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迷宮災厄戦㉑〜蒸気獣の悦びを描くモノ

作者：柊透胡

「サー・ジャバウォックに続いて、２人目の猟書家『レディ・ハンプティ』の国にも攻め込めるようになったで！」
　頼もしげに猟兵達を見回す各務・瞳子（七彩の聴き手・f02599）。確かに、開戦から猟兵達の士気には目を瞠るものがある。
「アルダワ魔法学園を狙う猟書家『レディ・ハンプティ』の国は、魔導列車が走り回り、蒸気建築に埋め尽くされた、大都会のような国や」
　レディ・ハンプティは、かつて地下迷宮アルダワ・ファーストダンジョンに座した大魔王第一形態『アウルム・アンティーカ』の娘であるという。
「『予兆』でも、父様の無念を晴らす！　ってめっちゃヤル気満々やったな……うちもそうやけど、母校のある世界の危機を見過ごせへん猟兵さんは、きっと少なくない思う」
　そうでなくとも、猟兵の力を結集して魔王を滅ぼし、カタストロフを回避させたのだ。更に、レディ・ハンプティの狙いは、アルダワ魔法学園そのものではなく、その西方に在る諸王国連合だ。世界の要となる地を蒸気獣などに蹂躙させる訳にはいかない。
「猟書家の戦力を削れば削る程、オウガ・オリジンの力も甦ってまうけど……取り敢えず今回は、レディ・ハンプティを全力で斃してしもたらええよ」
　彼女の武器は侵略蔵書『蒸気獣の悦び』と、がばっと開く牙だらけの『乳房の下の口』。強敵の例に漏れず、必ず先制攻撃を仕掛けてくる。
「しっかり対策して、でっかい反撃、叩き込んだってな！　皆宜しゅうに！」

第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう 【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。 SPD   :    アンティーカ・フォーマル 【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」 【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

　蒸気の煙がもうもうと立ち上る――至る所に魔導列車が走り回り、見渡す限り蒸気建築に埋め尽くされた、白く煙る大都会。
　或いは、彼の世界の要となる地、蒸気魔法文明最も華やかなる、諸王国連合を準えているのだろうか。
　屋根の上から街並を睥睨する黒衣の淑女は、目深にかぶった帽子の下で、唇をゆるりと歪める。
　だが、次の瞬間――その右手に忽然と現れたのは、重厚なる蔵書。悠然と振り返った屋根の連なりの先に、人影が在った。
「最初の一撃の被弾を抑え、後は泥仕合……という理解で良いでしょうか」
　御園・桜花（桜の精のパーラーメイド・f23155）が小首を傾げる暇こそあれ、淑女――猟書家「レディ・ハンプティ」は、侵略蔵書「蒸気獣の悦び」を開く。
　――――！！
　蔵書より奔る魔導列車。その窓より次々と、黄金色の蒸気機関で武装した災魔の幽霊が飛び出す。
「……っ！」
　夥しき幽霊の来襲に、忽ち呑み込まれる猟兵達。桜花は敵の蒸気機関の軌道を見切らんと目を凝らし、時に勘を働かせて身を躍らせる。
「む……」
　一方、八岐・剛牙（竜神の悪霊・f28093）はその巨漢にオーラを巡らせ、幽霊の攻撃を歯を食い縛って耐えている。両肩、両手、両足、尻尾に有る竜の頭が、気炎を吐くように揺らいだ。
　幽霊にもみくちゃにされながら、猟兵達が懸命に凌ぐ事暫し。レディ・ハンプティが怪訝そうに首を傾げた次の瞬間。
「塵も積もれば山となる、身を持って体験するか？」
　轟くは竜神の咆哮――清らな輝きが幽霊に浴びせられる。途端、彼方にふらり、此方によろよろ、よろめいた幽霊達は苦鳴を上げては蒸気機関がガチガチとぶつかり合う。
　常の気さくさも影を潜め、剛牙は竜神象る悪霊たる正体を顕す。例えるならば足の小指をぶつけるような、些細ながらものたうち回るような苦しみを延々と齎す業は、神の悪戯心とするには酷薄であろう。或いは神罰と呼ぶべきか。
「貴女の願いと私達の願いは共存できません。どうぞ、骸の海へお還りを」
　威厳に溢れて前に起つ剛牙の肩越しに、桜花は凛と声を張る。
「貴女の無念も、怒りも……他者を殲滅するというその想いの全てを、私達の力に替えて貴女にお返しさせていただきます」
　忽ち、全身が桜吹雪に覆われ、桜の精は幻朧の仇花と咲き乱れる――桜鋼扇を手に、剛牙と肩を並べるや、破魔の一撃を振う桜花。
　――――！！
　再び、魔導列車が走るも、初手と打って変わった強打が幽霊共を薙いだ。
　――咲き誇れ徒花。敵の力を我が糧に！
　桜花の纏う桜吹雪は、被ったダメージに比例して戦闘力を増強し、剰え敵の生命力を吸収する。
「力での対話しか望まなければ、それは力で潰されます」
　まるで歌うような囁きと共に、桜鋼扇が唸りを上げる。
「……次にお戻りになる時は、ご一考下さいますよう」
「まあ、気の早い事。わたくしはまだまだ動けてよ」
　桜花に強かに打ち据えられ、蔵書をバタンと閉じながらも、レディ・ハンプティは婉然と笑みを浮かべていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

（「あの魔王に娘がおるとはな」）
　時計塔の陰で、独りごちる杼糸・絡新婦（繰るモノ・f01494）。
　予兆によれば――レディ・ハンプティは、地下迷宮アルダワ・ファーストダンジョンに座した大魔王第一形態『アウルム・アンティーカ』の娘であるという。
（「怒るてことは、仲良かったんかねえ」）
　確かに、レディ・ハンプティは父の無念を思いやっていたが、「私にも正体を見せなかった、いとしい父様」の真意は不明だ。尋常でない関係は確かであろうか。
　ともあれ、敵には違いない。
　屋根を伝ってぶつかり合う猟兵達を遠目に、絡新婦は忍び足で敵の情報収集に勤しむ。
　数多の災魔の幽霊を乗せた魔導列車の召喚は、確かに厄介だが、猟兵も互角に戦っている。
　だが、次の瞬間、レディ・ハンプティが肩の機関から吹き出す蒸気を纏うや、その姿を大きく変じる。
（「あれが、アンティーカ・フォーマル？」）
　絡新婦が直接対決したのは大魔王の第二形態であるが、所謂「武装楽団形態」の様相は、確かに第一形態に似ているか。
「！？」
　絡新婦とて、機敏さに相当の自信はある。だが、レディ・ハンプティのスピードは彼を大きく上回った。
　敵の標的は、絡新婦ではない。その軌道に割り込む暇も無く、猟書家は猟兵へ襲い掛かる――。
　――――！！！！
　その先制攻撃で潰えなかった重畳。１歩も動かず即自爆。
（「うつろぎ式・切宮殺戮術『一爆鏖殺』。これが僕の鏖殺領域さ」）
　虚偽・うつろぎ（名状しやすきもの・f01139）――何かいきなり自爆する蠢く怪奇現象。一応、ブラックタールに類しているが、その実、自爆という概念生物。
　ただ自爆するためだけに、現れる存在。勿論、自爆後は爆発四散して戦闘不能である。
「…………」
　絡新婦が絶句するのも当然か。そして、全身全霊の捨て身の一撃を被ったレディ・ハンプティは、相当ズタボロになって咳き込んでいる。
　――――。
（「……あ、目が合ぅた」）
　思わぬ痛撃の八つ当たりか。絡新婦を認識したレディ・ハンプティが動く。武装楽団形態のまま――だがそれが、恐らくは幸運であった。
　オペラツィオン・マカブルは、反応速度に秀でる絡新婦をしても、成功率は低い。
　しかし、敵が絡新婦を越えるスピードで襲い掛かってきた事。そして、予想もつかない猟兵の自爆を目の当たりにして、絡新婦自身が「完全に脱力」していた事。
「排し、返せサイギョウ」
　斯くて、狩衣の狐人を象るからくり人形は、レディ・ハンプティの攻撃をそっくりそのまま反射する。
（「全く……」）
　万事塞翁が馬。何が幸いとなるか知れない。猛スピードで弾き飛ばされたレディ・ハンプティを追い、絡新婦は己が本体たる鋼糸を手繰る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「魔王の娘はんか……肩の部品とか、親父さん似やな。オカンは余程美人とちゃう？」
「……関係ねェ、立ち塞がるなら斬るだけだ」
　蓮条・凪紗（魂喰の翡翠・f12887）の軽口に、不愛想に応じる故無・屍（ロスト・エクウェス・f29031）。
　武装楽団形態を解いたレディ・ハンプティは、黄金の蒸気機関が何本か折れて、黒のドレスもあちこち損なっている。最初の余裕も見る影ない。
　――――！！
　だが、ガチリと何かが噛み合わさった物騒な音がするや、重々しく屋根を蹴ったレディ・ハンプティは、猟兵へ飛び掛かる。
「……っ」
　噛み裂かれた屍は――残像。レディ・ハンプティの乳房の下で蠢く大口が、忌々し気に牙をガチガチ鳴らす。
（「重、い――」）
　勘所良く、躱せた重畳。だが、カウンターでその体勢を崩そうとして、白き直剣を振り抜くも、鉄をぶっ叩いたような反動にやむを得ず間合いを取った。
「来ぃ、お姉はん――オレは逃げも隠れもせぇへん」
　次なる獲物は、凪紗。だが、屍と対照的に回避の素振りは無い。
　寧ろ、迫り来るＦカップ、もとい大口へ左腕を思い切りよく突き出した。果たして、凪紗の左腕は呑まれ、ゾブリと牙が肉を食む。
「う……ぐ……」
　些かなりとも耐性があろうとも、千切れんばかりの激痛に、視界が霞む。それでも、口中に爪立てながら、笑みを浮かべる凪紗。頬が痙攣した。
「左腕は、お前にくれたって、エエ……その代わり、決して逃がさへん……！」
　両の指先に埋め込まれた魔術翡翠は、血を介して命を啜る。
「嗚呼……美味そうやな」
　敵の大口を引っ掻き得た血液を媒介に、右の翠の爪を伸ばすや乳房を抉った。
　――――！！
　甲高い悲鳴に凄惨にも笑み零れ、口中の左の爪から直接生命力を吸い上げる凪紗。更に、右の爪で喉笛を掻っ切らんと。
　ガツゥッ！
　身を捻ったレディ・ハンプティは、凪紗を煙突に叩き付ける。だが、振り返る暇も与えず、レディの背中に重撃が叩き込まれた。
「ユーベルコード、便利な力だよな」
　十文字に二撃――屍は、淡々と呟く。
「便利だからこそ、頼っちまう」
　確かに、強敵の先制攻撃――ユーベルコードは、強い。「これさえあれば」と思ってしまうのは、きっと猟兵もオブリビオンも同様だろう。
「お前らは、明確にヒトより強い――だから負けるんだ、お前らは」
　膝から崩れ落ちたレディ・ハンプティへ、屍の暗黒剣が奔る――返す刃が、侵略蔵書を断つ。
「……こんな代物、残す理由はねェな」
「違いない」
　左腕をブンブンと回しながら、立ち上がる凪紗。
　事切れた猟書家の姿が、急速に薄れていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2020年08月17日