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意識の境界線 ―Pray for demigod―

#UDCアース

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#UDCアース


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●無上越境
 しん、と静まる真夜中。
 雲一つない真っ黒な夜空の中で、月が白銀に輝いている。
 そして月光が入る部屋の一つに……少年が一人、ベッドに縛られていた。
 彼が居る部屋は、鉄扉と鉄格子、そして薄汚れたベッドしかない小さな部屋だ。血の饐えた匂い、濃密な狂気の香りがあたりに漂っている。
 少年は手足を縛られ猿轡を噛まされ、むぐむぐともがいていた。
「……目が覚めたかね」
 そこに一人の老人が現れた。かなり重そうな鉄扉を、事もなげに開ける。夜闇に隠れて、シルエットしか分からない。
 少年は恐怖に目を見開き、ベッドの上でもがく。
「恐がる必要はない……君は新たな世界に触れるだけじゃ。生身の肉体は余りにも貧弱。それを機械で強化し、叡智に触れる……素晴らしいと思わんかね?」
 老人は懐から何かを取り出した。
 良く見れば、老人の背中には、機械のアームのような物が生えていた。
 老人は懐から取り出したモノを少年に突き付け、機械のアームを身体へ突き刺した。
 声にならない悲鳴が、少年の全身を震わせる。
 血が吹き出て、月光の刺す部屋の中を赤色に染めていく。
「これで更に一人……儂の兵が増えた……ハッハッハッハ!」
 老人は一人呟き、哄笑した。

●グリモアベース
「機械と人の融合、と言うような話を聞いたことはありますか?」
 グリモアベースにて、片手にSF小説を持ったノルナイン・エストラーシャが呟いた。
「勿論、UDCアースにはサイボーグの方々が居ますね。機械化された人たちです。UDCアースのSF小説をひっくり返せば、サイボーグを扱ったものも沢山有ります。
 機械と人の融合には、いくつか目的があります。大別すれば、機能補助と機能強化。臓器などの機能を補助や代替するか、人本来の持つ機能を強化する……と言う感じに。
 しかし、行き過ぎた機械化は、人間性の否定に繋がりはしないでしょうか? 全て機械で良いという事になれば、そこに生まれるのは一体どんな思想なのでしょう?
 こんな話を長々とするのは他でもありません。私の予知に関係します」
 バン、と本を閉じて、ノルナインは顔を上げた。

「さて、それではブリーフィングを始めます。
 今回向かってもらうのはUDCアース。その街の一つにある、大きな館です。
 私は『とある少年が老人に殺害され、機械化される』という予知をしました。私がテレポートで転送する館は、その老人に関係がある場所です」
 ノルナインはそう言うとタブレットを取り出し、ホログラム映像を映し出した。
 映っているのは機械のアームを生やした、どこか冒涜的な見た目をした老人だ。
「老人の名前は坂城・鋼三郎。遠い昔に死んだことになっていますが、自らを機械化して生きながらえています。彼は何らかの邪神を信仰しており、その邪神のために人々を機械化しています」
 ノルナインが指を鳴らすと、ホログラム映像が変化した。
 そこに映っているのは、大きな西洋風の館だ。
「皆さんに向かってもらう館はこれです。三階建てで千坪を超える大きさの敷地を持っています。一度惨劇としか呼べない凄惨な事件が起き、それ以降誰も使っていないようです。心霊スポットとして名高いという噂ですが、入った人は帰って来ないんだとか」
 彼女の言葉が終わると同時に、映像がふっと消えた。

●猟兵と言う存在
「猟兵の皆さんは、館を調べて痕跡を探し出し、坂城・鋼三郎を追って下さい。恐らく坂城の拠点は別の場所に有りますが、その拠点に繋がる情報が残っているはずです」
 ノルナインはそう言うと、猟兵たちの方を向いた。
「人間性と言うと、多様な種族が居る猟兵さんたちには変に聞こえるかもしれません。
 なのでここで、魂や心と言い換えてみましょう。
 坂城・鋼三郎は、被害者を強引に機械化する事で、魂や心を汚染してしまいます。そこには何も残りません。記憶も感情も、今まで有ったモノは、何一つ。
 正に人の可能性を、未来を喰らうオブリビオンそのものです。
 ……それは、許されてはいけないことだと思います」
 怒りを秘めた様子で、ノルナインは言った。
「ですから皆さん、どうかこのオブリビオンを止めて下さい。
 よろしくお願いします」
 そう言って、彼女は一礼した。


苅間 望
 機械と人。SF的なテーマですね。
 皆さんは、もし身体を機械化できるようになったらどうしますか?
 自分は……ウーン、難しい問題ですね。ネットにダイブ出来るなら機械化したいかもしれません。ネットサーフィン(物理)をそのうちしたいです。

 さて、初めまして or こんにちわ。苅間望と申します。

 まるでシリアスみたいです。何という事でしょう、シリアスです。
 ギャグと言う要素が一ミリも含まれていないような気がします。悲しいです。
 ……エッ、オープニングを一ミリも読んでいない?
 そんなアナタは以下を読めば解決。読んだアナタも流れを再確認できます。
「大きな館を調べる!」「敵の拠点を探してそこを調べる!」「坂城・鋼三郎許さねえ!」「シリアスだよ!」

 ……それでは、皆さんの参加をお待ちしております!
 シリアスだけど挑戦は気軽にしてみて下さいね!

 さて、以下はアドリブや絡みについてです。一読しておいて貰えると助かります。
『アドリブについて』
 ※OKとあれば、アドリブが多めに入ります。
 ※NGとあれば、プレイングに従い、出来る限りアドリブを排します。
 何も無ければ少しアドリブが入ります。
『絡みについて』
 ※絡みOKとあれば、私の一存で他の猟兵さんと絡ませたりします。
 ※絡みNGとあれば、一人で対処してもらいます。
 協力してプレイする! という場合は、「この旅団の人とやる!」とか、「この猟兵さんとやる!」というのをプレイングに書いてもらえると助かります。
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第1章 冒険 『惨劇の館』

POW   :    屋敷の中を歩き回り、UDCを捜し出す。気力と体力のいる作業だ。

SPD   :    屋敷の中に異常がないか、確認する。頭よりも、手先の器用さが重要だ。

WIZ   :    屋敷の間取りを把握し、効率的に捜す。立体的に建物を把握するには、かなり頭を使うだろう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●館
 UDCアースの郊外に建つ、巨大な洋式の館。
 三階建て、敷地は千坪超えであり、遠めに見ても非常に目立つ。しかも、余り良い意味ではない。
 レンガの塀で囲まれたその館は、何年も手入れがされておらず、蔦や草木が伸び放題になっている。遠めに見ても、屋根や壁の塗装が剥げているのが分かるし、窓は割れている、所々穴が開いている……と、端的に言って廃墟同然だった。
 しかもその周りには、見た目以上に何か嫌な空気が漂っていた。過去に起きた惨劇の痕跡が消え切らず、消しきれない血と狂気の匂いが未だに残っているのだ。
 そんな事も有り、この辺りに近付くのは物好きや、肝試しにやってきた若者くらいしかいなかった。
 そして、入って行った人が行方不明になったという噂もある。
 ……その館は、誰も使わなくなってもなお、人を誘い、人を閉じ込める……そんな狂気を孕む建物になっていた。
ミアス・ティンダロス
☆アドリブ・他人との連携は大歓迎です。

無辜な一般人を殺して、機械にするなんて……酷過ぎです!
僕もUDCや邪神達と仲良くなりたいけど、人に危害が加わるなら別の話です。
決してほっとけるわけにはいきません。坂城さんを必ず止めてやります!

スターヴァンパイアと【追跡】技能を併用し、痕跡を辿って、人がよく訪れた場所または隠し部屋を探し出そうとします。


エメラ・アーヴェスピア
生命維持の為に機械化した私のような者も居る
要は技術は使い方なのだけど…最近、UDCでは技術を悪用する者が多すぎるわ
一技術者として止めなくてはいけないわね

館…大きいのね。間取り図頂けるのかしら?
どちらにしろ調べなくてはいけないのだけど
『我が工房に帳は落ちず』そして『ここに始まるは我が戦場』
館の内部に工兵を放ち、人海ならぬ機海戦術で工兵のカメラ越しに視て地図を作るわ
『戦場』はその後に監視カメラ代わりに各所に配置
私は入り口で得た情報を元に地図を作りつつ同僚さん達の連絡役を受け持つわね
つまり探索本部?連携や情報共有はできた方が良いでしょう?
…何か、空洞の様なおかしな所はないかしら?

※アドリブ・絡み歓迎


宙夢・拓未
SPD行動

坂城・鋼三郎か……嫌な名前を聞いたもんだぜ
けどこれも運命だ、ここで奴の被害は食い止める

さて、館で調べるべきは、拠点の情報か
あの機械大好き爺さんなら、機械類に痕跡を残すと俺は見たぜ

例えば、USBメモリやノートパソコンが金庫とかに隠されてるんじゃないか?
鍵のかかった机の引き出しとかも怪しいな
それっぽいのを見つけたら、片っ端から【鍵開け】を試すぜ

もしパスワードを要求される物が見つかったら……
「SAKAKI」……なわけないか。でも試してみるぜ

怪しい物が一切見つからなければ、屋敷内をもっとくまなく探索する
テレビでもエアコンでも、機械類ならなんでも怪しく見えてくるな

※OK
※絡みOK


メイスン・ドットハック
【WIZ】
ほうほう、洋館探しとはのー
どこかのゾンビホラーみたいに何か出てくるかのー

まずは事前情報として、屋敷のことをネットで調べる(情報収集)
そして屋敷を建築した会社や販売を仕切っている不動産会社にハッキングを仕掛けて、屋敷の構造や間取り図を入手を試みる(ハッキング、鍵開け、情報収集)
特に、屋敷に関する改築や地下施設などの情報に関しては重点的に調べていく

情報は他の猟兵にも共有し、情報を渡しておく
屋敷探索をする場合は、カメラなどの装置があればハッキングを仕掛けて、建物の構図把握を試みる(ハッキング、情報収集)

アドリブ、絡み共にOK


十六夜・月
[POW アドリブからみおまかせ]
調査ってのはあまり得意ではないけど、足でカバーできるだろう。
[第六感][野生の勘]で館の中を探し回ります。
立派なものではないが、[情報収集]もそれなりに役立つはず・・・!

「なんともまぁ・・・悪趣味なことで。」



●調査拠点と二人の電脳魔術士
 館のすぐそばに、プレハブ小屋があった。
 プレハブユニットを縦横に四つ連結させてあり、そこそこ大きな二階建てになっている。屋根にはアンテナが立ち、周囲には発電機や室外機が設置され、ごう

んごうんと音を立てている。
 廃墟同然の館のそばにあるにしては、真新しすぎるし、近代的過ぎる。
 それも当然。
 これはUDC組織がサポートとして作り上げた、調査拠点なのだから。

「即席いう割には、割と整っとるなー」
 メイスン・ドットハックは、プレハブ小屋の中を見て感嘆の呟きを洩らした。
 小屋の中は、情報機器で埋め尽くされた情報調査用の部屋と、休憩所に分かれている。
 彼女が見ていたのは、情報調査用の部屋だ。無数のモニターが並び、かなり高級品であるデスクトップパソコンが数台接続されている。部屋の中はモニター

が所狭しとひしめき合っており、凄まじい光景になっている。
 モニターの光が、クリスタリアンの宝石の身体を青々と照らしている。おかっぱ髪の下にある目が、少し眩しそうに細められていた。
「なんだかここまでしてもらうのは申し訳ないわね。後でお礼を言っておかないと」
 同じく、部屋を見渡してエメラ・アーヴェスピアが呟いた。
 西欧人形のような服を着た、小さな少女……のように見えるが、既に幾つもの依頼をこなしているベテラン猟兵だ。
「装備がええ分には文句を言う理由はないのー。その分仕事はせんとなー」
「そうね。私たちがいい仕事をすればするほど、後の猟兵さんが動きやすくなるわ」
 そう言って二人は、各々席に着いた。
 二人の猟兵は、どちらも電脳魔術士。情報調査をするにあたって、これ以上相応しい人員はいないだろう。

「ほんじゃ、洋館探しの一歩手前。まずは調べるとするかのー」
 メイスンはパソコンを操作し、屋敷の事をネットで調べ始めた。
 まずは表層部分を洗おうという訳だ。
 ざっと情報を調べて行くと、以下のような事が分かった。
『一年ほど前、猟奇事件が起きた。十数名ほどが屋敷の中で、お互いに殺し合ったらしい。死亡者は全員、身体に何らかの機械を埋め込まれていたが、詳細は

不明。それ以降屋敷は封鎖されているが、心霊スポットとして名高くたまに人がやってくるらしい』
 なるほど、とメイスンは頷いた。
 そのまま彼女は、屋敷を建築した会社や、販売を仕切っている不動産会社にハッキングを試みた。
「間取り図くらい出てくればいいんじゃがのー……っと、何じゃこりゃ」
 メイスンは現れた情報にざっと目を通し、唸った。
 まず、この館は一つの建築会社によるものではないらしい。複数の建築会社が、それぞれ別の部分の建築担当をしている。
 ……即ち、一つにまとまった間取り図は、建築会社の方にはない。
 その上で改築や増築を行っているため、仮に間取り図があったとすれば、迷路のようになっているだろう。それこそ、全てを最初から把握している館の持ち主に

しか、分からないように。
 そして販売を仕切っている不動産会社は……ペーパー会社だった。現在は活動しておらず、この方面から捜査するのは難しいだろう。
「めんどー。取りあえず間取り図じゃ、一応分かる部分だけでつなぎ合わせてみるかのー」
 メイスンは頬を掻きながら、大まかな間取り図の作成を始めた。

 その間、エメラはグリモア猟兵から貰った坂城・鋼三郎の資料を見ていた。
 人を勝手に機械化し、魂や心を凌辱するオブリビオン……それが坂城・鋼三郎だった。
(生命維持の為に機械化した私のような者も居る。要は技術は使い方なのだけど……最近、UDCでは技術を悪用する者が多すぎるわ)
 エメラは溜息をついた。
 一技術者として止めなければならない。彼女の心にはそういう決意があった。
「間取り図大体作り終わったでー」
 メイスンの声と共に、データが送信されてきた。
「バラバラに作ってあるから、うまーく一致せん部分がある。そこは勘弁してのー」
「いえ、ありがとう。これで十分よ」
 エメラはそう言って応えると、ユーベルコードを展開した。
「戦いは始まる前から……とはよく言ったものね。各員、速やかに作業を開始なさい」
 ぽんぽんぽん、と、缶型機械と魔導蒸気工兵が現れた。
 缶型機械はその場でドローンに変形し、空を飛び始めた。
「わー、多すぎる、部屋が埋め尽くされる!」
「大丈夫大丈夫。さあて、人海ならぬ機海戦術で調査開始よ!」
 彼女の言葉と共に、ドローンと魔導蒸気工兵がぞろぞろとプレハブ小屋から出ていった。

 エメラは工兵のカメラ越しに、屋敷の中を観察していく。詳細までは分からないものの、地図を作るには十分な解像度の視界だ。
 ……それに、道には騒乱の痕が今でも残っている。下手に全てを見てしまうと、それだけで気分が悪くなってしまいそうだ。
(なるほどなるほど。何となーく分かって来たわ)
 どんな危険があるかわからないため、部屋などには入らずに地図を作る事に務めていく彼女。
 大まかに見取り図の未定部分を埋めていくと、どうやっても『空白』になる部分が見つかってきた。
(空洞になる場所がいくつかあるわね。これは『この屋敷の持ち主』にしか分からない場所……つまり最も怪しい場所ね)
 エメラは空白込みの地図を、電子データとして作成していく。
 ……やがて、彼女の目の前には、大まかな屋敷の地図が完成した。
「それじゃあ工兵たちは戻っておいで。ドローンは、監視カメラ代わりに各所に置いておきましょう」
 彼女の言葉と共に、ぞろぞろと工兵たちは屋敷から出て来た。
「便利やなーそれ」
「でしょう? さて、じゃあこの情報を他の皆に伝えましょう」
 そう言って、エメラは情報を送信した。

●狂気越境と追跡者
「それじゃあ、私たちは実際に中を拝見するとしよう」
 屋敷の前に立って、十六夜・月は言った。
 赤い瞳が、じいっと屋敷を見上げている。遠くから見ても嫌な気配が漂う建物だ、近くで見上げると、より濃密で狂気を孕んだ空気が包み込む。
「そうですね。無辜な一般人を殺して機械にするなんて……酷過ぎです! 決してほっとく訳にはいきません。坂城さんを必ず止めてやります!」
 怒りを込めた調子で言うのは、ミアス・ティンダロス。
 出来る事ならば、UDCや邪神と共存したいと願う彼にも、坂城の暴挙は許せるものではなかった。
「そうだな。ここで奴の被害は食い止める」
 決意をにじませて、宙夢・拓未は呟く。
 彼にとって、坂城はいわば仇敵とでも言うべき存在だった。坂城の名前を聞いた時に彼は顔を顰めたが、しかしこれも運命だと考え、ここにやって来た。
 三人の猟兵は、ぎぎいと軋む扉を押し開けて、中へと入っていった……。

 彼らの入館を、濃密な狂気を孕んだ空気が出迎える。
 一階のメインホールはこびりついた血と、騒乱の痕が色濃く残っていた。流石に死体は残っていないが、ここに人が倒れていただろう、ということを匂わせる血痕があった。
「こりゃまた嫌な感じだな……」
「そう言えば、猟奇事件があったらしいな。これはその痕跡だろう」
 拓未と月が、血痕を見て呟く。
「……許せません! 空白(きよ)く、優しく、慎ましく――追いかけなさい、不可視の吸血鬼さん!」
 ミアスは怒りに満ちた様子で詠唱した。
【鋭霊召喚・星から訪れたもの】……目には見えないゼリー状の生物を呼び出す、彼のユーベルコードだ。
「痕跡を辿ってください、吸血鬼さん!」
 ミアスが言うと、『吸血鬼さん』は動いたようだ。
 彼が動くのに合わせて、拓未と月はついていった。

「……なるほど、ここが怪しいみたいですね!」
 ミアスが辿りついたのは、二階の奥の廊下……の中心部分。
「見た感じ何も無さそうだが……隠し部屋か?」
「確かに、見取り図を見る感じ、この奥が空白になってるな。何か有りそうだぜ」
 三人の猟兵は顔を見合わせると、壁を攻撃した。
 ……確かに、その奥には空洞が……そして部屋があった。
「うわっ、何だこの臭い! 血か!?」
「血と……腐敗した人間の臭いだ」
「こ、これはキツいですね……中で一体何が……」
 拓未やミアスは思わず鼻を押さえた。
 中から、鼻の曲がりそうな濃密な臭気が零れて来た。がつんと脳を殴られるような衝撃のある、酷い臭いだ。
 ダンピールである月は、ある程度血の臭いに耐性があった。そのため彼女は率先して中へと入っていく。
「これは……酷いな」
 しかしそんな彼女でも、部屋の中に広がる光景を見て思わず口を塞いだ。
 その部屋は手術室のような感じになっていた。そして、手術台の上には腐乱死体がいくつかあった。時間が経過し過ぎ、肉が溶けて辺りを汚している。人だというのが分かるのは、人骨がまだ残っていたからだ。
 ……そしてその人骨は、所々が機械化されていた。
「うわ、なんだこれ。あの爺さんの実験室だったのか……?」
「……どうしてこんな酷い事が出来るんでしょう……? こんな事しなくても……」
 後から入って来た拓未とミアスは、顔を青ざめさせていた。
「ここに爺さんの痕跡があるかな、余り長居したくないが……」
「あったとしても僅かだろう。ここが機械化の実験室だとするなら、実験に関するものしか置いてないのが道理じゃないかな」
 拓未の言葉に、月が返した。そして彼女は、血に汚れた一片のメモを見つけた。
『工学の力によりて、我等は人を超え、神へと近づく。完成品は半機半人となるだろう。古今東西の神話にて、人ならざる者の特徴を持つ英雄は数多い。ならば半機半人は、現代の英雄と呼べないだろうか? 数々の神話にて、鉄の体を持つことは英雄となり神となる者の特徴である。ならば何故人は肉の体を捨て、鉄の体を得ないのだろうか?』
 メモは端正な字で書かれていた。
 これは恐らく、坂城・鋼三郎が書いたものだ。これは彼の思想を端的に示したメモでは無いだろうか?

「……はあ、暫く鼻は使えそうにないぜ。まだあの臭いがこびりついてる感じがする」
「かなりキツい匂いだったから仕方ない」
「僕はちょっと気分が悪いです……」
 部屋から出た三人の猟兵は、そう言った。ミアスはふらつき、平気そうな月が彼を支えていた。
「それにしても、どうして吸血鬼さんはあそこに連れて行ったんですか? ……え? 最も人の出入りが多い場所だった……?」
「ああ確かにな……ここの猟奇事件の被害者は、全員機械化されてたって話だ。それが十数名。機械化を行ったのがあの部屋なら、一番人が行き来するのはあの部屋になる」
「うう……少しだけ恨みますよ、吸血鬼さん」
 拓未の推測を聞いて、ミアスは頭を抱えた。
「しかし、まだ爺さんの次の拠点は分からないな……一体何処だろうな」
「……少し地図を貸してくれ」
「ん、いいぜ」
 月の言葉に、拓未は地図を彼女に渡した。
「……三階にも空白がある。坂城さんの部屋はこの辺りじゃないか」
 坂城という男は、メモを見る限り、狂気の世界に足を踏み入れて以降も理知的だ。それならば、屋敷の最も奥、入りにくい場所に秘密を隠すのではないか。
 月は今まで得た情報と地図を元に、そう推測した。
 最後の推測のひと押しは、第六感……だろうか。
「よし、行ってみよう。予知の内容は『少年が殺される』だったな、早いとこいかないと手遅れになるかもしれねえ」
 拓未がそう言うと、月とミアスは頷いた。

「……この辺りだな」
 三階の廊下の奥まで辿りつくと、地図を見ながら月が言った。
 三人は再び協力して壁を攻撃する……と、やはりその先には部屋があった。
 先ほどのような、鼻の曲がるような悪臭はない。外から見た感じ、そこは書斎のようだった。
「……なんともまぁ……悪趣味なことで」
 中に入った月は、部屋を見渡して呟いた。
 その部屋は確かに書斎だったのだが……無数のはく製や人体模型が無秩序に置かれている。様々な形をした機械も、所狭しと置かれている。そこに法則性はなく……坂城が内に孕んでいた狂気が、にじみ出ていた。
「よし、じゃあ徹底的に調べるぜ」
「頑張りましょう!」
「了解」
 三人の猟兵は、手分けして部屋の中の物をひっくり返していった。
 月やミアスはとにかく物を調べ、一方拓未は鍵のかかった引き出しや、金庫を開けようと奮闘していた。
「……よし、開いた! 中にあるのは……ノートパソコンか。あの爺さんらしいぜ」
 拓未は金庫を開け、中からノートパソコンを取り出した。まだ真新しく、電源ボタンを押せば起動するようだ。
 しかし、そこから先に進むには、パスワードが要求された。
「……『SAKAKI』なんてどうだ」
 拓未はキーボードを叩くが、弾かれてしまった。そんなわけないか、と彼は一人呟く。
「メイスン、エメラの二人に頼むか。二人共聞こえるか?」
『聞こえとるで、ばっちりじゃのー』『通信は問題ないみたいね。何か有った?』
 スマホを取り出して、拓未は調査拠点にいる二人に連絡した。
「ノートパソコンを見つけたが、パスワードがかかってて分からないんだ。そっちで解析できるか?」
『多分問題ないと思うのー』『持ってきてもらえれば出来るはずよ』
「OK了解。じゃあ一旦そっちに戻る」
 拓未は通話を切ると、月とミアスの方を見た。
「と言う訳で、一旦戻ろうぜ。このパソコンから何か分かるかもしれない」
「なるほど、ノートパソコンか。確かにな」
「機械が好きな人なんですよね。何か大事な事が分かるかも!」
 そして三人は、調査拠点へと向かった。

●連鎖する狂気と惨劇
「このパソコンね」
「やってみるかのー。多分楽勝じゃけー」
 ノートパソコンを受け取ったメイスンとエメラは、パスワード解析を始めた。
 彼女らにかかれば、この程度は余裕だった。一分もかからないうちに、パスワードは解かれた。
「どれどれ……? うーん、これは……」
「うわー……悪趣味じゃのー」
 彼女たちは開いた情報を見て唸った。
 三人の猟兵も、ノートパソコンを覗き込んだ。
『儂自身の機械化は成功したが、他者の機械化はうまくいかなかった。全員精神崩壊を起こしてしまうのは一体何故だ。どいつもこいつも、意識の境界線を乗り越えられなかった軟弱者だ。しかしそれならそれで、使い道はある。傀儡として操り、儂の手駒にしてしまえば良い。手駒には記憶も感情も心も必要ない。この計画には、人が集まり、且つ機械化を行うだけの施設がある場所が必要となる。あの病院が良いだろう。儂の金を受け取って動いているのだから、嫌とは言えまい……』
 モニターに映るメモには、そのように書いてあった。
「クソッ、まだ犠牲者を増やそうって言うのか……!」
「病院か。確かに施設もあるし隠れ蓑としても使える」
「それなら、早く行きましょう!」

 ……そして彼らは向かう。
 坂城・鋼三郎の次なる拠点である、病院へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『深夜の病院に彷徨える……』

POW   :    人がいなくなるまで病院内で身を潜める、検査室や職員食堂などを総当たりで調べる

SPD   :    患者に成り済ます、病院長室や職員のロッカーなどから手がかりを探す

WIZ   :    医療関係者に成り済ます、カルテや院内のイントラネットをのぞき見て情報を得る

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●病院
 そこは街で最も大きな病院だった。大学病院と比べても遜色ないレベルの設備が取り揃えられている。
 医者も患者も多く、加えて人の出入りが激しい……人が行方不明になっても中々気付かないほどに。
 しかし人が多いということは、人目につきやすいということでもある。
 未だ大きな噂は立っていない……と言う事は、大規模な失踪や機械化などは行われていないのだろう。
 だが油断は出来ない。何が待っているかは分からないからだ。
十六夜・月
[POW]
今度は人が多く出入りする大型病院・・・
私には変装しての潜入捜査は難しそうだ。とっさのエンカウントの確率が少ない時間まで隠れて、それから捜査したほうが成功率が高いだろう・・・

もし、情報があるとしたら比較的一般の人間が入ることができない場所
死体安置所、手術室など職員や、上の階級の人間の出入りする場所が怪しいかな・・・?
[情報収集]をメインに行動だ。[野生の感][第六感]でやばいと感じたら
素直に引こう・・・他のみなにも危険が及ぶからね。


エメラ・アーヴェスピア
さて、拠点は判ったわけだけど…拙いわね、人が多すぎる
安易に兵器は出せないわね…

大きめの車、一台回してもらえる?先ほどと同じで私が連絡役として本部とするわ
一応私も運転できるけど…さすがにこの見た目では、ね

とりあえず、情報収集のハッキングと行きましょうか
『CODE:Chaser』対象は坂城さんが関係するデータ…としましょう
電脳世界が視えつつ調査できれば、多少やり易くなるでしょう
データを隠しても無駄よ?鍵(パスワード)開けや失せ物(データ)探しは得意なの
…一応物(アクセス履歴)を隠しておきましょう
隠し部屋の情報等があるといいわね
あ、突入する同僚さんが居る場合は電脳サポートもするわ

※アドリブ・絡み歓迎


メイスン・ドットハック
【WIZ】
どちらかと言えば潜入は得意じゃけーのー
さっさと情報収集するとするかのー

ユーベルコード「名前のない宝石」を使いながら、病院内のデータベースを集まるところに行く(忍び足)
他にデータベースを確保しにいく仲間がいるなら、宝石を渡して透明化させることも可

データベースが閲覧できるところを見つけたら、一目が付かないところでハッキング(ハッキング、情報収集、鍵開け)
最近はカルテも電子化しているので、不審な患者がいないか、何か怪しい手術計画があるとかなど、怪しい情報は片っ端から集める

アドリブ・絡み共にOK


宙夢・拓未
POW

時間はあまりないんだが
病院内の人間とトラブルになったら余計時間を食う
急がば回れだ、待つぜ

人がいなくなったら、俺が調べるのは検査室だ
扉は重いし、中から鍵を掛けられるからな
中で機械化されてる人間がいたりしたら、一刻も早く助けないと

【鍵開け】【怪力】
……予知だと、あの爺さんも重い扉を開けてたってな
なら、俺にもこのくらい……!

中に入れたら、MRIなどの機械類が動作してないかチェック
動いてたら……くっ、【怪力】で壊すしかない……!
頼むぜ、間に合ってくれ!

もし機械化されてる人間がいないなら、一安心だな
とはいえ、予知が実現するまで時間がないのに変わりはない
手がかりを漁って、撤収するぜ

※OK
※絡みOK



●白き牙城と作戦会議
 今は夕方。街が橙色に染め上げられる時間帯。
 白い病院も、今だけはその色を変えていた。
 ……病院を見張れるような位置に、かなり大型の車が止まっている。
「今度は人が多く出入りする大型病院か……」
 車の中から外を見て、十六夜・月は呟いた。
 先ほどは無人の館。しかし今度は、沢山の人が居る病院だ。
「私には変装しての潜入捜査は難しそうだ。とっさのエンカウント率が少ない時間まで隠れて、そこから捜査した方が成功率が高いだろう……」
「そうだな、病院内の人間とトラブルになったらマズい」
 月に賛同するのは、宙夢・拓未。
「時間はあまりない……が、トラブルが起きれば余計時間を食う。急がば回れだ、待つぜ」
 最短ルートを走り抜けるだけが捜査ではない。時には待つこともまた大事だ。
 そして時には、動かず待つことの方が、覚悟が要る行動になることもある。
「今回は人が多すぎる、安易に兵器は出せないわね……でも、出来る事はある」
 電脳魔術士として空間投影を始めながら、エメラ・アーヴェスピアは呟いた。
 確かに今回は、兵器を用いての人海……ならぬ機海戦術を行う事は出来ない。しかし彼女の戦場は、なにも現実世界だけではないのだ。
「メイスンさん、あなたはどうするかしら?」
「んー、どちらかと言えば潜入は得意じゃけーのー」
 電脳AI搭載型メガネ『MIYAJIMA』をかけながら、メイスン・ドットハックは答えた。
 彼女が持つ道具は、潜入した上でハッキングや情報収集を行えるような装備が多かった。加えて、彼女自身の持つユーベルコードも、潜入に非常に向いているものだった。
「けど出来るのは情報収集くらいじゃのー。電脳ならともかく物理キーは壊せんし、とっさのアクシデントが恐ろしいけーのー」
「それなら班分けしましょう。私とメイスンさんで病院内の情報を洗い出す。その後で、月さんと拓未さんに重要な場所を探索してもらう……でどう?」
 エメラの言葉に、皆が頷いた。

●電脳と現実の狭間
「まずは病院内の地図……それと坂城さんが関係するデータを洗ってみるわ」
 空間投影されたデータを操作しながら、エメラは言った。
 その姿は、0と1で奏でられる電子情報を操る、指揮者のようにも見える。
「とりあえず地図は、公式サイトの案内図を用いることにしましょう。恐らく立ち入り禁止区域内だからそこに絞って調査っと……よし、隠されてはいるけれど、坂城さんの名前はあるわね……捉えたわ、ここからはそう簡単には逃がさない」
 エメラは電脳空間に、電脳の追跡者を召喚した。極めて発見されにくいプログラムであり、UDCアース内の人間なら気付くことはないだろう。
 電脳魔術士としての腕と、【CODE:Chaser】による追跡で、電脳空間上に隠されたデータが次々と明るみに出る。
「……明らかにおかしいカルテがいくつかあるわね。関係ない所に突然移動させられたり、過度に重い病として登録されていたりする患者が居るわ。この調子だと多分、『死んだことになっている』患者が何人か居るわよ」
「機械化されてるような記録はあるか?」
「うーん……」
 拓未の質問を受け、エメラは暫くデータを漁った。が、めぼしい物は見当たらなかった。
「接続できる範囲には見当たらないわね。けどデータに違和感があるわ。病院内に『ネットワークに繋がってないパソコン』があるみたいね……ネットに接続されてないから、ここからじゃちょっとどうしようもないわ」
「ほんじゃ、それは僕の仕事じゃのー」
「お願いね、メイスンさん。私はここから出来るだけのバックアップをするわ……あとアクセス記録は消しとかないと」
「バックアップよろしく頼むのー、アクシデントは嫌じゃけーのー」
 メイスンはメガネをきちんとかけて車から出ると、病院を見上げた。
「大きいのー。目的がないと迷いそうじゃのー」
『メイスンさん聞こえる? この病院、自前でデータベースセンターを持っているらしいんだけど、場所は分からなくて……多分そこに、外からアクセスできない情報が入っているはずよ』
「了解。電子カルテの移動やら何やら、アクセス履歴やら探れば見つかるじゃろー、多分」
 そう言うと、メイスンの身体は次第に透けていった。周囲の風景に溶け込むかのように……やがて完全に透明になった。
 【名前のない宝石】。身体と装備を完全に透明化するユーベルコードだ。
「透明能力は便利じゃけど、これって疲れるのー……早く探さないと」
 メイスンは呟き、急いで病院の中へと入っていった。
 姿は消えたとはいえ、物音は消えていない。そのため彼女は、急ぎつつも出来るだけ忍び足で病院内を移動していった。
 時折近くを通った患者や看護師が不思議そうに振り向くことはあったが、気付かれてはいないだろう。
 メイスンは急ぎながらもメガネを通じ、様々な情報端末にアクセスしていく。
(……んー、カルテデータの移動記録を見てると、『絶対に通っているらしき端末』があるのー。けどネットワーク上にその端末のアドレスは存在しない……という事は、これがデータベースセンター内にある端末かのー。さてと……電力と空調システムを調べるとするかのー)
 メイスンは電脳ゴーグルを装着し、電力と空調システムに侵入していく。
 ざっと彼女が調べたところ、手術室など医療関係の部屋以外で、尋常じゃなく電力を食っている区画があった。しかも空調システムも完備されている。
 精密機械を並べ、データを集めているというのなら、そこは間違いなく電力が必要となる。そして熱暴走を防ぐために、空調システムもかなり良い物が必要だろう。
 という事で、メイスンはその区画へと入っていく。立ち入り禁止区域だが、そんなものは関係ない。不可視の彼女は、誰にも捉えられないのだから。
(……おー、これかのー)
 やがて彼女は、データベースセンターと書かれた扉を見つけた。
 頑丈な扉で、IDカード認証が必要なようだが……そんなものは関係ない。電脳ゴーグルと電脳スカウターによってクラックされ、一秒もたたずに扉が開いた。
 そこには……無数のスーパーコンピューターや、巨大なハードディスクが並んでいた。
「それじゃ調べるとするかのー……っと、あっけないのー、オフラインなら大丈夫だと高を括っとったな」
 メイスンはざっとデータに目を通す。そこには様々なカルテデータがあった。
「改竄されたカルテがいくつもあるのー。ご丁寧に原本と改竄後の両方が残っとる。見た感じ、まだ機械化はしてない……機材が揃ってないみたいじゃのー。とりあえず立ち入り禁止区域に幽閉しとる……か」
 メイスンは手に入れたデータを全て電脳上にコピーし、その場を後にした。

●惨劇が起こる前に
 ……時間は経ち、やがて街は夜の帳に覆われた。
「そろそろかな」
「おう。俺たちの出番だ」
 月と拓未はそう言って、車から出た。
「予め警報などはこちらで切っておくわ。気をつけてね」
「幽閉されてそうな所は地図に印つけとるけーのー」
 車内からメイスンとエメラが声をかけ、二人は頷いて病院へと向かった。
 夜とはいえ、病院が休まる事はない。通常の受付業務などは終わっただろうが、入院患者や急患などで、医者の仕事は続く。
 しかし、病院全域に監視の目がある訳ではない。二人は監視の目を掻い潜っていく。
「まずはどっちから行く?」
 月が地図を取り出して、拓未に聞いた。
 地図に印がついているのは、検査室、死体安置所の二つだ。
「死体安置所が近いな。こっちからにしよう」
 拓未の言葉に月は頷き、二人は地下にある死体安置所へと向かった。

「……陰気だな、どうしても」
「仕方ないさ。手分けして探そうぜ」
 道中に問題は無く、二人は死体安置所へと入った。
 どこか沈んだ空気が支配する、気が重くなる部屋だ。死体が安置されている場所なのだから、そう感じるのも仕方がない。
 ……が、しかし、そこにはどこか嫌な気配も漂っていた。
 二人は鍵開けなどを用いて怪しいところをかたっぱしから調べていった。
 すると……。
「……偽装された死体があるな。『死んだことになっている患者』の分か?」
「こっちにはメモもあったぞ」
 月は精巧に作られた人形を発見し、拓未はメモを見つけた。
『機械化を行うための機材が未だ揃っていない。揃えば強引に死体を変化させても良いのだが……死体に機械は中々定着しない。どれだけ死に瀕していても、生きている必要があるらしい。脳死状態の患者が居れば非常に都合が良いのだが』
 そのメモの筆跡は、以前に見た坂城のメモで見たものと同じだった。
「……となると検査室か」
「早く行かないとマズい事になるかもしれないな……急ごう!」
 二人は直ぐに検査室へと向かった。

 検査室は重い鉄の扉で閉じられていた。中から鍵がかかっており、ちょっとやそっとでは開きそうになかった。
「嫌な予感がする。中で何かマズい事が起きているかもしれない」
「何か変な音もするな……一刻も早く助けないと!」
 扉は特殊な鍵が使われており、鍵開けが出来るような物では無かった。なので二人は、協力して扉を強引に開くことにした。
 めきめき……と凄まじい音とともに、扉と壁が曲がっていく……!
 やがて、バキンと甲高い音と共に、扉がはじけ飛んだ。
「誰か居るか!?」
「……おいお前たち、何やってんだ!」
 中には白衣姿の男が何人か、モニターを覗いていた。そこに映るのは一人の少年、そして奥にあるのは筒状の機械だった。
 モニターの中に映る少年には、何らかの異物が入り込んでいた……それはネジやナットを呑み込んだというような生易しい物では無く、何かもっと悍ましい影で……。
「そこに映ってるのは何だ、機械を止めろ!」
「いや、俺が無理やりでも止める! 頼むぜ、間に合ってくれ!」
 拓未が機械のコード類を引きちぎり、怪力を活かしてカバーを剥がしていく。
 ……やがてそこに現れたのは、ぐったりとした様子の少年だった。
 月も研究者たちに動かないよう指示したあと、少年の様子を見に行った。
「……これは予知に出ていた子か?」
「そう思うが……まだ息はある。メイスン、エメラ、聞こえるか?」
『問題ないわ、聞こえてる』
『それが件の少年かのー?』
「だと思うが……うおっ、何だ!?」
 急に警報装置が鳴り響き始めた。病院中を叩き起こさんばかりの轟音で、サイレンが響き渡る。
『おかしい、病院のネットワーク上の警報装置は切ってあるのに!』
『……黒幕自身のお出ましじゃろーのー。地下がアブナイみたいじゃのー』
「分かった、一旦この子を安全な場所に連れて行くぜ」
「私が援護する。行こう、拓未さん」
 二人は検査室を後にし、全速力で病院を走った……。

●半機半人の英雄理論
「……っくくく、まさかアイツがここに来るとは、予想も出来ん事じゃ」
 モニターを見ながら呟くのは、坂城・鋼三郎その人だった。
 彼は『複数の業者に建物を作らせる』という方法を病院でも用いており、そのため病院には彼しか知らない通路や部屋が無数にあった。
 彼が今いるのは、地下の大空洞。ゆくゆくはここに兵器を、サイボーグ兵士たちを集めて前線基地に仕立て上げるつもりだった。
 ……が、その計画は今まさに頓挫しそうになっていた。
「人は愚かだ。科学技術を得て闇を払えたと思っているが、闇はそれほど甘いものではない。むしろ機械には機械なりの、悍ましい闇が宿るものじゃ……しかし知識があれば制御する事が出来る、力があれば掌握する事が出来る!」
 彼は背中に生やしたアームをうねらせながら、モニターに映っていた猟兵たちを見た。
「……工学の力によりて、我等は人を超え、神へと近づく。古今東西の神話にて、人ならざる者の特徴を持つ英雄は数多い。ならば半機半人は、現代の英雄と呼べないだろうか? 数々の神話にて、鉄の体を持つことは英雄となり神となる者の特徴である。ならば何故人は肉の体を捨て、鉄の体を得ないのだろうか?
 答えは実に簡単だ……多くの人は意識の境界線を越える事が出来ぬ故、精神が壊れてしまう! 儂は見事越え、半機半人となり……悍ましき機械の神の力を得た! それをようやく……ようやく他の人にも適応できるやも知れぬという矢先に……!」
 バン、と彼はモニターを殴りつけた。破片が飛び散り、キラキラと宙を舞った。
「祈れ(Pray)……。
 半神半人の為に(for Demigod)……!
 貴様らを倒して……儂は本物の神となってみせよう!」
 坂城は甲高く哄笑しながら……猟兵たちの方へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『坂城・鋼三郎』

POW   :    神に捧げしこの体
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【高性能なコンピュータ】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD   :    機械触手
【背中の機械触手による薙ぎ払い攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    機械化光線
【体の一部を、激痛と共に機械化する光線】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が機械化され】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠宙夢・拓未です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

メイスン・ドットハック
【WIZ】
たかだか機械と融合した程度で神扱いとはのー
その程度なら宇宙にいくらでもおるがのー

機械化光線の射線を防ぐために、電脳魔術で自身のデコイを出現させる
さらにユーベルコード「蜂のように舞い、華のように散る」の機甲化爆弾蜂を紛れ込ませる
光線を防ぎつつ、機械化した地形を爆破しながら、坂城・鋼三郎の懐に入り込み爆発させる

蜂とデコイの対応に苦慮している間に、ワイヤーを使ったトラップを設置
引っかかると、冷却液を浴びせ機械の動きを阻害する(罠使い、地形の利用、おびき寄せ、破壊工作)

うまく仲間と連携しながら戦う
味方の攻撃の隙を作ったりのトラップ仕掛けでもOK


宙夢・拓未
よう……久しぶりだな
俺は、意識の境界線を越えたってことになるのか?
……俺は半神半人なんてガラじゃない
けど、こんな体になっちまった以上、なってやるよ
――半機半人の英雄(ヒーロー)にな!

開戦後すぐに『目覚める正義』
宇宙バイクに【騎乗】、『ゴッドスピードライド』

仲間に攻撃が向かいそうなら【かばう】

【属性攻撃】機械には電撃だ
『ガジェットショータイム』で巨大スタンガンを出す
もしくは……俺が負傷してたら
傷口を直接、坂城に押し当てる
俺の体内にも電流が流れてるからな
『指定UC』だ
神を名乗る資格はお前にはないぜ、爺さん

【2回攻撃】とどめは『ヴァリアブル・ウェポン』
ブレードを肘から出し両断する

じゃあな……爺さん


エメラ・アーヴェスピア
なんとか追い詰めたわね
私自身が対峙したかったけど…どうやら優先すべき事があるみたい
同僚さん達、そちらは任せたわ

『出撃の時だ我が精兵達よ』
Lv25を一体、トレンチコートとハットで大柄な猟兵に偽装
重火器装備で皆に同行させて支援に回させるわ
もしバレたら誰かのUCに偽装の方向で
兎に角私の存在を隠す

そして私は戦闘を囮に先程調べられなかった各所コンピューターに情報回収に行くわよ
突入班に聞いた話だと、坂城さんの他にも人が居たようだし…
消される前に関わっていた人物と被害者のリストを中心に吸い上げてUDC組織に送らないと
誰一人逃さないわ…!

一応間に合うなら私も突入して援護射撃するわよ

※アドリブ・絡み歓迎


神舵・イカリ
機械と人が融合したくらいで神になれるなら、電子体である自分も神なのでは?

「…そんなバカな話ないぜ」

坂城は神になったというが、真に神ならば、

「同胞を作ろうなんて絶対に思わないだろうな。結局、仲間が欲しいだけなんだよお前は」

電子体であることを活かして、奇襲を仕掛ける

戦艦鎧装《マキナフリート》のバレルを酸弾を撃てるように変更し、坂城の機械を弱らせるように動く

「お前のそれがいかに脆い幻想か、教えてやるぜ! 溶け去れ、ーー クアントロム・カノン・アシッド!」

【属性攻撃】【なぎ払い】で他のメンバーを援護しつつ、隙あらば剣で斬り込む

アドリブ:OK
絡み:OK



●深淵からの救出
 アラートが轟音を鳴り響かせ、病院が混乱に陥り人々が出口へ殺到する中……エメラ・アーヴェスピアは一人、病院の奥へと走っていた。
(私自身が対峙したかったけど……どうやら優先すべきことがあるみたい)
 エメラは地下へ向かう隠し階段前まで来ると、一旦立ち止まった。
「さぁ出番よ、私の勝利の為に出撃なさい!」
 その言葉と共に、エメラのユーベルコード、【出撃の時だ我が精兵達よ】が展開される。
 ぽんぽんぽん、と左肩に1と刻印された戦闘用魔導蒸気兵が25体出現する。そしてその一体一体が合体し……やがて、左肩に25と刻印された、大柄な魔導蒸気兵へと変貌した。
「いい? 同僚さん達の支援をするのよ。これを着て……これも持っていって」
 エメラは魔導蒸気兵にトレンチコートとハットを着せ、大柄な猟兵に偽装させる。
 魔導蒸気の重火器を装備したその姿は、遠目どころか近くから見ても戦場傭兵のような猟兵に見えるだろう。
「……頑張ってね、皆」
 祈る様に呟くエメラをおいて、魔導蒸気兵は地下へと降りて行った。
 一方彼女は、地下には向かわずデータベースセンターへと向かった。
(ここにはまだ、『死んだことになっている患者』も、坂城さんの支援をしていた人たちもいる……消される前に、全部回収しないと……!)
 地下での戦闘そのものを囮に……彼女はこの病院を、坂城・鋼三郎の作り上げた白き牙城そのものを崩していくのだった……。

●機械仕掛けの偽神
 アラートが鳴り響く地下の大空洞……そこに、一人の猟兵がやって来た。
 透き通る宝石の体を持つ、クリスタリアンの女性……メイスン・ドットハックだ。
「たかだか機械と融合した程度で神扱いとはのー」
 メイスンの言葉は、大空洞中央に立つ坂城へと向けられていた。
 ぎりっと、奥歯を軋ませながら、坂城は彼女を睨みつける。
「程度が違う、程度が……儂の機械はより悍ましく、より深く、より暗く……深淵へと繋がっておるのじゃ。常人には見据える事の出来ぬ悍ましい叡智と、素晴らしき力が……」
「御託ばかりじゃのー。その程度なら、宇宙にいくらでもおるがのー」
「……ッ、小娘がァ!」
 その言葉は坂城の逆鱗に触れた。
 坂城は機械のアームを動かし、メイスンへと狙いを定める。エネルギーが集中し、アームは赤く発色する……。
 が、その僅かな隙に、メイスンは電脳魔術の空間投影を行った。
「ちと遅いのー?」
「なッ……何をした……本物はどこじゃ!?」
 瞬時の間に、無数の『メイスン・ドットハック』が空洞の中に現れ……動き始めた。
 電脳魔術によるデコイ作成……それが恐るべき数、恐るべき精度で行われた。どこもかしこも、メイスン、メイスン、メイスン……一人一人が自由気ままに動き、これでは誰が本物かわかったものではない。
「熱線……当てられるかのー? 本物はどこじゃろうなー?」
 どこからともなくメイスンの声がする。デコイ一人一人が喋り、一役だけの大合唱となる。
「……全員焼けば関係なかろう!」
 坂城はアームを振り回し、辺り一面に光線をまき散らす。
 その光線は、ひとたび当たれば激痛と共に機械化していく恐ろしい光線だ。人に命中せずとも、地形を機械化する事で戦場を有利なものに変える事が出来る……そのはずだった。
 光線は無数のデコイメイスンへとあたり……そして爆発した。
「何っ、何故爆発する……!」
「爆発する蜂は、毒針持った蜂より怖いということじゃのー。デコイは見た目だけと思ったかのー?」
 再びメイスンの声が響く。
 【蜂のように舞い、華のように散る】……小型の戦闘用機甲化爆弾蜂を召喚する、メイスンのユーベルコードだ。
 彼女はそれを、無数にあるデコイのに紛れ込ませていた。
 光線はデコイごと蜂を撃ち抜き……そして爆発したのだ。爆発して光線は霧散し、地形を機械化するはいいものの、それも即座に壊れてしまう。
「小賢しい真似を……ッ、いつの間に!」
「勿論、本物も居るからのー?」
 ふと気配を感じて坂城が振り向くと、そこには本物のメイスンが居た。
 彼女の傍には、何匹かの爆弾蜂がいて……坂城が気付いた時には、既に目前にあった。
 坂城の目の前で、ボン、と小規模な爆発が起きた。
「……っぐううううう!」
 彼は思わずよろめき、顔を押さえた。人工皮脂が吹き飛び、その下の機械化された頭蓋骨が顕わになる。
 そしてよろめいた拍子に、足元に設置されていたワイヤーを踏んでしまう。
 ぱあん、と極寒の冷却液が吹き出て、坂城は呻いた。パキパキと音を立て、彼のアームの幾つかが凍りつく。
「小賢しくて上等じゃのー」
 メイスンは再び距離を取り、坂城をじっと見つめる。
 その視線が、坂城の神経を逆なでした。
「……ッ! 邪魔をするなァ!」
 彼は怒りのままに叫んだ。電流が流れ、背中のアームの幾つかが熱を持ち、復旧した。
 そのまま、アームを広く展開して辺り一面を薙ぎ払おうとする……。
 が、突如背後から現れた魔導蒸気兵によって、榴弾を撃ちこまれた。
 坂城は吹き飛び、地面を数度跳ねながら転がっていった。

「僕らを見張っとったなら、僕以外にも追う者が居たことくらい知っとるはずじゃろー」
「……っぐぅ!」
 這いつくばった坂城は、顔をあげてメイスンと、魔導蒸気兵を睨みつける。
 メイスンが行った空間投影は、デコイだけではなかった。
 デコイは光線の射線を封じ、且つ『周囲から注意を逸らす』ための布石だったのだ。
 彼女は同時に、地形を誤認するような、特殊な風景の投影を行っていた。
 そしてその陰には、他の猟兵たちが隠れていた。
「機械と人が融合したくらいで神なんてな……そんなバカな話ないぜ」
 宙に浮かぶ四門の艦砲を侍らせた、一人の男が現れた。
 神舵・イカリ。バーチャルキャラクター……即ち、電子体の猟兵だ。
 電子生命体は、機械と精神の究極の融合系といえる……ならば機械と人が融合して神となるなら、電子体は完全に神なのではないだろうか?
 否、否、否……違うという事は、イカリ自身が良く知っていた。
「ええい貴様らは分かっていない……! この力を、強さを、素晴らしさを……何故理解できんのじゃ! 人は肉の体を捨て、機械となるべきなのじゃ、さすれば人を超え、神となる!」
「真に神ならば、同胞を作ろうなんて絶対に思わないだろうな」
「……ッ!」
 起き上がった坂城は、イカリの言葉で固まった。
 イカリは、その隙を見逃さなかった。侍らせた四門の艦砲が、エネルギーを充填し、光を放ち始める。
「お前のそれがいかに脆い幻想か、教えてやるぜ! 溶け去れーー クアントロム・カノン・アシッド!」
 轟、と酸のデータを込められた艦砲が放たれ、坂城を覆った。
 酸がぞわぞわと坂城の服を、人工皮膚を、そして鉄の体を汚染していく。
 ……やがて、ビームで抉られた地面の上、膝をつく坂城が残された。
 酸でしゅうしゅうと煙を上げ……びくともしない。
「終わったのかのー?」
「……いや、まだだ!」
 空気がピリッとひりつき、瞬間、空気を切り裂いて機械のアームが二人+一機に殺到した。
 身構える、防御姿勢に入る、唖然とする……反応はそれぞれだった……。
 ドォン、と物凄い音と共に地面が抉れ、塵煙が舞い上がった。
「……甘い……儂はまだ終わってはおらん……っくっくっく、ハッハッハ、ハアッハッハッハッハ!」
 悍ましい機械の体を顕わにした坂城が、悍ましい笑みを浮かべて立ち上がる。
 デコイが消え、塵煙が舞い上がる空洞の中、甲高い哄笑が響き渡る。
 ……が、突如、その笑い声は止まった。
 煙の中から、一人の戦士が顔を出した。
 バイクに乗り、鋼鉄の装甲に覆われた戦士が……じっと坂城を睨みつけていた。
「……よお……久しぶりだな」
「貴様は……宙夢・拓未……!」
 坂城の攻撃から味方を庇ったその戦士は……宙夢・拓未だった。
 鋼鉄の戦士たるその姿は、彼のユーベルコード、【目覚める正義】によるものだった。
 正義に燃える心に覚醒し、鋼鉄の装甲に覆われた戦士へと変身する。これにより、戦闘能力は爆発的に増大する。しかし同時に、戦闘終了まで毎秒寿命を削るという、凄まじい代償があった。
 彼には、その代償を払ってまで、変身する理由があった。
「俺は、意識の境界線を越えたってことになるのか?」
「……その通りじゃ……貴様は儂以外で、唯一意識の境界線を越え……見事半機半人の身体を手に入れた成功例じゃ」
 坂城は、拳を握りしめた。
「だというのに、何故じゃ……何故貴様は、儂に従わぬ……人を超え、神になりたいとは思わんのか!?」
 狂気に満ちてはいるものの、追い詰められ、焦る坂城は叫んだ。
 拓未は、その言葉には直接答えず、睨みを以て返した。
「……俺は半神半人なんてガラじゃない。けど、こんな体になっちまった以上、なってやるよ」
 拓未は坂城を睨みつけた。
 坂城は、人を理不尽に機械化し、心と魂を汚染する恐るべきオブリビオン……そしてそれ以上に、拓未自身の宿敵たる存在だった。
 自分自身でけじめをつける為に、彼は坂城に相対する。
「――半機半人の英雄(ヒーロー)にな!」
「黙れ……黙れェェェェェェェェェェ!」
 坂城は叫び……無数のアームを地面に突き刺した。
 ごおん、と地面が揺れ動き……床がはがれ、地面の下に埋もれていたコンピューターが顕わになる。
 機械のアームは、そのコンピューター群を突き刺し、飲み込んでいった。
「あれはマズいぜ……!」
「まだ動くとは、しつこい奴じゃのー」
 イカリとメイスンの言葉に、拓未は振り返った。
「……済まない二人とも、時間を稼いでくれないか。俺はあの爺さんに対して有効な手段がある」
「いいぜ、お前はアイツの事を良く知ってるみたいだからな」
「それなら僕も援護するかのー」
 三人は頷きあい、坂城の方を見た。
 坂城はコンピューターと融合し、徐々に大きくなっていた……。

「蜂さんおいで。アイツの邪魔をするけーのー」
 メイスンは残っていた爆弾蜂を集め、坂城が融合しようとしているコンピューターを爆破して壊していく。辺りに破片や瓦礫が飛び散っていく。
 融合する先が居なくなり、手持無沙汰となったアームが、メイスンの方を狙う。 
「まだまだ残りはあるぜ、目標補足、仮想バレル展開……量子の海に沈め! クアントロム・カノンッッ!」
 そこを、イカリの放つクアントロム・カノンが迎撃していく。
 轟と凄まじい熱量が辺りを薙ぎ払い、酸で床や壁ごとアームを、そしてコンピューターを溶かしていく。
 同時に、エメラの出している魔導蒸気兵の重火器も叩き込まれた。
 地下空洞のあちこちで爆発が起き、煙が舞い上がる。
 頑丈に作られているように見える地下空洞が揺れ、パラパラと破片が落ちてくる。
「……っぐぅ、邪魔を……邪魔をするな、儂は……神になるのだ!」
 坂城は声を絞り出して叫び、なおも身体を巨大化しようとしていた。
 アームはかなりの数が壊れ、坂城自身ももうかなりボロボロの状態だ。
 しかし、それでも、妄念に囚われた半機半人は動き続けていた。
「そろそろおしまいにしようぜ。機械は万能じゃないだろ、爺さん」
 ユーベルコードを展開しながら、拓未は坂城を見て呟いた。
 彼が使用したのは【ガジェットショータイム】……敵に有効なガジェットを召喚するユーベルコードだ。
 今回彼が作り出したのは、柄のないハンマーにも似た、巨大な長方形の道具。
 先からはバチバチと放電するそれは、巨大なスタンガンだった。
 機械であれば電気で動いている……ならば回路を焼き切ってしまおうと、そういうわけだ。
 巨大スタンガンを手にし、宇宙バイクエンジンを吹かせ……拓未は坂城へ突撃していく。
「ァァァァァ……宙夢ェ……拓未ィィィィィィィ! 神の邪魔をするなァァァァァァ!」
「神を名乗る資格はお前にはないぜ、爺さん!」
 坂城の伸ばすアームを見事に回避しながら、拓未は坂城へと肉薄した。
 刹那、二人は睨みあう。機械の魔人と、鋼鉄の戦士が相対する。
 直後、巨大スタンガンが、坂城へと押し当てられた。
 バチンと甲高い空気の破裂する音と共に、坂城の身体に予期せぬ電気が流れ込んでいく。
 身体をほぼ完全に機械化している坂城にとって……その電撃は、余りにも効果的だった。
「ガアァァァァァァァァ!!」
「以上がお前の弱点……証明は終了だぜ」
 拓未の言葉と共に、坂城の巨大化した身体がバラバラと崩壊していった。
 回路がショートし、身体の節々から火花が散り……やがて坂城は、どさりと地面に崩れ落ちた。
 巨大化した身体のパーツが辺りに散らばり、無数の火花を散らすその姿は、どこか奇妙なモニュメントのようにも見えた。
「……何故だ……何故儂には届かんのじゃ……人を超えた領域に、神の領域に……!」
 地面に倒れた坂城が、蚊の鳴くようなか細い声を絞り出した。
 狂気に満ち、淀んだ坂城の瞳は……今もなお、彼にしか見えぬ機械の神を追っていた。
 拓未はバイクから降り、坂城を見下ろしていた……が、坂城の瞳には、最早拓未さえも映っていなかった。
 哀れな狂信者の、一つの末路だ。
 彼は何を見て……何を感じて……機械化に奔走したのだろうか。
 それは誰にも分からない。きっと坂城自身にさえ、最早動機は分からないだろう。
「…………」
 拓未は肘から内蔵されたブレードを取り出し、一閃した。
 斬……と、坂城の身体は一刀両断される。
 やがて瞳から光が消え……坂城は、完全に息絶えた。
 坂城・鋼三郎という男が、機械化してなお生き続けていた男が、ようやく死んだ瞬間だった。
「じゃあな……爺さん」
 ブレードを収納し、息絶えた坂城を背に、拓未は呟いた。
 彼は一体何を思っていただろうか……それは、彼にしか分からない。

●牙城崩壊
 突如、がたがたと地下空洞が揺れ始めた。
「な、何だ!?」
「地震でも起きてるのか?」
「……あー、ここ、戦いに耐えられんかったみたいじゃのー」
 メイスンがざっとメガネを通して解析し、そう言った。
 無数に入った亀裂、熱や酸で弱まった建築材、それらが地上の重みに耐えきれず、揺れていたのだ。
 天井から、ガラガラと巨大な瓦礫が降ってくる。
 早く逃げなければ、生き埋めになってしまうだろう。
「皆! こっちよ!」
 ふと、階段とは別口から、エメラが姿を現した。どうやら隠し通路が別にあったようだ。
 猟兵たちはその言葉に従い、エメラの方へと走る……。
 全員が隠し通路に入った辺りで、ごおんと大きな瓦礫が入口を塞いだ。もう後には戻れない……そして、戻る必要もない。
 隠し通路の先には、小さなシェルターのような部屋があった。
 中に入ると、エメラは額の汗を拭い、息をついた。
「……ふう。間に合った。坂城さんはどうだった?」
「倒したぜ。それより、ここは一体……?」
 拓未は部屋を見渡した。そこには、モニターや機械、そして剥製などが無数に置かれている……それはまるで、館にあった坂城の書斎のようだった。
「ここは坂城さんの隠れ場所。死んだことになってるから、病院には出られない。けど機械化する人や資材を集める為に病院が必要。だから坂城さんは、地下にこんな場所を作ったみたいよ」
 エメラはそう言うと、モニターを指差した。
 そこに映るのは、混沌を極めた病院の中、そして避難した患者たちだった。
「私は『死んだことになってた患者』を解放、それと坂城さんの仲間の情報を集めるために、ちょっと病院の方を走り回ってたの。その途中で、ここを見つけたわ」
「ほー……しかしこの様子じゃと、地上は大変じゃろーのー……被害が出てないといいけどのー……」
 メイスンがモニターに映る病院内部を見て呟いた。
 それを見て、エメラは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫よ、被害者は出てないわ。地下が崩れたと言っても、病院が全部倒壊した訳じゃないから……無事な病床を使って何とかしてるみたい。表では警察も動いてるし、UDC組織の方も支援しに来たみたいよ」
「そう言えば、坂城の仲間の情報を集めてたって言ってたが……どうなったんだ?」
 ふとイカリが聞くと、エメラはモニターの表示を変えつつ答えた。
「全員の情報を吸い上げて、UDC組織に送り付けたわ。皆捕まってる」
 モニターには、捕まって連行されている研究者たちが映っていた。
「じゃあ事件解決って訳だな」
「そうね、完全に終わった……と思うわ」
「はー、今回はメチャクチャ頑張った気がするのー」
「かなり大変だったからな……それじゃ、戻ろうぜ」
 そして四人の猟兵たちは、部屋を出て地上へと戻ったのだった。

 かくして機械化を望み続けた狂信者は倒れ……事件は解決した。
 坂城のシンパも全て捕らわれ、根絶やしにされた……完膚なきまでに、猟兵たちの勝利と言えるだろう。
 暫くは病院の方は混乱が起きるだろうが、UDC組織の支援によって直ちに医者の補充なども行われ、通常通りに運営されるはずだ。
 勿論、地下に大空洞があるなどという事は、誰にも知らされず……やがて、病院で事件があったことなど忘れ去られていくだろう。
 しかし……その影には猟兵の姿があった……その事は、他でもない猟兵自身が覚え続けているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月07日
宿敵 『坂城・鋼三郎』 を撃破!


挿絵イラスト