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迷宮災厄戦㉑〜黄金と蒸気の子守唄

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 緻密に組み上げられた歯車が絶え間なく回り続ける大都会。
 ひとりでに開閉する扉、建物の間を駆け巡る機械馬車、辺りをぼうと照らす暖色の外灯――アリスラビリンスに存在する筈の『不思議の国』の光景は、かの『アルダワ魔法学園』に広がるそれに酷似していた。
 ――そして、その中心。高く聳える時計台の上に立つ人物も。
「ああ、父様。あなたの無念、このわたくしが果たします……!」
 豊満な乳房の下、ずらりと牙の並ぶ口をわななかせ、猟書家『レディ・ハンプティ』は天に向かってそう告げる。
 その手に持つ書物をはらと開けば――次の瞬間、彼女の立っていた真下の通りを凄まじい轟音が襲った。

 嘶くように鋭い蒸気を四方へ噴き、線路なき道を突き進む黄金の魔導列車。
 蒸気機関に武装されたそれは夥しい程の『禍々しい何か』を載せて、不思議の国の果へと消えてしまった。
「ああ、これを……わたくしのしたためた書で『蒸気獣』へと変えた父様の災魔を、かのアルダワの諸王国連合に放ったなら……きっと!」
 紅に彩られた小さな唇で、にたりと弧を描いて。
「あと少しで、あなたの無念も果たせましょう。それまでどうか、見守っていてくださいね――アウルム・アンティーカ父様!」
 レディ・ハンプティはひとしきり狂喜に身を震わせたのち、ふわりと時計台から飛び降りた。



「――と、今回向かってもらうのはこの『不思議の国』だ。討伐対象は猟書家『レディ・ハンプティ』。彼女の発言から判るとおり、狙われているのはかの『大魔王』を封じた世界――『アルダワ魔法学園』のようだね」
 グリモアベースに集まった猟兵に向け、ネルウェザ・イェルドット(彼の娘・f21838)はモニターに映した映像を止めながら語り出す。
「彼女は大魔王第一形態として君臨した『アウルム・アンティーカ』の娘……らしい。当然、その出自に違わず彼女自身、そして彼女の武装の力は凄まじいものとなっている」
 ぽんぽんとネルウェザはモニターを数度動かし、レディ・ハンプティが大きく映るワンシーンで映像をぴたりと止めた。

 只の妖艶な女性――では、当然無い。
 胸部に開いた口、そしてそこから覗く牙は獣のような獰猛さを感じさせ、胸部と顔以外の殆どを覆う黒布が危険な妖しさをこれでもかと醸し出している。更には肩に備えた機関が噴く蒸気はオーラのように彼女を包んでおり、正面から攻撃を叩きこもうとも一筋縄では行かないことが察せるだろう。

 そして、それらよりも目を惹く大きな『本』。
 猟書家である彼女が持つそれを指差し、ネルウェザは再び話を始めた。
「先程見てもらった列車からも分かるだろうけれど……この本『蒸気獣の悦び』は、間違いなくアルダワを混乱に陥れ、侵略する程の力を持っている。彼女をアルダワへ侵攻させてはいけないのは勿論だけれど、彼女と戦う際――この本による攻撃に立ち向かう際は、十分に注意してほしい」

 そこで話を終え、ネルウェザは早速グリモアへと力を込める。
 金色の光をくるりくるりと回しつつ、彼女は猟兵に向き直って言った。
「重ねて言うけれど、レディ・ハンプティは強敵だ。あちらからの先制はほぼ確実と言ってもいい。転送後すぐに交戦するつもりで、気を引き締めて向かってくれ」
 真剣な表情で手をふわと動かし、強まった光で猟兵の周囲を包んで。
「――それでは、転送を開始するよ。皆、健闘を祈る」


みかろっと
 こんにちは、みかろっとと申します。
 今回はアリスラビリンスにて猟書家『レディ・ハンプティ』との戦いです。
 こちらはボス戦一章のみ、戦争シナリオとなります。

 敵は必ず先制攻撃をしてきますので、技能やユーベルコード等での対処を推奨しております。必須ではありませんが、プレイングに対処があればより有利に戦うことが出来ますので是非作戦を練ってご参加ください。

 プレイングお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。

イラスト:きゃら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セルマ・エンフィールド
アウルム・アンティーカ……直接血がつながっているわけではないでしょうが、どことなく面影はあるのはどちらも大魔王より生まれたものだからなのでしょうね。

蒸気機関というのは私のいた世界にはありませんでしたが、アルダワで仕組みはある程度理解しました。蒸気が鍵なのであれば……

敵の乳房の下の口の攻撃だけはもらわないように動きを『見切り』回避、他はフィンブルヴェトの銃剣による『武器受け』で防ぎ、防げなかった場合も『激痛耐性』で耐え高速移動する敵を『スナイパー』の技術で狙い氷の弾丸を蒸気機関に当てていきます。

蒸気機関が冷え、蒸気を発生できなくなったらチャンス、敵本体に『絶対零度の射手』の連射を撃ち込みます。



「アウルム・アンティーカ……」
 大通りを駆ける少女の唇が、その名を紡いで揺れる。しゅうしゅうと蒸気が鳴り止まぬ大都会の中、時計塔から下りる人影はそちらを見遣ってにたりと嗤った。
「ああ、父様の意志を邪魔する者が、ここにも……!」
 次の瞬間――人影、猟書家『レディ・ハンプティ』は真後ろの石壁を蹴り、肩に並ぶ黄金の蒸気機関を唸らせて進行方向を変える。その風圧で散る筈の蒸気は取り憑くようにレディ・ハンプティの周囲に留まり、蒸気の音だけでない喧しさを纏って彼女の全身を包みだした。

 ――その姿、音、雰囲気。
 直接血が繋がっているのかは兎も角、どことなく面影があるのは――どちらもかの『大魔王』より生まれ出たものだからなのだろう。
 過去に戦った三位一体の大魔王と目の前の猟書家を重ねつつ、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は冷静に対処へ移る。
 あの豊満な乳房の下、胸部に開く口にまとも噛みつかれることは何としても避けなければならない。
 豪速で向かってくるレディ・ハンプティの四肢、表情、その僅かな揺れに目を凝らし――セルマは足を止めぬまま、銃剣フィンブルヴェトに手を触れた。

「……喰らってしまいましょう、『乳房の下の口』!」
 視線が合って数秒も経たぬ内に距離を詰め、レディ・ハンプティが胸部の口をひとつ震わせる。
 一拍の間を置いてぐわりと開いた口の先、セルマは――既に、その姿を消していた。

 ガシン! と手応えのない噛みつきが鋭い音を立て、レディ・ハンプティは静かに息を呑む。
 何処へ、と首を回す間も無く――微かな足音、背後へ回り込んでいたセルマの気配に気づいた彼女は、肩の蒸気機関を大きく鳴らして振り向いた。

 途端、勢いよく噴き出す蒸気がレディ・ハンプティの身体を更に濃く包む。
 かの『魔導蒸気文明が発達した世界』の生まれではないセルマでも、それが目の前の猟書家の護りを高め、刃を研ぐものであることは十分に察せていた。
 猟兵として経験を重ねる中でアルダワを幾度も訪れ、戦闘や冒険に身を投じてきたことで、彼女もある程度の仕組みは理解しているのだ。

 故に――どこを狙うべきか、その答えは容易に予想できた。
「蒸気が鍵なのであれば……」
 かちゃり、と小さな音を立てて。
 フィンブルヴェトの銃口が、こちらを振り向くレディ・ハンプティの肩口――蒸気機関の根本、歯車や細かいパイプの並ぶ部位を確りと捉える。
 再び乳房の下の口が開き、レディ・ハンプティが一歩を踏み出す前に。

「――そこです」
 セルマは素早く引き金を絞り、氷の弾丸を放った。
 弾丸が高い音を立てて蒸気機関を叩くと同時、鋭い牙がセルマへと向けられる。瞬時にフィンブルヴェトの銃身でそれを受け流し、距離を取ってもう一度――射撃。
 牙が白肌に紅を引こうとも、慄くことも、退くこともなく、セルマは幾度も幾度もレディ・ハンプティの肩口へ氷の弾丸を叩き込んだ。

「無駄な――、……ッ!?」
 レディ・ハンプティが嗤う中、突如。
 べこん、と金属の凹むような音が響く。
 その瞬間、慢心の笑みに染まっていた表情がすうっと凍った。
「なっ、私の、父様の……ああ、なんて、なんて事を……!!!」

 レディ・ハンプティの肩、セルマの弾丸によって急激に冷やされた黄金のパイプはいつの間にか蒸気を絶やし、根本の一部を大きく歪ませてすっかり黙り込んでいたのだ。
 蒸気を失った事、そして『父様』と同じ蒸気機関を傷つけられた事で、レディ・ハンプティの顔がみるみる青白く変わっていく。
 怒り、驚き、悔しさ。溢れる感情に震えるその数秒は――好機でしかなかった。

 僅かな時間で体勢を整え、セルマは護りを失ったレディ・ハンプティの胴へと狙いを変える。
 無防備に曝された『乳房の下の口』を潰す機会を、逃す手はない。
「撃ち抜きます」
 ユーベルコードを込めた銃身が数度唸った瞬間――レディ・ハンプティは正面から幾つもの弾丸をその身に受け、大通りの石畳へと倒れ伏すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シズホ・トヒソズマ
親孝行にしても、無差別破壊と惨劇は見過ごせないですよ!

クロスリベルの効果で反射を強化し
◆早業◆操縦でデザイアキメラの◆オーラ防御◆盾受けで防御
防御で一瞬動きを止めた度にバルの軌道変化弾を発射
外したように見せ死角で軌道変化
少しずつ蒸気機関の煙突に◆スナイパーで集中して撃ち込みます
やがて煙突が大量の弾で詰まり全体に不具合を起こし纏う蒸気を保てなくなる筈

その隙にUC発動
『そんなに好きなら会わせてあげますよ!』
大魔王アウルムの力を使用
幻影魔導砲を大量展開し周囲を範囲砲撃
速度強化が残ってても父上様の範囲射撃で逃げ場を無くします!
トドメはクロスリベルの移動強化で一気に接近し魔導砲◆零距離射撃



 欠けた牙を震わせ、怨嗟を漏らすレディ・ハンプティ。彼女はどうにか蒸気機関を再起動させると、黒布に覆われた顔を酷く歪ませて立ち上がる。
「わたくしは、屈しませんよ……父様の無念を果たす、その時まで」
 執念を込めた、低く這うような声。その感情を表すように蒸気が濃く、濃くレディ・ハンプティの全身を包んでいく中――ほんの僅かに、細い糸が空気を裂く音が路地の間で響いた。

 と、同時に。レディ・ハンプティの立つ通りへ、突如幾つもの人影が飛び出す。
 蒸気の効果故か、凄まじい反応速度で振り向いた猟書家の視界にあったのは――布翼を広げて静止し、完璧な防御体勢を取る『人形』の姿であった。
「……!?」
 人形はレディ・ハンプティの繰り出した拳を正面から受け止め、すかさず掴み取る。
 彼女がそれを振り解こうと腕に力を込めるその一瞬に、周囲できらりと光る糸の先――人形『デザイア・キメラ』の主、猟兵シズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)が素早く手を動かした。
「親孝行にしても、無差別破壊と惨劇は見過ごせないですよ!」
 諭すように告げながら、シズホはもう一体の人形『バル』をレディ・ハンプティの至近距離へと飛ばす。ひゅん、と糸が空気を鳴らせば、バルは両の手に握った銃の引き金を躊躇いなく絞った。

 ――しかし、弾丸はレディ・ハンプティの頬を僅かに掠めて近くの石壁へと直進する。
 外した、あるいは躱した。そう確信したレディ・ハンプティが大きく肩の蒸気機関を唸らせ、シズホに向かって胸部の口を開こうとした――その時だった。

 石壁を抉る筈だった弾丸が、鋭いカーブを描いて軌道を変える。
 物理法則などまるきり無視した動き、更には死角からの不意打ち。ガゴッ、と衝撃音が鳴り気づいた頃にはもう遅く、弾丸はレディ・ハンプティの蒸気機関のパイプへ吸い込まれるように潜り込み、激しい金属音を立ててその内に留まった。
「い、一体どこから……!?」
 伏兵か、とレディ・ハンプティはシズホを視界に捉えつつも周囲の路地、建物の陰の気配を探る。その混乱に乗じてシズホが再びバルを操れば、幾つもの弾丸が一度空を切り――再び、パイプの中へと入り込んでいった。
「まだまだ!」
 反撃に気を配りつつシズホが射撃を続ければ、黄金のパイプから一際大きな音が鳴り響く。

 ――直後。
 蒸気が薄れていくのに気づいたレディ・ハンプティは、蒸気機関を確認して悲鳴を上げた。
「歪みのみならず……つ、詰まらせるなんて!」
 なんてこと、と顔面を蒼白にして、レディ・ハンプティは眼前のシズホを睨みつけて。
「ああ、父様、父様……私は、わたくしは……あなたを愚弄するこの者共の首も、必ずや!!」
 ぐわりと乳房の下の口を開き、周囲の人形諸共シズホを喰らわんと足を動かす。淑女然としていた猟書家の表情は、すっかり怒りの色に変わっていた。

 シズホは傍にいた人形『クロスリベル』と共に大きく距離を取ると、人形達を一度レディ・ハンプティの周囲から一歩退かせ――ユーベルコードの力を伝わせる。
 父様、父様と叫びながら牙を鳴らすレディ・ハンプティへ、シズホは呼びかけるように声を発した。

「そんなに好きなら会わせてあげますよ!」
 その言葉と同時に膨らんだ気配に、レディ・ハンプティが素早く反応する。
 シズホの身を包みだした力、そこへ現れた姿は――紛れもなく『父様』、大魔王アウルム・アンティーカそのものであった。

 レディ・ハンプティが感動の再会でもしたかのような笑みを浮かべかけた、次の瞬間。
「ヨクワカラナイケド、デバンダヨ! マンナカノヒト!」
「ははっ! 異世界といえども、吾輩達の力が衰えることはありませんぞ!」
 目の前に立つものが自身を慕う『娘』であることなど意に介さず、幻影は背の魔導砲を動かし高く高く笑う。シズホが力を込めると同時、幻影はかの大魔王が使用した手『黄金殲滅魔導重砲』をレディ・ハンプティの周囲へ向けて放った。

 高威力の砲撃が石畳を破壊し、咄嗟に回避を試みる猟書家の足を鈍らせていく。
「父様、どうして……!」
 レディ・ハンプティが、絶えず笑い攻撃を続ける『上の頭』『真ん中の人』『腹の口』に絶望的な表情を浮かべる中。シズホはクロスリベルの力を借り――混乱するレディ・ハンプティの元へ、一気に接近した。
「これで最後です!」
 魔導砲が至近距離で火を噴けば、レディ・ハンプティは泣き叫ぶような声を上げて身を震わせる。彼女はシズホの纏う『父様』の幻影を見つめながら、蒸気の代わりに黒い煙を上げて崩れ落ちるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱酉・逢真
心情)こらまた色っぽいお嬢さんだこと。こォんなおヒトが相手なら、食われたがる男のひとりやふたり、出てきてもおかしかねぇやなァ。
行動)でけェ口ン中に《鳥》を群れで突っ込ませよう。足らなきゃ《獣》もいれような。たくさん丸呑みすりゃいいさ。噛みつきってこた口を閉じるだろう。何匹か挟まれて死ぬな。爆発するンだわ。その爆発で腹の中のやつらも死んで連鎖爆発を起こす。体の内側ってなァ鍛えられんと聞くが、てめぇはどうだいレディ。童謡のとォり割れちまうかな。



 穴だらけのドレスに煙を纏い、猟書家はふらふらと立ち上がる。
 大切な蒸気機関を傷つけられ、いとしい『父様』に砲撃を放たれる白昼夢を見せられた彼女の顔は――黒布の下で、怒り狂って嗤っていた。
「ああ、なんと許し難いのでしょう。わたくしを、父様を、ここまで愚弄するなど!」
 乳房の下の口までもを大きく震わせ、深く深く息を吐き出して。
「それでも、父様の為に向かうべきは――かの、アルダワ魔法学園の西方。わたくしの成すべき事は、父様の無念を晴らすこと……!」
 言い聞かせるようにひとり呟き、溢れる怒りを抑えながら。レディ・ハンプティは大通りの石畳をこつこつと鳴らして歩き出した。

 傷だらけでも淑女然とした立ち姿、華やかな衣装、大胆に曝した豊満な胸。その下に並ぶ獣のような牙にさえ、喰われてしまいたいと欲を持つ者がいてもおかしくはない。
 そんな、妖艶且つ危険な魅力を纏う女の行く手を――ふらりとひとりの男が阻む。
「どこ行くンだい、お嬢さん」
 ぴたと足を止めたレディ・ハンプティの目は、間違いなく苛立ちと怒りを滲ませていた。
「邪魔、ですよ。今すぐそこをお退きなさい」

 一触即発の『お嬢さん』に、男――朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は浮かべた微笑を絶やさぬまま、ひらと手を広げ一歩近づく。
「かみさまの誘いも断るたァ、綺麗なのに難しいおヒトだこと」
「……退きなさい」
 レディ・ハンプティは声色を僅かに低くして、脅すように繰り返す。
 しかし依然そこを動こうとはしない逢真に、彼女はカン、と踵を鳴らして拳を握った。
「まったく、愚か、愚かな……ああ、良いでしょう。丁度、この口も喰い足りないと嘆いていたところです。わたくしの目的の為の、糧として喰らって差し上げましょう!!」

 ぐわり、と。
 レディ・ハンプティの『乳房の下の口』が、逢真の眼前で大きく開く。
 蟒蛇や獅子とは比べ物にならない――それこそ怪物、ばけものを思わせるような牙と口腔を前にして、逢真はただ広げていた手をすうっと前へ滑らせた。
「なら、たくさん丸呑みすりゃいいさ」
 その言葉とほぼ同時、逢真の横を無数の鳥が駆け抜ける。足らなきゃこいつらも、と獣を加えて喚び出されたその群れは、小さな羽を散らし、空気を揺らし、弾丸の如く一直線にレディ・ハンプティの口へと飛び込んでいった。

 突くでも、噛み付くでもなく、鳥も獣もただただ喰らわれていく。
 ただただ、その血肉で腹が満たされていく。
「うふ、ふ、は、あはははは、ははははっ!!!!」
 巨大な口はそれらを一度に呑み込んで、低い女の笑い声を響かせた。
 ――己が、死を引き金に爆ぜる『凶神の寵子』を喰ったことなど、知る由もなく。

 突如それが勢いよく閉じられ、牙の間からばきり、ごきりと骨の砕ける音が鳴り出した瞬間。
 か、と眩い光が、蒸気都市の中心で瞬いた。

「体の内側ってなァ鍛えられんと聞くが……てめぇはどうだいレディ」
 逢真は一歩後ろへ退がりながら、謡うように問う。
「童謡のとォり割れちまうかな」
「な――」
 直後、レディ・ハンプティの身体は卵のように大きく膨れあがる。彼女は内側で激しい破裂音、衝撃音――無数の爆発音を鳴らしながら、閉じた口を開く限りに開いて呻きだした。

 吐いた爆炎で宙を舞い、なす術無く地へ叩きつけられる。
 灼けた喉が悲鳴も上げなくなった頃、蒸気で曇る路地の間で小さな影が蠢いた。
 ――レディ・ハンプティが落っこちた。
 けらけら、けらけらと笑うのは、怯え隠れていた愉快な仲間達。彼等はレディ・ハンプティを指差して朗らかに唄い、逢真に手や尻尾を振ってはどこかへ駆けていく。

 割れはせずとも蒸気機関をぐにゃりと歪ませ、身体のあちこちに痣と傷を刻んだレディ・ハンプティ。彼女は弱々しくも確りと『蒸気獣の悦び』を抱きしめ、憎しみの籠もった目で猟兵の方を睨みつけるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

姫川・芙美子
強敵なのですね。
私の力で立ち向かえるか分かりませんが、アルダワの人々の安寧の為ならば行くしかありません。

まずは先制攻撃への対抗ですね。高速移動してくるなら、全方位への全力防御で凌ぎます。
「黒いセーラー服」を護符に代え【結界術】で防御障壁を展開。更に「鬼髪」「霊毛襟巻」を全身を包み込む様に伸ばして【武器受け】。三重の防御で敵の初擊を受け流します。
凌ぎきれたら【鬼事】使用。各装備に封じられた鬼の力の【封印を解き】、【リミッター解除】して身体能力を強化。高速化した【逃げ足】で追撃をかわします。
敵の反応速度に【追跡】で対抗。「鬼髪」を伸ばし槍の様に束ね【怪力】【貫通攻撃】で貫きます。



 亡き大魔王を想う猟書家はよろめきながらも尚立ち上がる。
 その足取りは既に弱々しく、厚い本を握りしめる手は其れだけで精一杯のようにも見えた。
「ああ、父様、父様……」
 嗄れた女の声が、怒りを越えた狂気を滲ませてこだまする。
 錆びて拉げたパイプの隙間から細く細く蒸気を吹き、レディ・ハンプティはひたひたと亡霊のような様相で石畳の上を歩き出した。

 風前の灯火。大通りを進む女の姿はそう形容するに相応しいものであったが、しかし。
 乳房の下に並ぶ牙は度重なる戦闘の中で欠けつつも未だその鋭さを保っており、噛みつかれれば軽症では済まないことが察せる。その上、彼女があの書物『蒸気獣の悦び』をひと度開けば、何処であろうと黄金の魔導列車が暴れ回るのだ。
「……油断は出来ませんね」
 目の前の『強敵』を見つめ、姫川・芙美子(鬼子・f28908)が小さく呟く。

 それでも、アルダワの人々の安寧の為ならば。
 護るべき人が在り、立ち向かうべき敵がそこに在るならば。
「――行くしかありません」
 彼女は吹き抜ける蒸気の風に黒髪を揺らし、レディ・ハンプティの方へと踏み出した。

「ふふ、ふ、あは」
 レディ・ハンプティは黒布の下、虚ろな目で芙美子の姿を捉えた瞬間――ぐしゃぐしゃのパイプから激しく蒸気を吹き、甲高い音を鳴らして駆け出す。
「うふ、ふ――父様、どうか、見ていてくださいね……!」
 たん、と短い足音が響くと同時に、芙美子の視界からレディ・ハンプティの姿が消えた。

 蒸気で可視化された空気が激しく揺れ、掠れた女の笑い声が周囲に響く。それが再び姿を現し、攻撃を繰り出す前に――芙美子は身に纏うセーラー服へ意識を向けた。
 途端に服はばらりと解け、妖封じる無数の護符へと形を変える。護符は瞬時に散って障壁を結び、芙美子を護る結界を展開してその場へ留まった。
「――」
 ひゅうっ、と芙美子の真横を黒い影が横切る。
 直後真上から現れたレディ・ハンプティは、容赦なく芙美子の頭目掛けて長い脚先を振り下ろした。

 だが、それは彼女の頭蓋をかち割ることも、結界にひびを入れることもなく、素早く伸びた『髪』の打撃に大きく弾き返される。
 レディ・ハンプティは退き、背後へ回り込んで芙美子の背を蹴飛ばそうとする、が――しかしその一撃も長く伸びた襟巻に弾かれ、芙美子の元へ届くことはなかった。
 ――ち、と微かに舌打ちの音が響く。
 一旦引き退がったレディ・ハンプティは肩の蒸気機関を数度叩くと、先程より僅かに多い蒸気を上げて芙美子を睨みつけた。

 レディ・ハンプティが蒸気の恩恵を受け、再び向かってくる前に。
 芙美子はひらと両の手を広げると、唄うように『鬼事』のはじまりを紡いだ。
「来たりて来やれ 手の鳴る方へ」

 その声が響き終わった、一拍後。
 レディ・ハンプティはにたと小さく笑みを零し、薄く蒸気を纏った脚で強く踏み出す。先程よりも確かに力を増した足音が五つほぼ同時に鳴り渡れば、両者の距離は瞬時に縮まった。
 今度こそ、と片脚を振り上げるレディ・ハンプティ。
 凄まじい勢いで迫るそれを――芙美子は、目にも止まらぬ速度で躱す。
「!?」
 空振った脚を引き戻しながら、レディ・ハンプティは咄嗟に向きを変えようと身を回した。

 枯れた喉が可笑しな音を鳴らす間に、芙美子は鬼髪を束ねた槍を構えて踏み込む。
 躱す隙も、防ぐ隙すらも与えない。
 武装に封じていた『鬼』の力を解き放った彼女は、その細腕から想像もつかぬ程の力でそれを突き出した。
「あ、ああああッ…………!!!!!!」
 乳房の下の口、その更に下。
 黒いドレスに覆われていた女の肚を、髪の槍がぞぶりと貫く。
 暴れようとするレディ・ハンプティからそれを思い切り引き抜けば、大通りの石畳は鮮やかな紅へと染まっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
先制が避けられぬなら、敢えて受けるまで
私は元々、相手に先に手を出させる方が得意ですしね

しかし、口が本来でない位置にあるのは
見たことがないとは申しませんが
よりによって……レディの口が

とにかく
噛みつきを愛用の杖で受け止める、……というよりは
その大口につっかえ棒のようにして一瞬を耐えます
噛み千切られては大変ですから

とは言え長くは保ちませんし
杖が折られる前に抜き取りましょう
杖を握って「仕掛け」を動かし、刃に変えた上で
血統の力を借りて力づくで引き抜く

彼女自身の顎……顎?噛む力で自ずと刺さる事でしょう
口腔内は、さほど丈夫な場所ではありませんから、ね

……
ちなみに
……慎ましいサイズの方が安心感が
いえ、なんでも



 身も心も抉られ満身創痍となっても、猟書家の足は止まらなかった。
 虚ろな目は遠く、此処にはない目的の地を見つめて布の下で揺れる。
 亡き父を想い、厚い本を抱きしめて。レディ・ハンプティは紅い足跡を連れながら、不思議の国の向こうを目指して進んでいた。
 愉快な仲間が路地へ逃げる音、蒸気の自動扉が開く音。レディ・ハンプティは意識も朧気でありながら――否、それ故だろうか。僅かな音にさえ反応し、一瞬身構える程に周囲を警戒している。
 猟兵が近づけば、その瞬間に何らかの一撃を放ってくることだろう。
「ならば……敢えて受けるまで」
 ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は蒸気と共に漂ってくる鉄臭い香りにそっと鼻を覆いつつ、物陰で帽子を被り直した。

 レディ・ハンプティの集中が僅かにでも途切れる瞬間を狙いつつ、ファルシェはふと彼女の豊満な乳房――の下の口へと視線を動かす。
 それは、人の形であれば本来有り得ない位置。
 ファルシェ自身、同じような異形を見たことが無い訳ではない。それに、彼女が父様と呼び慕う『大魔王』もそうであったのだから、当然といえば当然なのかもしれないが。
「よりによって……レディの口が」
 思わず零れてしまった言葉に、ひとり小さく首を振る。オブリビオンとはいえ、女性の容姿にあれこれ言及するのはあまり良い事では無いだろう。

 とにかく、と姿勢を正した瞬間――先程の彼の声音に反応してか、レディ・ハンプティが大きく周囲を見渡した。
「ああ、また……また、邪魔者が!」
 嗄れた声を荒げ、レディ・ハンプティはファルシェのいる方とは正反対の路地へ首を回しかける。
 そのタイミングにファルシェが一歩、踏み出せば。

 レディ・ハンプティは瞬時にファルシェの来る方に向き直り、『乳房の下の口』を勢いよく上下へ開く。
「――ふ、ふふ……あははははっ!!! さあ、このまま噛み砕いてあげましょう!」
 愉悦に満ちた声色。ささやかなフェイントが成功したと、彼女は確信して嗤っていた。
 だが元より、彼はその積もりでいたのだ。
 口の下へ消えたファルシェの表情は、驚愕にも混乱にも染まってはいなかった。

 ファルシェの首を覆い、噛み千切らんと閉じ始めた巨大な口が――ガゴッ、と動きを止める。
「!?」
 口の中、支え棒のように縦に挟まった杖。
 レディ・ハンプティは己の噛みつきを止めたそれに気づかぬまま、力づくで噛み潰そうと顎――顎?――に力を込めた。

 杖は微かに軋みながらも、すぐに折れることなく数秒を耐える。とは言え長くは保たないであろうそれに素早く手を伸ばし、彼は慣れた手付きで『仕掛け』を動かした。
 小さな振動がファルシェの指先を伝うと同時、彼の紫瞳が紅に染まる。
 刃に変わった杖は勢いよくレディ・ハンプティの巨大な上顎を貫き、そして首元まで深々と突き刺さった。
「あ、がっ……!!!??」
 レディ・ハンプティは口腔の奥で呻き声のようなものを響かせ、痛みに耐えかねてか慌てて口を再び大きく開こうとする。
 しかしそれが抜ける瞬間ですら激しい痛みが走ったか、レディ・ハンプティはファルシェの腕を食い千切れず、刃から逃れることも出来ず、中途半端な形で固まってしまった。
 そんな中、滲み噴き出す紅雫に眉を顰めつつ、ファルシェは杖を握る手を思い切り引き戻す。『血統』の力を借りた腕力は容易くレディ・ハンプティの上半身を裂き、巨大な口内から愛杖を取り戻した。

 大通りの中心、レディ・ハンプティは音無しの断末魔を上げて遂に息絶える。
 仰向けに倒れたその姿を見遣りつつ、ファルシェは瞳をアメシストの色に戻して息を整えた。

 大きな口が付き、牙がずらりと生え揃っているとはいえ、こうも見事に膨らんだ胸には魅力を感じる男性はきっと多いのだろう。寧ろそこに口と牙が付いていることで、かえって心擽られるひともいるのかもしれない。
 だが。慎ましいサイズの方が安心感が――
「……いえ、何でも」
 またも頭の中で零しかけた女性の容姿についてのコメントを、ファルシェはひとり小さくかぶりを振ってかき消す。仮にもいまは世界を揺るがす戦争の最中であり、任務の一部始終は少なくとも彼をここへ導いた者が報告することになるのだ。

 レディ・ハンプティが骸の海へ還るのを見届け、数秒黙り込んで。彼はすっと常の微笑を戻し、帰路へつくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月15日


挿絵イラスト