迷宮災厄戦⑪〜怨念 the end
●戯れの末路
オウガ・オリジンはかつて、忠臣であった『鏡の女王』を殺めたことがある。
鏡の女王が叛旗を翻したから――等というご大層な理由は、そこにはない。
ただ戯れで、殺めたのだ。
哀れ忠臣、鏡の女王。
然してこの国には、鏡の女王の怨念が満ち満ちた。
●怨念 the end
「まぁ、女王サマの恨み辛み嫉みが味方してくれるってわけじゃあないのかもしれないけどさ」
切り出す連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は、いつも通りに楽天的に笑う。
「この真実を告げる鏡の間……ああ、間とは言うけど、不思議な国のひとつね。とにかくこの国にはあちこちに『真実の鏡』が生えてるんだよ。そりゃもう、にょきにょきっとね!」
真実の鏡だから、問えば真実を答えてはくれるんだよ、と希夜はあっけらかんと云う。
「ただし、この国の内部のこと限定だよ。決して万能じゃあない。例えば、敵の位置とか死角とか、ユーベルコードの弱点とか。そんなとこ」
そんなこと、と希夜は評しはしたが、それはオウガにとっても同条件。
猟兵を尽く屠らんとするオウガは、例え猟兵が物陰に息を殺して潜んでいようと容易く見つけ出し、弱点をついて攻撃をしかけようとするだろう。
上手く使われては厄介この上ない真実の鏡だ。
「単純明快な頭脳戦、だよね。オウガを上回ることが出来たら、みんなの勝ち」
とんとん、と指先でこめかみのあたりをつついた希夜は、茶化すようであり、警告するようであり、鼓舞するようでもあり。何れにせよ、送り出す以上、猟兵たちの勝利を勝手に信じていることだけは間違いない。
「お誂え向きなことに、おどろおどろしい切り裂き魔が今回のターゲットだよ。戦場は林みたいに色んな形の鏡が乱立してるとこ。ま、なんとかなるって」
最後はいつも通りに責任の所在が不明な希望で締めて、希夜は「がんばってね~」とお気楽に手を振った。
七凪臣
お世話になります、七凪です。
迷宮災厄戦シナリオ、お届けします。
●プレイング受付期間
受付開始:OP公開時点より。
受付締切:マスター個別ページ内【運営中シナリオ】にて受付締切のご案内を出します。
(受付期間外に頂いたプレイングは一律お返し致します)
●シナリオ傾向
頭脳派純戦系(文字数はいつもよりやや少なめを予定)。
●プレイングボーナス
鏡に有効な質問をする。
●他
シナリオ完結を最優先としますので、採用はシナリオ完結に必要な最小数になります。
プレイングの再送をお願いする事はありませんが、作業方針やグループ参加についてなどは個別ページの【シナリオ運営について】に準じますので、事前にご一読頂けますと幸いです。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 ボス戦
『切り裂き魔』
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POW : マッドリッパー
無敵の【殺人道具】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : インビジブルアサシン
自身が装備する【血塗られた刃】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 殺人衝動
自身が【殺人衝動】を感じると、レベル×1体の【無数の血塗られた刃】が召喚される。無数の血塗られた刃は殺人衝動を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
早臣・煉夜(サポート)
どんな方だろうとも、容赦なんてしませんですよ
僕はそのために作られたんですからね
妖刀もしくはクランケヴァッフェを大鎌にかえて
それらを気分で使って攻撃です
妖剣解放を常時使用して突っ込みます
使えそうならアルジャーノンエフェクト
怪我なんて気にしません
この身は痛みには鈍いですから
死ななきゃいいんです
死んだらそれ以上倒せなくなるので困るです
僕は平気なのですが、なんだかはたから見たら危なっかしいみたいですので
もし、誰かが助けてくださるならお礼を言います
ありがとーございますです
勝利を優先しますが、悲しそうな敵は少し寂しいです
今度は、別の形で出会いたいですね
なお、公序良俗に反する行動はしません
アドリブ歓迎です
●極めてシンプルに
紫を帯びるようにも見える、華やかなピンク色の瞳が大きく見開き煌めいた。
「わー、すごいですね。沢山ですね。本当に鏡ばっかりですねー」
手近な鏡へ駆け寄り、くるりと周囲を眺めてまわり。そうして上げたはしゃいだ声は、 新しい玩具を与えられた子供のようだ――しかし齢十四の早臣・煉夜(夜に飛ぶ鳥・f26032)は、子供のようでただの子供ではない。
一頻り観察を終えて満足したのか、煉夜は真実の鏡の正面に立つと、迷いなく端的に言い放った。
「敵の弱点を教えて下さい」
煉夜は自身を、オブリビオンを狩るために調整された近接戦闘型個体だという。
つまりどれだけ幼く振る舞おうと、煉夜が目的を見失うことはない。
――一手が軽い。
「なるほどー」
煉夜を映す鏡が発した言葉は、仰々しさとは程遠く、簡潔に過ぎた一言だった。けれども、煉夜にとってはこれで十分。
一手が軽い、ということは、即座に致命傷を受けることはないということだ。
怪我を気にする煉夜ではない。幸か不幸か、煉夜は痛みに疎く造られた。
(死ななきゃいいんです」)
頬を弛めた煉夜は、怨嗟がからみつく刃を鞘から抜く。怨念に満ちた戦場には似合いの得物だ。だが、形状はもっと相応しいものがある。
「それじゃあ、行きましょう」
掌に注いだ意思に、刀の輪郭が溶けて大鎌のそれへと転じる。そして煉夜は駆け出した。
気配を隠すつもりもない煉夜に、オウガはすぐに気付くだろう。先手は取られるだろうが、索敵の手間が要らないのはありがたい。
(「要は、死ななきゃいいんです。死ななきゃ。だって死んだらそれ以上倒せなくなるので困るです」)
胸中であっけらかんと繰り返し、煉夜は鏡を掻き分け直走った。時折、小さな鏡を足場に跳ねもした。
目立って、目立って、目立って、目立ち。結果、思惑通りに煉夜は血濡れたナイフのダンスに巻き込まれた。
「見つけました」
右頬を、刃が引き裂く。左肩を、穿たれた。右腿、腹部、背中と絶え間なくナイフの嵐が吹き荒れる。されど同時に、煉夜はオウガ――切り裂き魔を視認した。
あとは正面突破あるのみ。
斬られる、突かれる、穿たれる。都度、鮮血が溢れて煉夜の軌跡を朱に染める。
だが、それだけだ。致命傷には至らない。至るより早く、煉夜の刃が切り裂き魔に届く。
「お返しですよ」
降り抜く黒は、月齢3の刃。煉夜の命を喰らって閃き、衝撃の波を放つ。
血濡れのナイフの猛攻さえ押し返す一撃に、切り裂き魔の鋼の指が数本飛んだ。
成功
🔵🔵🔴
榎本・英
嗚呼。これが真実の鏡
私は逃げも隠れもしないよ
するだけ無駄と云う奴だね
私と勝負をしようか
そうだね、まずは君の事を聞こう
切り裂き魔はどんな武器を使い、何処が弱点なのかな
私の武器は筆だよ
文字を書く者を知っているかな?
私はそれでね、筆で文字を書き、綴る
ほら、このような万年筆でね
此方は私の著書さ
弱点という弱点は、私が人である事かな
私だけが知って、君だけが知らないと言うのは無礼だろう?
私が明かすのは武器と弱点だけだ
手の内は戦う時に知れるだろう
筆は糸切り鋏
君は、嗚呼。綴るまでもないね
君の血濡れた刃は私のやり口に良く似ている
私は人だ
しかしだね、人は誰よりも弱くて、誰よりも強い事を知っているかい?
●人と人ならざるもの
榎本・英(人である・f22898)が最初に目にしたのは、見てくれはよくある姿見のそれだった。
十歩も行けば、異国の城の壁にかかっているのが似合いな、花の彫刻に縁どられた楕円のものもある。首を左右に振ると、さらにたくさん。
しかし英は邂逅の運命を疑わず、縦長の鏡をしげしげと見入る。
出逢いには、意味があるのだ。例えなくとも、見い出すのが物書きの性。
「嗚呼。これが真実の鏡」
鏡面に映し出された男が、眼鏡のつるへ手を遣っている。他でもない、英自身の姿だ。けれどどことなく表情に乏しい気がした。気のせいかもしれないが。
ともあれ英は、物語に聞いた真実の鏡の前から微動だにしない。
どうせ居場所は知られてしまうのだ。逃げるつもりも、隠れるつもりもありはしない。
(「するだけ無駄と云う奴だね」)
知らず、ククと喉が楽し気に鳴った。話の種は幾つあっても良いが、戦いの手数は少ないに限る。
オウガがこちらを探すというのなら、探させれば良い。さすれば此方が探す手間が省ける。
然して英は、鏡へ語り掛けた。
「ねぇ、私と勝負をしようか」
鏡像が、同じリズムで口を開いて、閉じる。
「そうだね、まずは君の事を聞こう」
――切り裂き魔はどんな武器を使い、何処が弱点なのかな?
問い掛けに、鏡像の輪郭が揺らぐ。興味深い変化だ。だが内心の興味を穏やかな笑みで隠した英は、手を差し入れた懐から一本の筆を取り出した。
「ご覧、これが私の武器だよ。筆と言うのだけれど、知っているかな? 私はこれで文字を書くんだ」
もちろん、ただ文字を書くだけではないよ、と英は続けて万年筆と本も鏡に晒す。
「筆や、このような万年筆でね、文字を書き、綴る。そうして物語を記すんだ。ちなみに此れは、僕の著書さ」
雲の端のように揺らいでいた輪郭が、水に垂らしたインクのようにじわりと溶けて滲み、新たな姿を構築する。
「そうそう。弱点という弱点は、私が人である事かな」
筆や万年筆は人ではないよと言い足す英の思惑は、ただひとつ。
自分は知るのに、知られないというのは無礼だと『誰か』に知らしめるため。覗く鏡の向こうで、覗く誰かに。
狂ったように血濡れたナイフを躍らせるオウガを、英は冷めた目で見る。
切り裂き、命を散らすことしか頭にない異形の攻撃は、考えようによっては素直ともとれ、英には軌道が読み易すぎる。
――得物はナイフ。
――弱点は、狂気に憑かれていること。
明かした分だけ――偶然かもしれぬが――齎された五分の情報だけで、切り裂き魔の挙措のおおよそを英は知り得た。
何故か? 遣り様が、酷く自分のそれに似ていたからだ。
「君は、嗚呼」
今までに浴びたろう朱を全身に散らす切り裂き魔。ただ殺める為にだけある、歪みきった存在。
「綴るまでもないね」
英の興味は既に絶たれていた。後は終焉を呉れるだけ。
「私は人だ」
襲い来る無数のナイフを筆であり糸切り鋏でもある得物で払い落とし、英は鋼の指が欠けたオウガの懐へ滑り込む。
「しかしだね、人は誰よりも弱くて、誰よりも強い事を知っているかい?」
『 』
鏡像ではなく、実体である切り裂き魔が闇の洞の如き口を大きく開けた。反論でも試みるつもりだろうか。しかし過去の産物である魔へ英は隙を与えず、綴らぬ文字の代わりに筆を口へと捻じ込み、成長し得ぬ人ならざるものの喉を切り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
ユルグ・オルド
反対なんだか真実やら、ッと
鏡よ鏡、……なんだっけ
遊びたがりはすぐでて来るかい
こんだけ鏡があるとまァ隠れんのも遣りにくい
とはいえこんだけ遮蔽物があると見通せないッて
映る視界の影を窺いながら
そうネ、鏡サンおしえてくれる
俺が振り返って振り抜くべきまでどっちの方へあと何秒
いらえて数えれば躊躇なく
後は腕の見せ所ッてな
その軌道を紙一重で見切るなら
アア多少はくれてやったって
熄でもって振り抜いて
振りかえんのが見抜かれてようと
倒れンの見るまでは詰める気だとも
鏡面一つも砕ける頃にゃ、多少は怨みも晴れるかい
●銀色
降り立った地にユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)の口からは短い溜め息が漏れた。
銀色が林立する様は、壮観というより呆れが先行する。
「反対なんだか、真実やら、ッと」
鏡の鏡面は銀色だ。そして銀色と言えば、剣の刃もそう。
(「そういや、磨いた刃は鏡みたね」)
己の本体であるところのシャシュカをよくよく数多複製するユルグだ。重なる光景に、口の端が皮肉めかしてツと上がる。
しかし其れは其れ。此れは此れ。
「えぇと。鏡よ鏡、……なんだっけ」
特にどれかを択ぶでなく、手近な鏡の前にひょいと立ったユルグは、よくあるフレーズを反芻しながら鏡面を覗き込んだ。
映っているのは、身だしなみを整える際にもよく見る顔だ。気になることといえば、髪を結い留める紐が若干乱れているくらい。
跳ばされる最中にほつれたのだろう。紐に手をやり、ユルグは軽く整え直す――フリで一帯の影を意識に取り込む。
はてさて、遊びたがりの切り裂き魔はすぐに出てくるだろうか。
(「こんだけ鏡があるとまァ、隠れんのも遣りにくい」)
切り裂き魔とは、往々にして影から不意に襲い掛かってくるもの。この国はあまりに遮蔽物が多すぎる。つまり敵は隠れ放題。此方は狙われ放題。
故にユルグは捕捉できる影全てを意識する。意識しながら、真実を語るという鏡と戯れる。
「そうネ、鏡サン。おしえてくれる」
慣れぬ言い回しを、自分なりに言い直し、ユルグは胸像の額を指先で突いた。
「俺が振り返って振り抜くべきまでどっちの方へあと何秒」
くつ、と。音ではなく口許で、鏡像が笑う。まるで『よくできました』とでも言いたげな表情だ。
だからユルグは――、
『右手に六秒』
「!」
端的な応えに、即座に駆けた。
(「イチ」)
(「ニ」)
(「サン」)
(「シ――」)
きっちり数えた五秒の後に、ユルグは足を止めて身を捻る。
情報は貰った。ここから先は自身の腕の見せ所だ。
姿勢を整えるよる僅かに早く、右肩を偃月刀が掠める。コンマ一秒でも遅れていたら、首を持っていかれたに違いない。
紙一重の衝撃に、結い直した髪紐が裂けて乱れた。だがその落ちゆく軌跡さえも、敵の位置を正確に知る為の情報のひとつ。
殺意漲る偃月刀の襲い来た角度と、髪紐の軌跡と。そして意識下の影と。それらを一秒で統合し、ユルグは月をも砕かんとする刃を振り抜く。
「――王手、」
数え切れない銀色の中に新たな閃いた銀色は、おどろおどろいしいシルクハットを飛ばして頭蓋を割った。
静寂までは今暫し。
悟った不利に踵を返す鬼を追いつつ、ユルグは想う。
尽くした主に、戯れで殺された嘗ての鏡の女王の胸中は知る由もないが。
(「鏡面一つも砕ける頃にゃ、多少は怨みも晴れるかい?」)
銀色数多。
どうせ見るなら、砂上に楚々と佇む澄んだ銀月あたりが良いだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
アウグスト・アルトナー
「切り裂き魔が持つのは『血塗られた刃』ということは、既にどなたか殺されていますか?」
まずは、鏡に尋ねましょう
敵が現れ次第、【嘘から出た実】を発動します
対象は血塗られた刃です
前述の、質問への答えがYESであったなら
「殺されてきた犠牲者たちの【呪詛】の重みが、この刃の動きを止めるんですよ」
NOなら
「誰も殺していないのに、切り裂き魔を名乗られるとは。これから先も、誰も殺せないに違いありません」
以上の虚言を放ち、無数の刃の動きを止めます
刃が止まっている間に切り裂き魔に近づきつつ、鏡に質問を
「切り裂き魔の急所はどこでしょう?」
拳銃『NIX-03MN』を【クイックドロウ】し、そこに【零距離射撃】します
●無色
からん、ころん、がらん。
手に提げた鉄籠の中で、三つのされこうべが仲良く鳴った。
何てことはない。大樹のようにすっくと縦に伸びた鏡に、三つ連ねた一番下の鉄籠がぶつかったせいだ。
「――父さん、」
母さん、兄さん?
小さな呟きの間だけ、アウグスト・アルトナー(永久凍土・f23918)の顔に微かな彩が浮かぶ。が、鏡と向き合う時にはそれらは無に帰す。
言葉なく、アウグストは数多ある真実の鏡のうちのひとつを見分する。
大きいばかりの、のっぺりとした鏡だ。常人であれば、これを敢えて選ぶことはないだろう。
しかしアウグストには問い掛ける鏡を択ぶのに、理由も拘りもありはしない。だから、これに尋ねる必要もない。されど尋ねない必要もない。
故に足が止まったのをきっかけに、アウグストは大きな鏡へ無感動に尋ねた。
「切り裂き魔が持つのは『血塗られた刃』ということは、既にどなたか殺されていますか?」
――否。
「 」
端的な答に、アウグストは背に負う四枚の翼を軽く羽搏かせる。飛ぶわけではない、目立つためだ。
案の定、彼方から殺気が迫る。
既に手酷く痛めつけられているらしく、随分と躍起になった殺気だ。一人か二人、道連れを欲しているに違いない。感情豊かな者ならば、鬼気迫る気迫に飲まれるおそれさえある。
けれども首を僅かに捻って殺気と対峙するアウグストは、僅かも揺れぬ。
「誰も殺していないのに、切り裂き魔を名乗られるとは。これから先も、誰も殺せないに違いありません」
――ぼくには、見えますよ。
そう前置いた辛辣な弁に、襲い来ていた無数の血濡れの刃が、ピタリと止まる。嘘から出た実――アウグストだけが持つ力の効果だ。
発動が一瞬でも遅かったなら、アウグストの全身は貫かれ、切り裂かれ、肉片をそこらに撒き散らしていたはずだ。一振りなぞは、アウグストの黒い眼の際まで迫っている。
それを手の甲で無造作に払い落し、アウグストは事態が呑み込めずにいる切り裂き魔を尻目に、今一度、鏡へ尋ねた。
「切り裂き魔の急所はどこでしょう?」
――赤き宝玉。
またしても端的な答に、アウグストの口許が僅かに緩む。やはりこの鏡にして良かったとでも思ったのかもしれない。
鋼の指を手折られ、喉を裂かれ、頭蓋まで割られた鬼の懐へ、アウグストは音もなく滑り込む。
「、!!」
歪な奇声を発して切り裂き場が鑪を踏むも、今さら我に返ったところで遅い。
六花咲く銃を構えて撃つまで、アウグストが要する時間は一秒と少し。
切り裂き魔の胸元を飾る宝石に押し当てられた銃口は静かに火を吹き、赤々と燃える命へ消せぬ罅を深々と刻んだ。
大成功
🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
真実の鏡も斯様に在っては最早滑稽だが
鏡の女王の置き土産
存分に活用させてもらおう
堂々と鏡の国を闊歩
殺人鬼から襲いに来れば手っ取り早い
――鏡よ、鏡
切り裂き魔が姿を隠して攻撃する際
如何様な位置を陣取るか、教えておくれ
敵の位置は都度確認、不意打ちに警戒
宝石を用いて地雷原の生成も容易い
故に易々と姿を見せたりしない筈
聞き耳で物音一つ逃さず
襲い来る刃は杖で軌道を逸らし
高速詠唱の【女王の臣僕】で活動停止を試みる
この身を砕かれようと痛くない
…ふふん、漸っと御出座しか
罠に掛かれば多重詠唱を発動
蝶の群れを鏡が教えた範囲まで展開
氷の棺を、貴様に贈ろう
序でに美味い宝石も呉れてやろうか?
醜悪な口へ、触媒たる宝石を放らんと
●the end.
息を殺す気配に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は不敵に笑った。
(「上手く隠れているではないか」)
肌にびりびりと共鳴するほどの殺気が満ち満ちているというのに、肝心の出処は掴めない。かなり慎重になっているのは、ここまでよほどこっぴどくやられたからか。
だからせめて、と鬼の意識が自身に注がれているのを、アルバはまざまざと感じている。
(「愚か者め――」)
ククク、と嘲りを歌いたがる喉を、アルバは懸命に押し留めた。叶わぬ大望を抱いたことを後悔させるには、際まで思惑通りに事が運んでいると認識させるに限る。
そも、始まりからが『罠』なのだ。
最早滑稽ともいえるほど『真実の鏡』で溢れかえった国を、アルバは『これでもか!』と胸を張って堂々と闊歩した。
歩く貴石であるアルバだ。その魅力的な煌めきは、鏡を幾重にも反射し、遠くまで届いただろう。
美しいモノは、往々にして儚く脆い――というのは勝手なイメージだが、そのイメージこそアルバ自身を極上の餌として、狂気に憑かれたオウガに認識させる。つまり探さずとも、あちらから勝手に現れてくれるというわけだ。
あとは微に入り細を穿って待ち構えるのみ。
――鏡よ、鏡。
――切り裂き魔が姿を隠して攻撃する際、如何様な位置を陣取るか、教えておくれ。
余りの多さにありがたみは欠片もない鏡の女王の置き土産は、既に存分に活用済み。
(「まさかの背後とは、定石過ぎて面白味がないではないか」)
砂を噛む、或いは、臍で茶を沸かしそうな心地を味わいながら、アルバは後方で跳ねた宝石に、わざとらしく肩を跳ねさせた。
自身を中心にして、周囲には幾つもの宝石がばら撒いてある。アルバの魔力を通したそれらは、襲撃者を察して爆ぜる地雷原だ。
(「……右足」)
思わぬ迎撃にオウガが進路を僅かに変えたことを、アルバは耳で拾う。
(「……左足」)
慌てて馬脚を現さなかったことは、褒めてやっても構わないと思った。それほどに、アルバを美味い獲物と思い込んでいるのは哀れであったが。
(「右足、左足。右、左、右」)
徐々に早まるオウガの足に、アルバは気取られぬよう杖を握り直す。
そして――。
「――控えよ、女王の御前であるぞ」
背面から全面へ。アルバを絶対に逃すまいと展開された血濡れのナイフの群れを、アルバは杖一本でいなしながら高く唱えた。
「!!!!」
一瞬にして視界を埋め尽くした青に、切り裂き魔の瞠目が世に露呈する。
「……ふふん、漸っと御出座しか」
召喚した青き蝶の群れでナイフの猛攻を凌ぎつつ、アルバはこれみよがしに鼻を鳴らして振り返った。
鋼の爪が折られ、喉を裂かれ、頭蓋も割られ、胸に輝く宝石までも罅入れられた無様な鬼がそこに居た。その鬼は今、幻想が打ち破られた事に絶望している。
「彼の女王もまた、同様であったろうよ」
冷たい一瞥を星の眸で呉れてやり、アルバは先ほど招いた蝶が消えぬ間に再び唱えた。
――控えよ。
――女王の御前であるぞ。
決して戯れに屠られた女王に敬意を表しているのではない。ただアルバはアルバとして己の力を遺憾なく発揮するだけ。
冱てる鱗粉を放つ青い蝶が、高く広く飛んで征く。アルバを守るだけでなく、切り裂き魔を逃さず取り囲む範囲へ。
「氷の棺を、貴様に贈ろう」
立ち竦むオウガへ悠々と歩み寄り、アルバは麗しく微笑む。
「序でに美味い宝石も呉れてやろうか?」
そうして呆けた口へ、紅蓮の宝石をひとつ捻じ込んだ。
異物を迎えた異形の喉が、ゴクリと鳴る。嚥下された宝石が腹まで至れば、物語は終焉の時。
「――ふん」
既に興味は失せたとでもいうようにアルバが背を向けた刹那、切り裂き魔は内側から爆ぜて散り逝った。
大成功
🔵🔵🔵