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迷宮災厄戦⑱-21〜Gluttony★utopia

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン

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 美味しい、美味しい、お友達。
 ぷくぷくとした腕を切り落とし、マシュマロのようにふわふわでそして滑らかな頬を削ぎ落とす。
 血は凝ってしまったけれども、肉はまだ柔らかだ。
 骨だけを残し削いだ肉は筋があってとても噛み応えがある。長い髪は喉に詰まってしまうが、うぞうぞとした食感はリピートしたくなる。
 罵倒し、ぎゃあぎゃあと喚いていたお友達はおぞましく、あまり美味しそうではなかった。
 けれども『オウガ・オリジン』がその手のナイフで切ってしまうと、カエルのような声を上げて静かになった。この新しいお友達は、美味しく食べてあげよう。
 オウガ・オリジンとお友達は、異なる存在。
 お友達を理解するために、オウガ・オリジンはお友達を食べる。
 金髪である頭は食べない。
 ここはオウガ・オリジンと同じ場所だから。

 おなかがすいた。
 さあ、はやくここまで落ちてきて。新しいお友達。

 はてなくつづく平坦な闇のような国。
 そこには、新しいお友達が来るまでおぞましき『少年少女のバラバラ死体』の上に座り、死体を切り刻む『オウガ・オリジン』の姿があった。


「アリスラビリンスでの戦い、お疲れさま! オウガ・オリジンは力を取り戻しつつあるわね。どうやら新たな悪夢が彼女から溢れ出てきたみたいよ」
 グリモアベースへと入った猟兵たちを出迎えるポノ・エトランゼ(エルフのアーチャー・f00385)。
「皆さんに向かってもらいたい次の国は、果てなき闇が広がる国なの。ここは、オウガ・オリジンの中に眠っていた無意識の悪夢が具現化した世界なの」
 『オウガ・オリジン』はその国のどこかにいて、少年少女の死体を切り刻み、そして食べているらしい――延々と。
「オウガ・オリジンはどうやら悪夢で正気を失っているのね。
 新しくやってきた皆さんを、新しいお友達候補として見るわ。彼女と似ていないお友達には容赦がないけれども、自身に似た部分が皆さんにあると攻撃の手が鈍るみたい――自分に甘いのかしら……それとも、甘やかせる存在が自分しかいないのかしら……考えても栓無きことね」
 彼女は一体どういう存在なのだろうか。それなりに分析し答えを求め戦う猟兵もいるだろう。
 辛い日々を現実とするのなら、自身を救えるのは自身だけというパターンもある。
「――とまあ私の考えは置いといて、この何処までも続く平坦な闇のような国にいるオウガ・オリジンを撃破し、骸の海へと還して欲しいの。
 皆さんが降りるのは闇しかない場所だけど、そのうち光の輪が現われてオウガ・オリジンの元へと連れて行ってくれるわ。
 彼女は基本的にナイフを使い、皆さんを解体して食べようとしてくるからどうか注意してね」
 そう言ってポノは猟兵たちを送り出すのだった。


ねこあじ
 ちょっち食べられてしまうかもしれないシナリオです。
 ねこあじです、よろしくお願いします~。

 プレイングが来ていたら22日(土曜)夕方から執筆していこうと思っていますので、それくらいまでにプレイングをくださると嬉しいです。
 が、採用は🔵達成の人数くらいです(たぶん6~8名程)。
 でも頑張れたら頑張る。

 このシナリオのプレイングボーナスは、
「オウガ・オリジンに似た姿で戦う」
 です。
 これに基づく行動をすると有利になる感じです。

 それではプレイングお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『『オウガ・オリジン』と友達探し』

POW   :    友達ならいつでもいっしょ
戦闘中に食べた【相手の肉体】の量と質に応じて【全身が相手に似た姿に変わり】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    あなたもお友達になって
自身が装備する【解体ナイフ】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    誰とだってお友達になれるわ
自身の装備武器に【切り裂いたものを美味しく食べる魔法】を搭載し、破壊力を増加する。

イラスト:飴茶屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ネーヴェ・ノアイユ
ヒントを参考に金髪のウィッグとオリジン様とそっくりな服を着用してきましたがこれでどこまで効果があるかですね……。

オリジン様の武器は基本的にナイフですか……。あまり飛ばせたい空ではないですけれど……。
snow broom様を呼び出して共に空へ。機動力を活かした空中戦を行いながらUCにて地上にいるオリジン様へと牽制や攻撃を行っていきますね。
その際に私の姿に反応し、攻めてなどが鈍っているようでしたらこの好機を活かすために全力魔法にてUCを放ちます。

仮装の効果が薄くオリジン様が空への攻撃手段。もしくは空へと飛んできて攻撃を行ってきた場合には全力魔法にて作り上げた氷壁にて盾受けし防ぐようにします。



 どこまでも続く「平坦な闇」のような国――闇色に染まって見えないけれども、確かに地面はある、上は空が広がっているのか、それとも天井なのか、同じく闇に染まっていて見えない。
 闇が心に侵食してくるようだ。アリスラビリンスでの戦いに日々身を投じているネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は、戦場で出会い、相棒となったsnow broomを呼び出してやんわりと抱きしめた。雪のように白い箒がくるんと自転する。
「あまり飛ばせたい空ではないですけれど……。snow broom様、よろしくお願いしますね……」
 ネーヴェがそう言った時、闇中に生まれた光の輪が落ちてきた。
 あまりの眩しさに目を閉じる。ほんのちょっとした、一瞬だったにも関わらず空気が変わった。
 ネーヴェの肺に満ちる腐臭。
 ぺちゃぺちゃとした音が止み、続いたのは衣擦れの音――ネーヴェは素早く振り向いた。
「新しいお友達?」
 悪鬼のような怒気はなく、ただただ無垢に染まったオウガ・オリジンの声。
 たたっと駆けてくる少女の手には解体ナイフが握られている。常ならば駆け寄りながら振るわれるそれは、翳す気配もない。
 それもそのはず。ネーヴェは今、金髪のウィッグとオウガ・オリジンにそっくりなエプロンドレスを着ていた。
(「これでどこまで効果があるかですね……」)
 初動は戦意が鈍っているようだ。
「新しいお友達――ヒヒッ」
 近付き、こてりと首を傾けたオウガ・オリジンは引き攣った笑い声を出した。
 咄嗟に飛び退いたネーヴェが箒に乗り、空を飛ぶ。二拍ほど遅れてオウガ・オリジンのナイフが振るわれた。
「……あら? お友達……魔女のお友達!」
 キヒヒッと喜色の声を出し、オウガ・オリジンが跳躍した。snow broomが翔け、避けの軌道となる。
 動きを相棒に任せネーヴェは小型の氷鋏を精製する。
「降り注ぐ氷の鋏……。オウガ・オリジン様に、これが避けきれますか?」
 風切り音をたて敵へと降り注ぐicicle tempest。
 440もの氷鋏を避けきれるものではない。閉じた鋏が敵に突き刺さり、開いた鋏がむき出しの手足を裂く。
 それでも闇色のストラップシューズでリズムを刻み、踊るように襲撃地を抜ける敵はひらりとナイフを舞わせた。直後、ネーヴェの耳に届く剣戟。
「素敵ね、魔女のお友達。まずはその箒を折ってやりましょうか、それともあなたの四肢を切断し、芋虫みたいに叩き落とせばよいかしら?」
 どうしましょう? と言うオウガ・オリジンの無垢な色に潜む狂気。
「誰とだってお友達になれるわ。だって『わたし』だもの」
 ここはわたしの悪夢。わたしの国。
 呟いたオウガ・オリジンがステップを踏めば、闇が凝る。パンッと氷鋏が何かに弾かれた。
「snow broom様――……」
 ネーヴェの呼び掛けと同時に、白銀のリボンを揺らし空翔ける箒。
 美味しく食べる魔法を解体ナイフにかけたオウガ・オリジンが闇色の階段を駆け上がってくる。
 タンタンタンッと行先を変動できる板のようなものがあるようだ。
「キヒッ」
「空は飛びませんが……。駆け上がってくるのですね……」
 高度を取ったオウガ・オリジンが闇板を蹴り、瞬発を伴い落ちてくる。
 ネーヴェが手を振るえば同じ速度で同じ範囲に分厚い氷壁が形成された。
 獣のように氷へと降り立ったオウガ・オリジンは、一度、氷を叩く。続き振るったナイフが、さくり、と。まるでケーキか何かを切り分けるかのように氷を切り開いた。
 大きなリボンの魔力も叩きこんだ全力のicicle tempestをネーヴェが放ち、その反動に空気がしなった。
 ぶわっと吹き荒ぶ風がネーヴェのウィッグを煽る。半ば顕わとなった白い髪に、大きな食の関心――殺気がネーヴェへと向けられる。
「eat! eateat、eat!!」
「ここまで、ですね……」
 気まぐれに現われる光の輪がネーヴェを再び別の闇へと転送した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーノ・エスメラルダ
●対策
似たような手に見える手袋をつけて、服装と髪型を合わせたら…けっこう似てる気はします


ユーノは、猟兵ですので、例え刺されても斬られても簡単には死にません
『聖痕』による癒やしで治療もできるでしょう
そのための【激痛耐性】も【覚悟】もあります
その上で、体の肉という代償を元にUCを使いましょう
必要であれば、電脳魔術の【全力魔法】でクマさん兵隊のプログラムの具現化を一体分行い攻撃

こんなお友達のあり方は、悲しすぎます…
彼女はオブリビオンであるため、倒さなければなりません
…それでも、せめて一瞬だけでも空虚さから救われてくれたらと、願わずには居られないのです
【手をつなぐ】ことで【慰め】る事ができれば…



 アリスラビリンス世界に到着してしばらく。発生した光の輪が落ちてきて、どこか勤厚な佇まいで受け入れるユーノ・エスメラルダ(深窓のお日様・f10751)。
 光の輪が導いたのは平坦な闇のような国の一か所。ぺちゃぺちゃとした音がユーノの耳に届き、ぱっとユーノは振り向いた。その際、足に当たったのは柔らかなもの――死体だ。
 それらを食べやすいように切り取り、ぺちゃぺちゃこりこりと咀嚼するオウガ・オリジン。
 こり……――静寂。
「あたらしい、お友達?」
 闇の中でありながら、その存在はしっかりと視認できた。オウガ・オリジンはユーノに気付き、常の怒気孕む声ではなくただただ無垢に呟く。
「……はい、お友達、ですよ」
 いつものように柔らかな声でユーノは首肯する。
 オウガ・オリジンに似た空色のエプロンドレス。陽の下では仄かな虹がかかる絹のような金の髪を、緩く巻いた。頭部にはいつもの紫色のリボン。
 わずかに広げた両手には同じ色の手袋をはめて。
 背丈は違うけれども、まるで鏡合わせのような『お友達』にオウガ・オリジンはたたっと駆けよってくる。
「お友達、わたしのお友達なのね、とっても可愛いわ」
 闇色のストラップシューズでステップしながらの弾んだ声。
「わたしね、いまとっても美味しいものを食べているの。あなたにもわけてあげる♪」
 掬うようにユーノの右手を取って、オウガ・オリジンは足元にある変色した腕を拾った。
 少女の手は冷たい。触れているにもかかわらず、ユーノの指先は闇へと埋まる。
「あの、ユーノは今おなかがいっぱいなのです」
 ごめんなさい、そう呟く。
「ゆーの。
 あなたには名前があるの? お腹がいっぱいなの?
 わたしには名前がないの。お腹が空いたわ。
 ゆーのにはたくさんのモノが詰まっているのね。それはさみしいなのかしら、楽しいなのかしら、それとも死にたいなのかしら?」
 ずわっと。闇に重ねた指先が強く引かれた。ねえねえ、とオウガ・オリジンがユーノを見上げる。
「新しいお友達、新しいわたし、ちょっと味見させてよ」
「……ユーノは、猟兵ですので、たとえ刺されても斬られても、ちょっと食べられてしまっても簡単には死にません」
「♪」
 ぎゅっと手が握られ、オウガ・オリジンは屈むと同時にユーノの腕を引き寄せた。
 貌なきオウガ・オリジンは確かに口元に当たる部分で、柔らかな肉を食み、齧る。ぼろぼろとユーノの細胞が壊死して周囲はじわりと赤い血が滲んだ。
「ゆーのは叫ばないのね」
「……ッ……はい」
 息を呑んでからの返事。それでも、多大な労力が必要で額に冷や汗がじわりと滲む。臓腑にまで底知れない闇が侵食してくるようだ。耐える。
「嗚呼、嗚呼、とても美味い。たくさんの寂しいが隠れてて詰まってる」
 いつものオウガ・オリジンの声。ぞぞぞと闇に舐めとられ、手首から腕にかけて肉が欠けていく。
「ねえ、わたしのお腹のなかで生きるお友達になってよ」
(「こんなお友達のあり方は、悲しすぎます……」)
 だが、相手はオブリビオンだ。倒さなければいけないことをユーノは知っていた。
(「……それでも」)
 左の掌にある聖痕で癒しも治療もできる。けれどもユーノは敢えてそれをせず、少しだけ食べられるのを許容した。
 これはオウガ・オリジンにとって攻撃ではなく、食事で。
 尽きぬ食欲は常に枯渇した心を満たすかのようなものにも思えて。
 闇のなかへと導かれた右手を握る。
「お友達を、あげます。寂しかったらその子を抱きしめてください」
(「せめて一瞬だけでも空虚さから救われてくれたらと、願わずには居られないのです――」)
 体の肉と伴う体力を代償に、電脳空間からくまのぬいぐるみを召喚するユーノ。それは目に見えるものではなく、右手を通じて彼女の『心』の中に。
 メンタリティ・リペントのくまのぬいぐるみが彼女の中に内包された。
「ゆーの。ちょっとねむい、わ」
 ユーノの手を解放して、オウガ・オリジンの頭はゆらゆらこっくりと。ゆっくりと散乱する死体の上へと座りこむ。
「ねえ、ゆーの。そばにいてね」
 そう呟いて、オウガ・オリジンはすうすうと寝息を立てはじめる。
「ほんの僅かな時間かもしれませんが、よい夢を……おやすみなさい」
 壊死した右腕から滲み出た赤い血はぱたぱたと落ち、ユーノが去った後も、開花したかのような滴下血痕が闇の国に残り続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
ちょっと食べられるかもしれない
でも、少しお話してみたい

UCでオリジンと似た金髪に
水色ワンピに白のエプロン、紺のリボンに紺の靴のくーるびゅーてぃに変身

こんにちは、わたしは杏
貴女のお友達になりに来た

貴女に似てる?…本当に?
よく見て、わたしの顔
この目、この口、そしてお鼻
貴女の顔はどんなのだった?わたしと似てる?

似てるかわからない箇所、顔に攻撃を向けさせれば防御もやりやすい
灯る陽光のオーラで顔を防御し
うさみん☆、オリジンを思い切り殴り飛ばして

思い出して?自分の過去、自分の顔
貴女がお友達を理解したいように
わたしも貴女を知りたい

貴女が顔を思い出したその時に
一緒に笑い合えるお友達になろう
その時まで、ばいばい



 アリスラビリンス世界に到着した木元・杏(だんごむしサイコー・f16565)は早速ユーベルコード、どれすあっぷ・CBAを発動させた。
「わたしはクールな女」
 つややかな黒髪は絹のような柔らかさそのままに金の髪へ。頭には大きな紺色のリボン。
 滑らかな水色のワンピースに白のエプロンドレス、ストラップシューズはリボンと同じ色。
 闇の中ではあれど不思議と視認はできた。自身の姿を見下ろしてチェックしていると、発生した光の輪が杏へと落ちてきた。
 閃光に目を細めて、眩んだ瞬間に導かれたのは平坦な闇が広がる国の一角。
 肺に腐臭が満ち、続いて彼女の耳に届いたのはぺちゃぺちゃと何かを舐める音。
 音の方へ向けば、あちらもこちらに気付いたようだ。こりこりこり……こり……、と、咀嚼が止む。
 スカートを広げて座っていた少女――オウガ・オリジンは杏へと意識を向けたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「あたらしい、お友達?」
 どこか期待したような無垢な声。常の怒気孕むオウガ・オリジンではない口調だ。
「こんにちは、わたしは杏。貴女のお友達になりに来た」
 首肯した杏に「きゃあっ」と喜びの声を上げたオウガ・オリジンは死体を踏みつけ、ステップしながら近付いてくる。躓くことのない足捌き。
「まあ、新しいお友達! ようこそね。
 あなた『も』お名前があるのね? あんはお腹がいっぱい?
 わたしはお名前がないの。とってもお腹がすいているわ」
 何か食べる? と持っていた腕を差し出そうとするオウガ・オリジンへ、杏は緩やかに首を横に振った。そう……と少ししょんぼりとしてオウガ・オリジンはその『腕』を抱きしめた。
「お腹がいっぱいなのね……この腕は、死にたいが詰まっていてとても美味しいのよ」
 杏の金の瞳が腐食している腕を映した。子供の腕だった。どんな思いでアリスラビリンスに迷い込んだのだろうか。
「でももういらない」
 ぽい、とオウガ・オリジンは腕を捨てた。
「……どうして? その想いはもういらない?」
「だってあんがきたもの。あなたのお腹、美味しそうなものがたくさん詰まっていそうだわ。わたしね、今新しい寂しいがいっぱいあるの。それ以外をちょうだい」
 杏の手を取るオウガ・オリジンは、今、お腹のなかにくまのぬいぐるみがいるのだと、そう言った。少女の手に触れた指先は闇の中へと入っていく――冷たい世界だ。
 自身より背が低い少女へと、目線を合わせるように杏は少し屈む。金の瞳が新たに映すのは朧な貌だ。
「ん、わたしのお腹、たくさん詰まってる。楽しい、嬉しい、悲しいも少し」
 いいなぁ、と羨望の声のオウガ・オリジン。
「わたしに似たお友達の、あん。ちょっとだけそれを分けてよ」
 食べさせて。了解も得ないオウガ・オリジンは一方的に宣言し、杏の手を握った。闇の手が杏の手を壊死させていく。べろりと舐められた感覚。掌――そして手首に触れた時、真っ赤な血が滲んだ。それでも直ぐに闇が舐めとってしまったけれども。
 ――痛い。杏の額に冷や汗が滲むが、それでも僅かに微笑んでみせた。
「……貴女に似てる? ……本当に?」
 杏の言葉に、首を傾げるオウガ・オリジン。
「よく見て、わたしの顔。この目、この口、そしてお鼻――貴女の顔はどんなのだった?」
「わたしの、かお。あんのかお」
 杏の手を離し、そのまま顔に触れるオウガ・オリジンの手。――痛みは訪れない。
 目と目が合った。深い闇色の貌に金の瞳だけがある。
「わたしと似てる?」
「――わからない。わからないわからない、ねえ、あん、わたし、わたしわたしわたしそれが欲しいわ!!!」
 ぴりりとしたものが顔に触れた瞬間、白銀の光が杏の顔を守った。弾かれたオウガ・オリジンが後退る。
「うさみん☆、オリジンを思い切り殴り飛ばして!」
 糸で繰られたうさみみメイド・うさみん☆は、杏が言った通りに思いっきりオウガ・オリジンを殴り飛ばした。ギャアッと悲鳴が響く。
「思い出して? 自分の過去、自分の顔」
 殴り飛ばされたオウガ・オリジンは獣のように体を反転させた。解体ナイフを持ち、死体を蹴っての跳躍。
「貴女がお友達を理解したいように、わたしも貴女を知りたい」
 解体ナイフを翻す腕へと体当たりしたうさみん☆がオウガ・オリジンを蹴り上げる。そうしている間にも喰われた片手からばたばたと血が流れ落ち、杏の服を真っ赤に染め上げていった。
 無事な片手で繰るうさみん☆が旋回する。ぶわっと、周囲に舞い散る桜の花びら。
「貴女が顔を思い出したその時に……一緒に笑い合えるお友達になろう」
 花びらが一瞬オウガ・オリジンの視界を覆う――光の輪が、再び杏を浚っていった。
「……」
 きょろり、とオウガ・オリジンの眼球が動く。
 残されたのは、はらはらと舞う花びら――それを眼で追い、周囲への死体へと落ちていくのをただ黙って見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゾシエ・バシュカ
陰惨な光景に反吐が出ますね。努めて表情には出しませんが

UDCアースには色んなものがあります
「アリス 衣装」で検索、似たようなエプロンドレスを調達
安物で誤魔化せるでしょうたぶん。汚れても破れても構わないので

暗闇はわたしの味方
もし生き残りがいたら、闇に紛れて戦場から遠ざける

ダッシュ&ジャンプ、闇に紛れて一撃離脱
多少の手傷は激痛耐性で無視、生命力吸収で耐える
すべてを避けなくても、わざわざわたしの姿に変わってくれるから

影から剣を引き抜き、漆黒の非実体長剣『魂削ぎ』と白銀のレイピア『心臓狙い』の二刀流
『魂削ぎ』で動きが止まれば、『心臓狙い』を放って追撃、あわよくばトドメ
「お友達なら食べちゃいけませんよ」



 こりこりこり。
 ぺちゃ――。
 腐臭が満ち平坦な闇が広がる国の一角で、オウガ・オリジンは転がる死体の一部を舐め咀嚼する。
「――?」
 一瞬光の輪が現われたが新しいお友達の姿は見えず、わざわざ首を傾げた後はまた違う死体の腕を取った。固まった指に指を絡めて、闇の舌で舐める。
「おいしい……タスケテの味……」
 うっとりとした呟きは闇の中へと消える――それを聞く、ゾシエ・バシュカ(蛇の魔女・f07825)。
(「……陰惨な光景に、反吐が出ますね」)
 そうは思っても表情には出ない。彼女の足元には死体が転がっていて、視認可能な闇のなか少年少女だったものたちを見回す。
 生き残りはいないようだ。
 となればさっさと動くに限る。
 影から、封印された非実体長剣『魂削ぎ』と白銀のレイピア『心臓狙い』を引き抜き――黒刃を振るう。
 闇に溶け込む黒がオウガ・オリジンの首を裂き、新たな闇が噴出した。
「だれ!?」
「穿て、『心臓狙い』」
 既に放たれた影剣・心臓狙いがオウガ・オリジンを穿った。
「ドウシテ、そんなひどいことをするの?」
 オウガ・オリジンはゾシエの方を確りと向いた。視認されている――ここはオウガ・オリジンの世界、悪夢。けれども飛翔する剣までは追えていないようだ。
 UDCアースで調達したゾシエのエプロンドレスを眺め、困ったわ、という風に頬となる部分へ手を当てたオウガ・オリジン。
「酷いのはあなたでは?」
「?」
 至極真っ当なゾシエの言葉には大した反応もない。
「ねえ、新しいお友達、あなたには何が詰まっているのかしら? わたし、とてもとても興味があるわ」
 常の怒気孕む口調ではなく、ただただ無垢に少女らしく喋る敵はゾシエに向かって駆けてきた。
 暗闇はゾシエの味方だ。
 濃厚な悪夢と闇の国で、彼女が飛び退けばその身は闇へと紛れる。
 身を屈め、下段から上へと向かって影剣。手応えはある、けれども軽い。オウガ・オリジンはその身が悪夢で出来ているかのような。
 幾度かの攻撃を受けたオウガ・オリジンはゾシエへ向かって闇の手を伸ばした。物理的に、みょんと伸びたのだ。
「つ~かまえた♪」
「……色々と、規格外ですね」
 闇の手がゾシエの腕を侵食し『食べ』始める。剥き出しであった腕がぞろりと舐められ、痕が壊死していく――が、ゾシエは怯むことなく影剣を突き出した。そのまま斬り払う。
「あなた、ちょっと変な味がするわ。さみしい? ぜつぼう? どろどろしてる」
 いつもならば淡々と失礼ですねと返すところだが――対角から『心臓狙い』がオウガ・オリジンを貫く。
 ゾシエの血がばたばたと落ち始めた。闇が舐めとり、牙を立てる。
「ウー」
 獣のような唸り声をオウガ・オリジンは放った。ゾシエに喰らいつき、かつ二つの剣が敵の動きを封じる。膠着状態だ。
 うっすらと、金の髪の根元がピンク色に染まった。闇のなかに眼球が浮かぶ――ゾシエの色だ。
 目と目を合わせてゾシエは呟く。
「お友達なら食べちゃいけませんよ」
「グルルルル……」
 胸元を貫く影剣が抉るように回り、オウガ・オリジンのハートを破壊し始める。

成功 🔵​🔵​🔴​

アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
喪失
失ったモノを食べて補おうと言うことか
飢え
渇望
自らに近しい者を引き寄せる
孤独

お前は
寂しいのか?

友達は食べ物じゃない
そんなやり方で孤独は癒せない

金髪のかつらにリボンにドレスに靴
仮装は完璧に
ソヨゴもかわいいネ
お揃いの姉妹みたいだ
仲良く進もう

敵に会えたら挨拶を
ご機嫌よう
御行儀がなっていないようネ
その口はおしゃべりには使えないの?
お友達として目を覚ましてあげましょう

大鎌を取り出し接近戦を挑む
出だしの会話から少しでもヒントがあれば話し続ける
敵の攻撃に対してはUCで拘束して止める

もしソヨゴが怪我をしたら
まず心配そうに駆け寄る
そして
静かに怒りを爆発させる

許さない
この痛みは命であがなってもらうよ!


城島・冬青
【橙翠】

金髪のカツラに青いワンピース
白のエプロンドレス着用
一足早いハロウィンですね
今年はアリスの仮装でもしちゃいます?
アヤネさんよく似合ってますよ
あはは、姉妹ですか
アヤネお姉ちゃん!なんちゃって
手を繋ぎ闇の中を降りる

聞き耳と第六感でオウガからの不意打ちを防ぐ
現れましたね
悪いけれど私達は食べられたりしません
悪食はお腹を壊しますよ?

オウガ・オリジンと同じ格好をしている私達だけれど明確に違うところがある
それは顔
…特に目を狙われるとやばい
回避が間に合わない時は腕でガードする
傷を負ったらピンチこそチャンス!
UC焙烙の刑で反撃
うん、炎で明るくなりましたね
残像と蝙蝠達でオウガを翻弄して死角からダッシュ斬り!



「こんな格好をしてると、一足早いハロウィンみたいですね」
 今年はアリスの仮装でもしちゃいます? と、アリスラビリンス世界へと立った城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は自身の青のワンピースと白のエプロンドレスをひらひらとさせながら言った。
「アヤネさん、よく似合ってますよ」
「そう? ソヨゴもかわいいネ」
 ソヨゴと同じワンピースとエプロンドレス、アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)の長い黒髪は今、金の髪となっている。もちろんかつらだ。
 頭には紫の大きなリボン、同じ色のストラップシューズ。
「お揃いの姉妹みたいだネ」
「あはは、姉妹ですか。それじゃあ、アヤネお姉ちゃん!」
 なんちゃって、と笑い合って進んでいると、光の輪がアヤネの上に発生した。
「あれ? 僕?」
「わー待って待ってまさかの一人召喚ですか?!」
 繋いでいた手を、アヤネの腕に。コアラみたいにがしっと掴んだその瞬間、光の輪がアヤネとびったりくっついた冬青へと落ちて――視界が眩んだ。

 転移したその先は相変わらずの闇が広がる世界。
 こりこりこりと硬いものを齧る音が二人の耳に届き、ぱっと振り向く。
 こり……――闇の中であれど、悪夢の国故かオウガ・オリジンの姿は視認できた。ということは逆も然りだ。
「新しいお友達……が……ふたつ?」
 物扱いとも取れる言動に、アヤネは低い声で返す。
「ご機嫌よう。御行儀がなっていないようネ。その口はおしゃべりには使えないの?」
 食べていた腕を『口』から遠ざけるオウガ・オリジン。
「おしゃべり?」
「そう、おしゃべり」
 オウム返しのようなオウガ・オリジンの声に、アヤネも再び返す。困ったわ、という風に頬となる部分に手を当てる少女。
「わたしの、鏡合わせなお友達たち、お腹がすいているでしょう? 何が食べたいかしら? 死にたいの腕かしら、殺しての臓腑かしら、それともタスケテがいっぱいの眼球?」
 両手にはたくさんのモノ。
(……意外と喋りますね)
(そうだネ、言っていることはアレだけど)
 冬青とアヤネの小声でのやり取りには気付くことなく、オウガ・オリジンは「そのかわり」と言葉を続けた。
「食べさせて?」
 何を、と問うまでもない。彼女の目的は明らかだ。
 増した殺気に、自身の影から取り出したウロボロスの大鎌をアヤネが振るえばステップを踏んでひらりと避けるオウガ・オリジン。
「悪いけれど私達は食べられたりしません。悪食はお腹を壊しますよ?」
 回りこみ抜刀した花髑髏を振るう冬青には、解体ナイフが繰り出された。高らかに鋼の音が鳴り響く。
「根底に喪失。失ったモノを食べて補おうということか。お前は今、何を食べたい?」
「タスケテ」
 問うアヤネの大鎌を避け、迫る冬青をいなし、オウガ・オリジンは闇の舌を伸ばしその貌へ眼球を放り込んだ。
「ちょ、ちょっと、戦いながら食べるなんてお行儀が悪いですよ!」
 冬青が言う。けれどもそれは隙ができるということでもあり、敵の腹を刀が斬り裂いた。肉厚の手応えはなく、軽い。
「飢え――渇望、自らに近しい者を引き寄せる」
 願った。願って願って願って、届かない願いが確かにあることをアヤネは知っている。
 届かずに、自身に残ったのは、
「孤独」
「みんな、泣いたわ。泣いていたわ。涙尽きても、血を流し続けている。だから食べてあげるの」
 だって闇のなかは心地が良いでしょう? わたしのお腹はいっぱいにはならない。
「みんないっしょ。みんながおともだち。ぐちゃぐちゃに心も体も混ざりあうの」
「お前は」
 寂しいのか? と聞くまでも無かった――。
「友達は食べ物じゃない。そんなやり方で孤独は癒せない」
 闇の国のなか、まどろみの生ぬるい空気を裂き振るった大鎌がオウガ・オリジンを斬り開く。ぶわっと悪夢や、誰かの感情が散った。
「あっ、どうしよう、お腹がぐうぐうだわ」
 そう言って敵の解体ナイフが狙った先は、たった今肉迫した冬青。オウガ・オリジンの『目』と目が合った気がした。うっそりと闇の向こうで笑う気配にうなじが寒気立つ。
 咄嗟に庇った腕にナイフが突き立てられ、強い力で今度は冬青の腕が斬り開かれる。
 闇の舌が伸び、冬青の腕を喰らう。噴出した血を舐めとり、触れた部分が壊死していく。
「ッ」
 瞬間、冬青の鮮血が炎を放つ蝙蝠の群れへと変形し、オウガ・オリジンの貌へと特攻した。
 飛び退いた冬青と敵へ攻撃を続ける炎が彼我を繋ぐ。
「うん、炎で明るくなりましたね」
「ソヨゴ!」
 心配そうに駆け寄ってきたアヤネへ、笑みを向ける冬青であったがその腕とアリスの衣装は赤に染まっている。
 侵食する闇に神経をやられたのか、だらんとした腕は動かない。
「許さない――この痛みは命であがなってもらうよ!」
 痛いのは冬青であるはずなのに、アヤネもまた斬り開かれたかのような痛みを全身に感じた。
 順手逆手と柄を回し、闇に潜む闇月のように弧を描くScythe of Ouroboros。
 対角には逆手に持たれた花髑髏が敵胸を貫く。
 根底に繋がる気持ちに覇気がのった一撃は、オウガ・オリジンの闇を大きく削った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈍・小太刀
友達を探す姿が寂しそうに見えて
例え戦いながらでも
話が出来たらと思う

水色のワンピースに白のエプロンドレス
髪は下ろしてリボンを付けて
でも貴女の髪は金色で
私の髪は灰色
気に入らない?
そうね私も貴女が気に入らない
貴女を覆うその悪夢が

私は人間だから
貴女が人間だったらって思う
貴女も同じなのかもね
私が同じオウガになればって

髪を食べれば髪色も同じ
一緒になれたら安心?

でもさ
全部一緒になってしまったら
貴女が私に私が貴女になってしまったら
それは友達とは言わないよ

違いはあって当たり前
その違いを違いのままに受け入れられたなら
違う道もあったのかな

友達になれたらいいのに
だから終わらせるよ
貴女の悪夢を

桜花鋭刃で送り出す
骸の海へ



 アリスラビリンス世界へと立った鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は、じっと時を待った。
 無限に国が生まれる世界。
 人さらいのような導き――それは猟兵たちにも例外なく降り注ぐ。
 光の輪が小太刀の紫眸へと映りこみ、近づいてくる。眩い光に一瞬目を閉じた小太刀は、空気の変化を感じた。
 肺に満ちるのは腐臭だ。
 光の輪の導く、平坦な闇のような国。ぺちゃぺちゃとした音に気付いた小太刀はゆっくりと振り向いた。足に当たる柔らかなもの。死体だ。
 それらを食べやすいように切り取り、骨だろうか、こりこりと齧るオウガ・オリジン。
 こり……――静寂が訪れる。
「あたらしい、おともだち?」
 闇の中でありながらしっかりと視認できる。
 小太刀に気付いたオウガ・オリジンは常の怒気孕む声ではなく無垢な声で問いかけた。
「……どうかな」
 ステップシューズで軽やかに死体を踏んで、時にステップしてと、こちらへと寄ってくるオウガ・オリジンへ率直に返す。
「ねえ、わたしのお友達になってよ。今なら、この死にたいが詰まったおめめをあげるよ?」
 そう言って持っていた誰かの眼球を見せるオウガ・オリジン。
「いらない」
 やっぱり率直に返す小太刀に、そうなの? とオウガ・オリジンは首を傾げた。
「わたしなあなた、お腹は空いていないの? それともお腹がいっぱいなのかしら。寂しいや、悲しいや、死にたいでいっぱい?」
 水色のワンピースに白のエプロンドレスを着た小太刀は、「少女」の目には鏡の自身のように映ったのだろう。
 髪は下ろし、リボンを付けた小太刀の姿。
 けれども髪は灰色のまま――オウガ・オリジンが手を伸ばす――小太刀の長い髪に。
「この髪には何が詰まっているのかしら……」
「楽しいこと、かな。よく『お友達』と遊んだりする時、ぴょんぴょんと跳ねたりするんだ」
 さらさらと闇の指に滑らせて遊んでいたオウガ・オリジンが小太刀の言葉に止まる。
 灰髪が指に絡む――否、絡められた。数本が引っ張られ、頭皮に痛みが走る。
「『お友達』?」
「……気に入らない?」
「ええ、気に入らないわ。わたしなあなたに、楽しいお友達がいるなんて。わたしとあなたが別のモノみたいだわ」
 すらり、と片時雨を抜く小太刀。――どうしてだろう、雨は降っていないのに今日は手に馴染む。
「……そうね……私も貴女が気に入らない」
 貴女を覆う、その悪夢が。
 一刀を振らば、ハッとしたようにオウガ・オリジンが飛び退いた。
 その刃が切り離したのは、少女との距離だけではなく、絡めとられていた小太刀の髪も。
 ぺろり、と味見をするようにオウガ・オリジンは小太刀の髪を舐め、含む――闇の貌へと取りこまれていく。
「ほんとだ――楽しい、でいっぱい」
「ええ、自慢の髪なの」
 オウガ・オリジンの声と言葉に含まれた羨望、嫌悪、どろどろとしたものを感じ取る小太刀。
 楽しい、嬉しい、好き。
 苦しい、悲しい、嫌い。
 誰もがもつ感情だが、オウガ・オリジンはどうなのだろう。持っていないモノを食べ散らかしている――子供のような、オウガ。
「私は人間だから、貴女が人間だったらって思う」
 小太刀が彼我の距離を埋め、刀を振るった。反撃はせずに少女はダンスをするように避ける、けれども、何かの差が彼女たちにあるのだろう。
 刃は闇を払った。
 振るう。また悪夢が斬り払われ、散る。
「貴女も同じなのかもね。私が同じオウガになればって」
 小太刀がそう言った時、オウガ・オリジンの少しくすんでいた金髪が灰色へと変化する。
「髪色、同じになったね。一緒になれたら安心?」
「ええ。わたしなあなたが、あなたなわたしになれるわ。楽しいでお腹いっぱいになれそう――」
 髪も、と闇の指先で自身の伸びた灰髪を摘むオウガ・オリジン。
「きっと楽しいがつまっている」
 一房をナイフで切断し、口に含む。
 その様子を見ながら、でもさ、と小太刀は話しかけた。
「全部一緒になってしまったら、貴女が私に私が貴女になってしまったら――それは友達とは言わないよ」
 小太刀が放つ声の先で、オウガ・オリジンは含んだ髪を吐き出した。
「ちがう! ちがうちがうちがう!! こんな味じゃなかった……!!!」
 自分のものとなった灰髪を握りしめる。
「違いはあって当たり前。
 その違いを、違いのままに受け入れられたなら……違う道もあったのかな」
「さみしいさみしいさみしい、わたし、誰かにもらったくまのぬいぐるみを抱きしめるわ。さみしいがお腹いっぱいに広がるの。楽しいを忘れたい。知りたくない。だってつらいもの」
 声は震えていた。
 たくさんの『悪夢』を食べて、悪夢を作る。
 やめて、死にたい、殺して、殺したい、タスケテ。
 たくさんの『絶望』がオウガ・オリジンから吐き出されていく。
 柄を握る小太刀――今日は本当に、良く馴染む。
「友達になれたらいいのに」
 願いが清廉な刃へと通っていく。
 祈りが刃をより鋭利なものへと導く。
 だから、と小太刀が呟いた。
「終わらせるよ……――貴女の悪夢を」
 斬線は鋭く、闇に一筋の光を描いた。
 桜花鋭刃がオウガ・オリジンの悪夢を斬る。
「ぜんぶ、わるいゆめ、だったらよかったのに」
「……そうだね」
 誰かの声に、鞘におさめながら小太刀は応える。
 斬られ、胴が離れたオウガ・オリジンは中から出てきたぬいぐるみを抱きしめて、消えていく。
「教えてあげるよ……私ね、今、寂しいでお腹がいっぱいだよ」
 骸の海へとゆく少女を見つめ、手向ける言葉。
「よい夢を――夢のなかで、楽しいをたくさん用意しておくから」
 悪夢は誰でも見るものだ。
 けれどもそんなひと時に、夢の中でだけでも『楽しい』に触れ合うことができたのなら。
 その時は。

 闇の向こうで、僅かに微笑む気配を見せ、オウガ・オリジンは散るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月26日


挿絵イラスト