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迷宮災厄戦⑲〜侵略するは虚構の陰謀

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #サー・ジャバウォック

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●侵略するは虚構の陰謀
 焼け焦げた森、またの名をゆうとどろきの森、その一角。
 炭化した大樹の下で、老紳士がある大冊を広げていた。
「人は、隠されたものを好みます。それが事実か虚構かに関わらず」
 老紳士がページをめくる書の名は『秘密結社スナーク』。
 実在しない秘密結社の、退廃的で猟奇的な全容の「虚構」が記された書だ。
「石工、啓明、薔薇十字、議定書……これらに限らず、人間の歴史上、隠された『真実』は大きな関心を集めてきました。ですが、その全ては一片の真実が含まれるが故、批判にも晒された」
 さながら誰かに語りかけるように、ページを繰っていく。
「ですが、この書は全てが虚構。そこに一片の真実もなく、故に人は「実経験に基づく明らかな間違い」を見出すことができません。
 では何故、そうなるのでしょうか?」
 本を繰る老紳士は、大冊に目を落としたまま、問いかけをするかのように呟き続ける。
「それは簡単な事です。真実が存在しないということは、真贋を測る尺度が存在しないということに等しい。故に、真実と虚構は同じ場所に置かれてしまいます」
 くつくつと、老紳士は楽しそうに含み笑いを漏らした。
「そして、先も言った通り、人は隠された『真実』を好みます。であれば、人々は真実として『秘密結社スナークの虚構』を選ぶ。それが信じられ、やがて産み落とされた疑念が、自らを含めたあらゆる者に向けられるのは必然であり、時間の問題でしょう」
 老紳士は森中に響く乾いた音を立て、本を閉じた。
 いつの間にか、その手には青白い金属の剣が握られ、纏う外套は半ばが竜の翼に変わっていた。
「さて、そろそろ猟兵たちも来る頃でしょう。ホストとして出迎えなくては」
 老紳士……猟書家サー・ジャバウォックは、不敵に微笑んだ。

●立ち向かうは埒外の力
「ついに猟書家、サー・ジャバウォックの居場所への道が開けたわ!」
 クリスティーヌ・エスポワール(廃憶の白百合・f02149)は、猟兵たちに告げる。
 場所は焼け焦げた森の国、またはゆうとろどきの森。
 炭化した樹木と灰の降り積もった森の奥だ。
「彼ら猟書家は、オウガ・オリジンの力を簒奪することで、「現実を改変するユーベルコード」を手に入れているわ。彼はその力をもって、ヒーローズアースへの侵攻を目論んでいるの」
 彼が手にした侵略蔵書は「秘密結社スナーク」。
 完全な虚構の秘密結社の全容を描いたこの書は、人々にその実在への疑念の種を蒔き、やがて本物のスナークを生み出すという。
「そうなれば、ヒーローズアースでは疑心暗鬼に陥った人々が相争うことなる……それを放置するわけにはいかないわ。だから、サー・ジャバウォックの討伐をお願いするわ!」
 だが、最強を名乗るだけあり、戦いは一筋縄では行かない。
 戦いとなれば、彼は侵略蔵書そのものと、斬竜剣ヴォーパル・ソードを振るう。
 更には、人間の『黒き悪意』を纏うことで竜人形態となり、触れた者の五感を奪う黒翼で飛行し、手にするヴォーパル・ソードの切れ味を増す力すらある。
「一番の脅威は、その攻撃が必ず先制攻撃となることよ。ただ、今までの強敵がそうであったように、そのユーベルコードに対する対策を立てることができれば、反撃できるわ」
 とは言え、相手は非常に実力の高いオブリビオンである。
 生半可な手段は逆効果になりかねず、細心の注意をもって、対策を立てるべきだろう。
「猟書家たちは、アリスラビリンスのみならず、他の世界にも災厄になりかねない敵よ。強敵だけど、どうか討伐をよろしくお願いするわね」
 そう言って、クリスティーヌは猟兵たちを戦場へと送り出すのであった。


西野都
 迷宮災厄戦お疲れ様です、西野都です。
 ついに現れました猟書家、サー・ジャバウォックとの戦いをお送りします。
 陰謀論は、ウォッチングするのは楽しいですね……!

 本シナリオは『やや難』、1章での完結となります。
 また、オープニングにも書きましたが、『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』ことでプレイングボーナスを得ることができます。
 なお、敵の放つユーベルコードは、猟兵側の指定したものと同属性です。
 もしプレイングに複数のユーベルコードの記載がある場合は、複数回の攻撃を行うものと扱いますので、ご注意ください。

 今回は、可能な限り早期の完結を目指して参ります。
 このため、採用できないプレイングが出る可能性もあります。
 ご了承くださいませ。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『猟書家『サー・ジャバウォック』』

POW   :    侵略蔵書「秘密結社スナーク」
見えない【架空の怪物スナーク】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    ヴォーパル・ソード
【青白き斬竜剣ヴォーパル・ソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    プロジェクト・ジャバウォック
【人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態】に変身し、武器「【ヴォーパル・ソード】」の威力増強と、【触れた者の五感を奪う黒翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●陰謀を手繰る者
「お待ちしていましたよ、猟兵」
 待ち構えた猟書家は完璧な所作の礼、ボウ・アンド・スクレープで一礼する。
 その優雅さは、この焼け焦げた木々と灰の積もる地でなければ。
 あるいは、そのマントの半ばが竜翼や竜尾と化していなければ。
 ただならぬ異様な雰囲気を放っていなければ。
 社交界のどこかでも違和感はなかっただろう。
「折角来てくださった皆様を無為に返すのも非礼。ここは、このサー・ジャバウォックがホストとして歓待いたしましょう」
 言いながら、斬竜剣ヴォーパル・ソードを構えるサー・ジャバウォック。
 その仕草はやはり優雅だ。
「さぁ、どこからでも仕掛けて構いません。しかし、仕掛けるならば相応の覚悟を。
 偽りと陰謀を操る私ですが、われらが『書架の王』を除けば、最も強き者であることを、思い知ることになるでしょうから……!」
 片眼鏡の奥に竜の眼光を、書のページの間に獣の視線を隠し、猟書家は嗤った。
ギージスレーヴ・メーベルナッハ
これは丁重なことだ。なれば余も相応の礼で応えねばなるまい。
――黄昏大隊指揮官、ギージスレーヴ・メーベルナッハである(敬礼しつつ)
貴様を殲滅しに来た者だ。

見えざる怪物とて、体温や魔力、質量を有していることだろう。
故に義眼の【情報収集】能力を最大限に用い、あらゆる数値を以て敵の所在を確かめることとする。
その間にヤークト・ドラッヘに騎乗しサー・ジャバウォックへと接近、搭載火器の【制圧射撃】【砲撃】【誘導弾】にて攻撃。
敵の近接攻撃は戦旗を以て防御、牽制し近接距離から離脱。
ジャバウォックとスナークとが直線状に並んだ瞬間こそが好機。機甲武装・殲滅火砲にてガトリング砲を召喚、両者纏めて蜂の巣としてくれよう。



●紅の軍旗、此処に在り
 焼け焦げたと言うよりは、炭化した森の成れの果て。
 猟書家、サー・ジャバウォックの慇懃と言える礼に答えたのは、その身の豊満さを隠しきれぬ漆黒の軍服に身を包んだ女であった。
「これは丁重なことだ。なれば余も相応の礼で応えねばなるまい」
 軍服の女は長い銀髪を翻し、肩を高く上げ、軍靴の踵を鳴らして敬礼を返した。
 その仕草猟書家の礼に劣らず、堂に入ったものである。
「これは丁寧な礼をありがとうございます。お名前をお聞きしても、レディ?」
 丁寧な、しかしどこか挑戦するかのようなチェシャ猫の笑いを浮かべる猟書家。
「――黄昏大隊指揮官、ギージスレーヴ・メーベルナッハである。貴様を殲滅しに来た者だ」
 ギージスレーヴ……通称ギジィは、銀の瞳を細め、肉食獣の笑いを浮かべた。

「スナーク!スナーク!」
 声高らかに、サー・ジャバウォックが不可視の怪物を呼ぶ。
 手にした侵略蔵書が風もなく凄まじい速度で繰られ、『何か』がそこから飛び出した。
 ギジィの目には何も見えない。
 だがその耳には、不吉な鳥のような、蛇のような、獅子のような、危険なブージャムのような、あるいはそのどれでもない唸り声が聞こえてきていた。
「さぁ、一切の真実も慈悲もなく、虚構の爪でレデイをお相手なさい」
『何か』が主の元から飛ぶ足音。
 同時に唸り声も止み、一切の気配が消える。
「なるほど、視覚情報ではここまで対象を一切認識できないか。大したものだ」
 ギジィは唸った。
 いかなる術理か、スナークは完全に不可視の脅威だ。
 だが、彼女は動じることなく、自らの右目を覆う眼帯に手をかけ、その下に隠された義眼をはめ込まれた眼窩を露出させた。無機質な機械が、忙しげに機械音を立てる。
 同時に、義眼「エレクトロニシェアウゲ」がギジィの脳裏に大量の情報を注ぎ込む。
 周囲の熱源や生体反応、更には魔力の濃淡……。
(そう。見えざる怪物とて、体温や魔力、質量を有していることだろう。ならば、あらゆる数値を以て敵の所在を確かめるのみ!)
 そして、彼女の頭上に音声反応。そして一瞬遅れで膨大な魔力反応と、炭化した木片の剥離する僅かな音声……!
「そこかっ!」
 ギジィは軍用コートを翻し、跳躍。
 直前まで立っていた場所が、見えざる三条の爪痕で切り裂かれた。
 サー・ジャバウォックが顎髭を撫でながら感嘆の声を上げる。
「ほう、スナークの初撃を避けましたか。だが、それが続きますか?」
「殲滅する、と言ったはずだ。続かせてみせよう」
 ギジィの着地地点に、一台の軍用バイクが滑り込んだ。連装電磁砲や機銃、誘導弾発射装置が搭載された重機甲戦闘車、ヤークト・ドラッヘだ。
 白い太腿がそのサドルを挟み込み、ハンドルを握ると同時に、ギジィを乗せたヤークト・ドラッヘは、サー・ジャバウォックの懐めがけ、猛然と走り出す。
 突っ込むのは予想外だったのか、スナークの反応が跳躍する音とともに遠ざかる。
 猟書家との間に障害はなくなった!
「さぁ見せてもらおう、最強の猟書家の実力というものを!」
 ギジィの声とともに、装備された各種火器が一斉に火を吹いた。
 磁気加速された弾頭に、無数の曳光弾を交えた機銃弾、更には白い航跡を描きながら殺到する誘導ミサイル。
 並のオブリビオンなら消滅は免れない制圧射撃。
「なかなかの手並みです。だが、もう一手が足りませんね!」
 鉄風雷火の中、猟書家は手にしたヴォーパル・ソードを振るう。青白い刀身に弾丸やミサイルが触れる度、火花や爆発が彩るが、そのスーツと外套には一切の乱れはない。
 そのまま跳躍し、ギジィの首を狙って一閃を走らせる……!
「なるほど、看板に偽りはないようだな。だが、貴様ももう一手が足りん!」
「旗……!?」
 ギジィは手にしていた紅の戦旗を振り抜いた。
 戦旗の旗竿となった槍が剣を受け止め、衝撃とともに青白い火花が散り、剣圧を殺しきれずにバイクが後方へと吹き飛んだ。
「ハハハハハ! なんて衝撃だ……!」
 ギジィは笑いながらバイクの態勢を立て直し、後輪を大きくドリフトさせ着地した。
 斬竜剣の通常の間合いからは、どうにか脱したようだ。
「驚きましたよ。確かに私も一手が足りなかったことは認めなくてはなりません」
 サー・ジャバウォックは静かに笑いながら、再び侵略蔵書を掲げた。
 主の前に、再び不可視の怪物であるスナークらしき反応が現れる。
「ですから、次はスナークと同時に仕掛けましょう。これで、貴女は詰み(チェックメイト)です」
 猟書家が斬竜剣を構えると同時に、スナークが低く唸る。同時攻撃の構え。
 その脅威を前に、ギジィは破顔した。会心の笑みだ。
「その好機を待っていた!」
 唐突に、彼女の傍らに巨大な鉄塊が現れた。それは、多数の砲身を纏めたガトリング砲。歩兵携行用と言うには大きすぎるそれを二門、ヤークト・ドラッヘに接続した巨大なユニットで制御している。
「兵装転送、接続完了。過剰火力の殲滅兵装、塵芥と化すまで味わうが良い!」
 異空間からユーベルコード【機甲武装・殲滅火砲】で召喚された火砲が、そしてヤークト・ドラッヘの搭載火器が同時に火を吹いた!
 即座にサー・ジャバウォックは斬竜剣を振るうが、先に勝る濃密な弾幕の前に、マントが、スーツが、次々と傷ついていく。
 同時に、スナークの断末魔の叫びが上がり、魔力反応が霧散する。
「私としたことが、見誤ったようです。一手、足りないとは……!」
 サー・ジャバウォックは竜翼と化したマントを翻し、森の奥へと飛び退った。
 そして、それを見届けたギジィは。
「最後の一手を指すまで油断せぬのが良い指し手だ。貴様はどうやら二流だったか」
 戦いの興奮を味わうかのように、唇を舌で濡らすのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・ユメノアール
接近戦は圧倒的に不利、なんとか隙を見つけないと

『トリックスターを投擲』、相手を牽制しながら飛び退いて距離を取り
そのまま炭化した木の裏に隠れる
姿が見えなくても相手のUCなら隠れている木ごとボクを両断する事も可能なはず
だから、それを逆に利用する!

ボクはカウンタースペル、【写し身の呪術人形】を発動!
相手の攻撃を無効にして、その威力と同じダメージを与える!
木の影に隠れたのは攻撃を躱す為じゃない
UC発動の予備動作を見切られないようにする為だったのさ

反射された攻撃に相手が怯んだ隙に一気に接近
巨大になった剣なら内側に対しては攻撃しにくいはず
間合いの内側に潜り込み、トリックスターで『カウンター』の一撃を決める


天星・雲雀
怖がりほど、見たことの無いオバケを雄弁に語ると言いますし。実在を成すのに真実など元より不要なのかもしれませんね。

猟書家ジャバウォック御本人が、ホストとして御持て成ししてくれるとのこと。注文の多い雲雀ちゃんを満足させられるのでしょうか?

空を飛ぶ翼も、竜殺しの無敵剣も、近づかなければ怖くありません!

【行動】岩陰物陰あなたの死角、狭い隙間もなんのその、持ち前の技能【地形の利用】【サバイバル】【スナイパー】で、しかけて来たホストの翼を狙い撃ちです!
UCを使います。

いついかなる虚構においても、竜は、撃ち堕とされるものです。

古来の文献より、使い古された王道は、それだけ多くの人に好まれ、求められたが故です。




「怖がりほど、見たことの無いオバケを雄弁に語ると言いますし。実在を成すのに真実など元より不要なのかもしれませんね」
 対峙する猟兵のひとり、天星・雲雀(妖狐のシャーマン・f27361)の何気ない一言に、猟書家サー・ジャバウォックはくつくつと笑った。
「なるほど、よく分かっておられる。それこそが『秘密結社スナーク』の骨子ですよ」
 含み笑いに対して、どこか無邪気さを感じさせる微笑で返す雲雀。
 それを横で聞くもうひとりの猟兵、鮮やかな道化師姿の少女、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)も微笑みを浮かべていたが、その内心は緊張に満ちていた。
(接近戦は圧倒的に不利、なんとか隙を見つけないと)
 眼前の猟書家は棒立ちのようにも見えるが、その実いつでも手にした斬竜剣を振るえるよう油断なく構えている。剣の巨大化能力も考えれば、踏み込みの必要もない。
(……ううん、隙は作る! そのぐらいのつもりでなきゃね!)
 持ち前の元気さを取り戻し、フェルトはそう決意した。
 輝くエメラルドの瞳と、赤と金の瞳が交差し、その意志を交わし合う。
「ところで、猟書家ジャバウォック御本人が、ホストとして御持て成ししてくれるとのこと。注文の多い雲雀ちゃんを満足させられるのでしょうか?」
「そうそう、エンターテイナーとしては本来もてなすものだけど……そう言うからには期待していいんだよね?」
 にまりと笑いつつ敵前でくるりと回る雲雀と、輝くような笑いを向けるフェルト。
 明らかな挑発だが、サー・ジャバウォックはあえてそれに乗った。
「もちろんです、可愛らしいレディ方。私が持てる最高の業で、ご満足して頂けるよう努力いたしましょう」
 猟書家は侵略蔵書『秘密結社スナーク』を掲げた。
 風もないのに本が高速でめくられていき、それを中心として黒いモヤのようなオーラが現れ、猟書家の身体にまとわりついてその姿を変貌させていく。
「モヤが竜の姿に……!?」
「人の悪意ってやつですね。故郷にも結構好きなのがいますよ」
 そんな二人のやり取りの前で、紳士然としていた猟書家の姿は一変していた。
 涼しい笑みを浮かべていた老紳士の顔は、硫黄の息を吐く邪竜の顔に。
 仕立ての良いスーツは、超硬度を誇る黒鱗に。
 そして黒いマントは、敵手の五感を奪う黒翼へとその姿を変えていた。
「さぁ、ホストとしていかなる注文にも答えてみせましょう。五感を奪われ暗闇の中で切り刻まれるのと、手足を動かせぬまま臓物を喰らわれるのとでは、どちらがお好みですか?」
 竜の瞳に邪悪な愉悦を湛え。
 黒き竜人(ジャバウォック)と化した猟書家は、鉤爪の生えた手で斬竜剣を構えた。

「おっと、まずはボクのアタック! トリックスターを投擲するよ!」
 白黒のニーハイソックスに覆われたしなやかな脚で灰の大地を蹴り、フェルトは宙返りしながら金の投擲用ダガー「トリックスター」を無数に投擲する。
「残念ながら、牽制にもなりません」
 竜人の手の中で、斬竜剣ヴォーパル・ソードの青白い刀身がみるみるうちに巨大化する。二人どころか森すら切り払える大きさのそれを、無造作に振るおうとした。
「近づかなければ怖くありません!」
 だが、岩陰から放たれた無数の狐火が、黄金のダガーに加わり、竜人化したサー・ジャバウォックに殺到した。雲雀の放ったものだ。
「訂正しましょう、見事な牽制です。ですが、それも無意味」
 サー・ジャバウォックは今度こそ斬竜剣を振り抜いた。
 青白い死の一閃が、ふたりの猟兵を襲う。
 だが、トリックスターと鬼火の投擲は、僅かながらその軌跡を変えていた。
「うあぁっ!? あっぶないなぁ!」
「近づかなくても怖い……!?」
 殺人ウサギのようにふたりの首を刎ねるはずだった斬竜剣の一撃は、フェルトの長いピンクの髪の一房と、雲雀の隠れていた岩を両断するのみに留まったのである。
 フェルトはそのまま森に、雲雀は新たな物陰に飛び込み、その気配を断った。
 竜人を除き、動くもののない焼け焦げた森は、静寂に覆われる。
「なるほど、隠形の心得があるのですか。面白い」
 くつくつとサー・ジャバウォックは笑う。
 その浅はかさを嘲笑うように。
「ですが、全てを切り裂けば隠形は無意味です。それを教えて差し上げましょう」
 見せつけるかのように、竜人はヴォーパル・ソードを高々と構え、振り抜いた。
 その刀身は、炭化した樹木も、残った岩石も、触れたもの全てを、隠れる拠り所ごと猟兵たちを両断しようというのだ。
 だが!
「その一撃、待ってたよ!」
 焼け焦げた森の中、フェルトの跳ねるような声が響いた。
 木の陰で、彼女は一枚のスペルカードをかざした……!
「ボクはカウンタースペル、【写し身の呪術人形】を発動! 相手の攻撃を無効にして、その威力と同じダメージを相手に与える!」
 猟書家は、剣の軌跡の先に己の姿を写し取った人形を見た。
 剣が胸からその人形を両断すると同時に、己の胸が切り裂かれ、竜人の姿を編む黒い悪意と、鮮血が飛び散った。
「これは、私の一撃……まさか、隠れたのは!」
「そう、木の影に隠れたのは攻撃を躱す為じゃない! ユーベルコード発動の予備動作を見切られないようにする為だったのさ!」
 サー・ジャバウォックに、姿を現して値千金のウインクを飛ばすフェルト。
 まさしく奇術師の面目躍如という戦術であった。
 そして、フェルトの同行者は、その隙を待っていたのだ。
「オトモ、狙い撃ちです! 【獅子の座流星弾】!」
 雲雀が背後から、己に従う狐火『オトモ』を大量に射出した。
 彼女は、物陰や隙間などを移動しながら、その隙を伺っていたのである。フェルトのカウンターがなければ首と胴が泣き別れの危機ではあったが、結果オーライ。
 ユーベルコードで光速超重力推進装置を生成されたオトモの速度は、先の一斉射撃の比ではなく、竜人の黒翼を次々と撃ち貫いていく。
「後ろですか! ですが、それもまた斬竜剣の間合い……!」
 背後へとヴォーパル・ソードを振り抜こうとする猟書家。
 その注意は、ほとんどが背面へと向いていた。
「そして、ここからがボクのターン! 一気に間合いを詰めて……」
 竜人が気づくと、胸元にピンクの髪をなびかせたフェルトが飛び込んできていた。
 右手を振ると、右手の指の間にトリックスターが4本。
 左手を振ると、左手の指の間にトリックスターが4本。
 瞬時に現れた投擲用ダガーを、フェルトは一斉に投げ放った!
「お代は見てのお帰りだよ! フェルト・ユメノアールのナイフショーをご覧あれ!」
 計8本の投擲用ダガーが深々と竜人の胸に突き刺さり、長々とした絶叫が上がった。
 同時に、黒い悪意が霧散し、猟書家が本来の姿を取り戻す。
 剣を杖に、サー・ジャバウォックが荒い息をつく中。
「いついかなる虚構においても、竜は、撃ち堕とされるものです」
「そう、やっぱり最後は竜退治の騎士が勝たなきゃ、お客さんは納得しないと思うよ! というわけで道化師はステージから退場!」
「ありがとう?」
「ございましたー!」
 微笑みながら、二人は別の猟兵に次の一撃を託すのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

宴・段三郎
あの魂と剣、妖刀の原料にするのじゃ

【行動】
まずは一騎打ちを申し込む

我こそは古今無双の刀鍛冶、宴段三郎地国じゃと名乗りいで、自らの妖刀、18振りの鞘を七彩極楽鞘で地面に突き立て土俵を作る。

奴のゆーべるこーど対策として
powに対しては号 『酔月』により全方向制圧攻撃で迎え撃うつ。

SPDは三度くる故、号 『隠家』で相手の目の前に旅館を降らせて壁を作る。三回両断されるだろうから【二回攻撃】で二軒降らし、最後は号 『斃』で受け切って奴の肥大した剣を切る。

WIZが来たら儲けもの。
号 『火雷毒王』を使い、羽ごと【制圧射撃】で奴を撃ち落とす

見事ゆーべるこーどを受け切ったら化生炉で、奴の魂と剣で妖刀を鍛える。



●フリー・ソードスミス
「猟書家よ、わしはおんしに一騎打ちを申し込む」
 銀髪矮躯の妖刀鍛冶、宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)は決然とサー・ジャバウォックへと言い放った。
「おや、また可愛らしい挑戦者ですね、リトル・サムライ」
 対するサー・ジャバウォックは、慇懃な態度と、柔和な笑みを段三郎へ向ける。
 性根の邪悪さは今までの猟兵との交戦で知れているので、その真意は大方自らの嘲弄であろう、と段三郎は当たりをつけた。
 だが、段三郎にとって、重要なのはそこではなかった。
「一つ、訂正してもらおうか。わしは侍に非ず、刀工よ」
「おや、それは失礼。ブラックスミス……いえ、ソードスミスですか」
 ちらりと段三郎のいでたちを見、再度一礼してサー・ジャバウォックは応えた。
 鍛冶道具そのものは持っていないようだが、サムライと言うには刀の数が異様に多い。真に刀鍛冶かはともかく、刀に関わる者なのは間違いない。
 そう判断し、猟書家は段三郎に向き直る。
 先程まで無手であった右手には、いつの間にか愛剣たる斬竜剣が握られていた。
「さて、ソードスミスであれ何であれ、私と一騎打ちを所望する以上は、無事で帰すわけにはいきません。よろしいですね?」
 向けられる刃にも、段三郎は動じない。
「何、わしも死合うのに是非はない。それでこそ、ぬしの魂と剣を妖刀の原料にする甲斐があるもの」
「なるほど、貴方は面白い方だ。名を聞いておきましょう」
 サー・ジャバウォックの問いに、段三郎は高らかに答えた。
「我こそは古今無双の刀鍛冶、宴段三郎地国じゃ」
「私はサー・ジャバウォック。侵略蔵書『秘密結社スナーク』の担い手です」
 段三郎の背負った漆塗箱型鞘「七彩極楽鞘」より妖刀の鞘が次々と射出され、死あおうとするふたりの周囲を囲むように、灰の大地に突き立った。
 見立てとしての土俵である。
「即席のリングですか、面白い。では、いざ尋常に!」
「勝負!」

 先手を切ったのは、サー・ジャバウォックであった。
 手の中の青白い刀身が巨大化し、長く長く伸びていく。
 その切っ先は、妖刀の鞘で作られた即席の土俵の全てどころか、焼け焦げた森の木々へも容易に届くであろう。
「別にリングなど作らずとも良かったのです。フィールドが広くとも、どの道末路は変わらないのですからね」
(重心も大きく変わっておろうに、よう振るう)
 伸びる前と後の斬竜剣は、扱いが別物に等しい。
 だが、サー・ジャバウォックはその剣を全く変わらず扱うことができている。
 段三郎の刀鍛冶としての技が、その恐るべき技量を理解させた。
「それはどうかのう。世にぬしの謀(はかりごと)が及ばぬ事があるように、ぬしの測り知れぬ業もある……!」
 段三郎は、背の漆塗箱から一本の妖刀を引き抜いた。
 号は『隠家』。そう大ぶりの刀ではない。
 だが、この妖刀の真価は殺傷能力に非ず。
「さあ顕れるのじゃ、妖しの旅籠よ!」
 段三郎が『隠家』の柄に親指を掛け、鯉口を鳴らす。
 次の瞬間、段三郎とサー・ジャバウォックの間に『何か』が落下した。
「これは、家ですか」
「旅館じゃ旅館。『ほてる』とも言うな」
 それは、巨大な楼閣を誇る旅館であった。空間が歪んでいるのか、スペースの限られた土俵の内ながら、完全な姿で存在している。
 これこそが『隠家』の力。鯉口を鳴らすことで、刀身を旅館の姿へと変えるのだ。
 段三郎の姿はその向こうに消え、見ることはできない。
「魔法の刀の使い手でしたか。ですが、我が斬竜剣を見くびらないで頂きましょう」
 猟書家は旅館に構わず、袈裟懸けに巨大な刀身を振り下ろした。
 刃が瓦を吹き飛ばし、梁や柱、畳などを両断しながら剣の切っ先が段三郎へと迫る。
 直接視認ができないために若干狙いは甘くなっているが、それでも油断すれば身体が両断されるのは必至である……!
 段三郎は即座に横に跳躍した。だが完全に回避しきれない。
 左腕から血の飛沫が上がるのを、段三郎は他人事のように見ていた。
「薄皮一枚程度かの。……では」
 彼は再度『隠家』で旅館を顕現、猟書家からの視線を阻んだ。
「同じ手は何度も通じませんよ。散りなさい」
 サー・ジャバウォックは若干の失望の響きを声に込め、再び斬竜剣で旅館を断つ。
 だが、段三郎はその前に全力で跳躍し、二軒目の旅館顕現時点から移動。
 結果として猟書家の剣は、1件目よりは遥かに離れた場所を穿った。
「やはり見えておらんか。ならば『斃』は使わずとも……」
 だが、旅館の崩壊する向こうで、サー・ジャバウォックは笑っていた。
 それは、狩りが上手く行った時の、獲物を手中にした時の狩人の笑い。
「見えていなくとも、やることは概ね分かります。チェックメイト、ですね」
 地に落ちた刃が突如閃き、未だ着地せぬ段三郎を襲ったのだ。
 空を飛ぶ能力を持たぬ段三郎に、これを回避する術はない……!
「是非もなし。……『斃』よ!」
 段三郎の手に新たな妖刀が現れ、銀光を走らせた。銀と青白の光がぶつかり合い、刹那の間、段三郎とさらなる剣撃で崩壊の途上にある旅館を照らす。
 その光と衝撃に、サー・ジャバウォックは驚愕した。
「まさか、三撃目を受けきりましたか!」
 旅館の消え去った向こうで、段三郎は二振り目の妖刀を鞘に収めていた。
 号は『斃』。段三郎の鍛えた妖刀の中でも無双の切れ味を誇る。
 だが、他者の目に触れたが最後、刀身が崩壊するという厄介な特性もあるため、神速の居合などにしか使えぬものでもあった。
「あの剣、『斃』でも斬れぬか。ますます妖刀にしたくなったの」
 段三郎は三振目の妖刀を背の漆塗箱から取り出した。
『隠家』よりも『斃』よりも大振りな刃は紅蓮の炎を纏い、馴染み深い熱を段三郎の頬に浴びせかける。
 それは刀の形をした、彼の本質たる刀工が向かい合うもの。
 妖刀の母胎。
 刀工の火炉にして大槌。妖刀『化性炉』。
「その魂と剣、妖刀にするのじゃ。鍛刀……!」
『化性炉』の放つ炎が爆発的に高まり、炎の柱となった。万物を溶かし、融解し、混ぜ合わせて転生させる妖しの炎が、先とは逆に猟書家めがけて振り下ろされる……!
 上げる声もなく、猟書家サー・ジャバウォックは炎に呑み込まれた。

「やれやれ、ようやく鍛刀できるの」
 万物の燃え尽きたゆうとろどきの森の中、燃焼し続ける妖炎の柱の前で段三郎は鍛刀の喜びに身を震わせた。
 あの猟書家を、斬竜剣を鍛えればいかなる妖刀になるか。その属性に、力に、刃文の輝きに思いを寄せる。
 だが、それは炎の中から響く声に中断することとなった。
「残念ながら、些か虫がよろしいのではないですか?」
 燃え尽きたはずの、慇懃無礼な猟書家の声だ。
 姿はないまま、声だけが焼け焦げた森に響いている。
「私も忙しい身でしてね。負けた以上は次の客を迎えねばなりません。彼らか私か、その命運が尽きるまで」
 声が遠くなっていく。戦場から消えていく。
「では、いつかまた機会があれば。ごきげんよう」
 炎が一瞬膨れ上がったと思うと、内側からの暴風にかき消され、消える。
 その中には、巻き込んだ猟書家も、その残骸の姿もなかった。
「やれやれ、骨折り損か。では、次の素材を探しに行くとしようかの」
 妖刀の鞘を箱に収め、段三郎は戦場に背を向けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月待・楪
よぉ、おっさん
他人の力を借りて動くのはさぞかし楽で面白いだろーなァ?
だがな…俺の世界に手ェ出そうとしてんじゃねーよ
ロートルはロートルらしく、バルコニーで堕落してろ!

は、デカけりゃいいってモンでもない
デカい程動きは【見切り】易くなる
【ダッシュ】と【フェイント】で【残像】を残して移動しながら
間に合わないとこは【念動力】で逸らしてガード
【Villans party】を発動
長くここに留まってるつもりはないんでな
【クイックドロウ・制圧射撃】で全弾ブチ込んだら離脱

…癪だがトドメさせる程の威力になってるかは微妙なとこか
ま、目立つとこはどっかのヒーロー共に任せてやるよ



●悪逆と邪悪の地獄での対話
「やれやれ、スーツが些か乱れてしまいましたか。仕立て直すのも手間なのですよ」
 サー・ジャバウォックは白手袋で傷や鮮血をぱんぱんと払う。
 すると、埃が落ちるかのように、それらが消え、スーツの輝きが戻ってくる。
「よぉ、おっさん。それは見かけだけってとこか。そこまでして取り繕う必要あるのか?」
 灰の積もる大地を黒いブーツで踏みしめて現れたのは、全身を包む黒いジャケットとスキニーパンツを着用した月待・楪(Villan・Twilight・f16731)。
 その手に、一瞬だけ紫色の雷光が走る。
 その現象を見たサー・ジャバウォックは、意味ありげに笑みを浮かべた。
「なるほど、ヒーローズアースの強き人々ですか。ふむ。……秘密結社スナークに転職する気はありませんか?」
 甘い毒のような、優しい声で微笑む猟書家。
 だが、楪はそれを鼻で笑って一蹴した。
「悪いがお断りだ。誰かの下ってのは気に食わねえんでな」
「そうですか、それは残念。幹部待遇でもいいと思っていたのですが」
 おどけた仕草で大仰に肩をすくめるサー・ジャバウォック。
 その声色からは本気さは一切感じられない。
「しかし、他人の力を借りて動くのはさぞかし楽で面白いだろーなァ?」
 今度は楪がサー・ジャバウォックへと問いかける。
 切れ長の瞳がすっと刃のように細められる。
 その視線を受け流しながら、猟書家は大きく笑みを浮かべた。
「誤解があるようですが、陰謀というものは楽なものではないのです。下積みにおいて大いに骨を折らねばならないのは、他の職業と大して変わりありません」
 そこで、猟書家は「ですが」と一息ついた。
 チェシャ猫のような笑みが大きくなる。
「そうして苦労した陰謀で、人々が己の意のままに踊るのを見るのは良いものですよ。そう、貴方の言を借りるのならば、最高に面白い……!」
 その言を聞き、楪は確信した。
 奴は紛れもない侵略者だ。
「お前の趣味はよく分かった。ヴィランにもそういう奴はいるしな」
 彼の身体から紫電と蒼炎が上がり、バチバチと弾けるような音を立てる。
 その視線は、もはや抜き身の刃のように鋭い。
「だがな……俺の世界に手ェ出そうとしてんじゃねーよ。ロートルはロートルらしく、バルコニーで堕落してろ!」
 楪はほとばしる感情のままに叫んだ。
 そう、ヴィランとして、眼前の商売敵を許すわけにはいかない。
 その怒号を受け流し、猟書家は慇懃に一礼する。
「残念ながら、まだ隠居という気分には遠いものでして。代わりに貴方には失墜の果ての死を差し上げますよ」
 夕暮れの悪漢を迎え撃つべく、青白き斬竜剣ヴォーパル・ソードを構えた。

「若者の前途ある未来を断つのは本意ではありませんが」
 巨大化しながらも、神速と正確さを兼ね備えた斬撃が楪に迫る。
 だが、楪は動じることはない。
 青白い剣の軌跡から目を離さずに呟いた。
「は、デカけりゃいいってモンでもない」
 速度がいかに早くとも、巨大なものが振るわれている以上、視認できる面積は大きくなり、その動きを視認しやすくなる。
 無論、常人に視認できるものではないが、生命体の埒外である猟兵であれば。
「見切り易いってことだ!」
 楪は地面を蹴ると、その脚力を生かして急加速した。
 あっという間にトップスピードに達し、ステップによるフェイントを入れるが、速度が早すぎるゆえに、その残像が次々と現れ、猟書家の目を惑わす。
 一度目は完全に攻撃タイミングをずらし、二度目は残像を貫かせることで回避した。
 だが、サー・ジャバウォックも尋常の剣士ではない。
「三度目は、ありませんよ」
 今度は袈裟懸けに。肩口から腰に抜ける一撃が楪を襲う。疾い。
 だが、それでも回避しきれぬほどではない。サイドステップで軌跡を避けようとする。
 だが。
「ない、と言ったはずですよ」
 その軌跡が、突如『曲がった』。無理やり腕を捻り、慣性をねじ伏せ、「V」の字を刻む逆袈裟に変えたのである。
「チィッ、行けるか……!」
 避けられないと悟るや、楪は念動力での受け流しに切り替えた。身体に走る紫電とともに見えざる盾を生じさせ、その切っ先を逸らそうと力を注ぐ。
 そして、サー・ジャバウォックもこの機は逃さない。
 確実に切り捨てようと、その腕に力を込める……!
 見えざる鍔迫り合いの果てに、楪のジャケットが裂け、血がぱっと散る。
 だが、それだけだった。
「まさか三度目まで凌ぎ切るとは」
 猟書家の感嘆の声。念動力の盾が致命の一撃を避けたのである。
 そして、これが攻守逆転の瞬間だった。
「じゃァ行くぜ。長くここに留まってるつもりはないんでな!」
 楪は太腿のホルスターから二丁拳銃、カルタとガランサスを抜き放った。
 手から拳銃に紫電と蒼炎が伝わり、弾丸として装填。その力は銃爪を引くことで、猟書家の斬撃に劣らぬ破壊の力として解放される……!
「さァ楽しいパーティーの時間だ!」
 大きな轟音とともに、紫電と蒼炎の軌跡を描く無数の弾丸が放たれた。
 超高速で連続発射されたため、無数の発射音が繋がり、大きな轟音に聞こえるのだ。
 楪の念動力で制御されたその軌跡は、物理的にはありえない稲妻状。
 打ち落とそうとする斬竜剣の一撃を避け、致命の一撃を猟書家の全身に叩き込む、
「!!!!!」
 サー・ジャバウォックは幾多の銃弾に身を貫かれながらも、苦痛の声を上げることはなかった。戦闘前と同じく優雅に立ったまま、自らを打ち倒した楪に視線を向けている。
「この私を、サー・ジャバウォックを打ち倒すとは……やはり、ヒーローズアースの者は侮れません。
 ですが、我らが書架の王や、オウガ・オリジンとも同じように戦えるのか、骸の海で見ていますよ」
 その全身から紫電と蒼炎が立ち上り、猟書家の体を覆い尽くす。
 そして一握の灰を残し、その存在は焼け焦げた森から消え去ったのであった。
「うるせえ、能書き垂れずにさっさと骸の海に還れ」
 そう吐き捨てると、楪は猟書家だったものに背を向けて立ち去るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト