迷宮災厄戦⑱-13~現実改変したら脳が黄金になった件
●ざまあみろと嗤う声が
アリスラビリンスの何処か――。
『はははは! あーっはっははっはは!』
無数のトランプが舞う中に、哄笑が響いている。
高笑いの主は塗り潰されたように顔が黒い少女――オウガ・オリジン。
『戻って来たぞ! 取り戻したぞ! これがわたしの力だ! このわたしの力だ!』
猟書家たちに奪われた力が戻ってきている。
それを感じて、オウガ・オリジンは嗤っていた。
そして、力が戻ったのならば、やることがある。
『次はわたしの番だ! このわたしの現実改変の力と無限の想像力で、貴様らの姿形も性格も人格も、全てわたしのものにしてくれる』
ざぁっと舞い散るトランプの量が増えていく。
『なぁにが猟書家だ! ざまあみろ!』
オウガ・オリジンの姿がトランプの嵐の中に隠れていく。
『ざまあみろ! ざまあみろ! はーっはっはっはっはっはっ!』
向ける相手のいない嘲りと哄笑が、トランプの嵐の中から響き続け――。
『ブーレブレブレブレブレブレブレブレ!』
唐突に、高笑いが変わった。
いつの間にか、トランプの嵐の中に本棚が聳えていた。
●『オウガ・オリジン』feat. キング・ブレイン
「というわけで、オウガ・オリジンの1体がキング・ブレインになった」
ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は集まった猟兵達に、次の相手の話を切り出した。
「完全にキング・ブレインになってるよ。完全な変身。というより改変かな」
恐らくは、現実改変能力の一端。
自分自身の改変。
使うユーベルコードすら、キング・ブレインのそれになっている。
「キング・ブレイン同様、スーパー怪人大全集(全687巻)背負ってるし、黄金の脳からビーム出して来るし、必ず先制攻撃される強さまでもが同等だ」
もうオウガ・オリジンの面影はない。
自分の姿を捨ててまで、猟書家に変身してその力を使って戦う。
それはもしかしたら、オウガ・オリジンなりの意趣返しなのかもしれない。自分を閉じこめ、力を奪った猟書家への。
「戦略的には、オウガ・オリジンを倒した事になるんだけどね」
その辺りの理屈は、そう言うものだと割り切った方が良いかもしれない。
「アリスラビリンスでの今回の戦いも、佳境も佳境だ。私からの案内は、多分これが最後になる。勝って終わらせようじゃないか」
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『迷宮災厄戦』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
迷宮災厄戦⑱-13『オウガ・オリジン』feat.ブレインです。
終盤も終盤ですが、ブレブレ笑うの書きたかったんです。
削れる戦力は、オウガ・オリジンとなりますが、
見た目も能力も性格も、先制攻撃してくる点も含めた戦闘行動も、全てキング・ブレインです。
プレイングボーナスも、猟書家と同等で『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』になります。
もう戦争終盤ですので、プレイングはいつでもどうぞ。
執筆は『戦況に関わらず』8/29(土)30(日)で書けるだけの予定です。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『『オウガ・オリジン』キング・ブレイン』
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POW : 侵略蔵書「スーパー怪人大全集(全687巻)」
【スーパー怪人大全集の好きな巻】を使用する事で、【そこに載ってる怪人誰かの特徴ひとつ】を生やした、自身の身長の3倍の【スーパーキング・ブレイン】に変身する。
SPD : 本棚をバーン!
【突然、背中のでかい本棚を投げつけること】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【リアクションをよく見て身体特徴】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : 脳ビーム
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【脳(かしこさを暴走させる)】属性の【ビーム】を、レベル×5mの直線上に放つ。
イラスト:屮方
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
氏家・禄郎
ネリー(f23814)と
他人の姿を奪い、そのものになった気分はどうだい
まずは巨大なあいつをなんとかしよう
といっても難しく考える必要はない
大きいというのは小回りが利かなかったり手が届かなかったりするものだ
攻撃手段は限定されるなら、対応できるだろ?
【団体行動】でネリーとタイミングを合わせコートを投げて一次的な【目潰し】から【闇に紛れる】だけさ
ギムレットの時間だ
『思考』にて君の怪人の好みを当てよう
世界的に単純な強さは好まないだろう
君の頭的に、そうだな知性を尊ぶなら必要なものがある
それはDHA――魚の油に入っているもの
つまり君の選んだ怪人はマグロ怪人ツーナー
そいつは足を止めたら死ぬ
今だ、ネリー!
ミネルバ・レストー
禄郎(f22632)と
何でよりによってコイツになったのよ…色々とデタラメじゃない
でも待って頂戴、怪人の巨大化は負けフラグじゃなくて?
なるほど、さすがは禄郎ね
それにデカブツは的も大きいから、色々と仕掛けやすいのよ
不思議の国なら、そこらに丸太のひとつやふたつ転がってるでしょ
「念動力」で適当な大きさの何かを「地形の利用」で持ち上げて
なぎ払いなり踏みつけなりの動きに合わせて脚にぶつけるわね
禄郎の目くらましと合わせて、派手に転ばせてやりましょ
さて探偵屋さん――わたしの師匠、出番よ
怪人の弱点を見切ってもらいさえすればあとはわたしの仕事
【六花奏填・氷槍六連】で色々とブレたところだけ貫いてあげる
●大首領に必要なもの
『ブーレブレブレブレブレブレ!』
飛び交うトランプの渦の中から、それがそうだと聞いていなければ判らないであろう高笑いが響いている。
『ブレブレブ――来たか!』
猟兵達が来たのを気配で察したか、高笑いが止まった。
高笑いの主、キング・ブレイン――オウガ・オリジンが変身したものの筈――は、バサァッと黄金の裏地のマントを翻した。渦を為していたトランプが飛び散る。
『どうだろう? 今のポーズ、吾輩としては中々決まったと思うのだが!』
「悪くなかったのではないかな」
苦笑を隠して返す氏家・禄郎(探偵屋・f22632)の隣で、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は冷たい――とても冷たい視線を向けていた。
「何でよりによってコイツになったのよ……色々とデタラメじゃない」
『ブレブレブレ! 吾輩をデタラメと呼ぶか、氷の様な目をしたガールよ!』
ミネルバの呟きに、キング・ブレインが視線を向ける。
『時に――ご両人よ。キマイラフューチャーの怪人達の大首領になるには、何が必要だと思うかね?』
「は? いきなり何よ」
「察するに。単純な腕力や知力ではない、と言いたげだな?」
キング・ブレインの唐突な質問を訝しむミネルバに代わって、禄郎が答えを返す。
『その通り! 勿論、腕力知力もそれなりには必要だ。戦闘員辺りに勝てない様ではお話にならないからな! だが吾輩、大首領となるからには、配下の怪人達が倒れて消滅する間際に「キング・ブレインに栄光あれ!」とか叫ばれる様な大首領になりたい。その為に最も必要だと吾輩が思うのは、ずばり、カリスマ性である!』
――なあ、俺達の大首領の名前なんだっけ?
――ああ、脳が黄金の……何とかブレイン?
『とまあ、そんな風に名前を憶えられてない大首領とか、吾輩なりたくない!』
未来の配下を装ったらしい謎の小芝居混ぜながら、キング・ブレインは語り続ける。
『だから吾輩の考えるカリスマ性とは、こうも言える。――キャラが立っている、と』
「「――は?」」
いきなりすっげえ飛躍した答えに、ミネルバも禄郎も咄嗟に言葉が出てこなかった。
『つまり、デタラメと言うのは吾輩には褒め言葉なのである!!! と言う事で、ここでもっとデタラメになってみようと吾輩思った次第。具体的には――』
唐突に、キング・ブレインの片手が後ろの本棚に伸びる。キング・ブレインはちらりとも本棚を振り返ることなく、伸ばした手で一冊の本を取り出した。
まるでどこに何巻があるか、見なくても判っているかのように。
『スーパー! キング! ブレイン!』
そして、3倍巨大化した。
●切り札を温存しすぎて使えず倒れる方が勿体ないじゃん
「ねえ、待って。待って頂戴。怪人の巨大化は負けフラグじゃなくて?」
いきなりでっかくなったキング・ブレインを見上げて、ミネルバが呻く。
『ブレブレブレブレ! フラグ? キャラが立ってる大首領たるもの、そんなのは気にしない! それに猟兵なぞ、吾輩の力を使わずともスーパー怪人大全集の力で充分だ』
「――何を言ってるのか良く判らないけど、イライラするわ……」
ミネルバの眉間が寄っていく。
落ち着かせるようにその肩をぽんと叩いて、禄郎が口を開いた。
「次はこちらの質問に答えて貰おうか。他人の姿を奪い、そのものになって好き勝手に喋ってる気分はどうだい?」
『奪った? 何のことかね。この全687巻のスーパー怪人大全集も吾輩がコツコツ集めたもので、奪ってなどいないのだがね! キング・ブレインの名に懸けて!』
禄郎の問いに、キング・ブレイン(大)がちょっとむっとした様子で返す。
「ほう……自身の改変とは、ここまでか。確かに自己暗示の類でなり切っているとかそう言うレベルではないな」
まるで己が本来はオウガ・オリジンであることを忘れたかのようなキング・ブレインの反応に、禄郎が感心したように呟く。
『何に感心しているのか知らぬが、吾輩のすごさがわかったかパーンチ!』
そこにキング・ブレイン(大)が振り下ろしてきた拳を、ミネルバと禄郎は同時に飛び退ってやり過ごす。
「ねえ。それどころじゃなくない」
「そうだな。まずは巨大なあいつをなんとかしよう」
急かすミネルバに、禄郎は微笑を浮かべて頷いた。
「といっても難しく考える必要はない。どんなものにも弱点はある。大きいというのは、小回りが利かなかったり手が届かなかったりするものだ」
「なるほど、さすがは禄郎ね」
ひとつ頷いて、ミネルバは周囲に視線を巡らせた。
「攻撃手段は限定されるなら、対応できるだろ?」
「そうね。特にデカブツは的も大きいから、色々と仕掛けやすそうよ」
ミネルバはその辺に落ちていた丸太を念動力で浮かび上がらせ、禄郎はトレードマークと言えるコートの襟に手をかける。
「はっ!」
『痛ぁっ!!!』
「よっと」
『うわ見えない』
ミネルバが投げた丸太がキング・ブレイン(大)の向う脛にぶつかって、足が止まったところに禄郎が放ったコートが顔にかかってその視界を隠す。
『おのれ小癪な!』
キング・ブレイン(大)がコートを払い去った時には、2人の姿は直前までいた場所から消えていた。
稼いだ時間はほんの数秒。
だが、本棚の陰に隠れるくらいには充分だ。
「さて探偵屋さん――わたしの師匠、出番よ」
「ああ。ギムレットの時間だ」
ミネルバの期待を受け止め、禄郎が思考を巡らせる。
『どこかに隠れたな! しかしこの3倍ボディの前には、無駄無駄ァ!』
「何か動き続けてるし、パワー系の怪人?」
巨大化した体躯の膂力に任せて2人が隠れていそうなものを端からどかしていくキング・ブレイン(大)を横目で見て、ミネルバが呟く。
「いや。スタミナがあるのを選んだのは間違いないだろうが、世界的に、単純な強さは好まないだろう。それに、あれでクレバーなタイプと見た。いきなり切り札を切ったように見せて、後への布石にしている。猟兵は私達だけではないのだからね』
腕を組んだ禄郎はそれには頭を振って、纏まらぬ推理を敢えて口に出す。
『そしてあの頭的に、そうだな知性を尊ぶなら必要なものがある。それはDHA――魚の油に入っているもの。魚……スタミナ……動き、いや、泳ぎ続ける』
判ったぞ、とミネルバに告げて、禄郎は本棚の陰から姿を現した。
『そこにいたか!』
「君の怪人の好みを当てよう。君の選んだ怪人はマグロ怪人ツーナー。違うかね?」
キング・ブレイン(大)を見上げて指さし、禄郎が告げる。
『なんと……正解だ! その通りだ! いかにも! 吾輩がさっき選んだのはスーパー怪人大全集、魚介系怪人の章のスーパーマグロ怪人ツーナーだ!』
動きを止められないからかキング・ブレイン(大)が反復横跳びしながらマントを翻すと、隠れていた背中にマグロ頭が生えていた。既に猫が齧りついている。
『さっき向う脛に丸太喰らってスタートダッシュに失敗したお陰で、いきなり猫に齧られてしまったがな!』
「知らないわよ。大体、何でそんな判りにくいところに特徴出してるのよ。マグロ怪人なら、マグロ頭になるくらいしなさいよ」
『マグロ頭にしたら吾輩の黄金の脳が隠れてしまう! それは吾輩的にはNO! キングっぽさが隠れるのは絶対に、NO!』
思わず本棚の陰から顔を出したミネルバのツッコミに返しつつ、キング・ブレイン(大)は禄郎を見下ろし指さして――。
『しかし見事だ。マグロ頭を見ずに、吾輩がどの怪人を選んだのか当てるとは』
「なに、初歩的な推理だ――」
『さては貴様、読んでいるな! スーパー怪人大全集を!』
キング・ブレイン(大)からの賛辞――と思いきや、予想外の方向からの、むしろ惨事が禄郎に飛んできた。
「何故そうなる。読んでいない。これは推理――」
『ブレブレブレブレ! 恥ずかしがる事は無い! スーパー怪人大全集の愛読家はむしろ誇るべき! 敵味方でなければ語り合いたいところだ!』
「ネリー、そんな目で見てないで黙らせてくれないか。そいつは足を止めたら死ぬ」
「仕方ないわね」
珍しく困った様な禄郎の言葉に、物言いたげな視線を向けていたミネルバは溜息交じりに頷いて――その掌に、冷気が集まる。
「あとはわたしの仕事。色々とブレたところだけ貫いてあげる」
ミネルバの手に集う冷気が、冷たく鋭い氷の槍となる。
『ブレブレブレブレ! 吾輩が使ったのはスーパーマグロ怪人ツーナー。動きを止めても死にはしないぞ! 猫は痛いが!』
「少し頭を冷やしなさいな、おバカさん」
――六花奏填・氷槍六連。
ミネルバの放った6本の氷の槍に貫かれたキング・ブレイン(大)が、凍った様にぴたりと動きを止める。走り続けなければと言う激情が、凍り付いて。
――ニャ゛ァァァァァァァァ!
『あぁぁぁぁ!? ツーナー要素が齧られていくぅぅぅ!』
そしてスーパーマグロ怪人パワーを猫に齧り取られたキング・ブレイン(大)は、巨大化が解けて元のサイズに戻っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鵜飼・章
あっ怪人として軸がぶれている人だ
ある意味僕とキャラが被っているよ
ついてこれるかな、鵜飼章のブレに…
まずは武器の【投擲】で詠唱を妨害
弱い威力のビームを見切って逃げ足で避け…
ないんだなこれが
受ける前に自分に対して【催眠術】と【言いくるめ】
つまり自己暗示を行う
暴走した僕のかしこさは宇宙の真理へ到達し
すごい【読心術】で森羅万象を予見するんだ…
思い込みで毒をプラスに変換する極めてヒト的な攻略法だ
ビーム自体には【落ち着き/激痛耐性】で対処
ちょっとあつい
UCで闇の賭博王に変身
宇宙的かしこさを手にした僕には
ブレブレさんの次の行動が完全に読める
超速度のトランプを先読みで投げ
賭博王感を見せつけ恐怖を与えてあげよう
木元・祭莉
わー、ブレブレさんだー!
え、ニセモノ? でもそっくりだよ??
あ、噂の脳ビームの準備かな?
(詠唱時間が長いとスゴくなるみたいだし)
早く撃ってもらいたいねー!
ん。お願いしてみようー。
おいら、脳ビーム早く見たいなー見たいなー見ーたーいーなー!!!
(既にかしこさ暴走中な踊り)
え、お行儀悪い?
すみまセン。(ぺこり)
やり直し。ちゃんとよく見える方向でお願いしマス。
ブレブレ大将のー、ちょっといいトコ見てみたいー♪
そーれ♪
(手拍子手拍子)(足拍子足拍子)
出たー!!
(あらぬ方向に)
わあー、カッコイイー!!!(大賞賛)
それじゃ、今度はおいらの番ねー?
ふわりふわり、白蓮ビームからのー。
扇投げ!(開いたお口に一直線)
木元・杏
ブレブレさんこんにちは
さあ、かもん
間近で見てみたかった脳ビーム
きっとブレブレ言うよりもっとすごい感動的な詠唱
期待の眼差しでじっと見る
それにしても、脳丸見えでわかりやすい
今迄培った戦闘経験と第六感を活かして撃つタイミングを見定め、それに合わせステップ踏むように横手にジャンプ
直線にしか来ないから避け易い
そのまま大剣にした灯る陽光にオーラを纏い
更に跳返の符を貼って、脳ビームの軌跡上に向け、思い切り振りかぶる
目指すは、ピッチャー(ブレブレ)返し!
失敗しても少しは気が削がれる
その隙にうさみん☆GO
トランプ掻い潜りブレブレに接近
それもフェイント、こっちが本命
丸見え脳天に向けてUC
本棚バーンも見たかった…
●詠唱とは、節をつけて詠い唱えること
『良く考えたら猟兵ってば百戦錬磨の強者揃い。スーパー怪人大全集のスーパー怪人の力を使っても、弱らせなければ勝てる筈もないな』
気を取り直して立ち上がったキング・ブレインの頭で、黄金の脳がキランと輝く。
『やはり吾輩の力で勝負するべきであるな、うん。そうと決まれば頭脳戦だ! 賢さを暴走させておけば、スーパー怪人大全集の何巻を使った推理される事もない!』
「さすが怪人として軸がぶれている人だ。さっきと言っている事がまるで違う」
脳ビーム予告と共に黄金の脳を輝かせだしたキング・ブレインの前に、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が進み出た。
「ここは僕に任せて貰おう。ある意味僕とキャラが被っているからね」
『被っている? ――はっ! まさか貴様も黄金の脳を持っていると言うのか、黒ずくめのボーイ!』
「想像にお任せするよ。ついてこれるかな、鵜飼章のブレに……」
キャラが被っていると言う言葉を明後日の方向に勘違いしたキング・ブレインを、章は曖昧な微笑みで煙に巻く。
「あ、ブレブレさんの噂の脳ビームの準備? じゃあ、おいらもー♪」
「ブレブレさんこんにちは。さあ、かもん」
さらにそこに、木元・祭莉(おいらおいら詐欺・f16554)と木元・杏(だんごむしサイコー・f16565)の2人も進み出た。
「2人とも、気を付けて」
「間近で見てみたかった脳ビームが、いよいよ……」
「早く撃ってもらいたいねー!」
知り合いのエルフの狩人が気遣うが、杏と祭莉はあんまり聞いてない。
『吾輩の脳ビームは見世物ではないのだが!?』
「ギャラリーが増えたくらい、むしろ怪人としては嬉々として撃つ場面だろう。やはり怪人として軸がぶれているね」
野次馬根性が駄々洩れな2人に、キング・ブレインが上げたツッコミの声は、章の冷たい溜息に吹き消された。
「きっとブレブレ言うより、もっとすごい感動的な詠唱の筈」
「おいら、脳ビーム早く見たいなー見たいなー見ーたーいーなー!!!」
しかも杏は重めの期待に満ちた視線を向け、祭莉は何やら謎の踊りを踊り出す。
『なんでこ奴ら、既に賢さ暴走気味っぽいの……?』
見事に三者三様バラバラな反応に、流石にキング・ブレインも眉根を寄せる。
一応、3人とも早く脳ビームを撃たせようとしているのだ。章など、メスと標本針をこっそり構えていつでも投擲で妨害できるようにしている。
詠唱が長ければ長いほど、威力が増すのだから。
『取り敢えず、そこのウルフボーイ。見たいと言うのなら、お行儀良くじっとしているべきだと吾輩思うのだ。そう踊り回っていては見えるものも見えないだろう』
「え、お行儀悪い? すみまセン」
諭すようなキング・ブレインの言葉に、祭莉はぺこりと一礼して動きを止める。
『そして黒ずくめのボーイよ。さっきから軸がぶれてるぶれてると言うが、そんなことないのと、吾輩証明しよう思う次第!』
杏の期待はそのままに、キング・ブレインは章を指さし告げる。
そして――カツンッと踵を打ち鳴らし、ぴしーっと背筋を伸ばした。
『見よ! この直立不動! 怪人の大首領たるもの、立ち姿はこのように胸を張って常に堂々とあるべき! そしてお辞儀とは――こう!』
ちらりと祭莉に視線を向けてから、キング・ブレインは、ゆっくりと頭を下げた。
『吾輩はキング・ブレイン、キマイラフューチャーの新たな大首領となる者だ! これからどうぞよろしくお願いします!』
背中ではなく腰から曲げた、90度の深いお辞儀。
するとどうだろうか。黄金の脳は、猟兵達の方へ向けられる。
『――からの脳ビーム!』
いきなり撃って来た。
●暴走=マイナスとは限らない
突如放たれた黄金の光が、辺りを眩く照らし。
『ブレブレブレ! 怪人達に失礼の無いよう、練習を続けていたお辞儀からの脳ビーム作戦大成功!』
脳ビームを撃ち終えたキング・ブレインが頭を上げると、章と祭莉は脳ビームを浴びて膝を着いていたが、杏だけは少し離れた所に立っていた。
『むむ? 1人避けられたか』
「脳丸見えだし直線に来たから、判り易く避け易い」
杏は事も無げに言うが、それほど容易い事でもない。
今まで培った戦闘勘と第六感があっても、杏が思っていた以上にギリギリだった。
次も上手く避けられるだろうか。
だが、それ以上に杏は気になっている事があった。
「詠唱は? 感動的な詠唱は……?」
一体、いつの間に詠唱したのか。
杏の問いに、キング・ブレインはニヤリと笑みを浮かべる。
『さっきの「直立不動!」から全部詠唱だ!』
「?」
――どこが?
杏のみならず、見守っていた他の猟兵もこれには首を傾げる。
『この戦いで、キング・ブレインが貴様ら猟兵達と戦ったのは何回あった思う? 吾輩が思うに――』
「20回は下らないだろうね」
キング・ブレインの言葉を遮って、章がすくっと立ち上がった。
「何を言いたいのか、大体わかったよ。あまりメタな事を言うもんじゃない」
『何だと! 脳ビームが効いてないのか』
「あつかった」
埃でも払うように服に付いた焦げを払って、章はさらりと告げる。
まあ実の所効いてないなんてこと無くて、痛みを耐えて落ち着き払って見せてるだけなのだが。
『そうか、熱かったか! ならよし!』
効いてないことは無いらしいと判って、キング・ブレインは安堵したように頷く。
『そして話を戻すとだな。20回かそれ以上で、常に同じ詠唱なんて、出来る筈もない。つまり詠唱なんて吾輩のテンションが上がれば良いのだ! 感動的な詠唱など――』
「感動的な詠唱なんかないって言って、アンちゃんをがっかりさせる気だね」
話を戻したキング・ブレインを、やはりビームの痛みを堪えて立った祭莉が遮った。
「ビーム早くって急かしたおいらの踊りは注意してもいて、アンちゃんの期待に満ちた視線に何も言わなかったのは、こうして肩透かしさせるためだったんでしょ?」
『っ!!!』
「!!」
祭莉の鋭い指摘にキング・ブレインも杏も、思わず息を呑んでいた。
「まつりんが……野生の勘じゃなくて賢いこと言ってる……」
「うん。おいら、今すごい頭が回っている気がするんだ♪」
驚く杏に、にぱっといつもと変わらぬ笑顔で返す祭莉。
『バ、バカな。吾輩の脳ビームを喰らって、脳が暴走しなかったと言うのか……!』
驚くキング・ブレインだが、祭莉はちゃんとかしこさが暴走している。
暴走してこれなのだ。
キング・ブレインの脳ビームは、かしこさを暴走させる。
暴走とは、操作や制御が出来ない状態を指す。決して、下げる方向の変化だけを指すものではない。上がるも下がるもあるのが、暴走なのだ。
なればこそ、元の値が低ければ低いほど、暴走した結果、元よりも高くなる可能性は高くなると言えよう。
そして、祭莉の場合――元々が果てしなくアホの子だった。
アホの子のかしこさが暴走した結果、かしこい祭莉になったのである。
『くっ。吾輩痛恨。まさか敵に塩を送ってしまったとは。だがそういう事ならば』
「そう言うことならばと、君はもう一度脳ビームを撃てばいいと思っているね」
マントをバサッと翻してポーズを取ろうとしたキング・ブレインが、章の言葉を聞いた瞬間にピタリと動きを止めた。
「図星だろう?」
『な、何故……』
「脳ビームをくらう前に、僕は自己暗示をしておいた。暴走した僕のかしこさは宇宙の真理へ到達する、とね」
言い当てられて驚くキング・ブレインに、章は薄い笑みを浮かべて告げる。その出で立ちは、いつの間にか鴉を思わせる黒いロングコート姿になっていた。
「宇宙的かしこさを手にして闇の賭博王になった僕は、森羅万象を予見するんだ。プレアデスの乙女たちの囁きが聞こえるかい? ポラリスは常に空にあり、アークトゥルスへの道を示して終焉にスピカが待っている。レグルスが見守る星の曲線。つまりビーム。君が脳ビームをまた撃つと言う事だ」
『何を言ってるのかまるで判らない!!!!!!』
章が言ってる事が判らず、頭を抱えるキング・ブレイン。
もしかしたら、春の大曲線の事だろうか。
「思い込みで毒をプラスに変換した。極めてヒト的な攻略法だよ。と言いつつも、本当にプラスに変換されているのかな。僕自身も本当のところは判らない。だから赤の他人の君が何もわからなくても、仕方がないんだ。ちなみに僕は乙女座だ」
章のかしこさの暴走した結果は、上がるでも下がるでもないようだ。何かこう、虚数域とかそう言う感じの、難しい領域に行ってしまったようである。
●暴走は多分、戦闘が終わったら直りますよ
『おかしい。先手を取って脳ビームを撃ったのに、何故吾輩は危機感しか覚えてないのだろう。とにかく駄目だこいつら、早く元に戻さないと』
さらに暴走させても元に戻る保証なんてどこにもないのは本人が一番判っている筈なのだが、危機感に焦ったキング・ブレインは、再び黄金の脳を輝かせる。
「まさかまた詠唱らしい詠唱なしで撃ったりしないよね? そんなキャラが立たなくなりそうなカッコワルイ事しないよね? わあー、カッコイイーって賞賛させてよ」
『うぐっ』
少し前の自分の発言を拾った祭莉の言葉に、痛い所を突かれたキング・ブレインが、ビシッと固まった。
『急にそんなこと言われても、吾輩困る』
「ブレブレ大将のー、ちょっといいトコ見てみたいー♪ そーれ♪」
主に精神的にブレブレ笑う余裕が無くなってるキング・ブレインを、祭莉は詠唱なしなんてさせないと、手拍子に足拍子までして煽っていく。
「今度こそ、感動的な詠唱を……!」
一度裏切られた分、杏の期待も一層重くなる。
『う、ううむ……閃けシナプス、迸れニューロン、輝けグリア細胞――脳ビーム!』
何とか詠唱絞り出したキング・ブレインの黄金の脳から光が溢れだし、黄金のビームが祭莉目掛けて放たれる。
――暖陽の彩が花弁と舞い散る。
パーンッと軽い音を立てて、杏の掲げた白銀の光が黄金の光を打ち返した。
「ピッチャー(ブレブレ)返し!」
『なんとぉ!?』
杏が光の大剣『灯る陽光』で打ち返した脳ビームを、キング・ブレインは慌てて横っ飛びに避ける。
「作戦通りー♪」
祭莉の挑発は、自分に狙いを向けさせるためと、杏に『跳返の符』――あらゆるものを跳ね返す力を持つ符を光の剣に組み合わせる時間を作る為。
言い出したのは勿論、(今だけ)かしこくなってる祭莉である。
『ううむ。今のは詠唱が短かった! やっぱり慣れないことをするものでは――』
脳ビームを避けて膝を着いていたキング・ブレインが立ち上がろうとして、しかし立ち上がれなかった。いつの間にか、マントが闇のオーラを纏ったトランプによって地面に縫い留められていたのだ。
「言っただろう? 今の僕は森羅万象を予見できる。つまり君の行動が完全に読める」
トランプは、章が投げていたものだ。
実の所は脳ビーム打ち返されたらそりゃ避けるだろうな、という読心術なのだが。
尤も、【嘘つきのパラドックス】で闇の賭博王の姿になった今の章なら、キング・ブレインが避けるのを見てからでも充分に間に合う程の速さでトランプを投げられる。
「これが復讐と言う軛から解き放たれた闇の賭博王ブラックレイヴンだ」
『さっき宇宙の真理とか星がどうとか言ってたの何処いった!!!!』
賭博王感を出してきた章にツッコミを入れて、キング・ブレインはトランプを強引に跳ねのけて何とか立ち上がる。
「うさみん☆GO」
だがその間に、杏がうさ耳付きメイドさん人形をけしかけていた。
『へぶっ!』
うさみん☆の拳が、キング・ブレインの横面を叩く。
「それじゃ、今度はおいらの番ねー? ――ご覧じ入り奉り候へ」
にぱっといつもと変わらぬ笑みを浮かべた直後、祭莉が笑みを消して瞳を細めた。
「まずはふわり、ふわりと扇投げ!」
舞妓姿になった祭莉が、両手に持った舞扇の片方を開いて投げる。くるくる回って放物線を描いた扇が、横面を叩かれ開いたキング・ブレインの口に収まった。
『もごっ(しまった、これ詠唱出来な――)』
口を塞がれたキング・ブレインは、慌てて扇を取ろうと手を――伸ばそうとしたところに章が投げたトランプがその手を止める。
「アンちゃん、やるよ。扇投げからのー! 白蓮ビーム!」
「ん。こっちが本命」
祭莉が畳んだ舞扇を向けるのに合わせて、杏が一つ立てた指先を向ける。
白蓮の舞――白蓮の花弁の様に白炎が弾ける。
華灯の舞――桜の花弁を思わせる白銀の光が散りて輝く。
『ぐぁぁぁぁっ! 脳がー、脳がー!』
照射された白炎と白光に黄金の脳を守ってるガラスっぽいのをパリーンと貫かれたキング・ブレインは、しばらく頭を押さえてのたうち回っていた。
大成功
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黒影・兵庫
猟書家の中でも一番の変わり者を選びましたね...
(「たまには羽目を外したいときもあるんでしょう」と頭の中の教導虫が答える)
まるで今日のコーデ決める感覚ですね...
(「さて、どう戦う?」)
『限界突破』レベルまで高めた『第六感』で敵が攻撃するタイミングを予測し
突然攻撃されても無表情でやりすごします!
攻撃自体は『オーラ防御』壁で身を護りながら『衝撃波』で迎撃します!
(「それでその後は?」)
敵は俺のリアクションを見ようと俺に集中しているはず!
その隙に{皇糸虫}を『念動力』して『捕縛』します!
成功したらUC【蟷螂の鋸】を発動し伐採兵の皆さんの回転鋸で一斉攻撃です!
(「よぉし!作戦開始よ!」)
おーっ!
イサナ・ノーマンズランド
「……特徴的な笑い方だなあ。でも、それもこれで最後だ」
保護色による【迷彩】を施したダンボール箱を纏い、視認性を下げて【目立たない】ようにすると同時に、自分の外見を隠蔽することで身体特徴を覚えにくくさせるように目論む。
自身はダンボールの覗き穴より敵の動きを凝視。優れた動体【視力】で敵の本棚攻撃に備え、投げつけられた本棚を【クイックドロウ】した散弾銃による【咄嗟の一撃】で撃ち落とし、箱を脱ぎ突撃。サブマシンガンの【乱れ撃ち】で【弾幕】を張って【時間稼ぎ】、肉薄しつつUCで繰り出す【零距離射撃】。念には念を入れ【二回攻撃】(ダブルタップ)。
「代わりにわたしが笑ってあげよう。ブレブレブレブレ……」
シリン・カービン
【SPD】
あの大きな本棚を瞬時に投げ飛ばすとは、
大した膂力です。
ですが、モーションが大きくなる分避けやすく…っ!
…飛び散った本が当たるのも命中でしょうか。
「丈の短いチュニックの裾からスラリと伸びる脚」
「細身だが均整の取れたスタイル」
何か呟いてますよ、あの猟書家。
人のどこをよく見て、どんな身体的特徴を覚えたと言うのか。
自分に当たった本が、偵察怪人の図鑑だったのが
悪かったのでしょうか…
こめかみを抑えつつ【シャドウ・ステップ】を発動。
同じ相手であっても、加速された場合は話が別。
影だけを残し精霊猟銃を連射します。
もう見せてあげるものは何もありません。
全て忘れて、お逝きなさい。
(クール顔に怒りマーク)
●本棚、飛ぶ
(「なあ、せんせー」)
(『――何ですか?』)
黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)の胸中で呟きに、頭の中から返事があった。
(「あれって、やっぱり猟書家の中でも一番の変わり者ですよね。何であんなの選んだんでしょう……」)
(『――そうですね……たまには羽目を外したいときもあるんでしょう。多分』)
のたうち回るキング・ブレインを眺めて兵庫が胸中で続けた呟きに、頭の中の教導虫が少し困った様に返して来る。
(「まるで今日のコーデ決める感覚ですね……」)
(『――それより、まだ生きてますよ。どう戦う?』)
(「策は考えてあります! まず――」)
兵庫が『せんせー』と脳内作戦会議を始めた頃、のたうち回っていたキング・ブレインがピタリと動きを止めて、むくっと起き上がった。
『まさか、かしこさを暴走させることが、こんなに危険な存在がいるとは……やはり世の中力だな力! 力こそパワー! でっかい武器、最強!』
自慢の黄金の脳に一撃以上を食らったショックから立ち直って来たキング・ブレインの反応に、猟兵達は『あ、これそろそろ本棚投げてくるな』と察する。
のたうち回りながらも、本棚に手が届くところまで移動していたりしてるし。
(「いよいよ本棚来ますか。じゃあ、私もそろそろ」)
本棚の気配を感じて、みかんが描かれた段ボールも動き出す。
違った。段ボールに隠れている、イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)だ。イサナってば、ここに来てからずーっと迷彩仕様に加工した段ボールの中に隠れていたのだ。暑くないのだろうか。
「2人とも、お疲れ様です。あとは私がやりますよ」
のたうち回る一撃以上を食らわせた年若い双子の友に代わって、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)がキング・ブレインの前に出た。
「全く。あまり若い子達を暴走させたり、困らせたりするものではありません。特に暴走なんて、後で反動があったらどうするんですか」
シリンの声のトーンが、少し冷たくなる。
若干怒っていたのかもしれない。
(「あの大きな本棚を瞬時に投げ飛ばすほどの膂力があるとは思えませんが……」)
怒りを感じていたにせよ、シリンは冷静にキング・ブレインを見ていた。
とても本棚を投げられるような体格には見えない。
(「ですが、モーションが大きくなる分避けやすく――」)
『はい本棚バーンッ!』
その声が聞こえたと思った時には、シリンの目の前に本棚があった。
「……っ!」
流石に驚き息を呑みながら、シリンは咄嗟に飛び退く。
投げた直後、キング・ブレインの背後に新たな本棚が現れていた。
『そこの段ボールが動いてた気がする! 怪しいから取り敢えず本棚バーン!』
そしていきなりぶん投げた。
「ちっ。気づかれたか」
飛んでくる本棚を凝視して、イサナは段ボールの中で舌を打つ。
目立たなくする工夫はしておいた筈なのだが――気がする、怪しい、程度で本棚投げられてはたまらない。
「でも、この程度は想定内だよ」
絶対にばれやしない、などとはイサナも思っていない。いつでも撃てるように、装填した散弾銃は構えていた。
段ボールの隙間から銃口を向け、狙い定めてイサナは引き金を引く。
『さらにさらに本棚バーンッ!』
立て続けに本棚投げまくるキング・ブレイン。
その3つ目の本棚は、兵庫に投げつけられていた。
(『――来てるよ?』)
(「予測通りですねー」)
頭の中の声に、兵庫はのんびりと胸中で返す。
予測していた。少なくとも、予想以上に早く本棚飛んできても驚かない程度には。
兵庫は敢えての無表情のまま、誘導灯型合金破砕警棒を無造作に振り上げて衝撃波を本棚にぶつけた。
さて――キング・ブレインが投げたのは、本棚である。
本棚の中には何があるか。
本棚であるのだから、当然、本が入っている。全687巻のスーパー怪人大全集が。
「しまっ」
目の前に落ちて砕けた本棚から飛び散った687冊の幾つかが、シリンの身体を叩く。
「ぬわーっ!?」
撃ち砕いた本棚の中に詰まっていた687冊が、段ボールに隠れたままのイサナの上に降り注いで本の山の中へ埋めていく。
「……」
衝撃波で砕けた本棚からドサドサ降って来る687冊を、兵庫はオーラを纏ってやはり無表情のままやり過ごしていた。
●何処を見たと言うか何故見られたか
『むむ! 凌がれたか。さすが猟兵。だが吾輩の力、これで判っただろう』
「そうですね。殆どノーモーションとは驚きましたよ」
本が散らばっていない所へ移動しながら、シリンが素直な評価を口にする。
『ご存じかね? 人間と言う生き物は全力を出しているようで出せていない。本当に出せる全力を出し続ける事に耐えられる身体ではないからだ』
キング・ブレインの言うように、人間、全力を出しているつもりでも、身体を守る為に無意識下で脳がリミッターをかけていると言う説がある。
『だが! 脳ビームを出せる吾輩なら、その辺の限界を突破してノーモーションで本棚ぶん投げる力を発揮する事が出来るのだ! ブレブレブレ!』
直撃は避けられたとは言え、ちょっと猟兵を追い込めた気分になって、キング・ブレインはいい気になっていた。
それだけではない。キング・ブレインは、見ていた。
本棚を投げた際の、猟兵のリアクションと――その特徴を。
『ふむ……丈の短いチュニックの裾からスラリと伸びる脚。本がちょっと当たっただけでも痕が判る白い肌。細身だが均整の取れたスタイル……』
(「何か呟いてますが……」)
キング・ブレインが呟いているのが聞こえた時、シリンはそれが自分の事でない事を祈りたい気持ちになった。
「うむ! エルフレディ。中々良き!」
残念ながら、シリンの事だった。
「人のどこをよく見て、どんな身体的特徴を覚えたと言うのでしょう」
『ブレブレブレ! それはもう見えるところはくまなく見させて貰ったとも! この吾輩の野望の炎が燃えている瞳で!』
溜息交じりのシリンに、キング・ブレインは自信満々に告げる。
「当たった本が、偵察怪人の図鑑だったのが悪かったのでしょうか……」
こめかみを押さえてシリンが溜息をさらに零すが、シリンの行動にそこまでの落ち度があったわけではない。
キング・ブレインの視線がシリンにそこまで注がれてしまったのは、他の2人――イサナと兵庫がリアクションを見られない工夫に力を入れていたからだ。
イサナが段ボールに迷彩を施し視認性を下げて目立たなくしていたのは、単に隠れて狙撃する為だけではない。
己の外見を徹底的に隠蔽することで、キング・ブレインに身体特徴を覚え難くさせると言う意図もあった。
兵庫は、敢えての無。無表情を貫き最小限の動きで本棚の直撃だけを避け、リアクションを極力減らした。
兵庫の場合は、動かない事で自身のリアクションを良く見ようとしたキング・ブレインの隙を突くつもりだったので、多少目論見からは外れてはいるのだが――。
結果として、普通に本棚を咄嗟に避けたシリンだけが、キング・ブレインの視線を独り占めしてしまう事となったのである。
更にもう1つ――。
『大首領になるならば、様々な嗜好の怪人にも理解を示す必要があると吾輩思うのだ。そこで今回は、ちょっと意図的に凝視してみた!』
訊かれてもいないのにキング・ブレインが漏らした本音で、こめかみを押さえていたシリンの中で何かがプチッとキレた。
●覚えても使いどころがなかった
「覚えた……ですか」
『嘘だと思うなら試してみるか!』
こめかみを押さえていた手を離し、俯いたまま呟くシリンを見て、キング・ブレインが新たに出現していた本棚に手を伸ばす。
「そうですか。ですが――追いつけますか、私の影に」
シリンの上げた顔には、いつものクールさの中に怒りが滲みまくっていた。血管が浮いてそうな怒り。
しかし、それが見えたのは、ほんの一瞬。
『え? あれ?』
シリンの姿が、キング・ブレインの前から消えた。
「加速された場合は話が別でしょう」
シリンの声だけが何処からか聞こえてきて、完全に見失っているキング・ブレインがきょろきょろと周囲を見回す。
――シャドウ・ステップ。
時の精霊の加護で加速したシリンは、影も残さず音を置き去りに動き回りながら、自分を完全に見失っているキング・ブレインに精霊猟銃の狙いを定める。
ターンッと何処かで銃声がして、キング・ブレインの肩が撃ち抜かれた。
(「うーん。困った」)
キング・ブレインが投げた本棚から落ちて来た687冊の本の山の中に埋もれて、イサナは胸中で呟いていた。
段ボールはまだ潰れてはいないようだが、このままでは段ボールごと動けない。
(「動く時は、段ボールも脱いで突撃するしかないか」)
だとしたら、動くのは今ではない。
イサナは突撃のチャンスに備えて、散弾銃を置いて別の銃を手に取り、マガジンをセットする。
スルスルと、細い糸が音も立てずにひとりでに動いている。
(「もう少し……」)
操っているのは、やはり687冊の本に両脚が埋まっている兵庫だ。両脚とは言え脚だけなので、抜け出そうと思えば抜け出せる。
だが兵庫は敢えて無表情を変えずに、念動力でその糸――皇糸虫――を操る。
キング・ブレインに気づかれないように、少しずつ、少しずつ伸ばしていく。
捕縛のチャンスはおそらく一度。失敗したら、警戒されるに決まってる。
チャンスを、兵庫も待っていた。
生きた糸を確実に巻き付けられるチャンスを。
そして――その時はすぐに訪れた。
シリンの姿が消えて、どこからかライフルの銃声が響く。
その音を聞いた瞬間、イサナは積もっていた本の山の中から飛び出し、段ボールも脱ぎ捨ててキング・ブレインに向かって駆けだした。
――吶喊。
サブマシンガン『オールド・タイプライター』の銃口を向け、走る事で多少狙いがブレるのも構わずに、イサナは走りながら撃ち続ける
『くっ、弾幕か』
肩を撃たれた上に、イサナの弾幕。完全に動きが止まったキング・ブレインに、兵庫の伸ばしていた糸が絡みつく。
『ぬおっ!? この糸どこから!?』
立て続けに撃たれたと思ったらがっちりと糸が巻き付いて、キング・ブレインが動揺を露わにする。
(『――よぉし!作戦開始よ!』)
「おーっ! 伐採兵の皆さん!」
頭の中の『せんせー』の声に片手を挙げて応える兵庫の周りに、幾つもの小さな緑色の何かが現れた。『ヴーン』と何かが回転するような音も響き出す。
――蟷螂の鋸。
「一切合切、刈り取っちゃってください!」
本来そこにある筈の鎌の代わりに回転ノコギリを持った蟷螂の群れが、兵庫の指示でキング・ブレインに向かって飛んで行く。
『あ、これはとっても痛そうで吾輩嫌な予感しかしない。だが、そんな群れ程度、本棚で纏めて潰してくれる! ブレブレブレ!』
キング・ブレインが、ぐっと腕に力を――力を――。
『ってしまったー! 腕縛られてる! だがしかし本棚を投げられる吾輩の膂力があればこんな糸程度――切れねー!?』
「そりゃそうですよ。その糸、耐荷重1tありますから」
『ああ、そりゃ吾輩では無理だ――って、吾輩マジでピンチ!?』
糸を引き千切ろうとして千切れなかったキング・ブレインが、兵庫の告げた耐荷重に焦りを露わにする。
『なーんてな! 備えあれば憂いなし。吾輩、念動力も使えるのだ。ブレブレブレ!』
「念動力も使えるのか。確かに驚いた」
高笑い上げて手を触れずに本棚を持ち上げるキング・ブレインだが、その頃にはイサナが肉薄していた。
「本棚投げるの早かったよ。……でも、わたしも結構早いんだ」
さあ、撃たせろ――メイク・マイ・デイ。
弾幕で撃ち尽くしたドラムマガジンを捨てて、新しいマガジンを取りつける――その動作にイサナがかかったのは、コンマ秒の僅かな時間。
「……特徴的な笑い方だと思うよ。ブレブレ。でも、それもこれで最後だ」
『ぬ、ぐぉぉっ』
ゼロ距離からのイサナが浴びせる弾幕を、キング・ブレインは耐えるしかない。
そこに蟷螂の群れが殺到し、ザクザクギュイーンと回転ノコギリで斬りつけていく。
パリーンッ!
一度撃ち抜かれていたキング・ブレインの黄金の脳を覆うガラスの様なものが、弾幕と回転ノコギリで完全に砕け散った。
「もう見せてあげるものは何もありません」
またどこからか、シリンの声だけが聞こえる。
「全て忘れて、お逝きなさい」
シリンが撃った弾丸が、無防備になった黄金の脳を撃ち抜いた。
『おのれ……吾輩が……黄金の脳を持つ吾輩が、負けるか……』
キング・ブレインの身体から力が抜けて、膝を着く。
「もう笑えないだろう。代わりにわたしが笑ってあげよう。ブレブレブレブレ……」
キング・ブレインの笑いを真似るイサナの目の前で、崩れ落ちるキング・ブレインの姿が薄れ出していた。本棚も消えて――鮮やかな金髪が見える。
それもすぐに薄くなって、消えていく。
――ざまあみろ。
微かに――聞こえたかどうかも定かではないくらい微かに、キング・ブレインのものとは違う声が、猟兵達に聞こえた気がした。
大成功
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