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迷宮災厄戦⑱-20〜猟奇的な書を家苞に

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン

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「こんな夜更けに教会に御用とは、何かお困りごとで?」
「困り事……そうだな、ついさっきまで困ってたさ。でももう大丈夫だ」
「何を……そ、そのナイフは一体……!?」
「探してた獲物が今見つかったんだ、お前は昨日のチンピラよりいい顔見せてくれるだろうな!?」
「おお、神よ……この哀れなる子羊にどうか救いを……」
「何が神だ、死ね!」


「という事件がアリスラビリンスで起きました」
 なぜかディアストーカーハットを被りハッカパイプを咥えたプルミエール・ラヴィンス(はじまりは・f04513)が、集まった猟兵たちにそう説明する。確かに凄惨な事件だが、それは猟兵が介入すべきものなのか? そもそも今アリスラビリンスは迷宮災厄戦の真っ只中では?
「はい、もちろんこれも迷宮災厄戦の一環です。舞台となる世界は19世紀イギリス風の街並みで、そこでオウガ・オリジンは殺人鬼となってナイフ一本で人を切り刻んでいます」
 19世紀イギリスのナイフ殺人鬼……猟兵には思い当たる節があるものも多いだろう。
「彼女は未だ正体を掴ませていませんが、一方で自分の犯行を誇示するかのように、犯行現場にはある痕跡を残しています。その痕跡とは、ずばり『数字』です。まず一人目の被害者。喧嘩っ早いチンピラの男性で、正直最初は単なる抗争かと思われていました。ただその死体はどんなキレた悪党でもここまではやらないという程凄惨に切り刻まれており、死体の傍らには彼の血で大きく『20』と書かれていました。その翌日、今度は町の教会の若い神父が殺されました。彼は女性と見紛うほどの美少年で多くの人から愛されていましたが、やはり死体は滅茶苦茶に刻まれ、そこには『22』の血文字がありました。その共通点から警察も二つの事件に関連があるのではと見てはいますが、被害者同士に接点がないこともあり捜査は難航しています。なのでイェーガー探偵団の力でこれ以上の惨劇を食い止めるのです!」
 舞台設定は大体わかった。しかしなぜそれが迷宮災厄戦と関係があるのか。
「はい、そもそもこの世界はオウガ・オリジンの悪夢が現実改編の力で具現化したものです。そして彼女はこの世界で殺人鬼となることで、悪夢を満喫しています。事件を解決に導くことでこの悪夢を終わらせ、この世界を消滅させることができます。そうなるとユーベルコードを破られた反動か、オウガ・オリジンを実際一度倒したのと同じくらいのダメージを与えることができるのです!」
 そんな無茶苦茶な……という言葉ほどアリスラビリンスで無意味なものはないだろう。無茶苦茶でもなんでも、出来ると言われたからには出来るのである。
「差し当たって皆さんには、次の被害者の当たりをつけて護衛に行ってください。推理が当たっていればオウガ・オリジンが現れ捕らえることができるでしょう。殺害を邪魔された場合その人を飛ばして次の獲物の方へ行くかもしれませんから、何人か狙われそうな人に当たりをつけてみるのもいいかもしれませんね?」
 ちなみにこの世界は悪夢が具現化した世界であり、人も町も全て偽物である。ただそこにあるものは本物同然に動くし会話もできる。また推理で相手の行動を読まない限り、オウガ・オリジンを攻撃しても無効化されてしまう。必ず推理で彼女の狙いを看破することだ。
「推理によって彼女を追い詰めれば、『夢の手錠」』がオウガ・オリジンにはめられ彼女は消滅します。この手段でのみ彼女を倒すことができるので、皆さん頑張って推理してください。それでは名探偵諸君、健闘を祈る!」
 どちらかというと怪盗っぽい台詞を最後に吐きながら、プルミエールは猟兵たちを送り出すのであった。


鳴声海矢
 こんにちは、鳴声海矢です。ちょっと変わった転生パロ物? 被害者二人はごめんなさい。
 今回のプレイングボーナスはこちらです。

『プレイングボーナス……手がかりから犯人の行方を推理する』

 殺人鬼であるオウガ・オリジンは完全に行方をくらませています。捕まえるチャンスがあるとしたら次の被害者のもとに現れた時だけでしょう。どんな人物が狙われるか予想し、護衛に行ってください。
 推理さえ合っていれば戦闘プレイングは必要ありませんが、完全逮捕できるのはシナリオ成功時の最後の時だけです。パフォーマンス的に捕り物ムーブを入れるのは大歓迎です。
 以下、現在捜査と予知によって分かっている情報。

 一人目の被害者・20代後半男性。喧嘩好きなチンピラ。現場に『20』の血文字。
 二人目の被害者・10代半ば男性。教会の秀才神父で女性と見紛う美童。現場に『22』の血文字。
 数字は日付や年齢とは関係ない。
 犯人にしか分からない一定の法則に従って被害者を選定し、順番に狙っている模様。
 狙いが阻止されれば別のターゲットに向かう可能性があるため、複数、あるいは次々回以降のターゲットを推理し護衛するのも無意味ではない。
 被害者候補はあと五人くらいな気がする。
 この世界の人物はオウガ・オリジンを除き全て悪夢の作り出したフィクションであり、誰かと似ていたとしても一切関係はない(ここ超重要)

 裏話として、よほど的外れでなければ推理は当たります。でっちあげ上等。被害者や舞台の詳細な設定もご自由に決めて構いません。あるいは物語の登場人物になりきってしまったり、被害者と友人や血縁関係を名乗ってしまってもいいでしょう。この世界に限ればきっと向こうも合わせてくれます。だって悪夢で現実改編だし。
 それでは、灰色の脳細胞が冴えるプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『斬り裂きの街の探偵』

POW   :    被害現場を中心に地道な聞き込みや調査活動をして、証拠を集める

SPD   :    被害現場にいち早く駆けつける事で、犯人を特定する証拠を集める

WIZ   :    現場に残された手がかりを元に推理し、犯人を特定する証拠を導き出す

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナイ・デス
ふむ……ふむ?

何でしょう、ね
老紳士、レディ、ブレブレ、プリンセス、少年
……猟書家風の方が、被害にあうのではと、思えた、ですが
この推理が、あっているとしたら……けれど、次に狙われるのは……?

20……22……グリモアベースで、戦況まとめをしていた時、振られていた数字が……時計回り、でしょうか
だとしたら、次は24
プリンセスでエメラルドな方が

しかし、この推理を裏付ける証拠がありません、ね
間違っていたら、誰かが、犠牲に……いえ、オリジンがつくった世界
間違っているなら、間違っていると確信できるように

私は、この推理で、動いてみましょう



 時は19世紀末、場所は霧の町ロンドン……を模した不思議の国。この国を揺るがす猟奇的殺人事件に、今名探偵たちが立ち向かわんとしていた。
 現場は余りにも凄惨を極め、部外者の立ち入りは禁止されている。それ故かき集めた資料を基に、まずは机上での推理で謎を解いていく必要があった。
 ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)は事前に渡されたものと、現地で集めた情報を並べそれを一つ一つ検討していく。その資料を見るうちにいくつかの像が彼の中で形を持ち始めた。
「ふむ……ふむ?」
 資料にかかれた二人の被害者の特徴。それから導かれるように、五つの影がナイの脳裏に浮かんでくる。
「何でしょう、ね。老紳士、レディ、ブレブレ、プリンセス、少年……」
 この一か月間嫌という程見た顔。その上でもう一度被害者の情報に目をやると、そこに陰鬱な美少年と巨大な義手をつけた男が加わる。
 被害者候補の特徴は察せた。だが、もう一つの疑問。
「この推理が、あっているとしたら……けれど、次に狙われるのは……?」
 少なくとも、実際に猟兵に倒された順番ではない。倒されたのはレディと老紳士で、チンピラと美少年の実物は今も元気にアリスラビリンスを戦火に包んでいる。
 そこでもう一つの手がかり、現場に残された数字に目を向ける。被害者の顔を思い浮かべたうえで数字を見ると、なぜだかその数字はその顔の横にぴったりと当てはまる気がする。
「時計回り、でしょうか」
 グリモアベースで積極的に敵戦力や戦況の分析を行っていたナイ。だからこそ、この数字は対になる顔と切っても切り離せない存在になっていた。そうして数字と顔を対にして考えた時、浮かぶ顔は一つ。
「だとしたら、次は24。プリンセスでエメラルドな方が」
 結論は出た。だが、確たる証拠は何もない。
「間違っていたら、誰かが、犠牲に……いえ、オリジンがつくった世界。間違っているなら、間違っていると確信できるように」
 本来なら人命がかかっている以上慎重を期すべきなのだろう。だがここはオウガ・オリジンが悪夢から作り上げた改変された現実。本来なら非情とも言える行動を取ることにも呵責はない。合っていればそれでよし、間違っていたならば誰もが陥りそうな不正解を一つ潰せることになる。そう考え、ナイは次の被害者候補となり得る存在を探しに聞き込みを始めるのであった。

 町中にある高級住宅。ここの住人は由緒正しい貴族の家柄で、古く遡れば何処かの帝国にも連なると言われる旧家であった。その現当主である女性を、周囲はその美しさと気品への敬意、それと未だ独身であることへの僅かな揶揄も込めて、『プリンセス』と呼んでいた。
 そのプリンセスが自室で本を読んでいた時、扉が叩かれた。えらく低い位置でのノックであることを少し訝しみながらも、彼女は扉を開ける。そこにいたのは、ぎらついたナイフを持った、真っ黒な顔をした少女のような異形であった。
「こんにちは嫁き遅れのお姫様。チンピラと神父、好きな方に嫁いでこい!」
 突然のことで動けないプリンセスに向かってナイフを振り上げる少女……殺人鬼オウガ・オリジン。その刃が獲物に突き刺さる瞬間、割って入った影がプリンセスに覆いかぶさった。
「良かった、合ってた……」
 その乱入者、ナイは今しがた守った女性の顔を改めてみる。肌の色は人のそれだが、まさにエメラルドのような緑の髪をはじめ、顔立ちなどは確かにあの女性に瓜二つだ。
「こ、これは一体……その背中!?」
「大丈夫です。私は、死なない。私は、死ねない。それよりも……」
 深々と背に突き刺さったナイフを何でもないことのように言いながら、ナイはオウガ・オリジンに向き直る。
「見つけましたよ、殺人鬼。大人しく、捕まりなさい……!」
「ふ、ふざけるな! 何でここでまで邪魔しに来るんだ! ちくしょう……ちくしょう!」
 悪態をつき、踵を返して走りだすオウガ・オリジン。ナイはそれを追おうとするが、突き刺さったナイフのダメージは大きく、死なないとはいえ大きく体は揺らぐ。
「大丈夫ですか?」
「気にしない、で……とにかく、良かった……」
「よくありません、すぐに人を呼びます。それまでここで……」
 躊躇なくナイを自身のベッドに寝かせ、使用人を呼びに行くプリンセス。あの彼女も身内にはこうだったりするのだろうか。答えの出るはずもない疑問が、ナイに浮かぶのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第四『不動なる者』盾役でありまとめ役
一人称:わし 二人称:貴殿 古風
対応武器:黒曜山(今回は盾に変更)

…ああ、なるほど。そういうことなのだな。
ウサギ耳の青少年やら緑の貴婦人やらも狙われるか…。
だが、わしは「19」に当たるであろう老紳士の元へ。最後の被害者候補な気もするが。
きっと図書館で知り合った友人で、わしが多重人格者とも知っているあろ。危険と思い、護衛を買って出た。
…単純に、それ以外が思いつかなんだ。

わしは守りながら戦うのが得手でな。もし襲われたら、初手に黒曜山で盾受けし、そのあとに拒むようにUCを使い、その間に老紳士を逃がす。



 様々な場所から集められた資料を、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)は様々な面から考えていた。一見すればそれはただ座り込んで何もしていないようにさえ見えてしまうが、実際はその真逆。泰然自若とし、余計なノイズに耳を貸さず必要な情報だけを取り込み、整理しているのだ。
 それを可能にしている理由、それは今ここにいるのが彼を構成する四人の中でもまとめ役を務める『不動なる者』だから。
 四人の悪霊が一つの『馬県・義透』を構成する中で、第四の席につき最も惑いと無縁なる男。彼だからこそ、この奇天烈極まりない世界で起きた陰惨な事件を、それに飲まれず冷静に整理していけるのだ。
 やがて長い沈黙の先、その不動なる男が口を開いた。
「……ああ、なるほど。そういうことなのだな」
 被害者の特徴と横に刻まれた数字。それはこの一月の間何度となく見て、己が、あるいは戦友たちが戦った相手を示す者に他ならなかった。
「ウサギ耳の青少年やら緑の貴婦人やらも狙われるか……」
 被害者候補はあと五人。次に誰が狙われるかの当たりもついている。だが、最新の報告にそちらへは既に他の者が向かったという記述があった。そしてそこで捕らえきることは出来ず、再度町へ潜伏した、とも。
「ふむ、ならば……」
 仮に他の被害者候補の所へ向かったとしたら、残る候補は四人。丁度『馬県・義透』と同じ人数だが、さすがに一人一人分かれて別の者を護衛に行くような器用な真似はできない。ここは己の判断で、次に行くべき場所を見定めねばなるまい。
 単純に考えれば一人飛ばして次の次へ。ウサギ耳の少年の顔が思い浮かんだ。
「だが、わしは「19」に当たるであろう老紳士の元へ。最後の被害者候補な気もするが」
 だが、あえて義透はその逆を行った。ほぼ確定とも思える予測に従えば、最後の被害者となり19の文字を書かれる男。
「……単純に、それ以外が思いつかなんだ」
 そう言いながら、不動なる者は腰を上げ、その男がいるだろう場所を目指し歩き出した。

 静寂に包まれた図書館で、一人の老紳士が書を読んでいた。上物の衣装に身を包み、やや白みがかった髪と髭。上品にしわの刻まれた顔に片眼鏡、と、まさに紳士という言葉をそのまま形にしたような男であった。唯一違和感を与えるものがあるとすれば、彼の読んでいる書物が少年向けの英雄活劇譚だ、ということだろうか。
 その男の姿を見つけると、義透は足早に彼に近寄っていった。
「やはりここにいたか、サー」
「おお、君は……なるほど、『君』がこんな急ぎ足に来るとは珍しい。何かお目当ての書でも入ったのですかね」
 笑いながら知己にあったかのように言う老紳士。否、あったかのようではない。彼はこの図書館で知り合った、義透の友人なのだ。その紳士的な態度と裏腹に、強き者が戦う英雄譚を好む心。気さくさと心の若々しさに、彼が『サー』の称号を持つ者だと知るまで随分と時間がかかった。自身が多重人格であることを知り、一人として、そして四人として気負いなく受け入れた……そんな相手。
 もちろんこれは真実ではない。この世界に合わせ、義透が自分と相手に求めた『設定』だ。だが現実改編の力が働くこの場所では、その思いは時に真実となる。その『友人』を迫る危機から守るため、不動なる者は慣れぬ速足でここへと駆け付けたのだ。
「いや、そうではない。最近世間を騒がせている殺人事件……知っているかの?」
「ええ、全く恐ろしい話です。なんでも犯人は何かしらの狙いがあり被害者を決めているとか……」
「驚かず聞いて欲しい。その被害者候補の中に、おぬしが入っている。わしは護衛に来たのだ」
 その言葉に、サーは目を丸くする。だが、目の前の男がこういった冗談と無縁な男だと言うのは分かっている。
「そんな……一体なぜ……いや、君はどうやってそれを……」
「詳しく説明している時間はない。とにかく……」
 そこまで言った途端、図書館の静寂を巨大な破壊音が打ち破った。いくつもの書架がなぎ倒され、中の本がそこら中にぶちまけられていく。利用客たちは悲鳴を上げて逃げ惑うなか、一人の少女が倒れた本棚を踏み台にして躍りかかってきた。
「よく聞け老いぼれ! この世にヒーローなんかいないんだ!」
 少女……オウガ・オリジンはナイフを振りかざしサーを狙う。だが、その切っ先は漆黒の盾に弾かれた。
「そうとも限らんぞ、娘っ子」
 『黒曜山』でナイフを止めた義透は、そのままサーを背にかばうように立ちはだかる。
「不動なれ」
 そのまま義透は【それは山のように】の超防御モードに入り、自身の体を盾にした。何にも動じぬ不動の守りが、オウガ・オリジンを寄せ付けない。
「わしは守りながら戦うのが得手でな。さあ、今のうちに!」
「感謝します、私のジャスティス・ワン! おかげで書の続きが読めそうだ……読み終わったらお貸ししますよ!」
「楽しみにしておこ」
 逃げるサーを目だけで見送り、義透はオウガ・オリジンをさらに阻む。
「くそっ、くそっ、くそっ! 何で邪魔ばかりはいるんだ! 死ねっ、死ねぇっ!」
 オウガ・オリジンは狂ったように切りつけるが、超防御の山となった義透には傷一つ入らない。その駄々っ子のような攻撃をいなしながら、義透は最後にサーの言った、この世界と共にいずれ消えてしまう約束を思っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シウム・ジョイグルミット
早速『Lucky Star』発動!
気分を出すために探偵帽子とパイプも用意してーと

【野生の勘】を研ぎ澄ませて、次にどんな人が狙われるのか考えるんだっ!
チンピラ男性、20……美少年、22……あぁ!!
もしかして次に狙われるのは、
緑色のお姉さん、24
イケメンのお兄さん、25
ドクロ被った変な人、23
おっぱいが大きいお姉さん、21
格好いいオジサマ、19
この順番じゃないかな
つまり、見た目が猟書家に似てる人達だよ!
オリジンが恨みを持つのも納得だしね

よし、被害に会う前に見つけに行かなきゃ!
見つけたら少し離れた所で見張ってて、犯人を誘き出そう
現れたら【残像】【早業】を使ってすぐ近づいて、犯人のナイフを防いじゃうね



 猟奇的な殺人事件に沸く霧の町ロンドン……に似た世界。この世界に、またしても一人の名探偵が降り立った。
「気分を出すためにこんなのも用意しちゃったもんねー」
 探偵帽子とパイプを咥えたシウム・ジョイグルミット(風の吹くまま気の向くまま・f20781)はこれ以上ないという程の名探偵スタイルで霧の町を闊歩する。ちなみにパイプは空で火はついていない。
「それでは早速推理しちゃうよ。【Lucky Star】発動!」
 資料を前に、幸運の星を巡らせるシウム。星の導きによってか、どんどん勘が冴えてくる。
「さー、次にどんな人が狙われるのか考えるんだっ!」
 勘とは無意識による情報検索である。今までの経験の全てを意図しないうちにまとめ上げ、自分の中での最適解を出す、それが研ぎ澄まされた直感というものだ。その勘が被害者二人と数字から目を離すなと告げている。
「チンピラ男性、20……美少年、22……あぁ!!」
 シウムの快哉と共に天啓が降りてきた。見たこともないはずの二人の顔が、数字と共に知った顔へと変わる。
「もしかして次に狙われるのは」
 ペンを取り、紙にその特徴と、書かれるであろう数字を並べていく。
「緑色のお姉さん、24、イケメンのお兄さん、25、ドクロ被った変な人、23、おっぱいが大きいお姉さん、21、格好いいオジサマ、19」
 次々と被害者候補の特徴と、数字を並べて書いていく。その並びは一直線ではなく、紙の中をぐるりと円状に散らばるような奇妙な書き方だ。
「この順番じゃないかな」
 そう言って最初に書いた24から右回りに、書いた順に数字をなぞっていく。
「つまり、見た目が猟書家に似てる人達だよ!」
 そう言って書き出した場所のさらに上に、20と22の数字を書き加えた。出来上がったのは、猟兵たちがこの一月毎日のようににらみ合ったもの。即ち迷宮災厄戦の戦場マップであり、その最外縁にあたる猟書家たちの布陣。
「オリジンが恨みを持つのも納得だしね」
 そう言いながらシウムは19と20の間に、18の数字を書き込んだ。
 動機も十分。確かにオウガ・オリジンにとっては殺しても飽き足らないほど憎い存在だろう。わざわざ偽物の世界を作り出し、そこで惨殺して憂さ晴らし……あまりにも回りくどい八つ当たりだが、彼女ならやりかねない。
「よし、被害に会う前に見つけに行かなきゃ! 目指すは緑のお姉さん……と、何これ、最新情報?」
 いざ出発と思ったところで、資料の最後に後付けでくっつけられたような一枚の紙を見つけた。それ曰く、オウガ・オリジンは緑の貴婦人の襲撃に失敗した後、老紳士の元に現れそれも撃退されたとのこと。
「えぇぇぇー! 回り方変えたのー!? でもそれも失敗したってことはまた逆にする? それとも……」
 突然の追加情報にもシウムの勘は鈍らない。一度失敗した時オウガ・オリジンは周りを逆にした。そこから読み取れるものは何か……勘と共に強化された学習力が相手の行動を自分のものとして想像の中で学び取る。
「……多分あの人の所だ! 行こう!」
 そう言ってシウムは、今度こそ何処かへと駆け出していった。

「ブレブレブレ、教科書を開けよ生徒共! ……いや、この言い方では嫌われるだけだな……」
 公園で奇声を上げては何かを考えている男。その顔は、髑髏の仮面をかぶっていた。
「ほんとにいた……髑髏の人……」
 次に狙われるのは髑髏の男だ。そう推理したシウムは町で聞いて回った。髑髏を被って変な笑い声をあげる人はいませんか、と。
 普通ならば正気を疑われるような質問だが、聞いた相手はあっさりと答えた。
「ああ、キング先生のことだね。あの人ならいつも公園でパフォーマンスの練習をしてるよ」
 曰く、とても教育熱心な小学校教師だが、遊ぶのが仕事のような年齢の子供たちを相手取るため、日々彼らの心をつかむ練習に余念がないのだという。その為なら常識はずれな言動で笑いを取ったり、被り物で見た目のインパクトを狙うことも躊躇しないのだとか。
「やっぱ真面目にズレてる人なんだね。ともかく、ボクの推理が正しければそろそろ……」
 あえて近づかず、犯人の出現を待つシウム。そして、それはすぐに訪れた。
「どんなに笑ったって他の楽しみ見つけたらすぐ忘れるよ、ガキなんてそんなものだ!」
 突き出されたナイフが、キングの体を貫いた。
 だが、そこに肉を抉った手ごたえはない。刺された残像が消えると同時に、離れた場所にキングを抱えたシウムが現れた。
「大丈夫?」
「な、何が何だか分からないが……多分大丈夫である」
 仮面越しにも動揺しているのが分かる声音でキングが言った。彼の無事を確認し、シウムはオウガ・オリジンへ向き直る。
「一回失敗したら逆回り。相手が来なさそうな方を考えたんでしょ? じゃあそれも失敗したらどうするか……答えは一つ飛ばし! 考えたけど残念、ボクの勘からは逃れられなかったね!」
 そのまま詰め寄り、一瞬の早業でオウガ・オリジンのナイフを叩き落とすシウム。
「くそ、さっきから行く先行く先でじゃまして……ここは私の世界だ! 私の好きにして何が悪い!」
「事情は呑み込めぬが……世界は何をするにも他者の協力が必要不可欠。一人でできることなどたかが知れている。だから吾輩も子供たちに失礼のないよう、不快感を与えぬ練習をコツコツ続けているのである」
 まさか自分が作り出した悪夢の欠片に説教されるとは。その屈辱でオウガ・オリジンは拳を握りぶるぶる震える。
「さあ、もう行くところはないよ。ここで観念……」
「うるさいうるさいうるさい! こうなったらもう順番もなにもあるか! 残りを探し出して必ず殺してやる!」
 喚き散らしながらシウムの腕を強引に振りほどく。やはりフォーミュラとして強力な力があるのか一瞬抑え込みが緩み、その隙にオウガ・オリジンはナイフを拾い逃走してしまった。
「逃げ場なんてないよ……」
 その背中にシウムの言葉は、恐らく届いていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナイ・デス
私は、本体が『いつか壊れるその日まで』死なない。死ねない
【覚悟、激痛耐性】痛みには、慣れてる
【念動力】で背のナイフを引き抜けば、一瞬で再生をおえて
【継戦能力】休んでは、いられません

【情報収集】地縛鎖を大地(館)に繋げ、情報を吸い上げる
殺人鬼がプリンセスを諦めたか、確認して

狙いは、わかりました
次の、被害者は……

グリモア猟兵と連絡をとって、確認。他の猟兵が、向かっているのなら

私が、向かうべきは……!



殺人鬼……いえ、オリジンさん。猟書家を、殺したいのでしょう
けれど、偽者をどれ程に殺しても、力は戻らないし
あなたの心は、晴れませんよ

猟書家は、私達猟兵が必ず倒します
逃げられても、こうして追いつめて、必ず



 その日、霧の町は騒然とした空気に包まれていた。
 巷を騒がす連続殺人鬼。二日続けての犯行というだけでも大事だったのに、何と今日は白昼堂々、三件もの襲撃事件があったのだ。
 しかしいずれも、いずこかより現れた名探偵の名推理によって未遂に終わった。まさに探偵小説もかくやという展開に、市民たちの恐怖と熱狂は極致に達していた。
 そしてその最初の一件が起きた場所。『プリンセス』と呼ばれる女性の住む大きな館で、最後の推理が始まろうとしていた。
「私は、本体が『いつか壊れるその日まで』死なない。死ねない。痛みには、慣れてる」
 ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)がベッドから立ち上がる。その背には、殺人鬼……オウガ・オリジンに刺されたナイフが深々と刺さっていた。
 そのナイフが誰も触れていないのに震え、すっとナイの背中から抜き放たれた。固い音を立ててナイフが床に落ちる。が、そのナイフが刺さっていたはずの場所には、傷はおろか血の後すらなくなっていた。
 その様子に、彼を看病しようとしていたプリンセスが息をのむ。
「休んでは、いられません」
 その言葉と共に彼女の前を横切ると、部屋の入口……オウガ・オリジンと一戦交えた場所に立ち、そこに地縛鎖を突き立てた。鎖を通じて吸い上げるのは、その地が覚えている情報。古いものほどぼやけるが、今欲しいのはたった今起こったばかりの事件について。まるで目の前で起きているかのような鮮明な映像が、鎖を伝ってナイに流れ込んできた。
 館から走り去っていくオウガ・オリジン。口汚く悪態をつき続けるが、どうやら他のターゲットならまだ護衛の手が入っていまいと、回り方を変え狙いを変えるつもりのようだ。屋敷の敷地から少し離れたところで、彼女の映像は途切れた。
「狙いは、分かりました。次の、被害者は……」
 ナイが変えた回り方で次に当たる、老紳士の特徴を告げる。プリンセスも名士同士として顔くらいは知っているのだろう。驚いたような表情を見せた。
 ともあれプリンセスを狙うのは諦めたことは分かった。ならばもうここにいる理由はない。
 心配そうに声をかけるプリンセスに薄く笑顔を向け、ナイは最後の追跡を開始した。
 外に出てまず受け取るのは、一戦のインターバル中にグリモア猟兵から送られてきた最新の資料。曰く、老紳士を殺し損ねた後今度は髑髏の奇人を狙い、それも阻まれてからやけを起こしたように姿を消したとのこと。
 残る被害者候補は二人。どちらを守りに行くかの算段もつけなければならないが、それ以前に彼らの居場所を確定させなければならない。
 被害者たちは皆人々から慕われ、それなり以上の社会的地位のある人物だった。唯一例外に見えるチンピラ男も、裏社会ではそれなりに顔が知れた存在だったのかもしれない。それならば、外見的特徴を詳しく伝え、上流階級に的を絞って聞き込みすれば居場所を知りやすいかもしれない。ナイはそう考え、館近くでの聞き込みを始めるのであった。

「乗船券だ。これでお父上の故郷へ向かうがいい」
「感謝しますわ……愛しい父様の生まれた地、そこで新たな生活を始めようと思います」
 一人の少年が、豊満な体を持つ貴婦人に一つの封筒を渡していた。一見すれば母子、あるいは姉弟のようにも見えるが、明らかに上下関係は少年が上。封筒を受け取った女性はしきりに涙を流し彼に感謝を捧げていた。
「父様は変幻自在と言えるほどに多くの事業を手掛けておりました。それを纏め正当に相続できたのは貴方のおかげです、ドミネーター」
「支配者、か……あまり聞こえのいい言葉じゃないな。まあ、多少ドスが効いていたほうが場合によっては困らないかもしれない。ともあれ息災でな、レディ」
 王の如き威厳すら漂わせ、少年は女性に言った。
 その二人を、物陰から睨みつける一つの影。
「ここに外の国なんてないし、この国の支配者はわたしだ……わたしに殺されるために作られた存在のくせに!」
 その影はナイフを握りしめ、物陰から飛び出した。だがそれを予期したように、その前に立ちふさがるもう一つの人影。
「殺人鬼……いえ、オリジンさん。猟書家を、殺したいのでしょう」
 最愛の父を亡くし悲嘆にくれる淑女に、この町の表裏の全てを束ね、いずれは天上界たる政界への進出すら嘱望される天才少年が、その相続や再起のために便宜を図った。ナイはその噂を聞き、二人がよく目撃されるというこの広場へと駆け付けたのだ。
 ナイはゆっくりと、しかし力強くその飛び出してきた影……オウガ・オリジンに言う。
「ああ、そうだ……だからこの世界が生まれたんだ! わたしが殺すために!」
「けれど、偽者をどれ程に殺しても、力は戻らないし、あなたの心は、晴れませんよ」
「いいや晴れるさ! チンピラや神父を殺した時はそりゃあすっきりした! 邪魔するなら、お前も死ね!」
 オウガ・オリジンは怒りに任せ、ナイの胸にナイフを突き立てた。だが、ナイは揺らがない。彼は本体が『いつか壊れるその日まで』死なない。死ねないのだから。
「猟書家は、私達猟兵が必ず倒します。逃げられても、こうして追いつめて、必ず」
 あなたを追い詰めて、この悪夢を終わらせたように。ナイがその心を込めてそう言った瞬間、彼の前に七色の巨大な手錠が現れた。全ての被害者候補を守り切ったことで、事件は解決したとみなされたのだろう。その手錠は誰が触れることもなく、ひとりでにオウガ・オリジンの両手にはまり、彼女を戒める。
「やめろ、はなせ! くそぉっ……殺させろ、殺させろ……!」
 諦めの悪い犯人のように、オウガ・オリジンは戒められた手を振り回し、そして七色の光の中へ消えていった。
「……今のは、例の殺人鬼か?」
 その様子を見守っていた少年……ドミネーターがナイに近づき声をかける。
「はい。でも、もう終わりました。大丈夫、です」
「そのようだな。私は正直恨まれる心当たりなどいくらでもあるが……もしそれが発端なら君には迷惑をかけた。それに、殺された二人にも」
 その言葉にナイは答えられなかった。彼が原因と言えばその通りでもあるし、全く関係がないと言えばそれも間違いないのだ。
「ともあれ、この町を守ってくれてありがとう。君はこの町の恩人であり、友人だ」
 そう言って右手を出すドミネーター。ナイは不思議な気持ちを感じながら、それに自分の右手を合わせた。
 この悪夢を見ていたオウガ・オリジンが消えたことで、この世界ももうすぐ消える。自分を友と呼んだ善良な猟書家などという夢は覚め、最後の戦いが始まるのだ。
 それでも、目覚めた後に消えた夢を覚えているくらいはいいだろう。そう思いながら、ナイは少年の手を握りしめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月26日


挿絵イラスト