11
迷宮災厄戦⑱-8~腹が減った!

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #オブリビオン・フォーミュラ #オウガ・オリジン

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アリスラビリンス
🔒
#戦争
🔒
#迷宮災厄戦
🔒
#オブリビオン・フォーミュラ
🔒
#オウガ・オリジン


0




●怒りでハングリー
 なにが、なにが猟書家だ!
 どこからきたかも分からぬ馬の骨どもが、この世界でもっとも尊いこのわたしを、ここまでコケにするとは、許せない、許せない……!
 嗚呼、嗚呼、怒りで腸が煮えくり返り、何故だか腹が減ってきた……!
 アリス、アリス達よ、わたしの元に集え!
 わたしが、この世界で最も尊いわたしが、腹を減らしているのだ。
 その柔らかい肉と熱い血で、このわたしの腹を満たすのだ……!

●と言う事があったが、しかしアリスは集まらなかった
「皆、料理は得意かい?」
 集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は開口一番、そんな事を訊いてきた。
 何故、そんな事を?
 首を傾げた猟兵達の反応に謎の笑みを返して、ルシルは再び口を開く。
「ついに『オウガ・オリジン』への道が開いた」
 それを先に言え。
「いやいや。料理が関係している話なんだよ。空腹のまま自由になったオウガ・オリジンは、空腹を満たすためだけの不思議の国を作り上げたのだからね」
 そこは『大量の食材と厨房のある国』。
 オウガ・オリジンが空腹なのにアリスがいない時、配下に『アリスに負けないほどの美食』を作らせる為の国だ。
「オウガ・オリジンにとっての『アリスに負けないほどの美食』と言うのは、『見た目は美しいが有害な食事』と言えるものだ」
 まあ、アリスの肉と血の代わりになるくらいだ。普通の食事である筈が――。
「例えば致死性の毒入り料理とか、カミソリ入りとか、そういうレベル」
 有害の中でもトップランクだった。
 致死性とか言ってる。
 悪食とかゲテモノ食いってレベルじゃない。
「逆に『見た目も良くて安全でおいしい料理』を食べると、何故か弱体化する」
 どういうことなの。
「理屈はさておき、これはチャンスだよ。この国を作ったと言う事は、オウガ・オリジンは物凄い飢餓状態にある。配下がいないのに、食材だけはたんまりある」
 勿論、自炊なんてする筈もなく。
「例え猟兵が作った料理でも『見た目が美しい料理』と言う条件を満たしていれば、なんでも食べるんだ」
 そろそろ、ルシルが料理得意か訊いた理由もお分かりだろう。
「つまり、見た目も良くて普通に美味しい料理をオウガ・オリジンにどんどん食べさせて弱らせて倒しちゃおう大作戦、と言う事さ」
 まさか料理だけで倒せる可能性も?
「あるよ。但し美味しいもの嫌いなくせに舌は肥えてる。どういう事かと言うと『見た目が良いけど味は……』と言う料理では弱体化させられないから、頑張って美味しい料理を作って来て欲しい」
 それはそれで大変だろうだけど、普通に戦うよりはずっと楽な筈だから。
 そう笑顔で言って、ルシルは転移の準備を始めた。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 こんな面白そうなの、出すしかないじゃないですか……。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、『迷宮災厄戦』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 迷宮災厄戦⑱-8『オウガ・オリジン』と美食嫌い厨房 です。

 いよいよ『オウガ・オリジン』!
 なのですが。
 まず今回のプレイングボーナスを先に。
『見た目も良くておいしい料理を作ってオウガ・オリジンに食べさせる。』です。

 ボス戦なのにボーナスは料理!
 それも、見た目も良くておいしい料理。
 何気に(料理としては)求められてる難易度高いですね。
 ボスだもんね!
 今回の不思議の国にはあらゆる食材とあらゆる調理道具があるので、あと必要なのは料理の腕前だけです。

 オウガ・オリジンは、見た目が良いとつい食べちゃいます。
 そして、おいしい料理は嫌いなわりに味覚は完璧です。使った食材を言い当てたり、料理技法も食べただけで読み取り、やれ味付けどうとか火入れがどうとか言い出します。
 料理番組の有能な審査員になれるんじゃないかな……?
 でも美味しい料理でダメージ受けて弱っていくので、いいリアクションしてくれると思います。

 なおプレイングですが、8/17(月)8:30以降でお願いします。
 執筆出来るのが8/19(水)、20(木)になりそうですので、執行がその後になる様に調整させてください。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
155




第1章 ボス戦 『『オウガ・オリジン』と美食嫌い厨房』

POW   :    ハングリー・バースト
【飢餓感と、自分を敬わない者達への怒り】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    女王は常に独り食す
非戦闘行為に没頭している間、自身の【肉体】が【虚無を映す漆黒の液体で覆われ】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ   :    炎なくして食事なし
レベル×1個の【美食嫌い厨房にある、無数のかまどから】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。

イラスト:飴茶屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

城島・冬青
【菫橙】

料理をするのはいいんだけど
はぁ…(溜息)
お父さんは見てるだけでいいからね
絶対何もしないで

ミートローフケーキを作ります
ミートローフの周りをマッシュポテトのクリームでコーティングして一見ケーキっぼく見える料理です
母と何度か作ってる料理だから
作り方はわかってる
苺の代わりにプチトマトや星形に切った人参を飾れば
見た目は本当のケーキのように…ってお父さん!ステイ!
調味料入れなくていいから!
お皿も出さなくていいから!
なかなか引き下がらなくてオウガ・オリジンよりこっちが手強い
えーと
はい!あーん
ポテトクリームが乗ったスプーンを突っ込んで味見させる
美味しい?

よし
出来上がったらオウガ・オリジンに食べさせるよ


城島・侑士
【菫橙】

料理を食わせるだけでボスが倒せるのか!?
料理なんて娘の得意分野じゃないか
この勝負…勝ったな!
冬青
お父さんも手伝うからな
一人作るの大変だろ
ぇ…そんな悲しいこと言わないで

娘が手際よく調理をこなしていく
先日(エルドワ島とか言ってたような…)何かあったのかだいぶ特訓していたようだ
作っているのはミートローフケーキ
甘い物が苦手な息子の誕生日に毎年作っている我が家の定番料理
……冬青!やっぱり父さんも手伝いたい!
見てるだけで娘に全て任せるとか父として情けnもがっ!
もぐもぐ…美味い!
やっぱり冬青の料理は旨いなぁ
これならオウガ・オリジンも一発KOだ
さぁ娘の旨い料理を食べて昇天するがいい!
てか俺も食べたい…



●父の独白
 最近、娘が料理をする回数が増えた気がする。
 先日、どこかの島――確かエルドワ島とか言っていた――から帰って来てから、どうやら妻とも特訓しているようだ。
 島で何があったのかは少し気になるが、娘の料理を食べられるのだ。
 何も問題は無い。

 城島・侑士(怪談文士・f18993)がそんな事を胸中で独り言ちてから、幾ばくかの時間が流れた――そして。

「お父さん! お願いだから、邪魔しないで」
 むすっとした顔の城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)の口から、侑士が『愛娘に言われたら死んじゃうかもしれないワード』なんてリストを持っていたら多分上位に入るであろう一言が飛び出していた。

●菫橙
 ――時は遡る。

「料理を食わせるだけでボスが倒せるだって!? この勝負勝ったな、冬青!」
「料理をするのはいいんだけど……」
 もう勝った気でいる父・侑士の様子に、冬青が溜息を零す。
「だって、冬青の得意分野じゃないか。最近、特訓もしてたみたいだし」
 娘の料理が楽しみで仕方ない――と、侑士の顔には書いてあった。
 確かに、冬青は料理が得意だ。
 だがしかし、侑士はそうでもない。
「お父さんは見てるだけでいいからね。絶対、何もしないで?」
 と言うか、冬青の中での侑士の料理の評価は、いつぞや別の世界で食べた異臭立ち昇る料理の比較対象になるレベルだ。
「ぇ……そんな悲しいこと言わないで」
「だって、見た目も大事なんだよ。お父さん、そう言うの作れないでしょ」
 笑顔から悲哀に表情を一変させた父を放置して、冬青は頭の中にレシピを浮かべる。
 母と何度か一緒に作っている料理だ。作り方は判っている。
 頭の中で手順を一通りお浚いして、冬青は1人で必要な食材を取りに行った。

 とは言え、侑士も全く料理が出来ないわけではない。
 ほとんどしたことがないだけだ。
 料理上手の妻がいるのに出る幕が無いと言うか、妻の手料理食べられるのに自分で作る必要がなかったと言うか。
 いつぞやは、別の世界で短気を起こして火加減を盛大に間違えて焼き魚を黒焦げ&生焼けにしたりもしたが、それだって根本的に間違った調理方法ではなかった。
 少なくとも、『この人、結婚する前はどうしてたんだろう』なんて素朴な疑問を持たれる様な酷さではない。
 だから、侑士もジャガイモや人参の皮をピーラーで剥いたりと言う単純作業とか、茹でたジャガイモを潰す力仕事の内は、嬉々として冬青を手伝えていたのだ。
 それも、最初の内の事。潰したジャガイモに更に手を加えたり、他の野菜もちょっと特別な形に切る様な段階になると、手が出せなくなってくる。
「そうだ! ケチャップを入れると、色合いが良くなるんじゃ――」
「余計な調味料入れなくていいから!」
 さもいいこと思い付いたみたいに赤い瓶を持ってきた侑士を、冬青が止め。
「そうか。じゃあ、お皿を――」
「お皿も出さなくていいから!」
 使う予定の無い食器に伸びようとした侑士の手を、冬青はぺしっと叩いて止めて。
「1人作るの大変だろ、冬青。お父さんまだまだ手伝うからな」
「いいの! お父さん、ステイ!」
 善意100%なのは判っているけれど、だからと言ってもう手伝える事は無いのに言ってもなかなか引き下がらない侑士に、冬青が声を張り上げる。
(「どうしよう。オウガ・オリジンよりもこっちが手強い……」)
 火にかけた鍋を練り練り混ぜながら、冬青はどうしたものかと目を閉じ、思案する。
 そして――冬青は、心を鬼にすることにした。
 つまり。

「お父さん! お願いだから、邪魔しないで」

 こういう事である。

●で、結局
「……ぷひゅぅ」
 風船の空気が抜けたような声を喉から漏らして、しおれる侑士。

 何と言う事だ。娘と一緒に料理できる機会なんて、次はいつあるか判らないのに。特訓は俺もしておくべきだったのだ。帰ったら、主夫向けの料理教室を探すべきか。

 しおれながらも父としての威厳を取り戻さねばと決意を固める侑士の鼻腔に、ふと親しみのある匂いが届いた。
(「――これは……毎年作っている……」)
「……冬青! やっぱり父さんも手伝いたい!」
 侑士、復活。
「見てるだけで娘に全て任せるとか父として情けn」
「はい! あーん」
 むしろ勢いを増した侑士の口に、冬青が何か白いものを掬ったスプーンを突っ込む。
 冬青だって、ちょっと心を鬼にしてみたくらいでは侑士がすぐ復活してくるだろうと言う事くらい、判っている。ただ少し、集中がいる工程の時間は、静かにしておいてもらいたかっただけだ。
「美味しい?」
「……美味い! やっぱり冬青の料理は旨いなぁ」
「よし」
 満面の笑みに戻った侑士に冬青も笑顔を返して、最後の仕上げに取り掛かる。
「やっぱりこれか。これならオウガ・オリジンも一発KOだろう」
 馴染み深い料理を1人で仕上げていく冬青の姿に娘の成長を感じて、侑士は(やっと)眩しそうに目を細めて、仕上げを見守る事にした。

●お味は
「出来たよ、オウガ・オリジン!」
「さぁ、娘の旨い料理を食べて昇天するがいい! 俺が食べたいくらいだ」
『やっときたか。あと、やらん』
 待ちくたびれた様子で頬杖ついているオウガ・オリジンの前に出て来たのは、一見白いクリームの上に赤や橙の彩が乗ったケーキだった。
 お好みで、と置かれたソースは赤とブラウンの2種類。
『この世界でもっとも尊いわたしが、これをケーキと勘違いするわけないだろう!』
 オウガ・オリジンはナイフとフォークを構えると、ザクッと大きく切り取りフォークぶっ刺して、まずは何もつけずに黒い顔の中心に持っていく。
 シュルンッ。
 まるでブラックホールの様な顔に、料理が吸い込まれた。
 オウガ・オリジンは、また大きく切り分け、今度は赤いソースの方をたっぷりかけて――やっぱりシュルンと消える料理。
『表面はマッシュポテトのクリームか。潰したジャガイモにバターを混ぜて、甘さを抑える為か?生クリームと牛乳を控えめにしているな。それでいてこの滑らかな舌触り。ジャガイモの味も活かしているし、黒コショウが良いアクセントだ』
 急に饒舌になりながら、オウガ・オリジンは大きく切った塊にブラウンのソースをやはりたっぷりとかけて、シュルンと平らげる。
『その中は挽肉を固めて焼いたものか。それもビーフ、刻んだベーコンを混ぜて燻製の香りと歯応えのアクセントを同時に加えている――そうか。これはミートローフ。その原型と呼べるものがUDCアースの古代ローマ時代の料理書にもあると言う、歴史の古い料理をケーキ風にアレンジしたもの!』
「うん、ミートローフケーキだよ」
 大体言われてしまって説明することがなくなった冬青は、料理名だけ告げる。
『これは――愛の料理だな』
「ん???」
 次の瞬間、すっかり料理を平らげたオウガ・オリジンの口から出てきた一言に、冬青の第六感がイヤな予感の類を告げた。
『ただケーキ風にするだけなら、飾りつけはミニトマトだけでも充分。人参やズッキーニを星型にカットしているのは、そこに必然性があるから。これは愛ゆえの工夫!』
「その通りだ。オウガ・オリジン」
 小さく首を傾げた冬青を他所に、愛を感じたポイントを告げるオウガ・オリジンに侑士が真顔で頷く。
「これは甘い物が苦手な息子の誕生日に、毎年作っている我が家の定番料理! お前の言う通り、これは家族愛の産物と言える!」
 侑士は、オウガ・オリジンの言葉をあまり深く気にしてはいなかった。
 冬青の料理が褒められた喜びの方が勝っていたのだ。
 だが――。
『家族愛か。いいや。それだけではないな』
 それを否定したのもまた、オウガ・オリジンであった。
『ミートローフケーキと言ったか。この料理が家族愛の産物であるのは、このわたしも認めよう。だが、主に調理したそこの娘。貴様、家族以外にも美味しいと食べて欲しい相手がいるな! しかもその相手がちょっと味音痴かもしれないから、最近かなり特訓していただろう! 重ねた特訓が味に沁み込んでいるぞ!』
「んんんんんんんんんんんっ!?!?!?!?」
「冬青!?!?!?!?」
 イヤな予感が予期せぬ方向から当たってしまって動揺する冬青と、予期すらしていなかった驚きに動揺する侑士。
『って、こんなの有害さゼロではないか!!!!! わたしを殺す気か!!!』
 互いに混乱した父娘の前で、美味に悶絶したオウガ・オリジンは空になった皿を頭で叩き割る勢いでテーブルに突っ伏していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィーナ・ステラガーデン
いい?食欲っていうのは本能なのよ!
本能を刺激する食事が一番美味しいというわけよ!
すなわちこれよ!(焚き火にぐるぐる回す骨付き肉)

味付けなんてシンプルでいいわ!これ一本よ!その名も○○の塩!!
創業50年!塩1粒に全てを込めたUDCアース伯方島産の魂の篭った塩よ!
名前が聴こえなかったかしら?大人の事情ね!もう一度大きな声で言ってやるわ!その名も「○!○!○!の!しおっ!!(どっかのCM風にどこからともなく聞こえ出す威勢の良い男の声とハモりながら)」はい、ご一緒に!「は!か!(省略)

周囲はパリパリ!中はジューシー!滴る肉汁!最強よ!

あ、攻撃はなんか食べだしたら打つわ!私の取ってんじゃないわよ!!



●シンプル・イズ・ベスト
 パチッ――パチパチッ――。
 炎の中から、焚き木が爆ぜる小さな音が響いている。
 コンロとか無視して焚かれる炎の上で、羽根と腸の処理をした丸ごと1羽の鳥――ガチョウだろうか――がぐるぐると回っていた。
 回しているのは、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)だ。
 フィーナが作っているのは、お肉丸焼きである。
「いい? 食欲っていうのは本能なのよ!」
 大体本能で生きているフィーナが、オウガ・オリジンをびしっと指さし告げる。
「どう? 焼ける匂いがそっちに届いてるでしょ」
 フィーナの言う通りだ。
 じわじわと焼かれる肉から、脂が染み出て滴り落ちる。落ちた脂が炎に焼かれ、何とも言えない香りが辺りに広がっている。
『貴様! このわたしに匂いを食わせようと言うのか。何としたたかな! 魔女め!』
 その匂いに、オウガ・オリジンがちょっとテーブルに身を乗り出すほどである。
「本能を刺激する食事が一番美味しい! すなわち! これよ!」
 そんなオウガ・オリジンの反応にしてやったりと言いたげな笑みを浮かべながら、フィーナは何かを取り出した。
「味付けなんてシンプルでいいわ! これ一本よ!」
 フィーナの手にあるのは、何か白い粉が入った瓶。
 中身は――。
「塩よ!」
 塩でした。
「それもただの塩じゃないわ。創業50年! 塩1粒に全てを込めたUDCアースの――島産の魂の篭った塩よ! その名も○○の塩!! ――むむ?」
 何故か途中でゴォォォッとかまどから響いた炎の音に声が消された気がして、フィーナが首を傾げる。
「なんかちゃんと名前が言えなかった気がするわ! 大人の事情ね!」
 そこまで察したからって、黙るフィーナではない。
「もう一度大きな声で言ってやるわ!」
 ならばもっと大きな声でと、フィーナは深く息を吸い込んで――。
「その名も『○!○!○!の!しおっ!』よ!」
 ゴォォッ、ゴォォォッ、と空なのに燃え上がって炎の音で、フィーナの声を時々かき消す周囲のかまど。。
「はい、ご一緒に! は!」
 ゴォォォッ!
 止まらないフィーナの顔を、ついにかまどから噴き出てきた炎が飲み込んだ。
「けほっ、けほっ」
 顏が煤けて鮮やかな金髪もちょっと縮れたけれど、フィーナは無事だ。
『この世界でもっとも尊いわたしが、これ以上は危ない気がしたから止めてやったぞ。さすがわたし、この世界でもっとも尊い』
 かまどから炎を放ったオウガ・オリジンは、なんか自画自賛している。
『貴様を燃やす事も出来たが――その肉は美味そうだ。ちゃんと腸を処理してあると言う事は、中にさぞすさまじい毒でも仕込んであるのだろう? はよ食わせろ』
 かと思えば、期待でぎゅるるると、胃袋鳴らしていた。

「釈然としないけど、まあいいわ! 一番美味しい焼き立てを出してあげる!」」
 上手に焼けたお肉を大皿にどんっと置いて、串抜いたら完成。
 丸ごと一羽使った、鳥肉の塩焼きである。
『やっと来たか……どれ』
 オウガ・オリジンは丸焼きに丁寧にナイフを入れて、ほぐしていく。
『まずはモモからだな』
 黒い顔に、骨ごと吸い込まれる鳥肉。
『うむ、余分な脂が落ちた皮はパリパリ。それでいて肉はジューシー! 滴る肉汁!』
 鳥の丸焼きが、次々とオウガ・オリジンに吸い込まれていく。
『……単純な様に見えて、この料理には苦労の味がある。塩のみで味付けしたのは、良い塩を使った以外にも理由がある。塩しか使えない時を知っている味だ』
 フィーナは、人の汚い部分を見飽きるような生き方を送っていた過去がある。
「ここまで上手く丸焼きが出来るのも、火を使う事に慣れている事の証だ」
 それにフィーナは雪国出身だ。
 炎の魔法を覚えた最初の理由は、必要だったからだ。
 お肉丸焼きと言う一見シンプルな料理の味から、フィーナの苦労を読み取ったオウガ・オリジンは――。
『どこにも有害さがないではないかー!!!!!』
 やっぱりテーブルに突っ伏した。
「ふっ」
 マグロの突進でもかましてやろうかと思っていたフィーナだが、そんな必要もなさそうに悶絶するオウガ・オリジンを勝ち誇った笑みを浮かべて見下ろしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
料理の経験は皆無ですが
美味しいリズムは感じ取ることは得意です
まずは美味しい食材を選びます
(目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばすと{絢爛の旋律}で『ダンス』を始めると野菜を選別していく)
次に選んだ食材をリズムに乗ってスライスします
(ダンスは続けながら美味しくて美しい野菜の切り方を『第六感』の直感に従い実行する)
そして煮ます
(まだダンスを継続しつつスライスした野菜を煮込みながら美味しさが逃げないよう『オーラ防御』壁で美味しさを閉じ込める)
おぉ!リズムに従って調理したら野菜スープが完成しました!
さぁ冷めないうちに召しあがってください!
(UC【蠱の一念】を発動する)



●リズムクッキング
 タンッ、タタンッと、ステップの音が響く。
 播州・クロリア(リアを充足せし者・f23522)が山の様にある食材の前で、両の瞳を閉じたまま、軽やかなステップで踊り出していた。
『む。おい、そこの虫娘。わたしは腹が減っているのだ。腹の足しにならぬ踊りになぞ興味ない。早く料理を作れ!』
 それを見たオウガ・オリジンが早く料理をと急かして来るが、クロリアは目を閉じたままダンスし続けていた。
「落ち着いて下さい。これが私の料理です」
『何を訳の分からないことを――』
 あまりの空腹でオウガ・オリジンの身体が一回り大きくなった瞬間、クロリアの手が食材の山の中から、熟したトマトを取り出した。
「この旋律は、絢爛の旋律」
 クロリアが踊り刻んでいるのは、蒼天に輝く太陽と陽光に照らされ輝く大地を表現した栄華のリズム。
「想像してみてください。青空が広がり、降り注ぐ太陽の光を浴びるお野菜を」
『何を言っておるのだ、貴様』
 オウガ・オリジンには伝わらなかったが、畑だって大地の一部。
 クロリアはダンスで生み出した旋律から力を生み出し操る能力で、大地の力を通じてより美味しい野菜を、そして野菜に合う調味料を選んでいるのだ。
(『美味しいリズムが集まってきました」)
 選んだ野菜と幾つかの調味料。
 それらの持つ『美味しさ』も、リズムとしてクロリアは感じ取る。
(「ではここからは――」)
 タタットトタンッ。
 クロリアのダンスのリズムが変わる。クロリアの刻む旋律が変調する。
 鮫の旋律――とあるサメメイドからの贈り物によって会得した、混沌のリズム無きリズムに乗って、クロリアは両手に構えた包丁で野菜を剥いて切って刻んでいく。
 そして野菜を纏めて大鍋に放り込んで――。
 三度。クロリアの刻む旋律が変調する。
 紅焔の旋律――天を衝かんと燃え上がり、鎮まることなく燃え広がる炎を表現した情熱と欲望のリズムを、ぐつぐつと大鍋を煮込む間、クロリアは踊り続けた。
 そして――煮込む事、小一時間。

「リズムに従って踊りながら調理したら野菜スープが完成しました!」

『この世界で最も尊いわたしですら、貴様が何を言っているのか本当に判らん』
 笑顔でリアが持ってきた赤い野菜スープを前にしたオウガ・オリジンは、困惑した様子でスプーンを手に取った。
『しかし確かにスープだな』
 熱さは平気なのか、まだ湯気が立つスープを冷まそうともせず、オウガ・オリジンはその黒い顔の中心へと掬ったスプーンを持っていく。
『こ、これは……トマトが濃厚!』
 オウガ・オリジンがスプーン投げ捨て、スープ皿持ってゴキュゴキュ飲み出した。
『これは、トマトの水分を全てを使ったスープか!』
 トマトは水分量が多い野菜だ。
 旬のものであれば、90%以上が水分とも言われる。
 加工する過程でその水分はどうしても逃げてしまいがちだが、丸ごと鍋に入れて煮込めばトマトの持つ水分を一切無駄にしないスープになる。
『惜しむらくは、ブイヨンやスープストックではなく、固形調味料を使ったな。無難! あまりにも無難! ……だが、悪くない。むしろ、野菜の本来の味を損なわないと言う点では、この無難さはアリ!』
(「ブイヨン? ストック?」)
 作ったクロリアより食べたオウガ・オリジンの方が調理過程を正確に理解すると言う、奇妙な光景が生まれていた。
『それに何より、スープと言う料理だ。貴様、料理経験ないだろう。だが、スープであれば盛り付けの経験と技術の無さも誤魔化せる』
 スープに盛り付けの工夫の余地がないわけではない。だが、スープであれば、素人がただよそっても見た目が悪くなる可能性は低い。
 クロリアがそこまで計算していたわけではないのだろうが。
『と言うか貴様、何で料理経験皆無で普通に美味しいスープ作ってやがる! このわたしの為に、うっかり毒物混入くらいやらかさんかー!!!!!』
 理不尽な事言いながら、オウガ・オリジンが椅子ごとひっくり返って後頭部を地面にゴツンッとぶつけていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎・うさみっち
【ニコうさ】
味も見た目も高水準を求められるのか!
「愛情だけは込めました」は通用しないわけだな!

ニコと!うさみの!何分かクッキング~!
王道にして至高!デコレーションケーキ!
スポンジ同士の間には
生クリームと苺・メロン・マンゴーなど
色とりどりのフルーツが並べられており
見た目も美しく味も美味しいとはまさにこの事

ここでニコに重大任務だ!
身体に優しい食紅入りの生クリームを各種用意した
この図案通りにケーキに絵を描くのだ!
(うさみっちが描かれた図を突きつけ
ニコは料理やアート自体は不得意でも
指示された事を正確にこなすのは得意だろ?
お前なら出来ると期待してるぜ☆(ウィンク

トドメは渾身のうさみビンタ喰らえー!!


ニコ・ベルクシュタイン
【ニコうさ】
うさみよ、知っているだろうが俺は、俺自身は料理がからきしだ
だが其れでも俺を伴って此処に居てくれるという事実に
俺は全霊で以て応えよう…!

と言う訳で!ニコと!うさみの!何分かクッキングっ!!
うさみがとびきり見映えも味も良いデコレーションケーキを作る、
其のアシスタントを今までの経験を活かしててきぱきとこなそう
きっちり分量を量ったり、作業効率を上げられるように道具を用意したり

…なん、だと…!?
俺が、絵を、描くだと…!?
いやいや無理無理待ってくれ、だがうさみの言い分ももっともだ
何より其処まで期待されては無碍には出来ぬ
図案とにらめっこしながら必死に生クリームアートを描く

戦闘?今忙しいとぶん殴る



●ニコうさキッチン、スペシャル回
「ニコと!」
「うさみの!」
「「何分かクッキング~!」」
 ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)が助手役、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)を先生役にやってきたこの料理番組風のノリも、これで何度目になるだろう。
 ついに。
 ついに、一発で揃う日が来た。
 今回のニコに、照れがないと言うのが大きいだろう。

 ――うさみよ、知っているだろうが俺は、俺自身は料理がからきしだ。
 ――だからどうした。ニコ、お前には今回、重大任務があるんだ! 来い!

 そんなやり取りがあった結果、ニコの中で決意が照れを上回っている。
(「俺が料理がからきしと知っていて、其れでも俺を伴って此処に居てくれるという事実に、俺は全霊で以て応えよう……!」)
 腕こそ下ろしたままぐっと拳を固めるくらい、ニコは燃えていた。
「先生、今日は何を?」
 それでも助手モードになるのは、忘れない。
「おう。今回は味も見た目も高水準を求められる! 『愛情だけは込めました』は通用しない! ってことで、王道にして至高! デコレーションケーキを作る!」
「成程、デコレーションケーキは見栄えも良いですね」
 何処に持っていたのか、ケーキのイラストが描かれたフリップを掲げるうさみっちの横で、ニコは助手らしくうんうんと頷いてみせた。
 そして、調理が始まる。

「おーい、ニコ。薄力粉の準備は良いか。50gずつでな」
「いつでもいいぞ」
 うさみっちがミキサーかけてるボウルの中に、ニコが一回分ずつ計量カップに分けた白い粉を、数回に分けて入れていく。
「よし。こねるのは俺がやる。終わったら焼きに入るから、そろそろオーブンを温めといてくれ。150か160度の設定で」
「わかった」
 うさみっちの主動の元、ニコはテキパキと、材料を計量したり、オーブンの予熱をしたりと、出来る手伝いに勤しんでいた。
 特に計量は必要な分量をただ計るだけではなく、分けて使うものはその回数分にきっちり分けると言う几帳面ぶりである。
 うさみっちの的確な指示にニコも応え、2人は手際よく作業を進めていき――。
「よーし! それじゃスポンジの焼き上がりを待つ間に、フルーツ切るぞ」
「等間隔に切ればいいのなら、俺も得意だぞ」
 スポンジ部分の作業を終えたら、スポンジの間に挟む果物の準備。
 イチゴ、メロン、マンゴー、桃、パイナップル――間に挟むフルーツは大きさがある程度揃うように切り分けて。

 チーンッ!

 焼き上がりを告げたオーブンから出てくる、ふわふわに焼き上がったスポンジ。
 3枚に切り分けたら、生クリームを塗り、色とりどりのフルーツを並べて、スポンジ重ねてクリーム塗ってフルーツ並べて。
 3枚重ねたら、全体を生クリームで覆っていく。
(「良かった。うさみの足を引っ張ることなく、作り終われそうだな」)
 ケーキの周りを飛び回り、最後のクリームを満遍なく塗っていくうさみっちの姿を見守りながら、ニコは胸中で安堵する。
 うさみっちがクリームを塗って、デコレーションをすれば最後――この時ニコは、本当にそう思っていたのだ。

●スペシャル会に、スペシャル任務
「ここでニコに重大任務だ!」
「何? どういう事だ?」
 うさみっちの唐突な言葉に、ニコがその頬についているクリームを取ろうと伸ばしかけていた腕を、思わず止める。
「良く見ろ、ニコ。まだ全然終わりじゃないぞ」
 そう。うさみっちの後ろには、様々に色付けされた生クリームが並んでいた。
「ここに、身体に優しい食紅入りの生クリームを各種用意してある。そして、俺様が描いた図案はここにある」
 更に、うさみっちはごそごそと調理台の引き出しに隠していた図案を広げた。
「成程。デコレーションの仕上げがまだ残っていたと……」
「そうだ! そしてこの図案通りに、ニコがケーキに絵を描くのだ!」
 確かにと頷くニコは、うさみっちがびしっと指さし告げられて――。
 珍しくも、硬直していた。
「俺が?」
「お前だ、ニコ!」
「絵を?」
「絵だ!」
「描くだと……!?」
「描け!」
 言われたことを確かめる様に一言一言区切って呟くニコに、うさみっちが一言一言、お前が描くんだよ、と告げる。
「……なん、だと……!? いやいや無理無理待ってくれ。重大任務が過ぎる」
「待たねえ!」
 あまりにも突然飛んできた重大任務に動揺を隠し切れないニコだが、うさみっちはぴしゃりと言い放って譲らない。
 何故なら――うさみっちは、出来ない無茶ぶりをしてはいないのだから。
「大丈夫だ。ニコは料理やアート自体は不得意でも、指示された事を正確にこなすのは得意だろ?」
「あ、ああ。それは確かに……うさみの言い分ももっともだ」
 うさみっちの言葉で、ニコが冷静さを取り戻す。
 図案の通りに描けば良い。求められているのは、独創性や芸術性ではなく、ニコの持ち味である正確性。
「お前なら出来ると期待してるぜ☆」
「其処まで期待されては無碍には出来ぬな」
 うさみっちにウィンクまでされては、ニコがやる気にならない筈も無い。
 ニコはまずはピンク色のクリームが入った絞り袋を手に取り、図案とケーキと交互に睨めっこしながら、慎重に、慎重に、最後のデコレーションを仕上げていく。
 いつにないニコの集中力。
 見守るうさみっちも、小さな拳を思わず握り締める。
『なあ、おい。もう見栄えはそのままでも充分だから、そろそろ食わせ――』
「今忙しい!」
「ニコのチャレンジの邪魔してんじゃねえ!」
 そこに痺れ切らしてケーキよこせと寄って来たオウガ・オリジンが、ニコのグーパンとうさみっちの耳ビンタに吹っ飛ばされた。

●いざ実食
『貴様ら……よくも! よくも、この世で最も尊いわたしを殴ったな!』
「うさみよ、そんな事をしたのか。火に油を注いでどうする」
「いや、お前だニコ」
 殴った事も気づかないほど集中してたのか、と感心と呆れの混ざったうさみっちの視線を浴びながら、ニコが膨れているオウガ・オリジンの前に完成したケーキを出す。
『おかげでますます腹が減った! これで美味くなかったら、許さんぞ!』
 せめてもの意趣返しか。オウガ・オリジンは、うさみっち柄のデコレーションが描かれたケーキにナイフを入れ――入れ――。
『ふん。姑息な事を。ケーキにこうして模様を入れれば、人の顔にナイフを入れるようで躊躇うと思ったか。この世で最も尊いわたしが、そんな事で躊躇う筈がないだろう』
 でも今躊躇ってましたよね、と言いたげなニコとうさみっちの視線をスルーして、オウガ・オリジンはうさみっち柄を縦に真っ二つにする形で、ナイフを入れる。
『更にこう!』
 くるりと皿を90度回し、もう一度ナイフを入れる。
 そして4分割したケーキにぶすっとフォークを突き立てて、オウガ・オリジンは黒い顔へと持っていき――シュルンとケーキが吸い込まれる。
『あー、このケーキ信頼の産物だー。共同作業ってやつだー』
 ナイフとフォークを持つオウガ・オリジンの手が、震え出した。
『菓子作りは、分量がものを言う。甘みが足りないなら後で砂糖を足せばいい、なんて考えは大惨事の元だ』
 オウガ・オリジンの言うように、計量の正確さは菓子作りに必要な要素の1つだ。
 菓子作りの成否は、材料の計量段階で決まる――とまで言う人もいるくらいである。
『だがこのケーキは味に乱れが無い! スポンジからクリームに至るまで、必要な材料を正確に、mg単位の狂いもなく計量している! そんな計量も手順を間違えれば台無しになるが、小さな身体で正確な手順に素早く飛び回って作られている!』
 オウガ・オリジンの高評価に、ニコは内心、ほっとして胸を撫でおろす。
 ニコ自身は心配していたようだが、生真面目さと几帳面さは菓子作りには向いていると言えよう。或いは、うさみっちがケーキと言う選択をしたのも、ニコのそう言う性格を判った上での事なのかもしれない。
『しかもデコレーション。色ごとにフレーバー変えて味わい変えてるな! ただの飾りつけと見せかけて飽きがこない工夫とか、おのれ!』
 オウガ・オリジンの顔に、ケーキがどんどん吸い込まれていく。
『最後に間に挟まれている様々なフルーツだ。大きさを大体揃えながら敢えて不規則に並べられている。お陰で食べるまでどのフルーツが何処にあるか判らないではないか! 敢えてランダムにする事で生まれるわくわく感とか! くっ!』
 空になった更に、オウガ・オリジンはナイフとフォークを置いて――。
『求めてない! わくわく感とか正しさとか! 有害さ何処なの!!!!!』
 ビクンッ、と痙攣してから、またまた皿を頭で叩き割る勢いで、テーブルの上に突っ伏すオウガ・オリジン。その頭上に、ニコとうさみっちが手を打ち合わせたパチンッという小さな音が降ってきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

司・千尋
連携、アドリブ可

料理なんて殆どした事ない俺の出番だな!

箸休めに冷奴でもどうだ?
食べ応えがある木綿豆腐に少し濃い目の味付けした肉味噌のせ!
さっぱり食べられるサラダ風の絹ごし豆腐!
シンプルイズベストの薬味オンリーの冷奴!
さぁどれにする?

リアクション面白いけど
口煩い姑みたいだな


戦闘は『翠色冷光』で攻撃
回避されても弾道をある程度操作して追尾させる


敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
オーラ防御も鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
速度や威力を相殺し回避する時間を稼ぐ
サイズがデカくなるなら小回りきかないだろうし動きを見切る事はできるはず
間に合わない時は双睛を使用
無理なら防御



●休まる気がなかった
「そろそろ、箸休めなんかどうだ」
 何か白いものが入った器を幾つか乗せたお盆を持って、司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)がオウガ・オリジンの前に出る。
『箸休め? いらん! そんなもの腹を満たす食事をよこせ! それはなんだ!』
「冷奴だよ」
 飢餓感を募らせるオウガ・オリジンに、千尋はお盆から器を並べていく。
「食べ応えがある木綿豆腐に少し濃い目の味付けした肉味噌のせ!」
 肉味噌の甘辛い香りが、既に漂っている。
「さっぱり食べられるサラダ風の絹ごし豆腐!」
 冷たい胡麻だれで。
「薬味オンリーの冷奴!」
 まさにシンプルイズベスト。
「さぁどれにする?」
『はぁ? 全部に決まっておるだろう。早よ、よこせ』
 3つの冷奴と言う千尋の突き付けた選択肢に、オウガ・オリジンの答えは全て。
『しかし、ここで冷奴か。このわたしを満足させられる自信があるのだろうな』
「まあ食ってみろって」
 目が何処にあるかもわからないオウガ・オリジンの黒い顔を向けられながら、千尋は自信あり気な笑みを浮かべて返す。
 だが――。

 ――やばいか? 他の人レベル高かったしな。

 内心、千尋は結構焦っていた。
 レベルとは、猟兵的なレベルの事ではない。
 猟兵達が次々とオウガ・オリジンに提供している、料理のレベルである。
 料理なんて殆どした事ない俺でも、豆腐を切って色々盛るくらいなら問題なく作れるだろう――その判断が間違いだったとは、千尋は思っていない。
 ここは不慣れな料理で冒険するべき場面ではない。
 だが充分だったかと言うと――。
『むう、この肉味噌。甘辛い味付けが! この……豆腐にピッタリではないか! いや、白米とかと食べても絶対合う味だが! これは木綿豆腐で正解!』
(「あ、何か大丈夫そうだ」)
 しかし、シュルンと次々豆腐吸い込んでくオウガ・オリジンの様子に、千尋は少しだけ安堵の息を胸中で溢す。
『スライスした胡瓜とねぎ、みょうがに大葉を刻んで散らしたか。サラダ風と言うか冷や汁風だな。絹ごし豆腐で正解だが、味が大人しすぎる。トッピングをもっと増やすとよいのではないか? 梅肉とかどう?』
 何かアレンジの案を言いながら、オウガ・オリジンは次の冷奴へ。
『これはもう、生姜醤油を軽く垂らすだけで充分だな。他のものは要らない』
 チュルンッと言う感じで、薬味のみの冷奴が、オウガ・オリジンの黒い顔の中へと吸い込まれて消えていった。
『課題はある。だが木綿か、絹ごしか。そこのチョイスは見事ばっちり。この調子で精進するとよい――って、わたしは何を普通にアドバイスしておるのだ!』
(「リアクション面白いけど、口煩い姑みたいだな」)
 言ってしまって置いて地団駄踏みそうになってるオウガ・オリジンの様子を眺め、千尋は胸中で呟く。
『大体、こんなに豆腐ばかり。健康になってしまうではないか!』
 これまでの様にオウガ・オリジンがテーブルに突っ伏したりしない辺り、ダメージとしてはあまり入っていないようだが、千尋が危惧したほどの事にはなっていないようだ。
「戦う気もなさそうだが……」
『当たり前だ! 動けばますます空腹になるだろうが。まずは空腹を満たさない事には始まらない!』
 飢餓感を膨らせ、少女の身体から大人に近い身体へと大きくなりながら――オウガ・オリジンがその力を振るうのは、早くもっと料理もってこいと急かす。その為にのみ、振るわれていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

穂結・神楽耶
【炊事課】

理論は分かりませんが…
つまりアリスっぽい料理にすればオリジンも食いつくのでは?
どうするって?
スート形にハンバーグ作ったり、温野菜を型抜きしたり。
ええ、そんな感じで!

ハンバーグの細かい彩りとか味付けはお任せします!
料理自体ニルさんのが上手ですし、
匡さんは細かいところに気付きますし。
わたくしが口出してバランス崩さないように。

あとはデザートですね。
ブルーハワイシロップで色づけたゼリーをクラッシュして。
匡さん、サイダーを…グラスの八分目まで。
はい、完璧です!
上には生クリームとさくらんぼを飾って。
アリス色ゼリーサイダー、完成です!

ね、美味しかったでしょう?
締めの一撃までお楽しみくださいませ。


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【炊事課】

旨いもん食って死ぬってどういう理論だ……??
ともかくいつもみたいに作れば良いんだろ
なら任せろ。弟妹たちに食わせるとき並に気合い入れてやるぜ!

おー、良いな穂結
ナイスアイデアだぜ!
ソース何にする?デミグラスでも作るか
スパイス系を入れると本格的になって良いんだよな~(どこからともなく香辛料の瓶を取り出す)

盛り付けにも気を遣おう
匡、匡こういうの得意だろ
一緒にやってくれー 頼むー
見た目は味に直結したりするからさあ
拘りたいんだよな……
ソースを散らして、野菜を綺麗に纏めて
最後にクレソンを……乗せる!

では、この料理と、貴様の腹を破らんとするアリスたちの呪い
思い残すことなく存分に味わうが良いぞ!


鳴宮・匡
【炊事課】


どういう理論かはわからないけど
そういうことならお前と穂結の得意な話だろ
俺も手伝うから、まあ、やってみようぜ

まだ二人ほど料理に明るいわけじゃないから
あんまり、発想力には自信がないんだよな
二人の作業をサポートするような感じで手伝っていくよ

えっ? 得意とか言ったことあったか??
俺に何の美的センスを期待してるんだよ
中学生連中の弁当くらいしか……あー
(そういえばめちゃくちゃ彩り気を付けて花見弁当とかも作ったなとか思い出して)
……できる限り努力はする
細かい作業なら、そんなに苦手じゃないと思うし

……戦闘の方が得意なのは、言うまでもないけどな
さ、メシの後は運動っていうだろ
さっさと片付けさせてもらうぜ



●皿に盛るばかりが料理ではない
「出来た。思い残すことなく存分に味わうが良いぞ」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が、オウガ・オリジンの前に完成したと言って置いたものを見て、オウガ・オリジンが首を傾げた。
『む? 何だこれは』
「弁当箱だと思ってたが。何て言うんだ、これ」
「一段重箱、ですかねぇ?」
 その反応に漆で黒く塗られた箱を指さした鳴宮・匡(凪の海・f01612)に、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)が首を傾げつつ返す。
『ここで弁当箱だと……?』
 これまでとは趣が違う料理を、オウガ・オリジンが不思議がり――。
『いや。そうか。この世界に来る前のアリスどもは、行楽とか言うものに興じる際にこのような弁当を持って出るのだったな。そしてそれはしばしば、食中毒と言う病を引き起こすのだったな。成程、成程。ようやく、わたし好みの料理が出てきたようだ!』
 明後日の方向に勘違いしながら弁当の蓋を開けようとするオウガ・オリジンに、炊事課の3人が冷たい目を向ける。
 何故彼らの料理がこの様な形になったのか――それは、調理直前に遡る。

●炊事課の3人
「うーん……何を作ればいいんだ?」
 山の様な食材を前に、ニルズヘッグは悩んでいた。
「どうした? 料理ってことならお前と穂結の得意な話だろ」
「そうですよ。わたくしよりニルさんのが上手じゃないですか」
 その様子に、匡と神楽耶が意外そうに視線を向ける。3人の中で料理の技術が最も高いのはニルズヘッグだ。任せれば間違いない――と言う思いは少なからずあった。
「そうは言うが、食材が多すぎてなぁ……」
 左目寄り漏れ出る炎が、ニルズヘッグの迷いを表すかの様に頼りなく揺れている。
 選択肢が多すぎると言うのも、時に迷いに繋がるものだ。
 特に料理となると、食材が先にあってそこから料理を考えるよりも、何を作ろうかと決めてから食材を選ぶ方が楽だったりする。
「あと、旨いもん食って悶え苦しむってどういう理論なんだ??」
「それは俺もどういう理論かはわからないな」
「あれ、きっと考えてわかる理論じゃないですよ」
 ニルズヘッグが口にした疑問には、匡は内心首を傾げながらも平静に返し、神楽耶は理解を諦めた風に溜息交じりに返す。

 オウガ・オリジンが、猟兵達が作り上げた料理を食べては美味いと言って、しかもその過程の技術や、果ては陰でしていた努力やら調理した人の過去のあれこれまで味から読み取った挙句、悶絶してテーブルに突っ伏す。
 そんな光景を、3人はもう何度か見た。
 見たけれど、判らなかったのだ。
 オウガ・オリジンの周りに次第に増えて来た割れた皿の残骸は、オウガ・オリジンが猟兵達の料理で受けたダメージを表すパロメーターとなっている。
 ――という現実は判るのだが、それがどうして、となるとわからない。
「取り敢えず……アリスっぽい料理はどうでしょう?」
「「アリスっぽい料理?」」
 考えても判らないことを意識的に追いやった神楽耶の思い付きに、ニルズヘッグと匡が揃って首を傾げる。
「例えば、スート形にハンバーグ作ったり、温野菜を型抜きしたりという感じです。あれだけ食べて悶絶を繰り返していると、流石にそろそろ警戒してくるかもしれませんし、オリジンが食いつき易い見た目を、と思いまして」
「おー、良いな穂結。ナイスアイデアだぜ!」
 神楽耶の上げた具体例を聞いて、ニルズヘッグがニィっと笑みを浮かべる。
「そうすると、ソース4種か? 何にする?」
「細かい彩りとか味付けは、ニルさんにお任せします!」
「じゃあ黒1つはデミグラスだな。あとは醤油ベースの和風、赤はトマトと……サルサにするか。デミグラスにもスパイス系を入れると、本格的になって良いんだよな~」
 神楽耶と話している内に見えていなかった方向性が定まって、ニルズヘッグは迷いなく食材の山へと手を伸ばしていく。
(「スート型のハンバーグ? 難しいんじゃないか?」)
 挽肉をはじめとした食材を次々と取り出していくニルズヘッグの背中を眺めながら、匡は胸中で呟いていた。
 だが、その懸念を口に出そうとは思わない。
 匡も料理をしないわけではないが、料理に明るいとは言えない。特にニルズヘッグと神楽耶に比べたら、技術も発想力もまだまだだろう。
(「俺は二人の作業をサポートするように手伝って――」)
「匡、匡。盛り付けは手伝ってくれ」
 出来る範囲のサポートに徹しよう。そう考えだしていた匡に、幾つもの香辛料の瓶を抱えたニルズヘッグが予想外の事を言ってきた。
「盛り付け? 俺が?」
「ああ。盛り付けにも気を遣おうと思って。見た目は味に直結したりするからさあ。拘りたいんだよな……」
 ニルズヘッグのその言い分は、匡にも判る。
「匡こういうの得意だろ」
「えっ? 得意とか言ったことあったか??」
 だがニルズヘッグの言う得意の自覚は、匡の中にはなかった。
「いいんじゃないでしょうか。匡さんは細かいところに気付きますし」
「俺に何の美的センスを期待してるんだよ」
 だと言うのに神楽耶にも勧められて、匡の表情に僅かに困惑が出る。
 かつて、どんな戦場でも平時と変わらぬ様で戦い抜いて“凪の海”の異名をもつ傭兵であったこの男にしては、実に珍しい。
「俺が作った事あるのなんて、中学生連中の弁当くらいしか……あー」
 2人そこまで反論しかけたところで、匡はふと思い出した。

 ――そういえばめちゃくちゃ彩り気を付けて花見弁当とかも作ったな、と。

 それを思い出したことで、同時に、匡はひとつ閃きを得た。
「弁当箱使っても、料理で良いんだよな」
「あ、成程。蓋で隠しておいて、開けるとスート型のハンバーグが見えるんですね。良いじゃないですか!」
「出来立てで、敢えての弁当風か。それなら、ハンバーグの付け合わせは……」
 匡が口に出した閃きを聞いて、神楽耶が目を輝かせ、ニルズヘッグは頭の中でメニューの構成を考え始める。
「……できる限り努力はするか」
「はい。デザートは思いついたので、一品作りますね。ニルさん、あとで冷気下さい」
「任せろ。弟妹たちに食わせるとき並に気合い入れてやるぜ!」
 言ってしまったらやるしかないと匡が嘆息交じりに呟き、神楽耶はパタパタと追加の食材を取りに行き、ニルズヘッグが赤い三角巾をキュッと頭に結ぶ。
 こうして、炊事課の3人が作るのは弁当になったのだ。
 そして――。

●蓋を開ける楽しみの先にあったもの
『これは……トランプの4つのスートだな!』
 3人の思惑通り、弁当箱を開けたオウガ・オリジンは、その中に隠れていた赤と黒のソースで色付けされたスート型ハンバーグに、どこにあるのか判らない目を奪われている様子だった。
『しかもそれぞれ黒と赤でトランプ色とかー!』
 大きな一段重箱は中で4つに区切られていて、それぞれに1つずつ、スート型のハンバーグがメインに入っている。
 ハートとダイヤには赤系のソース。
 スペードとクラブは黒系のソース。
 ニルズヘッグが、トランプの色に合わせてソースを作っていた。
『弁当箱で出してきた理由がこれか……見た目で不意打ちしてくるとは。だが、肝心の味の方はどうかな』
 オウガ・オリジンは、きっと有害な味を期待しているのだろう。
 まずはハートのハンバーグに、ぐさりとフォークを突き立てる。
『成程、ハンバーグだな。そしてハートの赤は、サルサソースか。結構辛めに仕上げてあるが、周りのマカロニが調和してくれる……!』
 シュルンと消えてくハートハンバーグと、マカロニ。
『待て、もしや全てハンバーグなのか? クラブもか? あの形をか?』
 続けてオウガ・オリジンは、黒系のソースのクラブにフォークを突き立てた。
『デミグラスソース! 微かにスパイス効いてる大人の味! チーズで周りを覆う事で、クラブの形を保っているな! カリカリに焼けたチーズの香ばしさがまた良い!』
「ついでに言うと、ツナギの配合ちょっと変えてる」
 そこまで判るのかと内心舌を巻きながら、ニルズヘッグはオウガ・オリジンに頷く。
『ダイヤは酸味を効かせたトマトソース。スペードはおろしポン酢。4種類それぞれでソースを変えてるとか、にくい手間かけおって! 付け合わせもそれぞれのソースに合わせて選んでいる!』
 例えば山菜の酢の物は、デミグラスソースには合わないが、おろしポン酢とならば多少混ざっても合う。逆にクレソンは、おろしポン酢よりデミグラスソースが合うなど。
 ニルズヘッグが苦心したのは、ソースを4つ作るよりも、それぞれに合わせた付け合わせを作る方であった。
 弁当風とは言え、を使うなら、そこは意識しておくべきだと思ったのだ。
『さらに詰め方も無駄がない! 余分なスペースを極力減らしている。これなら、弁当箱の中で具材が移動しない。だけど効率重視かと言うわけでもなく、ソースの色と合わせた彩も考えられている!』
「お褒めに預かりどーも。細かい作業は苦手じゃないんでな」
 その配置は、2人の期待に応えて匡が主導して頑張った。
 戦場に持って行ける荷物は限られている。その限りがある中で、必要な物を選び、詰める。――そう言う事は、傭兵であれば誰もが経験するものだ。
 その上をどこまで使うか。それすら自由な皿の上よりも、スペースが決まっている弁当箱の方が、匡にはやり易いかったのかもしれない。
『ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
 と、スートのハンバーグ全てを綺麗にシュルンと飲み込んだオウガ・オリジンが、何やら頭を抱えて叫んでいた。
『普通に弁当風の暖かいハンバーグランチではないかぁぁ! 食中毒とかそう言う毒要素がない! わたしの期待を返せ!』
 美味の苦しみからか、理不尽な事を叫ぶオウガ・オリジン。
 その前に、神楽耶が淡い青色が満ちたグラスを置いた。
「デザートです」
『おお。涼し気で美しい青だな。……そして、有害っぽさもある!!!』
 なんとも涼し気な色合いの中に、オウガ・オリジンは有害さを見出した。そうでもしないと、そろそろ正気が危ないのかもしれない。
 こんな綺麗な青なのに――と内心膨れながら、神楽耶は、オウガ・オリジンがストローを入れるのを黙って見守る。
『ツルシュワー!!!!』
 今までになかった食感に、オウガ・オリジンがガタッとなった。
『このシュワは炭酸。サイダーだな。ツルっとしてるのは、細かく砕いたブルーハワイのゼリーだな!』
 これも、オウガ・オリジン大体正解である。
 神楽耶はブルーハワイシロップで色づけたゼリー(ニルズヘッグが冷やして早く固めた)を適度にクラッシュしてグラスに盛り、サイダーを8割ほど注ぎ(サイダーの分量は匡がピタリと合わせた)、上から生クリームとサクランボで飾り付けた。
「アリス色ゼリーサイダーですよ」
『アリス色、だと?』
 神楽耶の告げた名前に、シュルンッとトッピングもゼリーもサイダーも一息に飲み干したオウガ・オリジンが、グラスを持ったままピタリと固まった。
(『アリス色? アリス色とはなんだ? アリスなんて何人もいるではないか』)
 胸中で呟いたオウガ・オリジンの視界に、今しがた飲み干した青と似た青が映る。
 自身のドレスの淡い青が。
(『まさか……やつらの言うアリスとは……「はじまりのアリス」でもある、このわたしの事なのか!?』)
 違う。
(『仕方ないな。この世界で最も尊いこのわたしだ。料理のイメージに使いたくなってしまっても無理はあるまい』)
 仕方なくも、無理がなくもない。
(『やってくれるじゃないか。今までの配下共にアリスの代わりを作らせても、こんな工夫をしてきた記憶は……記憶は……』)
 多分、ないのだろう。そんな記憶など。
「ね、美味しかったでしょう?」
『やめろぉぉぉ! そんな気遣いをわたしに向けるなぁぁぁぁっ!』
 勝手に勘違いして膨らませた優しい気遣いを神楽耶の一言に撃ち抜かれ、オウガ・オリジンは『がふっ』と黒い顔から黒い何かを吐き出し、椅子から転げ落ちる。
「えっと……? 締めの一撃は……不要ですかね」
「貴様に喰われたアリスたちの呪いを味わって貰おうと思っていたが……」
 まだ消えていく気配はないが、しばらく立ち上がってくる気配もないオウガ・オリジンの様子に、何が起きたのか判らず神楽耶とニルズヘッグが所在なさげに視線を交わす。
「……帰るか」
 溜息交じりの匡の一言に、2人とも頷いて。炊事課の3人は散らかったテーブルだけ片づけて、その場を去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
腹ぺこアンちゃん(f16565)とー。

キレイな食べ物が好き?
吐血しても残さず全部食べるなんてエライなあ♪(尊敬のまなざし)

おいら、食べる方が得意なんだけど(アンちゃんのを)。
じゃ、母ちゃんに習った料理を作ってみるね?

用意するもの。
鉄串。羊肉。太ネギ。蒟蒻。椎茸。バナナ。マシュマロ。
カレー粉と、その他香辛料少々。
よく乾燥した薪。火口と焚き付け。キレイな灰。

ん、準備おっけー。火を起こしまーす!
鉄串に具材を、こう!(ぐさ)(ぐさぐさ)(ぐさぐさぐさ)
これに、香辛料と(ぱっぱ)カレー粉!(さっさ)

じゅー。

ん、野生なBBQ完成ー!
出来立ての香ばしいのをどうぞ♪

美味しいでしょ?
じゃあもう一本ね!(ぐさっ)


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

お怒りになるとお腹が空く、正論
食すなら美味しいを沢山食したい、わかる
オリジン、あなたとは気が合う(主に食欲的に)
まかせて?わたしの毎日朝ごはん作る腕前

まずはオムライス
トマトみ残るケチャップで炒めたご飯を、とろりふっくら卵で包む
鶏肉のジューシーさもポイント高し
そして、牛肉…シャトーブリアンを程よいレアに
ローズマリーをのせ見た目も美味
最後にプリン
つつくとぷるん♪定番カラメルに、生クリームとチェリーを添えて

そしてここが大事
ご飯は皆で食べたら美味しさ倍増
つまり、わたし達も一緒に食す

皆で食せば虚無もきっと減る
ふふ、おいしい…(至福

ん、満足した?
それじゃ
【鎌鼬】で刺す



●高級食材だってあるんだよ
『ええい! わたし好みの料理はどこだ! 有害な料理を! 見た目よく有害な料理を! 誰でもいい! 早う持ってこないか!』
 オウガ・オリジンが荒れている。
 正確には、声を荒げている。
 アリス色ショックから立ち上がって収まらぬ空白を訴えてはいるものの、ぐでーんとテーブルに突っ伏したままで。
「お怒りになるとお腹が空く、正論」
 なんか物凄くダメな大人感が漂い出しているその姿に、木元・杏(だんごむしサイコー・f16565)は何故か同意を示す。
「まつりん、頑張ろう」
「おいら、アンちゃんのを食べる方が得意なんだけどなぁ」
 やる気を握り締めている杏の後ろについて、木元・祭莉(おいらおいら詐欺・f16554)も食材の山へ向き直った。
 だが、祭莉は食材の山を見ても、何を作ろうかあんまり浮かんで来ない。
(「作れそうなのは、母ちゃんに習った料理かなぁ」)
「まつりん、まつりん。すごいのみつけた」
 祭莉が胸中で呟いていると、杏が何やら興奮した様子で、金色に輝く『A5』のステッカーがラップに貼られたお肉を持ってきた。
「これシャトーブリアン!」
 それは牛のヒレ肉の中でも、特に中央部の限られた部位の肉の事である。
 牛一頭から取れる量が限られているのと、脂肪が少なく良い肉質から、高級部位として知られている。
「シャトー……ぶり?」
「つまり、すごく、高くて、いいお肉。使おう」
 判ってなさそうな祭莉に、杏がもの凄く噛み砕いた説明をする。
『ほう……シャトーブリアンか』
 そんな2人の声に、オウガ・オリジンの声が割って入った。
『数多の食材の中から、高級食材を選び取った目は誉めてやろう。だが、この世界でもっとも尊いわたしは高級食材を使っただけで満足するほど安くない。高級食材には相応の調理技術を求める。ククク……果たしてそれが出来るかな、小童共』
 あまりに美味しいものが続き過ぎたか、そろそろ失敗しろとプレッシャーかけてマウント取りに来たオウガ・オリジン。
 こう見えてオウガである。たまには汚い手だって使うと言うもの。
「食すなら美味しいを確実に、沢山食したい、わかる」
 しかし杏はそんなの効いた風もなく、エプロンをかけて。
「オリジン、あなたとは気が合う。だからまかせて? わたしの、毎日の朝ごはん作る腕前……見せてあげる」
 きゅっと背中でエプロンの紐を結んで、キリッとオウガ・オリジンを見上げる。
 祭莉に至っては、必要な鉄串を集めるのに忙しかった。
 獅子が子を千尋の谷へ突き落す――その例えを笑顔で地で行く両親に育てられた木元家の2人が、この程度のプレッシャーに屈する筈も無い。
 そして――。

●木元家とオリジンの食卓
『で、何でこうなっているのだ?』
 オウガ・オリジンの前に、良い匂いを放つ皿が並んでいる。
 それらと同じものは、何故か同じテーブルに着いてる杏と祭莉の前にも並んでいた。
「わたし達も一緒に食す」
「おいらも同じく」
 杏も祭莉も、オウガ・オリジンと同席しようと言うのだ。
『この世界でもっとも尊いわたしは、いわば女王も同じ。女王は常に独り食す。貴様らの様な小童の同席を許――』
「あなたは大事な事がわかってない」
 尊さアピールしつつ追い払おうとするオウガ・オリジンの声を、杏が遮った。
「ご飯は皆で食べたら美味しさ倍増。皆で食せば虚無もきっと減る」
 杏は真顔で、じっとオウガ・オリジンを見つめて――。
 きゅるるるぅと、杏のお腹の虫が鳴いた。
『単に貴様も腹が減っただけだろう!』
「そうだよ!」
 ツッコむオウガ・オリジンと、開き直る杏。
 その横で、何やらカチッカチッと言う小さな音が――ボッ!
『ぬぉっ!?』
 突然、真横で上がった炎にオウガ・オリジンが驚く。
「火を熾しまーす!」
 いつの間にやら、祭莉が組んでいた良く乾いた薪から、メラメラと炎が燃えていた。さっきの音は、火口に着火していた音だろう。
『おい待て小僧。火を使うならあっちの調理場で――』
「BBQの出来立てをお届けするからねー♪」
 調理場を指さすオウガ・オリジンだが、祭莉は構わず薪を増やし、その周りに串に刺して下処理した食材を並べていく。
 聞いちゃいねえ。
『貴様ら、さてはこのわたしを敬っておらんな? 空腹が満たされたら、覚えてろ』
 憮然とした様な声で言いながら、オウガ・オリジンはスプーンを手に取った。
 向ける先は、ケチャップのかかった黄色い塊。
『オムライスか。如何にも子供の――』
 などと言いながら大きく掬って、黒い顔の中にシュルンと吸い込む。
『卵ふわとろー!』
 あ、やっぱり叫んだ。
『卵の数をケチらずに多めに使う事で、内側に半熟を残して包んでいる。しかも、溶き卵は敢えて荒めに、白身と黄身を完全に混ぜきらないで焼いたな。白身と黄身、それぞれの食感を楽しめる部分を残している! その歳で、どれだけ卵焼いてきた!』
(「たまこに、感謝」)
 オウガ・オリジンの賛辞を聞きながら、杏は毎朝たまご提供してくれる鶏に胸中で合掌する。しばらくは、嘴で突かれても許せる――様な気がした。
『中のケチャップライスはトマト風味強めのケチャップを使っているな。しかも使っている鶏肉は――地鶏! 皮だけ先にカリカリに焼いて、その脂で炒める事で地鶏の風味を全体に行き渡っている!』
 あっという間に、シュルンと消えていくオムライス。
『続いて……本当に焼いたか、シャトーブリアン』
 オウガ・オリジンは、お高いお肉だろうが少しずつ食べるなんて事はしない。
 杏がローズマリーを添えて見た目も良く仕上げたステーキに、ざっくと遠慮なくナイフを入れて、一気に3分の1くらいを、やはり黒い顔にシュルンと吸い込んだ。
『焼き加減はレア! よし! いきなり焼かず、ちゃんと塩と胡椒とニンニク、そして香草を擦り込んで少し寝かせて、肉の臭みを消しつつ下味をつけているな! よし!』
 ザクッ、シュルン。もひとつシュルン。
 あっという間にオウガ・オリジンの顔に消えていく、シャトーブリアン。
『香草まで完璧に使っちゃってるしー。どこも失敗しなかったー!』
 して欲しかった――と言う叶わなかった希望を滲ませつつ、オウガ・オリジンが杏の料理の美味さに身悶えいる。
「ふふ、おいしい……」
 当の杏は、シャトーブリアンの味に至福の表情である。食べるのに忙しくて、オウガ・オリジンの叶わなかった希望は聞こえてなさそうだ。
「ん」
『ん?』
 そこに、祭莉が焚き火から上げたばかりの鉄串を差し出した。
「出来立ての香ばしいのをどうぞ♪」
『この香……まさか!』
 何かに気づいたオウガ・オリジンは、鉄串にささった肉をガブッと食わえて、豪快に口で串から外すと、そのままシュルン。
『やはり羊肉! 羊肉は草食動物故の独特の臭みが肉に残り易い。カレー粉と香辛料がクセを隠してはいるが、惜しむらくは振りかけ方が雑! 1つ1つ丁寧に刷り込んでたらもっと良かった! 後こんにゃくはそのままでもいい!』
 祭莉の焼きたてBBQには、オウガ・オリジンは少し辛口評価。
 まあそれもその筈で、祭莉がやった事と言えば、材料を一口大に切り分けたら、鉄串にぐさぐささして、カレー粉と香辛料をぱっぱと振りかけた――と言う、特に最後の味付けの部分を勘に頼っていた。
「むー。じゃあ、これはどうだー!」
 ならばと、祭莉は他の具材よりも焚き火から離して遠火に焼いていた串を3つ取る。
 それらを串から外すと、3つを重ねてオウガ・オリジンに差し出した。
『これは……バナナでスモアだと!』
 そう。祭莉が遠火に焼いていたのは、バナナとマシュマロ。焼きバナナでマシュマロを挟めば、スモア風になる。
『仄かな香ばしさと甘み、そして伸びる食感。焼きマシュマロだけでも美味いのに、そこに焼きバナナの甘みを足すとかー!!!』
 オウガ・オリジンの反応に、祭莉はうっかりこっちまでカレー粉かけないで良かったと、こっそり胸を撫でおろす。
「デザート好き? まだある。そろそろ頃合いの筈」
 焼きバナナスモアに対するオウガ・オリジンの反応を見て、杏は椅子を降りて駆けて行くと、冷蔵庫から何かを取り出して、すぐに戻って来た。
「プリン。冷やしといた」
『生クリーム乗せプリンか。見た目は良いが、焼きバナナスモアのあとだと――』
 普通だな、と言いながら、オウガ・オリジンはプリンを吸い込む。
『卵が濃厚! 牛乳と砂糖少な目にしたな、さては!』
「黄身増量してみた」
 オウガ・オリジンの言葉に、杏がこくりと頷く。
『もうないか……本当にもう終わりなのか。有害さは何処に!?』
「ん、満足した?」
「美味しかったでしょ?」
 有害な料理が無かったと言うオウガ・オリジンを、杏と祭莉がじっと見つめる。
『美味しいけれど、それじゃ満足できないのー!!! って、串刺さったぁぁ!?』
 2人の純粋な視線から目を逸らす様にテーブルに突っ伏したオウガ・オリジンの頭に、鉄串が突き刺さった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【料理】は得意だからね
1番好きなスイーツで勝負!

一本のバナナを縦半分に切って
中身を綺麗にくり抜かせてもらうよ
皮は後で使うからくり抜いた身を材料に
一口サイズのフルーツタルトを量産
林檎にベリー、バナナタルトも作ろうね

風魔法+炎を組み合わせた熱と
風+氷を組み合わせた冷気を有効活用して程よく時短
タルト生地を混ぜる時は練り過ぎないように
サクサク感が大事だから

完成したらバナナの皮を器代わりに
タルトを色鮮やかに並べて
隙間を埋めるようカットフルーツやブルーベリーで装飾
色付けにミントを散らせばフルーツアートの完成!
味も保証するよ

敵の攻撃は敵自身ごと巻き込む【指定UC】の水魔法【属性攻撃+一斉発射】でカウンター



●時間短縮は手抜きとイコールではない
 冷たい冷気を孕んだ風が、厨房の並ぶ世界を吹き抜ける。
「風と氷で――!」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が、風と氷の術を合わせて冷気を放っていた。
 その冷気は、オウガ・オリジンに向けるものではない。
 常温に戻したバターと砂糖、卵黄を混ぜ合わせ、そこに薄力粉を加えて混ぜて、練り込んだもの。通常は冷蔵庫で冷やして休ませる工程の時間短縮のためだ。
 休ませた生地を叩いて伸ばしたら、小さな型に敷き詰める。
 通常は予熱したオーブンで――。
「今度は、風と炎で」
 澪は再び魔法を使い、風と炎の術を組み合わせた乾いた熱風で、満遍なく熱を与えて生地を焼き上げていく。
 こうして出来上がったのは、小さなタルト生地。
 それだけでも見た目の可愛らしさは充分出そうなものだが、澪には小さなタルトを更に活かす考えがある。
 そのカギを握っているのは――。
「んー。これが良いかな」
 澪が房の中から湾曲の少な目な1つをもぎ取った、黄色い皮を持つ果物。

 バナナである。

●バナナの中に詰め込んで
『バナナだな。キャベンディッシュ種か』
 目の前に出て来た黄色いバナナ――と思しきものに、オウガ・オリジンが澪の方に目の見当たらない黒い顔を向ける。
「バナナに見える?」
『見えるな。だが、わたしはこの世界で最も尊いのだぞ。そんな手に引っかかるか!』
 悪戯っぽい笑みを浮かべた澪に返して、オウガ・オリジンの手がバナナに伸び――。
『予想以上にカラフル!』
 次の瞬間、何かから目を逸らす様に黒い顔を両手で覆っていた。
 バナナの皮の中には、フルーツの色鮮やかさがぎゅっと詰まっていた。
 バナナの黄色の上に並ぶ様々なフルーツを乗せたミニタルト。その間を埋めるのもフルーツで、散らされたミントがアクセントになっている。
『バナナの皮を器にするとは、面白いアイディアだ』
「一本のバナナを縦半分に切って、中身を綺麗にくり抜いたんだ」
 くり抜いた果実は、バナナタルトに使われている。
『工夫は技術だけではない。選んだバナナそのものにも秘密があるだろう。スウィートスポットが少ない、完熟の少し手前のものだな!』
 スウィートスポットとは、バナナの皮に出る黒い斑点である。
 あの斑点は、熟したバナナの証。ある程度斑点が多い方が、バナナの果実は甘く、皮は柔らかくなり剥き易くなる。
 だが今回の様に器に使うなら、皮はむしろ少し硬さが残っている方が望ましい。
 だから澪は、敢えてスウィートスポットが少ないバナナを選んだ。
「バナナボート風のフルーツアートだよ。味も保証するよ!」
 見た目に感心しきりのオウガ・オリジンに、澪が食べてみてと告げる。
『そうだな。ではまずミニタルトから』
 オウガ・オリジンは頷くと、一番端のバナナタルトを摘まんだ。
『良くまあこんなに小さく生地を焼いたな』
 感心したように言う黒い顔に、シュルンと吸い込まれるミニタルト。
『サクトロとジューシーさが一辺に来たし!』
 ダンッとオウガオリジンの拳がテーブルを叩く。
『まずこのタルト生地。敢えて混ぜた後の練りを控えめにしているな。そのおかげで、このサイズでもしっかりサクサク感が出ている!』
 オウガ・オリジンは、一口で澪のタルト生地の秘密を感じ取りながら、続けてその隣の赤と紫が鮮やかなタルトを摘まむ。
『こ、これは……ヨーグルト風味のクリームだとぉ! そうか、ミニタルトにする事でそれぞれのフルーツに合わせて中のクリームを変えるのも簡単になる!』
 バナナにはホイップクリーム、角切りリンゴにはカスタード。
 澪は乗せるフルーツに合わせて、ミニタルトの中のクリームを変えていた。
 大きなタルトだと、こういう工夫は中々しにくい。ミニタルトの利点である。
『そしてタルトの間を埋めているフルーツはドライマンゴーに、ドライパイナップル。ここでドライフルーツを使っているのは、タルト生地のサクサク感をフルーツの水分でべチャっとさせてしまわない為だな!』
 そのドライフルーツも吸い込んで――。
『甘さと瑞々しさが溢れる! 有害さが、ない!!! 頭の中にフルーツが乗ったバナナボートが跳ねまわる絵が浮かんで来るではないか!』
 訳の分からない評価に『どういう事かな?』と首を傾げる澪の前で、オウガ・オリジンは黒い顔から何かを吐き出し、突っ伏して倒れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・ニュイ
【華座敷】
料理はあまり上手くないんだよね…
でも挑戦するのみ!
こっちにはクロトさん(と書いて主戦力と読む)がいる!

スパイスからカレー作るよ!(・×・)
前のバーベキューの時教えてもらったし!実践だね!
作るのはスパイス効いた野菜カレー
じゃがいも、ナス、ピーマン、トマト、人参をゴロゴロ形が残るように切る
炒める時には野菜は火が通って、硬すぎずほこほこした感じに
時間目安はクロトさん頼み、他力本願!

鍋から目を離さない
クミン、コリアンダーがトマトの美味しさをひきたてる

わっ、兄さんのご飯可愛い!
ちゃんとおみみが見えるように可愛く盛り付け
野菜が綺麗に見える様

弱体化したら
だまし討ちで不意打ちの一発
弾丸乱れ打ち蜂の巣


佐那・千之助
【華座敷】
この穢れた手で、人にご飯を作るのは躊躇われ
まともに料理をしたことは無かった

…でも、そういうの、変わろうと思うから
今日はその第一歩

延々洗い続けた手を拭い
挑むは、おにぎり
東方の食文化は物珍しかろう
作り方は昨日徹夜で暗記してきたぞ

貴重な新米を炊いて
掌にひとつまみ天然塩を広げ
米が熱い内に…
(あっっつ
顏には出さなんだが
クロトには見抜かれ、手助けに微笑み

あっ
自分で作った料理、可愛…
我が子か…?
でも食べてもらわねば…っ。
緊張する…どうじゃ、オリジン…?

オリジンよ、米の可能性はそれに留まらぬ
話しながら抜き型キャッチ
ねこさん、うささん
ごはんを愛らしく型抜きして友へ託す
ニュイお料理上手では?超おいしそう


クロト・ラトキエ
【華座敷】
料理の知識と技術は一通り。
けれど供する物では無かったから、見た目に拘りは…。
という事で。
今の僕は、目指せ料理番組越えのスーパー助手!

米はやはり直火と釜。手順を違えず炊くのが最上。
千之助、はい。っと。
ボウルに塩水張って、都度手をつければ、
熱さも軽減、米もくっ付かない♪

使用後の器はさっと洗い、作業領域は常に最善に。

具材切りは火の通りを見越して…
あ、ニュイは鍋から目を離さないで。
味はスパイスで決まっても、明暗を分けるのは丁寧さ。
不要な灰汁は確り取る、けれど旨味まで捨ててはしまわずに。

千之助が皿の用意に掛かったら、こちらどうぞ、と…
猫とか兎とか抜き型をパス!

シンプル且つ至高、召し上がりあれ♪



●3人揃えば文殊と言うけれど
「よーし、カレー作るぞー! 実践!」
「……料理、か」
 霧島・ニュイ(霧雲・f12029)が握った拳を掲げて声を上げる隣で、佐那・千之助(火輪・f00454)は長々と手を洗っていた。
(「……あれ?」)
 ともに厨房に入った2人の対照的な様子に、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は思わず首を傾げていた。
「……2人とも料理できるんでしたっけ?」
 今更と言えば今更な疑問。
 だが、大事な事だ。
 今回の料理は、自分たちが食べるためのものではないのだから。
「出来るけど、あまり上手くないよ!」
 あっけらかんとしたニュイの答えは、クロトの想定内。
 問題は、千之助だ。
(「確かいつぞやは、燃やせば食える、とか言ってませんでしたっけ……」)
「私は、まともに料理をしたことがない」
 まだ手を洗い続けながら千之助が返した答えも、クロトの予想的中。
 つまり――。
(「あ、僕が頑張らないといけないパターンですね、これ」)
 そう悟って、クロトが胸中で溜息と呟きを溢す。
「……でも」
 手を洗うのに流し続けていた水を止めて、千之助が口を開く。
「そういうの、変わろうと思う。2人となら、出来ると思うから。今日はその第一歩」
「――やろう!!」
 その言葉でテンションが上がったのか、ニュイは自分の手が濡れるのも構わずに、まだ濡れている千之助の手をぐっと握った。
 その気持ちは、クロエも判る。己の人面獣心の本性を自覚しているが、あんな表情で言われては、何も思わない筈も無い。
 だが――料理は愛情なんて言葉もあるけれど、実際に感情だけでどうにかなるものでもないわけで。
「何しろ、こっちにはクロトさんがいるんだし! 挑戦あるのみ!」
「そうだな。頼りにしているぞ」
 ニュイと千之助の期待を帯びた視線に、クロトは苦笑を浮かべる。
「あのですね。僕の場合、料理はしても供する物では無かったんです。一通りの料理の知識と技術はありますが、見た目に拘りは無いんですよ」
「つまり?」
 クロトが何を言わんとしているのか。
 何となく察しつつも、ニュイは先を促す。
「今回の僕は、料理番組越えのスーパー助手を目指します。というわけで、2人とも、頑張ってくださいね」
「えー!?」
 頭の中で『クロト=主戦力』となっていたくらい当てにしていたニュイが、ガンッと言う音が聞こえてきそうな程に落胆を露わにする。
「……わかった。頑張る」
 その一方、千之助は静かに頷いていた。
 その瞳にある決意は、微塵も揺らいでいない。
「経験の浅さは如何ともしがたいが、その代わり知識だけは詰め込んである。昨日徹夜で暗記してきたぞ」
 千之助の言葉に、クロトもニュイも『え?』と視線を向ける。
 長い前髪といつも切れ長の瞳で上手く隠れていたが、よく見れば千之助の両目の下にはうっすらとクマが出ているではないか。
「もしかして、時々俯き気味だったり動きがゆっくりにだったのは……」
「眠いだけですか……?」
 思わず顔を見合わせるニュイとクロトを他所に、千之助は食材の山から米俵を引っ張り出そうとしていた。

●スーパー助手、がんばる
 ジャプジャプと、釜の中で氷の浮いた水が波立つ。
「クロトよ、氷水にする必要はあるのか」
「勿論です。米には冷たい水。温い水はいけません」
 米を研ぐ為に手を入れている氷水の冷たさに思わず顔を顰める千之助に、クロトがぴしゃりと告げた。
 夏場など水道水が温まってしまう時は、米は氷水で炊くと良いのだ。
(「まあここの水、そこまで温くないんですけどね。氷水に手を入れていれば、千之助の眠気も晴れるでしょう」)
 今回は、クロトの打算がちょっと入っているけれど。
(「うわあ……兄さん大変そう」)
 大変そうとは思っても、ニュイはニュイで忙しかった。いつもよりヘアピンの数を増やして髪を抑え、コンロの上の鍋の前に立ち続けている。
「クロトさん。人参はこのくらいでいいかなぁ?」
 クロトを呼んで視線を貰い、鍋の中身を確認してもらう。
「良さそうですね。では、最後にトマトを」
「はーい!」
 クロトに言われるままにナスを鍋から皿に上げて、ニュイは同じ鍋にに大き目に切ったトマトを入れる。
 ――野菜を硬すぎずほこほこした感じにしたい。
 ニュイが目指す野菜カレーの形に対してクロトが提案したのは、1種類ずつバラバラに炒めると言う手順だった。
 野菜と言っても、火の通りは同じではない。
 野菜の形と歯応えを残すのなら、それぞれに適した加熱時間で炒めるのがベストだ。まあその『適した加熱時間』を判別するのは、ニュイではなくクロトなのだが。
「クロト、水の濁りが薄くなってきた。これで良いのか?」
 ニュイに炒める時間を指示したと思えば、千之助から釜の中の確認を頼まれる。
「良いですね。では、水を張って――そこまで。少し少な目で良いんです。あとは最後に氷を入れます」
(「身体が二つ欲しいって、こういう事なんですかね」)
 2人に交互に指示を出しながら、合間を縫って不要になった皿や食器を洗って、作業環境を広く綺麗に整えながら、クロトは忙しさに胸中で呟く。
 とは言え、この忙しさは――悪くない。
「出来たぞ」
「ではそこのかまどに炎を。弱火ですよ」
 クロトの指示で、千之助がかまどに加減した火を入れる。
「米はやはり直火と釜。手順と火力を違えず炊くのが最上です」
「そう言うものか……」
 とは言えやっと手を動かすのを止められて、千之助がほっと息を吐く。
 そこに、後ろからツンと鼻をつく香りが漂ってきた。振り返れば、ニュイがトマトを炒めていた鍋にスパイスを入れ始めていた。
「ニュイ、まだですよ。鍋から目を離さないで。味はスパイスで決まっても、明暗を分けるのは丁寧さです」
 スパイスを炒め終えて鍋に水を張るニュイに、鍋から目を離さずに灰汁をこまめに取るようにとクロトは告げて。

 それから、しばしの時間が過ぎて――。
 匂いだけで既に辛みを感じるカレーの香と、炊きあがった白米の香が立ち込める。
「新米のよい香りじゃ」
 釜の蓋を開け、昇る湯気を嗅ぎながら、千之助は掌に天然塩を振って、その上にしゃもじで掬ったご飯を乗せる。
(「あっっつ」)
 幾度となく使ってきた炎の業の熱とは違う、炊き立てご飯の熱さ。その熱に千之助は思わず上がりそうになった声を飲み込んで、ご飯を握り、形を整えていく。
(「あっ……」)
 まだ歪だが、初めて作ったおにぎり。
 それを見た千之助は――。
(「自分で作った料理、可愛……」)
 達成感と安堵が混じって、何やら複雑な感情を抱いていた。
「はい」
 そんな千之助の前に、クロエがボウルを置いた。
「塩水を張ってあります。都度手をつければ、熱さも軽減できるし米もくっ付かない♪」「さすがのスーパー助手じゃ」
 ご飯を掌に載せる熱さを感じたのを顏には出さなかった筈だが、クロエには見抜かれていた。その手助けに、千之助が微笑を浮かべる。
「いえいえ。それに、のんびりしてる時間はありませんから」
 続けてクロエが渡してきたのは、別の皿とステンレスの抜き型。
「クロエさん、兄さん! カレー準備出来たよー!」
 ニュイがそう言い出すのが見えていたかの様な、完璧なタイミングであった。

●味に滲むは
『握り飯か』
 まさに銀シャリと言う言葉が相応しい新米のおにぎり。
 まず千之助が出したそれを、オウガ・オリジンはさほど驚きもせずに手に取った。
「東方の食文化は物珍しかろうと思ったのじゃが、知っておるのか」
『このわたしを誰だと思っている! この世界で最も尊いのだぞ! 古今東西、知らぬ料理などあるものか!』
 などと豪語するオウガ・オリジンの黒い顔に、おにぎりが消えていく。
 型崩れせずにやっと綺麗な三角に握れた、おにぎりが。
(「出来た時はまるで我が子の様に感じたのじゃ。だが、食べてもらわねば……っ」)
「どうじゃ、オリジン……?」
 若干の惜しさと緊張で固唾を飲んで見守っていた千之助が、緊張を押さえきれずにオウガ・オリジンに食べた感想を訊ねる。
『米を研ぐ水の温度、炊飯時の水の量と火加減に至るまで、完璧に炊かれた白米! 少しだけ焦げが混ざっている風味は、炊飯器では出せない。釜で直火で炊いてこその味』
 オウガ・オリジンの黒い顔に、シュルンと消えてくおにぎり2つ目。
『これは……このおにぎりは、希望のおにぎりだ』
 3個目を掴みながら、オウガ・オリジンが何か言い出した。
『己を半端者と思い、その手は穢れている気がして人の口に入れる料理を作ることなど躊躇っていた者が、それでも踏み出した初めての味! 塩加減丁度いいのに、食べてる内にしょっぱくなるくらい希望が詰まっている!』
「お、おう……」
「絶賛じゃないですか」
「良かったね、兄さん」
 何だか聞いてる方が気恥ずかしくなる評価に軽く言葉を失いかけていた千之助の背を、クロトとニュイの手がぽんと叩く。
 同時に漂う、カレーの香。
「オリジンよ、米の可能性はおにぎりに留まらぬぞ」
「そうだよ。僕らの料理、まだあるんだ」
 そう告げてニュイが置いた皿に満ちているのは、勿論、鍋に張り付いて頑張って作った野菜カレー。そして、一緒に盛られたご飯は――。
『ご飯がうさぎとねこ型だとー!!!!!!』
 型抜き使って兎と猫の形に盛られたご飯に、オウガ・オリジンが絶叫する。
『うさぎとねことちゃんとわかるようにカレーを盛ってるし! 食欲そそるカレーでご飯崩しにくい形にするのやめてよー! そんな目で見るな!』
「気持ちはわかるのじゃ。超美味しそうだし。ニュイお料理上手では?」
「いやいや。兄さんのご飯が、可愛いからだよ」
 見た目にやられて叫ぶオウガ・オリジンに、千之助とニュイが頷きあう。
「見た目だけではないですよ。召し上がりあれ♪」
『うむ』
 クロトに促され、オウガ・オリジンは躊躇いがちに兎の耳から崩して、カレーと混ぜてシュルンと吸い込む。
『野菜だぁ……野菜の旨味が凝縮されている』
 一度食べ始めてしまえば、オウガ・オリジンが食べるのは早かった。まさにカレーは飲み物と言う速度で、黒い顔に吸い込まれていく。
『使っているスパイスは、レッドチリ、ターメリック、クミン、コリアンダーの基本と言われる4種か。レッドチリをやや少なめに、逆にクミンとコリアンダーを多めにして、野菜の、特にトマトの旨味をひきたてている!』
 ズゾゾゾゾゾッと言う勢いで吸い込みながらも、スパイスちゃんと分析してやがる。
『ジャガイモ、ナス、ピーマン、人参。一つ一つの野菜はそれぞれに適切な時間で完璧に火が通っているし、丁寧に灰汁を取って渋みも無くし野菜の甘みが感じられる。カレーに仕上げている。しかし甘口カレーと言うでもなく、後追いで仕掛けてくる辛さ!』
 そう言い終わる頃には、オウガ・オリジンは野菜の一欠片、米の一粒も残さずに、カレーを完食していた。
『このカレーも前向きさが詰まっている。不慣れでも挑戦しようとする前向きさ。そしてそれを時に厳しく背中を押す前向きさ……違っう! そうじゃない! わたしが! 求めているのは! 有害さだ! 毒入れても誤魔化し易いだろう、カレーは! なのに何でシンプルに美味しく作った!!!』
 自身には毒となる美味しさに身悶えるオウガ・オリジンの手から落ちたスプーンが、乾いた音を立てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
フォーミュラを美味しい料理で倒せる…?
なんだかよくわからないけど
あたしでも役に立てそうだわ!

作るからには美味しく食べてほしいけど…
ま、相手が美味しく感じなくても美味しく作ればいいのよね
UCでいい感じの食器を作製

栄養とか気にしてなさそうだけど
旬のお野菜を使った夏野菜カレーにしましょう
きちんとスパイスからルーを作るわね
しっかり玉ねぎを炒めて
すりおろしたしょうがとにんにくが隠し味ね
ターメリックライスにシンプルなルーをかけて
焼いたり素揚げした野菜を添えるわ
色どりも栄養もばっちりよ
爽やかなラッシーも添えて

お腹は満たされた?
せっかくいい舌を持っているんだから
美味しいものを美味しく食べれたら良かったのにね



●カレー色々
『む? またカレーか』
 復活したオウガ・オリジンの反応は、料理を出したエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)の予想通りであった。
「カレー続きなんて、嫌だった?」
『構わん。この世界で最も尊いわたしは、その程度の事は気にしない。またカレーと言っても違う作り方をしているのは、匂いで判るからな』
 そしてオウガ・オリジンがカレーが続いた程度では、気にしないであろうことも。
『カミソリは……今回も入ってないか』
「流石に入れないわよ。作るからには美味しく食べてほしいから」
 何やら不服そうなオウガ・オリジンにエリシャが溜息交じりに返す。
『ふん。しかしシンプルなカレーだな。素揚げにした野菜とサフラン……いや、ターメリックライスを添えてはいるが、カレー自体は具なしとはな』
 一見、具の見当たらないカレーを、オウガ・オリジンは黄色いライスに絡めると、シュルンと黒い顔に吸い込む。
『辛っ! 美味!』
 それは具なしカレーなどではない。
『玉ねぎだ! じっくり炒めた玉ねぎが、カレーの中に溶け込んでいる! 生姜とにんにくも混ぜて、更にその上でスパイスを混ぜ込んだな!』
 それが、エリシャがカレーに加えた工夫のひとつ。
『スパイスもさっきのやつらとは違う。配合比だけではなく、数が違う。カルダモンとオールスパイスを追加し、レッドチリをカイエンペッパーに変えたか!』
 カレーに使うスパイスの数は、凄まじい種類がある。その何種類を組み合わせるかによって、様々な味わいを作ることが出来るのだ。
 エリシャが選んだスパイスは6種類。
『ターメリックライスに合わせる分、カレーの方のターメリックの分量は少な目か。ターメリックよりお高いサフランをケチっただけかと思ったが』
 黄色く色づいたライスの色付けに使ったスパイスにそんなツッコミを入れながら、オウガ・オリジンは今度は野菜とカレーを絡めて、シュルンと吸い込む。
『素揚げ! 敢えて野菜を煮込まず素揚げにする事で、個々の野菜の風味と甘みがカレーに溶け込ませずに残している。辛いカレーにはよく合う!』
「色どりも栄養もばっちりよ」
 衣もつけない素揚げなら、確かに野菜本来の色がそのまま見える。狙い通りのオウガ・オリジンの反応に、エリシャは笑顔で返す。
『しかし野菜の甘みがまたカレーの辛口を引き立てる! って言うか辛い! だんだんと辛くなってきた!!!』
 辛い辛いと言いながら、また飲み物の様にズゾゾゾゾッとカレーを吸い込んでいく、オウガ・オリジン。
「そう言うと思って、これ」
 そっとエリシャがラッシーを差し出した。
 カレーの様な辛い物を食べて口の中が辛くなった時、辛いからと水を飲むとむしろ口の中が辛くなってしまう。だから辛さを抑えるのなら、ヨーグルトドリンクのラッシーの様な飲み物が良いのだ。
『辛さを引き立って来るのをちゃんとわかって、辛みを抑えるラッシーもセットで作っていたとか、気遣いに抜かりがない! 無害すぎてもう!』
 ラッシーを飲み干して空になったグラスが、オウガ・オリジンの掌中で砕け散った。

「口に合ったかは、聞くまでも無いわね? お腹は満たされた?」
『満たされてない! 有害さががない! 毒っぽさもない! 満たされない!』
 ダァンッ!
 その音は、いくら食べても満たされない事への苛立ちの現れか。
 オウガ・オリジンは強くテーブルを叩いた。あまりに力が入っていた。その衝撃で空になったカレー皿がテーブルから跳ね上がる。
「あ」
 舞い上がったカレー皿は、この世界にあったものではない。
 聖ヨシュアの具現――オムニブス・ペルフィキオ。
 聖人や聖者にまつわる物の複製を作るのに特化した能力で、エリシャが作り上げたユーベルコード製の皿が、重力に従い落ちてくる。
 オウガ・オリジンの頭の上へと。
『ぐえっ!?』
 降ってきた皿に潰されて、オウガ・オウガ・オリジンがテーブルに突っ伏す。
「せっかくいい舌を持っているんだから……美味しいものを美味しく食べれたら、そんな目にも合わないで済んだのにね」
 本当にこのまま美味しい料理で倒せそうだと感じながら、エリシャはそう言い残して、オウガ・オリジンに背を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
練習している料理の腕前を
ついに試……披露する時が来たな

キティーズ召喚し
助言貰いながら料理に挑もう

美味い料理を作るコツは
レシピに忠実に動くことだ
分量は正確に測り
具材はスライサーで細かく均一に切る

火加減に注意しながら作った
チキンライスを皿に丸く盛りつけ
フライパンへ広げた半熟卵を
中心から菜箸でくるくる巻き
ドレープ付ければライスの上へ

玉ねぎと赤ワインとブイヨン
それからバターと蜂蜜を煮詰めた
デミグラスソースを其の周囲に流し込み
最後にパセリの彩散らせば
優美な一品の完成だ

旨かっただろうか
食べ終えたなら云うべきことがあるな
さあ――
「ご馳走サマ」を聴かせて貰おうか

シールドで炎を防ぎ
氷の弾丸で其の身を撃ち抜こう



●スペードとキティーズ
『機械種族きた!』
 ジャック・スペード(J♠️・f16475)の姿を見るなり、オウガ・オリジンがガタッと身を乗り出した。
「む?」
 その反応を訝しみ、ジャックが首を傾げる。
『機械種族なら、うっかりネジを混ぜたりとかオイルを入れたりするのだろう?』
「さて、な」
 オウガ・オリジンの妄言を軽く流して、ジャックは厨房に立つ。
「俺はただ、練習している料理の腕前を試……披露するだけだ」
『ほほう! 練習中、か。それは失敗が期待できそうだ。と言うかしろ。そろそろ有害な料理を食べないと、このわたしは本当に空腹で力尽きてしまう』
 大分追い詰められているらしいオウガ・オリジンは、本音が駄々洩れている。
 だが、ジャックはそんなものに惑わされはしない。
「出番だぞ、お前たち」
 ジャックが指を鳴らすと、何処からともなく薇仕掛けのトランプ兵の集団が現れる。
『ぼくたち、キティーズ!』
『さあ、ネジを巻いて?』
『今日は何をすれば』
「うむ。料理の手伝いだ。そのレシピを見て、俺の手順に間違いがないか確認しろ。少しでもミスがあれば、すぐに言え」
『ラジャー!』
『お手伝い、お手伝い』
 開いたレシピ本に賑やかに群がるキティーズを横目に、ジャックは厨房へ入った。

『ケチャップは大さじ2から3』
 レシピを読み上げるキティーズの通りに、ジャックは分量を正確に計る。
『玉ねぎは半分を刻むんだ』
 具材を切るも包丁を使わず、均一になるようスライサーを使う。
 ジャックの考える美味い料理を作るコツは、『レシピに忠実に動く』こと。故に、キティーズたちの助言はジャックにとってはとても大事なものなのだ。
 とは言え、レシピがありそれを読み上げる者がいて、必要な道具が全てあっても。言われる通りに動けるかどうかはまた別の問題。
「終わったぞ。次は!」
『オリーブオイルを引いて、まずは鶏肉から――』
 キティーズの指示が遅れるくらいにジャックが早く動けているのは、練習の賜物と言えよう。
 こうして――最後の料理が完成する。

●ドレス・ド・オムライス
『これは――ドレス・ド・オムライスではないか!』
 ジャックが出してきた皿の上にあるトロトロ半熟卵の山に、オウガ・オリジンからそんな声が上がった。
『ちゃんと卵は半熟ながら、見事にドレープが付いている!』
 オウガ・オリジンが言うドレープとは、カーテンの裾の様な『ひだ』の事だ。
 卵で付けるには、フライパンの上に広げた卵が半熟の状態で箸で回してつける。ひだを付けた卵でライスの上に乗せて包み込んだオムライスを特に、ドレス・ド・オムライスと呼ばれる。
「なに。卵が固まるまでの時間は計算できる。あとは菜箸を入れるタイミング、箸で混ぜて巻き付ける時間をレシピの通りにすれば、別に難しい事ではない」
 さらりと言うジャックだが、そんな簡単な事ではない。
 こと時間管理においては、キティーズの存在が大きかった。
『まず見た目は見事というより他ないな』
 ドレープを付けた卵がライスを包んだ黄金の山の周りを、デミグラスソースの濃い色が包み、散らしたパセリが彩を添える。
 ここもレシピ通り忠実で、オウガ・オリジンが口を挟むところは何処にもない。
『だが中身はどうかな――』
 オウガ・オリジンはスプーンを構え、まずはソースを付けずに卵と中のライスだけを掬って、黒い顔にシュルンと吸い込んだ。
『卵は火入れも完璧。ドレープが付くギリギリ半熟の所で焼き上げられている。中のケチャップライスも、味のムラがない! ケチャップの味が均等に渡っている!』
 続けて、オウガ・オリジンはソースを少し掬って卵の上からかけてから、シュルン。
『合う! 中のケチャップライスが少し薄味だったが、このソースをかけたら丁度いい味わいになる様になっていた! 赤ワインをベースにした深赤のソースは、卵の黄色と色合いが良く合っているし、味もブイヨンに玉ねぎを追加して煮込んだところに、蜂蜜を加えているな。深みと仄かな甘みが生まれている!!!』
「蜂蜜は、大さじ1杯だ」
 みるみる減っていくオムライスを眺めながら、ジャックが分量を告げる。
『どこまでもレシピに忠実! いくつか前のケーキも計量の正確さは目を見張ったが、正確性と言う意味では群を抜いている。まるでお手本の様なオムライス!』
 そこまで言って――オウガ・オリジンの手からスプーンが落ちた。
 ぐふッという、くぐもった音も漏れる。
「旨かっただろうか」
『くそ……結局これも……普通に美味しい料理であったか……』
 訊ねるジャックに、力なく項垂れたオウガ・オリジンが呻くような声で返す。
「俺で最後だ。食べ終えたなら、云うべきことがあるだろう」
 ジャックが言わせたいのは、食事の最後に言うべき言葉。食材とそれを作ってくれた人に感謝を込めて。
「さあ――『ご馳走サマ』を聴かせて貰お……」
 言いかけて、ジャックは気づいた。オウガ・オリジンの指先が、燃え尽きた灰の様にサラサラと崩れ出している事に。
 スペードとは、タロットの剣と対応すると言われる。
 せめて苦しみを長引かせぬ介錯の刃として。
 ジャックは銀のリボルパーの銃口を、いくつもの料理を吸い込んだ黒い顔に突き付け――引き金を引いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月23日


挿絵イラスト