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迷宮災厄戦⑱-18〜Cat Has Nine Live

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン #イマジンモンスター #夕狩こあら #『オウガ・オリジン』とイマジンモンスター

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#『オウガ・オリジン』とイマジンモンスター


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「オウガ・オリジンは、その力の多くを猟書家に奪われているけれど、まだ充分に『現実改変ユーベルコード』を操る事ができてるみたい」
 「はじまりのアリス」にして「はじまりのオウガ」である彼女の力は計り知れない。
 かの者の底力に加え、自身が有するユーベルコードそのものの力が絶大すぎるのだと、ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)は懸念を示す。
 ニコリネは間を置かず言を続けて、
「オウガ・オリジンは、“敵に合わせて不思議の国を作り変える”事が出来るんだけど、今回、皆を案内する不思議の国も、彼女の意に沿って作られた国なの」
 其処は、訪れた者の「夢」を叶える不思議の国。
 ここでは、「こうありたい」「こうだったら良いだろう」と想像するものを凄まじく増幅し、その通りの姿にしてしまう――「想像力の国」だ。
「ここでオウガ・オリジンは、現実改変ユーベルコードの全てを振り絞って、最強にして最悪の『イマジンモンスター』に変身するわ」
 イマジンモンスター。
 彼女は「想像力の国」の「想像を増幅する力」によって、自身が考案した「さいきょうのそんざい」となり、向かい来る全ての存在を鏖殺し、屠らんとするのだ。
「私がお願いしたいのは、そのうち最強最悪の『猫』に変身する一体よ」
「猫?」
「そう、猫。俊敏で、狡猾で、しぶとい生命の象徴としても用いられてる」
 此度、オウガ・オリジンが変身するのは、常にニヤニヤ笑いを浮かべたシマシマの巨大な猫で、身体は2トントラック程の大きさであるのに敏捷を失わず、更に己の一部分を自由自在に消失させることができる異能の存在だ。
 人語を操って言葉遊びに興じるあたりにも悪辣さが滲むが、ニコリネは必ずや攻略できると凛然を萌して、
「ここでは皆も『ぼくが考えるさいきょうのそんざい』に変身して戦うことができるの」
 イマジンモンスターに変身できるのは、オウガ・オリジンだけではない。
 猟兵も己が考えた最強のイマジンモンスターに変身して戦う事で、最強の敵を淘汰する事が出来る筈だと――ニコリネの眸は真剣だ。
 彼女は花のグリモアを咲かせるや、凛と頬笑み、
「皆がかんがえたさいきょうのそんざいで、オウガ・オリジンをやっつけちゃって!」
 云って、光を溢れさせた。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 このシナリオは、『迷宮災厄戦』における第十八、細分類第十八の戦場、『オウガ・オリジン』とイマジンモンスターを攻略する、一章のみの戦争シナリオ(ボス戦:やや難)です。

●戦場の情報
 訪れた者の夢を叶える不思議の国「想像力の国」。
 脳内に描いたイメージを増幅し、姿として与える事が出来ます。
 オウガ・オリジンの現実改変ユーベルコードは、この国の環境によって増幅されているので、猟兵も同じくこの効果を利用して、「ぼくが考えるさいきょうのそんざい」に変身する事が出来ます。

●敵の情報(ボス戦)『オウガ・オリジン』とイマジンモンスター
 オウガ・オリジンは恐るべき「イマジンモンスター」に変身しています。
 当シナリオでは「チェシャ猫」を彷彿とさせる巨大な猫に変身しています。

●プレイングボーナス『さいきょうのそんざいに変身する』
 このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
 これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。
 変身後のサイズや形態、能力などで最強アピールをして下さい。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
 団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
 複数での参加者様は一括採用のみで、個別採用は致しません。

●プレイングの採用について
 早期完結を目指し、10名程度の採用とさせて頂きます。
 受付締切はマスターページにてご連絡致します。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 ボス戦 『『オウガ・オリジン』とイマジンモンスター』

POW   :    イマジンモンスター・ギガンティック
【現実改変ユーベルコード】を使用する事で、【全身からオウガ達の頭部】を生やした、自身の身長の3倍の【イマジンモンスター】に変身する。
SPD   :    イマジンモンスター・スピード
【現実改変ユーベルコードを使用する】事で【イマジンモンスター】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    イマジンモンスター・ディフェンス
対象の攻撃を軽減する【イマジンモンスター】に変身しつつ、【身体から溢れ出すトランプ】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:飴茶屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 不思議の国は、鬱蒼の森。
 葡萄の蔓は伸び放題、頭を掻き毟ッたように繁茂り放題。
 蔓は大粒の翡翠色した房を連ねて、ときおり黄金色の房も垂ら下げて。

「――A cat in the forest, a cat in the dark」

 葡萄の葉が手足の触るる處だけ光りを射返す昏い森。
 蔓(はびこ)り重る葡萄の葉蔭に、ゆらり、搖れる影ひとつ聲ひとつ。

「Like a cat with nine lives, like a cat with nine lives」
 ――九生を持つ猫のように、九生を持つ猫のように。

 葡萄の森には『猫』が居る。
 蔓をキャットウォークのように伝い渡り、上からニタリと見下ろして。
 劔を向けた時に尻尾は消えて、首を斬る時に首は無い。

「A cat has nine lives, a cat has nine lives」
 ――猫に九生あり、猫に九生あり。

 猫はしぶとい、猫は死なない。
 森の中で、狡猾な悪魔が嗤笑っている。
ジャック・スペード
何処にでも居て、何処にも居ない――
そうか、お前は惑わしの猫か

常々、人間に成りたいと思っているが
最強を希うならば、此れに成るのが一番だ
さあ、其の身に焔を燻らせた
機械仕掛けの巨大な黒竜へと姿を変えよう

殺気を潜めた咆哮は空気を揺らし
大きな翼で疾く空を駆ければ、木々も震えあがる
ベルセルクトリガーをオンにすれば
口から吐き出す灼熱の焔が
俊敏に動く猫の後を追い掛けるだろう

喩え幾つ頭を生やそうと
其の総てを燃やし尽くしてやろう
鋭い爪で薙ぎ払っても良い
トリガーを外した今の俺は、正しく荒ぶる黒竜だ
何にも、誰にも、止められはしない

猫に九生あり
されど、斯うも云うな――

Curiosity killed the cat!


富波・壱子
どれだけ巨大な怪物になったって、心までは鎧えない
なら、わたしが変身する先は一つ。精神感応の力を持った、わたしと同じ実験体。お願い、あなたの力を貸して
親指で掻き切るような動きで首のチョーカーをなぞって、変身するよ
わたしによく似てるけどもっと幼くて、態度はずっと尊大に

えぇ、いいわよ。ワタシが力を貸してあげる。あのオウガ・オリジンってやつ、態度がでかくて気に入らないし

想像力が力となるこの国で、心を統べるこのワタシこそが最強無敵!
対応する暇なんか与えない。UCを発動しブレスレット【ミコ】の力を解放!
極限まで増幅した【精神攻撃】による【先制攻撃】で、あんたの下らない想像力ごとその心を粉砕滅殺してやるわ!


ジャハル・アルムリフ
ねこ、…猫…?
可愛らしい連中だと思っていたが
なかなかに凶悪よな

最強、至上の姿
青き主君
思い浮かべるは容易いが
否、あの姿に頼るばかりでは居れぬ故
巡らせる思いは己の力、その原点へと

変じゆくは竜
長い首、長大な尾、大地を踏み割る四肢
空を掴む猛き翼
それら全てを形作る鱗は、青から朱紅へ
鮮やかに移ろう黎明色の宝石
師の光に染まった竜の姿へ

さあ、猫の爪に遅れはとらぬぞ
来るがいい、遊んでやろう
咆哮に乗せるは絶対なる矜恃
襲いくる化け猫へと
今は七色映した【うつろわぬ焔】を
空切り裂き大地蹴って
怪物へと食らい付かんと

…やがて消え失せる幻であり
短い夢であると知れど
こうして、ひととき酔い痴れるも悪くはなかろうよ


アルバ・アルフライラ
ふふん、変身に燃えるは男の性よな

放り出したトランクから
高速詠唱、多重詠唱にて召喚するは【刻薄たる獣】
周囲に配置した獣で、襲い来るトランプを払い落しつつ
残る獣にチェシャ猫を追わせる
私が憎悪を感じる限り、逃しはしない

チェシャ猫――彼奴の首は
ハートの女王ですら落とす事叶わぬ
それは何故?
それは斯様な物語であるが故
ならば彼奴にとっての弱点なぞ察するに容易い
私が創造する『さいきょうのそんざい』は
――そう、物語を紡ぐ『書物』である
ふふん、唯の書物と侮るなかれ
ペンは剣よりも強し
物語の中身を書き換えたならば
チェシャ猫の特性すら改変出来るやも知れぬ
――猫は肉体を消失させてはならない
――猫は容易く獣に喰い千切られる


鳴北・誉人
饗(f00169)と

もふに勝つさいきょうの俺…もふに屈しないすげえ俺ってことか
もふに屈しないもふもふに屈しない…!!
(すごく葛藤してる
でもすごく納得したから覚悟決めた)

俺の手にかかりゃァいかな大きなネコだろォと子ネコ同然!
にーにー鳴いて甘えちまう!
そう!俺はもふる達人!もふりのプロたァ俺のことだァ!
あはっ、たーんともふらせろォ!(両の掌わきわき)
つーか饗!お前は!?
おお…
出てくるアイテムでネコをこねこねしてやる
ほれほれ、かァいいにゃんこになれよォ

これでいいンだって思い込む
頑張る
はずかしくねえわけじゃねえ

でも今の俺はもふりプロ!
撫でて出来た隙を見逃さねえで剣刃一閃
斬り込んで
返す刀でさらに斬り込む


香神乃・饗
誉人f02030と
誉人、何言ってるんっすか
むしろめっちゃんこもふるっす!(背中ドンと押す)
おれがかんがえたさいきょうのもふもふ好きを連れてきたっす!
誉人っす!
誉人のもふテクにかかったらメロメロにならないもふはいないっす!
さ、誉人!今っす!めっちゃんこもふるっす!

俺っすか
誉人を支援するっす!
香神占いで未来の反応を確認し、めっちゃんこ効くアイテムを選んで作りだし、堕落させるっす!
誉人!ねこまっしぐらのおもちゃっす!
誉人!ねこめろきゅんのおやつっす!
誉人!ねこねここねこねお布団っす!
もちろん俺も隣でもふもふしてるっす!
もふもふで誉人に敵うものなしっす!

未来をよみ誉人が斬り易いよう猫を移動させるっす


鞍馬・景正
猫、ですか。
この巨大さでは化け猫と言うべきか。

されど此方も変化が可能なら条件は同じ。

最強とは何か――我が父母や剣師、或いは祖先らか。

ですが真に揺るぎなき武威の顕現なら、あの一柱こそ相応しい。

――当流の元は天真正自顕に学び、それも鹿島の太刀から編み出されたもの。

そして鹿島の太刀を授けし建御雷こそ脳裡に描き、御力をお借り致しましょう。

具足は挂甲に、刀は背丈ほどの直剣に変形させ、【曇耀剣】にて国譲りと神征の再現をさせて頂く。

諏訪明神も退けた【怪力】で稲妻の剣を打ち、巨躯に攻められれば雷光の【結界術】で、仲間も【かばう】ように防ぎましょう。

その九生、武神の前には刎ねる首が九つあるに過ぎぬと知るが良い。


月影・このは
なるほど…最強の存在ですか…
ふむ…ふむむ……(電球)


相手が猫ならボクは鼠になりましょう!
鼠といえば世界に通じる最強の人気のキャラモデルの数々!
特に●●●●とか、存在を消される恐ろしい鼠だとか!

それに猫と鼠の物語では鼠は猫に強いですし!
猫よりも俊敏で狡猾でしぶとい…まさに最強ですね!

相手が2トントラックなら普通に人間サイズだと丁度いいですかね?



戦闘は小ささを活かしてちょこまかと動き回って撹乱【ダッシュ】
回転するホイールソーなど当てて毛刈り、ダメージを

トドメは『怪力』で尻尾を掴んで振り回し…床に叩きつけて逃走です


緋翠・華乃音
単に最強と言っても、そもそも強さというもの自体が不変ではない。

だが、それでも最強という概念が必要とされるのなら。
悪を敵としたこの戦場に於ける最強の定義とは、即ち『正義の味方』だろう。

最強でなければ勝てないというのなら仕方無い。
今だけは『守りたい者の味方』ではなく『正義の味方』になろう。


別に姿形や能力に変化など起きはしない。
不変の信念は淀み無い真空のように。
その単一にして唯一の精神性――意志力こそ悪を滅ぼす正義の武器。

単純な道理だ。
悪と正義、どちらがより優れているかなど議論にすらならない。
そして極めて順当に優れた者が勝つ。

戦場という極限状態にあっても同じこと。
その法則は絶対の聖典として機能する。



 葉が怒る、新秋の匂いを嗅がぬかと。
 蔓が怒る、まだ樽にも入っておらぬと。
 粒も怒る、佳く澄める美酒の瑠璃の杯に注がるるを待てと。
 だが『猫』は聽くまい。
 知恵ある獣に變身した『オウガ・オリジン』は、鋭い爪に怒れる葡萄を捥ぎながら、口の周りを紫色にして答えた。
『葡萄よ、酒に為っても運命は變わらぬ。葡萄は葡萄、屠られるか啜られるかだ』
 むしゃ、むしゃ。
 猫は二又と別れた大樹に巨躯を横仆えながら、黄金の葡萄の嘆きの雫を滴らせながら、「想像の国」を訪れた猟兵らを薄汚い嗤笑に迎える。
『猟兵よ、貴様らの運命とて變わらぬ。畢竟、裂かれるか斬られるかだ』
 ギザギザの歯を露出して嫣然(ニヤニヤ)と。
 醜悪なる嗤笑が吃々と昏い森に反響する中、グリモアの光を解いてやってきた猟兵は、不気味な聲の方向を辿るべく周囲を見渡した。

 くつくつ嗤いが反響しているのは、生い茂る蔦が蒼穹に蓋をしているから。
 そして、全身から生えた頭部が四方八方で嗤笑っているから。
 複雑な反響を辿った末、葉陰に敵影を捉えたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、果して此れが『猫』なのかと、黒曜石の瞳に宿る玲瓏の七彩をぱちくりとさせた。
「これが……ねこ、……猫……?」
 体中から猫の頭部を生やした巨獣。
 大きな瞳をギョロギョロ、ニヤニヤ嗤いに滲む――狂気。
「……可愛らしい連中だと思っていたが、なかなかに凶悪よな」
 其が貴様の考想(かんが)えた最強の姿かと、百の瞳の内の一を視る。
 己が眞ッ先に想起する至上は、青き主君――燃ゆる星を秘す叡智の結晶なのだが、
(「――否」)
 師の姿に頼るばかりでは居られぬ。
 故に、己の力――その原点へと思いを巡らせる。
 然れば「想像の国」はジャハルの心の力を増幅させ、其の姿を「竜」に――首は長く、尾は長大に、四肢は大地を踏み割る強靭を、双翼は空を攫む猛々しさを広げゆく。
 それら全てを形作る竜鱗は、透徹の青から粋美なる朱紅へ――鮮やかに移ろう黎明色の宝石の輝きを彈いて、師の光に染まった竜へと變容を遂げた。
 美し竜は徐(しずか)に面貌(おもて)を擡げ、
「――さあ、猫の爪に遅れはとらぬぞ。来るがいい、遊んでやろう」
 絶対なる矜恃を漲らせ、咆吼る――!
 気高き竜の哮りが『猫』の鬚をピリリとさせると、狂気の獣は揃って金の眼を烱々と、全身の毛を逆立てた。
『ッッ、フゥーッッ!!』
 蔓を蹴り、葉を揺らして飛び掛かった異形の獣は、耀ける竜の喉元に噛み付くより先、喉奥の魔方陣が、七色の焔を迸発(ほとばし)るのを虹彩に映したろう。
 其は【うつろわぬ焔】――双星の魔術師が描きし喉奥の陣は、熾々と燿う灼熱を紡ぎ、竜の息吹を奔流と放った。
『ニィァァァアアアアッッ!!』
 空気も灼いて鹵掠(うば)う炎に呼吸も儘ならぬ。
 歪なる猫の体中の顔が苦し気に叫喚ぶ中、ジャハルは怜悧の瞳に其を組み敷き、
「――幻想が幻想を然やすか」
 と、一抹の皮肉を零した吻が溜息を置く。
 炎焔(ほのお)を燻らせる鋭牙は愈々殺気を研ぎ澄ませ、
「軈て露と消える幻であり、短い夢であると知れど。――こうして、ひととき酔い痴れるも悪くはなかろうよ」
 玲瓏の竜が艶笑(わら)った気がしたのは――気の所為では無かったろう。

『ギャァァアアアアッッ!!』
 火達磨となった『猫』が絶叫を裂き、消える――。
 追撃を危惧れて隠れたか、間もなく周囲の景色に溶けて消えた『オウガ・オリジン』を烱眼に追ったジャック・スペード(J♠️・f16475)は、再び鬱蒼の森に響く嗤い聲に、壮重なるバッソ・セリオを置いた。
『A cat is everywhere, nowhere, everywhere, nowhere!』
「何処にでも居て、何処にも居ない――そうか、お前は惑わしの猫か」
 而して其がお前の至上の姿と。
 再び揺漾と影を暴いた異形の獣を冱ゆる金瞳に射た男は、靜かに言ちて、
「常々、人間に成りたいと思っているが、最強を希うならば、此れに成るのが一番だ」
 刻下、鐵黒の魁偉が隆々と巨きくなる。
 烈々と迸発(ほとばし)る赫炎を帯びる。
 呻る轟音は機械音か気送音か、ジャックは「機械仕掛けの巨大な黒竜」に變身すると、高く首を擡げるや鋭利く咆哮(ほえたけ)ッた。

 ――オオォォオオオオオッッ――ッ!!!

 殺気の滲出する咆吼が波動となって空気を揺らす。
 漆黒の大翼が昏暗を裂いて翔ければ、木々が恟々と震え上がる。
 更に【ベルセルクトリガー】を起動して強靭と堅牢を得た鋼鐵(くろがね)の巨竜は、灼熱の焔を吐いて『猫』の神出鬼没を掣肘した。
「幾つ頭を生やそうと、其の総てを燃やし尽くしてやろう」
 トリガーを外した今の彼は、正しく荒ぶる黒竜だ。
 何にも、誰にも、止められはしない。
 蔓も葉も怯々(ビクビク)と縮こまる中、速く動く『猫』だけを紅蓮に包み、鋭い爪で薙ぎ払ったジャックは、影が消えるより疾く攻め、黒鋼の躯に鮮血を浴びた。
「体中の口で叫喚(さけ)ぶがいい」
『ッッ、ニャァアア嗚呼ッッッ!!』
 火粉が舞い、血汐が繁噴く。
 ここに狂気の獣は絶叫し、溶ける筈の影を寸断(ズタズタ)に切り裂かれた。

 慥かに『猫』は死んだろう。
 而して『猫』はまだ死なない。

『…………ニャァアアァォォォオオオオ!!』
 鐵黒の巨竜たるジャックに灼滅された筈の『猫』は、鬱蒼の森の葉陰に再び現れた。
「“猫は九生”って、こういう事……?」
 A cat has nine lives.
 巨樹の枝に橫仆(よこた)わる異形の躯を、次第に大きく巨きくさせていく魔獣を視た富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は、陽だまり色の麗瞳に凛然を萌して云った。
「――でも。どれだけ巨大な怪物になったって、心までは鎧えない」
 躯を巨きくした処で、精神が強靭になる訳ではない。
 繊手を胸に宛てた壱子は、瞼を半ば伏せるや、丹花の脣にそっと囁(つつや)いて、
「……お願い、あなたの力を貸して」
 親指で掻き切る様に、細首に結わいた革のチョーカーを捺擦(なぞ)る。
 然れば可憐が再び長い睫を持ち上げた時には、その瞳は冱ゆる程に凛々と、壱子に似た――それでいて壱子より幼く、幾許にも尊大な眼光(めつき)の少女が出現れた。
 凛乎と佳脣を開いた、“彼女”は――。
「えぇ、いいわよ。ワタシが力を貸してあげる。あのオウガ・オリジンってやつ、態度がでかくて気に入らないし」
 彼女は、精神感応の力を持った壱子と同じ実験体。
 想像力が力となるこの国で、精神を、心を統べる者こそ最強無敵! と『猫』を睨めた可憐は、ブレスレットに宿る『ミコ』の力を解放し、極限まで感応を増幅させた。
「対応する暇なんか與えない」
『ニャニャッ!!』
「あんたの下らない想像力ごと、その心を粉砕滅殺してやるわ!」
 顕現発露、【あなたを殺す】(オーバーロードブレイカー)――滅殺形態へと昇華したブレスレットを突き出した少女は、喫驚に金目を剥いた『猫』の精神を侵略して撹乱し、揺さ振り、剔抉(えぐ)り、狂気に突き堕とす。
 全身に猫の頭部を生やした異形の獣は、其々のペルソナを破壊されて正気を失い、蔦を伝い渡る脚を滑らせ、眞ッ逆様に墜ちて半身打撲、即ち半数の脳天を砕いた。
『ニャァァアアアゴォォオオオ!!!』
 ズンッと落下する巨躯を間際で躱した少女は、今度は随分と刺のある言い方で、
「どれだけ巨大な怪物になったって、心までは鎧えない」
 この意味が理解るかと、金絲雀の聲を囀った。

 気が触れた『猫』は戯言を呟いて死んだ。
『A cat without a grin, a grin without a cat』
 笑いなしの猫、猫なしの笑い。
 而して『猫』は嗤笑いながら出現(あらわ)れる。

『死を視る猫は死なぬ、死なぬ猫は死を視る。誰の死ぞ、誰の死ぞ』
 けらけら、と嗤笑って葡萄の木の葉陰より姿を現す『猫』。
「なるほど……最強の存在ですか……」
 その不死身めいた姿を具に観察していた月影・このは(自分をウォーマシーンと思いこんでいる一般ヤドリガミ・f19303)は、『猫』を至上としたオウガ・オリジンに対抗し得る「最強」は何かと思案していた。
「ふむ……ふむむ…………💡!!」
 刻下。
 少年の脳内回路を巡っていた電気が疾走り、ぴこんとヒラメキを與える。
 射干玉の黒瞳を煌々と輝かせたこのはは、思い描くや直ぐにその姿に變身して、
「鼠といえば世界に通じる最強の人気のキャラモデルの数々!! 特に🐭🐭🐭🐭とか、存在を消される恐ろしい鼠だとか! 最強である事が歴と証明されています」
 チューチューと説明する姿は、鼠。
 然う、相手が『猫』なら『鼠』になれば良いのだと閃いた少年は、尻尾を生やし、ヒゲを生やし、大きな耳で敵の挙動を探り始めた。
「……相手が2トントラックなら、普通に人間サイズだと丁度いいですかね?」
 想像力の国は、思い描いたものを希望(のぞみ)の大きさで與えてくれる。
 視界にチラと映って惹き付けるような、絶妙のサイズ感を得たこのはは、間もなく敵が己の存在に気付き、スッと前脚を動かす――「狩り」の気配を察した。
『ニャァァアアアアア!!!』
 全身から生える猫の頭部が一斉に鼠に繋がれ、爪を彈く。
 須臾、このはは猛ダッシュして逃げ出し、動き回って、
「猫と鼠の物語では、鼠は猫に強いですし!!」
『ニャァアアゴォォオオオオ!!!』
「猫よりも俊敏で、狡猾で、しぶとい……まさに最強ですね!」
 躯の小ささを活かして、ちょこまか、うろちょろ。
 細かに動いては搖れる尻尾が、尚の事『猫』の狩猟本能を煽る。
 鼠が猫を翻弄し、やっつけるイメージが既にあるなら、このは鼠はその通りの奮闘劇をやってのけよう。
「毛刈りです!」
『ニャンンッ!』
 四肢に備わる動輪から生える『バトルホイール・ソー』も、想像すれば自在。
 振り返りざま、ギャンッと回転する鋸刃で猫の巨躯を飛び越えた少年は、全身に生えた猫の頭部を刈り上げ、その悉くがハゲとなる惨事を目尻に送りつつ、背後に着地する。
「全身と言っても、尻尾だけはオウガ化していないんですね……」
 なるほど、と気付きを得た少年が、鼠らしく狡猾に嗤笑った。

  †

 不死身めいた『猫』と相対した香神乃・饗(東風・f00169)にも、「おれがかんがえたさいきょうのそんざい」があった。
 蓋し變身する必要は無い。
 彼はその存在を既に鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)として具現化……否、ご本人様をお招きし、堂々、彼しか持ち得ぬ超常の異能を誇って見せた。
「おれがかんがえたさいきょうのもふもふ好きを連れてきたっす! 誉人っす!」
「……てかよォ。あれはオウガ・オリジンで、イマジンモンスターで――」
「もふもふっす!」
「うん」
 何から悩もうか、先ずは梅印の相棒の寛容を長所と見ようか。
 紺藍の怜悧な瞳を流眄に、敵影と己を交互に見遣る饗を見た誉人は、胸奥を蜿くる葛藤が、饗の理論によって淘汰されていく不思議な感触を得る。
 何故だろう、饗の凛乎たるテノールは心にスッと入ってきて、
「誉人のもふテクにかかったら、メロメロにならないもふはいないっす!」
「もふに勝つさいきょうの俺……もふに屈しないすげえ俺ってことか……?」
「さ、誉人! その神の手でめっちゃんこもふるっす!」
「もふに屈しない、もふもふに屈しない……俺が、最強……!!」
 覚醒――ッ!!
 之に十分に納得した誉人は、決然と一歩を踏み出すと、鬱蒼の森の蔓も葉も揺らす勢いで豪語した。
「俺の手にかかりゃァ、いかな大きなネコだろォと子ネコ同然!! にーにー鳴いて甘えちまう! ――そう! 俺はもふる達人! もふりのプロたァ俺のことだァ!!」
 挑発かと警戒した『猫』が金目をじっと誉人に注ぐが、刀を抜く気配は無い。
 なればと異形が前脚を蹴れば、【香神占い】にて攻撃を先見した饗が佳聲を張って、
「誉人! 正面から迫る今っす!」
「あはっ、たーんともふらせろォ!」
 刻下。
 射線を躱して突進をやり過ごした誉人が、わきわきと、両掌に怪しい動きを見せる。
 白磁と透き通る硬質の指はスッと猫の頭部に向かうと、首根の特にもふもふした部分を掴んでムギュムギュ、極上の「いいこいいこ」をしてやった。
『ニャァァァアアアア……!!!』
 オウガ・オリジンも今は猫。
 つい甘えたくなる部分を攻められた狂気の獣は、金色の眼をきゅっと細め、舌をしまい忘れる程に恍惚(とろ)けた表情を見せる。
 更に未来の反応を確認した饗は、ゴッドハンド・誉人を全力で支援して、
「誉人! ねこまっしぐらのおもちゃっす!」
「おお……これは……ほれほれ~」
 オペ看(手術室看護師)の如き阿吽の呼吸で「ネコチャン陥落必至のめっちゃんこ効くアイテム」を嚴選し、最強の猫を堕落しに掛かった。
 想像力の国だからこそ、希求(ねが)ったものが手に入る地形効果は抜群、
「誉人! ねこめろきゅんのおやつっす!」
「ほれほれ、かァいいにゃんこになれよォ」
『ニャアニャア』
「誉人! ねこねここねこねお布団っす!」
「よし、こねこねしてやる」
『ニャンゴ~』
 全身から猫の頭部を生やした異形の獣は、次々に二人によって完墜ちし、折角の敏捷とスピードを活かせぬ、家ネコ同然の甘え上手になってしまった。
「もふもふで誉人に敵うものなしっす!」
 達人と共に猫をもふもふする饗は、自信たっぷり、確信したように云うが、其を傍らに聽く誉人の方は、幾許の躊躇いや恥じらいも無いとは言えなくて――。
(「……いや、これでいいンだ」)
 これが最適解なのだと信じる。思い込む。
 何より頑張る。
 覚悟を決めたのだと、一抹の羞恥を靴底に踏み潰した誉人は、それから饗と二人、全ての『猫』が法悦の相貌を得るまで、もふもふもふもふ、もふり続けた。

  †

「慥かに、この動きや習性は、猫……然しこの巨大さと形姿では化け猫と言うべきか」
 饗や誉人が異形の獣を欵待(あしら)う様を見た鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)は、宛如(まるで)猫だと幾許の喫驚を溢すと同時、これを至上の姿としたオウガ・オリジンが迷い込んだ世界を読み解かんとする。
(「彼の者の勘考(かんが)える剛の極致は、不死……若しか復活か」)
 なれば己は如何だろう。
 最強とは何か――我が父母や剣師、或いは祖先らかと、敵影を鏡にして心の内を巡った景正は、瞬きひとつ置いて睫毛を持ち上げると、竜胆色の佳瞳に凛冽を萌した。
「――真に揺るぎなき武威の顕現なら、あの一柱こそ相応しい」
 あの一柱。
 と、云うより早く「想像力の国」は、彼に變容を與えよう。
 佳脣を滑る聲は淸澄として、
「――当流の元は天真正自顕に学び、それも鹿島の太刀から編み出されたもの」
 鞍影心流は遡れば天真正自顕の流儀を元とし、その祖は鹿島の太刀へまで行き着く。
 而して鹿島の太刀を授けし「建御雷」を脳裡に描いた景正は、間もなく具足を挂甲に、刀を身丈に及ぶ直劔に變形させ、雄心勃勃たる姿を見せた。
「御力を貸し與え給え」
 其の姿は正に建御雷そのもの。
 かの国譲りと神征の再現を叶えるは、【曇耀剣】(フツノミタマ)――雷と劔の神と成った景正は、諏訪明神も退けた怪力で稲妻の剣を打ち、無数の頭部を生やした魔獣に絶叫を裂かせた。
『ニャァァアアアッッッ!!!』
 霹靂はためき、紫電が闇を劈いて『猫』を打ち据える。
 百の頭部が首を消して遁れるも、片側の百の頭部が胴を離れ、ぼた、ぼたと濁った血汐を噴いて倒れる。
 冷艶の白皙に血潮(ちのり)の汚れを受けた景正は、ごうろりと轉んだ頭部の幾つもがニヤニヤと嗤笑い、謎めいた言を歌うのに柳葉の眉を顰めた。
『Off with my head! Off with your head! ――首を刎ねろ、首を刎ねろ!』
 猫は死なない。猫はしぶとい。
 しゃがれた聲を揃えて嗤笑う狂気を睨め据えた景正は、なればと望み通りに雷刃一閃、もう片方の頭部も斬り落としてやる。
「首を惜しまぬとは、矢張り化け猫。未だ迷路を彷徨うか」
『ギィャァァアアアアア!!!』
 甦るなら何度でも。
 昏き森を眞昼の如くして疾走した雷撃は、バッサリと巨躯を別ち、歪なる嗤笑を草叢に沈めた。

『A cat must die! A cat must live! ――猫は死なねばならぬ。猫は生きねばならぬ!』
 死なぬ命の前に死ね。
 しぶとき命の前に、他愛なく死ね。

「猫が最強だと言うなら、其も一つの答えだ」
 単に最強と言っても、抑も「強さ」というもの自体が不變ではないと慮(かんが)える緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は、オウガ・オリジンが選択した答えを瑠璃色の麗瞳に受け容れる。
 而して其と相対する猟兵にも「最強」という概念が必要とされるのならと、己が思考に一つの解を用意した。
 果して其は。
「悪を敵としたこの戰場に於ける最強の定義とは、即ち『正義の味方』だろう」
 佳脣を滑るヘルデン・テノールが玲瓏と囁く。
 今だけは『守りたい者の味方』ではなく『正義の味方』になろう、と――。
 想像力の国は華乃音が描くイメージを増幅し、慥かにその通りの變容を與えるのだが、鬱蒼の森に飄と立つ麗人の姿形や能力に特段の變化は生じない。
 其は自身が佳く理解っていよう。
「不変の信念は淀み無い真空のように。その単一にして唯一の精神性――“意志力”こそ悪を滅ぼす正義の武器なのだから」
 白銀に縁取る長い睫を持ち上げ、葉陰に隠れる『猫』を追う。
 玲瓏の彩は不死の異形の間もなく景色に溶け込む瞬間を捉えると、【流転の鈴】(レンジ・ゼロ)――僅かな初動も見せず、経過も見せず、唯だ其処に結果のみを置いた。
 故に『猫』は攻撃が及ぼした現象だけを見せて、血を噴き、絶叫する。
『ニャァァアア嗚呼アアッッ!!』
 膨大な戰闘経験と異理の血統が為す技能と先見は、一切の兆候を見せない。
 激痛を以て「脳天を射抜かれた」と気付いた一つの頭部が叫喚び、悶え、絶命すると、華乃音は騒動(ざわ)めきの中に淡然と聲を滑らせた。
「単純な道理だ。悪と正義、どちらがより優れているかなど議論にすらならない」
 ――そして極めて順当に優れた者が勝つ。
 経験則に裏打ちされた「理」を語る端整の脣は美しく、冷たく。
「戰場という極限状態にあっても同じこと。その法則は絶対の聖典として機能する」
『ッッ、ガァァア……ァアア……ッッ!!』
 而してまた一つの結果が、一つの頭部を撃ち抜く。
 月白と耀ける芙蓉の顔(かんばせ)に、付随現象としての血斑が塗り込められた。

『Imagination is the only weapon in the war with reality!』
 想像力は、現実との戰争における唯一の武器である!
 猫は無様に死ぬ。
 そして無様に生き返る!
『猫こそ最強、猫と變じたわたしより生きる者は無い……!』

 ――時に。
 革張りのトランク『禁忌』を片手に、数多の猟兵と『猫』と變じたオウガ・オリジンの死戰血闘を見たアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、其処に星燈りの竜と耀ける愛弟子を麗眸に留めると、丹花の脣を艶美に持ち上げた。
「――ふふん、變身に燃えるは男の性よな」
 剛の極みを希求(もと)め、變容を渇望するは魔も邪も同じ。
 己も叡智の深淵を視んと、薔薇色輝石の指先を伸ばす者なれば同じだろうか――幾許の皮肉を歎声と零した麗人は、つと繊手を離したトランクが口金を緩め、ぬらり、ぞわりと蠢き出す災厄に冷艶なる流眄を注ぐ。
「彼奴は奇術を弄する道化師よ。喰ろうて遣れ」
 私が許す、と佳聲に彈かれて飛び出るは、【刻薄たる獣】(ヴェスティア)――84体もの異形の獣が封印を解かれ、全身の口よりトランプを吐き出す『猫』へと牙を剥いた。
『ニャァァァァアアアッ!!!』
 蓋し彼等は主人に忠実だ。
 匣より放たれた災厄の一部は襲い来るトランプを払い落し、一部は本体に攫み掛かり、無数の頭部を引き裂いては尻尾を追い掛ける。
『ニャァァァゴォォォオオ!!!』
 主アルバが憎悪を示す儘に、鈍(おぞまし)き魔獣が肉薄すると、『猫』は全身の首を引っ込め、姿を消し、爪牙を躱して飛び回った。
 その奔放なる様を眺めたアルバは、或る不思議の国の物語を紐解いて、
「チェシャーキャット――彼奴の首はハートの女王ですら落とす事叶わぬ。 何故か? それは斯様な物語であるが故」
 猫は“そのようになる”ように書かれているからだ。
 簡単な事だと流麗の瞳を細めたアルバには、彼奴の弱点が既に投影っていようか。
「私が創造する『さいきょうのそんざい』は――そう、物語を紡ぐ『書物』である」
 荘重に綴られた文体。
 美麗な挿絵を挟まれた頁。
 絢爛なる装幀を施された本。
 想像力の国は、アルバのイメージした通りに變容を與え、彼が朗々と語る毎にペラペラと頁を捲って見せた。
「ふふん、唯の書物と侮る勿れ。物語の中身を書き換えたならば、世界の理を、チェシャ猫の特性すら改變する事も出来る」
 ペンは劔よりも強し、と箔押しの金彩はキラリ光を彈いて嗤笑ったろうか。
 云うや、羽根を踊らせた鵞筆(ペン)は羊皮紙を滑って文字を疾走らせ、

 ――猫は肉体を消失させてはならない。
 ――猫は容易く獣に喰い千切られる。

『ニャッ……ンンッ……ンンンンッ!? !?』
 然れば如何だろう。
 狡猾なる『猫』は景色に溶ける事が出来なくなり、その影は次々に獣の爪牙に引き裂かれてしまう。
 消す事の叶わぬ『死』が訪れた時、果して『猫』は如何なるのか――。
 時は、間もなくその「答え」を綴り始める。

  †

 鋭利い洞察によって、猟兵はこれまでに多くの気付きを得ていた。
 己が最強であると、相手の力を見極めようとしなかった『猫』との差が、此処に顕著に現れる事となる。
「尻尾は變わらず尻尾のまま……それなら掴んでみましょう!」
 むんず、と握って――振り回すッ!
 『猫』が姿を消せなくなった好機に、ちょうど敵背に位置したこのはは、膂力を絞って【格闘】(アサルトコンバット)――掴んだ尻尾を軸にジャイアントスイングをキメると、己が倍もある巨躯を床へ強く叩き付けた!
『ニャァァァアアアアッッ!!!』
 痛撃を苛立ちに變えた『猫』が起き上がるが、このは鼠はもう居ない。
 嚇怒の金瞳は、鼠の代わりに大きな巨きな竜を仰ぐ事になり、間もなく冱撃が振り落される。
「猫に九生あり。されど、斯うも云うな――“Curiosity killed the cat!”」
『ギニャァアアアアッッッ!!!』
 聲の主は鋼鐵の黒竜たるジャック。
 彼は漆黒の鋭爪に『猫』の骨肉を刻み、剔抉(えぐ)り、機械仕掛けの怪腕に夥しい量の血を浴び続けた。
『ゲアッ、ッッ……!!』
 反撃は許されない。
 激痛に嚇怒した『猫』が顎を向けた刹那、抵抗の兆しを「予見」した饗は誉人に合図を送って、
「来るっす!」
「今の俺はもふりプロ! 猫の挙動は一縷と見逃さねえ」
 白銀の輝きを彈く『唯華月代』と、仄青く光る『絶花蒼天』を須臾に抜刀した誉人は、【剣刃一閃】――神氣滴る淸冽の刃撃によって、朱々と血牡丹を咲かせた。
『ッッ、ニャァァァゴォォオオオ!!!』
 猟兵に全き隙が無いのは、景正が攻むと同時に堅守を敷いているからだろう。
 真に揺るぎなき武威、建御雷と成った景正は雷光の結界に仲間を守りつつ、身丈に及ぶ直剣を打払い、美しく閃く紫電を以て悉く首を灼き落としていった。
「その九生、武神の前には刎ねる首が九つあるに過ぎぬと知るが良い」
『ギャァァォォオオオッッ!!!』
「九つ命があるなら、十回殺せば良いって事かしら!」
 成る程、と言を継いだ壱子が間隙を埋める。
 オウガ・オリジンの浅はかな想像力を、心ごと破壊してやろうと疾走る思念波が、無数の猫の頭部を狂わせ、醜い絶叫を叫ばせた。
『ァギギギギギッッ!! ィギギギギギッッ!!』
 耳を劈く金切り声が、葡萄の木たちを震え上がらせる中、アルバとジャハルは幾分にも冷靜に科白を交したろう。
「“猫は竜に屠られる”と、記しておこうか」
「師父を煩わせる事も無し、物語の結末は俺が綴る」
 書物となっても堂々たる威風を纏う師に、淸冽のバリトンを置いた竜なるジャハルは、大地を蹴るや舞い散る樹葉を切り裂いて敵懐に飛び込み、怪物の喉笛に喰らい付く。
『ェァァアアッッ……ッッ……!!』
 吭(ふえ)に牙を立てられては、絶叫もひやうと風を吹くのみ。
 断末魔の叫喚(さけ)びを奪われた『猫』は、遂に變身を解いてオウガ・オリジンの姿を取り戻すが、その顔を披瀝(あば)いた瞬間には、脳天に鐵鉛を撃ち込まれていた。
『――ッッ!!』
「云った筈だ。極めて順当に優れた者が勝つ」
 鋭利い銃聲の後に、華乃音の佳聲が染む。
 彼は間もなく斃れる少女の躯に睫を落して、
「――畢竟、“最強”では無かったという事だ」
 これが結果だと、別れを告げた。

 A cat had nine lives, but dead.
 猫は死なない。だが死んだ。

 想像力の国で「最強対決」を下した猟兵達は、今度こそ消えて無くなった『猫』の死を見届けると、元の姿を取り戻して戰場を後にした――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月23日


挿絵イラスト