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迷宮災厄戦⑱-7〜何でもなかったはずの日のパーティー

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン

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 そこは色鮮やかな花が咲き乱れ、お菓子や紅茶がそこかしこに実る不思議の国。
 開けた草原へ辿り着いた時計ウサギや愉快な仲間達が、早速お茶会をと集まりだした――そのときだった。
「『はじまりのアリス』にして『はじまりのオウガ』であるこのわたしを抜きにして……一体どんなパーティーを始めるつもりだ?」
 そんな地を這うような声が響き、途端にお茶会の準備は中止される。
 びくりと縮み上がった仲間達が声のした方を振り向けば、そこには大きな怪物――などではなく、愛らしいエプロンドレスに身を包んだ少女の姿だけがあった。

 しかし、仲間達は準備を再開しない。
 夜空のようなリボン、愛らしく艷やかな金髪の下で、のっぺりとした黒がにたりと笑う。固まっていた彼等はその殺気に慄いて、あっという間に四方へ散ってしまう。
 残された少女『オウガ・オリジン』は、表情の見えない顔で呆れたような溜め息をついた。
「……パーティーかと思えば、ただの鬼ごっこではないか。まあ、良い。『わたし』はたくさんいるのだからな」

 草原の中心ではじまる光景に、逃げ隠れた時計ウサギ、木々の間から覗く愉快な仲間達、そして偶然迷い込んでしまったアリスが揃って小さな悲鳴を上げる。
「アリス達よ、逃げても無駄だ! その血肉はこのわたしの、『わたし達』の腹を満たすために在るのだからな!」

 そうして、平和だった筈の不思議の国は、一瞬にして惨劇の舞台へと変わってしまった。



「……皆、遂に『オウガ・オリジン』の居る場所への道が拓けた。まずはお疲れ様、と言いたいところなのだけれど……今見てもらった通り、ある不思議の国が大変なことになっている」
 モニターを掲げたまま、ネルウェザ・イェルドット(彼の娘・f21838)はやや早口でそう語る。
 映像の最後に映ったのは『オウガ・オリジン』――その禍々しい姿が幾つにも分かれ、少女の大群となって国のあちこちへ駆けていく光景であった。

「このままでは先ず、迷い込んだアリス達の命が危ない。それにオウガ・オリジンは忠臣ですら戯れで殺すような性格の持ち主だ。腹さえ膨れれば、次は彼女無しでパーティーを始めようとした愉快な仲間達も殺してしまうかもしれない」
 つまりは、いまこの不思議の国に居る全ての者が危険な状況になっている。
 ネルウェザは真剣な顔でそう告げて、モニターの映像を切り替えながら話を続けた。
「討伐対象は勿論、この不思議の国で増えたオウガ・オリジン全て。数は多いけれど、その分少しこちらに有利な点がある」
 その言葉とともにモニターへ映ったのは、二人のオウガ・オリジン。
 瓜二つの姿に同じ真っ黒な顔をした少女達は、真正面で向かい合って何かをわあぎゃあと言い合っているように見えた。
「オウガ・オリジンは鬼畜にして自己中心的。うまく罠に嵌めてしまえば仲間内で自滅させることも可能だろうし、何より連携なんかちっとも取れやしない。分裂した彼女達は本来のオウガ・オリジンよりも能力は劣っているから、ある意味では倒しやすいかもしれないね」

 ――とはいえ油断は禁物だ。
 念を押すように付け加えつつ、ネルウェザは早速グリモアを浮かべた。
「……時間がない。準備が出来たら転送するよ」
 くるりくるりと回り光るグリモアは、猟兵の視界を真っ白に染めて輝きを強めていく。
 健闘を祈る。その言葉が響くのを最後に、猟兵達の身体はアリスラビリンスへと転送されていった。


みかろっと
 こんにちは、みかろっとと申します。
 今回はアリスラビリンスにて『オウガ・オリジン』での戦いです。
 こちらは『集団戦』一章のみ、戦争シナリオとなります。

 敵は増殖したオウガ・オリジンです。
 通常時よりも少しだけ弱体化した個体が沢山居り、不思議の国に散らばるアリスや愉快な仲間達を追って殺そうとしています。
 数は多いですが彼女達に連携する能力は殆どありません。
 ちょっとしたことでも喧嘩したり仲間割れしたりすれば自滅しますので、それを利用すれば有利に戦うことができるはずです。

 皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『『オウガ・オリジン』と無限増殖』

POW   :    トランプストーム
【鋭い刃のような縁を持つ無数のトランプ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    わたしをお前の血で癒せ
自身の身体部位ひとつを【ライオン型オウガ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    フラストレーション・トルーパーズ
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【トランプ兵】が召喚される。トランプ兵は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。

イラスト:飴茶屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒影・兵庫
(頭の中の教導虫と作戦会議を始める)
(「さて黒影、どう戦う?」)
そりゃもちろん同士討ちを仕組みます!
(「ほぉそれはどうやって?」)
まず『第六感』を『限界突破』レベルまで高めて敵の攻撃に『衝撃波』で迎撃、発生した砂塵に紛れて『迷彩』を施した『オーラ防御』壁で身を護りながら『目立たない』ように隠れます!
その後『念動力』で{皇糸虫}を操作し敵の足に絡めたり敵のトランプを操作して服を破いたりして他の自分に敵意が向くように仕掛けます!
(「なるほど、で成功率は?」)
俺だけでは50%ですが、せんせーと一緒なので100%です!
(「よっしゃ!作成開始よ!黒影!」)
はい、せんせー!
(UC【脳内教室】発動)



 大小様々な影が蠢き、足音と悲鳴が響く不思議の国――甘く香る、草木の間。
 喧騒の元凶『オウガ・オリジン』を見遣る青年は、頭の中で響く声に耳を傾けていた。
(「さて黒影、どう戦う?」)
 敢えて、彼に考えさせるような問い。優しくも凛としたその声に、黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)はにっと笑って手を挙げて。
「そりゃもちろん同士討ちを仕組みます!」
 答えれば、「ほぉ」と彼の頭の中の声――教導虫『スクイリア』が相槌を打った。

 彼女が詳細を掘り下げれば、兵庫は次々その作戦を説明する。
 始めから終わりまで、長い数式をひとつひとつ解くように。まるで授業のような、教室の中のような問答を繰り広げたのち、スクイリアは頷いて再び問いかけた。
(「なるほど、で成功率は?」)
「俺だけでは50%――」
 それで終わる筈がない。そんなスクイリアの期待通り、兵庫の言葉は続く。
「――ですが、せんせーと一緒なので100%です!」
(「よっしゃ!」)
 一際テンションの上がった『せんせー』の声に、兵庫もぐっと小さく拳を握った。

 明日のクリームコロッケに胸を躍らせた兵庫の感情が伝わったか否か。
 スクイリアは声を弾ませたまま、兵庫の背を押すように呼びかけた。
(「作戦開始よ! 黒影!」)
「はい、せんせー!」



 それは傍から見れば、可愛らしい少女たちの鬼ごっこ。
「――往生際が悪いぞ、アリス!!」
「おのれ、いつまで逃げるつもりだ!」
「いやぁああああ!!!」
 その実態は、腹を空かせた獅子の群れがか弱い兎を狙うそれに酷似していた。

(「――今!」)
 真っ黒な手がアリスの首を摑もうとしたそこへ――突如、ズドン!! と凄まじい衝撃が迸る。途端、真下に広がっていたパステルカラーの草花が舞い、その下の土が砂埃となって彼女等の視界を覆った。
「ッ!!?」
 衝撃の源――同時に間へ割り込んだ兵庫の姿が視認されなかったのは言うまでもない。
 残響と悪路、砂塗れの視界にオウガ・オリジン達が呻く中、兵庫はアリスを連れて近くの岩陰へと飛び込んだ。

(「黒影、次はどうする?」)
 頭の中で響くスクイリアの声に先程告げた内容を繰り返し、兵庫は素早く周囲へ壁を作り出す。
 身を護り、そして姿を隠す壁。順調に進む作戦にスクイリアが頷くのを聞いて、兵庫の手は更に複雑に動き出した。

「おのれ……おのれ、一体何だ!!」
「アリスめ、いい加減わたしの腹を満たせ!」
 怒り狂う声にひっと少女が悲鳴を漏らすと同時、オウガ・オリジン達は舌打ちを響かせ、見えぬ歯を軋らせる。そして彼女達は何処からとも無くトランプを取り出すと――その足元へきらりと細い糸が光ったことには気づかず――半ばやけになった様子でそれを放った。
 トランプは鋭く空気を鳴らし、草木を割いて辺りを舞う。
 数を増していくそれが細い糸――『皇糸虫』に触れた瞬間、兵庫はその両端を不可視の力で勢いよく引いた。

 糸に弾かれ軌道を変えたトランプが、オウガ・オリジンの右髪を切り落とす。
「……何?」
 オウガ・オリジンが横を見遣る一瞬に、兵庫が更に糸にかかったトランプの軌道を捻じ曲げれば。
 次の瞬間、艷やかな金髪はばっさりと切り落とされ、愛らしいエプロンドレスは幾つもの裂け目を作ってみすぼらしく変わっていた。
 オウガ・オリジンに兵庫の姿は見えていない。彼女の右横に居るのは瓜二つの姿をした少女――もうひとりの自分だ。
「ど、どういうつもりだ!?」
「……? 何の話だ」
「恍けるな!!!! わたしの髪を、服を切り裂いただろう!」
 声を荒げ怒るオウガ・オリジンに、最早正常な判断力など残っていないだろう。
 仕上げに兵庫が糸を伸ばし、彼女の足をひゅっと引っ掛ければ――ぼろぼろの少女は見事な宙返りを見せ、そのまま地面へ叩きつけられてしまう。
 屈辱。羞恥。それによる、怒り。少女はわなわな肩を震わせ、近くの雑草を抜き放った。
「おのれ……おのれおのれおのれ!! 裏切ったうえ、このわたしを愚弄するか!!」
「だから何の話だ!? 気でも狂ったか!」
 うるさい、と立ち上がったオウガ・オリジン、そして困惑するオウガ・オリジンが、ほぼ同時に互いに向けて無数のトランプを投げ放つ。
 幾重にも斬撃音が響いた直後――二人は躰に細くも大量の傷を刻まれ、呆気なくその場に倒れ付してしまった。

 砂埃が完全に晴れ、骸の海へ還るふたりの少女の影を見送って。
 兵庫はアリスに何度も礼を述べられながら、頭の中の『せんせー』と互いを労うように言葉を交わすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)楽しいことになってんなァ。望みのままに増えて増えすぎて殺し合ってるンか。ひひっ、人間らしいねぇ。かわいいこった。
行動)仲間が挑発してくる幻覚を見せて同士討ちさせよう。定番っちゃア定番だが、そんだけ有効な攻撃ってことさ。もちろん俺自身は姿を見せねえ。デケェ《虫》の背に乗って、空の高いとこに避難する。弱いンでな。弱者の戦法さ。なァに、《鳥・獣》の目を通して戦場を観察しながら、小鳥たちでひっかきまわしてやるさ。



 己の望む儘に、感情の動く侭に影を増やした少女達。
 それは彼女等の『思い通り』であっただろうに、無数の影からは楽しげに笑う声などひとつも聞こえては来なかった。
 望んでも望んでも、次の望みが叶わないことに腹を立てる。
 そうして怒号を上げ、足音ばかりを鳴らし、時に互いでいがみ合って刃を向ける。
 そんな、――人間を捨てた筈の存在が見せる――嫌な人間らしさに。
「ひひっ、かわいいこった」
 淡い色の樹の影で、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が小さく笑う。
 彼が見つめていたのは、三人集って辺りを見回すオウガ・オリジン達の姿であった。

「――おのれ、糧の分際でまだ逃げるか」
「だがわたしたちが三人も居れば、搦手でも何でも使えるだろう」
「違いない……が、まさか『わたし』よ、このわたしより先に喰うつもりでは無いだろうな?」
 ――まさか!
 冗談のように揃ってふたりが手を広げる様に、最後に問いかけたオウガ・オリジンがやや不満げに、しかし一応納得したように腕を組む。
 あの様子では、アリスを見つけた途端に全員が我先にと飛びつくことだろう。

 脆く浅い仲間意識の中で行われる、人間臭くて稚拙な駆け引き。
 逢真は身を潜めたまま、笑い声が溢れるのを殺して呟いた。
「ひ、ひ……――はァ。まったく、楽しいお嬢さん達だ」
 このまま見ていても飽きない、かもしれないが――このままアリスの犠牲を、死人を無闇に増やされるのを見過ごすわけにも行かない。
 彼は何処からとも無く現れた『虫』の背に乗ると、そのまま空へ上昇を始める。
 段々小さくなっていくオウガ・オリジン達の影を見遣ったまま、彼は小さく口を動かした。
「さァ……良いゆめでも見せてやンな」
 羽音の中でその声が響けば、ふわり、と逢真の手から三つの気配が飛び立っていく。
 霊体で喚び出された『夢見の小鳥』はオウガ・オリジンの元へ舞い降りると、くるりくるりと彼女達を囲んでその力を放ち始めた。

「……?」
 その気配に気づいたひとりのオウガ・オリジンがぐるりと首を回す。
 しかし、そこにいるのは自分と同じ姿の少女ふたりだけ。辺りの草木の影に鳥や獣の気配も感じるが、アリスではない其れに興味はない。
 まあ良い――そう意識をアリス探しに戻しかけた、その時であった。

『わたしはもう二人喰ったというのに、まだ腹を空かせているのか?』
「何!?」
 突然声を荒げたオウガ・オリジンに、二人の不思議そうな視線が向く。
 彼女達を囲む鳥や獣――その目を通して上空からそれを眺める逢真がくいくいと静かに指を動かし、小鳥をまたひとつ羽ばたかせれば。
「アリスを見つけたのか!? 何故言わなかった!?」
『いくらわたしと言えど、分け与えるなど勿体無いことをするわけないだろう』
「何の話だ? まだ一人も見つけていないのに」
『まさか他の『わたし』の力を借りなければ、自分の腹も満たせないのか』
「誰が」『わたしの為に』「五月蝿い」『ああ、なんて愚か!』――

 ――白昼夢が混じり、噛み合わない会話が続き、彼女達の苛立ちは増していく。
 やがて少女の足がひとつ、強く地面を叩いた瞬間。
「もう良い、わたしだろうと何だろうと、仲間など要らん!!」
 獣の吠え声のように声が響くと共に、大量のトランプ兵がばっと現れる。三人がほぼ同時に同じ力を使った故か、辺りは百をゆうに超えるトランプ兵で埋め尽くされてしまった。

 当然、その数の中から自分のトランプ兵を見分ける余裕などない。トランプ兵も同様にどれが仲間で、どの少女が自分の主であるかなどすぐに判断できなくなっていた。
 それでも、怒り狂うオウガ・オリジンは号令を上げる。
 忠実な兵たちは混乱しながらもその声に応じ――一斉に各々の攻撃を繰り出した。

 上空の逢真がわァ、と声を上げた頃には。
 オウガ・オリジン達は喚び出したトランプ兵諸共、槍に腹を貫かれて動きを止める。
 力尽きたトランプ兵が花弁のように散っていく中で、彼女達は三人仲良く揃って断末魔を上げ、骸の海へと還っていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
分裂までするとは……なんでもありですね。

かなり短気のようですし、愉快な仲間たちを追うのを妨害しに来ただけでトランプ兵が召喚されそうですね。

【吹雪の支配者】で愉快な仲間たちが用意したお茶会の道具などを吹雪へと変換、トランプ兵たちを凍てつかせます。

オウガ・オリジンが複数いてそれぞれがトランプ兵を召喚するとなるとかなりの数、障害物としては十分です。
凍り付いた兵隊を盾にするように立ち回りオウガ・オリジンから逃げつつ遠距離からフィンブルヴェトで敵を狙いましょう。

邪魔なトランプ兵やそれを召喚した他のオウガ・オリジンに苛立ちを感じたらそれで終わりです。お互いにトランプ兵を召喚しあって争ってもらいましょう。



 少女の影が増える、増える。
 分かれても尚アリスを求めてまた数を増やし、虱潰しに探し続ける。
 それだけ飢えたオウガ・オリジンの分身達は、ただ目の前を横切っただけの愉快な仲間達にさえ怒りを露わにし、殺意を持って追い回し始めていた。

「分裂までするとは……なんでもありですね」
 猟書家が世界を征服する手段として奪おうと目論んだ程の力――その実態に言葉を零しつつ、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)はオウガ・オリジンとそれに追われる水色のハリネズミを見遣る。
 オウガ・オリジン達の様子を見る限り、その性格はかなりの短気と見て間違いないだろう。
 ――ならば。
「おっ、お助けぇぇ!!!」
 ハリネズミが必死な声を上げる、そのすぐ後ろ。
 セルマが静かに手元の銃をひとつ構え、その引き金に指を掛ければ――銃弾はまさにハリネズミに追いつこうとしていたオウガ・オリジンの足元へと炸裂した。

 当然オウガ・オリジンは思わず足を止め、そして。
「おのれ、おのれ……! 誰だ、このわたしを邪魔する愚か者は!!!」
 案の定怒りだし、ばっと手を広げる。途端に何十もの大きなトランプが出現すれば、それらひとつひとつが手足を生やし、槍を構え――兵士然とした姿に変わってオウガ・オリジンを囲んだ。
「さあ、出てこい!! 出てこないのなら……探し出して首を刎ねてくれる!」

 その声と共にトランプ兵達が動き出す中、セルマは自身の周囲、愉快な仲間達がお茶会にと用意していた道具へと目を向ける。
 ポットやカップ、ナイフやフォーク。それらをくるり見回し、間に逃げ遅れた愉快な仲間が混じっていないことを確認して――彼女は『吹雪の支配者』の力を隅まで伝わせた。

 道具は白く染まり、凍てつく冷気を纏って舞い上がる。その影でセルマが手をふわりと動かした瞬間、吹雪は大量のトランプ兵、そしてその中心のオウガ・オリジンに向かって勢いよく進みだした。
「――ッ、そこか!!!」
 風音にオウガ・オリジンが振り向くも、その視線は大きなトランプ兵に遮られてセルマに届かない。
 彼女がそれを退かそうと手を伸ばした瞬間、トランプ兵は地に縫い付けられるように固まり動きを止めてしまった。
「……!!? 何をしている、邪魔だ!! おい、誰かこいつの首も刎ねてしまえ!」
 怒りの滲む声でそう叫ぶも、駆けつけるトランプ兵はひとりもいない。オウガ・オリジンを囲むトランプ兵達は揃って吹雪に巻き込まれ、既に大量の壁となって沈黙していたのだ。
「く、そ……どこだ、どこだ!! ここまでわたしを愚弄するのは!!」

 当然、セルマは姿を現さない。彼女はトランプ兵の影でフィンブルヴェトを構え、その視界の中心へオウガ・オリジンの首元を確かに捉えていた。
「首を刎ねられるのは……そちらです」
 引き金を絞れば、弾丸が少女の首を貫く。
「――ッ!!!!」
 しかしその一撃では絶命しなかったか、周囲のトランプ兵達は未だ不動の壁となってこの場に存在し続けていた。

 ――そして。
「……なんだ、このトランプ達は!?」
「邪魔だ!! 一体誰だ、こんな鬱陶しい道を作ったのは!」
 続々と辿り着いた分身達がトランプ兵の残骸を見るなり口々に文句を垂れる。空腹で限界の思考はすぐに苛立ちに支配され、更に大量のトランプ兵を生んで暴走を始めた。
「ああ、出口は……出口はどこだ!」
「このわたしを、次はこんなところへ閉じ込めるつもりか!?」
 生きた迷路のように道を塞いでは槍を突き出し、縦横無尽に駆け回るトランプ兵とオウガ・オリジン達。その間にも吹雪は絶えずその間を駆け抜け続け、トランプ兵を凍らせては道を複雑に変えていった。
「……逃しませんよ」
 セルマは彼女達に見つからぬよう立ち回りつつ、タイミングを見計らって銃弾を放つ。

 やがて――遂に最初のオウガ・オリジンが息絶え、トランプの壁が消失した頃。
 オウガ・オリジンはあちこちでばたりと倒れ、無数のトランプと共に崩れ散っていく。
 吹雪と紙片が舞う草原の中、セルマは骸の海へ還るオウガ・オリジン達を見送り銃を収めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

姫川・芙美子
人間ではないとは言え、窮地に陥っている方々を知ってしまった以上見過ごす訳にはいきませんね。
【鬼事】使用。強化された【化術】でアリスオリジンと同じ姿に化けます。装備「黒帷子」の妖力で【闇に紛れ】戦場を暗躍します。
【追跡】で分身の背後に忍び寄り、背中を蹴り飛ばしたり髪を引っ張ったりして挑発。反撃される前に挑発的な笑みを残して【逃げ足】で逃走、再度闇に潜みます。同士討ちを誘うのです。
状況が混乱したら、その隙を突いて密かに分身を各個撃破。針の様に細く長く伸ばした「鬼髪」による死角からの【怪力】【貫通攻撃】。
数の不利を覆すにはゲリラ戦しかありません。影に隠れつつなるべく敵の数を減らしていきましょう。



 響き渡る悲鳴と足音。
 運悪くオウガ・オリジン達の琴線に触れてしまった愉快な仲間達が必死に逃げるその音で、不思議の国は平和とはかけ離れた騒がしさに包まれていた。
 姫川・芙美子(鬼子・f28908)が見つめる光景の中、助けを求め叫ぶのは――小さなカップやハリネズミといった『人間ではない』者達だ。
 思考や常識も人間のそれとは違うであろう彼等が、彼女の糧となる『感情』を生むか否かは定かではない。しかし――窮地に陥っているのであれば。彼等が助けを求めていて、助けるべき存在としてそこに在るのであれば。
「見過ごす訳にはいきませんね」
 黒髪をふわり後ろへ揺らし、芙美子はユーベルコードの力を纏って詠う。
 ――来たりて来やれ 手の鳴る方へ。
 彼女が『鬼事』の音を紡いだ瞬間――近くに潜んでいた愉快な仲間が、ひっと小さく悲鳴を上げた。

 芙美子を包んでいた黒く古風な学生服が、童話的な青いエプロンドレスへと形を変える。同時に彼女の黒髪が艷やかな金色へと変わり、表情の動かぬ顔がのっぺりとした黒に染まり――今まさに愉快な仲間達を脅かしている『オウガ・オリジン』と瓜二つの姿に化けていた。
 ――見た目は変われどその性質、扱う武装の力は変わっていない。
 エプロンドレスに化けた服の下、芙美子はその肌に纏う『黒帷子』の力を強めて木々の間へ駆け出した。



「ひーっ、だ、だれか! だれかたすけて!!!」
 白うさぎがそんな悲鳴を上げ、淡い色の森を走る。幾ら不規則な方向転換をしようと自分を追い続ける背後の少女に、うさぎはついにひぃひぃと息を切らし始めていた。
「無駄だ、わたしの前を横切ったことを後悔するがいい!!」
 うさぎを追う少女、オウガ・オリジンが僅かに上がったトーンでそう告げる。
 真っ黒な手が白い耳を掴もうとした瞬間――突如、オウガ・オリジンががくんと後方へ引かれて地面に尻をついた。
「な……何だ!?」
 ぐるり、振り向いた先に居たのは『自分と瓜二つの姿をした少女』。
「……何のつもりだ、『わたし』」
 表情の見えない真っ黒な顔に怒りを滲ませ、オウガ・オリジンはわなわなと肩を震わせながら立ち上がる。
「ああ、ああ、もう良い。そうだ、腹が減っていたのだ。腹を満たすのが『わたし』だろうと構わん!!」
 その顔がぐにゃりと歪み、獣の形へ変わろうとしたその時――オウガ・オリジンははっきりと読み取っていた。

 自分を転ばせた『わたし』が嘲笑う顔。挑発するようなその笑みを。

「…………!!!!!!!!!」
 オウガ・オリジンが獅子の顎を広げ、少女の首を食い千切らんと襲いかかる。
 しかし少女は――芙美子は、素早く踵を返して再び森の闇へと紛れていってしまった。
 当然、残されたオウガ・オリジンは殺意を膨らませる。
「絶対に……絶対に許さん! あの『わたし』だけは、どんな手を使ってでもこのわたしが首を刎ねてやる!!」
 ――そう声を荒げたのは、彼女だけではなかった。

 オウガ・オリジンが駆け出せば、すぐに別のオウガ・オリジンの姿が目に入る。
 丁度良い、癪だがここは協力してあいつを――そう声をかけようとした、のだが。
 自分と同じ姿をしたそれを見るや否や、オウガ・オリジンは鋭いトランプを投げ放つ。一体何を、と問う間もなく、周囲には三人の分身達が同じくトランプを構えて互いを狙い始めていた。
 ――芙美子は既に、彼女達全員に混乱の種を蒔き終えていたのだ。

 争い出したオウガ・オリジン達に、話し合って和解などといった選択肢は微塵もない。
 獅子の頭で噛み付き合い、トランプを放っては互いを傷つけ合う。芙美子は勝手に体力を削っていく彼女達の間に紛れ込むと、素早く『鬼髪』を構えて力を込めた。
「――う、ぐッ……!!?」
 ドスッ、と鈍い音が響き、ぼろぼろのオウガ・オリジン達は次々髪の槍に貫かれ息絶えていく。森の中に飛び交っていたトランプの嵐が勢いを弱める中、彼女達は納得の行かない様子のままで骸の海へと還っていった。

 とん、と地に降り立ち、芙美子が化術を解く。
 彼女がふと、周囲でかさかさと鳴る草木の方を見れば――白い耳が幾つも覗くそちらから、か弱くもはっきりと芙美子へ礼を述べる声が響くのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

緋月・透乃
いよいよオウガ・オリジンと戦えるんだね!
能力や特徴が何か思ったのと違うけれど、ま、色々能力あるらしいし、こういうのもありかな!

まずは持っているものを片っ端から食べて、【色々食べよう!】を防御力重視で発動するよ。
そして敵探しだね。出会った敵の数で対応を変えるよ。
1人なら普通に突っ込んでぶっ叩く!
2人以上いたらあえて気づかれてから防御重視の持久戦を狙うよ。
そして、適当なところで、
「これだけ時間をかければ、満足に食べるだけのアリスはもう残っていないかもねー。私の相手をしていてもいいのかなー?」
等と言って食べ物の取り合いによる同士討ちを狙ってみよう。後は漁夫の利を狙うだけだね。



 数々のアリス達を喰らい、犠牲にしてきた『はじまりのオウガ』。
 アリスラビリンスに於ける災厄の根源を前に、緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)は意気込んだ笑みを浮かべていた。
「いよいよオウガ・オリジンと戦えるんだね! それじゃ早速――」
 彼女が意気揚々と取り出したのは悪を討つ刃――ではなく、しっとりとした海苔に包まれたおにぎり、こんがりと上手に焼けているお肉、そして大きな大きなにんじん。
 物陰に潜んでいた愉快な仲間が思わずじゅるりと涎を垂らす中、透乃はその手に持った物を片っ端から次々もぐもぐと食べ始めた。
 大きなにんじんは一旦横に立て掛け、柔らかな米や肉の食感を楽しみながら、もぐもぐ、むぐむぐと――数分もしないうちに沢山の食べ物を飲み込んで、ユーベルコードで護りの力に変換する。そして透乃は置いていたにんじんを携え、準備万端、といった表情で勢いよく駆け出した。

 彼女の向かう先は、ひとりの少女がうさぎを追って駆け回る草原。
 金色の髪に真っ黒な顔、そして隠す気もない禍々しい気配――ひと目で『オウガ・オリジン』だと分かるその姿を目指し、透乃はだんだんと速度を上げていく。
 オウガ・オリジンより先にその足音に気づいたうさぎは、ぶぶぅっと悲鳴のように鼻を鳴らして突如透乃の方へ逃げる向きを変えた。
「今助けるよ!」
 そう笑みを見せ、うさぎとすれ違って。
 透乃は食べずに握っていた巨大にんじん『シンカーキャロット』を大胆に振り上げ――うさぎのすぐ後ろに迫っていたオウガ・オリジンの腹へ叩き込んだ。
「――なっ、……ッ!?」
 鈍い音がひとつ響き、真っ黒な顔が空気のかたまりを吐いて呻く。思い切り真後ろへ飛ばされたオウガ・オリジンは宙でどうにか体勢を整え、よろめきながらも二本の足で着地した。
「なんのつもりだ……このわたしを、殴り飛ばすなど……!!」
 ぎりりと歯軋りを鳴らし、オウガ・オリジンは透乃を睨む。彼女が殺意を露わにトランプを取り出すも、透乃はシンカーキャロットを構えたまま正面から突っ込んだ。
「せやぁっ!!」
「――愚か者め!!」
 ひゅっ、とオウガ・オリジンのトランプが空気を鳴らし、透乃に向かって直進する。鋭く光る札の端は刃となって透乃の身を切り刻もうとする、が――透乃が素早くシンカーキャロットをぐるりと回せば、トランプは易々とその風圧に巻き込まれて四方へ散ってしまった。
「ちっ」
 オウガ・オリジンが舌打ちを響かせ再びトランプを放つ。
 だが、小さな刃は巨大なにんじんを吹き飛ばすにはあまりにも軽く、薄すぎた。

「これでっ……!」
 透乃は一気にオウガ・オリジンに肉薄し、シンカーキャロットの打撃を再び繰り出す。
 橙の塊がどごっ、と重い音を響かせオウガ・オリジンの身体を捉えれば、少女は度重なる痛みに耐えかねたか、遂に受け身も取れずに地面へ転がってしまった。

 オウガ・オリジンは激しく咳き込み、よろよろと立ち上がりながら怨嗟を吐く。透乃がそちらへ近づく中、ふと――ふたりの近くで、急ぎ気味の足音がひとつ響く。
 音の主はまた別のオウガ・オリジン。あちらは苛立ちこそしているものの未だ無傷のまま、アリスを求めて草原を駆け回っていた。
 透乃は手負いのオウガ・オリジンを唆すように、にまっと微笑んで口を開く。
「ここで時間を使ってるうちにほかのオウガ・オリジンがアリスを食べちゃったら、あんたが満足に食べるだけのアリスはもう残っていないかもねー」
「……!!」
 私の相手をしていてもいいのかなー? と続ければ、オウガ・オリジンは残りの力を振り絞り――無傷の、もうひとりのオウガ・オリジンの方へ駆け出す。

「このわたしより先にアリスを喰うなど……許さんぞ!!」
 ぼろぼろのオウガ・オリジンが飛びかかり、無傷の方がぎょっと驚いたように肩を揺らして振り向く。彼女達は「何の話だ」「とぼけるな」などと言い合いながら髪や腕を掴み、すぐにそれを殴り合いの喧嘩へと発展させていた。

 あまりの短気っぷりに少し呆れた表情を浮かべつつ、透乃は再びにんじんを手にそちらへ近づく。見れば透乃と交戦した方は既に満身創痍、無傷だった方もぜえぜえと肩で息をしていた。
 勝手に体力を減らしていくオウガ・オリジン二人に向かって勢いをつけ、透乃は再びシンカーキャロットを構える。
 喧嘩に夢中の彼女達へ、透乃が渾身の打撃を繰り出せば――オウガ・オリジン達は二人仲良く近くの岩に叩きつけられ、その衝撃でがくりと力なく倒れてしまうのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

マイエ・ヴァナディース
「まあ、揃いも揃って同じ様な方々ですのね♪」
『シルフェリオン二世・双環形態』へ乗って参上ですの

「ですが、はて…どの方が一番最優なのですかしら?」
そして敢えて【挑発】する事で彼女らの和を乱した上…

「ふふふ、鬼さん此方♪」
【逃げ足】の速さを生かし花畑を駆け抜けます
ですが無論、わたくしも遊んでいるわけではありませんわ
同士討ち誘発も兼ね、彼女らを一箇所へ寄せるルート取りを…

「…個としては脆く、自分自身故に啀み合う。聞いた通りですわね」
そしてある程度彼女らが消耗した時、走行中密かにバラ撒いて
花畑という【地形の利用】にて草木の陰へと隠しておいた
【ランペイジ・ジャグラー】を起動、一斉に蜂の巣&串刺しとします



 オウガ・オリジン達が分裂し、アリスを求めて駆けていく。
 姿形が似通った彼女達は、岩に迂回を強いられれば舌打ちを響かせ、愉快な仲間が目の前を横切れば怒鳴り散らす――そんな短気で自己中心的な性格も同じくオリジナルから引き継いで、今も尚その影を増やし続けていた。
「まあ、揃いも揃って同じ様な方々ですのね♪」
 微笑んでそう呟き、マイエ・ヴァナディース(メテオールフロイライン・f24821)は大型のバイクに跨ったまま不思議の国を進んでいく。彼女の体躯よりも大きな『シルフェリオン二世』の機体はすぐにオウガ・オリジン達の目を奪い、開けた草原の中心でぴたりと静止した。

「当然だ、わたしたちは全て完璧で、全て尊く賢いのだからな!」
 オウガ・オリジン達は揃ってふんと鼻を鳴らし、マイエに近づきながら声を上げる。
「それで、一体何をするつもりでここへきた」
「その血と肉で、わたしたちの腹を満たしにきたのか?」
 飢えたオウガ・オリジン達はマイエを見つめ、その肢体を指して小さく腹を鳴らす。
 そうだ、アリスがいないなら喰ってしまおう、それが良い、と口々に物騒な声が飛び交う中――マイエはこてりと首を傾げ、彼女の達に聞こえるように言葉を紡いだ。
「全て完璧……はて……どの方が一番最優なのですかしら?」

 その瞬間、オウガ・オリジン達はざわつき始める。
「そんなもの、わたしに決まっているだろう」
「……何を言う。わたしが一番はじめにここにいたのだから、わたしが一番だ」
「一番はじめにいたのはわたしだ!!」
 案の定言い合いを始めた少女達はだんだんと声をひどく荒げ、腕や髪を引っ張り合って喧嘩を始める。仲裁に入ったオウガ・オリジンまでもが「何を偉そうに」と喧嘩に巻き込まれ、真っ黒な顔を何度も何度も叩かれていた。
「おい……元凶はあいつだ、あいつを捕まえて食えば、この怒りも収まるはずだ!」

 その声で喧嘩が収束しかければ、マイエはバイクをひとつ唸らせて。
「ふふふ、鬼さん此方♪」
 シルフェリオン二世のタイヤが回り出し、マイエの背がみるみる向こうへ遠ざかっていく。
 オウガ・オリジン達は揃って拳を強く握ると、その周囲へ無数のトランプ兵を呼び出しながら駆け出し、叫んだ。
「「「「絶対にあの娘を逃がすな、首を刎ねてしまえ!!」」」」



「……個としては脆く、自分自身故に啀み合う。聞いた通りですわね」
 マイエはバイクを走らせ、オウガ・オリジンを連れて不思議の国を巡る。
 同じ顔、同じ声で追ってくる彼女達はただ走る時こそ団結しているものの、足並みが乱れ互いがぶつかれば文句を言い合い、トランプ兵が混ざれば苛立ちを露わにするのだ。
 そんなどうしようもない光景に小さく言葉を零しつつ、マイエは回り込んでくるトランプ兵を躱し、時に誘導するようにスピードを落として進み続けた。
 色とりどりの花畑を駆け抜け、その甘い香りと鬼ごっこを楽しみながらも――しかし遊んでいる積もりなど毛頭なく、確りと計算されたルートをなぞっていく。
 いつの間にか更に数を増やしていたオウガ・オリジンをちらと振り返って、マイエは花畑を大きく一周囲むように回った。
「追え、絶対に捕まえろ!!」
 怒り狂い、一心不乱にマイエを追うオウガ・オリジン達。
 その影が花畑の中心で纏まった瞬間、マイエは周囲で咲き乱れる花――その下に隠し撒いていた『Rampage Juggler』を起動し、その銃口を一点に向けた。

 花畑は無数の閃光に包まれ、眩い白に埋め尽くされる。
 放たれたビーム砲が瞬時にトランプ兵、そしてオウガ・オリジン達を貫けば、騒がしく響いていた足音や怒鳴り声が突如ぴたりと止んだ。
 彼女達は怒りのままに己の足でバイクを追い、互いに傷つけ罵り合ったことで――十分に体力を消耗し、既に満身創痍の身であったのだ。

 マイエがバイクを止め、哀れむように見つめる中。
 オウガ・オリジン達はトランプ兵を塵へ変えながら花畑に沈み、静かに骸の海へと還っていくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

スミス・ガランティア
【アドリブ連携歓迎】

やれやれ。仲間外れにされたからって殺意を向けるだなんて……ずいぶんと怒りっぽい子だね。
ここは氷を司る神たる我が頭を冷やしてあげないといけないかな?

基本愉快な仲間やアリスの子たちを逃がしたり【かばい】ながら戦うよ。

広範囲に引き起こした【極寒の天変地異】による氷属性の吹雪でオリジン達を足止めしよう。その隙に逃げてくれると巻き込まないで済むし助かるかな!(【範囲攻撃】併用

吹雪は寒さだけでなく視界不良も引き起こすからね。その中で追跡するのは難しいだろうし……下手に動けない苛立ちから同士討ちとか起きてくれないかな。


シウム・ジョイグルミット
[POW]
うん……とても甘くて、とても綺麗な国だね
この国の皆をイジメるのは、戦う時計ウサギが許さないよ

アリス達を狙うオウガを見つけたら、『Contradiction』発動!
銀のお皿達を飛ばして、敵のトランプからアリス達を守るよ
皆は早くここから離れてね

皆が敵の射程から外れたら、【精神攻撃】してみようかな
はじまりのオウガの実力がこの程度ってことはないよねぇ……って
その後は銀のお皿達と【空中浮遊】【残像】【見切り】を利用して徹底回避
近くに別の敵がいれば、トランプをお皿で弾いてそっちに飛ばしちゃおう
仲間割れして潰し合ってくれるのがいいからね
相打ちにならなかったら、残った方にナイフ達をお見舞いしちゃおー



 パステルカラーの木の下、怯えたアリスと愉快な仲間達がぎゅっと縮こまって身を潜める。周囲で響く怒鳴り声に彼等が小さな身体を揺らせば、かさり、かさりと足元の葉や枝が微かな音を立てた。
 見つかってしまう――そう目を瞑り、心で呟いた瞬間。
 がさ、とはっきりとした足音がひとつ、彼等のすぐそばで鳴る。
「ひっ……」
 アリスが小さく声を漏らし、愉快な仲間達がおそるおそる顔を上げ、揃って震えながらそちらを見れば。

 そこに立っていたのは、あの真っ黒な顔をした少女――ではなかった。
「びっくりさせちゃったかな。でももう大丈夫」
 そう言ってアリスの手を取り、愉快な仲間な仲間に微笑みかけたのはシウム・ジョイグルミット(風の吹くまま気の向くまま・f20781)。かの『災厄』とは全く雰囲気の違う彼女にアリスは深く胸を撫で下ろし、そして安心したような笑みを浮かべて言った。
「本当は、皆でお茶会をしたかったの。この国の木には沢山お菓子がなってて、いろんなところから紅茶が出てくるから……皆で食べれば、何でもない日でも最高のパーティーになると思った――のに」
 顔を俯けかけたアリスに、シウムはゆっくり頷いて。
「うん……ここはとても甘くて、とても綺麗な国だもん。この国の皆をイジメるのはボクが許さない。ボクがこの国も、皆も守るから、後でちゃんとパーティーを開こう」
 そう告げれば、シウムは長い耳を小さく揺らし――アリスを背にして、木の影から飛び出した。

 感じるのは、真っ黒な顔から滲み出す飢えた獣のような気配。
 にたりと嗤ってシウム達を見つめていたのは、同じ姿をした少女達――増えて散らばっていた、五人のオウガ・オリジン達であった。
「わたし達抜きで、今度は何をしているのだ?」
「最も尊く素晴らしい、このわたしを差し置いて……パーティーの準備か?」
「そんなに好きなら、貴様らを纏めて殺してテーブルに並ばせてやろう!」

 怒りの滲む笑い声と共に、オウガ・オリジン達がトランプを幾つも取り出す。
 その縁がきらりと光り、凶器としての鋭さを見せつけた瞬間。シウムは周囲へ無数の銀食器を浮かべると、背後のアリス達へ逃げるよう合図を送った。
「さあ――切り刻んでやる!!」
 トランプの刃が、シウムとアリス、愉快な仲間達に向かって飛ぶ。
 シウムは銀食器を『Contradiction』の力で一斉に操り、トランプひとつひとつを相殺するように次々ぶつけ返した。



 逃げ出したアリスを目で追って、オウガ・オリジン達はああっと悔しそうな声を上げる。
 こんなに、こんなに腹が減っているのに。
 ――あの柔らかな肉と熱い血は、わたしの腹を満たす以外に使い道などないというのに!

「……おのれ!!」
 オウガ・オリジンが怒りを露わにした瞬間、アリスと愉快な仲間達を囲むように数十の大きなトランプが出現する。壁の如きそれらは揃ってずるりと人のような手足を生やし、鋭い槍を構えて進路を塞いだ。
「そこの娘の首を刎ねろ、絶対に逃がすな!!」
 向こうからオウガ・オリジンの声が響けば、トランプ兵達は槍をアリスに向けて一歩前に出る。鋭い刃が少女に少しずつ、少しずつ近づいていく。
「うぅ、だれか、だれか……!!」

 窮地のアリスが縋るように天へ祈れば――今にも泣きそうな少女の熱い頬を、ひんやりとした風が撫でた。
「やれやれ……ずいぶんと怒りっぽい子だね。ここは氷を司る神たる我が、頭を冷やしてあげないといけないかな?」
 その声が響いた直後、トランプ兵達はアリスに近づくのを止める。何をしている、とオウガ・オリジンが叫んだ頃には既に、彼等は動かぬ氷の壁と化していた。

 気づけば、春色の草花が広がる不思議の国にはらりはらりと雪が舞い始めている。
 そんな、不思議な光景にアリスが目を見開けば。
「――っ、と!」
 ずらりと並ぶトランプ兵のひとつを倒し、現れたのはスミス・ガランティア(春望む氷雪のおうさま・f17217)。彼を警戒してかアリスは一瞬びくりと肩を震わせ、おそるおそるといった様子で目を合わせる。
「……み、味方……です、か?」
「うん。でもこれから我、ここを今よりずっと寒くする予定だから――」
 スミスは敵意が無いことを示しつつ、トランプの輪の外を指差して。
「巻き込まれる前に、逃げてくれると助かるかな!」
 そう、アリスを怯えさせない程度にやや冗談めいた様子で告げる。
 アリスは戸惑いつつもこくりと頷くと、愉快な仲間達と共に遠くへと走り出した。

「さて、それでは――」
 逃げていく少女の背を見送り、スミスはオウガ・オリジン達の居る方へ進みながら長杖をゆらりと動かす。雪の結晶を象った杖先が空気を揺らし、冷たく、冷たく変えていけば――不思議の国はたちまち『極寒の天変地異』に包まれ始めた。



 銀食器とトランプがぶつかり続け、オウガ・オリジン達の苛立ちは更に増していく。
 このままでは本当にアリスを逃してしまう。
 一刻も早くアリスに止めを刺し、喰ってしまわなくては――そう彼女達が焦る中、トランプの刃が一瞬途切れた。
「……ッ!!!」
 手ぶらになったひとりがエプロンのポケットに手を突っ込んだタイミングを狙い、シウムはすかさずステーキナイフを数本放つ。
 ほぼ同時に刺突音が響けば、オウガ・オリジンはがくりと膝をついてその場に蹲った。
 絶やさずに放っていたトランプに隙間が生まれ、地面で丸まる少女に足と気を取られ、オウガ・オリジン達の浅い連携が乱れていく。

 そうして注意も散漫になった彼女達を――突如、凄まじい冷気が襲った。
「……何だ……? ――足が……!?」
 その声と共に周囲のオウガ・オリジンが気がつくも、既に遅い。
 雪を纏って吹き抜けた風は瞬時に彼女達の足を凍てつかせ、その動きをがくりと鈍らせる。
 当然その足ではシウムの攻撃を躱しきれず、オウガ・オリジン達は揃ってナイフに貫かれてしまった。

 突然易々と当たるようになったナイフにシウムが思わず目を瞬けば、背後からとんと軽い足音が響く。
「あの子達は逃がしてきたよ」
 声に振り向けば、長杖を携えた男――スミスがそう告げてそこに立っていた。
 金の髪を囲む氷、そして長杖の形を見れば、シウムは目の前で起きたそれが『何なのか』をすぐに察して。
「それじゃ、あとは……あのオウガたちを倒すだけだね」
 そう、目を合わせて頷けば。

 二人の視界の端で、オウガ・オリジン達が怨嗟と共に立ち上がる。
「おのれ……」
 吹雪に囲まれ、傷の痛みに身を震わせ、砕けそうなほどに歯を食いしばって。
 ――自分たち抜きのパーティーを始めようとしただけに留まらず、折角捕えかけたアリスも逃がされた。その上目の前の二人は『アリスを逃して自分たちも逃げる』のではなく――あろうことか、自分達を此処で止め、倒すつもりなのだ。
「おのれ、おのれ……絶対に、首を刎ねてくれる!!!」
 オウガ・オリジン達は新しいトランプ兵を呼び出し、再びトランプの刃を取り出した。

 その攻撃が繰り出される、直前。
 ――シウムが不意に、挑発的な笑みを浮かべて云う。
「うんうんその意気。まあ、はじまりのオウガの実力がこの程度ってことはないよねぇ……」
 彼女の言葉に一瞬、オウガ・オリジン達の顔が固まった。
 まともな判断を奪う『怒り』。それを誘うように――半ば、悪戯をエスカレートさせるように――スミスも言葉を続ける。
「なら……もっとも強い子は誰なのかな? 我、気になるな」
 その瞬間、オウガ・オリジン達が互いに『わたしに決まってるだろう』という視線を向けあったのは言うまでもない。

「と……とにかく、今は奴らを仕留めるのが先だ!」
 オウガ・オリジン達ははっとしてシウムやスミスに怒りを向けようとするが、既に二人の姿は見当たらない。代わりに視界を埋め尽くすのは真っ白な吹雪、そしてこちらに切っ先を向ける銀色のナイフ達であった。
「このッ……!! 一体何処から……!!」
「くそ、元はと言えばこいつが――」
「何を言う、わたしはこの中で一番上手く動いていただろう!!」
 寒く視界の悪い空間で彼女達の苛立ちは募り、だんだんと言い合いに発展していく。
 そうして言い合いは斬り合い、殴り合いへ変わり、更に手下である数十のトランプ兵を巻き込み――オウガ・オリジン達はナイフ飛び交う吹雪の中で、滅茶苦茶な大乱闘を始めてしまった。

 協力し、手分けして敵を見つけようなどといった意見は微塵も浮かぶこと無く。
 オウガ・オリジン達は闇雲に、怒号と攻撃音ばかりを響かせる。既にぼろぼろだった彼女達は冷静になるより早く力尽き、ひとり、またひとりと沈黙していった。

 ようやくその音が止み、スミスがふっと吹雪の渦を散らせば。凍りついた地面には五人の少女が重なって倒れ、その端から塵となって消えていく。
 ――オウガ・オリジン達は本当に同士討ちで倒れ、骸の海へと還り始めてしまった。

 シウムとスミスがその姿を見送れば、離れた木陰に隠れていたアリス達――先程逃げたあの少女と愉快な仲間達が、小さな手いっぱいにお菓子を抱えて姿を現す。
 彼等はそれを差し出しながら、にっこりと笑顔を浮かべて二人に礼を述べるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
いよいよお出ましだね、前哨戦とはいえ手は抜かないよ
アリスも愉快な仲間たちも傷つけさせやしない、早々にご退場願うとしよう!

敵の先制は《戦闘知識+第六感》、直感と理論の組み合わせで《見切り》対応するよ
《空中戦》の機動力を活かして攻撃を躱す
それでも届く分は《属性攻撃+早業+先制攻撃+カウンター+衝撃波+吹き飛ばし》で後の先を取り迎撃、爆風の反動も活かして緊急回避だね

先制を捌けば【異聞降臨】発動
呼び出すは影の身体を持つ蝙蝠たち、かつて人々の共に歩む心を試す試練を課した魔性の群れだ
今回は暗示と話術で敵の疑心暗鬼と不和を煽り同士討ちを誘発させる
隙を見せた敵は混乱に乗じ《目立たない》よう《暗殺》していこうか



「いよいよお出ましだね」
 薄紅の瞳が見つめる先、今も尚影を増やすのは――アリスラビリンスに於ける悲劇の元凶。
 『はじまりのアリス』にして『はじまりのオウガ』であるその少女達を前に、カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)は笑みを見せて身構える。
 分裂し個々が弱体化しているとはいえ、目の前のそれは紛うことなき『オブリビオン・フォーミュラ』。危険に晒されているアリスや愉快な仲間達を傷つけさせないためにも、ここは手を抜いて掛かるわけにはいかない。
 故に、持てる力の限りを尽くす。
 カタリナはオウガ・オリジン達の元へ踏み出しながら、背の翼を広げて精神を集中させた。

 風を捉えた翼を数度強く羽撃かせ、彼女はふわりと宙へ浮き上がる。そうして滑るように、踊るように空を駆ければ、彼女はすぐに少女の影犇めく地の真上へと辿り着いた。
「――さあ、早々にご退場願うとしよう!」
 ぴくり、聞き捨てならないといった様子でオウガ・オリジンの顔が上がる。
 真っ黒な顔の中、幾つもの瞳が揃ってカタリナの姿を捉えれば――彼女達は獣の如く唸り声を上げ、その頭部を巨大な獅子の形へと変えた。
「ふん、何を言う! この国に、世界に、最後まで立つのは……このわたしだ!!」
 途端、淡い色の草原に強い足音が鳴り響く。
 オウガ・オリジン達は少女のものとは思えぬ脚力で地を蹴り、そしてカタリナ目掛けて牙並ぶ口を大きく広げた。

 地上から跳び上がってくる獅子の口は、その殺傷力と迫力こそ強く感じさせるものの――直線的に突進してはカタリナのいない場所を噛み、放物線を描いて墜ちていく。
 時折不規則に飛び出した獅子がカタリナのすぐ側を掠りかけたが、しかし。
 ――それも、彼女にとっては想定内の動きであった。
「残念、当たらないよ!」
 くるりと身を回し、凄まじい速度で脚を振り下ろす。
 空気を巻き込んだ蹴りは獅子の鼻を確りと捉え、そして思い切り真下へと吹き飛ばした。
「がっ……!!!」
 風圧の中で受け身も取れず、オウガ・オリジンは地へ叩きつけられる。獅子の口が崩れるようにもとの顔に戻れば、彼女は舌打ちと怨嗟を響かせ上空のカタリナを睨んだ。

「おのれ……わたしを……最も尊い存在である、このわたしを!!」
 ひとりの少女がそう呟く数秒に、地上へ更に数体のオウガ・オリジンが墜落する。
 咳き込む音、呻き声が草原を埋め尽くす中、ふっと短く息をついてカタリナが動いた。

「もう終わりかな? ならアタシの番――さぁて、鬼が出るか蛇が出るか!」
 陽の光を背に、カタリナは『異聞降臨』を起動する。
「“――我は汝、汝は我! 交わらざるイフの時空より来たりて聖暁の威を示せ!!”」
 紡いだ声が、その力が喚び出すは――影の身体をもつ蝙蝠の群れ。

 蝙蝠達が急降下を始め、オウガ・オリジンが思わず腕を交差させる、が。
 しかし蝙蝠達は少女の身体に噛み付いたり、その羽を刃に斬りかかったりすることはない。
「……? な、何だ……今のは」
 拍子抜けしたように顔を上げるオウガ・オリジン達。
 周囲をくるくると舞う蝙蝠を視界の隅に捉えたまま、兎に角頭上のカタリナを狙おうと立ち上がった――その時だった。
『あんな虚仮威しに慄くとは、弱い『わたし』もいたものだな』
「何!!!?」
 オウガ・オリジンは己と全く同じ声、それこそ他の分身が発したとしか思えない言葉に怒りを露わにする。
「どの『わたし』だ、今このわたしを侮辱したのは!!」
『弱いだけでなく短気とは!』
『アリスのひとりも捕まえられない理由がよく分かる!』

 声が挑発を続ければ、オウガ・オリジン達は途端に言い合いの喧嘩を始める。
 どの分身が言ったのか、どの分身が自分を馬鹿にしたのかなど、最早関係ない。
 その声の主がカタリナが呼んだ蝙蝠――嘗て人々の共に歩む心を試す試練を課した『魔性の群れ』であることになど、気づきもしない。
「おのれ……ああ、もうどいつでもいい! 首を刎ねてくれる!」
 怒りのままにトランプを取り出し、互いに向かってそれを放つ。剃刀の如き刃が少女達の四肢や胴を次々に裂き、只でさえ負傷していた身体を更にぼろぼろに変えていった。

「……」
 カタリナは呆れたように溜め息を漏らしつつ、ダガーを握って一度低空を旋回する。
 こちらに気づいていない個体からひとり、ふたり。彼女が満身創痍のオウガ・オリジン達へ静かに止めを刺していけば、草原はみるみる静かになっていく。
 怒り狂う彼女達を鎮めるように骸の海へ還し、カタリナは甘く香る風を受けながら草原へ降り立つのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
そう、貴女が始まりのアリスなのですか
その力を以ってすれば、
この『貴石の魔法使い』をディナーにするのも容易いのでしょうね?

魔力溢れるつくりもののダイヤモンドの檻を造り出し
誘うように、憂うように、うたうように

しかしながらこの身はひとつ
愛らしいはじまりのアリスにして強きはじまりのオウガよ
私を食べるのはきっと
貴女達のなかで、いちばん愛らしく強い『オウガ・オリジン』なのでしょう
さて

いちばんは、どの貴女なのですか?

いちばんの子を決める同士討ちをさせようと狙って甘言を弄しつつ
身の守りに注力を
自身に向かうライオン頭は精巧なダイヤモンドの檻で止めて貫いて

いけませんね
抜け駆けは他の『貴女』に怒られてしまいますよ?



「何故だ、何故だ……何故、はじまりのアリスであるわたしが、こんなにも腹を空かせなければならないのだ!」
 怒り叫んでも、その腹は減るばかり。オウガ・オリジン達はその漆黒の口を飢えた獣のように開き、血肉を――アリスを求めて彷徨い回る。
 そんなリビング・デッドにも似た少女の群れはふと、甘ったるい菓子の匂いに交じる微かな花の香りに足を止めた。
 同時にこちらへ近づくのは、動く食器でも小動物でもない、確りと重さを持った靴音。
 それが人であるという確信が、彼女達を更に期待させる。
 ――ようやく、ようやくアリスを喰えるか!!
 揃ってにたりと口角を上げ、振り向いたオウガ・オリジン達が目にしたのは。
 恐れ慄き逃走を諦めたアリス――ではなく、悠然と笑みを浮かべて歩く猟兵の姿だった。

 それでも、それがひとの形をしていれば。
 腹を満たすに十分なものであれば、関係ない。

 オウガ・オリジン達は熱い血が喉を潤し、柔らかな肉が肚に沈む感覚を思い浮かべてけたけたと不気味に嗤い出す。対する猟兵、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は淑女を前にした紳士の如く、丁寧な一礼を見せて口を開いた。
「……貴女が、始まりのアリスなのですね」
 問えば、オウガ・オリジンは揃って無論と言わんばかりに胸を張る。彼女達はひたとファルシェの方へ一歩迫り、そして黒に染まる両の手を大きく広げて声を上げた。
「そうだ。このわたしこそが、『はじまりのアリス』にして『はじまりのオウガ』――」
「この世界で最も美しく、強く、尊い存在……それがわたしだ!」
 その傲慢な態度と口吻に合わせるようにそっと頷き、ファルシェは自らの胸の中心を手で指す。
「ならば……その力を以ってすれば、この『貴石の魔法使い』をディナーにするのも容易いのでしょうね?」
「「――当然だ!!」」
 幾つもの声が重なった瞬間、オウガ・オリジン達は堰を切ったように前へ踏み出す。彼女達の手は醜くも我先にと互いを押しのけ、雪崩の如くファルシェの身体へ伸ばされていた。

「……」
 オウガ・オリジン達の目は、ファルシェの纏う宝石の輝きになど一切向いていない。
 それは揃って飢え、鑑賞に意識を向ける余裕も無い程の苛立ちと食欲に駆られている故か。もしくは――その輝きや煌めきも、世界一美しく尊いものを自称する彼女達の目には霞んで見えるのだろうか。
 宝石よりも血肉を求める姿にファルシェはやや悲しげに、ほんの僅かに眉を下げて魔力を練る。ユーベルコード『Die Hand des Zauberers』――澄んだいろを結んだそれを、今も尚増えながら突進してくる少女の群れへ向ければ。

「さあ、大人しくその身を……」
 オウガ・オリジンの声を遮るように、淡い色の草原へ透明な柱がずらりと伸びる。柱は瞬時にぐるりと円を描いて並び、オウガ・オリジンを閉じ込めて強く煌めいた。
「このわたしを再び牢獄へ入れるとは……どういうつもりだ!!!」
 少女の細腕が柱を握り締めるも、それは折れるどころか軋みもしない。その硬度と溢れる魔力に彼女達が舌打ちを鳴らすと同時、ファルシェは檻を指して告げる。
「つくりものとは言え、ダイヤモンドの檻はそう容易には壊れませんよ。……ですが砕かれれば、私の身は忽ち貴女の腹の中――」
 そして一歩檻から離れ、誘うように、憂うように微笑んで。

「……しかしながらこの身はひとつ。私を食べるのはきっと――貴女達のなかで、いちばん愛らしく強い『オウガ・オリジン』なのでしょう」
 続く声は少女達の意識を一点に集め、うたうように響いた。
「さて……『いちばん』は、どの貴女なのですか?」

 ――当然、『わたし』だ。
 オウガ・オリジンは皆同時にそう心の中で言い切る。
 協力のきの字も頭に無いとはいえ彼女達は分身同士、互いに何を考えているのか程度は察せるのだろう。故に――その瞬間、オウガ・オリジン達は互いに『いちばん』を主張し、そして仲間内での言い争いを始めた。
 口喧嘩は拳や平手打ちに変わり、遂にユーベルコードを起動しての乱闘騒ぎへ発展していく。

 少女達が漆黒の顔を獅子に変えて噛みつき合う中、不意に少女がひとりファルシェの方を向く。彼女は同じように顔を獅子に変えると、その牙を金剛石の柱へ向けた。
「……いけませんね」
 ファルシェがそっと人差し指を口元に当て、少女が向かう柱へ魔力を注げば。それを形づくる金剛石は途端にその精巧さと硬度を増し、獅子の牙を阻んだ。
「抜け駆けは他の『貴女』に怒られてしまいますよ?」
 そう、ファルシェが静かに告げた直後。噛み付いてきた少女の背後で――同じ形をした複数の獅子が、怒りを滲ませ唸りだす。案の定少女は他のオウガ・オリジン達から制裁を受け、呆気なく骸の海へと還されてしまった。

 オウガ・オリジン達の争いは続き、時折『裏切り者』が優先的に処理されていく。
 檻の内に残る影が片手で数えられる程度に収まった頃を見計らい――ファルシェは彼女達の足元から、金剛石の槍を幾本も天へ伸ばした。



 静かになった草原で、ファルシェは檻を解いていく。
 その破片がきらきらと散り、甘い香りの風に乗って舞っていく様子を眺めていれば、ふと。
「わあ……!!」
「きれい!」
 目を輝かせ声を上げたのは、オウガ・オリジンに怯え隠れていたアリスや愉快な仲間達。彼等はダイヤモンドの塵が星のように流れていく光景を眺め、先程までの不穏さなど微塵も感じさせない程明るい表情を浮かべていた。
 平和を喜びはしゃぎだす彼等にそっと会釈しつつ、ファルシェは不思議の国を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月19日


挿絵イラスト