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迷宮災厄戦⑲〜虚誕百端、英雄世界の争端

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #サー・ジャバウォック

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「スナーク狩りですか。嗚呼、それともジャバウォック退治に。首を刎ねる為の真理の言葉は私の手にありますが――」
 深い皺が刻まれた顔に、錫色の髪。それでいて彼の佇まいは老いを感じさせず、ある種の力強ささえ感じさせた。
「私が何であれ、戦うのでしょう。……猟兵」
 右手には青白く輝く斬竜剣『ヴォーパル・ソード』を、左手には侵略蔵書『秘密結社スナーク』を携えて、猟書家『サー・ジャバウォック』は焼け焦げた森の中で静かに言った。その呟きは誰に聞かせるでもなく、だが声色に微かな自信を滲ませて。まるで、かの世界を侵略する前の準備運動だとでも言うように。
「致し方ありません。お相手を務めさせて頂きましょう」


 猟書家『サー・ジャバウォック』。虚構の物語が綴られた侵略蔵書を所持し、書架の王を除けば猟書家の中で最も強いとされる実力者。ヒーローズアースに狙いを定めており、ここで倒さねば架空の秘密結社を用いて混乱と争いの種となる。
 現在は焼け焦げた森の国におり、猟兵達の侵攻に気付いている。――つまり戦闘体勢が整っており、間違いなく先手を取られる。
「っつー絶対先制攻撃ぶちかましてくる敵って戦争あるあるだからさ、もうみんな慣れてるよな」
 酷く雑な説明であったが、それは目の前の猟兵達が強敵だからといって二の足を踏むような者達でないと知っていて、必ず勝利をもたらしてくれると信頼しているが故だ。二本木・アロは頭を下げ、非常にわかりやすい今回の依頼の目的を伝えた。
「こいつ、ぶっ倒して」


宮下さつき
 お久しぶりです。宮下です。
 このシナリオでは早めの完結を目指す為、全プレイングの採用が難しくなりますのでご了承ください。

●戦場
 焼け焦げた森の国です。
 燃えて拓けている所もあれば墨と化した木々が多く残っている場所もあります。

●プレイング
 この戦場では、以下のプレイングボーナスがあります。
=============================
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
=============================

 それではよろしくお願い致します。
78




第1章 ボス戦 『猟書家『サー・ジャバウォック』』

POW   :    侵略蔵書「秘密結社スナーク」
見えない【架空の怪物スナーク】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    ヴォーパル・ソード
【青白き斬竜剣ヴォーパル・ソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    プロジェクト・ジャバウォック
【人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態】に変身し、武器「【ヴォーパル・ソード】」の威力増強と、【触れた者の五感を奪う黒翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月夜・玲
さあて、どうしたもんかなー
一応猟書家最強格なんだっけ?
ま、楽しくやれそうだしチョイっと付き合ってよ


3回は攻撃が来る…か
敵の攻撃が始まると共にサーに向かって走り出すよ
距離は大分ある、けど敵の攻撃を掻い潜って近づいて見せる
初撃は『第六感』で感覚任せに『スライディング』で回避
2撃目は『オーラ防御』でオーラの壁を生成し、一瞬受け止めその隙に『念動力』で上に『吹き飛ばし』て軌道をずらして回避
最後!
2振りの剣にオーラを纏わせて『武器受け』して凌ぐ
これさえ凌げば、チャンスあり!
【Code:C.S】を起動
時間加速の封印を全開放
加速した時間の中で一気にサーに近づいて連続攻撃でダメージを与えるよ!

アドリブ等歓迎



「さあて、どうしたもんかなー」
 余暇をどう使おうか迷うが如く軽い口調で、しかしそこには緊張を多分に孕んでいた。
 ――どうするも何も、既に捕捉されている。月夜・玲の鋭い第六感は、とうに肌を刺すような視線を感じ取っていた。だが彼女の歩調は淀みなく、吸い寄せられるように敵の気配へと進む。
「ま、楽しくやれそうだしチョイっと付き合ってよ」
 言うが早いか、玲は黒い地面を蹴った。猟書家はまだ遠いが、間違いない。今だ。
(「まずは、一度目」)
 いつ抜いたのか、それすらもわからない。サー・ジャバウォックが薙いだ斬竜剣の軌道の僅か数ミリ下に、身体を潜り込ませる。
(「――速い!」)
 転瞬の間に迫る二度目の刃に、玲は瞠目した。スライディングから体勢を整えねばならぬタイミングで二撃目を振るわれた以上、まともな回避は不可能に近い。
 故に、彼女の選択は最善だった。即座にオーラを前面に展開し、幾重にも重ねて壁を成す。防御壁が耐えたのはほんの刹那ではあったが、稼いだ一瞬は大きい。彼女の念動力は確かに刃を捉え、軌道をずらした。
「……ッ」
 巨大な剣が生んだ風圧だろうか、玲の腕にひりつくような痛みが走ったが、足を止めるには至らない。駆けながらも両の剣にオーラを纏わせ、前へと向ける。
(「最後!」)
 真っ向から振り下ろされた斬竜剣を、掲げた二振りの剣で受け止める。尋常ではない圧力が腕に掛かり、骨の軋む音が聞こえた気がした。
「これさえ、凌げば……!」
 猟書家が剣を引いたその瞬間、玲は踏み込んだ。頸木を解かれた模造神器は容赦なくUDCと遜色ない力を玲に与え、彼女は惜しみなく力を振るった。拮抗する速度で斬り返されて眉を顰めた猟書家に、玲は小さく笑った。
「一応、猟書家最強格なんだっけ?」
「はい、そのように自負しておりましたが……」
 剣の交わる音が響き、弾かれたように両者が距離を取る。はらり。黒い外套の切れ端が、風に舞った。
「このように斬られるとは。私もまだ修業が足りぬようです」

成功 🔵​🔵​🔴​

大豪傑・麗刃
つーか遠距離から見えない先制攻撃とかあまりにもひきょうすぐるでしょう。
仕方ない。あの秘技を使おう。

まず全力でダッシュ。この時直線のみではなく、高速で左右への移動を繰り返すのだ。そして移動するときには必ず残像を残す。そして残像にも存在感を与える。存在感のある残像で秘技!変態分身術なのだ!
で分身が攻撃くらってる間に本人に肉薄。あとは純粋な勝負。

きみきみ!
視認できない攻撃とか卑怯ではないか!
こんなのくらったら畢竟わたしが死人になるのだ!

しかもスナック菓子とかうまそうな名前の攻撃を!
そんなもので攻撃とかすなーっっっ!!

……く。

とギャグで相手の精神を乱しまっとうに戦えなくなった所を刀の二刀流でずんばら。



 炭化した幹が裂け、ぱらぱらと黒い木屑が降る。焦げた大地が爆ぜ、灰が舞う。
「つーか」
 煤で汚れた顔を袖口で無造作に拭い、大豪傑・麗刃はぼやいた。
「遠距離から見えない先制攻撃とか、あまりにもひきょうすぐるでしょう」
 仕方ないと肩を竦め、麗刃は己の現身を残し、自身は背後の大木の陰に回り込む。直後、木が真ん中から音を立てて折れ、残像の頭に落下した。既に別の岩陰に滑り込んでいた麗刃の背を、冷たい汗が伝う。
「……あのジャバなんたらくんとやら、見分けがついてるようなのだ」
 猟書家最強という話は荒誕ではないらしい。それでも執拗に残像を攻撃するのは、恐らくは後顧の憂いを断つ為だろう。それだけ彼の残像が持つ存在感は、無視出来ないものであった。に、と麗刃は口元を緩める。
「これぞ秘技! 変態分身術なのだ!」
 残像の数を増やし、彼は戦場を縦横無尽に駆け回る。不可視の怪物を精緻に操り続ける猟書家の顔に疲労の色は見られないが、その距離はじりじりと、しかし確実に縮まっていた。そう、男の表情が視認出来る程度に。
「きみきみ! 視認できない攻撃とか卑怯ではないか! こんなのくらったら畢竟わたしが死人になるのだ!」
 刀を抜き、麗刃は斬り込んだ。スナークが如何に繊細な操作が可能であろうと、懐に入り込まれては攻め難い。サー・ジャバウォックは斬竜剣を抜き、戦いは純粋な剣術勝負へと移行する。
「それは卑怯と畢竟をかけた、諧謔的な言い回」
「駄洒落に説明を求めるのはやめたまえ」
 振り下ろされた刀を青白い剣が受け止める。無防備になった猟書家の側面に脇差を叩き込むも、刀を跳ね上げて真下に向けた剣が脇差を止める。幾度も金属のぶつかる音が響くが、どれもが決定打に至らない。麗刃は苛立ちを込め、がなる。
「しかも! しかもスナック菓子とかうまそうな名前の攻撃を!」
「スナックではなくスナー……」
 訂正しようとする猟書家の言葉を遮り、絶叫した。
「そんなもので攻撃とかすなーっっっ!! ――……く。」
 冗談の通じない相手であっても、ギャグは貫きたい。大豪傑・麗刃という男は、何処までもブレなかった。だが。
「ですから、」
 サー・ジャバウォックは虚構を操るが故に、考えた。余計な事を、考えてしまった。目の前の猟兵の態度は、何かを狙っているのではないかと。
「もらったのだ」
 平常心を乱した男の腹を、麗刃の刀が薙いだ。黒い戦場に、赤が散った。

成功 🔵​🔵​🔴​

刑部・理寿乃
見えない遠距離攻撃のユーベルコードとはキツイですね
しかし、接近出来れば勝機はあるはずです

放ってくるスナークを周囲の障害物や感を利用して、可能な限り防ぎ、ダメージも恐れずに進む(第六感、見切り、武器受け、勇気)

そう近づく事さえ出来れば傷だらけであろうが私のユーベルコードがバンダースナッチを召喚し、怒り狂った顎が素早く敵を攻撃するでしょう



 焼け落ちた森に、柔らかな春色が揺れる。生気を失った大地を踏み締め、刑部・理寿乃は柳眉を寄せた。得体の知れぬ何かが背筋を這い上がるような悪寒。第六感が告げる、警鐘。
(「――後ろ!」)
 真横に跳び、地面を転がる。今まで自分が駆けていた道が抉れ、塹壕のように溝が出来ていた。
「見えない遠距離攻撃のユーベルコードとは……キツイですね」
 小さく息を吐き、思わず呟いた。だが、手が無いわけではない。理寿乃は素早く視線を巡らせ、不可視の怪物の位置を探る。
 風向きとは異なる小枝の揺れ。積もった灰に出来た不自然な砂紋。スナークによる攻撃は見えぬだけで、探せば存在の痕跡がそこかしこに残っている。
 来た。真っ直ぐ自身に向かうスナークを察知し、木陰に身を滑り込ませる。しかし。
「きゃ……っ」
 めきめきと音を立て、木が弾けた。怪物の体当たりに小柄な体躯は吹き飛ばされ、焦げた地面に叩きつけられる。
(「接近出来れば、勝機はあるはずです……!」)
 咄嗟に受け身を取ったものの、痛みはある。それでも理寿乃は鮮やかな色の瞳で前を見据え、即座に駆け出した。
「……まだ退きませんか」
 スナークによる攻撃を剣で受け止め、時には地に転がされ、なお立ち向かう彼女の姿に、サー・ジャバウォックは感心したような声を漏らした。勇気か、蛮勇か。見定めるように目を細めた猟書家の前に、とうとう理寿乃は立った。
「スナークを掻い潜り、よくぞ辿り着かれました。流石は猟兵と言うべきか。ですが……一歩届きませんでしたか」
 かは、と短く息を漏らし、理寿乃が膝を着く。猟書家は彼女を讃えるように頷くと斬竜剣を抜き、前に歩み出た。――理寿乃が微かに口元に笑みを乗せた事に気付かずに。
「どうぞ、存分に」
 過去と向き合ってくださいね。彼女が言い終わるが早いか、猟書家の前に新たな怪物が立ち塞がった。これまで涼しい顔をしていた猟書家が、初めて目を見開いた。
「――貴様、バンダースナッチ……ッ」
 燻り狂える獣が、答えるように吠える。柔軟性に富んだ頸部が撓り、猟書家の肩口に齧り付いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アハト・アリスズナンバー
アドリブ共闘歓迎

同じヴォーパルソード使いに出会えることが、嬉しくもあり、悲しくもあります。
怪物を討ち果たす剣。今こそその煌めきを、本懐を遂げる時です。

UCを起動。肉体の寿命いっぱいまで使い続けます。
相手のUCに対して、【見切り】【ダッシュ】で避ける事を狙います。
相手の攻撃が直接的な物である限り、その上のスピードで避けるのです。
そのままスピードを生かして【カウンター】の【鎧無視攻撃】をします。
ダメージは受けても【激痛耐性】で無視しつつ、【貫通攻撃】で早めの決着を狙いましょう。

――さらば。伝承の竜よ。



 何処も彼処も黒く煤けた森の中で、男の存在感は鮮烈であった。何処かで燻る火種が視界を揺らし、炙られた生木が蒸気を上げても、サー・ジャバウォックの姿は揺るぎない。それを見つめるアハト・アリスズナンバーはある種の感慨を抱き、だが言の葉に一切の感情を乗せる事無く、剣を握る。
「同じヴォーパルソード使いに出会えることが、嬉しくもあり、悲しくもあります」
 直後、猟書家が動いた。剣術の間合いといった概念を無視した、馬鹿げた斬撃を視界の端に捉え、アハトは冷然と呟いた。
「アリスコード送信」
 ――承認されました。何者かの事務的な返答を受け取り、アハトは猟書家の斬撃をつぶさに観察する。重心を前方に傾け、大地を蹴る。灰が舞った。刀身が唸りを上げて彼女の真横を通過し、幾本かのバターブロンドの髪が風に乗って輝いた。
「この速度に追いつきますか」
 間髪を入れず、突きが迫る。決して取り回しが良いとは言えぬ刀身の長さでありながら、信じがたい速さだ。――が、そもそも常識に当てはめて考えてはならぬ存在だ。アハトは小さくかぶりを振り、僅かに身体を傾けただけで直進する。
「……何?」
 猟書家が、怪訝そうに顔を顰めた。斬竜剣はアハトの脇腹を掠めたというのに、流れる血もそのままに、彼女の走りに遅滞は無い。
「代わりはありますので」
 アハトの名が示す通り、彼女は八番目のアリス。己の肉体の生死など顧みず、故に逡巡などというものに縁遠い。眼前の猟書家を『ジャバウォック』であると認識した以上、怪物退治の為に誂えた剣で屠るのみだ。
「なるほど、その剣。侃々諤々と斬り込むという事ですか、猟兵」
「これはその為の武器でしょう。――伝承の竜よ」
 間合いは猟書家の方が圧倒的に広い。当然の事ながら、切っ先はサー・ジャバウォックの斬竜剣が先に届き、アハトの身体を貫く。人間と何ら変わらぬ赤い血が零れ、乾いた大地に染みを作る。
「これが」
 致命は避けた。剣を振るう為の腕は動く。アハトは顔色一つ変えず、猟書家を見据え、口を開いた。
「物語に定められた、運命というものでしょうか」
 二振りのヴォーパル・ソードが交差する。猟書家の背から、剣先が生えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧島・絶奈
◆心情
貴方が何者であるかなど、貴方と言う強敵との逢瀬の前では些事に過ぎません
愉しみましょう?

◆行動
敵先制攻撃対策として【各種耐性】を高めた【オーラ防御】を展開
加えて【罠使い】として持ち込んだ「白燐発煙弾」を【衝撃波】に乗せて周囲一帯に散布
敵の視界を閉ざしつつ、【空中浮遊】で移動音を消し【目立たない】様に行動

自身の視界は白燐を透過する赤外線センサと【環境耐性】で確保
また不可視であっても音は消せないでしょうから【聞き耳】を立てる事で位置を特定

先制攻撃対処後『獣ノ爪牙』を発動
軍勢と共に【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復



 色彩を失った森の中、霧島・絶奈の輪郭は際立っていた。灰より白く、炭化した木々の黒に穢される事もなく、超然と佇んでいる。
「次は何を見せてくれるのでしょう、猟兵」
 立て続けに送り込まれては一矢報いてくる猟兵達は、いっそ楽しみですらある。サー・ジャバウォックはその場から一歩も動かず、不可視の怪物を嗾けた。
 直後、鳴動。大地を揺るがすような衝撃波は一瞬で森全体に広がり、極めて透過性の低い煙が戦場を覆う。絶奈は視界の悪さなど意に介さず、靄然たる森の中を泳ぐように進む――が、
「視界を奪ったくらいでどうにかなると思いましたか」
 ざあ、と。焦げた地面を這うように、怪物が絶奈へと迫る。
「貴方はこれを知覚しますか。確かに純然たる強者の覇気を感じます」
 そう言う絶奈もまた、不可視の怪物を知覚した。見えぬだけで、音が、空気の流れが、居場所を教えてくれている。喰らい付かれる直前、絶奈の神気が鎧のように密になる。
 衣を引き裂く音がした、気がした。絶奈の肌を傷つけるには至らなかったが、スナークはオーラを破り、鈍い衝撃を彼女に伝えていた。――猟書家最強というのは大言ではないらしい。
「――ふ、」
 思わずと言った様子で、絶奈は小さく息を漏らした。場違いな程に嫣然と、この闘争が享楽であるとでも言うように。慕わしい者からの抱擁を待つ乙女の如く、彼女は両の腕を広げる。白い靄を吹き飛ばすようにぶわりと膨れ上がる、影。
「これは……?!」
 際限なく溢れてくる屍者に、猟書家も目を見張った。いくら不可視の怪物が猛威を振るえど、如何せん数が多過ぎる。さくさくと灰の大地を踏み越えて、絶奈の足元から這い上がるように現れた軍勢は猟書家との距離を縮めてゆく。
「……これはこれは。かつてスナーク狩りに赴いた探索隊ですら、このような大群ではなかったかと」
「貴方が何者であるかなど、貴方と言う強敵との逢瀬の前では些事に過ぎません。……愉しみましょう?」
 砲弾の雨が降る中、サー・ジャバウォックと槍兵の大隊が衝突した。スナークが咆哮を上げ、斬竜剣が閃くと、槍衾が撓む。だが、それだけだ。到底倒し切れるものではない。彼女の形の良い唇が、微かに弧を描いた。
 どうと音を立て、槍兵達が押し切った。弾き飛ばされた猟書家の身体が宙を舞う。

成功 🔵​🔵​🔴​

宮落・ライア
ははははは! 真っ直ぐ言ってぶっ潰す!

見えない怪物ねー。見えなくても実体があるなら野生の勘でなんとなくわかる。わかるなら見切れる。
つまり気合で避けれる!
離れててもどうしようもないし怪力ダッシュで高速接敵。
多少のダメージは激痛耐性で無視。
攻撃範囲まで踏み込めたなら致命傷物も完全に無視して攻撃全ぶり。
腹貫かれても【未到再起】で強行。
痛み分けならこっちの勝ちなんだよねー。

はっはっはスナークなんて存在しない。単純な答えだよね。
否定する要素がないから存在するかもだなんて…どこの哲学か仮説なのか。
良いと思うけれどね!



 一見すると何も無い。だが、何かが居る。
 宮落・ライアは戦場の真っ只中で、興味深げに目を輝かせた。何の脈絡もなく折れる木の幹。突然抉れる大地。透明人間が暴れ回る映画でも見せられているようで、彼女はついに笑い出した。
「ははははは! 本当に見えない!」
 ひとしきり笑い、ぴたりと止める。不可視の怪物が自身に向かう気配を察したのは、猟兵としての経験か、それとも本能か。
「見えない怪物、ね。見えなくても実体があるなら野生の勘でなーんとなくわかる。わかるなら見切れる。つまり」
 跳躍。ど、と音を立てて今までライアが立っていた場所に穴が開く。着地と同時に屈む。頭上の枝が爆ぜた。確かにスナークはそこに居り、確実にライアを狙っている。彼女は胸を張り、力強く言った。
「気合で避けれる!」
 離れててもどうしようもないしね、と。一切の迷いなく、ライアは真っ直ぐにサー・ジャバウォックへと駆け出した。脇目も振らず、隠れもせず、大地を覆う灰を巻き上げながら、駆ける、駆ける。
「……何を考えているのでしょう」
 これまでも何らかの手段で猟兵達から手痛い反撃を喰らってきた猟書家は、直進してくる猟兵を見つめた。虚構を操るが故に、彼女の底抜けの明るさを虚飾ではないかと疑い、底知れぬ不気味さを感じている。侵略蔵書を持つ手に力が入り、渾身の一撃を放つ。
 ぐぶり。ライアの唇から、ライアの腹部から、血が溢れた。猟兵に決して無視できぬ傷を負わせた事に安堵の息を漏らした猟書家は、直後、ひゅうと息を飲んだ。
「何故、動ける」
「痛み分けならこっちの勝ちなんだよねー」
 手放しかけた意識を掴み取り、ライアの魂は器にしがみついた。負傷の度合いは最早気合だ根性だという精神論ではどうにも出来ぬ域でありながら、彼女の歩みは止まらない。
 ――そもそも痛みというならば、今に始まったものでもない。今もなお流れ出るこの血が毒に置き換わったその日から――、ライアは何かを振り払うようにかぶりを振り、視線を猟書家へと固定した。
「はっはっはスナークなんて存在しない。単純な答えだよね」
 猟書家を間合いに入れ、ライアは笑う。
「否定する要素がないから存在するかもだなんて……どこの哲学か仮説なのか。良いと思うけれどね!」
 大振りの剣が、美しい刀が。猟書家の身体に、深い傷を刻んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御剣・刀也
遠距離戦もできるのか
遠、近、中と隙は少なさそうだ
こういうオールラウンダーは厄介だな。ま、それでも俺のやることは変わらない
前に出て、斬り捨てるだけだ

侵略蔵書「秘密結社スナーク」による遠距離攻撃が先にやってくるのはわかっているので、勇気で被弾を恐れず、ダッシュで一気に間合いを詰め、避けれるものは第六感、見切り、残像で避けつつ、避けきれないものは武器受けで弾き、一気に距離を詰めて、捨て身の一撃で斬り捨てる
「近付く迄は苦労したが、ここは、俺の距離だ!」



「こういうオールラウンダーは厄介だな」
 サー・ジャバウォックは広範に渡る斬撃に精緻に操作出来る遠距離攻撃、果ては空まで駆けるときた。森の残骸が横たわる先に猟書家の姿を認め、御剣・刀也は大地を蹴った。
「先にやってくるのは、わかっている」
 空気の塊、或いはそれ以上に掴み所の無い何かが刀也を――否、刀也の残像を掻き消した。当の本人は既に遥か前方で、敵に一太刀浴びせるべく刀の柄に手を掛ける。猟書家は目と鼻の先だ。だが、その前に。
「簡単には行かせてくれないよな」
 それもわかっている、と。視線を前に向けたまま、自身を追尾する不可視の怪物へと声を掛けた。
 刀也は疾いが、良くも悪くも真っ直ぐだ。猟書家からしてみれば、これまでに相手をしてきた猟兵――手を変え品を変え意表を突いてくる者達よりはわかりやすいといった所だろうか。思いのほか早く追い付かれてしまったが、刀也とてサー・ジャバウォックと対峙するのは初めてではない。振り向きざまに、刀を抜く。
 ぐわんと、右手に衝撃が伝わった。架空の怪物を斬る事が叶わなくとも、逸らせれば良い。渾身の力を込め、跳ね上げるようにスナークを弾いた。
「ここは、」
「嗚呼」
 刀也の言わんとしている事が分かったのか、猟書家は小さく声を漏らした。スナークを如何に精緻に扱えど、右手に携えた斬竜剣を今更構えようと。ここは。この距離では。
「ここは――俺の距離だ!」
 スナークを斬り上げた刀を構え直す事なく、刀也は翻る。幾度も送り込まれる猟兵達の手によってサー・ジャバウォックは既に満身創痍で、だからといって刀也が斟酌してやる道理など何処にも無くて。そのまま、返し刀を振り下ろす。首の横から胸まで垂直に、美しい閃耀が猟書家を断つ。
「嗚呼、これではきっと」
 英雄世界に逃れた所で、秘密結社の暗躍も阻止されてしまうのだろうか。この侵略蔵書は。オウガ・オリジンは。様々な事がとめどなく浮かぶが、今はただ称えよう。彼の純一無雑な剣術を、多様な戦術を持つ彼らを。サー・ジャバウォックが口を開く。
「認めましょう、猟兵。その力が虚構でない事を」
 それだけ言い残し、ふつりと糸の切れた人形のように頽れたサー・ジャバウォックは、次の瞬間には跡形もなく消えていた。緞帳が降りたかのように。本を閉じたかのように。最初から、何も居なかったかのように。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト