迷宮災厄戦⑬〜狂鳥・狂騒・断頭台
●宴
首を刎ねよ! 首を刎ねよ!
熟した果実をもぐように、葡萄酒の栓を抜くように。
断頭台の下では奇妙な鳥たちが、哀れなアリスの命を貪っている。
でっぷりと肥え太り、それでいて舌ばかりは活発によく回る。
――怠惰? 否、否、断じて否。
我々は無駄な動きをせず、極めて優雅に、極めて重要な思索に耽っているのだ。
己がいかに優れているか、美しいか、抜きん出たものをもっているか。
それは誰にも譲る事などできぬ。隣でさえずる同族を、引き裂いてでも。
故に、首を刎ねよ! もっと早く、もっと多く!
力をもっと! 糧をもっと! 満たせ、満たせ、溢れるほどに!
●グリモアベース
(……)
黄葉・契次(牙折りクロムイエロー・f25437)は、ハイネックのシャツ越しに己の喉に触れて俯いていたが、来訪者の気配に顔を上げる。
「よう、来たか猟兵」
そこからは何事もなかったかのように、書類を取り出し説明を始めた。
「今回は、アリスラビリンスに向かってもらう。そう、迷宮災厄戦って奴だ」
――全体的にあまり気持ちのいい話じゃないが、と契次は前置きする。
そこは、オウガ・オリジンに『食事』を饗するための『絶望の国』だという。
そこかしこに設置された断頭台は、その下に直接アリスを召喚し、首を刎ね、『食材』とする装置だ。ただし今は戦争中ゆえに、その機能は停止しているようだが。
絶望の国の住民は、『ジャブジャブ鳥』と呼ばれる、大きな頭に鮮やかな羽をもつ怪鳥達だ。凶暴でプライドが高く、各々が何らかの面で最も優れていると主張し、それがぶつかれば同族とて許さない。
実際、その戦い方は、同士討ちを厭わないものだ。狂気に満ちた鳴き声は広範囲を無差別攻撃し、己の攻撃力と耐久力を高めれば理性を吹き飛ばし、速く動くものをこれも無差別に襲う事になる。
鉤爪を巨大化させ行う攻撃は、その精度――敵味方の区別に力を注がないのなら、攻撃回数を増やせる。彼らの性分からして、『味方を攻撃しないようにしよう』などと気を遣う事は考えにくい。
鳥達は、オウガ・オリジンの『食事』のおこぼれを喰らって生きている。
おこぼれといってもその量は十分、糧を求めてあくせく動き回る必要がない彼らはすっかり肥え太っている。
しかし、彼らのその体格は、力に満ちているという事でもある。同種の敵を知っている者も、それらと同じとか、むしろ太っているなら動きが鈍かろうなどと侮らない方が良い。その戦闘能力は、高い。数も多い。油断は禁物だ。
「そこで、現地にあるモノを利用させてもらうわけだ」
断頭台、と少しためらいがちに契次は言う。
絶望の国の断頭台は、その下にいるものの首を自動的に刎ねる装置だ。それがアリスであるか、猟兵であるか、オウガであるかの区別はつけられない。
首を落とされれば、力を増した怪鳥とてひとたまりもない。
仕組みや扱いがわからずとも問題ない。とにかく乗せてしまえば、断頭台は仕事をしてくれる。
「うっかり自分が乗らないように、気を付けるんだな」
少しばかり落ち着かない様子で、首の後ろをさすりながら、契次は言った。
「じゃあ、頼むぜ猟兵」
関根鶏助
侵入者をトラップにはめるゲームが結構好きでした。関根です。
戦争シナリオをお届けします。
こちら、プレイングボーナスありのシナリオとなります。
「オウガを断頭台に乗せる」。でっぷりした鳥さんをなんとかして断頭台に乗せちゃってください。
鳥さんは強いのですが、断頭台に乗せてしまえば一発で倒せます。
それでは、よき冒険を。
※MSページの方では、プレイングの受付を「断章公開以降いつでも」としていますが、戦争シナリオに限り「オープニング公開次第いつでも受付」と致します。
第1章 集団戦
『ジャブジャブ鳥』
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POW : My father he died
【殺戮の狂鳥モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : Who Killed Cock Robin
【狂気に満ちた鳴き声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : My mother has killed me
【鉤爪】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
朱酉・逢真
バランス悪ィなぁ。ヒトの赤んぼだってもちっとしっかりした造形してるぜ。
さて対処。理性失ってくれるンなら好都合だ。フェンリス狼を呼んでまたがってデッドレースと行こう。追いつかれそうになったら眷属《鳥・獣・虫》どもを群れでつっこませ盾にする。向かう先はもちろん断頭台さ。フェン坊は身軽に飛び越えられるが、そっちさんはそうもいくめぇ。ドッカン衝突するだろう。首がハマったとこでナイフにカタチ変えた《恙》投げて刃を落とす。チカラ強いだけじゃやられるって童話じゃ定番だろうになァ。
――毒々しい極彩色を、真っ赤な毒が笑う。
血肉を貪って肥えに肥えた怪鳥達が蠢いている。最早鳥というより、申し訳程度に羽のついた肉塊といった方がよいかもしれない。
「バランス悪ィなぁ。ヒトの赤んぼだってもちっとしっかりした造形してるぜ」
朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は目を細める。その声が聞こえたのか、一羽の怪鳥が、ぐりんと音がしそうなほどの勢いで振り返った。
「何を言うか。力に満ちた形は正しい。正しい形は美しい――故に」
体の割に小さすぎる虹色の翼を、芝居がかった動きで広げ、鳥は叫ぶ。
「私は、誰よりもッ、美しいッ!」
逢真はただ、よくさえずるものだ、と言いたげに、口元を歪めて見せる。怪鳥の目がぎょろりと動き彼を睨んだが、意に介さず背を向けて、一言、唱える。
「さあ、自由だ」
虚空への呼びかけに応えたのは、一頭の大狼『無礙の怪狼(フェンリスヴォルフ)』。
逢真がその背に跨ると、狼は軽やかに駆け出した。
――目の前に手頃な相手がいたものだから、挑発が先になってしまった。
幸い、見回せば目的のもの――断頭台はすぐに見つかった。大狼の首筋を軽く撫でれば、大狼はそれに応えて断頭台を目指す。
「ぐしゃっとツブれろ! 醜くつぶレろ! それでワタシがイチバン!」
怪鳥の声と足音を聞き、逢真は狼の背の上から、後方を窺う。
罵声とよだれをまき散らして走る怪鳥は不格好だが、速い。怪鳥の言葉から意味が、目つきから正気が失われていくにつれ、速度が明らかに増していく。
追ってきて貰わねば困るが、あんなものに跳ね飛ばされるのも、踏み潰されるのも御免だ。
逢真は何かを投げるように腕を振るう。放たれたのは彼の眷属、毒や病を媒介する、鳥と獣と虫。怪鳥は己の顔を庇って、迫る眷属たちを振り払う。速度はいくらか落ちたが、足を止めるには至らない。
しかし逢真は動じない。
目の前には断頭台、方向も、タイミングも、これで計算通りだ。
「フェン坊」
逢真が呼びかける。怪鳥が大狼に掴みかかろうとしたが、大狼はそれをかわして跳んだ。空を駆けるように、断頭台を跳び越える。
怪鳥の目には、獲物しか映っていない。彼らと己の間にある断頭台など、気にも留めない。故に、真っ直ぐに突き進む。
しかし断頭台の方は、そうはいかない。己の領域に飛び込んできた怪鳥をしっかりと受け止め、枷ががちりと音を立て、固定する。
逢真を乗せた大狼が、断頭台の向こうにふわりと降り立つ。しかし怪鳥の爪も牙も、それに届きはしない。そこでようやく、怪鳥は自らの身体がどうなっているのかに気付いたようだった。
やめろ、違う、と怪鳥は叫ぶ。しかし断頭台は返答も、容赦もしない。
赤黒く汚れた重い刃が、空気を裂いて落ちる。怪鳥の首は一撃で鮮やかに切り落とされ、地面に転がる。怪鳥が貪り溜め込んだ命が、零れて地面を濡らしていく。
「チカラ強いだけじゃやられるって、童話じゃ定番だろうになァ」
怪鳥の首を見下ろし、逢真は呟いた。
大成功
🔵🔵🔵
フェルト・ユメノアール
断頭台なんて悪趣味な国だね
脱出マジックでもこんなのなかなか使わないよ
とにかくあの鳥を断頭台に乗せればいいんだよね?
それなら……よし、この手で行こう!
『トリックスターを投擲』してジャブジャブ鳥を攻撃
相手の注意を引いてから断頭台の方へダッシュ!
『パフォーマンス』の軽業のような身軽な動きで攻撃を躱し
目的の位置……断頭台の前までたどり着いたらUCを発動するよ
この瞬間、ボクは手札から【SPカップスワッパー】を召喚!
そして、カップスワッパーのユニット効果発動!
ライフを消費する事で自分と相手ユニットの位置を入れ替える!<天地鳴動>!
場所入れ替えで敵を断頭台の前に強制的に移動させ、背後からキックで押し込むよ!
――種も仕掛けも、ありませんとも。
「断頭台なんて悪趣味な国だね」
フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)は辺りを見回し呟く。
血を吸い、塗り重ねられ、赤黒く汚れた断頭台が見える。
脱出マジックで使うようなものではない。捕えて離さず、確実に仕留める為のものだ。雰囲気からして違う。
少し進むと、怪鳥はすぐに見つかった。フェルトに背を向けて、有り余る贅肉を重そうに揺らして歩いている。
(とにかくあの鳥を、断頭台に乗せればいいんだよね?)
フェルトは、しばし思案する。よし、と顔を上げる。
懐から取り出したのは、『トリックスター』。道化師が曲芸に使う、装飾が施された投擲用の短剣だ。指に挟み、流れるような動きで放てば、光を弾いて煌めきながら飛んだ刃は見事に、怪鳥の尻に突き刺さった。
悲鳴を上げて、怪鳥は振り返る。尻に刺さった短剣を、大きな鉤爪で器用に抜き、一通り眺めた後、フェルトに視線を向けた。
「この短剣を投げたのはキサマか」
怪鳥の表情はいまひとつ読めなかったが、細かく震えているのは怒り故だろうか。
「この高貴な体に、傷をつけたのはキサマかァ!」
問いかけておいて返答も聞かず、怪鳥はフェルトに迫る。
フェルトは「悔しかったらこっちにおいで」とばかりに、駆けだした。
怪鳥の、ただでさえ大きな鉤爪が、更に巨大化して空を切る。
しかしフェルトは道化師、軽業は得意なのだ。鉤爪の動きを見切り、踊るように躱していく。それがまた、怪鳥を苛立たせたようだった。
フェルトの動きは、更に派手に、華麗になっていく。時には鉤爪を宙返りで跳び越え、時にはギリギリまで引き付けて最低限の動きで躱し、くるりと回って一礼。
怪鳥は悔しそうに牙を鳴らす。一方フェルトは動き回りながらも、冷静に断頭台との距離を確かめていた。相手を引きつけねばならないが、自分が断頭台に捕まってしまっては意味がない。
(――ここだ!)
断頭台の手前で、フェルトはカードを取り出す。
「千変万化の動き、キミに見切れるかな? 現れろ! SPカップスワッパー!」
奇術師の姿をした悪魔が、彼女の声に応えて現れる。その力は『位置の入れ替え』。世界が歪み、ぐるりと回る。振り返れば、そこには断頭台と、何が起きたのかまだ把握できず、困惑した様子の怪鳥の後ろ姿がある。
くらりと、視界が揺れる。この召喚には、生命力を消費するのだ。
しかしまだ、ショーは終わっていない。道化師が舞台の上で、疲れた姿など見せるわけにはいかない。
フェルトは、怪鳥の尻を思いきり蹴飛ばす。怪鳥は体勢を崩して、断頭台に滑り込むような形で転んだ。怪鳥の身体に隠れて見えなかったが、何か仕掛けが動き出すような音がした。
斬首の為の分厚い刃が、落ちる。怪鳥の顔は見えなかったが、どうなったのかは確かめずとも明らかだった。フェルトの目の前で、怪鳥の身体は動きを止め、その後音もなく崩れていったのだから。
――さあ、ショーはこれにて、お開き。
フェルトは軽やかなステップで断頭台に背を向け、歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◆POW
敵を侮ったりはしないが、そのフリなら試してみるか
プライドが高く、自身が優れていると疑わない相手なら
罠にかける役に立つかもしれない
まずプライドを逆撫でするよう貶して敵を挑発
肥え過ぎて見苦しいだとか、そんな姿ではこちらを捉えられないだとか
上手く挑発に乗ったら背を向けて逃げるように走る
向かう先は断頭台だ
刺激する事で敵の強化に一役買う事になれば不利にはなるがこれも仕事の為だ、リスクは承知の上
ユーベルコードの効果も併せて、逃げきってみせる
断頭台ギリギリまで接近し、敵が後ろに付いてきている事を確認
飛び掛かってきた所で狼の姿に変身する
身を低くして急停止、飛び掛かってきた敵だけを断頭台へ突っ込ませたい
――仕事をこなせ。冷静に、冷徹に。
絶望の国に降り立ったシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、あくまでも冷静に辺りを見回す。
(一番近い断頭台は、あそこか)
それは、いつからあるのだろうか。命を奪うという仕事を、冷徹にこなし続けた道具――シキは目を細め、自分とそれとの距離を確かめる。
獣の耳に、何者かの声が届いた。複数で、何事か言い争っているようだ。気付かれないように、様子がわかるところまで近づく。
そこにいたのは、三羽の怪鳥だった。
「俺が一番力強い」と、一羽が一際大きな体を揺する。
「私が一番素早い」と、一羽が一際派手な翼を広げる。
「僕が一番賢い」と、一羽が一際大きな目をぎょろりと動かす。
どうやら、それぞれ己の得意分野を武器に、結局誰が一番強いのかで言い争っているようだった。
シキは一度断頭台を振り返り、道筋を頭の中で組み上げる。それから一つ息を吐き、怪鳥達に歩み寄った。
「どいつもこいつも、いかにも鈍そうだ」
ぴくり、と怪鳥達が身体を震わせる。怒りを灯した六つの眼が、シキを睨む。
「誰が一番強いのか、とか聞こえたから来てみたが、大した事はなさそうだな」
三つの口が、ほぼ同時に叫んだ。
「あいつを潰せ! 潰した奴が、一番強い! いいな!」
強力な敵が三体、それを一度に挑発するのは、恐らくあまり得策とは言えまい。そんな事はシキも理解している。
しかし、無策ではない。受けた仕事は完璧にこなす、それが彼の信条だ。自分にとって有利な要素を手放す事になっても、その覚悟がシキを支え、力となる。
派手な翼の怪鳥が、駆けるシキのすぐ後ろに迫る。
「ぎゅぎぎぎ、捕まえ――ッ!」
しかし勝利を確信したその声は、唐突に途切れる。大きな体の怪鳥が、鉤爪で同族を引き裂いたのだ。見れば、もう一羽いた筈の怪鳥も、袈裟懸けに引き裂かれて遥か後方に転がっている。
大きな怪鳥の眼には、炎が灯っていた。先程までの怒りよりもっとぎらついた、狂気の炎だ。怪鳥は舌なめずりをして、翼を広げて、金属が擦れるような叫びをあげる。
後は、時間との勝負か。シキは走る。つかず離れずのつもりでいたが、思いのほか余裕はない。しかし幸い、怪鳥は彼の狙いに気付いた様子はない。断頭台のすぐ近くまで来ても、動かぬそれは怪鳥には見えていない。
「つぶレろ――!」
怪鳥が雄叫びをあげて大きく跳ねたのと、シキが狼に姿を変えて地面に伏せたのは、ほとんど同時だった。突然目の前から消えた獲物に驚きの声を上げる怪鳥、その影がシキの上を通り過ぎ、その先で、どすん、と重たそうな音がした。
怪鳥の悲鳴と断頭台の刃が落ちる音を聞きながら、シキは人の姿に戻り立ち上がる。
彼は服についた土埃を払いながら、ねぎらうように断頭台を見上げた。
――仕事を、完遂したのだ。俺も、この断頭台も。
大成功
🔵🔵🔵
マグダレナ・クールー
アリスにひどい事をしましたね? いえ、答えはきいていません。聞きません
オウガ、オウガ。ああ、そんなに肥えてしまって。同族も喰うだなんて、本当にリィーみたい、いえ。同族喰いならわたくしも一緒でしたね
《ニ。オウガオイシイ。オウガタベルカ?》
ええ、ええ。喰います。喰らいましょう。アリス、アリス。アリス!!
わたくしに力を!! ともにあのオウガに極刑を!!
断頭台はすぐそこです。アリスを取り返しましょう
攻撃は気合いで耐えます。痛みをドーピングして、身を奮い立たせます
皆でオウガを担ぎ、無理矢理引きずって処刑台に立たせます。爪は叩き折り、口は旗杖でつっかえさせます
わたくしたちの糧になってくださいね、オウガ
――視界が歪もうとも、望みは確かに。
「アリスにひどい事をしましたね?」
マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)は、暇を持て余したように断頭台にもたれて座る怪鳥にそう問いかけた。
恐らく怪鳥は、断頭台のもとで食事――アリスが召喚されるのを待っていたのだろう。召喚の機能は止まっていると、知っているのかいないのか。
「いえ、答えはきいていません。聞きません」
怪鳥が問いに答える前に、彼女は言葉を重ねる。
「オウガ、オウガ。ああ、そんなに肥えてしまって。同族も喰うだなんて、本当にリィーみたい」
きょとんとしている怪鳥をよそに、マグダレナの言葉はとめどなく流れ、すい、と細められた目が、一気に温度を下げる。
「いえ。同族喰いならわたくしも一緒でしたね」
《ニ。オウガオイシイ。オウガタベルカ?》
マグダレナの声に応えたのは、毛蟹のような姿の異形。その気配を確かめて、マグダレナは叫ぶ。
「ええ、ええ。喰います。喰らいましょう。アリス、アリス。アリス!! わたくしに力を!! ともにあのオウガに極刑を!!」
祈りにも似た言葉と、リィーと呼ばれた異形の放つ気配に、食事が降ってくるのを待ち続けていたこの怪鳥も、流石に危険を感じ取ったのだろう。慌てて立ち上がり、牙を鳴らした。羽を広げ、身体を震わせ、その瞳に狂気を宿して、怪鳥は鉤爪を振り上げた。
《ダメイットニ!!ザハンパツ!レジスタンス!!》
「ええ、レジスタンストレーニングです。負荷をかけて脂肪を削ぎ落しますよ、リィー」
彼女と異形が言葉を交わせば、血と肉を代償に、彼女の武器が姿を変える。ハルバードは、刃こぼれしたポールアックスに。旗杖は錆びついたパルチザンに。
威嚇の叫びと共に振り下ろされた鉤爪は、ポールアックスで受け止め、そのまま叩き折った。もう片方の鉤爪が肩に食い込んだが、マグダレナは動じない。痛みに耐え、己を奮い立たせ、錆びた刃を叩きつける。鈍い音がして、虹色の羽根が散って、怪鳥の手首がおかしな方向に曲がり、そのままだらりと垂れ下がる。悲鳴を上げるその口に、つっかえ棒のようにパルチザンを突き入れる。逃げようとする両脚を、ポールアックスで叩き折る。
マグダレナとリィーは、身動きが取れなくなった怪鳥の巨体を引きずって、断頭台へと押し込んだ。断頭台に取り付けられた枷が怪鳥を捕らえ、処刑の準備が始まる。使い込まれたどす黒い刃が、吊り上げられていく音がする。
パルチザンがつかえたままの口から情けない声を漏らす怪鳥を、マグダレナは見下ろして、一言告げる。
「わたくしたちの糧になってくださいね、オウガ」
彼女の笑みを瞳に映したまま、怪鳥の首が、ごろりと落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
サンディ・ノックス
敵の自慢話を聞く
聞きたいと言えば話すだろうし、勝手に話し出すかも
相槌を打って聞き存分に褒め称える
もちろん嘘、内容に興味なんてない
どうでもいいことに感心する演技は常日頃からやっている、余裕だよ
自慢内容が被っている者にどちらが優れているか尋ねたり、内容が微妙に異なるものを大きな分類に括ってから優れているほうを尋ねたりして争わせる
俺のせいで争いになっていると気付けば攻撃してくるだろうし、断頭台を挟んだ場所で争いを鑑賞
愉しいなぁ
自慢内容で断頭台に乗せられるもの(度胸がある等)は言いくるめて自ら乗らせよう
俺に攻撃するために近付くなら途中にある断頭台の下を通るよね
怒りや自慢で頭が一杯になれば目は曇るものさ
――黒色は静かに、密かに滴る。
サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は、断頭台の前で怪鳥の群れに囲まれていた。
しかし、戦っていたのではない。怪鳥達が口々にする自慢話を、聞いているのだ。
高く跳べる、速く走れる。羽の色が鮮やかだ、背が高い、気立てが良い。そんな誇りの数々を聞き、相槌を打つ。
反論もせず聞いてもらえるのが嬉しいのか、怪鳥達も楽し気に話を続ける。
――だから、彼の青い瞳に時折過る冷ややかな光に、誰も気付いてはいなかった。
「みんな、本当に凄いんだね――だけど」
サンディは微笑を崩さず、問いかける。
羽が綺麗といった君と、爪の色艶がいいといった君、綺麗なのはどっちかな?
勇気があるといった君と、力が強いといった君、本当に強いのはどっちかな?
――ねえ、本当に「一番優れている」のは、いったい誰?
怪鳥達は顔を見合わせる。
彼に、自分が優位だと証明できれば、きっともっと褒めて貰える。
その表情は誰からともなく、敵意に歪んでいく。
爪自慢の怪鳥が、最初に動いた。風を切る音の後、悲鳴が響く。広範囲を薙ぎ払う、爪の一撃だった。
サンディは怪鳥の爪を避けて跳躍し、そのまま断頭台の上に飛び乗った。しかし、彼がどこへ行ったのかなど、怪鳥達は最早気にも留めない。互いに罵声を浴びせ、羽根をむしり、皮膚を裂き、牙を突き立てる。
(愉しいなぁ)
怪鳥達の争いを上から眺め、サンディは笑んだ。
羽根を全てむしられてしまった羽自慢の怪鳥が、乱闘の輪からはじき出されて、断頭台の上の彼を見つけ、叫んだ。
「――あんたが、あンなことを、いったから、アンタの、せいデ!」
「やっと気づいたのかい」
怒りに震えながら、羽自慢の怪鳥は断頭台に飛び掛かった。台を揺すってサンディを落とすつもりだったようだが、断頭台は近付いた怪鳥を捕らえ、その首に冷たい刃を落とした。刃の両側に分かれて転がる怪鳥の頭部と胴体が、ぐずぐずと音もなく崩れ去る。
首を落とされた怪鳥の身体が完全に形を無くした頃、乱闘も収まったようだった。満身創痍の一羽がよろよろと、サンディの方へやってくる。
「勝った、かっタ、これでおれが、いチばん」
「やあ、君は――確か、一番勇気があるって言っていたね」
そうとも、と怪鳥は胸を張る。
「さすがだね、さあ、こっちへ」
一番の君を、たくさん褒めてあげる。
サンディは地面に降り立ち、断頭台越しに怪鳥を招くように両手を広げる。近付いてきた怪鳥に、優しく呼び掛ける。
「じっとしていて。その間に全部終わるからさ」
その瞬間、彼の射貫くような視線に、怪鳥の動きが止まる。
断頭台の仕掛けが再び動き出し、立ち止まった怪鳥を捕らえ――その首が地面に転がり落ちるまで、時間はかからなかった。
ざっとこんなものかな、とサンディは周囲を見回す。
いつの間にか、戦って倒れた怪鳥の骸も、崩れて消え去っていた。
絶望の国は、静寂に沈む。
断頭台がこのまま眠りにつくのか、再び目覚める時が来るのか――それは、まだわからない。
大成功
🔵🔵🔵