迷宮災厄戦㉑〜魔導蒸気駅に佇つ猟書的な淑女
●蒸気の国にて
濃い霧のような蒸気に包まれ一寸先も見通せない空間を、甲高い汽笛の音と共に鉄の塊の先端から伸びる一筋の光が切り裂いた。
ソレは目的地へと近づくと、鉄と鉄が鋭い摩擦音と火花を散らしながら停止し、幾重にも渡って張り巡らされた蒸気管の先端から蒸気を噴出すれば、周囲に漂う霧が更に濃くなっていく。
駅に到着した魔導列車に連結された客車の扉が自動的に開くと、その中から蒸気の霧からでも分かる濃い人型の影のようなモヤがぞろぞろと出てきた。
入れ違いに魔導列車の中に入っていく影らを見送るかのように、洋装の喪服姿と言うべきであろう身なりの淑女が一人佇んでいた。
まるで駅で父親の帰りを待つ少女のように、彼女は手にしている細かな金細工の装飾が施された革張りの書物を抱きかかえながら抑えきれない思いを吐露する。
――ああ、父様。魔女の肚から私を造った父様。私にも正体を見せなかった、いとしい父様。あなたの無念、このわたくしが果たします。
父様を想い、わたくしはこの「蒸気獣の悦び」をしたためました。
わたくしの狙いは、「アルダワ魔法学園」の西方、諸王国連合。魔導列車が横断し、蒸気魔法文明最も華やかなる、あの世界の要となる地。
わたくしはその地で、父様の災魔を「蒸気獣」に変え、放ちます。
きっと、大事故が起こりましょう!
その被害を利用すれば、わたくしでも新たな災魔を産めるようになります。
ああ、父様。あなたの無念を思うだけで、乳房の下の口がわななきます。
どうか、見守っていてくださいね、アウルム・アンティーカ父様……!
乗客を再び乗せた魔導列車は、再び甲高い音と共に蒸気を噴出して何処へと進む。
アルダワ魔法学園を狙う猟書家にして『大魔王アウルム・アンティーカの娘』であるレディ・ハンプディは軽い足取りの中、蒸気の霧が立ち籠もる魔導列車のプラットフォームへと消えていくのであった…。
●グリモアベースにて
「皆様のご活躍により猟書家『レディ・ハンプディ』が潜伏しているアリスラビリンス内の国が発見できました。心から感謝申し上げます」
グリモアベースに集った猟兵たちを前に、シグルド・ヴォルフガング(人狼の聖騎士・f06428)は深々と会釈しながら感謝の意を表した。
「さて、彼女の潜伏先ですが、張り巡らされた路線を絶えず魔導列車が走り回り、蒸気建築に埋め尽くされた大都会のような国です。ここ全ての路線が集結する中央駅に、彼女が居ると予知できました」
ですが、とシグルドは言葉を続ける。
彼女の目的は、この国で発見した侵略蔵書『蒸気獣の悦び』をアルダワ魔法学園より西方に存在する諸王国連合まで輸送することであると。
そして、この世界における人と物資の輸送手段である魔導列車が横断し、蒸気魔法文明の要所ともいえる場所で侵略蔵書を使用するのであると。
そうなれば、彼女の父、大魔王『アウルム・アンティーカ』が創造した災魔らは『蒸気獣』と化し、再びアルダワ魔法学園の世界に暗雲が立ち込めるのであると。
「幸いにも彼女が乗る魔導列車は、まだ駅には到着しておりません。到着するまでに蒸気が立ち込む中にて探し出して頂き、侵略蔵書ごと彼女を滅してください」
この国では晴れることのない蒸気に包まれているとの事で、恐らく見通しは効かないであろう。
こちらが発見するよりも早く、レディ・ハンプディが仕掛けてくる可能性が高いことにシグルドが注意喚起し、手にしたグリモアからゲートを作り出す。
果たしてレディ・ハンプディを探し出して倒すのが先か。
それとも彼女が魔導列車に乗って逃げおおせてしまうのが先か。
シグルドは静かに猟兵たちを見送るのであった…。
ノーマッド
ドーモ、ノーマッドです。
ついに現れた2人目の猟書家『レディ・ハンプディ』のシナリオとなります。
●シナリオ概要
今回のシナリオ難易度は「やや難しい」となります。
そして、プレイングボーナスは『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』です。
敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります。
●戦場の情報
アルダワ世界のように蒸気文明が栄えた国、蒸気建造物が立ち並ぶ大都市の中心部であり、魔導列車が絶えず交差し合う広大な中央駅が戦場となります。
晴れることのない蒸気の濃霧に対する対策には特に判定はなく、場のフレーバー程度にお考えください。
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『猟書家『レディ・ハンプティ』』
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POW : 乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
瞳ヶ丘・だたら
(アドリブ等歓迎)
周囲の蒸気建築も魔導列車もすべてに興味が惹かれる。本来ならじっくり観光したいところだが、あの女から一瞬でも視線を外すわけにはいかないな。いや、決して蒸気機関に見惚れているわけではなく。決して。
超速度での連続攻撃は、破壊力そのものが上がるわけではないのが幸い。今日の為に〈破魔〉の〈防具改造〉を施した[戦車]の[超重装甲]で受け止めるが、それもいつまで保つか。とはいえ僅かな猶予時間は作り出せるだろう。
その間隙にUCを発動し、電撃の〈属性攻撃〉を纏った『拘束領域展開装置』を作成。自分ごと巻き込んで発動し、互いに動きを封じた中で、〈主砲〉をその大食らいの口に叩き込んでやろう。
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
アルダワ学園でまた悪さしようとするなんて許さないぞ!
蒸気に包まれて駅構内をレディ・ハンプディを探して飛び回るぞ☆
「情報収集」で周りの様子を注意深く観察して……むむっ、なんか蒸気の濃い場所が!?
蒸気を纏ったレディ・ハンプディに違いないと攻撃を警戒!
相手のスピードと反応速度がすごいから回避じゃなくて防御を選択するよ♪
風のオーラを纏って「オーラ防御」しつつ、攻撃が当たる瞬間に後ろに飛んで衝撃を逃がしちゃうぞ☆
ようし、今の一撃でやられたと思わせて、そのまま蒸気に紛れて近づいて不意打ちだ!
【妖精の見えざる一刺し】の「鎧無視攻撃」で肩の蒸気機関の隙間を狙って壊しちゃうぞ☆
※アドリブや連携大歓迎
瞳ヶ丘・だたら(機械ヲタな単眼少女・f28543)が駅の改札口とプラットホームの間に転送され、霧のような蒸気が漂う空間をつぶらな一つ目で全体を見渡した。
駅の内装はと言うと、幾重の蒸気管が剥き出しの状態で張り巡らされた蒸気建築。
首を反対に向かせれば、乗客を降ろし乗せている間に石炭のようなものを補給している最中の魔導列車がクジラのように煙突から蒸気を吹き出して待機している。
「本来ならじっくり観光したいところだが…」
幼少から機械いじりが趣味で、中でも蒸気機関には一際興味を抱いているだたらにとっては、ここ蒸気の国の構造物全てが垂涎の的であった。
「レディ・ハンプティめ! アルダワ学園でまた悪さしようとするなんて許さないぞ!」
だたらの意識が蒸気文明の構造物に向きつつあったのを、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)が意気込んだ声によって現実に引き戻した。
妖精のおてんば姫も普段であればこの国の見慣れない光景に興味を惹かれただろうが、今は猟書家『レディ・ハンプティ』の発見、並びに殲滅が優先課題だ。
ティエルがホームに向かって飛ぶと、停車中の魔導列車から吹き出す蒸気によって視界は濃い蒸気霧でより狭まってくる。
しかし、その中で一つ違和感を覚える場所があった。
そこだけが視界が歪んだと錯覚しそうなまでに蒸気が濃かったのだ。
「むむっ、なんか蒸気の濃い場所が!?」
「ああ、そこだな」
そこにレディ・ハンプディが居ると確信したティエルの知らせを受けただたらも、同じように警戒した。
『御機嫌よう、イェーガー。わたくしに何の御用でしょう?』
だたらが大きな瞳を凝らすと、中心に黒いモヤのようなモノが見える。
だがそれは、肩から突き出している管楽器のような管から蒸気を吹き出しながら佇む猟書家『レディ・ハンプティ』に他ならなかった。
二人が言葉を返す暇もなく口元まで隠すベール付き帽子の下が僅かに歪むと、より管楽器のような管から蒸気を吹き出し、優雅に且つ速くドレスを翻しながらたたらにヒールキックを与えた。
――速い!?
自らが駆る戦車と同じ部材の装甲で作り出した超重装甲に衝撃が走る。
反撃の隙をも与えない連撃に、たたらは防戦を余儀なくされた。
「このぉ!」
『あらあら。そう来ると思っていましたわよ』
ティエルが仲間の窮地を救うべく突撃したが、それもレディ・ハンプディの予測通りだった。
数百度にも熱された蒸気が生き物のように自在に動くとティエルを包み込み、その可憐な姿をくらませさせてしまった。
その様子をたたらが間近に見て、奥歯を噛み締めた。
「超速度での連続攻撃だが、破壊力そのものが上がるわけではないのが幸い、か」
とは言うもの、このままでは装甲が抜かれるのも時間の問題だ。
何か『きっかけ』さえされば、そう思った矢先に彼女の攻撃が止まった。
一体何が起きたのだと見ると、高温の蒸気の渦に飲み込まれたはずのティエルが得意げな顔でレイピアを肩の蒸気機関の隙間に突き立てていたのだ。
「ふっふーん、ざーんねーんでーした! ボクがあんな子供だましな攻撃にやられるわけなんてないもんね☆」
レディ・ハンプディがティエルの攻撃を予想していたのと同じくティエルもレディ・ハンプディの攻撃を予想し、風のオーラによる空気の断熱性を利用して逆に蒸気を隠れ蓑としたのだ。
まるで苦虫を噛み潰したかのように口元を歪ませているレディ・ハンプディの注意がティエルに向けられている今こそ、待ちに待った反撃の機会である。
「『拘束領域展開装置』展開!」
たたらが叫んでUCを発動すると、ぼこぼことなった超重装甲に電流が奔り、全体を電磁石と変えさせてレディ・ハンプディの肩から伸びる管と自らと密着させて拘束した。
そして、彼女の胸元にあるものを押し突きつける。
それもUCで作り出した彼女が駆る戦車の主砲と同等の威力はあるであろう大筒の先端だった。
レディ・ハンプディが何が起きたのかと理解した直後、ガンを飛ばすかのように密着しているたたらの目玉がニヤリと笑う。
「その大口にコイツを食らいなッ!!」
ティエルがレディ・ハンプディの肩から離れたのを確認し、撃鉄を落とすと同時に周囲の蒸気を吹き飛ばす程の轟音がホーム全体に鳴り響く。
ゼロ距離砲撃を受けたレディ・ハンプディの牙が砕かれ、たたらから離れた身体が停車中の魔導列車へと叩きつけられたのであった…。
大成功
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木常野・都月
この人が猟書家か。
折角守ったアルダワがまた危険に晒される訳にはいかない。
ここで倒さないと。
敵の先制攻撃は、時精霊の宝珠で、時の精霊様に相手のスピードを可能な限り落として貰いたい。
その上で[野生の勘、第六感]で敵の動きに注意しつつ、雷の精霊様の[属性攻撃、高速詠唱、カウンター]で対処したい。
蒸気は確か水分。蒸気機関も多分金属。雷なら中まで通るはずだ。
相手は幹部クラス、しかもスピードが速い。
なら、ある程度リスクを負ってでも、早めに倒さないと……。
持久戦に持ち込まれたら厄介だ。
UC【精霊おろし】で、出来る限り短期決戦で敵を倒したい。
必要があれば、[属性攻撃(2回攻撃)、全力魔法]で追撃を行いたい。
イヴ・クロノサージュ
【アドリブ歓迎です】
『宇宙戦艦クロユニ』
●心情
あの金ぴかさんの娘さんなんですね…。
ですが――
このヒトを残していたら
別の世界で悲しむ人が生まれてしまいます
『列車』ですか……都合がいいですね
なぜなら――
私が一番得意とする戦場で戦えるからですから
●対策
『魔導列車の間合いから回避』
遥か上空に【空中浮遊】しながら宇宙戦艦を【オーラ防御】で保護
「届きませんね?」
●
魔導列車をレーダーで察知【情報収集】
下方向に砲口を向けて副砲の『拡散パルスレーザー砲』で【弾幕】を張りつつ
主砲の『アルテリード』を準備
宇宙戦艦級の【砲撃】は【範囲攻撃】クラスの攻撃です
高火力の重力ビーム攻撃は、魔導列車と猟書家を丸ごと巻き込みます
砲撃により魔導列車の側面へ打ち付けられたレディ・ハンプディは、連結された車列をも巻き込んで路線の中にもんどりを打った。
行き交う魔導列車の間でよろよろと立ち上がり、その胸の中に侵略蔵書『蒸気獣の悦び』が大事に抱きしめられているのを、駆けつけた木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)が確認した。
「この人が猟書家か」
折角守ったアルダワがまた危険に晒される訳にはいかない。ここで倒さないと。
『ふ…ふふ。それはわたくしも、ですわね。お父様の為に、この書をアルダワへ届けませんと』
レディ・ハンプディの半壊した肩の蒸気機関が再び蒸気を吹き出す。
相手にも譲れない理由がある。ならば…。
暴走機関車のごとく迫りくるレディ・ハンプディを前に、都月は決意の秘めた顔持ちで力強く時精霊の宝珠を握りしめると、ぽつり呟いた。
「時の精霊様…どうかご助力を」
宝珠が霧を照らし出すように輝くと、レディ・ハンプディ周辺の時の流れが緩やかとなる。
振られた脚が既のところで都月の顔を掠める。
もし遅れていたら、今頃彼の顔は無事でなかっただろう。
だが、それでもなお彼女の動きは速い。
持久戦に持ち込まれては厄介だと瞬時に判断し、咄嗟の高速詠唱で雷の精霊の力を借り掌から電撃を迸らせる。
「蒸気は確か水分。蒸気機関も多分金属。雷なら中まで通るはずだ」
彼の目論見通り、蒸気で濡れたレディ・ハンプディには効果はてきめんであった。
蒸気中の水分、身体の表面の水滴を伝い電流が蒸気機関を目掛けて奔る。
蒸気機関は爆発を起こして機関は沈黙したが、彼女の口元が不敵に笑っているのに都月は気づいた。
そして、後方から近づく魔導列車に彼女は飛び移ったのである。
『できればここで侵略蔵書を使いたくありませんでしたが、致し方ありません。災魔が操る魔導列車よ、わたくしをアルダワへ導きなさい!』
しまったと都月が振り返った頃には、レディ・ハンプディが召喚したアルダワ行魔導列車が遥か遠くに行こうとしている。
しかし、その様子を上空からモニタリングしている者が居るのを彼女は知らなかった。
「あの金ぴかさんの娘さんなんですね…。ですが――このヒトを残していたら、別の世界で悲しむ人が生まれてしまいます」
霧の中で浮かぶ宇宙戦艦クロノトロン=ユニットの艦橋にて、この艦の艦長であるイヴ・クロノサージュ(《機甲天使》――『二つの歯車』・f02113)が偵察ドローンから送らてくる映像を眺めていたのだ。
「『列車』ですか……都合がいいですね。なぜなら――私が一番得意とする戦場で戦えるからですから」
一方地上では、レディ・ハンプディを逃してしまった都月が静かに目を瞑り、この地に住まう者たちへに助力を求めていた。
普段協力を仰いでいる精霊たちとは違い、邪な存在にも問いかけ、その身に憑依させるというまさにイチかバチかの賭けであった。
背後にぬるっりとする気配を感じ振り返ると、そこには黒いモヤのような物が都月を見下ろしていた。
「副砲一番から三番を順次に発射しつつ、主砲の発射準備を急いで下さい」
天から差し込む光のように拡散パルスレーザーの光の筋が、レディ・ハンプディの魔導列車を襲う。
だが、レディ・ハンプディが座する先頭機関車を外し、後方の車列に命中するだけだ。
このまま主砲を撃ったとしても外れてしまう確率が高いと、演算ユニットが警告を与えている。
周囲の被害を鑑みず撃つしかないのかとイヴが結論を出そうとしたその時、魔導列車に何かが纏わり付き始めているのに彼女は気づく。
それは都月の呼びかけに応じたこの蒸気の国の住人『黒煙の精』であることに、彼女は気づきようもなく知りようもなかった。
この国の蒸気機関の不完全燃焼により生まれる彼らは、このままだと別の世界がまた滅びるかもしれないという都月の説得に応じたのだ。
それの内容は『列車を止める事』。
蒸気の中に僅か含まれるススがレディ・ハンプディが駆る魔導列車に纏わり付き、吐き出されるススを取り込んでその運行を停止へと至らしめたのであった。
「皆様に通達致します。此れより大火力砲撃を行います。射程から退避して下さい。―――最大出力、アルテリード・カノン!!」
停止した魔導列車への照準が重なりロックしたのに、イヴは逃さず命令を下す。
放たれた光の奔流が大地ごと穿ちながら魔導列車を呑み込んだ。
『父様…申し訳ございませんでした』
亡き父である大魔王への言葉を最後に、レディ・ハンプディは胸に抱えた侵略蔵書ごと消滅し、僅かに残った塵も漂う蒸気に溶け合い露へと消え去っていく。
その様子を遠くから見守っていた都月は、どこか哀愁を含んだ大きな汽笛が何処で鳴っているのに耳を傾ける。
まるでそれは、大魔王の遺児の死を悼んでいるかのような音色だった…。
大成功
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