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迷宮災厄戦㉑〜スチームメトロで逢いましょう

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 ――1872番線ホームに列車が参ります、ご注意下さい。
 肉声のような、機械的のようなアナウンスが何処からか流れてくる。
 その国は蒸気が吹き荒れ、汽笛がけたたましく鳴り響いた。
 彼方から車輪の音が喧しくやってきて、止まり、そして通り過ぎる。
 四方八方に張り巡らされた金属の線路は常に列車が通りせわしなく稼働を続けていた。
 停車駅の数も多いのならば、その不可思議さに気付くだろう。
 意味を成さない路線の迷路。蒸気建築がちぐはぐ建ち並びまるで迷宮のようだ。
 不思議で可笑しな構造の大都会、その一角で。
 一人の女が本を片手にホームを歩んでいる。

「40、60、80の人間が卵を元に戻せなかったというのに」
 豪奢なドレスを身に纏い、進むその先蒸気を引き連れる。
 肩に着飾る蒸気機関は煙たい音を奏でて女を白く包んだ。
「一体何人の猟兵でわたくしを止められるというのでしょう」
 赤い薔薇咲く上質な帽子、黒いヴェールの下で美しい唇が弧を描く。
 ――1930番線に停車中の列車は、アルダワ魔法学園行きです。
 アナウンスが聞こえた。猟書家の淑女は微笑み一つ、とんと軽やかに地を蹴って。
 蒸気の獣が縦横無尽に走り交う狂乱の線路上へと、降り立った。

「わたくしは父様の想いを継ぎます」
 恍惚の表情で、豊かな胸を撫で宣言する。
 あの地には、大魔王である父の無念が入り組み渦巻いているだろう。
 アウルム・アンティーカの『卵』であった、己が次の厄災と成るべきなのだ。
 その為に。大事故の妨げに成る者達を排除しなくては。

「わたくしはここです。早く、逢いに来てくださいね」

●猟書家『レディ・ハンプティ』
「絶対、絶対止めないとだめなのよ!」
 ガタガタと卵が揺れている。否、卵の殻のような大きな帽子が。
 その下に隠れ気味の顔を上げ、リルリトル・ハンプティング(ダンプディング・f21196)は声を張り上げた。
「アリスラビリンスだって戦争で大変なのに、猟書家達は他の世界にも迷惑をかけようとしているのよ!」
 許せないのよと興奮気味に騒ぐ娘は勢いのまま手を目の前に差し出す。
 反面、卵のようなグリモアはふわりと緩く浮かび上がった。
「皆にお願いしたいのは『レディ・ハンプティ』よ、すっごく綺麗なお姉さん……じゃなかった倒さなきゃいけない猟書家なのよ!」
 オブリビオン・フォーミュラから力を奪った猟書家達を野放しにすれば、他の世界への影響は深刻なものとなるだろう。
 少しでも此処で食い止めねばならない。
「レディ・ハンプティが今いるのはすっごい賑やかな所よ。蒸気がぽーって、汽笛がぱーって!」
 大振りな動作で説明しているが、興奮気味なのか状況説明がいまいちだ。
 誰かに言われて何度か深呼吸するグリモア猟兵。やがて、落ち着いたかうんと一つ頷いた。
「あのね、とっても沢山の建築物と。迷路みたいな線路がいっぱいある所なのよ」
 複雑怪奇に建ち並ぶ建造物に地面を埋め尽くすような線路は圧巻だという。
 ターゲットは、摩訶不思議な列車が何本も通過する線路上で猟兵を待ち構えているそうだ。
「気をつけてほしいのよ。相手は蒸気獣って怪物を乗せた列車を喚び出したり、蒸気の力でとっても強くなったりするの」
 蒸気って凄いのね! 等と感心しかけた少女が、はたと我に返る。
「あと胸の下に大きな口があるのよ、こうねがばーって開いてぱくーっと食べちゃうの!」
 身振り手振りで説明する辺り、またテンションが上がってる様子。
 凄く早いから気をつけてねと注意も添えた後にもう一度大きく深呼吸する。
「……うん。それでね、待ち構えた相手から先制攻撃が来るのよ。ばっちり対応したら、有利になれちゃうんだから!」
 かならず来る敵の先手に対抗することができれば、有利に事が運べるだろうとリルリトルは力説した。
 彼等を見送る瞳に迷いはない、にこりと笑った後卵頭はぺこりと丁寧にお辞儀する。
「よろしくおねがいしますなのよ。さぁ、行きましょう! 世界が割れてしまう前に!」
 グリモアの卵が花開き、世界を蒸気の都へ変えていく。


あきか
 お世話になりますあきかです。
 アリスラビリンス戦争シナリオ一つは届けたく参上しました。

●執筆について
 プレイング受付開始のご案内はマスターページにて行っています。
 お手数ですが確認をお願いします。

●シナリオについて
 純戦闘シナリオになります。
 でたらめな線路が敷き詰められた場所での戦闘です広いです。
 たまに魔導列車が通る気がしますが動く障害物程度と認識下さい。
 ダメージは全てレディ・ハンプティからになります。

●プレイングボーナス
『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』とボーナスが付きます。
 使用ユーベルコードと対応する敵のユーベルコードをご確認下さい。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

蘭・七結
ご機嫌よう、うつくしきひと
かの大魔王の意志を継ぎしもの
あなたの往き先は、かの魔法学園かしら
あの世界の魔法も文化も
学園に住まう人々も、とてもすきよ
新たなる災厄を払ってみせましょう

ひいらりあかを零す幽世蝶のランに目配せし
わたしとあなた
ふたりの身を護るオーラ防御を纏わう
魔導列車の様子見はランにお願いをしましょう

絢爛なドレスに潜む鋭利な牙たち
大きく開く口を限界まで見切って
あかい袖口に秘めた猛毒の香水瓶を放りましょう
すべて呑み込まずとも構わない
融解の毒で牙を蕩かせたなら僥倖よ
とっておきのお味は如何かしら

ぱくりと喰べてしまうお口には
あかい花の嵐をぎゅうと詰め込みましょう
あなたの身が爆ぜないと良いのだけれど



●あかゐ線の蝶結び
 ――421番線から、列車が参ります。
 黒の貴婦人が待つレール・ホールにアナウンスが流れてきた。
 蒸気を引き連れ、到着する機関車。見守る女のルージュが笑う。
 あかいろ混ぜた客車扉がゆうくり開き、煙を散らす花車なつま先前に出て。
 異形の車掌が恭しく頭を垂れる先、少女が戦場へと踏み出せば。
 あゝかの姿、白の衣に纏うくれなゐは――あまりに鮮やかだった。
「ご機嫌よう、うつくしきひと」
 けたたましい空に、ひとすじの春が舞い降りる。
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)が微笑んだ先、レディ・ハンプティもまた笑っていた。

「かの大魔王の意志を継ぎしもの、あなたの往き先は……かの魔法学園かしら」
 金属のフロアを優しく歩む。そうと話したやわごえは、列車が何処かへ走り去っても良く通る。
 優雅な女がそうと応えても、淡い足取りは変わらない。
「あの世界の魔法も文化も。学園に住まう人々も、とてもすきよ」
 だから此処に来たのだと、告げる代わりに指先ひとつ戯れて。
 するりするりと描いた軌跡、こゝろに紅い奇跡を結んで描き出すは花一華。
 おんなじ色の爪紅へ、ひらりひらりとつがいを一羽とまらせた。
「新たなる災厄を払ってみせましょう」
 いっとうきれいに笑って魅せる出会いは、僅かな間だった。
 高らかな汽笛の音、二人の間を魔導列車の幕が曳かれていく。
 激しさにひとつも動じる事も無く、愛一華の瞳が蝶々を映して艶やかに瞬く。
 わたしとあなた、ふたりを護る素敵な秘め事を掬んでおきましょう。
 確かな約束交わしたら、こひつがいは真白な身で不可思議な天へと舞い上がる。
 やがて最後の車両が過ぎ去った、その瞬間。
 七結の視界を覆い尽くさんとする黒が、蒸気を纏って飛び込んで来た。
 でも魅惑の眼差しは絢爛なドレスも、鋭利な牙も鮮やかに囚え続けていて。
 もっと、もっと、もういいかい。もうすこし。
 たおやかな指先はあかい袖口にかくれんぼ。
 限界迄待ち望み、少女を食らう寸前の暴虐へ。
「――ああ、よい香りですね」
 加害者の貴婦人が朗らかに呟いた先で、放り込まれたのは余りに美しい香水瓶だった。
 バリンと砕く戀慕の器。引く手間に合わず白肌に朱い花弁散ろうとも、僥倖僥倖。
「とっておきのお味は如何かしら」
 冠する牡丹一華がわらう。すべてを蕩かす想いをあなたに。
 盲目に、朦々と、猛毒がいけない牙を美味しく溶かした。

 驚き開く狂乱の口から、蒸気ではない煙が上がる。
 嗚呼それでも、未だ鋭利な部分が在るのなら。
 ぱくりと喰べてしまえば好いと滴る口が残酷に開く。
 うつくしきひとの胸奥へ、まなくれなゐはあげられないと謂うのなら。
 代役と差し出す、まな紅の華颰。
「みつめて、繹ねて……あなたの身が爆ぜないと良いのだけれど」
 あかい花の華やかな嵐を、ぎゅうと詰め込みたんと召し上がれ。
 丸呑み口が嵐を孕み、もう要らないと身を震わせ蒸気を吹き出す。
 吐き出された白煙の衝撃に少女が弾かれても、女が後を追うことは無かった。

 ひらり寄り添う幽世の蝶々を、変わらぬ眼差しで出迎える。
「ラン」
 まなうらに宿りし彩を、朱い雫滴る指先で受け止めて。
 心配そうな番いへ約束が護ってくれたからと目元緩ませ心を通わせた。
 その笑みを、遠くのレディ・ハンプティへも贈り届けたのならば。
 再びの騒音、列車が喧しく眼前通過した後には……もう。七結の姿は消えていた。

「ごちそうさまも言わせてくれなゐのですね」
 口端のあかを拭い取り、くろい淑女はそうと笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

草野・千秋
駅は何人もの人が行き交う場所といいます
多数の人の巡り合わせがある場所
レディ・ハンプティ、あなた……いやお前を行かせはしない
父親への想いがあるのかもしれないが
僕達猟兵はそれを理由にお前を逃したりはしない
正々堂々勝負を申し込む!

POWのUCに対抗
勇気でこの戦いを成し遂げてみせる

ヒーローであると名乗りを高らかに上げて敵を挑発、存在感で敵を惹き付け
UCで飛び回り蒼のビームを放つ
スナイパー、空中戦、2回攻撃で30cm以上の距離を取り敵を撃つ
攻撃は視力、第六感、戦闘知識で避けようと
味方がいれば即かばうことが出来るように臨戦態勢を取る
自身に攻撃が当たるなら激痛耐性で耐えぬく



●線場を翔ぶ蒼き勇
 ――1504番線から、列車が参ります。
 身形を整えた淑女がドレスを翻し、アナウンスの方へ向き直る。
 到着した次なる列車、煙突から吹き上げた蒸気が車体を包み動輪に巻き込まれ拡散していく。
 その先、客車の蒼い装飾扉が開くと同時に白い煙が人影を映した。
 刹那伺えたのは眼鏡の奥に橄欖彩る瞳を秘めた優男だった、ような。
 再びスモークカーテンが彼の身を隠した途端、穏やかな流れは荒れ狂い中より一人が勢い良く跳び上がる。
 空高く、一回転。陽光に腰元照らされた瞬間魔導列車の頂きへひとすじの雷が鳴り落ちた。
「駅は何人もの人が行き交う場所といいます。多数の人の巡り合わせがある場所」
 声の主がゆっくりと立ち上がる。その出で立ち、蒼銀に黒のボディアーマーが狂った世界に輝いて。
 彼の誇りを示す勇ましきヘルメットの奥、青いバイザーで覆われた眼差しは強い意思に満ちていた。
「レディ・ハンプティ」
 微笑み湛える黒の貴婦人へ、完全戦闘形態へと変身した男が高らかに宣言する。
「あなた……いやお前を行かせはしない」

「断罪戦士ダムナーティオー推参! 悪を駆逐する!」
 草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)の名乗りが存在感を魅せつけた。

「お前に正々堂々勝負を申し込む!」
 ならば真っ向から。猟書家淑女は線路に蒸気を残して舞い上がる。
 待ち構えていた美麗な獣は挑発者へとうに狙いを定めていた。
 わたくしはここです。そう、囁いても届きそうな距離で口を開けるは禍々しさ。
 齧り付く異形、汽笛を超えた金属音。一瞬の波乱は蒸気に囲まれあやふやと化す。
 間も無く、白煙を突き抜けたのは鋼の『ヒト』であった。
 高視力で瞬時に状況を把握し、少しの被害で牙の範囲から離脱する。
 大都会を、月の彼方へも飛ばんとする勇姿に蒼い翼が噴き上がり戦場へ燦めく羽根を散らしていった。
 臆せず戦地へ躍り出るヒーロー、それを逃す筈も無く。
 走り始める列車を蹴って、綺羅びやかな女もまた大空に暗きドレープを泳がせた。
 蒼のスナイパーが放つ光線を、黒のレディが軽やかに交わし接敵していく。
 レールの迷路を超え、飛翔戦士が辿り着いた先は聳え立つ蒸気建築の壁。
 迷わず真横に着地してから、間髪入れず飛び跳ねる。
 僅かの間滞在した其処は、大きく開けた怪物の口によって無残にも抉り取られてしまった。
「父親への想いがあるのかもしれないが」
 数多の戦場で得た知識と感覚で空中を駆け抜け、摩訶不思議に建ち並ぶ機構を足場に跳ね回る。
 建物の合間からビームの連撃を放つ精密さも発揮しながら、零した声は冷静で。
「僕達猟兵はそれを理由にお前を逃したりはしない」
 計算尽くして距離を取り、美しくも恐ろしい猛攻に怯まず立ち向かう。
 何度も正義の光が鮮烈に放たれ、悪魔の刃が周囲を巻き込み喰らい付く。
 対極する二色の力がぶつかり合い、鳴り止まぬ戦乱の二重奏を奏で続けた。
 轟音を伴い破壊された蒸気建築。そして男は、瓦礫より飛び出した婦人の姿に勝機を見出す。
「勇気でこの戦いを成し遂げてみせる!」
 頑強な拳を突き出し、狙いを定める。ガントレットが奇跡の力を纏い輝きを増していく。
 己が元へ急接近する貴婦人の、奇怪な大口へ一斉発射を叩き込む。
 宙での衝突は激しい閃光を生み、眩い光景の中蒼い雷光が地へ落ちていった。

 激しく咳き込む胸下の口を撫でながら、レディ・ハンプティはふらり線路の戦場へと舞い戻る。
 見渡す視界に、千秋の姿は何処にも無かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

楠樹・誠司
『冬に野原が白い頃
君の為に此の詩を唄おう――』

鐘が鳴る
出立を告げる其れが
あゝ、余りにも『鳴り響き過ぎてゐる』

――出でませ、《火車》
迎え撃つ必要は無い、飛べ!
燃え盛る車輪に足を掛け乗り上げる
疾駆する魔導列車の軌道から逸れ
宙へ舞い上がり乍ら刃を引き抜き接敵を試み

御機嫌よう、卵の貴婦人よ
貴女に望みが有るやうに
私にも託された願ひが御座います

二手目以降は残像交え
初手の軌道を踏まえて見切り
火車を足場にした侭薙ぎ払いによる一閃を見舞ふ
胸元の顎が大きく開くならば、一息に刃を突き入れませう

私は、たゞ……未来ある命が
御心の儘に笑つて、涙を流せる世であれば良いと願うのみ

ですから――其れを脅かす貴女を、此処で止めます



●火線映ス琥珀ノ彩
 ――22634番線から、列車が参ります。
 解れた帽子、広がるレエス越し。おんなは次を待ちました。
 奔る動輪火室を燃し、汽缶が蒸気を拵え乍ら。
 陸蒸気と呼ば無くひさしい其れが果てなき路より濛ゝ白くやつて参りました。
 琥珀彩る旧型客車の立派な扉が静かに開き、下車を行つたのは独りのみ。
 襟を正し軍帽に礼儀を示す、慇懃なる佇まい。
 おとこは『シジマ』と呼ばれてをりました。

 視界総てに、異国の光景が描かれる。
 楠樹・誠司(静寂・f22634)は一度、線路上にて脚を止めた。
 移る視線、肩章に金色の淡い欠片が触れ消えたような感覚がして。
 ほんのひととき、鳥瞰の奥で双眼を僅か狭くした。
(冬に野原が白い頃。君の為に此の詩を唄おう――)
 森が萌え、日が長くなり、葉の萎れる秋も含め幾度幾度も巡り征き。
 永き在り続けたカミの胸に綴られる詩篇は、決意の証。
 向き直る真正面。静寂が歩む、黒い女が待つ戰場へ。
(……鐘が鳴る)
 真後ろの音は、己を降ろした見送りの汽笛。直ぐに遠くへ消えて征く。
 出立を告げる其れが、この国の常なら東西南北何処からでも。
 否。――既に戦は始まっていた。
(あゝ、余りにも『鳴り響き過ぎてゐる』)
 けたたましい音、其の正体。本持つ貴婦人が綺麗に笑う。
 唯悪戯に四方八方疾走り抜ける物共とは違う、明確な殺意を伴う轟音が近付いて来る。
 迫る黄金、蒸気の獣が仰山乗り込み不快な鐘をカンカン叩いた。
 たった一人のひとがたを轢いて仕舞う、その為だけに。
 違わぬ暴力の剛速を前に、誠司は精悍なる樹の如く立ち続け。
 やがて、口のみを開いた。
「――出でませ、『火車』」
 招く黒は猫の群れ。喰ろうた霊力に焔が応え、燃え盛る車輪がレールを弾いて火花を散らす。
 衝突間近の強風受けても尚消えぬ業火に足をかけ、おとこは息を多く吸い込んだ。
「迎え撃つ必要は無い、飛べ!」
 将校の号令で軍は動く。刹那の交差は残火へ向かう魔導列車の姿のみ。
 疾駆する軌道から逸れ宙へ舞い上がる花車と猟兵。
 既に、剣豪は鯉口を切っていた。

「御機嫌よう、卵の貴婦人よ」
 蒸気獣の悦びを超え、大空の中猟書家へと接敵す。
 見上げる貴婦人は何処までも優雅であった。
「貴女に望みが有るやうに、私にも託された願ひが御座います」
 抜刀する覚悟の刄。燃ゆる亡霊を翔ぶ術に、焔纏て一閃見舞う。
 それを女はうつくしき笑顔一つで退いて観せ、代わりと黄金列車を再会させる。
 而して二度轢いたのは、『シジマ』が残した現象だった。
「私は、たゞ」
 煩き軌道は初手にて看破済み。火車操り男は婦人を追い詰める。
「未来ある命が御心の儘に笑つて、涙を流せる世であれば良いと願うのみ」
 ひとを慈しむヤドリガミが描く想い。其れを、現実と成す為に。
 澄清が届く数秒前、豪奢なドレスの中央で禍々しい顎が大きく開き迎えようとも。
 貴女は割つてしまわなければ。
「ですから――其れを脅かす貴女を、此処で止めます」
 臆せず一息に刃を中へ、信念強く突き入れた。

「ああ、想いの強さはなんと素晴らしいのでしょう」
 一太刀受けた魔王の娘が朗々謡う。わたくしも想いは、強いのですと。
 おとこが気付いた時には、周囲から災魔が悪意を以て降り注いでいた。
 力の限り刄を引き抜き即座に薙ぎ払う。散り散る霊の隙を付き距離を取っ、て。
「――!」
 琥珀の視界を、不気味な黄金が埋め尽くす。
 魔導列車が火車ごと誠司を飲み込み――けれども。
 過ぎ去った線路上には彼の残像すら、存在していなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アネット・レインフォール
▼静
プラットフォームなら元の世界へ至る列車もあるのだろうか…。

…しかし、あの魔王に娘がいたとはな。
目のやり場には少々困る気もするが。

何にせよ、敵がそのグレネードを炸裂させるつもりなら
こちらも相応に対応するのが礼儀というものだろう。

▼動
事前に念動力で刀剣を周囲に展開。
対策としてそれを足場に上空へ逃れつつ
空中戦を仕掛ける準備を。
結界術による障壁も無いよりマシだろう。

霽刀と式刀を手に一閃し、他の刀剣も投射して手数で攻めよう。
必要なら葬剣を蛇腹剣にし絡ませる事で足止めも。

折を見て突き技である【黒鵺】で貫通攻撃を放つ。
今回は竜ほど巨体という訳でもないので
威力を抑える事も留意しておく。

連携、アドリブ歓迎



●地平線に黒と望郷
 ――1254番線から、列車が参ります。
 黒い豪華に傷色滲ませても尚、華麗な婦人の笑みは崩れない。
 到着の声が木霊する視界に入って来たのは漆黒の機関車一本許り。
 開く客車扉、揺らぎ拡散する蒸気の中を男の足が迷い無く進む。
 アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は降り立つと先ず、戦場を見渡した。
 整合性の無いレールの大地、ダイヤの狂った車両共が此処彼処で通過する。
 乱立する蒸気建築と遠くのターミナル駅にも視点が行く。
 あのホームの数なら、何処へでも征けそうだ。
(プラットフォームなら元の世界へ至る列車もあるのだろうか……)
 首元巻いた、今は黒に染まる長布を無限の風に靡かせて凛と立つ男は目を閉じた。
 眉裏描く幻想を、辿る路は在るのだろうか……でも今すべき事は唯一つ。
 開く視界、向き直る先。境界線に立つ者は、光を遮る影のようだった。

「……しかし、あの魔王に娘がいたとはな」
 男女の距離は少しずつ狭まっていく。故に、倒すべき敵の容姿も詳細になってきた。
(目のやり場には少々困る気もするが)
 何かと云えば豊満な。但し侮る事無かれ、僅か下に潜む装りは凶暴だ。
 存分に理解しているからこそ、剣の異邦人は愛刀に手をかけ間合いを測る。
 そして、彼の武器はそれだけに留まらない。
「何にせよ、敵がそのグレネードを炸裂させるつもりなら」
 呟く言葉に力が宿る。一瞬、アネットの周りで不自然な風が発生し襟巻きの先が乱れた。
 同時にレディ・ハンプティが進撃を開始、機関車の如き衝撃を以てやってくる。
「こちらも相応に対応するのが礼儀というものだろう」
 顫動する胸下の牙。接敵3メートル、2、1……口が大きく開いて飛びかかった猟書家に、猟兵は力強く跳び上がって回避した。
 翼無き翔であれば、この大口で受け止め喰ろうてやろうと女が見上げる。
 大空を背に視たものは、銀翼刻んだ一振りの刃だった。

 見事な黒剣を足場に男が再び跳躍する。次に彼の着地点と成ったのは翼刻の白き大剣で。
 紫水晶を飾る儀礼剣に到達した時に剣豪は抜刀を行った。
 青の刀焔の大太刀携えて、空中を舞う姿は正に武人。
 冷静に狙いを定め放たれるのは研ぎ澄まされた一閃、紙一重で婦人は避け再会の距離に喰らい付く。
「――!」
 果たして攻撃は展開された結界にて勢いを殺され丸呑みは叶わなかったものの、障壁を食い破りダメージを与えたのは魔王の娘が強さなのか。
 だが食い千切る迄には至らない。思わぬ方角からの斬撃に条件反射で距離を取る。
 蒼の戦斧が、花の槌が、かつての仲間達が振るっていた刀剣が今の主の窮地を救った。
 更に体勢を立て直す敵の動きを黒騎士の眼差しは逃さない。
 正確無比に操る葬剣が蛇腹と化して獲物の次なる行動に制限をかけた。
 刹那、膨れ上がるアネットの闘気。己が命を切っ先に乗せ構えるは唯一無二の形。
「参式・黒鵺」
 黒き覇気が異形の妖翔ける力と成り、一直線に標的へと向かっていく。
 威力は抑えたものの、寿命を賭した一撃は胸下の深淵なる口で受け止めきれず女に身体を捩らせた。
 胸下の口端から脇を貫通するのを見届けて、異邦人は線路上に膝を付く。
 念動力で相棒達を回収後、是迄とばかりに両者の間を蒸気機関車が通過した。
 探し求める地平線は未だ視えず。彼を再び導くのは、今世に輝くグリモアの光。
(いつになったら元の世界に戻れるのやら)
 一旦途切れる意識の中で。そう、独り言ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・ユメノアール
アルダワはボクの師匠の故郷なんだ!
大事故なんて絶対起こさせないよ!

数では圧倒的に向こうに分がある……なら、頭を狙うよ!
『トリックスターを投擲』して災魔たちを攻撃
近くの敵を優先して狙い、軽業のような動きで攻撃を躱しながら少しでも多くの敵をこっちに引き付ける
そして、十分敵を引き付けた所でUC発動

ボクは手札から【SPカップスワッパー】を召喚!
さらにカップスワッパーの効果発動!
ライフを消費する事で自分と相手ユニットの位置を入れ替える!<天地鳴動>!
レディ・ハンプティに一番近い敵と自分の位置を入れ替え、そのまま接近して攻撃!
今が勝機!『ワンダースモークを投擲』して視界を塞ぎ、トリックスターで一閃する



●虹色導く道化線
 ――4735番線から、列車が参ります。
 その機関車飾る極彩色へ、脇腹抑えた女があらと軽やかな息を零す。
 賑やか汽笛をBGMに、サーカスのような列車が愉快にやってきた。
 ご機嫌な扉がどーんと開けば蒸気に似た七色の演出が吹き出し周囲を楽しく彩っていく。
 さぁ舞台は整った、登場して頂こう。
 本日公演行う道化師、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)だ!
「はーい! よろしくねー!」
 ピンクの柔髪弾ませて、クラウンスマイルが元気いっぱい炸裂した。

 ショーのスタートは軽快に飛んでひらり空中大回転。
 ブランコ無くとも悠々空を舞って演者はステージに降り立った。
「アルダワはボクの師匠の故郷なんだ!」
 見据える先へあくまで声は明るく表情豊かに、投げた言葉は真剣で。
「大事故なんて絶対起こさせないよ!」
 白手袋で示す動作に決意を秘め、ここに来た理由を余す事無く訴える。
 であれば始めましょうと独りのオーディエンスも舞台へ上がり蔵書を開いて術放つ。
 見る間見る間に大盛況、ただし出現したのは喝采を贈る客ではない。
 騒がしい悪霊を乗せた黄金の塊が、驚異のスピードで本持つ女の背後に停車した。
 禍々しき絢爛のあらゆる箇所から災いを齎す蒸気の獣が這い出てくる。
(数では圧倒的に向こうに分がある……)
 このシチュエーション、どう演りきり乗り越えるべきなのか。
 道化の心は冷静に物事を見極めていた。
「なら、頭を狙うよ!」
 両腕伸ばし、一旦手先を握り込む。
 再び開いた指の間全てに派手な装飾の黄金刃が連なった。
 ダガー投擲なら得意事、狙うリンゴは我先迫る最前の敵だ。
 勢い付けて投げる仕草も彼女がやるならエンターテインメント。
 見事なフォームで的に命中、悲鳴は称賛と受け取りましょう。
 憑いたファンのあしらい方だってお手の物、曲芸師の本領発揮と身軽なダンスで翻弄していく。
 天高く飛んでバク宙軽々アクロバティックに、過ぎ去る蒸気機関車だって乗り越えて魅せる。
 車両の幕が退き行けば、蒸気獣達へ再び飛んでくトリックスターが金の軌道を数多に描いた。
(少しでも多くの敵を)
 無数の攻撃に多少の被害受けつつも、引き寄せ惹き付け足先鳴らし軽業の動きで注目を集め続ける。
 やがて辿り着いた蒸気建築の厚い壁。退路が塞がれ大ピンチだ。
 野蛮な悪霊じりじりと。絶体絶命だがそれが、十分客を招いた道化の見せ場到来を告げている。
 変わらぬ最高の笑顔がまま、フェルトは手札を選び出す。
「千変万化の動き、キミに見切れるかな? 現れろ!」
 喚び声応え、背後の壁からずるりと顔出す紳士な悪魔が不気味な顔を晒してみせた。
「SPカップスワッパー、効果発動!」
 生命賭したパフォーマンスの幕開けと、奇術師が不気味な手で持つステッキを操る。
 出現した大きなカップに桃色のエンターテイナーをすぽっと隠した。
 種も仕掛けもございません、暴きたいならご自由に。
 一斉に襲いかかる幽霊達が倒したカップの中は、同類一匹居るのみだった。

「『天地鳴動』大成功!」
 入れ替わった道化師少女は眼前のレディ・ハンプティへ色とりどりな球を投げつける。
 婦人が本で振り払った瞬間カラフルで不思議な煙が大爆発、蒸気の白を凌駕した。
 塞がる視界に暗躍し、最後の黄金で華麗に一閃!
 確かな手応え感じたら、さあさ皆様終幕ですよ。
 獣共が再び集まる前にとフェルトはもう一度虹色煙幕へ飛び込んだ。
 後は煙のように、ハケるだけ。

成功 🔵​🔵​🔴​

榎本・英
知っているさ。
嗚呼。知っているとも。
私は君の父上を知っているね。

さて、レディ。
列車の上で起こる殺人事件と
列車に轢かれてしまう事故と
君は何方がお好みかな?

私は君の父上に感謝をしているよ
君の父上と対峙する事で、私は己と向き合う事が出来た

先制攻撃の対策
嗚呼。そうだね、列車を利用しよう。
丁度良いタイミングで此方に来てくれるとは思っていないさ。
だから、逃げて
列車に飛び乗る。

私と彼女の境に列車が来るように陣取り飛び乗る
私は人だ
君のような素晴らしい力も何もかもを持ち合わせていない

だからこそだよ
使える物は使うのさ

嗚呼。その柔らかな口で私を喰い殺すのかい?
それも良いね
けれども獣達はそれを望んでないらしい

行こう



●とびゐろ結ぶ打消し線
 ――22898番線から、列車が参ります。
 蒸気建築のトンネルを抜けた先は、厄災の国でした。
 あかに茶を足す機関車がガタンコトンと音を立て、手を擦る女の近くに停車する。
 開く扉を見届けて、窓際の男がゆっくりと立ち上がった。
 緩い足取り戸に手をかけがてら、見送る異形の車掌へ会釈を一つ。
 赤茶の柔らかな髪が異国の風に撫でられて。
 蒸気と線路の道へ、ひとりは確り一歩を踏み出した。

 到着を、欠けても尚美しい黒のドレスにブラストパイプを着飾る女が出迎える。
 眼鏡の奥で見据える視線。彼女は確か――目的の為に、何と云っていたか。
「知っているさ」
 レトロな町並みの一角を歩み過ぎる、通行人Aの如き出で立ちが穏やかに零す。
「嗚呼。知っているとも」
 捲る記憶に婦人が欲した無念の主は確かに綴られていた。
「――私は君の父上を知っているね」
 彼が。平凡な日常歩む風貌が迷宮の最下層に君臨した大魔王に出会えたと。
 壊れかけの胸元に手を添え、黒い淑女は恍惚を極めた。
「私は君の父上に感謝をしているよ。君の父上と対峙する事で、私は己と向き合う事が出来た」
「ではあなたを喰らえば、父様の正体を味わえるのですね」
 傷塗れの笑みが、始まりを告げる合図だった。

 手負いだろうと未だ鋭利に蠢く胸下と伴に、猟書家はレール・フロアへ躍り出る。
 けれどもダンスの相手は柔和な表情一つして、踵を返し逃げていく。
 あら鬼ごっこですね。愉しげな女はステップ軽く追い駆ける。
 線路を超えて、鬼さん此方。向かった先は改札口。
 切符無しでも構わず抜ける。無人のホームで男は一度、アナウンスを聞いていた。
「さて、レディ」
 白線の内側で向き直る。追い詰められた顔にしては、余りに穏やかで。
「列車の上で起こる殺人事件と、列車に轢かれてしまう事故と。君は何方がお好みかな?」
 次の瞬間、彼は境界線を大きく超えて向かいのホームへ跳び移った。
 一呼吸後に走る女の眼前で、丁度列車が到着し二人を遮る壁と成る。
 扉が開いたのはひとの方。飛び乗り間も無く、発車を告げるベルが鳴った。

 誰も居ない客車を進む。後ろで、激しい破壊音が響き車体が揺らいだ。
 振り返れば齧り取った一部を飲み込み迫る女が笑っている。
「嗚呼。その柔らかな口で私を喰い殺すのかい?」
 それも良いね。けれども――続く言葉は彼女の口に遮られる。
 然し其れは推理済み。バックステップで難なく退き、大きく抉られたのは連結部。
 繋がり切れた端同士、距離はすぐに広がった。
「私は人だ。君のような素晴らしい力も何もかもを持ち合わせていない」
 だからこそ、だからこそだよ。女の父親と戦った人間が言葉を線路に落としていく。
「使える物は使うのさ」
 勢い失う残骸から跳んで来る姿を尻目に動かす脚は客車の奥へ。
 女が大口開ける度、客席盾に防いだり。客車結びを何度も切らせて距離を稼ぐ。
 それでも止まない猛攻ならば、多少の傷は覚悟の上だ。
 頬を伝うあかいろ構わず走り抜け、最後の連結残るは蒸気撒き散らす機関車のみ。
 客車との連結全て食い千切り、レディ・ハンプティが顔を上げたその先で。
 伺えたのは、紅で彩る壮絶な眼差しだった。
「けれども――獣達はそれを望んでないらしい」
 文豪が綴る物語。情念が一枚一頁重なって、成した獣が手を伸ばす。
 不安定な足場で驚く女の隙間へ、指で線引き壊してみせた。

 孤独な機関車が一人を乗せて奔り去る。
「行こう」
 榎本・英(人である・f22898)はそうして、還っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティア・メル
やっほー!綺麗なお姉さん!
んにーそっちに行かれると困るんだよ
もっともっと色んな世界が知りたいから

身に纏っていた沙羅の華夢
近付いてくる彼女に一瞬でも隙を作ればいい
理に反する数多の花びらに再度重ねる
ひい、ふう、みい

自身を回復させておいて
この列車をぼくにとって好ましいものにしちゃう
深海に転じ誘惑蕩け捕縛する
見聞きする全てが幻
希を夢魅、溺れててよ
もう何も出来ないんだからさ

支配された事実すら認識させないよ
夢幻に沈む状態異常を強化
存在のひとひらも渡さない

キャンディ・クロスは毒呪持つレイピア
理想の舞台を悠々游ぐ
刺し貫くは甘やかな馨の中で

君に、ぼくも他の子も世界も
欠片たりともあげないから
なんて、聞こえないかな



●水平線は夢幻の海柄
 ――26360番線から、列車が参ります。
 アナウンスより後から聞こえて来た音は、常と少し変わっていた。
 しゅー、ぽっぽー……こぽり。
 吹き出す蒸気に泡の響きが交じって柔らかく弾けていく。
 立ち上がったレディ・ハンプティが見たのは白い球を出す蒸気機関車だった。
 シャボンの如く繊細な飾りを添えて、停車した客車の扉がするりと開く。
 酸素の海へふわりと、濃桃に藤の陰を染めた小柄な娘が飛び込んできた。
「やっほー! 綺麗なお姉さん!」
 純粋無邪気な笑みは心から。淡い輪郭に可憐な欠片が寄り添い彼女を彩る。
 ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)の声は今この国で一番、甘美だった。

 ぷかりちゃぷん、海底散歩を楽しむようにレールの道を歩んでく。
 紫彩の女が周りだけ、陸に居ながら水中を想わせる曖昧さを孕んでいた。
「んにーそっちに行かれると困るんだよ」
 幼子の声色にも、梅の似合う女性にも聴こえる聲がやわい波になって伝わっていく。
「もっともっと色んな世界が知りたいから」
 辿り着いた黒い猟書家へ告げた、拒否の理由。
 身に纏う沙羅の華夢がはらはらと無限の飾りを添えていた。
 ならば止めてみると良い。返答は声の代わりに開く大口胸下で、一気に襲いかかってくる。
 避ける術より狙うは一瞬の隙を。理に反する数多の花びらを幾重も生み出し迎え撃つ。
 青空に、ソーダ水の泡が舞い散った。
「あらあら」
 二つの意味で、蒸気纏う婦人は声を零す。確かに喰らいついたのに、赤い手応えが僅かも無くて。
 それと口内に感じる、命を刺激する味を含んだ――炭酸の刺激。
 淡桜のセイレーンが欠けた身体で綺麗に笑った。
 ほんの僅かな疑問が勝機を生み出したのであれば、惑わせられる。
「ひい、ふう、みい」
 数え歌みっつ、唱えて囚える。
 いつの間にか世界が揺らめいて。気付けば其処は、ティアを運んだ列車の中だった。
 否、それすらも不確かな感覚で総てが全てを支配する。
「涯の海へ還す沙羅双樹、甘やかな馨を伴に」
 魔王の娘が視る世界で、空気に解けた部分を修復しながら奇跡の人が泳いでいく。
 同時に感じる無重力――これはまるで。海の中の浮遊感に捕われた、ような。
「希を夢魅、溺れててよ」
 蒸気の国が沈んで染まう。機関車の存在が、変わり行く光景への思考放棄を辛うじて押し留めた。
 蕩けた誘惑、見聞きする全てが溺飴の生み出す夢幻の深海だと謂うのなら。
「もう何も出来ないんだからさ」
 ぼくにとって好ましい、理想の舞台でスタアが笑う。
 極上の甘さ奏でる猟兵を、果たして女は気付けたのだろうか。
 支配された事実すら、酷く曖昧だった。

「君に、ぼくも他の子も世界も」
 取り出したのは海の涙を蕩かしたような、メルティマリンのロリポップキャンディ。
 大好きな甘味に口付けて、花咲く細剣に持ち替える。
「欠片たりともあげないから」
 呟く先は、ただ観劇に徹する姿。夢の海を悠々游ぐも気付かれる事は無く。
「……なんて、聞こえないかな」
 砂糖を煮詰めた切っ先に、毒の呪いをたぷんとかけたから。
 ご馳走差し上げるのでちゃんと、味わうんだよ。
 ざぶん。

「――っ」
 視界が歪む、幻が少しずつ……解けていく。
 最初のダメージを回復で補っていたが、限界が近付いてきた。
 人魚姫の魔法が融ける時間を理解しティアは現実へと、夢幻の水面を目指していく。
 後は夢の終わり迄、黒い女に白い花弁だけが寄り添っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

誘名・櫻宵
あら、ドレスの似合うお嬢さん
列車に乗っておでかけかしら?
生憎、魔法学園への列車を走らせるわけにはいかぬのよ
私、あの世界も好きなの
好きな世界は守るわ
私は守護の龍なのだから!

絢爛の蒸気に楽団
桜吹雪のオーラ防御を纏わい天候操作、疾風と豪雨をよびだして音煙を和らげられないかしら
見切り躱して
返しの刃でカウンター、破魔込めてなぎ払い
衝撃波放ち――傷口を抉り拡げるように斬り裂いていくわ
傷口からその身が桜へ変じ散るように神罰をかけてあげる

通り過ぎる汽車が邪魔なら一緒に斬ってしまえばいい
私の邪魔をしないでよ

あなたの齎す厄災は美味しくないわ
私にも受け継いだ想いがあるの
阻まれなんていられない
だから斬り祓って進むのよ



●終線上を染める櫻華
 ――2768番線から、列車が参ります。
 到着を告げるアナウンスが流れたのは、少し前のこと。
 夢うつつだったレディ・ハンプティが漸く現実に戻ってきて。
 覚めた眼で見上げたのは、再びの夢幻を想わせる――見事な櫻だった。
 はらり、はらり。蒸気機関車に根付いた大樹が幻想的な一枚画を創り上げる。
 その、根本近くで。桜零れる春暁の番傘を差し春の雨を受ける者が居た。
「あら、ドレスの似合うお嬢さん」
 起きたのかしらと気遣う口調は優しくて。
 微笑み湛え傘を閉じる仕草は麗しく、洗練されていた。
「列車に乗っておでかけかしら?」
 桜舞はひととき花弁と化して歩み始める姿に寄り添い舞い游ぶ。
 見れば観る程、彼は――艶やかだった。
「生憎、魔法学園への列車を走らせるわけにはいかぬのよ」
 誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)が見据える先、黒い女は本を開く。
 話し合い等無用となれば、すべき事はひとつのみ。
「私、あの世界も好きなの……好きな世界は守るわ」
 しなやかな掌白く差し出して、集まる櫻華の欠片達が一振りの神刀を創り出す。
「私は守護の龍なのだから!」
 白の蒸気と桜の花弁が同時に吹き荒れる様は、圧巻だった。

 魅力的な不協和音を響かせ、濃霧の中で敵はその装いを絢爛豪華に変えていく。
 対して龍は己が桜吹雪で渦を喚び、放つ竜巻天へと昇り雲を突き抜け空を掌握。
 疾風と豪雨の嵐を発生させ喧しき楽曲と狂騒列車の音煙を神秘の天災で抑え込む。
 集中する流水群に纏う蒸気を剥がされながらも、貴婦人は驚異の速度と禍々しい口で襲いかかる。
 それを桜一重で見切り躱してみせ、同時に尊き血で打つ血色の刀を抜き放った。
「踊りましょう?」
 返す刃は鮮華の一閃。魔を絶ち破る陰陽師の力が白ごと黒をなぎ払う。
 尚も喰らい付く異形の牙からは深手を避けて距離を取り。
「舞いましょう?」
 途端に量を増す桜嵐。態と接触させたと相手が気付く頃にはもう遅い。
 逆に喰らった存在糧としより一層鶱華が荒れ狂う。
 更に一太刀屠桜振り抜けば、暴風雨の如き千万の衝撃波が不可思議な建築物ごと吹き飛ばした。
「見事ですこと」
 声は真後ろから。あの猛攻を受けて尚超反応で突き抜け女が背後に回り込む。
 三度の斬撃は胸下の口が受け止め刃と牙の衝突に火花が散った。
 超高速同士の攻防は熾烈を極め、追うもの追われる者が何度も入れ替わる。
 斬って、裂いて、穿いて。美しい血桜を咲かせる為に!
 後方へ退いた猟書家へ、追撃を行うひと蹴りが眼前の汽車通過に阻まれても。
「私の邪魔をしないでよ」
 麗しき手先から豪快な一撃、轟音伴い走行中の装甲切断し進路を自ら斬り開いた。

 やがて、黒い姿に春の侵食が訪れる。
「あなたの齎す厄災は美味しくないわ」
 両者が脚を止め、体勢を立て直す。
 否――魔王の娘にはもう、戦う力が残っていなかった。
「私にも受け継いだ想いがあるの、阻まれなんていられない」
 斬る度かけた神罰が、傷負う婦人を桜華の花弁に変えていく。
 四肢が、異形の口が。はらはらと崩れていくのを桜獄の龍が見届けて。
「だから斬り祓って進むのよ」
 最期の一撃は是迄戦ってきた猟兵達が与えし傷より罅が女の全身に広がって。
 終に、レディ・ハンプティは粉々に割れ総てが薄紅の欠片と成り散っていった。

 全ての稼働を止めた世界で、刀を収めた櫻宵が微笑む。
「今は帰りましょう、戀しき場所へ」
 そして遺されたのはうつくしい彩がひとひらはらり。
 繋いだ線が、勝利を掬んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月19日


挿絵イラスト