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迷宮災厄戦⑲〜Snark huntにでかけよう

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #サー・ジャバウォック

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#サー・ジャバウォック


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●スナークハントのはじまり

「……猟書家、サー・ジャバウォックの陣地に繋がる路が開けたよ」

 グリモアベース、召集された猟兵たちそれぞれを見回すように隻眼からの視線を巡らせるのは一応グリモア猟兵の片隅にひっそり居座るイサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)である。開口一番にそう告げた彼女がその掌から浮かび上がらせた立方体状のグリモアがくるくると回転しながら緑色に明滅を繰り返し、虚空にひとりの男の姿を投影した。

「これも皆の日々の頑張りのおかげだね。相手は『書架の王』を除いた中では最強の猟書家らしい。手強さは言うまでもないけど、ある意味では幸先が良いかも知れないよ」

 イサナの言葉を聞きながらも、猟兵たちはそれぞれ闘志の炎を静かに胸の内で燃やしていたかも知れない。虚空に映し出されているのは顎髭に片眼鏡の紳士然とした壮年の男。然しその知的と優雅さを両立させた物腰の下に秘めているのは、ヒーローズアースを侵略せんとする凶悪な野望と竜人由来の獰猛な破壊力である。

「こういうの、ロマンスグレーとか言うんだっけ? 知的なおじさんって格好いいよね」

 嘯くイサナだが、隻眼は居合わせた猟兵たちと同様の鋭い視線を虚空へ向けていた。

「しつこく言うけど、ジャバウォックは強敵だよ。本人の強さに加えて、侵略蔵書『秘密結社スナーク』なんてモノまで使ってくる。そこに記されているのは実在しない虚構、フィクションだけれど……ホントのことなんて何もない、ペラッペラの嘘だからこそ、得体が知れない未知のものに人間は怯えてしまう」

 もしかしたら、スナークは実在するのでは?
 そんな疑念を抱けば抱くほどに、想像の罠に絡め取られたモノたちは自らの生み出した虚構の怪物たちに追い立てられてしまう事になるだろう。誰も彼も信用できない疑念に囚われた人々は、やがては自らがスナークと成り果てる。虚構の怪物が現実を侵略して喰らい尽くす、まさしく悪夢のような未来が迫っている。猟兵たちが此処でその野望を打ち砕かない限りは不可避の未来だ。

「……ヒーローズアースにジャバウォックを到達させる訳にはいかない」

 そんなイサナの言葉と共に、虚空に浮かぶグリモアが鮮やかな輝きを放ちながら緩やかに回転を加速させ、周囲の風景をぐにゃぐにゃと歪めていく。猟兵たちを決戦の舞台であるアリスラビリンスは【ゆうとろどきの森】へと導くべく、転送ゲートを繋ごうとしているのだ。

「……準備はもう出来てるかな。みんな、スナーク狩り(ハント)の時間だよ」

 ―――― 実在しない怪物には、そのまま虚構らしく消えてもらおう。


毒島やすみ
 ややご無沙汰しております。或いは初めまして、毒島です。という訳で、遅まきながらアリラビ戦争シナリオ一本目は『サー・ジャバウォック』と対決するボス戦でございます。
 尚、今回のプレイングボーナスはこちらとなります。

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 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
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 確実に飛んでくるジャバウォックからの強力な先制攻撃を凌ぎ、反撃を食らわせていきましょう。此度の難易度は『やや難』となっております。普段よりも若干厳し目に判定しますので、ぜひともプレイングボーナスをご活用ください。完結までスピード重視で考えておりますゆえ、採用数は控えめになるかと思います。どうか悪しからず……。
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第1章 ボス戦 『猟書家『サー・ジャバウォック』』

POW   :    侵略蔵書「秘密結社スナーク」
見えない【架空の怪物スナーク】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    ヴォーパル・ソード
【青白き斬竜剣ヴォーパル・ソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    プロジェクト・ジャバウォック
【人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態】に変身し、武器「【ヴォーパル・ソード】」の威力増強と、【触れた者の五感を奪う黒翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

白斑・物九郎
●POW



ワイルドハント、白斑物九郎
ジャバウォックを狩りに来た
俺めのコトは王(キング)と呼べ、サー


●対先制
・敵のスナークは「対:遠距離」でこそ真価・真骨頂を発揮するものと踏む

・故に対処は、開戦次第【ダッシュ】で接近
・不可視のスナークの位置や挙動を【野生の勘】で探ると共、己にフォースオーラ『モザイク状の空間(迷彩&残像)』を纏い、敵命中率の減を期す

・接近を果たす迄の間は回避に専心
・攻撃被弾等、スナークからの接触を受けた際は、相手の体表にモザイクを塗布しスナークに対する視認性を得ん


●反撃
・直前迄モザイク空間内に魔鍵を隠匿
・出し抜けに魔鍵を抜き【ドリームイーターⅡ】発動
・サーの思考/精神を【蹂躙】せん


メフィス・フェイスレス
【心情】
お前が猟書家ね
今度はアンタ達が喰われる番よ
お前を倒せばアリス達の自由への解放に一歩近づく
【対先制】
「鬼眼」でスナークの位置と移動の軌跡を特定、「骨身」で迎撃、骨刃に仕込んだ「微塵」を注入し内部から破壊
スナークの捕捉を悟らせないため周囲に「飢渇」を膜状にして展開、防御のふりして目線を遮断する

【行動】
爆煙に紛れ大量の「飢渇」をけしかけ、自身は液状化して死角から奇襲を狙う
攻撃を受けたら腐食性を付与した「血潮」を「乱れ撃ち」し、「目潰し」「マヒ攻撃」を行いつつ「経戦能力」で戦闘続行
「捨て身の一撃」で「飢牙」で喰らい付いて動きを止め、全ての「飢渇」分身を纏わり付かせて「微塵」に変換し起爆する



●Wild Snark Hunt

「…………猟兵の方々がいらっしゃいましたか」

 次々とゆうとろどきの森へと降り立つ侵入者たちの気配に、ひとり静かに佇んでいた老紳士は視線を持ち上げる。片眼鏡越しに投げかけられたその視線は一見柔らかでありながらも、対峙した者に即座に攻め立てる事を躊躇わせるような、歴戦の威厳を帯びていた。禍々しき爪を備えた左の手に抱えるのは侵略蔵書『秘密結社スナーク』。黒革の手袋に包まれた右の手が杖をつくように握り込むのはステッキなどではない。青白く輝く螺旋を象る一振りの魔剣、竜をも斬り裂く『ヴォーパルソード』である。黒き翼と一体化した異形の外套と長く伸びた尾を揺らめかせながら対峙する猟兵たちを見据えるその姿は、自然体でありながらもそこから一分の隙を見出す事も難しい。

「お前が猟書家ね。今度はアンタ達が喰われる番よ」

 静かに、緩やかに、しかし確実に高まっていく緊迫感を振り払うように前へと一歩踏み出したのは猟兵メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)。継ぎ接ぎで作られた肉体それぞれの内に潜む衝動がざわめくのを押さえつけながら彼女は一歩、そしてまた一歩とジャバウォックの元へと歩みを寄せる。

「……おいおい、お前さん。この俺めをさしおいて抜け駆けは許しませんよ」
「遅いわよ、猟団長さん!でも間に合ったなら一緒に喰らい尽くしてやりましょ」

 そんなメフィスに続き、ジャバウォックへと踏み込むのは白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。あらゆるオブリビオンを狩り尽くそうとする百鬼夜行が内の二匹。その両者のどちらにも、最強の猟書家へと対峙する事への引け目などは微塵もなかった。

「ワイルドハント、白斑物九郎。ジャバウォックを狩りに来た」
「……ほう」

 物九郎の言葉に対し、その刃で斬り裂く標的を欲するが如く青白い輝きを溢れさせていた斬竜剣の切っ先が地面からゆっくりと持ち上がる。これまで自然体であったジャバウォックが此処ではじめて身じろぎをして見せた。

「俺めのコトは王(キング)と呼べ、サー」
「心得ました、狩りの王。しかし貴方が我が王の元へと辿り着く事はありません」

 吹き抜けていく風に、森の木々がざわめく。立ち上る殺気の余波を受けた鳥達がけたたましい嘶きを上げて、オレンジ色に染まる夕暮れ時の空へと一斉に飛び立って逃げ出して行く。

「――――― 何故なら此処で、全てが終わるからです」

 その言葉と同時に、ジャバウォックの左腕が抱えていた豪奢な装丁の施された分厚い本が、独りでに表紙を開き、次々と頁を捲り上げていく。そこに書き連ねられているのは退廃的であり、猟奇的な秘密結社の全容。然し、その全ては実在などしない虚構。そして、虚構であるが故に、対峙するものは其処に自らの経験則を重ねて間違いを指摘する事も叶わない。自由自在に変幻する不可視の尖兵たちは、対峙するものの疑念を喰らう事で際限なく増殖を続けていくのだ。

「……言ったでしょ、今度はアンタ達が喰われる番だってね。やるわよ猟団長!」
「メフィス、仕切ンのは俺めの役でしょーよ。まぁそーゆーワケらしいスよ、サー」

 王(キング)の言葉に、老紳士は微かに首肯の仕草を返して寄越す。そして、それこそが彼らの戦いの始まりを示す合図でもあった。

「……ね。猟団長、どう闘るつもり?」
「ニャハ。決まってンでしょーがよ、ンな事ァ」

 侵略蔵書より次々と生み出されていく不可視の獣たちが放つ殺気が濃厚に立ち込める。じりじりと迫る危機の感覚をそれぞれが本能と肌で感じ取りながら、物九郎とメフィスはそれぞれ走り出した。遠く広がる間合いの先、優雅な物腰を崩さぬままに待ち受ける老紳士の立つその一点目掛けて。

「得意レンジは遠距離と見た。要するに、さっさと懐入っちまえって寸法スよ」
「それ、簡単にさせてくれる相手じゃないでしょうけどね!」

 音もなく迫る殺気、それを物九郎は金色に輝く双眸で鋭く睨む。見えぬ相手をその視線が捉えているかは彼にとて判りはしないが、同時にひくひくと小さく震える猫の耳とアンテナ宜しくピンと立った尾の先は、その獣が本能によって大凡の位置を探り出さんとする。そう、猫は本来狩猟する側の生き物なのだ。

 ざんッ――― !!

 鋭く振るわれた不可視の爪を、一歩飛び退き紙一重に物九郎は回避する。爪が掠めた先、虚空から溶け出したように流れ出すのは物九郎がその身に纏う、モザイク状のオーラの残滓だ。それは引き裂いた爪に纏わり付き、不可視の筈の獣の腕がまるで出来の悪い特撮の怪物の如くモザイクの塊となって虚空へと姿を表した。

「……俺めは狩る側の生き物スよ。やり方は心得てンですわ」

 更に続けて次々と襲い来る獣たちの襲撃を、最小限の身動ぎで往なしていきながらも物九郎は着実に彼我の距離を詰めていく。見えぬそれらの中には躱し切れぬものもあるが、爪の掠めるその度に、獣たちは返り血ならぬモザイクのオーラを塗りつけられて、不可視の獣から可視の獣へと退化させられていった。

(……ふぅん。マーキングなんて、いよいよ狩りっぽい事してるじゃないの)

 物九郎が無数の獣を相手取る最中、メフィスは少し遅れて進みながら、彼の肩越しにその鬼眼にて本来はその目であろうと見えはせぬであろうスナークの動きを把握せんと目を凝らす。幸いにして、物九郎が仕込んでいたモザイクは少しずつであるが、着実に不可視の獣を染め上げていた。ほんの微かな断片だけでも手がかりがあるのなら、その眼は決して獲物を見逃しはしない。

「……おう、そっちに一匹行ったぞ!」
「わかってる!」

 物九郎を飛び越して、後方のメフィス目掛けて躍りかかる不可視の獣―― いや、最早隠し切れぬその腕。モザイクによってぼやけながらも、その禍々しい爪が殺傷力を備えている事は一目瞭然。虚空目掛けて突き出すメフィスの片腕。その表面に走る継ぎ接ぎの縫い目が解けたかと思えば、その隙間から次々と肉を引き裂き突き破るようにして枝のように、棘のように長く伸びる骨の刃が不可視の獣を貫き、其処から流し込まれる黒血のような液体によって、獣は爆ぜて砕けて飛び散った。モザイクも血肉も全てひっくるめて吹き飛んだ其処には最初から何もなかったかの如く、何の残骸も残りはしない。

 ……否、虚構の怪物は最初から存在などしていなかったのだ。存在を否定されれば、痕跡など残るはずもない。

「……成程、見事なものです。然し、我がスナークに限りなど御座いませんよ」
「そりゃあ良いわね、食い出があるってもんよ!!」

 ジャバウォックの言葉に吠えるように告げながら、自身の周囲を埋め尽くさんと迫る不可視の怪物たちをメフィスは睨み付ける。そして、彼女の全周を覆うように生み出される黒い霧のような暴食の衝動。一瞬の内に黒い気体からタール状の液体へと変化したそれは更に流動し、巨大な球体となってメフィスを包む。それはまるで防御壁の様でもあった。

「……ふむ」

 片眼鏡越しに黒い球体を見遣る老紳士であるが、不可視の獣たちに取らせる行動に変更はない。攻撃こそ最大の防御。このまま物量に任せて攻め切るのが最善と判断し、次々と獣たちは球体へと噛み付いていく。不可視の爪に抉られ次々と破片を散らして小さく削り取られていく球体から、どろりと黒い液体が滲み出した事に気づく者は一人として存在しなかった。

「……此方のお嬢様はそろそろ終わりですかな」
「そいつは少々気が早えんじゃニャースかね、サー」

 ジャバウォックの呟きを、軽い調子で否定する王の声。其処に被さるようなタイミングでスナークたちの集中攻撃を受けている球体が不意に大音響と共に炸裂し、押し寄せていた獣たちは飛び散った黒い破片に突き刺され、斬り裂かれ、その傷より食い散らかされ、次々と雲散霧消していく。

「……これは……!!」

 巻き起こる爆風。吹き付ける強烈な風から、その翼で上半身を庇いながらもジャバウォックは次の相手の挙動に備えて右手の魔剣を強く握り締める。歴戦の強者だからこそに、彼に油断はなかった。爆音に乗じて接近する物九郎が跳躍様に何もない虚空に手を翳し、其処から何かを掴み取って振り下ろしてきた一撃を、掲げるヴォーパルソードが真っ向より受け止め、轟音と共に両者を中心として再び巻き起こる暴風。衝突の勢いに、ジャバウォックの両脚が踏み締めた大地は深く靴底の形に陥没し、びしびしと亀裂が走っていく。

「……油断大敵、ですな……。然し、まだ私には届きません」
「うんにゃ、もう届いてンすよ。……だろ、メフィスよぅ」

 自爆したか、スナークに喰われたか。既に脱落済みと思われた娘らしき名を紡ぐその声に、猟書家は瞬時に周囲を警戒した。然し、それは一手ばかり遅れていたのだ。その背に深々と突き刺さるのは、黒い流体と化していたメフィス。それを更に一部、刃の如く研ぎ澄ませたその身は竜人の老紳士の肉体を容易く突き破り、浅くはない傷を負わせていた。

「……一番槍、付けさせてもらったわ」
「ぐ、ゥ……! 私としたことが、謀られましたか……!」

 さしものジャバウォックも、死角よりその身を貫く予想外の一撃を受けては一溜まりもない。咄嗟に鍔迫り合いの形にて圧し合っていた物九郎を強引に押し飛ばしては魔剣を振るい、メフィスを追い払わんと牽制して見せるが、既に二匹の狩猟者たちの織り成す連携様式は完成していた。

「……言ったわな。狩りに来たってよぉ。今がその時なんスわ!」

 メフィスに気を取られるジャバウォックの隙を突き、物九郎が全身ごと突き出すのはその手に握られた巨大な鍵。魔剣ならぬ魔鍵が深々と老紳士の胴体へと突き立てば、その先端は宛らジャバウォックが握りしめた魔剣を象るが如く螺旋を描いて変形し、その肉体ではなく精神そのものを撹拌せんと襲いかかる。

「さあ、跪きたまい。てめえ様は今、俺めという王(キング)の前に居るんスよ?」
「……っ、ぐ……おおおおおおォォォォォッ……!!」

 その内面を蹂躙せんとする、魔鍵によって増幅された強烈な精神攻撃。その重圧の前に、さしもの最強の猟書家とて無事で済む筈はなく、その肉体は自我と精神攻撃の鬩ぎ合いによる激しく揺さぶられる。ぐらりと傾ぐ身体。倒れ込まずに済むのは辛うじて彼が膝をつく事に成功したからではあるが、それは同時に狩猟王の威光に膝をついてしまったという屈辱をも意味している。湧き上がる憤怒に、老紳士は身を突き刺す魔鍵を握り締めながら、憤りを込めて力強く立ち上がる。

「ワイルドハントの王……! 貴方を生かす理由は、無くなりましたな……!」
「即立ち上がれるのは流石スよ。でも、俺めを殺すのは無理ですわ、てめえ様」

 何を―― と。そうジャバウォックが問うよりも先に、ぐりぃ、と傷口を大きく抉るようにして引き抜かれる魔鍵。

『――……そうね、殺されるのはお前の方だもの』

 そして、其処を基点に巻き起こる強烈な爆発が老紳士の身体を後方へと吹き飛ばした。傷口を内側から引き裂き、無残に拡張して焼き焦がす黒い暴風。竜人の血と爆炎の残滓を揺らめかせながら、流体よりヒトらしき形を取り戻すメフィスがふわりと物九郎の傍らへと着地した。

「あー。……死ぬかと思った」
「何言ってンすか、その気もニャーくせに」

 吹き飛ばされた先、竜をも斬り捨てる豪剣を杖代わりにゆっくりと立ち上がるジャバウォックは悟る。軽口を叩き合いながらも、彼らに微塵の隙は見出だせぬということに。

「……成程、認識を改めねばなりませんな……」

 強者は理解する。理屈ではなく、本能で。
 これは本来蹂躙するべく弱者から突きつけられた挑戦などではない。


 ―――― 力持つ者同士の殺し合いだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ラブリー・ラビットクロー
●警告
直ちにこの場から避難を

やっと見つけた
あいつがセカイの侵略者
ダメだマザー
らぶ達があいつを止めるんだ


●サーバーに接続できません

カイブツが来る
視えないなんてズルいのん
聞き耳と野生の勘で音から敵の位置を予想しなきゃ
何とか避けたら擦れ違いにアウトローサインのスプレーでカイブツにアートしちゃえ
こんなの何回もは無理だけど色がついたら視えるのん


●システム再構築中

二対一なんてもっとズルい!
どーしよー
チェーンソーも壊れちゃった
このままじゃ


●ネットワークに接続されました
ここからはマザーシステムがサポートします
位置情報を確認
敵情報解析
パターン分析
完了
回避行動最適化
1:敵蔵書の焼却
2:空中戦からの本体撃破
防衛開始


トリテレイア・ゼロナイン
人心を乱す組織など騎士として許容できる筈も無し
その野望、阻ませていただきます
架空の怪物など、御伽噺を読み聞かせた幼子を怖がらせるくらいで良いのですよ

見えぬとしても存在までは消せぬもの
マルチセンサーでの●情報収集で移動時の振動や音、熱など位置を●見切りスナークの攻撃を●盾受け●武器受けで防御し●怪力シールドバッシュで仕切り直し

今度は此方から仕掛けさせて頂きます

スラスターでの●スライディング移動で接近しつつUCを発動
未来予測位置のスナークへ格納銃器●スナイパー射撃による牽制と同時にワイヤーアンカーを射出し●操縦
ヴォーパル・ソードを掻い潜り●ロープワークで拘束
そのまま引き寄せ剣を一閃



●Legendary Wings
「人心を乱す組織など騎士として許容できる筈も無し。その野望、阻ませて頂きます」
「防人殿は仕事熱心でいらっしゃる様だ。この老骨にはなかなか堪えるでしょうな」

 爆音の残響が消え入る中、剣を杖にその身を支えるジャバウォックを見据えるのは甲冑が如き白い装甲に身を包むトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)である。黒衣に身を包んだ竜人の紳士と、白い装甲を纏う機械騎士の巨躯が対峙するその様、傍からは対照的にも見える事だろう。

「やっと見つけた。あいつがセカイの侵略者」
『警告。直ちにこの場から避難を』

 巨大な騎士の背に追い縋るようにして駆け込むガスマスクの少女がひとり。ラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)である。手にするタブレット式端末からは、所有者へと向ける警告が頻りに鳴り響くも、当然ラブリーは一歩も引くつもりなどはない。

「ダメだマザー、らぶ達があいつを止めるんだ。逃げたって、何も変わらないのん」
「然り。逃げ場など何処にも御座いません。怪物は全てを喰らい尽くす事でしょう」

 杖代わりにされていた魔剣を引抜き、緩やかに構えるジャバウォック。その挙動に反応し、トリテレイアは殆ど反射的にラブリーの前へと歩み出た。まるでその巨体を少女を守る為の大盾とするが如く。

「非実在の怪物など、御伽噺を聞いた幼子を怖がらせるくらいで良いのですよ」
「ならば、その御伽噺……私が現実へと変えて差し上げましょう」

 頭部のスリットの奥で、トリテレイアのモノアイが緑色の炎を静かに灯らせる。機構仕掛けの身体の奥底で燃え上がる騎士道精神を示すが如く。そんな機械騎士のすぐ背後では、ラブリーがビッグマザーの端末を片手に、不退転の決意を新たに固めるところであった。

「そんな事、ぜったいにさせないのん……!らぶも一緒にカイブツと戦うんだ!」
『情報検索……不能。サーバーに接続できません』

 少女の闘志を試すが如く、開かれる侵略蔵書の表紙。頁がひとりでに踊り出すと同時、其処にびっしりと書き連ねられたインクが怪しく明滅し、そして少女と騎士を取り囲むが如くに新たな殺気が周囲を埋め尽くしていく。

「実在せぬ虚構なれど、今この場においてその爪牙は貴方達を斬り刻む現実となる」

 ――――それを、どう凌いで見せる?
 そう問いたげな視線がジャバウォックの片眼鏡のレンズを通して猟兵たちへと注がれる。ほぼ同時、周囲を埋め尽くすように発生した不可視の獣たちは一斉にふたりへと襲いかかった。

「視えないなんてズルいのん。マザー、さっさとどうにかするのん!」
『現在鋭意努力中。……システムを再構築しています』
「……私が盾になります。どうか余り離れぬように」

 狼狽するラブリーを宥めるように告げるトリテレイア。言い終えるのとどちらが先か、彼が掲げる巨大な重質量シールドは少女目掛けて踊りかかった獣の行く手に立ちはだかり、そのまま轟音と共に打ち据えて弾き飛ばす。確かな手応えに満足するよりも先に、機械騎士は己の電脳に組み込まれたセンサーの感度を最大にまで高めていく。

「視えぬとしても存在までは消せぬもの。物体として存在はしている筈」
「まかせて。それなら、らぶにも出来ることあるのん」

 緑の単眼を静かに燃やし、周囲の索敵に思考を集中させるトリテレイア。その背中に守られながらラブリーが取り出すものはスプレー缶だ。普段車体や壁面に色とりどりのペイントアートを施すためのそれを両手に構える少女をちらりと一瞥した機械騎士は一瞬だけそのモノアイを大きく丸く点灯させる。

「……カイブツも、これでばっちり見えるのん」
「試す価値はありそうですね。攻撃の大凡は私が引き受けますので」

 まるで嵐の如く四方から縦横無尽に襲い来るスナークたち。その前に立ち塞がるトリテレイアは最大稼働させたマルチセンサーにより、視えぬ怪物たちの猛攻をどうにか受け止め凌いでいた。ある者は盾にて受け止め打ち払い、またある者はその剣にて撃ち落として叩き伏せる。避け切れぬもの、往なせぬものはその巨体を鎧う装甲にて強引に受け止め、弾く。

「……だいじょうぶなのんっ?」
「ご心配には及びません。……騎士たるもの、頑丈さが身上です故に」

 降り止まない雨の如く響き続ける轟音が盾を、装甲を叩き続ける内に、その表面には幾つかの擦過痕や陥没痕も刻み込まれていくが、それが装甲の下のフレームやソフトウェアの稼働を妨げる事はない。戦うために生み出された兵器にとっては、この程度のダメージはさしたる問題とも言えぬものだった。トリテレイアが攻撃を凌ぐ合間、少女は両手のスプレー缶をそれぞれ忙しなく周囲に向けて吹きかける。青、黄色、赤、緑―――― 色とりどりの鮮やかなカラースプレーが煙幕の如く吹き出ては、トリテレイアの防御に往なされるスナークたちを次々とカラフルな獣へと着色していく。

「……色つけてもなんだかわからない生き物なのん。気持ちわるっ」
「これで視認しやすくなりました。目視も合わされば、最早死角はありません」

 着色された獣たちは、それぞれ一匹として同一の形状を持つものはいなかった。ある者は羽毛を、ある者は鉤爪を、ある者は嘴を、多種多様な混沌めいた生物たちはまさしく疑心と想像力の生み出した怪物と呼んで差し支えのない、いずれも醜悪なものたちだった。それがスプレーによって鮮やかなカラーリングを施された様は、どこかコミカルにも思えるものだったかも知れない。

「こうなれば不可視の怪物もかたなしですな。いえ、元より虚構の怪物……らしくなったと言うべきか」

 そう呟くジャバウォックであるが、その口調とは裏腹にその身が纏うのは強烈な殺気。それは不可視の怪物たちが放っていたものとは比べ物にもならぬ、正真正銘のプレッシャーである。ヴォーパルソードを片手に、まるで此方を誘うが如くに佇む老紳士を前に、ラブリーとトリテレイアの意思は一つに重なった。空になったスプレー缶を投げ捨て、少女が入れ替わりに手にするのはその細腕には似合わぬ無骨なチェーンソーだ。スターターを引いて駆動を開始するエンジンが不吉な唸りを奏で始める。

「もうズルは許さないのん」
「……今度は此方から仕掛けさせて頂きます」

 機体各所の装甲を展開させ、露出させたスラスターが白炎を噴き上げトリテレイアの巨体を推進させる。そんな彼にしがみつくようにして、ラブリーもまた敵目掛けて飛んでいた。ジャバウォックへと到達はさせまいと、着色された怪物たちは一斉に騎士と少女へと踊りかかるが、不可視というアドバンテージを失った彼らに両者が遅れを取ることはない。

『コード入力、ディアブロ。戦域全体の未来予測演算を開始――――』

 トリテレイアの声から、感情の色が薄れる。最大稼働中のセンサーを同期させながら、演算能力を極限まで高めて稼働させる電脳は擬似的な未来予測に至る高精度の計算を可能としていた。極限を越えて加速された計算能力により、周囲に立ち塞がる獣たちの動きなど、トリテレイアにとっては最早スローモーションで動くただの標的同然である。各所の装甲を開いて次々と突き出される格納銃器の銃口は何れも正確無比に、スナークたちの移動位置を読み取っていた。鳴り響く銃声とマズルフラッシュが戦場を引き裂き、吐き出された無数の弾丸に撃ち抜かれたカラフルな魔獣たちはそれぞれが血の帯を引いて倒れ込んでいく。予測射撃の対象から漏れて間近に迫るスナークは―――――。

「流石に色がついたら、らぶにも余裕で分かるのん」

 機械騎士にしがみついた少女がもう片腕で振るい抜くチェーンソーの震える刃によって擦れ違いざまに両断され、そのまま打ち捨てられていく。

「……残るは、サー・ジャバウォック。貴方一人です!」

 屍と成り果てると同時、消滅していく非実在の怪物たちの躯を振り返る事無く、スラスターの轍を虚空に刻んで、トリテレイアは老紳士へと突貫する。同時、その全身各所から射出するワイヤーアンカーがそれぞれ不規則な軌道を描いて、ジャバウォック目掛けて降り注ぐ。

「……そのようですな。然し、スナークはあくまで添え物に過ぎません」

 次々と襲いかかるアンカーを落ち着いた所作で剣で払い除けていくジャバウォックであるが、不意にその内の一本が彼の左腕を捉えた。幾重にも巻き付く強靭なワイヤーはさしもの竜人の腕力であってもそうそう容易く千切れるものではない。

「……ぬう!?」
「……その隙、頂きますよ!」

 ワイヤーを巻取り、強引にジャバウォックを牽引して引き寄せていくトリテレイア。虚空を崩れた姿勢のまま引き寄せられるジャバウォックを待ち受けるのは、ラブリーが構えたチェーンソーの唸る刃。肉薄の瞬間、轟音が響き――― 最強の猟書家サー・ジャバウォックは無残に一刀両断……

「……え? ええっ!?」

 ……されることはなかった。己を両断するべく振るわれたチェーンソーを逆に両断せしめる、魔剣ヴォーパルソード。恐るべきその切れ味。否、それを自在に振るうジャバウォックの超絶的剣技!

「そんなのズルいのん! どーしよー……チェーンソー、壊れちゃった……」
「……今のは少々肝が冷えましたな」

 そんな言葉と同時にワイヤーを引き千切ろうとするジャバウォック。千載一遇の好機はこのまま遠ざかってしまうのか。そんな焦りに囚われたラブリーを鼓舞するが如く、タブレットから不意に響く機械音声。

『ネットワークに接続されました』
「遅いのん! 待ちくたびれたのん!!」

 少女の抗議めいた叫び。それに気を取られたのか、一瞬老紳士の動きが止まった。機械音声は少女の声を気にした様子もなく、一方的かつマイペースに続く言葉を紡ぎ出していく。

『ここからはマザーシステムがサポートします。 
 位置情報を確認。敵情報解析……パターン分析完了。回避行動最適化――』
「……ちィッ!!」

 得体が知れぬ現象、それでもこのまま見過ごす訳には行かないと判断する老紳士は確かに歴戦の猛者であっただろう。然しながら、気まぐれな人類叡智の結晶がついに出してしまった本気の前には一寸ばかり遅すぎる判断であった。少女を斬り捨てるべく繰り出した斬撃は虚しく空を切る。鋭い風切の凄まじい勢い少女を捉えていたならば問答無用に一太刀で斬り捨てたであろうその太刀筋の威力を示しているが、それも標的を捉えねば無為である事に他ならない。

「……なんと」

 逃した標的を探し求めて視線を巡らせたジャバウォックは見た。見上げた頭上、六枚の巨大な翼を広げて空へと舞い上がった少女の姿を。まさしく想像力の上を行く存在を彼は見てしまった。

『1:敵蔵書の焼却。2:空中戦からの本体撃破。
 ――――防衛開始」

 頭上より降り注ぐ機械音声と共に、ラブリーが繰り出した新たなる得物―― 火炎放射器が竜の息吹の如く鮮やかなオレンジ色の炎を吹き出した。それを守らんと、ジャバウォックは咄嗟に大袈裟な程に飛び退き、体勢を崩してしまう。その一瞬の隙を、白騎士の冷徹な電脳は見逃さなかった。最大出力で強引に巻き取るワイヤーが、ジャバウォックの崩れた体勢を更に乱しながら、力任せにその身体を引き寄せていく。

「――……しまった」
「改めて、その隙を頂戴致します」

 剛力にて引き寄せた対象目掛け、正確無比なトリテレイアの未来予測に基き繰り出された横払いの鋭い剣閃が深々とジャバウォックの胸部を切り裂いた。そのすさまじい衝撃に堪らず吹き飛びながらも、苦し紛れにジャバウォックの振るうヴォーパルソードは漸くに彼と白騎士を繋ぐ強化ワイヤーの拘束を切り裂いた。

「……が、はッ……!? ぐぅぅッ……」

 距離を取り、咳込みながら崩れ落ちる彼であるが、気を抜くのはまだ早かったと言わざるを得ない。

「―――余所見しないで」

 上空から聞こえた声にジャバウォックが空を見上げるよりも早く、空高くより降下しながら繰り出したラブリーの履くスニーカーの靴底が、まるでスタンプでも押しつけるが如くジャバウォックの鳩尾を蹴りつけ、抉るような衝撃と共にその身体を大きく吹き飛ばした。

「……ごふ……ッ……!?」
「これ、らぶのチェーンソー壊した分なん。ちょっとだけすっきりしたかも」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

佐伯・晶
いよいよ猟書家との戦いだね
折角守ったヒーローアースの平和を
乱されない為にも皆と協力して戦うよ
強敵だから連携できそうなら連携するよ

見えない敵は確かに厄介だね
空に飛ばしたドローンと多機能イヤホンで音の発生点を調査
ゴーグルにデータリンクして視覚情報に変換

場所がわかれば準備しておいたペイント弾で攻撃
塗料は見えるままだからこれでもう怖くないね
そうしたらガトリングガンの射撃で薙ぎ払おう

その後はガトリングガンの範囲攻撃や
使い魔の麻痺攻撃で本体の動きを制限
仲間が攻撃するための隙を作ろう

向こうが全力を出してきたら邪神の領域を使用
神気で攻撃を防ぎつつ相手の動きを封じよう
大技を狙う人がいるなら準備が整うまで抑えるよ


黒鋼・ひらり
『侵略』する『秘密結社』…
いかにもウチ(ヒーローズアース)に攻めて来ますって言わんばかりのネーミング…更に不可視からの不意討ちなんて能力まで徹頭徹尾いけ好かない『悪』、って感じね
…だけどお生憎様、『悪(あんたら)』の思惑は何一つ叶えさせてやんない…その能力も…ウチへの侵略も諸共ぶっ潰したげる

能力発動、戦場一体に磁場を展開しつつ【ダウジング】…周囲の磁気を感知
虚構の怪物だ何だ御大層に言っても、攻撃してくる…って事は物理的に干渉してくる…動けば磁場は乱れて、そして私は『それ』を知覚できる…『怪物』が仕掛けた所に併せ出せる限りの武器を転送して迎撃、返す刀でUC発動…カウンターの一斉掃射で仕留めるわよ



●Metal Squad

「……これが、猟書家……!」
 
 土煙の向こうから歩みを進めるサー・ジャバウォック。既にその身は激戦の中で負った無数の傷も痛々しいが、それでも未だ物腰を崩す事無く平然と立ち続けている事は、彼が紛れもない強敵である事を示す何よりもの証左である。そんな最強の猟書家と相対するのは佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)。一目見ただけで理解できる程の強敵を前に、それでも彼女……もとい、彼は一歩も退きはしない。

「……逃げても宜しいのですよ、お嬢さん。背中から斬り付けは致しません故」
「冗談きついね。折角守ったヒーローアースの平和を乱されない為にも戦うさ!」

 それに僕は本当は男なんだ、と付け加えようかと晶が逡巡する間に、更に前へと踏み出し、彼の隣に並び立つ少女がひとり。

「侵略する秘密結社……いかにもウチに攻めて来ますって言わんばかりのネーミング……」

 呟きと共に、少女の突き出す人差し指は眼前の老紳士へと真っ直ぐに突き付けられた。

「あんた、紛れもなく『悪』ね。いけ好かないったらないわ」
「如何にもその通りで御座います」

 少女――黒鋼・ひらり(鐵の彗星・f18062)の強い敵意の籠もった言葉にも、ジャバウォックは柔和な物腰を保った儘、慇懃に首肯をして見せた。満身創痍であっても、紳士然とした態度には僅かな乱れもない。それでも、彼が邪悪な計画を目論む忌むべき侵略者である事実は変わらない。そうである限り、ひらりにとっては討ち果たす敵。それ以上でも、以下でもない。

「けれどお生憎様ね。『悪(あんた)』らの思惑なんて、何一つとして叶えさせてやんない」
「……ああ、そうだとも!その野望はいま此処で、僕たちが!!」

 黒革の手袋に包まれた鋼鉄の義手を軋む程に握り締めるひらりと、その傍らにて少女の細腕には見合わぬ無骨なガトリングガンを抱える晶。二人は揃って、邪悪な侵略者へと向けた戦闘態勢を取っていた。

『『……ぶっ潰す!!!!』』
「……では、それを踏み越えて征くと致しましょう」

 闘志を込めて吠える少女ふたりの声が重なり響く。
 同時に老紳士の指先が、携える侵略蔵書の頁を開いた。其処から独りでに踊る頁が紡ぐ、虚構の結社が行う身の毛もよだつ猟奇的犯罪の数々。それを現実と変えるべく、スナークと呼ばれる不可視の怪物たちがまた新たに生み出される。周囲に次々と現れる重圧感。虚構の怪物たちは目に見えぬが確かに其処に生きていた。獲物を喰らいつくその瞬間を待ち侘びるように、獰猛な息遣いが少女たちを取り囲む。

「さあ、スナークよ……! 我らが敵を斬り刻みなさいッ!!」

 彼らを使役する老紳士の声に弾かれたように、不可視の獣たちは揃って少女たちへと接近する。まるで恐怖を煽るかのごとく、獣たちは緩慢に距離を詰めているらしかった。されど、何時しか背中合わせになって獣待ち構える彼女たちに焦りの気配はない。

「……見えない敵は確かに厄介だね」
「でも、対処できない事もないわ。小癪な不意打ちになんて、意地でも引っ掛かってやらないわ」

 ひらりの言葉に頷きながらゴーグルを静かに目元へと下ろす晶。その服の裾からは次々とプロペラを展開させた小型のドローンが飛び立った。同時に、ひらりの鉄腕は愛用の鎖付き鉄球を無造作にだらりと垂らす。長く伸びた鎖にぶら下がった鉄球は、ゆらゆらと慣性に従い揺れていたが、不意にその動きが不規則的なものへと変じていく。

「……見えてんのよ。どれだけ御大層にお題目並べたってね」

 直後、独りでに鉄球が跳ね上がり、何もない筈の虚空へと突き刺さる。生々しい物音―― 不可視の怪物の胴へと鉄球が減り込んだ生々しい手応えを味わうよりも先に、ひらりの左手が空を切る。

「……あんたたちが見えなくたって、私には磁気の乱れが分かるんだから」

 そう、彼女が言い終えるよりも先に、ひらり自慢の『武器庫』より瞬時に転送されていた数多のハルバードが、虚空に見えぬ怪物たちを貫き磔にしていた。傍目には何もない虚空に無数の斧槍が浮かんでいるに過ぎないのだが。そして、続けざまに響く銃声。

「僕だって何処から攻めてくるかは分かってる。例えばこことかね」

 ばらばらと空薬莢を幾つも地べたに吐き出しながら、晶の抱えるガトリングガンが轟音と共に、弾丸の嵐を浴びせていく。先に飛ばしたドローンから転送される音の発生源のデータを読み取ったゴーグルによる視覚情報補正により、晶のガトリングガンから吐き出されるペイント弾は次々と不可視の怪物たちの身体に着弾し、目にも痛いほどのビビットなピンクに染め上げていく。

「……攻略法はとっくに確立されてるんだ。こうして色を付ければ、もう怖くないね」

 その言葉とほぼ同時に、晶のガトリングガンの弾倉には新たな弾丸が生成されている。恐るべき邪神の力は、弾込めに伴う攻撃の隙を限りなくゼロへと近付ける。今新たに生み出されたものは、ペイント弾ではなく紛れもない実弾だ。束ねられた銃身がモーターの高速回転に唸りながら、再びけたたましい騒音と共に無数の礫を吐き出していく。鮮やかなピンクに染められた怪物たちは、その尽くが鉛玉の洗礼と、虚空より次々と生えては突き立つ斧槍の槍衾によって狩り立てられていった。

「芸がないとお思いでしょうが……この老骨めには、これだけの精兵を相手取るのは骨が折れるものでしてな」

 転げ落ちる獣たちの躯には振り返る事もなく、斬竜剣を片手にゆっくりと歩みを寄せる老紳士。その足取りは緩やかなれど、その足運びは視覚的には緩慢なれど、実際に踏み込む歩幅とのズレによって対峙する者の感覚を狂わせる、一種の武の極みとも呼べる歩法であった。更には長く伸びた尾の先を併用し、第三の脚とする事で、機動力をも兼ね備えたものとなる。

「……ち、ィッ!!!!」

 常軌を逸した速度の踏み込みから振り下ろされるヴォーパルソードの虚空斬り裂く碧い軌跡。それを轟音と共にひらりの突き出す右腕が食い止める。硬質な金属質の高音が響き渡り、裂けた黒革の手袋の下からは鋼色の拳が覗く。ぎちぎちと刃を握り止める拳が悲鳴めいた唸りを微かに漏らす。

「ですが、私も伊達や酔狂で最強を名乗るほど傲慢ではない――」
「……やらせないよ!」

 剣を押し込む腕に更に圧を込め、そのまま強引に少女を圧し切ろうとする竜人の怪力。それを中断するように響くガトリングガンの銃声に、反射的に地を叩く太い尾がバネとなって老紳士の身体を高く空へと跳ね上げ、その身を貫こうとする弾丸を紙一重にやり過ごす。

「……っ!! 逃がす、ものか!!」

 空へと飛び上がり距離を取らんとするジャバウォック。ガトリングガンを上空目掛けて乱射しながら、晶は吠える。同時に、その身体を中心として発露される、邪神の権能。ぞわり――― 晶を中心とした円状に大きく広がり出す静かな重圧。邪神に由来するものなれど、それは不思議と禍々しさはなく。代わりに、心身を凍てつかせんばかりの静謐さに満ちていた。その領域にあるもの全ての生存を許さない―― まるでそう主張するかのような、有無を言わさぬ高次よりの理不尽な強制力である。

「……ぐ、ぬッ――……!?」

 その強烈な権能は、最強の猟書家たるジャバウォックですらその不条理の中へと絡め取る。一瞬にしてその身を取り巻く寒さを覚える程の静寂によって、空へと羽撃かんとする彼の翼が凍りついたかの如く動きを止めた。そして、不意にその尾へと絡みつく冷たく重たい感触―― それはひらりの投げ放つ愛用の鎖鉄球がジャバウォックを絡め取った瞬間である。

「……言ったでしょ、ぶっ潰すって。その野望ごと、アンタを……!!」

 壊れかけの義手をぎちぎちと軋ませながら、力任せにジャバウォックを地へとひらりは引き摺り下ろす。空から滑り落ちていく竜人を待ち受けるものは、ひらりを中心として静かに浮き上がり、その無数の切っ先を揃えて彼へと向けた総金属のハルバードたち。

「……おまけよ!! ブッ飛びなさい!」

 その声と同時に更に浮き上がったのは、先に晶が無数に周囲へとばらまいたガトリングガンの弾丸だった。直後、無数の星が空へと迸る。電磁加速によって射出された大小様々の金属たちはその何れもが鋭い魔弾へと変貌し、地へと引きずり降ろされ身動きも叶わぬジャバウォックを次々と貫いていった。老紳士の苦悶の呻きが響くのも僅かな一瞬―― 直後、大地へと墜落する轟音によって、それも飲み込まれていった。

「……そうだよ、怖くなんかない。……相手が最強の猟書家だろうと、僕たちは戦える!」

 噴煙立ち込める砕けた大地―― 其処から立ち上がるであろう恐るべき竜人を前に、それでも晶は新たな闘志を激しく燃やす。立ち上がるなら、何度でも打倒してやる。これまでもずっとそうしてきた。ヒーローズアースも、そのようにして自分たちは守り抜いてきたのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィオレッタ・アネリ
聞いたことが…ううん、読んだことがあるよ
『スナーク狩りには何よりも勇気が必要』って
それってきっと、得体の知れないものに惑わされない心のことなのかもね

見えない怪物なら『分かる』ようにすればいいよね
分かれば何も怖くないもの!

花の神性であたり一面に舞い散る花びらを創り出し、スナークが生み出す花びらの揺らぎを【第六感】で察知して【見切り】で対処
見切ったスナークは樹精の魔力の籠もった蔦でがんじがらめに【捕縛】

今度はこちらが惑わせる番――
花精の生み出す幻影の分身と舞い散る花びらに紛れて【存在感】を消して近づき、【祈り】を込めた《花神の抱擁》
ジャバウォックと侵略蔵書「秘密結社スナーク」の【浄化】を狙うよ!


ヴァシリッサ・フロレスク
なんでも歓迎

最強?
ハッ!手前ェで吹いてるだけのタダの噛ませじゃないンかい?
まァ、どうでもいいサ、どっちにしたって、手加減出来る程器用じゃないンでね。
全力で狩るだけだ。

挑発しつつ、姿の見えない敵UCのスナークに完全に気を取られ、あたかも翻弄されているが如く立ち回る。

アハハ!生憎“指貫”だ“フォーク”だは持ち合わせが無いケド、“スマイル”と“希望”は大安売りサ♪

勿論、攻撃を躱し切れやしない。多少のダメージは激痛耐性で凌ぎ、その血をディヤーヴォルへ啜らせる。

その間に本体の動きを情報収集し、一瞬の隙を見切りUC発動。
スナイパーの如く早業のカウンターで騙し討ちを狙う。

“燻り狂う顎”で喰い千切ってやるよ?



●Bandersnatch

「……あんた、最強の猟書家って触れ込みらしいけど本当かい?」
「そのように自負は致しておりますが」

 ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は、土煙の晴れた其処から立ち上がる満身創痍のジャバウォックへと何処か挑戦的にも思える視線を向けた。視線と同時に投げかけられた問いかけに対し、老紳士は慇懃に答えを返して見せる。

「ハッ! 手前ェで吹いてるだけのタダの噛ませじゃないンかい?」
「ならばその身で確かめて頂ければと存じますが」

 更に続く挑発に、老紳士がその表情を崩す事はなかった――が、ヴァシリッサはその肌身で感じ取る事になる。彼の纏う気配が、明らかに剣呑なものへと変化した事を。

「まァ、どうでもいいサ。どっちにしたって、手加減出来る程器用じゃないンでね」
「……この期に及んでは、此方もそれは同じ事」

 ならば―― 対峙する両者はそれぞれが、互いの一挙一投足を注視し合う、緊迫した視線をぶつけ合った。

「――――全力で狩るだけだ」
「鏖(みなごろし)に御座います」

 身の丈にも匹敵する長銃身を振り抜いて、ヴァシリッサは背に担いでいた愛用の重機関銃「ディヤーヴォル」を如何にも手慣れた一呼吸にて構える。大音響と共に吐き出されていく12.7×108mm徹甲弾の豪雨。耳を劈くような轟音を響かせ、着弾する大地を、森の木々を次々と粉砕していく弾丸の嵐の中を、老紳士はその隙間を縫うように、軽やかな歩法で擦り抜けていきながら、手にした侵略蔵書の中から次々と目に見えぬ怪物たちを呼び起こす。

「……ちィッ……!!」

 姿なき獣がすぐ傍を走り抜けながら、ヴァシリッサの肩をその爪で撫でるように浅く裂く。白い肌に走る裂け目からは焼け付くような痛みと共に熱い血潮が噴き出した。ぱたぱたと零れ落ちる鮮血が足元に飛び散っていくのを目で追うよりも先に、続く獣たちが振るう爪牙がヴァシリッサを次々と責め立てていく。ほとんど勘に頼るような動きで強引に身体を逸らせば、直前まで彼女の居た地面は弾けるようにして無残に引き裂かれ、飛び散る土砂はまるで噴き出す血飛沫のように虚空を舞う。先までの威勢を嘲笑うかの如く、甚振るような執拗さで四方八方より飛びかかる獣たちにヴァシリッサは見事に翻弄されている―――― かのように見えた。しかし老紳士の片眼鏡は見逃さぬ。一見焦っているようにも思える彼女が、一瞬微かに浮かべた笑みを。

「何を狙っているかは存じませんが、そうそう好きにさせるつもりも御座いません」

 嵐の如きスナークの群れの猛攻に乗じる形で、ジャバウォックは突風の如き勢いで躍り出る。竜人族由来の強靭な脚力に大地は爆ぜ飛び、彼我の間に広がる間合いは瞬時に埋まる。彼の携える蒼白い魔剣が一際強い輝きを帯びた――そう思った刹那に、ヴァシリッサは斬竜剣の切れ味をその身で思い知る事となる。

「ですので、策を披露されるよりも先に始末をつけると致しましょう」
「……ぐぅ、ぁぁぁッ!?」

 大きく袈裟に斬り付けられたヴァシリッサの肩口からは、更に勢い良く噴き出す熱い鮮血。互いの間合いが零へと重なった、そう思った時には既に老紳士は彼女とすれ違った後。全く反応できぬ程の驚異的な速度は最強を標榜するだけの事はあるとも言えようか。その激痛を最初の苦悶の呻きのみで噛み殺しながら、それでもヴァシリッサは倒れはしなかった。自身の流した血の滑りで機関銃を取り落しそうになるのを堪えながら、それでも笑う。少々痛い目は見たが、とっておきの『弾丸』はこれで十二分に準備が出来た。降り注ぐ自分の流した血の雨の中で、ヴァシリッサは鋭い犬歯を剥き出しにして一層に獰猛な笑みを浮かべる。

「――……まだ、笑えるのですか」
「アハハ! 生憎“指貫”だの“フォーク”だのの持ち合わせが無いケドね。
 それでも“スマイル”と“希望”は大安売りサ……♪」

 その最後のセール品をも売切とさせるべく、老紳士は愛剣ヴォーパルソードを今一度構え直す。そして、トドメの一撃をくれてやろうとその剣を振り上げた――刹那。

「フォークも指貫も此処には無いけれど、何よりも大事なものはちゃんとある!」

 ヴォーパルソードを振り下ろさんとするジャバウォックの眼前を横切るように流れる、色とりどりの花弁を乗せた風。鮮やかに舞う花弁の流れに老紳士が一瞬気を取られたその隙に、彼とヴァシリッサの間に立ちはだかったのはフィオレッタ・アネリ(または夏のフローラ・f18638)である。

「スナーク狩りには何よりも『勇気』が必要って聞いたことが……ううん、読んだことがあるよ」
「成程。貴女はそれを持って、此処にいらっしゃると言う訳ですか」

 新たに現れた花の女神の帯びる神性に微かに警戒する様子で振り上げていた剣を静かに構え直すジャバウォック。その言葉に、フィオレッタは微かに首を左右に振る仕草を返して見せる。

「ううん、持っているのは私だけじゃない。此処に居る皆が持っているんだ。
 勇気って言うのはきっと、得体の知れないものに惑わされない心の事なのかもね」
「ならば、それを証明して頂くとしましょうか」

 そう告げるが先か、飛び退り距離を取りながら左手に抱えた『秘密結社スナーク』がその頁を再び開き、不可視の怪物たちを生み出していく。それは先にヴァシリッサを襲った群れをも加えた膨大な数であったに違いない。じわじわと此方を押し潰そうとするが如くにその圧を増していく濃密な殺気に、然しフィオレッタは臆する事などない。

「見えない怪物なら『分かる』ようにすればいいよね。分かれば何も怖くないもの!」

 そんな言葉と共に、フィオレッタの纏う神性が強さを増し、淡い輝きと共にその周囲を鮮やかな花弁がまるで吹雪の如く乱れ舞う。怪物そのものは目に見えぬのだろう。それでも、フィオレッタの神性を帯びた花弁は、それが舞う動きの中に捉えた異物の位置を揺らぐことで創造主へと教え伝えてくれる。

「マーキングをしなくても、この中に入ったモノの動きは手に取るように分かるんだ」
「なるほど、アタシにも分かる。差し詰め花弁のレーダーってトコかね。……おっと、そこだよ!」

 花弁の舞う中に浮かび上がる不自然な空白。それこそが、女神の領域内に踏み込む悪しきものたちの位置を何よりもハッキリと示しているのだ。

「……ハイ、動かないでねっ!!」

 しゅるりと大地を貫き、幾つもの蔦が虚空目掛けて勢い良く伸びた。それらは何れもが虚空に浮かぶ透明な何かへと絡みついて、その身動きを強引に封じ込めていく。時折暴れ抵抗しているのか不規則に揺れるそれをちらりと一瞥しながらも、既に無力化したと判断すれば女神は再びその視線をジャバウォックへと戻すのだ。

「これまで散々に見せてもらった手口だし。見えない怪物、ちっとも怖くないよ」
「……ううむ、どうにも耳が痛いですな」

 老紳士はパタン、と本を閉ざして頬の辺りを小さく掻いた。浮かべた苦笑は一瞬のもの。それが消える頃には、既に構え直された魔剣と濃密な殺気によって戦闘態勢は再び整っていた。

「今度は直接勝負って感じ? でもね、今度はこっちの番なんだ」
「……なんとっ……!」

 フィオレッタの身体が神性の光を帯びながら、無数に分かれてジャバウォックを取り囲む。鮮やかに周囲を舞う花弁が帯びた女神の加護は、最強を自負する竜人の優れた五感をも鈍らせる。傍を横切る女神を斬り裂こうとする一閃は、然し何の手応えも覚える事無く虚空を踊る幻影を引き裂くように空を切るばかり。

「……ええい、面妖な! 然し、私とてむざむざと此処で討たれる心算など――」
「いいや」

 焦りらしきものをその表情を浮かべた老紳士の言葉を途中で遮る否定の言葉。そして続く銃声。目を焼かんばかりの眩く鮮やかな、禍々しい血と火の色彩。血濡れた機関銃を抱えて、ヴァシリッサが笑う。その機関銃が上げているのは硝煙だけではない。強烈な呪詛を帯びた弾丸を放ったその残滓、ドス黒い魔力の燻る黒煙がその銃口より静かに棚引いている。

「散々痛めつけてもらった礼サ。ダメ押しに貰った最後のアレは超痛かったよ」
「これが、貴女の策でした……か……」

 確かに敵の動きは見えなかった。だから、わざわざ切り刻まれながら自分の血を弾丸にしたとっておきをくれてやる準備をしながら、観察を続けていたのだ。如何に速かろうと、何度も何度も何度も刻まれながら、その動きは目に焼き付けた。今はもう、その姿しか目に入らない程に。

「……とっておきさ、ミスター。“燻り狂う顎”で喰い千切ってやるよ?」

 そう、ヴァシリッサが獰猛な笑みと共に宣告すると同時。
 サー・ジャバウォックの胴体に突き刺さった彼女のとっておきがブチ抜き拵えた風穴が鮮やかなオレンジ色の閃光と爆炎を噴き上げ、花火の如く炸裂した。その傷口で、火炎を纏う獰猛な獣が暴れ狂いながら、周囲のモノを引き裂いていくような想像を絶する激痛。

「……ぐうううううううッ……!!!!」
「この世界はあなたの居場所じゃないよ……! 清めて、眠らせてあげる!」

 その苦悶にのたうつ老紳士を更に追い撃つが如く、フィオレッタの両腕が生み出す金色の輝きの奔流。無数の輝く花弁で形成された渦に絡め取られて吹き飛ばされたその肉体に宿る邪悪な魂を浄化せんと包み込んでいく。本来であれば、そこに苦痛など生まれはしないだろう。それでも、最強の猟書家の帯びる淀みは、余りに強すぎた。それを引き剥がそうとするものに抗えば抗うほどに、彼の心身は苦痛に責め苛まれていくのである。

「ジャバウォック、そして秘密結社スナーク……なんて頑固な汚れなのかしら」
「最強しぶといシミだって認めてやるサ。けどネ、年貢の納め時じゃないのかい?」 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
イケメンのヒゲ!拙者とキャラ被りは許さんでござるよ!!

【竜神形態】変身に対しこちらは全身を【流体金属】で覆い対抗でござる
ヴォーパルソードを直撃させないように【火炎放射】の炎で目眩ましと牽制、攻撃箇所の流体金属を厚くしたりしつつ耐え凌ぎますぞ

狙うは【黒翼】!触れる程近くに来るなら掴んでしまえばいい
向かってきた所を流体金属君をスパイク状にして翼を掴む!五感を奪われようが思考を奪われた訳じゃない、高速で飛ばれようが掴んだなら手を緩めず掴み続ければ良いんだ!掴むなら美少女が良かったがね
後は掴んだ翼から流体金属君が【生命力吸収】、奪った生命力をフルに使った握撃でその翼をねじ切って玩具にしてやるぜ!



●私以外私じゃないの

「おい、イケメンのヒゲ! 拙者とキャラ被りは許さんでござるよ!!」
「はて。……私と貴方……それ程、似通っておりますでしょうか……?」

 強いて言うならば顎髭が生えている事ぐらいではないだろうか。エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)の唐突に付けてきた因縁に、老紳士は困惑気味の表情を浮かべる。ところでこれ、さりげなく自分の事もイケメン扱いしているのではないだろうか。

「方向性が似通っているという事であれば―― こういう趣向は如何でしょう?」

 少々悩む素振りを見せるジャバウォックであるが、その柔和そうな顔立ちに一瞬邪悪な色を過ぎらせる。反射的に警戒し身構えるエドゥアルトの前で、スーツに包まれた老紳士の肉体はその身に宿した邪悪さをまるで黒い炎の如く纏い、燃え盛る悪意の中で竜としての相をより強調するように発達させていく。スーツに包まれた腕が膨れ上がり、布地を引き千切りながら太く逞しい筋骨と鋭く禍々しい剣のような爪を顕とする。同時に、その尾は―― 背から生えた翼は、頭部に備えた角は、より竜らしく、凶悪に肥大化し、捻じくれていく。その手に握りしめた斬竜剣は、その眩く輝く刃から強烈な重圧を放ち、眼前のエドゥアルトを威圧する。

「ほぉん。やるじゃねェか。イケメンふたりの方向性が分かれた所で始めようぜ」
「しからば、参りましょう」

 不敵に嘯くエドゥアルト。それを真っ向から打ち砕かんと、豪腕にて魔剣を振りかぶりながらジャバウォックは大地を蹴りつけ、弾丸の如く地を駆ける。滑るような低空の飛行にて大地のスレスレを突っ走る竜人の必殺の魔剣が唸りを上げる。

「……っ、はァ!!」
「……なんのォ!!」

 轟音。激突の余波が巻き起こすその衝撃に木々はざわめき大地は割れる。振り下ろされたヴォーパルソード。それを脳天に到達する直前で腕を掴んで食い止めるのは、エドゥアルトの腕。鈍い銀色に輝くそれは、ジャバウォックの飛翔の直前にエドゥアルトが発生させ、その全身に纏った流体金属生命体。土管を出入りして、キノコを食べる赤いツナギの配管工の無敵モード宜しく、その全身を銀色に輝かせたヒゲの男は今一度不敵に笑ってみせた。

「そっちもイカしてるがよォ、俺のこの装いもイケてるだろう……?」
「ふむ。見るからに頑丈そうでいらっしゃいますが、何処まで耐えられますかな」

 何、そう時間は取らねえよ。そう嘯くエドゥアルトの脳天を再び打ち据えんと、ヴォーパルソードが振り上げられる―― 然し、その一瞬を先んじて、エドゥアルトがジャバウォックの眼前に突き出す腕!其処に握られた火炎放射器のノズル―― まるで目と目が合うように、竜人はそれを反射的に凝視してしまった。

「やらせねえっての」

 直後、眼前に巻き起こる炎。眩く鮮やかな爆炎がジャバウォックの視界を塞ぐ。仮にも竜の因子を備える彼に、炎そのものへの恐怖やダメージはない。然し、鮮やかな色彩が生み出した一瞬の驚愕。その虚を突くように、エドゥアルトの撃ち込むメタルコーティングされ、文字通りに鉄拳と化したそれが竜人の鳩尾を強かに撃ち抜き、抉る。

「……ご、ォッ……」

 その衝撃に咳き込みながら身体をくの字に折り曲げ悶絶するジャバウォック。堪らずに身体を折り曲げた彼は、意識せずとも弱点をエドゥアルトへと自ら晒す事となる。それは即ち――

「良いもん生やしてるよなァ、貴様。……コイツは戴くぜ」

 ざわりとエドゥアルトの腕を包んだ流体金属の表面が蠢き、形状を変えていく。瞬時にモーニングスターの如く無数の棘を生やしたそれは、次々と伸ばした棘にてジャバウォックの巨大化したその翼を貫き、そのまま複雑に絡みついていく。翼を苛む激痛に漏れる苦悶、苦し紛れに振るう鞭のような尾の乱打が生み出す衝撃に打ち据えられ、流体の装甲の内側のエドゥアルトも殺し切れず浸透する衝撃に堪らず倒れ込みそうになる―― それを、がちりと奥歯が砕けそうな程の力で噛み締め、強引に踏ん張り堪えてみせた。

「一度掴んだら、離しゃしねえよ。……俺に言われても嬉しくねえだろうがよォ」
「このッ…… 離れなさいッ!!」

 絡みつく異物を振り解かんと、その全身を大きく躍動させながら暴れ狂うジャバウォック。強靭な翼は貫かれ、巨大な金属塊にしがみつかれても尚、その両方を空高く舞い上がらせる驚異的な羽撃きの力を留めている。急速上昇による強烈なGに視界が明滅するのを感じながらも、エドゥアルトは獰猛な笑みを浮かべた侭。互いが互いの命を握り締め合う必殺の間合いを維持する恐怖と入り混じった高揚がどこまでも神経を昂ぶらせてくれるのだ。

「こっちも掴むなら美少女が良かったがね。何が悲しくておっさん二人抱き合ってんだよォ。けどな、てめェが五感奪ってくれたお陰で抱き心地はなんとか我慢できるぜェ!!」
「戯言を……!!!!」

 弾丸の如く、絡み合った二人の男が空を滑り落ちていく。その合間にも、翼を貫く銀の棘は更に複雑怪奇に翼に絡みつき、より深くに食い込んでいた。もしその情景を第三者が観測していたならば、それはまるで、大樹を絞め殺すヤドリギの蔦のようにも思えたかも知れない。

「戯言かどうか、試してやる。さあ、餌の時間だぜ。遠慮なくいっぱいお食べ!」
「……お、おぉぉぉぉぉぉッ!? こ、これはァ!! ……やめなさい!」

 エドゥアルトのその言葉を合図に、ジャバウォックの翼を侵食していた流体金属の棘は一斉にその侵食速度を加速させた。瞬く間に翼全体に血管や葉脈の如く走る銀の筋。それらがぞわぞわと不気味に蠢き、竜の因子を食い散らかしていた。そして、銀の糸がジャバウォックを貫く程に、其処から吸い上げられた力がエドゥアルトの肉体を賦活させていく。

「だいぶ腹一杯になってきたようだぜェ!! それじゃ改めて戴くとすっかァ!!」

 絡み合う男たちは流れ星の如く空から滑り落ちていく。大地がどんどんと近付いてくる中で、エドゥアルトは雄叫びと共に、その翼を力任せに両手で掴み、そのまま強引にねじ込み、引き千切る。

「おらよォ!! 確かに頂いたぜ、貴様ご自慢の翼をなァ!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 みぢみぢと生々しい手応えと共に異形の翼を引き千切った勢いのまま、彼はジャバウォックの胴体を蹴りつければ、彼とは反対の方角に落ちていった。流体金属の防御壁を纏うエドゥアルトであれば、多少墜落に失敗しても命に問題はあるまい。ゆうとろどきの森を震わせるふたつの流れ星が生み出した轟音。やがて噴煙を立ち上らせる大地の陥没痕のひとつから這い上がった髭の男は、手に握り締めたままの竜の翼を一瞥した後、さして興味もなさそうに放り捨てるのだった。

「なんかオモチャになるかと思えば、別にそうでもねえな。……いらねぇっと……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
●アドリブ連携歓迎
猟書家、か。書を狩る者ならば一つ尋ねたくてね。
キミは物語が好きかい?実在・架空問わず耽溺したことは?
なに、単なる興味さ。

虚構の怪物、されど其れは無に在らず。幾ら見えなくとも、大気の揺らぎや熱、質量はある。『水月の識眼』で兆候を読み取り、初撃は機人に凌がせよう。損傷はある程度織り込み済みだ。戦闘不能にさえならなければ良い。

ボク自身、色々な世界に関わってきた。良くもあり、悪しくもあったが、そのどれもが素晴らしかった。故にこそ、その終わりなき物語を見届けたいと願う……残念だが、キミの出番は望んじゃいないよ(UC起動)

旧きを灰燼に帰す焔と獣の名を冠する秘密結社。一つ勝負と行こうか。



●Die unendliche Geschichte

「猟書家、か。書を狩る者ならば一つ尋ねたくてね」
「はて、何でしょうかな」

 猟書家サー・ジャバウォック。片翼を失い、満身創痍なれど未だその意気は軒昂。数多の猟書家の中でも最強格を自負する男は、恐らく絶命するその瞬間まで戦闘意欲を失う事はないだろう。そんな彼を前に、相対する猟兵ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は小さな問いを紡ぐ。

「キミは物語が好きかい? 実在・架空問わず耽溺したことは?」

 なに、単なる興味さ。そう小さく付け加えながら、問いかけたユエインは対峙する男の姿を改めて油断なく注視する。数多の傷を負う彼であるが、それでもその総身に漲る殺気には微塵の衰えもない。今この問答を終えた後、ほんの微かな隙でも見せようものなら、彼は迷わずユエインの身体をその豪剣にて両断せんとするだろう。――そう思えてしまう程に、ジャバウォックは死地の最中であっても己をの武技を研ぎ澄まし続けていた。

「私は物語が好きです。刺激的な物語が好きです」

 片手には竜をも斬り殺す魔剣『ヴォーパルソード』。そしてもう片手には侵略蔵書『秘密結社スナーク』。大空を自在に飛翔する強力な竜の翼を喪失しても尚、その戦闘力は留めた侭。どんなタイミングからも即時斬りかかれるであろう剣呑な気配を纏いながら、それでも老紳士は少女の問いに答える。

「富める者が退廃に腐り朽ちていく様を愛しております。
 正しき者が背徳に溺れて堕ちていく様は胸が高鳴ります。
 何の根拠もない嘘の生む熱気が人々を狂奔に飲み込む様など、特に堪らない」

 まるで子供に優しく語りかける教師のような、穏やかな口振りと表情。それにそぐわぬ嗜好を平然とのたまい続けながら、ジャバウォックはゆっくりと歩き出す。その語り口にも自然と熱が宿っていく。闘争の熱気が多弁さを呼び込んだのかも知れない。

「悪徳が 恐怖が 憎悪が 諦観が
 透き通った善をドス黒く染め上げ、堕落させ 蹂躙し 喰らい尽くす。
 ―――― そんな虚構を、私は現実のものとしてみたい」

 其処まで口にした所で、ジャバウォックは立ち止まった。ユエインとの間に広がるのは20mにも満たない距離。然し、互いがどちらか一方でもそれ以上踏み込めば、それは互いの命を喰らい合う致命の圏内へと踏み込む事となるだろう。

「ありがとう、よく理解できた。キミという物語はやはり此処で終わらせるべきだ」
「ふふ。……始めると致しましょう。どちらの物語が終わりを迎えるのか」

 互いに一歩、同時に前へと踏み出した。そして終わりが、始まる。

「――……さあ、行きなさい」

 開かれた『秘密結社スナーク』の頁が風もないのにひとりでに踊る。不吉にして猟奇的な架空の犯罪結社の身の毛もよだつ行為の数々が記された虚構の犯罪白書から、やはり虚構の姿なき尖兵、スナークたちが次々と生み出されていく。これまでの死闘の中、その仕組は既に解析され切ったジャバウォックの兵士たちは、それでもこの段階において未だ脅威であり続けた。目に見えぬ事、それは知覚、認識できぬ事。それゆえに、不知故の不安と疑心を呼び込み、彼らは増大していく。風が偶然起こした小さな悪戯を怪物の仕業だと子供が怯えるかのように。

(……然し、虚構の怪物と言えどもそれは無に非ず)

 周囲を取り囲む不可視の気配を曖昧に感じながら、ユエインは視線を巡らせる。目を凝らせば、耳を澄ませば、それらは確かにそこに居る筈だ。その身動ぎに大気は揺らぐ。質量が存在するなら、熱もあるし、音もある。その違和感を探りながら、ユエインは白い十指を虚空に踊らせる。其処から細く伸びるは銃の絹糸。透き通るようなその糸が虚空より引きずり出すのは漆黒の装甲に身を包む、一体の機構人形『黒鉄機人』。繰り手の指の動きと同時に流れ込む魔力によって、関節を軋ませながらゆっくりと起き上がる人形が、その黒鉄兜のスリットより赤い眼光を灯らせると同時、その両腕は胴体の前で交差するように重なり、丁度その中心を目に見えぬハンマーが殴りつけるかのような衝撃が巻き起こる。

「……くっ……!!」
「ほう、よくぞ凌ぎましたな」

 耳を劈く金属質の轟音が森を揺るがす。黒鉄の装甲が赤い火花を散らしながらも、不可視の怪物による強襲をその豪腕にて受け止め往なす。そのまま見えぬ怪物の腕か首か尾か、定かでないそれを鷲掴みにした機人は力任せに振り上げた怪物を大地に幾度も叩きつけ、手荒く沈黙させるのだ。

「……此方も独りじゃないからね」

 そう返事を紡ぐ合間にも、次の獣たちが次々に襲いかかるのを、ユエインの瞳は感知していた。その十指が軽やかに踊るたび、機人の鉄腕が弧を描いてその拳を鎚へと変えて、獣たちの動きを遮るように次々と重たい一撃を打ち込んで行く。それでも多勢に無勢、捌き切れない怪物の一撃を貰う度に、黒鉄の装甲不吉な金属音を奏で、火花を散らし、不格好に歪み、凹んでいく―― それでも傷付くのは装甲だけだ。損傷がこの程度で済むのならば、寧ろ御の字―― そんな想いと共に、ユエインは黒鉄機人を迷いなく前進させる。その強靭な装甲を盾代わりにしながら、機人の肩越しに待ち受ける老紳士を真っ直ぐに見据える。

「ボク自身、色々な世界に関わってきた。良くもあり、悪しくもあったが、そのどれもが素晴らしかった」
「……然様で御座いますか」

 機人の装甲を叩き続ける轟音はいよいよ勢いを増し、苛烈なものへと変わっていた。片膝の関節が拉げ、繰糸でも満足に動かし切れぬ。左の腕の肘から先が引き千切られる。――――まだ行ける。戦闘不能にさえならなければ、それで良い。

「……故にこそ、その終わりなき物語を見届けたいと願う。残念だが、キミの出番は望んじゃいないよ」

 ユエインのその言葉と同時に、彼女は決意を新たに固める。一度閉ざした瞳を再び開けばそれは鮮やかな炎の色を宿していた。金に染まった髪が熱風を伴い静かにはためく。

「さあ、旧きを灰燼に帰す焔と獣の名を冠する秘密結社。一つ勝負と行こうか」
「宜しい、承りました」

 その身に纏った黒い装甲は、赤熱化するが如くに変色し、周囲を赤い熱を帯びた輝きで染め上げた。終わらぬ夕暮れの森を、より鮮烈な赤で上塗りするかの如く。

「――――最後に私の好みを更に詳しく申し上げましょう」

 猛攻を続けるスナークが、半壊した機人を苛烈な連打で更に破壊せんとする中、ユエインの十指から伸びる絹糸が切り離され、それまで流し込まれた魔力の残滓によって、機人は獰猛な雄叫びを上げながらその右腕を突き出した。黒鉄の装甲が膨れ上がる熱気によって赤く染まり、巻き起こる熱風が渦を巻き、見えぬ筈の怪物たちを巻き取り焼き焦がし、絶命させていく。襲いかかる熱風の中、ジャバウォックはその余波に中てられ、端から燃え始めていく『秘密結社スナーク』を放り捨てれば、激戦の最中に損傷していた片眼鏡を摘み上げる。

「……美しき物語を、歪め、壊し、台無しにする事なのですよ」

 レンズのひび割れたモノクルを打ち捨て踏み砕きながら、両手で握り締めたヴォーパルソードを大きく振りかぶり、ジャバウォックが斬りかかる。驕りを捨て、文字通りの全身全霊で繰り出す最強最速の太刀筋がユエインを真っ向より両断せんと唸りを上げる。

「……ならばボクはキミの物語を台無しにしよう。それがせめてもの餞だ」

 それを追い越し、薙ぎ払うは虚空より生まれた黒い長鞘より奔る一閃。十字を描くように交錯した二条の斬撃のその行方。標的を捉えたのは横に走ったユエインの薙ぐ一撃。それは縦に振るうジャバウォックの斬り下ろしをその刀身ごと打ち砕き、その勢いの儘に彼の胴を寸断していた。一寸遅れ、真横一文字の軌跡をなぞるように炎が虚空を鮮やかに一筋奔る。切り裂かれた身体はその炎に包まれながら地へと堕ち、それを追うように砕かれた魔剣の蒼白い破片が煌めきながら周囲へと散らばっていった。

「……今のは人生最高の一太刀と確信していたのですが、上手く行かないものだ」

 炎に包まれながら、ジャバウォックは静かに崩れ去っていく。その口調も、表情も、刃を交える寸前の穏やかな紳士然としたものだったが、その身は最早朽ちていくばかり。――――彼という物語は今、終わりを迎えようとしていた。

「挙げ句、その上を行かれてしまうとは。成程、これは悪夢のようで御座いますね」

 最後に得難い経験をさせて頂きました、と。そんな慇懃な言葉を残し、竜人の老紳士は完全に灰となって散り失せていく。後に残るものは、最早原型を留めぬ程に焼け付いた侵略蔵書の残骸と、砕けた魔剣の欠片のみ。夕暮れの森を見回しながら、金の輝きが少しずつ抜けていく髪を夕風に靡かせて、ユエインはそっと屈み込む。地に落ちていた斬竜剣の柄をそのまま地へと突き立てれば、夕陽に照らされ生み出された影は十字の墓標を地に刻む。

「……最悪の脚本だったが、演者としてのキミはそう悪くはなかったよ」

 そう呟きながら、ひとつの物語の終焉を見届けたユエインは剣の柄から踵を返し、傷つき倒れた黒鉄の相棒の元へと歩き出した。そうして彼女たちは歩き続けていくのであろう。次の物語を守るための、新たな戦いを目指して。折れた剣は、夕陽の中で静かにその背を見送り続ける――――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト