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迷宮災厄戦㉑〜学園の敵を不思議の国で討つ〜

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #レディ・ハンプティ

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 アウルム・アンティーカ。
 三つの人格を有する口と背中にある魔導砲、そして全身にある楽器群を用いて猟兵達を苦しめたウォーマシンによく似た見た目をしていた大魔王の一形態。
 その「子供」と名乗り、似たような攻撃方法を持っている彼女が今回の敵であった。
「『レディ・ハンプティ』。侵略蔵書『蒸気獣の悦び』を持っている彼女が狙うのはアルダワ魔法学園ではありません」
 そう言ってルウ・アイゼルネ(マイペースな仲介役・f11945)は巨大な地図をテーブルの上に広げた。
「諸王国連合。アルダワ魔法学園のある世界有数の農業地帯であり、その実りを世界中に届けるために魔導列車が大陸中を横断している……蒸気魔法文明最も華やかな地域です」
 右上にある魔法学園のすぐ隣にある土地をルウは指差し、話は続く。
「今までこの世界で災魔の攻勢は魔法学園内で食い止めることが出来てました。しかし彼女はその壁の外に災魔を呼び出すことを画策しています」
 現状では彼女自身は災魔を生み出すことは出来ず、大魔王が作った置き土産を「蒸気獣」という存在に改造して流用する気であるらしい。
 しかしその突破を許し、大惨事が起きてさえすれば……彼女も災魔を作り出すことが出来てしまう。
「つまり、次代のフォーミュラとなる……ということです。しかも魔法学園内にとどまらず、災魔を各地に好き勝手に呼び出せる」
 魔法学園があったからこそ、あの戦場に持ち込めたのである。オアニーヴなどの援軍もなく、どのように建てられたのかも分からない状態で同じ状況にすぐに持ち込むのは難しい。
 間違いなくアルダワ完全攻略よりも対処は厳しいことになるだろう。
「彼女は予行練習でもしているなのか、魔導列車が走り回り、蒸気建築に埋め尽くされた大都会のような国を拠点としており、そこにいる者全員が何をしているのか把握しています。おそらく我々が入った瞬間に攻撃が飛んでくるものだと思われます」
 ルウは深く息を吐くと、猟兵達に視線を戻した。
「彼女がアルダワに向かう前にその首級を取ってきてください。それでは、参りましょう」


平岡祐樹
 お疲れ様です、平岡祐樹です。

 このシナリオは戦争シナリオとなります。1章構成の特殊なシナリオですので、参加される場合はご注意ください。
 このシナリオには、プレイングボーナス「敵の先制攻撃ユーベルコードへの対処法を編みだす」がございます。これに基づく行動をとると有利に行動することが出来ます。
 また今回「猟書家『レディ・ハンプティ』」は「必ず」先制攻撃をして参ります。そのためユーベルコードに頼らない対策が必要となりますので、その点を注意して出撃してください。
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第1章 ボス戦 『猟書家『レディ・ハンプティ』』

POW   :    乳房の下の口で喰らう
【乳房の下の口での噛みつきと丸呑み】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    アンティーカ・フォーマル
【肩の蒸気機関から吹き出す蒸気を纏う】事で【武装楽団形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    侵略蔵書「蒸気獣の悦び」
【黄金色の蒸気機関】で武装した【災魔】の幽霊をレベル×5体乗せた【魔導列車】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可

件の魔王の娘というのも想像が難しいですが、どうあれ彼女は紛れもない強敵
……であれば、兎に角全力で立ち向かいましょう

自身の周囲に鎖を張り巡らせて敵の動きを探知
接近を察知した瞬間、鎖をその方向に放って牽制。多少でも突進の勢いが弱まれば儲け物
更に全力の『ダッシュ』で回避しながら『オーラ防御』で被ダメージを抑える
一撃で倒されなければ『激痛耐性』『継戦能力』で戦闘続行

黒剣を大鎌に変化させて射程を伸ばし、出来るだけ30cm以内には近付かないよう注意、防御重視で時間をかけて立ち回る
【斬獲せし真影の刃】を発動させた黒剣で攻撃しながら『生命力吸収』。少しずつ此方の体力を回復させていく



 『似たような攻撃方法を持っている』と説明を受けても、クロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)の頭の中では機械な大魔王と黒衣の女という組み合わせはどうも繋がらなかった。
「件の魔王の娘というのも想像が難しいですが、どうあれ彼女は紛れもない強敵。……であれば、兎に角全力で立ち向かいましょう」
 蒸気機関に埋め尽くされた地に降りると同時に自身の周囲に鎖を張り巡らせて敵の動きを探知させる。
 そしてその反応はすぐに背後から返ってきた。
「いただきます」
 すぐに振り返れば胸の下にある口を大きく開けて鎖ごとクロスを飲み込もうとするハンプティの姿があった。
 クロスは鎖でそのまま拘束するのではなく、牽制として放ち、逃走を図る。囮となった鎖は為す術なくハンプティの口の中に飲まれ、咀嚼されていく。しかしその間ハンプティの足は止まっていた。
 「食事中動いては行儀が悪い」という礼儀作法を戦場でも生真面目に守っているのか、つんのめって受け身を取ったクロスは転がりながらも視線をハンプティに移す。
 胸の中で鎖が粉砕される音が止んだところでハンプティは何も食べていない顔の口をハンカチで拭いた。
「血が梱包されているのかしら、なかなか美味しい鎖でしたわ。次は是非ともメインディッシュをいただきたいわね」
「それはどうも……」
 苦虫を噛み潰したような顔でクロスは黒剣を抜き出すと大鎌に変化させて射程を伸ばす。
「だが、お嬢様。あなたの食べ方はお上品すぎる。……それでは俺を捕まえることは出来ない」
 とにかく、食われたら死ぬ。ならば出来るだけ口が届く範囲内に近付かないよう心がけるしかない。
「あら、本当にそうかしら。あなたよりわたくしの方がこの国には詳しく、体力もある。……本当に、逃げ切れるおつもりで?」
 クロスはその問いかけに答えず、走り出す。
 その後を優雅に追い始めるハンプティはクロスを食べようとしては蒸気機関を食らい、支えを失った周囲の部品が通路へ崩れ落ちていく。
 そんな中で急停止したクロスの大鎌に闇のオーラが纏われた。
『その生命を斬獲する、真なる影の刃』
 振り返り様、闇のオーラが衝撃波として放たれ、ハンプティの体を通り抜ける。
 ハンプティは怪訝な顔をするのみで大して気にしていない様子だが、闇のオーラ越しにクロスへと体力が渡されていた。
「よし、これでまだ逃げ切れる」
 そう小声で吐き捨てたクロスは進路を塞いだ歯車を乗り越えて更なる逃走を図った。

成功 🔵​🔵​🔴​

大豪傑・麗刃
とりま先制攻撃対策
相手の攻撃が超至近距離なら近づかれなきゃ大丈夫だろって単純な考えでまずは気合入れてダッシュして逃げユーベルコード解禁まで粘るのだ。
とはいえ相手もそれは承知だろうし、近づくの得意が気がするし、逃げ切れるとは限らないのだ。その時は噛みつかれる瞬間を見切り直前に早業で脱衣し服をデコイにして噛ませわたしは生きる!パフォーマンスで身に着けた早着替えが役に立つ日が来るとは思わなんだ。

ユーベルコード解禁後はギャグ世界の住人を発動、敵の攻撃を一撃耐える。その後カウンターで二刀流で斬る。
攻めさせて反撃。これぞ待ち軍人戦法なのだ(あれは相手の攻撃をガードしてからの反撃じゃないからちょっと違うが)



「あら、見失ってしまったわ。どうしましょうか」
 言葉とは裏腹に大して焦ってない様子で頬に手を当てるハンプティは辺りを見回す。そして大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)の姿を見つけてしまった。
「あ、ヤバッ」
 麗刃も麗刃で見つかったことを察し、一路反対の方向へ全速力で逃げ出す。しかしそろそろお肉も食べたいハンプティの足は軽いままで、あっという間にその距離は縮まっていった。
「いただきます」
 麗刃の体がハンプティの影に飲まれる。逸らしていた背中を元に戻したハンプティは残念そうに鼻を鳴らした。
「あら……布だけですか?」
 その姿を建物の影から見ていた麗刃は額に浮かんだ冷や汗を腕で拭っていた。
「ふぅ……パフォーマンスで身に着けた早着替えが役に立つ日が来るとは思わなんだ……」
 その姿は下着に得物の刀だけ。ジャージと着流しを犠牲にして麗刃は何とか命を長らえさせていたのだ。
「塩味が効き過ぎですわ。いくら走った直後とはいえ……もう少しバランスというものに配慮していただきたいところですわ」
「なんですと!」
「あら、そんなところに隠れていらっしゃったの」
 反射的に漏れたツッコミを一切聞き逃してくれなかったハンプティは柔かな笑みを浮かべて、麗刃の隠れる建物へと歩み寄る。
「わたくし、エビフライは殻ごと一口でいただきたいの。……変な小細工はしないでいただける?」
 言ってる意味は分からないがこれ以上は隠れても無駄だと、麗刃は影から姿を見せる。
 令嬢としてはしたないため見せないが、きっとハンプティはあの小さな口で舌舐めずりをしたいほど肉に飢えているはず。ならばそれに付け入るしか道はない。
「では今度こそ。いただきます」
 そう覚悟して呑まれた麗刃の体は隙間一つないはずの牙と牙が重なり合う所に挟まって止まった。
「ああ、噛まれちゃったのだー!」
 ハンプティはあり得ない珍事に動きを止める。
 そして驚愕によって胸の口が開いたところで麗刃は両腕で横の歯を押して抜け出し、落ち切る前に下着に挟んでいた刀を引き抜いて思いっきりぶつけてみせた。
 ハンプティは胸を押さえ、声にならない悲鳴をあげてうずくまる。うまく受け身を取れなかった麗刃はぶつけた頭をさすりつつ言い放った。
「攻めさせて反撃。これぞ待ち軍人戦法なのだ」
 その戦法は相手の攻撃をガードしてからの反撃ではないので厳密には違うのだが、強烈な一撃を食らったハンプティの顔は痛みと怒りで歪んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
さすが世界を狙う猟書家さん。
貴方の探究心は素晴らしいけど、己の目標だけに気を取られた頭デッカチさんはこの世界にはお呼びで無いんだよね。
過ぎた実験の咎はここで終幕だよ…お覚悟よろしくって?

戦闘【WIZ】
敵の先手確定なのは痛いね、分身達がどれだけ受けきれるか不安は有るけど『忍法・火煙写身の術』を使用しての召喚された【魔導列車】攻撃を受けたいね。
弐の太刀までの隙が出来たなら、その瞬間を逃さぬように敵の体に鎖を絡めて近接攻撃に移るよ。
得物は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】【生命力吸収】の合わせで間を置かないダメージを与えたいね。

アドリブ連帯歓迎



 ハンプティによる追いかけ回しが起きている一方、黄金色の蒸気機関で武装した災魔を乗せた魔導列車は国中を回っていた。
 そんな折、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)が線路の近くに降り立つ。その姿を目敏く見つけた災魔が指示を出すと、列車の速度は明らかに速まる。
 線路を操作するレバーが倒れて朱鞠目掛けて一直線に迫る中、朱鞠は手で印を結んでいた。
『言霊にて煙火に暫しの魂魄を与えん……疾く攻めよ!』
 狐火で模った分身が線路上に大量に現れると同時に列車がその集団に突っ込んでいく。
 大量の分身が狐火に戻って列車の表面を炙る。その最中、進行方向から間一髪逃れていた朱鞠の表情は痛みで歪んでいた。
「いった……!」
 術を出すのとほぼ同時に来たために万全の体勢で避けれなかった朱鞠の体には擦り傷と打ち身が出来ている。しかしそこへ災魔の追い討ちを許すほど、分身達の壁は薄くなかった。
 一撃で消える貧弱さなら攻撃自体を受けなければ良い、と言わんばかりに分身達はやられるどころか、体のあちこちから生えた機械から蒸気を吹き出す災魔達の攻撃を避けた上でカウンターを決めていく。
 次々と乗客が死に絶えていく中、異変を察知した車掌が列車を止めて運転席から出てくる。
 その背後に音もなくついた朱鞠は一切の反応を許さずに首へ苦無を突き立ててその命を奪った。
「……強化されているとはいえ、災魔程度でならなんとかなるか」
 車掌の体が文字通り崩れ落ちた後朱鞠は運転席に陣取り、レバーを前に押し倒す。運行を再開した魔導列車の行き先は決まっている。
「あら、応援の方が来られたかと思えば……やられてしまわれたようですわね」
 自分の元へ向かってくる列車がすでに味方の物ではないことを一瞥しただけで理解したハンプティを朱鞠は壁に寄りかかりながら正面の車窓から眺める。
「さすが世界を狙う猟書家さん。貴方の探究心は素晴らしいけど、己の目標だけに気を取られた頭デッカチさんはこの世界にはお呼びで無いんだよね」
 その瞬間、何十本もの鎖があちこちの建物の影から伸び、ハンプティの体を縛り付ける。
「過ぎた実験の咎はここで終幕だよ……お覚悟よろしくって?」
 そして朱鞠の指示を受け、方々に散っていた分身達が一斉に鎖の端を引っ張る。
 蔓薔薇のような棘は仕立てられた黒い布を破り、それに隠されていたハンプティの柔らかな肌をしっかりと傷つけていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

櫻庭・阿山
【ヤド箱】

攻撃その物はルパートに任せ、【迷彩】で隠れて鏡吾に同行
【視力】で敵味方の動きを把握し、鏡吾が列車をぶつけるタイミングを計るよ
最高のタイミングは横転した2つの列車にハンプティが巻き込まれる時。次点は進路を妨害できる時だね
アイツの攻撃を逆利用して思いっきり【おどろかす】のさ!

ハンプティの動きが止まったら舌を伸ばして【恐怪異・舌艶擦り】で遠距離攻撃
攻撃は2人に任せ、隙を見て舐めて動きを止めるのと、同時に【生命力吸収】して弱らせるのを優先するよ
性に合わないが、一応「幽骨の腕」で災魔の相手くらいはするつもりさ

魔王の娘とやら、口が自慢みたいだが、あたしの口も中々だろう?
未知の恐怖に怯えて散りな!


ルパート・ブラックスミス
【ヤド箱】
青く燃える鉛の翼で【空中浮遊】、二人とは離れ単独行動。
短剣【投擲】で敵を【挑発】し先制攻撃の列車を狭所かつ鏡吾殿が操る列車が来れる位置に【おびき寄せ】。

向かってくる列車に大剣を【投擲】し車輪を【部位破壊】。
あの質量と速度、先頭車両の車輪だけでも止まればタダでは済まんし
鏡吾殿が操る列車が衝突すれば横転させ無力化できるはず。

迫る列車を飛んで躱したら
爆槍フェニックスを手に【夜鷹の不知火纏う騎身】起動、高速【空中戦】闘能力の【ランスチャージ】で反撃。
列車から這い出た災魔を【衝撃波】で【吹き飛ばし】つつ
阿山殿が動きを止めた敵を、鏡吾殿と共に仕留めにかかる!

魔王の血統は、此処で根絶やしにする!


禍神塚・鏡吾
【ヤド箱】

ブラックスミスさんが敵を惹きつけている隙に、都市の【地形を利用】し狭所の【闇に紛れ】込みます
そこで、都市内を走る魔導列車と線路の分岐器を、電脳魔術を駆使して【ハッキング】
櫻庭さんが計ったタイミングで猟書家が召喚した列車にぶつかるよう誘導します
「成程、魔導列車の事故は相当の被害になりますね」

残る災魔の幽霊は「人外魔鏡」に【除霊】(という名の【捕食】)させます

後はエレクトロレギオンを召喚し、横転した二つの列車の隙間を縫って猟書家の死角から攻撃させます
目的は飽くまで【援護射撃】。仲間が猟書家の元に辿り着く【時間稼ぎ】ができれば十分なのです

「♪ハンプティダンプティ落っこちた……」



「あれか」
 汽笛を鳴らして突き進む魔導列車を青く燃える鉛の翼で空から眺めていたルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)はタイミングを取ってから短剣を投げつける。
 短剣はガラスが最初からはめ込まれていない金属の窓枠とぶつかると甲高い音を立てながら車内の床を滑る。
 それに気付き、乗客は空を舞うルパートに向けて思い思いの攻撃を打ち上げる。その騒ぎに気付き、他の列車からも空に向けて砲撃や魔法が放たれ始めた。
 その様子を、都市の闇に紛れつつ手についた遠くまで見通す目で眺めていた櫻庭・阿山(無数の瞳を持つ魔妖・f14179)は長い舌を出して唸っていた。
「うっはー、こりゃまた派手だね。あっちもこっちもどんだけ乗ってんだ、って話だけど。……でもこの分だと車掌も気付きそうにないかな?」
 そう言ってのっぺらぼうの顔を隣で待ち構える禍神塚・鏡吾(魔法の鏡・f04789)に向ける。鏡吾は表情一つ変えずに鏡に映し出されたコードをいじくり回していた。
「櫻庭さん、ハンプティはどうなってます」
「えーっと……鎖で拘束されて身動き取れない、って感じかな。うっわ服ズタズタになった。高そうなドレスだったのに、もったいないねぇ」
 鏡吾は阿山の軽口に一切反応しない。別の猟兵による物であろう妨害でハンプティは動けていないようであることさえ分かればそれで十分だからだ。
 電脳魔術を駆使し、線路の分岐器のハッキングはもう済ませてある。あとはそこを通った災魔入りの列車の支配権を奪い取り、上手く操るだけ。
「今!」
 阿山の合図を受け、鏡吾はすぐに横に置きっぱなしにしていた鏡を軽く叩く。
 すると線路を切り替えるレバーが本来とは逆の方向へと倒され、列車を誤ったルートへ案内した。
 席から見える風景から予定の道を進んでいないことに気づいた列車がブレーキをかける。しかしルパートの投じた大剣がブレーキシリンダーを木っ端微塵に破壊したことで、車輪の周囲から車輪を食い止める蒸気が漏れ、止まることが出来ない。
 だが異常を知らせるけたたましい警笛が鳴らされたことで周囲の列車は総じて速度を落とした。
 そんな中、線路を外れて空を駆ける列車がルパートの元へ迫る。当たらない攻撃に業を煮やしでもしたのだろうか?
 そんなことよりも重大な事柄が判明する。そもそも線路が無くてもこの列車は走り続けられる物だったということが。このままでは曲がり切れずに脱線し、ハンプティに突っ込ませるというプランが崩壊してしまう。
 ならば無理矢理事故を起こすしかない。
『我が血はもはや栄光なく。されど、未だ夜空に燃え続ける!』
 槍に込められた力を借り、全身を青い炎に包んだルパートは運転席にいた車掌を列車の壁ごと貫くと、窓から這い出してきた災魔達を睨みつけて牽制する。
 そして槍を引き抜くと豪快に窓を破り、操縦桿を叩き壊してから空へと戻る。
 操作指示を失い、重力に従って落ちる先には止まる気配のない暴走列車。鏡吾は声を出さずに口角を上げながら、列車の速度をさらに増させた。
「あの質量と速度、先頭車両だけでもタダでは済まんだろう」
 ルパートの予測通り激突した列車は轟音をたてながらその衝撃で線路から外れると、近くにいたハンプティを巻き込みながら横転し、中にいる災魔達も放り出す。
「成程、魔導列車の事故は相当の被害になりますね」
「大惨事だね。こりゃ人間相手には絶対やっちゃダメだ」
 中で振り回されたにも関わらず災魔達は死なず、線路や車体のそばで一様に呻き声をあげている。
「後で火事場の馬鹿力でも発揮されたら面倒ですからね」
 邪魔されないように倒れている災魔達を鏡の中に吸い込みつつ、阿山と鏡吾は列車沿いに進んでいった。
 足が止まる。その視線の先では下半身を列車と地面に挟まれたハンプティが荒い息を吐きながらもがいていた。
「なぜ……なぜなぜなぜなぜなぜ! こんな、こんな終わり方なんて……」
「どうだい、驚いたかい?」
 血塗れのハンプティの頬を桃色の舌が撫でる。その生温かい感触にハンプティは悲鳴をあげた。
「へへへ、魔王の娘とやら、お腹の口が自慢みたいだが、あたしの口も中々だろう?」
 楽しげに笑う阿山に対し、ハンプティの顔は恐怖で青ざめる。そんな彼女にトドメを刺すべく、親指を下に向けて落とした。
「未知の恐怖に怯えて散りな!」
 空から勢いをつけた青い炎が一筋の線となって落ちてくる。その一撃を止めるべく、奇跡的に無事だった災魔達が列車の中からゾンビのように這い出してきた。
「うげっ、あたし荒事は苦手なんですけど」
「仕方ありませんよ、恋愛小説の悪役令嬢は最後まで見苦しく足掻く物ですからね」
「知らないよぉ、そんなの」
 阿山は露骨に嫌な顔を浮かべ、鏡吾は笑顔で隠れていた機械達を一斉に展開させる。
 雄叫びをあげて突っ込んでくる災魔は白い骨で包まれた阿山の左ストレートで返り討ちにされ、ルパートを止めようと飛んだ災魔は鏡吾の放った機械が間に入ることでその動きを鈍らせる。
 目的はあくまでも「援護射撃」。仲間が放つ必殺の一撃がハンプティの元に辿り着く時間稼ぎさえできれば十分なのだ。
 機械の残骸と災魔の体が入り混じる戦場を突き抜けたルパートは大声で決意を叫ぶ。
「魔王の血統は、此処で根絶やしにする!」
 不死鳥の銘がつけられた槍が迫る刹那、ハンプティの目には涙が浮かんだ。
「とう……さま……」
 凄まじい衝突音が起きた後、静かになった蒸気の国で、鏡吾は空で唄を歌う。
 ハンプティダンプティ落っこちた、王様の馬と家来全部がかかっても、ハンプティを元には戻せなかった。
 彼女の体は卵などでは無かったが、人と機械が混じったようなその体はどれだけ手を尽くそうと、誰も、もう、戻せない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月17日


挿絵イラスト