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迷宮災厄戦㉕~寒気凜冽

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #ブックドミネーター

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 書架の王『ブックドミネーター』への届くところまで来た。
「この一戦が、大局にどう影響するか、話は聞いてる?」
 道は拓く――一本だけ折れた羅刹角を補完するようにグリモアが、藤色に輝き始める。
 書架の王いわく。

「私は強く、オウガ・オリジンは更に強い」
「何を守り誰と戦うか、常に考え続けるが良い」

 直々に「ゆめゆめ油断せぬよう」と忠告までした。
「それでも、これを野放しにしても良いって話じゃない」
 真剣に尖る紫瞳は、集まった猟兵を見渡した。
「だから、アンタらに決めてもらおうと思ったの――斃しに行ってくれる人は、いる?」
 ブックドミネーターは、すべての行動において、猟兵の先を行く。

 氷結晶を纏い己の力を底上げし、
 氷のオブリビオンを生成し、
 そうして傷を癒す――与えた傷はたちまちのうちに塞がれるだろう。

 猟兵を凌駕し、その能力を使ってくる。
 その対策もせず無鉄砲に向かっていけば、ただただ傷つくのみ。
「十二分に対策して。反撃の一撃は、そうしないと届かない」
 いかに防ぐか、いかに躱すか。
 その行動をやめさせることはできない。
「とても厄介な敵で、とても危険な場所で……いろんなしがらみもあるけど、でも、それでも、平和になったあの大地を、また戦火に落とすことはできない」
 これから先のことはわからないけれど、それでも猟兵が立つことで、危機が少しでも和らぎ遠のくのであれば――そうであると信じて。
 紫瞳は勝気に、気丈に僅かに笑んだ。
 すべてを託すよう、グリモアの欠片は一片残さず、煌然と、燦然とすべて輝き出した。
 志崎・輝(紫怨の拳・f17340)は、強く一度頷いて、猟兵たちの顔を見る。
「アンタらが頼りだ――武運を」
 繋がった先は、絶対零度の氷結世界――生きとし生けるものすべてを凍らせる、書架の王の御前。

●書架の王『ブックドミネーター』
 書架は凜冽として静まり返る。すべての音が凍り落ちてしまったようだ。
 王は泰然として座す。無謀にも現れた猟兵を睥睨して、嘆息すら隠さない。
「選択したか、六番目の猟兵達よ」
 凍てる赤瞳は敢然として尖る。かの大地の、まだ見ぬ「天上界」の地への道行きを阻む者どもを射抜く。
「愚か者どもめ――」
 すべての書の支配者は、頬をひくりともさせずに立つ。
「刻限だ」


藤野キワミ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「迷宮災厄戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
====================
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
(敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかが重要です)
====================
当シナリオは難易度相当の判定になります。その覚悟でいてください。
藤野キワミです。
よろしくお願いします。

プレイングは【OP公開直後】より受け付けを開始いたします。
受付終了は当マスターページおよびツイッター(@kFujino_tw6)にてお知らせします。

指定ユーベルコードと同じPOW・SPD・WIZにて先制攻撃を行います。
対策と指定UCのP・S・Wに矛盾のなきようお気を付けください。
技能の使い方は明確にプレイングに記載してください。
プレイングの採用の仔細、ならびに同行プレイングのお願いはマスターページにて記載しています。
そちらをご一読ください。

それではみなさまのカッコいいプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『猟書家『ブックドミネーター』』

POW   :    「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
全身を【時間凍結氷結晶】で覆い、自身の【所有する知識】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    蒼氷復活
いま戦っている対象に有効な【オブリビオン】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    時間凍結
【自分以外には聞き取れない「零時間詠唱」】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

陽向・理玖
素手かよ
…面白ぇ
尚更負けらんねぇ
覚悟決め

龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波放ち

どんだけ早かろうが
攻撃の瞬間は接敵すんだろ
その瞬間ならどうやったって当たるだろ
カウンターでUC
埋まっちまえば動けねぇだろ
思いっきり踵落とし

例え捉え切れなくても
音は聞こえる
意識集中し見切り
武器受けで受け止め
動きを止めて当てる
数撃ちゃ結晶もぶっ壊せるだろ
暗殺用い戦闘知識も使い
弱点となりうる箇所探りつつ部位破壊
同じ箇所狙って拳の乱れ撃ち
どうだよ
頭でっかちの猟書家さんよ

あの世界は
…大切な人の故郷なんだよ
ついこの前平和になったばっかなんだ
あんたにはやれねぇ

倒すまで絶対離れねぇ
間合い離さず見切られぬ様残像纏い連撃


香神乃・饗
さて何が出てくるんっすか

香神写しで武器増やし
苦無でフェイントかけ
仕掛けてくるなら倒されたフリのフェイントをかけてやるっす
剛糸でからめとり、ブックドミネーターか召喚されたほう、どちらかを盾にして一撃を防ぐっす
その直後ブックドミネーターの死角に回り込み暗殺を狙って力を込めた一撃を叩き込むっす

盾以上に抜けてくるなら苦無の半数程を防御に回すっす
属性攻撃は苦無を高速回転させ真空を作ったりして防御もできるっす

盾をしつらえてくれて助かるっす
俺の前で呼んだのが敗因っす

俺は決めたんっす!
護りたい人、世界があるっす!
その人の、世界の、明日のために、駆けまわってやるっす!這いずりまわってでも!
過去には負けないっす!


黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆行動
辿り着きましたよ、ブックドミネーター
貴方の代わりに私達が天上界に向かいます!

念動力を以て私も空を飛び
積み重ねた戦闘経験と五感を研ぎ澄まして攻撃を捌き
重要な臓器はその位置をずらした上で即死だけは避けましょう
そして飛び散った体液を使い反撃開始です

時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのに自身は格闘戦を挑めると言うことは
任意に凍結を解除しているのでしょう
それならば既に揮発し、更には念動力により空間に充満した
不可知の猛毒を吸わずにいられますか?

以上を持って【黒竜の邪智】の証明とします
きっと竜の残骸に埋もれるのは貴方に相応しい最後なのかもしれませんね

※他猟兵との連携、アドリブ歓迎


吉備・狐珀
貴方を倒せばオウガ・オリジンが強化される
ここに来ることは愚かかもしれません
ですが…

UC【協心戮力】使用
ウカの炎と兄様の炎で作り出すは地獄の業火
書物諸共、ブックドミネーター燃やし尽くす

自身を治癒しようとするなら月代、衝撃波や鎧砕くその爪で阻害しておやりなさい
治癒をされても何度でも、火炎の力も弱めません

…これで倒せるなら御の字ですが
本当の目的は詠唱させ口をあけさせること
この火炎の中で口をあければどうなるか
さらに火炎や月代の攻撃にまぎれて(毒)が紛れ込んでいたら?

火傷と毒で貴方の声が出なくなったら
全員で一気に畳み掛けます!

オリジンが強化されても問題ない
世界の脅威を振り払うために私達猟兵がいるのです!


水衛・巽
六番目の猟兵、ね
気にならないわけがありませんが
尋ねた所で答えてくれる筈もない
ならば早々にご退散願うだけです

限界突破した結界術により破魔と呪詛の防壁を築き
リミッター解除で可能なかぎりの硬度を付与
その上でドミネーターのUCはアイテムの形代へ転化し躱す

無傷では済まないでしょうが即死は避けられるはず
まあ大博打というやつですが
元々形代とはそういう使い方の代物なので

躱した瞬間に式神使いで玄武を召喚
ドミネーターを捕捉する
音速を超えてきたところで、縛ってしまえば怖くなどない

何か固そうな結晶のようですが
鎧無視攻撃つきの棘にさて、どこまで耐えられるものか
愚か者がどちらか、これではっきりしたのでは


荒谷・つかさ
あら、インテリ君かと思ったらステゴロがお望みかしら?
いいわね、面白いじゃない。

武器は持たず、素手で対峙
しかしただの脳筋の私に取れる対策なんて多くない
堂々と正面から持ち前の「怪力」に依る筋肉の鎧で以て防御し受け止めるのみ
小細工は不要、力比べよ

発動可能になり次第【超★筋肉黙示録】発動
脳筋自己暗示による超強化で以て、正面からの殴り合いを挑む
敵は書架の王を名乗る以上、相応の知識量による戦闘力上昇があるでしょう
でも、それがどうした
知識は有限だけど、私の筋肉への信仰と自信は天井知らず
故に無敵。故に最強!筋肉に不可能は無いわ!
時間を凍らす氷?最強の筋肉で温めてあげれば溶けるわね!

お前には筋肉が足りないのよ!


柊・はとり
素手で来るか…
予兆の内容からしても敵は恐らく『正々堂々』を好む野郎だ
知識に基づく攻撃もせこい手は用いず
正面から来ると読み【氷結耐性/武器受け】で対処
『俺ならどうする』を念頭に細かい狙いは【第六感】で察知

兵器に触れれば【雷属性】の【マヒ攻撃】が発動する【カウンター】を仕込む
反撃は奴に任せた



私は偽神兵器コキュートス。
UC『夏海箱音殺人事件』が選択されました。
『名探偵』柊はとりに代わり『犯人』を告発します。

イカロスの苗床を発動。
高速で飛翔する物体B=犯人を必ず告発します。
柊はとりの肉体は死亡確認済。
損傷は【継戦能力】で対処可能とし本体の危険を無視します。

コマンド【全力魔法】を選択。
犯人はお前です。


護堂・結城
愚者?知ってて何もしない外道よりましだ
雪見九尾、総力でもって討つ

【POW】

「紅月、緑月」

大罪の尾に【魔力溜め】、【高速詠唱】で焔鳳と雷の魔力弾をばらまく【範囲弾幕属性攻撃】

すり抜けてきそうな場所に【野生の勘】で【迷彩用の結界術】を設置し魔力弾を隠す
脆い結界を突き破ったら【マヒ攻撃・誘導弾】で【鎧無視の騙し討ち】
白銀双尾で【怪力・武器受け】からの【カウンター】だ

「蒼月、紫月…『神奪権能』!!」

UCを発動
蒼刀、紫刀を結晶に突き立てUCを奪いあいながら【鎧砕き】を仕掛ける

「喰え黒月、吼えろ氷牙、吹雪!!」

黒刀を隙間に突き立て【生命力吸収】
追撃にお供竜二匹と共に黒刀へ【衝撃波】、内部にダメージを与える




 首から下げた懐中時計の秒針は、律儀に時を斬り刻む。白く細い手にはなにも握られていない。
 息すら凍り、生と死が混濁する絶対零度の世界に君臨する王の、昏く冷たい赤瞳が猟兵達を流し見て、細く白い指は時計の蓋を閉じた。
「愚かな――やはり来るか、六番目の猟兵達よ」
「六番目の猟兵、ね……気にならないわけがありませんが」
 その物言いにひっかかる。
 彼は一体なにを知っているのやら、その口ぶりに興味をもたない水衛・巽(鬼祓・f01428)ではなかったが、それでも、今ここで問答をしても詮無いことと答えを導いた。
「早々にご退散していただきましょう」
 飄然とする巽の青眼に映り続けるのは、ブックドミネーターの無感動に揺るがない瞳だ。
 その赤を睥睨するのは、巽だけではない。
「愚者? 知ってて何もしない外道よりましだ」
 唾棄したのは、護堂・結城(雪見九尾・f00944)だった。彼の尾のすべてが眼前の王に興奮し高揚し大きく膨れ上がっている。
「雪見九尾、総力でもって討つ――書架の王だか知らんが、てめえもしょせんは外道だ」
 赤と緑の異彩色の双眼は、爛々と獰猛に光れども、それに対抗してくるわけでもない王は、小さく息をついた。
「……あれは使わない。素手でお相手しよう」
 その一言に眉根を寄せたのは、黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)。漆黒の三白眼は鋭さを増してさらに尖る。
 痩身は氷結晶に覆われていくが、彼の手になにやらの得物が現れることも、脚に武具が装着されることもない。
「素手かよ」
「素手で来るか」
 思いがけず声が揃ったのは、陽向・理玖(夏疾風・f22773)と柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)だった。
 垣間見たあの予兆の調子からして、眼前の王は――はとりは、青眼の温度を下げた。
(「アレは恐らく、『正々堂々』を好む野郎だ……知識に基づく攻撃も、せこい手は用いず正面から来る、ということか」)
 くるりくるりと思考は鋭敏に回る。
 己自身ならばどう動く、どうやって猟兵を追い詰める――掲げ構えるは、《コキュートス》――青い青い輝きは、彼の意識を混濁させていく。
「変身ッ」
 鮮烈な宣言は、耳に新鮮だ。
(「……面白ぇ、尚更負けらんねぇ」)
 覚悟は意識を鮮明にさせる。集中力は高まっていく。《ドラゴンドライバー》に嵌め込まれるのは、虹色に煌く《龍珠》――掴み取った瞬間から煌然と輝くそれは、理玖に力を与える。
「遅いな」
 甚だしく愚鈍だ――ブックドミネーターの落ち着き払った声音がしたと知覚したときには、その姿は、目と鼻の先にあった。
 時を凍らせることで世界から隔絶される――その生命の営みは途絶え冷え凍えていく――それは、瞬いている間よりももっと短い間で構築された結晶となって、書架の王を包みこんだ。
 理玖は瞠目する、声を発する間もなく強攻する拳が迫る、爆発的な集中、本能的に仰け反る――鼻先に痛烈な衝撃が走る。
 だが――それは、理玖の間合いでもある。
「遅くても、今、俺は、あんたを触れるぞ」
 転瞬、脚を跳ね上げる。【龍星砕】の衝撃波が冷気を掻き混ぜ吹き飛ばす。インパクトはブックドミネーターの黒い外套を激しくはためかせた。
 彼は、しかし理玖に固執することはない。凄絶な蹴撃は、ブックドミネーターの眉をわずかに顰めさせたが、理玖が次に息を吐くときには、彼は今一度宙へ舞い上がる。
「そこでなにをしている」
「貴方を斃す算段を立てていました」
 念動力を操り、空を駆けるミコだった。
 これまでいくつもの戦場を駆け抜けて積み重ねた経験が、ミコの奥底にも溜まっている。
 それは書架の王たる彼の持つ知識量と比べるとまだまだかもしれないが、それでも、この体を十二分に操るには、余りあるほどの戦闘経験だ。
 氷結晶で覆ったその姿――驀地にミコへと迫るその刹那、白髪は暴風に掻き乱された。
 張り詰める緊張と集中に五感は研ぎ澄まされる。向かってくる拳打は凄まじい力を内包してミコへと突き刺さる。
 ブラックタールたるミコに、体内の臓器の位置を操作することは容易い――寸でのところで、即死だけは免れるように細工、ごっそりと腹が抉られた。
「――ほお? 腹を抉られて平気か」
「容赦、なし、ですか……!」
 ミコはぐうっと唸る。指先が彼女の体液で汚れたのを、眉一つ動かさないで見やり、手を振って払った。
「その、私の血、侮ると後悔しますよ」
「言っていろ」
 ブックドミネーターは吐き捨てて、自由落下――否、その軌道の先に結ばれているのは、《コキュートス》を構えるはとり。
 落下速度はぐんぐん加速して、はとりの頭上目掛けて墜ちてくる。
「――飛んだ時点で、そうくることは予測済みだ」
「では、そのまま潰してやろう」
 隕石のように落ち、彼を踏み抜く――雷鳴が轟いた。

「私は偽神兵器コキュートス」

 はとりの声音はがらりと変わった。茫漠として焦点の合わない冬空色の瞳に黒雲が垂れ込める。
「エピローグ『夏海箱音殺人事件』が選択されました。『名探偵』柊はとりに代わり、『犯人』を告発します」
 抑揚のない声色は、暴走した《コキュートス》がはとりを操っている証拠。そこに彼の意識は存在しない。
 幾度となく繰り返された生死の繰り返しは、今まさに――
「高速で飛翔する物体B=犯人を必ず告発します」
 雷電のカウンターを受けながらも、その身を空中へと逃がしたブックドミネーターを追いかける。
 総身を突き抜ける苦痛は一瞬、背に生えた氷の双翼は、粒を撒きながら空を打ち、王へと接近。
 翼は神話になぞらえ解け消えることはなく、執拗に王を追跡し続ける。
 リミッターの外れた膂力で、氷刃をブックドミネーターの背へと刺し貫かんと打突――同時にはとりの体躯は、その衝撃に耐え切れずに壊れた。
 ずぶり。
 痩躯に入り込んだ刀身が、瞬く間に温度を下げていく。王の体に霜が降りていく。呪いのように、その身の温度のすべてを奪い取っていくのだ。
「柊はとりの肉体はすでに死亡確認済。本体の危険を無視します」
 冷酷な声と躊躇うことのない捨て身に、たまらずブックドミネーターは、頬に笑みを浮かべた。
「犯人はお前です」
「いやに饒舌な死に損ないだ」
 笑んだ王は、背についた凍り付く傷を、それでも微塵も気にすることもなく翻然と転回、追い縋ってくるはとりの横っ面を蹴り飛ばす。
 躱す間もなく高速の蹴撃を受け、脳が揺さぶられ墜ちた。
「そこで寝ていればいい」
「寝るのはあんたの方だ――頭でっかちの猟書家さんよ」
 墜ちていったはとりとすれ違うように跳び上がったのは、理玖だった。はとりがつけた傷を狙って研ぎ澄まされた拳を突き込む、否、躱される、わずかに生じた隙にブックドミネーターの指先が理玖に迫る。
 時間を凍結させる指だ。握り固めた拳の中には《龍珠》が力を解放せんと待ち侘び、それを覆い隠す《龍掌》が、白い指先を睨み据え――虹色の衝撃波がそれを押し返す。
 弾かれた王の手から氷結晶がばらりと崩れる。
 ついた傷は絶好の狙い目だ。理玖の覚悟の連撃は止まらない。
(「数撃ちゃぶっ壊せるだろ」)
 拳撃のラッシュに紛れ込ませるのは、強烈な踵落とし――それを喰らって王は地に叩きつけられた。
「あの世界は――……大切な人の故郷なんだよ」
 ぽつりと呟かれる独白は、激しく咳きこんだブックドミネーターに掻き消される。
 それでも、それだけで理玖の覚悟が揺らぐことはない。
「ついこの前平和になったばっかなんだ。あんたにはやれねぇ」
 次なる一手に惑わされることのないよう集中力を途切れさせず、理玖はその背を睨み据えた。
 その身に時間の流れを否定し、凍てつかせる結晶は瞬く間に構築される。咳いていた音すら凍る――昏い影が宿る赤瞳と、一瞬だけ視線が交わった。
(「来る」)
 覚悟はより強固に、闘気はより烈々と燃え、銘が口をついて零れる。
「紅月、緑月」
 その身を凍結させるように纏う氷結晶の煌きが、結城から噴き上がる魔力で揺らめく。
 焔と雷の魔弾となって絶え間なくブックドミネーターを狙い続け、彼の接近を許さない――だが、王の驀進は止まらない。
 誘い込むように一か所だけ綻びを作る。結城の死角になりえないし、間合いの中――それでも彼はそこを狙ってくるだろう。
 素手で相手してやると端から舐めてかかってくるような相手だ。
 油断せぬようにとわざわざ忠告してくれるような相手だ。
(「外道相手に、愚かしいもなにもないがな……」)
 これほど迂闊でよいのか――その内包する知識がその自信を裏付けしているのか。
 これ以上は詮無いことだ。結城は律儀に駆け込んできたブックドミネーターへと、不敵に笑む。
 異彩色の炯眼は、魔弾の驟雨で隠された結界へいざなう。態と脆く構築した結界で時限爆弾を隠す――弾幕は張られ続けて、彼は、果たして結界を踏み抜いた。
 瞬間、発動するのは、氷結晶をも突き抜ける麻痺を齎す爆発。
 驚嘆に赤瞳を瞠るも、彼の頬には凄絶な笑みが浮かぶ。結城に指先が迫る。咄嗟に振り翳した白銀は、結城の命を只管に護る双刀。
 今度こそ王から声が漏れるが、構わない。それは賛辞ではないのだ。
「蒼月、紫月……【神奪権能】!!」
 代わる代わる大罪の銘を冠する刀を露し、弾き防いだ手に、蒼と紫の刃を突き立てる。王が身に纏う結晶の支配に干渉、浸食して、解かし崩壊を招く。
「喰え黒月、吼えろ氷牙、吹雪!!」
 抵抗するかのように凍気が噴き上がる亀裂へ、一切の容赦を見せず貪欲なる漆黒の刃を刺突、息をつかせぬ斬撃の猛襲と、その命を喰らい尽くす食欲は大きな波になって、ブックドミネーターを苛む。追い打ちをかけるのは、結城のお供竜の紅蓮の火焔と、清廉なウタ――波動は書架の王の体内を猛烈に揺さぶった。
「――ッ、――ガッ!!」
 転瞬、咳きが激しくなる。

「先ほど、私の血を浴びましたよね」

 ミコだ。
 咳は止まらず、喉を破るほどに激しく息を奪う。いよいよ血を吐いた。
「時間凍結氷結晶で全身を覆ってるのに、自身は格闘戦を挑めると言うことは――任意に凍結を解除しているのでしょう」
 口の中の血を唾と一緒に吐き棄てた書架の王は、胡乱に赤瞳を昏く尖らせる。低い地鳴りのような吐息は、長く続ける。
「それならば既に揮発し、更には念動力により空間に充満した不可知の猛毒を吸わずにいられますか?」
「この……ハッ、――狸め」
「誉め言葉として受け取っておきましょう」
 王の力のカラクリを証明してみせたミコもまた、苦悶の吐息をひとつ、肩を震わせた。
 屠られた無数の竜の残骸が喚び出され、王を飲み込む。猛毒を孕んだそれは、彼の息を奪う。
「きっと――っ、きっと、竜の残骸に埋もれるのは、貴方に相応しい最期なのかもしれませんね」
 ミコの言の葉を聞いているのか判然としないブックドミネーターは、肺が枯死するような咳を続けた。


 たとえ激しく咳いているとはいえ、彼の総身から噴き上がる烈気は、欠片も衰えない。
 いまが好機と斬り込めばたちまちのうちに返り討ちに遭うだろうことは、肌で感じ取っていた。
 限界を凌駕し猛烈に逆巻く破魔の聖性と、その身を朽ち滅ぼす呪詛の細糸が織り込まれる結界は、巽を護る壁となる。
 無意識のうちにかけていたリミットを外して、可能なかぎり硬度を高めていく。研ぎ澄まされていく緻密な防護を築き上げた巽は、抜かることはない。
 真白い小さな紙は、彼の受難を肩代わりするための《形代》――それに息吹を込める。
(「ないよりはましでしょう――まあ、大博打というやつですが」)
 とはいえ、もとよりこうした使い方のものだ。とはいえ無傷で済むとは思っていない。
 あの強烈な力で即死を免れることができれば御の字だ。
 些かの疲れを滲ませた白皙の面を上げた彼の、羽織っていた黒外套は破れ裂けているが、それは氷結晶を纏い直した王にとって、些末なことなのかもしれない。
 時が進むことを許さずに止めてしまう――膨大なエネルギーは反して冷却され、絶対零度をいとも簡単に生み出した。
 知識に裏打ちされた戦闘能力は巽の青瞳を瞠らせた。否。それは巽を模した《形代》、精巧に映しとられたあるじの厄を肩代わりするものだ。
 先の言葉を言い終えてから、一呼吸もおかしてくれない速攻の余波は、凜冽たる冷気を濃縮した凍刃となって巽の頬を裂き、形代は木っ端に散る。
 巽自身思わず笑みを零した。
「案外と、素直な性格なのかな?」
 お道化ているわけではないのは、彼の傍らに【玄武】が控え、冷厳とブックドミネーターを睨めつけている状況が証明している。
「縛り穿て」
 言下、黒蛇が俊敏にその痩躯に巻き付いた。自由を奪い取る鋭い蛇の眼は、王を挑発的に見据え――その僅かな睨み合いのさなか、彼は無数の棘を生やして水縄へと変化していく。
 ぶつりぶつりと皮膚へと突き刺さる棘は、一切の身動きが取れないよう彼を縛り上げた。
「いくら速く動けても、縛ってしまえば怖くなどない」
 ひどく硬く強靭な結晶とて、鎧としての意味を無に帰す呪詛を纏う棘の前では無力。
「――――ぐぁっ、ッ!」
「愚か者がどちらか、これではっきりしたのでは?」
 巽はそろりと猛毒を吐いた。
 素手で十分と侮ったのは、そちらだ。愚か者と、相対する前より侮り、最善を尽くさなかったのは、ブックドミネーターだ。
 だからこそ、こうして、つけいる隙が生じた。
「書を司り、すべての書の力を扱える――そんな貴方が、オウガ・オリジンの力を奪っているというのは、分かっています」
 凛呼たる声音は、耳に鮮烈だった。
「貴方のおっしゃる通り、ここに来て、貴方を斃そうというのは、愚かかもしれません」
「それでも守りたいって思えるものがあるんっす。俺は、もう黙ってられないっす」
 吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)と、香神乃・饗(東風・f00169)だった。
 十分に分かっている。
 眼前の王を討てば、更なる災厄が喚び起こされる。
「分かってなお、私の覇道を邪魔するお前達を、愚かだというのだ」
「あら、インテリ君かと思ったら……」
 素手でやりあうことを選択し、真正面から叩きのめしにくる。先の戦いぶりを見て、二度三度と小さく頷く。
「ステゴロがお望みかしら?」
 ならば好都合――言って、ほんの少し頬を緩めたのは、荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)だった。
「あれを使うまでもないということだ」
「いいわね、面白いじゃない」
 それが、たとえ知識に裏付けされた自尊心だとしても、この瞬間すら素手で対峙するという――その心意気に、つかさは表情を変えずとも、心を大いに燃やした。
(「ただの脳筋の私に取れる対策なんて多くない」)
 握り締めた拳に力が漲る。つかさの華奢な総身からは想像し難い烈気が噴き上がる。紛れもない力たる正義を突き詰めた姿――書架の王とはまた別の純然たる力を纏う。
 つかさの突き詰め極めた怪力こそが、唯一無二にして最強の武器だ。
「小細工は不要! 力比べよ!」
 その挑発が言い終わるか否か、ブックドミネーターは、時を否定する。
 急速に冷えて凍えて、膨大な知識量に見合う装甲へと変じて、彼の両足に陣が三度現れる――幾重にも張られる氷は軋みながら強固に、より温度を下げて、一等冷たく、王を包む。
 ふわりと地を蹴った――ところまでは見えていた。が、次の瞬間には、つかさの眼前にその冷酷な貌が現れている。
 筋肉は活性化されて鋼の鎧と化している、突き込まれた凍拳を、果たして弾くことは叶わなかった。衝撃は全身を駆け抜けて、激痛は一瞬遅れてつかさを支配――否、彼女の肉体はこれしきのことで破壊されることはない。
 衝撃は腹だけで押しとどめられる。
 鋼の強靱さを兼ね備えた筋繊維はゴムのように撓やかで、底上げされたスピードの乗った拳打の衝撃は吸収された。
 そうして、燃える。
「鍛え上げた肉体は私を裏切らない! お前に教えてあげるわ。筋肉があれば、往々にして、だいたいなんとかなるということを!」
「は、」
 その根性論――愚直なまでの自己暗示に赤瞳を瞠ったブックドミネーターを見返し、つかさは、痛みに咳きこみそうになるのを我慢して、さらなる脳筋自己暗示をかける。
「お前は、書架の王を名乗っているんですってね」
 つかさの右ストレートが、彼の頬へ、躱される、否、予測はついているその場にはすでに左拳が突き込まれている。
 インパクトの瞬間、つかさの拳から腕へと伝播する衝撃は――ない。仰け反って躱したブックドミネーターは地を蹴り、くるんと反転、つかさも本能的に追い間合いを詰め直す。
「その知識量は相当なもので、その力は裏打ちされてるものでしょう」
「いかにも」
「でも、それがどうした」
 真正面から挑み続けると決めた。つかさの赤焦げた双眼は、冷たい赤からひたと張り付いて離れることはない。
「知識は有限だけど、私の筋肉への信仰と自信は天井知らず――故に無敵。故に最強!」
「――……は、はは、……、面白い」
 くつくつと肩を震わせ笑ってみせたブックドミネーターだったが、見据える瞳は毛ほども笑っていなかった。
 共感してもらうつもりはさらさらない。この蒼髪の男に拳をクリーンヒットさせることができればそれでいい。
「筋肉に不可能は無いわ!」
 力こそ正義。己の肉体こそ正義。
 睨み合いは一瞬、つかさの信仰は揺るがない。信じれば信じるほどに、力はより確固たるものへ。発露する烈気は筋肉を躍動させ、より烈しい拳へとなる。
 烈声を迸らせる。飄然たるブックドミネーターの双眸の温度がぐんと下がるのを見、地を蹴る足にも力が入る。
 跳躍するように疾駆、腰だめに拳を固め、踏み込む、同時に放つ、産毛を触るような感覚、躱された、しかし次打はある、否、つかさのラッシュは止まらない。
 氷結晶で覆われ始める書架の王に、回し蹴りを一発織り交ぜ調子を崩す。
「時間を凍らす氷? 最強の筋肉で温めてあげれば溶けるわね!」
 すかさず跳び込んで、腹に強烈な拳撃を突き刺した。
「お前には筋肉が足りないのよ!」
 息を詰めて吹っ飛んだ王から視線を外さずにいたのは、彼の体の下に、煌然と魔法陣が浮かんでいたからだ。
 地に手をつき、腹への衝撃に激しく咳く彼の纏う気迫は、凍えていく。
 凍る地に、知識の氷が降り注ぐ。
 それは積もって成長し、ブックドミネーターの下に蔓延り、禍々しくも美麗な氷陣となる。
 閃光と共に、蒼く冽々たる氷柱が、瞬く間に構築された。その一角が、より烈しく光る。
「さて、何が出てくるんっ、」
 氷から現れたのは、青白い炎に包まれた一匹の狼。
 一歩踏み出せば、その足元には氷柱が生える。冴え冴えとした紺の炯眼が饗を睨み据えている。巨躯の影に隠れるように多くの動物型の蒼く燃えるオブリビオンが現れた。
 しなやかに飛び跳ねる猫、冷たい炎を纏った翼の大鷲、それの周りを無邪気に飛ぶ火の玉――否、小鳥の群れ。
 殿にいるのは、一等体躯の大きな炎虎だった。
 狼が従える獣どもは、驀地に饗へと迫る。個々に上がる咆哮は、凍結の力を撒き散らす。
「――これは、」
 脳裏を過ったのは、先の戦のときに対峙した灼熱の獣どもだった――灼熱と死が蔓延る龍脈火山帯で喚き散らしていた、あの獣どもだ。
(「もふもふわんこ再びっすか!」)
 今回も触れることは叶わないだろう。増やした苦無は縦横無尽に奔り、氷炎の獣を翻弄する。
 虎が大きく吼え煽り立てるのは、狼だ――それは鋭い牙を剥きだしに、尖った爪で饗を踏み倒す。
 瞬時に狼の脚の下へと織り上げた剛糸を挟み込み、守る。
「あっぶないっすね!」
(「……かわいくありません、やわらかさの欠片もない!」)
 小動物――ことさら小鳥に目がない狐珀ですら、その氷炎の鳥どもに愛らしさを感じなかった。かわいいは微塵もない。
 それゆえに、饗も容赦なく苦無を突き立てることができた――いくら可愛くとも斃すべきものは斃してしまうのだが。
 凍狼の鋭爪と剛糸が擦れて、耳障りな甲高い擦過音が響き、背筋を粟立たせる。
 しかし怯んでいる時間はない。
 饗へと圧し掛かる狼へと苦無を突き立て、剛糸を巻き付け即席の盾とした。魂まで凍り付かせてしまいそうなほどに冷たい巨躯は、抵抗して大きく激しく吼える。
「香神乃殿!」
「大丈夫、問題ないっす!」
 頸に巻き付き息を奪う――そのだらりと力の抜けた狼をブックドミネーター目掛けて投げつけた。
 それの影に紛れる。眼前に迫る巨躯を躱す王の行く先を読み、視界から外れ続ける。死角に入り込んだ饗は、先のつかさの猛烈な一撃に喘ぐ細い背に苦無を突き立てた。
 次いで脇腹へ、反対の腹へ――饗の繰る七十余の刃は間断なく無尽に奔り、ブックドミネーターを斬りつける。
「盾をしつらえてくれて助かるっす」
 吐く声音は、冷気を孕む。手を増やす饗にとって、その群れは使い捨てにできる駒でしかない。手が増えることは、饗に攻防の機会を渡すこと――それが敗因になるだろうと饗は突き付ける。
「はっ、小賢しい……!」
「俺は決めたんっす――俺には、護りたい人がいるっす、護りたい世界があるっす」
 後悔はしたくないのだ。護ると決めたからには、いかな努力も惜しまないと。
「その人の、世界の、明日のために、駆けまわってやるっす! 這いずりまわってでも! お前のように、明日を脅かす者を討つって決めたんっす」
 その地に根付く命を、できるだけ多くの命を。営みを。笑みを。戦渦におとさんとするこの暴君を野放しにすることはできない。
「――ッ」
 痩躯のいたるところから溢れ出る血が瞬く間に凍り付いた――時間が逆巻く、無理やり捩じられて、時間が凍結した。
「月代!」
 転瞬、氷結を解く熱波が膨れ上がる。
 口が、開いたのだ。
 たったの一瞬であろうと、その口が僅かに動く――黒狐の生み出す火焔と、兄者が操る炎とが共に織り成す地獄の業火が、濁流となってブックドミネーターを飲み込む。
 寸でのところで離脱した饗をちらと紺瞳が滑る。
「自身を癒さねばならないほどに、貴方は追い詰められているのでしょう」
 月白色の仔竜が飛び、開いた傷が見る間に塞がっていく王へと尖爪を突き立てた。
 火炎は衰えることを知らない。
 月代はこの火焔の中を、巧みに空を駆って爪撃を加え、衝撃波を放つ。
 轟々とうねり、衣装を一度たりとも開くことのなかった書物諸共、焼き焦がしていく猛火の中で、王は己の傷を癒すために、零時間詠唱し時間を凍結、傷を負ったことをなかったことにする――それでも、狐珀の火焔はさらに煌然と轟然と、凍結世界を燃やしていく。
(「……火焔だけで倒せるなら御の字だったのですが……、さすがと言いましょうか」)
 饗を襲っていた氷炎の獣どもは、いつの間にやら消え失せている――オブリビオンの群れを操っている余裕すらなくなったらしい。
「また、口を開けましたね――今から、貴方の声を奪います」
 喉が焼け、その火傷から毒が入り込んでいくことだろう。
 ミコの猛毒で体力は大幅に削られ、結城の魔力がすでに暴れ回した体内は、狐珀が忍ばせた毒に耐えることは難しい。
 ひゅうっと息が漏れるだけになった。声帯は大きく傷つけられた。
「幕引きといきましょう」
 狐珀の言下、《コキュートス》が冷気を纏い、火焔の渦を裂いてブックドミネーターの腕を刎ねた。
「やってくれたな――腕がもがれる痛みはどうだ」
 残った左手で眼鏡を押し上げ、苦悶に喘ぐ書架の王を睥睨するはとりだ。
 その視線を遮るように、影が疾る。《川面切典定》の白銀の刃がすぐそこに迫り、巽は王を袈裟懸けに斬り下ろした。
「ああ、頬を斬るつもりだったんですが、つい斬りすぎてしまいました」
 にこりとかんばせを綻ばせ、刀を振るって血を飛ばす。
「まだ終わらねぇなら、」
 トントンとリズミカルなステップ――鋭い呼気、跳ね上げた脚は垂直に落とされる。
「俺だってやめねぇ」
 一時だけ間合いを取った理玖は、またすぐに接敵し、宣戦布告。握る拳は、虹色に光る。
「過去には負けないっす!」
 饗の意志が宿る苦無の嵐はブックドミネーターだけを斬り裂いて、気炎を吐くつかさの拳が、再び容赦なく突き刺さった。
「オリジンの力が解放されて、いくら強化されても問題ありません――世界の脅威を振り払うために私達猟兵がいるのです!」
 狐珀の声に注がれた聖性は目映く炎を煌かせ、ブックドミネーターを焼き尽くした。


 あとに残ったのは、声なき断末魔をあげ消えていった、書架の王が遺した影が一つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月19日


挿絵イラスト