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あるいは借金で一杯の船

#スペースシップワールド #グレイテスト号の"色男"

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#スペースシップワールド
#グレイテスト号の"色男"


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●スペースシップワールド
「ヤバい」
「ああ? どうしたジャック」
「ションベン漏らしたか? 歳だもんなあ!」
 ここはとある大型歓楽艇の酒場、その名も〈バッド・バート・バット〉。通称BBB。
 テーブルを囲むのはうだつの上がらぬスペースノイドの男たちだ。
「バカ野郎、俺はまだ36だ! そうじゃないんだよ!」
 ジャックと呼ばれた男は、トランクケースを手に慌てて立ち上がる。
 なおテーブルの上にはトランプがある。どうやらポーカーをやっていたらしい。
 で、ジャックとやらはブタ。当然残りの連中はブーイングだ。
「おい待てジャック、お前負け分踏み倒す気か!?」
「出世払いにしとけ! ああ店長、そっちのも出世払いでよろしく」
 ハゲ頭の店主が怒鳴るより先に、ジャックはすたこらさっさと店をあとにしてしまう。
 男たちは顔を見合わせて、ため息を付いた。 毎度のことらしい。

●グリモアベース
 さて、そんなだらしのない男が予知にどう関わってくるかというと。
「銀河帝国のオブリビオンがあるスペースシップを狙ってる、みたいなんだけど」
 グリモア猟兵、白鐘・耀は半ば呆れた顔で頬杖をついていた。
「正直なんでこんなとこ狙ってんのか全然わかんないのよね……」

 船の名は〈グレイテスト号〉。大仰な名前ではあるのだが……。
「調べた限りじゃ博物館なんてやってるんだって」
 スペースシップワールドのそこらじゅうで配っているらしい、ARチラシをひらひら。
「まあそこらのガラクタだのを適当なホラ吹いて並べてるだけみたいだけど」
 そんなわけで、当然客は来ずに閑古鳥。借金まみれの型落ち船。
 ジャックはこのオンボロ船の主人というわけだ。
「まあオブリビオンが動くからには、この船に何か秘密があるのかもね」
 予知の光景では、帝国エージェントと思しきスパイがグレイテスト号に侵入。
 その過程でジャックも命を落とすことになる。看過できる事態ではない。

「問題は、この船はコンピュータのエラーか何かで封鎖状態にあることなのよ」
 船長であるはずのジャックまで立ち往生しているらしい。いまいち間の抜けた男だ。
 猟兵たちの転移先は船の乗降口。つまり最初は内部への潜入が鍵となる。
「狙われそうな心当たりはないか。この男に聞いてみてもいいかもね」
 ともあれ無事に船内に入り込めれば、あとはオブリビオンを迎え撃つだけ……なのだが。
「もしかすると別ルートで侵入されてるかもしれないのよね」
 相手は帝国のスパイである。セキュリティをくぐり抜けるのは朝飯前だろう。
 ゆえに突入から戦闘の間に、何が起きるかはわからない。耀は注意をうながす。
「まあうまく敵を見つけるか迎え撃てれば、あとはぶちのめすだけだから」
 帝国エージェントは強敵だが、猟兵が力を合わせれば撃退は可能だ。
 もしも相手の狙いが危険なブツなら、それを吐かせることで今後の戦いに役立つかもしれない。

「それにしても」
 火打ち石を取り出しつつ、耀は肩をすくめて言った。
「スペースシップワールドっていっても、世知辛いところは世知辛いもんよねえ」
 彼女の背後、グリモアベースの虚空には、差し押さえ札ばかりのオンボロ船の映像。
 いまいちしまらない空気の中、カッカッと小気味いい音で転移が開始された。


唐揚げ
 貧乏宇宙船ってロマンですよね、唐揚げです。
 オープニング、いかがでしたか。エッ、読んでない?
 そんな方のために、シナリオのまとめです。

●目的
 宇宙船『グレイテスト号』への侵入。
 オブリビオンの撃破。

●敵戦力
 帝国エージェント 1体(目的は不明。つよつよ)

●備考
 船のオーナー『ジャック』が現地に存在。
 第1章でコンタクトを取ることになるが、無視してもシナリオ進行に影響はない。
 2章で何が起こるかは現状不明。

 とまあこんな感じです。あまり難しいシナリオではありません。
 むしろネタとシリアスの中間ぐらいのお気持ちで、肩の力を抜いていただければと。

 では前置きはいい加減にして。
 皆さん、肉なし青椒肉絲を食べながらよろしくお願いします。
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第1章 冒険 『コンピュータ、反抗す』

POW   :    AIが仕掛けたトラップや警備ロボ等を力尽くで排除して進む。

SPD   :    トラップや警備ロボ等の動きを見切り、素早く進む。

WIZ   :    ハッキングや魔法でAIの行動を阻む。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●"色男"ジャック
 転移完了と同時に猟兵たちの耳に届いたのは、情けない猫なで声だ。
「お~いドリー、なあ頼むよ。機嫌を直してドアを開けてくれ、なっ?」
 電子ロックされたドアの前、天井を見上げながらささやく男の姿あり。
 ピコーン、と音を立ててドアが開き、男はにんまり笑うのだが。
 直後、中からバネ仕掛けのパンチンググローブが飛び出して、彼をふっとばした!
「アーッ!?」
 みぞおちにいいのを食らっておもいっきり床を転がる男。そしてドアは閉まる。
 よく見ると、ドアの電子錠には「サッサト消エロ」の文字。なんだこれ。

「ウープス……ドリーの奴め、やりすぎだぞ!」
 しかし男はへこたれずに起き上がった。
 けばけばしい色合いの服にシルクハットとなんとも奇妙な装いだ。
 そしてようやく猟兵たちの存在に気づき、おもいっきりへたりこんだ。
「ワッツ!? 誰だあんたら! も、もしかして借き……いやそうじゃなさそうだな」
 頭からてっぺんまでを眺めると気を取り直して立ち上がり。
「ひょっとして我が栄誉ある〈グレイテスト号〉のお客さんかね? 結構!
 私が館長兼船長のジャック。人呼んで"色男(ヒューマン)"ジャックだ!」
 などと堂々とした声で名乗りをあげる。さっきまでの醜態はなかったように。
 どうやらかなりいい性格をしているようだ……。

 そんな男はさておき、ドアは電子ロックされた状態。もちろん探せば別のルートもあるだろう。
 君達はこの胡乱な男に事情を聞いたりしてもいいし、パワーやスピード、はたまた知力を用いてシンプルに事を片付けてもいい。

 確かなことは一つ。
 この男は使えない。
エーカ・ライスフェルト
wiz
「入館できないなら入館料は払わないわよ、ねぇ色男?」
性別を逆転させたら私もこんな感じに見えるのかしら
ドレスも外から見たら道楽だもの

正規の所有者なのだから一応役に立つこともある、といいな
久々に電脳ゴーグルを起動して【ハッキング】と洒落込みましょう

「入館料が欲しいなら、中のAIの説得を続けて頂戴」
宇宙船のAIが何割か乗っ取られている気がするのよね
色男にどう反応するか、色男をどう認識しているか確認することで、敵の力量と癖を調べたいわ
「ちょっと無駄な計算をしていてもらうわよ」(相手が苦手そうな嫌がらせデータを大量送信)

入館料の手付け代わりに、ピルケースからアルコール分解錠剤でも取り出し投げ渡すわ


桜田・鳥獣戯画
…私のことは、サクラダかギガと呼んでくれ。(雰囲気重視)

とんだ色男(ヒューマン)だな! 自分の船にまで締め出されてはおしまいだ。お前さん、一体船に何を積んでる?
それとも別の理由に何か心当たりはないのか? 女とか。借金とか。

【POW】ビルドロボット使用

同行メンバーが居れば情報共有、もし他のルートが見つかればトラップや敵が少なく体力を温存できる方を選択。
特に情報がなければ乗降口の電子ロックを破壊し正面突破。

ドリー、無理に口説くようで悪いが、強引にいかせてもらうぞ。

トラップや敵を事前に察知できなければ、出会い頭に排除して進む。
帝国エージェントの存在を感知したら盾役に。

(アドリブ連携歓迎です)


シーザー・ゴールドマン
【POW】
「残念ながら客ではないな。招かざる客……帝国のエージェントが潜入しているという情報を得てね。それを排除しに来た」
「帝国のエージェントが何を狙っているか、心当たりはあるかな?何、すぐに思いつかなくても良い。私たちが道を切り拓いている間にゆっくりと考えてくれたまえ」
ジャックに告げて力尽くで妨害を排除して進みます。
『ソドムの終焉』をよういて魔力の閃光によりトラップや警備ロボなどを破壊。


三鷹・一成
船を追い出された船長は、役立たずになるしかないんだとよ
そうだろう? 色男

違うっつーなら協力してもらうぜ
なぁ、船長(キャプテン)?

まずはジャックから「心当たり」の詳細と、そこへの最短経路を確認
そしたら、悪いがもっかい吹っ飛んでもらおうか
これも船長の務めだよ、務め(言いくるめ+コミュ力)

ってことで、ジャックを囮に、ドアが開いた瞬間そこから船内へ突入
警備や罠は極力無視して目的地へ(ダッシュ+逃げ足)

道中はワイヤーフックでショートカットしつつ、避けきれない相手には銃弾を(早業+投擲+クイックドロウ)

しっかしまぁ、自分の船にまでナメられるって……
金と力どころか、人望まで無い色男ってなどうなのよ?


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
ジャック、ジャックか――。
奇妙な縁を感じないでもない、が。
――何にせよ、ミッションに取り組むまで。

(ザザッ)
先ずは話を聞こう。
グレイテスト号の入手経緯はどう言った物なのだ?
また、こうして彼女(ドリー)に臍を曲げられてる理由に心当たりは?

(ザザッ)
情報が何かの参考になれば良いが――その目は薄そうか。

SPD選択。
『Leg Vernier』及び『ダッシュ』『早業』を駆使し、迅速にトラップの張り巡らされた経路を駆け抜ける。
作動するより早く動けば罠などどうという事もない。
警備ロボは『メカニック』の知識から行動ルーチンを見破り遭遇を回避。

本機の行動指針は以上、実行に移る。
オーヴァ。
(ザザッ)


メイスン・ドットハック
【WIz】
どうやら色男は女の使い方がなっておらんようじゃのー
僕が手本を見せてやるけー、見ときー

ドリーに対してクラッキングを敢行(ハッキング、鍵開け)
コントロールを奪うのは電子ロックの制御権を主にしたセキュリティシステムの管理権限
もちろん相手が対抗してくるのを予想して、奪われないような防御システムも並行して組みながら徐々にAIの行動権限を奪っていく(ハッキング、暗号作成)
その際に余裕があれば、船内の情報や変わったことがないか、監視カメラなどの情報収集もすませておく(ハッキング、情報収集)
手に入れたら、仲間へのサポートも忘れずに行う



●ジェントルメン、ディテクティヴ、ソルジャー、キャプテン
「客ではないな。招かれざる客を狩るために来た、というところかね」
 まず最初に口を開いたのはシーザー・ゴールドマンである。
 ジャックのけばけばしいそれに負けず、派手な真紅のスーツを纏った紳士。
 その語り口は服装と同じぐらいに明るく、そしてどこか胡散臭さがある。
「アッ! もしかしてあんたら、アレか? 銀河帝国に対抗する伝説の戦士!」
「くすぐったい呼び名だねえ。いまだに慣れねえよ、伝説の戦士だの仲間だの」
 短髪をガシガシ掻きながら、軽薄な声で三鷹・一成が言った。むず痒そうに。
《――だがその理解は正しい。本機および彼らは猟兵である》
 そして黒き鋼の戦士……ジャガーノート・ジャックが、ノイズ混じりの声で締め括った。
「ワオ! 猟兵も通うグレイテスト博物館、こりゃいい宣伝になるぞぅ!」
 さっそく商魂たくましい様子に、猟兵たちは顔を見合わせて肩をすくめた。

「まあそれはいいとしよう。本題は"招かれざる客"のことなのだよ」
 シーザーは明朗な声音で言った。どこか不安をかきたてられるのはなぜか……。
「帝国のエージェントがこの船を狙っているそうなんだ。心当たりは?」
 ジャックはぎょっとした。"どうしてそれを"と、顔に大きく書いてある。
 そして目を背けてしらを切ろうとするが……そこで、一成が首に腕を回す。
「なあ旦那、こんな格言があるんだ。"船を追われた船長は役立たずになるしかない"ってな」
「は、初耳だぜそんなの……」
「俺がいま考えたんだから当たり前だろ。協力してくれると嬉しいんだがね、船長(キャプテン)?」
 ジャックは引きつった笑みを浮かべる。そこでジャガーノートが割って入った。
《――本機らの目的は調査と船内への侵入であり、尋問行為ではない。ほどほどにするべきだ》
「私も彼に同意だな。なに、思い出したら話してくれればいいんだ、いつでもね」
 シーザーはあっさりと引き、ハッキングを試みる女性陣のほうへ合流した。
 無論、これは彼らの作戦である。いわゆる"良い警官と悪い警官"のメソッドだ。
《――本機のシリーズネームは『ジャガーノート』、機体識別名は『ジャック』と言う。好きに呼んで構わない》
「あ、ああ……あんたもジャック、俺もジャックか。奇遇だね」
 腕を離しつつ、一成はにやりと笑った。作戦成功だ。

 そして聞き込みは黒鉄のジャック、もといジャガーノートが担当する。
《――この船はどういった経緯で入手したのだ? それと、ドリーというのは?》
 一度核心を突いた上で、引く。そして外堀を埋める。これもメソッドの一つ。
 ろくでなしのジャックは肩をすくめ、襟元を正しつつ答えた。
「こいつは、グレイテスト号は俺……私が初めて手に入れた船さ。もう何年の付き合いになるか……」
 と語りに入りかけたが、ジャガーノートの視線に咳払いして切り替える。
「あー、まあとにかく、正直オンボロ船さ。猟兵だっていうなら、そこもお見通しなんだろう?」
《――肯定。資金繰りが苦しいらしいことも把握している》
 だよなあ、とジャックはため息混じりに。
「ウチは閑古鳥が鳴いて久しいんだ。ドリー……あー、正しくはドロレスと言うんだがね。彼女も長年連れ添った相棒だよ。ああ、かけがえのない家族さ!」
「その相棒は、"借金のカタに何度も売り飛ばされかけた"と答えているそうだが?」
「見解の相違かな。彼女は気難しいからね」
 シーザーも流石に呆れた。頭を振り、ハッキング班のもとへ戻る。
「自分の船にすらナメられるって、そりゃどうなんかねえ……」
 一成の小言も露骨な咳払いで遮るジャック。本当にふてぶてしい。
《――それが色男、か。しかしヒューマン(Human)で色男、とは?》
 何気ない疑問だった。ジャックは得意満面な笑みに切り替えてみせる。
「ノンノン、ヒューマン(Hue man)だよ。見たまえ、この色とりどりの装いを!」
 そうして自分を売り込んでいるんだろう。探偵と紳士と戦士は呆れるばかり。

 どうやら彼はそう簡単に口を割らないらしい。
 それを察した三人は、やり方を変えることにした。
 女性陣によるハッキングは効果が薄い。となると、まずこのドアを開けねば話が始まらない。
(私が力任せに行ってもいいが?)
 シーザーがアイコンタクトで問いかける。ジャガーノートが首を振った。
(――それは突入後に行うべきだ。すでにエージェントが侵入している場合、警戒を買う可能性もある)
 二人のやりとりを見、軽薄そうな男が"任せておけ"とばかりに手を挙げた。
 何かいいたげなジャックに再び肩を組み、囁く。
「なあキャプテン、あんたも船の中に戻りたい事情があるんだよな?」
「う、うむ。それはまあ……」
「となればよ、さっきのあれ。もう一回食らっちゃくれねえか?」
「は!? どうして! それならあんたらが喰らえばいいだろ!」
 シーザーとジャガーノートは顔を見合わせた。そして肩をすくめた。
 しかし一成は諦めない。ぐっと腕の力を強め、ひそひそ声で続ける。
「いいかキャプテン。あそこであれこれ四苦八苦してるご婦人方はな、いまもあんたの出方を見てる。値踏みしてるんだよ」
 もちろん嘘八百である。だがジャックの鼻の下は伸びた。
「ドリーもな、あんたの男気を試したがってるんだ。ここはキャプテンらしく体を張れば、どうだ? きっとウケが良いぜ」
「そうかな? ……そうかね? ほんとに?」
「あー、うむ。間違いない。私が保証するとも」
《――……本機は答えを(ここで一成とシーザーの目線に気づく)…………同じく、肯定する》
 あまりにも投げやりな後押しだが、"色男"にはこれが効いた。
「よしッ! やろう。さあ皆々様、どうぞお下がりを! そしてご注目を! ……アーッ!?」
 その後のことは、いちいち語るまでもない。

●華と引きこもりと肉食と
「さて、じゃあ私達も別ルートで急ぎましょうか」
 エーカ・ライスフェルトは、桃色の髪をかきあげながら言った。
 ここまでは事前の打ち合わせどおりだ。
 どうあれ最初の扉を開いたあとは、男女で班を分け別ルートで突入。
 トラップや警備による妨害が想定される第一ルートを、男性陣が。
 電子的な障害に関しては、電脳魔術士の多い女性陣の担当である。
「まあそれはいいんだけどよ。あんた、とんだ"色男"だな!」
 銀のメタルヘアの女、桜田・鳥獣戯画はこらえきれずに叫んだ。視線の先には吹っ飛んで尻餅をつくジャック。
 彼女はほとんど後ろで見ているだけだったが、ドリーとの対話はあまりにも情けない船の実情を暴いてくれたのである。
「ろくに客も来ねえのに、ガラクタばっか仕入れて大赤字。挙げ句に大事なAIまで売っぱらおうとしてたとか、はあ~~~」
「女の扱いがなっとらんのー、色男というより色ボケ男じゃな」
 メイスン・ドットハックはしたり顔で頷いた。あまり意味はわかっていない。
 ドリーとの対話は、彼女とエーカが行った。出るわ出るわ、ぐうたら船長のダメ人間ぶり。
「たまにカネを増やしても道楽ばかり、船の手入れもろくにしとらんとはのー」
「そりゃ、彼女も腹を立てて締め出すわよね。乗っ取りですらないなんて」
 状況はエーカの警戒より、よほど俗でろくでもなかったというわけである。

 さて、言われ放題のジャックとしてはたまらない。
 がばっと起き上がり、シルクハットを被りつつ彼いわく。
「それならあんたがたがお金をくれよ、入館料を支払うのが常識だろう!」
「あなたバカ? 館長ぶるならせめてドリーを説得してからになさいな」
 エーカの正論にぐうの音も出ないジャック。反抗はあっさり終わった。
「……俺らも行くか。ハッキングのおかげで道筋はだいたいわかったし」
「前衛は任せるきに。僕は後ろでのんびりじゃー」
 このおかっぱ娘め、と毒づきつつ、先頭を進む鳥獣戯画。
「ちょ、ちょっと待った! 御婦人がた、ねえ黄色い声援は? 入館料もだぞ!!」
 慌てて追いかけるジャック。情けない声は完全に無視されている。

 男性陣は予定通り力技で突破しているようだ。遠くから破壊音が響いてくる。
 ロックされた扉をハッキングで解錠しつつ、博物館内を進む女性陣。
 右を見ても左を見てもガラクタばかり。明らかに作り物の恐竜化石とか。
「よくもまあこんな役に立たないものばっかり……」
 エーカは思案した。案外自分も、外から見るとあのろくでなしのように見えるのだろうか?
 いやさすがにそれはない。自分にこんな浪費癖はないし。
「船内のデータベースもろくな記録が残っとらんのー、ツケの請求書とかばかりじゃ」
 立体投影キーボードを叩き、リアルタイムのハック&クラックを続けるメイスン。
 船内AIのドリー=ドロレスは猟兵相手でも断固として反抗するつもりらしい。
 カーネルを破壊しない程度に権限を奪いつつ敵の狙いを調べてみるが、成果なし。
「やっぱそこのバカを締め上げて聞き出したほうが――っと!」
 鳥獣戯画は何かを察知し、二人の前に立つと飛来物を弾いた。
 飛来物はそのまま、展示されていたボロっちい壺に激突。ガシャーン!
「アーッ! 弁償、弁償だぞ! あれは高かったんだぞ、値打ちものだ!」
「今のは?」
 とエーカ。
「わからん。天井から小さい何かが投げたみたいなんだけどよ」
 飛来物は古臭いスペースシップのパーツだった。機械油にまみれている。
 そして鳥獣戯画のメタルヘアがざわざわとゆらめく。
 割れた壺や飛来物、その他ガラクタを吸着変形し、ロボット状態へ。
 エーカもエレクトロレギオンを使用、機械兵器を召喚して周囲を回遊させる。
 メイスンは動じない。彼女の仕事はハッキングである。
「今のはドリーの仕業ではないみたいじゃ。帝国の妨害かもしれんのー」
「いや、アレは多分……」
 思わず口を開いたジャック。そして慌てて口を抑えた。
 女たちはギロリと睨みつける。ろくでなしは脂汗をダラダラ垂らす……。

●その頃男たちは
「っと! くそ、すばしこいな!」
 『対オブリビオン回転式拳銃UDC.45』を手に、一成は毒づいた。
 警備ロボやトラップを時には回避、時には遭遇した瞬間に破壊し、順調に奥へと進んでいた一行。
 しかしこちらも途中で謎の飛来物と襲撃者に出くわし、迎撃中というわけだ。
 あちこちの亀裂やガラクタの影に黒い何かが顔を覗かせ、そのたびに高速で飛来物を打ち出してくる。
《――情報収集のため、捕獲を提案。本機のスピードなら接近が可能》
「では目くらましが必要だな。私が担当しよう!」
 シーザーの金眼がギラギラと輝き、ぬばたまの髪が人工重力に逆らう。
「おい旦那、まさか辺り一面薙ぎ払うつもりじゃ――」
「邪魔なものをどかすには荒療治も必要だ。避けてくれよッ!」
 紳士の周囲に魔力光がいくつも生み出された瞬間、一成は慌てて飛び退いた。
 直後! それらは閃光となって虚空を劈き、全周囲を破壊する!
《――吶喊する!》
 ジャガーノートはそれを恐れない。
 彼の纏う砂嵐は光学迷彩じみて魔力光――"ソドムの終焉"を透過、あるいは反射。
 レッグバーニアによる多段加速を行い、瓦礫から瓦礫へ逃れようとした黒い何かを見事に捕縛する。
「っぶねえな! あーあ、どこもかしこも滅茶苦茶」
「たいした価値のない品々だ、問題あるまい。で、それは何かね?」
 瓦礫を押しのけつつ、ジャガーノートへ歩み寄る二人。
《――……これは……》

●そして女たちは
「「「……ネズミぃ?」」」
 腕を組み、ジャックを取り囲む三人娘……娘? いや娘。娘だ。
 ジャックはたじたじになりながらも早口で言う。目線は一点を見ていた。
「そ、そうなんだよ、宇宙ネズミだ! こないだからうろちょろしてて……」
「まさかそれで船捨てたってのか? 借金ごと!?」
 ロボット形態の鳥獣戯画がずいと詰め寄る。
「アウチ! 違う違う! 駆除にはカネがいるだろ? だから金策にだね」
 メイスンがジト目で口を挟んだ。
「わざわざドリーの目を盗んで、か? もう僕、あっちと仲良しじゃからな。なんでもわかるぞ」
 その後ろで。電脳ゴーグルを操作するエーカ。男性チームからの通信だ。
 そしてため息をついた。投影されたのは、彼らが捕らえた黒い何かの撮影写真。
「宇宙ネズミが小型のレールガンなんか体内に仕込んでるわけないでしょ……」
 映し出されているのは、たしかにネズミだった。ネズミ型のドローンだが。
 口に当たる部分にはレールガンの砲口がある。明らかに軍用だ。
「アーッ!? なんだこれ! まさかジェイスのやつ……アッ」
 また口を滑らせた。
 いよいよ殺意の籠った女性陣の目線に、色男はしおしおと体を縮こませるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

一郷・亞衿
スペースシップワールド版の“驚異の部屋(ヴンダーカンマー)”ってやつ?どんなものを置いてるのか個人的にかなり興味あるけど、まずは中に入らないとね。
力任せにこじ開けてもいいけど、小さい隙間とかから入り込めたりしないかな?

と言う訳で、『未詳生物:スカイフィッシュ』を使用。大量の【ロッズ】(虫くらいの大きさをした超高速で飛ぶ生物)を召喚してダクトの中とかを探らせるよ。本来は攻撃用の技だし、もし敵対する生物なり何なりがいたりしたとしてもある程度は無理やり押し切れる、はず。

(※使用UCは【WIZ】技ですが行う内容的には他の能力値っぽい気もするので、諸々の判断はおまかせします)



●一方その頃
「うーん、別行動を引き受けたはいいけど……」
 七人目の猟兵、一郷・亞衿は思案していた。
 彼女はジャックすら知らぬ侵入者である。もちろんそれも打ち合わせどおり。
『ジャックが帝国エージェントと内通していた場合、敵対などに備えて裏取りをする』
 それが亞衿の担当だった。ゆえに六人とも別れて第三のルートを捜索していたのだ。

 ……が。
「なんだろこれ?」
 彼女の使役するスカイフィッシュ……UDCアースなどで未確認生物として囁かれるあれだ……たちが見つけたブツを手に、首をかしげる。
 言わずもがな、それは同じ頃六人が発見した宇宙ネズミである。
 正しくはそれに擬態したドローンなのだが。ダクトの内部で交戦したらしい。
「あたし専門家じゃないしなあ、あ、でもこことか分解できそうかな?」
 探索者特有の武帽に近い好奇心から、ドローンの残骸をあれこれいじくる亞衿。
 するとこれまた探索者特有の幸運(場合によっては不幸でもある)によって、うまい具合にパーツがばらけた。
 レールガン機構、駆動部、あとは謎の部品……そして。
「ん~? なにこれ、ICチップ的な?」
 ドローンの中心から刳り出てきた小さなチップを照明にかざしてみせる。
「……あー!!」
 そして気付いた。多分これが魔導書ならSANが減少していることだろう。

 チップに刻印されていた紋章は銀河帝国のもの。
 つまり、このドローンネズミはエージェントが忍び込ませていたものだ!
「いやー、博物館の展示はつまんないのばっかりだったけど、発見はあったねー」
 にこにこ呑気に喜ぶ亞衿。周囲に漂うスカイフィッシュが反応する。
「んぇ? あー……もしかしてあたし、囲まれてる?」
 そこらじゅうからちゅうちゅうという鳴き声が聞こえてきた。
 ……ヤバい!
「ちょっとー、みんなどこ~!?」
 後を追うようにガギンガギン!と床や天井を削るレールガンから逃れながら、半泣きで走り出す亞衿。
 彼女があっちこっちへ逃げまくったおかげで、ただでさえ滅茶苦茶になった船内がさらに半壊したことは言うまでもない……。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『スペースネズミを駆除しよう』

POW   :    気合でしらみつぶしにスペースネズミを探し潰す

SPD   :    スペースネズミ退治用の罠を設置していく

WIZ   :    スペースネズミの傾向を踏まえて予防の対策を立てておく

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ろくでなしのジャック
「……ジェイスはよお、金貸しだったんだよ。少なくとも俺……私はそう思ってたんだ」
 船内中心部。正座させられたジャックはぽつぽつと猟兵に語る。
「おかしいと思ったんだよ、誰もカネ貸してくれない俺にあんだけ出してくれたし!」
 そこに甘えてしまうのがこの男のダメなところである。
 そして取り立て日が近づいていることに気づき、AIのドロレスをほっといて船から夜逃げしたんだとか。

 しかし彼が戻ってきたのには理由があった。
「あいつがカネを持ってきた時、妙に気にしてるものがあったんだ」
 一見すると黒いただの小箱。だが然るべきアイテムを持つ猟兵ならば、わかる。
 どうやらこの小箱、内部に非常に大きなエネルギーを保存しているらしい。
 金貸しのジェイス……もとい、帝国エージェントの狙いはそれか。

「な、なあ! ここまで来たんだからさ、あのネズミどもなんとかしてくれよ!」
 ジャックはすがりつくように言った。顔には『タダ働きさせればプラマイゼロだ!』と書いてある。
「あんたらの事情もわかったよ、でもこっちだって船の中めちゃくちゃにされてるんだ、いいだろ? なっ!」
 元はと言えばこいつが借金なんぞこさえなければいらぬ手間だったのだが。
 ろくでなしの言い分はさておき、エージェントが放った"ネズミ"どもを駆除する必要があるのは事実だろう。
 やや手を焼くが、所詮はドローン。普通のネズミを捕る要領で相手できるはずだ。
「頼みますぜ、伝説の戦士様がた! へへへ!」
 この男はほっといていいかもしれない。
一郷・亞衿
ネズミ型ロボ!?やだなあ、耳齧られたりとかしそう。青狸にはなりたくない──とか言ってる場合でもないなこれ。レールガン普通に怖い。

(認識してる限りでは)周りに人がいなくて良かった、アレ使うか……『魍魎の匣』、発動。
艦内の適当な扉を謎のエレベーターの出入口に変化させて、そこから様々な怪物を放ちネズミを駆逐……するのは良いんだけど、怪物の群れは全存在に対して敵対的なので、ちーん、という小気味のいい音が響いたら全力で逃げます。あたし自身も割と危ない。

艦内が更に荒れちゃうかもだけど許して欲しい……まあジャックさんとまだ会えてないし、最悪知らんぷりしておけばいいか。あたしじゃない、エージェントがやった。


シーザー・ゴールドマン
【POW】
「未だにネズミがウロウロしているという事はジェイス君も目的を達していないようだね」
ネズミは我々の様な敵対勢力の足止めを企図しているのかそれとも他に意図があるのか。
いずれにせよ探索を進めれば向こうから来るだろう。
ジェイスを探しつつ、襲来するネズミを駆除して行けばいずれゴールに辿り着くだろうね。

ネズミが視界に入ったら『ソドムの終焉』でピンポイント破壊。
至近距離なら「オーラセイバー」を振るいます。(2回攻撃)

※シーザーはジャックのような男は嫌いではありません。
(別段、好きでもない)
ジャックからも報酬を貰おうなどとは考えていません。
一方、宇宙船の被害面も気にしていませんが……


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
――いいだろう、鼠狩りの時間だ。
適任者を呼ぶとする。ロク、仕事だ。

(ザザッ)
SPD選択。
『Craft: Bomb』発動、対象に有効な爆弾を精製。
起爆と同時にドローンの動きを阻害する電磁波を拡散する物が有効と判断。
電磁波の『範囲攻撃』『なぎ払い』で複数体を纏めて行動不能にする。
これを投擲弾として『スナイパー』を用いつつ直接敵に放つ他、地雷式の同一弾も精製、鼠の経路に設置。
スタンした鼠の始末はロクに任せよう。

(ザザッ)
余裕があれば例の小箱の解析もしておきたい。
敵の狙いが幾許でも分かるかもしれない。
メイスン辺りなら解析できるだろうか。

本機の行動指針は以上、実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
※ジャガーノート・ジャック(f02381)と
……キミも、あの男も、ジャック。
(見比べた)
(似てない)

●POW
(ネズミ狩り、とは言われたが。あれは獣なのか?
ともあれ【野生の勘】でネズミを探し【先制攻撃】。
猫のようだとあねごによく言われた。得意だ。
飛ばしてくる何かを【地形利用】で躱しながら
【早業】で山刀による【なぎ払い】。
ジャックが動きを鈍らせてくれる。
助かる。幾らでも、潰そう)

(怯ませる咆哮が機械相手に通用するかわからないけれど)
……数が多いと。
「惨喝」で、力を強くしてなぎ払うから。
耳ふさいでて。

以上。
がんばる。
おーば。

(森番は未知の宇宙に、ちょっと張り切っていた)

※アドリブ歓迎


三鷹・一成
まぁ、「黒い箱」も気になるが、まずはネズミ捕りからか

で、あー、ミス? ミセス?
どちらにせよレディにゃ無粋な質問だが、ちっとばかしアンタの身体のことを聞かせてもらっても?

まずはドリーから今までネズミの痕跡――センサーが反応したり、配線がかじられたり――があった場所を確認
そこを中心に、船にある物で作った即席の罠(回転する缶の上にエサを置いて、そこに乗ったネズミを下の箱に落とすやつ。箱は壊されないよう金属製のを)を各所に配置

痕跡が無ければ俺セレクションの怪しい場所で(第六感)

エージェントと鉢合わせするとも限らんし、中の移動は慎重に
いつでも撃てる準備と逃げる準備は忘れずに(クイックドロウ+逃げ足)


メイスン・ドットハック
【SPD】
セキュリティの次はネズミ退治とはのー
頼りがないダメ男の代わりに、働くしかないかのー

ユーベルコード「木を隠すなら森の中」で黒い小箱を複製
それを各部屋に配置して、ネズミをおびき寄せる
触れると機械を腐食させる液体を周囲一帯にぶちまける
危険な液体なので、他の仲間には触れないように周知させる

あとはネズミが通るような狭い通路にワイヤートラップを配置(罠使い、破壊工作、地形の利用)
掛かると爆裂した機械片を無数に飛ばして、スペースネズミを破壊する罠
点ではなく面で制圧する罠を心がける



●奴らは群れでやってくる
「全解放スイッチ、オン」
 ぐにゃり、とスライドドアの表面が歪み、エレベーターめいた両開きの扉に変わった。
 ウイイイイイイン……と不気味な昇降音。
 これは一郷・亞衿のユーベルコード・魍魎の匣(ザ・キャビン・イン・ザ・ウッズ)によるものだ。
 が……当の亞衿は、時計を見ながらそわそわとしていた。何かを恐れるように。
「5、4、3、2……」
 ウイイイイイイン……。
 ――チーン。
「はいダッシュ!!」
 エレベーターの到着音とともに全力疾走!
 直後、扉が開かれ……。
 闇が。溢れた。

●一方その頃
 猟兵たちは正座したままのジャックをよそに作戦会議を行っていた。
 ここで合流したのは三つ編みの少女、狩人めいた装いのロク・ザイオンである。
《――この状況の最適任者だ。ロク、説明は十分だろうか》
 呼び出した側であるジャガーノート・ジャックの音声には、ノイズと信頼があった。
 赤髪の森番はこくりと頷き、がんばる、と小さく呟いた。これでもやる気である。
 大宇宙という未知の環境は彼女の心に少なからぬ好影響を与えているようだ。
「未だにあれらがうろついているということは、ジェイス君とやらも本懐は遂げていないのだろう」
 シーザー・ゴールドマンは両手を広げ、やや大仰に言う。
 彼の視線はジェイス=エージェントの"目的"……つまり〈黒い小箱〉にあった。
 そしてそれを手に持ち、弄んでいるのがメイスン・ドットハック。
「ネズミどもがこれを狙っておるかもしれんからのー。複製して罠は設置済みじゃけん」
「手早いねえ。まあその箱も気になるんだが……」
 少女から目線を外し、天井を見やる三鷹・一成。呼びかける先はAI"ドロレス"だ。
「あー、ミス? ミセス? 失礼だが、ちっとばかしアンタの"体"のことを聞かせてもらっても?」
「失礼と言いつついやらしい言い回しをするんだね君は……」
 シーザーは咎めるように言うが、はたしてどこまでが本気やら。
 当のAIだが、彼女はメイスンやエーカの説得により協力を約束している。
 だが反応は、彼らにとって予想外なものだった。

『警告。複数ノ敵性生命体ノ侵入ヲ検知シマシタ』
《――敵性生命体? 帝国エージェントがすでに?》
「……たぶん、ちがう」
 囁くような声で、ロクが首を振った。そのさまは紅顔の美少年めいてもいる。
「複数、じゃしのー。まったく、このダメ男のせいで厄介事ばかりじゃけん」
 メイスンがじろりとジャック(ダメなほう)を見た。ろくでなしは縮こまる。
《――あまりジャックを責めないでほしい。本機も微妙に肩身が狭い》
「ぜんぜん、似てない」
 だから大丈夫、と微妙に的を外したフォローをするロク。こくこく頷く。
「まあさておき、気になるのはたしかだね。探偵君はどう思う?」
 わかってて振ってんだろ、と軽薄に皮肉を返しつつ、一成曰く。
「帝国のでも色男の仕業でもない。となると考えられるのは……」
 シュイーン、とドアが開いた。駆け込んでくる亞衿。
「あ」
「――まあ、そういうことになるよな」
 2秒の沈黙。
 遅れて、けたたましくレッドアラートが鳴り響いた!

●どうしてこうなった
『ピ、ピガ、ピガ、ガ……』
「AAAAARRRRRRRGGGGHHHHH!!」
 半壊したネズミ型ドローンがおぞましい怪物に捕食される。
 逃げ出そうと物陰に滑り込んだ別のネズミが、蠕動する不定形体に呑まれる。
 いまや館内はモンスターパニック映画状態だ。怪物、ネズミ、そして怪物!
「邪魔だなッ!」
「AAAARRRRRRRGGGGHHH!?!?」
 己すら襲おうと飛びかかってきた気味の悪い生物を、『ソドムの終焉』で薙ぎ払うシーザー。
 飛び散った残骸が返り血めいてスーツにこびりつく。舌打ちして指で払った。
「いいかー、黒い箱を見つけても絶対触ったらダメじゃぞー、ヤバいからのー!」
「なんでそんなのあっちこっちにばらまいたんだよ!? 俺の罠見習えよ!!」
 一成が叫び、リボルバーを抜き打ちで六連射撃、リロード。怪物は死んだ。
 メイスンは悪びれない。即席のネズミ捕りではつまらんとでも言いたげである。

 そんな一同の間を、猫めいたしなやかな影が低頭で駆け抜ける。
 否、それはロクの影だ。片手には山刀、視線は猛禽のように鋭い。
「……いた」
 弾かれたように天井を見やる。ヒビに逃れんとするドローンネズミ!
 だが裂け目に潜り込んだ瞬間――KBAM!! 爆音とともに何かが飛び散る。
《――ヒット。起爆を確認した》
 ジャガーノートが仕掛けていた地雷だ。飛び散ったのはアルミ片に似た物質。
 一陣の砂嵐めいて吹き抜けたそれは、電波妨害(チャフ)の効果も有している。
「あー!? 僕の"KONOMI"と"YAKI"がブラックアウトしたんじゃがー!!」
 メイスンの抗議と悲鳴は聞かなかったことにする。
 あちこちからぼとぼとと麻痺状態で落下してくるネズミ型ドローン。
 これを、ロクの山刀が次々に仕留めていく。見事な業前だ。
「ていうかずいぶん美味そうな名前だなオイ。お、こっちの罠もひっかかってら」
「君たち、相手はネズミだけじゃなくなってるのを忘れてないかね?」
 シーザーに言われずとも、もちろん一成だけでなく誰もが覚えている。
 なかったことにしようとしているのは一人ぐらいなものだ。
「あ、ジャックさんってあなた? はじめましてー、一郷・亞衿でーす。てへぺろー」
 亞衿はこつんと頭を小突きつつ、あんぐりと口を開けたジャックにいまさら挨拶。
 反応はない。『あっ、これバレてないな』と判断した亞衿は戦線に戻った。
 函から溢れ出した魍魎と、機械ネズミと、猟兵が争いあう混沌へと。

 一成は非難していたものの、メイスンのトラップは結果として功を奏した。
 ワイヤートラップ。それによるブービートラップ。そして腐食液。
 これらはネズミはもちろん、なぜか現れた怪物どもにも大いに有効だったのだ。
「ま、引っかかった方が間抜けという奴じゃけーのー」
『オ言葉デスガ破壊力ガ強スギマ、マママママママ』
 KBAM!! ジャガーノートの方のトラップが連鎖爆発していた。
《――ドロレス、本機は謝罪する。一時的なものなので耐えてくれ》
 電波妨害はAIにも当然作用するのだ。だがドロレス……ドリーは文句を言わない。
 ここだけの話、女性人格AIは彼を悪くないと思っていた。電脳体的な意味で。
 何かを察したロクが少しだけ眉根を顰めた。少しだけ。
「……あれ、やる」
 混迷の戦場に歩み出る。意図を察したジャックは、猟兵たちに耳を塞ぐよう手振りする。
 対峙する先には、ドローンネズミの残骸を吸収した巨大不定形怪物。
 すう、と息を吸う。そして吐く。"うつくしくない"声で。
「――ああァアアア!!」
 びくう!! と怪物が、ドローンネズミどもが身をすくませた。
「ひょえっ!? え、ごめんなさい!?」
 耳を塞いでいてこの威圧感。亞衿は思わず謝っていた。無罪だけど。
 ともあれ敵の隙にログが駆け出す。振るわれる烙印の刃。

「っとと、俺も少しは働かねえとな!」
 リロード。マウント。トリガ、トリガ、トリガ! BBBLLLAAAMMM!!
「AAAAAARRRRGGGHHHH!!?!?!?」
 一成の射撃は生き延びた怪物を3体仕留めた。瞬きのあとにはリロード完了だ。
「ふむ、では私も後続を務めよう!」
 シーザーが虚空を撫でる。遅れて軌跡から放たれるソドムの光!
 怪物の断末魔、はたまた機械生命体の悲鳴は奇妙にシンクロしている。
《――本機も援護を行う。カウント開始……2、1。Fire!》
 投擲弾連発。狙いすましたそれらは敵陣の中央で爆裂する!
 そして砂嵐の中を赤い閃光が疾走する。一匹、また一匹。獲物を仕留める。
「仕込みはめんどーじゃがこうして成果を見物するのは気分がいいけんのー」
 KBAM! KBAM!!
 そこら中で腐食爆弾、はたまたワイヤートラップが起爆する音。
 電脳ゴーグルで成果を確認しつつ、メイスンは満足げに笑った。
 爆音が、銃声が、咆哮が、光が、砂嵐が荒れ狂う。
 侵入者どもの数は目減りしていく。極めて優秀な連携と火線と言えた。

●嵐あけて
「…………」
《――状況終了。敵性ドローン、および怪物の全滅を確認。オーヴァ》
「おーば」
 うっそりと佇むジャガーノート。その隣でこくんと頷くロク。
 少年めいた女童はちらっと天井を見る。ベストマッチな戦友の貫禄だ。
「…………」
「ふむ、いい準備運動になったんではないかな?」
「本番はこれからだってのになあ、勘弁してほしいぜ」
 襟元を正すシーザー。やれやれといった様子で肩を回す一成。
 男二人はちらっともうひとりの男を見て、目を見合わせる。互いに頷いた。
 そっとしておこう。
「…………」
「まったくめんどーじゃったのー。結局頼まれた小箱の分析も出来ておらぬし」
「あ、例の黒い小箱だっけ。なんなんだろうねーあれー、あたし気になるなー」
 すごいなーメイスンちゃん分析とか出来るんだー憧れるなーとゴマをする亞衿。
 メイスンは亞衿を半眼でじろりと見た。そして沈黙したままの男を指差す。
「…………」
「あ、あのー、ジャックさんーひいっ!?」
 亞衿は恐る恐る顔を覗き込んだ。あんぐり顔を開けたまま見返すろくでなし。
 ちょっと怖い。だって目に生気がまったくないんだもの。
 そしてギギギ、と視線を戻した。

 ぶっ散らばったトラップの残骸。液体だの破片だのまあ色々。
 じゅくじゅくと煙を上げる多種多様な怪物どもの死骸。
 バチバチと火花を纏うドローンネズミどもの残骸。
 あちこちの斬撃・銃・光撃・腐食・爆発・焼灼痕。
 ……それと混ざり合ってもうめっちゃくちゃな館内の諸々。
「…………」
 ジャックはギギギと猟兵たちを見た。
 にへら、と引きつった笑みを浮かべる亞衿。
「まあ、あれだなジャック君」
 赤服の紳士が歩み寄り、シルクハットの肩を叩いた。そして笑顔で一言。
「災難だったな!」
「どおおおおおの口が言うんだあああああああああ!?!?!?!?!?!」
 悲痛な叫びだったという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『帝国エージェント』

POW   :    ゴールドアイ
【金色の瞳】に覚醒して【歴戦の白兵戦型ウォーマシン】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    仕込み帽子
自身が装備する【鋭利な刃を仕込んだ帽子】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    ハッキング
対象のユーベルコードに対し【電脳魔術のハッキング】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠グロリア・グルッグです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●金貸しジェイス、あるいは帝国エージェント
「なんだこりゃあ、魔女の窯の底でもさらったのか?」
 かつ、かつ、かつ。
 軽妙なブーツ音とともに、伊達男が現れた。帽子の下のサイバーアイが困惑したように煌めく。
「まあいい、ジャック。いい加減カネを返せ。ないならあの箱でもいいぞォ」
 かつ、かつ、かつ。
 計画は順調だ。あの男にカネが返せるわけがない。
 しかし妙だ。この破壊痕はあれが酔って暴れたというにはあまりにも――。
「おーいジャックぅ、返事をうげぇ!?」
 そして現場にやってきて呻いた。
 ぞろりぞろりと居るわ居るわ、猟兵の皆さん。
 オブリビオンは見ただけで天敵を知る。だからわかった。
 自分が飛んで火に入る夏の虫だということも。

 彼を無能と謗ることは出来まい。手を抜いていたわけではないのだ。
 ただ彼は、ジャックという男を"正当に評価しすぎた"のである。
 カネと酒にだらしない中年男。うだつの上がらぬ借金苦。全て正しい評価だ。
 問題は、それとはまったく別の者共がここにいたことだ……。
 猟兵。
 生命の慮外にあるもの。過去を破壊し、未来を紡ぐもの。

 ……そう、彼はけして無能ではない。歴戦のエージェントである。
 それを油断させるぐらい、借金男はろくでなしだったというだえだ……。

※いくつか誤字がありましたが、すべて色男のせいです。
※最終戦は一括採用の予定です。奮ってご参加ください。
一郷・亞衿
【SPD】
正直ここまで荒れるとは思って無かったし、純粋にごめんという気持ちはあります……いや違う、全部あいつのせいだ。
猟兵の真価見せてやりますよ!その姿を見る者に希望を与えてこその猟兵!万国ならぬ全世界びっくりショーの時間だオラァ!!(段々やけくそ気味になりながら)

まずは『都市伝説:ターボババア』!筋骨隆々で背丈3mを越す【でかいババア】を召喚して上に乗り、高速でエージェントに突撃!
相手が刃付きの帽子を投げ放ってきたら『クラウド・アトラス』を使い、“サーカスの軽業師”だった頃の【前世の記憶を強く想起することによって】ジャグリングの要領で攻撃を避けようと思います。注意引いてる間に他の皆、宜しく!


シーザー・ゴールドマン
【POW】
「ほう、その姿。なかなか楽しめそうだね」

「オーラセイバー」を具現化、剣術で戦います。
その剣筋は鋭く流麗([2回攻撃]&[鎧無視攻撃])
防御面は身に纏った真紅のオーラに期待[オーラ防御]

『ラハブの割断』を用いるのは必殺のタイミングのみ。
※オーラセイバーに更に魔力を纏わせた感じです。
(何度も使えば当然、警戒され対策される)
「必殺の一撃と言うものはここぞという時に使ってこそ真価を発揮するものさ」

【真の姿ver1:特に変わらない。黄金の瞳が輝き、身に纏う真紅のオーラが濃ゆくなるくらい】

「一件落着だね。ジャック君も借金相手がいなくなり、チャラだ。おめでとう」


メイスン・ドットハック
こんな黒い箱目当てに帝国エージェントがのー
なら余計に渡したくはないのー

ユーベルコード「木を隠すなら森の中」で再び黒い箱を複製
そこら辺中にばらまき、その中に一つだけ本物が紛れ込んでいると忠告
エージェントの動揺を誘い、攻撃の隙を作る
起動条件は時限式と接触式の2タイプ
起動すると爆発する罠
接触式は敵の近くに配置し、時限式は少し離して固めて配置

ダメージ覚悟で回収してくるのもよし、罠と踏んで破壊させるもよし

いいタイミングで時限式の固めた方に本物があると指摘
「帝国に回収させるくらいなら爆破してしまおうのー」
と言って本気で爆破させて、敵を誘い込む(おびき寄せ、罠使い)

本物はジャックの後ろポケットに忍ばせる


三鷹・一成
また大層な伊達男が来たもんだ
そりゃあ、この色男じゃ勝ち目無いのも当然だわ

つーか、こと金の話に限ってはそちらさんのが筋通ってるんだよな
この際マグロ漁船でもマグロ拾いでもいいから、この旦那のタダ働きで手ぇ打たね?

ま、そうもいかないから真面目にお仕事するけど

あのボディじゃ普通に撃っても効果薄そうなんで、関節やサイバーアイ狙いでの援護を(スナイパー+援護射撃)
特に厄介そうなハッキングでの相殺は、最速最優先で妨害(クイックドロウ+早業)

こちとら鉄と火薬の骨董品なもんで、おイタは通じねぇぞ?

全部終わった後は、箱の処遇は他に任せて、ドリーに財布の紐を握るよう勧めるね
また「役立たず」にゃなりたくないだろ?


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
(ロクの提案を傍受)
――ふむ、成る程。

(ザザッ)
SPD選択。
『ゲパルト』召喚、騎乗完了。
『スナイパー』による的確な射撃をゲパルトと本機とで実行。友軍を『援護射撃』しつつドリーへ通信。

"ドロレス、力を貸してくれないか"

(『コミュ力』を用い協力要請。
小夜鳴鳥号と呼ばれた宇宙船で敵AIがやった様に、戦場たるグレイテスト号の船体を傾ける等で敵に隙を作る。)

(隙が出来れば『ダッシュ』め接敵。真の姿も解放し、右腕に接続し大砲化したゲパルトでの『零距離射撃』を実行。)

――命が助かっただけ儲け物と思ってくれ、もう一人のジャック。
オーヴァ。

(※真の姿:右腕の大砲がより猛獣じみた暴力的な形状に変化。)


ロク・ザイオン
(【野生の勘】が語りかける。
この船の声は、あっちの弱いジャックよりも、こっちの強いジャックを好んでいる。
…気がする)

…ジャック(強)。
提案。

(――では。
増えすぎたネズミは猫に狩られた。ネズミを率いる「病源」を断つのは、番人の仕事だ)
(真の姿、鬣と尾を靡かせ猫に似た形に。耳障りな咆哮を上げ【殺気】を放ちながら【先制】【2回攻撃】【傷口をえぐる】。わざと【恐怖を与える】ように。
ネズミは声で怯んだ。
お前は猟兵を見てたじろいだ。
ならば恐怖でお前の行動を。計画を崩す)

(技を封じるようだから、「烙禍」の使い所は最後。最大の隙に、確実に焼き潰す)

…男は。カッコつけるものだって。
おーば。



●緊迫
 エージェントの登場に対し、猟兵たちが突然襲いかかることはなかった。
 彼らはその一瞥で敵の力量を察し、警戒したからだろう。
 ゆえにエージェント……ジェイスもまた、状況を把握し落ち着きを取り戻した。

「なんとも運の悪いこった。いや、お前さんにとっては幸運か? ジャック」
 身構える猟兵たちの背後で、ろくでなしは引きつった笑みのまま身を竦ませる。
 張り詰めた空気の中、最初に口を開いたのは三鷹・一成だった。
「まぁた大層な伊達男が来たもんだ。こりゃ"色男"じゃ敵わんのも無理はない」
 いかにも軽薄な口調で肩をすくめる。対するジェイスは無言、探るような気配。
「つかよぉ、カネの話に関しちゃそっちのほうに道理があるんだよな」
「……へぇ。ならそいつをおとなしく渡してくれんのかね」
「タダ働きでもなんでもさせりゃいい、と言いたいとこだが……」
 ジャックが冷や汗を浮かべながら、猟兵たちを見やった。
 彼とてスペースノイドである。銀河帝国は恐るべき圧制者であり襲撃者どもだ。
 金貸しと突然の闖入者。どちらを信じ、頼るべきか。わからないはずもない。
 目的のためなら、ジェイスはなんでもする。それも理解している。

「"そいつ"というのが、このろくでなしのことならばいいんじゃがのー」
 メイスン・ドットハックが、ジャックの後ろから口を挟む。そして前に出た。
 彼女の手には……他ならぬ〈黒い小箱〉があった。
「お前の狙いはお見通しじゃけん、"こいつ"をただでやるわけにはいかんのじゃ」
 言いつつもしかし、小箱をぽいっとジェイスに放り投げてみせた。なぜ?
 ……答えはすぐにわかった。小箱は空中で無数に分かれ、ばらまかれたからだ。
 敵の周囲に散ったそれらは全て精巧であり、一目で真贋を判断出来ない。
 まさに"木を隠すなら森の中"、といったところだろう。
「忠告じゃ、本物はひとつだけ。他は全部、触れたら"ドカン!"じゃけん」
 エージェントは肩をすくめた。ぴりぴりと殺気が膨れ上がる。
「大した手品だ。なら、こっちも少しはやる気を出さないとな?」
 ジェイスの放り捨てたカバンが、床に落ちて跳ねた。
 その瞬間、火蓋は切って落とされた!

●序:膠着の戦況
「アンディファインドおばあちゃーんっ!!」
 一郷・亞衿の素っ頓狂な声に応じ、現れたのは……バ、ババァだ!
 身長3メートルを超える、ムキムキのババアである。都市伝説の怪異か!
「よくも船の中めちゃくちゃにしやがってこんちくしょー!!」
 さりげなく自分の責を敵に押し付けるとは、なんたるラフプレイ。
 亞衿を肩に乗せ、ババアがチャージを仕掛ける。ふざけた外見だが威力は危険だ!
「猟兵ってのは面白い出し物を持ってるんだなあ、ええっ!?」
 ゆえにエージェントは素早く飛び退り、回避と同時に帽子を擲つ。
 さらに帽子の"つば"から、鋭利な刃物がせり出た。仕込み武器だ!
 帽子はさらに数十に分裂。うち5つが亞衿に飛来、さらに5が彼に追従する。
 追従した帽子はそのまま床めがけ斜めに落下、ニセの小箱=罠に接触。KBAM!!
「ほう、目ざといなジェイス君! 少しは楽しめそうだ!」
 シーザー・ゴールドマンは楽しげに笑った。エージェントの力量は"本物"である。
 奴は搦め手を見破り、帽子をぶつけ罠を除外することで着地点を生み出したのだ。
 逆に言えば、そこが狙い目。紳士はオーラを纏い地を蹴った!
 赤い残像が仕込み帽子の守りをかいくぐる。黄金に輝く……4つの瞳!

 ――ガギンッ!!

「……これにも反応してみせるとはね。いやまったく嬉しいよ」
「戦闘狂か? うぬぼれは命取りになるぞ、猟兵」
「その言葉、そっくりお返ししよう。君とて本気ではあるまい?
 そう、黄金瞳は4つ。シーザー、そしてジェイスのどちらもだ。
 かたや得物はオーラセイバー、対する敵は鋼の片腕でこれを阻んでいる。
 真の姿の開放と、ユーベルコードによる変身……共に爆発的増大を果たした白兵戦力がぶつかりあい、そのたびに床の接触地雷が連鎖爆発した。

「あいつ、つよい」
《――同意する。本機は後方支援に徹しよう》
 戦友は"遠慮なく突撃しろ"と言っている。ロク・ザイオンはそう判断した。
 が、彼女は鬣と尾をざわつかせながらも、すぐには飛び出さずある提案をした。
「……どうだろう」
《――ふむ、なるほど。了解した》
「おれは、おれの仕事をする」
 あとは任せたと。猫めいた形を得た森番は短く告げ、今度こそ風となる。
 思案するジャガーノート・ジャック。その隣に出現する巨大な浮遊戦車。
《――浮遊戦車型兵装"ゲパルト"、『搭乗』開始。ドロレス、応答願う》
『ナンナリト、ゴ用件ヲオ申シ付ケクダサイ』
 ガコン、プシュー。変形したゲパルト、鋼の大砲が右腕と接続癒合する。
 ターゲットシステムを起動しつつ、ジャガーノートは思った。
 ――非戦闘員に"力を貸してくれ"とは、我ながららしくない台詞だ、と。

「うっへえ、またぞろ硬そうな姿になりやがって」
「おまけに僕の罠をかいくぐるとは気に入らんやつじゃのー!!」
 後方の一成、そしてメイスンは歯噛みした。敵は一筋縄ではいかぬ。
 真の姿を開放したシーザーとロク、そして謎のババアにしがみつく亞衿。
 前衛三人を相手に、敵は罠の除去と回避、そして反撃を巧みにこなしている。
「罠の中には時限式のもあるけん、そこに誘い込めれば一網打尽なのじゃが……」
「そうはいかねえよな、こっちの妨害も……ああ、ダメか」
 BLAM! 関節狙いのクイックドロウ、だがこれは仕込み帽子に阻まれる。
 続くジャガーノートの大口径砲も同様。決定打には届かない。
《――支援継続を推奨。転機は必ず来る》
 今はジャガーノートの言葉を信じるほかない。敵のスタミナも有限のはずだ。
《――必要なのは一瞬の判断だ。それが戦士と敗者を分ける》
 ノイズ混じりの電子音声に焦りはない。それは、祈りにも似ていた。

●破:好機は流血を伴って
 ヒュカッ――カカッ、ギャギンッ!!
 オーラセイバーが奔る。仕込み帽子の弾幕が剣速を減衰し、鋼の装甲で防御。
 シーザーの頭上、跳躍した都市伝説の拳がエージェントを……捉えない。
 ウォーマシン形態の出力を増大させ緊急回避、奴は亞衿の背後に!
「あああァアアッッ1!」
「ははっ、まるで壊れたスピーカーだな!」
 咆哮と烙印刀! 曲芸的動作で回避し、敵手の貫手がロクの脇腹めがけ――。

 BBLLAAMM!!

 砲手二人の同時射撃。エージェントはこれを受けて地面を転がる。
 被弾はした、だが損傷は軽微。挑発するように黄金瞳が瞬いた。
「押せば退いて退いたら押して、なんなのこいつっ!」
「手練れだな、張り合いがあっていい。だが芳しくないか」
「……"病源"は、狩る」
 三人の戦士が並び立つ。エージェントは挑発的に手を上向け、指を曲げた。
「どうだね、なかなかにしぶといだろう? これでも生き汚さは皇帝陛下にもお褒めの言葉を賜ったくらいでね」
 挑発には乗らず、三人は目配せする。
 彼女らは互いに奥の手を残している。それをどこで切るかが戦況を分けると見えた。
(私の"割断"ならば、奴の装甲を断ち切れるだろう。ゆえに後続に回りたい)
 シーザーの目配せに、亞衿が頷いた。
(ならまずはあたしが。ロクくんは?)
 ロクは寡黙だが、それゆえに雄弁である。この状況では意思疎通も命がけだ。
(おれも後から行く。できるだけ確実に仕留めたい)

 流れは決まった。
 ……亞衿は深呼吸する。失敗すればよくて負傷、最悪……いや、考えまい。
(人生という冒険は続く。猟兵の真価、見せてやる)
 心の中で口訣を唱える。そして身構えた!
「最初はお嬢ちゃんからかね? レディーファーストってやつか」
「紳士ぶってんじゃねーこのやろー!!」
 ババアのチャージ! だが白兵能力を増大させたエージェントはもはや避けない。
 衛星めいて周囲を舞う帽子のうち、20が彼女らをめがけ飛来する!
 一成とジャガーノートの支援砲撃。エージェントは回避しつつ亞衿めがけ……。
「――ここだっ!」
 亞衿は飛んだ。都市伝説の怪異が攻撃を請け負い、消失する。
 それがただの跳躍ならばエージェントの推測を出なかっただろう。
 だが! 空中でムーンサルトを決めたその身のこなしはまさに曲芸師の如し!
「何っ!?」
 捉えきれない。狙いを定めたはずの仕込み刃がむなしく虚空をよぎる。
 だがそれだけだ。避けられたならば追撃――いや待て、奴らの狙いはこれかッ!
 黄金瞳がまばゆく輝く。視線を戻せば予想通り、疾走する二条の赤。
「嘗めた真似をォッ!!」
 ジェイスは吼えた。そして黒豹兵の眼が、ギラリと輝く。
《――いまだ。ドロレス!》
『了解シマシタ』

 ガクン――!!

「うおおっ!?」
「なんじゃあ!?」
 一成とメイスンは同時に呻いた。突如、床――否、船が傾(かし)いだのだ。
 ジャガーノートがドロレスに要請した"支援"は、まさにこれだった。
 エージェントとして想定はしていた。AIを味方につけているならば、と。
 だが完璧なタイミングだった。さながらスナイパーが針の穴を通すがごとく!
《――兵装、限定展開。連携、開始……Gurrrrrrrrrrh――!!!!!》
 バーニアを全開にし、ジャックが虚空を疾駆した。
 ここだ。ここが、分け目だ! 全員がそれを直感する!

●急:色男の目に映ったものは
 体勢を崩しながら、エージェントは高速で状況判断していた。
 やられた。なにもかもを狙いすまされた。見事だ。さすがは猟兵。

 "だがそんなことは予測済み"だ。お前たちが手練であることは"よく知っている"。
 我らは銀河帝国の戦士。過去より来たりし未来の破壊者。
 偉大にして唯一たるオブリビオン・フォーミュラ、皇帝陛下に仕えしモノ。
 切り札ならこちらにもある。お前たちの手を打ち砕く電脳魔術が!
「は、ハ……!」
 タフに嗤った。黄金瞳が、迫り来る赤と赫を見据える。
 なるほど、オーラセイバーとあの妙な山刀による全力斬撃か。
 シンプルだが強力だ。だが"それゆえに妨害もたやすい"。
 さあ、帝国脅威の技術を見よ。因果にすら干渉するハッキングを。
 そして貴様らの仲間がばらまいた罠で死――BLAMBLAMBLAM!!

「――ま、忘れたほうが間抜けというやつじゃけーのー」
 もうひとりの電脳魔術士がにやりと嗤った。その手には爆破スイッチ。
 その隣、硝煙をあげる古びたリボルバーを手に、探偵もまた笑う。シニカルに。
「こちとら鉄と火薬の骨董品なもんで、おイタは通じねぇぞ?」
 彼らを見やったエージェントの意図を読んだように、探偵は言う。
 奴は何をした? あんなチャチな銃の弾丸は、この装甲には通らない。
 彼もそれは十分にわかっている。"だから別のものを撃った"のだ。
 神がかり的な跳弾によって、地面から跳ねた複数の小箱=罠。
 メイスンがカチリとスイッチを押す。エージェントの眼前に舞うそれが……。

 ――Ka-boooooooooooooom!!

「があああああっ1?」
 爆煙がやつを包んだ。電脳魔術プログラムが誤作動を起こす!
 一瞬のノイズ、視界が回復。先に飛び込んできたのは赤きオーラの剣士。
「全てを断ち斬る。これぞラハブの割断なりッ!」
 ZANK!! オーラの刃は分厚い装甲に右袈裟の斬撃を刻みつけた!
 そして次鋒、否、ほぼ同時か。猫科猛獣が、吠える!
「ぅううウウ……燃え、落ちろ……ッ!!」
 帝国従者は恐怖した。そのざらついた声、ぎらつく青眼、猛然たる殺意に。
 そして恐怖を痛みと畏れが切り裂いた。烙印は左逆袈裟を描き燃え上がる!

 バツ字の双閃が装甲を抉り、胸部コアを露出させた。
 だが猟兵は得物を逃さない。暴力の化身、ノイズの獣はことさらに。
《――これは貴様の同類の戦術だ》
 砂嵐の奥、獣じみた声が告げた。そして死神じみた砲口がぬっと突き出た。
《――そしてこれも、貴様の同類を葬った一撃だ》
 彼の電子頭脳に去来する記憶。忘れられた船での死闘の最期。
 仲間たちが放ったものと同じように、ジャガーノートは大砲を敵に捩じ込む。

 ――BOOOOM!!

「が、ガガガガッ!? ガ、ガガ、皇帝ヘイ下、バン……ガ、01010011…」
 超零距離での大口径砲撃を受け、四散した残骸が何かを呻いた。
 だがそれもまた、すべて爆風に燃えて消える。メイスンのダメ押し!

 KBAM! KBAM!! Kra-toooooooooooooom!!

「せっかく用意したんじゃけー、全部突っ込んでやったけん」
「おっかないねえ。ま、そう気落ちするなよジェイスの旦那」
 探偵はリボルバーをスピンさせ、小首を傾げて言った。
「稀によくある奇跡(バッドビート)ってやつさ。あんたが言ったんだぜ、"不運"だってな」
 そして時間の流れが正常に戻る。爆発し、塵も残さず消え去るジェイス。
 爆風を勢いにして逃れた亞衿が着地。命がけの曲芸の成功に安堵し、手をあげた!
「いえーい、作戦せいこーう! さすがあたしー!」
 シーザーが、ロクが、ジャガーノートが、一成が、メイスンがそれに苦笑する。
「……す、すんげえ」
 彼らの勝利を。その連携を。
 色男は、ただただ呆然と目の当たりにしていた――。

●終焉、その前に
 さて。
 顛末を語る上で、まず〈黒い小箱〉がなんだったのか。それを明かす必要がある。
 結論から言えば、中身は高純度のレアメタルだった。無論、特殊な物質だ。
 コアマシンの製法は失伝して久しいが、その物質が製造の上で重要な役割を担うことは知られている。
 宇宙船の推進剤としても超高伝導率を持ち、利用法は多岐にわたる。
 謎の高エネルギーは、ユーベルコードに反応して生じたもの。
 それが分析結果だった。

「なんでそんなのがここにあったんだろうね?」
 亞衿の疑問は妥当である。その答えを誰も持ち合わせていないことも。
「わからん。つまりこれをふっ飛ばしたら大惨事だったんじゃなー」
 こともなげに言うメイスン。彼女は大胆にも、本物をジャックの懐に忍ばせていた。
「ったく、もしあの旦那が一番に船長を狙ってたらどうすんだっつーの」
 一成のツッコミももっともだが、奴が慎重すぎたおかげで功を奏したと言えよう。
「まあ結果的にうまくいったのだからいいじゃないか。帝国の動向は気になるがね」
 シーザーは端的にまとめた。彼らはこの時点で、銀河皇帝の意向など知る由もない。
 エージェントが回収していた場合、後に引き起こされる"ヘロドトスの戦い"において、戦局に影響があった"かもしれない"。

 すべてはイフだ。彼らは勝利し、守りきった。それがすべて。

《――だが、問題はこれをどうするかだ》
 ジャガーノートは言った。そして一同の視線が、もうひとりのジャックに集まる。
 色男は頭をかいた。そしてしばらく悩んだ後、言った。
「……あんたらなら、これを処分出来るだろ? 頼めないかね」
 予想外の台詞である。なにせ超高伝導率のレアメタルなのだ。
 欲しがる船はいくらでもある。借金をチャラにできるぐらいには。
 しかし、ろくでなし曰く。
「けどよ、売っ払ったら、別の帝国連中が手に入れちまうかもだろ?
 なら、宇宙の塵にしちまったほうがいいんじゃないかってな」
 猟兵たちは顔を見合わせた。彼らが回収するには、世界移動の制約が付き纏う。
 放置も出来ない。であれば処分はむしろ願ったり叶ったりではある。が……。
「いや何、私だけ何もしないわけにもいかんからね」
 ろくでなしは照れくさそうに言った。五人は顔を見合わせる。
 けれど一人だけ、赤髪の少女はくすりと、ほんの少しだけ笑った。
「……いいと思う。男は、カッコつけるものだって」

 反対意見はなかった。
 しばらくあと、グレイテスト号から離れた宙域で、レアメタルの化学反応による盛大な爆発が確認された。

●借金で一杯の船、あるいは――
「ではこれでお別れだな。一件落着、おめでとうジャック君」
 肩を叩くシーザー。ジャックは複雑そうに笑い、握手を交わした。
 そのあとに続きつつ、一成は天井を見上げて"彼女"に言う。
「財布の紐は握っておいたほうがいいぜ。また役立たずにゃなりたくないだろ?」
『ハイ。家出モ検討シマシタガ、イマハ止メテオクコトニシマシタ』
 ジャガーノートが静かに頷く。ドロレスを引き止めたのは、彼だ。
《――もう一人のジャックよ。本機は騒乱を謝罪する。だが……》
 色男は苦笑いしながら首を横に振った。もういいさ、と短く答えて。
「命あっての物種、じゃけんのー。しかしこれからどうするんじゃ?」
「正直博物館は向いてないと思うなあ。展示物ビミョーだったっていうか……」
 台無しにしたのも私だけど、とまでは言わないが、メイスンに同意する亞衿。
 そこで色男は目を輝かせた。
「それならアイデアがあるんだ! なに、心配要らないさ!」
 やや不安をかきたてる台詞だ。しかし猟兵たちは不思議と、大丈夫だとも感じた。
 嬉しそうに次のプランを語る彼の瞳は、少年のように輝いていたのだから。

「ありがとよ、伝説の戦士! そしてまた会う日まで!」
 転移のため船を離れる猟兵たちを、彼は最後まで手を振り見送った。
 残されたのは気難しい相棒と、借金で一杯の船。
 ……いや。
「"奇跡と脅威が一杯の船"。次のキャッチコピーはこれだなあ!」
 そして忘れようのない、騒がしくも"最高(Greatest)"な思い出だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト