迷宮災厄戦⑮〜お菓子なお家のクッキングタイム
●壊されたお菓子の家を前に
とあるアリスラビリンスの一つの国。
その森には、アリスと愉快な仲間たちがオウガから身を守るために作った、美味しそうなお菓子の家が、所狭しに並んでいたけれど……。
「うわーん、オウガたちのせいで、おうちが全部壊されちゃった!」
「あーあ、せっかく美味しそうに作ったのに……」
「オウガたちはいなくなったけれど、また来たらどうしよう……」
――このままでは、みんなが隠れる場所がなくなってしまう。
オウガたちによって、無残に壊されたお菓子の家を前に、住人たちが顔を見合わせる。
眼前に広がる瓦礫を前に、彼らの士気と腹の虫は、風前の灯と化していて……。
けれど、なす術もなく呆然と立ち尽くしたまま、諦めに似た溜息を落とすだけだった。
●お菓子の家が多すぎる国
「というわけで、お菓子なおうちをつくりますのじゃー! ……わしは全力でお留守番なのですじゃが」
集まった猟兵たちを見回した、ユーゴ・メルフィード(シャーマンズゴースト・コック・f12064)は、一瞬だけしょんぼり肩を落とすものの、すぐにお目目をキリッとさせ、手のひらにグリモアを顕現させる。
ほんのりと輝く琥珀色が映し出したのは、とあるアリスラビリンスの1つ。
この国の森に住む、アリスと愉快な仲間たちが、オウガから身を守るために多数のお菓子の家を建設していた、けれど……。
「今では、ほぼ全てのお菓子の家が破壊されてしまい、安全に森を通ることができなくなってしまいましたのじゃ、とっても勿体無いのですじゃ!」
料理人として。フードファイターとして。食を愛するものとして、いろいろ許せないものがあったのか、ユーゴは拳をふるふると振るわせる。
腹の虫が、ぐうううううと聞こえたのは気のせいだろう、きっと多分。
「このままでは、この世界に住むアリスと愉快な仲間たちが身を守れなくなってしまいますのじゃ。なので、わしら猟兵たちの数の暴りょ……ゲフン、力を持って崩れかけたお菓子の家に出向き、楽しく美味しく再建してしまおうという作戦なのですじゃー!」
お菓子の家をたくさん再建できれば住人たちは大いに喜び、猟兵たちもまたこの国を安全に通過することができる。
それは、この先に続く戦場の戦線を維持することにも、繋がってくるはずだ。
「住人の皆さまの士気を盛り上げるためにも、なるべく美味しそうなお菓子の家をつくると良いと思いますのじゃ。ただ、1つだけ気をつけて欲しいことがありますのじゃ」
油断すると、オウガに洗脳された愉快な仲間達があらわれて、猟兵をオーブンに向けて蹴飛ばしたり、生地に毒薬を混ぜたりしてくるという。
「彼らは子供の姿をしておりますのじゃが、外見だけでは洗脳されているのか、そうでないのか全くわからないので、注意してくださいなのですじゃー」
猟兵たちとの力の差は明確なので、油断さえしなければ大丈夫!
また、この国にはオウガは出ないので、お菓子の家を再建したあとは、住人たちとお茶会を開くのも良いかもしれない。
「戦況が目まぐるしく変わっているこそ、息抜きも必要だと思いますのじゃ!」
えいえいおーと拳を高く掲げ、ユーゴはグリモア猟兵たちをお菓子の家が多すぎる国へと、送り出すのだった。
御剣鋼
ヘクセンハウスはロマン、御剣鋼(ミツルギ コウ)と申します。
このシナリオは、戦争シナリオです。
1フラグメントで完結し、「迷宮災厄戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
戦い要素はなく、楽しくお菓子つくりをする平和的なシナリオになります。
レシピで文字数を圧迫するのも勿体無いので「何を作るか」「それをどうやって作るか」を軸に、楽しく面白く書いてみてくださいませー。
料理が苦手な方も心を込めれば大丈夫、あるいは洗脳された愉快な仲間たちの妨害に対処するのも良いでしょう。
●プレイング受付期間:オープニング公開より受付開始
導入文は掲載しませんのでいつでもどうぞ!
締め切りもシステム的に締め切るまで、お受けできるかなと。
進捗などはマスターページ、ツイッターでもご案内しておりますので、合わせてご確認頂けますと幸いです。
皆様のお菓子作り、心よりお待ちしております!
第1章 冒険
『お菓子の家つくり』
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POW : 生地をこねたり伸ばしたり、オーブンの火加減を調節するなど下拵えや準備を担当する
SPD : 正確に材料を計ったり、綺麗に角がたつくらいにホイップするなど、技術面で活躍する
WIZ : 可愛い飾りつけや、トッピングで、お菓子を美味しそうにデコレーションする
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ラフィ・シザー
お菓子の家を壊すなんてひどいよな…あそこに住んでる愉快な仲間たちだっているし…なによりお菓子を粗末にするとかありえないぜ!
チロルに【偵察】をしてもらって周りを警戒。
その間に俺はお菓子を作るぜ♪
今日はブラウニーを作ろうか。
チョコレートに薄力粉にバターにくるみ…
よしっ!出来た!ちょっとだけ味見を、と。
うん♪美味しい♪
チロルもたべ…チロルは精霊だから食べても大丈夫だよな?
このブラウニーを石垣代わりにでもして家を守ってもらおうぜ!
一ノ瀬・はづき
「これっておいしい仕事だねー」
この事件に対してこう感じ、猟兵として参加します。
「正確に材料を計ったり、綺麗に角がたつくらいにホイップするなど、技術面で活躍する(SPD)」に挑戦します。
お菓子作りは何より計量が大事だと聞いたから頑張ります。
あとは子供たちに目を光らせておこうかな?
材料のつまみ食いをするような子はいないかもしれないけれど…。
もしそんな子がいたら僕がメってしちゃいます。
リカルド・マスケラス
「そんな困った時に、炊き出し系ヒーローの登場っすよ~」
颯爽と現れる狐のお面
「ところで誰か、ちょっと体を貸して欲しいっすよ~」
愉快な仲間達の誰かに憑依することが出来れば、そこから【影魔人の術】で愉快な仲間の3倍の身長の魔人を召喚!
「大がかりな作業になるっすから、大きめの人手を呼んでみたっすよ」
家はふわふわのスポンジケーキにクリームを塗ったオーソドックスなやつ。影魔人は作ったお菓子を家に組み立てる際に力仕事のほか、腕を分裂させて細やかな作業させることも可能(フルーツの飾りつけとか)
「おイタはダメっすよー」
体の一部を陰に潜らせたりもできるので、邪悪な子供を影経由で伸ばした腕で捕まえたりもできるっすよ
●お菓子な国の森にそびえ立つのは
「お菓子の家を壊すなんてひどいよな…あそこに住んでる愉快な仲間たちだっているし…」
お菓子の家が多すぎる国に足を踏み入れた、ラフィ・シザー(【鋏ウサギ】・f19461)の目の前には、しょんぼりと落ちこむ愉快な仲間たちが、重いため息を洩らしていて。
ラフィは黒いうさ耳をピンと張り、銀の瞳で周りを観察する。
周囲には未だ美味しそうな香りが漂っていたものの、香りの主と思われるお菓子の家は軒並み破壊されており、至るところで瓦礫と化していて。
「…まったく、お菓子を粗末にするとかありえないぜ!」
小さく言葉を吐き捨てるのも、無理もない。
中には、前向きにお菓子の家を再建し始めた愉快な仲間たちもいたけれど、長い時間が掛かるのは、実に明白だったから。
視界に、鼻腔に、耳に入ってくるのは、諦めにも似た悲しみだけ……。
ラフィは傍らでふわりと浮かぶ、白い翼を持つ黒兎の精霊――チロルに偵察と警戒を委ねると、自身は少しでも早くお菓子作りに専念しようとした、その時だった。
「そんな困った時に、炊き出し系ヒーローの登場っすよ~」
ラフィと愉快な仲間たちの前に颯爽と現れたのは、白い狐のお面こと――リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)。
そして、セミロングの紫の髪を靡かせながら、一ノ瀬・はづき(人狼の正義の味方・f29113)も、彼らを励ますように口元を緩めて。
「ボクたちの力があれば大丈夫だよ、みんなで頑張ろう」
人狼の正義の味方にしてゴッドペインターのはづきは、眼前に広がる瓦礫に一瞬だけ眉を寄せるものの、眼帯で隠していない方の紫の瞳で周囲を見渡す。
集まった猟兵は、10人を超える。
頼しすぎる数の暴りょ……ゲフン、助っ人たちを前に、愉快な仲間たちの表情は瞬く間に晴れ、大きな歓声を持って猟兵たちを出迎えた。
「ありがとう! 僕たちの力では何もできなくて、途方にくれていたんだ」
「私たちに何かできることがあれば、どんどん聞いて!」
「お菓子の家の材料なら、この森にたくさんあるから、好きに使ってよー」
わぁわぁと猟兵たちを取り囲む、愉快な仲間たち。
リカルドも楽しそうに口元をへらりと緩め、それならば……と、彼らの顔を見回す。
「誰でもいいので、ちょっと体を貸して欲しいっすよ~」
「えっ、体?」
キョトンと口を開けた愉快な仲間たちは、同時に顔を見回せる。
一拍置いて。恐る恐る手をあげたのは、10歳くらいの手足が長めの少年だった。
「ぼくでも大丈夫?」
「全然大丈夫っす、ちょっとだけ借りるっすよー」
――瞬間。
リカルドからぽんっと外れた白い狐のお面は、ふわりと宙を飛び、少年の頭の側面へ。
そう、リカルドの種族は、ヒーローマスク!
白い狐のお面こそリカルドの本体であり、心を通わせた生き物に自分をかぶせることで、相手を己の身体として使えるのだ!
「さあ、行くっすよ! 影魔人!」
憑依した少年の足元の影から伸びるのは、少年のおよそ3倍の丈もある、影魔人。
――忍法・影魔人の術(カゲマジンノジュツ)
リカルドの忍術により呼び出された影魔神は、伸縮分裂自在の手足を伸ばし、まずは大きめの瓦礫をひょいひょいと片付けていく。
その間に、ラフィとはづきは愉快な仲間たちと素早く調理台と、オーブンを設置。
その勢いのまま、石窯も作り始めた愉快な仲間たちを微笑ましく見守りながら、2人は調理台へと向かう。
材料は住人たちが用意してくれる。――ならば、自分たちは調理に専念するだけだ。
「今日はブラウニーを作ろうか」
チョコレートに薄力粉にバター、アクセントにクルミを使うのも、いいかもしれない。
ラフィは袖を捲り、手早く刻んだチョコレートをボウルに入れ、湯煎で溶かしていく。
その間にバターと薄力粉、グラニュー糖の計量を手早く済ませたはづきは、リカルドの手伝いも引き受けていて。
「これっておいしい仕事だねー」
「クリームは漆喰(しっくい)代わりにもなるっす、多めに作りたいっすね」
お菓子作りは、何よりも計量が大切だから。
マイペースにクリームをかき混ぜるはづきの隣では、リカルドが影から分裂させた幾つもの腕で、大きな鍋を使ってクリームをまぜまぜしてる!?
「大がかりな作業になるっすから、大きめの人手を呼んでみたっすよ」
リカルドが作ろうとしていたのは、ふわふわのスポンジケーキに、クリームを塗ったオーソドックスなもの。
漂い始める甘い香りの中、幾つも設置されたオーブンは、全てフル稼働!
全てのクリームが綺麗に角がたつようになった頃。焼き上がったスポンジが、ラフィのブラウニーが、オーブンの中から姿を現し、辺り一面に香ばしい香りを運んでいく。
「よしっ! 出来た!」
粗熱を取ったブラウニーに、ココアパウダーや粉砂糖で薄化粧を施せば、完成!
もちろん、作り手のお楽しみ――味見も忘れない♪
「どれどれ」
ラフィは少しだけ焼きが進んでいた部分をナイフで切り取ると、そのままぱくん。
外は少しだけカリッと。中にぎゅっと詰まった濃厚なチョコレートの温かみが舌の上に広がり、クルミの香ばしさと歯応えの絶妙さに、ラフィの頬が蕩けてしまう。
「うん♪ 美味しい♪ ……ん?」
大きく舌鼓を打ったラフィが隣を見ると、偵察を終えたチロルも味見をねだるように、ふわふわと浮かんでいて……?
「チロルもたべ…チロルは精霊だから食べても大丈夫だよな?」
思案にふけたのも一瞬。
ラフィは更に一口サイズに切り分けたブラウニーを、チロルの口元へ、あーん。
幸せのお裾分けを受け、チロルの口元も弾むように、モグモグと動く。
そして、美味しいよ、とチロルが嬉しそうに宙を大きく飛び回った、その時だった。
ラフィの脳内に閃きという名の電撃が疾るや否や、組み立てたばかりのスポンジケーキにクリームを塗っていたリカルドに、銀色の視線を向けた。
「そうだ、このブラウニーを石垣代わりにでもして、家を守ってもらおうぜ!」
「いいアイディアっすね、並べるのは自分に任せるっす〜」
出来立てほやほやのラフィのブラウニーを、リカルドの影魔神がひょいっと掴み、白亜色の家を取り囲むようにして、きっちり並べていく。
そして。ほぼ同時進行で別の影の手を使い、家の屋根をフルーツで飾ろうとしたところ、眼帯をしていない方の瞳を光らせたはづきが、リカルドを呼び止めた。
「フルーツの飾りつけなら、ボクにも手伝わせて」
「助かるっす、壁とドアの飾り付けをお願いしたいっすー」
飾り付けは、アートの十八番(得意技)!
リカルドの死角側に回り込んだはづきは、フルーツの彩りを活かして、塗り立てのクリームの上に、1つ1つ丁寧に乗せていく。
キラキラと輝くフルーツは、まるで宝石のよう。
その美しさにはづきは満足げに左目を細めようとし――すぐに、はっと見開いた。
この美しくて美味しそうなフルーツケーキの誘惑に耐えることができるものが、果たして此処に存在するのだろうか、と――!
(「材料のつまみ食いをするような子は、いないかもしれないけれど……」)
子供たちにも目を光らせておかねばと、はづきは素早く周囲に視線を走らせる。
そして。それは幸いにも、杞憂に終わった。
(「今のところ、愉快な仲間たちの間で不審な行動はなさそうだな!」)
ラフィを始め、洗脳された住人を警戒している者は多い。
まだまだ油断できないけれど、現時点で怪しい素振りを見せるモノは、いないようだ。
「つまみ食いや、おイタはダメっすよー」
「もしそんな子がいたら僕もメってしちゃうよ」
リカルドが影経由で伸ばした腕をひらひらと動かすと、愉快な仲間たちは「はーい!」と、行儀よく手を振り返し、はづきの手伝いも率先して引き受けてくれて。
3人と住人たちが協力して作り上げたのは、大きな大きなフルーツケーキの家。
シンプルな白磁色の生地に輝くフルーツが陽光を受けて煌めき、それを護るように取り囲む褐色のブラウニーの石垣は、あたかも城壁のよう……!
森の中に悠然とそびえ立つフルーツケーキの家を、住人たちは尊敬と愛情を込めて、こう呼んだという。
――彩りに煌く白亜の小城、と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーナ・リェナ
颯夏(f00027)と
お菓子の家って住んでみたいなぁ
え、入っていいの?
ありがと、颯夏!
大きいものを作るのは颯夏にお願いして、わたしは飾りつけしよっかな
うん、警戒は任せて
いつ見ても颯夏って作るの上手いね
ちょっかいをかけてくる愉快な仲間はソルと一緒に追い返す
味見はちょっと、ちょっとね
どれも美味しいから食べすぎちゃいそう
家の形ができたらいざ飾りつけ
あ、煙突の煙っぽく綿菓子も足していい?
あとはね、テーブルとソファーにおそろいの模様つけたい!
できたらここのみんなを呼んでみる
おいしいお菓子でティータイムしよう!
青葉・颯夏
ルーナ(f01357)と
お菓子の家っていうとヘクセンハウスが思い浮かぶわね
少し大きめにすればルーナも入れるかしら
あとは家具も作るとするわ
大まかにはあたしが作るから、ルーナは警戒と……そうね、飾り付けをお願い
味見はほどほどよ?
フリーズドライの苺、紫芋、ほうれん草で色づけしたクッキー生地を薄く伸ばして、壁や家具の形に切り抜いてからオーブンへ
焼いている間に接着用のアイシングと、飾り付け用のお菓子の準備
カーテンには砂糖をまぶしたゼリー
ベッドとテーブルにはふんわり求肥
ソファーにはマカロン
壁と屋根には煉瓦に見立てたチョコを
生地が焼きあがったら組み立てる
ここのみんなに気に入ってもらえるかしら
●彩りお菓子とふわふわ微睡む家具の家
「お菓子の家って住んでみたいなぁ」
瓦礫の中。突如姿を現した大きなお菓子の家は住人の希望となり、同時に再建に挑む後続の猟兵たちの背中も、大いに後押しして。
甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ、ルーナ・リェナ(アルコイーリス・f01357)は、傍らの青葉・颯夏(悪魔の申し子・f00027)に、ラズベリー色の視線を移す。
「お菓子の家っていうと、ヘクセンハウスが思い浮かぶわね」
少し大きめに作れば、フェアリーのルーナを始め、彼女を乗せた赤く燃える身体を持つドラゴン――ソルも入ることが出来そう。
その分、味見的なカロリーは爆増まっしぐら。食が細い颯夏はとにかく、小柄なルーナには一言入れた方がいいかもしれないと、颯夏は眼鏡の奥の菫色の瞳を細めた。
「大まかにはあたしが作るから、ルーナは警戒と……そうね、飾り付けをお願い」
「うん、警戒は任せて」
お菓子の家の土台は颯夏に託し、ルーナはソルと共に周囲の警戒に注視する。
猟兵たちのお菓子の家再建作戦は、まだまだ始まったばかり……。
今は、洗脳された住人が邪魔をしてくる気配は感じられないけれど、ルーナの猟兵の勘が「油断したころに仕掛けてくるはずだ」と、強く訴えていて。
「ルーナ、味見はほどほどよ?」
「了解! ……味見はちょっと、ちょっとね」
見回りに集中するルーナとソルの後ろ姿に颯夏は口元を緩め、ふと周囲を見回す。
既に再建されたお菓子の家の中を覗いてみると、明らかに足りないものがあった。
「家具も多めに作った方がいいわね」
ならば、土台となるクッキー生地も、色々な色彩があった方がいい。
颯夏が「フリーズドライの苺、紫芋、ほうれん草はあるかしら?」と訪ねると、待ってましたと言わんばかりに、数人の愉快な仲間が駆けつけた。
「全部森と森の中の畑にあるよ、みんなと一緒にたくさん持ってくるねー!」
「生地を色付けするんだったら、ミキサーで細かくするけど、やってもいい?」
「そうね、お願いするわ」
心強いアシスタントを得た颯夏は手早くクッキー生地の元を練り上げると、それを3つに分け、フリーズドライの苺、紫芋、ほうれん草の粉末で色をつけていく。
カスタード色の生地が、淡い赤色に、紫色に、緑色に彩られていく。
それを調理台いっぱいに薄く伸ばすと、壁や家具の形に器用に切り抜いていき、いざ温めていたオーブンへ!
「いつ見ても颯夏って作るの上手いね」
クッキーが焼き上がる香ばしい香りが、辺り一帯に漂う頃。
ソルとともに警備から戻ったルーナが、好奇心いっぱいの瞳で颯夏の手元を覗く。
焼いている間も颯夏の手は休むことなく、接着用のアイシングと飾り付け用のお菓子を作っていたけれど、クッキーとはまた違う多種多様な色彩に、釘付けになってしまう。
「ちょうど呼ぼうとしていたところよ、飾り付けはお願いね」
――砂糖をキラキラとまぶしたゼリーは、薄く薄く伸ばしてカーテンに。
――ふんわりもちもちの食感の求肥は、ふわふわなベッドとテーブルに。
――色とりどりの可愛らしいマカロンはソファーに。煉瓦に見立てたチョコレートは、壁と屋根に使われるのだろうか。
「愉快な仲間がちょっかいをかけてくる様子はなさそうだし、飾りつけは任せて」
颯夏の作ったお菓子はどれも素敵で、このままじっとしていたら、味見なんてちょっとどころでは済まなく、食べすぎてしまいそう!
ならば、有言実行。味見でカロリーが爆増してしまう前に、飾り付けするしかないッ!
「まずは屋根ね」
念には念を入れて、ソルにはそのまま警備を続けてもらい、ルーナは蜻蛉の翅をのびのびと羽ばたかせる。
柔らかい木漏れ日を受けた蜻蛉の翅は七色に煌めき、ビスケットの髪を靡かせたルーナの小さな身体は、すぐにクッキーが剥き出しのままの屋根に到達する。
そのラズベリーの瞳が煙突に止まる。 無骨な煙突の周りを、ルーナはくるっと一周すると、煉瓦に見立てたチョコレートを壁にはめ込んでいた、颯夏に呼び掛けた。
「あ、煙突の煙っぽく綿菓子も足していい?」
「いいアイディアね、綿菓子の材料は確かザラメがあれば……」
「お姉さんたち、綿菓子の機械をもってきたよ! これでいっぱい作れるよ!」
「ありがと! あとはね、テーブルとソファーにおそろいの模様つけたい!」
「そうね、求肥に色付けすることもできるけど、色付きのチョコペンで描いてみるのはどうかしら?」
「うーん、どっちもやってみたいなぁ」
ルーナと愉快な仲間たちの期待と好奇心に満ちた視線が、颯夏に集まる。
沈黙が流れたのも一瞬。颯夏が首を縦にして頷くと、たちまち大きな歓声が轟いた!
「あらかた出来上がったかしら、ルーナ入ってみて」
「え、いいの? ありがと、颯夏!」
組み立てと飾り付けを一通り終えたお菓子の家は、まるで童話のワンシーン!
慎重に足を踏み入れたルーナを、クッキーの甘くて香ばしい香りが温かく出迎える。
視界いっぱいに広がる可愛らしい家具の彩りに心が奪われたと思った瞬間、気が付けば四肢を、ふかふかベッドに伸ばしていて。
これは、あれだ。――フェアリーをダメにするお菓子の家ではないかッ!!
「うわあ、すごい! わたしこのお家に住みたい!!」
「いいなあいいなあ、あのキラキラのカーテン、僕の家にもつけたいよー」
ルーナの背中越しから覗く愉快な仲間たちの眼差しも、キラキラと光を帯びていて。
誰かがいう。まるで、魔法に掛かってしまったようだ、と。
誰かがいう。――彩りお菓子とふわふわ微睡む家具の家、と。
「ここのみんなにも気に入ってもらえたようね」
「みんなもどう? この家でおいしいお菓子でティータイムしよう!」
「「「 わーい、やったあああ!!」」」
まだまだ材料も時間もたくさん残っている。
温かいお茶とともに至福のひと時を得た愉快な仲間たちが、ぼくもわたしもこの家に住みたいと願ったのは言うまでもなく、颯夏とルーナが2軒目、3軒目のお菓子の家を作り始めたのは、また別のお話――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神崎・柊一
同行者:楊・宵雪(f05725)
お菓子の家、壁担当
煮た小豆、砂糖、牛乳を混ぜて板状の型に入れ、凍らせる
これを複数枚作り、小豆バーの壁を作る
確固たる強度とひんやりした冷房性を備えているので家の壁に最適だ
屋根は宵雪に任せてあとは扉に
周囲に落ちているクッキーを回収、粉砕してバターで混ぜて再度焼き上げることでフードロスに配慮したクッキーの扉を作る
あとは丸いマシュマロを敷き詰めたベッドを作れば生活空間としては完璧
ちょいちょい来る愉快な仲間たちは異物混入を防ぐためによそで待っててもらう
いう事きかないと武力行使しちゃうぞ?
「いやー、一度でいいからこういう世界に住んでみたいよね」
楊・宵雪
同行
神崎・柊一(f27721)
「壁は柊一にまかせるわね
愉快な仲間対策
UCで古代戦士呼び出し護衛を頼む
空中浮遊で屋根に上って子供の手では届かないところで作業
メニューは簡単に短時間で作れて、妨害されてもリカバリーのきくホットケーキ
屋根に鱗状に並べて瓦っぽくする
指定の分量より牛乳を多めにすることで生地が柔らかく薄くなり火が早く通って時短できる
食感はもっちりミルクの香りがする
ホットケーキの重なるところはチョコやクリームや蜂蜜やキャラメルで接着
採光部分は寒天ゼリーでステンドグラス
側に銃口を出して防衛射撃ができるスリットも設置
「なんだかお腹すいちゃうわね
●頑強小豆ウォールともっちりウロコ屋根の家
「いやー、一度でいいから、こういう世界に住んでみたいよね」
オウガたちによって瓦礫と化した森に、次々と姿を現し始めたお菓子の家。
その彩り豊かな光景を茶色の双眸で見据えたまま、神崎・柊一(自分探し中・f27721)は軽く深呼吸をする。
鼻腔をくすぐる香ばしい香りは、ほぼ焼き菓子100パーセントに違いない。
ならば、そろそろ変化球があってもいい頃だろうと口元を緩め、楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)の方を、みやる。
「壁は柊一にまかせるわね」
その名の通り、白雪色の大きな耳を揺らし、宵雪が柔らかく笑みを返す。
豊満な身体と対照的な白磁色のほっそりとした指先が、翅のような骨組みの透明な扇をゆるり動かすと、少し遅れて地を擦るほどの長い九本の尾が、ふわりと宙に靡いて。
現れたのは、屈強な古代の戦士の霊たち。
今のところ妨害の報告は入っていない。言い方を変えると、警備を疎かにした瞬間、洗脳された愉快な仲間に狙われると言ってもいいだろう。
「了解、すぐに作ろう」
周辺の警備を宵雪と英霊たちに託し、柊一は大鍋で炊いた小豆に砂糖と牛乳を加えて混ぜ合わせると、あらかじめ用意していた板状の型に流し込んでいく。
その数は1つではなく、複数。果たして、柊一はこれで何を作るのだろう?
「この国に冷凍庫はあるかな?」
「お兄さん、こっちこっち!」
ぐるっと周囲を見回す柊一に、愉快な仲間たちが楽しそうに手招きする。
一瞬だけ警戒するものの、彼らが示す先には、大きな冷凍庫が幾つも並んでいて。
この国は、お菓子作りに使われるものは何でも揃っている様子。ここでは大都会のように、買い忘れをする心配はなさそうだなと、柊一はふと思う。
「ねえねえ、お兄さんは何を作るの?」
「これを複数枚凍らせて、小豆バーの壁を作るんだ」
「「「なんだって!!」」」
――説明しようッ!
元々はぜんざいをアイス化すると言う発想から来たものの、カチカチに冷やしたばかりの小豆バーは、なんとルビーやサファイアを上回る、硬度9を誇るという。
ついでに、最も硬いダイヤモンドは硬度10、鉄と鋼がだいたい6〜7と思っていただければ、小豆バーの凶器っぷりが、実にお分かり頂けるだろうか。
「確固たる強度と、ひんやりした冷房性を備えているので、家の壁に最適だ」
「すごい! 俺、このステキで無敵な家に住みたいッ!!」
「いや、ちょっと待って。壁は完璧でも、屋根と扉もきちんとみないと――」
愉快な仲間たちの好奇心いっぱいの視線が柊一に集まった、その時だった。
「もちろん、抜かりはないわ」
空から降り注がれたのは、宵雪の慈愛に満ちた月のような双眸と、涼やかな声。
下組を終えたばかりの屋根に登った宵雪は、その上で「何か」を短時間で大量に作り上げていたけれど、柊一と愉快な仲間たちの目と手が届くことはなく。
ヒントは屋根から漂ってくるバターに似た香ばしさと、もっちりとしたミルクの香り。
一拍置いて。愉快な仲間の1人が「あっ!」と、短い声をあげた。
「ホットケーキだ!!」
その回答に、宵雪の唇が言の葉を紡ぐことはなく、薄く淡い微笑を浮かべたまま。
けれど、沈黙は肯定と同じ。
宵雪が瓦を置く要領で屋根に「何か」をウロコ状に並べて見せると、愉快な仲間たちが「やっぱり、ホットケーキだ!」と、一際大きい歓声をあげた。
「なんだかお腹すいちゃうわね」
地上の賑わいに宵雪は口角の弧を深め、ほっそりとした白い指で焼き立てのホットケーキを1枚1枚丁寧に並べていく。
指定の分量より牛乳を多めにすることで、生地が柔らかく薄くなり、火も早く通る。
ホットケーキが重なるところは、チョコやクリーム、蜂蜜やキャラメルで接着して強度を高めると、漂う甘いミルクとマイルドな香りのコントラストに、愉快な仲間たちもまた、うっとりと瞳を細めて。
――そして。彼らを魅了したのは、それだけではなかった。
「フードロスに配慮したクッキーの扉は如何かな?」
「「――!」」
その間に周囲で瓦礫と化していたクッキーを回収した柊一は、集めたクッキーをさらに粉砕してバターを混ぜ、再度焼き上げることで素材を一切無駄にしない、エコな扉を作り上げていて。
「ぼくたちのおうち、使ってくれてありがとう」
「……うん、とっても嬉しい!」
瓦礫といっても、元はと言えば、彼らが真心を込めて作った、大切なお菓子の家。
このまま捨ててしまうのは、とても忍びないから……。
「あとは、丸いマシュマロを敷き詰めたベッドを作れば、生活空間としては完璧だね」
「「ひんやりとした空間に、マシュマロベッドだって!?」」
気が付けば、柊一の周りには、続々と愉快な仲間たちが集まっている。
これまでと趣向が違うお菓子の家に惹かれたのだろう。けれど、このままでは宵雪の古代の戦士たちも動きづらいだろうし、異物が混ざってしまえば強度が崩れてしまう。
「危ないから、離れたところで待ってもらってもいいかな? ……いう事きかないと武力行使しちゃうぞ?」
「はーい、楽しみにしてるね!」
「出来上がったら、絶対呼んでねー!」
柊一が双眸を大袈裟に細めると、愉快な仲間たちもノリノリで散っていく。
最初に彼らの背中に見た諦めに似た悲しみも、今は殆ど見られない。自分たちが来たことが、このお菓子の家が、彼らの心の傷を少しづつ癒しているのだろうか。
「柊一、このお菓子の家、気に入って貰えたみたいね」
遠くからじーっと眺める愉快な仲間たちに笑みを深め、ふわり地上に舞い降りた宵雪は、窓を取り付けていく。
採光部分は寒天ゼリーを使って、色とりどりのステンドグラス風に。
ひんやりとした薄暗い小豆色の空間に優しく降り注ぐのは、淡い七色の光たち。
強度が欠けてしまう分、側に銃口を出して防衛射撃ができる、スリットを設置して、きちんと護りを固めるのも、忘れない。
柊一と宵雪のお菓子の家は、特に男の子の愉快な仲間たちに大人気!
彼らはその家を尊敬と憧れを込めて「頑強小豆ウォールともっちりウロコ屋根の家」と呼び、末長く愛したという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
太宰・寿
お菓子の家、一度作ってみたかったんです
絵本からもお友達を呼んで、手伝ってもらいますね
悪い子を見つけたら教えてね、と助言をお願いして警戒します
作るのは以前ユーゴさんに教えて頂いた焼き菓子を!
料理の練習もしてきましたから美味しく焼けるはずです
がんばります!
住人や絵本のお友達と楽しく作ります
一人で作るよりずっと楽しいですよね
そして楽しいは美味しい、です
クッキーを壁や屋根に
マフィンは装飾に
仕上げはアラザンやチョコチップ、アイシングで可愛く飾っちゃいます
住人の皆さんにどんなお家がいいか聞きながら仕上げていきます
描くのは自信ありますから、遠慮なくリクエストしてくださいね
神崎・伽耶
あら、お菓子の家?
へえ、素材も色々。想像力そそるわ~♪
それじゃ、オーソドックスなところでメレンゲを作ろうかな~☆
キミたち、タマゴ集めてきてくれる?
あら、これはバジリスクのタマゴ@孵化直前。
危ないから没!
持ってきたキミもアウトね?(オウガを鞭でぴしり)
お姉さん、食材の目利きには自信あるのよぅ♪
さあ、どんどん泡立ててこー。
ピンと立つまで頑張ろうね!
(優しくスパルタ)
焼きメレンゲでぽふぽふ壁、生メレンゲでふわふわ床、屋根は少し焦がしてみようかしらん♪(とんかん)
チョコ板で案内板立てて~♪
ラムネの池作って~♪
チョコパラソルでリゾート感を演出!
え、木工細工が混ざってる?
えへ、ズルしたのバレた?(てへ)
都槻・綾
我が家の家事一切を担う相棒の人形・縫が料理長
調理の出来ない私は助手
手毬を模るまんまるクッキーを作ろう、と
紙に鮮やかな図案を描いたのち
はい、どうぞ!
笑顔で差し出す材料
鋭い眼差しと共に渡される天秤
…しずしず指示に従う
どちらが主人か分かりませんね…?
ささやかな抵抗で呟いてみるも
勿論聞き流されるお約束
だけど
きっと此処が本領発揮
普段から製薬や実験を好む身で
僅かたりと計量のズレを許しはしない
特に菓子は分量が大切と聞く故に――、
腰を落とし
呼吸を潜め
物凄~く真剣な眼差しで材料達と対峙
戦い抜いた(?)後は、爽やかに額の汗を拭う
ね、少しはお役に立てたでしょうか
成し遂げたイイ顔だけれど
額や頬が粉まみれなのは、ご愛嬌
●まんまるクッキーとメレンゲのお洒落リゾートな家
「へえ、素材も色々。想像力そそるわ~♪」
先行した猟兵たちが再建したお菓子の家から漂う甘い香りに、日々面白いものを探究している、神崎・伽耶(トラブルシーカー・f12535)の眼差しにも、好奇心という名の光が溢れていて。
けれど、彼らをオウガの脅威から護るお菓子の家の数は、まだまだ足りない。
「此処が正念場ですね。……主に縫が」
青磁色の双眸を淡く細めて言葉を紡ぐ、都槻・綾(糸遊・f01786)とは反対に、相棒の紅唐着物を纏った少女人形――縫の視線は、とても冷ややかである。
「キミは何を作るの?」
「手毬を模るまんまるクッキーを作ろう、と。調理の出来ない私は助手ですが」
綾のあまりの潔さっぷりに伽耶はケラケラと楽しげに笑い返すものの、綾を見やる縫の視線が更に細くなったのは、きっと気のせいだろう。……多分。
「それじゃ、あたしはオーソドックスなところで、メレンゲを作ろうかな~☆」
幸い、この国には、お菓子作りに使われるものは、何でも揃っている。
破壊を免れた木々と畑にはお菓子の材料がたくさん実り、調理器具は全て使い放題!
「あとは、やってみないとわからないよね♪」
弾む足取りで準備を進めていく、伽耶。
その背をゆるりと追いながら、太宰・寿(パステルペインター・f18704)は穏やかに茶色の瞳を細め、周囲を見回す。
「お菓子の家、一度作ってみたかったんです」
一見穏やかに見えるけれど、知らない世界を識ることが楽しいのは、寿も同じ。
甘い香りを漂わせるお菓子の森を堪能しながら、寿はもう一度周りを注視する。
警備をしてる猟兵は多い。
言い換えると、いつ妨害されてもおかしくない状況だ、ということだ。
「絵本からもお友達を呼んで、手伝ってもらいますね」
思考は一瞬。
寿がおもむろに絵本を広げると、幾何的な折り畳まれた紙が立体的にせり出し、次々と絵柄が浮かび上がる。
――飛び出す絵本(サモン・ワンダーランド)
それは、ページを開くことで立体的に見せる仕掛け絵本であり、寿のユーベルコードの名でもある。
「みんな、出ておいで」
仕掛け絵本から飛び跳ねるように現れたのは、絵本の中の陽気な登場人物たち。
――その数、64体。寿が「悪い子を見つけたら教えてね」と告げると、一斉にコクリと頷き、あるものは材料の運搬に、あるものは警備へと、各々の持ち場に散っていく。
その光景を静かに見届けた綾は縫を伴い、早速クッキー作りに取り掛かった。
「此れなら調理に専念できますね」
綾が手早く調理台に広げたのは、材料でも調理器具でもない、紙と筆。
紙にすらすらと鮮やかな図案を描くと、綾は傍らに立つ縫に涼やかな笑顔を向ける。
「はい、どうぞ!」
満開の華のような微笑を浮かべ、綾が差し出したのは、クッキーの材料おお!?
けれど、縫は頑として受け取らず、鋭い眼差しを返すと共に、材料の上にぽんと天秤を乗せるだけでして……。
材料は計量を済ませてから持って来いということですね。はい、ごめんなさい。
「どちらが主人か分かりませんね…?」
綾の周りだけ吹き荒れる、絶対零度。
己が家の家事を一切を担う縫が料理長ならば、調理が出来ない綾は所詮助手。
ささやかな抵抗で呟いてみるものの、案の定さらりと聞き流されてしまうのは、もはやお約束の光景である。
「さあ、頑張っていきましょ!」
そんなエターナルブリザードを横目に伽耶は腕をまくり、周りを見回す。
くるくると動く大きな瞳が愉快な仲間たちに止まると、嬉々と彼らを呼び止めた。
「キミたち、タマゴ集めてきてくれる?」
「いいよー、新鮮なタマゴを集めてくるね!」
「クッキーもメレンゲもたくさん作れるように、たくさん持ってくるね!」
まるで、草原を駆ける風のように、愉快な仲間たちは森の奥へと消えていく。
最初に伽耶たちに見せた諦めと悲しみはとうに消え失せ、誰もが猟兵たちの力になろうと、お菓子の森を忙しなく駆け回っていて。
「私も料理の練習をしてきましたから、がんばります!」
楽しそうに手伝う愉快な仲間たちに後押しされ、寿も拳をぐっと握りしめる。
挑戦するのは、此の国に転送してくれたグリモア猟兵から教えて貰った、焼き菓子。
わしも行きたいのじゃーと、地団駄を踏むグリモア猟兵の姿を思い出したのだろう、寿が小さく笑みを漏らした時だった。
「あら、これはバジリスクのタマゴ」
――ギクリ。
「しかも、孵化直前」
……沈黙。
「危ないから没! そして、持ってきた如何にも洗脳されたキミもアウトね?」
「ぎゃー!!」
洗脳されていた住人の妨害を暴いた伽耶が鞭をビシビシ振うのとほぼ同時に、寿の絵本のお友達たちが待ってましたと言わんばかりに、グルグル簀巻きにしていく。
「お姉さん、食材の目利きには自信あるのよぅ♪」
森の隅っこに運ばれていく簀巻きは1つだけではなく……。
それでも、懸念点の1つを排除した伽耶は手元のボウルに視線を戻すと、残った愉快な仲間たちとともに、ボウルに入れた卵白と砂糖を元気いっぱいにかき混ぜる!
「さあ、どんどん泡立ててこー」
「「はーいッ!!」」
「まだまだたくさんあるよー、ピンと立つまで頑張ろうね!」
「「イエッサー!!」」
何時からここは軍隊になったんだああッ!
優しくスパルタ風味に伽耶がにっこり微笑む。愉快な仲間たちは一瞬身体をビクッと震わせたけど、自分たちのお家を取り戻そうと、みんな真剣であーる。
「計量は任せてくださいね」
此処が己の本領発揮の場。そう察した綾は、唇を一文字に結ぶ。
普段から製薬や実験を好んで親しんでいる身。例え僅かであろうと計量の誤差は許すまいと誓うように、綾の眼差しは剣呑さを増し、天秤と対峙する。
その双眸。超真剣という名を冠する、刀の如し!
(「特に、菓子は分量が大切と聞く故に――」)
思考は一瞬。綾は腰を落とし、呼吸を潜める。
片や正確無比無血流の構え。ならば、此方は真剣無心無ノ呼吸で応じるまで。
眼前に鎮座する審判者を深く瞳に捉え、砂糖を手に綾の指先が流れるように疾駆する。
今此処に、両者激突――って、何時からここは死合いの場になったんだああああッ!!
「えーと、一人で作るよりずっと楽しいですよね?」
そうそう、ここは軍隊でも戦場でもなく、和気藹々なお菓子作りなんです。
周りも書いている人もいろんな意味で脱線する中。寿は愉快な仲間と絵本のお友だちの手を借りながらオーブンからクッキーと、オレンジピールのマフィンを取り出す。
辺りを覆う甘い香り。幸せに似た美味しくて香ばしい匂いが重なり、広がっていく。
「お姉さん、たくさんたくさん美味しいができたね!」
「みんなで作ると、とっても楽しいね!」
愉快な仲間たちの間にも自然と笑みが広がり、つられるように寿も口元を緩めて。
心を込めたお菓子は何れも綺麗なキツネ色をしており、美味しそうに焼けていた。
「はい、楽しいは美味しい、です」
「お菓子も一通り出来上がったし、みんなで組み立てちゃおう〜♪」
調理台とオーブンから、焼き菓子が所狭しと溢れそうになった頃。
伽耶の指示を仰ながら、愉快な仲間たちが、寿の絵本のお友達たちが、家の形になるように協力しながら、お菓子を組み立てていく。
寿のクッキーは壁と屋根の土台に。フルーツのマフィンはソファや椅子に変わり、綾と縫の手毬を模したクッキーは内装を彩る装飾品へと姿を変えていて。
ほんのり香る柑橘系の香りに触発されたのか、伽耶は素早く屋根に駆け登る。
「屋根は少し焦がしてみようかしらん♪」
焼きメレンゲで壁をぽふぽふに、生メレンゲで床をふわふわに仕上げた伽耶は、屋根に到達すると一面に敷いたメレンゲを、ガスバナーで丁寧に焦がしていく。
ふと、何か飾りでもあった方がいいかな〜と、思った時だった。
住人たちの意見を聞きながら壁にペイントしていた寿が、伽耶を呼び掛けたのは。
「アラザンやチョコチップ、アイシングで可愛く飾っちゃうのはどうでしょう?」
「おっ、いいね〜☆ みんなにも手伝ってもらお〜♪」
「描くのは自信ありますから、遠慮なくリクエストしてくださいね」
焦がしメレンゲの屋根に、アイシングや美味しい装飾は、相性抜群のはず!
そして、絵心がある猟兵は、もう1人――。
「ね、少しはお役に立てたでしょうか」
激しい攻防を戦い抜いた(?)綾もまた、爽やかに額の汗を拭っていて。
全てを成し遂げた綾は晴れ晴れとした笑みを浮かべていたけれど、その端正な額と美しい頬が粉まみれになっていたのは、ご愛嬌。
傍らの縫の紅唐着物には汚れ一つなく。けれど、その澄んだ眼差しからは剣呑さは消え、淡い笑みをたたえていて。
「最後にチョコ板で案内板を立てて、完成~♪」
クッキーとメレンゲで愛らしくも、アートでお洒落にデコレーションされた家。
家の前には伽耶が作った澄み切ったラムネの池が広がり、チョコレートのパラソルが南国風リゾート感も添えていて。
可愛らしくも避暑を感じる家は、まんまるクッキーとメレンゲのお洒落リゾートな家と呼ばれ、女性の愉快な仲間やアリスたちの憩いの場になったという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と
随分ご機嫌な狸尻尾に呆れ混じりの笑いを向けて
いや、たぬちゃんにはしっかりがっつり手伝って貰うからネ……?
住人サン達も、もし良ければ楽しめる範囲で手伝って頂戴な
そうねぇ、やっぱり丈夫そうな家がイイかしら?
遊び心も欲しいしログハウス風なんてどうカシラ
主な素材はしっかり焼いたフロランタン
棒状プレッツェルで模様描いて隙間に溶かした飴を流し込めばステンドグラスのよう
カヌレの形や弾力も使えるわネ……
さ、どこに何を使うかは任せるわ
ふふ、この世界に降るなら雨もソーダ水かしら
それとも金平糖の星が降ったり?
あ、景色を眺めるテラスも欲しいわねぇ
繋ぎ目も飴で補強して丈夫で楽しい家にしマショ
火狸・さつま
コノf03130と
おっ菓子♪おっ菓子~♪
尻尾ふっさふさふさ振りたくり
御機嫌るんたるんた
だいじょうぶ!任して!
すぐに素敵なおうち、作ってくれるから、ね!
コノが!!!(自信しかない!)
材料運んだり、ふるいぱふぱふしたり、混ぜ混ぜしたり
下拵えのお手伝い
後は出来るお菓子を順に適度な味見(重要!)しつつ
丁寧に積み積みしてログハウス建築!
もぐあぐあぐごくん!
ん!フロランタン良い強度!
クッキー面を屋内側にして重ねる
外側、つるつるが防水なて良い、よね!
綺麗なステンドグラス飴は屋根に
カヌレはこっち…と、せっせせっせ
常に周囲に気を配り
怪し動き見切り、びゃ!と早業オーラ防御でかばう!
コノは俺が守る!専念してて、ね!
●星見る飴細工とフロランタンのログハウス
「おっ菓子♪ おっ菓子~♪」
――お菓子の家が多すぎる国の、お菓子の森。
火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)が足を踏み入れた時には、先行隊によって幾つものお菓子の家が再建され、漂う美味しそうな香りに、さつまのふさふさ尻尾はさらに大きく左右に揺れていて。
ふわふわご機嫌なさつまに、猟兵たちの手伝いで駆け回っていた愉快な仲間たちも足を止め、こんにちわと弾むような挨拶を返してくれた。
「来てくれてありがとう、とっても助かるよ!」
「お家、あともう少しだけなんだ。お兄さんたちがいれば心強いんだけど……」
たくさんの猟兵たちが手伝いを買って出たのだろう、少しだけ申し訳なさそうに言葉を紡ぐ住人たちに、さつまは満開の花のような笑みを浮かべ、胸を張って。
「だいじょうぶ! 任して! すぐに素敵なおうち、作ってくれるから、ね! 」
自信満々にドヤ顔を決めたさつまは軽く息を吸い込み、軽やかに告げる。
「――コノが!!!」
「いや、たぬちゃんにはしっかりがっつり手伝って貰うからネ……?」
……その根拠と自信は何処から来るのやら。
弾むような足取りに加え、左右180度の角度でぶんぶんと大きく揺れるさつまのふさふさ尻尾に、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は、呆れ混じりの笑みを向けていて。
もちろん、愉快な仲間たちも揃ってご機嫌な様子。
彼らの満面の笑みを噛み締めるようにコノハは口元を緩め、薄氷の瞳で周囲を見回す。
周りを見ると、見た目と強度の両方を重視している家が多く見受けられた。
「そうねぇ、やっぱり丈夫そうな家がイイかしら?」
けれど、遊び心も欲しいし、ログハウス風なんてどうだろう?
悪戯めいた視線を浮かべてコノハが問えば、愉快な仲間たちは諸手を挙げて喜んで。
美味しそうなお菓子の森。その中に佇むログハウスは、憧れとロマンの塊だ!!
「やったー! ログハウスに住めるぞ!!」
「お兄さん、ぼくたちも手伝いたい!」
キラキラと輝く視線を向ける愉快な仲間たちに、コノハが断る理由はなく。
「住人サン達も、もし良ければ楽しめる範囲で手伝って頂戴な」
「「はーい!!」」
「コノは俺が守る! 専念してて、ね!」
「たぬちゃんも手伝うのヨ」
怪しい動きがないか狐耳をピンと張るさつまに、コノハに薄力粉とふるいを手渡す。
警戒をしている猟兵が多いのもあり、悪さをしようとする住人は殆ど見られない。
というわけで、さつまも下拵えのお手伝いに専念することができそうだ……!
「フロランタンは見た目よりも、そんなに難しくないわ」
「ふむふむ、混ぜるの、多い、任して!」
最初に取り掛かるのは、土台となるクッキー生地。
ボウルの中で良く混ぜたバターに粉砂糖と塩、さらに卵黄とバニラエッセンスを加えると、さらにかき混ぜてバターと馴染ませていく。
最後にふるった薄力粉をサクッと混ぜて生地を纏めると、ラップに包んで冷蔵庫へ。
「アーモンドヌガーもいい感じネ」
さつまがまぜまぜしている間に、コノハは生地に乗せるヌガー作りに取り掛かる。
大きめのフライパンに、グラニュー糖、バター、生クリーム、はちみつを投入。フツフツしてきたら火を止めて、アーモンドスライスを加えて軽く混ぜれば、あっという間にアーモンドヌガーの完成だ。
「フロランタン、混ぜるだけ! とっても簡単!」
「生地を伸ばしてヌガーをのせたら、もう一度オーブンに入れて頂戴な」
その間も、コノハの手は休むことなく。
フロランタンの焼き加減を見つつ、コノハは棒状にしたプレッツェルで模様描くと、その隙間に溶かした飴を流し込んでいく。
外はカリッと中はモチッとした食感のプレッツェルに囲まれた飴は、あたかもステンドグラスのよう。
ふと、コノハの鼻腔をアーモンドの香ばしさと、甘い香りがくすぐっていく。
暫くして。さつまや愉快な仲間たちと協力しながらフロランタンをオーブンから出し、同時進行で進めていたカヌレも、一緒に取り出した。
「カヌレの形や弾力も使えるわネ……たぬちゃんは、どう思――」
「もぐあぐあぐごくん! ん! フロランタン良い強度!」
振り向いたコノハの視界に入ったのは、頬袋いっぱいにしたハイイロリスではなく、出来たお菓子を順に味見する狸……否、さつまでして。
「たぬちゃん、何してるのヨ……」
「味見! 重要!」
おしゃれな形状をしているカヌレは見た目はずっしり重みがあるけれど、表面は艶よくカリッと、内側はしっとりまろやかに仕上がっていて、とても美味しそう!
口の中に詰め込んだフロランタンを飲み込み、さつまの耳がピョコピョコと動いた。
「カヌレは……椅子と、テーブル?」
「それ採用」
あとは、みんなで丁寧に積み積みして、ログハウスを作り上げるだけ。
さつまと愉快な仲間たちが、フロランタンのクッキー面を屋内側にして重ねると、コノハが繋ぎ目を飴で補強していく。
綺麗なステンドグラス飴は、みんなで慎重に丁寧に、優しく屋根に取り付けた。
「外側、つるつるが防水なて良い、よね!」
「丈夫で楽しい家にしマショ」
外が終わったら次は内装だと言わんばかりに、さつまはカヌレをせっせと運んでいく。
内側の強度を確認していたコノハは置かれたカヌレの前に足を止めると、少しだけ思案にふけるように黙した。
「コノ、どうしたの?」
「四つ足に置いたカヌレに薄く広げた飴を乗せたら、ガラステーブルになりそうネ」
「それ、みたい! 運ぶの、任して!」
外側を整えたら内装がとっても気になってくるのは、お約束。
他にもいろいろ応用できるかもと2人が考えていると、扉からひょこっと愉快な仲間たちが顔を覗かせる。
彼らが瞳を大きく見開き、息を飲んだのも一瞬。すぐに歓声へと変わった。
「わぁとってもいい香り! わたしもこのお家に住みたいなあ」
「この家なら、雨が降っても、オウガたちが来てもへっちゃらだね!」
「ふふ、この世界に降るなら雨もソーダ水かしら」
ここに来る途中にラムネの池を見かけたけど、この国なら金平糖の星が降るかも?
ふわり脳裏に浮かぶのは、深い青色に流れる金平糖の流星群。――ならば、星空を眺める場所が必要だ。
「あ、景色を眺めるテラスも欲しいわねぇ」
ゆるり口元を緩めたコノハに、さつまもふさふさ尻尾をぶんぶんと大きく振って。
――星見る飴細工とフロランタンのログハウス。
そう呼ばれ、住人たちに愛されるお菓子の家が完成するのは、もう少しだけ先になりそうだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
重松・八雲
ぺっとのたぬこさまと共に!
お菓子の家とは正に夢の塊だのう!
――それをこうも無惨に壊そうとは、実にけしからん
この地の希望と安寧の為、いざ一肌脱ごう!(何故かめるへんちっくな割烹着姿なのはご愛嬌)
あまり凝った芸当は出来ぬが、その分気持ちをがっつり込め――壁や屋根を補強すると同時に楽しく彩るくっきー作りを!
抹茶・栗・薩摩芋・南瓜等の優しく素朴な味と彩に、住民達が心穏やかに過ごせる日々への祈願を込めて
形は色んな動物さんにして、和やかな光景を作り出すとしよう!
たぬこさまは良い子でおすわりしつつ、悪い子の見張りを頼むのう!
何、儂も摘まみ食いは我慢するでな!
無事済んだら一緒に打ち上げのおやつたいむとしよう!
クーナ・セラフィン
お菓子作りとは平和だねー。
他があんまりにあんまり過ぎるから洗脳とかまだ優しみを感じちゃう…。
とはいえ住民の皆には頑張って貰いたいし、ちょっと頑張っちゃおうかな。
さていちじくのタルトでも作ろうかな。
愉快な仲間は個性豊かだし私にうってつけのキッチンもあると信じたい。
…なかったら踏み台とかで。
お菓子は計量が命、正確にやるのが美味しく作るコツだと思うのでその通りに。
できれば住人の人を巻き込みつつ皆で作れたらなーと。
自分で作るとより美味しく感じるような。
妨害に対してはUCで住人の瞳見て妨害受けたヤバイ未来を探りそれを回避する形で対抗。
出来たらさあ、お茶会の時間。
また次への活力にね。
※アドリブ絡み等お任せ
●郷愁に実るイチジクと動物の箱舟の家
「お菓子の家とは正に夢の塊だのう!」
「何だかとても平和だねー。他があんまりにあんまり過ぎるから、洗脳とか優しみを感じちゃう……」
重松・八雲(児爺・f14006)とクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)の双眸に広がるのは、お菓子の家も街並み。
甘い香りが漂うこの森にも、先行した猟兵らに寄って作られたお菓子の家が並び始めていたけれど、八雲の後ろをぴょこぴょこと追い掛ける、たぬこさまに視線を落とすと、地面に残る破壊の痕跡が、否が応でも目に入った。
「――それをこうも無惨に壊そうとは、実にけしからん」
八雲の赤き眼光に鋭いものが宿ったのは、一瞬。
すぐに晴れやかに顔をほころばせた八雲は着ていた羽織りにグッと手を掛け、一気に脱ぎ去った!
「この地の希望と安寧の為、いざ一肌脱ごう!」
「えっ!?」
ぱぱっと羽織の下から現れたのは、何故かめるへんちっくな割烹着姿。
クーナの藍色の瞳が「え、何で? どういうこと?」って訴えていたけれど、厳つい見目に反した八雲のノリの良さと、まんまるボディなたぬこさまと、滑らかな毛並みのケットシーのクーナという、どう見てもキッズたちが喜びそうな一行の周りには、既に愉快な仲間が集まり、わぁわぁと2人と1匹を出迎えてくれて。
「その格好、おじさんたちもお家作りにきてくれたの?」
「何か手伝うことがあったら言ってね、ぼくたちも頑張るから!」
グリモア猟兵の予知で投影されていたのは、諦めと絶望を浮かべた表情……。
けれど、目の前の住人たちの眼差しは皆生き生きとしており、クーナは羽根付き帽子の奥の瞳を眩しそうに細める。
同時に、ユーベルコードで彼らの瞳を覗く。妨害をしてくる未来は見られなかった。
(「住民の皆も頑張ってるみたいだし、私もちょっと頑張っちゃおうかな」)
住人たちに案内された野外キッチンの周りには、ほんのり甘い香りが漂っており、クーナの鼻腔をくすぐっていく。
――できれば、みんなと一緒に作りたいな。
きっと、より美味しく、温かく感じられるはずだから。
「あまり凝った芸当は出来ぬが、その分気持ちをがっつり込め――楽しく彩るくっきー作りをしよう!」
――皆のやる気も、オーブンの余熱も充分!
有言実行の勢いで調理台の前に立った八雲も、気合を込めて声を轟かせる。
と、ほぼ同時に。足元に控えていたたぬこさまが「どうすればいい?」と訴えるように、鼻先を擦り付けた。
「たぬこさまは、悪い子の見張りを頼むのう!」
八雲の願いを受け、たぬこさまは少し離れた場所で、ちょこんとお座りを決める。
この森に訪れている猟兵の半数が何らかの形で警備を行っているため、たぬこさまが身体を張ることはなさそうだけど、頑張ろうとしている姿に、八雲は破顔した。
「何、儂も摘まみ食いは我慢するでな!」
八雲が作るのは、壁や屋根を補強すると同時に楽しく彩る、クッキー。
良く混ぜたバターに、しっかりほぐした卵と、ふるいに掛けた薄力粉を加えると、ヘラで切るように、さっくりと混ぜ合わせる。
……ちょっとだけ加減が強めになってしまったのは、まあ、ご愛敬だ。
「童心さえ忘れずにおれば問題無かろう!」
八雲は纏めて小分けにした生地に、抹茶、栗、さつま芋、かぼちゃなど、優しく素朴な味わいと色彩を持つ食材を加えて、彩りを添えていく。
この森に住む住民たちが、日々心穏やかに過ごせるようにと、祈願を込めながら――。
「さて、私はイチジクのタルトでも作ろうかな」
お菓子は計量が命。正確に計るのが美味しく作るコツと言っても過言ではない。
力仕事は愉快な仲間たちに委ね、クーナは計量に専念しようと調理台に立つ、が。
――なんてことだ! 調理台に肉球もとい、お手手が届かないなんてッ!!
「……」
「……」
流れる気まずい沈黙。それを3秒で破ったのは、クーナだった。
「……。踏み台はないかな?」
「あるよあるよ! 可愛いの持ってくるねー」
「う、うん。おれも届かないし、踏み台使ってるし、お姉さんもドンマイだよ」
気を取り直して踏み台に上がったクーナは、タルト生地の作成に取り掛かる。
愉快な仲間たちが練り上げたタルト生地の上に、アーモンドクリームを敷き詰め、その上にクーナが切り分けたイチジクを、1つづつ丁寧に載せていく。
「やっぱり、皆で作るとより美味しく感じるね」
ブラウンシュガーを表面に振ったら、あとはオーブンで焼くだけ。
クーナが八雲の方を見やると、彼もまた調理台いっぱいに伸ばした生地に型を押し付ける、仕上げ段階に入っていた。
「このクッキー、動物さんだ!!」
「よく気が付いたのう! これはお狐さまで、こっちはたぬこさまじゃ!」
「わたし、うさぎさんがいいなあー」
「色んな動物さんの形にして、和やかな光景を作り出すとしようかのう!」
「やったあ、おじさんありがとう!」
気がつけば、八雲とクーナの周りを囲むように愉快な仲間たちが集まり、ぼくもわたしも手伝いたいと声を掛けてくれて。
「出来たら、お茶会の時間だね」
「そうじゃのう、一緒に打ち上げのおやつたいむとしよう!」
これは、お茶会の分もたくさん作らないと、すぐに足りなくなりそうだ!
――郷愁に実るイチジクと動物の箱舟の家。
その名は、新たな家と活力を導いてくれた猟兵たちと森に住む全ての命に感謝し、平和を祈り、願いながら、付けられたもの。
お菓子の家が多すぎる国に煌く、古今東西のお菓子の家。
漂う美味しそうな香りと新たな憩いの場は、此の国に住む多くの愉快な仲間とアリスたちを勇気づけ、英雄たちとの思い出とともに大切に語られ、使われたという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵