●その名はキング・ブレイン!
「ブレブレブレ……」
世界征服大図書館深部。猟書家『キング・ブレイン』は今も怪人達へのご挨拶の練習を続けていた。
目指す世界はキマイラフューチャー。背後の本棚に納められたスーパー怪人大全集(全687巻)を用いてかの世界を征服しようというのだ!
「うーん、もうちょっとエッジを効かせた方がハートをつかめるだろうか」
ゴホン、と咳払いを一つ。
それと同時に開かれる扉。その向こう側にキング・ブレインは視線を向け、言い放った。
「ようこそいらっしゃいました。よくも我輩の練習を邪魔してくれたな!」
●その台本を白紙に戻せ。
「諸君! 新たなる猟書家への道が開かれた!」
ゴッドオブザゴッド・ゴッドゴッドゴッド(黄金存在・f16449)が一冊の本を開き猟兵たちに示す。そこに描かれていたのは、ある猟書家の姿。
「向かってもらいたいのは、世界征服大図書館! キング・ブレインが待ち受ける不思議の国だ!」
キング・ブレインは予知で見られたように、今も来るべきキマイラフューチャーでの世界征服に備え、演説の練習をしているらしい。
彼の地に乗り込み、猟書家を討ってくれ、とゴッドは続けた。
「無論、敵は強大な力を持つ! 諸君の侵入にもすぐ気付くであろうし、その対応も素早い! 不意打ちは意味を成さぬであろうな!」
敵は背中に背負った「スーパー怪人大全集(全687巻)」と、脳から出るビームで戦うという。ブレインと言うだけあって知性も高く、とぼけた言動からは想像もできない戦略を繰り出してくるかもしれない。
オウガ・オリジンから奪ったという力の一端。油断できるはずもない。
「しかし、諸君ならば必ずや勝利をもたらす事ができるとゴッドは信じよう! 見事なる活躍を期待しているぞ!」
納斗河 蔵人
お世話になっております。納斗河蔵人です。
今回は迷宮災厄戦、猟書家「キング・ブレイン」との戦いになります。
スーパー怪人大全集にはどのような怪人が記されているのでしょうか。
ボスは先制攻撃してきますので、その攻撃へといかに対処するかが重要になります。
どのユーベルコードも、それを受けた(見た)皆さんの反応があると面白くなりそうですね。
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
ぜひこちらを意識してみてください。
それでは、プレイングをお待ちしています。よろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『猟書家『キング・ブレイン』』
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POW : 侵略蔵書「スーパー怪人大全集(全687巻)」
【スーパー怪人大全集の好きな巻】を使用する事で、【そこに載ってる怪人誰かの特徴ひとつ】を生やした、自身の身長の3倍の【スーパーキング・ブレイン】に変身する。
SPD : 本棚をバーン!
【突然、背中のでかい本棚を投げつけること】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【リアクションをよく見て身体特徴】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : 脳ビーム
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【脳(かしこさを暴走させる)】属性の【ビーム】を、レベル×5mの直線上に放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ブレブレブレ! 我輩の実力を示し、お前達との戦いを怪人達に見せるプロモーションに使ってくれるわ! 本番入ります!」
キング・ブレインは現れた猟兵の存在を察知し、言った。
どれほどに準備をしたとしても、披露する場がなければ意味がない。
作り上げた台本を白紙に返してやろう。
シエナ・リーレイ
■アドリブ絡み可
挨拶の練習がしたいの?とシエナは怪人さんに問いかけます。
怪人が挨拶の練習をしている事を知ったシエナ
仲良くなる為の足掛かりに練習に付き合います
怪人の練習が終われば次は楽しいお遊戯会の始まりです
凄い凄い!次はどんな怪人さんかな!とシエナは『お友達』候補に促します。
シエナは怪人の猛攻を怪力や人形の体故の各種耐性任せに意気揚々と受けます
並の生物なら堪えられない醜悪な容姿や精神的攻撃で攻めるのも微妙でしょう
何故ならシエナはSUN値直葬な邪神相手でも動じる事無く親愛と好意を向けるのですから
そして、シエナは怪人を『お友達』に迎える為無意識の内に怪力や暗殺技術が入り交じった凶行に及びます。
月代・十六夜
そういうのは事前に済ませとけってあっぶねぇ!?
【五感】と【野生の勘】をフル動員して放たれる巨大本棚を相手に後ろに大【ジャンプ】。
【身代わりの護符】でできるだけダメージを殺しながら盛大に吹き飛ばされながら【空中戦】の要領で身を翻して適当な木を蹴って吹き飛ばされた速度を殺さず反転。
【大自在天則】を片足に発動。まだ回収されてないどでかい本棚に向けて相手の攻撃+自身の跳躍による運動エネルギーを加えて【カウンター】で相手に向けて蹴り飛ばす!!
大事な蔵書なんだろ!お返しするぜ!!
佐伯・晶
なんか濃ゆいの出て来たなぁ
気が抜けそうになるのを堪えて
皆と協力して戦うよ
本棚の一撃は空中浮遊やワイヤーガンでの移動で回避
避けきれない場合は本棚の時間を停めて防御
これは僕なりのオーラ防御だよ
対応パターンを増やす事で2回目以降も対処しやすくしよう
ところで投げた本棚に入っているのって侵略蔵書だよね
複製創造でコピーを創り、わざとらしく入れ替えよう
いつの間にか同じ巻が被ってるのって怖いよね
抜き取ったのは懐に入れて持って帰る素振りを見せたら
取返しにきそうな気がするので遠くに思いっきり投げるよ
そちらに気を取られたところをガトリンガンで攻撃しよう
余裕があれば他にも本を入れ替えておこうか
687巻の確認頑張ってね
形代・九十九
……何であれ、何らかの物品を破壊するのは心が痛む。
道具そのものにも、知識にも、本来善悪などは関係ないのだ。然し、悪しき使い途をされるだけの物ならば壊すこともやむなし。貴様の叡智も、同様に始末させてもらう。……せめておれの腕を餞としよう。せいぜい悪く思え。
飛んでくる本棚を【念動力】で強化した操り糸で空中に固定し【捕縛】。そのまま糸ごと左腕の義手を切り離し、内蔵した爆薬による【破壊工作】で本棚を破壊。相手のリアクションを【学習力】で分析しつつ、その逃げ道を塞ぐように氷【属性攻撃】にてその身動きを封じながらUC偽・百鬼夜行を展開。66人の分身による車懸りの陣で相手を容赦なく粉砕せんと勝負をかける。
ライカ・ネーベルラーベ
キミが猟書家、だっけ
まぁ何でも良いけど
「誰が相手でもぶっ壊すのに変わりはないからさぁー!あははははは!」
…って、何あれ
(313巻記載の電波怪人・モスウェーブの羽根を生やしたキング・ブレインを見て)
「虫?キモいんだけど」
モスウェーブの催眠電波能力に囚われ動きが鈍るけど
【ジギタリスのエキス】を自分に打って【竜種の魔力核】の出力を上昇
強烈な電気を纏って催眠電波を弾くよ(電波は電流の影響受けるし)
で、反撃の【其は組み鐘を鳴らす者】
飛んでる相手にも対処できるし、高圧電流を纏ったまま戦える
フォーミュラー用の切り札だけど、オマエにもよく効きそうだねコレ!
「オアアアアアアアアア!」
カイム・クローバー
なぁ、聞いたぜ、変身するんだって?
変身モノはロマンさ。生憎と俺のUCにアンタみたいなロマンに溢れたモンはねぇが…見せてくれよ、その変身とやらを。
三倍か。そこそこのデカさだな。怪人の特徴を【見切り】。プロモーションにするんだろ?協力するぜ。俺は動かねぇし、躱さねぇ。必殺の一撃で格好良く決めてくれよ。
【挑発】してコートに手を突っ込んだままUCで防御。
台本通りとはいかねぇみたいだな。それと…カメラがあるなら止めた方が良いぜ。──負けそうになるダサい姿、残したくねぇだろ?
魔剣を顕現し、特徴を【怪力】で叩き斬る。通常サイズに戻れば刀身に紫雷の【属性攻撃】を纏わせる。
アンタみたいな奴、俺は嫌いじゃないぜ。
メイスン・ドットハック
【WIZ】
ほほう、自分のやられるプロモーションとは何とも奇怪な趣味じゃのー
それもまた悪役としては人気でるからいいがのー
先制対策
電脳魔術における自身のホログラムアバターを大量に生み出し、重ならないように配置する
一直線にしか撃てないようなので、的の拡散と共に撃たせるのを躊躇させる作戦
万が一自身に目を付けられた場合のことを考えて、脳ビームの方向を注視して回避準備をする
先制後はUC発動で、脳ビームを電脳ウインドウの入り口に吸い込ませ、電脳空間に入った脳ビームの出口をキングブレインの方向に設定した電脳ウインドウを設置して、そのまま返してあげる
電脳空間にはこういう使い方もあるけーのー
アドリブ絡みOK
ジノーヴィー・マルス
アイシャ(f19187)と。
なんだよその笑い方。
しかしまぁ、油断は禁物だよな。アイシャが俺の服のポケットに入って、透明化させてくれるっていうから、それを上手く使おう。【見切り】でギリギリまで引きつけて避ける。
これを維持するだけでもまあ当てにくいだろうが、更に攪乱する為に「分身使って楽する」とすっか。
囮として【挑発】してもらいつつ、隙を突く形を狙おう。
分身にはなるべく大きな声で喋ってもらうか。ちょっとの物音ならごまかせそうだし。
しかし、俺の分身にまで気を遣うアイシャは優しいなぁ…。分身も喜ぶぞ。
アイシャ・ラブラドライト
ジノ(f17484)と
口調→華やぐ風 ジノ以外には通常口調(分身さんにも)
ジノのポケットに入ってUCを発動させる
ここからは運命共同体だね…
ジノのこと、信頼してるよ
こうすれば離れてしまうことはないし
透明化すればブレインさんの攻撃も当たりづらいはず
物音までは消せないから、そこは要注意
話しかけてしまわないように気をつけなきゃ
何か伝えたいときは極力ジェスチャーで
ブレインさん、お茶目な人だけれど…
すごく強いのは見ててわかるから、油断は禁物だね
メインの攻撃はジノに任せて
敵をよく見て、muguetやembraceでジノと分身さんの手助けを
分身さんでもジノはジノだもの
傷つくところ、見たくないな…
「さあ、かかってくるがいい猟兵たち! 絵になるシーンをおねがいします!」
猟書家、キング・ブレインが猟兵たちに向けてポーズを取る。
世界征服大図書館の主となった彼は、キマイラフューチャーへの侵略に向けて着々と準備を進めていた。
――これは仕上げだ。この戦いを、怪人達を従える決定打としようという目論見。
「ところで、敵を迎え撃つ悪の大首領の挨拶はこんな感じで良かったでしょうか!」
が、こんな調子である。それを猟兵に聞くのか。
「挨拶の練習がしたいの? と、シエナは怪人さんに問いかけます」
キング・ブレインの言葉に最初に反応したのはシエナ・リーレイ(取扱注意の年代物呪殺人形・f04107)であった。
「その通り! 貴様らを返り討ちにした暁には我輩は怪人達を従え、世界を征服する! 挨拶は重要です!」
「こんにちわ! と、シエナは元気に挨拶を返します」
「はい、こんにちは! 今日はよろしくお願いします! これで永遠のお別れだがな!」
「……なんか濃ゆいの出て来たなぁ」
そんなやりとりに佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は思わず気が抜けそうになる。
「大首領たるもの、キャラクター性も重視しなくてはな! 我輩のグッズで経済も牛耳ってくれよう!」
「キマイラフューチャーなら成立しちゃいそうなのが怖いね、それ」
「ははっ、面白い奴じゃねぇか」
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は笑うが、彼だってその力を感じていないわけではない。
この余裕を見せることこそが、彼の戦闘への心構え。
「怪人人気は親しみやすさから! 我輩、怪人達には自ら進んで改造手術を受けてもらいたいのでな!」
「その親しみやすさって奴は大成功だ。アンタみたいな奴、俺は嫌いじゃないぜ」
カイムの口調は軽いものだが、その目をキング・ブレインから離すことはしない。
「怪人、とは。ああいうものなのか」
「多分なー。キマフューの事はよく分からんけど」
奇怪な言動、態度。繰り広げられる対話の様子に形代・九十九(抜けば魂散る氷の刃・f18421)が静かに問えば、月代・十六夜(韋駄天足・f10620)が答える。
そんな会話を聞きつけ、キング・ブレインは高らかに宣言し、笑った。
「我輩、キマイラフューチャーの事はしっかりと勉強しました! 怪人の大首領とはこういうものだ。ブレブレブレ!」
「あれほどの数の本を背負っているのだ。間違いはあるまい」
「後は現地で受け入れられるかだなー。行かせねーけど」
自信満々のキング・ブレインに、九十九はひとまず納得したようだ。
いずれにせよ、十六夜の言うようにバトル・オブ・フラワーズを乗り越えたあの世界を、ふたたび混乱に陥れるわけには行かない。
「キミが猟書家、だっけ」
「はいその通り! おっと、ここまで名乗っていませんでしたね」
確認するように言ったのは、ライカ・ネーベルラーベ(りゅうせいのねがい・f27508)だ。
そこで気付いたキング・ブレイン。世界征服大図書館に納められた書物には、敵と戦う前には名乗りが重要だと書いてあった。
これを忘れては怪人へのアピールも片手落ちだ。
「では改めて! 我輩はキング・ブレイン、汝らを踏み台に新たな世界で大首領として羽ばたく者である!」
「まぁ、何でもいいけど」
マントを翻し、ポーズを決めたキング・ブレインであったが、ライカは興味なさげにつぶやいた。
……かと思えば。
「誰が相手でもぶっ壊すのに変わりはないからさぁー! あははははは!」
「おっと、これはキャラ変ですか。こういうのも学ぶべきかなー」
急に顔をゆがめ笑い出したライカにもキング・ブレインは余裕の態度だ。
「さて、それではそろそろ始めましょうか! 怪人達のハートをつかむ、プロモーションの収録を!」
「ほほう、自分のやられるプロモーションとは。何とも奇怪な趣味じゃのー」
その宣言に、気だるげに返したのはメイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠もり)・f03092)であった。
カチカチと端末をいじりながら視線だけをチラリと向ける。
「それもまた悪役としては人気でるからいいがのー」
「ブレブレブレ、面白い解釈。我輩もジョークを習得しておいた方がいいかなー」
「はっはっはー」
笑い声が図書館に響いた。
「……なんだよ、その笑い方」
奇妙な笑い方にジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)は苦笑する。
「ブレインさん、お茶目な人だけれど……」
そして、その胸ポケットから顔を覗かせているのは、アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)だ。
感想とは裏腹に、その表情は不安げ。
「ブレブレブレ! そちらはペアでご参戦か! まとめて仲良く葬り去ってしんぜよう!」
誰もが感じている。そう、あれは余裕だ。
オウガ・オリジンから奪った力も含め、猟書家の戦闘力は本物なのだ。
あの態度に騙されてはいけない。力を合わせて立ち向かわなければ、勝利には届かない。
「アイシャ、大丈夫だ。一緒に戦う……だろ?」
「うん、ジノのこと、信頼してるよ」
「おっと、こうして汝らと軽妙トークを繰り広げるのもこの辺りにしておこう。我輩の命を狙ってきたのだろう?」
「いいえ、わたしはあなたと仲良くなりに来たのよ、とシエナは猟書家さんに笑いかけます」
「え、そうなの?」
いざ戦いの始まり……といこうとしたところでシエナが待ったをかける。
「挨拶は大事って言っていたでしょう? もっと練習するべきだわ、とシエナは告げます」
「いやー、確かに。我輩もさっきのちょっと微妙かなと思ってたんだよね」
倒すべき敵を前にそんなことを言うとは、豪胆である。
乗ってくるキング・ブレインもどうかと思うが。
「それではもう一度、とシエナは促します」
「よくぞ来た猟兵! 我輩はキング・ブレイン! 怪人を統べる大首領である!」
再度の決めポーズ。
ああでもない、こうでもないと言い合うキング・ブレインとシエナは隙だらけである。
「……攻撃してもいいのだろうか」
「いや、何か考えがあるのかもしれねぇ。少し様子を見よう」
予想外の展開に猟兵たちも戸惑う。
「それよりもあの子、大丈夫かな」
「見ている限りはキング・ブレインも攻撃するつもりはなさそうだけどなぁ」
仲良くなる、という言葉通りに繰り広げられる挨拶の練習はまだ続く。
「……まだかなぁ」
「やっぱり攻撃した方がいいんじゃ」
「それにも対応してくるのが猟書家って奴じゃけぇのー」
このなんとも言えない時間。
その空気に耐えられなかったひとりの男。
十六夜だ。突っ込まずには居られなかった。
「いや、そういうのは事前に済ませとけっ!」
「はい本棚をバーン!」
「ってあっぶねぇ!?」
邪魔する者は許さない。不満を聞きつけたキング・ブレインは瞬時に背の本棚を猟兵たちに向けて投げつけたのだ。
……危なかった。一瞬反応が遅かったら押しつぶされていた。とぼけていてもやはり危険な相手なのだ。
一気に跳躍した彼を一瞥し、猟書家は言う。
「愚かな、我輩の邪魔をする者には死、あるのみ」
「いいわ、それ決まってる! と、シエナは称讃します」
「お、いいですかこれ。じゃあレパートリーに加えよう」
手にしたメモに何やら書き付ける彼をシエナはにこにこと眺める。
そして、言うのだ。
「次は楽しいお遊戯会の始まりです、とシエナは戦いの始まりを予期します」
「よかろう! このキング・ブレイン、背負った侵略蔵書「スーパー怪人大全集(全687巻)」と脳から出るビームで戦おう!」
「……む」
それは一瞬の出来事だった。既にキング・ブレインは、先ほど投じた巨大本棚のそばに立っている。
「教えてやろう! 我輩は大全集を用いて、その力を得てスーパーキングブレインへと変身するのです!」
それこそが彼の侵略蔵書の力。ただでさえ強力なエネルギーをさらに高める脅威の一冊。
これを阻止することは難しい。大事なのは、それにどう対処するか、だ。
「変身モノはロマンさ」
だからこそ、カイムはそれをあえて止めることはしない。本を手に笑うキング・ブレインを挑発するように、続ける。
「見せてくれよ、その変身とやらを」
生憎と、彼自身はそう言ったロマンに溢れたユーベルコードを持たない。
だが、見てみたいという気持ちも止められないのだ。
「よかろう、まずはこの一冊! スキッド悪魔! ブレブレブレ!」
キング・ブレインが笑うと共に、侵略蔵書が光を放った。
溢れる光に誰もが目をくらませ、その姿を見失う。
閉じた目を開けば、目前に迫るのは触手だった。
「おおっと」
「あぶねっ!」
晶が浮かび上がり、十六夜が飛び退る。
先ほどまでは存在しなかったはずの物体。その主は。
「ブレブレブレ! これがスーパー怪人大全集の力だぞ!」
巨大化したキング・ブレインであった。
腰からは10本の触手を生やし、それぞれが猟兵たちへと襲い来る。
「……重いが、防げぬほどではない」
「まー、これくらいなら僕でもなんとかなるけーのー」
九十九は攻撃を受け流し、メイスンはごろりと体を転がして追撃から逃れた。
「ちっ、アイシャ、大丈夫か」
「うん、平気。ジノこそ気をつけて」
ジノーヴィーがギリギリのところでバックステップ。
アイシャと共に触手の射程の外へ。
「……イカ?」
ライカもチェーンガンブレードをふるって触手を切り落とす。
煽って見せたカイムと言えば。
「三倍か。そこそこのデカさだな」
コートに手を突っ込んだままである。
そんな中、シエナだけは動きが違った。
暴れ回る触手を、身をかがめて潜り抜け、キング・ブレインの下へと近づいていくではないか。
「凄い凄い! 次はどんな怪人さんかな! とシエナは『お友達』候補に促します」
「はっはっは、お嬢さん。我輩をお友達とは面白い奴! 触手もあんまり効かないし、ご期待通りにもう一冊……いや、二冊いってみよう!」
ふたたび、本棚から大全集が取り出される。
一瞬の閃光の後、さらなるパワーアップを遂げたキング・ブレインの姿は。
「……何あれ、虫? キモいんだけど」
「そっちが先なんだ!? どう見てもヤバそうなのが腹についてるんだけど?」
蛾の様な羽根と、見るだけで恐怖を引き起こすような醜悪な頭部を腹に生やしていた。
「キモいとか傷つく! ですが、これも精神攻撃です!」
キング・ブレインは手始めに、目の前にまでやってきていたシエナへと腹の顔をけしかける。
少女のような姿の彼女ならば、これだけで恐怖に心を震わせるかもしれない。
「ブレブレブレ! 先ほどは挨拶に付き合ってくれてありがとう! ひと思いに心を壊してやろう!」
……彼にも情のようなあるのだろうか?
ボタボタとたれ落ちる腐肉に、不安を煽る唸り声。
猟兵でなければ、いや猟兵であっても正気を失いそうな頭部がシエナへと迫った。
「かわいい、かわいい、とシエナは怪人さんの頭を撫でます」
「なんとっ!?」
が、彼女には通じない。
何故ならシエナは、SUN値直葬な邪神相手でも動じる事無く親愛と好意を向けるのだから。
「……ならば、仕方ない! 苦しめたくはないが直接!」
ためらいながらも、見逃すわけには行かない。侵略の邪魔になるものは排除しなければならない。
勢いよく振るわれた触手が、シエナを横薙ぎに払い、その体が宙を舞った。
「まずはひとり! 順番に倒していきますよ!」
「順番とは、キング・ブレインもとぼけたようでずる賢いのー」
両の手と触手で猟兵たちを整列させるかのように誘導するキング・ブレイン。
しかし、その目論見はメイスンにはお見通しだった。
「……バレちゃったか」
狙いは、脳から出るビーム。彼は一直線に放たれるその力で猟兵たちを一網打尽にしようとしていたのだ。
「しかし、それだけで避けられるほど……ってあれぇ!?」
「僕はこっちじゃけーのー」
「いやいや、こっちじゃのー」
気付けば、辺りには無数のメイスンの姿が浮かぶ。
彼女は狙いを惑わすため、辺りにホログラムを大量に産み出していたのだ。
「さあ、僕がどれかわかるかのー」
「ええい、これでは狙いが定まらん! ならば……」
と、その時続けていた詠唱が止まった。それと同時。
「それ、本棚がドーン!」
「お、おおっ?」
突然に投げられる本棚。狙われたのはホログラムだったが、回避のために備えていた彼女は一瞬反応してしまう。
「……見つけたぞ、お前が本体だな!」
「まずっ」
そう、キング・ブレインは本棚を投げつけたときの反応で、猟兵たちの特徴を観察していたのだ。
一度見つかってしまえば、攻撃から逃れるのは難しい。
ふたたび宙を舞う本棚。
回避しようにも、動きは見切られている。だめか、と思った時だった。
「危ない……っ!」
なんと、本棚が空中で止められているではないか。
メイスンと、キング・ブレインの間に入り込んでいたのは晶だ。
じりじりと押し合い、やがて完全に静止する。
「本棚の時間を停めた……これが僕なりのオーラ防御だよ」
「おーおー、見事じゃのー」
「ほう、やりますね。しかし、汝の特徴も覚えたぞ!」
「僕はこの攻撃への対応パターンを、何個も思いついているよ! 捕まえられるものなら捕まえてみなよ!」
まっすぐに床へ直立した本棚の裏から晶の気勢が飛んだ。
「負けるとは思わないけどしぶといな。まとめてとはいかずともドーンと行っちゃうか!」
本棚の投擲は敵の動きを見切る為の布石でもある。
戦いが長引けば、キング・ブレインはどんどん猟兵の弱点を看破していくだろう。
その様子を、息を潜めて見つめる者が、二人。
「……ここからは運命共同体だね……」
「ああ、頼りにしてるぜ」
そこにいたのは……いや、そこに居るが、誰の目にも映らない。
ジノーヴィーとアイシャだった。
メイスンがキング・ブレインと対峙している隙を突き発動した、『Secret time(シークレットタイム)』の力によってその姿を消しているのだ。
(でも、物音までは消せないから、そこは要注意)
もぞもぞと、ポケットの中で動くアイシャ。事前に合図を決めておいたのだ。
これならば音を立てずに意思疎通ができるだろう。
(近づくことには成功だ……後は、隙を突ければ)
「さて、どの辺を狙おうか。あまり蔵書を傷つけたくはない……自分から出てきてくれると楽なのだがね!」
キング・ブレインのつぶやき。そこでジノーヴィーは閃いた。出て行くとしよう。
「お望み通り、出てきてやったぜ」
「おっ、勇気あるものよ! 勇気と蛮勇は違うということを教えてやろう!」
「へぇ、どうやってだ?」
「こうやってだ……ほら本棚がバーン!」
一瞬にして飛んでいく本棚。
ジノーヴィーはかろうじて回避し物陰に隠れるが、その動きをキング・ブレインはしっかりと見ていた。
「ブレブレブレ、その動き覚えましたよ! 次は当てる!」
「そうか、だがその前にこっちが一撃、加えさせてもらうぜ」
「なんとっ!?」
銃声がキング・ブレインの背後から響いた。
銃使いらしき猟兵の位置は把握していたはずなのに。誰が撃ったというのだ……?
「むむ、あれは偽物か! ポケットの妖精さんがいません!」
そう。先ほどから彼と話していたジノーヴィーは『分身使って楽する(ブンシンツカッテラクスル)』によって作り出されたもう一人の自分。
だが当然ながらアイシャの分身まではつれていなかった……それを見逃していたのだ。
「我輩としたことがなんたるミス! でも紛らわしいからまずは分身から消しちゃおう!」
既に覚えた癖をつき、生やした触手が分身を襲う。一発、二発。追い詰めたところで、とどめの一撃だ。
「だめ、やらせません!」
「アイシャ!?」
が、そこで先ほどとは違う不思議な現象が分身を守った。
アイシャが指差し、作り出した盾。そして振るったワンドが、触手の狙いを僅かに狂わせたのだ。
「おっと、そこに居たか本体! 隙を見せるとは余裕のつもりかな?」
「ちっ」
キング・ブレインは甘くない。衝撃波の出所を瞬時に察知し、触手を差し向けたのだ。
姿を消したまま、駆け抜けるジノーヴィー。
アイシャも迫る攻撃へ向けて力を放つ。
中の本をぶちまけながら図書館の本棚が倒れた。
「んー、本体と分身って癖が違うのか。妖精の援護も効いていたし、外してしまった」
見えない敵を追うのはキング・ブレインであっても容易ではない。
彼らを追うより、他を優先した方がいいかな、と彼は背を向けた。
その姿を、糸で本棚を引き倒した九十九が目線だけで追う。
「……」
二人の無事を確認すると、彼は何も言わず糸を念動力でたぐり寄せた。
一方、かろうじて危機を脱したジノーヴィーは。
「アイシャ……なんであんなことを?」
敵が狙っていたのは分身だ。分身が傷ついてもこちらにはなんの影響もないというのに。
「だって、分身さんでもジノはジノだもの」
傷つくところ、見たくないな……というつぶやきに得心がいった。
「俺の分身にまで気を遣うなんてアイシャは優しいなぁ……。分身も喜ぶぞ」
「いやぁ、こうして連携されると相乗効果が出るもんだね。ではその絆を断ち切らせてもらおう!」
ここでキング・ブレインは作戦を変える。
背中の羽根を震わせ、奇怪な音を立て始めたのだ。
「ブレブレブレ! いかに猟兵といえど、このモスウェーブが持つ催眠電波には抗えん! 姿を消しても関係なし! おやすみなさい!」
「くっ……」
強烈なエネルギーが猟兵たちを襲った。
幸いにして射程はさほど長くないようだが、こうなると触手が厄介だ。狙い通りに分断されてしまう。
「まずいのー。これでもういっかい狙われたら避けきれんわー」
「参ったな。流石に近づけねぇとなると」
「ブレブレブレ! 無理に懐に入り込もうとしてはいけませんよ! ところでさっきの絆を断ち切るって、大首領らしいと思いませんか!」
「うおっとぉ!? どーすんのよ、これ!」
「うう……ジノ、大丈夫?」
「アイシャの子守歌とは全然違う……きついな、これは」
侵略蔵書の力は驚異的だ。687冊もある中でこの組み合わせを選んだのは正解であったと言えよう。
しかし、忘れていないだろうか。大全集に納められているのは、怪人のデータなのだ。
怪人は正義の味方と戦い敗れるもの……故に。
「怪人にはさぁ! 弱点ってものがあるんだよねぇ!」
叫びながら、ライカは勢いよく自らの胸にジギタリスのエキスを打ち込んだ。
一瞬の静寂。その顔に浮かぶのは狂気的な笑み。
瞳の焦点は定まらず、何を写しているのかわからない。
だが、心臓に届いたエキスは、その心臓の代わりとなったメガリスを突き動かし、全身に電流を走らせた。
「催眠電波は電流でかき乱すんだあははははは!」
「なんですとぉ!?」
狙い通り。催眠電波をものともせずにライカはキング・ブレインへと向かっている。
「しかし、そんな状態で我輩と戦えるとは思えんな!」
振り上げた触手が彼女を狙い、腹の顔が首をもたげた。
「この距離ならばかわせまい! お別れです!」
「響く雷鳴は弔いの鐘――」
「ぬうっ!?」
懐に入り込んだライカを、キング・ブレインは捉えたはずだった。
しかし、瞬時に彼女はかき消え、その姿を見失う。
「バカな、どこに?」
「オアアアアアアアアア!」
叫びが聞こえたのは、背後からだった。
雷を纏ったライカの一撃が、電波怪人・モスウェーブの羽根を引きちぎったのだ。
「ぬおおおおっ!?」
「フォーミュラー用の切り札だけど、オマエにも効いたみたいだねコレ!」
『其は組み鐘を鳴らす者(ジャイアント・キリング)』!
力に差があればあるほどに出力が増す、黄金の雷光である!
「強いんだね……でも、わたしもその分もっと強くなるんだぁははははは!」
羽根が失われると同時、催眠電波の耳障りな音がかき消えた。
「やってくれたな! しかし、この程度で我輩を倒したとは思わないでいただきたい!」
「待ちな、キング・ブレイン!」
状況は猟兵側に傾きつつあったが、それでもキング・ブレインの力は底が知れない。
カイムはその眼前に立ち塞がり、こんなことを口にした。
「なあ、あんたここまでいいところ無しだ。プロモーションにするんだろ? 協力するぜ」
「いいところ無しとは失礼な! だが協力するとはどう言うことですか!」
実際、ここまでキング・ブレインが怪人の心に訴えかけるシーンを撮れているかは怪しい。
彼もそれに気付いているのか、カイムの言葉に耳を傾けてしまう。
「俺は動かねぇし、躱さねぇ。必殺の一撃で格好良く決めてくれよ」
「なんと、そのようなことを……」
コートに手を突っ込んだまま、仁王立ち。間違いなく罠だ。裏がある。
しかし、キング・ブレインとて自らの力には自信がある。
罠があろうと食い破る。それも怪人にいいところを見せるポイントではなかろうか……。
「……いいだろう、その喧嘩、買った。後悔しても遅いぞ!」
そこからの判断は速い。有無を言わさず伸びた触手が、一斉にカイムへと伸びた。
「やれやれ……台本通りとはいかねぇみたいだな」
しかし触れた端から紫電の魔力に、焼かれ彼に触れることは叶わない。
その足は根を張ったように動かず、ただ立っているだけだというのに!
「なるほど、誘いの理由はそれか。しかしそれほどのパワー、身動きはとれまい!」
『汝、恐れを知らず(ドレッド・ノート)』。
紫電の魔力が全身を覆う。
絶対無敵のエネルギーがキング・ブレインの攻撃を阻んだのだ。
「それならばやりようはある! 弱点を晒すとは、甘いですね!」
「いや、そうでもないぜ。カメラがあるなら止めるのをお勧めする」
そこでカイムはにやりと笑った。どこからその自信が来るというのか。
防御そのものは破れなくても、対処する方法ならばいくらでもあると言うのに。
「──負けそうになるダサい姿、残したくねぇだろ?」
「協力するといっておきながら……嘘つきは猟兵の始まりですよ! カメラは止めない! 撮影は続ける!」
そこで一度キング・ブレインは飛び退り、巨体で床を踏みならす。
触手が襲い続ける限り防御は解除できない。
いかに無敵であろうと、足場を崩してしまえば――
「二人目、お別れです! お疲れ様でした!」
「わたしはまだお帰りの時間ではありません! と、シエナはお友達候補に飛びつきます」
「なんとっ!?」
が、そこに乱入する者がいた。シエナだ。
先ほど触手でなぎ払った一撃には確かに手応えがあった。こんなに早く戻ってこられるはずは。
「もっと仲良くなりましょう! と、シエナはお友達候補との交流を始めます」
「あががががっ! なんですかこれは!」
シエナは、先のやりとりの中。既にユーベルコードを発動していたのだ。
それは『ジュリエッタ・リーレイの願い(カコノショユウシャノオンネンタチノヨウキュウ)』だ。
『お友達』となるためならば、あらゆる行為は彼女の力となる。
膨れ上がった怪力と魔法のお薬がキング・ブレインの動きを抑え、致命的な隙を作り出す。
その様子に、カイムは苦笑した。
「言ったろ? カメラは止めとけ、って」
「ぬううううっ!」
防御を解いた彼は、顕現させた神殺しの魔剣を触手に叩きつける。
「それ、ぼやぼやしてると足がなくなっちまうぜ?」
「いかん、これでは!」
「さようなら、かわいい怪人さんの頭。 とシエナは手を振ります」
ぼたり、と地面に落ちた10本の触手と腹部の顔は、シエナの薬によって何処か遠い世界へと旅立った。
「流石にこれは予想外! 次なるスーパー怪人大全集を用いなくては!」
羽根、触手、腹の顔。それらを失ったことでキング・ブレインはもとの姿へと戻っていた。ノーマルキング・ブレインである。
しかし、ふたたび侵略蔵書を用いればパワーアップは容易い。
先ほど放り投げたままの本棚へと、その身を滑り込ませる。
「……ん?」
しかし、何やら違和感がある。納められた本は全687巻。その数に間違いはないようだが……
取り出した一冊を眺める。何かがおかしい。
「これは……偽物!」
そうなれば、本棚を投げたときに近くに居た猟兵が怪しい。分身のジノーヴィーではないだろう。晶か、メイスンのどちらかだ。
慌てて辺りを見渡せば、視界の端には、晶と、彼女から本を渡される十六夜の姿があった。
「しまった、気付かれたみたいだよ!」
晶は、先の攻防の際に『複製創造(クリエイト・レプリカ)』を用いてスーパー怪人大全集の一部を偽物とすり替えていたのだ。
曰く、「いつの間にか同じ巻が被ってるのって怖いよね」とのことである。
「そりゃーバレるよな。コレクターって怖いからなー」
受け取った数冊を懐に入れ、十六夜が笑う。
「なんということを! 返せ、我輩のコツコツ集めたスーパー怪人大全集(全687巻)を!」
「返して欲しかったら捕まえて見せなよ!」
「追いかけっこの始まりだぜ!」
こうなっては戦いよりも優先するべきものがある。本棚を連れ、キング・ブレインは二人を追う。
体を宙に浮かべ、ワイヤーガンも用いて立体的に動き回る晶と、ちょこまかと物陰を潜り抜けながら逃げる十六夜。
どちらの動きも、本棚を用いて既に確認している。まずどちらを狙うべきか……
「我輩は紳士! と、言うわけでお前だー!」
「うおおおおおおっ!?」
バーン、という音と共に本棚が直撃する。
図書館の壁を蹴って上階に上がろうとしていた十六夜に生まれた一瞬の隙。そこを突いたのだ。
猛烈な一撃に空中で逃げ場のなかった十六夜は吹き飛び、くるくると回転しながら宙を舞った。
「やれやれ、これで本物を回収できますね」
まずは本棚を……と思ったところで異変に気付く。
投げた本棚が、十六夜に命中した位置から動いていない。宙に浮いたままではないか。
「……見事だ」
そこにいたのは九十九だった。宙に浮かんだ本棚の上で目を伏せる。
「僕にかかりゃー、これくらいはのー」
「助かった。こうでももしなければ、操り糸でも捉えきれなかったからな」
メイスンが十六夜を誘導し、九十九の糸が本棚を捕らえた。
脳から出るビームはあるが、キング・ブレインの特殊能力はこの本棚に依存する。それを封じる必要があったのだ。
「何であれ、何らかの物品を破壊するのは心が痛む」
「なに!? 待ちなさい、一体何をしようというのだ!」
道具そのものにも、知識にも、本来善悪などは関係ないのだ。然し。
「悪しき使い途をされるだけの物ならば、壊すこともやむなし」
「それは貴重な……うおっ!」
「やらせないよ!」
キング・ブレインには九十九が何をしようとしているのかわかった。
止めようと動こうとするが、先のシエラの薬で動きは鈍っており、さらに晶のガトリングガンから放たれた銃弾が降り注ぐ。
「貴様の叡智も、同様に始末させてもらう」
糸を支えに、九十九が本棚へと腕を突っ込む。そして。
「……せめて、おれの腕を餞としよう」
左腕を切り離した。
「ぬおおおおおっ! やらせるかーっ!」
間に合うか。どのような妨害を受けようとあれを失うわけにはいかない。
駆け出し、本棚に手を伸ばした、その時だった。
「大事な蔵書なんだろ! お返しするぜ!!」
本棚がキング・ブレインに向かって吹き飛んできたのは。
囮となって本棚の一撃を受けた十六夜は、身代わりの護符でかろうじてダメージに耐えきっていた。
「うおおおおおおっ!?」
しかし勢いまで殺せたわけではない。
そのまま体は吹き飛び、大図書館の天井にも届こうとしていた。
が、彼もしぶとい。
見つけたのだ、その勢いを活かしたまま、元の場所へと戻る手段を。
「そりゃーっ!」
ぐるん、と一回転。細い柱に手を伸ばして、運動エネルギーのベクトルを変換する。
これほどまでの勢いで飛んできたのだ。これを丸ごとたたき込んでやれば……
「よく分からんが、使えるもんは使わせてもらう……!」
片足へとエネルギーが収束する。
狙い通りに、十六夜は本棚へと舞い戻る。
キング・ブレインが本棚めがけて駆け寄る姿が見えた。
「大事な蔵書なんだろ! お返しするぜ!!」
「ぬおおおおおっ!」
本棚の質量と、十六夜が返した運動エネルギーをカウンター気味に喰らったキング・ブレインはその勢いに耐えられない。
図書館の、壁の本棚に打ち付けられ、追撃の、彼自身の本棚がその体を押しつぶした。
「がっ、がはっ……」
「……それで、終わりではない。せいぜい悪く思え」
そして、本棚に収められていた九十九の義手が爆発を起こし、赤い炎と、煙が辺りを包んだ。
「許されない……貴重な書物に手を出すとは。裁判所に訴えます! 覚悟の準備をしておいてください!」
「……何を言っているのだ」
これほどの攻撃に晒されながらも、キング・ブレインはいまだ健在。大首領を名乗るからにはしぶとくなくてはいけないのか。
そのダメージは少なくない。いかな猟書家といえど、ここからの逆転は難しいだろう。
「『お友達』候補、もっと遊びましょう? とシエナはお誘いします」
「へへっ、ご自慢の本棚と蔵書の重みは効いたろ?」
「でも良かったね。本棚から出しておいたおかげで、無事な侵略蔵書も残ってるよ」
「……しかし、お前がそれを手にすることは叶わない」
「わたしたちがオマエをぶっ壊しちゃうからね」
「プロモーションはうまく撮れたか? 俺たちの活躍のな」
「やっぱり奇怪な趣味をもっとったようじゃのー」
「そろそろ終わりにしようぜ」
「キマイラフューチャーの世界征服なんて、させません」
猟兵たちは集い、戦いの終焉へと武器を取る。
「……かな」
その目の前で、キング・ブレインはブツブツと何かをつぶやく。
スーパー怪人大全集を封じられ、本棚も爆破された彼に、残されていた切り札。
ここまで一度も使用していないからこそ、ここで効いてくる。
「ブレブレブレ! 勝ったと思ったときが一番油断! くらえ、脳ビーム!」
脳から、光が溢れ出す。
猟兵たちめがけて放たれたビームは、全員を呑み込む……
「ま、それでくるのは当たり前じゃよなー」
事はなく。
メイスンが開いた設置型電脳窓へと吸い込まれていった。
これは『隠れ家への小道(ホーム・アンド・ウィンドウズ)』。
触れたモノを電脳空間へと送り込み、そして。
「電脳空間にはこういう使い方もあるけーのー」
キング・ブレインの頭上に開かれた電脳窓からそのまま飛び出した。
「あガッ! アガガガガッ!」
まさか脳ビームを自ら受けることになろうとは。
暴走するかしこさが周囲の全てを解析する。
「だが、ピンチはチャンス! このかしこさで汝らを葬ってくれよう!」
キング・ブレインほどの頭脳をもってしても、この暴走するかしこさには長時間耐えられない。
だが、短時間ならば。高速化した頭脳は状況全てを把握し、猟兵たちを打ち倒すことも不可能ではない!
「覚悟しろ、まずは……」
「…………心するが良い。数だけは、多いぞ」
が、そこで九十九が自身の人形を大量に複製した。『偽・百鬼夜行(ヒャッキヤコウ)』によって作り出されたその数、66体……!
「僕も続くけーのー」
続いて、メイスンもホログラムを大量に投射。ここに集った猟兵、全員の姿がキング・ブレインを取り囲む。
「ぬ、ぬおおっ」
暴走した脳は『見逃す』事ができず、全ての情報を取り入れてしまう。
ただでさえ負担が大きいのに、これでは持たない。
が、そこで気付いた。この状況を覆す侵略蔵書がまだのこっている事に。
散らばった蔵書をかき分けて目的の巻を見つけだし、手に取る。
「これだ! スーパー怪人大全集、ラビットバニー!」
かつてバトル・オブ・フラワーズで現れたこの怪人の、絶対無敵バリアならば。
「さらにウィンドゼファー、エイプモンキーだ! ブレブレブレ! 強いゾーカッコいいぞー!」
しかし……
「残念、それはどれも偽物の本だ!」
「ば、バカなぁぁっ!」
「大事な蔵書くらいちゃんと覚えておけよな!」
元々高い知性を持っていた故なのか。その混乱はすさまじい。
うろたえる姿に、哀れみを覚えないでもないが……
「……容赦はできん。悪く思え」
九十九は分身と共に、絶え間ない攻撃を加える。
車懸りの陣がキング・ブレインの体を踊らせ、その体を揺るがせた。
「俺の事は悪く思うなよ。これも仕事なんでな」
「どうか、安らかに……」
できた隙にジノーヴィーはダガーを突き立て、アイシャは祈る。
「がはっ……」
「終わりにする……ラアアアッ!」
「悪いな、怪人は負けるからこそ怪人なんだぜ」
ライカの拳が脳を揺らし、紫電を纏ったカイムの魔剣がその身を裂く。
「……『お友達』、また遊びましょう、とシエナはお別れのハグをします」
そして、シエナのハグがキング・ブレインの体をへし折った。
「ブレブレブレ……よくぞ我輩を倒した……だが、人の心に闇がある限り、我輩は滅びはしない……」
崩れ落ちたキング・ブレインは正気を取り戻したのか、彼らしい口調で最後の言葉を残す。
「またお会いしましょう! アディオス! サヨナラ!」
それと同時、すさまじいエネルギーが彼の体内から溢れ出し、爆風が世界征服図書館に広がった。
風がやんだ後に立っていたのは、猟兵たちだけであった。
大成功
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