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迷宮災厄戦㉑〜継承/レディ・ハンプティ撃退戦

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 曰く、黒のヴェールを身につけるのは涙を隠すためだという。

「ああ、父様。あなたの無念、このわたくしが果たします」
 黒衣の猟書家、レディ・ハンプティが悲嘆の声を漏らす。
 彼女が手にするのは、侵略蔵書『蒸気獣の悦び』。
 彼女が夢想するのは、『諸王国連合』の崩壊。
 自らが新たな災魔の産み手となる未来を幻視して、彼女は乳房の下の口をわななかせる。

「どうか、見守っていてくださいね、アウルム・アンティーカ父様……!」

 彼女こそは、大魔王の意志を継ぐ者。
 その震える声に宿るのは、悲哀か、狂喜か。
 薄絹のヴェールの下で、彼女は涙を流しているのか。
 それは、誰にもわからなかった。


「ミッションを確認しよう」
 グリモア猟兵、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)が集まった仲間たちに語り掛ける。
「目的は、『レディ・ハンプティ』の撃破。アルダワ魔法学園を狙う、猟書家のひとりだ」

 アリスラビリンスに突如として現れた『猟書家』なる謎めいた集団。猟兵たちの見た予兆によれば、彼らは『オブリビオン・フォーミュラのいない世界』を手中にせんと暗躍しているのだという。
 その一派のひとり、『レディ・ハンプティ』は、かつて地下迷宮『アルダワ』に現れた大魔王のひとり、アウルム・アンティーカの『娘』だと推測されている。
 彼女の狙いは、アルダワ魔法学園の西方に存在する、『諸王国連合』。
 アリスラビリンスから外部世界への侵攻を目論む彼女は、『魔導列車が走り回り、蒸気建築に埋め尽くされた、大都会のような不思議な国』で猟兵たちを待ち構えている。

「いいかい、相手はかなりの強敵だ。戦闘になれば『先制攻撃』を仕掛けてくる。出撃する前に、必ず、対応策を考えておいて欲しい」
 予知されたレディ・ハンプティの攻撃手段は、大きく分けて三つ。
 『乳房の下の口による、超高速の噛みつき』
 『肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏うことによる、スピードの超強化』
 『大量の災魔を乗せた、黄金の魔導列車の召喚』
 いずれの攻撃も、まともに受ければ猟兵とて無事に済まない強力なものだ。彼女に有効打を与えるためには、まずはこの先制攻撃を凌がなくてはならない。
 どのような対策を用意して戦闘に臨むか、猟兵たちの判断が試されるだろう。

「繰り返すけど、相手はこれまで遭遇したオブリビオンの中でも、間違いなく上位の実力者だ。絶対に油断しないでくれ」
 グリモア猟兵は険しい表情で転送ゲートを開く。ゲートに飛び込めば、すぐにでもレディ・ハンプティとの戦闘が始まることになる。伏籠は激励の言葉と共に猟兵たちを送り出した。

「アリスラビリンスだけじゃなく、アルダワ魔法学園の平和にも関わる一戦だ。――頼んだよ、イェーガー!」


灰色梟
 こんにちは、灰色梟です。戦争も山場、今回のシナリオは猟書家『レディ・ハンプティ』との戦闘となります。
 本シナリオでは下記のプレイングボーナスが適用されますので、まずはご確認ください。

●プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
 敵の攻撃手段はオープニングの記述の通りです。
 いずれのユーベルコードも非常に強力。対策なしでは苦戦は必至です。なんとか対抗策を立てて、返しの一撃を叩き込んでやってください。
 強敵に対してどのような形で対抗するか、すべては皆さんの戦術次第です。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。一緒に頑張りましょう!
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ルク・フッシー
諸王国連合には、お父さんとお母さんだっているのに…!
少しでも被害を抑えたい…ここで討つしかない!

まずは相手の先制攻撃…シンプルに列車を突撃させて来るようなら、爆発属性のオーラ防御を張ります
普通に受けたら轢かれて終わりですが、爆発の力によりわざと吹き飛ばされ、距離を取ります
それ以外の先制攻撃なら…距離があるうちに攻撃したいです!

絵筆を振り回し、列車とレディに、黒い塗料の誘導弾を浴びせます!
宿した属性は『重力』!引力を生み出し、激突事故を起こすのがねらいです

怖いけど…みんなを守りたいです!そのために学んできたんですから!



 蒸気建築の建ち並ぶ大通りをルク・フッシー(ドラゴニアンのゴッドペインター・f14346)が駆ける。ストリートに並行する線路を走る魔導列車が、時折、彼を追い越して彼方に消えていく。
 奇妙な大都市だった。建物にも、列車の中にも、真っ当な住人は誰一人としていない。

(似ている……?)
 蒸気文明に彩られたその『不思議な国』は、いやでもルクに故郷のことを想起させる。アルダワ魔法学園の西方、諸王国連合。そこには、ルクの両親が今も居を構えているはずだ。
 ……あるいは、自身の狙う世界に似ているからこそ、レディ・ハンプティはこの不思議な国を拠点に選んだのかもしれない。猟書家たちの『他世界の侵略』は、すでに開始されている。このままではいずれ、彼女は本物の蒸気文明都市に侵攻を始めることだろう。

「少しでも被害を抑えないと……。あの人は、ここで討つしかない!」
 胸中に決意を静かに燃やし、ルクは街路を蹴って加速する。グリモア猟兵が察知したレディ・ハンプティの居場所まで、あと少しだ。
 無人の大交差点を曲がり、魔導列車のステーションを目指す。線路の接続点に建つ、幾つものパイプを突き出した蒸気建築物がルクの視界に映った。
「……見つけた!」
 『敵』はステーションの屋根に佇んでいた。空を覆う蒸気の白煙を背景に、レディ・ハンプティの漆黒のシルエットが浮かび上がっている。

「やはり、ここにも現れましたか。――猟兵。いとしい父様を斃した、強き者たち」
 たおやかな所作で振り向いたレディ・ハンプティが、下界を駆けるルクを見下ろす。ぽつぽつと呟いた彼女の言葉に宿るのは、おそらく憎悪ではないだろう。
 彼女の目的は、大魔王の無念を果たすことであり、仇討ちではない。
「ええ、ええ。"だからこそ"あなたたちには、ここで退場していただきます」
 彼女の掌中で『蒸気獣の悦び』がパラパラとひとりでにページを捲り始める。
 自身の目的のための、障害の排除。感情に心を乱すこともなく、レディ・ハンプティは純粋な殺意をもってルクを『歓迎』してみせた。

「おいでなさい、私の蒸気獣。さぁ、すべてを轢き潰してさしあげましょう」
「なっ!」
 甲高い金属の摩擦音が響き渡り、ルクの瞳が大きく見開かれる。
 ホームから飛び出す巨大な黄金の影。ステーションに停車していた魔導列車が"レールを飛び越えて"ルクに襲い掛かったのだ。
 大質量の鋼鉄の塊が線路横のフェンスをぶち破り、石畳を砕きながらメインストリートに着地する。大地を揺らす大衝撃。同時に、車窓のガラスを突き破って伸ばされる、災魔の幽霊たちの腕、腕、腕。

「これが、侵略蔵書の力……!」
 金属製の車輪がアスファルトを踏み砕き、メインストリートを無理矢理に突き進んでくる。四方八方に伸ばされた災魔幽霊たちの腕は、まるで逃げ出す者を捕えようとする蜘蛛の網のようだ。
「怖い。……けど、みんなを守るためには!」
 半端に避けようとしても亡者たちの腕に捕まるだけだ。覚悟を決めたルクは、震えそうになる両脚を叱咤して、魔導列車を真正面から待ち受ける。
 迫りくる魔導列車の先頭車両。暴走する無機質な鉄塊は、速度を更に上げて破壊力を高め続けている。

「大事なのは、タイミング……」
 猛スピードで接近する鋼鉄の車両。大きい。まるで壁みたいだ。
 砕けたアスファルトの破片が視界を横切る。左右に逃げる余裕は、もうない。
 フロントのライトが眩しい。けれど、目を閉じるわけにはいかない。
 接触まで、あと数十センチ。
「……今!」
 地面を軽く蹴って、ルクは身体を浮かす。
 四肢を小さく固めて守りの体勢。息を止め、全身を守りのオーラで覆いつくす。
 纏ったオーラの属性は『爆発』。
 接触。そして、閃光。
 魔導列車のフロントとルクのオーラが衝突した瞬間、発現した大爆発がルクを空中に吹き飛ばした。

「ぐ、うぅ……」
 ここまではルクの計算の内。敵から距離を取るために、彼はわざと吹き飛ばされたのだが……、至近距離で爆発を受ければ、当然、彼も無傷というわけにはいかない。
 全身を焦がした痛みを堪えつつ、ルクは大きく翼を広げる。帆となって風を受けた翼が、彼の体勢を立て直した。
 すぐさまルクは愛用の特大絵筆を構える。眼下の魔導列車はルクの姿を一時的に見失っているようだ。いい具合に爆発が目くらましになってくれたらしい。
 レディ・ハンプティの位置は変わらず、ステーションの屋根の上。真っ黒なそのシルエットに狙いを定めて、ルクは思い切り絵筆を振り下ろす。

「こ、のお!」
 縦一閃。真っ直ぐに線を描いた筆先から、黒い塗料が飛沫となって放たれる。絵筆に仕込まれた魔術触媒が生成した大量の塗料が、大きく広がりながら地上に向けて飛んでいった。
 ターゲットを見失った魔導列車の先頭車両に、黒色の塗料がべちゃりと降りかかる。誘導性の絵の具の弾丸が、そこから真っ直ぐに、黒色のラインをレディ・ハンプティに向けて描いていく。
「あら、まあ」
 空から落ちてくる黒色の誘導弾。レディ・ハンプティは侵略蔵書を庇い、左腕で絵の具を受けた。彼女の腕に不快な感触が広がる。目を向ければ、魔法の塗料が黒衣の上にべったりと付着していた。

「『黒』に宿る属性は『重力』!  これが、僕の学んで来た戦い方です!」
 上空のルクが叫び、塗料に秘められた属性の力を解放する。
 その瞬間、金属が撓む独特の音が鳴り、魔導列車の先頭車両がその車輪を宙に浮かせた。続けざまに複数の車両がエビ反りのように持ち上がり、黒色のラインに沿ってレディ・ハンプティに"引っ張られて"いく。
 ギチギチと金属が歪み、捻じ曲がる音が響く。ひっくり返った車両は、もはやステーションの屋根を乗り越えていた。魔導列車が落とした影の下で、レディ・ハンプティが口元に手を当ててその光景を眺めている。

「素敵な大事故になりそうですこと」
 どこか感心したような呟きがレディ・ハンプティの口から零れる。直後、列車の先頭車両が落下し、レディ・ハンプティの頭上に叩きつけられた。
 巨大な質量の激突が、ステーションの屋根をまたたく間に破壊する。
 耳を塞ぐような破砕音の連鎖。
 レディ・ハンプティを巻き込んで、巨大な蒸気建築物が瓦礫となって崩壊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

比野・佑月
下の口を開けたところにクイックドロウで抜いた秋宵による牽制と、
春宵による貫通攻撃を立て続けにお見舞い。
「鉛玉の味はどう?必要ならおかわりもいくらでも」

銃での攻撃は接近を防ぐための牽制になれば御の字。
挑発は、怒った相手が多少単調ぎみに突っ込んでくるのを期待して。

攻撃の為に距離を詰める必要があるなら、そこが仕掛け時。
わんわんトラップを相手と自分の間に滑り込ませて移動を阻害。
その隙に距離を取って、敵UCの射程外から銃弾とUCで喚んだ饗で攻撃。

正直、俺自身には復讐を止める義理も何もないんだけど。
おまわりさんとして平和は守らなくっちゃね。
それに…キミの口と俺の饗、どっちが食いしん坊かには興味あるんだ。



「なるほど。大魔王に打ち勝った実力は伊達ではない、ということですか」
 崩落した建造物の残骸を押しのけて、レディ・ハンプティが地上に復帰する。
 瓦礫の山に圧し潰された筈の彼女は、しかし、平然とした様子で黒衣についた埃をぽんぽんと払っている。黒衣に刻まれた損傷を見るに、彼女もダメージを受けているのは間違いないのだが、落ち着いたその立ち振る舞いに動揺はまったく見られなかった。
 猟兵たちが彼女を倒すためには、更なる攻勢を続けなくてはならない。

「それじゃ、次は俺の番だ」
 その言葉と共に、黒い軍式羽織の影が躍る。身嗜みを整えるレディ・ハンプティの背後を取り、瓦礫の物陰から比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)が飛び出した。
 クイックドロウ。ホルスターから引き抜かれるのは二丁の回転式拳銃。そのトリガーに指を掛けた佑月は、横っ飛びの体勢でレディ・ハンプティに照準を合わせる。

「――無粋ですね」
「ッ!」
 呟き、レディ・ハンプティが振り向き、瞬間、佑月の視界が黒に染まった。
 息を呑む。超高速の接近。彼我の距離は、一瞬で30センチを切っている。
 レディ・ハンプティの乳房の下の口がガバリと開く。
 人間を丸々と呑み込むことができる大穴が、ぽっかりと佑月の眼前に出現した。

「それでは、さようなら」
「くっ……、まだ、これから、だよっ!」
 不揃いに並んだ巨大な牙が上下から佑月に襲い掛かる。
 咄嗟の判断。下顎に足を蹴り入れ、上顎を拳銃を持ったままの両腕で受け止める。
 人外の咬合力。全身が潰れてしまいそうな重圧。
 鋭利な牙が四肢に突き刺さり、流血を強いる。それでも、なんとか丸呑みだけは回避した。
 目の前に広がる口内は、暗黒。
 その奥底に向けて、佑月は二丁拳銃のトリガーを引く。

「っ、鉛玉の味はどうかな?」
 連続する発砲音。放たれた弾丸が次々とレディ・ハンプティの喉奥に消えていく。
 万力のような両顎の締め付けが僅かに緩んだ。
 すかさず上下の歯の間から転がるように離脱。佑月はそのまま素早く距離を取る。

「……ごめんなさいね。硝煙の香りはあまり好きではないのです」
「そう? おかわりはいくらでも用意してあるんだけど!」
 二丁拳銃、春宵と秋暁をひたすら連射。その陰で、そっと腰の後ろから『罠』を落とす。
 後退する佑月を追うように、流血が点々と地面に跡を残している。
 弾丸の嵐の中、レディ・ハンプティがゆっくりと佑月と視線を合わせた。
 優雅な微笑み。
 次の瞬間、レディ・ハンプティが大地を蹴る。足元の瓦礫が砕かれ、白い砂煙が舞う。
 最短距離の突進は超高速であり、同時に、一直線。
 その単調さが命取りだ。佑月の妖力が設置した『罠』を起動させる。

「! これは……」
 跳ね上がった黒鉄のトラバサミ、『わんわんトラップ』がレディ・ハンプティの足首に噛みついた。加速の要を地面に縫い付けられ、彼女はガクリと前のめりに停止する。
 好機。佑月がレディ・ハンプティに向けて黒いあやかしメダルを放り投げる。
「さっきのお返しだよ。――眷属招来・饗!」
 痛み混じりのぎこちない笑みが佑月に浮かぶ。
 ドロンとメダルから噴き出る煙。二人の中間の空中で、封じられた怪異が実体化する。
 其の名は、饗。血肉を食らう黒犬の霊は、食いしん坊の古馴染み。

「キミの事情に、俺がとやかく言ったりする義理もないんだけど。……おまわりさんとして平和は守らなくっちゃね」
「ぐっ!」
 改造拳銃の更なる連射。貫通力に優れた春宵の弾と秋暁の低速弾とがレディ・ハンプティの抵抗を押さえ込む。
 二条の弾丸の奔流をすり抜けて、黒い犬の霊がレディに猛進する。
 敵対者の眼前で、饗が大きく口を広く。人を呪わば穴二つ。歯には歯をの意趣返し。
 獰猛な鋭牙が彼女の肩口に食い込み、血の華が咲いた。

「それに……、キミの口と俺の饗、どっちが食いしん坊かには興味あるんだ」

成功 🔵​🔵​🔴​

珠沙・焦香
SPD
親への執着は人の事言えねえけど、傍迷惑すぎんだろ……
まず初撃を凌がなきゃな。脚には自信ある方だけど、手取られちゃ追いかけっこにもならねえ。

【野生の勘】で攻撃気配を察知 【早業】【クライミング】【ダッシュ】で建築物を利用し、立体的に駆け回って狙いをブラす 贅沢は言わねえ、走れて得物が持てりゃ手傷も覚悟。

初撃を凌げたらUC【苦怨煙捨】で速度の底上げ 煙纏って駆け回る迷惑女同士だ、遠慮なくやろうぜ

その後も基本は初撃を凌いだ時と同じく立ち回って直撃を避けつつ、近づかれた時に不意打ちで重い呪いの奔流を当てる 衝撃か呪いの侵食で一瞬でも隙ができれば、太刀で【早業】の【串刺し】を突っ込む!



「……大望を果たすため、苦難は覚悟していますとも。ええ、父様の無念を思えば、この程度の傷など些細なことです」
 肩口に穿たれた傷を押さえ、レディ・ハンプティが愁眉の表情で溜め息を吐く。
 崩壊した駅舎のド真ん中である。瓦礫の上に佇む彼女の姿は、付近の蒸気建築物に潜む珠沙・焦香(焦がれ熾・f27564)からもはっきりと確認できた。

「親への執着は人の事言えねえけど、傍迷惑すぎんだろ……」
 無人の建物にお邪魔するのはお手の物。忍び込んだ民家(ただし、生活感は皆無だ)の三階から窓の下を覗き込み、焦香は眉をしかめる。
 一見して敵は無防備。しかし、立ち位置は開けた空間の中央だ。こちらが姿を晒せば、すぐにでも相手に気づかれてしまうだろう。
 焦香としては可能であれば奇襲を仕掛けて暗殺を決めたいところだが……。
 とにかく、今はまだ迂闊に飛び出すことはできない。気配を消しつつ、彼女は窓枠からレディ・ハンプティの様子を静かに観察し続ける。

 ……その探るような視線が、ふと顔を上げたレディ・ハンプティの視線と、ぶつかった。
「まずっ!」
「あら、そんなところにいたのですね?」
 焦香の野生の勘がけたたましく警鐘を鳴らす。弾かれるように窓から離れ、彼女はそのまま反対側の通りに繋がる窓へと駆け出す。
 一方、戸外のレディ・ハンプティは、微笑みを浮かべながら両肩の蒸気機関を起動させる。途端に漂う濃密な蒸気。黒衣のレディは、その白霧を重ね着のように纏うことで、自身を強化形態へと移行させる。

「――アンティーカ・フォーマル『武装楽団形態』。それでは、あなたの葬送曲を奏でましょう」
 白霧の中で彼女の掌に出現したのは、金色に輝くトランペット。中央のピストンに大仰な魔導蒸気機関が連結されたその楽器は、れっきとした彼女の武装であった。
 トランペットのベル(円錐状に開いた、『口』のパーツ)が、民家の三階に狙いを定める。レディ・ハンプティの嫋やかな指がピストンに掛かり、殺意と共にバルブを押し込んだ。

「うわっ!」
 ベルから放たれた破壊の奔流。焦香が反対側の窓から飛び出した直後、建造物の三階から上が吹っ飛んだ。
 おそらくは散弾。だが、その威力はショットガンの比ではない。
 砕け散った建造物の破片が、礫となって焦香の背に突き刺さる。燃えるような痛み。飛び出した空中でバランスが崩れる。
 墜落。地面が急速に近づいてくる。
 歯を食いしばって、痛みを殺す。琥珀色の瞳を見開き、強引に着地態勢を取る。

「っ、痛ぅ……!」
 四肢のすべてをクッションにして、獣のように着地。休む間もなく、頭上から降ってくる瓦礫の雨から避難する。
 間一髪、焦香の背後からガラガラと瓦礫が墜落する大きな音が響いてくる。
 危ういバランスで、つんのめるように駆け出す焦香。
 その視界の端、右側の路地の曲がり角に、白霧が見えた。

「お見事。ですが、もちろん、逃がしませんとも」
(めちゃくちゃ速い!)
 レディ・ハンプティの姿が見えるよりも早く、焦香は正面の路地に150センチの小柄な身体を飛び込ませた。僅かに遅れて、白霧に乗って滑るように移動してきたレディが、曲がり角から顔を出してトランペットの引き金を引く。
 出鱈目な破壊音が不思議な国の空を震わせた。
 一瞬で通り抜ける破壊の嵐。路地に飛び込んだ焦香が振り返れば、さっきまで立っていたストリートのすべてが、ズタズタに破壊され尽くされていた。
 相変わらずの馬鹿げた火力。だが今なら、路地を挟む建造物の壁が、レディの視線を焦香から遮ってくれている。
 初撃は凌いだ。ここから、反撃開始だ。

「――煙式、苦怨煙捨」
 遮二無二に路地に飛び込んだ焦香が、両手両足でブレーキを掛けながら深く、深く、息を吐く。意識を集中。その身に背負い込んだ呪詛の澱を、紫煙のような瘴気に変質させる。
 呪いの瘴気は潰れそうになるほどに重い。だが、その重圧に反して、紫煙を纏った彼女の速度は通常のソレとは一線を画すものとなる。
 紫煙に烟る路地裏で、琥珀の瞳が爛然と輝く。レディ・ハンプティを導く白霧が路地に手を伸ばす、その寸前。焦香は路地を蹴り、建造物の壁にジャンプした。

 不思議な国に建ち並ぶ蒸気建造物は、壁面から蒸気機関が突き出ているものも多い。パイプ、タービン、室外機等々、あらゆる出っ張りを足場にして、焦香はあっという間に屋上まで駆け上がる。
 たなびく紫煙が、主を追って路地裏から屋上まで軌跡を残す。焦香を追って路地裏に現れたレディ・ハンプティは、その瘴気の残り香を目にして、躊躇なく天に向けてトランペットをぶっぱなした。

「煙纏って駆け回る迷惑女同士だ、遠慮なくやろうぜ」
 ドでかい轟音。着地した屋上からすぐさま隣の建物に飛び移った焦香の背後で、またしても建造物の上階が吹っ飛ばされる。
 不敵な笑みを浮かべた焦香は、屋上のフェンスを越えて一気に地面まで降下する。彼女の後を追うように再度放たれた散弾が、今度は建物の上半分を一瞬で蜂の巣にした。
 まさにやりたい放題。住民の姿がないとはいえ、迷惑女とはよく言ったものだ。
(駆け回って、狙いをブラす!)
 頭上から落ちてくる瓦礫の隙間をするりと抜けて、焦香は折れ曲がった路地の奥へと疾走する。ユーベルコードによって強化された彼女の速度は、まさしく韋駄天の如し。縦横無尽、立体的なルートで彼女は蒸気建築物の群れの中を駆け回る。

「先程からちょこまかと……!」
 焦香と紫煙の影を追い、レディ・ハンプティのトランペットが幾度となく火を噴く。放たれた凶悪な散弾は次々と建造物を崩壊させていく、が、不規則なルートで攪乱する焦香を捉えるには至らない。
 こうなれば後のことは構うものかと、レディ・ハンプティは市街を更地にするばかりの勢いでトランペットを振り回し始める。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。高威力の散弾なら、なおのこと。

 理屈としては間違っていないのだろうが……、しかし、散漫になったその狙いが、彼女の最大の隙となった。
 果たして、何度目かもわからない砲撃がレディの真横の建物を倒壊させた、その瞬間。
 ――崩落する大振りの岩盤の陰に隠れ、焦香は敵対者の懐に潜り込んだ。

(不意を打つ!)
 完全なる奇襲。死角を取った焦香は、言葉も発さず、質量を持った呪いの奔流をレディ・ハンプティに叩きつける。
 ゾクリとする瘴気の気配が、レディ・ハンプティを振り向かせた。
 至近距離。回避は間に合わない。彼女の右手には侵略蔵書、左手にはトランペット。
 咄嗟に、レディは侵略蔵書を庇い、トランペットで呪いを受け止めた。
 物理的な重さを持つ呪詛の塊が、トランペットのベルを明後日の方向に弾き飛ばす。

「――取ったぜ!」
「しまっ……」
 先んじて抜刀された、抜き身の太刀が刃を閃かせる。
 レディが乳房の下の口を開こうとするが、それよりも『熾斬』の刺突が早く、速い。
 狙うは半端に開いた異形の口の、僅かに下。
 電光石火の早業。稲妻の如く放たれた一撃が、レディ・ハンプティの腹部を串刺しにして貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

乱獅子・梓
【不死蝶】
父の無念を晴らす為に立ち上がる、
それだけなら父親想いの勇敢な娘だがな…
お前の壊そうとしている世界にだって
誰かの母親や父親が居る
まぁ言っても無駄だろうが

先制対策
ドラゴンの焔を成竜に変身させ
俺と綾の前に立ち攻撃を受けてもらう(かばう・激痛耐性
その際、真正面から炎のブレス攻撃を浴びせ
少しでも勢いを削ぐ

その間にUC発動
ドラゴンを最大数召喚し一斉攻撃
敵のスピードでも追いつかないくらい
次々に突進、体当たり、頭突きを繰り出す
どれだけ噛み付かれ血まみれになろうと
ドラゴン達の身体が動く限り突撃

ドラゴン達を捨て駒のように扱っているようで
正直かなり心が痛む
だが決してそうじゃないことは綾が証明してくれる


灰神楽・綾
【不死蝶】
肉親への想い、そういうのは
人でもオブリビオンでも変わらないんだね

先制対策
スピードを超強化してからの噛み付き…
まともに喰らうとヤバそうだね
焔に庇ってもらい敵の射程から逃れ
後ろから複数のナイフを念動力で飛ばし敵の動きを妨害

梓のドラゴン達が時間を稼いでくれる間にUC発動
飛翔能力で一気に接敵
腕が千切れないよう蝶の群れを右手に纏わせ
敵が口を開けた瞬間、そこ目掛け渾身のパンチ

痛みは激痛耐性で耐え不敵に笑い
噛み付かれた際の俺の血と
更にこれまでドラゴン達の流した血
全てを使ってFerrum Sanguisを生成
それらを念動力で一斉に投擲
口の内側から、外側から、
あらゆる場所から血のナイフが襲いかかるよ



「不思議ですね……。個としての能力は、私が上回っているはず。だというのに、彼らの刃は確かにこの身に届いています」
 黒色の手袋に覆われたレディ・ハンプティの指先が、腹部に刻まれた傷口をそっとなぞる。じわりと滲んだ血液が、薄絹の手袋を赤く濡らした。
「父様、いとしい父様。かつて敗れたあなたも、同じ不思議を感じたのでしょうか?」


「肉親への想い。そういうのは、人でもオブリビオンでも変わらないんだね」
「さて、どうだかな」
 どこかしみじみと呟いた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の言葉に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)はサングラスの下で眉を顰めた。
 並走する二人の猟兵は、転送ポイントからレディ・ハンプティの居場所を目指して走っている真っ最中だ。
 これまでの戦闘の余波で、付近の建造物はあらかた崩壊してしまっている。隠れられそうな遮蔽物もほとんど無し。このまま移動を続ければ、まず間違いなく、レディ・ハンプティはこちらの存在を察知するだろう。

「父の無念を晴らす為に立ち上がる。それだけなら父親想いの勇敢な娘だが……」
 瓦礫の散乱するストリートの彼方に、黒衣の人影が見える。ゆっくりと首を巡らせたその女が、黒のヴェールを透かして梓と綾を見定めた。
 レディ・ハンプティの周囲には、濃密な白霧が今も漂っている。彼女は先の戦闘からそのまま、『武装楽団形態』に変身し続けているようだ。
 予想はしていたが、やはり先手はあちらが握っているらしい。
 嘆息ひとつ、梓と綾は素早く臨戦態勢を取る。白霧の中で揺れる彼女の影を見据え「アイツに言っても無駄だろうが」と梓は吐き捨てた。
「これから壊そうとしている世界にだって、誰かの母親や父親が居る。その事実を無視しているヤツを、『人と同じ』と言えるか、って話だ」

「ようこそ、私の不思議な国へ。――そして、さようなら」
 ストリートの遥か向こうで、白く霞む蒸気の澱みを引き連れたレディ・ハンプティが優雅に腰を折る。静かに落ち着いたその声は、蒸気建築の残骸が並んだ街並みに不思議と良く響いた。嫋やかな声の残響は、ゆっくりと霧の中に消えていく。
 刹那、梓と綾の視界からレディ・ハンプティのシルエットが消失した。
「来るよ!」
「ああ、わかってる!」
 白霧のカーテンに紛れ、姿が掻き消えるほどの超高速移動。膨れ上がった殺気が、猟兵たちに敵対者の急接近を伝える。
 敵の初手としては二人の予想通り。問題は、あの速度に対応できるか否かだ。
 最短距離を突き進んでくる白霧の揺らめき。梓たちは全力のバックステップで距離を取る。それと同時に、梓の肩に乗っていた赤竜が相棒たちを守るべく戦場へと飛び出した。

「頼む、焔!」
「キュー!」
 やる気満々の鳴き声を上げて、手乗りサイズの仔竜がアスファルトに着地する。
 ふるふると身体を震わせること、二度、三度。次いで、幼き竜眼がカッと見開いた。
「――グルァアア!」
 紅蓮の炎が仔竜の全身を包み込む。そして、咆哮。火中の竜影が膨れ上がる。
 現れたのは、見上げるほどの巨体。一時的な急成長。炎竜・焔が成竜となってレディ・ハンプティに立ち塞がった。

「それで、私が止まるとでも?」
 突如として現れたドラゴンという障害を、レディ・ハンプティは一笑に付す。圧倒的な質量の差を気にすることもなく、彼女はそのままの猛スピードで焔との距離を詰めてくる。
 全身に力を漲らせた焔が、守りの構えでレディ・ハンプティの突進に備える。
 壁のようなその巨体を目前にして、レディ・ハンプティは乳房の下で大口を開いた。鋭い牙が、ぬらりと妖しく光を反射する。

「それでは、いただきますわ」
「グ……、ガゥァアア!」
 苦悶に満ちた赤竜の叫声が天地を揺らした。
 鋼鉄の刃すら弾き返す超硬の赤竜鱗。その装甲さえも貫いて、レディ・ハンプティの牙が焔の肉体を抉り取った。クレーター状に噛み千切られた焔の胸部から、だくだくと血が流れ出る。
 間違いなく深手。しかし、傷を負ってなお、焔がその場から脚を動かすことはなかった。
 赤竜の体を張った障壁は、微動だにしていない。
 進路を塞がれたレディ・ハンプティがついに足を止める。ダメージに耐え抜いた焔の踏ん張りが、彼女の突撃を停止させるという、値千金の『猶予』を生み出した。

「焔!」
 赤竜に庇われながらレディと距離を取った綾の掌中で、小型のナイフが閃く。
 頼れる仲間の名を叫びつつ、綾はコートに仕込んだ大量のナイフを矢継ぎ早に投擲した。
 飛翔する刃を追い、赤レンズのサングラスの奥で綾の赤い瞳が鋭く光る。念動力の発現。無秩序に投げられた刃の群れが、空中で一斉にレディ・ハンプティへと軌道を捻じ曲げた。
「ッ、ゴォオオウ!」
 飛来する刃の雨。同時に、焔が業火のブレスをレディ・ハンプティに叩きつける。
 レディの視界を覆いつくす、炎と刃の奔流。留まれば、被弾は必至。ヴェールの下の表情を不機嫌そうに歪めながら、彼女はすぐさま後方に退避する。

「梓、今!」
「――集え、そして思うが侭に舞え! 竜飛鳳舞!」
 綾と焔の連携の隙を突いて、梓がユーベルコードを練り上げる。
 ナイフとブレスを避けて数メートル後退したレディ。その周囲の空間が捩れて歪む。
 ぐにゃりと歪曲した時空。その境界を通じて、梓がドラゴンの群れを召喚する。
 轟く咆哮。天を衝く闘気。
 召喚されたその数、実に85体。全身全霊、今の梓に呼び出せる最大の数だ。

「一斉に仕掛ける。絶対に怯むな。――突撃!」
 梓の人差し指が真っ直ぐにレディ・ハンプティを指差す。
 次の瞬間、統制された陸空のドラゴンが四方八方からレディに同時攻撃を開始した。
 突進、体当たり、頭突き――。次々と繰り出されるのは、ドラゴンの物理的な頑健さを活かした質量攻撃だ。
 いかにレディ・ハンプティの異形の顎が強力な武器だとしても、一度に迎撃できるのは一方向だけ。包囲状態の敵勢すべてに反撃するには、とにかく手数が足りない。
「小癪ですわね……!」
 レディ・ハンプティが苛立たしげに呟く。
 地を駆け、空を滑る竜種たちの咆哮が幾重にも連鎖している。
 正面から突進してきたドラゴン。胸元の大口が、その翼の付け根に牙を突き立てた。
 同時に、彼女は殺気の薄い方向へと白霧に乗って身体を滑らせる。
 直後、最前までの立ち位置を、複数のドラゴンのタックルが突き抜けていく。
 ドサリと重い音を立て、翼を咬み切られたドラゴンが地に墜ちた。
 その時にはもう、レディ・ハンプティに新たなドラゴンたちが殺到している。

「……認めましょう。この状況に追い込まれたのは私の不明によるものです」
 次から次へと突進してくるドラゴンが、レディに包囲網を抜け出すことを許さない。
 ――ならば、一歩ずつその牙城を崩していくだけだ。
 レディ・ハンプティの口元が獰猛に吊り上がる。いくらドラゴンが数で攻めて来ようとも、一体ずつ丁寧に対処を続けている限り、彼女が致命打を受けることはないだろう。
 無論、レディ・ハンプティも猟兵の『手札』がこれで終わりだとは思っていない。
 おそらくは、これも時間稼ぎ。間違いなく、彼らは必殺の一撃を狙っているはずだ。
「ですが、それだけで私を打ち倒せるとは思わないことです。大魔王の娘の名に懸けて、あなたたちの全力、正面から打ち破ってみせます」

「上等! やれるな、綾!」
 次々と墜とされるドラゴンの姿を目に焼き付け、奥歯を強く噛みながら梓が吼える。
 ドラゴンたちに捨て身の戦いを要請することは、正直、かなり心が痛む。
 だが、彼らは決して捨て駒でも、無駄な犠牲でもない。
 ――綾であれば、それを証明できる。

「準備は万端。……うん、一気に正面から行くよ!」
 梓とドラゴンたちが稼いだ時間を、綾は自身のユーベルコードを極限まで研ぎ澄ますことに費やした。
 刃の如く精神を集中させた綾が全身に纏うのは、血のように紅い蝶の群れ。加えて、彼の肩の付け根には、集まった蝶たちが織りなす巨大な深紅の翼が形成されていた。
 トン、と軽く地面を蹴った綾の身体が、ゆっくりと飛翔する。
 高くなった視線を、ただ一点、レディ・ハンプティに集中させる。刹那、ヴェールの向こうから、彼女も綾を見つめ返してきた。
 望み通りの真っ向勝負。
 敵味方、互いに口の端を持ち上げたとき、彼らの決戦が始まりを告げた。

「道を開ける! 思いきりぶちかましてやれ!」
 梓の意思が召喚された一頭のドラゴンを横に動かす。レディ・ハンプティの真正面に、綾のための突撃路が開かれた。
 綾の背中で深紅の翼が力強く羽ばたく。
 瞬間、空気の爆ぜる大音響がストリートに轟いた。
 音の壁を突き破る超加速。紅の残像を残しながら、飛翔した綾がレディに肉薄する。
 迎え撃つレディ・ハンプティが乳房の下の口を大きく開いた。
 接敵。全身の蝶たちが綾の右腕に集まり、紅色のガントレットとなる。
 渾身。肩の捩じりが拳を弾丸の如く加速させる。
 目の前にぽっかりと開いた巨大な口内の暗黒。
 そのド真ん中に、綾の右ストレートが突き刺さった。

「カハッ!」
 大きく持ち上がった巨大な上顎の陰で、レディ・ハンプティが苦しげに呼気を吐き出した。
 音速の飛翔が衝突、そして急静止し、一陣の衝撃波が周囲を薙ぐ。
 異形の口の中に突き立てられた綾の腕には、ゴムを殴ったかのような奇妙な手応えが返ってきている。
 ――効いてはいる。だが、決定的ではない。
 綾の細目が小さく歪む。
 直後、レディ・ハンプティの両顎が勢いよく閉じ、綾の右腕を上下から鋭い牙で挟み込んだ。

「ぐっ!」
 ガチン、と歯と歯が咬み合う高い音が響く。
 肘から先を破砕機に掛けられたような、想像を絶する痛みが綾に襲い掛かった。牙と牙の間に挟まれた右腕からとめどなく鮮血が流れ、レディ・ハンプティの下顎を赤々と濡らしている。
 完璧なカウンター。胸の牙に絡め捕られた綾の右腕は、治療なしにはもはや使い物にならないだろう。
 ……だというのに。

「そんな、なぜ……?」
 驚愕に目を見開いたのは、レディ・ハンプティの方だった。
 信じられないことに、完全に捉えたはずの右腕が、"噛み千切れない"。
 右腕を咬んだ牙から伝わる、奇妙な感触。両目を大きく開きいた彼女は気づく。
 ――彼の右腕を紅く染めているのは、血液だけではない。

「残念だったね。俺の方が、一枚上手だったみたいだ」
 絶え間なく続く地獄の痛みを意志の力で捻じ伏せて、綾が不敵に口の端を持ち上げる。
 綾の右腕を覆うもうひとつの紅色は、蝶。激突の直前に籠手となった紅い蝶の群れが、今なお綾の腕を守り続けている。
 ――ユーベルコード『レッド・スワロウテイル』。生み出された紅い蝶の持つ特殊能力は、攻撃の肩代わり。
 超高威力の咬みつきは、紅い蝶の能力をオーバーフローさせて綾にダメージを徹してきた。だが、同時に、蝶の守りがあったからこそ、右腕の切断という最悪の事態はギリギリのところで免れたのだ。

「それじゃあ、梓の期待に応えてあげないとね」
「くっ、離しなさい……!」
 イタズラっぽく呟き、綾は自由な左腕でレディ・ハンプティのドレスを掴む。立場の逆転。今度は、綾がレディを逃さないように押さえつける番だ。
 レッド・スワロウテイルのもうひとつの能力。それは、綾自身の負傷をトリガーとした戦闘力の超強化だ。ダメージが深ければ深いほど、綾の能力は際限なく上昇していく。
 レディハンプティが綾の左手を振り払おうとするが、がっちりと黒衣を掴んだ彼の指はぴくりとも動かない。激しい悪寒が彼女の背を這い上がってくる。レディハンプティの持つ危機察知能力が、彼女の脳裏にアラートを鳴らし続けている。

「――おいで、Ferrum Sanguis」
 湖面に水が落ちるような、静かな呟きだった。
 さざめく波紋が広がるように、綾の持つ能力の影響がゆっくりと周囲に伝播していく。
 力の媒体は血液。焔の胸、倒れ伏すドラゴン、そして、呑み込まれた右腕から滴る血液が、綾の『力』に支配される。
 はじめにそれは、ぷつり、と珠になって浮かび上がった。
 次いで、ひゅん、と形を変えて短くも鋭利な刀身を作り出す。
 戦場に浮かび上がる、紅色の刃、刃、刃。
 ほんの数秒の内に、数えるのも馬鹿らしい大量のナイフの群れが空中に浮遊し、静かに主の命令を待っている。

「内側も、外側も、血のナイフに死角はない。……さぁ、お前に耐えられるかな?」
 綾の念動力が待機するナイフたちへ一斉にオーダーを下す。
 中空に幾重にも描かれる紅色の直線。ターゲットを目掛けて、無数の刃が飛翔した。
「っ! が、あ、あぁあっ!」
 レディ・ハンプティに殺到した血刃たちが、次々とその身に突き刺さる。
 それは、綾の右腕を呑んだ異形の口の中も例外ではない。指先から滴った真っ赤な血液が、刃と成って暗黒の空間を出鱈目に斬り付けまくる。

 瞬く間にレディ・ハンプティの足元に血溜まりが生まれ、やがて彼女はその上に膝を落とした。
 パシャリと跳ねた鮮血が、綾とレディの双方を濡らした。頬まで届いた血を、綾が煩わしそうに指で拭う。
 ふと振り返れば、そこには白い歯を見せてサムズアップする梓の姿があった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

龍・雨豪
漸く首謀者達のお出ましね。今回の連中は引き篭もりばかりで困るわ。

むー、一番狙いやすいところに面倒な口があるのね。射程内に入ったらガブっといかれるのは厄介だわ。間違っても丸呑みになんかされたくはないわね。想像しただけでもゾッとするわ……。
基本的には下半身を蹴り主体で攻めるしかないかしら。

噛みつきにはギリギリの間合いを取りつつ、念動力で斥力のように押し戻したりずらしたりすることで対処しましょ。避けやすいように手や上半身をすぐ引けるように意識しておくわ。
その身を引いた勢いをそのままに、回し蹴りの要領で回転して尻尾で足払いをしながら、体勢が崩れてそうなところを思いっきりぶん殴ってやるわ!



「少々、血を流し過ぎましたか……」
 血濡れのストリートの戦場で、レディ・ハンプティが幽鬼の如くゆらりと佇む。
 猟兵たちに穿たれたダメージは、既に彼女の限界近くまで蓄積している。よもや、諸王国連合に辿り着く前にこのザマとは。レディ・ハンプティは自身の不甲斐なさに歯噛みするしかない。
 知らず、レディ・ハンプティの右手の指に力が籠る。その手に握りしめた一冊の書物が、彼女の大望の最後の拠り所だった。

「ですが、私には『侵略蔵書』があります。これさえあれば、私はまだ……」
「残念だけど、そういうわけにはいかないのよね」
 アスファルトの上で血を吸った砂利がざらりと音を鳴らす。
 格闘専用の黒いショートブーツで路面を踏みしめ、龍・雨豪(虚像の龍人・f26969)はレディ・ハンプティと対峙した。
 両者の視線が静かに絡み合う。目の前のレディ・ハンプティは満身創痍。血に濡れた黒衣も赤黒く染まっている。その様相を見れば、先行した猟兵たちの活躍は雨豪にも容易に窺い知れた。
 とはいえ、雨豪も万全のコンディションというわけではない。猟書家たちの国へと道を開くため、彼女は既に複数の戦場を駆けずり回っている。疲労がまったくないと言えば嘘になるだろう。
 どうにも、今回の上位オブリビオン連中は引き篭もりばかりで困ってしまう。

「ここまで来るのにも苦労したのよ? ……逃げられるなんて思わないでね」
「……逃げる? 私が? まさか!」
 心外とばかりに声を張り上げたレディ・ハンプティの気配が変わる。
 ぎちぎちに濃縮された殺気。雨豪の背筋がゾワリとざわめく。
 その悪寒は表情に出さず、雨豪は目を細めてレディ・ハンプティを観察する。
 傷ついた身体を引き摺って一歩ずつこちらに近づいてくる黒衣の女。その歩法に型はなく、また、洗練されているとも言い難い。
 武芸に優れたタイプではないのだろう。だからこそ、追い詰められればなにをしてくるのかわからない。
 手負いの獣。そのフレーズが雨豪の脳裏に浮かんだ。

(むー、一番狙いやすいところに面倒な口があるのよね。ガブっといかれたら厄介だわ)
 乳房の下の牙からは、唾液と血液とが混ざり合った液体がぽたぽたと滴っている。見るからに剣呑な気配。あの大口に丸呑みにされるなど、想像しただけでゾッとする。
 されども、雨豪の本領は格闘戦。距離を詰めるのは必須だ。死地に踏み込むことを前提に、彼女の思考は己の選ぶべき戦い方を組み立てていく。

「ここで逃げてしまえば、どうして父様の無念が果たせましょうか。この場で倒れるのは、あなたの方です」
「ふぅん……。いいわ。それなら、思いっきりぶん殴ってあげる!」
 言葉は熱く、心は冷たく。雨豪は両脚のスタンスを前後に広く取り、半身の構えでレディ・ハンプティを待ち受ける。
 強く、そして、しなやかに。重心は開いた両脚の中央、正中線。
 意識を集中。
 敵の武器は胸元の口。その間合いを測る。
 自分と相手以外の世界が白く消えていく感覚。
 歩幅。視線。肉体の軋み。血の香り。呼吸のタイミング。空気の流れ。
 研ぎ澄まされた五感が、渾然とした『予兆』を彼女に伝える。
 レディ・ハンプティの右脚が僅かに強く大地を踏んだ。
 先制攻撃が、来る。

「さぁ、お別れです!」
 負傷を感じさせない鋭い踏み込み。一瞬で距離を詰めたレディ・ハンプティの異形の顎が大きく開いた。
 一寸先も見えない暗黒の口内が雨豪に迫る。ぬらりと濡れた牙が妖しく光る。
 刹那、雨豪の両腕が動いた。

「ふッ!」
 短い吐息。雨豪の腕が下顎を撫でるように下段から跳ね上がる。同時に、彼女の重心が流水の如く後方に移る。後ろ足の膝が沈み込み、上体が後方へとスライドした。
 ――30センチ。雨豪の見切った、敵の間合いである。
 間合いの妙こそ、武芸の真髄。
 敵の唇に添えるように置かれた両腕が、念動力でその牙を押し戻す。
 動いたのは、ほんの数センチ。しかし、たったそれだけで、レディ・ハンプティの凶牙は虚しく空を切った。
 ガチリ、と歯のぶつかり合う音が響く。牙の噛み合う衝撃が雨豪の前髪を揺らした。

(下段から崩す!)
 初撃を回避した勢いのまま、雨豪は重心の乗った後ろ足をさらに折り曲げる。
 伸ばした側の腿が地面に触れるほどの低い伸脚姿勢。そこから後ろ足を軸にして、彼女はコンパスのように旋回する。
 回転した身体を追って、黒鱗の尻尾が地を滑った。龍尾による疾風の足払いがレディ・ハンプティのくるぶしを強打する。
 パンと乾いた打撃音。先制攻撃の虚を突いたカウンターが、レディ・ハンプティの足を宙に浮かせた。体勢を崩した彼女の身体が空中で斜めに傾く。
 雨豪はそのまま水平に一回転。遠心力を乗せた前脚を、ロケットのように突き上げる。
 ズンと今度は重い音が響いた。格闘ブーツが突き刺さったのは、レディ・ハンプティの鳩尾。彼女の身体がくの字に折れ、頭部を守っていた両腕のガードが下がる。

「龍の渾身に砕けぬものなし。――是即ち、『一撃必殺』!」
 全身全霊、とっておきの正拳突き。
 撃ち出された雨豪の拳が、レディ・ハンプティの頭部を完全に捉えた。
 一瞬の無音。打撃音と烈風が一拍遅れて吹き抜けた。
 反動の衝撃波に雨豪のチャイナドレスの裾が揺れる。ふわりと浮かんだ布が戻るのに合わせて、残心。伸ばした拳をゆっくりとニュートラルな構えに戻す。

 深く息を吐いて呼吸を整える雨豪の前の前で、レディ・ハンプティが膝から大地に倒れ伏した。
 頭部に致命の一撃を受けた彼女は、もはや末期の言葉を発することも叶わない。
 言葉を持たないもうひとつの異形の口がもがく様に歪み、やがて、彼女はそのすべての活動を停止させた。


 レディ・ハンプティが粒子となって消え去ったのを見送り、雨豪はようやく身体から力を抜く。
 漸く現れた首謀者のひとり、レディ・ハンプティ。その戦力を減らすことに、猟兵たちは見事に成功した。この成果が戦局に与える影響は、決して少なくないだろう。
 静まり返った周囲をぐるりと見回し、雨豪は大きく伸びをして強張った身体を解す。
 少しだけ軽くなった足取りで、彼女は瓦礫の街を後にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト