迷宮災厄戦⑱-2〜彼女は涙に流されない
「さてさて、いよいよ部隊も大詰めだ!みんな、準備は大丈夫かな?」
迷宮災厄戦も半ばを超え、猟兵たちはオブリビオン・フォーミュラであるオウガ・オリジンの元へと進行出来るようになった。
「とは言え、オウガ・オリジンの力は凄まじいね。現実改変……なんてとんでもない事を軽々とやってくれるとは、ね」
グリモアベースに映し出されたのは、深い青をたたえる海の景色。
オウガ・オリジンはこの海の中で待ち構えているという。
「ここは『涙の海の国』。オウガ・オリジンが作り出した、決戦のステージって所かな?」
この海の水はただの塩水ではない。
この海水に触れた者は自然と涙が流れ、過去の悲しい思い出が蘇ってしまうという。
「そうして流した涙がこの海を広げるのか……なんてね。ともかく、この水の力は簡単にどうにか出来るものじゃないよ。ここで戦うには、過去の悲しみを克服しないとならない」
それがオウガ・オリジンとの戦いには必須だとロベリアは語る。
「ちなみにオウガ・オリジンはこの海に触れても悲しくならないんだってさ。ふふっ、人生損してると思わない?」
単に戦力としてみれば、涙の海によって力を発揮できないというデメリットが無いオウガ・オリジンが有利なのかも知れない。
だが、過去を克服した時の猟兵たちは、きっとこれまでより強いはずだとロベリアは歌い上げるように言った。
「さあ、過去と向き合う覚悟が出来た人から前に。いざ、最終章の始まりだ!」
桃園緋色
桃園緋色です。
戦争シナリオ3本目となります。
オープニングで紹介したとおり、このシナリオでは特殊な環境での戦いとなります。
プレイングボーナスは以下の通り。
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プレイングボーナス……過去の悲しみを克服しつつ戦う。
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プレイングにはボーナスに関わる、過去の悲しみに関係する内容と、それをどう乗り越えるかを書いていただければいいと思います。
過去の内容に関しては具体的でも抽象的でも構いません。ある程度はこちらで保管しながら書く形となりますので、強いて言えばあまり不確かな情報でキャラクターの過去を書かれたくない方はその旨を書いていただければ。
では、皆様のご参加をお待ちしています。
第1章 ボス戦
『『オウガ・オリジン』と嘆きの海』
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POW : 嘆きの海の魚達
命中した【魚型オウガ】の【牙】が【無数の毒針】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : 満たされざる無理難題
対象への質問と共に、【砕けた鏡】から【『鏡の国の女王』】を召喚する。満足な答えを得るまで、『鏡の国の女王』は対象を【拷問具】で攻撃する。
WIZ : アリスのラビリンス
戦場全体に、【不思議の国】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:飴茶屋
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ドプン、と。
転送された猟兵たちは、一様に『涙の海』に身を沈めた。
不思議なことに、海中にも関わらず呼吸に支障はない。
目を開けても塩水が染みることはない。
ただ、移動する時には水の中にいるのと同じような抵抗と浮力を感じる、そんな不思議な場所だった。
その海の奥、ゆらゆらと揺らめくエプロンドレスに身を包み、闇のように影のように暗い……少女の姿があった。
「あの猟書家どもに続き、貴様らの如き塵芥がこのわたしを害そうとは……!」
その声は、怒りと傲慢さが混ざりあった音色だった。
「不遜極まりない……貴様らのその傲慢さ、その血を以て贖え!」
地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
思い出さなかったことはねえ。
院長先生とちびたちを皆殺しにされて、兄貴の心を奪われた日のこと……今だって悔しくて泣きたいよ。
俺に力があれば先生たちは死ななかった。
兄貴だって俺を庇って心が喰われることもなかった……
そう、あの時感じた無力さと怒りが俺の力の根源。
許さねえ……俺の大事なモノを奪った奴らも、人を理不尽に踏みにじる連中も!
報いを受けさせるまで絶対に止まってやらねえって決めたんだ!
てめえにもアリスたちを苦しませた報いを受けてもらうぜ!
敵の攻撃は【激痛耐性・毒耐性】で凌ぐ、毒針ぶっ刺さったままだろうが知るか!【指定UC】使って真っ向から【怪力・鎧砕き】の容量で殴り続ける!
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
この時期だからの、半ば予想はしておったが。わしらが死んだときのか(誕生日=四人の命日)。腹部の傷跡は、その時の名残。四人共通の名残。
…そう、あれがオブリビオンなのだと、死んでから知った。四で一となってから知った。
故郷もなく、あれらは永遠に失われた。
だが、ははは!こうなっても『生きて』おるのならば。前に進むがわしの心よ!
…神隠しで行方知れずの実兄にも会えるかもしれんしの。
というか、そもそも誰かの故郷が失われようとするなら、わしは止めるぞ。
虎になりても、その速度を利用し撹乱し、雷で穿つ。それくらいはする。
ロラン・ヒュッテンブレナー
オウガオリジン、ここは、きみの悲しみが詰まった場所なの?
ぼくも、悲しい事、いっぱいあったよ
○ぼくの病気は人を傷付けるの○
それは、ぼくの意思と関係なく
満月の夜に暴れ出す
外から隔絶したぼくの里だと、暴走を見た人は離れていくの
●でも、ぼくはこの力を制御するよ●
こんなぼくと一緒に居てくれる人たちを、傷付けない為に
守りたいから
だから、この力を、使いこなすの
UC発動、ぼくの悲しみを喰って、鳴いて、音狼
遠吠えに魔力を乗せて迷宮に【ハッキング】
反響音からも【情報収集】して出口を割り出すよ
【オーラ防御】で罠も防ぐね
見つけたよ、オウガオリジン
【全力魔法】の人狼魔術・遠吠えの音撃なの
ぼくはもう、過去を悲しまないよ
●ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)の決意
「オウガオリジン、ここは、きみの悲しみが詰まった場所なの?」
心の底から湧き上がる悲しみに、ロランは思わずオウガ・オリジンに問いかけた。
「下らない。何故わたしが悲しまなければならない?」
返ってきたのは、鼻で笑うような声。
同時に、周囲の景色が一変する。
オウガ・オリジンによる、世界を想像する力。
海の中に突然森が出現し、あるいはトランプが壁となって立ち上がり。
お菓子の家が行く手を塞ぎ、無数の鏡が猟兵たちを惑わせる。
不思議の国で作られた迷宮に姿を消したオウガ・オリジンの声が響く。
「この世界で最も尊いわたしの手を煩わせるな。貴様らはその迷宮で朽ち果てろ」
遠のく声。
出口を探して視線をさまよわせる内に、涙を呼び水にロランの記憶が呼び覚まされる。
人狼病。その名の通り、人から狼へと変わってしまった自分。
満月の夜を迎える度、自らの意思を無視して暴れまわるロランから、人々は離れていった。
彼らから向けられる目が忘れられない。
降って湧いた理不尽に怒るより先に、悲しみが視線を曇らせる。
気づいた時、ロランは泣いていた。
周囲の海に溶けるように、流れる涙が視線を曇らせる。
……だが、小さな魔術師は決して俯くことはしなかった。
「そう……なら、ぼくは負けないよ」
悲しみを知らぬオウガ・オリジンに、ロランは宣言する。
同時に、その姿が変わっていく。
忌むべき力。月光を纏うハイイロオオカミへと姿を変えたロランは、それでもその力を制御しきった。
――――ほぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・ん。
悲しみを吐き出すように、或いは決意を示すように遠吠えを一つ。
不思議の国の迷宮に反響する声が、ロランの魔力を迷宮に伝える。
響く音に耳を澄ませたロランは、徐々に迷宮の構造を理解していくのだった。
(こんなぼくと一緒に居てくれる人たちを、傷付けない為に……守りたいから)
狼の四肢を持って地面を蹴り、ロランは走り出す。
(だから、この力を、使いこなすの)
決意を胸に、悲しみを知らぬ影を倒すために。
●馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)の怒り
馬県・義透は悪霊だ。
それも4人の男が死んだ際、1人の悪霊として蘇った存在である。
生前から戦友だった4人であるが故に、涙の海が呼び起こす記憶も、彼らが共通して抱く一つの記憶だ。
「この時期だからの、半ば予想はしておったが……」
奇しくも、今は4人の命日が近い。
彼らが死んだ日……オブリビオンによって故郷が永遠に失われた日だ。
細めた目から流れる涙を拭った時、迷宮を抜けて義透を襲う影があった。
「ぐっ……!」
咄嗟に腕をかざせば、そこに噛み付くのは魚型のオウガだった。
腕に突き刺さった牙は、即座に毒針へと変じて激痛をもたらす。
迷宮の向こう。オウガ・オリジンが猟兵を葬るべく放った攻撃が、義透を襲ったのだった。
「は、ははは!」
だが、それに対して義透は笑う。気付けに丁度いいと言わんばかりに豪快に。
悲しみを思い出すとも、彼の、彼らのやることは変わらない。
「故郷を滅ぼされ、死んで……こうなっても『生きて』おるのならば。前に進むがわしの心よ!」
そうして彼らの姿が変ずる。
人の姿から、より大きく恐ろしい……翼を持った虎の姿に。
オウガ・オリジンの力は、他の世界をも侵しかねない恐ろしいものだ。
もしそれによって誰かの故郷が失われるなら。……あの悲しみを誰かが味わうのなら。
それを止める為に、戦ってみせよう。
「見せてやろう……我らの怒りを」
虎となった義透から放たれる雷が、噛み付いたままのオウガを焼き殺す。
それを振り払うと、義透は翼で海を打ち、迷宮を飛翔するのだった。
●地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)の後悔
呼び起こされる記憶が何なのか、最初から分かっていた。
むしろ、思い出さなかったことなど無いと言って良い。
院長先生とちびたち……血は繋がらなくとも本物の家族だった彼らを皆殺しにされて、兄の心を奪われた日の記憶。
今だって悔しくて泣きたくなる。
この記憶が呼び覚ますのは悲しみだけではない。
――――俺に力があれば先生たちは死ななかった。
――――兄貴だって俺を庇って心が喰われることもなかった……
その後悔と怒りこそが、凌牙の力の根源。
「許さねえ……俺の大事なモノを奪った奴らも、人を理不尽に踏みにじる連中も!」
滲む視界に飛び込んだ、魚型のオウガを拳の一撃で叩き潰す。
続けて襲い来る二匹目に噛みつかれるが、凌牙を止めることは出来ない。
傷口から吹き出る地獄の炎は、凌牙の怒りの代行とでもいうようにオウガを焼き尽くし、あふれる涙よりも雄弁に彼の感情を語る。
「待ってろ……今、報いを受けさせてやる!」
●迷宮を抜けて
「む……?」
迷宮に猟兵たちを閉じ込めたオウガ・オリジンが訝しげに声を上げた。
何者かが迷宮を駆け抜けてくるのを感じ取ったのだ。
まさか、何処の馬とも知れぬ猟兵どもが、己の作り出した迷宮をこうまで簡単に攻略できるなど……
自身の力を疑わぬ傲慢さは、あっさりと猟兵に先手を取られると言う形で彼自身に襲いかかってきた。
おぉぉぉ……ん―――――
響くのは狼の遠吠え。
不思議の国が重なり合った、上下左右すら不確かな迷路。
「見つけた……オウガ・オリジン」
そこから飛び出してきたハイイロオオカミ……ロランは一息にオウガ・オリジンの懐へ飛び込むと、全力を込めた遠吠えを放つ。
「が、ああ……ッ!」
魔力を載せた音の一撃。至近距離からそれを受けたオウガ・オリジンは抵抗すら出来ず海底へと叩きつけられた。
「おのれ、貴様……!」
ダメージを負ったためか、ロランの背後で迷宮が解除されていく。
不意を打って叩き込んだロランの一撃は、それほどのダメージをオブリビオンへと与えていた。
「牙魚どもよ……あの愚か者を始末しろ!」
即座に立て直そうとロランを睨みつけるオウガ。次の瞬間、オウガ・オリジンの纏う影の中から無数の魚型オウガがロランに襲いかかる。
「はっ、遅いのう!」
次の瞬間、魚型オウガたちは雷によってまとめて討たれた。
海中であるにも関わらず、味方を襲うこと無く荒れ狂う雷。
それを放つのは、翼を持つ虎となった義透だった。
「ケダモノどもが……、ぐあっ!」
その姿に悪態を吐く暇も無い。
動くこと、雷霆の如く。
虎となって圧倒的な速度を得た義透は、音すら置き去りにする速さを持ってオウガへと接近。爪による一撃でその身を引き裂く。
「この涙の海は厄介だが……どれだけ過去を思い出そうがわしのやる事は変わらん」
反撃として放たれた魚型を躱し、お返しとばかりに雷を放ち。
「貴様のせいで涙を流すものが居るならば、わしは止めるぞ」
「……ああ。確かに、やることは一つだな」
そして、義透と同じく、ロランによって迷宮が解除されたことで凌牙もまた、この場に駆けつけていた。
翠の瞳が目の前の影……オウガ・オリジンを射抜く。
「てめえにもアリスたちを苦しませた報いを受けてもらうぜ!」
「笑わせるな!」
握りしめた拳に炎を纏い、オウガ・オリジンへと踏み込む凌牙。
それに対して、オウガ・オリジンは身にまとう影の中から獅子の爪や狼の牙……配下であるオウガの一部を繰り出して迎撃する。
本体は動かず、影から伸びたオウガの腕で攻撃するオリジンと、自らの拳を振りかぶる凌牙。
獣の爪が凌牙を抉れば、凌牙の炎がオリジンの配下を焼き尽くす……
数十秒に渡る近接戦は、オウガ・オリジンの優勢に進んでいた。
凌牙が既に多くの傷を負っているのに対し、オリジンは地獄の炎に焼かれた配下を使い捨てる形で自分へのダメージを防いでいる。
その差があるにも関わらず……オウガ・オリジンは無意識に後ろに下がろうとしていた。
「雑兵が…何故退かない!?これだけ切り裂かれても、何故ここまでしつこいのだ!」
「うるせえ!やる事は変わらねえって言っただろうが!」
そして、ついに凌牙の拳がオリジン本体へと届く。
それは掠るような一発だったが、それによってオリジンはついに後ろへと飛び退いた。
理解できぬ恐怖に、本能が退くことを選んだのだ。
だが、それに待ったを掛ける2人が居た。
「逃さない、よ……!」
月光を纏う狼が飛びかかり、至近距離からの遠吠えでオウガを叩きつける。
そこへ即座に割り込んだ翼を持つ虎が、その牙を突き立て、全力の雷撃を叩き込んだ。
「はっ!ここまでの大言を吐いておいて逃げるのは、格好が付かなかろう!」
ロランと義透の連携が、オウガをその場に縫い付ける。
これまでにないダメージに、オリジンにも既に余裕は無い。
「が、ああああ!」
破れかぶれになって暴れながら、配下のオウガを繰り出すオリジン。
だがその前に、黒き竜が荒れ狂う嵐の如きオウガの懐へと踏み込んだ。
「ようやく捕まえた……!まずはこの一発だ!報いを受けろ!」
地獄の炎を纏った一撃。それは確かに、オウガ・オリジンの顔面を撃ち抜いた。
大成功
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尖晶・十紀
アドリブ歓迎
悲しい思い出なんて……そんな。
こ、れは。施設を抜け出して彷徨ってたときの。ある拠点の一団に、匿ってもらってたときの……。そうだ、レイダーが皆を襲って……助けるために、カグツチの能力を使って……そして、拒絶された。化物。馬の骨。血が燃えるなんて気味が悪い。触るな毒が移る……
うるさい……うるさいうるさい……!この力は、姉さん達から受け継いだ、大切な力なんだ……!化物だなんて、呼ばせるものか!
あの日以来、封じていた力を解放しろ……竜の翼による飛行能力で、一気に水面まで昇れ。
拷問具の攻撃さえも激痛耐性で無理やり耐えきって、異能のトリガーに。
海水ごと、蒸発しろ……!
シホ・エーデルワイス
信じていた人から誹謗中傷された事を思い出す
私はその人に良くしてもらい感謝していた
長く苦しい時も信じて待てたのは
一緒に待ってくれたから
だから…
やっと待ち望んだ機会が来た時
その人が私を悪く穿って解釈し
立場と権限を利用して公の場で一方的に話し
私に反論の余地を与えず去り
折角の機会が台無しになって
とても悲しかった
何故
その人にとっても不利益になる事を?
考えても見当すら付かず
聞いても返事は無く…
絶望で心が折れなかったのは親友が支えてくれたから
親友は忙しい中
時間を割いて私の話を聞き励まし私を擁護して
悲しみの海から私を引き上げてくれた
そう
泣いてなんかいられない!
私を必要としてくれる人がいる限り
私は戦い助けます!
「おのれ……よくも、この私に傷を……ッ!」
影の奥、怒りをにじませるオウガ・オリジンが迫る猟兵たちに取った行動は明確だった。
「鏡の女王よ!猟兵共を足止めしろ!」
再び、猟兵たちを閉じ込めんと不思議の国で作られた迷宮が構築される。
これまでと違っていたのは、その迷宮が一面の鏡張りであったことだ。
「待てっ!」
眼前を閉ざさんとする鏡の壁を咄嗟に破壊しようとする猟兵たち。
パリン、とあまりにもあっけなく割れたその鏡。舞い散る破片の中から覗いたのは、自らの物ではない……嗜虐的な視線だった。
●尖晶・十紀(クリムゾン・ファイアリービート・f24470)の嘆き
『涙の海』は悲しみの記憶を想起させる。
十紀の脳裏に浮かび上がった情景は、アポカリプスヘル……自らが生まれた世界。
そこには確かに、温かいものがあった。施設を抜け出した自分を受け入れてくれた人たちが居たのだ。
「これは…この場面は……」
映し出される情景は進む。
彼らがレイダーに襲われる光景。このままでは、皆がひどい目に会ってしまう。だけど、自分には……
「『貴方は何故戦うのかしら?』」
涙で滲んだ視界。その先には『鏡の女王』がニタリと笑っていた。
「なぜ、って。そんな……」
そして、彼らを守るために『力』を使う自分。
……結果、レイダーたちを焼き払った先に有ったのは、拒絶だった。
―――――化け物。
その言葉は、十紀の全てを否定するかのような拒絶と共に放たれた。
「……うるさい……うるさいうるさい……!」
過去の記憶を振り払うように、唇を噛みしめる。
そんな彼女を嘲笑い、鏡の女王は問いかけるのだった。
「ほら、答えなさい?『何故戦うの?』こんなに拒絶されたのに、なんで性懲りもなく戦うのかしら?」
十紀の記憶を覗いたかのように嗤う女王に、彼女は自らの血を燃やして襲いかかった。
●シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)の理由
転送されたシホの脳裏に浮かび上がるのは、今を以て分からない、拒絶の記憶。
シホには恩人が居た。確かに彼女への感謝があった。
……だが、それを踏みにじられた。
公の場で、立場と権限を持って非難された記憶。
反論も、そうした理由を聞くことすら出来ずに、相手との関係はそこで終わってしまった。
なぜ、そうなったのかシホには未だに理解できない。
何故か罵られて、縁も切られそうになって。
ただ、もう元には戻れないのだという絶望だけが残されて。
強制的に思い出された記憶に、涙が止まらない。
だが、そんな中でオラトリオの少女は武器を取った。
白と黒。十字の意匠を持つ、二丁の愛銃を。
●『鏡の国の女王』を超えて
「っ、ああ……っ!」
鏡の女王が持つ拷問具……無数の棘を備えた鞭が十紀を打ち据えた。
敢えてダメージよりも苦痛を優先したその悪意が、肌を切り裂き血を滲ませる。
「あははっ、化け物なんて呼ばれてまで戦ってるのに、そんなもの?」
「うるさい!この力は、姉さん達から受け継いだ、大切な力なんだ……!化物だなんて、呼ばせるものか!」
痛みはいくらでも耐えられる。
だが、このオブリビオンに自らの力を嗤われるのは我慢ならなかった。
実際の所、力では十紀が勝っている。既に鏡の女王は、何度も致命傷に近いダメージを負っていた。
だが、彼女はオウガ・オリジンのユーベルコードそのものだ。彼女の問いかけを受け入れずに否定するだけでは、鏡の女王は何度でも襲いかかって来る。
「全く、『なんでそこまで傷だらけになっても戦うのかしら?』……答えられないなら、ここで死になさいな」
何度目かの復活の後、拷問具を構える鏡の女王。
そこに、光の魔力が銃弾となって襲いかかる。
「させません!」
撃ち抜かれる女王。だが、彼女は平然と襲撃者……シホへと振り返ると、泰然と問いかけた。
「また猟兵が一人、そんなに泣きながら……。絶望に心が折れたというのに、『貴方は何故戦うのかしら?』」
その問いかけに、袖で涙を拭うとシホは銃口と共に答えを突き返す。
「私が戦うのは、私を必要としてくれる人がいるから!」
過去の記憶。
公の場で罵られ、多くの人に誤解を受けて。
それでも支えてくれた親友が居た。絶望にうつむく自分を信じてくれた人が居た。
ならば、泣いている暇など無い。心に悲しみが満ちても、涙で視界が歪んでも。
そ友に応えるためにも、目の前の人を助ける為に戦う事に躊躇いは無い。
「一曲捧げましょう、鏡の国の女王」
十字の発射炎が銃口から煌めき、歌うようなリズムで銃弾が襲う。
その攻撃に、明確に女王が怯んだ。
過去と向き合い、答えを返したシホの攻撃が女王に痛打を与えたのだ。
そして、十紀はその隙を見逃さなかった。
「……解放しろ」
それは、あの日以来封じていた力。
血を流した腕が、燃え盛る翼へと変異する。
その一振りが海を撃ち、十紀の身体を一瞬で海面へと上昇させた。
「っ!待ちなさい!」
迷宮を突き破って無理やり上昇する彼女を、砕けた迷宮の破片を通じて女王が追いかける。
だが、それも遅い。
「灰塵と化せ、この身さえも」
女王の問いかけも、涙の海がもたらす悲しみも。
全てを否定するかのように、竜の翼が燃え上がる。
次の瞬間放たれた熱量は、鏡の女王も呑み込んで涙の海を突き破った。
「涙の海ごと蒸発しろ…!オウガ・オリジン……!」
十紀の怒りに、海水が蒸発。目の前が白で覆われて……
●オウガ・オリジンの終焉
「なんだと……?」
自らが放ったユーベルコード、鏡の国の女王が破られたのを感知したのも束の間。
次の瞬間には、猟兵たちを閉じ込めていた迷宮が破壊された。
「馬鹿な……!」
簡単には壊されぬだけの強度を保っていた迷宮を突き破ったのは、涙の海でさえ消しきれぬ炎。
十紀の放った紅蓮の炎はそのままオウガ・オリジンを焼き払う。
「が、ああああっ!」
涙の海を操り、自らを焼く炎を消そうとするオウガ。
だが、既に彼女には、シホの銃口が突きつけられていた。
「さようなら、オウガ・オリジン。あなたの魂に救いあれ」
銃声。
抵抗も許さず、オウガ・オリジンは躯の海へと還った。
オウガが破れ、猟兵たちが去った涙の海は、悲しげな色とともに静寂を取り戻すのだった。
大成功
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