迷宮災厄戦⑱-20〜霧の中の死神
●迷宮は笛の音と共に。
女は必死に裏通りを駆けていた。
ひゅうひゅうと、笛の音が聞こえる。
足がもつれそうになるが、止まってはいけない。あの少女に追いつかれてしまうから。
悲鳴をあげてもいけない。あの少女に気付かれてしまうから。
ああ、ああ。何故こんな霧の深い夜に外に出てしまったのだろう?
こんな夜には死神がやってくると知っていたはずなのに!
●夜が明けて。
辺りにはテープが貼られ、野次馬たちの侵入を阻む。
その中心には、ひとりの女の死体。首や手足を切り離されたバラバラ死体だ。
「毎回、一部分がなくなってるってんだからなぁ」
「コレクションでもしてるんですかね」
この女が奪われたのは左腕。これまでにも体の部位は重複することなく持ち去られている。
「これで……何人目だ?」
「12人目です、警部」
そう、これで12人目。この国を恐怖に陥れている殺人鬼は、昨夜もその刃を罪もない市民へと突き立てたのだ。
「手口は同じです。死因はナイフによる失血死。死後その体をバラバラにして一部だけを持ち去る……模倣犯とは思えませんね」
「こんなことする奴が何人もいてたまるか」
ちっ、と吐き捨てるように警部は言う。
犯行は決まって霧の夜。被害者は全て女性。そして。
「今回もトランプが落ちてましたよ。ハートのクイーンです」
「次はキングって事か? まったく、ふざけやがって……」
警察はこれまでの捜査で一切犯人につながる証拠を掴むことができていなかった。
遺留品はトランプのカードだけ。こんなものはこの国にいくらでもある。
「こんな時、小説なら名探偵が現れて解決してくれるんですけどね」
「警官が冗談でもそんなこと言うんじゃねぇよ」
情けないことをいう新入りに、警部は深いため息をついたのであった。
そして、今日も霧の夜がやってくる。
この国に渦巻く恐怖は、いつまで続くのだろうか?
●犯人はオウガ・オリジン。
「諸君! 聞いてくれたまえ!」
ゴッドオブザゴッド・ゴッドゴッドゴッド(黄金存在・f16449)が猟兵たちに呼びかける。
迷宮災厄戦も佳境。今回もすさまじい激戦が繰り広げられるに違いない。
「諸君の活躍によってオウガ・オリジンとの戦いは勝利を重ねている! その影響なのだろうか? 奴の中に眠っていた「無意識の悪夢」が、現実改変ユーベルコードで具現化してしまったのだ!」
その国は、まるで19世紀イギリスのような不思議の国。
そこに現れた無意識の悪夢。それは。
「この国では、霧の夜に女性が殺害されるという事件が起き続けている! 警察も正体はつかめず、市民は恐怖に怯えている!」
まさに悪夢だ。そして、その悪夢の正体は、オウガ・オリジンなのである!
「奴はナイフを手に人々を戯れに殺し続けている! しかしこの国では奴と戦って倒したとしても、事件は止まることはない!」
悪夢の世界とはそういうものなのだ。
しかし、オウガ・オリジンを倒す方法は存在する。たった一つだけ。
「探偵としてこの事件を捜査し、推理し、証拠を集め、手錠をかけること! それだけがこの悪夢を終わらせるたった一つの方法なのだ!」
彼女の悪夢が作り出した世界故に、警察は決してその正体にたどり着くことができない。
だからこそ、猟兵たちの力が必要なのだ。
幸いにして、オウガ・オリジンは現場にいくつかの証拠や手がかりを残している。
事件は必ず霧の夜。
笛のような音が辺りに響く。
被害者は必ず女性。
バラバラになった死体の一部が持ち去られている。
現場にはトランプのカードが一枚残されている。
……猟兵たちならば、これ以外にも何かを見つけ出すことができるかもしれない。
「この世界の人々は悪夢の産物、現実の人間ではない……しかし、この悪夢をいつまでも続けさせてはならぬ! 動かぬ証拠を手にし、オウガ・オリジンを逮捕せよ! 諸君の活躍に期待する!」
納斗河 蔵人
お世話になっております。納斗河蔵人です。
今回は迷宮災厄戦、『オウガ・オリジン』と切り裂きの街の戦いになります。
探偵として殺人鬼の正体を捜査し、動かぬ証拠を手にして逮捕しましょう。
ちょっと特殊な感じなので補足説明。
手がかりから事件を推理せよ、となっていますが皆さんの推理(プレイング)によって物語は変わります。
結末や過程は全くの白紙となっていますので、提示した証拠や手がかりにはこんな意味がある、としてみたり。あるいはこんな証拠や痕跡が残っているんじゃないか、つまりはこういうことなんだよ! と事件の真相を想像してみてください。
それらの重なり合いによって、動かぬ証拠も浮かび上がってくるはずです。
今回、下記のようにプレイングボーナスがあります。
プレイングボーナス……手がかりから犯人の行方を推理する。
それでは、プレイングをお待ちしています。よろしくお願いします。
第1章 冒険
『斬り裂きの街の探偵』
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POW : 被害現場を中心に地道な聞き込みや調査活動をして、証拠を集める
SPD : 被害現場にいち早く駆けつける事で、犯人を特定する証拠を集める
WIZ : 現場に残された手がかりを元に推理し、犯人を特定する証拠を導き出す
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
※今回、プレイングの受付は8月23日(日)の8:30までとなります。
アリシア・マクリントック
うーん、情報が多くてどれが重要なのか判断しにくいですね……せっかくだから色々と結びつけてみましょう。
持ち去られている一部が重複していないということは……いずれそれらは『一人分』になるはず。そして現場のトランプ……13で終わり、あるいは一区切りということだけではないでしょう。続くにせよ終わるにせよ、使われないであろうカードがあります。つまり……
これは1から13の被害者の欠片を集めることで、その全てである「ジョーカー」を完成させようというものなのです!おそらく魔法陣を描くように13の現場は配置されているはず。今までの12の現場を線で繋げば最後の現場もおのずと推測できるでしょう。
いかがですか?
月代・十六夜
被害者数がトランプの上限なのか、持ち去られたパーツなのか
…前者はスート、後者はそもそも一人分完成でゴールなのかで変わってくるから両方視野に入れておくか。
それはそれとして実働をどうするか…尾行の真似事と行くか。
こんな事件が起きてる最中に夜の街を歩く女性なんてそう居ないだろうとあたりを付けて、
すれ違いざまに【盗み】の要領で普通の人には聞き取れない【音の属性結晶】を女性の懐に忍ばせる。
付近の建物の屋根や街灯を【韋駄天足】で移動しながら尾行して、犯行現場を押さえる。
霧が出てきたり何らかの効果で連れ去られても先の結晶の【聞き耳】で場所を把握可能ってな。
さて鬼が出るか蛇が出るか…?
須藤・莉亜
「19世紀のイギリスっぽいってだけで観光したくなるねぇ。」
まあ、仕事しないとだけど。超偉大な名探偵には到底及ばないけど、ちっとは頑張ってみようか。
UCで狼化し、更に狼の群れを召喚。被害現場に残った被害者の血と肉の匂いを頼りに、犯人の足取りを追ってみようか。
犯人の足取りがわかれば、ターゲットをどこで物色してるかとかわかるかもしれないしね。
あ、一部を持って帰ってるなら、どこかに拠点があるかも?そっちも探っとこうか。
僕らみんなの鼻を駆使して、新しい手がかりぐらいは見つけたいところだねぇ。
「さて、パイプで煙草もたっぷり吸ったし、行こうか。」
あ、何か見つけたら遠吠えで僕に知らせるようにね、みんな。
七那原・望
被害者家族に12人の被害者の特徴、霧の深い夜に外に出た理由を尋ねます。
後半の被害者は事件を知っている。
なのに一人で外出したのは何故?
何かの力で外出させられた?
まずはトランプ。これはただのカウントダウンじゃない。
殺された女性の特徴、奪う身体の部位を表しているはず。
犯人はどの部位を奪うかを事前に決めて、それに適した女性をターゲットにしている。
今までのトランプのスートの法則も加味した上で、次のキングのカードのスートは何か、そのカードから連想される身体部位や次のターゲットの特徴を絞ります。
そしておそらく外出は防げない。
ハーメルンの笛吹き男のように、笛の音に惑わされて連れ込まれてしまってるのでしょう。
スリジエ・シエルリュンヌ
霧の国の殺人事件…。なるほど、ここは私の出番!
文豪探偵、推して参ります!
警察の方に私は探偵のスリジエです!と名乗ってから、お話を聞きましょう。
大丈夫、私の仲間(猟兵)もいます。必ず犯人を捕まえてみせます!
ハート…犯人、愛に飢えてるんでしょうか?
そして一部だけ持ち去られ…あの、これまでの持ち去り部分、合わせてみたら『継ぎはぎ人間を一人できそうな分』になりません?しかも、あと一部分で完成しそうな。
そうでなければ…美しい部分を集めている、になりますが…。
ふう、被害者は全員女性。…ああ、いざとなったら、私が囮になりましょう。
倒す必要はなく、時間を稼げればいいんですから。
本・三六
扱いやアドリブ自由
うーむ難事件だ。何より恐ろしいね
顔がニヤけてる?いやどんな奴だろうと想像しただけさ
待って、そっちの趣味は無いから安心してくれ
12枚のトランプ、重ならない体の一部
スートの数字なら次で完成かな?
ジョーカーはあるが。
キングで奪うなら大事な箇所だろう、残りは頭かい?
スートは全部ハート?法則が?
カードに、何か見えない傷や手がかりは無いだろうか
事件が起きた順番に見たいな
匂いや光の角度をズラし、観察しながら
笛は何なのか、葬送にしては残った遺体への扱いに疑念が過ぎる
あ、これは……文字に見えないかい
奪われた部位に合わせてカードを並べる
残る部位へ地図のように引かれた矢印
あのこたち うまれたばしょ
誰もわたしを見つけられない。
誰もわたしを知ることはない。
誰もわたしを見てくれない。
誰もわたしを愛してくれない。
誰も……
でも、もうすぐ会えるよ。
●霧の街、悪夢の始まり
「うーむ難事件だ。何より恐ろしいね」
市警察署を前に本・三六(ぐーたらオーナー・f26725)はぼやく。
この街を恐怖に陥れている、霧の夜に女性が殺害される連続殺人事件。
さて、そんな事をしでかすのはどのような奴なのだろうか。
実に興味深い……
「顔、ニヤけてるのです」
そんな彼の姿には七那原・望(封印されし果実・f04836)も言わずにはいられない。
悪夢の産物とはいえ、殺人事件。
それを調べにきた男がこんな表情では不審がられてしまうだろう。
「まさか少女を捕まえるというシチュエーションに……」
「待って、そっちの趣味は無いから安心してくれ」
身の危険を感じる、といわんばかりの彼女に三六は焦って否定する。
もちろん冗談ではあるのだが。
「や、でも19世紀のイギリスっぽいってだけで観光したくなるねぇ」
産業革命の時代、めまぐるしく都市の景色は移り変わり失われるものと生まれるものが同じだけ存在する街。
そんな光景はなかなか見られない。須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)はのんびりとした口調で辺りを見渡す。
「確かに、今のところこのような世界を訪れた猟兵は居ないでしょうしね」
アリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)もその言葉に同意する。
オウガ・オリジンの悪夢から生まれたというこの国。
それはオリジンの生まれた世界の記憶なのだろうか。正体不明のオブリビオンフォーミュラのルーツはこのような場所にあるのかもしれない。
「殺人事件とはなぁ。なんでオウガ・オリジンはそんな夢を見てるんだ?」
月代・十六夜(韋駄天足・f10620)の疑問はもっともだが、それを解明することは難しいだろう。
それよりも、今やらなければいけないことがある。
「霧の国の殺人事件……ここは私の出番!」
スリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)が意気揚々と告げるように、この事件の犯人を逮捕すること。
それを果たさない限り、猟兵もこの悪夢の国から出ることは叶わないのだから。
――と、一歩を踏み出そうとしたところで。
「きゃ」
「あら?」
見れば少女が尻餅をついているではないか。どうやらぶつかってしまったらしい。
「ごめんなさい、立てますか?」
「……ん」
スリジエが手を差し伸べ笑いかけると、少女は手を取り立ち上がる。
はらりと舞った花びらがその髪に触れた。
「大丈夫ですか? よかったらキャンディどうぞ」
アリシアもしゃがみ込み、飴玉を手渡す。
少女はそれを大事そうに両手で包むと、通りへと駆けだした。
「無口な子ですね」
その背を見送り、探偵たちは気を取り直して警察署へ。
「では改めて。文豪探偵、推して参ります!」
●警察署にて
「警部、本当に来ましたよ、探偵が。しかも六人も!」
「マジかよ……」
新米刑事に促され、探偵たちは捜査本部へと乗り込む。
「私は探偵のスリジエです!」
スリジエは自信満々、といった様子で名乗りを上げる。
こういうことにはハッタリを効かせるのも大事だ。
捜査への協力を告げると、意外なほどにすんなりと捜査資料の閲覧許可を出してくれた。
「まあ、捜査も行き詰まってることだしな」
「大丈夫、私の仲間もいます。必ず犯人を捕まえてみせます!」
「頼もしいこった。期待せずに待ってるよ」
それだけを言い残し、警部は部屋を去る。
残された探偵たちはまず膨大な資料の山と格闘を始めることになるのだった。
「うーん、情報が多くてどれが重要なのか判断しにくいですね……」
「まあ、一つずつ確認していくしかないだろなー」
まず第一に、探偵たちは地図上に遺体の発見現場のピンを立てていく。
「第一の事件、アント寺院……ここか」
「その次がそこから南西のセノール街道」
「で、さらに次がマルコシアス記念館」
こうして地図を見てみると、裏道ばかりではなく広い通りで発見されたものも多いようだ。
「ニキータ食料品店……こんな事件が起きたら店にも風評被害がありそうだ」
「その次はずいぶん遠くですね。サスカッチ工房という場所だそうです」
「今度は反対側。ララ衣料品店、っていうところなのですよ」
そうして、12の事件全てにピンを立てる。
「最新の事件……12人目が、ヘルドラードス刑務所の裏」
事件は市内全域で起こっており、これだけで次の事件がどこで起きるのか、予想を立てることは難しそうだ。
次なる資料を手にアリシアは告げる。
「でも、残された手がかりはこれだけではありません。他の事柄といろいろ結びつけてみましょう」
被害者は全て女性。死体はいずれもバラバラにされており、どの事件でも一部分だけが見つからない。
警察は犯人が持ち去ったものと見ている……
「それぞれの事件で、持ち去られた部位を書き出してみようか」
「そうですね。では、最初の事件は……下腹部ですって」
「次は右脚……」
「その次はお腹です」
そうして書き込んでいく内に、探偵たちは自然と持ち去られた部位には重なる部分がないことに気付く。
「最後は左胸……心臓の部分、っと」
「うーん、これは」
「一目瞭然、って奴かな」
そう。奪われた12の部位。
すなわち、右腕、右手、左腕、左手、右胸、左胸、腹部、下腹部、右脚、右足、左脚、左足。
「持ち去られている一部が重複していないということは……いずれそれらは『一人分』になるはず。そう、思ってはいましたが」
「合わせてみたら、『継ぎはぎ人間を一人できそうな分』になりません?」
アリシアが、スリジエがその事実を口にする。
つまり、犯人が体の一部を持ち去った行為には、意味があったという事である。
「キングで奪うなら大事な箇所だろう、と思っていたよ。残りは頭かい?」
三六が微かに微笑む。
この法則に従えば、次の被害者は頭部を持ち去られることになるのだろう。
「目的は人間一人分の身体部位を集めること。そういうことなのです」
「……ぞっとしねぇな」
「つなげてどうするんだろうね。お人形遊びでもするのかな」
望が告げると十六夜は吐き捨てるように言い、莉亜がふう、とため息をつく。
この猟奇的事件は、死体が見つかって終わりではない。
それ以上の何かがある。そう感じさせずにはいられなかった。
「さて……わたしは現場に残されているというトランプが気になるのですよ」
「そうですね……13で終わり、あるいは一区切りということだけではないでしょう」
望の言葉にアリシアが続く。
意味有り気に残されたトランプ。
これが捜査をかく乱するためという可能性も有り得るが、考察の価値はあるだろう。
「スートはバラバラなんだな」
「これにも意味があるのではないかと、わたしは思うのです」
残されたトランプは順に、ハートのA、ダイヤの2、ハートの3、ダイヤの4。
そこからクラブの5、6、7、8と続き、9と10がダイヤ。そしてJとQがハートだ。
「スペードはないんですね」
「キングがスペードなのかもしれないよ」
「とりあえず、これも地図に書き込んでいこうか」
そうして、彼らは立てたピンの横にカードのスートと数字を書き込んでいく。
「ええと、スバラッシーマネジメントがクラブの7、と。さっきも思ったけど変な名前だね」
「その次が、サン・ドレドーレストラン……」
「さらに続いてジル交易センターなのです」
「南側が続きますね。ドリアキステラ競馬場、っと」
「また街の中央部に戻ってきました。ハートのJがラードス国際製紙……」
そうして書き上げた地図を見てみれば、あることに気付く。
「ハートのカードが置かれた現場は中央に固まってるな」
「クラブは東西でそれぞれ二つずつ」
「ダイヤは南側に集中しています」
この片寄りは何なのだろうか。適当に選んだとは思えない符合。
そこで望が何かに気付く。
「やっぱり、これはただのカウントダウンじゃない……わかったのです!」
「ほう、スートの法則に君も気付いたのかな?」
同様に、三六も。
「この地図に被害者が持ち去られた部位も書き込んでほしいのです!」
その言葉に、探偵達も気付いた。
やはりスートにも意味はあったのだ。
「こういうことだろ? クラブが腕で」
「ダイヤは足」
「そしてハートは……胴体」
こうして現場と持ち去られた部位を合わせてみるとはっきりわかる。
地図上に、いびつな人体図が浮かび上がっていることに。
「つまり13番目の事件が起きるのは、頭の位置! 街の北部ということなのです!」
「警戒するべき場所はわかりました……これまでの事件のようにランドマークになる建物は、ひとつしかありません」
スリジエが指し示したそこには。セントアリス鎮魂神殿という名が記されていた。
「次の事件はここで起きる……」
「その辺りを張ってれば、犯人が現れるって事だな!」
ひとつ、指標はできた。
そしてタイミングもわかっている。霧の夜だ。
いつどこで起こるかわかっているならば、事件を食い止めることもできるかもしれない。
そこまでまとまったところで、莉亜がゆっくりと立ち上がる。
「あれ、どこに行くんですか?」
「僕も仕事しようと思って」
それだけを言い残し、彼は扉の向こうへと消えていく。
「お、それじゃあ俺も次の現場の辺りを下見しておくぜ」
十六夜も立ち上がった。
「わたしも気になることがあるので……被害者家族を訪ねてくるのです」
「ボクも事件現場が気になるな。ちょっと実際に行ってみてくるよ」
望と三六も続く。
「わかりました……私も他に無いか、資料をあたっておきますね」
「私も、少し調べておきたいことがあるのでここに残ります」
アリシアは彼らを見送り、スリジエが数枚の写真を手に取る。
会議室での推理は終わりだ。
それぞれの気がかりを胸に、探偵たちは散っていくのだった。
●第2の現場、セノール街道付近。そして最初の事件、アント寺院。
「あの娘が家を出たなんて……私たちは全く気付かなかったんです」
「そうなのですか……」
望は、被害者家族を訪ねていた。
そこで聞かれた内容はどこでも同じく、こんな事件が起きている中で被害者たちは夜中に出歩くような人では無かったと言うこと。
つまり、何か理由があったのだ。霧の夜、外に出なければいけない何かが。
「笛の音? ええ、確かに聞こえたような気が」
「ありがとうなのです。辛いことを話させてごめんなさい」
もう一つ気にかかること。いずれの家族も事件の夜には笛の音を聞いている。
「聞いた限り、どの被害者も若い女性なのです」
しかも美人と評判だったとか。
「次は……1人目ですか」
しかし、最初の被害者は事情が違う。
彼女は、アント寺院でシスターをしていた女性。年齢も少し上だ。
他の11人は共通しているのに一人だけ違うというのには何かを感じさせる。
「と、いうわけで聞かせてほしいのです」
「彼女は一人娘を幼くして亡くして以来、この寺院に仕えておりましてな……」
神父が語るには第一の被害者はキャロルといい、この寺院で引き取った孤児たちの面倒をみていたらしい。
「誰からも好かれるシスター・キャロルが、あんな無残な……こども達も悲しいんでいます。最後に会ったのもあの子たちですから」
「こども達と会うことはできます?」
「まだショックが大きいので……勘弁していただけると」
そこで無理強いはできない。仕方がないと立ち上がろうとしたところで、ひとつ聞いておかなければいけないことを思い出す。
「そうそう、事件の夜、笛の音が聞こえませんでしたか?」
「いえ、特には……」
やはり、一人目だけが何か違う。
その違和感の正体はきっと犯人につながっているはず……確信めいた想いと共に望は寺院の門を開いた。
「……?」
と、そこで何やら視線を感じる。
振り返るが、そこには何もいない。
望はほんの少し不気味さを感じながら寺院を後にするのだった。
●5番目の事件が起きた場所、サスカッチ工房にて。
「ふーむ、カードには特に不審な点は見当たらないな」
くるくるとトランプをもてあそびつつ三六は事件現場を順に巡っていた。
光にすかしてみたり、臭いを嗅いでみたり。
血にまみれ、その匂いは鼻につく。
しかしカードそのものはやはり至って普通に見える。
それでも、こうして残されているからには何かの意味があったのだと思うのだが。
「それにしても、現場近くではどこも笛の音が聞こえたなんてねぇ」
「え?」
三六のつぶやきに、ちょうど通りがかった望が反応する。
聞き込みを続けていた彼女とタイミングが一緒になったのだ。
「葬送にしては残った遺体への扱いに疑念が過ぎる。意味があるんじゃないかなと思ってね」
「被害者の家の近くだけでなく、現場でも……?」
何故、被害者たちは外に出てしまったのか。
家族の証言通りならば自分の意思ではあり得ない。
「つまり、何かの力で外出させられた?」
「ほう、その何かが笛の音だというのかい?」
「ええ、おそらくはハーメルンの笛吹き男のように……」
ここはオウガ・オリジンから生まれた不思議の国。
そのような現象が起きたとしてもおかしくはないだろう。
笛の音が被害者たちを惑わし、惨劇の舞台へと導いたとしても。
●13番目の、セントアリス鎮魂神殿。
「うーん、なるほどなぁ」
一方、十六夜は建物の屋根の上から街を眺めていた。
街灯が立ち並ぶセントアリス鎮魂神殿前の通りは人通りも多く、この後に事件が起きるような気配は全くない。
しかし、裏通りへと目を向けてみれば道は狭く灯りも少ない。
事件が起きるとしたらこちら側だろう。
息を潜めて獲物を待ち受け襲うとしたら、犯人はどこから被害者を見る?
「や、君もここだと思ったんだ?」
そうして探り当てた場所では、既に莉亜が待ち受けていた。
「この辺りでターゲットを物色するなら、一番ありそうなのはここだしね」
「なんだ、俺は二番乗りってことかよ」
十六夜がぼやくが、莉亜は難しい顔だ。
「匂いがね……追えなかったんだ。血の匂いが。一番新しい奴でも」
彼は『血追い群狼(チオイグンロウ)』と共に狼の鼻で事件現場の死体から持ち去られた部位を追おうとしたのだ。
しかし、その匂いは現場からさして離れぬ内に途切れてしまう。
それこそ、突然犯人が消え去ってしまったかのように。
「……犯人を見つけても、動かぬ証拠がなければ手錠はかけられない。結構手強いかもね」
「だなー。とりあえず下見も終わったし一回もどろうぜ」
「うん、ここには僕の狼を残していこう」
●警察会議室。
ふたたび探偵たちは集った。
集めた情報を整理し、話し合うためだ。
「笛の音に誘われて……」
「そうなのです。おそらく被害者の外出は防げないです」
霧の夜が訪れ笛の音が響けば被害者は犯人に誘い出されてしまう。
それはチャンスでもあるが、この街の人間を危険に晒すこと。
「……私が囮になりましょう」
たとえ悪夢から生まれた存在であっても、そんな事を見逃すわけには行かない。
スリジエが強い決意をもって宣言する。
「倒す必要はなく、時間を稼げればいいんですから」
それに、探偵仲間の皆さんがいますからね、と彼女は笑った。
「条件に合うのは私とアリシアさんくらいですし。文豪探偵を名乗るからには危険くらいなんのそのです!」
「やれやれ、決意は固いようだね」
これは止められない。三六が首をすくめる。
「……ま、いいんじゃない」
「俺たちがフォローすりゃいいんだろ?」
そんな中アリシアは不安げに地図を見つめていた。
「……あっ」
おもむろにペンを取る。
事件の起きた場所を順番に線で繋いでいくと、そこには人体とはまた違った模様が浮かび上がる。
「……なに? この図は」
「さっき、出かける前に莉亜さんはお人形遊びでもするのかな、っていっていましたよね」
「ああ、いっていたね。ボクも聞いたよ」
それは先の、奪われた部位を繋ぐと一つの人体になる……ということが判明したときのことである。
「それ、間違いでもないかもしれません。これ、魔法陣ですよ」
引いた線を指でなぞる。
「見てください、さっき見つけた魔術本です。人形に魂を宿す儀式……完全に一致しますよね?」
開いた本を地図に描いた魔法陣と並べる。
「つまり、犯人の目的は1から13の被害者の欠片を集めることで、「ジョーカー」を完成させようというものなのです!」
ジョーカー。つまりは死体を繋ぎ合わせ魂のようなものを宿して……死神を産み出そうということ。
この魔法陣が現れたのは偶然とは思えない。
彼女はこの推理を自信満々で披露する。
「いかがですか?」
「動く死体人形を作り出す……そっか、だからここで死体をばらまいてカードを残したんだね」
死霊術士でもある莉亜はそう言った分野にも詳しい。
ばらまいた死体の中心に捧げられた事でカードは呪術的な力を持った。
一晩そこに置かれることで大地に染みこみ、呪いが留まることで魔法陣が紡がれる。
それがこの儀式の完成のために必要だったのだ。
「なるほど、知識のないボクではわからなかったはずだ」
今のカードには既に呪いは残っていない。
置かれていた意味はあったが、既に失われていたのだ。
「で、これを完成させるには……セントアリス鎮魂神殿で間違いないね」
予想は確実なものとなった。
犯人は必ず現れる。
●捜査本部の片隅で。
「筋は通ってる。今夜も霧が出るのは間違いない」
探偵たちの推理を伝えると、警部はできる範囲での協力を約束してくれた。
「ちっ、これが本当だとしたら胸くそ悪い……犯人はいったいどんな奴だってんだ?」
「警部、今夜来るんだから直接顔を拝んでやればいいじゃないですか」
「犯人が来ることを望むんじゃねぇよ」
新米の言葉にげんなりとした表情。探偵たちに向き直り、ため息をついた。
「だが、俺たちも事件が起きる前から大々的には動けない。せいぜい警らを増やすくらいだな」
「それで十分です」
「犯人が出たら私たちにお任せください」
残された時間は少ない。
探偵たちもその時に向けて準備を進めていくのだが……
「どうしたんですか?」
「いや……この地図。魔法陣といったけれど、他にも何かある気がしてね」
三六の様子にアリシアが尋ねれば、こんな答え。
「他にも、ですか」
「引っかかるんだけど、思いつかない。何かを見落としてるんだろうね」
あるいは、まだ完成していないのか。
「……さて、パイプで煙草もたっぷり吸ったし、行こうか」
莉亜がふう、と煙を吐き出す。
「……ああ」
しばらく地図を眺めていた三六は、乱暴にポケットへと突っ込み神殿へと向けて歩き出した。
●霧の夜、セントアリス鎮魂神殿付近。
「霧、出てきたのです」
「いよいよですね……」
今日も恐怖の夜が来る。探偵たちは息を潜め、その時を待つ。
スリジエも準備は万端。緊張した面持ちで一人、通りを歩く。
――ピュウ、ピュウ、ヒュウ――
「これは……」
「来たぜ、笛の音だ」
「犯人のお出ましというわけだね」
と、その時だった。
「お姉さん、大丈夫です?」
望が気付いた。
アリシアの様子がおかしい。
突然に身を隠していた物陰から立ち上がり、通りへと歩き出すではないか。
これには三六も慌てて駆け出す。
「いけない。彼女も操られているようだ」
「ちょっと、待ってくださいです!」
腕を掴み、揺さぶるがその目はうつろなまま。
彼女がいつもつれている狼のマリアが袖を引いても止まらない。
これでは無理と悟ったか、口をぱっと離す。
「アオーーーーーン!」
「……はっ!?」
突然の遠吠え。耳元で響く、聞き慣れた声にアリシアは正気を取り戻したらしい。
「私……いったい?」
「笛の音に誘われたようだよ」
「無事で良かったのです」
首を振る彼女を気遣う二人。だが、今夜の惨劇はまだ始まってすらいない!
「いけない、スリジエさんは!?」
「彼らが追っているよ」
そう、彼女もこの音色に操られているのだ。
「ママ……やっと会えるね」
霧の中、浮かび上がるシルエット。
暗い闇に覆われてその表情をうかがい知ることはできない。
その手にはナイフ。
この事件の犯人、オウガ・オリジンがとうとうその姿を現したのだ。
「待ってて。すぐにバラバラにして、連れて帰るからね」
ゆらり、と一歩を踏み出す。
それでもスリジエの焦点は定まらない。笛による催眠が未だ解けていないのだ。
「まずは……邪魔な首から下を切り離すね!」
一瞬にして懐に入り込み、首へと向けてナイフを突き出す。
暖かい血の雨が降り注ぐ瞬間を予期し、はしゃいだように飛び上がった、その時だった。
「ようやく見つけたぜ、犯人!」
二人の間に割り入ったのは十六夜である。『韋駄天足(イダテンソク)』の跳躍で瞬時に駆けつけたのだ。
そのままの勢いでナイフを蹴り飛ばす。
オウガ・オリジンへ向けて何かを放り投げると、手にした笛がカランと落ちた。
これで完成するはずだったのに。会えるはずだったのに。
少女は沸き上がる怒りに、一瞬オブリビオンフォーミュラとしての本性を浮かび上がらせる。
「なんで邪魔するの! このわたしの邪魔を! この尊い……」
「敵さん、悪いけど味方の血を吸うのは勘弁してもらいたいんだ」
狼へと姿を変えた莉亜も現れる。
「アオーーーーーン!」
「アオーーーーーン!」
そこで一吠えすれば、つられて彼の狼たちも遠吠え。
その声にスリジエの目に光が戻った。
「うっ……うまくいったようですね」
「どうやら笛の催眠は狼の遠吠えで打ち消せるみたい」
「ママ……なんで? わたしをまっていてくれたんじゃないの?」
ナイフを失い呆然と立ち尽くすオウガ・オリジン。
「えっ……」
その姿に、スリジエは既視感を覚える。この少女は何処かで――
だが、探偵や警察が集まってくる気配に少女はくるりと踵を返し、一目散に駆けだした。
「逃がすかよ!」
「存分に噛み砕け」
十六夜が、莉亜がオリジンを捕らえようと手を伸ばすが、不思議なことにするりとすり抜ける。
動かぬ証拠を手にしない限り彼女を捕まえることはできない。グリモア猟兵の告げた言葉が思い出された。
「くそっ、だからって速すぎだろ!」
「……まずいね、また匂いが追えなくなる」
そして、角を曲がれば。
オウガ・オリジンの姿は霧のように消え失せていたのだ。
「まさか、本当に現れるとはなぁ」
「だから言ったじゃ無いですか、警部」
セントアリス鎮魂神殿前には、警察が集まり始めていた。
「この笛が、被害者たちを誘い出していたのです」
「ナイフから指紋は……とれなさそうですね」
探偵たちは手早く証拠品を回収し、その場を立ち去る。
彼らには悪いがこれがなければ犯人にはたどり着けないのだ。
「悪いね、追い詰められなかったよ」
「仕掛けはしといたが……うまくいったかはわからねぇな」
「いえ、おかげで助かりました」
莉亜と十六夜も合流する。
あの後も辺りを探したが結局オウガ・オリジンは見つからなかったのだ。
「証拠になりそうな品は手に入れましたけど、これが動かぬ証拠とまで言えるかどうか……」
「それに、もう一度犯人を見つけなくちゃ駄目なのです」
アリシアはナイフを、望は笛を手に唸る。
そんな彼女たちの傍らで。
三六は地図を取り出し、じっと見つめていた。
「……13番目は、セントアリス鎮魂神殿」
そこで、彼は遂に最後のピースを手にした。
「そうか、これは暗号だったんだね」
「暗号、ですか?」
「ああ、そうだ。これを見てくれないかい」
そうして差し出されたメモ書きは、奇妙に一文字ずつずれたものだった。
アントじいん
セノールかいどう
マルコシアスきねんかん
ニキータしょくりょうひんてん
サスカッチこうぼう
ララいりょうひんてん
スバラッシーマネジメント
サン・ドレドーレストラン
ジルこうえきセンター
ドリアキステラけいばじょう
ラードスこくさいせいし
ヘルドラードスけいむしょ
セントアリスちんこんしんでん
「事件の起きた場所を順番通りに並べてみたんだよ」
「ふむふむ、それで?」
「わからないかい? こうやって字をずらせば……」
「あっ――」
一つめの現場は一文字目。二つ目の現場は二文字目。
そうやって読み上げていくと――
「アノコタチうマレタばしょで」
「これこそが、犯人の拠点を示す言葉に違いない」
が、生まれた場所とはどういう意味だろう?
「病院とか、そういう場所って事か?」
「逆に死んだ場所かも。墓地とか」
「うーん、ボクにも見当がつかないな」
地図を眺めてみるが、病院、産院は山とある。
その一つ一つを当たらなければならないのだろうか?
「……いえ、わかりますよ。文字通り生まれた場所です」
「奪われた部位を考えてみてください」
アリシアとスリジエが顔を見合わせる。
なんとも悪趣味な結論だ。
被害者は全て女性。あの子たちが生まれた場所で。
「犯人の居場所は――」
そして望はあのとき感じた視線の正体を悟る。
●あのこたちうまれたばしょで。
探偵たちは答えにたどり着いた。
犯人の正体を知っているものが居るとすれば、この男しかいないだろう。
神父は驚愕と共に、差し出されたオウガ・オリジンの笛を手にする。
「そんな……この笛をいったいどこで?」
「いま世間を騒がす殺人犯が、今夜現れた場所です」
告げられた言葉に彼は信じられないといった表情で、ぽつりと漏らした。
「この笛は……キャロルさんがあの子に贈った……手作りの……」
「やっぱり、そうなのですね」
神父の言葉と共に笛が光り出す。
これこそが犯人を指し示す動かぬ証拠。
これを持っているのは、オウガ・オリジンしかあり得ない。
光の中でぐにゃりと形を変え、現れたのは「夢の手錠」。
この悪夢の殺人事件、その犯人を捕らえる事ができる、唯一の存在だ。
「これが……」
「後は犯人を捕まえるだけだね」
ずっしりと重い。
探偵たちはその感触を確かめると、この事件の最後の仕上げにかかる。
「……笛の持ち主は、どこに?」
「私たちも探しているのです。姿が見えなくて……」
神父は力なくうなだれた。
しかし、その居場所は探偵たちにはお見通しだ。
「ここまで近づけば血の匂いも消しようがないね」
莉亜が寺院に高くそびえる鐘楼を見上げれば、十六夜も同意する。
「ああ、俺が仕込んだ音の属性結晶もうるさいくらいに鳴ってるぜ」
オウガ・オリジンはそこにいる。
「さて鬼が出るか蛇が出るか……?」
「来てくれたのね、ママ!」
少女は入り込んできた探偵たちに喜びの声をあげる。
その傍らには継ぎ接ぎの、女性の体。
「キャロルはね、やさしかった! でもママになってくれなかったの! だからわたし……」
「いいんですよ、そんなに強がらなくて」
スリジエが手錠を手に彼女へと一歩を踏み出す。
対峙したときに感じたのだ。オウガ・オリジンは愛を求めているのだ、と。
「スージーはわたしを撫でてくれた! マチルダはね、」
「この世界で、ひとりぼっちで。でも寂しいって、言えなかったんですよね」
これは悪夢だ。
オウガ・オリジンの奥底に眠る、暗い感情。
孤独が産み出したものが溢れ出し、殺人鬼オウガ・オリジンを作り出した。
「あなたは笑ってくれた! だからその首をちょうだい!」
少女は無邪気に、語り続ける。
「後は頭だけなの! そうしたらわたしだけのママができるわ!」
「終わらせましょう、この夢を」
がちゃり、と手錠がかかった。
それと同時。オウガ・オリジンの力も霧散し、消滅。
戦いは終わりを告げたのだ。
世界に漂う霧が晴れ、広がるのはアリスラビリンスの光景。
「おっ、戻ったぜ」
十六夜がキョロキョロと辺りを見渡す。
犯人は逮捕され、悪夢は醒めた。
「最後は、あっけなかったのです」
「ま、そういうものだよ。悪夢だからね」
望の言葉に三六が笑った。
「悪夢……あのこたち、とはきっとオウガ・オリジンの悪夢のことだったのです」
「結局、あいつはママがほしかったって事なのか? これまでのイメージと結構違うな」
十六夜がぐっ、と伸びをする。
オリジンは今回同様、様々な悪夢を漏れ出させている。それは記憶なのか、それとも。
「パーツを集めても、できるのは人形だけなのにね」
莉亜がふぁ、とあくびした。
「だが、彼女は信じていたよ。その人形は自分だけを愛してくれる、ってね」
「うーん、寂しがり屋のお人形遊び」
そして、手錠をかけたままの姿勢で座り込んだスリジエは。
「オウガ・オリジンも……少しは救われたんでしょうか」
「彼女が産み出したかった「ジョーカー」は、アリスラビリンスという迷宮を破るカギだったのかもしれませんね」
その言葉にアリシアがかみしめるようにつぶやいた。
大成功
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