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鮮血の少女はただ嗤う

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●生きるために
 静かな村であった。周囲を生い茂った木々で覆われた、深い森の中に存在している村である。この世界では珍しいことに穏やかな空気が流れている、そんな村であった。
 だがそれも全ては過去の話だ。そのことを象徴するように、村長の家に集まった者達は、一人の例外もなく沈痛な面持ちで佇んでいる。
 この村を捨てなければならないことを考えれば、当然のことではあった。
「……本当に、ここを捨てなけりゃならないのか?」
 そんな中の一人が呻くように呟くが、そこに力はない。どうしようもないということは、既に十分理解していたからだ。
「……仕方あるまい。状況から考えれば、まず間違いなくこの村は見つかっていようからな。いや……或いは、最初からそうだったのかもしれんがの」
 自嘲するように呟きながら、村長は遠くを見るように目を細めた。
 この場所に隠れ住み、穏やかに過ごせていた生活に陰りが生じたのは、一月ほど前のことだ。村で唯一の狩人であった男が、狩りに行ったまま戻ってこなかったのである。
 とはいえ、こんな世界だ。何か不運なことに巻き込まれてしまったのだろうと、そう思い……そう思おうとした。
 しかし、そこから男の代わりに狩りへと向かった者達が次々と戻らなくなり、ついに昨日最後の男手であった者が戻ってこなかったのである。
 村に残されたのは、女子供と老人ばかり。この状況を偶然だと言い張るのは、さすがに限界であった。
「ここにしがみ付いていたところで、残された道は良くて餓死、悪ければ蹂躙されて嬲り殺しにされるだけ、か……」
「うむ。何者の手によるものなのかは分からないが……結末は変わるまいよ。ワシらだけであれば、或いはそれもありだったかもしれぬがの」
 逃げたところで、結局は変わらないかもしれない。
 だが、僅かでも可能性があって、一人でも生き残れる可能性があるのならば、それに賭けるべきだろう。
「決行は今夜。よいの?」
 強張った顔を見合わせると、ゆっくり頷き合い、村長達は生き残るために動き出すのであった。

●鮮血の少女は嗤う
「――なんてことを、今頃は言っているのかしらね。うふふ、おもちゃ達が必死になってもがく姿って、なんでこんなに面白いのかしら。でもきっと、これらに襲わせたらもっと面白くなるんでしょうね。あはは……ええ、その時が本当に、楽しみね?」

●鮮血への抗い
 オブリビオンとは、必ず世界を滅亡に導くモノである。それはオブリビオン自身にさえどうしようもないものであり、だがそれでもどうしてと思わざるを得ない。
 どうしてその力を善きことのために使えないのだろうか、と。
 そんなことを考えながら、リース・ヴァレンシュタイン(オラトリオの聖者・f00663)は自身に視線を向けてくれている猟兵達に向けて頭を下げた。
「ダークセイヴァー世界で、ヴァンパイアによる事件が起ころうとしています。その事件を阻止するため、皆さんのお力をお貸しください」
 事が起ころうとしている場所は、深い森の中に位置している小さな村である。オブリビオンの支配から逃れるために隠れ住んでいたのだが、その場所がついに見つかってしまったのだ。
 そこで村人達は逃げようとするものの、オブリビオンには予測されている上に、移動に手間取ったりしたこともあって皆殺しにされてしまうのである。
「どうか彼らを、助けていただけませんか?」
 まず猟兵達にやって欲しいのは、村人達が村から逃げるための手助けである。襲ってくるオブリビオンを撃退出来たとしても、既に村の場所はバレてしまっているのだ。
 どの道別の場所に移動する必要はある。
 そしてスムーズに逃げる事が出来たとしても、結局オブリビオンの襲撃そのものを防ぐことは難しいだろうが――。
「その襲ってくるオブリビオンもまた問題なのです」
 それらの名は、朱殷の隷属戦士。村の者達のために森の中へと狩りに向かい、そのまま戻ることのなかった者達の成れの果てである。
 村人達のことを顔見知りに殺させようというのだ。
「彼らは亡者ですから、生前の意識などはとうにないでしょう。けれど……彼らのためにも、決して許してはならないことだと思います」
 そうして彼らを撃退すれば、おそらく元凶も姿を現すだろう。
 リーシャ・ヴァーミリオン。
 人間のことはおもちゃとしか思っていない、吸血鬼の少女である。見た目は華奢な少女然とした姿ではあるが、そこはヴァンパイア。常に血を滴らせる鮮血槍という武器を振り回すその力は十分強大だ。
「きっと一筋縄ではいかない相手だとは思います。ですが、どうか……どうか、お力をお貸しいただけませんでしょうか?」
 村の人達や、彼らを護ろうとしたその果てに亡者へと成ってしまった者達のためにも。
 そう言ってリースは、猟兵達へと深く頭を下げるのであった。


緋月シン
 こんばんわ、緋月シンです。
 そろそろダークセイヴァー以外の世界のシナリオもやるべきではないかという気もしますが、思いついてしまったので今回もまたダークセイヴァー世界です。
 ともあれ、村から逃げようとする村人のことを手助けしつつ襲ってくるヴァンパイアとかを撃退するとかいうシナリオになります。
 特に難しいこととかはありませんので、気軽に参加していただけましたら幸いです。

 では、よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『ついにこの里を捨てる時が』

POW   :    重い荷物を持つなど、スムーズに移動できるように手助けする。

SPD   :    敵の斥候を捕らえたり罠を仕掛けたりして、追っ手を妨害する

WIZ   :    移動の痕跡を消すなど、敵から発見される危険を取り除く。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

イデア・ファンタジア
ヴァンパイアなんてこんなものよ。滅びる前もきっとこんな風だったんだわ。
後でもう一度滅ぼしてあげるとして……今は、この人たちを助けないとね。

『空の白鯨』で荷物に水の浮力を与えて少しでも軽くさせるよ。
あ、あんまり目立つのは駄目だから今回は鯨はお休みね。
小魚の群れ程度にしておきましょ。

あとはそうね、移動に支障ない範囲で村人の話相手になって、里の思い出話でも聞いておきましょうか。
思い出はまた作れるとは言うけど、今までの思い出が大事なのは変わらないものね。


ティエル・ティエリエル
「うん、みんな安心して。ボク達が必ず逃がしてあげるからね」
ノブレス・オブリージュの精神に則って困っている人たちを絶対助けるよ!

女の人や子供達、歩けないような老人には【フェアリーランド】で壺の中に入ってもらってそのまま運んでもらうよ。
たくさんの人で移動するより、これで痕跡を消しやすくなるよね?

もし森の中で動物達に出会ったら「動物と話す」技能を使ってお話を聞くね。
けもの道を教えてもらえればそこを通って移動してもいいかもね!


オリヴィア・ローゼンタール
POW
住処を追われる、住み慣れた土地を離れるのは辛いものです
この世界ではよくある事……ですが、だからと言って許すわけにはいかないのです

持ち前の【怪力】を駆使して重いものを率先して運ぶ
【守護霊獣の召喚】で獅子を呼び出し、荷物を背中に積んで運んでもらいましょう
私自身も食料を詰め込んだ袋などを、肩に担いで荷馬車へ
馬車にガタが来ていないかも確認しておいた方がよさそうですね
【拠点防御】の要領で車軸なども補強しておきましょう
皆さん、どうか希望を捨てないでください
私たちがお手伝いしますし、お守りします
敵が現れれば私たちに任せて、一目散にお逃げください
(【コミュ力】【言いくるめ】【優しさ】)


ラザロ・マリーノ
【POW】
逃げるくらいだったら戦おうぜ!
と言いたいところだが、女子供に年寄りだけじゃどうしようもねえか。

逃げると決めたんなら早い方がいいな。
【怪力】【ダッシュ】で重い荷物を運びまくるぜ。
鍋でも鎧でもテントでもどんどんもってこい!
え?年寄りも?


露木・鬼燈
隠れ里でこの状況…
突然現れた僕らって怪しい存在っぽい?
こーゆー場合は初めに村長さんに会って話を通すといいっぽい!
得意じゃないけど必要なことだから。
そのあとは荷物の運搬を手伝うです。
秘密之箱庭を使えばたくさん運べる。
だけど外からは視認できなくなる。
短時間で説得できるかな?
ムリなら秘伝忍法で呼び出したムカデで運ぶのです。
凄いぞ!強いぞ!格好いいぞ!
それに森の中もスムーズに動けるのです。
この状況では絶対に役立つ存在っぽい!
だから怖がらないでほしいのです。
戦闘には使えなくなるけど運搬用のコンテナをギリギリまで乗せるのです。
秘密之箱庭を使えた時は人を乗せて運ぶのです。
これで移動は楽になるんじゃないかな?


ガルディエ・ワールレイド
ヴァンパイアって奴はどいつも性格が悪ぃな
まぁ、そんな性格だからこそ返り討ちにする機会も有るんだが……先ずは皆を逃さねぇとな

◆行動
【POW】重い荷物を運んで移動の手助けをするぜ。同時に鼓舞も行う。

自前の【怪力】と、何よりユーベルコード【竜神気】を使って重い荷物を運ぶぜ。
特に【竜神気】は優先して面倒そうな作業(車輪が嵌って動かない荷車を押す等)に使い、その分他のことを一般人にも手伝ってもらうようにするぜ。

また、一緒に作業をしながら勇気づけるように声をかける。
「俺は同じような状況で無事に逃げた例を他にも知っている。焦らずに逃げれば大丈夫だ!」

あと当然だが、万が一にも敵が近づいてきたら率先して防ぐぜ




 村の中は、慌しい雰囲気に包まれていた。
 村人達も何となく状況は理解していたものの、突然のことに違いはないのだ。しかも残されている中に男手はない。色々な意味で慌てることとなるのは当然のことであった。
 彼女達はここまで一度逃げてきたわけであるため、無論のこと村から逃げるために必要なことはある程度分かっている。中でも重要なのは、荷物を必要最低限とすることだ。隠れて進むためにも、移動を容易とするためにも、荷物は少なければ少ないほどいい。何よりも、全てを運び出すための時間的な余裕は存在していなかった。
 だが、頭では分かっていたとしても、心が受け入れられるかは話が別だ。特にここしばらくはこの村で穏やかな生活を続けてきたためだろうか。どんな物であったとしても、奪われ壊されるのがこの世界では当たり前だというのに、中々捨てる決意をすることが出来なかった。
 とはいえ、ここでいつまでもグズグズしていては迷惑をかけてしまうのは一人や二人では済まない。村のあちこちで苦渋に満ちた決断が下され……ようとしていたのは、つい先ほどまでのことであった。悲壮さすら漂っていた彼女達の顔には、今や薄っすらとではあるが笑みすら浮かんでいる。
 その視線の先にいるのは、複数人の少年少女達だ。ただしこの村の者ではなく、どころか見知らぬ者達ばかりである。何処からともなく現れたかと思えば、手伝いを申し出てきたのだ。
 普通に考えれば明らかに怪しいものの、その者達を見つめる目には不思議なほどそういった色はない。そこにあるのは安堵と嬉しさだけであり、そんな視線を受けながら、その中の一人が首を傾げた。
 一房だけ色の異なるセミロングの髪が、共に揺れる。
 露木・鬼燈(竜喰・f01316)だ。
「村長さんに会って話を通したのがよかったっぽい?」
 その呟きの通り、鬼燈はこの村を訪れた直後に村長の下へと向かっている。ここは隠れ里のような村で、今にも襲われようかというような状況なのだ。そこに突然現れた自分達が怪しい存在だと見られてしまうことなど、分かりきっていたことである。
 だから即座に村長のところへ行ったのだが、確かにそれによって村長から協力することに対しての承諾を得ることは出来たものの、鬼燈達が暖かな目で見られている理由としては半分……いや、三分の一程度のものだろう。
 村人達は、ただ知っているだけであった。この世界は過酷で、奪われ壊されることは日常の一部である。それは命ですら例外ではなく、しかしだからこそ、鬼燈達が自分達のことを見る目がそういったものではないことが分かったのだ。
 自分達を護るために森へと向かい、そのまま戻ることのなかった者達と同じ目をしていたから、余計な言葉などは必要なかったのである。
 とはいえ、伝えてはいない以上鬼燈がそのことを理解出来るわけもなく、得意じゃないけど必要なことだから頑張った甲斐があったっぽい! などと一人納得しながら作業を続けていく。
 作業とは無論村人達を助けることであり、つまりは荷物の運搬であった。
 そして、少年少女『達』と言ったように、それをしているのは鬼燈だけではない。というか、少年でも少女でもない者も中には含まれているのだが――。
「逃げるくらいだったら戦おうぜ! と言いたいところだが、女子供に年寄りだけじゃどうしようもねえか」
 そんなことを言っているラザロ・マリーノ(ドラゴニアンのバーバリアン・f10809)もその一人だ。
 基本的には世の中の大抵の問題は暴力で解決すると考えているラザロではあるが、さすがに今回ばかりはそうもいかないことは理解している。村人達が逃げた後であれば問題はないが、そのためにはまず荷物を運ばなければならないのだ。
 しかし世界中を放浪しながら暴力で生計を立てているラザロは、故にこそ自身の力に自信がある。逃げると決めたんなら早い方がいいなと、重い荷物を優先的に次々と運んでいた。
 その姿は、鍋でも鎧でもテントでもどんどんもってこいと豪語するだけのことはあり……だが、次に告げられた言葉にさすがのラザロも僅かな戸惑いを見せる。
「え? 年寄りも? ……いいじゃねえか、運んでやるぜ……!」
 しかしすぐに不敵な笑みを浮かべると、老人達を運ぶべく駆け出す。どうやら老人達の避難も問題はないようであった。
 そうして猟兵達の活躍の甲斐もあって順調に準備は進んでいっていたが、中には人にあらざるものの姿もある。荷物を背中に積んで運んでいる黄金に輝く獅子がそれだ。
 オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)が呼び出したものであった。
 勿論オリヴィア自身も持ち前の怪力を駆使して重いものを率先して運んでいる。食料を詰め込んだ袋などを肩に担ぎながら、荷馬車へと積んでいく。
 念のために荷馬車にガタが来ていないかも確認しながら車軸の補強なども行いつつ……だがそんな中、オリヴィアはふと村人達の表情に含まれているそれに気付いた。
 先に述べたように、村人達の顔には確かに笑みがある。しかしあくまでもそれは、薄っすらとしたものでしかないのだ。
 彼女達が喜んでいるのは確かである。そこに議論の余地はない。
 だが彼女達は同時に、知ってもいるのだ。この後に待っているだろう過酷を。今まで得られていた安寧は、二度と得られない可能性の方が高いだろうことを。
 彼女達は誰よりもよく知っていた。
 何より、住み慣れ安らぎを得ることの出来ていたこの村から逃げなければならないことに違いはないのである。これからのことに対する不安がその表情に浮かぶのは当然のことであった。
 そんな姿を目にしながら、オリヴィアは唇を噛む。
 こういったことは、この世界ではよくある事だ。しかしだからと言って許すわけにはいかない。
 とはいえ、その怒りをぶつける相手はこの場にはおらず、村人達の前であらわにしたところでいいことはないだろう。村人達に必要なのは怒りではなく、不安の軽減なのだ。
 だからこそ、そんな村人達の姿を見回しながら、オリヴィアはゆっくりと口を開いた。
「皆さん、どうか希望を捨てないでください。私たちが最後まで皆さんのことをお手伝いしますから」
 無論それは荷物を運ぶことに関してだけではない。
 村人達が不安を抱くのは、いつ襲撃されてしまうか分からない、ということもあるだろう。
 だから、その心配は無用だと告げているのだ。しっかり守るから大丈夫だ、と。敵が現れても、自分達に任せて逃げれば問題はない、と。
 そんな言葉に続いて、他にも声を上げる者がいた。
「ああ、俺は同じような状況で無事に逃げた例を他にも知っている。焦らずに逃げれば大丈夫だ!」
 そう告げたのは、ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)だ。
 ヴァンパイアに対する怒りは、ガルディエにもある。ガルディエも故郷をヴァンパイアに滅ぼされた身であるし、ガルディエは理想の騎士像を追ってもいた。
 ならばこそ、こんな所業を許せるわけがあるまい。本当にヴァンパイアという存在は、どいつもこいつも性格が悪い。
 そんな性格だからこそ返り討ちにする機会も有るのだが……しかし今は村人達を逃がすのが先だ。
 怒りは胸の内に秘め、己が内から湧き出る異端の神の力を使いながらガルディエもまた重い荷物を運びつつ、勇気づけるように声も率先してかけていく。
 そうしていくうちに、荷物はあっという間に集まった。
 村の広場には、荷馬車に積み込めないほどの物が集まり……というか、どう見ても集まりすぎている。皆が頑張った成果ではあるし、無駄と呼べる物はないものの、これから逃げることを考えれば明らかに減らすべきではあった。
 そのことを最もよく理解していたのは、村人達だろう。何せ自分達がこれからあれを運ばなければならないのである。不安が過るのは当然のことで……だが、そんな心配は無用だとばかりに、荷物の前に進み出た者が一人。
 それは金の瞳に白い髪の少女。イデア・ファンタジア(理想も空想も描き出す・f04404)であった。
 そしてそんな荷物を前にして、イデアが不意に取り出したのは七本の絵筆だ。それらが踊るように動き出し、宙に一つの絵を描き出す。
「ファンタジアを今ここに、その姿を描き出そう! 君の名は――ディープダイバー!」
 空想現界『空の白鯨』――アルスマグナ・ディープダイバー。それは全てが水没した世界。
 ただし、本来ならばその名の通り鯨も描くのだが、一応ここは隠された村であり、今から逃げようとしているのだ。目立ちすぎてしまうことのないよう今回は鯨はお休みであった。代わりに小魚の群れ程度を描き、最後の一筆を入れ終わる。
 直後に驚きの声が上がったのは、明らかに荷物の重さが軽減されたからだ。これならば思い出の詰まった物を捨てずに済むという言葉を聞き、イデアの口元に笑みが浮かぶ。
 無論のこと、イデアもこの村を襲おうとしているというヴァンパイアには思うところはある。
 だが、ヴァンパイアなぞそんなものだ。滅びる前もきっと同じようなことを繰り広げていたに違いない。
 だからこそ、もう一度滅ぼすべきではあるが……それは後だ。その場をグルリと見渡せば、まだまだ対処しなければならない荷物は多い。まずはこの人達を助けてからであった。
 それが終わったら、移動の手伝いも行いつつ、邪魔にならない程度に話し相手になるのもいいかもしれない。無事持ち出せた荷物と共に、思い出話でも。
 思い出はまた作れるとは言うが、今までの思い出が大事なのは変わらないのだから。
 そんなことを考えながら、イデアは七本の絵筆を再び躍らせた。

 そうして何とか荷物を運ぶ算段も無事ついたものの、村人達の顔色は先程よりも少し悪くなっていた。
 慌しかったのが落ち着いてきたのと、何よりも目の前の状況に、これからこの村から逃げ出すのだということを強く意識するようになってしまったのだ。
 勿論逃げないという選択肢はないものの、まだ最大の不安が残されていた。ここから移動しなければならないということ、そのものだ。
 まったく動けない者はいないものの、体力の少ない子供や老人がいる上に、男手はないのである。幾ら荷物が軽くなったとはいえ、荷物を運びながらの移動に不安を覚えるのは当然のことであり……だが、その時のことであった。
 突如としてその場に巨大なムカデが現れたのだ。
 ただし敵ではない。鬼燈が秘伝忍法で呼び出したサイボーグムカデだ。
 荷物を載せて運ばせようとしたのであり、しかも森の中もスムーズに動ける。
「この状況では絶対に役立つ存在っぽい!」
 そう力説し、だから怖がらないでほしいと続けるものの、やはりと言うべきか少々厳しくはあった。
 無論森の中で暮らしていた彼らはムカデ程度を怖がることはないが、さすがにこれはちょっと怯む。
 だがそんな中で一部の者達には大人気ではあった。男の子供達だ。
 格好いいや強そうという言葉に鬼燈は満更でもなさそうな笑みを浮かべるものの、女の子達からの受けはやはりよくない。
 この辺は女性と間違われるような外見をしていようとも鬼燈も男だということか。
 しかし、心配は無用である。不安を隠せない少女達の前に、文字通りの意味で小さな人影が姿を見せたからだ。
「みんな安心して! ボク達が必ず逃がしてあげるからね」
 ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)であった。その言葉と、天真爛漫な笑みに、少女達の目が引きつけられる。
 ところで、世界の加護を受けた猟兵は、どんな姿であろうともその世界の者達に違和感を与えることはない。が、違和感を与えないというだけで、姿形が変わって見えるわけではないのだ。
 そんな中で身長が二十センチに満たない可愛らしい存在が少女達の前に現れたらどうなるか。当然のように大人気であった。
 そしてそんなティエルの姿に笑みを浮かべるのは、何も少女達だけではない。この先のことを不安に思っていた女性達も、老人達も、自然とその顔に笑みが浮かんでいく。
 不安が消えたわけではないが、不安を軽くさせる効果は十分にあったのだ。
 とはいえ、それはティエルにしてみれば予想外の効果である。別にティエルはマスコット役としてこの場に来たわけではない。
 ティエルはこれでも正真正銘妖精の国のお姫様だ。その身は誇り高く、ノブレス・オブリージュの精神に則って、困っている人達を絶対助けるために来たのである。
 そしてティエルがやろうと思っていることは、彼らが不安に思っていた移動の補助だ。
 ティエルが持っている小さな壺はフェアリーランドという場所に繋がっている。移動に不安のある人達にはそこに入ってもらって運んでしまうという計画だ。
 沢山の人で移動するよりも痕跡が消しやすくなるというおまけ付きでもあった。
 さすがにその提案がすぐに受け入れられることはなかったものの、問題がないと分かると子供達はむしろ率先して壺を触っていく。移動することに不安を抱えていた者達が全員入りきるまで、そう時間はかからなかった。
 そうこうしているうちに、時刻は間もなく夜を迎えようかとしている。
 準備は滞りなく行われ、後は行動するだけだ。まだまだ不安はあったものの、猟兵達に見守られながら、村人達は見慣れた場所を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

上垣・重
命を手の平の上で玩具のように転がして、何とも趣味が悪いお話ですね。この世界らしいと言えばらしいですが悲劇は防げるなら防げた方が良いに決まってますからね。

【迷彩】の知識を使って、村人達の移動痕跡を偽装して【時間稼ぎ】をします。その場にある物を使って足跡を消したり、逆に非ぬ方向方向へ足跡を作ったり等。
何れオブリビオンの襲撃が来るとはいえ、今後を考えれば遠くへ避難しておいて損はないと思いますしね──『襲撃者』と顔を合わせて狼狽えられたり、混乱されても困りますから。


シエル・マリアージュ
元が狩人ならその追跡能力は侮れないね、村人達が安全に逃げられるように時間を稼ごう。
夜の行動でも【暗視】【視力】を活用して明かりの使用は最小限にして【目立たない】ようにする。
【追跡】の知識を活用して村人達の追跡が難しくなるように村人達の痕跡を【目立たない】ように消しつつ別の方向に偽の痕跡を残して偽装して【時間稼ぎ】をする。
偽装作業中はアラクネの紅玉を蜘蛛に変えて近くの木などから周囲を警戒させるようにしておく。
敵と遭遇した場合は「死は闇より来たれり」からの【2回攻撃】で素早く仕留めて仲間を呼ばれたり他の敵に気付かれないように注意する。


リーヴァルディ・カーライル
村人の避難は他の猟兵に任せ、私は攪乱工作を行おう
…ん。リーシャ・ヴァーミリオン…ね
そんなに人々が逃げ惑う様が見たいなら、見せてあげる

自身の生命力を吸収して魔力を溜め、追跡する者の第六感に訴え、
存在感を発揮し誘惑する呪詛を施した【影絵の兵団】を発動
両手足を女子供の足跡に変化(変装/2回攻撃)させた後、
影兵を10体前後ずつの集団に分け獣のような姿勢を取らせる
そして、村人が逃げる方角以外の全方位に向けて移動させ囮にする

…これでざっと250人分の足跡ができた

…痕跡が一つだけなら怪しまれる
だけど、それが全周位に散っていれば…?

余裕があれば、【常夜の鍵】に荷物と村人を中に入れ、
安全な場所まで移動する




 村人達が森の奥へと向かうのを、ジッと見つめる影があった。
 オブリビオンではない。青い瞳を細めるその姿は、シエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)だ。
 そうして村人達が全員村から去ったのを確認すると、シエルは動き出す。情報によれば、敵には元狩人な亡者がいるというのだ。意識がなくとも生前の技能がある程度使える可能性はあり、ならば追跡能力は侮れまい。
 村人達が安全に逃げられるよう、時間を稼ぐ必要があった。
 無論のこと、そのせいで自分が目立ってしまっては意味がない。或いは村人達が見つかってしまいそうな状況にでもなってしまったならばともかく、今見つかってしまったらそれはただの無駄だ。
 明かりの使用は必要最小限にし、さらには自身が身につけている指環――アラクネの紅玉を蜘蛛に変え、近くの木々から周囲を警戒させていく。
 それからシエルが取り掛かろうとしたのは、痕跡の偽装だ。彼らがどれだけ急ごうとも、限度というものがある。安全な場所に逃げ切るまでどれほどかかるかも分からず、ならば痕跡を弄るのは必須だろう。
 まずは少ないながらも存在してしまっている痕跡を消し、それから偽の痕跡を残すべきだろうか、などと考えながら行動に移そうとし――視線を、森の奥へと向けた。
 気配を感じ取ったからであり、だが鋭く細めた目は、すぐに和らいだ。森から現れたのは、紫の瞳に銀髪の少女。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)であった。
 知り合い、と呼べるかは分からないものの、一応顔見知りである。リーヴァルディが覚えているかは分からないものの、以前他の依頼でも一緒になったことがあるのだ。
 完全に無表情であるその顔からは何を考えているのかは分からないが、ここにいるということは目的は同じだと考えていいだろう。ならば協力した方が効率がいいに違いないと、シエルは少し考えながら口を開いた。
「えっと……ここにいるってことは、あなたも痕跡をどうにかしようとしてる、ってことでいいんだよね?」
「……ん」
 相変わらず無表情ではあるが、返答があったことにシエルは一安心する。無視するわけではないということは、協力することも可能だということだ。
「じゃあさ、折角だし協力しないかな? わたしはとりあえず村人の人達の痕跡を消して別の方向に偽の痕跡を残して偽装しようかなって思ってたんだけど……」
「……ん。なら、痕跡を消す方は任せた。……食い破りなさい」
 リーヴァルディがそう呟いたのと、その周囲で変化が生じたのは、ほぼ同時であった。
 そこに現れたのは、影絵の兵士。それも一体や二体ではなく、総勢で二百を優に超える、影絵の兵団だ。
 しかもリーヴァルディは、自身の生命力を吸収して魔力を溜めることで、追跡する者の第六感に訴え、存在感を発揮し誘惑する呪詛までをそれらに施していた。
「……ん。リーシャ・ヴァーミリオン……ね。そんなに人々が逃げ惑う様が見たいなら、見せてあげる」
 ただ、それで終わりではない。さらに影兵達の両手足を女子供の足跡に変化させた後、十体前後の集団に分けると獣のような姿勢を取らせたのだ。
 そして、村人達が逃げる方角以外の全方位に向けて移動させれば、囮の完成というわけである。
「……これでざっと二百五十人分の足跡ができた。……痕跡が一つだけなら怪しまれる。だけど、それが全周位に散っていれば……?」
「わぁ……これなら確かに良い感じの偽装になりそうだね……」
 その光景を眺めながら、シエルは呆れとも感心ともつかない声を上げた。その口元には苦笑が浮かんでいる。
 確かにかなり効果的な手段ではあろうが、ここまでの規模のものを展開させることが出来る者など猟兵の中にもほとんどいまい。まさに圧倒的であった。
 と。
「これはまた凄まじいですね……これでは僕の出番は特に必要なさそうです」
 そんな声に、二人の視線が反射的に向けられた。
 視界に映ったのは、夜の森に紛れてしまいそうな、漆黒の髪を持った少年。
 上垣・重(虚飾の魔人・f00260)であった。
 瞼を伏せられたままのその顔がその場を見渡すように動くが、先ほどの言葉は本心のようである。その顔には明らかに感心があった。
 とはいえ、当然と言えば当然か。彼らはこの場に、何かを競うべくいるわけではないのだ。あくまでも村人達を助けるために来ているのであり、ならばより有効な手段を示せるのであればそれに越したことはなかった。
 そもそもやろうとしていたこと自体は同じであったのだから、問題などあるわけがない。
「それにしても、これならば確かに良い偽装になりそうですね。何れオブリビオンの襲撃が来るとはいえ、今後を考えれば遠くへ避難しておいて損はないと思いますし──『襲撃者』と顔を合わせて狼狽えられたり、混乱されても困りますから」
 その言葉に、シエルもリーヴァルディも異論はなかった。顔を合わせずに済むのであれば、それに越したことはあるまい。
「じゃああとは、痕跡を消せば――」
 と、瞬間シエルの視線が三度森の奥へと向けられ、だが今度はその目の険しさがなくなることはなかった。
 周囲を警戒していた蜘蛛も、はっきりと伝えてくる。敵だ、と。
 リーヴァルディと重も一瞬遅れてそのことに気付き――しかし、その時には既に終わっていた。
「――罪人に相応しきは、慈悲の刃」
 視界に鎧が映った時には、その身体はそれの影から出現したシエルによって両断されていたのだ。
 素早く戻って来たシエルに、感心したような口調で重が告げる。
「お見事。ですが、少し急いだ方がいいかもしれませんね」
「……ん。他に敵影はなさそうだけど、すぐに次が来る」
「今のは多分斥候か何かだろうしね」
 そして斥候が戻らないということは、そこで何かがあったということだ。敵との戦闘は望むところではあるが、まだ準備は整っていない。これ以上の遭遇をしてしまう前に、撤退する必要があった。
 無論のこと、村人達の痕跡はしっかり消した後で。
「命を手の平の上で玩具のように転がして、何とも趣味が悪いお話です。この世界らしいと言えばらしいですが……悲劇は防げるなら防げた方が良いに決まってますからね」
 その言葉にもまた、異論はない。
 三人は作業を済ませると、素早くその場から離脱するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『朱殷の隷属戦士』

POW   :    慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 既にもぬけの殻となった場所へと、複数の足音が近付いてきていた。
 それらはかつてその場へと戻るはずであった者達。もう戻ることは出来ない亡者達だ
 移動はスムーズに行われ、痕跡もしっかり偽装出来ているため、それらがすぐに村人達へと追いつくことはあるまい。
 だが、繰り返すがそれらは亡者である。疲れを知らず飽きを知らない者共は、時間はかかっても必ずや村人達のところへと辿り着いてしまうことだろう。
 許すわけにはいくまい。
 村人達が殺されてしまうのも、それらに村人達を殺させるのも。
 かくして、しっかり準備を整えた猟兵達は、朱殷の隷属戦士達を迎え撃つべく行動を開始するのであった。
ガルディエ・ワールレイド
悪ぃな。
テメェらを止める方法が1つしかねぇんだ……此処で討たせて貰うぜ!
許せとは言わねぇよ。

◆戦闘
味方がいれば連携を重視だ。

戦闘では主に【竜神の裁き】使用。
【属性攻撃】を乗せて強化した雷を放つぜ。

武装は【怪力】【2回攻撃】を活かすハルバードと長剣の二刀流。
攻めは複数の敵がいるなら【なぎ払い】で、そうじゃ無けりゃ一人ずつ斬る。
攻撃が命中すれば【生命力吸収】だ。

守りは【武器受け】【オーラ防御】を駆使して立ち回るし、味方に通ってヤバそうな攻撃は【かばう】

【慟哭のフレイル】対策として、フレイル攻撃は【殺気】を読みながら優先して対処するが、攻撃を受けちまった時は、もう相討ち上等で【捨て身の一撃】だ。


ラザロ・マリーノ
あー…ヴァンパイアと戦うとなりゃ、当然こうなるよなぁ…。

【フェイント】で攻撃をかわして、【怪力】【串刺し】で鎧の継ぎ目から背骨を狙ってハルバードを叩き込むぜ。
ここを破壊されりゃまともに動けなくなるし、一撃でカタをつければ死体もあんまり傷つけずに済むからな。

戦士でもないのに死んだ後まで無理矢理戦わされてる奴を傷つけるのは気が進まねえが、俺の力でできるのはここまでだ。悪いな。


上垣・重
先程は良い所ありませんでしたし、少しばかり張り切りましょうか…なんて軽口言える雰囲気ではありませんね。

斥候とほぼ同じ姿ですし、彼らが間違いなくそうなのでしょう。此処で終わらなせなくては…!
電脳モノクルを【暗視】状態にして、敵の姿を一体一体捉えながら【エレクトロレギオン】を使い、銃型の兵装を呼び出して【誘導弾】を撃ち続けます。
狙うは相手左側、出来れば盾に当て続けて手に持っているマスケット銃を思うように使えないように出来ればベストですね。

周りの猟兵の方々の様子を時折見ながら、危なそうな所があればエレクトロレギオンを盾として使うのもやぶさかではないですね。




 朱殷の隷属戦士達がその場に足を踏み入れた時、そこにあったのは既にもぬけの殻となった村だ。
 だが人の気配一つしないその光景を前にしても、それらに動じる気配はない。最初から分かっていたか、或いはそんな機能など存在しないかの如く、周囲の様子を探り出す。
 無論のこと、自分達がそこにいることに対して、何らかの感慨を覚えている様子もなかった。
 それらはまるで作業でも行っているかのように淡々と足元などを探り、やがて歩き出す。
 しかし、それらが向かう方角はバラバラであった。自分達がやってきた方角へと歩き出す個体までおり、だがそのこともまた気にしている様子もない。
 やはり淡々と歩き……その動きが変わったのは、すぐ後のことであった。東に向かっていた一体が、走り去る影の姿を捉えたのだ。
 近くにいた者達も集まり、一瞬でその距離が詰められる。視線の先にあるのは、自身の半分程度の身長の、小さな影。
 迷いなく惑いなく、闇の力と血が染付いたフレイルが振り上げられ、振り下ろされた。小さな影の上半身が呆気なく砕け――そのまま消滅する。
 一瞬、その動きが止まったのは、そこにきてようやく自分達が追いかけていたモノが人ではなかったことに気付いたからか。
 だが。
「――悪ぃな」
 それ以上の何かをするよりも先に、頭部が胴から離れ、さらには胴もまた両断された。
 上空から降り立った二つの死の刃が、血を払うように振るわれ、鋭い眼光が周囲へと向けられる。
「許せとは言わねぇよ。だが、テメェらを止める方法が1つしかねぇんだ……此処で討たせて貰うぜ!」
 叫ぶと同時、その場に溶け込むような漆黒の髪が流れた。大きな弧を描いたのは、その手に握られた一振りのハルバード――複合魔槍斧ジレイザ。
 そのまま複数の朱殷の隷属戦士を巻き込み、薙ぎ払い――視界の端に映ったのは、自らへと振り下ろされようとしているフレイル。
 敵の集団の真ん中へと飛び込んだのだ。反撃を受けるのも当然であり、しかし少年――ガルディエの口元に浮かんでいるのは不敵な笑みだ。
 直後に響いたのは、甲高い音。叩き込まれたフレイルの先にあったのは、銃の形をした機械であり、それが奏でた音であった。
「先程は良い所ありませんでしたし、少しばかり張り切りましょうか……なんて軽口言える雰囲気ではありませんね」
 そしてそんな言葉と共に数十の弾丸が叩き込まれ、朱殷の隷属戦士の身体が吹き飛んだ。その姿を眺めながら、森の奥から現れた重は目を細める。
「斥候とほぼ同じ姿ですし、彼らが間違いなくそうなのでしょう」
「ま、ここで違うやつらに出てこられても困るしな。それにしても……あー、ヴァンパイアと戦うとなりゃ、当然こうなるよなぁ」
 重と共に進み出、呟くラザロは、明らかに気乗りしていない様子であった。
 否、気が乗るわけがあるまい。
 しかし、気が乗らないからといって投げ出していいような状況でもなかった。
「戦士でもないのに死んだ後まで無理矢理戦わされてる奴を傷つけるのは気が進まねえが、俺の力でできるのはここまでだ。悪いな」
 言葉と同時、正面から振り下ろされたフレイルをフェイントでかわしたラザロは、そのままその背中へとハルバードを叩き込んだ。鎧によって覆われている箇所ではあるが、幾ら全身鎧といっても隙間はある。
 見事鎧の継ぎ目をすり抜けた一撃は、狙い通りに背骨を叩き折った。
 亡者であろうと、人の姿を利用している以上は、人体の構造からは逃れられない。背骨を破壊されたらまともに動けなくなるのは道理であった。
 それに、一撃でカタをつければ、死体をあまり傷つけずに済む。
「さ……さっさと終わらせてやるとすっか」
 動けなくなったその身体から頭部が刎ね飛ばされ、その言葉に重も頷きを返す。
「ええ、此処で終わらなせなくては……!」
 暗視状態となっている電脳モノクルを身につけている重には、周囲にまだまだ敵の姿があるのが見えている。それはつまり、その全てが今回の犠牲者だということであり……だからこそ、終わらせなければなるまい。
 自身の周囲へと展開させている五十以上の銃型の兵装から放たれる弾丸を、狙いを絞った一体の敵へと集中して叩き込む。
 特に狙うのは、相手の盾だ。そうすれば敵はマスケット銃を思うように使えず、一方的に攻撃を受けるしかなくなる。
 その作戦は見事に的中し、そのまま敵を削りきり、またその隙にハルバードが叩き込まれた。
 少し離れた場所では、ハルバードと長剣の二刀が暴れつつも、その周囲に敵が集まってもいたが……援護が必要かと向けかけた兵装を、結局重は別の敵へと向ける。ガルディエの身体から漏れる赤い雷に、必要ないことを悟ったのだ。
 そして。
「この雷は半端じゃねぇぜ。覚悟しな!」
 直後に溢れた赤い雷が、周囲の敵を一斉に薙ぎ払った。
 まだ敵は残っているものの、この調子ならば問題なく掃討出来るだろう。そう思いながらも、重は油断なく向かってくる亡者へと弾丸を叩き込むのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ティエル・ティエリエル
「キミ達の大事な人はボク達が守ってあげるよ!だから、ほら、もうお休みなさいだよ!」
リーシャ・ヴァーミリオンの悪趣味な行為に怒りを燃やしながら、亡者達を安らかに眠らせるために戦うよ!

【ライオンライド】で体長40cm程度の子供の黄金のライオンくんを呼び出して
敵の間を縦横無尽に走り回り【SPD】でかく乱して戦うよ。

敵の【血濡れの盾刃】による突進は「見切り」で攻撃範囲を見極めて、巧みな「騎乗」で避けるよ♪
ついでに、すれ違いさまにレイピアで鎧の継ぎ目を狙った「鎧無視攻撃」の「カウンター」をお見舞いするよ☆

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


リーヴァルディ・カーライル
…ん。彼らに村人達を殺させはしない
これ以上、死後の安息を穢される前に眠らせてあげる…

事前に防具を改造
第六感を強化して些細な存在感も見逃さない魔力を付与
気配を察知し、暗視と併用して敵の攻撃を見切る

…全身鎧に銀の銃弾
マトモに闘ったら厄介な手合いだけど…手はある
死者は傷付けない。その呪いだけ破壊する

【限定解放・血の教義】を使用
吸血鬼化した自身の生命力を吸収して魔力を溜め、
死者を動かす鎧の呪詛を喰らう“闇の雷”を両手で発動

…広域攻撃呪法。大技を使う。みんな、上手く避けて、ね?

脚部の怪力を瞬発力に変えて高所に跳躍し
呪いを追跡する雷で広域をなぎ払う2回攻撃を行う

…これが私の魔法。呪いを食い千切る雷…!


オリヴィア・ローゼンタール
……村の皆さんは先に行ってください
大丈夫です、すぐに追いつきますから

【第六感】で追っ手の気配を察する
【トリニティ・エンハンス】【属性攻撃】【破魔】
槍に聖なる炎の魔力を纏い攻撃力を増強
こういった兵を使う手合いが増えましたね……邪悪な圧制者め

敵陣へ突貫(【ダッシュ】【先制攻撃】)
【怪力】で槍を【なぎ払い】、行軍を止める(【拠点防御】)
フレイルや突進は強化された【視力】で【見切り】、【武器で受け流す】
ダメージは各種耐性と【オーラ防御】【気合い】で耐える
生前の記憶など残ってはいないのでしょうが、
それでもあなたたちが彼らを手に掛けるのを、黙って見過ごすわけにはいきません
ここで止めます、止まってもらいます




 闇を斬り裂くが如く、黄金の光が走った。聖なる炎の魔力を纏った、聖槍による一撃だ。
 胴体に大きな穴を開けられた敵は、そのままその場に崩れ落ち、だがそれを成したオリヴィアの顔が晴れることはない。
 むしろ、より一層険しくなるだけだ。
「こういった兵を使う手合いが増えましたね……邪悪な圧制者め」
 吐き捨てるように呟きながら、聖槍を握る手に力がこもる。
 直後、再度聖槍が一閃され、飛び掛ろうとしていた敵がその場に倒れこんだ。
 それでも未だ数が多い亡者達のことを見回しながら、オリヴィアの目が細められる。
 しかし、その姿は苛烈でありながらも、怒りを向けている先は目の前の者達ではない。当然だ。彼らもまた、被害者なのだから。
 だが、なればこそ――。
「生前の記憶など残ってはいないのでしょうが、それでもあなたたちが彼らを手に掛けるのを、黙って見過ごすわけにはいきません」
 オリヴィアの脳裏を過るのは、残ると言った自分へと向けられた心配そうな瞳だ。
 大丈夫だと、すぐに追いつくと約束を交わした彼らの姿を思い返しながら、白銀の柄をその場に叩き付ける。
 それは、一つの意思表示。
「ここで止めます、止まってもらいます」
 行かせはしないと、叩きつけられたフレイルを聖槍で受け流し、その勢いのままに穿ち、貫いた。
 常人であれば間違いなく怯むような光景であったが、その場にいるのは色々な意味で常人ではない。
 まったく気にした様子を見せず、表面に棘を備えた盾が構えられる。そのまま突進し――しかし、それよりも先に動くものがあった。
 それは、黄金の色。ただし、オリヴィアの聖槍ではない。四十センチ程度の大きさのライオンであった。
 しかもその背には、ティエルが乗っている。そのまま疾駆し、敵の突進を見極め避けると、すれ違い様にティエルの腕が閃く。
 その腕に握られているのは、一振りのレイピア――風鳴りのレイピア。音楽の如き風鳴りが響き、鎧の継ぎ目を狙った一撃が敵の身体を斬り裂いた。
 だが敵の攻撃を上手く利用して一撃を与える事が出来たというのに、ティエルの顔に喜びはない。そこにあるのは、オリヴィアと同じ怒りであった。
 リーシャ・ヴァーミリオンの悪趣味な行為に、ティエルは怒りを燃やしているのだ。こうして戦っているのだって、亡者達を安らかに眠らせるためであった。
 ティエルはライオンから下りると、ライオンを敵の間に縦横無尽に走らせ、かく乱させながら、自らも風鳴りのレイピアを振るい敵を斬り裂いていく。
 それと共にオリヴィアの聖槍が煌き、着実に敵の傷は増え、その数は減っていた。
 普通ならばとうに戦意をなくし、逃げ出している頃合だろう。
 しかし亡者となったそれらには、最初からそんな機能はない。なくすべき戦意も、諦めるための意思も、存在してはいないのだ。
 だが、だからこそ、諦めるわけにはいかなかった。
「キミ達の大事な人はボク達が守ってあげるよ! だから、ほら、もうお休みなさいだよ!」
 告げながら斬り裂き、それでも敵は倒れない。亡者らしく、愚直なまでに、命じられたことを完遂するべく動き続ける。
 最後に残されたその身までもが、滅び尽きるまで。
 そんな姿に、ティエルとオリヴィアは唇を噛み締めた。諦めるつもりはやはり毛頭ない、が……そもそもこの相手は実際のところそう容易い相手でもないのだ。
 全身鎧に、銀の銃弾。フレイルに盾刃と、まともに戦ったらそれなりに厄介である。
 何よりも、相手は死者だ。死者だからこそ生半可な攻撃では倒れないのだが、死者だからこそなるべく傷つけたくはないという思いがあった。
 しかし、そのための手が――否、手は、ある。
 瞬間、ティエル達の後方で、魔力が膨れ上がった。呟きのような言葉が、届く。
「……限定解放。テンカウント」
 それは、吸血鬼化した自身の生命力を吸収してまで溜められた魔力を解放するための言霊。
 広域攻撃呪法。
「……大技を使う。みんな、上手く避けて、ね?」
 言葉の直後、リーヴァルディは地を蹴った。
 脚部の怪力を瞬発力に変えることによって上空へ、周囲を覆っている木々の、そのさらに上へと到達する。
 眼下に敵の姿を捉えながら、蓋が外れたように溢れ続ける魔力を両手へと集めていく。
 その魔力を感じ取ったのか、敵が一斉に上空を見上げてきたが、何の問題もない。ティエルとオリヴィアも感じ取り、さらには何をしようとしているのかも何となく分かったのか、ティエルはライオンに騎乗すると少し慌てながらその場から離れ、オリヴィアは冷静に即座にその場から離れたようなので、こちらもまた問題はなさそうである。
 視界に残された姿に、目を細めた。
「……ん。彼らに村人達を殺させはしない。これ以上、死後の安息を穢される前に眠らせてあげる……」
 両手を突き出し、真下へ。
 そこに込められた膨大な魔力は、ただ放つだけでも死者を葬り去るには十分すぎるものだろう。
 だがそんなことをしたところで、何の意味もない。価値がない。
 今から発動しようしているのは、そんなものではなかった。
 それは、闇の雷。死者を動かす鎧の呪詛を喰らう、呪いを食い千切る雷だ。
「……吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!」
 死者は傷付けない。その呪いだけを破壊する。
「……これが私の魔法。呪いを食い千切る雷……!」
 限定解放・血の教義――リミテッド・ブラッドドグマ。
 瞬間、呪いを追跡し、広域を薙ぎ払う二条の雷が、リーヴァルディの願いに応えるが如く、周囲の呪いの全てを食らい尽くしたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

露木・鬼燈
変わり果てた姿や、それが破壊される様子は見せるのは酷だよね。
見られる前に排除しないと。
ムカデのセンサーとサイバーアイをリンクさせれば…
何となく近づいてくる方向はわかるっぽい。
ちょっと心配だから索敵の得な人に協力を頼みたいのです。
あとムカデはおいてきた。
護衛も必要だから仕方ないね!
で、無事発見できたらどう戦うか。
使えないわけじゃないけど黒剣を振るうのはあきらめるのです。
地形的には体術に棒手裏剣の組み合わせのほうがいいかな。
気で強化すれば無手でも大丈夫っぽい。
化身鎧装での強化も合わせればイケルイケル!
生い茂る木々を利用して忍び寄り、致命の一撃を加えるのです。
仕留め損ねても冷静に戦えばへーきへーき。


シエル・マリアージュ
村の中や深い森は見通しが悪いので、討ち漏らしがないように索敵に力を入れる。
アラクネの紅玉を蜘蛛型にして建物の屋根や木の上など見通しのよい場所から監視させ、その情報は他の猟兵にも共有する。
【死は闇より来たれり】で周囲の事象を全て把握して、味方の死角にいる敵や戦場から離れようとしている敵を優先して仕留めていく。
聖銃剣ガーランドの銃形態で【先制攻撃】【クイックドロウ】で敵の先手を取り【誘導弾】の【2回攻撃】を【鎧無視攻撃】【属性攻撃】で威力を増し【マヒ攻撃】を合わせて倒しきれなくても敵を動けなくして逃さない。
「せめて、自分の村で眠りなさい」




 偽装された痕跡を追い、各方角へと向かって行った朱殷の隷属戦士達であるが、中にはもぬけの殻となった村に留まった個体もいた。
 その場に立ち止まったまま周囲を見渡している姿は、まるで何かを思い出そうとしているかのようでもあったが……そんなことを思いながら、シエルは闇に覆われた空を見上げつつ、息を一つ吐き出す。それは自分の感傷がそう思わせているだけなのだということを、理解していたからだ。
 それらに意識はない。意思もない。単に命令を遂行しているだけに過ぎず、そこに何かがあるように思うのは、見ている側が勝手に意味を見い出そうとしているに過ぎないのである。
 ……そうでなければ、救われまい。意識があるまま護りたかった者達を殺そうとするぐらいならば、最初から何もない方がマシに違いなかった。
 ともあれ、今問題なのは、あれらがでは何をしているのかということである。偽装はあくまで各方面に散らばっているものであり、村の中には特になかったはずだ。
 それでも探すような何かがあるとするならば……それは、見つかった痕跡は全て偽装だと分かった上で、偽装されていない痕跡を見つけようとしている、といったところか。
 そのこと自体は、十分有り得ることであった。別に偽装が下手だったとか、痕跡を消しきれなかったとかいうことではない。
 相手はここまで悪辣なことを実行する相手なのである。ならばそういったことを想定した上で動けたとしても、それほど不思議なことではあるまい。
「……ま、何にせよやることに変わりはないしね」
 呟きながらシエルが視線を向けたのは、木の上だ。そこには蜘蛛に姿を変えたアラクネの紅玉が配置されている。見通しが悪い中での索敵のためであり、今までシエルが動いていなかったのもそれを優先したためであった。
 だがどうやら、ここにやってきた敵は全て確認出来たようだ。他の場所へ向かった敵のことは既に他の猟兵達に伝えてあるし、ならばあとはここにいるやつらを倒すだけである。
 そして、そうと決まればこれ以上ここに留まっている必要はなかった。
 一瞬だけ彼方へと視線を向けた直後、シエルの姿がその場から消える。
「――罪人に相応しきは、慈悲の刃」
 次の瞬間、シエルは敵の一体の影からその姿を現していた。完全な形での奇襲に、相手が反応するよりも先に全ては終わっている。
 その手に構えられているのは、銃の形態となっている聖銃剣ガーランド。魔力によって形成された弾丸が即座に連続で叩き込まれ、その身を地に落とす。
 無論のこと、そのまま次を許すほど敵も甘くはない。アラクネの紅玉から得られた情報により、この周辺にいた敵の全てが自分に向かってきているのが分かった。が、何の問題もない。
 確かに多勢に無勢ではあるが、こちらだって、シエル一人でここにいるわけではないのだから。
「すべて喰らい尽くすっぽい!」
 その言葉が聞こえてきたのと同時、シエルに向かってきていた敵の一体の姿が消えた。
 否、吹き飛ばされたのだ。遠方の木に叩きつけられているその身体には、棒手裏剣が突き刺さっている。
 さらに直後、その眼前に一つの影が飛び降りた。鬼燈だ。
 握り締めた拳が、叩き込まれた。
 衝撃にその身体が僅かに跳ね、地面に倒れ込む。そのまま、動き出すことはなかった。
「……うん、何とかイケルっぽい!」
 そんな言葉を告げるのは、今の鬼燈ではサイボーグムカデを召喚し騎乗する事が出来ないからだ。村人達のところに置いてきたのである。
 護衛も必要だから仕方ないね! とは鬼燈の言だ。
 しかしその代わりとして、自分の身一つで戦わなければならなくなってしまったわけだが……その結果がこれだというわけである。
 もっとも、言葉は緩い割に、その姿は中々苛烈だ。何せ身体のところどころから流血しているのだから。
 敵の攻撃を受けたわけではない。化身鎧装<竜喰>を使用し超強化をした、その代償であった。
 だが鬼燈は、それも込みで問題はないと口にするのだ。
 だって、変わり果てた姿や、それが破壊される様子は見せるのは酷だから。
 見られる前に排除せねばならず、ならばこの程度のことはどうということはなかった。
 それに、これでも鬼燈は生粋の武芸者だ。基本的に楽観的ではあるし、命尽きる瞬間まで生を楽しむのを信条としてはいるものの、そこには戦うことも含まれている。
 ならばこそ、やはり何の問題もないのだ。
 そう嘯きつつ、鬼燈は視線を巡らせると、次の相手を目指し地を蹴った。生い茂る木々を利用して忍び寄り、致命となる一撃を叩き込んでいく。
 無論そんなことを続けていれば鬼燈は警戒され忍び寄るのが難しくなるが、それはそれで問題はなかった。
 その時はその時で、シエルが影からの不意打ちを決めやすくなるだけだからだ。
 しかもシエルは、アラクネの紅玉からの情報によって敵の位置を正確に把握している。不意を打つのは、さらに容易であった。
 これが意識を持つ相手であればまた話は変わってきていたかもしれないが、相手は亡者である。命令を聞き、ある程度の戦闘をこなすことは出来ても、知恵を使って戦うことは難しい。
 何よりも、元々それらは戦いを領分としていた者達ではないのだ。尚のこと、通常以外の戦闘には向いていないのである。
 今もまた、鬼燈に意識を向けてしまったせいで、がら空きの背中に聖銃剣ガーランドから放たれる弾丸が叩き込まれた。
 そこに容赦はない。する意味がない。
「せめて、自分の村で眠りなさい」
 呟きながら、一瞬だけ動かなくなったそれに視線を向けた後で、シエルはその場から姿を消す。
 そうして、少しずつではあるが、確実に、シエルと鬼燈は敵の数を減らしていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『リーシャ・ヴァーミリオン』

POW   :    魔槍剛撃
単純で重い【鮮血槍】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    ブラッディ・カーニバル
自身に【忌まわしき血液】をまとい、高速移動と【血の刃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    魔槍連撃
【鮮血槍による連続突き】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天御鏡・百々です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 森は再び、静けさを取り戻していた。
 猟兵達の活躍によって、朱殷の隷属戦士達はその全てが打ち倒されたのだ。
 だが、まだ終わりではない。
 まだ、最悪が一つ残っていた。
「あら……うふふ、まさかわたしのおもちゃが壊れるなんて……驚きね。いえ、それともそうでもないのかしらね? だってわたしが遊ぼうとすると、すぐに壊れてしまうのだもの……くすくす。でもということは、もしかして少しは期待してもいいのかしら? 今度のおもちゃは、頑丈で遊び甲斐があるって。うふふ……楽しみね……ええ、心の底から楽しみだわ。楽しみが一つ減ってしまったけれど、何の問題もないわね。ええ、だって、あんなことよりも、もっと楽しくなりそうなのだもの。ああ、楽しみね……この槍を思う存分振り回せるかもしれないなんて、本当に楽しみだわ」
 鮮血を纏う少女は、嗤う。
 嗤いながら、楽しみだと、軽い足取りで、もぬけの殻となったその場所へと、進んでいくのであった。
蛇塚・レモン
他の猟兵の攻撃の最中、物陰からスナイパーとしてだまし討ち
あたいの衣服の加護で光学迷彩を発動して成功率を上げるよ
そして衝撃波を伴った鎧無視攻撃の超霊力オーラガンで目潰し!
視力と暗視でよく狙うよっ!

霊力弾を発射後はユーベルコードで蛇神様を召喚!
此処からは辻斬り猟兵のあたい“たち”が成敗しちゃうんだからっ!

学習力で敵の攻撃パターンを覚えて射程を把握
目潰しされた敵の攻撃をオーラ防御と盾受けで弾く
激痛耐性で傷は我慢
射程外に逃れるべく念動力で空中戦を仕掛けるよ
敵も空を飛ぶ?
残念だったねっ!
蛇神様の邪眼からの呪縛と呪詛・マヒ攻撃・範囲攻撃・恐怖を与えるであなたはもう飛べないよっ!

トドメは蛇腹剣で生命力吸収!


ティエル・ティエリエル
「村の人達や亡くなった人をおもちゃ扱いなんて絶対許さないよ!ボクが退治してやる!」
隷属戦士達の扱いに怒り心頭、レイピアを突きつけて宣戦布告だよ!

■戦闘
自慢の翅で羽ばたいて空中からヒット&アウェイで戦い「空中戦」を披露するよ!
敵の【ブラッディ・カーニバル】による【血の刃】は「見切り」で回避して、逆に「カウンター」でレイピアによる刺突!
仲間の攻撃等でリーシャに隙が出来たら、【妖精の一刺し】で風を纏った「属性攻撃」で「捨て身の一撃」を喰らわせるよ☆

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


ラザロ・マリーノ
おもちゃねえ…まあ普通の人間よりは頑丈だけどな、楽しめるかは保証できねえぜ。

まず真の姿を開放。体格が一回り大きくなり、牙・角・翼が生えて、よりドラゴンに近い外見になる。

ユーベルコード「竜の牙」を【怪力】【捨て身の一撃】で叩き込むぜ。
あの槍を喰らったらただじゃすまなそうだが【勇気】を出すしかないな。
せめて【迷彩】で見えづらい色になっておくか。

ガキのお遊びは今日限りにしてもらおうか!




 その姿は、まるで散歩でもしているかのようであった。気楽に気軽に、遊びにでも来ているかの如く、その顔には笑みが浮かんでいる。
 否、おそらくは、実際にそのつもりなのだろう。楽しい楽しい、『おもちゃ』を使った遊び、というわけだ。
 そして、森を抜けた先、人気の乏しいそこに辿り着くや否や、その笑みが深まった。目が細められ、あは、と小さな笑みが漏れる。
 視線の先にいたのは、小さな姿。文字通りの意味であり、その大きさは二十センチにも満たない。
 だがその少女――ティエルは、大きな怒りを以て現れたリーシャのことを睨みつけていた。
「うふふ、随分と可愛らしいけれど……あのおもちゃ達に比べれば楽しめそうかしら? ええ、精々この私の期待を裏切らないでちょうだいね?」
 その言葉に、ティエルはさらに眦を吊り上げる。その怒りに従うように、手にしていた風鳴りのレイピアを突きつけた。
「村の人達や亡くなった人をおもちゃ扱いなんて絶対許さないよ! ボクが退治してやる!」
 そうして宣戦布告をすると同時に、自慢の翅で羽ばたかせる。上空へと舞い上がり、リーシャでは手の届かない場所へと一瞬で到達した。
 しかしその動きを見ても、リーシャは笑みを深めるだけだ。むしろそこから何をするつもりなのかと、楽しげですらあり――瞬間、甲高い音が響いた。
 同時に、舌打ちの音が響く。
「あら、中々活きのいいおもちゃが揃っているようね?」
 言いながらリーシャが振り向いた先には、リーシャが手にしている鮮血槍と打ち合っているハルバードがあった。
 その担い手であるラザロは、再度舌打ちを漏らしながらも腕に力を込めていく。
「おもちゃねえ……まあ確かに普通の人間よりは頑丈だけどな。楽しめるかは保証できねえぜ……!」
「うふふ、そう謙遜する必要はないのよ? だってこうして打ち合えているというだけで、私は十分楽しいもの。ええ……中々期待通りだわ」
 その姿は随分と余裕そうではあったが、実際余裕があるのだろう。
 何せラザロは既に真の姿を開放している。牙と角と翼が生え、よりドラゴンに近い外見になったその力は、外見相応だ。決して細腕一つで対抗出来るようなものではない。
 そもそも先の一撃に関しても、不意を突いたものだったはずなのだ。今のラザロは普段よりもさらに巨体ではあるも、迷彩を施すことで全身をこの場では見えづらいようにしていた。
 だというのに難なく防いだあたり、力が強いだけではなく、勘が鋭くもあるようだ。
 とはいえ、付け入る隙は十分にある。確かに力は強いが、その分技量の方はそこまででもないようだからだ。高い身体能力に任せ、好き勝手に動いているようにしか見えない。
 もっとも、つまりはそれだけ身体能力が脅威的だということでもあり、気をつけなければならないということでもあるのだが――。
「――ちっ」
 言ったそばからかと、ラザロが舌打ちを三度漏らしたのは、力任せにハルバードを弾き飛ばしたリーシャが、その手の槍を振り被ったからだ。
 見え見えの一撃ではあるが、あれを食らってはまずいと本能が警告を発している。本能に従ってラザロがその場から素早く離れたのと、リーシャが槍を直前までラザロがいた場所へと叩き付けたのはほぼ同時。
 直後、地面が爆ぜた。さらにはそれだけでは済まず、その周囲の地面までもが爆ぜ、吹き飛ぶ。
 その光景の何が恐ろしいって、リーシャは今の一撃で特別なことを何もしていないということだ。リーシャはただ単に、槍を地面に叩き付けただけなのである。純粋に槍の重さとリーシャの力だけによって引き起こされたのだ。
 ラザロの本能が正しかったということであり、暴力を生業としているだけのことはあるということか。
 だがここで怯むわけにはいかなかった。それに、戦っているのはラザロ一人だけではない。
「そこだー!」
 瞬間、上空で隙を伺っていたティエルが一直線に飛び込んだ。その動きは素早く……しかし、リーシャの目は明らかにそれを追っている。
 その周囲を赤黒い血液が覆い、狙いを定めるように蠢く。直後、ティエルを迎撃するように、血の刃が放たれた。
 が、リーシャがティエルの動きを捉えていたように、ティエルもまたその攻撃の動きを捉えている。軌道を見切ると最小限の動きでかわし、カウンターでレイピアを突き出す。
 甲高い音が響いた。
「っ……もうちょっとだったのにっ」
「うふふ、今のは少し危なかったわね。ええ、でもだからこそ、楽しいわ。さあ、もっともっと私を――」
 言葉が最後まで続く事がなかったのは、その前に身体が吹き飛ばされたからであった。
 完全にリーシャの意識の外にあった物陰から放たれたのは、衝撃波を伴った目潰し狙いの霊力弾。
 蛇塚・レモン(叛逆する蛇神の器の娘・f05152)であった。
 無事だまし討ちに成功したことにホッと安堵の息を吐くも、まだ一撃に成功しただけだ。しかもどれだけ効果があるかも分からない。
 指鉄砲の形で構えていた体勢を解くと、すぐに次の動きへと移った。
 既に位置はバレてしまっているだろうから、これ以上潜む必要はない。その場の空間に描くのは、光の魔法陣。
 戦闘召喚使役術式・来たれ、母なる白き大蛇神様よ――バトルサモンコード・ホワイトナーガ。
 直後に魔法陣から巨大な白き蛇神の霊体が現れ、その目がレモンへと向けられる。
 だがレモンの目には怯えなどは一切なかった。幼い頃から心を通わせている親友の蛇神様なのだから、当然だ。
「さあ、此処からは辻斬り猟兵のあたい『たち』が成敗しちゃうんだからっ!」
 そう告げたのと、吹き飛ばされたリーシャがゆっくりと立ち上がったのはほぼ同時だ。
 リーシャの目は伏せられており、先ほどのレモンの目潰しが利いたことが分かる。
 しかし。
「正直、少し驚いたわ。でも……うふふ、これはこれで面白そうね。だってこれならば、さすがにすぐに壊れてしまうことはないでしょう? 見えないのなら、狙いをしっかり付けることは出来ないもの。ああ、でも、どうかしら。もしかしたら、目がよく見えないからこそやりすぎてしまうかもしれないわね……くすくす」
 それは決して強がりなどではなかった。
 その証拠に、一瞬にしてリーシャはレモンとの距離を詰めていたからだ。
「――っ」
 同時に突き出されていた鮮血槍を、レモンはギリギリのところで弾く。
 だがそれは致命傷を受けるのを避けたという意味であり、僅かに抉られた傷から血が流れ出る。
 しかし、傷を気にしている余裕はなかった。息を吐く暇もなく、次々と連続で槍が突き出されてきたからだ。
 その全てをレモンは弾き続けたものの、やはり完全には防ぎきれない。少しずつ傷が増え、血が流れていく。
 それでも、レモンの目に諦めはなかった。否、それどころか、その口元に弧が描かれる。
 その意味するところが判明したのは、直後のことだ。今まで傷を負いながら弾いていた一撃を、完全に弾いたのである。
 リーシャの気配に僅かに驚きが混じり、すぐにその口元にもまた弧が描かれた。
「あら……うふふ、貴女、本当に私を楽しませてくれるのね。中々素敵なおもちゃね、貴女」
 レモンがしたことは、それほど難しいことではない。ただ、リーシャの攻撃パターンを覚えたというだけのことであった。
 無論言うほど簡単ではないが、リーシャの技量は乏しい。身体能力に頼った戦い方をしているからこそ、そこには一定のパターンが出来上がっており、覚えるのもそれほど難しくはなかったのである。
 さらには、レモンは相手の射程までもしっかり把握していた。
 次の攻撃は弾くことなく、完全にかわすことに成功したのだ。
 そしてそのまま、レモンは地を蹴った。念動力によってその身体を浮かせ、空中戦を仕掛けようというのだ。そもそも攻撃を受け続け射程を把握したのは、そのためであった。
 が。
「あら……次はそっちがお望みなのかしら? うふふ、じゃあ、ご期待にお応えしようかしら?」
 言った瞬間、リーシャの身体も宙に浮く。その背に生えた翼は、伊達ではないのだ。
 しかし、当然そのことを想定していないわけがなかった。
「確かに、あたい『たち』だけだったらちょっと厳しかったかもしれないけど……残念だったねっ! お願い、蛇神様っ! あいつ、悪い奴だから懲らしめちゃってっ!」
 そう、蛇神を呼び出しておいたのは、この時のためだったのだ。
 蛇神の邪眼による呪縛により、リーシャの動きが封じられる。
「これであなたはもう飛べないよっ! そして……!」
 隙を晒したリーシャへと放たれるのは、蛇腹剣クサナギ。蛇腹状の剣がその身に食い込み、先ほどの傷のお礼とばかりにリーシャの生命力を奪っていく。
 そして、リーシャの隙を伺っていたのは、レモンだけではない。
 再び上空へ舞い上がっていたティエルが風を纏いながらレイピアを構え、ラザロが全霊を込めて飛び込む。
「いっくぞーーー!! これがボクの全力全開だよ☆」
「ガキのお遊びは今日限りにしてもらおうか! こいつを! 喰らえ!!」
 妖精の一刺し――フェアリー・ストライク。
 竜の牙。
 渾身の一撃と飛び蹴りが、見事リーシャの身体を捉え、叩き込まれたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

露木・鬼燈
ここを乗り越えれば依頼は完遂なんだけど…
そう簡単にはいかないみたいだね。
技量自体は見た目通りか少しマシ程度だけど身体能力がすごい!
さすがヴァンパイア、天性の狩猟者とゆーことですか。
力で対抗するのは分が悪いっぽい。
でも強者を打ち倒す術が武術とゆーものなのです。
動作の起こりを見極めれば対処できないことはないっぽい!
これだけの強者を相手に後の先をとる。
いいねっ!楽しくなってきたっぽーい!
化身鎧装から真の姿を開放。
多少の被弾は覚悟で、致命傷だけは避ければイケルイケル!
棒手裏剣で牽制と誘導、大剣と連結刃を適宜切り替え、肉薄すれば体術。
受け継がれ、積み重ねてきた武。
過去から未来へと繋がる力を見せるっぽい!


シエル・マリアージュ
敵は手強い相手でも「魔槍連撃」を回避出来れば無防備な瞬間が出来る。
【目立たない】ように【マヒ攻撃】や【属性攻撃】を付与した【誘導弾】の【2回攻撃】で猟兵達を援護しながら敵を観察、蜘蛛型のアラクネの紅玉にも別方向から監視させ、魔槍連撃の発動モーションや武器を扱う癖など魔槍連撃を見切るための【情報収集】をする。
他の猟兵が危険な時や敵が優位な時、【死は闇より来たれり】で仕掛けて魔槍連撃を誘い【見切り】【第六感】で魔槍連撃を避けられたら【カウンター】で敵の背後から黒剣の【2回攻撃】で【属性攻撃】【衝撃波】を付与した攻撃を敵に仕掛ける。
敵を倒してリースのところに帰ったら、元気に「ただいま」って言おう。




「ここを乗り越えれば依頼は完遂なんだけど……そう簡単にはいかないみたいだね」
 そんなことを呟きながら、鬼燈は目を細めた。その視線の先には、思い切り吹き飛ばされたリーシャの姿がある。
 つい今しがた三人の手による一斉攻撃を受けたばかりであり、だがその身も、口元の笑みも健在であった。
「うふふ……ああ、楽しい……本当に楽しいわ。これほど楽しかったのはいつぶりかしらね」
 その身体には、傷一つ見当たらない。別に効果がなかったわけではなく、一瞬で傷が癒えたということなのだろうが……だからこそ厄介である。目潰しの効果も既になくなっているようだ。
 技量自体はやはり大したことがないものの、色々な意味で身体能力が凄い。今の戦闘でも十分体力などは奪えているだろうが、敵の得意分野で相手をするのは少々分が悪そうであった。
 少なくとも鬼燈は力で対抗出来る気はあまりしない。
「さすがヴァンパイア、天性の狩猟者とゆーことですか」
「あら、褒めても何も出ないわよ? うふふ……それとも、今度は貴方が遊んで欲しい、ということかしら?」
「別にそういうつもりで言ったわけじゃないけど、それはそれで望むところっぽい!」
 確かに相手の方が力は上ではある。
 だが、強者を打ち倒す術が、武術というものなのだ。
 そして、相手のしていることに思うところがないわけではないものの、やはり鬼燈は生粋の武芸者なのである。強者を前にしてやることなど、一つしかなかった。
 そんな鬼燈の内面のことを知ってか知らずか……否、間違いなく知りはしないだろうが、偶然にもその瞬間二人の思考は噛み合った。
 リーシャの姿が掻き消え、直後に甲高い音が響く。
「あはっ……いいわ、本当にいいわよ、貴方達……! 最高のおもちゃだわ……!」
「それはよかったっぽい!」
 言いながら飛来してきた血の刃を防ぐ鬼燈だが、その動きはリーシャに比べれば僅かに遅れている。動き出しが、遅いのだ。
 ただし、それは意図的なものでもあった。
 身体能力では明らかにリーシャの方が上なのである。同時に動くどころか先に動いたところでリーシャの方が有利な事に違いはなく、しかしリーシャの動きそのものは素人に毛が生えたようなものだ。
 動作の起こりを見極めれば対処が可能なのではないかと思い、そして実際に実行しているのが現状なのである。だから、鬼燈の動き出しは僅かに遅いのだ。
 その結果は見ての通りではあるが……実情としては、紙一重も紙一重であった。
 身体能力にどれだけの差があるのかは、こうして相対している鬼燈自身が一番よく分かっている。まず間違いなく、一瞬でも判断を間違えれば即座に致命へと繋がるだろう。
 そもそも、これだけの強者を相手に後の先をとるということ自体が正気ではない。
 だが、だからこそ――。
「いいねっ! 楽しくなってきたっぽーい!」
「うふふ……そう、それはとてもいいことね。私が楽しみ、おもちゃも楽しむ。とてもいいことだと思わない?」
 その言葉に返答はしなかった。異論があるのではなく、余裕がなかったのだ。
 対応することは出来ても、まだまだ足りてはいなかった。
 しかし、ならばどうするかなど決まっている。足りないのであれば、足せばいいだけのことだ。
 その決意は刹那の間に固まり、直後に実行に移された。
 大妖<大百足>、英霊<竜を呪う聖騎士>、呪炎<竜殺し>をその身に宿すと共に、莫大な力を得る。それでも純粋な力ではまだ届かないだろうが、技で以て対抗するのであれば十分であった。
 が、強大な力を得るには、相応の対価が必要である。次の瞬間、鬼燈は僅かに歯を食いしばった。
 その身を毒が犯したのだ。
 だが鬼燈はそこで止まるどころか、真の姿を開放し先へと進む。覚悟はしたのだ。ならば、この程度で止める道理がないのは当然であった。
 その甲斐があってリーシャの動きに完全に対応出来る様になったものの、その代償は大きくもある。毒によって身体の動きが一瞬鈍る時が出てくるようになってしまったのだ。
 それは確実に、致命へと繋がる隙。
 しかし、その隙を既に鬼燈は三度ほど晒してはいたが、未だ致命に至ってはいない。もっともそれは運がよかったとかリーシャが見逃したとかいうことではなく……単に、自分一人で戦っているわけではないからであった。
 今もまた、僅かに鬼燈の動きが乱れ、だがその瞬間にリーシャの影が蠢く。直後にそこから姿を見せたのは、シエルだ。
 不意打ちとなる一撃を放ち、しかしすぐにその場から離脱した。
「うふふ、随分とすばしっこいおもちゃね。でもまあいいわ。たまにはこんなおもちゃも必要だもの」
 その言葉には反応せず、シエルは素早く身を隠す。少なくとも今はまだ、まともにやりあえる状況ではないからだ。
 生憎とシエルには、力でも技でも、リーシャと対抗出来るほどのものはない。正面からやりあったところで、多少ならば抵抗出来るかもしれないが、それだけだ。それほど耐えられずにやられていまうだけだろう。
 だからこそ、こうしてまともにやりあわないことを選んだのだ。リーシャ達の様子を伺いながら、時折誘導弾を叩き込んで鬼燈の援護を行う。これと鬼燈が危険に陥った時に不意を打って一瞬だけ時間を作ることだけが、今のシエルに出来ることであった。
 だが同時に、今はまだ、でもある。当然と言うべきか、シエルはこれだけで終わるつもりはないのだ。今は出来ることを少しずつやっている段階であり……そのためにと、ちらりと上方へと視線を向けた。
 そこには、蜘蛛型となったアラクネの紅玉がある。監視のためであり、情報収集のためであった。無論その全ては、リーシャを倒すためだ。
 地味で、あるいは迂遠なことなのかもしれない。しかし、ノエルが思い浮かんだのはこういうやり方だったのだ。
 そしてこの方法が正しいということを、確信してもいる。だからこそ、コツコツと続けるのだ。一つ一つ、積み上げていく。
 それはある意味で鬼燈も同じではあった。違うところがあるとすれば、鬼燈が積み上げてきたものは自分一人だけのものではなく、過去から受け継がれてきたものだということ。振るい、対抗していく武そのものだ。
 もっとも、そこに優劣はない。ただ、過程に違いがあるだけだ。目指す先は同じであった。
 リーシャの動きを、鬼燈の動きと共にシエルはジッと見つめる。鬼燈の動きは、正直なところ危なっかしいどころではなかった。
 どれだけ動きを読み、対応する術を持っていようとも、身体能力の差は絶対だ。少しずつ、小さくない傷が鬼燈の身体に増えていく。いや、それどころか、どこか鬼燈はそれを望んでいるようにも見えた。
 変な意味ではなく、そこまでを許容した動きだということだ。致命傷さえ受けなければ軽いとばかりに、繰り出される血の刃と槍の連撃を、棒手裏剣で牽制と誘導をしつつ、その手に握る堕ちた聖剣で以て最小限の動きで捌いていく。
 力が上の相手と戦っていることを考えれば、それは見事と言わざるを得まい。純然たる事実として、傷で済んでいるのならば随分とマシな方だ。
 自分がもしもあの場に立っていたらどうなるだろうかと考え、直後にその思考を打ち切る。色々な意味で無意味な思考であった。
 その必要がなく、また向いていないからこそ、こうして援護を主体としているのだから。
 そんなことを考えながら、シエルはふと空を見上げた。しかしそこにあるのは、相変わらずな空だ。森の中ということもあって見通しが悪く、そもそもこの世界の空はよろしくない。
 一つ、息を吐き出した。
 戦闘中にするような行動ではなかったが、問題はなかった。鬼燈の動きは無茶に無謀を重ねたようなものではあったが……おかげでリーシャの動きをよく見ることが出来たからだ。
 血を同時に操ってるせいもあってか、リーシャが槍を繰り出す動きは正直拙いとすら言える。身体能力のせいでそれでも十分脅威ではあるのだが、それに頼っているせいでより武器を扱う際の癖があらわとなっていたのだ。
 情報はもう十分であった。
 と、そのタイミングを見計らったかのように、鬼燈の動きが再び乱れる。無論狙ったわけではなくただの偶然ではあるのだろうが……シエルの口元がほんの少しだけ緩む。
 早く決着を付けられるのであれば、それに越したことはないのだ。
「――罪人に相応しきは、慈悲の刃」
 死は闇より来たれり――シミツイタコロシノワザ。
 瞬間、シエルの身体が掻き消える。次の瞬間に、隙を晒した鬼燈へと槍を突き出そうとしているリーシャの背中が目に前にあり……だが、リーシャの目は鬼燈へと向いてはいなかった。
 その視線が向いているのは、自身の背後……そこに現れた、シエルだ。
「うふふ、確かに貴女のそれは中々面白いけれど……そう何度も繰り返されたらさすがに慣れてしまうわよ?」
 気が付けば、リーシャの周囲を覆っていたはずの赤黒い液体がどこにもなく、鬼燈に向かって突き出されていたはずの槍はその動きを止めていた。こうなるであろうことを、リーシャは読んでいたのだ。
 反転した槍が、今までの比でない速度でシエルへと迫り……しかし、想定通りであった。そうくるだろうと思ったからこそ、何度も同じ動きを繰り返したのだ。
 勿論、分かっていたところで、リーシャの身体能力はやはり凄まじい。普段のシエルであれば、迫り来る槍の速度に対応することは出来なかっただろう。
 だが、それを理解していたからこそ、今までずっと観察を続けていたのだ。槍の到達する位置、速度、タイミング……全てどんぴしゃり。
 その瞬間にシエルがしたことは、ほんの少しだけ横にずれただけ。それだけで十分であった。
「――っ!?」
 自らの繰り出した一撃が外れたことに、リーシャの目が見開かれた。
 ただの一撃であれば、そんなことはなかっただろう。しかしそれは、ただの一撃ではなかったのだ。
 いや、そもそもそれは、一撃ですらなかった。槍の穂先がぶれ、次々と槍が突き出されていく。何もない空間へと、だ。
 リーシャはその高い身体能力で以て、自らの思う通りに槍を振り回すことが出来る。
 だが高すぎる身体能力に反し技量が足りていないため、その動きを途中で止めることが出来ないのだ。槍を連続で突き出すことは出来ても、そうすると決めて放った攻撃を止める術は、存在しなかった。
 とはいえ、元より高速で繰り出される攻撃だ。空振りに終わったところで、その攻撃が終わるまでの時間は一瞬である。
 しかし、その一瞬で十分であった。
 背後へと回り込んだシエルの目に映るのは、無防備な背中である。先程から何度も背中は見ていたし不意も打ってはいたが、意識を向けられていないわけではなかった。
 きっと強烈な攻撃を仕掛けようとしたところで、防がれてしまっていたに違いない。
 だが今そこにあるのは、正真正銘隙だらけの姿だ。防がれたり反撃されてしまう心配をする必要はなかった。
 その手に握られているのは、黒剣へと変形させた聖銃剣ガーランド。
 そして、その状況を狙い、待ち構えていたのはシエルだけではない。ほぼ同時にその場に飛び込んできていたのは、堕ちた聖剣を構えた鬼燈。
 そこに込められたのは、受け継がれ、積み重ねてきた武。過去から未来へと繋がる力。
 それを横目に眺めながら、ふとシエルの脳裏を過ったのは、自分達をこの場所へと連れてきた少女のことであった。
 同時に、思う。この敵を倒したら、あの少女へと元気にただいまを告げよう、と。
 それは未来に対する展望。些細な、それでも過去を生きるモノには存在しえないもの。
 直後、隙だらけのリーシャの背中に、二つの未来へと繋がる一撃が叩き込まれたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。精々、今のうちに笑っているといい
すぐに楽しみなんて言っていられなくなる…
彼らにした事の報いを受けさせてあげる…

改造した防具の呪詛を維持
第六感を強化して些細な存在感も見逃さない見切りで
敵の殺気を察知して、攻撃を大鎌をなぎ払い武器で受けUCを誘惑
目当ての攻撃が来たら無防備に受け【限定解放・血の再誕】を試みる

…どうしたの?壊すんじゃなかった?
それともまさか、これが全力…?

UCを吸収して力を溜めたら【限定解放・血の聖槍】を発動
吸血鬼化した怪力を瞬発力に変え敵の懐に潜り、掌打と同時に
生命力を吸収する血杭と傷口を抉るUCによる2回攻撃を行う

やっぱり、槍を振り回しているだけ…

…攻撃とは、こうするものよ


オリヴィア・ローゼンタール
現れましたね、邪悪な吸血鬼
いいでしょう、好きなだけ楽しむがいい……『貴様の死』を!

【血統覚醒】で吸血鬼を狩る吸血鬼と化し、戦闘力を増大
【属性攻撃】【破魔】で槍に纏う聖なる炎を強大化

人間離れした圧倒的な【怪力】で聖槍を縦横無尽に振るう
斬り打ち穿ち薙ぎ払い、瀑布の如く攻め立てる

得物の類似性から互いの手の内は分かる……
だからこそ、負けるわけにはいかない!

直線的な攻撃が多いので強化された【視力】で【見切り】
【武器で受け】流し、【カウンター】に石突で殴りつける

単純な出力は流石に純粋な吸血鬼……
だが、技が稚拙ならば付け入る隙はある!

トドメに全霊を込めた聖槍の投擲
聖槍よ、邪悪を貫けッ!


ガルディエ・ワールレイド
人の命っていうのは、断じてオモチャなんかじゃねぇ。……が、言ってもわからねぇだろうし、今は良いさ。
冥土の土産だ。最後となる命のやり取りを楽しんでから逝け。

◆戦闘
【存在証明】で攻撃力を強化してから仕掛けるぜ

武装は【怪力】【2回攻撃】を活かすハルバードと長剣の二刀流。
攻撃が命中すれば【生命力吸収】

【武器受け】を駆使して立ち回るぜ。
自分や味方への攻撃を弾くし、片手で受けて体勢に余裕があれば、他方の手で反撃。

被弾しそうな時は【オーラ防御】
味方に通ってヤバそうな攻撃は【かばう】

敵の【魔槍剛撃】は【殺気】を読んだ上で最優先で対処。
どうしても防御や回避が出来そうにない時は、相討ち上等で【捨て身の一撃だ。




 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたリーシャの顔には、変わらず笑みが浮かんでいた。
 そこには苛立ち一つ存在してはいない。まるでそうしてやられることも楽しんでいるような、そんな様子だ。
「うふふ、本当に凄いわね……私のことをここまで楽しませること出来るなんて。もしかしたら初めてじゃないかしら? ええ、あの壊れてしまったおもちゃとは大違いだわ。いえ……でもおかげでこうして新しいおもちゃ達に出会えたのだということを考えれば、アレらにも意味はあったということかしら?」
 心底楽しそうにそんな言葉を口にし、直後、甲高い音が響いた。
「人の命っていうのは、断じてオモチャなんかじゃねぇ。……が、言ってもわからねぇだろうし、今は良いさ」
 言いながらガルディエは叩き付けた複合魔槍斧ジレイザに力を込め、睨みつける。
 だが至近距離からその姿を眺めながらも、リーシャの顔にあるのはやはり笑みだ。
「うふふ、今度は貴方が遊んでくれるのかしら? 入れ替わり立ち替わり色々なおもちゃの方から楽しませてくれるなんて、本当に素敵だわ」
 その言葉にガルディエは応えない。意味がなく、価値もない。
 ガルディエのやることは、一つだけであった。
「冥土の土産だ。最後となる命のやり取りを楽しんでから逝け」
 言葉と同時、ガルディエの力が膨れ上がった。
 存在証明――レーゾンデートル。
 人間としての意思、ヴァンパイアの血脈による魔力、己の内にある異端神の力。それら全てがガルディエの中で混ざり合い、その力を引き上げたのだ。
 そしてその力によって繰り出されるのは、ジレイザだけではなく、複合魔剣レギアも合わさった二刀。確かな技量と力で以て連撃が叩き込まれ、迎え撃つ鮮血槍との間に重奏の音を響かせる。
 赤い軌跡が二重に走り、絡み合い、弾く。続けて放たれた一撃がリーシャの身体を捉え、それでもその笑みは変わらない。
「――ちっ」
「あら、どうしてそんな顔をするのかしら? 私は言われた通りに楽しんでいるだけよ?」
 ほざけ、と思ったものの、直後に地を蹴り、後方へと飛び退く。殺気と共に槍を振り被った姿が視界に映ったからであった。
 一瞬遅れ、リーシャが振り下ろした槍が地面に叩き付けられる。その周辺ごと巻き込む形で地面が爆ぜ……だが、土煙の晴れたその先で、ガルディエは健在だ。どころか、傷の一つも負ってはいない。
 最初から意識していたために、完全に回避することに成功したのだ。
「うふふ、中々すばしっこくもあるのね。でもいいわ、楽しみはもっとずっと、いつまでも続いていた方がいいもの。さあ、続きを――あら?」
 不思議そうにリーシャが首を傾げたのと、その眼前で火花が散ったのはほぼ同時であった。
 笑みを浮かべたまま細めた目に映っているのは、大鎌を振り下ろした体勢のリーヴァルディだ。
「ふふ、そう……次は貴女、ということなのね。ええ、そうね……私は一人しかいないものね。沢山のおもちゃと遊びたいけれど、ならばこそ順番に遊ばなければならないわ」
 楽しげな姿を、リーヴァルディは無表情に見つめ返す。そこに感情は見当たらない。
 ただ、大鎌を握り締めている手に、少しだけ力が加わった。
「……ん。精々、今のうちに笑っているといい。すぐに楽しみなんて言っていられなくなる……」
「そう? ふふ……それはそれで楽しみだわ」
 本心から言っているようにしか見えないリーシャの姿に、リーヴァルディは口を噤んだ。直後、返答代わりに槍を弾きながら、心の中だけで続きの言葉を呟く。
 ――彼らにした事の報いを受けさせてあげる、と。
 そんなリーヴァルディの内心を知ってか知らずか、リーシャは変わらぬ様子で槍を繰り出してくる。
 その姿もまた、相変わらずだ。身体能力のみに頼った、だがだからこそ強力な一撃が無造作に放たれる。
 しかし、無論のことリーヴァルディもそう簡単にやられはしない。確かに強力な攻撃ではあるが、それだけであるならばこれまで何人もそうしているように対処の仕方は幾らでもあるのだ。
 リーヴァルディの取った方法は、主に自らの勘を頼りに、さらに相手の殺気から攻撃を予測するやり方であった。
 勘と言ってしまうと随分漠然とした不確かなもののようにも思えるが、勘とはつまり経験による無意識の予測である。十分な経験を積んでいる者にとっては頼りとするのに相応しいものであり、リーヴァルディが積んだ経験は十分それに値するものであった。
 そして実際にどうであったのかは、その場で繰り広げられている光景の示す通りである。リーシャの放たれる攻撃は、その悉くがリーヴァルディの手にする大鎌によって防がれ、弾かれていたのだ。
「うふふ、言うだけのことはあるわね。でもここからどうするのかしら? 私はまだまだ楽しいままよ?」
 それは当然と言えば当然でもあった。リーヴァルディはリーシャに対抗出来てはいるが、それだけでもある。攻撃を防げているだけでは、リーシャをどうこうすることは出来ないのだ。
 無論、手はあるし、考えもある。
 だがこの状況ではまだ使えはせず……その手を披露するよりも先に、場に変化があった。
 どちらかに何かがあったわけではない。単純な話だ。この場にいるのはリーヴァルディとリーシャだけではないという、当たり前のことが理由であった。
「そうですか、では好きなだけ楽しむがいい――『貴様の死』を!」
 言葉と同時、突き出されたのは聖なる炎を纏った聖槍だ。しかもその炎は強化され、普段纏っているものよりも強大となっている。
 もっとも、その変化は些細と言えば些細なものだ。少なくとも、その聖槍を振るう者に訪れている変化に比べれば、些細に違いあるまい。
 聖槍を繰り出したオリヴィアの瞳は、普段の金ではなく真紅に染まり、またその身から感じる気配もまた変わっている。血統覚醒により、ヴァンパイアへと変化したのだ。
 既にその力も人間離れしたものとなっており、圧倒的な怪力によって聖槍が縦横無尽に振るわれる。斬り打ち穿ち薙ぎ払いと、瀑布の如く攻め立てていく。
「あはっ、これは凄いわね。今までで一番かもしれないわ。でもなら、私も負けていられないわね」
 人外の力が二つ、ぶつかり合う。
 だがそれでもやはり単純な力として有利なのはリーシャの方だ。オリヴィアがどれだけヴァンパイアの力を引き出したところで、純粋な吸血鬼には及ばない。
 もっとも、その程度のことは最初から分かりきっていたことだ。最初から、力だけで押し切ろうなどと思ってはいない。
 これまでに皆が繰り広げてきたことと同じことだ。どれだけ力が強かろうとも、技が稚拙ならば付け入る隙はある。
 それに、得物の類似性から互いの手の内は分かるのだ。
 そしてだからこそ、負けるわけにもいかなかった。
 突き出される槍を、そこも強化されている目で見切り、受け流す。その勢いを利用し、石突でカウンターを行えば、有効打とはならずともバランスを崩すことぐらいならば出来る。
 そのまま炎を纏った穂先を叩き込んだ。
 そして繰り返すが、この場には二人しかいないわけではないのである。後退した先で襲い掛かるのは、大鎌。少女達に負けてはいられないとばかりに、ハルバードと魔剣の二刀も叩き込まれ……それでも、リーシャの顔の笑みは崩れない。
 だがそれは、決して余裕があるからではないはずだ。
 実際、相変わらず凄まじい力を振るっているものの、最初の頃と比べれば明らかに衰えてきている。ここまで積み重ねてきたことの意味は、確かに発揮されつつあるのだ。
 それでいて様子が変わらないのは、余裕というよりは純粋に気にしていないのだろう。彼女にしてみれば、これはどこまでいっても遊びなのだ。
 或いは、その命が費えるその瞬間に至ろうとも。
 しかしそれは、負けてもいいというわけでは、勿論ない。追撃に移ろうとしていた動きが、慌てて止まった。
 リーシャが大振りなまでの構えを取ったのが見えたからだ。
 リーシャはよく理解しているのである。それが当たりさえすれば、形勢は簡単にひっくり返ると。
 もっとも、だからこそよく警戒はしており、また当たらなければいいだけのことであり……だが、その場を離れようとしたガルディエは、瞬間ギョッとした。
 リーヴァルディが回避するでもなければ防ぐでもなく、無防備な様子でその場に立っていたからだ。
「あら、避けないのかしら? それとも、避けられない? 或いは、何か考えでもあるのかしら? まあいいわ。これが受け止められるとでも思っているのならば、そのまま壊してしまうだけだもの。貴女とはまだ遊び足りないのだけれど……仕方ないわね。使えなくなってしまったおもちゃは、壊すしかないもの」
 もしや攻撃でも受けてしまったのかと、ガルディエは慌てて近寄ろうとし、しかし結局その場から飛び退いた。
 間に合わないと判断し諦めたわけではない。一瞬だけ見えたその瞳に宿っていたのは、間違いなく強い意思の光だったからだ。
 何か考えがあるのだろうと判断し、離れ……次の瞬間、鮮血槍がリーヴァルディへと向けて、思い切り振り下ろされた。
 間違いなくその軌道は直撃であり、だが。
「……限定解放」
 その寸前で、ポツリと呟かれた。
 直後に鮮血槍が叩きつけられ……しかし、何も起こらない。
 リーヴァルディがやろうとしたことが不発だった、というわけではなかった。明らかに直撃したというのに、リーヴァルディは平然とその場に立っていたのだ。
「……あら?」
 予想外、とでも言わんばかりの呟きがリーシャの口から漏れ、だが無論のことリーヴァルディの狙い通りであった。
 限定解放・血の再誕――リミテッド・ブラッドリバース。その力で以て、相手の攻撃を無効化したのだ。
 そしてこれこそが、リーヴァルディが考えていた手であった。
 眼前のリーシャを見つめ、首を傾げる。
「……どうしたの? 壊すんじゃなかった? それともまさか、これが全力……?」
「……そう。どうやら、まんまと何かに引っかかってしまったみたいね。でもいいわ、それなら次こそ――」
「……残念だけど、次はもうない。お前の攻撃は、ただ槍を振り回しているだけ……。……攻撃とは、こうするものよ」
 一瞬であった。
 一瞬のうちにリーシャの懐へと飛び込んでいたリーヴァルディが、その腹部に掌打を叩き込んでいたのだ。先ほどまでの動きとは雲泥の差であり、だがそれは当然のことでもある。
 今のリーヴァルディは先ほどまでとは文字通りの意味で別の存在へと……ヴァンパイアと化していたからだ。
 しかも実は、リーヴァルディは先ほど無効化した力をそのまま吸収してもいる。さらにはその力は増幅されてもいるため、色々な意味で先ほどまでとは雲泥の差の力を発揮出来るのだ。
 そして当然ながら、これだけで終わりではない。
 リーヴァルディのヴァンパイア化は、ほんの一瞬だけ行われるものだ。その変身は即座に解除され、しかしその際、莫大な魔力が余波として周囲に放出される。
 それを利用する形で圧縮したものが、リーヴァルディがリーシャへと叩き込んだ手のひらの先へと集まっていた。リーヴァルディの意思の従い、その形が定まる。
「……刺し貫け、血の聖槍……!」
 それは傷口を抉りその生命力を貪る血の杭。解き放たれ、食らい、そこにガルディエが飛び込んだ。
「便乗するみてえでちと気は引けるんだが……ま、ここで何もしなかったら間抜けなだけだしな。折角の最期だ、俺の分ももってっとけ」
 ハルバードと魔剣による二刀。叩き込み……そして。
 直後にリーヴァルディとガルディエの二人は、その場を飛び退いた。
 リーシャが何かをしようとしていたわけではない。味方の攻撃に巻き込まれると、そう判断したからだ。
 視線の先にいるのは、聖槍を構えたオリヴィア。視線を向けずとも感じられる気配は、そこに込められている力の程を示していた。
「聖槍よ、邪悪を貫けッ!」
 全霊を込め、投擲された聖槍がリーシャを胸を貫き、吹き飛ばす。そのまま後方の木へと磔のようにして叩きつけられ、ごぼりと、その口から血が零れ落ちる。
 言葉は、なかった。だが最後までその顔が曇ることはなく、ただ、どことなく名残惜しげにその場を見渡す。
 そして、跡形もなく消滅した。
 しかしその光景を見つめながら、誰も何も喋らなかったのは、倒せはしたものの、終わりではないということも分かっていたからかもしれない。
 きっとまたいつかどこで、アレは現れ、何かをしでかすのだろう。
 だがそれでも、とりあえず今回の件を解決できたのは確かだ。あの村人達が戯れで殺されてしまうようなことは、もうない。
 そのことに思い至ったからか、誰からともなく溜息が吐き出される。
 そうしてそれぞれが思い思いに力を抜くと、ようやく皆は安堵の顔を見せるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月01日


挿絵イラスト