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迷宮災厄戦㉑〜大魔王の忘れ形見

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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●魔王の遺児
「枕の国……じゃなかった! 『おやすみなさいの国』が制圧されて、新しい猟書家への道が開けたみたいね。というわけで、今度の相手は蒸気の国に陣取っている、レディ・ハンプティっていう猟書家になるわ」
 この猟書家、実は由来がはっきりしている。そう言って猟兵達に語るパトリシア・パープル(スカンクガール・割とf03038)の口から告げられたのは、かつてアルダワ魔法学園の地下に封じられし、忌むべき存在の名前だった。
「アルダワ魔法学園で戦争があった時に戦った、アウルム・アンティーカって覚えてる? ほら、あの大魔王の第一形態よ。なんか、色々な機械が合わさって、身体のパーツもいっぱいあるみたいなやつ」
 何を隠そう、レディ・ハンプティは、その大魔王第一形態によって生み出された存在らしいのだ。よって、彼女が狙っているのも当然のことながらアルダワ魔法学園。正確には、その世界の西方に位置する諸王国連合。魔導列車が横行する、蒸気魔法文明の要ともいえる場所である。
「魔法学園が勇者の養成機関なら、諸王国連合は文化の中心って感じ? まあ、行ったことないから分からないし、今はその辺は置いておいて……」
 問題なのは、レディ・ハンプティの攻略法だ。猟書家の例に漏れず、彼女もまた確実にユーベルコードによる先制攻撃を仕掛けてくる。この攻撃をユーベルコードや攻撃行動で対処するのは、実質的に不可能。相手はそれよりも先に攻撃を仕掛けてくるため、ユーベルコードに頼らない防御や回避の方法が必要になる。
「あ、そうそう! このレディ・ハンプティだけど、直接攻撃の方が得意みたい。特に面倒な効果を持ったユーベルコードはないけど、その分、直接戦闘には強いと思うから、油断してると食べられちゃうわよ」
 そう、食べられるのだ。レディ・ハンプティは、その豊かな胸元の下に巨大な口を携えており、これで相手を噛み砕いたり、もしくは丸のみにしたりして来る。また、他にも自ら武装楽団形態へと変身させて戦闘力を爆発的に上昇させたり、あるいは災魔の幽霊を乗せた魔導列車を呼び出して、自分の代わりに戦わせることもあるようだ。
「アックス&ウィザーズでの戦争の時もそうだったけど……こうも色々な世界に影響を与えられる大魔王って、やっぱりただ者じゃなかったのかも……」
 ここでレディ・ハンプティを見逃せば、彼女が第二の大魔王になり、再びアルダワ魔法学園の世界に破壊と混沌をもたらすことになるだろう。
 そんなことは、絶対にさせてはならない。そのためにも、彼女はここで倒さなければならないのだ。最後に、それだけ言って、パトリシアは猟兵達をレディ・ハンプティの待つ蒸気の街へと転送した。


雷紋寺音弥
 こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。

 このシナリオは戦争シナリオです。
 1章だけで完結する、特殊なシナリオとなります。
『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』ための工夫があると、プレイングボーナスが得られます。
 なお、敵は必ず先制攻撃を行って来るため、それを考慮した上での対策でないと、有効であるとは判定されません。
 また、この先制攻撃に対して、ユーベルコードでの対処は間に合いません。

 出現する敵は『猟書家『レディ・ハンプティ』』です。
 特に厄介な特殊効果を持つ搦め手は使って来ませんが、その分、直接戦闘では純粋に強いので、初撃をいかにしてやり過ごすかが勝負の鍵となるでしょう。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フィーナ・シェフィールド
せっかく平穏になった世界に、再び騒乱が起こらないように。
「ここで止めなくっちゃ…」

月明かりのオーラを纏い、白い翼を広げて舞い上がり、レディに相対します。
「わたしの歌を、聴いてください!」

空中で列車を避けながら、災魔の幽霊に対して破魔の歌で対抗します。
オーラを纏ったシュッツエンゲルを展開して身を守りつつ、【包み込む破魔の歌声】を発動。
「其は天使の抱擁、聖なる浄化の歌声!」
呼び出したスピーカーポッドを、向かってくる幽霊を包囲するように配置。
マイク・イーリスを握りしめ、破魔の力を込めた歌声を放って除霊していきます。

「悪しき魂よ、消えよ!」
そのままレディに向けて歌声を集中、その存在を浄化していきます!



●レディへ捧げる歌
 平和な世界に、再び破壊と災厄を撒き散らさんとする者達。オブリビオン・フォーミュラなき世界において、彼らの代わりにならんとする猟書家達は、誰一人として逃してはならない敵だ。
「ここで止めなくっちゃ……」
 強敵であると聞いてはいたが、それでも倒さねばならぬ相手だと、フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は覚悟を決めた。
 降り立ったのは、蒸気機械が張り巡らされた奇妙な街。どこか、アルダワを連想させる場所ではあるが、しかしこの世界の主であるレディ・ハンプティを除き、他に人影は誰も見えないことが、ここがアルダワではなく不思議の国のひとつであることを物語っていた。
「うふふ……あなた、猟兵ですわね。私の邪魔をするというのであれば、覚悟はできておりますわよね?」
 フィーナの姿を捉えるなり、レディ・ハンプティは書物を開き、彼女を攻撃する態勢に入る。とてもではないが、話の通じそうな相手ではなさそうだ。
 お前の武器は、剣か、槍か、それとも魔法の類なのか。何であろうと、全て蒸気の獣で食らい尽くさせてやる。そう言って、手にした書物のページをめくるレディ・ハンプティに対し、フィーナの選択した武器は……歌だった。
「わたしの歌を、聴いてください!」
 重厚なフォルムをした列車が召喚されるのと、フィーナが飛び立ったのが同時だった。間一髪、列車に轢かれることだけは免れたが、それだけで終わるとは思えない。
 果たして、そんなフィーナの予想は正しく、今度は蒸気機関車から降りて来た無数の蒸気獣達が、一斉に牙を剥いて襲い掛かって来た。相手は幽霊だが、生物というよりはロボット……あるいは、魔導機械に近い何かなのだろうか。彼らは全身の噴出口から蒸気を噴射することで、その反動を利用して、空中にいるフィーナへと迫って来た。
「くっ……このままでは……」
 思いの他にしつこく纏わり付いて来る蒸気獣の群れによって、フィーナは防御行動を取るのが精一杯だ。何が何でも、こちらに歌を歌わせないつもりか。だが、ドローンプレートを盾に凌いだことで、なんとか歌う準備を整える時間は稼げた。
「其は天使の抱擁、聖なる浄化の歌声!」
 スピーカーポッドを呼び出し、それらで蒸気獣の幽霊を取り囲むようにして、フィーナは歌う。彼女の握るマイクが拡散する歌声は、悪しき魂を浄化する破魔の音色となって、次々に幽霊達を除霊して行く。
「悪しき魂よ、消えよ!」
 全ての霊が消えたことで、最後にフィーナはレディ・ハンプティへと歌声を集中させた。だが、そこはさすがの猟書家だ。大魔王の娘を名乗るだけあって、彼女はフィーナの歌に嫌悪の色を示したものの、直ぐに肩の噴射口から蒸気を出して、その霧に紛れ、姿を消した。
「……逃げた!? これって……一応、勝ったことになるんですよね?」
 肉体を持たず、浄化により除霊できてしまう幽霊とは異なり、さすがに本体はしぶとかったか。だが、それでも初戦にしては上々だ。こちらと戦わず、逃げることを選択したということは、相手にとってフィーナの歌は、かなりの効き目があったことを示していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベイメリア・ミハイロフ
蒸気獣…でございますか
アルダワの地に、そのようなものを
蔓延らせる訳には参りません
ここは心して、臨もうと思います

初撃はダッシュ・フェイントを使い
また赤薔薇の花びら(クリーピングコイン)で敵の視界を遮る事を試みつつ
第六感・野生の勘、
可能であれば絶望の福音にて見切り回避を

回避不能であれば、オーラ防御を展開しながら
タイミングを合わせて武器受けを
一撃が強そうではございますが、そこは気合いにて受けきるように

回避又は武器受けが成功したならば
カウンター、範囲攻撃にて列車を巻き込むようにしながら
早業・高速詠唱からの2回攻撃も狙いつつ
全力魔法を乗せたジャッジメント・クルセイドを放ちます

(共闘・連携歓迎いたします)



●目には目を
 平和の訪れたアルダワの地。かつて、大魔王を封印していた学園ではなく、世界の文化と経済の中心にて、不幸と災厄を撒き散らさんとする魔王の娘。
「蒸気獣……でございますか。アルダワの地に、そのようなものを蔓延らせる訳には参りません」
 世界を再び混沌に染めさせはしないと、ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は蒸気の街に降り立った。レディ・ハンプティの目指す諸王国連合の街もまた、このような蒸気機関によって支えられている街なのだろうか。
「ごきげんよう、猟兵様。早速で申し訳ありませんが……死んでいただきますわね」
 ベイメリアが何かを告げるよりも早く、レディ・ハンプティが地を蹴り、一気に距離を詰めて来た。その手にした書物から蒸気機関車を呼び出すとばかり思っていたベイメリアは、レディの思わぬ行動に、咄嗟に薔薇の花弁を撒いて横跳びに避けた。
「遅いですわ。……そこっ!!」
「……っ! あ、危ないところでした」
 辛うじて胸の口による攻撃を避けたものの、レディ・ハンプティは、未来を予測する暇さえ与えてはくれなかった。後少し、反応が遅れていたら、胸の口に頭から齧られていたところだ。
 続く攻撃位置を予測して、ベイメリアは次なるレディの攻撃を、今度は華麗に避けて見せた。絶望の福音。10秒先の未来を垣間見ることのできる、一種の予知能力だ。
「さあ、今度はわたくしの番でございますわね」
 お返しとばかりに、レディ・ハンプティに指先を向けんとするベイメリア。しかし、肝心のレディは不敵な笑みを浮かべたまま、その場を微動だにすることもなく。
「……いえ、申し訳ございませんが、次はわたくしの番ですわ」
 手にした書物のページを開き、今度こそ蒸気機関車を呼び出すレディ。いったい、これはどういうことだ。突っ込んで来る汽車の突進を棍で受け、ベイメリアは弾き飛ばされながらも指先を向ける。瞬間、天からの光が降り注ぎ、汽車は盛大な爆発と共に、部品を撒き散らして粉々になった。
 だが、それでも中に搭載されていた蒸気獣の幽霊達は、完全に倒されたわけではなかった。汽車が粉砕される瞬間、辛うじて脱出していた幽霊達が、瞬く間にベイメリアを取り囲んでしまった。
「討ち漏らしましたか。ですが、汽車さえなければ、幽霊の一体や二体など……」
 そこまで言って、ベイメリアは肝心なことに気が付き、言葉を飲んだ。
 必殺のジャッジメント・クルセイドは、指先を向けた相手にしか効果を発揮しない。しかし、敵は多数の幽霊に加え、レディ・ハンプティも残っている。全てを纏めて倒すことなどできず、どちらかに集中すれば、どちらかに攻撃されてしまう可能性が極めて高い。
 敵の先制攻撃に対し、ユーベルコードだけでの回避や防御は難しい。また、敵はこちらが使用しようとしたユーベルコードと、まったく同じ属性のユーベルコードで対抗してくる。力には力を、速さには速さを、そして知恵や魔術には同じく知恵や魔術をといった具合に。
 先手を取って来る敵を相手に、複数ユーベルコードの使用は諸刃の剣と言わざるを得なかった。こちらがユーベルコードを使用しようとすれば、その回数分だけ、敵も先制攻撃を仕掛けて来るからだ。
 残念ながら、これ以上は無理をしても負けるだけだろう。強敵を相手にするに至って、少しばかり気が焦っていたのかもしれない。そう判断し、ベイメリアは歯噛みしつつも、天からの光が炸裂した瞬間、それに乗じて離脱した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シン・ドレッドノート
アドリブ連携OK!

武装楽団形態の状態で時間を稼いで、寿命を削りにいきましょう。
「それでは、しばし踊っていただけますか、レディ?」
優雅に一礼して、戦闘開始です!

相手が先制で変身する間に、こちらも戦闘準備しましょう。
閃光の魔盾のビーム障壁を展開、攻撃を受け流す姿勢を取りながら、【紺青の剣劇】を発動します。
「ビット展開、レッツ・ダンシング!」
召喚したソードビットを使って、魔盾のビーム障壁を強化。3つのビットを三角形に連結することで防御力を上げて、攻撃を受け流します。
損傷したビットは交換して、防御力を維持。

「足元、ご注意くださいね!」
防御しながら、ライフルビットの一斉射撃で瘴気を撃ち払っていきますね。



●魔婦人のワルツ
 大魔王の遺児を名乗る、猟書家レディ・ハンプティ。その実力は、さすがは魔王の娘とだけあって、実に凄まじいものだった。
 搦め手こそ殆ど持たないものの、純粋な力量は猟兵達の力を遥かに凌駕する。少しでも対処を誤れば、その代償として手痛い反撃により撤退を余儀なくされてしまう。
「うふふ……次のお相手は、あなたですの? 少しは骨のある紳士だとよろしいのですけれど……」
「ご期待に沿えるよう、努力させていただきますよ。それでは……しばし踊っていただけますか、レディ?」
 その微笑みの裏に危険なものを感じ、シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)はすかさず光の障壁を展開し身を守った。
「あら? わたくしと、踊っていただけるのではありませんの?」
 果たして、そんなシンの勅勘は正しく、蒸気を纏ったレディ・ハンプティが、光の障壁の直ぐ傍まで肉薄していた。
 見れば、その身体はまるでパイプオルガンか何かと見紛うような、多数の気筒が生えたものに変わっている。あれが武装楽団形態か。確かに、速さもパワーも桁違いだ。純粋な打撃しか使ってこないものの、実際、蹴りの一発だけで、光の障壁と凄まじい干渉が引き起こされ、周囲に飛び散る稲妻状のエネルギーが、壁や床にぶつかって爆発した。
 このままでは、遠からず障壁も破られる。だが、下手に障壁を解除しようものなら、あのスピードの前には成す術もない。
 ならば、こちらは障壁の中から出ずに攻撃を仕掛けてやろうと、シンは多数のビットを展開した。
「ビット展開、目標を切り裂く!」
 攻防一体のソードビットに、連射も狙撃も可能なライフルビット。それらをズラリと展開させ、まずはソードビットを組み合わせて光の障壁を強化することで、敵の攻撃を受け流し。
「そんなもので、いつまでも耐えられると思っておられるのかしら?」
「ええ……確かに、時間稼ぎ程度しかできないでしょうね。ですが、これで十分なのですよ」
 壊れたビットをすぐさま交換しつつ、シンは残るライフルビットを一斉にレディ・ハンプティへと向けた。相変わらず凄まじいスピードのため、狙撃は不可能。だが、一斉に砲撃することで、逃げ場を奪って蒸気を払うことくらいはできるはず。
「足元、ご注意くださいね!」
 前後左右、あらゆる角度からの攻撃で、シンはレディ・ハンプティの蒸気を吹き飛ばそうとした。敵の肉体を強化しているのは、あの蒸気だ。ならば、蒸気さえ払ってしまえば、強化も断たれると……そう、考えたのだが、少しばかり甘かったようだ。
「……なっ! あれだけの攻撃を撃ち込んで、まだ足りないのですか!?」
 爆風の中から現れたのは、蒸気を纏ったままのレディ・ハンプティ。いったい、これはどういうことだ。状況を飲み込むよりも早く、レディの脚が最後のソードビットを蹴散らして、光の障壁を粉々に打ち砕いた。
「残念でしたわね。この蒸気は、わたくしの身体の中から出ているのです。少しばかり払ったところで、直ぐに補充することができますわ」
 この程度で、魔王の娘を倒せるとは思わないことだ。そう言ってなおも迫るレディ・ハンプティを前に、シンは撤退する他になかった。
 大魔王の遺児の名は、伊達ではない。敵の強大さをまざまざと見せつけられる形になったシンだったが、それでも彼は満足だった。
 これだけ時間を稼いだのだ。ユーベルコードの反動で、敵は大幅に寿命を削られ、体力を消耗しているはず。果たして、そんなシンの予測は正しく、彼が去った後の街に佇むレディ・ハンプティは、額に汗を流しながら肩で息をしていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

備傘・剱
綺麗な花には棘があるってか?
怖いもんだ

乳房
使う前兆を予測して、念動力で敵を動かして回避、それができない時は、自身を空中浮遊で動かし、敵は結界術で捕縛して体を遠ざける

フォーマル
オーラ防御を全面に広く展開し、触れた感覚があったら、そこに、誘導弾と呪殺弾の弾幕を張り、回避行動をとったら、衝撃波でカウンターを合わせる

蒸気獣
召喚されたら、オーラ防御展開し、呪殺弾、衝撃波、誘導弾とブレス攻撃で迎え撃ち、接近されたら、二回攻撃で確実に仕留める

全てを防いだら、青龍撃発動、水弾でフェイントをかけつつ、グラップルで戦闘を仕掛け、体を浮かせたら、乳房下の口めがけて爪と呪殺弾、衝撃波、誘導弾、水弾を零距離射撃してやる



●慎重の代償
 大魔王の娘を名乗る、その身に蒸気の排気塔を生やした令嬢。美しい肢体とは裏腹に、その性質は凶悪そのもの。
「綺麗な花には棘があるってか? 怖いもんだ」
 一瞬、その豊満な胸元に視線が行くも、直ぐに下に生えた無数の牙の存在を見て、備傘・剱(絶路・f01759)は肩を竦めた。
「美しいと仰っていただき、光栄ですわ。では……あなたにも、お礼を差し上げねばなりませんね。わたくしの手に掛かって死ぬという、これ以上ない誉れな死を!」
 レディ・ハンプティの口元が笑みの形に歪むと同時に、彼女の身体が蒸気に包まれ、そして消えた。いや、正確には消えたのではない。圧倒的なスピードを得ることによって、常人では視認できない程の速さで動き、消えたように見せたのだ。
(「どこだ……どこから来る?」)
 咄嗟に気を広域に張り巡らせ、剱はレディ・ハンプティの攻撃に備えた。あまりに薄くバリアを展開したため、防御としての役割は殆ど果たせない。だが、ほんの少しでも気の流れがぶれるところがあれば、そこにレディ・ハンプティがいるということ。
(「……っ! そこか!!」)
 一瞬、微かな気の乱れを感じ、剱はそちらに視線を向けるよりも早く、追尾する呪殺の弾丸を撃ち込んだ。
「あら、わたくしの動きを読むとは、やりますわね」
 だが、そんな剱の攻撃を、レディ・ハンプティは軽々と避けてみせた。彼女はスピードだけでなく、反応速度もまた超絶なレベルに上昇しているのだ。今のレディ・ハンプティからは、剱の動きがまるでスローモーション映像のように見えていることだろう。
「避けられたか。しかし、一手でも遅れれば、まだ機会はある!」
 迫り来るレディ・ハンプティの起動をぎりぎりで読み、剱は衝撃波を叩き込むことで反撃を試みた。それさえもレディ・ハンプティは超絶的な反応速度で避けてしまうが、こうも立て続けに攻撃を挟まれては近づけないのか、剱に決定的な一撃を食らわせることもできないようだった。
(「よし、凌いだぞ。次は……」)
 果たして、どんなユーベルコードで攻撃して来るのか。続く牙や蒸気獣の攻撃に備える剱だったが、彼の予想に反し、レディ・ハンプティは再び加速して剱へと迫って来た。
「おいおい、またそれかよ!?」
 あれこれと準備をしてきたつもりだったが、どうやら少しばかり杞憂が過ぎたようだ。
 猟兵とオブリビオンとの戦いは、互いに同じ属性のユーベルコードをぶつけ合うことで行われる。こちらが力で押せば、相手も力で。こちらは速度を上げれば、相手もそれに対応する何かで応戦してくる。
 先制攻撃を仕掛ける際も、それは変わらない。故に、レディ・ハンプティが使うユーベルコードも、基本的にはひとつだけ。こちらが複数の技を使えば相手もそれに対応しただろうが、そうでない場合、使われる心配のないユーベルコードに対しては、何らかの準備をしても意味がない。
「ほらほら、動きが止まっておりますわよ」
 先程の攻撃を受けた際に弾の軌道を覚えたのか、レディ・ハンプティは慣性の法則を無視したかのような動きで、蒸気を噴出しながら剱へと迫って来た。
 高速戦闘においては、純粋な質量攻撃だけでも十分な脅威だ。あんな速さで、大魔王の娘を名乗る令嬢の蹴りでも食らったら……恐らく、骨が砕けるだけでは済むまい。
「天よ、祝え! 青龍、ここに降臨せり! 踊り奏でよ、爪牙、嵐の如く!」
 回避によって敵の意識が一瞬だけ自分から逸れた瞬間、剱は躊躇わずユーベルコードを発動させた。これ以上は、下手に出方を窺えば、それだけ自分の命が危うくなる。それに、あの高速移動に対抗するには、こちらも高速で移動するための術が必要だ。
「さあ、これでスピードの差はなくなったぜ。どうする、魔王の娘さんよ」
 水を集めて作った青龍の爪と牙を纏い、剱はレディ・ハンプティへと肉薄した。互いに床や壁すれすれを飛翔しながら、白と青の軌跡を描いてぶつかり合う。爪と手刀が、脚と牙が、それぞれ激突するも、なかなか決定的な一撃を入れるには至らない。
「なかなかやるな。だが、こいつを防げるか?」
 それならば遠距離から攻撃してやろうと、剱が水の弾丸を発射した。レディ・ハンプティは、それを魔書の表紙で軽々と受け止めるも、その行動は剱も予測しているものだった。
「うふふ……。この程度の水弾など、わたくしには子どもの水鉄砲で……?」
「甘いな! 取ったぞ!!」
 剱が狙ったのはレディの顔。着弾を防ぐため本で防げば、ほんの一瞬だけ視界が隠れる。
 その隙を突いて、剱は再び肉薄した。今度は殴るためではなく、相手を掴むために。その胸……ではなく、首をしっかりと鷲掴みにし、もう片方の手にありったけの力を込め。
「あんたの胸の口……どれだけ悪食か、試してやるよ」
 暴れるレディの胸元に、ありったけの爪と牙、そして水弾や呪殺弾を叩き込む。胸の口がおぞましい悲鳴を上げれば、チャンスとばかりに、その中へ残る全弾を放り込み、そして最後に腹を蹴り飛ばして距離を取った。
「ぐっ……はぁっ……! お、おのれ……よくも、このわたくしに……こんな下劣なものを食べさせてくれましたね……」
 この借りは、いずれ必ず返してやろう。だから、今は勝負を預けるとだけ言って、レディ・ハンプティは蒸気に紛れて姿を消した。
「なんとか、振り切ったようだな。さすがに、こっちも限界だぜ……」
 敵の姿が視界から消えたところで、剱もユーベルコードを解除して膝を付く。寿命を削る技を、いつもよりも長い時間使用した反動で、生命力が根こそぎ削られてしまったようだ。
 さすがに、今の状態で、レディ・ハンプティを負うことはできない。後続の猟兵に全てを託して撤退する剱だったが、彼の食らわせた多数の弾は、レディ・ハンプティの内側に、浅くない傷を負わせたはずだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
凍結爆破の魔力弾【属性攻撃、多重・高速詠唱、全力魔法、誘導弾】を高速連射で放ち、災魔の群れ及び魔導列車の蒸気機関狙って炸裂。
広域を凍結爆破する事で敵群の行動を封じ、UC使用の時間を稼ぐわ。

【ブラッディ・フォール】で「金色魔王三重奏」の「アウルム・アンティーカ」の力を使用(アウルムの形の甲冑(パワードスーツ)を着込む形で姿を変化)。
距離を保ちながらの【黄金殲滅魔導重砲】による攻撃や先程の凍結爆破や雷撃の魔力弾を多重・高速展開して連続一斉発射で敵群を一掃しつつ敵本体を攻撃して隙を作り、【真紅崩天閃光撃】を叩き込むわ!

魔王とその娘、そして胸の口と腹の口、どちらが強いのかしらね!



●魔王VS魔王
 蒸気漂う無人の街。そこに佇む貴婦人の姿を捉え、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は軽やかに宙から舞い降りた。
「あなたが大魔王の娘かしら? ……なるほど、確かに普通の人間ではなさそうね」
「あら? どうやら、少しは気品のある振る舞いができる方のようですわね」
 互いに対峙する二人の令嬢。その見た目からは想像できない程に、二人とも激しい闘志と、そしてなにより凶暴なまでの力を内に秘めているのだが。
「先程は、少しばかり悪食なものをいただいてしまいまして……貴方であれば、御口直しに丁度良さそうですわ」
 レディ・ハンプティの手にした魔書が、静かにめくられた。次の瞬間、書物の中から光と共に重厚なフォルムの蒸気機関車が出現し、そこから飛び出して来た多数の蒸気獣達が、一斉にフレミアへと襲い掛かった。
「来たわね……。でも、動力が蒸気なら、数を揃えられてもやりようはあるのよ!」
 どう見ても数的に不利な戦いだったが、それでもフレミアは怯まない。迫り来る機関車と蒸気の獣。それらに纏めて氷の魔弾を叩き込み、即座に動きを鈍らせた。
「ア……ァァ……」
「ガ……グギギ……」
 懸命に動こうとする蒸気獣達だったが、肝心の蒸気機関が凍り付いてしまい動かない。時間をかければ内部の熱で氷を溶かせるかもしれないが、それよりもフレミアが次の行動に入る方が先だ。
「そして、お次はこれよ。骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
「なっ……! そ、その姿は!?」
 奇妙な甲冑を纏ったフレミアの姿に、今度はレディ・ハンプティが驚く番だった。彼女が纏っているのは、他でもないレディの父親である、アウルム・アンティーカの姿と力を模したものだったからだ。
「まずは、余計な雑魚を蹴散らさないといけないわね」
 アウルム・アンティーカ同様に、今のフレミアの背中からは多数の蒸気筒が生えている。それらを全て敵軍へと向け、フレミアはその先端から無数の魔力砲を発射した。
 黄金殲滅魔導重砲。アウルム・アンティーカの使用するユーベルコードのひとつであり、その効果は敵味方関係ない無差別攻撃。レディ・ハンプティはともかく、先の攻撃で凍り付いていた機関車や蒸気獣達はひとたまりもなく、降り注ぐ無数の魔導弾によって、爆風と共に吹き飛ばされた。
「これで露払いは済んだわね。次は……」
 いよいよ、レディ・ハンプティとの戦いだ。爆風の中、相手の姿を探すフレミアだったが、しかし煙を掻き分けて現れたそれに、思わず驚愕の表情を浮かべて叫んでしまった。
「えぇっ!? ちょっと、なんでこの汽車、動けるのよ!?」
 あれは、自分が完膚なきまでに破壊したはず。その汽車が、なぜ自分の目の前に現れたのか。理由も分からぬまま跳ね飛ばされ、フレミアの身体が宙を舞う。
(「ど、どうなってるの? 確かに、機関車は破壊したはずなのに……」)
 理由も分からないまま、落下して行くフレミア。そんな彼女の疑問を見透かしたかの如く、レディ・ハンプティはフレミアへと告げる。
「素晴らしい力をお持ちのようですが、甘いですわね。ご自分ばかり、そう何度もユーベルコードを使えると思わないことですわ」
 レディの言う通り、フレミアのユーベルコードは、今までに倒したオブリビオンの使用するユーベルコードで攻撃するというもの。模倣であれ、それでも全く同じユーベルコードで攻撃する以上、リスクの面もまた同じ。
 ユーベルコードを使った攻撃である以上、連射はできない。続け様に放とうとしても、その間へ強引に割り込まれ、レディに先手を取られてしまう。
 軽い滑落感を覚えながら、それでもフレミアは懸命に身体を捻ると、レディ・ハンプティを真正面に捉えた。先程のような失態、そう何度も繰り返すわけにはいかないからだ。
「ところで……魔王とその娘、そして胸の口と腹の口、どちらが強いのかしらね!」
 なんなら、今ここで決めても構わない。落下しながらも鎧についた腹の口を広げるフレミアに対し、レディ・ハンプティもまた拳を握り締め。
「……小娘風情が! 貴様如きに、お父様の力を容易く扱えると思うな!」
 今までの淑女ぶりはどこへやら。激昂し、もはや気品さえも失った魔性の令嬢。今にも飛び掛からんとする勢いだったが、そこへフレミアの纏った鎧から真紅の光線が放たれる。
「……っ! おのれ……覚えているがいい!!」
 咄嗟に汽車を盾にしたものの、それだけで完全に防ぐことはできず。爆発する汽車の残骸に巻き込まれ、レディ・ハンプティは彼方へと吹き飛んで行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルカ・メグロ
チガヤ(f04538)と参戦
大魔王だか知らないけど、この世界をどうにかしようってんなら容赦しないぜ!
そうだな、チガヤ。あの乳……ち、ち、ちちち!?
俺はなんでこんな相手選んじまったんだ!

ああ!とにかく覚悟しろよ!!
まずは初手に警戒だ。距離を取ってあの口に捕まらないようにするぜ。
相手が準備するようなら俺も【リミッター解除】してギータの力をいつでも引き出せるようにしておく。

次は俺たちの番だ!
チガヤと連携して反撃するぜ。露払いは任せな。
「あんたの罪に報いを。いくぜ、チガヤ、ギータ!」
周囲の蒸気機関ごと【竜の抱擁】を叩きつけて破壊して、チガヤの道を切り開くぜ。
当然、俺も一撃を狙って、ぶちかましてやる!


チガヤ・シフレット
ルカ(f22085)と参戦だ!
大魔王から生まれた存在だとかなんとかぁ?
殴りがいのある相手じゃないか
気合入れていくとしようか
そうだ、相手の乳がでかいからって見惚れてちゃあダメだぞ、ルカ
くくく、私のほうがいい乳してるぞ?

さて、両手脚の兵装をフル稼働!
レディ・ハンプティがスピードやら上げてくるなら、障害物になりそうなモノやらうまく使って【逃げ足】で回避回避ぃ!
どうしても避けられないなら【オーラ防御】で集中ガードだ!
腕一本くらいならくれてやるさ

反撃はルカと連携して一気に畳み掛けるとしよう!
「派手にぶちかますぞ!」
一気に敵の懐に飛び込み【零距離射撃】で【一斉発射】だ!
そのでかい乳をぶち抜いてやろう!



●魔令嬢の最後
 蒸気の街を逃げる影。気品溢れる優雅な姿だったレディ・ハンプティは、今や見る影もない程に、全身を酷くやられていた。
 度重なる戦闘により、排気塔はひしゃげ、衣服もズタボロだ。そして、なによりも厳しいのが体力。寿命を代償に自らの肉体を強化し過ぎた結果、とてもではないが、連戦を行えるだけの余力を残すことができなかったのだ。
「はぁ……はぁ……。うぅ……おのれ、猟兵どもめ……」
 気が付けば、口から溢れ出るのは薄汚い呪詛の言葉。魔王の娘の本性、ここに見たりと言ったところか。そして、そんな状態のレディ・ハンプティを見逃す程、猟兵達の追撃も甘くなく。
「大魔王から生まれた存在だとかなんとかぁ? 殴りがいのある相手じゃないか」
 大剣を片手に、立ちはだかったのは、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)だ。そして、同じく現れたのはルカ・メグロ(ヴァージャ・コン・ギータ・f22085)だったが、しかし彼はレディ・ハンプティの姿を見た途端、その胸元に釘付けとなった。
「そうだな、チガヤ。あの乳……ち、ち、ちちち!?」
 女性に免疫のないルカにとって、服の破れた今のレディ・ハンプティの姿は、少しばかり刺激が強過ぎたようである。ああ、いったい何故に、こんな相手と戦うことになってしまったのか。もっとも、そんなルカの様子を横目に、チガヤはどこか楽しんでいるような笑みを浮かべ。
「そうだ、相手の乳がでかいからって見惚れてちゃあダメだぞ、ルカ。……くくく、私のほうがいい乳してるぞ?」
 挑発的な視線をルカに送るも、そのせいでルカは、ますますどちらを向いてよいのか分からない状態に。
「あ……ああ! とにかく覚悟しろよ!!」
 気を取り直し、ルカは両手で顔をはたいて正気を保った。が、それらの会話はレディ・ハンプティにも丸聞こえであり、同時に彼女を激昂させるのに十分だった。
「なるほど……貴方達は、女性の価値を胸で判断する、下劣な者達ということでよろしいわね? ならば……このわたくしが、裁いてあげますわ! 万死を以て!!」
 いや、誰もそこまで言ってはいない。そう、止めようとする二人だったが、遅すぎた。
「……っ! は、速っ!?」
 一瞬にして間合いを詰められ、チガヤは思わず固まった。
 冗談じゃない。こんなスピード、普通に走っただけでは絶対に逃げられない。機械の補助を使ったとしても、せいぜい急所への直撃を避けるのが精一杯。おまけに、何かを盾にするにしても、身を隠せるような場所まで走る前に、背中から蹴られて殺される。
「……あぐっ!?」
 レディ・ハンプティの鋭い蹴りが、チガヤの腕に突き刺さった。咄嗟に気を集中させて防いだが、それでも骨が砕ける痛みが走り、声にならない悲鳴を上げた。
「チガヤ……って、うわ! こっちにも来た!!」
 吹っ飛んで来たチガヤを受け止めたルカだったが、そこに迫るのは胸の口を大きく開いたレディ・ハンプティ。危うく、首を齧られそうになったところで、なんとか身を退いて避けることには成功したが。
「あ、危なかった……。距離を取っていなかったら、死んでたかも……」
 もう数センチ近ければ、確実に頭を砕かれていた。背中に冷たいものが走りつつも、ルカは気を取り直して反撃に入る。
「よ、よし! 次はオレ達の番だ!」
 その身に宿した竜の力が、激しく蠢いているのを感じた。パワーもスピードも桁違いない相手だが、ここで踏ん張れば勝機はあるのだ。
「派手にぶちかますぞ!」
「あんたの罪に報いを。いくぜ、チガヤ、ギータ!」
 チガヤの叫びに応え、ルカの腕に力が入る。人の身を越え、竜の力を宿した腕の一撃は、単純ながらも地形さえ破壊し、その構造をも変えてしまう。
「コォォォ……、よし! ギータ、優しく抱きしめてやろうぜ!!」
 言葉とは裏腹に、重く激しい一撃が叩きつけられ、周囲の蒸気機関を破壊した。持ち前のスピードを生かして避けるレディ・ハンプティだったが、ルカはそれさえも織り込み済みだった。
「くっ……小癪な真似をしてくれますわね!!」
 破壊された蒸気機関の部品が、流星の如くレディ・ハンプティへと襲い掛かる。思わず顔を庇ったレディだが、そうすることで、一瞬だけ視界が塞がれる。
 その一瞬、ほんの少しだけ意識がそれた瞬間こそが、チガヤが望んでいた絶好のタイミング。そちらが高速移動をするなら、こちらも高速移動を見せてやろう。内蔵された全ての兵器。その力を完全に開放することで。
「オーバーヒートするまでかっ飛ばして! ぶっ壊れるまで止まれないよなぁ!」
「なっ……! いつの間に!?」
 レディ・ハンプティが気が付いた時には既に遅く、チガヤは目と鼻の先にまで迫っていた。そのまま、持てる全ての火器による、ビームと衝撃波を叩き込む。零距離からの一斉射撃。さすがに、そんなものを食らっては、いかに反応速度が高くとも避けられない。
「あぁ……そ、そんな……。大魔王の娘である……この、わたくしが……」
 光と爆風に飲み込まれ、レディ・ハンプティの身体が消えて行く。溢れ出す蒸気は、もはや本人にさえ止められないのか、周囲を白く染め上げて行き。
「お許しください……お父様……」
 それが、レディ・ハンプティの残した最後の言葉だった。大魔王の遺児を名乗る令嬢は、最後まで創造主である大魔王への敬意を忘れることなく、白い霧の中へ溶けて消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月18日


挿絵イラスト