8
迷宮災厄戦㉕〜書架の王と凍る魔導書

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #ブックドミネーター #猟書家『ブックドミネーター』

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アリスラビリンス
🔒
#戦争
🔒
#迷宮災厄戦
🔒
#猟書家
🔒
#ブックドミネーター
#猟書家『ブックドミネーター』


0




●Library
 涼やかな風が吹く。
 本が捲れる音がする。
「"侵略蔵書"は……ああ、欠番を出したか」
 こつこつ、と歩む音は時間を置き去りにした静寂しかの中に溶け込んだ。
 凍結する城の中に響くものは、ただそれだけが音だった。
「六番目の猟兵は……」
 本を読みながら歩くは書架の王『ブックドミネーター』。
 城の主にして、書を司る者。
「……来るか、やはり」
 本を閉じる。戯れに開いていた本の内容は、始めから把握していた。
 手元の本以外にも全ての書の力を知識に置き換えて、"魔導書"として用いる天才。
「私には他に、命を賭ける場所があるのだ。……私の、求め続ける答えを得るために」
 自身よりも更に強い者があり認めている彼だからこそ、探求は終わらない。
「いいだろう。此処へ、改めて招待しよう」

●フリージング・ブレイジング
「歴史は、書物だけに刻まれるものではない……と思うが、どうよ」
 フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)が再び、時間凍結城での話を口にする。
「"時間"が"凍結"された城、そこに氷の主が現れたそうだ」
 体感が置き去りにされるような現象は、おそらく起こらない。
「書架の王『ブックドミネーター』は、凍りついた絶対零度の大きな図書館で猟兵を待ち受けるだろう」
 あえて大きな大広間ではなく、図書館を選んでその場を離れない。
 そこには多大なる"知識"が蔵されて眠っているから。目に見える所有する知識は、壁一面だ。
「凍りついた室内でずらりと並んだ本棚にぎッしりの分厚い本。そこから必要な情報を操る……知識は"魔導書"として機能する。ひとつ重要なことは、城を時間凍結させたのも、城自体を蒼氷で閉ざしたのもブックドミネーターということだ」
 必要だから凍らせた。
 時間と氷を操るもの。
「図書館内に無い書物でさえ、ブックドミネーターは理解するかも知れない。例えば"蒼氷復活"。時間を繰る術を知るものだからこそ、還ッたオブリビオンさえ喚びだしてしまう。ただしその姿はどんな者でも蒼氷を身に纏ッているな?完全に凍りついたゾンビとして襲ッてくるだろうよ」
 おそらくは……とフィッダが提示するのは、アックス&ウィザーズ"群竜大陸"で大暴れした帝竜。
 ブックドミネーターにとって、猟兵と竜が闘う様は見事と評価している。
「願わくば、眼前で"もう一度"と再演をやらされるかもな。そういう可能性も、ある」
 知識はヒトの興味を溢れ出させるもの。
 対処を忘れてしまっていては、蒼氷の『帝竜』に押し返されるかもしれない。
「それと……ブックドミネーターは、魔導書を扱う魔法使いであると同時に、自身の回復に長ける。その知識も、ある。ただ…………その詠唱は、どんなに耳がいいヤツでも決して聞き取ることが敵わない」
 "零時間詠唱"。
 自分を起点に、時間凍結空間を生み出して詠唱するものであるが……。
「共感する?いいや無理だ。さッきも言ッただろ、誰も聞き取れるように詠唱しない。例え猟兵が、ブックドミネーターに共感したところで、ブックドミネーターは猟兵に共感を抱かない」
 立場の違い、駆け引きの問題。
 どれもこれもが違うのだ。
「大量の本、知識をずッとずッと蓄え続けるために"死にたくない"からそうするんじャねーかな?」
 フィッダがニヤリと笑う。
「大量の本を例え燃やし尽くしても、あまり結果は変わらないかもだが……諦めるな。誰よりも早く攻撃の手を伸ばすブックドミネーターは、"近接攻撃"を得意としないんだ」
 相手は"魔法使い"と思えば突破口はあるだろう。
「敵は時間と知識、氷の使い手。なあ?お前は……なにを駆使して挑むんだ?」


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 この依頼は【一章で完結する】戦争系のシナリオです。

 シナリオの舞台は、時間凍結城の超広い図書館内。
 タテガミ執筆の迷宮災厄戦⑨と同じ場所の更に奥の部屋。
 あちらのシナリオでの時間が凍結し、体感がー……というギミックは不適応。
 書架の王による権限で、普通の状態で戦闘に持ち込むことが出来ます。

 "侵略蔵書"はサー・ジャバウォックの持ち物でした。
 ブックドミネーターは、武器の類を持ちません。
 必要なら分厚いそのあたりの本を引っこ抜いて物理攻撃を検討します。
 考察と思考、分析。そういうのがきっと好き。

 "蒼氷復活"にて復活召喚されるオブリビオンはタテガミが描写していた"帝竜"の一体。
 "蒼氷を纏った"帝竜です。喋る可能性はなくもないと思います。
 特にプレイングに何も書いてない人には、対象に有効な帝竜が。
 プレイングに記載がある人は、その"帝竜"が喚ばれる認識が、良いと思います。
 帝竜が出現しても倒壊しないレベルの時空が歪まされた広い広い図書館です。
 宜しくおねがいします。

 上記を踏まえて、OP内にプレイングボーナスや、このシナリオ上に有効に働きそうなギミックのようなものの記載が在ると思いますので、よぉく目を通していただけますと嬉しいです。

 場合により全採用が出来ないかもしれません。
 ご留意いただけますと、幸いに思います。
156




第1章 ボス戦 『猟書家『ブックドミネーター』』

POW   :    「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
全身を【時間凍結氷結晶】で覆い、自身の【所有する知識】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    蒼氷復活
いま戦っている対象に有効な【オブリビオン】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    時間凍結
【自分以外には聞き取れない「零時間詠唱」】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

木霊・ウタ
心情
命を守る為
俺の命を賭けるぜ

帝竜オロチ
気色悪い奴が来たな

粘液は獄炎で焼却
そのまま炎で押し包み蒼氷ごと灰燼に

属性竜や塊も
防御の炎が喰い破り己が力に

先制&戦闘
近接攻撃は不得手ってコトだったよな
パワーは凄いけど
その分隙は多そうだ

本棚を盾にして動き回り
噴出する炎のバーニア機動で躱し
炎の壁で防御

炎は本や本棚には延焼させない
知識に善悪はないもんな

敵接近の機に
爆炎噴射で矢の如く宙へ飛び出し
カウンター気味に炎刃一閃
凍結時間を紅蓮が解凍


時間を消費し未来へ進んでる俺達と
時間凍結してる
つまり未来へ進めっこないあんたと
どっちが望む未来に居るのか
そんなのは自明だろ

最期にお勧めの本があれば聞くぜ?

事後
鎮魂曲
安らかに


卜二一・クロノ
 神のパーラーメイド×精霊術士、22歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、敵には「神(我、汝、~である、だ、~であろう、~であるか?)」です。

時間の流れを停滞させたり逆転させたりといった技を使う相手には容赦しません。
光陰の矢は、先制攻撃対応のユーベルコードです。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●時間は我が手に

「どうやら……想像以上の猟兵が訪れたのか」
 ――どの時代においても、"数を増やすのが得意"な者たちだ。
 書架の王、ブックドミネーターが伏し目がちに猟兵の姿を見た。
 背中を起点に氷水晶を纏い、氷の翼として形成する。
 全身を確かに覆っているが、薄く澄んだ水晶で覆うに留めているようだ。
「それは時間の流れを停滞させたモノだな?」
 敵対者に対して、卜二一・クロノ(時の守り手・f27842)は神たる姿勢で言葉を落す。威厳たっぷりに、子供へ言い聞かせるように少しばかりゆっくりと。
「言わずともよい。我の目には見える"時"の流れが淀んで見える」
 時間の鑑賞を受けない極寒を故郷に持つトニーにとって、ブックドミネーターが時間を操る事を見過ごせなかった
「汝こそが乱れの特異点、厳罰を持って処する」
 手頃な本を手にしたブックドミネーターが保有する知識に比例した速度で飛翔する。つまり、一息の間に赤い目がトニーの眼前に迫ったのだ。
「普通ではないのは認める部分だが……それは逆を返せば"時間の干渉を見る"そちらもまた普通ではないだろう」
 あえて手にしたままの一冊の本で、トニーへと殴り掛かる。
「我は"乱れ"が戻ればそれでよいのである。これは……神罰だ」
 あえて避けない。速度を緩めること無く、本を手に打撃攻撃を行うつもりで突っ込んできた書架の王の攻撃をあえて受ける。
 時間凍結で生成された氷水晶の翼が通り過ぎざまに風圧でトニーを吹き飛ばした……が。
「……パニッシュメント!」
「……!」
 命中した氷水晶の翼が、時間凍結状態を歪まされて、氷の翼は月日と年月に比例した分の力を奪われる。
 ブックドミネーターの支配から切り離し、光の矢を生成。切り取られた無用の時間を利用した矢を操作し、本来使っていた持ち主に返還する。
「時間を悪用した分は、その身で味わえ」
 ぐさり、と突き刺さる光陰の矢。
「……どうやら少しばかり認識違いがあるようだ」
 穿たれた身体から、光の矢を即座に抜こうとしたが……突き刺さった矢は抜けない。どんなに引いても、抜ける様子すら無い。
「罰、と言ったはず」
「敵だから余計に許さないというのだろう?」
 抜けないからと言って、動けなくなるわけではない。
 氷水晶の翼を再び生成し、ふわりと浮かぶ上がったブックドミネーターは次の攻撃を一次元上より考察し、落とす。すなわち、力任せの投擲だ。
「おっと、失礼!」
 力任せにトニーへと魔導書を投げつけた書架の王の本を、跳ね除けた者がいた。
 足と背、どちらからも噴出するバーニア起動を行う炎による加速。
 爆炎噴射で木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は光の矢と同様の速度を持っての接近を成功させたのである。
「失礼ではないが……」
 ウタが巨大剣、焔摩天でカウンター気味に魔導書を叩き落とす。
 炎を纏った刃で、一閃したはずだが、本は燃えもせず落下しただけだった。
 ――命を守る為、俺の命を掛けるぜ。
「礼儀がないのは確かだ」
 投げつけた魔導書をブックドミネーターは念動力で回収し、手に添える。
「……ならば、あれを此処に召喚するのが妥当か」
 足元で魔法陣が起動し、召喚される蒼氷を纏った大きな大きな竜。
 なにか思う部分があったのか、図書館の天井あたりから床へどしーんと落ちてくる。
『ムシュシュシュシュ!ひっどいなぁ~!』
 抗議の声。帝竜オロチが降ってきた。
 声と竜だけが落ちてきたわけではなかった。
 グリーンディザスター……体内に溢れる緑の粘液をどばどばと吐き散らしているのだ。話しながら吐き出す、器用なことをする竜である。
「文句は受け付けない。やることをさっさとやれ」
 自分で喚んでおきながら、書架の王は塩対応を貫いた。
「俺のどのあたりに、妥当部分を見たんだよ!……気色悪い奴が来たなあ!」
 撒き散らされ、ウタとトニーへと降り注ぐ緑の粘液を、炎を纏う刃で切り捨てる。
 刃の勢いは収まらず、現れた蒼氷の帝竜の身体を氷のように砕き、突き刺し、焼却させた。
「だが……生前?いや、帝竜戦役のときより大分劣化してるしな。術者の理解が足りないと見た」
 帝竜オロチの身体がぐらりと揺れて、沢山の本棚に倒れ込むのを見てウタは延焼を中止する。
 ばたーんと本棚が幾つか押しつぶされ、蒼氷の竜が硝子のように砕けて消えた。
「……本や本棚には、延焼させない。知識に善悪はないもんな」
 ――時間を消費し、未来へ進んでる俺達と。
 ――時間凍結してるつまり未来へ進めっこないあんたと。
 ――どっちが望む未来にいるのか、そんなのは自明だろ?
「歴史は決して失われない。書だけに刻まれるものではない」
「失われずとも汝は"排出された過去"。失われずとも、得るものはないだろう」
 書架の王の呟きに、即座に言葉を返して切り返すトニーの言葉。
 二人の会話をよそに、そのままの足でウタがブックドミネーターへ切り込んで疾走りぬける、構え、今ブックドミネーターの頭上を取った。
「最期にお勧めの本があれば聞くぜ?」
「……本を大事にしない者に、勧める本はないな」
 巨大剣を躱し、書架の王は静かに首を振った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
ブックドミネーター
一気に猟書家も増えてきましたね
一手ずつでも進めねば

氷の力を持つならば、こちらは炎で押し通らせて参ります!!
炎の結界術・オーラ防御で周りに炎を纏わせ
結界術の応用で空中に無数の盾を放ち防御と足場に
破魔の炎で属性攻撃を放ちつつ意識を炎の術へと逸らしながら
空中の足場を跳び回り迷彩纏った仕掛け糸を張り巡らせていきましょう(罠使い)
こちらに有意な敵となるならば出し惜しみなどできません
仕掛け糸の迷彩解除、一気に帝竜とブックドミネーターの捕縛を試みます
畳みかけます!!
作りたいのは一瞬の隙
『繚花炎刀』の扇から仕込み刀を抜きUC発動
破魔・浄化・属性攻撃(炎)・全力魔法を乗せ刃の雨を降らせます



●"仲良くしてね"

 ――ああ、一気に猟書家も増えてきましたね。
 そう内心で思う薄荷・千夜子(陽花・f17474)。
 何処の戦場でも、猟書家が現れた話でもちきり。
 そう、そんな今目の前にも――。
「一手ずつでも進めねばと思うわけです」
「過去を棄てて使い潰すためにか。気高いようで、愚かなことだ」
 おもむろに開く、手元の本。
「"決議にでも尋ねてみるか?"」
 パラララララと捲れる本と、展開する黒い黒い魔法陣。
 足元からヌッ、と顕わるのは蒼氷を纏ういつか見覚えのある帝竜。
『残念ながら、議席は空席が多すぎて閉廷中だ。合意性がない』
 見覚えのある姿は、半壊している。壊れた部分は蒼氷で補われていた。
 黒く鋼のような身体、厳かな物言い――蒼氷を纏う帝竜ダイウルゴス。
「喚び出した"時間"の選択を誤ったか……」
 ブックドミネーターが喚び出したダイウルゴスは不完全だった。帝竜戦役で猟兵に負け、体内の無数のダイウルゴスを全部失ったたった一体の竜だ。時間を歪ませた召喚技法を用いて、最後の一体が失われる前から喚ばれたのである。
「氷の力、なのですよね。こちらは炎で押し通らせて――参ります!!」
 蒼氷のダイウルゴスが大きく吠えて、本棚をなぎ直しながら千夜子の元へ飛んでくる。"あの時"戦った、"あのダイウルゴス"だ。千夜子との戦いで、ダイウルゴス内部の数体が甚大な被害を被った――忘れていない。
『此度は踏み潰し、踏み砕いてやろう!』
 素早く、千夜子の周囲に炎の結界術が疾走る。
 自身にはオーラ防御を施して、遮蔽の準備を整えて、巨大な帝竜、そしてそれを呼び出した書架の王を見直した。
「踏み砕くつもりなら、どうぞ捕まえてみて下さい!」
 戦巫女である千夜子にとって術を応用するのは、容易い。
 展開したそのままを移動式に転じる。
 徹底した守り、それをそのまま、留めて動けるように。
 空中に足場として、結界術を配置することで、翼がなくとも飛び回る術を得る。
 竜の手が、ブレスを遮る点在する防御盾として機能し、空中戦の優位性を奪う。
『小癪な……手が届きさえすれば、噛み砕けるものを』
「短絡的に考える事はよしとしない。もっと思考しろ、ダイウルゴス」
 ブックドミネーターとダイウルゴスの間にビリビリとするような敵対関係のような空気が一瞬流れた……気がした。
 千代子はコレ幸いと破魔の炎を宿した炎の雨を打ち放ち、ダイウルゴスの横っ面を、ダイウルゴスの足元を焼く。

 これは大いなるフェイク。

 攻撃の隙を見せないようにしながらも空より攻撃を繰り返す鷹のような姿勢でいるが、それだけではない。
 ――空中を跳び回り、施したこれは仕掛け糸。
 ――此処が、どのような仕様でも室内で助かりました。なにしろ、壁があり天井がありますから。
 鳥が仕掛ける蜘蛛のように計算されて図られる迷彩のトラップ。
「思考なんてしなくていいですよ。私はここです。鬼ごっこをするために喚ばれたわけじゃあないでしょう?」
 ――こちらに有意な敵。
 ――そうでしょうか。数を極限まで削られたダイウルゴス程度で最適と?
 ――甘く見られたものですね。出し惜しみは無しです!
『敵がそういうなら、噛み殺してやる!!』
「……!」
 ブックドミネーターが言葉を発するより早く、漆黒の帝竜は千夜子の足場を壊しながら突き進んでいく。
 砕き進んで、標的である千夜子たった一人を殺せばいい。
 合意性がないダイウルゴスは、"まるで考える頭脳を失っている"ようだった。
 単純に、小さな子供のように癇癪を起こしているように、見えるほど。
「いい子です。ご褒美を上げましょう」
 指をパチンと鳴らす。迷彩を施していた仕掛け糸が一斉に解除され、糸が可視化された。
『!?』
 すごい速度で飛翔していたダイウルゴスは止まりきれずに糸に絡め取られる。
 鋼鉄質の鱗が不幸を更に加速させて、糸が絡んで逃げられない。
「……あいつ…………」
「作りたかったのは、一瞬の隙です」
 すぅ、と扇から仕込み刀を抜いて、周囲に同じ属性を纏った燎花炎刀を複製して並べていた。
 選ばれた属性は、破魔の炎。
 蒼氷を纏う死にかけのゾンビによく利くだろう属性だ。
 時空間を凍結させるという書架の王。こちらもまた、あまり得意ではないだろう。
「せめて一緒に"仲良く"――裂き乱れろ、花炎の刃!」
 複製の仕込み刀に全力の魔法を乗せて、仕込み糸より更に上から刃の雨を降らせる。
『ギャアァアアア!!』
 激しい責め苦に遭って響くダイウルゴス、そして――。
「……誰が、こいつと仲良くなどと」
 被弾が少量の雨で済むようにと頭上で悶えるダイウルゴスの下に移動する少年。
「炎に燃えて溶かされて消えるまで、せめて役に立て」
 巨大な帝竜の下で雨宿りするブックドミネーターの姿があった。

成功 🔵​🔵​🔴​

テイラー・フィードラ
お前が命を賭して挑むように、俺にも挑む理由がある。

奴が結晶を纏い、此方まで飛んで来る事であろう。
ならば、初手は見。己が影より実体化したフォルティに飛び乗り、跳び駆けさせる事で奴の攻撃を凌がん。
だが、音速であったか。其れを優に超える速度では此方も目で追う事すら出来ん。

ならば勝機を作るまで。奴は拳で挑まんとする。ならば己の傷を抉り、血を撒き散らさん。
愚策?いいや、これでよい。奴に劣るが戦闘中も続けた詠唱を更に高速圧縮、フォルティの身すら取り込み、吸血鬼化し立ち上がらん。
さて、今の奴は俺の返り血により鼻で追える。
此方に飛翔する結晶を見切り、長剣ごと血爪を突き立てる。さて、その命、喰らわせて貰おうか。



●止まるべきは此処にあらず

 肩の誇りを払うように、する動作。
「次は誰が来る?順番など気にする必要はないぞ」
 全身を氷水晶で覆って、パキパキと、翼のように水晶の領域を広げて書架の王は静かにそう言い放つ。
 猟兵と同一の視点で話をしていないようである。
 誰が来てもどのタイミングで来ようと、何も変わらないというように。
「お前が命を賭して挑むように、俺にも挑む理由がある」
 ザッ、と進み出るテイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)。
 ふわりと身を浮かせて、翼で最大レベルの飛翔を図書館への訪問者を排除する気を隠さない。
 しかし、テイラーは一人で訪れたのとは違う。
 テイラーの影からすぅうと実体化した霊馬フォルティにまたがり、白馬が少年の接近を察知してカッコカッコと蹄の音を高らかに、跳び駆けさせる事で逃げる。主人を正確に理解する霊馬だ、本棚の上も迷わず走って主人が考える時間を生み出す。
「……避け続けるほど、知恵のない者と思ったか?」
 攻撃手段にと、持っている魔導書で力いっぱい殴ろうとしてくる。
 手を汚したくないのか、届かないからそれを使うのかは、わからないが。
 どうしても、ブックドミネーターは本で殴ろうとしてくる。音速で併走し、追い越して飛び回るというのに。
「いいや、逆であろう。お前は知恵がありすぎる。形なき記録を内包すれば、物理的な量として把握は難しい」
 最大速度は目で追えない。
 微かにヒュゥウウ、と風か空気を切り裂く音が聞こえるだけ。
 しかし、攻撃手段が恐ろしく似つかわしくない可愛らしいものなので、ギリギリ避ける事が可能なだけだ。
 テイラーが生きてきた人生経験上の戦闘経験が、此処に生きている。
「それまで分かっていて、挑むのか……」
「音速を越える程の収集を、純粋に評価はするが」
 ――目で追えないのならば、別の方法で勝機を作るまで。
 ぶるる、と霊馬の嘶き。何かを気をつけろ、と示唆するような。
「……!」
「その馬のほうが、戦闘慣れしているな。賢しいことだ」
 後頭部を両手を添えた魔導書で、知識の塊で、思い切り叩かれる。
 霊馬から、テイラーは落馬する。こんな落馬の仕方が、あり得るものか。
 じわりと、後頭部に痛みを感じた。割れてはいないだろうが、頭が視界がとても揺れる。
 鈍痛に何かを破壊されたようだ、鈍い痛みと匂いを感じるならばまだ――。
「どうだろうか。フォルティは確かに賢しい、私の考えをよく理解している」
 傷を限界ギリギリまで抉り、テイラーの血が図書館内に派手に赤で染めた。
 本棚やブックドミネーターへも少量でも付着するほどに、激しくだ。
 それには、書架の王も怪訝な表情をする。
 血を吹き出して膝をつくテイラーの奇行。
 その行動の意味を考えているようだが、答えが導けないようで、空中でピタリと止まっている。
 ――愚策?いいや、これでよい。
 ちかちか揺れる視界の中、戦闘中に詠唱していた戦術が此処に完成した。
 ――ここで終わって、たまるか……まだ、まだだ。ここで立ち止まる私ではない!
 急激に、テイラーの傷がふさがっていく。
 ざわり、と図書館内部に留まる"今"という時間の流れが変わった。
 フォルティの身を取り込み、ざわりと白い髪の色さえ変じはじめてテイラーは吸血鬼化して立ち上がる。
 黒い目を赤へと変えて、書架の王へと視線を向けてきた。
 吸血鬼が鼻を鳴らしている。吸血鬼が気にする匂い、それは――。
「ほう。それが、私への策か」
 身体に血の目印を付けられていると、納得し、再飛翔を始める書架の王。
 ただし、先程までのテイラーであったなら一方的を覆せなかっただろう。
「そうだ、今のお前は俺の返り血により追える」
 飛翔する飛翔の塊の接近を察知して、躱すだけに留まらず、
 利き手が握る馬の尾の装飾が施された細身の剣を、突き刺す。
 吸血鬼化し、鋭利な血爪ごとずぶずぶと腹部を抉り、ブックドミネーターの臓器を一つ握りつぶした。
「さて、その命、喰らわせて貰おうか」
「……雑食なのはいいことだが、突っ込んだ後は内側から殺す気だったのか?」
 剣ごと腕を突き立てたテイラーを、ブックドミネーターは――体を捻り、足で強引に蹴って身から引き剥がした。
 蹴りの威力に伴い、剣にズバァアと余計に切り裂かれた腹。
 ブックドミネーターから大量の鮮血が舞う。
 ぼたたた、と図書館内部に書架の王の血。むせこむように口より吐血を吐き零し――雑に拭って蹴り飛ばした男を、見ていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

水元・芙実
分子運動の停滞による擬似的時間停止…?
無茶苦茶な事するわね、一体何者なの?
明らかに他の猟書家と一線を画してる。

零時間詠唱も実際には「私達を止めている」のね。それとも自分のコピーを置き換えているのかしら。……まあ、どちらでもいいわ。
それが最終的には回復技である以上、再生の隙さえ残さず焼いてあげるわ。

と、言うブラフ。
狙いは「分子運動に直接働きかけて時間を取り戻す」。おそらく相手は自分に有利な状況を作ろうともう一度凍らせるでしょうね。でもその前にハイドロボムを投げつけるわ。大量の水が近くである状態で凍れば、質量は膨らむし、重量や圧力があなたを押しつぶすわ。

叡智を武器にするのはあなただけでは無いのよ?


卜二一・クロノ
 神のパーラーメイド×精霊術士、22歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、敵には「神(我、汝、~である、だ、~であろう、~であるか?)」です。

時間の流れを停滞させたり逆転させたりといった技を使う相手には容赦しません。

 ユーベルコードは「エレメンタル・ファンタジア」を使用します。
属性は「時間」、自然現象は「大河」。時の大河が全ての時間操作を押し流します。

多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●叡智の使い手

「そらみたことか」
 書架の王は、血溜まりの中に居た。
 誰も彼もがその存在を、在り方を否定する。
「それが罰だ。その体に刻まれ思い知っただろう。そのまま悪用を辞めるがいい」
 トニー・クロノの言葉に、こほ、と咳をする書架の王。
 咳をする度に、少年の周辺には血溜まりが発生した。
「……敵対者に容赦がないのは、お前の自由だが。時間を、"凍らせている"それだけを悪と断ずるならば…………」
 ――オブリビオン以外にも扱うものは……いるはずだが。
 ブックドミネーターの言葉は途中で途切れてしまったので、トニーにその意図は伝わらなかった。
「そも。時間の逆転といった技を使うものを許さんのだ、我は」
「ねえねえねえ?これは分子連動の停滞による擬似的時間停止……?」
 神の言葉を遮って科学的思考で分析し、ブックドミネーターへ問う水元・芙実(スーパーケミカリスト・ヨーコ・f18176)。気になった事を追求する姿勢は、ブックドミネーターの外見よりも幼い子がするような。
「ああ返答はまって?これが確定要素という体裁で言わせて。無茶苦茶な事するわね、一体何者なの?」
「疑問の探求は悪いことではないが……多いな」
 書架の王は血色の悪い顔で顎に手を当てて、真面目に応える言葉を検討する。
 読書の虫は大抵伝える言葉に難がある。故の、検討だ。
「先にひとつだけ応えるが、"その理論での展開"は穴がありすぎる。これはもっと単純な"結果"だ」
「成程、違うのね。あなた……明らかに他の猟書家と一線を画してる」
 芙実にとっては、どちらでも変わらない。
 なんらかの研究、もしくはソレ以上の"結果"だと分かった。
 吐き零す血、腹部を損傷した傷に耐えられない様子を見て取ったが、芙実が瞬きすると――。
 先程まであった赤が、ブックドミネーターの体中にから喪失していた。足元に点在している赤は消えていないので、深手を負っていた現実だけ消えている。
 聞き取れない音、何かを呟いていたそれが知らぬ間に発動していた。
「……それが零時間詠唱?興味深いわね。実際の状態はどうなのかしら」
「見ての通りだが」
「じゃあ仮説の時間だわ!実際には"私達を止めている"のではないかしら。もしくはそう――自分のコピーとでも呼べる"データ"に置き換えている、とかかしら!」
 ――まあ、どちらでも良いのだけれど。
「…………」
 ブックドミネーターが、黙った。
 なにか合っている部分があったのか。
「沈黙は、何にせよ肯定。答えなかった事は汝にとって都合の悪い事が起こることと知るがいい」
 神が両手をかざし、意識を集中する。
 手の周囲に渦巻く、何かの流れ。
 トニーが把握する、現在この場に流れているべきな"正しい時間"だ。
「両手の内に、"時間"は存在し、コレを溢れさせることはソレ即ち"大河"なり」
 どこからともなく、川がながれるような、水音が押し寄せてくる。……気がした。
 誰も"時間"の流れなど見えないのだ。瀑布のように押し寄せようとも、時間は"流れるだけ"である。
「それが回復技として機能するなら、再生の隙さえ残さず焼いてあげるわ」
 ぼ。ぼ。大量の質量とエネルギーの境を曖昧にした、幻炎属性の極小の爆弾が生み出される。
 焼いてあげる、という意味に、燃やすという意味はあまり含まれない。
 当たれば死ぬ、そういう威力のナニカだ。
「抵抗はないのね。なら、話は早いわ?この空間が激しく焼け焦げるだけよ」
 尋常じゃない量の火種が、書架の王の後ろに立ち並ぶ本棚に列挙して飛んでいく。
 神の手元より溢れ出した"不可視"の大河が、時間を凍結された本棚にあたり、図書館内部に発生していた重々しい空気がどことなく緩んだ気がした。
 時の大河が流れたことで、あり得ない時間凍結を削り取り、本来の時間へと合流させたようだ。
 火種が本棚に接触すると一気に熱量が爆発して炸裂する――!
「くっ……!!」
 正常な時間を刻みだした本棚は、芙実の火種で破壊することを可能とした。
 書架の王はこの事にまず、驚いたのである。
 
 "壊れるはず無いオブジェクトを壊された"と。

 爆発に巻き込まれたのはひとつふたつではない。
 強力な爆弾の破裂に吹き飛ばされた本と本棚の残骸がブックドミネーターに、大河に導かれるようにたった一人の背に操られるように、刺さる。
 刺さりようがない形状も爆風で深々と身体に食い込んでいた。
「――」
「……あら、"命が大事なのね"」
 零時間詠唱を再び行う素振りを見せた流血のブックドミネーター。
 次に気にしたときには、今与えた攻撃の傷跡も直っているかも知れない。
 ――ブラフに上手く掛かったようね。
 芙実の狙いは、最初の仮定『分子運動』に関連する理論の実証。
『分子運動』に直接働きかけて、"正しい時間"を取り戻す。
「この場所を死守することに意味はないだろう。ならば私は"命の方が大事だ"」
 爆風で、時間凍結した空間を破壊されたと気づいた書架の王は、回復より先に周辺の時間を再度凍結させる事を選んだようだ。
「図書自体、私は特に重要視していない。歴史の塊というならそうだが、有限なのが記録なのではないからだ」
「ふうん?」
「人の魂が、大事の記憶が、過去を凍らせて永遠に留め置ける。歴史は失われない」
 凍った時間が破壊され、"正常の時間"を刻みだした本棚へ。
「時の大河……面白い事をする。しかし、扱いに不馴れのようだな、反流し河川というより今は小川程度まで分散してしまっている」
 現実へと洗い流す見えない小河の気配ごと、ブックドミネーターは何か術をかけているようだ。それは、――時間を凍らせて、前にも後ろにも進ませないように氷の中に閉ざす術。
「面白い理論だけど……高速詠唱しないのね?」
 芙実は言いながら、書架の王の行動を妨害する。
 すなわち、負傷した敵へ、ハイドロボムを投げつけたのだ。
「凍る時間は見えないけれど、それでも"質量として"大量の物質が存在した上で環境温度による凍結が起こったなら……」
 高圧の液体が、ブックドミネーターに当たって炸裂する。
 小さなボールが衝撃派と共に、ボールの内側に内包していた水を大量にぶち撒けた。絶対零度の城の冷気で、水はどんどんと凍りついていく。
「質量が変わるわ。時間凍結だけしていては、相応の"時間の重量と圧力"も変わる」
 書架の王は顔を歪ませた。時間凍結の支配下に、置こうとした地形が上手く凍結処理できない。
「早く回復しないと、押しつぶされるのはあなただものね」
 ――叡智を武器にするのはあなただけでは無いのよ?
 環境の維持と、自身の命どちらを選ぶか。
 猟兵に"盗み見られた時言った"何を守り、誰と戦うか。
 その選択肢を、言葉を変えて突きつけられたようだ、と書架の王は気づく。
「小賢しい真似を……」
 舌打ち。少年は苛立つように、猟兵たちを睨んだ。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆行動
辿り着きましたよ、ブックドミネーター
全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます

念動力を以て私も空を飛び
積み重ねた戦闘経験と五感を研ぎ澄まして攻撃を捌き
重要な臓器はその位置をずらした上で即死だけは避けましょう
第一波を凌いだら反撃開始です

時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのは痛いぐらい理解しました
ですが覆って居るのはその身だけであり魂まではかないませんよね?
ならば逃げ惑いながらも
この地形を凍結させる力…生命力を略奪して構築した
【黒竜の道楽】を以てその傲慢を喰らいましょう

正直なところ貴方の思惑は判りません
ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ

※他猟兵との連携、アドリブ歓迎


東雲・深耶
「フム、知識欲の権化という訳か。なら、私の力を楽しんでもらおうか」
時空間切断剣術を用いて遠距離から斬撃を放つ際に最初は真空波か何かを放出させたかと思わせるように仕込み、興味を引かせることで先制攻撃を凌ぐ。

次に放つ攻撃は先程書架の王が立てた仮説に反するような斬撃を放ち次の仮説を立てさせて思考を戦闘以外に私の力の考察に割かせる。
その間に書架の王に傷をつけてアドバンテージを取らせる他に凍結した魔導書による何らかの『影響』を断つことで更に能力の考察を進めさせる。普通に脅威だろうからな。

そのまま書架の王を「どうやって飛来させているか分からない斬撃」で攻撃することで知識欲を刺激させて削っていく。



●そして時が――

「たどり着きましたよ、ブックドミネーター!」
 降り立つそれは、ブラックタールの声。美少女形態の、黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)。
「全てを知ったか如く語る傲慢、打ち砕いてみせます」
「知っていることが傲慢。……大きく出たものだ」
「フム、知識欲の権化という訳か。なら、私たちの力を楽しんでもらおうか」
 東雲・深耶(時空間切断剣術・空閃人奉流流祖・f23717)は始めから手を、刃に手を添えていた。
 眼前にバサリバサリと鳥の翼のように羽撃く氷結晶。
 時間を固めた翼であるなどとは思わせない、キラキラとした輝き。
 あれが、書架の王・ブックドミネーター。
 唯一の手荷物である本を握り、背中を中心に展開する氷の翼を大きく広げた。
「権化。成程、その表現は正しいな……否定する部分はない」
 床を蹴ると同時に翼を広げ、恐ろしい速度でミコへと距離を詰めようとする。
 念動力を以て、ミコが本棚より上に駆けがるように飛び上がっていたのにも関わらず、縫うようにジグザクと飛翔して追いかけてきていた。
「先にお前から落す」
「簡単に、いくものでしょうか」
 積み重ねて歩み続けて積み上げられた戦闘経験。
 ゾッとするほどの表情のあまりなさそうな目が、ミコをじっとみていた。
 ――五感を研ぎ澄ませ、私。
 ――予測して、対処するんです。衣服のこすれる動き、本を掴んでる手……。
「ここです!!」
 身体を捩り、裏拳で振り下ろされる手をピンポイントで弾く。
 空中でぱぁん、と軽い音がした。
 ずらすことに成功したが、ブックドミネーターも飛翔する状態をよじることでカウンターに繋げる。
 腹部にぐ、っと本がめり込むほどの威力で殴り込まれた。
 本なので殺傷能力自体がない。
 あっても鈍器になり得るほどの物理的クラッシュが関の山。
 頭に受けていれば、頭蓋が砕けるだろうことをなんとなく悟る。
「ナイス反応速度……」
 なんて、褒めて返した。
 ――重要な臓器は位置をずらしていたことで直撃を避けられました。
 ――そのままにしてたら、絶対弾けてますよねこれ!?
「……褒められることじゃない。あちらを野放しにしていては、なにそされるものか…………」
 上空より、もうひとりの猟兵、深耶を視界に捉えて一気に滑空の体制をとる書架の王。ごおう、と文字通り風を切って飛ぶそれは、魔神が如き速度。
 しかし、紫色の光沢を放つ魔剣を扱う紫雨を使う深耶はやや身を低く構えていた。
 時空間切断剣術を用いて、飛び込んでくる顔面めがけて気合の抜刀で生み出した空気の流れ。空気を断ち切ち、刀を振り抜いた速度を更に上乗せして生み出した真空波で、接近を拒む。
「……それは衝撃か?それとも、真空か?それ以外か」
 攻撃を飛翔速度で上回って躱したらしい書架の王が深耶へ問う。
 放出されたエネルギーは、どれを指すのか。深耶の思惑通り、知識欲が仇となったのだ。
「さて、どれだと思う。幾つでも解答権をやろう」
 ――第一の攻撃に釣られたな。どのようにして、思考を見出してやろうか。
「気合の籠もる剣術だったと分析するが、どちらかといえば真空を斬って分析する」
「では答え合わせだ」
 ――次に放つ攻撃は先程書架の王が立てた仮説に、反したものを。
 刀に添え続けた手。それで同じく抜き放って行うのは、ブックドミネーターが纏う氷水晶の切断。
 目に見えない剣戟が、翼形状にUCの影響のみを切り裂いた為に、硝子が砕ける様な音が響き渡る。
「違うようだ。だがそれは一度目の剣術とは違うのではないか」
「……おや、気付かれたか」
 全身を覆う氷水晶を撫でるようにして翼を再構成し、羽ばたき突撃の体制を取る。
「間合いが遠ければそれの餌食。ならば……」
 瞬間的な最大レベルの飛翔速度が深耶の目の前に、ずん、と現れた。
「振られる前に殴ればいいな」
「そう思うだろう?」
 本で殴られる前に剣で本を弾く。
 重く、本だとは思えない重量を、ブックドミネーターはぶつけてきたのだが防がれ――少々、仰け反った。
「剣術の想定がとても甘い」
 仰け反りを予想した深耶が、バッサリと本と身体を袈裟斬りで一緒に切り捨てる。
 手応えは、間違いなくあった。
 書架の王が露骨に嫌な顔をして、蹴りで反撃してきたからだ。
「独自に編み出された剣術を、見切って原理を把握し分析するには情報が足りない」
「そうかい。このその手元の本も、本棚に並んだ"凍結した魔導書"も、書架の王の手駒に違いはないんだろう?」
 本棚を背に、ふっとばされた深耶。
 むしろ、好都合だった。
「第二魔剣・それは星を喰らう闇を光輪にて砕く」
 刀を構え、書架の王が嫌がることを理解し、『影響』を断つ為に時空間切断術による一撃で、止まった時間ごと斬る。
「私ごと止めないと、目論見が水の泡だぞ」
「時間凍結氷水晶で、覆っているソレが、無敵に近い覆い方をしているのは痛いほど分かりました」
 状況を離れて観察し、そうして、漸く一つの仮説を立ててミコが降り立つ。
「……ですが、覆っているのはその身だけであり、魂まではかないませんよね?」
「そう、といえば"そう"だ。身の周りで防げれば"魂"まで保護する理由は存在しない」
 ――何でしょう……自信過剰な部分がありますね。
 ――こちらが、"欠点"だったりするんでしょうか。
「丁度綻んだ場所があるようですし、他の方も狙いが同様と認識しましたので」
 にっこり。ミコはとても可愛らしい笑みを魅せる。
「いあいあはすたあ…………拘束制御術式解放。黒き混沌より目覚めなさい、第零の竜よ!」
 詠唱は"誰か"に祈るようなそれで。
 応えたそれは、影からずずずと身を起こして、ぶわぁあああと吹き出す。
 それが猫や鼠のようなそれではなく、全てが魔力によって反応した黒竜の残滓。
 時間ごと凍りついた本棚にかじりついて、"見えない何かを"食い荒らして空間を侵食していく。
 切り裂かれるのと、食い荒らされるのと。
 ブックドミネーターはどちらの猟兵も対処しなければ場を乱される。
 所有する知識が、現代時間に逃げ出してしまう。
「本は記録。留めておくほうが、誰にとってもいいだろうに……恐れを知らぬ者たちだな…………!」
「正直なところ貴方の思惑は判りません。ですが、今を生き選び続けているのは私達なのですよ」
 恐ろしい速度で、書架の王に追いかけられながらも、深耶が切り裂く度にがらがらと切り崩される崩れる氷の見えない障壁。
 ミコによる黒竜の道楽が、食い荒らして進軍するのもどちらも防ぐ手立てがない。
 ああ図書館外部が、荒らされる。書架の王に焦りが生まれた。
 正常な時間が――ブックドミネーターの支配下から、逃れて動き出す。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

吉備・狐珀
何を駆使して挑む、ですか…
氷を使う相手に安直かもしれませんが、兄様力をお借りします

UC【協心戮力】使用
ウカの炎属性と兄様の炎属性で作り出すは地獄の業火
貴重な書物でしょうが今は構っていられません
ブックドミネーター諸共燃やし尽くします

書物や自身を治癒しようとするなら月代、衝撃波や鎧砕くその爪で阻害しておやりなさい
治癒をされても何度でも、火炎の力も弱めることはありません

…これで阻害できるなら御の字ですけれど
詠唱する以上、口をあけるということ
この火炎の中で口をあければどうなるか
さらに火炎や月代の攻撃にまぎれて(毒)が紛れ込んでいたら?

貴方の喉が火傷と毒で声が出なくなったら
全員で一気に畳み掛けます!



●その背に炎を

 猟兵による図書館内の時間凍結箇所の破壊。
「派手に荒らしてくれたな……」
 正しい時間が動き出した部分を、書架の王は全部の修繕を無理と決めた。
 事実を言えば、高速詠唱を用いたとしてもおそらく全てを直す時間がない。
 招いた猟兵が、そんな事を許すと思えなかったからだ。
「――無視して直すのもいいが……」
 悩ましい。記録と記憶の時間凍結だ。
 こつこつと靴音を鳴らして、ブックドミネーターは……本人としては相当真面目に迷って右往左往している。
「悩ましいが……いや、いい。私は、直す事を優先して行おう」
 こうして、近場の修繕から始めるのである。
 書架の王と呼ばれる物らしく、"書の事"を一番に考えて。

「……ふむ。何を駆使して挑む、ですか」
 小柄そうな少年が、敵意こそは此方に向けたまま背を向けた。
 それを見た、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)が考えついた事。
 相手は時間と氷、を扱う者だと聞いた。自身もまた、氷を扱うもの。
「――兄様、力をお借りします」
 ――少々、安直かもしれませんが、それがダメとも聞きませんでしたので。
「二つの力は一つの力に 我のもとに集いて 敵を貫く剣となれ」
 狐珀の合図に黒狐のウカが、炎属性の気配を大気を震わせて集める。
 兄と呼ばれ、兄の姿を模したそれが炎を繰り、二種の力を寄り集めてそれ以上のパワーへと昇華させるのだ。
 炎と炎。掛け合わせて起こす事象は"大火事"。
 いいや、大火事では済まない。
 これは地獄絵図だ。すくなくとも、――ブックドミネーターにとっては。
「地獄の業火ですよ。対処するべきと、思いますが」
 ごおう。
 修繕を、こつこつと進めようとする少年の背から紅蓮の大波が詰め寄ってくる。
「貴重な書物でしょうが、今は構っていられません。むしろ、チャンスだとすら思います」
 ――何と言っても、敵前で背を向けるほどの無防備を晒しているのですから。
「全て燃やせばそれは簡単に済ませられるだろうな」
 激しい炎にあぶられて、本棚と本は簡単に燃えて溶ける。
 ブックドミネーターは……腕と足、見える限り大火傷を負っているようだ。
 しかし……それでも本棚に、時間凍結の術を優先していた。
「……私をそれで"殺せる"ものなら、だが」
 狐珀の目に、奇妙なものが映った。
 炎は消え去っていない。風景は殆ど変異していない。だが……燃え解けた本棚と本が、ブックドミネーターの負った大火傷が無くなっている。
「本棚は貴方の意見に、"賛同"するというのですね?」
 腕を横へ振り、狐珀は月代へ攻撃の合図を送る。
 月代が衝撃波で、威圧感を身に浴びせつけながら、鎧を砕く鋭い爪で再生したばかりの本棚を切り崩した。
 尾をぶん、と振るってガラガラと元の形を忘れるほど崩落させる。
「保存されることを望まない"歴史"などは、ないからな」
 時間が逆行するように、すぅうと元の形に戻ろうとする本棚。
 炎の中に呑まれても、無傷の姿で作業を進めるブックドミネーター。
 ――奇妙な、光景ですね。何か、絡繰りが在るような気も……。
 ――どこか。……他人のような気のしない、変な感じが…………。
「こほ……」
 書架の王が咳をする。
「詠唱するには、一瞬でも口をあけるでしょう。開けずとも呼吸くらいしていますよね」
 火炎の中に呑まれて、そこで通常の、無害の空気が吸えるものか。
「さらに、火炎や月代の攻撃に紛れて異物が存在していたとしたら?」
「……フェイク。こほ…………」
 咳き込む回数が増える。
 喉の奥に火傷を追って、身体の内部にはじわじわと染み渡る毒を。
「その状態でも回復を成し得ますか?」
 メラメラと燃える図書館で、凛と澄んだ声が響く――。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧生・真白
【221B】

わざわざ安楽椅子探偵を現場まで連れ出したかと思えば
…ほう、なるほどね
随分と気が合いそうな相手じゃないか
知識とは力だ
そうは思わないかい?

柊冬のペット達が撹乱している隙に魔弾を打ち込んで
その詠唱の邪魔をしてやろう
氷を使うのは君だけではないということだ
ほら、いくらでも打ち込んでやるさ
回復が追いつかなくなるまでね

全く、これだけの蔵書(知識)を蓄えてまだ足りないか
…まあ、わかるけれどね
なあ、君
死ぬのが怖いか?
いや、違うな…“真実を知れないこと”が怖いんだ
それは僕も同じさ
命を賭けて真実を追い求める
それが探偵というものだからね

なんて話し込んで気を反らした隙に
さあ、柊冬
あとは頼んだよ


霧生・柊冬
【221B】
姉さん、今日は知恵比べするにはこの上ない相手ですよ
書架の王…貴方の目論見はここまでです
貴方が探求を求めているのなら、ここで僕達と知恵比べと行きましょう

プラウスとダドゥスを散らばせて二匹に指示を出しながら相手を攪乱
敵の対処方法、UCを観察してつけ入る隙を探り当てます
ここに並ぶ本全てが彼の知識だとして、此処に全世界の本が詰まってるとは限らない筈
ラビを呼び出しこの場にある本のありったけの知識を検索で割り出す
姉さん、情報は送りましたからフォロー頼みましたよ!

相手が次の魔法を仕掛ける前に一気に近づいて勝負を決める
姉さんが作ってくれた隙を機に、敵の間合いまで近づいたら銃を手にして反撃です


樹神・桜雪
書架の王様かあ。なにかと図書館に縁があるなあ…。
ねえ、王様。沢山知識や見聞があるならさ…………ううん。いいや、聞かなくても。

王様のUCがこちらに向かないものならばその間に一気に距離を詰める。いいよ。回復しても。
それ以上にダメージを与えれば良いのだろう?
走りながらUCを発動させるよ。相手が氷を使うなら利用するまで。
近接戦闘なら任せて。
積極的に懐に飛び込んでは凪ぎ払うし、近距離でもUCも使って攻撃するよ。
距離を取られるならその分距離を詰めるし、常に張り付こう。

ねえ、王様。書架の王様が本で殴るなんて真似、しないよね?だってそれらは知識の泉、君の大切な宝物なんだもの。まさか宝物で殴るなんてしないよね?



●その身は止まることを知らない人形のようで

「噂の君が……書架の王なんだね?なにかと、ボクは図書館と縁があるなあ」
 樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)は、燃える図書館に、記憶を多少重ねた。
 しかしこの場は、最近鮮明に見た気のする記憶の場所とは全く異なる。
 この図書館の全てを理解すると豪語するブックドミネーターの知識に興味心を揺さぶられて話しかける気になったのは、記憶と共通した事項ばかりだったからか。
「ねえ、王様。沢山知識や見聞があるならさ…………」
 ぴたり、と止まった。尋ねられた事に善悪がないような気がして耳を傾けていたブックドミネーターが首をかしげる。
「……なにを問う。何を"知りたい"」
「…………ううん。いいや、聞かなくても」
 合間合間に咳き込む王。
「大変そうだね、喉。ねえ、先に回復を優先したら?」
「話す、修繕する。それを優先するに困らないことだったのだが……」
 気にされては、と息を呑むようにする時間。
 次には咳き込む頻度を極端に減らした書架の王が、時間凍結の作業を再開する姿があった。
 猟兵を相手にする気がないのではなく、優先事項が発生した、という感じ。
「大方万全、の方がボクも容赦しなくて済むからね」
 桜雪の声は、ブックドミネーターの後ろへどんどん近づいてくる。
「だって……王様の力は、生き物ではない"本棚と本"そして自分にしか効かないんじゃない?」
 走りながら、魔を穿つ刃を全力で展開し、ずらりと並んだ刃が幾何学模様を描いて追従する。霊力を帯びて微かに光る桜硝子がきら、きらと包囲網を敷く。
「ねえ。どうする?完全に囲えてしまったよ。これだけの数に串刺しされたら流石に痛いじゃすまないんじゃないかな」
「夥しい数を用意したほうが、なにをいうのか」
「時間を凍らせて造った氷を使っても良いんだよ?」
 作業妨害の挑発。
 くるり、と書架の王が桜雪に向き直り、無言で手元の本を開く。
 ぱぁあああと展開していく起動する術式が、目に見える。
 少年の周囲で時間が固められて、氷水晶のナイフが幾つも生成されている。
「しろ、というなら望み通りに」
 手を下ろす動作を引き金に、魔術生成されたナイフが、桜雪の狙う。
「……へえ、意外。挑発に乗ってくれるんだねぇ」
 遠距離から、近距離へ。踊りこむように入り込む桜雪が、薙刀でナイフを薙ぎ払う。間合いが変われば方法が変わる。書架の王のニガテな、近距離……懐へ入り込んだ時点で、一度、全ての刃を書架の王へ向けて放つ。
 グサグサグサリ……嫌な音が、響き渡る。
 人の形に刺される限界を越えて、刃が魔を穿っていたのだ。
「ねえ、王様?書架の王様が本で殴るなんて真似……しないよね?」
「何故そう思う」
 不思議なことに咳き込む音があるばかりで、書架の王は先程と変わらぬ語調で返答してくる。恐ろしく、平常と言った感じだった、
「だってそれらは知識の泉、君の大切な宝物なんだもの。まさか宝物で殴るなんてしないよね?」
 自身の身体に突き刺さった刃を一本ずつ、掴んで抜きながらブックドミネーターは言うのだ。
「図書館の中において、私にとって"手元のコレ以外に大切であるものは存在しない"。全ての書が扱える私にとって、"形"があることは特に重要では、ないからだ……」

●真実は"本"に眠る
 本棚に隠れた猟兵の姿が在る。
「ほら姉さん、見えますか。今日は知恵比べするにはこの上ない相手ですよ」
 小声で霧生・柊冬(frail・f04111)は、霧生・真白(fragile・f04119)へと語りかける。
「……わざわざ安楽椅子探偵を現場に連れ出したかと思えば、ほう。……成程ね」
 此処までの状況を、真白は冷静に推理する。
「随分と気が合いそうな事をする相手じゃないか」
 二人で一緒に飛び出して、姉よりも前に柊冬は進み出る。
「書架の王……貴方の目論見はここまでです。貴方が探求を求めているなら、ここで僕達と知恵比べといきましょう」
「知識とは力だ。そうは思わないかい?」
 ブックドミネーターの返答を待たずに、柊冬が小動物に先行を任せる。
 黒兎のプラウスと、梟のダドゥス。二匹一組の頼もしい相棒が、身体に突き刺さった刃を抜くのに手間取る王を撹乱する。
「……知識は己を裏切らない。探求は果がないことがいい」
 刃を抜く度に流血が図書館を汚すが、零時間詠唱が行われているようで、怪我が瞬時に治癒しているようだ。
「プラウスは右下から、ダドゥスは左上から!」
 指示を飛ばす柊冬の声と真逆の、右上と左下から強襲と離脱を繰り出す二匹。
「撹乱をして、何になる」
「いいや?そこで思考を放棄するのはナンセンスだね」
 真白が何度も唱えている様子を見せるブックドミネーターに、氷雪の魔力を籠めた魔弾を打ち込む。
「それに……考え続けることが君の命題だろう?犯行現場にいるんだから、続けてくれないとね」
 犯行現場の現場保存を頼む真白に、避けることをしないブックドミネーター。
 魔弾が炸裂したと同時に、真白の魔弾で空間が凍結する。
 ぴたり、と書架の王の動きが"凍りついた"。
「これは……!」
「氷を使うのは君だけではないということさ。それに、凍結を扱うのだって。まだ欲しいかい?ほら、いくらでも打ち込んでやるさ」
 一時的とはいえ、何度も打ち込めば動く事ができなくなる。
 連続性がなくても、何度も続ければ"書架の王"はその場所から動けなくなる。
「それだけ刃が刺さっていては抜くのも大変、回復を繰り返さなければならないだろう?そうしなければ"死んでしまうものねえ"」
 探偵の推理が、赤い目に映る。
「だが僕の推理が正しければ……君は"死なないだろう"」
「……え?姉さん何を?」
「そこらに並ぶ、本棚が彼の真実であり力だとしても……全世界の真実が此処に集合しているとは言えないはず」
 かつ、かつと本棚の傍へ。
 真白が手を近づける本棚は"動くこと"が凍りついていて、本を引き出そうともびくともしない。
「全く、これだけの蔵書(知識)を蓄えてまだ足りないか……まあ、わかるけれどね」
 ――なあ、君?
「そんなに、死ぬのが怖いか?」
「何がいいたい」
「いや、違うな……未来に行き着くべき“真実を知れないこと”が怖いんだろう?」
 だから死を恐れ、死なないように治療の知識を持っている。
 敵と戦う術よりも自分を活かす術を優先するのは、ただ一点"死にたくない"からではないか。突きつけた指、この推理のネタバラシをブックドミネーター本人に言わせるための、攻撃だった。

 ――本を司っていて、本の力を知識として扱うといっても……。
 ――世界を超えて存在する本を扱うことは出来ないはず。
 事前にそう考えていた柊冬は、語りだした姉の姿をみてひっそりと行動に移る。
「これを、こうして……"Hey Rabbi"」
 ぴぴ、と起動する黒うさぎのスマホ。
 AIが起動している為、話しかけられた内容を求めているような、静寂。
「この場にある本のありったけの知識を検索です!」
『システムエラーをお知らせします。検索結果に、幾つかのバグが発生しています。参照しますか?』
「……!?し、しないですよ!それは省いて!」
『了解しました。検索結果を抽出するのに50分の時間が掛かります。少々お待ち下さい』
「……妙に膨大なところは、省いていいですから。抽出の成功と同時に、元のデータを白紙の情報で塗りつぶしてくださいね」
『了解しまし……完了しました。データを圧縮を推奨します。スマホの保存領域の残量が足りません』
「しゅ、縮小して……!姉さんに送信ですよ!僕の取得したデータも勿論削除です!」

 ピコン。
 真白のスマホが鳴る。
 何かの情報が送られてきた。
「助手がいい仕事をする。死にたくないのは僕も同じさ。命を賭けて真実を追い求める、それが探偵というものだからね」
 手元で雪うさぎのスマホをすぅう、と操作してファイルを解凍。
 中身を速読で読み込んで、そして一つの真実を突きつける。
「この図書館には、"自動手記"を行うモノの手立てが妙に多いようだ。探しものは、これかい?」
 ブックドミネーターは真白に打ち込まれた空間凍結に阻まれ未だ動けないままだ。
「ビンゴ。へえ……僕としては貴重な資料だね。そろそろ、解決編の止めといこう」
「……まだ、いうのか」
「言うとも。これが僕が出てきた理由でね。君、零時間詠唱で時間凍結を繰り返すことで死なないんだろう?もしかしなくとも、その体に"心臓の機能"は……始めからないんじゃないか。そう考えるよ。負傷しても治せる術があるなら…………一番手元で、一番遠いものが"答え"なんじゃないかな?」
「……実質ヤドリガミじゃない?それ。もしくは"致命傷を受ける部位"が別にあるってこと?なら"本体"を叩けばいいだけだね、接近戦は任せて」
 真白の突きつけた言葉の弾丸の意図に、桜雪が気付き駆け出した。
 未だ動けないまま、囚われている書架の王の回復の術を崩すなら、このタイミングしか無い。
「全部一気に引き抜いてあげる。でも、……」
 桜硝子の突き刺さったままにしていた太刀を一斉に引き抜き、最大数まで太刀を再度並べて、もう一度容赦なく突き刺す。
 大量の血が、図書館内部に撒き散らされる。足を止めるでは留まらない。
 体ごと、余す所無く突き刺される太刀と、動けない身体。書架の王に、逃げ道は存在しなかった。
「ぐあぁああああ!!!!!!!」
 流石に吐き出された叫ぶ声、ぼたり、と落ちた本。
 ブックドミネーターが、何故かずっと持っていて攻撃手段にずっと用いていた拳代わりの本。
 時間凍結の術が施されていて、破れてもないし燃えた痕跡もない。
 "治癒"が起こっている、おかしな本だった。それは、――書架の王の影響を受け、大切な"生きている証"。
 彼はもう、"見破られて""死ぬこと"を受け入れられなければ、ならなかった。
「さあ、柊冬。あとは分かるだろう?頼んだよ」
「はい!」
 姉の声に元気に返事を返して、書架の王の最も近くで牽制する桜雪の足元。
 守る術を失い、現代の時間に放りだされて落ちている本へ銃を向ける。
「こんな事はできればしたくないのですが……!」
「や……やめ…………!?」
 目を見開いているブックドミネーターを見ないようにして、柊冬はモデルガンの引き金を引いた。
 幻視の一射。書架の王の本に降りかかる痛覚。
 体中に刃が刺さった書架の王が、胸を抑えて尋常じゃない量の血を吐き出し続ける。撃たれたと錯覚した大切な大切な本、タイトルを"心臓"。
 "心臓が穿たれた"。
「身体の治癒ができても潰されたら終わりの"か弱い部位"は……無理だろう?」
「……全員一斉の回復できない程の攻撃でも、耐えられる丈夫さには始めから見えなかったんだけどね、ボクは」
 猟兵からの言葉。
 減らず口も知識への探求も、どちらの声も以降二度と書架の王は語らなかった。

 こうして時間凍結城の主の主は、招待客によって時間凍結の夢を溶かされる。
 秘された秘術は何処で編まれ、どこかの本に掲載されていたものなのか。
 謎が様々残るが主を失った時間凍結城の扉は――もう、閉ざすものが居ないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月18日


挿絵イラスト