2
迷宮災厄戦㉓〜ピック・ザ・ブレイン

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #キング・ブレイン

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アリスラビリンス
🔒
#戦争
🔒
#迷宮災厄戦
🔒
#猟書家
🔒
#キング・ブレイン


0





「ブレブレブレ……」
 ひとしきり珍妙な呪文を口にした後、男は首をひねった。
 うーむ。これで笑い声だと伝わるのか? やはり少し、いや大いに不安だ。だがしかし我が身は大首領となる身であり、上に立つ者には知名度が必要である。一定の自己主張はしておくべきだろう。フフフだのハハハだのと安易な表現に走っては他のオブリビオンの中に埋もれる危険性がある。ここはブレブレブレで通すべきだ。
「ブレブレブレ……!」
 力強く言い直し、男は満足気に頷いた。これならば我が名を覚え易く、尚且つキンキンキンよりは笑い声っぽい筈だ。ここはこんな感じで良いだろう。次。
「よくぞ来た下郎共!」
 うーむ。下郎では怪人達と人称が被ってしまうな。だが未来の大首領としてはただ単に猟兵と呼ぶよりも、もう一段高圧的に接したいところである。
 男が再び首をひねると、特徴的な頭部が日の光を浴びて輝いた。その名の象徴たる脳髄が透ける。脳髄が。
 そう、彼の名はキング・ブレイン。彼こそが猟書家の一。
「ブーレブレブレ……!」
 こんなのでも、斃すべき敵。


「皆さんちょっと働き過ぎでは?」
 一気に道の拓けたマップを眺めて、カルパ・メルカが呟いた。視線の先、二十を超える戦場アイコンの半数以上に、既に制圧済みの印が刻まれている。現状、迷宮災厄戦の戦局は順調に推移していると言って良い。
 こうなると一息入れたくなってくるところだが。
「残念ながら、もうお次のお仕事が入っております」
 敵の持つ特性を考慮すると、悠長に手を止めている暇がないのもまた事実。そう言って娘はアリスラビリンスの、連日続く戦争によって少しばかり見飽きてきた感のある地図を広げた。
 指し示されたのはその一点、普通の――不思議の国における普通と他所の世界における普通とがイコールであるとは言い難いが、ともあれ普通の不思議の国である。何の変哲もないその領域はしかし、戦略図の上では末端に位置する。即ち、数ある中継点の一つではなく、目指すゴールの側に属する区画。猟書家の待ち受ける戦場。
「今回のお相手はその内の一人、キング・ブレイン」
 キマイラフューチャーへの侵略を請け負う猟書家であり、脳から出るビームと侵略蔵書スーパー怪人大全集(全687巻)とを駆使して戦う強敵である。聊か強敵感を欠く愉快な単語が並んでいた気がするが、強敵なのは間違いない。これで他のオブリビオンとは一線を画す力を備えた傑物だ。そうでなければオウガ・オリジンから力を奪えよう筈もない。
 そしてその権能は対フォーミュラに限定されるものではなく、猟兵との戦いにおいても遺憾なく発揮される。いかにこれまで多くの激戦を制してきた諸君でも油断はならない。終始こちらのペースで事を運べるとは考えず、敵に先手を取られる前提で対策を練るべきだろう。

「大変だとは思いますけども、苦労して平和を勝ち取った世界でまた好き勝手されるのも困りますからね。何とかこの場で伸しちゃって頂きたく」
 楽な仕事ではないが、何、大戦争ではよくある事だ。
 少女はいつものように頭を下げて、グリモアがいつものように瞬いた。


井深ロド
 戦争の時だけ執筆するマンになりました、井深と申します。
 熱中症に気をつけつつお付き合い下さい。

 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
47




第1章 ボス戦 『猟書家『キング・ブレイン』』

POW   :    侵略蔵書「スーパー怪人大全集(全687巻)」
【スーパー怪人大全集の好きな巻】を使用する事で、【そこに載ってる怪人誰かの特徴ひとつ】を生やした、自身の身長の3倍の【スーパーキング・ブレイン】に変身する。
SPD   :    本棚をバーン!
【突然、背中のでかい本棚を投げつけること】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【リアクションをよく見て身体特徴】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    脳ビーム
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【脳(かしこさを暴走させる)】属性の【ビーム】を、レベル×5mの直線上に放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セレシェイラ・フロレセール
喋り方の練習してるの?
なんかかわいいな、キング・ブレイン様
わたしからのアドバイス
『言葉』には魂が宿る
ゆえに、誰かの『言葉』を借りるより自分自身の『言葉』を使った方がずっと響く
だから、キング・ブレイン様はあるがままの自分の『言葉』を使った方が魅力的だよ
……んん、どうしてわたしアドバイスなんてしてるんだろ?
まあ、いいか

直線のビームには空飛ぶ魔法の箒で対応
箒に乗ったら詠唱開始
風の魔法で浮力を、加速の魔法で速度を
斜線を避けるためにジグザグに縦横無尽に空を翔るよ

こちらが綴るのは魔法の弾丸
桜の彩を解き放とう
わたしの桜、鮮やかに舞え
狙いはキング・ブレイン様、そして『スーパー怪人大全集(全687巻)』だ



「ブレブレブレ……!」
 戦場へと降り立った猟兵を、高らかな響きが出迎えた。
 声の主は此度の敵、猟書家キング・ブレイン。大首領となる者と嘯くだけあり、泰然として構えるその姿は威風すら感じさせるようで。これがまさか今の今までスピーチ練習に勤しんでいたなどと、一体誰が信じようか。
「よくぞここまで辿り着いたものよ。褒めてつかわす!」
 続く言葉と同時、男の眼窩で赤い光が揺らめく。王の頭脳が閃いて、開戦の狼煙となる一撃が、
 ――来ない。
「……?」
 はて、これはどういうことか。回避の準備を万端整えて、セレシェイラ・フロレセールは天翔る箒の上からそっと静かに覗き込んだ。
「んん?」
 猟書家の赤く燃える視線は、桜色の来訪者へと注がれてはいない。瞳の先にあるもの、それは侵略蔵書。否、正確にはその頁の途中に挟まれたメモ書きである。髑髏の如き男はそれを見つめては、しきりに筆記具と思しきものを動かしていた。察するに、彼は。
 今の今までではなく、今この瞬間も喋り方の練習をしている……!
「……なんかかわいいな、キング・ブレイン様」
 真剣な様子に、思わずそんな感想が漏れて。
「あ」
 気の抜けた声と、暫しの沈黙の後。
「脳ビィィィィィムッ!!」
 王の頭脳が今度こそ閃いて、決戦の幕が切られて落ちた。

 一条。二条。光の筋が立て続けに空を裂く。
 その何れもが必殺の威力を内に秘めて、しかしそれが今も放たれ続けているという事はつまり、撃ち墜とすべき相手が未だ健在である事を意味している。
「ちょこまかと、器用に避けるものだ」
 厳つく、重厚な、より適切に表現するならば、無理して取り繕っている感の非常に強い台詞がセレシェイラの耳を打つ。正直もう幾ら演技しても手遅れなのでは? という気がしなくもないが、そういう冷たい現実を突きつけないだけの慈悲が娘にはあった。
 故に。
「わたしからのアドバイス」
 彼女の声は、威力ではなく優しさを以て紡がれた。曰く、『言葉』には魂が宿る、と。その持論の通りに。
「誰かの『言葉』を借りるより、自分自身の『言葉』を使った方がずっと響く」
 誰でもない、彼女自身の『言葉』で。
「キング・ブレイン様は、あるがままの自分の『言葉』を使った方が魅力的だよ」
 果たして、魂は響いただろうか。分からない。ただ。
「利いた風な口をきく。お心遣いありがとうございます」
 キャラを作っているのかいないのか、判別し難い語彙と、
「だが、他人様に助言などしている余裕があるのかな?」
 再度の破壊の光を以て、キング・ブレイン様はこれに応えた。

 それは全くその通りで。どうしてわたしアドバイスなんてしてるんだろ? なんて、桜の少女は今更ながらに自問して。
 ――まあ、いいか。
 そう軽く結論付けた。
 それは、心より生じた彼女の『言葉』。諦めや虚勢ではなく、もっと確かな土台に支えられたもの。何故ならば、お喋りの裏でも詠唱は重ねられていたから。
 巨大な本棚を背に荒ぶる髑髏の直上で、桜箒は軽やかに空を踊る。風と加速の魔法が逆巻いて、上へ下へ、右へ左へ、前へ後ろへ。時に速く、時に遅く。柔軟に、鋭角に、複雑に。必中を期した筈の光芒は不可思議な軌跡に躱されて、風だけを灼いて彼方に消えた。
 そして。
 綴られた魔法は、回避の為のものだけではない。
「わたしの桜、」
 季節外れの春の彩りが世界を満たして、眼下の獲物を十重に二十重に取り囲み。内から生まれたのは弾丸の隊列。
 それはキング・ブレインの放つ輝きとは比ぶべくもない、迎撃に遭えば儚く散るだろう淡く弱い桜色の光。しかし。
 それは確かに、埒外の魔法だった。速く力強く突き進むものとは別種の暴威。脳の砲火を掻い潜り、力持つ彩りが牙を剥く。
「鮮やかに舞え」
 号令の下、春の嵐が吹き荒れて。
 王の姿が、書棚が、そして言葉が。徐々に、だが確かに呑み込まれていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ガルディエ・ワールレイド
キマイラフューチャーに似合いそうな事は認めよう
だからと言って、行かせる事は出来ねぇが

◆基本
武装は《怪力/2回攻撃》を活かす魔槍斧ジレイザと魔剣レギアの二刀流
本棚以外は《武器受け》で防御

◆先制対策
普通なら不可能な姿勢からでも本棚を投げてくる可能性は意識しておく
その上で回避を行うぜ。
攻撃の射線を《見切り》やすくする為に下手に近づかず様子を見て、本棚が来ればダッシュで回避。

◆反撃
【狂嵐の騎士】を使用
赤い雷の《属性攻撃》放射と近接攻撃を組み合わせて戦うぜ
本棚が再度飛んで来た時は、さっきは無かった飛翔能力を使って上方に回避した後、急降下して攻撃
初撃に対する俺のリアクションを意識していれば不意を突ける筈だ



「ブレブレブレ……」
 先陣が敷き詰めた、儚さを感じさせる季節の彩りを突き破り。奇怪な笑声を響かせて、儚さなる概念から縁遠いものが顔を出す。
「……キマイラフューチャーに似合いそうな事は認めよう」
 ガルディエ・ワールレイド・ノルワーズは、絞り出すようにそう呟いた。
 なるほど確かに、かの世界に適した存在であるようには思えた。書架の王とやらが奴ら猟書家達の侵攻先を振り分けたらしいが、それは技能面の適性云々ではなく、そのノリを見て選出したのではないかと疑いたくなる程度にはキマイラの巷が似合いのキャラだ。
 そしてそれは、裏を返せば他の世界には馴染みそうにない、という事でもあった。特にダークセイヴァー辺りとは対極に位置する空気であり、つまりこの黒竜の騎士とは水と油と言っても過言ではない。
 とは言え今ガルディエが遠巻きに様子を窺っているのは、何もこの不審者と関わり合いになりたくないだとか、そういう心理的な理由によるものではなく。
「よっこいしょぉー!」
 轟、と。気勢と共に衝撃が駆け抜けた。辛うじて跳び退いた猟兵の身体が余波を浴びて激しく揺れる。
 そう、これを躱す為のものだ。
 突風か、はたまた稲妻か。そう思う程の速力で爪先を掠めたものの正体、それは本棚であった。空力特性を考慮していない物体を推力にものを言わせて撃ち出す、という技法は多くの世界で見られるが、それを本棚の投擲で実現せしめるとなると史上稀に見る理不尽である。特に絵面的な意味で尋常ではない。つくづく異世界が似合いの敵だ。
 だが。
「だからと言って、行かせる事は出来ねぇが」
 残念だろうが新天地を踏む事なくご退場願おう。今日はその為に此処へ来た。
 身を起こした黒騎士の手の中で、赤い魔力が瞬いた。

 初撃は凌いだ。では、二撃目はどうか。
 条件は先と同等のようであり、しかしそうではない。如何に長物と言えど騎士の得物は格闘武器に属するもの。近接の間合いでこそ輝くものだ。真価を発揮する為には接近する他になく、次は回避が困難な距離での対応が求められる。
 加えて。
「なるほど、それが貴君の癖ですかな」
 キング・ブレインは敵の挙動をつぶさに観察していた。頭脳の名に違わぬ洞察により、四肢の動き、視線の動き、果ては思考の動きに至るまで細緻に読み取らんとし。
 再びの大質量弾は、更なる精度を以て放たれた。
「それでは、本棚をバーン!」
 爆音。
 頭脳の名を全力でかなぐり捨てた力業が、不思議の世界を揺るがした。大地に広く深く穿たれたクレーターが、その威力を物語る。魔鎧の護りがあったとて直撃すれば無事では済むまい。
 だが。
「……!」
 着弾点にあるべき甲冑の姿が、ない。
 それも必然だ。見ていたのは双方同じ。猟書家がそうであったように、ガルディエにも等しく策を練る時間があり。そして、彼が伏せた札は一枚多い。
「さぁ、嵐の時間だ」
 声は、上から。
 髑髏の男が見上げる先、嵐の騎士が顕現する。

 深紅の雷が空気を焦がし、漆黒の暴風が荒れて猛る。舞い上げられた書の群れが電撃に貫かれ、変則の二刀に刻まれて、微塵となって風に散る。
 それは正しく颶風の如く。
 猟書家は更なる情報を読み取らんとするも、遅い。生命を対価に繰り出されるこの大嵐は、第三撃を許す程に穏やかではない。
「ッ本棚を」
「遅ぇ」
 落雷と化して竜騎士が降る。至近にて、両者の視線がぶつかった。
 拮抗は一瞬。キング・ブレインもまた並ならぬ膂力を秘めていたが、ガルディエの怪力と位置の不利とを覆すには至らず。何より、特級の兇器は無手で相手取るには荷が重い。
 書家の身体が一時弾かれて、しかし瞬後、騎士は生じた距離を零にする。王はその才によって理解した。この黒の猛威は、もはや彼の間合いを手放しはしない。
 そしてこの狂える大嵐が、二回攻撃などという生易しい数で必勝の機を終わらせる筈はなく。限界を超えて、連打の快音が高らかに鳴る。昏い軌跡を描いて槍斧の呪物が奔り、赤雷に負けじと魔剣の灼光が爆ぜて飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリア・サヴェージ
個性というのは無理に作るものではないかと。いつかボロが出てしまうものですよ。
……私としたことが敵のペースにのまれてしまう所でした。集中します。

!? ビームや変身技を駆使すると聞いていましたが、まさか本棚で直接攻撃してくるとは。
【早業】で素早く暗黒剣を構え、【武器受け】で本棚による攻撃を防ぎます。

UC【黒風の蹂躙】を発動。【限界突破】により身体能力を強化します。
先ほどの攻撃はどうやら次の一手への布石だったようですが、強化状態へと移行した今ならばそれもご破算ですね。
【切り込み】で素早く踏み込み【重量攻撃】で叩き潰してさしあげましょう。
途中投擲攻撃で妨害されても【なぎ払い】で本棚を破壊し突破します。



「ブーレブレブレブレ」
 いつものように声を張り、キング・ブレインは次なる猟兵を出迎えた。流石は猟書家と言ったところか。しこたま殴られたばかりだろうに、一向に堪えた様子はない。
「ブレブレブバッ……!?」
 ――という訳でもないようで、途中で咽て吐いた。着実にダメージは蓄積していた。
「ゲホンゴホン。あー、あーあー。ブレブレブレ」
「……個性というのは無理に作るものではないかと」
 咳き込みながら尚も続けようとする奇人を見るに見兼ねてか、セシリア・サヴェージが呼ばわった。一体何が彼をそうまでさせているのか、常人には到底理解の及ばぬところである。あるいは、一人につき一回は必ず笑いを披露しなければならない、といったノルマでも課せられているのか。
 無理矢理に個性を作り上げたとしても、いつかはボロを出してしまうのではないか。と言うかそのボロを今ちょうど見せられているのではないか。そうセシリアは思うが。
「無理じゃない範囲で程々に頑張ってるから大丈夫です、お構いなく!」
 後の大首領(予定)は、存外に元気な様子でそう返した。
 はて、当人がそう言うならそうなのだろうか。そうだとして、その口調は本当に適切な個性付けがなされた結果なのだろうか。女騎士は思案して――いや、待て。今はそんな事を考えている場合ではない。十全に余力があり、尚且つ対手の存在を認識しているという事はつまり、滞りなく先制攻撃が来るという事……!
 敵のペースに呑まれかけたセシリアが平静を取り戻した瞬間。
「どっせぇーい!」
「!?」
 本棚が、宙を舞った。

「まさか、本棚で直接攻撃してくるとは」
 静かに、しかし驚きを滲ませて暗黒騎士は呟いた。
 蔵書を利用した攻撃を行ってくるとは聞いていたが、こういう方法だとは全く想像していなかった。だが仕方がない。一部の界隈ではまあそういう使い方もあるよね、くらいで軽く流されたりするが一般にはあり得ざる事だ。故に、正常な側の住人である彼女が二重の意味でこれを重く受け止める結果となるのも必然と言えた。
 地面へ突き立てた暗黒剣を梃子の要領で動かして、伸し掛かる何百冊分かの重みを押し退ける。闇殺しの刃は刀剣としては非常に大型の部類に属するが、それでも埋め難い質量の差があったか。確りと防御姿勢は取ったものの、逃れられなかった手足のしびれを感じ取ってセシリアは僅かに眉根を寄せた。このまま喰らえば、次は防ぎ切れないだろう。
「ブレブレブレ……!」
 対する王は、無論悠長に回復を待つつもりはない。独特の空気感に惑わされるが、かの頭脳が導き出す戦術は的確だ。例の笑い声を念入りにアピールしつつ、前回よりも正確な狙いと前回よりも腰に負担の掛かりそうな投擲フォームを以て二投目が放たれて。
「!?」
 今度は、攻め手が驚愕する結果となった。

 防ぎ切れない。それは何も手を打たなかった場合の話。そして黒騎士は、既に次の手を打っていた。
 黒の鎧より尚昏い暗黒が怒涛の如くに溢れ出す。猟兵を圧し潰さんと飛来した追撃弾が紙切れのように両断されて、本懐を遂げる事なく中身諸共吹き飛んだ。
 ――ご破算ですね。
 セシリアの口角が、攻撃的な調子を伴って吊り上がる。それは先刻までの騎士の姿ではない。これは既に別のものだ。元の温厚さを失ったもの。限界を超えて、更なる高みへと至ったもの。猛る狂飆となり、死と破壊とを撒き散らすもの。
 黒風と殺気を引き連れて、狂戦士が切り込んだ。妨害の第三投が迎え撃ち、しかし瞬く間に塵と化す。それも当然。壊す為に特化したカタチが、やたらと巨大なだけの塊に潰し合いで後れを取る筈もない。半端な牽制は意味をなさず、ただ蹂躙されるのみ。
 此処に魔剣対書棚の勝負は決した。では、魔剣対身体であれば、どうか。
「叩き潰してさしあげましょう」
 狂える闇が囁いて。兇刃が、確かめるように落とされた。
 鈍く、何かの裂ける音が聞こえる。

成功 🔵​🔵​🔴​

木霊・ウタ
心情
カルパの言う通りだ
フザけた野郎だけど
油断せず行くぜ

先制
厄介だけど
普段と違う特徴が生えて
巨大化だから
そのバランスや動き
体の感覚が馴染むまで
少々時間は必要な筈
付け込む隙はある

爆炎噴出のバーニア機動で回避し前へ
巨体の死角に回り込む

炎へ抗じるなら水の怪人とかか?
水×炎の水蒸気を煙幕に爆炎で跳躍して
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払い
その怪人部位を砕く

戦闘
焔刃で繰り返し攻撃

耐えられ
ブレブレ笑いされるかもだけど
諦めずに何度でも

飛び火で延焼が広がり
大全集や本棚に引火

繰り返しの打撃と熱は蓄積する
体は勿論
特に脳は熱疲労で「賢さ」がなくなるから
適切な行動や全集を選べなくなる

唐竹割でおさらばだ

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに



 キマイラフューチャーで確認されたオブリビオン、通称『怪人』は、何かをモチーフにした頭部を持つ事で知られている。全身に特色が表れる個体も存在するが、最も特徴的な箇所を一つ挙げるとすればそれは頭部であろう。そう考えれば、侵略蔵書『スーパー怪人大全集(全687巻)』の秘めたる力を解き放ったかの猟書家の姿がこうなるのは全く自然な話であり、何らおかしな事はない。当然の帰結だ。
 ……などと理屈を並べてみれば見るものが納得するかと言えば、勿論そんな事はなく。
 木霊・ウタは今この瞬間、
「フザけた野郎だ」
 との認識をより強固なものとした。
 少年の見上げる先には、彼の三倍以上もの身の丈を持つ巨人。
 その頭頂に戴くものは燦然と輝く頭脳ではなく、生の気配を感じさせぬ暗く濁った瞳。
 そう、これはもはやかつてのキング・ブレインではない。深い海洋の力を手に入れた、その名も――スーパーキング・ブレインwithマグロ怪人ツーナーである。

 爆炎を噴出して駆けるウタの背後で、その爆発にも劣らぬ爆音が轟いた。振動と音響を振り撒いたものの正体は、水鉄砲。巨大化により更に増幅された猟書家の力はオリジナルの怪人を大きく上回り、水流の一言では到底片付けられない惨状を生み出していく。
 飛沫を浴びて炎が乱れた。水剋火。あの姿は炎への対策を講じた結果という事か。猟兵達の攻撃によって有力な怪人の載った巻を紛失した、という可能性もなくはなかったが、少なくとも楽観が許される相手ではないようだ。悪ふざけの産物としか思えないマグロ頭ですら、魚類の視野により死角を減らすというプラスの効果をもたらしていた。
 だが、付け込む隙はある。
 ウタの足が止まった。否、止めた。走り回っても死角へと潜り込めない? ならばどうする。簡単だ。死角を作れば良い。幸い、素材なら幾らでもあった。敵が散々ばら撒いてくれたおかげで、足元には一面の水。
 水平移動に回していた獄炎のスラスターを直下へと向ければ、水面は瞬間に気化した。世界が白く染まる。蒸気の煙幕が少年の姿を覆い隠す。そして。
 次の刹那、ウタは怪人の頭上にいた。

 王の身体は万全の状態であったと言って良い。生来持たぬ部位が生じれば肉体バランスが崩れると猟兵は期待したが、巨大化しても形状の変わらぬ四肢は元と同じ感覚で動いてみせた。そして王の五体は、一時敵を見失ったとてその後に追い付くだけの十分な性能があった。
 足りなかったのは経験。なまじ肉体を完全に制御できたばかりに何も支障はないと思い込んだが、違う。射撃戦では露呈しなかっただけだ。近接の間合いにおいて、体躯の変化は大きく響く。
「ブレブレブ、レ……ッ!?」
 蠅を容易に叩き落とす筈だった一撃が空を切り、優勢を確信しての笑い声が、止まる。一手。僅か一手の遅れ。尋常の戦においてはさしたる問題ではない、だが、埒外の闘争においては甚だしく重い一手。
 直上、鉄塊の如き刃が掲げられ。ゆらり、炎の尾を引いた。
「海へと還って貰うぜ」
 そして、衝撃。
 巨体が傾いだ。だが、まだだ。まだ砕けていない。刀を返す。
 巨大な刀身は精密動作には適さず、足場のない空中では姿勢制御が困難になるが、問題はない。わざわざ的の方が大きくなってくれた。後はただ、ひたすら殴るのみ。
 二打、魚頭が揺れる。三打、外見変化なし。硬い。諦めず四打、表面に幾らかの凹み。続けて五打、高熱により変色。六打、卵のように罅が入った。七打。八打。
 反撃の手札を掴まんと背後の棚へ腕が伸ばされるが、しかし遅い。蓄積した熱が判断を鈍らせて。その僅かな隙に地獄の焔が猛り狂い、全集を灰へと変えていく。
 怨敵を引き剥がさんと苦し紛れに繰り出された迎撃の手を踏みつけて、ウタが跳んだ。死と冥府とを司る、焔摩天が翻る。炎の翼が彼の背を押す。
「おさらばだ」
 獄炎の一刀が流星の如く閃いた。
 罪と共に、スーパーキング・ブレインの巨体が分かたれていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』忍者
一人称:私 のほほん
いつでも初対面って、いいですよねー(ボソッ)
分かりやすく避けにくい攻撃ですねー。
第六感と見切りで斜め後ろに跳んだあと、上に避ける感じですかー。
UC発動して、集中攻撃を命じましてー。

※密かに人格交代※
第三『侵す者』 武の天才
一人称:わし 豪快古風
交代後は接近するまで黙っておるか。近づくのに必死という印象を与えよう。
あやつは後ろに避けるが、わしは背を低くしてそのまま前に進むタイプでな。
つまりは戦術が違う。
無手に見えるだろうが、その実『四天霊障』がある。
不可視の攻撃ぞ、避けられまい?
わしら『馬県義透』の内部連携、味わうがいい!



 力とは重さであり、速さである。より重いものをより速くぶつければ、それはより強い力となる。雑に言えばこれが攻撃の基礎だ。
 では、キング・ブレインのこれはどうか。重く大きい本棚を充分な速度で投げつける。更に長い予備動作を必要とせず、状況次第では相手の反撃の届かない遠距離から一方的に攻め立てる事も可能。本棚という見た目のインパクトも相手の隙を生む要因と成り得る。
 なるほど、尤もらしい言葉を並べてみれば、冗句のような見た目にも関わらず意外にも理に適った技芸である。強力な攻撃の条件が多く揃っていると言って良い。
 避けにくい攻撃ですねー。不幸にもその標的とされた馬県義透はそのように評価して、だが、避け難い事と避けられない事とは同義ではない。緩い調子で呟いた男は、口調とはかけ離れた鋭さで後方へと跳ぶ。次いで眼前へと迫り来る天板を踏み付けにして上方へと逃れれば、これにて退避完了と相成った。先の一手にて相対速度を抑え、続く一手で膝の発条を利かせ衝撃を殺し、そして直撃を躱す。そのような理屈である。
 強力な攻撃を一つ二つ持つだけで勝敗が決まる程、戦いとは単純なものではない。それは絵面が真面目だろうとギャグだろうと、固かろうと緩かろうと同じ事。
 互いに力量を感じ取ったか。飛翔体の消えた視界、相搏つ両者の視線が絡み合い。
「いつでも初対面って、いいですよねー」
 ややあって、猟兵はボソリと呟いた。
 初対面。そう、確かに初対面だ。遠目に窺う限りはそのような様子であり、ならば予定した手を通すに仔細ない。
 否、仮にアテが外れたとて同じだろう。何枚か手札を晒したとて、切るか切らないか、いつ切るか、どれを切るか。化かし合いの手なら幾らもあり、そしてそれは忍びの十八番だ。故に彼、馬県義透に焦りはない。
 そして。
「それでは、援護をお願いしますねー」
 勝敗を決める為、彼ら、“馬県義透”の連携が始まる。

 埒外の力が生んだ弓足軽が矢の雨を降らせれば、お返しとばかりに錘の詰まった棚が空を飛ぶ。片や手数、片や威力。互いの得手は異なれど、戦力は拮抗しているようでいて。しかし、間を置かず形勢は傾き始めた。
「ブレブレブレ……!」
 キング・ブレインがいつもの笑いを振り撒くと、軽く見積もって十数蓋の陣笠が一斉に宙を舞った。当初は一投につき四、五体を巻き込むのが精々の様子だったが、長く攻防を重ねた事で狙い所が分かってきたか。こうなれば後は一方的だ。ユーベルコードの兵は、充分な戦果を上げられぬまま散り行くのみ。
 だが、馬県義透に焦りはない。
 攻撃が効率化したという事は、それだけ手勢へ意識が割かれているという事。わざわざ攻めあぐねていると見せた甲斐があったというものだ。そろそろ良い頃だろう。
 馬県義透が一歩を踏み出した。
 その足取りに先刻までの疾さが失われていたと、王は気付いただろうか。
 否、気付いたとて手遅れだ。初撃を受けた時から既に知っていた。棚を踏み付けた感触が“初対面”のそれと異なる事を。それはつまり、度重なる攻防により蔵書が損なわれていたという事。それだけのダメージが彼の身に蓄積しているという事。
 “疾き者”と“侵す者”との違いを認識したとて、もはや迎撃の一投を細緻に制御する余力は残っていないという事。
 本棚が何度目かの空を翔て。
 僅かな隙を掻い潜り、“四人”が駆ける。
 踏み込んだ先は至近の距離。格闘の間合い。
 振るわれるものは不可視の霊障。振るうものは武の天才。
 一つ二つではない。多くの札を積み重ね、ここに必殺の手が突き刺さる条件は整った。
 “馬県義透”の戦術が、完成する。
「わしらの連携、存分に味わうがいい!」
 勝敗は決した。
 四天の念力が荒れ狂い、敵の陣地を、将を、生命を侵していく。

成功 🔵​🔵​🔴​

花盛・乙女
なかなか面白い奴じゃないか!気に入ったぞ!

こういう手合いは調子を合わせてやれば油断をするものだ。
高笑いに合わせてやろう!はっはっは!
といきなり「グラップル」でバックドロップをドーン!
以前戦場で見たレスラーなる戦士の真似だ!

まぁ落ち着け、私の話を聞け。
その本のそのページ、刀を使う怪人、その能力を使え。
戦うなら剣士と戦いたいのだ。わがまま?喧しい、度量を見せてみろ。

剣士の力を使ってきたらニヤリと刀を構えよう。いざ尋常な立ち会いを…と見せかけてもう一度バックドロップ!油断大敵だぞ!

…ん?よく考えたら貴様男だな?
お、男と密着…ユーベルコードが疼いてしまう!
トドメもやっぱりバックドロップをドーンだ!



「はっはっはっはっは!」
「ブレブレブレブレブレ!」
「はっはっはっはっはっはっはっは!」
「ブレブレブレブレブレブレブレブレ!」
「そぉい!」
「グワーッ!」
 和やかな笑い声を遮って、低く鈍い音が鳴った。具体的に言うと人の身体を後頭部から地面へ向けて叩き落としたかのような音がした。そのような音がする状況とは何ぞや、と問えば、まあだいたいその通りの状況である。
「なんて事をするのだね!」
 犠牲者が叫んだ。この、ちょっと変な方向に曲がった首を直しながら憤慨しているのが猟書家、キング・ブレインであり、
「まぁ待て、私の話を聞け」
 さっきまで楽しく談笑していた相手に突如としてバックドロップをかましたヤベー女が猟兵、花盛乙女である。
 だが、待とう。断ずるには時期尚早である。何か事情があるのかもしれない。
「以前レスラーなる戦士を戦場で見掛けてだな」
「うむ」
「真似してみたかった」
 ヤベー女だ。
「まぁ落ち着け、私の話を聞け」
「良かろう」
 落ち着ける筈のない状況であったが、しかし被害者は寛大だった。何故ならば今の彼はただのキング・ブレインではなく、『スーパー怪人大全集(残り300巻くらい)』の権能によって新たな姿となった、スーパーキング・ブレインwith怪人アルパカスプラッシュであるからだ。水も滴るいい体は、並の攻撃では傷一つ付かない。
 アルパカブレインはパッツンパッツンの一張羅の下から上腕二頭筋を見せ付けて、
「せぇい!」
「グワーッ!」
 何となくイラッときた乙女の手により、岩石落としが叩き込まれた。

「なんて事をするのだね!」
 大腿四頭筋をアピールしながら立ち上がるスーパーキングナントカを見て、乙女は理解した。このままでは埒が明かない。ただでさえ三倍デカくて投げ難いと言うのに、その上硬いとか面倒臭い事この上ない。故に。
「まぁ話を聞け。戦うなら剣士と戦いたいのだ」
 別の怪人の能力を使え。そう言って、
「えっ」
 キミ剣士だったの? みたいな顔をされた。
 ベリートゥバック・スープレックスが叩き込まれた。

 その後、目当てのページ紛失したんじゃね? という事が判明して、燃されたり斬られたりした残骸の中からサルベージする作業が続いたが、ここでは割愛させて頂く。なんやかんやあったのだ。長く苦しい戦いであった。
 そして遂に、スーパーキング・ブレインwith餅巾着侍が誕生したのである。
 ニヤリ。愛刀黒椿を八相に構えて、乙女が笑った。随分と遠回りをしたものだが、これが、これこそが待ち望んだ剣士の立ち合いである。
 対する表情の読めない巾着頭は、御澱流・田楽刺しの構えで応じる。味噌だれの香りが広がった。
 ふわり。一陣の風が吹いて、侵略蔵書の頁が舞い上がる。言葉がなくとも通じた。これが落ちた時が決戦の合図。
 緊張が走る。一時、沈黙と静寂とが場を支配して、やがて、
「でぇい!」
「グワーッ!」
 不意打ちのバックドロップ・ホールドが叩き込まれた。剣士とは一体何だったのか。
 これではどちらが悪役か分かったものではないが、しかし闇討ち、騙し合いもある種の戦の花である。隙を見せる方が悪いのだ。
「油断大敵だぞ!」
 と、クラッチを維持したまま乙女がドヤ顔で吼えた。公式ルールならこのままフォールしてフィニッシュできる、それ程の確かな手応えがあった。
 そう、手応えが。
「……ん?」
 伝わる感触を確かめる。この硬さ。この形。これは、まさか。
「……貴様、男だな?」
「えっ」
 今気付いたの? みたいな顔をされた。いや巾着頭からは破れた勢いで餅が漏れている事しか読み取れなかったが、表情があるなら多分そんな顔をしていた。
「お、おぉ、男と、男、お……」
 だが、そんな事に気を回す余裕は今の乙女にはなかった。異性への苦手意識が、彼女のユーベルコードを発動させる。何かもう理不尽しか感じないが、もはや誰にも止める事はできない。
「おぁああぁー!」
 絶叫と共に乙女が空を舞い、
「グワァーッ!?」
 悲鳴と共に怪人が地へと叩き伏せられて。
 巨大な爆発が、不思議の世界を震わせた。


 斯くして戦いは終わった。
 偉大なる頭脳は海へと還り、搗き立ての餅の匂いが名残を惜しむように漂っている。
 酷い結末を悼むように、誰かが鎮魂の歌を奏でていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月19日


挿絵イラスト