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迷宮災厄戦⑱-18〜最強/オウガ・オリジン空想戦

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン #イマジンモンスター

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 オウガ・オリジンが、衝動の赴くままに胸を掻きむしる。

 嗚呼、嗚呼! なにもかもが苛立たしい!
 猟書家も、猟兵も、あるいは空腹さえも!
 どうして至高の存在たるわたしがこうも苦しまねばならない!

 少女の細足が地団駄を踏む。
 なにがいけないのだ。なにが足りないのだ。
 怒りに任せて癇癪を起こす彼女は、しかし、ひとつの結論に至ることでピタリと動きを止めた。

 もう、いい。
 邪魔なものは、ぜんぶ壊してしまおう。
 必要なのは、力だ。誰にも負けない、圧倒的な破壊の力。
 そうだ。わたしはこれから『さいきょうのそんざい』になるのだ!


「またひとつ、オウガ・オリジンが本来の力を取り戻した。新たに獲得した能力を使って、彼女は不思議な国を自身の領域に作り替えている。急ぎ、対処に当たってほしい」
 グリモア猟兵、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)が集まった仲間たちに頭を下げた。
 アリスラビリンスの存亡を賭けた『迷宮災厄戦』。カタストロフのカギを握るオブリビオン・フォーミュラは、時間の経過とともに少しずつ失われた力を取り戻しつつある。
 世界の崩壊に至る前にオウガ・オリジンを消滅させるには、たとえ一歩ずつであっても、その体力を地道に削っていかなくてはならないだろう。

「これからみんなには『想像力の国』に向ってもらう。その不思議な国に、現実改変ユーベルコードを使って『怪物』に変身したオウガ・オリジンが待ち構えているはずだよ」
 そう言って伏籠のグリモアが投影したのは、見上げるほどの巨体を誇る『怪物』の姿だった。
 体色は紫に近い青。鋭利な牙が二重に並び、強靭な爪が大地を抉っている。身の丈は5メートルを超えるだろう。唯一、頭からぴょこんと飛び出た長耳が、その怪物の正体が『ウサギ』だと主張していた。
 それこそが『イマジンモンスター』。オウガ・オリジンの想像する『さいきょうのそんざい』のひとつの形だった。

 最強を想像しただけあって『イマジンモンスター』は出鱈目な戦闘力を持っている。その戦力は、たとえ猟兵であっても無策で挑めば一蹴されてしまうレベルだ。
 ……とはいえ、対抗策がないわけではない。カギを握るのは『想像力の国』の特殊な環境だ。

「いいかい? この『想像力の国』の戦場では、僕たち猟兵も『イマジンモンスター』に変身することができるんだ」
 グリモア猟兵の人差し指がピンと宙を指す。
 もちろん、イマジンモンスターの姿かたちは、猟兵たちの想像力に影響を受ける。猟兵たちが変身するのは、オウガ・オリジンとはまったく別の、自分自身が思い描く『さいきょうのそんざい』となるだろう。

「自分にとっての『さいきょうのそんざい』をハッキリとイメージすること。それが勝利への第一歩だ。……恥ずかしがらずに、心の衝動を真っ直ぐ吐き出すのが大事かもね」
 僅かに口元を緩めながら、グリモア猟兵が戦場に繋がるゲートを開いた。
 自分自身の『さいきょう』を想像したのか、どこかワクワクしたような表情で、伏籠は仲間たちを送り出す。
「胸の奥の想像力は、誰だって無限大。どうせなら派手にやってやろう。――頑張ってね、イェーガー!」


灰色梟
 最強に勝てるのは最強だけ。こんにちは、灰色梟です。
 パワーアップを繰り返すオウガ・オリジンとの大決戦。今回は『想像力』の勝負です。
 本シナリオでは下記のプレイングボーナスが適用されますので、まずはご確認ください。

●プレイングボーナス……さいきょうのそんざいに変身する。
 オウガ・オリジンが変身するのは、下記イラストの左側にいる『青いウサギの怪物』です。
 超強化されたサイズとパワーを駆使する、シンプルかつ強力なフィジカル・モンスターは、真っ向からの殴り合いともなれば無類の強さを誇ることでしょう。
 舞台となる『想像力の国』では、オープニングの通り、猟兵側もイマジンモンスターに変身することができます。『さいきょうのそんざい』に変身して、オウガ・オリジンに対抗してやってください。

 みなさんにとっての『さいきょうのそんざい』とは何なのか、プレイングを楽しみに待っています。
 それでは、一緒に頑張りましょう!
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第1章 ボス戦 『『オウガ・オリジン』とイマジンモンスター』

POW   :    イマジンモンスター・ギガンティック
【現実改変ユーベルコード】を使用する事で、【全身からオウガ達の頭部】を生やした、自身の身長の3倍の【イマジンモンスター】に変身する。
SPD   :    イマジンモンスター・スピード
【現実改変ユーベルコードを使用する】事で【イマジンモンスター】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    イマジンモンスター・ディフェンス
対象の攻撃を軽減する【イマジンモンスター】に変身しつつ、【身体から溢れ出すトランプ】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

徳川・家光
「イマジンモンスター……最強の存在。
ならば決まっています。僕にとっての『最強』は」

みるみると家光の姿が「老剣士」に変わっていく。
ただしその老体は、木の幹が如き太い腕と、隆々とした体躯を誇る、
この齢こそが「全盛期」なのだと思わせる、毅然たる武士の姿。

「我が師、柳生新陰流当主、柳生宗矩……!」

変身を完了した途端、声も老人のそれに変化し、人格も変化する。

「殿、忘れめさるな……柳生新陰流の極意は『活人剣』……
 敵を殺さず、手足を奪う……その方が、尋問が容易うございます……!」

戦法は単純明快、カウンターで敵の腕を一閃、切り落とします!

「ほう……腕にも顔がついておるな……これは拷問が楽に御座る……」



 新緑の草原に巨獣の影が躍る。
 大地に爪を立て、虚空を赤眼で睨むイマジンモンスター。
 気まぐれに振るわれた怪腕が、草原に立つ樹木を根元から吹き飛ばした。地盤がひっくり返り、土塊が雨となって草上に墜ちる。
 思う侭に草原を蹂躙する巨獣の内に、オウガ・オリジンの意思はもはや存在しない。彼女の想像した『さいきょうのそんざい』は、つまるところ、理性の枷から解き放たれた無敵の怪物であった。

「あれが、イマジンモンスター……。オウガ・オリジンが思い描く、最強の存在」
 愛刀の鍔に指を掛け、徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)が呟く。サムライエンパイアの将軍でもある紅顔の美丈夫は、吹き抜ける風に目を細めながら巨獣の全身をつぶさに観察していた。
 ――あれは、獣の姿をした災害だ。
 巨獣が足を踏み出せば、それだけで大地に罅が入る。赫々たる赤眼は苛立ちを湛えながら周囲を睥睨し、目に付いたもののすべてが異常発達した牙に砕かれる。
 その行動に理由はない。壊せるから壊す。獣は、ただそれだけの存在だった。

「ゥゥゥッ!」
「……こちらに気付きましたか」
 臓腑を掴むような唸り声。家光と獣の視線が絡む。
 間髪入れず、イマジンモンスターが大地を蹴った。蹴り足がクレーターを作り、砲弾のようにその巨躯を加速させる。
 ――理外の威力を秘めた突進。なるほど、確かに『最強』だ。
 迫りくる脅威を前にして、家光は不思議と静かな心持ちで草原に佇んでいた。
 『最強』という言葉を聞いてからずっと、家光の心の内によぎる姿がある。無軌道に暴れ回る獣の姿こそが、まったくの正反対ともいえる『彼』の所作、息遣い、あるいは言葉を、ふつふつと家光に想起させていた。
 そして、『想像力の国』には、そのイメージを現実に呼び起こす力がある。

「ならば決まっています。僕にとっての『最強』は――」
 鍔に掛かっていた指を離す。自然体。目を閉じ、心を水面の如く研ぎ澄ます。
 想像力が世界を変える。
 家光を中心に、草原の緑が塗り替わる。イグサの香り。慣れ親しんだ畳の感触。
 どうしてか、『彼』と向かい合うときは、いつも五感が鋭くなる。
 風切り音。飛び掛かった獣が巨爪を振るった。
 されども、家光は不動。瞼の裏の水面に『最強』の像を結び、その名を呼ぶ。

「我が師、柳生新陰流当主、柳生宗矩……!」
 落雷の如き轟音が草原を揺るがす。振り下ろされた獣の爪が大地を深々と突き刺さった。土煙がもうもうと立ち込め、家光の姿を覆い隠す。
 ふと、イマジンモンスターが首を傾げた。爪先に肉を裂いた感触はなく、草原に断末魔も響いてこない。小さな違和感。残された本能に従い、獣は突き立てた爪を持ち上げようとするが……。

「……ゥゥ?」
 疑念の唸り声が低く響く。まるで地面に縫い付けられたかのような手応え。獣がどれほど力を籠めようとも、その巨爪はぴくりとも動かない。
 沈黙の落ちた草原から土煙がゆっくりと晴れていく。
 家光の姿は、そこになかった。代わりに、土煙に霞む人影が巨爪の傍に浮かぶ。
 すなわち、変身。その男こそが家光の想像する『最強』の似姿。
 まるで両国の欄干に身を預けるが如く、男はただ静かに掌を獣の爪の上に置いている。たったのそれだけで、獣は片腕の運動を完全に封じられていた。

「うつつのゆめとは、まさに斯くの如きか。殿、但馬守、ここに見参致しました」
 分厚い。それが男の印象だった。
 老剣士である。男の髪には白いものが混じり、その額には深く皺が刻まれている。
 だが、隆々たるその体躯に、老いはあっても衰えはない。鍛え抜かれた両腕は木の幹のように力強く、芯の通った佇まいはさながら根を張った大樹の如し。百戦錬磨の経験は年輪となってその身に宿っている。
 ゆえに、この齢こそが『彼』の全盛。家光の心に燦然と輝く、毅然たる武士の完成形。

 ――彼こそ家光の師にして新陰流の剣豪。名を、柳生宗矩といった。

「ッゥゥゥ!」
「殿、忘れめさるな……。柳生新陰流の極意は『活人剣』……」
 片腕を封じられたイマジンモンスターが怒りを燃やして、もう片方の腕を振りかぶる。
 ぎらりと光る鋭い爪。その禍々しい重圧さえも柳に風と受け流し、宗矩は右の掌で獣の爪を押さえたまま、左の指で鯉口を切る。
 遠近感が狂いそうな、巨大な一撃。
 その極致を過たず見切り、刹那、宗矩の右腕が閃いた。

「敵を殺さず、手足を奪う……。その方が、尋問が容易うございます……!」
 瞬速の居合術。銀の弧が空を走る。
 交差は一瞬。獣の爪が宗矩に叩きつけられる、その寸前。手首の腱を裂いた日本刀が、巨獣の腕先を刎ね飛ばした。
 鮮血が噴き上がり、緑の草地を濡らす。
 小さく、鍔の鳴る音。宙に舞った獣の手首が大地に墜ちるよりも早く、宗矩は刃を鞘に収め、再び右の掌で残された獣の腕を押さえ込んでいた。

「ッ! ルァァゥ!」
 切断された手首が、ドサリと彼方の草原に落下した。主を失った腕がびくびくと痙攣を繰り返し、断面から零れた血液がじわりと大地に沁み込んでいく。
 『さいきょうのそんざい』たるイマジンモンスターに、痛みに慄くなどという『不要な感情』は存在しない。ゆえに、その激昂は痛みによるものではなく、純然たる苛立ちから生まれたものだった。
 激発したイマジンモンスターの腕がぼこぼこと沸き立ち、毛皮を突き破ってオウガの首を生やす。ゴキゴキと音を鳴らして生まれた異様な鬼面が、目を血走らせて爪を押さえる宗矩に牙を剥いた。
 至近距離。しかし、無双の剣豪を襲うには、あまりにも遅い。

「ゴガッ!?」
「ほう……、腕にも顔がついておるな……。これは拷問が楽に御座る……」
 意識の隙間を縫ってぬぅと伸ばされた腕が、オウガの牙を掴み、一息に、折る。
 頸椎の折れる乾いた音。左腕一本で牙を捩じられた勢いそのままに、歪に回ったオウガの頭部がぐったりと力を失った。
 続けざまに襲い来るオウガの頭部の群れに目を細め、宗矩は強かに呟く。
 巨体と速度の利を自ら捨てるなど、愚の骨頂。
 如何なる巨人とて、指の先を折られれば痛みを感じるというもの。獣を相手に『痛みを教える』には、実に都合がいい。

 宗矩の右の手は、変わらずも不動。蟻が象を押し止めるが如き奇妙な相対。
 片腕のみで怪物の動きを制し、『最強』は再びオウガの頭部を捩じり落とした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・ユア
アドリブ大歓迎

最強か…

最強を滅ぼすのだとしたら
それは死神の様な者かな

目を瞑ると思い出す
この背には翼捥がれた痕がある
いつか僕が持ってた痕跡らしい
僕には前世というのが存在してて
延々と死を歌ってた

死に満たされた力
この力を持って最強を裁く死神でも演じようか?

変身姿
闇のような黒翼を背中に持つ滅び歌う天使となる
”全ての命よ、等しく無に還れ”
そう命を呪う歌を放つ

UC詠唱
呪詛・精神攻撃で敵の魂を蝕み
花弁の攻撃の継続ダメージで蹂躙
歌で月下美人の花弁を操り攻撃

全て壊したとして
最強になれやしないし
至高とも遠ざかる

何故なら壊れたら
お前を最強と有無する者が何もなくなるからだ

可哀想な子
せめて
僕が君を否定してあげようか?



 草原が震えている。
 散々に痛めつけられたウサギの怪物が、駄々をこねる赤子の如く大地を転がっているのだ。青色の巨体が四肢を振り回すたびに草地が抉れ、砕かれた地盤がごちゃ混ぜに耕されていく。まるで削岩機だ。

「最強か……」
 月守・ユア(月夜ノ死告者・f19326)がぽつりと呟く。口元から小さく零れたその言葉は、大地をひっくり返す轟音の中に消えていった。
 デタラメに暴れ回る巨獣の姿に嘆息をひとつ。ユアは金色の瞳を静かに閉ざす。
 目を瞑れば、瞼の裏に影が浮かんだ。闇に浮かぶ白い背中。彼女はソレを知っている。

(僕の背には、翼を捥がれた痕がある)
 見間違えるはずもない。あの白い影は、ユア自身の背中だ。
 白い肌にくっきりと浮かぶ一対の傷痕。それは、ユアが生まれたときから背負っている"痕跡"だ。赤子のときから、翼はなく、痕だけがあった。『ユアの記憶』にも自身が翼を持っている姿は存在しない。
 だから、きっと。

(僕には前世というのが存在してて。そう。延々と死を歌ってたんだ)
 推測でも、確信でも、願望でも。確かに、そう思うのだ。
 瞼に映る背中の痕を、翳るような揺らぎが覆った。ここは『想像力の国』。記憶でも、事実でも、あるいは夢想でも、ユアの思い描いた姿がここでは現実になる。

(最強を滅ぼすのだとしたら、それは死神のような者かな)
 きっと、その背の翼は黒い。ユアがそう思えば、白い背を隠す揺らぎを突き破って闇のような黒翼が生み出された。瞼の裏に映るユアの写し身は、まるで最初から翼を持っていたかの如く、静かに佇み続けている。
 夢現の境界を彷徨うユアの想像力は、しかし、『さいきょうのそんざい』を描くものではなかった。『最強』を打ち破るためにこちらも『最強』をぶつける。そんな必要はない。意識してか、あるいは無意識にか、彼女は自身のイメージを一段高く飛躍させていた。

(死に満たされた力。この力を持って『最強を裁く』死神でも演じようか?)
 言葉と想いが形となり、一点に像を結んだ。
 瞼に映る背中に、ユアの視点が近づいていく。近づき、触れ合い、重なり合う。イメージの姿と自分自身とが一体化する。
 背中の痕が熱を持つ。それは空想ではなく、現実の感覚だった。

 ゆっくりと瞳を開き、ユアは自身の変容を認識する。
 背中には闇のような黒翼。されども、纏う空気は静謐。彼女が変身したのは、紛うことなき『天使』の姿であった。
 草原に夜の帳が落ち、天に月が輝く。柔らかな月光が淡く緑を照らし、伸びた影がイマジンモンスターに届いた。怪物が振り向き、赤い瞳がぎらりとユアを射抜く。

「ゥゥゥ!」
 空気が震える。次の瞬間、獣の両腕から巨大なトランプが大量に溢れ出し、ユアに向って押し寄せた。白波の海嘯。刃の如き鋭さを持った紙片たちが、さざめきながら草原を滑る。
 殺意を伴って迫りくるトランプの群れ。ユアのほっそりとした指先が、その波を飛び越えてイマジンモンスターを指差した。

「"全ての命よ、等しく無に還れ"」
 天使は『歌』を識っている。そうあることが当然であるが如く、ユアの喉は『命を呪う歌』を紡いでいた。月光に溶けた歌声が、ひんやりとした草原の空気に染み渡っていく。
「"ここに咲くは、命を飾る月の花"」
 草原の緑を縫って、ぽつりぽつりと白い花が咲く。月夜に咲き誇るは月下美人。芳しき白のカーペットが、ユアの足元から波紋のように広がっていく。

「"全て壊したとして、最強になれやしないし、至高とも遠ざかる"」
 月下美人の花弁に抗われて、トランプの波が勢いを減じる。ユアの黒翼がふわりと空気を掴んだ。優しく羽ばたき、重力の鎖から解き放たれた彼女の足元を、トランプの刃が通り抜けていく。
 透き通った歌声は、イマジンモンスターの魂魄に絡みついた。力ある言葉は呪詛。『最強』を倒すのは、別の『最強』ではない。『最強』すらも呑み込む、絶対の摂理だ。

「"すべてが壊れたら、お前を最強と有無する者が何もなくなるからだ"」
「ゥ、ゥゥ……ッ!」
 月下美人が、怪物を取り囲んで咲いていた。漂うのは死の香り。白き花弁が触れるたび、怪物の心に『歌』が這入り込んでくる。
 天使の歌声は、ただ、怪物を憐れんでいた。理性を失くしたはずの怪物の心に罅が入る。
 ――何故。何故、『さいきょうのそんざい』であるワタシが憐れまれなければならない。おかしい。こんなことはオカシイはずだ。嗚呼、なのに、何故。ワタシはこの歌から耳を離せないのだろう?

「ルゥゥ……ゥゥ……」
「"可哀想な子。せめて、僕が君を否定してあげようか?"」
 身を低くして唸る獣に、ユアの歌声は優しく語り掛ける。妖しく揺蕩う月下美人は、いまや怪物の四肢さえも埋め尽くして咲いていた。
 イマジンモンスターは想像力の怪物。疑念という想いの刃は、ときに名刀よりも鋭く心に突き刺さる。魂を蝕む歌声は『最強』のイメージに楔を打ち、内面から獣を切り裂いていた。
 怪物の瞼が重くなる。四肢の力が抜け、大地に寝そべり、白き花弁に包まれる。
 生まれたばかりの赤子をあやすように。あるいは、末期の老人を見送るように。
 滅び歌う天使は、最期の歌を投げかけた。

「"最強に意味なんてない。すべての命に、死は等しく訪れるのだから"」

大成功 🔵​🔵​🔵​

筒石・トオル
さいきょうのそんざい、か。僕が──俺が想像するものは『俺達』だ。
トオルの記憶にはないがトールの記憶にはある。
どんな時でも『二人』でいれば耐えられた、超えられた。
トールは魔術、トオルは剣術を得意としていた。ならばその二つが一つになれば、相乗効果で「凄い」「何か」が出来る筈。
すらりと腰の剣を抜き、構える。
魔力が剣に溜まって行く。敵が攻撃して来ても微動だにせず、真っ直ぐに敵だけを見据えて。
剣に纏う魔力は炎。炎を纏った剣は元々の何倍もの大きさに見えるくらいに炎が膨らみ──真っ直ぐに敵に向けて振り下ろされる。
「──これが、俺達の力だ」



 駆ける。駆ける。ただひたすらに。
 胸の内に積もった澱を吐き出すように、イマジンモンスターが草原を駆ける。
 巨獣の大質量はそれだけで凶悪な武器となる。怪物の四肢が草原を蹴るたび、大地が踏み砕かれて悲鳴を上げた。宙を舞った土塊に混じる石英が陽光を浴びて淡く輝く。
 まるで砲弾。尋常ではない破壊の力を纏って突き進むイマジンモンスターを、筒石・トオル(多重人格者のマジックナイト・f04677)は草原の果てで静かに待ち構えていた。

「さいきょうのそんざい、か」
 呟いた言葉に、何故か心がざわつく。トオルの胸の内に浮かぶ、幽かなイメージ。手を伸ばせば霞み、指の合間をすり抜け、決して掴めない誰かの姿。
 意識が浮遊する。自分の姿を俯瞰する感覚。身体のコントロールがトオルから離れる。思いがけず持ち上がった右腕が、顔に掛かった眼鏡を外した。
 ――あれは、誰だろう?
 トオルの意識が溶けていく。鋭く開かれた瞳が、金色に輝いた。暗転、そして、融合。宙にあったトオルの意識が身体に引き戻される。

「『僕』が――、いや、『俺』が想像するものは『俺達』だ」
 その言葉を口にしたのは、トオルの意思ではない。身体を動かす主導権は『誰か』に握られている。……けれども、トオルはその事実に不思議と違和感を覚えなかった。
 金色の瞳が彼方を疾走するイマジンモンスターを捉える。一直線の軌道。怪物がこのまま突き進めば、遠からず『彼』と正面からぶつかるだろう。

「『俺は』覚えている。どんな時でも『二人』でいれば耐えられた。――超えられた」
 金眼の少年は噛みしめるように言葉を紡ぐ。その人格の名はトール。肉体を失った、トオルの双子の兄。彼の言葉にトオルは夢現の心持ちで耳を傾けている。
 トールはトオルを覚えているが、トオルにトールの記憶はない。非対称の多重人格。二人の意識が並行して表出しているのは、『想像力の国』が生んだ一時の奇跡だった。

「俺は魔術が得意で」「僕は剣術が得意だった」
 双子であってもトオルたちが得手とするものはそれぞれ異なっていた。だからこそ、その二つが一つになれば、相乗効果で『最強』に至ることができるはず。――今、二人を分かつ境界は揺らぎ、渾然一体の意思となってトオル/トールの身体を動かし始める。
 右の指が腰に提げた直剣を掴み、ルーンの刃をすらりと鞘から引き抜いた。磨き抜かれた刃に陽光が反射する。
 刀身の根本に左の二本指が這う。指先に灯るは魔術の種火。柄から切っ先までつぅと滑ったトールの指が、刀身にあしらわれたルーンを励起させた。

「ルゥゥゥァ!」
「今は『独り』じゃない。『俺達』ならやれる筈……!」
 大地を振るわせてイマジンモンスターの巨躯が迫る。トオルの両腕がルーンソードを正眼に構える。柄を握るトールの指先に、刀身に脈打つ魔力の高まりが伝わってきた。
 トオルとトールが二つの意識を一点に集中させる。世界から音が遠ざかる。時の流れがゆっくりと引き伸ばされていく。
 足場が揺らぐ。両脚に力を。
 見上げるほどの巨体。距離を掴め。
 ギラリと赤眼が睨む。真っ直ぐ、目を逸らすな。
 牙から唾液が滴る。まだだ、まだ遠い。
 跳ね上がった土塊が頬を掠めた。構うものか。
 獣の巨爪が持ち上がる。

「ここだッ!」
 迅雷の踏み込み。正面突破。振りかぶった獣の腕の内側へ。
 魔力が爆ぜる。刃に纏うは炎。燃え盛る豪炎が、刀身の何倍にも膨れ上がった。
 正眼から刃が浮き、落ちる。縦一文字。灼熱の軌跡を残して炎の大剣が半円を描く。
 炎の刃が怪物の顔を灼く。確かな手応え。脇を締め、渾身の力を刀身に伝導する。
 踏み込みの勢いのまま、草原を滑る。怪物の腹の下を真っ直ぐに斬り抜けていく。
 後肢の間を抜けた。視界が開く。緑草を踏み付けて急制動。
 止めていた息を吐きだす。頭上には丸いウサギの尻尾。ぐらりと、そのモコモコが傾いた。

「――これが、俺達の力だ」
 砲弾のような突進の勢いのまま、イマジンモンスターの身体が斜めに傾き、草原に肩から転がっていく。捲り上がった地面が大量の土砂を降らし、けたたましい轟音を草原に響かせた。
 イマジンモンスターの顔面から胸元に至るまで、パックリと開いた創傷から夥しい鮮血が流れ出ている。地面をガリガリと削りながら滑っていく巨体の跡を追って、真っ赤なラインがべったりと描かれていた。

「……。今、僕は」
 振り返り、油断なく直剣を鞘に納め、息を長く吐き、瞬きをする。
 開かれたトオルの瞳は、すでに漆黒に戻っていた。
 ついさっきまで一緒にいたはずの『誰か』の気配は、もう感じられない。
 トオルの胸に雲を掴むような曖昧な想いが浮かんでは消えていく。
 草原の風が熱を帯びた頬を撫ぜた。確かめるように、掌を開いては閉じてを繰り返す。
 刃の重さと、炎の熱さ。そして『最強』の手応えだけがトオルの指に残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャム・ジアム
アドリブ歓迎

ジアムね、昔『あの子』……
ヒーローズアースの研究所から逃げた私を匿ってくれた、彼女に聞いたのよ
神に身を捧げ、最後まで命を燃やした戦士の話。
御伽話よ、本当か分からない

でも、一番、覚えてる。
お願い、力を貸して。

『夢の御伽話』の戦士を召喚
想像力の国の力を借りて、もっと強く、
鈍く輝く黒い全身鎧、薄くきらめく光刃、神の力で歪まされた体を隠して

貴女なんかに負けない。
トランプの波を光刃で切り裂き、そのままダッシュ、深く刃を突き刺す
抵抗するのね、生き残ろうと。でも貴方の防御をこの刃は許さない
反動も来るけど、念動力で必死に戦士を鼓舞

ヒーローは負けないの。
力溜めした刃で迫る手を弾き飛ばし、破魔の一撃を



 ――ねえ、知ってる? 最後まで命を燃やした戦士のお話。

 ジャム・ジアム(はりの子・f26053)の青い瞳が開く。懐かしい声が聞こえた気がした。無意識に何かを探すように宙を彷徨った指先が、迷子になって、行き場のない想いと共にレモンの髪飾りを撫でる。
 彩りの少女は草原にぽつんと立ち尽くす。その話を聞いたのは、研究所から逃げ出したジアムを匿ってくれた『あの子』からだった。
 神に身を捧げた戦士の話。御伽噺だって、彼女は困ったように笑っていたけれど。

「でも、一番、覚えてる」
 ざわつく草原の風が吹き抜ける。遠くに浮かぶ小さな青い影。ものすごい速さでこちらに近づいてくるソレは、ウサギの怪物、オウガ・オリジンのイマジンモンスターだ。
 草原をひっくり返す轟音はジアムの耳にも届いている。如何にジアムがバイオモンスターといえども、あの巨体を真っ向から止めることなど出来はしないだろう。
「だから、お願い、力を貸して」
 祈るように、両の指を組む。
 本当かどうかもわからない、御伽噺。けれども、頑張って頑張って、それでもジアムじゃどうにもならないとき。
 ――彼女はその物語を、鮮やかに思い出すのだ。

 太陽に掛かった雲が、草原に影を生み出した。ほんの一瞬、ジアムの視界が暗く翳る。
 ……気づいたときには、『戦士』は彼女の隣に立っていた。
 黒染めの全身鎧が薄闇に鈍く輝く。神との融合に歪んだ身体を鎧の内に押し隠し、構える得物は薄くきらめく光の刃。古の戦士に言葉はない。ただ静かに、世界を滅ぼす獣をじっと見据えている。
 ジアムは御伽噺の戦士を『最強』と信じ、オウガ・オリジンはウサギの怪物こそが『最強』だと信じた。ここからは、想いの強さの比べ合いだ。

「貴女なんかに負けない……!」
 意識して奥歯を強く噛む。腕をぎゅっと握り、前傾姿勢に。心が身体を置き去りにしてしまうくらいに、意識を前のめりに飛ばしていく。
 ざわりと明色の羽がさざめいた。傍らの戦士が大地を蹴る。まるで墨汁を毛筆でぶちまけたように、黒のシルエットが直線を描いた。
 戦士と獣の距離が一気に詰まる。巨獣が片腕を草原に叩きつけた。爆音。岩石の礫が跳ね上がり、腕先から溢れ出したランプの波が濁流の如く押し寄せる。

 ――されども、戦士の疾駆に澱みなし。
 跳躍。千々に砕けた岩塊を次々と足場にして、戦士はイマジンモンスターに肉薄する。草原からトランプの波濤が腕を伸ばす。閃く光刃。足元に纏わりつく巨大トランプが一息に切り裂かれた。
 イマジンモンスターが獰猛に表情を歪め、戦士を呑み込まんと大口を開く。二重に並んだ禍々しい牙が、ぬらりと妖しく輝いた。
 乾坤一擲。戦士が脚甲が最後の岩場を蹴る。真っ向勝負。獣の生暖かい吐息が戦士の鎧に触れる。戦士は躊躇なく、その左の腕を獣の口中に伸ばした。

「ルゥゥゥァァ!」
「……っ!」
 獣の唸り声が轟き、ジアムが息を呑む。
 ガチリと牙が噛み合う高い音。獣の両顎がぴったりと閉じる。
 戦士の片腕は、獣の歯の合間にあった。潰れ、拉げ、しかし、断たれず。その左腕は、確かに戦士の身体を支え続けている。
 噛まれた腕を支点にして、戦士が強引に身を翻す。宙を躍った黒い全身鎧が、怪物の鼻先にしがみついた。草原に閃光が奔る。翻身の勢いに任せて、戦士の光刃が怪物の鼻梁に突き刺さった。

「グッゥ、ッァァァ!」
 イマジンモンスターの顔面が跳ねた。穿たれた一点から鮮血が噴き上がる。急所に突き立てられた刃を振りほどこうと、巨獣が出鱈目に首を振り回す。
 暴れる巨獣の頭部を中心として風が渦巻き、轟々と乱気流を起こす。それでも、戦士の光刃が引き抜かれることはない。顔面に張りついた戦士は獣を抉る光刃をぐっと押さえ込み、その内にじわじわと力を溜め続けていた。
 痛みと苛立ちにイマジンモンスターがしびれを切らす。鋭爪を具えた片腕がおもむろに持ち上げられ、しがみつく戦士に影を落とした。鼻先の異物をこそぎ落とすため、剛腕が勢いよく振り下ろされる。
 迫る巨爪。回避は不可能。両断される未来。絶対の死。

 ――それでも。ジアムは己の願った『さいきょうのそんざい』を信じ続ける。

「ヒーローは、負けないの!」
 ほんの僅かに、ジアムの念動力が戦士の背を押した。その背に伝わった温かさは、御伽噺のヒーローが身体を動かすためには十分すぎるものだった。
 古の戦士の渾身が、光刃に溜められた力を一気に解き放つ。
 ミシリ、と骨が軋む音。突き立てられた刃が、鼻骨を断ち切って豪快に跳ね上がった。
 舞い上がる鮮血。持ち上がった光刃が、落ちてくる鋭爪をそのまま受け止める。
 硬質の物体が激突する異音。サイズの差をものともせず、爪と刃が互いに弾かれ合う。
 弾かれた腕に引っ張られて獣が体勢を崩し、戦士がぐるりと空中で一回転した。
 鼻先を失ったイマジンモンスターが天を仰ぐ。そのド真ん中に、光刃を携えた戦士が落ちてくる。爆発するように輝きを増す刃。秘められた破魔の力が迸り、草原の空を白く灼く。

「とっておき」
 戦士の顕現を維持するために精神を削りながらも、ジアムは口を斜めにして呟いた。
 裂かれた鼻の傷口に、破魔の一撃が突き刺さる。
 穿たれた光の刃が獣の体内を蹂躙し、全身から罅割れの如く白光を漏らした。
 イマジンモンスターの巨体がピタリと動きを止める。体表に走った罅に沿うようにして、ガラガラと青い身体が崩壊していく。
 獣のパーツが草原に落ちるたびに、土煙がもうもうと舞い上がる。砂の帳が戦場を覆い隠す。閉ざされた視界の向こう側から、ただただ、獣が崩れ落ちる音だけが聞こえていた。

 その音もやがては止み、静寂が満ちるのと引き換えに土煙が晴れた草原には。
 イマジンモンスターも、あるいは、古の戦士も。
 最初から存在していなかったかの如く、その痕跡さえ、どこにも見当たらなかった。

 ただひとり、鮮やかな雄姿を目に焼き付けたジアムだけが草原に佇み、その記憶を大切に胸に抱きしめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月22日


挿絵イラスト