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なんてすてきな海のせかい。

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●ゆらゆら、
 揺れる揺れる、波が揺れる。波に取られてゆらゆらと緑の葉が揺れた。
 一見なんでもない、ただ夜海に流された笹の葉たち。だがそれらは、水面に映る月を囲むように流れて崩れず、その場で漂い続けている。
 ただっぴろい水平線、穏やかな海。まるで平和そのもののような静かな世界―――。しかし、あるべきものが確かに存在しない世界。
「こまりました、こまりました……」
 呆然と月を見上げながら、譫言のように困ったとつぶやいている妖怪がいた。それもひとりふたりではない。何人もの妖怪が、水面から突き出した岩場に体を預けて途方に暮れている。
 彼らには共通点があった。ある者は髪に花が咲き、ある者は足先が根と化しており、ある者は―――そもそも体の半分が、樹木であるような。そう、彼らは皆、何某かの「植物の妖怪」なのだ。植物は潮水の下では生きられない。つまり、彼らが『海』に居るのはどう考えてもおかしい。自殺を図るようなものだ。しかし彼らはそこにいる。
「土よ、我らが故郷よ、受け皿たる『陸』よ―――いったい、どこに消えてしまったのだ」
 なぜ彼らがそこにいるのか。理由は簡単で、彼らがいるべき『陸』が、跡形もなく消え去ってしまったからだ。
 まるでカタストロフが起きてしまったような、陸で生きるものからしたら絶望でしかない、そんな世界。陸のない、『海洋の世界』が彼らの面前には広がっていた。
「ああ、どうしましょう……私たちのおうちは、どこにあるの……」
 ひとりの妖怪が、呆然としながら水面を覗き込んだ。空に昇る月が映りこんだ水面はゆらゆらとゆれている。ゆれるそこに、音もなく緑の笹舟たちが集まってきて―――。
「ぁ」
 ざぷん。
 小さな波音を立てて、ひとりの妖怪が海の中に飲み込まれた。彼女がいた岩場だけが月に照らされててらてらと光っている。
 妖怪が消えた水面に、また笹舟が浮かび上がって来た。ゆらゆら、ゆらゆらと。それらはまたゆれて水面月に紛れ浮かんでいる。

●『陸』を失った世界
「カクリヨファンタズム、忘れ去られた妖怪たちの住まう追憶の世界か……」
 そんな幽世で起きる事件の予知を携えてアメーラ・ソロモンは息をついた。見えた予知のスケールの大きさに、少し面食らったらしい。
「いやぁ、おどろいたよね。見渡す限り海しかない、アリスラビリンスみたいな幻想的な光景だったよ。恐ろしいのは……アリスラビリンスと違って幽世のすべてがそうなってしまったことかな。概念ひとつを消してしまうなんて、とんでもない話だよ」
 過去の追憶の世界ゆえに起きることなのかな……とぼやきつつ、アメーラは己の見た世界を投影魔法で宙に映す。まるで世界の終わりのような―――戦争で敗北し、カタストロフを起こしてしまったような、そんな光景が魔法越しに広がる。
「喪われた概念は『陸』。つまり、この幽世は海しかない世界だ。海自体はなんの変哲もないものだけれど、骸魂が飛び交っているせいで植物関連の妖怪がオブリビオン化の憂き目にあっている。ほらごらん」
 アメーラが指したのは海に飲まれた妖怪の姿。その妖怪が沈んだ先の水面には笹舟が浮かびゆれているが―――どうも、そのゆれ方が不自然に思える。
「浮き笹舟。水月に宿る妖だ。笹舟に関連してか、骸魂に触れた妖怪たちはこのオブリビオンに囚われている。すでにかなりの数がオブリビオン化しているうえ、まだオブリビオン化していない者たちを誘い込むのだからやっかいだよ。水流と、波に隠れた光刃による攻撃に注意かな」
 まずは囚われた妖怪たちの救助。それを第一目標とする。彼らはオブリビオンとして倒されれば解放され、なんとか岩場にしがみついていてくれるだろう。
「救助が終わったら……今回の首謀者を叩くとしよう。おそらく、猟兵たちが海で暴れていればおのずと姿を現してくれるはずだ」
 敵の予測がついているのだろう。投影魔法を打ち切りながらアメーラは予言書を開いた。輝く光が猟兵たちを幽世へと導いていく。
「今回は水中戦がメインになるからね、その用意は怠らないように―――さあ、胸の躍る戦いを、楽しみにしているよ」


夜団子
 カクリヨファンタズム初シナリオです! ノスタルジックな世界観をまるで活かせてない海中戦です。

●今回の構成
 第一章 妖怪たちが飲み込まれ変化したオブリビオン『浮き笹舟』を倒そう! 水面に紛れているうえ、陸がないので足場がほとんどありません! 工夫して倒そう!

 第二章 『陸』の概念を奪った首謀者を倒そう! 相手は海の中から攻撃を行ってきます。浮き笹舟と違い海中にいるので、水中に適応していない限りより一層の工夫が必要です。

 第三章 『陸』を取り戻した世界で妖怪たちが開く蚤の市を楽しもう。

 それでは皆様のプレイング、お待ちしております。
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第1章 集団戦 『浮き笹舟』

POW   :    月宵の抱擁
自身からレベルm半径内の無機物を【月光を纏う水流】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD   :    波渡りの嘆き
全身を【揺水の羽衣】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
WIZ   :    笹揺れの爪先
攻撃が命中した対象に【水に似た性質を持つ月光の輪】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【動きを阻むように絡み付く水流と紛れた光刃】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御門・アヤメ
歴戦の少女兵。命令優先で機械的だが、年相応な面もある。

空から海を眺め
「救出対象、および殲滅目標を確認」
「作戦行動、開始」
UCを使用。空間が捻じ曲がり水中用機械鎧、両肩両足に魚雷ポッドが装着される。
「バサルトフレーム、アクティブ」
機械鎧の上から、水中用にソナーやドローンを調整したアーマーを装備します。
「ヤークトユニット、アクティブ」
水中に突入すると同時に水中用ドローンを放ちつつ、レーダーなどで笹舟たちを捕捉し、魚雷を一斉発射します。
「いま、助ける」

水流攻撃は、両手で構えたレーザーブレードの制限を解除し超加熱した一閃で、水流を纏めて蒸発させる。
「リミッター解除、レーザーブレード・オーバードライブ」



 陸を失った世界。見渡す限りに広がる海はその異様さとは裏腹にとても穏やかだ。小さな波音を立てる水面に、ゆらゆらと笹の葉が揺れる。それらを見て、岩にしがみつく妖怪たちはおびえたように表情を歪めた。
「救出対象、および殲滅目標を確認」
 そんな幽世に少女の機械的な声が響く。
 全身に包帯を巻きその傷口を隠した少女、御門・アヤメ(異界の魔導兵器・f17692)は空中に留まりながら目下の妖怪たち、そして水面に漂う笹の葉たちを視認した。その被害、そして敵の規模を計りながら彼女はその手を宙に掲げる。
「作戦行動、開始」
 ぐにゃり、と彼女の周囲の空間が歪み、捻じ曲がる。本来そこにはなかったはずの装甲、それがアヤメの体へ装着されていく。水中での戦闘を補佐する水中用機械鎧がその体を覆い、肩と足には魚雷ポッドが現れ装填された。
「バサルトフレーム、アクティブ」
 さらにその上から装着されたアーマーには水中用に調節されたソナーとドローンが搭載されアヤメの死角をなくすように稼働を始める。その稼働を確認し、アヤメはもう一度落ち着き払った声で呟いた。
「ヤークトユニット、アクティブ。フレームチェンジ『ヴェルフェン・バサルト』完了」
 ザブンッ、と波が立ち、アヤメの体が水中に滑り込む。大きく揺れた水面から敵の気配に気が付いた浮き笹舟たちは、ただ漂うのをやめてその鋭い爪と攻撃の意思を露わにアヤメへ襲い掛かった。
「殲滅目標、捕捉。魚雷、発射用意完了」
 彼らの迫りくる圧に動揺することもなく、アヤメは冷静さを保ったままその魚雷を浮き笹舟たちへと向けた。彼らが回避行動をとることも踏まえ、最も効果的な発射タイミングを見計らい、引き付ける。
「いま、助ける」
 そしてその魚雷たちが一斉に発射される一刻前、アヤメの小さなつぶやきが水中にこぼれた。
 水中には遮蔽も、体を留めるためのよりどころもない。ゆえに浮き笹舟たちは己のスピードを緩めることができず、殺到する魚雷から逃れることができなかった。どうにか泳ぐ方向を変えた者も、魚雷の持つ追尾能力によって回り込まれる。
 ―――ッ、ドォォォォン……
 けたたましい爆裂音と共に、いくつもの水柱が海上に撃ちあがった。直撃した浮き笹舟たちは霧散し、その形を保つことができなくなっていく。オブリビオンから逃れた妖怪たちは次々と海面を目指して昇っていき、岩場へへばりついた。
 だが未だ、浮き笹舟としての形を保っている者たちもいる。彼らはその周囲の水流を、散った笹舟を、月の映る水流に変えてアヤメへ向けた。
「リミッター解除」
 対するアヤメは両手に構えたレーザーブレードをクロスに重ね、その刃にかかった制限を解除する。それは、肉体を保つためにかけられたリミッター。それを外された最大出力は、超加熱という形でもって刃に宿る!
「レーザーブレード・オーバードライブ!」
 振るわれたその一閃は、襲い来る水流ごと浮き笹舟たちを蒸発させ、一瞬周囲の海水をすべて、切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心中)マッジで不安定だなオイ。ちょいと目ェ離したすきに滅びかけてンじゃねェか。スナック感覚でカタストロフすンなィ。マ・それはそれ。救助ねェ。救いの神じゃアねえもんだから、なかなか難しいとこだが…サテ・どうするか。
行動)デケェ《鳥》に乗って海の上へ。水流避けも含めて高いとこまであがる。岩場がある。つまり『陸』は消えても『海底』は残ってるってェワケだ。なら『地属性』の『隆起』で小島でも作ッかね。真ん中ンとこに避難すりゃ、水の手からも逃げられンだろ。大波で来られンよう結界も張るからさ。結界壊そうと本体が姿見せンなら、《虫》たちで刺して《毒》を流し込むよ。ああ、海に広がらねェよう気ィつけるさ。



(マッジで不安定だなオイ。ちょいと目ェ離したすきに滅びかけてンじゃねェか。スナック感覚でカタストロフすンなィ)
 半ば呆れたように笑いながら、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はゆっくりと烟管をくゆらせた。巨大な鳥の背に胡坐をかきながら見下ろす世界は、まさに終焉といった様子だった。少なくとも、植物を冠する妖怪たちが生き抜くのは難しいだろう。
(マ、それはそれ。しっかし、救助ねェ。救いの神じゃアねえもんだから、なかなか難しいとこだが……サテ、どうするか)
 水流の届かぬ空に陣取りながら、逢真は思案する。神は神でも逢真は“減らす側”の神だ。助けを求める者へ救いの手を差し伸べるのは慣れていないしその術も持ち合わせていない。ならば猟兵としてどうするか———しばらく考えたのち、不意にその視線が眼下の妖怪たちに注がれた。
「岩場……あァ、そうか、岩場がある。つまり『陸』は消えても『海底』は残ってるってェワケだ」
 思いついた妙案にニィと口端を吊り、逢真はパチンと指を鳴らした。操るは地……陸ではない、『海底』。岩場があるのなら、同じように海底を隆起させて大きな岩場を作れるはずだ。
 逢真の力を受け、海底が大きく隆起する。ザバァッ、と海水を分けて突き出した岩肌は、今まであったそこらの岩場よりもずっと大きく、広かった。逢真の鳥たちによってその岩場に運ばれた妖怪たちは、我先にと中央へと集っていく。
「小島でも作ッかと思ったが、これ以上は無理かィ。マ、これでも十分か」
 逢真の思うように小島が創られなかったのはこの世界から失われたのは『陸』ではなく『陸の概念』であったため。陸だと認識できるものは現時点の幽世には存在できず、ゆえにあくまで“岩場”の範囲に収まった。それでもこの巨大な岩場ならば、妖怪たちが水面におびえ続けることもなくなるだろう。
 集った妖怪たちを守るように、逢真の結界が岩場を覆う。水流を大きな波に変えて打ち寄せる浮き笹舟は、その体と水流を簡単に阻まれて海へと投げ返された。逢真の手によって張られた結界は浮き笹舟の光刃さえ弾き、キンキンと嫌な音を立てる。獲物が見えるのに手が届かない状況に業を煮やしたか、ざばりと音を立てて浮き笹舟がその身を海上に晒した。
「結界があるってわかったら、壊したくなるもんだよなァ。待ってたぜェ」
 立ち上がった浮き笹舟の体がびくりと止まる。その体の周囲には小さな虫がまとわりつき、その体に隠された針が浮き笹舟のわずかな体に突き刺さっていた。
 陸が失われた不安定な幽世であれど、疫病や毒は簡単に蔓延する。例え陸を駆る獣がおらずとも、空には鳥が、毒雨が、虫が。水中にも魚が、水獣が。簡単に病と毒を運んでしまう。どんな世界であれどそれは理であり———だからこそ逢真の任が終わる日はない。
「ああ、海に広がらねェよう気ィつけないとなァ」
 その口と烟管から毒霧を吐き出しながら、逢真は何とはなしにつぶやいた。毒に侵された浮き笹舟はオブリビオンとして死に、揺蕩っていた笹は沈んでいく。救出された妖怪をまた岩場に放り込みながら、逢真は静かな海を見下ろしていた。
「……サテ、今回の元凶はいつ出てくンのかねィ」
 クツクツと、その口に笑いを含みながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェイ・ランス
【WIZ】※連携、アドリブ歓迎
心情:
いやー、ここがカクリヨかあ、じめじめしてるし辛気くせーなここ……いや、水場だからか?
お、めぐるちゃん(f02594)久しぶり~。じゃ、先鋒ヨロロ!!(ニコッ☆)

―――ん。情報提供ご苦労さん。じゃ、殲滅しますかあ!

戦術:
終夜・還と自身に"重力制御術式"による防御補助(【オーラ防御】)を掛けつつ囮にし、【世界知識】から相手を【情報収集】。UCによる無敵モードになった後に、多数の"ガトリング砲"や"レーザーシャワー"による反撃(【鎧無視攻撃】【制圧射撃】【蹂躙】【呪殺弾】付与)を開始。一気に制圧します。また、還からのハッキングに応じ、それとなく情報提供します。


終夜・還
ジェイ君(f24255)居るじゃーん
俺と連携してかなーい?

偶々其処に居たジェイ君と共闘するよ

魔力で魔紋を描き無酸素詠唱として本を召喚
死霊を喚び出すのもその手順

え、メインジョブ術士の俺がタンク?
ま、ガチにやってくれるみたいだししゃーねえなやってやるよ★
チャラけた受け答えだが動きを見てりゃ誠実さは伝わるだろ
仕事はきっちり熟す派なんだ俺

ユベコ無効化ゾーンを形成
読心術、挑発に言いくるめ…言葉巧みに敵視を維持しよう
結界術は身を護ると同時に挑発に運用するよ★勿論流れ弾も許さない♥

んで準備が整ったジェイ君にハックして読心
情報引き出すとかじゃなく合わせて欲しい事を伺う感じ

ジェイ君の攻撃に呪殺弾を合わせるぜ



「いやー、ここがカクリヨかあ、じめじめしてるし辛気くせーなここ」
 ぽりぽりと頭を掻きながらジェイ・ランス(電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255)は小さくそうぼやく。重力と引力の概念を制御するプログラム術式———“重力制御術式”によって宙に立った彼は初めてやってきた幽世を一度ぐるりと見渡し、すぐ下の海でその視線を止めた。
「……いや、水場だからか?」
 そうつぶやいたのとほぼ同時に、ジェイは後方から聞こえた覚えのある声に振り返った。
「おーい、ジェイ君居るじゃーん。俺と連携してかなーい?」
「お、めぐるちゃん久しぶり~。連携? もちろんいーよ!」
 たまたま戦場に居合わせた終夜・還(終の狼・f02594)に気が付き、彼も重力制御術式の対象に組み込む。ふわりと浮かぶ感覚に還は戸惑うことなく宙へ歩みだし、自然にジェイと肩を並べた。
「情報収集したいしオレとしてもありがたいわ~。じゃ、先鋒ヨロロ!!」
「え、メインジョブ術士の俺がタンク?」
 逆じゃね、と言いつつ還に腰が引けた様子はない。チャラけた言い方で互いに茶化しながら最後には囮となることを承諾した。そういった立ち回りは、むしろ還にとって得意とするところである。
「ま、ガチにやってくれるみたいだし、しゃーねえなやってやるよ★ 仕事はきっちり熟す派なんだ俺」
「知ってる知ってる、助かるなあ~。んじゃ、情報収集開始っと」
 ジェイが“事象観察術式”を稼働させるのとほぼ同時に、還は水中へと急降下した。なんのためらいもなく飛び込みながら、還の指は宙に紋を描く。己の魔力をインクに描くそれは、召喚魔術のための魔紋。何もない空間からその手に、一冊の本が現れる。
(さァ、現世の時間だ、踊り狂え!)
 水中で声を上げることなく、還は魔紋で死霊たちを召喚する。記憶の書を媒介に喚ばれた死霊たちは、還の周囲にまとめて穢れをふりまく。
「ほォらお前らのステージに来てやったぜ? かかってこいよ」
 水面から顔を出し、クイ、と指を曲げる。明らかな挑発の仕草に、ざばりと数体の浮き笹舟がその体をあらわにした。
「おっとあっぶね★」
 襲い掛かる爪の攻撃を巧みに避けながら、還は挑発を止めない。周囲の敵視をすべて自分に集めるように———間違っても、上空で情報収集のため無防備なジェイにその攻撃が向かないように、ふるまい続ける。
「おっと」
 振るわれた爪を結界術で阻み、受け流す。しかしそうしたことで還の頭上には光り輝く輪っかのようなもの出現した。ゆらりと揺れるその輪っかは、どこか水面と様子が似ていた。
「なんじゃこりゃ」
 その輪っかを持つ還に向かって水流が襲い来る。しかしその追撃は還のいる穢れの空間に入ったところでかき消され、その中に隠されていた光刃も同じように弾けて消え失せた。
(あー、ジェイ君、今のナニ? もう情報収集終わっただろ?)
(———ん。情報提供ご苦労さん。今のは攻撃に指向性を与えるタイプのバフかなあ)
 視線をジェイの方に向けることもなく、還は脳内で彼に問いかける。ジェイは当たり前のように答えながら、情報収集終了と言わんばかりに“事象観察術式”を片付けた。
 意識のハッキング。それもテレパシーのように言語野だけを繋げたそれにより、還とジェイは互いを意識せずとも情報を交換することができていた。無論還の仕掛けたハッキングにジェイが応じたからこそできた芸当だが……まさしく“以心伝心”となった二人は、ついに攻勢に動き出す。
「じゃ、殲滅しますかあ!」
 ジェイの体からまた新たな概念プログラムが発動する。それは明確に浮き笹舟———否、浮き笹舟の攻撃に対して放たれ、その概念を書き換えていった。浮き笹舟の攻撃は『ジェイ・ランスを攻撃対象外にする』という概念を書き加えられたために、彼を傷つけることが出来なくなる。
 そうして実質無敵状態となったジェイは電脳空間からガトリング砲とレーザーシャワーを召喚する。無数に表れた銃口が揺れる笹舟たちへ向けられ、その照準が彼らを捉えた。水流に紛れる彼らの姿も、たっぷりと情報を集めたジェイならば捕捉も容易だ。
 ジェイがその手を振り下ろすのと同時に、銃口が一斉にきらめいた。撃ち放たれた銃弾は海に撃ち込まれ、波を引き起こしながら浮き笹舟たちをバラバラに砕いていく。もだえ苦しむように蠢く彼らの爪が、不意に空を掻いた。
「よォっと」
 その爪を一撃で撃ち抜き、還はガジャンとその魔銃を装填しなおした。込められた次の魔弾が、また次の敵を狙う。
 空中からはジェイの弾幕が、横の水面からは還の呪殺弾が、それぞれ浮き笹舟を狙う。完全に攻撃を封じられた彼らは、そこから反撃をすることもできずに、はじけ飛んで消えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

曙・ひめ
ふふふ……まさか、このネタ武器を使う時が来るとは!
わたくし自身が一番驚いています
さあ、レッツハンティング!

浮き笹舟を【水上歩行】しながら【おびき寄せ】て、【先制攻撃】で投網(籠ノ中ノ鳥)を【投擲】しますね!
敵を【捕縛】しちゃいましょう!
籠の中の鳥もとい、籠の中の笹舟です!

笹舟たちを捕まえたら、UCを発動させます
そのまま薙刀で一気に【なぎ払い】ますね!
わたくしの近くに居る限り、薙刀の猛攻からは逃げられません!
それに藻掻けば藻掻くほど投網が絡みついて、抜け出せなくなってしまいますよ?(【継続ダメージ】)
笹舟たちの攻撃は、【第六感】で予想して躱しますね。



「ふふふ……まさか、このネタ武器を使う時が来るとは! わたくし自身が一番驚いています」
 曙・ひめ(桜花爛漫の戦巫女・f02658)はその眼鏡をキラリと輝かせて“それ”をしっかりと持ち直す。針金で編まれ強い耐久を保つそれ———『籠ノ中ノ鳥』と名付けられた“投網”を、まさか使う機会がやってくるとは。作ったはいいものの今まで活かせていなかったこの武器を手に、ひめはルンルンと水上を歩く。
「さあ、レッツハンティング!」
 狙いはもちろん、浮き笹舟。彼らは水面に映る月に集うようにして漂っているので———先制攻撃で思い切り網を投げつけてやれば、一気にかなりの数を捕縛することができる。
 他の猟兵たちが数を減らしていたのもあり、残った笹舟たちはまとめてその投網に掛けられる。そのままぎゅっと絞ってしまえば、海水は網の隙間から逃れ捕まるのは浮き笹舟のみ。
「籠の中の鳥もとい、籠の中の笹舟です!」
 無論捕らわれた浮き笹舟たちはその爪を振るって暴れるが、硬い針金を断つことはできず。静かだった水面は嵐が起きたように荒れ、いくつもの白波が立ち、水しぶきがあがる。それでも投網は彼らを離さず、動きを留めていた。
「藻掻けば藻掻くほど投網が絡みついて、抜け出せなくなってしまいますよ? では一気に終わらせます!」
 網に捕らわれた浮き笹舟たちに対し、ひめは薙刀『春雷』を掲げた。その大振りの刀身は月明かりに照らされキラリと光り、そして一息で振り下ろされる。
 豪快に振り下ろされたその一撃は浮き笹舟たちの体に深い傷を与えた。ざっくりと裂かれた傷は仄かに白く輝き、どんなに水流に逃れようとも自身の位置を知らせ続ける。投網は攻撃の拍子で緩んだものの、暗い海のなかでその傷はあまりにも目立った。
 そこへ目がけて、ひめは容赦なく薙刀を振るう。何度も何度も、繰り返し繰り返し。
「逃がしません! 文字通り、お縄です!!」
 ズタズタに引き裂かれた浮き笹舟たちはせめてもの反撃にその爪先を網の間からどうにか突き出した。そこに攻撃が来るという勘を元に、ひめは体を翻す。しかし攻撃していたのもありひとつの爪先が彼女の薙刀を掠った。
 ひめの頭上にぼう、と月光の輪が現れる。薙刀で斬ってもそれは水面のように揺れるだけで、消えることはなかった。
 月光の輪を付与されたひめに水流と光刃による攻撃が襲い掛かる。攻撃軌道を予想し避け、時には薙刀で弾いてひめは応戦した。その合間にも目を光らせ、隙をみつけて輝く傷目がけて刃を振り下ろす!
「ここからは皆さんとわたくしとの勝負ですね……! わたくしの連撃、躱せるとお思いでしょうか?」
 決意を強くこめてひめは薙刀の柄を握りなおし、水面を強く踏みしめた。
 襲い来る水流を一気に薙ぎ払い、隠れた光刃は皮膚を裂く前に勘を持って避け。そうしてできた隙にすかさず薙刀を振り下ろす。それをまた何度も繰り返しながら、ひめは一体一体浮き笹舟たちを片付けていった。

 しばらく経ったのち、ひめは水上に佇んでいた。その周囲には笹の葉がちらばり、そして沈む。不自然に月を囲う笹舟たちはもう、どこにもいなかった。
「勝ちました……!」
 肩で息をしながらひめは拳を握る。救われた妖怪たちは岩場にしがみつきながら、その小さな背に尊敬と感謝の視線を注いでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『偉大なる海の守護者』

POW   :    深海の歌
【津波を呼ぶ歌】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    海の畏れ
【他の海にまつわる妖怪を吸収する】事で【鯨の鎧を強化した形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    災厄の泡
攻撃が命中した対象に【祟りを引き起こす泡】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【恐怖による精神ダメージと祟り】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はペイン・フィンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ────深海より、“それ”は来る。
 海を害するすべてのものを葬るため。海に属するすべてのものを護るため。
 “それ”は正しく、古今東西すべての海を護る者たちの集合体。
 海を護る妖がいた。彼は忘れ去られる前に、己の眷属たちを取り込んで消滅に抗った。
 すべては海を護り続けるため。それはうまく行ったように思われた。
 だからこそ“それ”は想った。すべてが海ならば、生き物すべてが海に還れば。この手ですべてのものを護れるのではないか─────と。
 ゆえに奪った。『陸』という概念を。ゆえに招いた。『陸』に属する者たちを。
 ゆえに────“それ”は怒っている。招いたものたちを解放する猟兵たちを。せっかく作った海の世界を、自分が護る海の世界を、壊そうとしている彼らを。
 同時に憐れんでもいた。だから“それ”は畏れと災厄を持って猟兵たちへ迫らんとしている。猟兵たちもまた、自分の護る世界に引きずりこもうと────。
「愚かな、人間よ。愚かな、妖たちよ」
 私が、未来永劫、護ってやろう。

 “それ”に名はない。ただ“それ”を指し示すのであれば、人間はこう名付けるだろう。『偉大なる海の守護者』と。

 守護者は深い海中を自由に泳ぎ回る。その歌と力で海の中からでも海上へ攻撃をしてくる反面、海上から攻撃しても守護者に当てることは難しい。確実に攻撃を通すためには守護者のホームグラウンドである海に入ることが必要だ。
 無論人は海中で息ができず動きも制限される。そのディスアドバンテージをどう乗り越えるか。その工夫なくしては戦いにもならないことだろう。
終夜・還
しゃーねーなぁもっかい前出てやんよ
ジェイ君(f24255)のご要望通り、前章と同じで敵視を俺が全部受けよう

水の中での戦闘術なんて俺には無いんだけどその代わり穢れを纏う様にして敵のUCを無効化するフィールドを俺とジェイ君に付与
ま、あとはジェイ君の対処方もあるしイケるでしょう

あとは水中での無酸素詠唱と高速詠唱の合わせ技★
魔紋から呪殺弾を弾幕の様に敵に浴びせ続けるよ
ほら余所見してる暇はないぜ?水中で上手く動けない俺が健気に抵抗してんだ、俺だけを見て♥なんつってェ

ちな俺は祟りは怖くないんだよね職業柄
狂気耐性も呪詛耐性も高いですしおすし
ま、でも念には念をってね

さージェイ君やっちゃえ!俺も勿論加勢するぜェ


ジェイ・ランス
【WIZ】※連携、アドリブ歓迎
心情:
いやー、めぐるちゃん(f02594)がいると楽でいいや~
首謀者も出てきたことだし、引き続き相方ヨロロ!!(テヘペロ☆)
場は、オレが作ってやっからよ!
「Ubel:Code Anfang_fon_Ende Dame.」
祟りね……なんだかわからないから怖いのであって、可視化できたら、さてどうかなー?

戦術:
UCによって、自身の周囲の海中の性質を変化。電脳の海とさせ、"事象観測術式"とあわせて祟りを可視化、避けられるようにします。
"慣性制御術式"と"重力制御術式"を自身と味方に付与、電脳の海を自由に航行できるようにした後に、全武装を電脳の海に直接投影、【蹂躙】します



 海中を悠々と泳ぐ『偉大なる海の守護者』。その強大な姿を見つつ、二人の猟兵は守護者を討つべく作戦を練っていた。海中で立ち回る戦闘術を持ち合わせていない二人。それならばどうこのハンデを覆すのか。———簡単な話、『不利な空間』というもの自体をひっくり返してしまえばいい、というのが二人の見解だった。
「いやー、めぐるちゃんがいると楽でいいや~」
 呑気な声で笑うジェイ・ランス(電脳(かなた)より来たりし黒獅子・f24255)に終夜・還(終の狼・f02594)は肩をすくめて苦笑した。テヘペロ☆と緊張感のないやりとりこそしているが、二人に油断はない。
「首謀者も出てきたことだし、引き続き相方ヨロロ!! 前出てくれると嬉しいな~って」
「しゃーねーなぁもっかい前出てやんよ。もっかい全部受けてやるからあとは頼むぜ?」
「オーケーオーケー、場は、オレが作ってやっからよ!
 対『浮き笹舟』戦と同じように、還が前衛で囮となる作戦。ただいたずらに水中に飛び込むのであればそれはただの無謀であったが……還にもジェイにも、この状況を変える力があった。
(水の中での戦闘術なんて俺には無いんだけどー……)
 先ほどと同じく紋を描きながら、還は死霊たちを召喚する。己とジェイに死霊の放つ穢れを付与し、相手の力を阻害するフィールドを作り上げた。……お化けが苦手なジェイは少し震えていたが、それはそれ。
「穢れだと……海を不浄なるもので汚すか、人間」
 守護者としてはやっぱ看過できねー感じ? ま、海とそれ以外としか考えられないお前みたいなのには何言っても無駄だよなァ。
 言葉の出せない水の中で、それでも還はせせら笑う。何が偉大か、何が守護者か。職業柄もとより祟りは怖くないが———コイツ相手ならば、なおさら怖くともなんともない。
 言葉にならない、紡がれない挑発は、それでもしっかり守護者には届いたようで。守護者はその端正な顔をヒクリと歪めて口を開けた。
 ごぽ、ごぽ。
 その口からあふれるのは泡。一見何でもないように思える、ただのあぶく。だが還の脳内で死霊術士としての直感がうるさいくらいに警鐘を鳴らしていた。
 ———あれはマズい。恐れていなくとも、肌が粟立つのを直に感じる。
「海の怒りに触れよ、愚か者———!」
「———Ubel:Code Anfang_fon_Ende Dame.」
 守護者と還、二人の間に二人とは違う“声”が響き渡った。守護者は驚愕に目を見開く。そして還は対照的に、その目を細め笑った。
 ぼう、と生まれた深海よりも深い闇は守護者へ直撃こそしなかったものの、そのまま還と守護者周囲の環境を一気に変化させた。己の慣れたはずの海が見知らぬものになる驚きと怒りと恐怖と、ないまぜになった感情を守護者は顔に乗せる。
「祟りね……なんだかわからないから怖いのであって、可視化できたら、さてどうかなー?」
 水中でありながらジェイはケラケラと笑って見せる。その姿は“ここはもうジェイのテリトリーである”ことを如実に表していた。ここ一帯の海中は既に、ジェイの電脳の海へとその性質を変化させられている。そして性質を変えられたのは、本来不可視であるはずの“祟り”も同じ。
「おー、祟りって形にするとこんな感じになんの? それともジェイ君が勝手にかたどった?」
「そーそーゴメイトー☆ オレのイメージで可視化したから本当にこんな感じなのかは知らん!」
 もやもやと絡み合うような黒煙……またはクレヨンの塗りつぶしのような黒塊……そんな姿を投影された祟りは、こうして見ればただの波状攻撃である。人は理解が及ばないものを恐れる。ならば、それが目に見える……それも猟兵であれば見慣れた“ただの攻撃”になってしまえば?
「っ、海に、我らが母なる海に、何をしたァッ!!」
 怒りの咆哮をあげて守護者は牙を剥く。その標的が向くのは海を術式によって書き換えたジェイ———
 襲い掛からんと爪を振り上げた守護者へ弾幕のように呪殺弾が降りかかる。それを避けるため守護者は軌道を変更し、大きく旋回してジェイたちから距離をとった。
「ほら余所見してる暇はないぜ?」
 立ち上る魔力の残滓をかき消し、次の魔弾を込めながら還は笑う。その周囲には複数の魔紋が浮かび上がり、照準を守護者に向けていた。もう一度銃口を向ける還を、忌々しそうに守護者は睨みつける。
「水中で上手く動けない俺が健気に抵抗してんだ、俺だけを見て♥ なんつってェ」
 ふざけたような声色。だが、還を倒さねばジェイにたどり着けないのは明白で。守護者はギィ、と歯ぎしりを鳴らした。
 電脳の海であるこの場所でジェイが自由に動けない道理はない。守護者にとっての海のように、ここはジェイのホームグラウンドであるのだから。ならば還は? その答えは単純で、ジェイの“慣性制御術式”と“重力制御術式”によって自由に航行できるように補助されていた。つまるところ今の還にとってもここはホームグラウンドに近い。だからこそ先ほどと違って言葉を放てる。……水中でうまく動けないとは、いけしゃあしゃあと言って見せたものだ。
「全武装を直接投影。蹂躙を開始します」
 事務的な、機械アナウンスのような声色でジェイが宣言すると同時に、彼の持つ武装……ガトリング砲やレーザーなどの武具が一斉に現れた。その銃口は無論守護者にすべて向けられており、さしもの守護者もたじろぐ。それは、己のホームであるはずの戦場がめまぐるしく変わったことに適応しきれていない証左であった。
「さージェイ君やっちゃえ! 俺も勿論加勢するぜェ」
 銃口が、魔紋が、すべて守護者に向けられる。その威圧感をもってもなお、守護者は怒りをこめて還たちを睨みつけていた。その尾鰭を強く揺らし、体を翻す。
 まるで“当ててみろ”と言わんばかりの様子。そんな守護者の挙動に、ジェイと還は揃って口端をあげた。
 逃がすわけがない。
 先ほどよりも濃密で威力も高い本気の弾幕が、一斉に守護者へと襲い掛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)てめぇがマジで“いのち"を守れるンだったら、俺ァ喜んで任せたンだがなァ。まったく守れてねェどころか奪ってンだから始末に負えねえや。マ・その愚かさもかわいいけどな。思い込みにとらわれてのぼせ上がっちまう。いやぁヒトにそっくりだ。おかわいいこと。
行動)ヒトは水中じゃ不自由する。ああそのとおり、まったく道理だ。俺は神だが《鳥》に乗って空にいよう。空は鳥の領域、海からの攻撃を避けるなんて造作もねえさ。かわりにお行き、俺の《仔》たち。魚の群れを引き連れて、8体で追い詰めるもよし。合体して食い散らすもよし。こいつらは海にまつわらんでなァ、吸収は出来まいよ。鎧ごと噛み砕いておやり。



「てめぇがマジで“いのち"を守れるンだったら、俺ァ喜んで任せたンだがなァ」
 悠々と変わらず———巨大な鳥に胡坐をかき、空を揺蕩いながら朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はゆっくり煙を吐く。守護者と名乗るモノ———それが本当に守護者と呼べるモノであったのであれば。逢真がこうして終わりを届けにくることもなかっただろう。
「マ、その愚かさもかわいいけどな。思い込みにとらわれてのぼせ上がっちまう」
 海の守護者を自任すること、そしてその役割を果たしていたこと。それらのことが彼を驕った考えに行きつかせてしまった。己はすべてを護れると。すべてが海ならば、すべてが己のテリトリーならば、自分は絶対の守護者になりうると。それを思い込みと言わずしてなんと言う。
「いやぁヒトにそっくりだ。おかわいいこと」
 おそらく守護者が耳にしたら怒り狂うであろうことを口にしながら、逢真は烟管を揺らした。彼は未だ空の上、海に寄りつく気配も見せない。その代わりふうと息を吐いて、眷属たちを幽世に召喚する。
「ヒトは水中じゃ不自由する。ああそのとおり、まったく道理だ。———だから、かわりにお行き、俺の《仔》たち」
 烟管から生まれた毒霧。そこから現れるは九十もの眷属たちと八つの爛々とした対の瞳———その太く長い体をくねらせる大蛇たち。猛毒を持ち、水を操る大蛇はひと欠片のためらいもなく海の中へと飛び込んだ。それに眷属たちも続き、魚の群れを引き連れる。
 相手が祟りを生む海の守護者ならば———逢真は病毒、そして厄災を司る神なのだ。そしてその手は、簡単に海へも伸ばされる。
「酒は終わったらな」
 なんてこともないようにつぶやかれたその言葉で、眷属たちは堰を切ったように守護者へ襲い掛かった。大蛇は水流の操作を守護者から奪い取り、鋭い牙でその体へ食らいつく。猛毒を流し込まれた守護者はその顔を歪め、払うように全身と鰭を大きく振り回した。そんな海の主を逃さぬよう、眷属たちが間髪入れずに群がる。それに伴ってやってきた魚たちを見て、守護者は一度息をつき、言葉を吐いた。
「海と、海に属するすべてのものよ。我に力を、ヒトへ畏れを与うるための力を貸せ———」
 それはおそらく、かつての守護者の眷属であったものであろう。現れた海に属する妖怪、そして逢真の眷属に引きつられていた魚たちを、その身に吸収し守護者の鎧が鋭く形を変えた。その身に宿った力を振るい、守護者は今度こそ眷属たちを振り払う。
「空ならば逃れられると思うたか!」
 守護者の矛先は海の上。鳥に乗り空から眺めている逢真だ。その手を伸ばし水中から逢真を狙う。
「おォ、気張るねィ」
 クジラの潮吹きのように、鋭い勢いで水流が吹きあがる。まるで水の刃がせり上がったようなその一撃を、逢真を乗せた鳥は寸でのところで避けた。軽く掠った場所から羽根がひらひらと落ちる。空を大きく旋回しながら、逢真は体を乗り出し改めて海を覗き込んだ。
「オヤオヤおいたをするじゃァないか。それでも海にまつわらん奴らは吸収できなかったなァ。おまえたち、鎧ごと噛み砕いておやり」
 ふい、と烟管を振るのと眷属たちがより一層の殺意を守護者へ向けるのはほぼ同時で。眷属たちは合体してキメラのごとき怪物と化し、八つの大蛇はその長く太い体を使って守護者の退路を塞ぐ。その毒牙が守護者の鎧を砕き肉をまた貫くのは、そう遠くない先の話だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御門・アヤメ
「最終目標確認。戦闘開始(エンゲージ)」
武装ポッドから魚雷を全弾発射、耐圧重装甲で防御態勢を取りつつ、周囲に放った水中用ドローンから情報収集し通信システムで味方との情報共有。
「敵の攻撃データ、解析完了。自軍へ送信」
情報共有が完了次第、ヤークトユニットをパージ。
「魚雷では不足、近接戦へ移行。ユニットチェンジ」
水中機動用に調整した武装を呼び出す。
「シュトルムユニット、アクティブ」
武装ポッドもパージし、敵へ突撃。
「海の守護者よ。あなたの理想はすでに狂っている」
津波を見切り残像で避けつつ、その勢いのままレーザーブレードを敵へ突き刺す。
「これで終わらせる」
リミッター解除し、光の刃で体内から焼き切ります。



「最終目標確認。戦闘開始(エンゲージ)」
 少女の鈴を転がすような、それでいてどこか機械的な声が海中に響き渡る。水中戦に適した耐圧重装甲機械鎧に身を包み、御門・アヤメ(異界の魔導兵器・f17692)は戦場へと再度躍り出た。
 先の戦いで一度空っぽになった武装ポッドは新たに中身を装填され、ぎっしりと魚雷が、詰められている。海の守護者と相対したアヤメはグッと息を詰め、その照準を合わせる。
 一斉に放たれた魚雷は海を裂き波を超え、それぞれの軌道を描いて守護者へと迫った。対する守護者も海中を泳ぎ旋回することで魚雷の追尾を振り切る。しかしそれはもとより囮であった。
「敵の攻撃データ、解析完了。自軍へ送信」
 一斉に放った魚雷によって戦場を掻きまわし、守護者の注意を釘付けにする。そしてその間に飛ばした水中用ドローンによって、アヤメは敵の行動パターンを収集していた。情報収集、および共有が終わるとバシュンと音を立ててヤークトユニットが切り離される。それはそのまま、ゆっくりと海中へと沈んでいった。
「魚雷では不足、近接戦へ移行。ユニットチェンジ」
 新たに表れるのはメインとサブのブースター。推進力を与えるそれは水中機動用に調節されており、海中での素早い移動を補助する。その片手に構えたレーザーブレードが水上から差し込む月明かりを受けて輝いていた。
「シュトルムユニット、アクティブ」
 武装ポッドも捨て、アヤメはその瞳を守護者へと向ける。その視線は力強く、勝つという絶対の意思を感じさせた。魚雷を避けきった守護者も、それが囮であったことに気が付き敵意をさらに研ぎ澄ましていく。
 だがもう時間稼ぎは必要ない。あとは決着をつけるだけだ。
「海の守護者よ。あなたの理想はすでに狂っている」
 淡々と、それでいて確信を込めて。アヤメは真実を告げた。それを守護者が認めるはずもないとわかっていながら。
「……私は、私の理想は。狂ってなどいない」
 ———私の護る海こそが、世界の平和の在り方なのだ!
 アヤメの予想を裏切ることなく、守護者はそう吼えた。同時にその声は、波を、海流を———津波を呼ぶ、人魚の歌と化す。
「すべてを押し流し、引きずりこめ————美しき、我らが海よ!」
 海中が一気にかき混ぜられ、沖へ引きずり込むように波が立つ。当然海中の戦場もその影響を受けるが、アヤメは装備したブースターで素早く水中を移動した。並みの勢いであれば津波に負けてしまう。ならば、その出力を上げるまで!
 ———疑似血液内の高濃度エーテルの過剰供給を確認。リミッターを、解除いたします。
「これで終わらせる」
 肉体の崩壊リスクを抱えて、アヤメは水中を駆ける。先ほどの機動より数倍に跳ね上がったアヤメの速さに、守護者はただ目を見張った。そのすくんだ決定的な隙を、アヤメが見逃すはずがない。
「か、ハ」
 レーザーブレードが守護者の腹に、鎧を貫通して突き刺さった。そのまま光の刃は守護者の体内を焼き、内側からその身を壊していく。焦げた煙を満たしたような黒い泡が、守護者の口から吐き出され水面に昇っていった。
 ———私はただ、皆を、護りたくて。
 その言葉を、後悔を、含んだ黒き泡は水面で弾けて消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『骨董ガラクタ蚤の市』

POW   :    値下げ交渉をしてみる。

SPD   :    面白い物を探して歩く。

WIZ   :    珍しい掘り出し物を探す。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 黒幕『偉大なる海の守護者』は滅された。それは、彼の奸計により奪われ失われていた概念『陸』が幽世に取り戻されることを意味する。
 幽世に広がっていた海は分断され、ひどく見慣れた『陸』がまるで何事もなかったかのように猟兵たちの前に広がっていた。開けた砂浜、その奥に広がるのは茂る森……助け出された植物の妖怪たちが嬉しそうにその場を駆け回っている。空には変わらず月が輝き、照らされた海は穏やかに波音だけを立てていた。
 戦いは終わり、もはやここは戦場にあらず───すわ滅亡かと思われた幽世は、確かに救われたのだ。
「なあなあ見てくれよ! これ、海に引きずり込まれたときに見つけたんだけど……」
「あ、あ。私も、こんなものを見つけたんです。すてきなものがたくさんですね」
「ふむ……我もこのようなものを拾ったのだが……よければ、それと交換してはくれぬか?」
 一難去れば、楽しいことをしたくなるのが人情、いや妖情というもの。悲しいかな不安定を極めた幽世に住む妖怪たちはこうした天変地異には軽く慣れてしまっていた。だからこそ、楽しめることがあれば飛びついて精一杯楽しむのだ。
 ひとり、ふたりと集まっていた妖怪たちはそのうちに、砂浜に布を敷き各々の見つけたものを並べ始めた。
 それはきれいな石であったり、なにがしかの像のようなものであったり。
 機械のようなものもあれば、持ち主の失われたドレスなんかもある。
 おそらくそれらは異世界から落っこちて海に沈んでいた「過去の遺物」なのだろう。統一感のないその様相はまさに「蚤の市」。たくましい妖怪たちはあっという間に商売を始めたのだった。

 戦いを終えた猟兵たちを妖怪たちは歓迎する。むしろ見ていって、楽しんでいってと手を引くだろう。
 いろんなものが並ぶ蚤の市で、歩いて眺めるだけでも、もちろん買い物を楽しんでもいい。海の底に沈んでいるような古品から奇想天外な品まで、選り取り見取りだ。ものによっては売り手の妖怪と仁義なき値下げバトルが始まるかもしれない。
 戦が終わったあとの平和なひととき。傷を癒し羽根を伸ばしながら、楽しんでいこう。

【PL情報】
・基本、みつかるのは「UDCアースに実在したであろうもの」ですが、ここは失われた過去が集う幽世ですので、ありえなさそうなものがみつかることもあります。また、別の世界の物も「神隠し経由で」沈んでいたかもしれません。
・見つけた、もしくは買う物についてをプレイングにお書きください。漠然と「○○なもの」でも構いません。夜団子がアドリブで品を考えます。
・「過去の遺物」ですので、もしかしたらPCがかつて失くしたものなんかも探せばあるかもしれません。
・購入はお金でも、物々交換でも構いません。妖怪たちは物々交換の方が喜びます。交渉もおそらく後者の方が簡単に進むでしょう。
・アイテムを差し上げることはできませんが、ここで見つけたものの申請はどうぞご自由に。
朱酉・逢真
心情)さて解決してよかったなィ。せっかくだァ、なんぞ土産でも買って帰るかィ。だが俺ァ直接ヒトと触ったりできんで、どうしたもんか。…ああ、眷属ども経由すりゃいいか。ヘビやネコが俺のかわりに品物受け渡してくれらァ。
行動)先の戦争で拾った魔晶石ってェのが余ってるンだ。これでなんかもらえんもんかね。そうだなァ、呪いの品とかあるかい? 本・道具・宝飾品。なんでもいいさ。キッツい呪いがいい。俺と相性がいいからなァ。チカラになってくれるさ。



 騒動も片付き、たくましい妖たちによって砂浜が蚤の市に変わったころ。朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は少し離れた海の上より、その喧騒を見守っていた。
(さて解決してよかったなィ。せっかくだァ、なんぞ土産でも買って帰るかィ)
 眷属である鳥に胡坐をかき、喧騒を見下ろしながら逢真は頭を掻いた。せっかくなら……と思ったものの、下手に自分が触れればせっかく平穏になったこの場に疫毒が振りまかれてしまう。減らして帳尻合わせをするのが役割とはいえ、むやみに減らしてしまえば討ったオブリビオンと同じだ。
 そして逢真が振りまく災厄は、ヒトであろうと妖怪だろうと、変わらず飲み込んでしまうもので。
「……ああ、眷属ども経由すりゃいいか。ヘビやネコが俺のかわりに品物受け渡してくれらァ」
 ゆるりと烟管を振るえば、そばに小柄なヘビとネコが現れた。眷属の獣たちの中でも小さく馴染みやすいものを選んでおけば、妙な騒動にもならないだろう。相手は妖怪なのだから、多少利口な動物が現れたとしても何とも思わないはずだ。
「ホレ、落とすなよ」
 ヘビとネコの口に輝く結晶体を持たせる。それは、魔晶石と呼ばれるもの。先の戦争で拾ったまま余らせた別世界の宝石だ。珍しいものを求める妖怪たちにとっては垂涎ものだろう。
「これでなんかもらえんもんかね。さてどの店にするか……」
 砂浜に降り立った逢真は妖怪に触れないよう気をつけながら蚤の市をゆらゆらと歩いて回った。並ぶ商品を見て、というよりはある“気配”を嗅ぎつけるようにして店を物色していく。
 そしてふと、ある場所で足を止めた。そこに敷かれた布の上にはやけにきらびやかなものが並んでいる。
「お兄さん! 見ていくだけでも見てってくれよ! なんか欲しいものでもあるのか?」
「そうだなァ、呪いの品とかあるかい? 本・道具・宝飾品。なんでもいいさ」
「呪い、呪いか! それならお兄さんいい目をしてるよ、俺が集めてきたのは沈没した海賊船のお宝だからな!」
 だろうねィ、と何も言わず微笑みながら、ごそごそと商品を漁り始めた店主の背中を眺める逢真。この場所で足を止めたのは“同種の気配”を感じ取ったからだ。ひとつひとつは逢真からすれば弱くかすかなものだが、これだけ集まればそれなりに目立つ。ここは蚤の市だ、ならばこの十把一絡げの中にも掘り出し物が眠っているかもしれない。
「キッツい呪いがいい。とびきりの、なァ」
「それならコレ! 俺妖怪だけどそういうのからっきしでさぁ。そんな俺でもやべぇって思ったやつ!」
 そう言いながら店主が取り出したのは一抱えほどの絵の“額縁”だった。
「ほォ……」
「絵はもう劣化でなくなったみたいなんだけどヤバイ感じがビンビンするというか……絵があったらもっとヤバかったんだろうなぁ~!!」
 金細工の額縁は海に沈んでいたせいかところどころ欠け黒ずんでいる。だが確かにこの中で一番の気配を感じさせるものだった。
 只人はあまり触れない方が良いな。掲げて見せる店主を見つつ逢真はそう思った。
「じゃァそれをもらおうか。そこにおいてくれ」
「まいどあり! おお~きれいな石だな! こう聞くのもなんだが、これと交換しちまっていいのか? 額縁だけって何に使うのか……」
 置かれた額縁を手に、逢真はくすりと笑った。呪いの絵の残滓なんかじゃない。この額縁自体に、血塗られた怨嗟の呪いが宿っている。
「なァに、こういうのは俺と相性がいいからなァ。……チカラになってくれるさ」
 いわくつきに関わるのもほどほどにしとけよォ。最後に店主へそう笑い、逢真とその眷属たちは砂浜を離れ、この世界から消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
へぇ…こんな市場があるんだ、面白いね
目当てのものは無い、いろんなものがあるのが面白いから歩いて回る
見ていれば何かお探しで?と聞かれそうだからそのときは「なにか惹かれるものとの出会いを探しているんだ」って答えるよ

ふと、骨のようなものを切りだして作ったナイフらしきものが目に入る
骨なのか石なのか材料もわからない
色はベージュっぽくて少し汚れている
ナイフの形はしているけど、ところどころ欠けてるしなにより鋭さがなくて物を切ることもできなさそう
でも…なぜか心惹かれる
これが欲しい

そういえば俺は物をあまり持って歩かない
交換できるもの…チョコレートはあるけどどう?
こちらにあるのとは一味違うよ
足りない分はお金で払う



 まだまだ賑わう蚤の市。砂浜を踏み行き交う妖怪たちの中に、ふらりと紛れ込んだ茶髪の青年がいた。中性的な容姿の彼――――サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は、興味深そうに市をぐるりと見渡す。
「へぇ……こんな市場があるんだ、面白いね」
 海の底から掬い上げられた商品の数々。どちらに顔を向けても一風変わったものが並ぶ市場は、どこか宝探しを彷彿とさせる。どれだけのものが海底に沈んでいたのだろうか。なにを探すでもなく、サンディは出店と出店の間をゆらゆらと歩いて回った。
「人間さん! なにか探しもの?」
 キラキラした色とりどりの貝殻を並べた少女姿の妖怪がサンディに笑いかける。あわよくば自分の出店で見ていってもらいたいのだろう。すでにその手には桃色珊瑚のブローチが乗せられており、上手く勧めようと目を輝かせている。
「いや、目当てのものはないよ。なにか惹かれるものとの出会いを探しているんだ」
 遠回しにブローチを断りつつ、落胆する少女をよそにサンディはちらりと商品を伺う。綺麗だとは思うが、これといって惹かれるものはない。この子には悪いが次の店に行こう。
 そう考え、踵を返そうとしたサンディの視界の端にあるものが映りこんだ。なにかが引っかかり、サンディは改めてそちらを見る。籠に乱雑と突っ込まれ並べられていなかったものの中に、それはあった。
「…………」
 心の赴くままその籠まで足を進め、たくさんのガラクタの中から『それ』を抜き取る。ガチャガチャと色々なものがぶつかり合う音を聞きながら、サンディはそれを手に取った。
 それは、ナイフ……らしきもの、だった。ベージュの表面はつるりとしているも光沢はなく、磨かれているどころか少し汚れが目立つ。形自体はナイフを模っているようだが、刃はついておらず鋭さもない。ところどころ欠けているところを見ると、年代物なのだろう。ずっしりとした重みはあるものの、これが骨なのか石なのか判断が付かなかった。なにかを切り出し削り出して作られたものなのだろうが……。
 煌びやかな装飾も、目を引く鮮やかさも持ち合わせていない、一見価値のないただのガラクタ。
 だというのに――――なぜか、心惹かれる。
「これが欲しい」
 気が付けば口からそうこぼれ出ていた。ブローチじゃダメならこれを、と他のものを探っていた少女姿の妖怪はぱちくりと目を瞬かせてサンディを見つめ返す。
「あ、えっと……惹かれるものが見つかったんだ。譲ってくれる?」
「えーそんなのでいいの? まあいいや、じゃあなにかと交換してちょうだい!」
 おそらくガラクタとして放置していただろうにお代はきっちり持っていく少女。サンディは思わず苦笑しながら、(なにかあったかな)と懐を探った。
 サンディは物をあれこれと持って歩く性分ではない。交換できるものというと……小腹が空いたとき用の、チョコレートくらいだった。
「……チョコレートはあるけどどう? こちらにあるのとは一味違うよ」
 足りないのならお金を払うけど、と言いつつ懐から銀紙に包まれたチョコレートを取り出すと、少女は目をキラキラと輝かせ始めた。お金よりもよっぽど興味をそそられているようだ。喜々として受け取り一口頬張ると、彼女の目の輝きがさらに増す。
「お代はこれで十分よ! 素敵な交換をありがとう、人間さん!」
「ん。こちらこそありがとうね。それじゃあ」
 上機嫌に手を振る少女へ軽く手を振り返してサンディは蚤の市を後にした。手に入れたナイフのようなものを眺め、空に掲げ、指先で撫でて、その感触を確かめながら。
 なぜこんなにも心惹かれたのか。それはこの先持ち歩いていればわかる日がくるだろうか。なにはともあれ、いい出会いがあったな、と。サンディは少し満たされた心地でカクリヨファンタズムを去るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月06日


挿絵イラスト