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迷宮災厄戦⑲〜虚構の怪物ジャバウォック

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #猟書家 #サー・ジャバウォック

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●焼け焦げた森の国
「ふむ。意外と早かったですね」
 サー・ジャバウォックと呼ばれる男は、手に持つ本を閉じ優雅に立ちあがる。
「猟兵というのでしたかな……。さて、ヒーローズアースへ向かう前に、準備運動と参りましょうか」
 マントを翻すと、黒く焼け焦げた森に溶け込むように消えてゆく。
『ああ、言い忘れておりました。私はジャバウォック――彼の不思議の国にて語られる怪物』
 暗き森に声だけが響く――。
『そうです、その姿を見たものはいないのです。さあ知恵比べと参りましょう。何が真実で何が虚構なのか……、見極めることができますかな?』
 そこにはただ焼け焦げた森だけが静かに存在していた。

●グリモアベース
「みなさま、おつかれさまです」
 白衣の小袖に緋袴の――巫女の少女が、にこやかに挨拶する。
「とうとう戦いも中盤です。不思議の国で語られる怪物ジャバウォックの名を冠する、サー・ジャバウォックの国への道が開かれました」
 さすがはみなさまです。と、六宮・ちとせ(伊勢神宮のいつきのひめみこ・f03055)は、喜びを伝えて、ゆっくりと猟兵たちに語りかけた。
「しかし、悠長なことも言ってられません。ここで逃がしてしまってはヒーローズアースで暗躍されてしまうでしょうし、手を拱いていればアリス・オリジンが先に消えてしまうかもしれないのです」
 アリス・オリジンが消えるのは、アリスラビリンスを救うということでは良いことかもしれませんが、ヒーローズアースに伸びる魔手を食い止める機会でもあります。と力説する。
「はい、ここが踏ん張りどころでしょう」
 もし食い止められれば、今後の戦いは有利に進むことだろう。
「ですが、サー・ジャバウォックは、書架の王を除けば最も強いと言われる猟書家です。しかも、その姿は曖昧で、森に潜んで如何様にも見えると言います。そして、気配もなく襲い来るそうです」
 その機先を制することは難しいでしょう。仮に対抗策を考えていたとしても、苦戦は免れない……それほどの強敵と言っても過言ではありません。
「とても厳しい戦いになると思いますが、みなさまならきっと良い結果をもたらせてくれると」
 わたしはみなさまを信じています、とちとせは笑顔で告げ、頭を垂れる。

「みなさま、よろしくお願いいたします」


千石まつり
 ご覧いただきありがとうございます、千石まつりです。
 久しぶりになりますが、今回は、アリスラビリンスの戦争『迷宮災厄戦』から、⑲猟書家『サー・ジャバウォック』のシナリオをお届けします。戦場は暗い焼け焦げた森の国。書架の王を除けば最も強いと言われる猟書家サー・ジャバウォックとの決戦シナリオとなります。サー・ジャバウォックは森に潜んで、様々な虚構を交えて欺きながら先制攻撃してきます。如何に虚構を見破るかを工夫して、この機を逃さず止めてください。

 また、このシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。これに基づく行動をすると有利になりますので、プレイングの参考にしてください。
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 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
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 それでは、皆さまのプレイングを楽しみにお待ちしております。

 がんばって参りましょう!

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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「迷宮災厄戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 ボス戦 『猟書家『サー・ジャバウォック』』

POW   :    侵略蔵書「秘密結社スナーク」
見えない【架空の怪物スナーク】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    ヴォーパル・ソード
【青白き斬竜剣ヴォーパル・ソード】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    プロジェクト・ジャバウォック
【人間の『黒き悪意』を纏いし竜人形態】に変身し、武器「【ヴォーパル・ソード】」の威力増強と、【触れた者の五感を奪う黒翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ベルベナ・ラウンドディー
…王に次ぐ方と伺いました
その手筋、是非御指南頂きます


●先制対策
不可視と言え地や風にも触れようなら手の打ちようはあります
【衝撃波・なぎ払い】で周囲ごと雑に吹き飛ばし、接近も攻撃も許さない
最低、距離を把握し離脱するだけでいいのですが…
相手はナンバー2
洗練された動きに雑なやり方は長く持たねえ

連携される前に早めに決めるか


【読心術】で先方の手筋を読みつつユーベルコードで白兵戦を狙う
【残像・串刺し】による攻撃は残像が消える前に次を放つように。
狙いは直刀や槍の一撃に非ず
【破魔・焼却】を伴う残像それ自体を当てるためだ
と、同時にスナークの割込みに対する牽制でもある
不用意に動けば燃えると解れば迂闊に手は出せまい 


御剣・刀也
遠距離戦もできるのか
遠、近、中と隙は少なさそうだ
こういうオールラウンダーは厄介だな。ま、それでも俺のやることは変わらない
前に出て、斬り捨てるだけだ

侵略蔵書「秘密結社スナーク」による遠距離攻撃が先にやってくるのはわかっているので、勇気で被弾を恐れず、ダッシュで一気に間合いを詰め、避けれるものは第六感、見切り、残像で避けつつ、避けきれないものは武器受けで弾き、一気に距離を詰めて、捨て身の一撃で斬り捨てる
「近付く迄は苦労したが、ここは、俺の距離だ!」



●ゆうとろどきの森
「さて、始めましょう」
 美しい金の装丁の書をパラりと開き、紳士は口ずさむ。

 ――スナークはどこにいる? 此処にいる。
 ――スナークはどこにいる? 此処にいる。と繰り返す
 ――スナークはどこにいる? 此処にいる。と更に繰り返す。

   ああ、3度言えばそれは現実となる。

「スナークを……ご存じですかな?」
 そう言い残して、森に溶けるように姿を晦ますと、そこに残されたのは何の残滓か。
 朧げなその姿は、何に見えるだろうか。人か、それとも怪物か、いや、親愛なる隣人か、しがない靴磨きか……、言われれば、そのどれとも似ていて、またどれとも似ていない。
 まさに正体不明。これがスナークなのだろうか?

 そうしている間にそれは森へと消えて行く。

 森は静かに佇んでいた。


●第1の物語
 サー・ジャバウォックが居るという森に近づく。
 よく見れば、焼け焦げた樹々は、不思議と朽ちてはおらず、燻らせながらも、わずかに葉を茂らせて命を繋いでいるようであった。焦げた臭いを放ち、熱を籠らせて陽炎のように揺らめきながらも。その様子は、ベルベナ・ラウンドディー(berbenah·∂・f07708)に、これからの困難さを予感させるには十分であった。

(……不可視と言え、地や風にも触れようものなら手の打ちようはあります)

 しかし、視覚ほど確かでないとは言え、匂いと熱――言うなれば気配を感じ取るのが難しくなるというのは、ベルベナほどに経験を積めば、いや、積んでいるからこそ危険だと感じられるのだ。だが、ここで引き返すという選択肢はない。
 ベルベナはより一層注意を払いつつ、気配を消して森へと歩みを進めるのだった。

・・・

『いやはや、驚きました。まさかお1人で訪れるとは』

 不意に聞こえた声に、素早く槍を薙ぎ払う。それは、衝撃波を伴ってメキりと周りの樹々をなぎ倒す。
(くそっ。何時からだ)
 悪態をつきつつ、周りを見渡すが、樹々しか姿は見えない。
 注意を払っていながらも全く察知できなかった驚きが、ベルベナの冷静さを奪っていた。が、声の主はそんなベルベナに構うことなく言葉を続ける。

『だが、貴方は賢明だ』
 不意に現れる気配に意識を向けると、そこに得体のしれない何かが居るように感じる。
『スナークとは正体不明の怪物、味方がいても心を許すことなど決してできない。なぜなら、その方がスナークでないなど、誰にもわからないのですから』
(あれが――スナーク?)
 幸い、周囲を薙ぎ払ったことにより距離はある。最低、離脱するだけでいいのですが……。
 しかし、ベルベナの勘が警鐘を鳴らす――本当にあれはスナークなのかと。予知は万能ではない、しかし、サー・ジャバウォックの放つ怪物の正体を、ベルベナは事前に知っていた。

 それは――不可視。

 思い当たるや、ベルベナは状況を俯瞰する。
 サー・ジャバウォックであろう言葉を反芻し、その言葉の裏を読む。それはまるでパズルを組み立てるように。言わばこれは心理戦なのだ。
(スナーク? いや違う、もうすでに始まって――)
 わずな気配を感じて咄嗟に身体を捻じらせると、ベルベナの姿の残像に触れて何かが燃える。
 炎に炙られて、一瞬だけ獣のようなものが見えた――すぐに消えてしまったが。あれが本物のスナークだろうか。
 周囲の樹々を刈り取ったことで熱が抑えられ、距離と空気の揺らぎを感じる隙間となっていた。そしてそれがユーベルコードを使う時間を生み出したのは幸運であっただろう。
「超残像――。それに触ると火傷します」
『ふむ。勘は良いようですね。ですが、いつまで持ちますかな?』
 だが避けているばかりでは、いずれ傷を負うのはまた明らかだ。しかし、そう問いかける――このまま私を疲弊させる心積もりでもあるということ――が、油断と言うものだろうか。

「……王に次ぐ方と伺いました。その手筋、是非御指南頂きます」
『ほう。この状況で私と見えられると?』
「そのつもりです!」
 そう答えて、直ぐ様に動き出す。
 先ほどスナークと誤認させられた影の方へと走る。しかし、あれほどに――あからさまに――誇示しておきながら、それはもう見えない。そのことが確信を抱かせる。

(とはいえ、相手はナンバー2。洗練された動きに雑なやり方は長く持たねえ)

 樹々を抜けて走る間にも、見えないスナークの気配が感じられる。
 残像をちらつかせて牽制しているが、やはり上手であることは間違いないだろう。

 そうベルベナが考えていると突然、先ほど感じた得体のしれない何かが止まり、不意に現れる。
 目に入るのは青白い剣。やはり、サー・ジャバウォック。ベルベナは自身の判断が間違ってなかったと安堵する。しかしこれは追いついたわけではない、ここで決着を付けるつもりなのだ。同時に、スナークらしき気配もひしひしと感じられる。猶予はない、先に決めなければ――。
「はあ!!」
「終わりにしましょう」
 ベルベナが気合とともに突き出した槍を躱した、サー・ジャバウォックが青の斬撃を走らせる。否、槍の残像が炎を散らす。
「ぐっ。これは!?」
 本来、槍を突くのであればその動きは直線。
 逸らされれば隙を生み、引けばその間合いを詰められる。しかし、ベルベナの残像はその隙を埋める。不用意に触れれば、残像に触れて燃えるのであるから、迂闊に手を出せないように動きを抑制するのだ。
 ベルベナは笑う。しかし、その身体にも新しい傷を負っていた。槍に集中した代わりにスナークの攻撃も避けられなかったのだろう。
「面白い」
 サー・ジャバウォックは苦し気に、だが愉快だと顔を歪めるのだった。


●第2の物語
「へぇ、遠距離戦もできるのか」
 黒のジャケットが目立つラフな格好の御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)が、足早に向かいながら、遠目に戦いを眺めて語る。
 これでも、刀也は天武古砕流という流派の剣術を受け継ぐ正統後継者だ。見た目には遠距離に攻撃しているとは分からないのだが、退くものと追うもの、その動きを見ればある程度は予想できる。刀也の戦闘知識がそう告げるのだ。
 退くもの――おそらくサー・ジャバウォックなのだろう――は戦いに集中しているのか、気付きながらも見逃しているのかは分からないが、こちらに対する警戒はまだ薄そうに見える。

 ならばと、気付かれないように注意しながらも、足を速めて接近を図ろうとするが、そう容易くは行かないようだ。退いていたものが、すぐに足を止めて向かい打つのを見て、気付かれていることを悟る。
(そうだよな。まあ分かってたよ)
 ま、それでも俺のやることは変わらない。前に出て、斬り捨てるだけだ。

 気付かれたものは仕方ない。もう隠れる必要はないだろう。
 足を速めて樹々の間を素早く駆け抜ける。
 先ほど何かが赤く弾けてから、動きがない。向こうの戦いも決着がついてしまったのだろうか。けれど間に合わなかったと振り返る余裕はない。そうであったなら、侵略蔵書――秘密結社スナークの攻撃が何時来てもおかしくはないのだから。ダッシュで距離を詰めながら、一層勇気を奮わせて突き進む。
「ぐっ!!」
 何かが走り抜けたかと気付いたとき、突然、鋭い痛みが身体を駆け抜けた。
 樹々の熱が、刀也の感覚を鈍らせていた。しかし、耐えられない痛みではない――初めから分かっていたことだ。刀也は強靭な意志で痛みを抑え込んで走り出す。

 幾度かの交錯を経て――少し避けたり、武器で受けて弾くことができるようになってきたころ――とうとう言葉が交わせるところまで近づいた。正直身体は限界だが、一太刀も浴びせず倒れては剣士の名折れだ。

「いやはや、猟兵というものは、命知らずばかりなのですかな?」
 呆れを含んだ声音ながらも興奮を隠せずに語りかけるのは、その手に青白い剣を携えたサー・ジャバウォック。
「はは、違いねぇ。――だが、近付く迄は苦労したが、ここは、俺の距離だ!」
「これは、久しぶりに滾りますな。お相手しましょう!」
 刀也が力強く大地を蹴って一気に距離を詰めると、獅子吼に力を込めて斬り掛かる。
 遠・近・中と隙のないオールラウンダーは厄介だ……が、それでも距離さえ詰めてしまえば、そのようなものは関係ない。
『この切っ先に一擲をなして乾坤を賭せん!!』
 ただ一太刀、持てる力を振り絞って上段から振り下ろす。

 それは、神速の斬撃だった。

 斬撃の脅威を察したサー・ジャバウォックは、僅かに驚きを浮かべつつもわずかに身体を捻じるようにしてその斬撃を避けた。いや、避けようとした。ビチャリと鮮血が飛び散る。
「ぐぅっ!!」
 そして、ドサリと落ちたのは腕。サー・ジャバウォックは愉悦に歪めて言った。
「お見事です。まさか私から片腕を奪うとは。まさに捨て身の一撃と言ってもいいでしょう」
「……当然だ。てめぇが生きているのが不思議なぐらいだ」
 片膝をつきながら刀也も不敵に笑った。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アハト・アリスズナンバー
行きますよヴォーパルソード。
撃ち果たすべき敵が。ジャバウォックがそこにいるのです。
宿命というべきなのでしょうね。

相手の攻撃に対して【見切り】【第六感】で避けつつ、此方のヴォーパルソードを持って【破魔】の【カウンター】を狙います。そしてUCを起動。
――対象をジャバウォックと確認。本懐を果たせ。ヴォーパルソード。
五感が封じられようと自動追尾弾ならば、関係ない。
詩をなぞり、貴方を倒させてもらいます。翼に対して【部位破壊】を狙いましょうか。
最後は【グラップル】弾を【誘導弾】で撃ち、その勢いで【貫通攻撃】です。


トリテレイア・ゼロナイン
人心を惑わせる秘密結社スナークなど放置できるわけも無し
その野望、騎士として阻ませていただきます

マルチセンサーでの●情報収集で移動時の振動、風切り音、熱や赤外線等「そこにいる」情報からスナークの襲撃を●見切り●盾受け●武器受けで防御、同時に術者を捜索

UCによる脚部スラスターでの●スライディング移動での回避行動でスナークの攻勢を掻い潜りつつ、猟書家へ接近
格納銃器の●なぎ払い掃射でスナークを牽制
●ロープワークで●操縦するワイヤーアンカーを猟書家目掛け射出し捕縛を試行

捕縛に対する回避行動を誘導し絶好の位置に誘い込むのが目的

目に見えぬ物だけが虚構とは限りません
御覚悟を

近寄った猟書家を一刀の元に斬り捨て


フェルト・ユメノアール
真実を見極める……無理難題だけど道化師としてこの問題、解いてみせるよ!

動き回るのは不利、どんな攻撃がくるのか分からないのなら多少のダメージは覚悟で『トリックスター』で急所をガード
そして、防御に専念しながら『ワンダースモーク』を使用して周囲を煙幕で包み込む

そのまま煙に紛れて反撃する!……と見せかけて
ボクはすでに【SPミラーマジシャン】の効果を発動していた!
煙は鏡に映した虚像を本物だと誤認させる為の罠だったのさ
どんな姿だろうとこちらを攻撃するその一瞬は正体を捉える事が可能なはず
相手が鏡に映ったボクを攻撃するその隙を突いて、背後から『トリックスターでカウンター』の一撃を決めるよ!


リリスフィア・スターライト
他の猟兵達との連携、アドリブ可

相手が最も強い猟書家なら、私も最初から全力で戦うよ。
絶対宣誓で真の姿である赤い瞳の天使形態となって、
最大戦力でサー・ジャバウォックの先制攻撃を耐え抜いて反撃するよ。
虚構を交えた欺く戦いを得意とするみたいだし、
まずはどこに潜んでいるのか見つけないだね。
怪物スナークが襲ってきた方向の先にいる
可能性は高そうだし、正面から突破して
サー・ジャバウォックを見つけるよ。
攻撃の間隔が短くなっているなら近づけている証拠だね。
見つけ次第、魔剣を手に、自身がどれだけ傷つこうとも
倒すまでは離れない覚悟で斬り込むよ。
近くに仲間がいるなら協力してだね。

「そろそろ勝敗をはっきりとさせるよ!」



●ゆうとろどきの森
 カップを優雅に持ちあげて喉を潤す。
「ふむ、どうやら私の書――秘密結社スナークのことをご存じのようです」
 はてさて、どこで知ったのでしょうか……。しかしそれも些細なこと。知っているのなら、排除すれば良いのです。
 美しい金の装丁の書――の更に先のページ――をパラりと開き、紳士は口ずさむ。

 ――消える。これが私の魂を締め付ける。
 ――消える。この言葉を聞くたびに、恐れを抱かせる。
 ――消える。何度でも言いましょう、これこそが真に恐ろしいのだと。

   ああ、これで元には戻れない。

「スナークが――であったのなら……」
 スナークは虚構であるがゆえに、誰もがスナークになり得るのです。されど隣人がスナークであったなら、それは初めからスナークだったのか、それとも後からスナークに成ったのか。――もうお分かりでしょう。
 スナークには色々な種類がおります。ですが、出会ってはならないものが――なのです。
 そう言い残して、紳士は森に溶けるように姿を晦ませた。

 そして森は静かに佇んでいた。


●第3の物語
 白い甲冑を纏った機械騎士が森の樹々を掻き分けて進む。
 彼はトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)、弱者を護り、仲間を守る優しき騎士である。サー・ジャバウォックが、現実を改変するという侵略蔵書――秘密結社スナークを使って、ヒーローズアースを混乱に陥れようと画策していることを知り、それを阻むべく駆け付けたのだ。
「人心を惑わせる秘密結社スナークなど放置できるわけも無し」
 トリテレイアが不意に語れば――

「流石は騎士の称号を持つ者。高尚な心掛け、感服いたしました」

 普通に会話していたかのように声が返る。
 ここまで簡単に接触できるとは思っていなかったため内心やや驚きつつも、それを聞いてトリテレイアは注意深く周りを探りながらもそれを悟らせないように、自然を装って身体を向ける。
「まさか、サー・ジャバウォック自ら来るとは――」
「おや、意外ですかな? ふむ。私もそれなりに礼儀を持って接しているつもりなのですが……」

 そう会話している間に、トリテレイアのセンサーが異物を検知する。
(なるほど。言葉遊びですか……)
 確かに、騎士にも名乗りがある。その名が、言葉が、駆け引きとなることは明白。
 しかしそれと同じように、トリテレイアが機械騎士と呼ばれるのもまた伊達ではない。この世界よりも、遥かに進んだ科学文明から生み出された各種のセンサーは、トリテレイアにも様々なものが組み込まれている。例えば、感覚部には、熱や音、気流、赤外線などを備え、得られた情報が存在を検知する。ただ視覚的に見えないと言うだけでは、トリテレイアを欺くことはできないのだ。

「サーもまた騎士爵を賜る方でしたね」
「私もご同輩とこのようなところで、出会えて大変うれしく思いますよ」

 トリテレイアは、他愛のない会話を続けながら、異物が牙をむくのを待った。
 兵を伏せるように、不可視の怪物がトリテレイアを囲むように集まり出す。それはまさに狼の群れのようだ。これでは確かに逃げられない。しかして、もう十分と判断したのか、そのうちの1体が飛びかかってくるのを、トリテレイアが自然な動きでするりと体勢を変えて躱したのを機に状況が動く。
「ほう。見えていますか」
 洗練され過ぎた動きに、サー・ジャバウォックは目を細める。
「では――」
 それが始まりの合図であった。

「その野望、騎士として阻ませていただきます」

 トリテレイアは決意を表明すると、素早く《機械騎士の傀儡舞》を起動し、脚部スラスターを噴出し滑るように、不可視の怪物を掻い潜ってサー・ジャバウォックに接近を試みる。だが、不可視の怪物もまた、それを簡単には許してくれない。さながら狼の狩りのように巧妙に連携して飛びかかってくる。しかし――

『操り糸はありませんが、鋼の人形劇を披露させて頂きます』

 トリテレイアは不可視の怪物のそのすべてを感知している。その動きは超常の域に達した予測演算により割り出され、機械であるからともいえるスラスターと可動域を十二分に使った、絶妙のタイミングで行われる、その回避運動は、まさにパペットダンス。怪物が不可視であるがゆえに、さながら独演会のようであった。
「素晴らしい。ですが――」
 サー・ジャバウォックの言葉が終わる前に、包囲網をするりと抜けて、不可視の怪物たちの攻撃の途切れる僅かな隙間を狙って、格納銃器を取り出したトリテレイアは、怪物たちの着地点を狙うかのように銃弾を薙ぎ撃つと、身体を回転させ遠心力を利用してアンカーを射出する。
「――私のことも忘れて貰っては困りますよ、終わりにしましょう!」
 サー・ジャバウォックは、それに突き動かされるかのように、投擲されるアンカーを容易く躱して瞬間に間合いを詰めてくる。手に持つ青白い剣を水平に構えて。

 だが――目に見えぬものだけが虚構とは限りません。御覚悟を!
 トリテレイアは回転した身体をそのままに、素早く剣を構えると、スラスターを噴出して独楽のように回転するように剣を跳ね上げるように逆袈裟切りに薙いだ。
「がっ!!」
 間合いを詰めていたサー・ジャバウォックは、それを避けられず――いや、僅かに避けたのだろう。深手を負い大地を血で汚しながらも、踏みとどまっていた。


●第4の物語
「うわっ。ホントに焼け焦げてるっ」
 森の惨状に驚きつつも、笑顔を絶やさないピンクの髪の道化師が、樹々をツンツンと触ったり、ホントに熱を持ってるんだすごーいとか言って元気にはしゃいでいるようだ。彼女はフェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)、サー・ジャバウォックの語る、虚構と真実を見極めるために訪れたらしい。

(真実かあ……)
 ボクもエンターテイナーだから、たぶん――いや十分に虚構の方かな。
 真実ってみんな知りたがるけど、ホントはそんなに大したことがなくて、知ってしまったために幻滅してしまう――そんなこともたくさんある。でも真実だと信じられる答えがないと、決められないことがあるのもまた事実なんだよね。
 よし。真実を見極める……。無理難題だけど道化師としてこの問題、解いてみせるよ!

・・・

 そして、彷徨うこと数十分。
 もうっ。サー・ジャバウォックってどこにいるのー?

「お呼びになりましたかな、クラウンのお嬢さん」
「はえ!?」
 もしかしてずっと見てたの? 感じ悪くない? って、変な声出たよっ。
 それにボク声に出してないよね? いるよねこういう人、油断ならないよっ。ま、負けないんだから!
「あまりにも可愛らしいお嬢さんでしたので、つい声をかけてしまいました」
「可愛らしい……ボク猟兵なんだけど?」
「存じておりますとも」

 これが話術っ……調子狂うよ、でも仕切り直して。
 フェルトは、手を軽く出してくるりと回すと、トリックスター――黄金色のダガーをどこからともなく取り出してクルクルっと放って手でまた掴む。これは、これから始まることを思い起こさせる導入のテクニック。
 サー・ジャバウォックも感づいただろう、穏やかな雰囲気が消え、冷たい殺気が溢れ出す。
「やはりこうなりますか」
「もちろんだよ。ボクにキミの虚構と真実を見せてよ! 解いてみせるから!」

 先に動いたのは、サー・ジャバウォック。
 素早く青白い剣を手に取ると、垂直に剣を立てる――騎士が決闘の前に行う剣礼のように。その所作はとても洗練されていて美しい、さすがはサーの称号を持つことはある。けれど、ただ見とれているわけにはいかない。剣と短剣では、リーチが違う。それだけで、あきらかに不利なのだ。
 フェルトはワンダースモークを叩きつけて煙幕で包み込むと、1本のトリックスターをサー・ジャバウォックへと投げた。

 サー・ジャバウォックは、わずかに剣を傾けて、飛んできたダガーを弾く。
 剣礼に剣を投げるなどあってはならないことだが、騎士と道化師ではそもそも礼儀は違う。不思議と怒りは湧かなかった。目くらましのつもりだろうが、煙幕からわずかに覗く桃色のシルエットは、誤魔化しようがない。貴女の言葉には、多少期待していたのかもしれないが――もう遅い。
「終わりにしましょう!!」
 剣に掲げて力を込めれば、青白き斬竜剣ヴォーパル・ソードがはち切れんばかりに巨大に膨れ上がる。もう誰にも止められない。すべてを薙ぎ払う、暴虐の剣となって――

 ストン

 ズルリと手から零れ落ちる青白き剣。
「ぐ、これは!?」
 胸に突き刺さる黄金色のダガー、そして、この軋む感覚は――。

「ボクはキミの虚構を1つ知ってる」
 初めにキミはこう言った『不思議の国にて語られる怪物』と。でも、アリスの物語では、不思議の国でジャバウォックは語られない。だから、その姿を見たものはいない。キミは1つ虚構を創りあげた。
 不思議に思ったんだ、きっと今までも、他の猟兵に致命傷と言わないまでも、ダメージを――その焦げた服、切れた袖、断ち切られた服を見れば――受けてきたはずなのに、そこまで回復するものなのかなって。でも本当のキミは別のところにいたんだよ。
 真実のキミは――ジャバウォックは――
「キミは――鏡の国にて語られる怪物。それが真実だよ!」

 次第に煙幕が薄れて晴れるとそこにあるのは1枚の鏡。そこにはトリックスターが刺さっていた。

「キミは鏡に映ったボクを見てた――」
 でも、キミがボクを見れるということは、ボクもまたキミを見れた。そう、真実の姿が写った鏡のキミを。

「キミの虚構は崩れ去る!」


●最後の物語
『Gaaaaaaaaaaa!』
 ゆうどとどき。陽が陰り黄昏を迎えるころ。
 凄まじい咆哮が迸り、それと共に黒い靄が森へと大きく広ががって、陽の光が閉ざされる。
 そして、焼け焦げた樹々は震え、樹々に籠る火種を赤く燃え上がらせる。
 それが照らす唯一の灯火だった。

「行きますよ、ヴォーパルソード」
 撃ち果たすべき敵が――ジャバウォックがそこにいるのです。感じますね?
 宿命というべきなのでしょうね。今、その時が来ました。抑えた声音で、自身を奮い立たせるように語りかける。だが、それでも手の震えは治まらない。
 彼女は、あるアリス適合者から複製された量産型個体8号のアハト・アリスズナンバー(アリスズナンバー8号・f28285)。彼女は、ヴォーパルソードを手に今、怪物ジャバウォックとの戦いに赴こうとしていた。アリスの物語を幸せに導くために。

 パチパチと焼ける音が聞こえる樹々の灯りにわずかに照らされて、パキりと落ちた枝を踏みしめながら、森の中心へと向かって歩みを進める。ジャバウォックが森の中心で待っていることは、なぜか自然と腑に落ちた。怪物スナークをはじめとして、障害もなく辿りつける確信があった。しかし先ほどまでは、焼け焦げた森を痛ましいと思える程度には、穏やかであったというのに。今はそのすべてが恐ろしい。

 1歩1歩と進むたびに恐怖に襲われ、引き返したいと思ったのは、もう何度目だろうか。
 手足は震え、何度も振り返り、そして頭を振るのを繰り返して、森の中央にたどり着いたときには、いかほどの時間が経っていただろう。そこは大きく樹々が薙ぎ倒されて、大きく開けた空間となっていた。そしてそこにいたのはドラゴンを思わせる大きな黒翼を広げる竜人。両の眼を炯々と燃やし、理性を失くしたかのように周りを威嚇していた。
 そして、その胸に刺さる黄金の短剣が、今までの物語を物語る。

 その竜人はサー・ジャバウォック。
 アハトと視線が合ったとき、最後の戦いは始まった。

 アハトはヴォーパルソードを震える手で強く握りしめ、恐怖に竦む足を無理やりに踏み出して、飛び出した。
「やああああ!」
 何時もはそんなことはないのに、思わず声が出てしまう。しかし今は、そのようなこと気にする余裕はなかった。
 そんなアハトに呼応するように、サー・ジャバウォックはギョロリと燃える目を向けると、ドンという音と共に大地を踏み飛んで、黒翼を翻しながら恐ろしい速度で迫ってきた。その手には青白いヴォーパル・ソード。圧倒的な膂力の差に、危険を察知できたのは極わずかな時間だけ。辛うじて、手のヴォーパルソードで逸らせるのが精一杯だった。しかも、手に走る鋭い痛みと共に弾き飛ばされてしまう。
 けれど、私のヴォーパルソードは飛翔剣。まだ――大丈夫!
「対象をジャバウォックと確認――」

『アリスコード送信。対象をジャバヴォックと認識。ヴォーパルソード射出用意』

「――本懐を果たせ、ヴォーパルソード!」
 その声と共に、ピタリと空に留まるアハトのヴォーパルソードが、光り輝いて84本の魔法剣となって、複雑な幾何学模様を描いて降り注ぐ。
「Guaaaaaaa!」
 サー・ジャバウォックは咆哮を挙げて威嚇するが、それで止まるような剣ではない。手に持つ青白いヴォーパル・ソードで払い除けるものの、84本もの剣をすべて打ち払うことはできなかった。1本、そして、また1本と、身体を突き刺して、身体が、黒翼が、大地へと縫い付けられる。

 大量の剣が大地に突き刺さることで舞い上がった粉塵が収まったとき、そこには黒翼と身体を大地に張り付けられて、藻掻くサー・ジャバウォックの姿があった。
「Gyuuuaaaa!」
 しかし、アハトがそれを見て少し緊張を緩めたのもつかの間。
 サー・ジャバウォックの目は死んでおらず、大きな唸り声を挙げると、地に落ちた侵略蔵書のページがひとりでにめくられてゆく。その出来事に驚く間もなく、恐ろしい何か得体の知れない怪物が現実のものとなったと理解してしまう。その証拠に、落ちた枝が何かに踏まれてパキりと音をあげて折れてゆくではないか。
「そんな……」


 アハトの心が絶望に少し沈んだとき、彼女は訪れた。

「大丈夫? あれがサー・ジャバウォックなのよね?」
「えーと、そうです。でもスナークが……」
「大丈夫よ、まかせて。このクライマックス、私も最初から全力で戦うから!」
 金髪のショートに青い瞳のゴーグルを頭に乗せた凛々しい少女は、青いマントを翻して答える。
 そして剣礼を取って宣誓する。

「絶対宣誓――絶対に敵の攻撃を耐え抜き、そして勝利を掴むこと、私はここに誓う!!」

 その誓いが述べられると、辺り一面に光が溢れ、光が消えると、そこにはプラチナブロンドのツインテールに赤い瞳の背に白い翼を持つ、まるで天使のような姿の少女がそこに立っていた。彼女は、リリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)。この姿はリリスフィアの真の姿であった。

 パキりと枝が踏み折られる音を聞いて、これがあのスナークなのだと理解する。
 本当に見えないと驚きながらも、手に持つ緋色に輝く刃を持つ魔法剣――魔剣で、一薙ぎする。見えないから、倒せたかどうかは分からないけど、手応えはあった。きっと倒せているだろう。
「私が道を切り開く。だから、共に行こう! 私はリリスフィア。あなたは?」
「アハトです」
「では行こう! この姿になったからには絶対に勝ってみせるよ!」

 リリスフィアは、幾度目かの怪物を斬り捨てる。
 不可視の架空の怪物スナーク、本当に厄介だ。見えないだけでも脅威だというのに、どうやら色々な種類がいるらしい。小さいものから大きいものまで、だから見誤ると危険だと理解した。
 でも、今はサー・ジャバウォックを守るように配置されているし、そして本当は潜むサー・ジャバウォックを見つける必要もあると思っていたから、これは本当に幸運。
 いいえ、少し違う。身体の調子もとても良いし、魔剣の切れ味もいつも以上だ。
 もしかしたら、サー・ジャバウォックが纏う人間の黒い悪意に反応して、それに立ち向かう私により正義があると強く認められているからかも知れない。

 あと少し――。
 サー・ジャバウォックまであと少しというところで、その拘束が解かれそうになっていることに気付く。
 スナークも思った以上にしつこいし、私の調子も良いとは言え、何度もダメージは受けている。アハトさんの消耗も激しい。
 そしてきっと、あれは解放してはいけないものなのだろう。冷や汗が流れる。

 何かの方法を考えて、アハトさんの手にするヴォーパルソードに視線を移す。
 ヴォーパル・ソード――アリスの物語のジャバウォックの詩で、ジャバウォックを倒したと語られる武器。もしかしたら、サー・ジャバウォックにも相当に効果のある武器かもしれない。でも今の私には既に感じられる。その剣とサー・ジャバウォックの縁が、惹かれ合う宿命が。そして、私は決断する。
「ねえ、アハトさん走れる?」
「大丈夫です」
 彼女も気づいている。サー・ジャバウォックの拘束が解けてしまいそうになっていることを。それもそうだろう、きっとアハトさんが拘束したのに違いないのだから。
「ありがとう、最後は任せるよ。これを持って行って、きっとアハトさんにも加護があるから」
 私は黄金の十字架をアハトさんに渡す。そして、決して諦めないでと、そっと告げた。諦めることをアハトさんは知らないかもしれないけれど、きっとこの十字架は助けになるはず。だって今の私は相当天使だから。

「攻撃を耐え抜き勝利を掴む――この誓いは破れない。そろそろ勝敗をはっきりとさせるよ!」
 アハトさんを送り出した私は、力いっぱいに魔剣を振るう。スナークを狩って、攻撃を逸らせて、アハトさんを追いかける。
 もう少し――。
 けれど、運命は無情で、僅かに足らず最後の拘束がバキンと弾かれる。

「Guaaaaaa!」
 サー・ジャバウォックは目前に迫ったアハトへと燃える視線を向けると、黒翼を大きく広げて大きく咆哮をあげた。
 するとたちまち黒い靄が溢れ出て、視界が暗く閉ざされる。
 光の加護に包まれた私には辛うじて見えているが、サー・ジャバウォックの姿はもう人の形を崩れ、まさに異形と言わんばかりで、もうドラゴンとも、何ともわからない姿になっていた。
 これはいけないものだ――直感で理解する。
 アハトさん――。


(暗い――)
 私は倒れたのでしょうか?
 いいえ、そうではありませんね、早計でした。まだ私にはヴォーパルソードがあります。
 ですが何も見えません。これはきっとジャバウォックの黒翼に触れて5感を奪われてしまったのかもしれませんね。

 そっと託してくれた黄金の十字架に触れると、ぼんやりとだが少し周りの景色が見えた。
 しかし、その景色のサー・ジャバウォックはもう人の姿をしておらず、ドラゴンともわからない、得体のしれない姿になっていた。これではもし感覚を失っていなくても、倒すことは難しかったかもしれない。
 でも、言われたことを思い出し、今できることを必死で探す。

 見つけたのは、1本の黄金の短剣。
 そして思い出す。短剣が刺さっていた位置――それはおそらく心臓。

 黄金の十字架から、黄金の短剣へと、自動追尾なら五感が封じられていようと関係ない。
 行ってくれますか、ヴォーパルソード?
 私は全力で剣を投げると、高らかに唱えた。

「――アリスオブヴォーパルソード!」


 私の目の前を、黒い靄を切り裂いて飛んで行く1本の魔法剣。
 それは、綺麗な弧を描いて異形となった、サー・ジャバウォックへと突き刺さり、大地を穿つ。
「Gyaaaaaaaaaa!」
 サー・ジャバウォックだったものは、断末魔を上げてその身体を朽ちらせて消えていった。
 すると次第に黒い靄は消え、空もまた茜色に染まり、森はまた焼け焦げた森へと戻ってゆく。
 私は、倒れていたアハトさんを抱き起こすと、気付いたアハトさんは私に問いかける。

「――私はアリスを幸せにできたのでしょうか?」
「きっと大丈夫よ」

 もちろん私は満面の笑みで答えた。

 こうしてサー・ジャバウォックとその侵略蔵書『秘密結社スナーク』を巡る物語は終わりを迎えた。
 アリスラビリンスとヒーローズアースの危機はまだ去ってはいないが、きっと猟兵たちがより良い未来を掴んでくれることだろう。


●余禄(エピローグ)
 ゆうとどろき。
 夕陽に照らされて、影を伸ばす――サー・ジャバウォックは、手に持つ書をパタンと閉じて語る。
「お楽しみ頂けましたでしょうか」
 すべては虚構。この書――秘密結社スナークに綴られる物語に真実など1つもなく、それ故に、人は本書から「明らかな間違い」を見出すことができません。

「物語は虚構だったのでは?」
 その疑念は、やがて私の至る結末すらも覆します。そして物語を信じられないものは、語られる運命さえも捻じ曲げるのです。であれば、いずれまた――

「残念だけど、そうはならないよ」
「おや、おかしなことを仰います。貴女も虚構の物語だとご存じなのでは?」
 意外なものを見たかのように、道化師の方へと向き直る。
「うん。虚構と信じられる、いいえ、すべてが真実じゃなかったら、騙されたかもしれないけど――」
 虚構と呼ぶには、あまりにも偽らざるものが多すぎたから。まあボクもそういうことには敏い方だけどね。

 そして、紛い物の騎士は述懐する。
 私達に虚構を現実と錯覚させるなら、そう信じさせる真実がなければならない。けれども、それは虚構だけで綴られた秘密結社スナークではできないのです。いいえそうではなく、ただ私の中の騎士が、受け入れるのを拒んだ。私の在り方は偽りではないのだと――。それはすべての虚構を覆す鍵となった。

「参りました。手掛かりを与えたつもりはなかったのですが……」
 いやはや恐れ入りました。と諦めにも似た清々しい表情で。よく見れば、虚構は崩れて満身創痍の態を晒し、それが現実なのだと告げている。そして、すべてを受け入れるかのように、突き出される刃を躱すことなくその身に受けると、その瞳を大きく見開いた。
「そうでしたか……私は出会ってしまったのですね」
 そして、すべてを悟るかのように呟いて、サー・ジャバウォックはその姿を消した。最後に見たものは――

『心せよ、お前の出会ったスナークが――だったなら、たちまちお前の姿は消え失せて、二度と誰にも会うことはできないだろう』

 ――ああ、スナークは猟兵だったのだ。

 その場には、青白きヴォーパル・ソードが墓標のように残っていた。

 了

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト