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迷宮災厄戦㉑〜蒸気の国のレディ

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 ――ああ、父様……。

 その国には魔導列車が走り回り、蒸気建築に埋め尽くされた街並みはさながら大都会。咄嗟にこの世界がアリスラビリンスであることを思い出せなくなるような景観の中、白いかんばせを被すように目深に帽子を被った女が呟いた。
「私にも正体を見せなかった、いとしい父様。あなたの無念、このわたくしが果たします」
 アルダワ魔法学園。その西方、諸王国連合。あの世界において最も華やかで、そして要たるあの地。必ずや手中に収めてみせましょう。
 ――わたくしの力は、父様を想いしたためたこの書。これを用い、あの世界で父様の災魔を「蒸気獣」に変え、放つのです。
 あの地を混乱に陥れることができれば、わたくしでも新たな災魔を産めるようになるでしょう。

「ああ、父様――アウルム・アンティーカ父様。このハンプティが悲願を果たすその時まで、どうか見守っていてくださいませね」


「猟書家のひとり、『レディ・ハンプティ』への道が拓けた事は知ってるか」
 集まった猟兵達に一礼し、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は語りだす。
「予兆を視た奴もいるだろうな。どうも奴はアルダワ魔法戦争で大魔王が取った形態のひとつ、『アウルム・アンティーカ』の娘らしい。あの目まぐるしく姿を変えた大魔王の、三位一体の蒸気機械魔神だな。……いや、さすがに血は繋がってねえんじゃねえかなァ」
 確か魔女の肚から作られたって話らしいし。そう呟きつつ、話が逸れたなとジャスパーは猟兵達へ向き直る。
「とにかく、そいつだ。放っておいたら奴はアルダワ魔法学園のある世界へ侵略を仕掛ける。災魔――オブリビオンの事だけどよ、蒸気獣っていう改良した災魔をアルダワ魔法学園の西方、諸王国連合に放つ算段らしい。災魔が学園地下ダンジョンに封印されて久しいあの世界の地上に災魔なんか呼ばれてみろ。大混乱が起きるぜ」
 それを阻止する為には、オウガ・オリジンが健在の間に、レディ・ハンプティを討ち取るしかない。

「見た目はアルダワの意匠を取り入れた黒衣を纏う妙齢の美女って感じだけどよ。あのイカレ野郎の娘を名乗るだけあるぜ。腹の口ならぬ乳房の下の口ってやつを持っていやがる。
 その他にも肩の蒸気機関での自己強化、侵略蔵書「蒸気獣の悦び」からの魔導列車召喚なんて技を使って来る。こいつから先手を取るのは、どんなに熟練の猟兵だろうが不可能だ」
 下手に先制攻撃で仕留めようとせず、敵の一撃に対策を練った上で反撃に出る作戦が勝利への近道という事らしい。

「それともうひとつ。知ってる奴も多いと思うが、『猟書家』を討ち取る事は即ち、その力がアリスラビリンスのオブリビオン・フォーミュラ『オウガ・オリジン』に戻る事を意味する。討ち取れば討ち取るほど、この世界を護り抜く為の道筋が困難になる。
 レディ・ハンプティを斃してもアルダワ魔法学園に侵攻するオブリビオン達は現れるが、その場合、新たに幹部となるであろうオブリビオンはハンプティよりも力量が劣る。
 戦禍を未然に抑える事は大事だが、その為にオウガ・オリジンを討ち漏らせば、アリスラビリンスはカタストロフへ一直線だ。
 何を優先したいかはひとりひとり違うだろう。だから俺は強制はしねえよ。あの女を討ち取りたい奴だけ、転送を受けてくれ」
 ――ああ、くれぐれも油断だけはするんじゃねえよ。
 そう笑って、ジャスパーは猟兵達を送りだす。


ion
●お世話になっております。ionです。
 猟書家『レディ・ハンプティ』戦です。強敵です。
 強敵ですが、戦況を有利に運ぶための道は示されております。

●プレイングボーナス
 このシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。これに基づく行動をすると判定が有利になります。
=============================
 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
=============================
 レディ・ハンプティは『必ず』先制攻撃をしてきます。
 対策をし、素早く反撃に迎えれば、有効打を与えやすくなるでしょう。
(ボーナスが無くとも必ず苦戦・失敗になるとは限りませんが、ダイス一発勝負になるので確率はかなり上がります)

●プレイングについて
 募集期間などは設けませんが、少し早めに閉めるかもしれません。追加OPなどはありません。
 あまり筆の速い方ではありませんが、なるべく速く書きたいです。
 恐れ多くも私のキャパシティを超えた場合は、判定が良い人を採用させて頂きます。先着順ではありません。
 終了日時はMSページにてアナウンスいたします。

 それでは、皆様のプレイング、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

薄荷・千夜子
【翠】
ここで止めねばならぬ相手
アヤネさん、参りましょう
先手は私にお任せを
少しだけ、時間と誘導をお願いできれば…一気に止めてみせます

地形の利用で建物の影に潜みつつ罠使いで火薬を設置
アヤネさんがこちらに誘導してくれるのを見て合図を
合流した後、魔導列車のやってくるタイミングに合わせて建物を爆破
進路妨害、さらに瓦礫で列車本体にもダメージを与えられれば上々です!

では、次はこちらの番です!!
幽霊であればこちらの得意分野ですよ
UCに合わせて破魔・浄化・全力魔法で災魔とレディ・ハンプティを纏めて祓って差し上げましょう
貴女はここまでです
他世界になど行かせませんよ


アヤネ・ラグランジェ
【翠】
敵ながら服装の意匠は好み
軽口を叩く暇があれば
いいセンスの服だネ
くらいは言いたいところ

でもやり口はダメだ
大きかったり数が多かったり品が無い

強いのは承知
覚悟決めてさあやろうか

声がけも挑発もこちらに引き寄せるための囮
逃げながらチヨコの仕掛けの方に誘い込む

追いつかれそうになったらUC発動
チヨコの目の前に移動する
バイクはなんだろう副作用?

なんとか敵の攻撃を躱しつつPhantomPainを準備
弾頭は特製
当たれば祓う奴
幽霊もUDCも理屈は一緒

数で来るなら数で押し返してやるよ!

優勢なら最後の一手
SilverBulletを数秒で組み立て構える
動く城も巨大な竜も屠ってきた一撃
その身で味わえ!



●1
「――……いいセンスの服だネ。敵じゃなかったらファッション談義に花のひとつやふたつ、咲かせてみたかったもんだよ」
 ビル群の影に身を潜め乍ら、アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)が呟いた。軽快な軽口は自分も、戦友の緊張も解してくれる。
「でもやり口はダメだ。大きかったり数が多かったり品が無い」
「ここは止めねばならぬ相手。アヤネさん、参りましょう」
 アヤネに同調するように、薄荷・千夜子(陽花・f17474)が云った。自らも予知者としてこの戦役に携わっている千夜子だ。今ここでハンプティを討たねば、より多くの猟書家が各世界に解き放たれる。太陽のような笑顔はここではなりを潜め、只真剣な眼差しが打倒すべき敵を見定めている。
「強いのは承知、覚悟も出来てる。でも、方法はどうしよっか?」
「少しだけ、時間と誘導をお願いできますか。先手を私にお任せしてもらえれば……一気に止めてみせます」
「頼もしいね、お願いするよ」
 目線を合わせた二人は一瞬だけ、笑みを交わし合い。
 直後、アヤネだけが物陰から飛び出した。いかにも独りでハンプティを討ちにきたかのように、その手にアサルトライフルを携えて。
「お姉さん、一緒にあーそーぼっ」
 射程内にハンプティを収めたところで、わざと聲をかけてやる。背後から迫るアヤネにとっくに気づいていたとばかり、余裕たっぷりに女が振り返った。
「そんなちゃちな武装ひとつで、父様の娘たるわたくしを討ちに来たのですか?」
 肩から勢いよく蒸気を噴き出した女の姿が変わっていく。楽器のようでもあり、銃器のようでもある金属たちで武装した姿に。
 奇妙な音色と共に蒸気銃が放たれる。その熱噴射で獲物を焼くつもりか。地を蹴り直撃を避けてみせたアヤネだが、肩がいやに熱い。そういえば焦げたような匂いさえする。
「まだまだ!」
 反撃に転ずるようにPhantom Painを構えるアヤネだが、畳みかけるように放たれる蒸気達を躱すのが精一杯で手が出せない。一旦射程から逃れるように走り出したアヤネを、ハンプティが追いかけてくる。
 無論これはアヤネの演技だ。父の仇である『猟兵』を討てるとあらば、女はどこまでも追いかけ、息の根を止めに来るだろう。実際ことはアヤネの思惑通りに進んだ。ただ一つ、誤算があったとすれば。
(「――速い!」)
 自己強化の術を行使した女の移動速度が、予想をはるかに上回っていたこと。千夜子の潜んでいる一角まではあまりに遠い。
(「チヨコ!」)
 それでもアヤネの眼から希望は消えていない。歯を食いしばり、徐々に近づき熾烈さを増す蒸気の狙撃を掻い潜り、走り抜けるアヤネは、千夜子が物陰から合図を送るのを確かに見た。
「……っし!」
 地面を蹴っていた筈のアヤネの足が、いつの間にかステップへと乗り上げている。仲間のもとにひとっ飛びできる、最新式のオートバイのステップへ。
「テレポートですか。ですがどこに逃げたのかは判っておりますわ」
 アヤネの姿が消えてしまっても、女は余裕綽々、艶めいた笑みを浮かべた儘。最後の仕上げにと書を手繰れば、黄金の蒸気機関で動く魔導列車が召喚される。
「その喧しいエンジン音が、あなたの居場所を教えてくれますもの――、!?」
 袋小路のその暗がりで、女を待ち構えていたのはアヤネだけではなかった。
 待ち構えていた千夜子が今の今まで設置していた無数の火薬たち。次々に誘爆していくそれが魔導列車を巻き込んで倒壊させてゆく。
「ナーイス、チヨコ!」
 ぷすぷすと煙を上げ動きを止める魔導列車から、幽霊災魔たちが這い出して来る。
「では、次はこちらの番ですね!」
「成程。してやられましたわね。けれど」
 ――この数を相手取れるかしら?
 無数の幽霊たちが二人を取り囲む。
「当然です! 幽霊であればこちらの得意分野ですよ」
 千夜子を中心に空気の渦が沸き上がり、破魔の鈴蘭が舞い乱れる。浄化の力が戦場を搔き乱すと同時、アヤネもとうとうPhantom Painの弾丸を放っていた。
「幽霊もUDCも理屈は一緒だよネ。数で来るなら数で押し返してやるよ!」
 炸裂するマズルフラッシュと共に、放たれるのも魔を祓う力。歴戦の獣使いとエージェントが息の合ったコンビネーションを披露すれば、数だけの幽霊たちなど烏合の衆も同然。
「貴女の野望は今日、潰えるのです。他世界になど行かせませんよ」
「そーいうコト」
 Phantom Painより何周りも大きい大型ライフルが早業で組み立てられる。ハンプティが蒸気の銃を構え直すのよりも速く、轟音が炸裂した。
「――動く城も巨大な竜も屠ってきた一撃。その身で味わえ!」
 爆撃にも等しい力が、ハンプティを呑み込んでいった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可

魔王の意思を継ぐなんて碌なもんじゃない
その野望、少しでも邪魔させてもらいましょう

この数の幽霊と戦う気にはない、可能な限り回避して進む
右腕の鎖を建造物に突き刺し、巻き取る事で立体的に、かつ素早く移動してまわる
正面突破するより敵の密度は薄くなるでしょうし、少なくとも電車が空を飛んで攻撃してくる事はないでしょう

その後も変わらず鎖を使った移動で敵を回避しながら接敵を試す。
災魔はどうしても邪魔な時だけ【白の銷魂】の効果で闇の波動を放つ事で蒸気機関を停止しさせて戦闘力を削いでいく

猟書家に接敵したらUCのダメージ軽減効果と激痛耐性を生かし、多少の被ダメージは厭わずに黒剣で斬り込んでいく


フェルト・ユメノアール
残念だけど、その悲願……果たさせる訳にはいかないよ!
みんなの笑顔の為にも必ずキミを倒す!

この数の災魔を突破してレディ・ハンプティを攻撃するのはボクには無理!
なら……防御、回避主体の動きで『トリックスターを投擲』して災魔を迎撃
数に押されて、逃げ回っているように『演技』をしながら『ワンダースモーク』を使って時間稼ぎ
そして、十分に災魔を引き付けた所で反撃だ!

今だ!【SPウィングウィッチ】!
さっきワンダースモークで視界を塞いだ隙にウィングウィッチを召喚していたのさ!
これまでの行動は全て、相手の注意をボクに引き付けウィングウィッチが奇襲する隙を作る為の策
影に潜り、レディの死角に回ったウィッチで攻撃!


アリス・セカンドカラー
お任せプレ。汝が為したいように為すがよい。

我々の……能力値対応してねぇおっぱいダイブ未遂orz
ギャグ補正(結界術/継戦能力/限界突破/リミッター解除/化術)での耐久力&再生力で耐え、第六感&読心術で先読みしながらわーきゃーと元気に逃げ回る。
UC発動可能になったら精神の具象化と肉体改造でよりカートゥーンキャラじみた理不尽さを発揮☆ダメージで散った肉片がプラナリアかよって感じに別々に再生増殖♪(集団戦術)
結界術&精神の具象化でカートゥーンアニメ的なリアルでヤッたら致命的な限界突破した悪戯(神罰)の数々を仕掛けるわ♪カートゥーンキャラなおともだち(式神使い/神罰/天候操作/集団戦術)と一緒にね☆



●2
 ――がしゃん、がしゃん、がしゃん。
 爆破された魔導列車のパーツたちがひとりでに動き、再び元の姿をかたどっていく。
「わたくしを誰だとお思いですか? あのアウルム・アンティーカ父様の娘ですのよ。これしきの損傷で足を止める魔導列車ではありませんの」
 ひときわ濃く、じっとりと纏わりつくような蒸気をふかしながら、列車は再び奔りだす。その先に待ち構えるは三人の猟兵。
 透き通るように白い銀髪の腕に鎖を携えたダンピール、クロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)。
 戦場でもひときわ目を惹く道化師姿の少女、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)。
 無邪気さと妖艶さを併せ持つ、こちらもダンピールのアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の魔少女・f05202)。
(「あのお姉さんのヴァイオレンスなお胸、ちょっと見てみたかったけど」)
 かちかちと時折牙を鳴らす乳房の下の口は、今は獲物の始末を魔導列車に任せる事に決めたらしい。ちょっと残念――などと思いつつも、アリスは蠱惑的に微笑んだ。
「このアリスが、お姉さんを魂まで吸い尽くしてあ・げ・る♪」
 ……あら、と興味深そうに、ハンプティが呟いた。
「あなたもアリスを名乗るのですね。あのオウガ・オリジンのように」
 ならば等しく利用し、打ち棄てるまで。駆ける列車が猟兵達を薙ぎ払わんと襲い掛かる。召喚された無数の幽霊たちも、時に列車の中から、時にふよふよと宙を浮遊して、各々の魔法で攻撃を仕掛けてきた。
「すごい数だね。正攻法で突破するなんてボクには無理そうだよ!」
「ええ。まともにやり合う必要はないでしょう」
 フェルトとクロスが視線を躱す。気が合うね、と。
「よし、じゃあボクがなるべく引き受けよう!」
 道化師の手に握られているのは金のダガー。ショーで使う為の派手な装飾が施されたそれを、電車めがけて投擲する。
「こっちにおいで! みんなの笑顔の為に、ボクがこの列車を止めてみせるよ!」
「――戯言を」
 嘲笑と共に、ハンプティが魔導列車に命令を下す。戦場を猛スピードで縦横無尽に駆け巡る巨大な車輛は、列車というよりも遊園地のジェットコースターと形容した方が相応しい。
 フェルトは何度か金のダガーを車輪目掛けて投げ打ったが、それは尽く撥ね飛ばされ、或いは轢かれ砕かれるばかり。列車はまるで止まる気配を見せない。だが、巨体からの体当たりをアクロバティックな動きで避けてみせたフェルトの貌に、焦りの汗は一滴たりとも流れていない。
「わわ、お姉さんったら優雅な見た目に似合わずアグレッシブなのね。わたしそういうの、嫌いじゃな……きゃあんっ☆」
 素っ頓狂な悲鳴と共に、アリスも迫りくる列車の突撃を間一髪免れた。
「ちょっとちょっとぉ、セリフの途中で襲ってくるのは無粋よっ」
 ギャグストーリーのやられ役みたいなことを云いながら、きゃあきゃあ元気に逃げ回る。
(「随分と賑やかですね」)
 一方、クロスは右腕から伸びる鎖を建造物に突き刺し、伸縮を繰り返す事で立体的な立ち回りを可能としていた。高所を渡り歩き列車を避けながらハンプティに迫るクロスを、時々は発見し襲い掛かってくる幽霊もいたが、その時にはもう、建物の影に身を潜めて姿をくらまし追っ手を巻いている。
 彼女たちが列車を引き付けてくれているのだから、一番最初にハンプティに仕掛けるべきは自分であろう。女を射程に収めたクロスは直後、ビルの外壁を足で蹴って宙に身を躍らせた。
 その姿が、変わっていく。白く輝くそれは光――否、忌み子として蔑まれてきたクロスの身体に宿るそれは白き闇。
「父様の路を奪った猟兵たち。その未来も、わたくしが塞いで差し上げましょう」
 ハンプティが振り返り、蒸気を噴き上げる。列車に積載しきれなかった幽霊たちがその周囲に顕現し、レディめがけて落ちてくるクロスへと、一斉に魔法を噴出した。


「それにしてもこの列車、どのくらい走り続けられるものなのかしら」
 逃げども逃げども勢いが衰えないじゃない、とアリスが息を吐く。
「流石のわたしも疲れてきちゃ――……、あ」
 アリスがほんの一瞬足を止めた瞬間、巨大な車輛がその小さな体を撥ね飛ばした。
 ――……ぐしゃ。ばきばき。べき。圧倒的な力の前に、アリス『だったもの』が投げ出され、辺り一面に飛び散った。
「えええっ、アリスくーーーん!?」
 突然の仲間の死にフェルトも愕然とするが、だからといって気を緩めれば待っているのは同じ末路。せめて、とばかりに『ワンダースモーク』に刺激を与え色付きの煙で戦場を覆うフェルトを、ハンプティは悪あがきだと嘲笑っただろうか。


「ふふ、貴方のお仲間が一人、命を散らしたようですわね」
 その頃ハンプティは仕留めた獲物には目も呉れず、白闇纏いしクロスを屠ろうと幽霊たちを操っていた。空気を劈く斬撃が、炎の球が、幾度も幾度もクロスを打つ。それでもクロスは黒剣を構え、自らも鋭くハンプティに切り込んでいた。
「貴方も諦めたらどうですの?」
 一度目、二度目、幽霊に庇われハンプティを斬る事は叶わなかった。三度目で漸く、黒いドレスの一端を浅く裂いた。その刀身よりも黒い眸が、静かにレディを見据えていた。
 魔弾がクロスの腹を撃った。並みの状態ならば立ち上がる事さえ困難な重傷を齎す一撃にも、敵の力を緩やかに奪う白闇の波動と、持ち前の強靭な精神で踏みとどまる。
「――ばか、な」
 ハンプティが息を呑む。四度目に振るわれた黒剣が、確かにハンプティを斬り上げていた。
「わたくしは、父様の意志を」
「魔王の意志を継ぐなんて、碌なもんじゃない」
 今も己の命を削り続けているとは思えない程の静謐さで、クロスが告げた。
「その野望、少しでも邪魔させてもらいますよ」


 スモークが晴れる。その先のどこかに要る筈のフェルトの姿はなく、その代わりにあったのは。
「な……なんですの?」
 先程確かに無数の肉片となり散った筈のアリス。……が、何百人も。
「プラナリアっていう、いくら斬り刻んでも再生する不思議な生き物がいると聞いたのよ」
 ――だからちょっと、真似したくなっちゃって☆
 しれっと告げられた言葉はあまりにも不条理。少なくとも、このように可愛く小首を傾げながら言う言葉では、ない。
『何故』出来るのかを追求するのはここでは無粋だ。キッズに見せづらいカートゥーンの世界では、スプラッタにされたキャラクターが次の瞬間平然と生き返っている事など珍しくないのだから……多分。
 というわけで増えに増えたアリス達は、その数を活かして列車を撥ね飛ばし幽霊をぎったんぎったん薙ぎ倒し。ついでになんかそれっぽい画風のおともだちが雷雨を巻き起こし裁きの雷を下したりとやりたい放題。ひとりふたりを斃してもまた増殖するのは目に見えているのだから、幽霊たちも手を出すのに躊躇っている様子。
「――く、それよりももう少し与しやすい猟兵を……あら?」
 ちょこまか逃げ惑っていたもう一人を狙おうとしたハンプティの背が、がくりと揺らぐ。闇の魔法が女の白い膚を灼いていた。
 驚愕に振り向けば、そこに居たのは影を移動する魔女、ウィングウィッチ。フェルトが師匠から受け継いだ、魔法のカードの一枚だ。
「ボクがただ逃げていただけだと思った?」
 にぱり、得意げに笑って見せるフェルト。逃げ惑っていたのは、注意をフェルトに引き付けるため。スモークに乗じて反撃を企てていると思わせないため。
「みんなの笑顔の為にも、キミの悲願を果たさせる訳にはいかないよ!」
 斬撃が、闇の魔法が、理不尽の暴力が――今一度、ハンプティを打ち据えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ナギ・ヌドゥー
速いな……オレよりも確実に。
接近戦では勝ち目は薄いか。
【ドーピング】により【限界突破】しスピードアップ
接近される前に距離を取る【逃げ足】
真っ直ぐ逃げるだけじゃ容易に掴まってしまう
【殺気】を帯びた【残像】を発しながら後退し攪乱しよう

オレはただ怖くて逃げてた訳じゃない
このユーベルコードを最大限生かす距離が欲しかった
武器・サイコパームの【リミッター解除】
【誘導弾】の【弾幕】を張り【制圧射撃】
UCにより制限無く光弾を放てる!
奴のスピードでも避けきれない程の弾幕をぶち込んでやる
肩の蒸気機関を壊せばあの速さも半減されるだろう【部位破壊】



●3
(「速いな」)
 蒸気を纏ったレディ・ハンプティが、武装楽団形態として熱線の如き蒸気を放ちながら向かって来る。
 ――オレよりも確実に、速い。戦場に身を置き続けていたナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は、己との力量差を瞬時に理解していた。
 噛み砕いた増強剤。並みの人間のみならず、強化人間の限界さえ突破した速度でナギは奔り出していた。その道のあちこちに、本物そっくりの残像をばら撒きながら。
 無数の残像たちは時に殺気を纏いながらレディ・ハンプティを襲うように動き、時に動きまで本物をなぞらえたように逃げ惑う。
「あらあら、怖気づいてしまったのですか?」
 レディが熱線を放つ。射線上の『ナギ』達が瞬時に蒸発したように姿を散らしていった。
 その後も余裕たっぷりに赤い唇で美しい弧を描き、ドレスの裾をひらひらさせながら残像達を蹴散らしてくる。
 ――これで撹乱しきれるとも思っていない。ほんの少しだけ、時間が稼げれば、今よりも距離がひらけばいい。幼少時、今の身体になってから絶えず苛まれてきた殺戮衝動を抑え込み、気配を断ちながらナギはひたすら戦場を駆ける。
 それにしてもあの女、いかにも勿体ぶった余裕な笑みだ。きっと本気を出せば逃げ惑う獲物を探し出し、仕留める事などわけないとでも思っているのだろう。すぐにそうしないのは、こちらをじわじわ追いつめ、いたぶっているつもりなのか。
(「オレを追い込めていると、そう思いたいのなら思えばいい」)
 驕りは戦場では命取りになる。数々の強敵をも衝動の捌け口にしてきたナギは識っている。脆弱な猟兵を嘲る者達は、ともすればそれ以上に脆い事を。
(「もう少し、もう少しだけ――あの熱線の射程より、ほんの少しだけ外れればいい。オレの"こいつ"ならば届く」)
 どんなに残像を消されようと焦燥せず規則的に脚を運び、距離を置き続ける。とうとう熱線の「端」から逃れた瞬間、その手をかざしながらナギは振り向いた。
 奴隷兵時代、体内に埋め込まれた光線兵器。弾丸も電力も不要なかわり、燃料となるのはナギの精神力――その威力を、射程を、連射速度を、最大限に高め、無数の光弾がハンプティめがけて発射される。
「く、ぁ……!」
 無数に放たれる光達は、視界を麻痺させるほどに光り輝く。眩い弾幕に晒された女の肩、その蒸気機関の大半に罅が入り、崩れていくのをナギは確かに見た。
 血を撒き散らし、苦悶の聲を上げながら肩を見下ろし狼狽する女。自らの残虐な衝動が満たされていくのを感じる。
 ――ああ、こんな風に渇きが癒せるのなら、精神力など。心など、もはや必要ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小雉子・吉備
大魔王の娘が復讐に……方向は違うけど桃太郎の後日談にも似たのはあったね

〖先制UC対策:POW〗
【先制攻撃】の【高速詠唱】で【属性攻撃(爆弾)】を込めた〖時の愚鈍「スロウフールハウル」〗を【早業】で【オーラ防御】と【盾受け】併用で【第六感】で【見切り】密集させ【弾幕】の盾を展開

喰わせ

距離を低空【空中戦】で素早く取り〖なまり〗ちゃんと〖ひいろ〗ちゃんに【動物使い】で撹乱

その隙にUCを【高速詠唱】此処で出来た友達を召喚

チケちゃんは【怪力・2回攻撃】を〖黒蜜かけキビダンゴアイスバー〗で

キビは〖従雉「フェザントファミリア」〗を【高速詠唱】で【団体行動】の【集団戦術】で決める

〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗



●4
「大魔王の娘が復讐に……魔王じゃなくて鬼だけど、桃太郎の後日談にも似たのはあったね」
 そう呟いたのは、茶色の翼を生やした小柄な少女。雉鶏精――雉の妖怪である小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)だ。
 現世の英雄譚を読み漁った吉備にとっても、同じく雉が出てくるその話は印象深かった。有名であるがゆえに様々な後日談が流布しているというが、その中に鬼の娘が出てくるものがあったのだ。
 復讐のために遣わされた美しい鬼女。桃太郎を篭絡する為に婚姻する女だが、やがて二人は本当の恋に落ちてしまう――。
 現実のあの娘は搦め手ではなく、真正面から猟兵を迎え撃ち、オウガ・オリジンの滅亡と共に別世界に逃れる道を選んだ。ならば吉備たちも、真正面から対峙/退治するのみだ。
 ハンプティがその巨大な口をがばりと開く。透き通った白い膚の下、だらだらと涎を垂らして向かって来る。その射程に入る前に、吉備は誘導弾を放つ。弾幕のように襲い掛かるそれを見遣り、ハンプティはせせら笑った。
「わたくしの空腹を満たすには丁度良いでしょう」
 ばくん、と誘導弾たちが呑み込まれる。嚥下するように牙が揺れた直後、女が訝しげに眉を顰める。
(「かかったね、キビの力に」)
 それは弾の周辺の時間のみを鈍重にする魔法弾幕『スロウフールハウル』。そのすべてを呑み込んだ女は、時間という大きなハンデを背負うことになる。
 加えてその口が呑み込める範囲はとても狭い。圧倒的なアドバンテージを得た吉備だが、何でも丸呑みにしてしまう悪食が、弾をすべて消化しきってしまわないとも限らない。
 ――みんな、力を貸して。
 呼び出したのは発火能力と炎纏う格闘術で戦う猿の『ひいろ』と、虹色ビームを放つ青色狛犬の『なまり』。
 まさしくどこかで見たことのあるような取り合わせに、吉備はもう一枚カードを用いる。
「今度は桃太郎でも喚ぶのかしら?」
「違うよ――この世界で新しくできた友達、チケちゃん!」
『吉備ちゃん、お待たせりっ』
 現れたのは雉鶏精型着ぐるみを纏った愉快な仲間。着ぐるみによる力なのか吉備の力をラーニングするチケちゃんは、黒蜜がけキビダンゴアイスバーをぶんぶん振るう。某お豆バーもびっくりの固さである。
「チケちゃんのためにも、この世界は護ってみせるし、あなたも倒してみせる!」
 ひいろの炎となまりのビーム、それに冷気纏わせたチケちゃんの鈍器がハンプティを襲い、畳みかけるように吉備が繰り出したのは雉鶏精の霊魂達。
 時が凍るほどの霊障は、今度こそ消化など許さない。『時間』を奪われた女は、その体温すらも奪われていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

蛇塚・レモン
【農園】
ルリララさん達と火継さんと一緒っ!

あの金ピカ大魔王、娘がいたんだね……

召喚してくる列車を妨害すれば災魔達の出鼻を挫くことが出来るはずっ!

ルリララさん達が線路に置き石してくれる
車体に異常が起きてくれることを祈りつつ、あたいは列車を真正面から止めちゃうよっ!
あたいの黄金霊波動の念動力・オーラ防御・全力魔法・衝撃波で盾受け
リュックから即効性の鎮痛剤を嚥下、痛みを恐れず怪力で止める!
大丈夫っ!
やればできるっ!
武闘派農園なめんなぁーっ!

そして先頭車両をライムの魂縛の爆発で浮かせたら、
あたいが明後日の方へブン投げちゃうよっ!

即時UC発動
災魔幽霊の群れごとレディを撃ち抜き、不運で自滅させちゃうよっ!


禍災・火継
【農園】

UCを起動。一人でだと私、どうしようもないけど…今回は力を借りてるからね。ただ、駆け回ればいいわね。
手足を使って空間的な移動で一気に近寄って本体を狙おうかな。
投げられた車両を足場にしたりね。
必要に応じて剥離した神器を突き刺しては足場にするわ。もちろん、敵に直接突き刺してもいいし。

一応は神器を纏っているのもあるし、肉体的にも神器交じりで頑丈だから攻撃を引き付ける役もできるならやっておこうかな。生き物かも怪しい身だしね


ルリララ・ウェイバース
【農園】の皆と行動

WIZ

互いに姉妹と認識する四重人格
主人格で末妹のルリララ以外序列なし

街の地形の利用やオーラ防御で避けたり耐えたりしつつ、線路上に石や障害物を設置
「アルム(バディペット)はその箱を移動させたら隠れてくれ」
置き石程度で封殺できなくとも、レモン達の援護にはなるだろう
列車が動きを止めたら、高速詠唱、全力魔法、属性攻撃のエレメンタル・ファンタジア
磁力の竜巻を食らうが良い
障害物として置いた鉄屑や列車の残骸も巻き込んで、敵の動きを邪魔するぞ
暴走しても妨害の効果はあるだろう
「そんな、いかつい肩では重いだろ」
『ルリ達は金属身に付けてないけど、他の人、大丈夫かしら?』
「影響ある者はすまん」



●5
「あの金ピカ大魔王、娘がいたんだね……」
 崩壊と修復を繰り返す魔導列車に目を遣りながら、呟いたのは蛇塚・レモン(白き蛇神オロチヒメの黄金に輝く愛娘・f05152)。多種多様な大魔王を打倒してきたレモンは、当然かの『金ピカ』ことアウルム・アンティーカも記憶に新しい。
「三位一体……だっけ。頭ふたつに口ひとつ、それぞれ独立していたっていう」
 さして興味も無さそうに、禍災・火継(残響音・f28074)が続く。自分の名前も存在理由も失ってしまった火継にとって、もう存在しない大魔王を気に掛ける道理もない。そしてそれはきっと、目の前の『娘』に対しても同じこと。全ては過去になる。火継が失ってしまった過去に。
「さて、では打合せ通りに行こう」
 民族衣装をまとった少女が、レモンと火継を順にみながら云った。
「ルリララがあの電車を邪魔してみせる」
 ひとつの器に四つの魂を宿す『彼女達』は、判別の為に自分たちを名前で呼ぶ。今表に出ているのは主人格で末妹のルリララ・ウェイバース(スパイラルホーン・f01510)であるらしい。
 ぷすん、ぷすんと頼りなく蒸気を吐き出していた魔導列車が、修復を繰り返し、黄金色の車体を取り戻していく。けたたましい汽笛をひとつ、猛然と奔り出した。
 三人がそれぞれの方向に飛ぶ。散り散りになった猟兵達の中から、列車は取り敢えず目についたルリララを狙う事にしたらしい。猛スピードで撥ね飛ばそうとしてくる列車を避けながら、ルリララは自らと列車の間に障害物を設置していく。
 置き石に跳ね上げ、ガキィっと耳障りな音と共に一瞬つんのめった列車だが、そのまま無理やり乗り上げて突き進んでくる。抑制力にはなるが、決定打までは至らない。
「アルム、その箱を移動させたら隠れてくれ」
 バディペットであるカレー色のノソリンに命じれば、なぁ~んと愛嬌のある鳴き声で了承が返ってくる。
「その程度でわたくしの魔導列車を止めるおつもり?」
 爆走する列車の音に紛れ、女の哄笑が響いてくる。――まさか、とルリララは心の裡で笑い返した。戦場には既に無数の置き石が設置されており、それを避けて突き進む事など困難だ。それでも列車を止めるに至らない事など、ルリララはとうに承知済み。
『やっちゃえやっちゃえ!』
『あの女を轢き殺すんだ!』
 列車の中から災魔たちが叫んでいる。車輪が火花を散らしている。その驀進がまさにルリララの細い身体を撥ね飛ばす直前、割り行った者がいた。
「――ふ、」
 ハンプティが堪えきれぬとばかりに聲を漏らして笑った。黄金の塊たる巨体を、黄金のオーラを纏ったレモンが真正面から受け止めていた。
「線路への置き石に侵入、今回はいやにマナーの悪いお方が多いですわね……それで? まさか止められるとお思いで?」
 押しやられたレモンの足元でずざざざと激しく砂煙が撒きあがる。それでもレモンは吹き飛ばされることなく、列車に食らいついていた。
 ――ごくり、とその喉が動く。即効性の鎮痛剤を嚥下したのだ。これで痛みは恐れるに足らず、信じるべきは己の怪力ただひとつ。
「大丈夫っ! やればできるっ!」
 ず、ずず。列車の巨体の進行が少しずつ遅くなっていく。それに伴い、レモンの発する黄金の光がより強まっていく。目を灼くほどに眩しく輝いた直後、とうとう列車が完全に止まり、どころか反対にレモンに押され始めていた。
「そんな……嘘でしょう?」
「武闘派農園……なめんなぁーっ!!!!!!」
 日々の農業で鍛えた身体、猟兵としての力、そして妹ライムの捕縛の力。とうとう巨体が持ち上げられ、あさっての方向に投げられる。
 これにはハンプティもあんぐりと口を開けたまま。がしゃん、と地面に投げ捨てられ、ひしゃげる列車の上に、軽やかに舞い降りた者があった。火継だ。
 先程までの学生服の上に目深にフードを被った姿と異なり、融合型神器を全身に纏った姿はまるで獣のよう。『ガラスの靴』――なんておとぎ話めいた名称とは裏腹に、ぎょろりと魔眼がまたたく姿は火継自身が災厄の申し子ですらあるかのよう。
 剥離した神器を足場にし、蹴り上げ、火継はハンプティへと肉薄する。
「!! この――……!!」
 ハンプティが蒸気を纏い、武装楽団へと姿を変えていく。不協和音と共に噴き出した蒸気の熱線が、火継に襲い掛かる。
 真っ向から浴びたはずの火継は、白いかんばせに苦痛ひとつ滲ませなかった。
 代わりに焦りを浮かべたのはハンプティの方。神器を纏った火継は人外めいた頑丈さを誇る。
(「実際、人外どころか生き物かも怪しい身だしね」)
 それを嘆くほど、火継の中には記憶も、感情も残されてはいない。
 火継が戦う意味はただひとつ。力を手にした理由、どこかで生きているはずの幼馴染のために。――ひーちゃん、とわたしを呼んでいたあの子。貌や名前どころか性別すらも覚えていない『誰か』だけれど、確かに存在していた。
 失った意味を失わないために、空虚な少女は神器を射出する。武装した女の腹に、鋭い『ガラス』が深々と突き刺さった。


 美しい幾何学模様が宙に展開される。レモンの身体に宿る蛇神と、妹のライム。三人の力を込めた神楽は、受けた者にユーベルコードの無効化と、抗えぬ『不運』を付与する力。何十本もの光線が列車を貫通し、ハンプティを穿つ。
「よし、絶好の機会だな」
 満足そうに頷いて、ルリララが呪文を紡ぐ。属性と自然現象を合成したエレメンタル・ファンタジア。此度繰り出されるのは『磁力』の『竜巻』。戦場のありとあらゆるところに置かれた鉄屑も、魔導列車の残骸も、全て高く高く巻き上げられ、空中で激しくぶつかり合う。
「くっ……!」
 当然それは黄金色の金属で武装したハンプティも例外ではない。そこいらの壁にしがみつき、逃れようとしたハンプティだが、強力な磁場と『不運』がそれを許さない。列車の残骸がその身体に突き刺さり、血で滑った手が離れる。
「わたくしが……ああッ、わたくしが、これしきの事で……!」
「そんな、いかつい肩では重いだろ」
 得意げに笑うルリララの中で、女性的な声が呟いた。
『ルリ達は金属身に付けてないけど、他の人、大丈夫かしら……?』
 あ、と慌てて目を遣れば、レモンも火継も無事のようだ。ほっと胸を撫でおろす。これなら多少暴走しても大丈夫、と力を強めるルリララの竜巻が吹き荒れる。
「父様の無念を晴らすまでは、わたくしは……!」
 今や石垣に捕まる片手だけが、ハンプティが竜巻から抗うためのすべてだった。その前に音もなく立ちはだかった者が居る。火継だ。
 嘲りも憐憫もない、ただ静かな黒い眸と、侵食された魔眼が女を見下ろしていた。
「……さよなら」
 黒髪が、揺れる。ガラスの靴が女の手を斬り刻み、崩していく。女の身体が宙に浮きあがり、竜巻に呑まれていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヘスティア・イクテュス
【天星花】
う~ん、幽霊ね…そういうオカルト系はさっぱり
ということで対策は零と澪に任せるわ

一応ダミーバルーンを展開【残像】してこっちに来るのを防ぐ&
ティターニアで飛んで逃げる準備【空中戦】はして…


アルダワ自体はそこまで縁はないんだけど…
まぁ、折角平和にしたのにまた奪われるってのは気に食わないわね…


澪の遠距離攻撃時はわたしもミスティルテインで『援護射撃』
零がUCを使ったら…って相変わらず気持ち悪い技ね…

敵諸共マイクロミサイルの『一斉発射』で『爆撃』
焼き尽くすわ!


天星・零
【天星花】

『幽霊は慣れているんですよ。本来なら、友達になれたら嬉しいんですがね。残念です』

【戦闘知識+世界知識+情報収集+追跡】をし、戦況、地形、弱点死角を把握し警戒、敵の行動を予測し臨機応変に敵の攻撃に対応

万が一がないように第六感も働かせておく

※防御は【オーラ防御】で霊力を生かし壁を作って対応、威力軽減、防御を図る

先制攻撃は上記技能を駆使し、※をしたり
万が一の為【第六感】も働かせる


遠距離は十の死とグレイヴ・ロウを戦況により使用


近接はØ


指定UCを発動し強化、回復効果を反転させて回復させることで、ダメージを与える
強化をしているなら弱体化

『さて、ヘスティアさん。お願いしますね』

ヘスティアさんを援護


栗花落・澪
【天星花】

災魔の幽霊、なら破魔は効くかな
先制攻撃は【破魔】と念のために【激痛耐性、呪詛耐性】を組み合わせた【オーラ防御】で対処
召喚後の攻撃手段がわからないから近付かせないように
もし列車ごと特攻されたら翼の【空中戦】で回避を

貴方にも想いがあるんだろうけど
こっちにだって護りたいものがあるから

光魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で遠距離攻撃
着地のたび地に★花園の破魔を広げ魔に対する障壁を展開
全員を護りつつ敵に隙が生じたら2人にアイコンタクト

僕が破魔しか使えないと思った?
残念でした!
【指定UC】を発動
炎の【全力魔法】で花園ごと燃焼攻撃
不意打ちダメージを与えつつ
狙いは広げた破魔を消し去る事
今だよ零さん!



●6
 磁気の竜巻が収まった頃、レディ・ハンプティの身体がボロ雑巾のように地面に投げ出される。
 既にその身は満身創痍。血の気の失せた貌を上げれば、視界に飛び込んできたのは新たなる猟兵たちの影。
「――……ふふ、しぶとい者達がいたものですわね」
 布を贅沢に用いた美しい黒衣も、今はずたずたに引き裂かれている。それでも女は悠然めいて笑ってみせた。
 ――だってわたくしは、父様の娘。親愛なる父様に恥じぬよう、あの者達を討ち取らねばなりませんの。


 打ち棄てられた金属片たちが元の姿を取り戻してゆく。黄金色の蒸気機関を携えた幽霊列車が不気味な汽笛を上げて向かって来る。
 度重なる再生であちこちにほころびが生じているのだろう。がたがた揺れながらの走行が、ますます幽霊列車っぽさを際立たせている。
「う~ん、幽霊ね……災魔の幽霊って、どういうことなのかしら?」
 オカルト系はさっぱりなのよ、と首を傾げたのはヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)。海賊SkyFish団の船長だ。海賊といっても、ヘスティアの愛船『ソードフィッシュ号』はスペースシップワールドの宇宙船。海の海賊たちのように幽霊船の話題が交わされるわけでもなく。
「わたしに出来るのはこのくらいかしら」
 ダミーバルーンを展開して残像での撹乱、妖精の羽のようなジェットパック『ティターニア』で飛翔し逃げる準備は整えつつ、実際の対応は頼もしき戦友たちに任せる事にする。
「災魔の幽霊、なら破魔は効くかな」
 金蓮花を凛と揺らし、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が作り出したオーラの障壁には破魔の力。合わせるように霊力の障壁を作ってみせたのは柔和な笑みの少年、天星・零(零と夢幻、真実と虚構・f02413)。
「幽霊は慣れているんですよ。本来なら、友達になれたら嬉しいんですがね」
 残念です――と呟く半人半霊。その身にふたつの人格を宿すほか、今顕現している零もまた、みっつめの人格ですらあるように本心を柔らかな物腰にひた隠している。
 二層の障壁が魔導列車を押し留め、その動きを止めさせる。耳障りな音と共に止まった列車から、無数の幽霊たちが降り立った。
『あの壁、いやな感じがする』
『まだ祓われるわけにはいかないぞ。暴れたりないもん』
 うろうろ、ぞろぞろ。這い出てきたそいつらが繰り出すのは。
「魔法……?」
 炎の球を飛翔し避けたヘスティアが呟いた。蒸気技術と魔法の融合といえば、レディ・ハンプティが狙ってるのだというアルダワ魔法学園をいやでも連想するというもの。
「実の所、アルダワ自体にそこまで縁はないんだけど……まぁ、折角平和にしたのにまた奪われるってのは気に食わないわね」
 ティターニアで大きく旋回した直後、コードで繋がるビームライフル『ミスティルテイン』で迎撃する。合わせるように澪が光魔法を放ち、幽霊の群れを薙ぎ払っていく。
 気に食わない、とヘスティアらしい負けず嫌いな言い回しの奥、彼女が想い返すのは故郷での大戦。猟兵がグリモアベースを介して集うようになって間もないころ、世界を脅かすほどの戦争に、無数の猟兵が駆けつけてきてくれた。
(「あの時、恩返しをしたいと……他の世界も救うと決めたの」)
 零が繰り出すのは『十の死』を齎すといわれのある骸、それに十字架の墓石。どんな死だってお望み通り。涅槃に至れるかは貴方次第――それは相手が過去の怪物だろうが幽霊だろうが関係なく、等しく降りかかる零の力。
 三人の迎撃を掻い潜り距離を詰めてくる者があれば、零が身を躍らせて立ちはだかる。虚空から取り出した片手刃が霊たちを斬り刻んでいった。
 零体が斬り刻まれ苦悶の呻きを漏らしても、零の柔和な笑みは一片たりとも崩れない。にこりと細められた金色と葡萄酒色がぞっとする程冷たく瞬いて、ひっと息を漏らした幽霊が直後、骸の海へと葬り去られていった。
 光魔法で迎撃しつつ、着地の旅に聖痕を翳し破魔の花園を広げているのは澪だ。魔を祓う障壁は三人を護る防御であり、触れた者を祓う刃でもある。
「何をもたもたしているの?」
 静かな憎悪を込めた聲で、ハンプティが幽霊たちに命を下す。
「わたくしと父様の悲願を阻む猟兵を、速く始末してしまいなさい」
「貴方にも想いがあるんだろうけど、こっちにだって護りたいものがあるから」
 だから負けられない、と花の聖痕を翳す澪を、ハンプティがヘッドドレスの奥でねめつける。
「小娘風情が、知ったような口を聞くのね」
「見た目で判断しないでよね」
 云い返す澪の言葉は、何も性別に対してだけではない。ちら、と二人に視線を投げかけた後、澪はその身に宿る魔力の器を解放する。
「僕が破魔しか使えないと思った? 残念でした!」
 ――ごう、と炎が唸りをあげ、美しい花園さえも燃えつくす。不意打ちを喰らった幽霊たちが消えていく中、破魔の加護さえも掻き消えていく。
「今だよ、零さん!」
 強力な限界突破は60秒が限界。最後にそれだけを叫び、澪の意識は沈んでいく。それで十分だった。
「ええ、ええ。お任せください」
 目を細めた零が、ハンプティの蒸気よりも濃い、濃い霧で辺りを包む。眠りへと誘う霧を僅かでも吸い込んでしまえば、『反転した回復術』が対象を苛む。
「……ぐ、ぁ、が……!」
 喉を掻き毟ったハンプティが赤黒い血を吐いてげえげえとえづく。巨大な牙口をもぱくぱくさせて苦しむ女を、いっそ涼やかですらある眼差しで零は見下ろしていた。死霊にさえなれぬ過去に、呉れてやれる慈悲もない。
「さて、ヘスティアさん、お願いしますね」
 最後に放たれたのはヘスティアのマイクロミサイル。小さい代わりにジェットパックから無数に放たれるそれが、未だ生き残っていた幽霊たちと、ハンプティを焼き尽くす。
「……ああ!」
 我が身が焼き尽くされるよりも女が狼狽えたのは、その手の中にある『侵略蔵書』に火が移り、燃え往く姿。
「父様と、わたくしの悲願が! これだけは……!」
 その手が燃えるのも厭わず炎を払いのけようとするが、延焼はどんどんと広がってゆく――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
父親思い、には共感出来るが
宛ら塀上から転がり落ちるよう、
貴方も無念と地に伏せて頂こう

ああ、それにしても
御伽に車輪の跡を残すとは無粋だな
ドロシーのように足跡を残したまえ
――いや、幽霊であれば無理かい?

魔導列車が此方に向かうなら、
魔導書の頁捲り《全力魔法》
暴走を抑えるよう、集中して
《属性攻撃:石》礫の竜巻生み
真直ぐと放ち魔導列車を破壊
し切れずとも、足止めとして

次手と往けるなら、隙を突く様に
辿る頁を変えて《属性攻撃:氷》へ
悼む漆黒纏う君に、悲しみの雨を
氷柱の暴雨を降り注がせよう
身も心も砕くよう、躊躇わずに

諦めておくれ、哀れな御嬢さん
一度落ちては、もう元に戻せない
――父の眠る海へと、御沈み



●Last
『侵略蔵書』に燃え移った炎はどんどんと広がり、そこから呼び出された魔導列車も金属が溶けるようにして姿をとろかしてゆく。白い胸元を晒し出す優美なドレスは、血と煤に塗れた今一層惨めさを際立たせている。
 それでも女は天を仰ぎ、猟兵を迎え撃つ。
「ああ――……たとえ今、骸の海に返されようと。わたくしは諦めませんわ。あの『オウガ・オリジン』が討たれる時まで、生きて、生きのび、て」
「父親思い、には共感出来るが」
 ぽつりとつぶやいたのはライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)。
「宛ら塀上から転がり落ちるよう、貴方も無念と地に伏せて頂こう」
 書が燃え、制御を失いつつある魔導列車が、それでもライラック目掛けて迫って来る。元々は美しかったのであろう街並みも、今や車輪の痕が無数に刻まれている。
 魔導書捲り真っ直ぐ放った石の魔術。ライラックの魔力が礫の竜巻となり、魔導列車を破壊し尽くす。その手ごたえのなさに、ライラックは女の最期が近づいている事を改めて知る。
「御伽に車輪の跡を残すとは無粋だな。ドロシーのように足跡を残したまえ」
 ――いや、幽霊であれば無理かい?
 軽口さえもライラックらしい言い回し。その奥で、似ているな、と零れそうになった言葉を呑み込む。父を想ってしたためた書物が、現実さえも侵食する力となる。空想の列車も幽霊も味方につける、『猟書家』と呼ばれる彼女の力。
 たとえば共に人として生まれていたら、愛する空想のひとつでも語り合っていたかもしれない。『しれない』を無意味と切り捨てるには、男は夢や空想を愛しすぎていた。
 それでも繰り出す攻撃に容赦はない。辿る頁を変えれば、繰り出されるのは氷の魔術。
 父を悼むように漆黒纏う淑女へと、降り注ぐのは悲しみの雨。澄んだ音と共にひとつ降り注いだ途端、氷柱の暴雨となって降り注ぐ。
 彼女の身も心も砕くよう、躊躇いひとつ見せずに。

「わた、くし、は――!!」
「諦めておくれ、哀れな御嬢さん」
 きみの、還る場所は。
「厭! 父様の、無念を、晴らすまで、何度でも、蘇って……」
「……そうかもしれないね」
 オブリビオンというのは幾たびにも蘇るもののようだから。
 けれど再生にもほころびが生じる。何度も何度も屠られては這い上がってきたレディ・ハンプティの、これが最後の一回であるかもしれない。
 君の父がそうであったように、とライラックが口にすれば、刺さるようなまなざしが返ってきた。
「一度落ちきってしまえば、もう元に戻せない。父の眠る海へと、御沈み」

 ――最後に女を刺した氷柱は、ひときわ鋭く、ひときわ輝いていた。

 女は、蘇るだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月17日


挿絵イラスト