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迷宮災厄戦⑰〜踏み越え征くは、己が影

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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 荒涼とした地に、風化したコロッセオが存在した。
 観客は無く、今は静寂のみが支配する闘技場。
 幾たびもの闘いがあったのだろう、風雨によらぬ傷跡がいたるところに刻まれている。
 そしてそれは、闘争は、今もなお絶えることないのだという。


 目まぐるしく情勢の変化する戦況図に半目を向けながら、白い護刀のヤドリガミたるファンは口を開く。
 「……さて、私には難しいことは分からないから、予知で見たことを端的に、そのまま伝えることにするよ」
 ひとりでに墨の滴り始める筆を地面に向かい振るえば、そこに描かれるのは形の崩れた円形闘技場のシルエット。靴先でコツコツとその端を踏みつけながら、ファンは過去を踏み潰して来いと言う。
 「このコロッセオには、昨日の自分をオブリビオンとして呼び出す力があるようでね。この先どんどんと猟書家が出現し激戦が予想される中、一度自分と向き合ういい機会でもあるんじゃないかな。向き合うべきは、己の強さでも、弱さでも、信念でも、何でもいいと思う。向き合って、踏みつけて、時には踏みつけられて、そして―――」
 ファンは自らが器物を鞘走り、音も無く闘技場の絵に突き立て、戦場への入り口を創る。
 「―――昨日を、明日への糧にしておいで」
 歯を剥く彼女は、いつものように、お決まりの言葉をもって猟兵達を送り出すのだった。
 「それじゃ、いってらっしゃい。無事に帰るんだよ?」


BB
 <次はカクリヨで新作を出すと言ったね。
  すまない、アレは嘘となったよ。

 おはこんにちこんばんは、しばしの眠りから覚めた私がやって来た!
 第二作目です、どうぞよろしくお願いします。
 以下補足。

 シナリオ傾向:『シリアス、ギャグ、何でもござれ! でもEROは勘弁な!』
 現場:『過ぎ去りし日の闘技場』

 今回、参加してくださる方々には“昨日の自分”と戦ってもらい、勝利してもらうことが主な目的となります。
 勝利と言っても、「っべー、今の俺強過ぎて自分に勝てねーわ、っべー」とか、「何をもって勝利とするのか」など、色々思うトコロはあると思います。
 ええ、好きに打ち勝ってください、昨日の自分に。
 方法や過程は問いません。結果は私が、頑張って拾ってまいります。
 闘技場で最後まで立っていれば、きっと勝利です、おそらく、メイビー。

 プレイング受付はシナリオ公開後、MSページにて発表します。
 参加者の公平を期すため、指定する受付時間前の提出はいかなる場合も採用しませんのであしからず。
 受付数は5名を最低保証とし、以降は受付順に、失効期限までに書けるだけ頑張ります。

 今回使用できる『略記号』
 ◎:アドリブ可・共闘可。
 〇:アドリブ可・共闘不可。
 △:アドリブ不可・共闘可。
 ✕:アドリブ不可・共闘不可。
 G:ギャグ表現OK。
 V:暴力・グロ表現OK。
 P:ピンチ表現OK。
 S:シリアス希望。
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第1章 冒険 『昨日の自分との戦い』

POW   :    互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ

SPD   :    今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う

WIZ   :    昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

天道・あや


昨日の自分との…バトル!おー、それって漫画とかでよくある修行みたい!…今は戦争中!猟書家やフォーミュラのような巨大な過去に挑む前に、一つ!自分の過去を乗り越えてみまショータイム!右よし!左よし!あたしよし!それじゃ、勝負!


で、昨日の自分、昨日といえば……あっ!そうだ!昨日はいい歌詞のフレーズが思い付いたり、アイスの当たり棒が当たったりと、超最高な1日だったっけ!となると、昨日のあたしは……うおっと!?わーお、ハイテンション!

……でも、今日のあたしは昨日よりもハイテンション!何故なら!歌詞は思い付いたし、アイスも交換でタダで貰えたから!

というわけで、越えるぜ!過去!これがあたしの答え!



●乙女心とあやの空
 風化の進んだコロッセオに一人の少女が辿り着く。
 鼻歌交じりの気楽な様子で、ざらざらとした石畳を歩みゆくは天道・あや(未来照らす一番星!・f12190)そのひとである。
 今、彼女が昨日の自身と対峙することへ抱く思いは、旅行へ行く前のワクワク感に似たモノがあるのかも知れない。
「昨日の自分との……バトル! おー、それって漫画とかでよくある修行みたい!」
 少年漫画の王道のような展開に、きっと簡単ではない試練であると思いこそすれど、あやの気持ちが突き抜けることを妨げられはしないのだ。
「……今は戦争中! 猟書家やフォーミュラのような巨大な過去に挑む前に、一つ! 自分の過去を乗り越えてみまショータイム!」
 高らかな宣言に誘われたかのように、あやの目の前には己と寸分違わぬ見た目の何者かが姿を現す。
 声も、そのまっすぐな瞳も、想いも、たった一日の差しかない、昨日の自分。
『―――、こんにちわっ、明日のあたし! 明日も元気にしてるっ?』
 それは奇妙な光景だろう。自分の持ち前の明るさを、声音を、他人のモノとして見聞きするのだから。
 けれど、彼女にとって、否、彼女達にとっては、そんなことは些事であった。
「うおっと!? わーお、ハイテンションだね、昨日の私は!」
『それ、あんたがあたしに言う? テンション爆上げでいかなきゃ、あたしじゃなくない?』
「……、あははっ、それもそっか! じゃあ、次の言葉も、分かってるよね?」
 ミリの違いもなく、同時にニヤリとするあやが二人。
 彼女達は、同時に駆け出した。
「『右よし! 左よし! あたしよし! それじゃ、勝負!』」

(で、昨日の自分、昨日といえば……)
 レガリアスで疾走しながら、様子を見つつ互いに距離をとるあやは考えていた。
 昨日の自分と、今日の自分、その違いを読み取るために経過を思い出していく。
(……あっ! そうだ! 昨日はいい歌詞のフレーズが思い付いたり、アイスの当たり棒が当たったりと、超最高な1日だったっけ! となると、昨日のあたしは―――)
 ぞくり。
 頭上に迫っていた存在感に、間髪入れず首を捻ると、先程頭のあった位置をレガリアスで加速した上段蹴りが通り過ぎていた。
「―――ッ!?」
『ぉお、流石あたし! やるじゃん!』
「ハイテンションだからハイキックって? そりゃどーも!」
 冷や汗を拭いながら、けれど、あやの中に渦巻くのはある種の高揚感であった。
 続けて繰り出される、鮮やかなダンスの如き体術を、あやとあやは打ち合い、捌き合い、応じ合っていく。
 まるで、良い好敵手を得たかのような、自らを高めあうようなやり取りに、心が、体が、震わされていく。
 大振りな蹴りを繰り出し合い、距離を開けた二人は笑い合う。
「そろそろ、ウォーミングアップは済んだんじゃないかな?」
『そだね、あたしの真骨頂は肉弾戦じゃないし?』
「それじゃ、」
『いくよ、』
「『空に描くぜ! 素敵なメロディー!』」
 パチンと二人が指を鳴らせば、宙には虹色に輝く音符がパッと舞う。
 まるで星空の煌めきのようなそれらは空に揺蕩い、震え、そして。
「『いつか来る未来が~♪』」
 従うべきそれぞれの声に反応し、音符は綺羅星のように瞬き、流れ、炸裂する。
「『昨日のあたしの手を引いてゆくー♪』」
 紡がれる歌詞が鮮やかな音として世界へと生み出されては虚空に溶けていく。
「『今は届かなくても~♪』」
 歌とは、刹那的なモノだ。誰かが聞き、記憶してくれなければ、夜空に浮かぶ花火のように瞬きの間に消えていってしまう。その時込められた想いは、世に知れ渡ることなくひっそりと終わってしまう。
 けれど、それでも、あやは思うのだ。
「『この歌は、』」
 歌え、歌い続けろ、届くまで、と。
『いつまでもあたしの中に!』
「いつかそうあなたへと!」
 ほんの僅かな差で、拮抗が崩れる。
 守りに入った音を、攻めに転じた音が上回ったのだ。
 衝撃に弾かれた昨日のあやは石畳へと投げ出され、膝をつく。
 その表情は一瞬だけ呆け、そして、負けを認めたことで穏やかに緩んでいく。
『……、ねえ、明日のあたし。勝敗の差は、なんだったのかな?』
 額の汗を拭いながら、問われたあやは、今を生きる彼女は何の気なしに答える。
「それは……今日のあたしは、昨日よりもハイテンションだから! 新しい歌詞は思い付いたし、アイスも交換でタダで貰えたから!」
『ふっ……あははっ、何それ! そんなんで強くなれるの? はははっ!』
 サラサラと、昨日のあやの輪郭が崩れ始めていく。
 それは、現在の自分によって、昨日の自分と言う過去が世界から追い出されていく寂しさを感じずにはいられない光景だった。
『なーに? そんな辛気臭い顔しちゃって、昨日のあたしより今日のあんたの方がハイテンションなんでしょ? だったらホラ、シャンとして!』
 もう半分も残っていない体の、残された手で、昨日のあやは今日のあやと指切りを結ぶ。
『それに、あたしはいなくならないよ。約束する、“いつまでも、あたしの中に”―――』
 パッと、ひと際強く輝き消えた過去は、あやの瞳に強く焼き付いた。
 眩しさにぐっと目をこすって、ほんの少しだけ間をおいてから、あやは拳を突き上げ、声を張り上げる。
「―――というわけで、越えるぜ! 過去! これがあたしの答え!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス

昨日の自分、か。主従共に無機なる人形ゆえ、そこまで劇的な変化はそう無いものだけれど、はてさて。

自分が相手だからね、情報収集の難易度は低いだろう。UCを起動しつつ、ボクは『穿月』による射撃戦を、機人は前に出て射線を切りつつ格闘戦といこう。打倒ではなく、時間稼ぎをメインに立ち回る。
頃合いを見て第二段階を起動。繰り糸を消失させて連携を断ち、その隙に押し切ろう。

もしも、ボクとボクの間に違いがあるとしたら、それは一日と言う時間。見聞きし、書に記した記憶という頁の厚みだろう。
差は文字通り紙一重。然れども上回る事に変わり無し。
済まないが、まだ結末を見届けていないんだ。過去に足を引かれている時間はなくてね?



●捲りゆく1頁の先に
「昨日の自分、か。主従共に無機なる人形ゆえ、そこまで劇的な変化はそう無いものだけれど、はてさて……」
 歌い手の少女が去った静寂の闘技場へ、抑揚に乏しい声が投げかけられる。
 硬い靴底で踏み鳴らす足音と共に、人のカタチをした人ならざる者がその姿を現す。
 千にも及ぶ技術の粋を集め生み出された精巧なる人形、それが彼女、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)である。
 静まり返った戦いの場にて、幾つもの物語を眺めてきた目を瞬かせれば。
 その場には、瓜二つの人型が並び立つ。
『―――やあ、明日のボク。観測者が観測される気分はどうだい?』
「……、愉快、とは言い難いかな。さりとて、くだらないと切って捨てるには凝った趣向だよ」
『同感だ、気が合うね』
「まあ、キミもボクだからね」
 数言のやり取りを交わし、彼女達は口を噤む。
 互いの瞳が、言外に闘争の意思を確かめ合えば。
「『いくぞ、機人、敵を討て!』」
 重なる鋼の咆哮が、戦場を震わせた。

(戦いに必要な情報は揃っている、自分が相手だからね)
 白銀の回転拳銃を排莢、装弾しつつ、牽制射撃を対なる黒鉄の銃撃によって続けるユエインは独り言ちる。
「3、2、1……ゼロ。もっとも、それはキミも同じことか」
 相手からの射撃がユエインのカウントゼロ共に止むも、まるで図ったかのように次なる発砲音が続く。
『同じ武器を使っているんだ、そりゃあ戦力差が現れる訳もない。把握はしていただろう?』
「ッ、機人!」
『そぉら、いけ!』
 多くを語らぬ掛け声に応じて、二つの巨影が激しくぶつかり合った。
 鋼同士が軋み、悲鳴のような金切り音を上げながら組み合い、自らが半身を護らんと奮起する。
 銃弾を易々と弾き、あらゆる障害をその剛腕で打ち砕く黒鉄の巨兵は、されど、瓜二つの相対者に拮抗状態を余儀なくされていた。
 自らを相手取ることがこれほどまでに厄介なことなのかと、普段表情少ななユエインをして眉を顰めざるを得なかった。
(ともなれば、これも手の内とされるか……?)
 延々と続きかねない銃撃と鋼の応酬に、ユエインは眼を、解く。
 カチリと、事象の歯車がずれ込む響き。
 眼窩からの流血と共に、現実を偽る手筈が整う。
 そして、それは相対する過去の自身もまた、同じく。
「つくづく嫌な奴だよ、キミは」
『そうだとも、ボク。ここからは根競べだ』
 互いの双銃が鉄火を吹き、放たれる幾つもの弾丸。
 弾き出された弾頭は風を裂き、突如、物理法則の枷から解き放たれた軌道を描き宙を舞った。
 視界内の事象を改変する異能により、飛翔する無機なる尖兵達は獰猛な獣の如く荒れ狂う。
 甲高い衝突音を立てて相殺し合う銃弾達は、されどそれが当たり前のように歪められた法則の中で攻防する。
 捻じ曲がった世界の中で、暴力的な速度をまとった質量達はひたむきに、敵を穿たんとまっすぐ飛んでいるつもりなのだ。
 弾丸は一つ、また一つと宙で互いを潰し合い、墜落する。
 まるで魔弾の射手の如き所業を、赤い滂沱で視界を染めつつある無機の二人が食い入るように見つめる。
 観測者だけが恣意的に、事象をかたる権利を有する世界。
 その中にあって、勝負の明暗は一瞬の閃きで分かたれた。
「―――なあ、キミ。こんな言葉に覚えはあるかい?」
『なにを、急に』
「やられたらやり返す、倍返しだ、ってね」
 目の前で組み合い拮抗し合っていた黒鉄の機人が急に体勢を崩す。
 昨日のユエインが繰る機人が僅かに出力を落とし、その場にくずおれたのだ。
 何が起きたかと目を見張る過去の自分に、ユエインは自らの脇腹を指さして事も無げに答える。
『ッ、いったい何をした!』
「先に一発、ボクがもらってあげたよ。その分、キミのラインを一本傷物にさせてもらったわけだ」
 見れば、ユエインの腹部に銃痕が、その一方で昨日のユエインが繰るべき機人との繋がりの一本に傷が刻まれていた。
「ボクの玉の肌になんてことをしてくれるんだ、なんて苦情は言わないさ。やられてからこそ、反撃の戦端は開かれるものだ」
『くっ、機人ッ!』
「遅い」
 激しい消耗から互いに事象改変の異能はもう使えず、最後の最後に頼るは半身たる黒鉄機人。
 その巨拳の振り抜きも、同じ者が同じく繰り出すというのならば、その差はひとえに各々の“今”の状態に因る。
(もしも、ボクとキミの間に違いがあるとしたら、それは一日と言う時間。見聞きし、書に記した記憶という頁の厚みだろう)
 唸りをあげる鋼の腕が、巨体同士を掠め合い、その先へと伸ばされる。
(偶には、俗めいた本を読むのもいいモノだ。はて、タイトルは何と言ったか)
 差は文字通り紙一重、然れども上回る事に変わり無し。
『……、自分に負けるのは、存外悔しいものだね、ボク―――』
 地を抉る轟音が似姿を過去へと還し、決着を謳う。
 土煙が晴れ、闘技場の地に立つ者は、まごうことなく“今を生きる”ユエインであった。
「―――済まないが、まだ結末を見届けていないんだ。過去に足を引かれている時間はなくてね?」
 文字通り、自らが過去を叩き潰した機人を撫でつけながら、事象の観測者は自嘲めいて零すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・セカンドカラー
◎GP
汝が為したいように為すがよい。

『ネタに逝きネタに死す。その生き様に何の後悔があろうか?自重?ナニソレオイシイ?』を座右の銘とする私にとって、ネタ的においしくない展開は深刻である。昨日の私は馴染みの喫茶店のロシアンメニューでネタ的においしくない無難な味を引き続けて個性を失いUCと技能が封印された脱穀のアリスである。今も脱穀中だけどなorz
というわけで店長に頼んでロシアンメニューをテイクアウトしてきました☆1つだけ最凶の激辛がありますのでそれを引いた方が勝ちです。
ええ、ギャグ漫画でよくある口から火を吹く激辛表現ですな、あれがダークネスフレアで再現され相手に向けて放たれます。
『おーばーきーる』



●不(容易に)思(い付きで第四の壁を越えてくる、)議(論の余地もなく厄介)な国(賊級)のアリス
「ソコ、何か失礼なこと考えていないかしら? 私はただ、“ネタに逝きネタに死す”を体現出来ればそれで満足なしがないアリスよ?」
 虚空に向かってアリスを騙る彼女、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)には何か見えてはいけないモノが見えているのかもしれないが、それはまた別のお話。
「……で、当然いるのよね? 昨日の私」
 この闘技場の地に足を踏み入れたということは、つまりそういうこと、昨日の自分と相対する運命が定められたということである。
 で、あるのだが―――
『―――じ、ジエチル、ジチオカルバミン酸ナトリウム……』
 昨日のアリスは開幕早々目が死んでいた。というか、脳機能が半分くらい停止していた。
 説明しよう、昨日のアリスは、ある馴染みの喫茶店のロシアンメニューでネタ的においしくない無難な味を引き続け、ネタに生きられなかったことで個性を失いUCと技能が封印されてしまっているのである!
 業界人によると、この状態を“脱穀のアリス”と呼ぶのだという。いや、脱穀……脱穀って、なんだ?
「収穫した穀類を茎から外すことよ。可哀想に……必須ネタニウム成分が欠如して禁断症状が出ていたのね、我ながら憐れな姿だわ」
 今日のアリスはさりげなく第四の壁に干渉しながら、高次脳機能をやられてうわ言を呟き続ける昨日のアリスを抱き寄せる。
『え、エン、エンドルフィン……』
「大丈夫よ、私。もう無理なキャラ付けに逃げなくてもいいの。そんなあなたに、とっておきのプレゼントを用意したわ」
 聖母のような微笑みを浮かべて、今日のアリスは“ソレ”を取り出す。

 \ キ ム チ 鍋 ! /

『ァ……、え……何で、キムチ?』
「うん、うん。喜んでくれたわね、さあ、ネタニウムを補給して明日を生きるわよ」
 まったくもってどこから取り出されたのか、大勢で卓を囲んで食べるべきであろう量のキムチ鍋(10ℓ)に、錯乱していた昨日のアリスは若干ながら正気を取り戻す。
 優しげに肩を抱く今日のアリスは、にこやかな顔をしてどんぶりと箸を手渡してくる。
 あ、これアカン奴だ、今日のアリスも“脱穀”状態から抜け出せてはいなかったのだ。
 昨日のアリスはこの時点で悟る、この物語は誰も幸せになれないんやな、と。
「どうぞ、おあがりなさい?」
 ごっぽごぽ沸騰してどるっどるの粘液質な紅蓮のキムチスープ、豆腐かと思いきやマシュマロっぽい白くてとろけた何か、白菜だったら良かったんですけどねーと申し訳なさそうにするしなびたレタス、半か溶けした赤黒いカプセル、その他etc.。
 どんぶりによそられたソレらを見つめて、昨日のアリスは問う。
『ねぇ、私』
「ん? 何かしら?」
『コレを、完食出来たなら……私は、また、アリス・セカンドカラーとして生きられるのかしら』
「そうねぇ……まあ、脱穀のアリスからは、改名出来るんじゃないかしらね」
 自分の分もどんぶりによそりながら、今日のアリスはどこか遠い場所を見つめて呟いていた。
 風化したコロッセオの真ん中で、二人のアリスは異臭を放つ鍋を囲ってしばし黄昏る。
 当初の予定ではロシアンメニューで勝負するはずだったとか、こんな闇のゲェムはもっと大勢を巻き込んでやるべきだとか、色々と思うトコロはあった。
 けれど、過去の自分の問いかけを受けて、アリスは自分を取り戻す戦いとして、昨日の自分をその伴侶として選んだのだ。
「自分を取り戻す、そんな過酷な茨道に、巻き込んでいいのは自分くらいなのかもしれないわね」
『……? 変なことを言うのね、私。ほら、冷めない内に食べましょう?』
 二人のアリスには、不思議な確信があった。
 コレを食せば、きっと何かが変わると。
 脱穀のアリスたるこの我が身に、何か確かな変化が訪れると。
 故に、彼女達はコレを口にする。食してしまった。
 悪魔の、晩餐を。
「『ォ……ぐ、ゲッぉ【誠に申し訳ありませんが、この先著しいR18-G表現のため自主規制いたします】』」
 皆様は、レシニフェラトキシンと言う化学物質をご存じだろうか。あるサボテンから抽出されるこの成分は160億SHUというとてつもない辛さ単位を誇る凶悪な物質である。その辛さを比較すれば、かの有名なカロライナの死神の約1000倍もの辛さを誇るのだ。それが先程のカプセルの中に入っていたらしく、そのカプセルは半分溶けかけていて、つまりそういうことなのである。
 残念、脱穀のアリス達は、死んでしまった!
 
 荒涼としたコロッセオの真ん中に、体を半壊させたアリスと、その姿に涙するアリスが座り込んでいる。
「どうして……何で、私を助けたの……」
 ぼろぼろと崩れ逝く昨日のアリスは、クスリと笑んで、今日を生きるアリスへと答える。
『何で、って……明日に向かうべき私が死んでしまったら、ネタにもならないでしょう……?』
 事を説明すればなんと言うことはなく、範囲内の任意の無機物を闇色の炎として操るUC『全てを焼き尽くす魔界の炎』を昨日のアリスが発動させ、今日のアリスの食した分共々、死に至る辛み成分のみを焼き尽くしたのだ。
 死んでしまったのは、抜け殻としてのアリス達であり、死の淵に瀕した彼女達は本来あるべき生の実感を取り戻した、そういうことである。
 こんなことを想定していない技の代償として、昨日のアリスは闇の炎に抱かれて今まさに消えようとしているのであるが、当人はいたって満足げな顔をして消滅を受け入れていた。
 うん、ネタ的にはそれなりにおいしいポジションだもんね。
 「ズルいわ、そんな顔されたら、文句の一つも言えないでしょう?」
 間もなく消えてしまうであろう昨日の自分をかき抱いて、アリスは愛おしげに撫でつける。
『ねぇ、私……最後に一つだけ、お願い、いいかしら』
「……ええ、言わなくても分かってる。私は私に、還ってらっしゃい」
 抱きしめるままに、今日を生きるアリスは昨日のアリスの残滓を吸い、捕食した。
 自らの過去を糧にすること、それは形こそ違えど、誰しもが日常的に営む行為に過ぎない。
『おーばーきーる、ね……』
 吸われ、あるべきトコロへと収まり逝くその顔が、どこか背徳的な喜悦に満ちていたことは、彼女達だけの秘密である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベスティア・クローヴェル
〇VP
命の蝋燭は昨日より短く、のしかかる罪悪感の重みは増すばかり
今の私は日々、確実に弱くなっている
勝っている点があるとすれば、昨日より今の私の方が痛みを知っている

攻撃を避ける必要はなく、全て受け止める
私が背負ったものに比べれば、あまりにも軽い
彼等の恐怖はこんなものではなかった
彼等の受けた痛みはこの程度ではなかった

だからこそ改めて思い出し、そして昨日の私に教えよう

全て受けきったうえで、残りの力を振り絞って剣で斬り、槍で突く
それでも届かなければ石片さえも武器として投げつける

この炎の痛みは、これから背負うことになる痛みだと
そして、明日の私は更なる痛みを背負うことになるだろう



●罪過の燃え尽きるほどに
 人は日々、過去に追われ、明日へと歩みを進めていく。
 一方で、進むべき未来を照らすために、刻々と命の蝋燭を縮めいていくことも、また事実だ。
「今の私は日々、確実に弱くなっている」
 人の盛衰を表すかのような様相のコロッセオに辿り着いた彼女、ベスティア・クローヴェル(没した太陽・f05323)の口をついて出た言葉は、今までこの地を訪れた者達とは少し毛色が違う。
 人狼たる彼女において、その命はあまりにも短いモノだった。
 ただの人間と比較してさえ短きその鼓動の続く時間、成したいことを為すにも事足りぬ猶予。
 されど、その短さをして、彼女を苛むには十分すぎる罪悪感が常に過去から迫りくることを、もちろん“彼女”も知っている。
『―――ああ、明日の私、か……まだ、燃え尽きてはいないのね』
 ゆらりと、幽鬼のように心ここに有らず。けれど、その姿もまた、一日の時間を違えただけの彼女自身である。
 ベスティアが、昨日の自分を殺しに来たことに何の意味があるかと問われれば、その真意はあまり言葉にするべき内容ではないのかもしれない。
 しかし、敢えて語るとするならば、それは―――
「今日の日も、まだ、積極的に死を受け入れる気はない。けれど、これは……うん、IFの物語なのだろう」

 彼女達の闘いは、否、自傷行為ともいえるソレは、言葉に表わしてしまえば一行で片付いてしまう出来事だった。
 全力を出し切り、全てを受けとめ、そして一方が潰えた、ただそれだけのこと。

 ベスティアが大剣を振るう。赤熱された太刀筋は銀色の髪を断ち、焦がし、恐怖を煽らんとする。
 ベスティアが突撃槍を放る。空気を裂く放物線は黒き外套を穿ち、焼きて、流血を促さんとする。
 ベスティアが片手剣で叩く。無骨な鋼の質量が柔い肉を削ぎ落し、骨打ち、痛苦を齎さんとする。
 ベスティアが、ベスティアが、ベスティアが!
「……あなたより、昨日の自分よりも。今の私の方が、より痛みを知っている」
 血を流し、肉を抉られ、骨を断たれ。
 痛めつけられ、苛まされ、まさに死へと追い詰められる彼女は。
 けれど、いま、生きている。
「私が背負ったものに比べれば、あまりにも軽い」
 炎槍が火を噴き、否と謳う。
「彼らの恐怖は、こんなものではなかった」
 焔は色を変え、緋から蒼へ。
「彼らの受けた痛みは、この程度ではなかった」
 罪を焼く熱量は、照らせど底の見えぬ地獄の影のように、黒へ。
「だからこそ、私。改めて思い出せ、これが―――」
 ぞぶり、と、黒檀の如き槍先が昨日の自分をとらえる。
 壮絶なる復讐を宿す漆黒の鋭鋒が、自らの過去を逃がさんと刺し穿つのであった。
「―――これが、私を死へと誘う罪の意識だ」
 轟と萌え出ずる禍炎が、大樹が根を張るが如く生え、育ち、めらめらと、昨日のベスティアの身を蝕んでいく。
 抵抗は、なかった。
 一切の容赦なく身を焼き、魂を焦がす黒き炎に抱かれて、彼女は、まるで本望とばかりに穏やかな顔をしていた。
『この炎……この痛みは、私がこれから背負うことになる痛み』
「そう……そして、明日の私は、更なる痛みを背負うことになる」
『皮肉なもの、今ここで潰えてしまえば、こんなモノ背負わずに済むのに』
 ぼろぼろと燃え滓の如く崩れゆく過去の自分に見つめられながら、ベスティアはとうとう膝をつく。
 痛みからか、失血からか、心を締め付ける重みからか、その真意は彼女の内に秘められたまま、ベスティアは血溜まりに倒れ伏した。
 それでも、生かされたが故に。呪いのような言葉を紡ぐ、吐き出していく。
「あなたが、過去の私が、今の私を殺すのであれば、それでも、よかった。けれど……そうはならなかった。あなたは、私を許してはくれなかった」
『……ええ、許せるはずがない。私は、そんな呆気ない死を許される生など受けていないのだから』
「うん……分かって、いる」
 豪炎に巻かれ、一片の塵も残さず消え逝く過去は、最後の言葉を、自らの明日へと刻みつける。
『忘れるな、私の命の灯が何のためにあるのかを。そして積み重ねていけ、今日消えなかったその灯火が照らしていくことになるだろう、何かを―――』

 炎は消え、過去もまた姿を消した。
 けれどそれは、今この時だけは、赤子のように泣きじゃくる彼女を責める者がいないことと同義である。
 自らの過去にさえ許されることのなかった彼女は、しかし、この先も自らの足で立ち、前へ進まなければならない。
 泣いて、泣いて、涸れ果てるまで。
 彼女の物語は、もう少し、続くことが定められたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

落浜・語

過去の自分、自分の写し身ときて、今回は昨日の自分か…
まぁ、やることはかわらないやな

昨日も今日も変わらないが…昨日は一日、一人で色々諸々やっていたっけか。
ってことで、人形の状態も変わらないし、そのまま扱ったところで同等だろうし、そのUCの欠点はよく理解している。
一つ違うことがあるとすれば、今日は一人じゃないってことかな。カラス、仔龍、手伝ってくれ。
向こうの人形は躱しつつ、昨日の自分へは仔龍の雷【属性攻撃】とカラスのドつきで躱せないようにけん制。
ある程度は糸で人形を操りつつ攻撃をあてに行く。
猟兵の仕事のときは、一人でやるもんじゃないってのは、過去の俺ならともかく、昨日の俺なら良くわかってるだろ?



●日々是ヲ語リ継グ
 コロッセオは自らが存在意義を賭して、闘う意思を持つ何者をも拒まず迎え入れる。
 それが人であれ、人ならざるものであれ、一切の区別なく。
「過去の自分、自分の写し身ときて、今回は昨日の自分か……」
 独り言ちる彼、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)もその例外ではない。
 物が長き時を経て意思を持ち、ひとりでに動き出したヤドリガミたる彼をすれば、重ねた昨日の数はこれまでに語られた者達を束ねてもなお足りないほどだ。
 されど、此度の闘いで重きを置かれるは一日の質である。
 良くも悪くも時の流れが多種族と異なる感覚に、果たして己の利はあるものかと首を捻るも、結局、彼は一笑に付すに至った。
「……まぁ、やることはかわらないやな。そうだろう、俺?」
『―――ああ、そうだな、俺。お互い不器用なのは分かりきったことさ』
 現れた瓜二つの似姿は肩を竦め、投げかけられた言葉に応じる。
 まるで今から世間話でも始めるかのような緩い雰囲気。
 しかし、その空気は、対なる白面の舞いによってぶち壊しになった。
 疾風を纏い独楽の如くクルクルリと回るソレは、語が有する文楽人形に相違ない。
 ならば、この状況を作り出したるは、端からそこでへらりとわらう語そのヒト達であるからして。
「ヒトの話もそこそこに襲ってくるとは、嫌われるぜ、俺?」
『まったくもってその通りだよ、俺。特大ブーメランだ』
「『俺達は、きっと、仲良く出来ないな』」
 へらり、へらりと、わらい合う噺家達。
 彼らの闘いは、もう始まっているのである。

(昨日も、今日も、変わらない……)
 悠久の時を生きるヤドリガミにおいて、意図した鈍感力というものはある種、心の免疫機構ともいえる。
 膨大な時の中で、僅かな喜怒哀楽の素に心を傾け続けていては、精神の器は尋常ならざる速度で摩耗してしまう。
 故に、出来事の取捨選択が自然と起こる……とは、限らないことも無いこともなかったりするからひとえには言えないのだが。
 ともかく、こと語にあっては、幸いにも昨日のことを思い出す程度は造作もなかった。
(……が、昨日は一日、一人で色々諸々やっていたっけか)
 超高速で駆動し、縦横無尽に自立制御で舞い踊る人形達に目を向けながら、語自身は十分な距離を置いて戦況分析に注力する。
『良いのかい、俺? 一つのことに夢中になっちゃっても』
「大丈夫さ、そう気にするな。俺のことは自分が一番よく知っているつもりだから」
 声とは真逆の方向から不意に飛来する戦輪を、自らの腕にはめた同じ物をもって弾く。
 奇しくもそれは昨今の語の身に、まるで鏡合わせにしたかのような寸分狂わぬタイミングで起こるのだった。
 互いの実力は伯仲、人形同士の性能も遜色なし。
 ともなれば、昨日と今日の差異だけが二人の明暗を分かつことになるのだろう。
 一人でいた昨日の語と、そうではないという今日の語、その違いは。
「さて……ズルいなんて言うなよ、俺、こればかりは時の運だ。カラス、仔龍、手伝ってくれ」
 呼びかけに応じて、語の襟元からは小さな鈍色の竜が飛び出し、空からは首周りだけが白いカラスが舞い降り、戦局を崩しにかかった。
『くそっ、ズルいなソレ!』
 変則機動の絡繰は既に人形同士互いをロックし合っている、これ以上の任はこなせないだろう。
 その状況へ、仔龍からの雷を孕む吐息と、カラスが繰り出す嘴と鉤爪による牽制が加わり、理詰めされていた戦場のパワーバランスが崩れる。
『ガ、ッ……!』
 たまらず体勢を崩した過去の自分へ、今日を生きる語はあと一手を詰めるべく奏剣を構え、そして―――
 視界を、黒が横切る。
「―――いや、まだ、駄目だな。助かるよカラス、お前が悪意に敏感で」
 攻め切ろうとしていた語の視線を遮るように、カラスがひと飛びしていた。
 振りかぶられていた奏剣はおろされ、直後に飛来した瓜二つの刃をかろうじて弾き落とすに至る。
『ちっ……目も耳も、六つもあったんじゃ騙しきれないよな、俺?』
「ああ、そうだな、俺。我ながら同情するよ」
 影腹に自ら傷を負い、呪法にて無理繰りに機を作らんと狙っていた昨日の語は、やれやれといった様子で肩をすくめる。
 一人の語であれば、肉を切らせて骨を断つ闘い方も一つの手段、為し得る策の一つだったのだろう。
 けれど、今日日の語はそうではなかった。ただ、それだけのこと。
 己を諫め、手を貸してくれる何者かがすぐ隣にいたという、大きからずとも埋めがたい差が昨日と今日を隔てたのだった。
「もっとも……過去の俺ならともかく、昨日の俺なら、良くわかってるだろ?」
 人形の自立制御を解除し、手動にて繰る今日の語。
 満身創痍の昨日の語は操作の余裕も無く、人形を自動迎撃のまま相対し、それはカラスと仔龍の連携によって僅かな間押し留められる。
 僅かな間、少しの差。戦いにおいて覆しきれぬその隙に、語自身が繰る人形の一撃が捻じ込まれる。
「猟兵の仕事のときは、一人でやるもんじゃない」
『応とも、仕事のとき以外も、な―――』
 キリキリと舞う人形の手刀に断たれながら、昨日の自分はへらりと笑い、満足げに消え逝くのだった。

 戦いを終えて、コロッセオを後にする語の肩の上、カラスは何やら不満げな様子で首を傾けながら、掴まる爪に割と容赦なく力を込めていた。
「痛っ……なんだよ、カラス、何か言いたげだな」
 フイっ、と、顔を背けるカラスの様子に、何か読み切れなかった事があったのだなと語は察しつつも、言葉の通じない彼らの間で真の理解が進むことはない。
 他方、すぐ傍で機嫌良さそうに宙を舞う仔龍についても、語からすれば何がどう機嫌良くしているのか、その心を完全には理解できずにいる。
 隣人とはかくも付き合い難しいモノだと思いながら、けれど、いつの頃からかそれでもいいかと思えるようになった語は、今日をいく。
 昨日の自分のかたりさえ十全には読み切れないのだ、今日を共に在る誰かを読み切り語り明かせるようになる日は、まだまだ先のことであろう。
 こういう時は頭を空っぽにするに限ると、噺家の習慣がうずきだす。
 喉を確かめ、空見上げ。ふっと湧いて出た口上を朗々と、語りだすのであった。
「さぁさ聞いてくんな、これより語りますは己がセンスに悩める一人の物語に御座います―――」

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月19日


挿絵イラスト