弾を一撃のもとに両断し、その猛烈なる爆風を周囲に撒き散らす。
一瞬のカウンター。
放たれた巨大な闇の刃は、爆風を切り取るようにして周囲の影朧たちを切り刻み、一瞬のうちに影朧たちを骸の海へと還す。
霧散して消えていく兵士たちを見送る。過去の亡霊たちは、ただ引き寄せられただけだ。出来ぬこと、やらなければならぬことを怠ってきたツケを拭わされようとしていた哀れなる影朧。
彼等を迅速に骸の海へと還した手際は凄まじき技量であると言えるであろう。
「……死ぬ覚悟ってのは軽いんだよ」
ため息を吐き出すように屍はつぶやく。死ぬ気で、一生懸命に、という言葉があるのはわかっている。それがどれだけの意志を持たねば成すことのできぬことであるかも。
けれど、屍にとっては、それに勝る重さを持つ覚悟があるのを知っているからこそ、自決という覚悟で持って事にあたった幻朧戦線の構成員たちの覚悟は軽いと言わざるを得ない。
なぜならば―――。
「背負って生きる覚悟に比べりゃ―――遥かにな」
大成功
🔵🔵🔵
ジェイムス・ドール
良いね!良いねぇ!良いねぇ!
最後まであきらめない姿勢、私好きよ!あはは!
幻朧戦線の人達へ拍手しながら大隊へ向き直る
さぁて、彼らの頑張りに応えて、私も頑張んなくっちゃねぇ!!
念動力で丸鋸を敵に飛ばしながら『特別な感情』継戦能力、牽制射撃を無視してダッシュ、相手に飛びかかって、隠し刃で暗殺
華火も良かったけど、私はどうしても、やっぱりこっちのが好きね!
アハハハハハ!
怪力で刃を突き刺した相手を投擲、パンツァーファウストにぶつけ、ジャンプ。兵士達の近くに着地
ソーアックスをなぎ払い、纏めて地面に叩きつける。二回攻撃。斧をもう一回振り落として止め。
…まだまだ敵は残ってるよねぇ…ふふふ、平穏ってなんだろねぇ?
それはあっけないほどに生命が終わる音だった。
幻朧戦線の構成員たちをつないだ鎖で『帝都桜學府』の學舎の中を駆け回っていたジェイムス・ドール(愉快な仲間の殺人鬼・f20949)は、キョトンとした顔をした。
引きずる構成員たちが、ずしりと重くなって立ち止まった。後ろを振り返って彼女はどうして重たくなったのかを理解した。
完全に脱力した人体の重さというのは、あまりにも重たい。確かにその肉体から何か、魂とか、そういった呼び名で呼ぶものが喪われてしまったというのに、引きずるただの物体に成り果てた、それは思っていた以上の重たさでもってジェイムスの足を止めたのだ。
頭蓋が弾けた遺骸。
その奥歯で噛み締め弾けた影朧兵器『グラッジ弾』は、凝縮された恨みそのものだ。彼等の決死の覚悟というものが、それを引き起こしたというのであれば、たしかに為すべきことを為したと言えよう。
「良いね! 良いねぇ! 良いねぇ! 最後まで諦めない姿勢、私好きよ! あはは!」
それは盛大なる拍手と共にジェイムスが幻朧戦線の構成員たちの覚悟に送る言葉だった。
彼等は己の信念にしたがって、壊したいものを壊すために自分たちの生命を使ったのだ。どれだけ強大な敵―――猟兵と相対したとしても諦めなかった。自分の生命を賭してまで!
ジェイムスにとってはそれは喝采に値するものであったのだ。
軍靴の音が響く。
凝縮された『恨み』に引き寄せられるようにして影朧『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たちが集まってくる。
その虚ろな瞳が映すのは、ただの虚像にほかならない。ジェイムスがお気に入りの帽子のつばをつまんで一礼する。
「さぁて、彼等の頑張りに応えて、私も頑張んなくっちゃねぇ!!」
身体が溢れるようにして現れる丸鋸刃を飛ばし、その身から溢れる特別な感情(デライトフル・ヴァイス)が彼女の異様なる超再生力を発揮させる。
どれだけ弾丸の雨が降り注ごうとも、ジェイムスの身体が穴だらけになったとしても、即座にその弾痕はふさがり元通りになってしまう。
まるで弾丸がすり抜けたかのような凄まじき再生の力。
それこそが彼女のユーベルコードであると、誰が知れよう。今、彼女の身体を突き動かしているのは、彼女自身の身の内側から溢れ出る感情だ。
牽制射撃など意にも介さない。
「華火も良かったけど、私はどうしても、やっぱりこっちのが好きね! あァハハははハハはハ!!」
けたたましい笑い声を上げながら、ジェイムスが影朧の兵士たちの中へと突っ込む。なにせ武器は身体の内側から溢れるほどこぼれ落ちるのだ。
丸鋸刃が飛ばし、次々と兵士たちの首を引き裂いて駆け抜ける。まるで暴風だった。
「アハハハ! それぇ!」
首を引き裂いた兵士の身体を持ち上げ、自身を狙う擲弾―――パンツァーファウストの弾頭にぶつける。
爆発が吹き荒れ、學舎の壁を揺らす。爆風で何も見えない。そう思った次の瞬間、ジェイムスの姿はパンツァーファウストを構えた兵士の背後に立ち、振りかぶるは鋸状の刃がついた大斧。
その一撃は上段から振り下ろされ、影朧の兵士の肉体を一刀両断する。
けれど、それで止まることはない。さらにもう一度振り下ろされ、霧散する影朧の姿を認めてようやくジェイムスはゆらりと振り返る。
そこにあったのは狂気の笑顔か、それとも純粋なる笑顔か。
「……まだまだ敵は残ってるよねぇ……」
ゆらりと幽鬼のように駆け出すジェイムス。その姿は戦いを求める。自分の中に溢れて止まらない特別な感情のままに敵を、影朧を屠っては進む。
笑い声が響き渡り続ける。楽しい。楽しい。楽しい。
けれど、ジェイムスはついぞ分からなかった。
「……ふふふ、平穏ってなんだろうねぇ?」
その言葉の意味も、価値も、わからないまま。けれど、それでも笑う。自分の心の中に去来するものが、自分にとっての真実であるように、ジェイムスは笑いながら凄まじき回転丸鋸刃のように触れるもの全てを引き裂き続けたのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
エリー・マイヤー
ああ、せっかく生きたまま捕まえたのに。
なんという徒労感。控え目に言ってショックです。
は~…
まぁ、言ってても仕方ありません。
気を取り直して影朧と戦いますか。
とは言え正面からの撃ち合いは怖いので、
ここはこそこそと隠れつつ【TK-B】で各個撃破といきましょう。
幸い塹壕線の迷路とやらで、隠れる場所は幾らでもありそうです。
適当に隠れられそうな塹壕を利用させてもらいましょう。
向こうは塹壕を超えて攻撃することはできませんが、
こちらは【念動力】ソナーで探知すれば障害に関係なく攻撃できます。
実に一方的。念動力様様ですね。
後は敵の位置を確認しつつ、
射線が通らないよう定期的に位置を変えれば問題なしですね。
念動力で捕縛した幻朧戦線の構成員たちの頭が一斉に弾けたのを間近で見た。
奥歯の奥。
そこを強く噛みしめることによって、仕込んだ影朧兵器『グラッジ弾』を弾けさせたのだ。それは彼等の目的であるグラッジ弾に凝縮された『恨み』でもって『帝都桜學府』を『恨み』で汚染するという、偽りの平穏の破壊を為さんとするためだった。
けれど、それは己の生命を賭してまでやることであったのだろうか。
そうまでして、誰かの平穏を壊さなければ、知らしめることのできない何かがあったのだろうか。そうしなくてもできたとは思わなかったのか。
そもそも、人の死を強いる思想のどこに正しさがあるのか。
そんなことを思わずにはいられないほどに、深く、深く、エリー・マイヤー(被造物・f29376)はため息を吐いた。
「ああ、せっかく生きたまま捕まえたのに。なんという徒労感。控えめに言ってショックです」
は~……と、本当に深い溜息を再度吐き出す。念動力で捕縛していた幻朧戦線の構成員たちの身体は最早遺骸であると同時に、影朧兵器『グラッジ弾』によって汚染された影朧を引き寄せる『恨み』の源泉となってしまった。
こうならないようにと捕らえていたのだが、『帝都桜學府』の學舎自体が汚染されなかっただけでも良しとするしかない。
「まあ、言ってても仕方ありません。気を取り直して―――」
軍靴の音が聞こえる。
それはすでに『恨み』の集合体となり、影朧を誘引するだけの存在へと成り果てた遺骸を求めるように集まってくる影朧『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たちであった。
すでに學舎の中は彼等のユーベルコードによって塹壕線の迷路へと成り代わっている。
「……気を取り直して、影朧と戦いますか」
とは言え、エリーは本来正面切っての戦闘に自身があるわけではない。
むしろ、誰かをサポートしたり裏方に回るほうが得意である。それ故に、今まさに學舎を迷路のような塹壕線へと変えるユーベルコードは、彼女にとって好都合であった。
迷路の中へと放たれる念動力ソナー。それは彼女のユーベルコードに寄る探知を助ける力である。
「迷路にしたのが却って仇になりましたね。コソコソ隠れたり、セコい工作をするのは得意なのですから……」
念動力ソナーが次々と影朧の兵士たちを見つけては、TK-B(テレキネシス・ブロウ)によって即時発生する衝撃波で吹き飛ばしていく。
塹壕線である以上、兵士たちは塹壕を越えては越えてはこない。隠れ、迷路の中で不意を撃つのが、このユーベルコードの強みなのだから。
けれど、エリーにとっては逆だ。
姿を隠し、念動力ソナーによって相手の位置は一方的に割り出すことができる。さらに割り出した瞬間にソナーから放たれる念動力の衝撃波が容赦なく影朧の兵士たちを吹き飛ばし、霧散させていくのだ。
「―――そこですね。実に一方的。念動力様様ですね」
次々と兵士たちは衝撃波に打ちのめされ、消えていく。エリーは自身へと射線が通らぬように位置を取りながら、念動力ソナーから得る情報と共に塹壕線の迷路を往く。
塹壕線の迷路が消える。
これでエリーが担当した場所の影朧は全て打ち倒されたのだろう。漸くにして、見通しの良い光景に戻った學舎。
その中でエリーは窓の外を見る。今だ晴天が続くサクラミラージュの空は青い。曇天が常に覆い、嵐に怯えなければならない世界とは違う空を見つめる。
いつかはあんなふうに故郷の空もなるのだろうか。
「華火―――いつかがあるのだとすれば、故郷の世界にもあんな風に華咲く空が訪れるのかもしれませんね」
口に咥えたタバコに火をつけ、ぷかりと紫煙が青空へと上がって霧散し消えていく様子を、エリーはぼんやりと見上げるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ユーイ・コスモナッツ
信条のために、みずから死を選ぶ……
御覚悟、しかと承りました
その行いを認めることはできませんが、
全力でお相手させていただきます
この狭い空間では、
得意の高速機動戦には持ち込めない
私に射撃武器の類はなく、
そもそもからして多勢に無勢……
私に不利な条件が揃っている
まずは慎重に、
そして好機が訪れたら逃さずに攻めきりたい
まずは身を低くして「盾受け」で牽制射撃から身を守ります
そしてパンツァーファウストが飛んできたら、
それを【天球の虚数変換】で防御
屋内での爆風と爆炎は、
敵兵の視界を遮るには十分なはず
その隙にUC解除
「ダッシュ」で敵陣に「切り込み」
銃の間合いから剣の間合いへと持ち込み、
そのまま一気に勝負をかけます
幻朧戦線の構成員たちは次々と己の頭蓋を弾けさせた。
それは奥歯に仕込んだ影朧兵器『グラッジ弾』が作動した瞬間だった。彼等の生命を賭した行動は、誰かの平穏を壊すためだけに使われた。
自分の命を使ってでも、誰かの平穏を壊さねければならない理由とは一体なんであれば許されるのか。
それを信条と呼ぶのであれば、ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)は死せる幻朧戦線の構成員たちの覚悟を思うのだった。
「信条のために自ら死を選ぶ……御覚悟、しかと承りました。その行いを認めることは出来ませんが」
そう、認めることは出来ない。
何かを為すために己の生命を賭ける行為は見事であったのだとしても、その行いが誰かの平穏を壊すのであれば、宇宙騎士であるユーイには許容できるものではない。
正すことができないのであれば、その凶行を止めなければならない。
それが騎士としての矜持であり、責務であるのだから。
影朧兵器『グラッジ弾』の炸裂によって吹き飛んだ頭蓋。その遺骸はすでに凝縮された『恨み』に汚染された影朧を誘引するだけの存在へと成り果てた。
軍靴の音がする。
続々とユーイ野本へとなだれ込んでくるのは、影朧『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たちであった。
彼等は皆、一様に突撃銃を構え、その銃口をユーイへと向ける。
「全力でお相手させていただきます」
ユーイは即座に反重力シールドを構える。体勢を低くし、放たれる牽制射撃の雨のような弾丸を受け止め続ける。
ユーイにとっては不利な状況そのものである。
狭い空間であれば、彼女の持ち味である高速機動戦闘には持ち込むことができない。できないことはないだろうが、持ち味を完全に殺されてしまう。
それに騎士である彼女には射撃武器のたぐいはなく、一方的な戦いになってしまうだろう。さらにこちらは一人に対して、あちらは多勢。
「私に不利な条件が揃っている……」
思わずそうつぶやくほどの劣勢。反重力シールドと言えど、突撃銃の弾丸を雨のように浴び続けていれば、そう長くは持たない。
けれど、ユーイは落ち着いていた。
どれだけの劣勢、不利な状況下であろうとも決して諦めない。
牽制射撃がやんだ、と思った瞬間ユーイの瞳に映ったのは放たれた擲弾―――パンツァーファウストの一撃であった。
それは牽制射撃から放たれる『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の持つ必勝のメソッドであり、ドクトリンであった。
相手の足を止め、突撃銃の弾丸でマーキングし、火力で勝る擲弾によって敵を殲滅する。
そのメソッドにユーイは嵌め込まれたのだ。
「バリア展開っ!」
それは一瞬の攻防であった。どうしても不利な状況。けれど、相手の必殺の一撃を受け止めた後であるのならば、どれだけ多勢であろうと一瞬の隙が生まれる。
ユーベルコード、天球の虚数変換(セレスティアルスフィアシールド)によってユーイの身体が球状のバリアに包まれる。
球内は絶対的安全地帯となり、あらゆる攻撃に対し無敵となる。それはどれだけの敵を屠ってきたか知れぬ擲弾の一撃であったとしても例外ではない。
爆炎がユーイの周囲に吹き荒れる。
だが、それは影朧の兵士たちの視界をも遮るものであった。
バリアを解除し、ユーイは爆炎の中を駆け抜ける。
「騎士の誇りと共にっ!」
天馬の紋章が刻まれた白銀の剣と突撃槍が大隊と呼ばれるにふさわしい数の影朧の兵士たちの陣へと突っ込む。
勝負は一瞬。
ここを逃しては、ユーイはさらなる劣勢に陥らされてしまうだろう。勝負をかけるのならば、ここしか無い。
ユーイの剣が影朧の兵士を切り捨て、突撃槍が擲弾を装填しようとした影朧の兵士を突き穿つ。
その時点で勝負は決したようなものだった。
爆炎が収まる頃、ユーイの周囲に立つ影はなく、全ての影朧の兵士たちは霧散し、骸の海へと還っていた。
彼女の頬を伝う汗が一筋、晴天の光を受けて煌めく。
今だ、晴天の空に舞う華火の花びらは色とりどりに空を染め上げる。あの華火に込められた平穏への感謝と祈り、そして願いは、宇宙騎士であるユーイによって成就されたのだった―――。
大成功
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蓮見・津奈子
…一体、何が彼らをここまでさせたのでしょうか。今を謳歌する人々を過去で呪うことに、命すら擲つとは。
ですがその呪い、この場で喰い尽くしてくれましょう。
彼我の距離は然程離れていない、ならば銃の優位は絶対的とは言えないでしょう。
変異・肉蚯蚓を発動。片腕をミミズの頭と変じさせ、その胴の長さを活かし遠間の敵へ食らいつきます。
そのまま生命力を吸収しつつ、食いついた敵を【怪力】で振り回し周囲の敵を殴り倒します。食いついた敵が力尽きたら、また別の敵へ食いつき同様に。
防御・回避よりは攻撃重視。被弾のダメージは生命力吸収で賄います。
今の帝都に、貴方達のような存在は相応しくないのです。
…もしかしたら、私も。
その遺骸は『恨み』が凝縮されたような、そんな存在へと成り果てていた。
いや、もしかしたのならば、偽りの平穏と叫ぶ彼等の心自体がすでに『恨み』そのものであり、自害なくとも影朧を誘引する存在に他ならなかったのかも知れない。
それほどまでに、幻朧戦線の構成員たちの、己の生命を使ってまで事を成そうとした覚悟、執念に蓮見・津奈子(真世エムブリヲ・f29141)は怖気が走るようであった。
「……一体、何が彼等をここまでさせたのでしょうか。今を謳歌する人々を過去で呪うことに、生命すら擲つとは」
理解できない。
あの華火大会の催されている大通りの人々が浮かべる笑顔。平穏そのものであると言っても良い華火に込められた花弁が舞う晴天。その感謝と祈り、そして願いを見ても尚、己達の中に渦巻くどす黒い『恨み』を消し去ることができなかったのだと、津奈子は慄いた。
軍靴の音が聞こえる。
目の前の『恨み』を撒き散らすだけの存在へと成り果てた幻朧戦線の構成員の遺骸を目指して、いや……誘引されるようにして現れる影朧『忘却されし国防軍擲弾兵大隊』の兵士たちが構える機関銃の銃口が津奈子を狙うのを彼女の緑色の瞳が見据える。
かつての己であったのならば、あの鈍く輝く銃口を見て、身を竦ませるだけであったかもしれない。
けれど、今の彼女は違う。
彼女は猟兵。生命の埒外にある者。そして―――。
「ですが、その呪い……この場で喰い尽くしてくれましょう」
それができるだけの存在へと変わってしまっているのだから。
瞬間、津奈子の片腕が歪なる異形へと変貌する。
それは言葉で言うのであれば、巨大な胴部を具えた巨大ミミズの頭のようであった。のたうつように蠢く巨大ミミズ。その顎がもたげるようにして広がる。
銃弾が放たれようとした瞬間、津奈子の片腕が振るわれる。鞭のようにしなりながら、空中を自由に蠢くようにして巨大ミミズの胴が走る。
「ダメです…そんな処にいたら」
鈍い音を立てて、影朧の兵士たちの胴から上が、ごっそりと消失する。否、変異・肉蚯蚓(ミウテヱション・ミヰトワアム)によって変貌した津奈子自身の腕によって捕食されたのだ。
過去の化身たるオブリビオン、影朧と言えど、その身に宿した生命力は根こそぎ津奈子に奪われる。
腹を満たす感触。まだ足りないという感覚。もっと喰いたいという貪欲。
「今の帝都に、貴方達のような存在は相応しくないのです」
そう、あの晴天の空に舞う花弁が彩る平穏。
あのような全ての人々の心を平穏で満たすような催しが行われている傍らに、戦いだけしかできない存在は不要なのだ。
振るった片腕の蚯蚓の胴が強かに影朧の兵士たちの身体を打ち据える。大顎がもたげられ、丸呑みするように影朧の兵士の身体を飲み込み、その生命力の一片まで奪い尽くす。
それはまるで貪欲なる化身の蹂躙そのものであった。
大隊と呼ばれる影朧であったとしても、その土耕し生命を生む土壌を育てる蚯蚓の前にはあらゆるものが、生命力を具えた袋でしかなかった。
どれだけ機関銃で応戦され、蚯蚓の胴に穴が開こうとも、それを贖うように顎が兵士たちを飲み込んでは立ち所に霧散させ、消滅させる。
あまりにも凄惨たる姿。異形なる者。その姿を白日のもとに晒すことなく戦うことができる學舎という場所は、津奈子にとては不幸中の幸いであった。
「……もしかしたら、私も」
それは晴天の空が作り出す學舎の影に吸い込まれたつぶやきであった。
あの華火舞い散る空の下にあった笑顔。
それはかつて己にもあったかもしれない表情であった。それはすでに喪われてしまってはいるけれど。
それでも恨む気持ちにはなれない。あの頃には戻れないという鬱屈した気持ちは、感情はこみ上げてくるかもしれない。
「それでも私は―――」
その先の言葉は大蚯蚓の顎が最後の影朧の兵士を骸の海へと還した瞬間、闇に途切れて消えた。
まだ華火は続いている。
これで全ての影朧は打倒された。あの笑顔を護ることが出来た。平穏を護ることができた。
その事実が津奈子の心に僅かな感情を波立たせたかも知れない。
「平穏を脅かしていい理由……そんなものはどこにもないのです」
その言葉は、幻朧戦線の耳には届かないだろうけれど。
それでも何度でも猟兵は立ちふさがるだろう。
平穏の価値を知る者故に―――。
大成功
🔵🔵🔵