迷宮災厄戦⑫~藁人形は輝きたい
●ザ・ゴールデンエッグスワールド
ガーッ!
ガッ!ガッ!
カカカカッ、ガーッ!
あちらこちらで、ガチョウの鳴き声が響いている。
鳴き声の主は探すまでもなく、そこら中をガーガー鳴きながら歩いている。だがその体は、どのガチョウも黄金に輝くの羽毛に覆われていた。
この国にいるのは『黄金ガチョウ』。
それが生む卵も、黄金に輝いていた。
●黄金卵争奪戦
「黄金に輝く卵って言うか、黄金そのものなんだよね」
何故かゆで卵を額でコンコンと割りながら、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は集まった猟兵達に話を続ける。
「でもその『黄金の卵』が、今回の鍵になる」
その国にいる間だけだが、黄金の卵を持っていれば持っているだけ、その数に応じて能力が強化されるのだ。
「ただし、やっぱりオウガも猟兵も問わずに、ね」
となれば当然、オウガだって黄金の卵を拾おうとしてくる。
黄金の卵の争奪戦だ。
「黄金の卵をたくさん所持していると、そのうち身体も黄金に光って来る。そこまで強化されれば、1つ2つ拾われても蹴散らせる筈だよ」
主に考えるべきは2つ。
オウガより早く拾う方法。
そして、数多くの卵を所持する方法。
「所持、で良いんだ。手に持っていなければいけないとか、そう言うわけじゃない」
猟兵は種族も年齢も様々だ。
中には、卵ひとつで掌がほぼ埋まってしまうと言う者もいるだろう。だが、手に持っていなくても、自身の所有物だと主張出来れば良いのなら、工夫次第ではいくらでも所持する事が出来る筈だ。
「私なら、カーゴシャークに飲み込ませるかな。オウガも、体内に飲み込む気だし」
黄金そのものの卵だから、それは猟兵にはお勧めできないけれど。
「さて。黄金の卵の争奪戦の相手となるオウガだけど、『ストローマン』と言う、五寸釘が幾つも刺さった動く巨大な藁人形だ」
その中には、これまでアリスラビリンスを抜けられなかったアリスたちの膨大な怨念が籠っていると言う。
「こいつら、瀕死になると新たな藁人形を喚ぶ能力を持っているから、黄金の卵を集める方を優先した方が良いと思うよ」
強化された状態なら、瀕死を通り越して一撃で倒すのも狙い易いだろう。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
ルシルは殻を剥いたゆで卵に塩を振りながら、グリモアを開くのだった。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『迷宮災厄戦』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
迷宮災厄戦⑫『ザ・ゴールデンエッグスワールド』のシナリオです。
持っているとパワーアップする、黄金の卵の争奪戦がキモとなります。
というわけで、今回のプレイングボーナスはこちらです。
『黄金の卵をオウガに取らせず、自分達が取る』
取るだけじゃなく、取らせない、も大事と言う事です。
オウガに拾わせず、自分達が黄金に輝くまで頑張って拾って下さい。
なお、OPにある通り、所持すればOKです。
手に持っていなければならないと言う事ではありません。例えば本人の所有物の中に入れるとか、触れていなくても所持となるケースはあります。
むしろ手に持ってると戦いにくいでしょう。
プレイングは戦闘より黄金の卵重視で大丈夫です。
自分達が黄金に輝くまでになれば、あとはワンパンで勝てるくらいにまで強化されますので。
なお、『迷宮災厄戦』の戦況から、⑫は早めに片づけた方が良いらしいと言う事なので、今回はプレイング全採用は出来ないかもしれません。
公開後から受付て、成功度到達したら、あとは8/12の16時の戦力更新まで書ける分だけ、と考えていますので、ご了承の上、ご参加下さい。
第1章 集団戦
『ストローマン』
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POW : カースバースト
自身の【身体と込められた全ての怨念】を代償に、【恐るべき呪い】を籠めた一撃を放つ。自分にとって身体と込められた全ての怨念を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : リスポーン
自身が戦闘で瀕死になると【新しいストローマン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : ネイルガン
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【五寸釘】で包囲攻撃する。
イラスト:100
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フィーナ・ステラガーデン
待ちなさいこの藁人形ども!さっき「グァー!」から私のご飯を盗んでいるようだ「カカカッ!ガーッ!」けれど
そうは問屋はおろさないわ!!「グァー!グァー!」
(腰のあたりに卵2~3個、帽子の中に1つ、そして背中には鳴き叫び暴れるガチョウをロープで括り付け登場。後で食べる気らしい)
というわけでそのまま戦闘よ!藁人形だし燃えやすいんじゃないかしら!
ちゃちゃっと燃やすとするわ!
ってしたいけれど卵が少なく、っていうかガチョウ邪魔!!
そうこうしてる内にピンチに陥ったりするかもしれないけれど
勝負は今じゃないわ!フィーバータイムが来るのよ!
そう!背中のガチョウが卵をポポポンと産み出してからがスーパーフィーナタイム!
榎・うさみっち
黄金の卵!売ったらおいくらになるんだろ!?
…ハッ、そんな邪なことを考えている場合じゃなかった
うーむ、たくさん持てと言われても
俺のこの身体じゃあ
両手で一個抱えるのが精一杯だろうな
だが、それは普通に持った時の話だ!
まずはうさみっちゆたんぽシリーズを
念動力で俺の周囲に飛ばせる
卵を取ろうとしている敵を発見したら
すかさず早業で邪魔をする!
まほみっちの属性攻撃魔法とか
ばにみっちのキャノンとかで
遠距離に居ても仕留めるぜい!
敵が怯んだ隙に卵に近づき
うさみっちゆたんぽをコツンと当てる
卵をUCでうさみっちランドにご招待!
これならどんな大きさだろうと
いくつあろうと全部俺のものだ!
心なしかゆたんぽが輝いてきたような!
月夜・玲
どしたもんかなー…
まあ、手数で勝負って感じで行ってみようかな
というかこのガチョウ連れて帰って調べてみたいな…
1匹くらい良くない?ダメか…
あ、籠持って行っとこ
●行動
《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
この二つを【神器複製】で複製
『念動力』で操作した複製剣を足場に私はちょっと周囲を見渡せるよう上昇
籠も複製剣で吊るして宙に浮かせてそこに集めて行こう
全体を見て『念動力』で複製剣を飛ばして卵の回収&相手の卵集めの邪魔しよう
2本1組で動かして、火ばさみみたいに掴んで収集
敵に取られそうなら片方で牽制、片方でフルスイングして遠くに飛ばそう
こっちが金ぴかになったら殴りに行こうかな
とりゃー!
宇宙空間対応型・普通乗用車
ガチョウに限らず鳥類は総排出腔から卵を産む。
そして、卵に限らず鳥類は総排出腔からあらゆる物を排出する。
黄金の卵と人は言うが、あくまでそれは黄金の塊。
繁殖のための卵であると断言できる理由はない。
即ち…これ黄金のうんちなんじゃねぇの?
これを確かめるべく、
オレは車内に巣の材料を敷き詰めるようルシルにお願いした。
(彼は喜んで手伝ってくれたものと仮定する)
ついでに鳥類の音声DBからガチョウの音声をダウンロードし、
ガチョウを呼び寄せる準備を整えてここに降り立ったというわけだ。
黄金の卵は持ち帰…いや検疫的にマズイか?せめて成分解析…
藁人形!邪魔だ!【地中走行モード】の穿孔機で粉々になってろオラァ!
川村・育代
敵は複数いるみたいだし、先に卵を集められても厄介だから、迷彩で周囲の風景に紛れながらさりげなく卵を拾って回るわ。
集めた卵は服のポケットにでも入れておくわ。
鞄でも用意しておけば良かったわね。
敵に見つかったら、呪詛を込めた当たれば肉を灼き、骨を蝕む魔法少女のステッキや投げ舵輪で応戦するわ。
もちろん、ユーベルコードも併用してさらに追い打ちをかけるようにするわ。
向こうもあたしのように怨念で稼働するみたいだから、どっちの力が強いか勝負ね。
敵の放つ五寸釘攻撃は祟り縄で近くにいる他のストローマンを引き寄せて盾にして防ぐわ。
『あら、仲間割れ? 戦闘中なのにずいぶん余裕ね』
シリン・カービン
【SPD】
窪地を見つけて精霊銛を突き立て、
自分の陣であることを示します。
ダッシュで敵やガチョウの合間を駆け回り、
黄金の卵を拾っては次々自分の陣に投げ入れます。
「ここに貯まった卵が私の所有物、というわけですね」
卵を拾ったストローマンは、手元を狙撃し卵を弾きます。
こちらの卵を奪いにくるストローマンは火の精霊弾で牽制し、
近付かせません。
自分の体が黄金色に輝き始めたら頃合いですね。
集めた卵の山を背に、陣の前に仁王立ち。
「羽根妖精よ、私に続け」
【ピクシー・シューター】を発動。
複製された黄金の精霊猟銃からの一斉射撃。
火の精霊弾で藁人形を一掃します。
「…ガチョウは、狩っていいんでしたっけ?」
ふふ、嘘ですよ。
●黄金の卵は食べられないが黄金ガチョウが食べられないとは確かに言っていない件
ガーッ!
グァーッ!
「どしたもんかなー……」
黄金ガチョウがけたたましく鳴いて回っている芝生を、月夜・玲(頂の探究者・f01605)は上から見下ろし、思案していた。
《RE》IncarnationとBlue Bird。
ともに模造神器――Imitation sacred treasure――I.S.Tを利用した複製剣。その二振りを念動力で浮かび上がらせ、その上に立って空に浮かんでいるのだ。
高い視点を取る事で見えてきたのは、黄金ガチョウの数が1人が指折り数えて足りる程度ではないと言う事。
「結構多いね。となるとまあ、手数で勝負って感じで行ってみるかなー」
どうするのが効率が良いかと、玲は思考を巡らせている。
その間にも、ガーッとかグァーとか黄金ガチョウの鳴き声は響き続けている。
「というかあのガチョウの方、連れて帰って調べてみたいな……」
――1羽くらい良くない?
――いや、ダメだろ?
玲の中で、好奇心と理性が揺れていた。
一方、その頃。
「あ。あそこが良さそうですね」
黄金ガチョウが闊歩する芝生の中を歩いていた、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)が、やや窪んだ地面の前で足を止めた。
窪地と言うには狭い範囲だが、その分、深さがある。
シリンの目的には、むしろ適していると言えよう。
「では――ここを私の陣とします」
シリンはおもむろに精霊銛を取り出し天地を逆に構えると、窪地の中心を目掛けて鋭い穂先を振り下ろした。
ザクッと、銛が地面に突き立つ。
「ここに貯まった卵が私の所有物、というわけです」
シリンが突き立てた銛は、精霊銛の名の通り精霊力を蓄えている。その力で、シリンは銛の周囲の環境を陣と為したのだ。
「さて、あとは卵を集め――」
グァーッ! ガッガッ!
シリンの目の前を、黄金ガチョウが鳴きながらポテポテ通り過ぎていく。
「……ガチョウは、狩っていいんでしたっけ?」
狩人の血が騒いだか、シリンは思わずそんな事を呟いていた。
その時だ。
――グァー!
「さっきから」
――グァー!
「私のご飯を盗んでいるようだ」
――カカカッ!
「けれど」
――ガーッ!」
「そうは問屋はおろさないわ!!」
――カカカッ!
フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)の声と、ガチョウの鳴き声が交互に響いてきたのは。
「ん?」
「あら?」
空と地上で、玲とシリンが同時にそちらに視線を向ける。
まさかフィーナは、黄金ガチョウを追いかけているのか。
そうではなかった。
「待ちなさいこの藁人形ども!」
フィーナが追いかけているのは、藁の腕で黄金の卵を手にしている動く藁人形『ストローマン』である。
では何故黄金ガチョウの鳴き声も一緒に響いているかと言うと、一緒にいるのだ。
フィーナと。
より正確に言えば、フィーナの背中に、黄金のガチョウが3羽ほど括り付けられているのである。
「卵も! 鳥肉も! 私が見つけたのは、私のご飯よ!!!!」
捕まえるどころか食料扱いしてる魔女が、そこにいた。
●黄金卵の正体?
黄金ガチョウを捕まえる。
広い意味ではその行為に該当する事をしようとしている猟兵は、他にもいた。
「……」
芝生の上で、4ドア全てフルオープンにして佇んでいる乗用車。
一見、ただの4ドアタイプのセダンに見えるが、実は宇宙空間含めたあらゆる環境を走るスペースシップワールド生まれのイケメン車両こと、宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)である。
普通乗用車が、何故走りもせずに佇んでいるのか。
それはちゃんと、理由がある。
――ガー! ガーッ!
ガッ!ガッ!
カカカカッ、ガーッ!
普通乗用車の3次元音響式ナノスピーカーから、ガチョウの鳴き声が響き出した。
この乗用車のナビシステム、何故か鳥類音声データベースなるものがあるのだ。
『グァ?』
『ガ? カカカッ!』
黄金ガチョウからしてみれば、見た事もない鉄の塊から、何故か同じガチョウの鳴き声が聞こえてくる――と言ったところであろう。
そして、ひょこひょこ近づいてきた黄金ガチョウが目にしたものは、車内の座席の上に誂えられた、枝を集めた鳥の巣っぽいもの。
普通乗用車が車内にそんなものを置いている理由は、ただ1つ。
車内に黄金の卵を産ませようと言うのだ。
なお、巣は計画を聞いたどこぞのエルフが大笑いして作ったのだとか。
オウガから黄金の卵を守りつつ、確実に自分の車内に黄金の卵を確保できる。
だが、普通乗用車の狙いはそれだけではない。
『グワッ!』
ついに黄金ガチョウの1羽が、普通乗用車の車内に黄金の卵を産み落とした。
(「よし、成分解析――開始!」)
普通乗用車の車内カメラが、黄金の卵を撮影し、成分スキャンにかける。
そう。普通乗用車は、黄金の卵を解析しようと言うのだ。
普通乗用車の鳥類データベースによれば、鳥類は総排出腔、と呼ばれる体内器官から卵を産む。鳥類は、卵に限らず総排出腔からあらゆる物を排出する。
黄金の卵とは言うが、あくまでそれは黄金の塊。
繁殖のための卵ではないと言う、
だからこそ、猟兵は口から飲み込むことをお勧めされなかった。
と言う事は、だ。
「……これ黄金のうん○なんじゃねぇの?」
普通乗用車は、とんでもない疑いを黄金の卵にかけていたのだ。
『成分解析、完了しました』
ややあって、ナビシステムの音声が完了を告げてくる。
『推定密度、19.32 g/cm3。反磁性。結晶構造、面心立方格子構造。以上の結果より、原子番号79、第11族元素に属する金属元素Auの無機物――所謂Goldであると推定』
「なん、だと……」
ナビシステムが出した答えは、紛れもない、金。
推定ではあるが――つまり、無機物。
有機物ではないのなら、少なくとも○○○ではない。
「……だとすると、検疫的にマズくもない? 持ち帰れちゃう?」
普通乗用車の中に、黄金を持ち帰る、と言う欲が生まれる。この世界を出ればただの黄金の卵になるとは言え――金としての価値はある?
「だから待てっつってんでしょうが、そこの藁人形ども!!」
ガガガーッ! グァッ!
そこを、やっぱり背中に黄金ガチョウ括り付けたフィーナが、自身の声とガチョウの鳴き声を響かせながら、ストローマン追っかけて走り去っていった。
どう見ても持ち帰る気満々である。
「よーし! どんっどん、生みに来い!」
普通乗用車の中で欲が勝って、スピーカーからガチョウの鳴き声が再び鳴り響いた。
●金に目が眩んでやがる
「そっこだー!」
短い草が生えた芝生の上に、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)がずさーっと滑り込む。
「黄金の卵、ゲットー!」
人間種族に比べれば幾分と小さな両手には、黄金の卵が確りと握られていた。
「うーむ、結構デカいな」
うさみっちの両手に伝わる重みは、卵のそれではない。
「さっき車の人も金って言ってたしな。売ったらおいくらになるんだろ!?」
そのゴールデンな輝きに、うさみっちの目が『¥』になっていた。
流石、何処かの誰かに、プリティな見た目で金にがめついロクデナシ、と評されただけの事はある。
だが、そんなうさみっちの手元が急に薄暗くなった。
「ん?」
見上げれば、巨大な藁人形が五寸釘刺さった腕を伸ばしてきている。
「ぴゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
藁の腕が届く寸前、うさみっちは黄金の卵を抱えてぶーんっと飛び出す。
「あっぶねー。そんな邪なことを考えている場合じゃなかったぜ」
ストローマンの魔手から辛くも逃げきって、うさみっちは空でほっと一息吐いた。
そう。
藁人形との黄金の卵争奪戦は、始まっているのだ。
●地味に堅実に
(「先に卵を集められても厄介だから、兎に角、数を集めないとね」)
胸中で呟く川村・育代(模範的児童・f28016)の姿は、敵の藁人形――ストローマンはおろか、他の猟兵にも見えていない者はいただろう。
迷彩技術を駆使し、周囲の風景に溶け込んでいるのだ。
姿を隠してストローマンの間を抜けて、ストローマンが拾おうとしている黄金の卵を先にかっさらっていく。
問題は、育代にため込む手段がないと言う事だろう。
精々が、服のポケットに入れるくらい。
(「鞄でも用意しておけばよかったわね」)
胸中で呟きながら、育代はまたストローマンの目の前で黄金の卵を先に拾っていく。
許容量と言う問題点はあるにせよ――割と欲に目が眩んでいる者がいる中で、ストローマンの妨害をすると言う点で、育代は堅実に成果を出していた。
●黄金神器
「さあ、私の研究成果のお披露目だよ!」
二振りの複製剣の上で、玲が声を上げる。
コード・デュプリケート――神器複製。
I.S.Tの複製剣である《RE》IncarnationとBlue Bird。その二振りが、あっという間に複製されて、数を増やしていく。
「さて。回収していくか」
玲は増やした剣を2本ずつ組み合わせると、それらを火ばさみの様に扱って、眼下に転がる黄金の卵を摘まみ上げていく。
摘まんだ卵は、玲が足場と乗っている剣から下げた籠の中へ。
「っと、結構滑るな」
何度か空中で落としそうになって、玲は剣の編成を2本1組から、3本1組へと変える様になった。摘まむだけなら2本でも充分だが、それを持ち上げ、運ぶとなると、卵の偏った球体を2本では中々安定しなかったのだ。
『――。――!』
「おっと、横取りしようっての? させないよ」
たまにストローマンとの奪い合いになるが、玲は複製剣を操り、牽制で足を止めてから痛烈な横薙ぎフルスイングを藁人形ボディに叩き込んで、遠くへと吹っ飛ばす。
そんなやり取りを何度繰り返したか。
気づけば、玲の足元が黄金の輝きを放っていた。
「あ、複製体から来たか」
玲の足元にある二振りから神器複製で増やした複製へ。そしてその上に立つ、玲自身へと、黄金の輝きが広がっていく。
「それじゃあそろそろ、お掃除と行きますか」
黄金の卵の力を充分に得た玲は、今まで黄金の卵を拾う火ばさみ替わりにしていた《RE》IncarnationとBlue Birdの複製を、全て空へと浮かび上がらせた。
「吹っ飛ばす程度じゃ、済まさないよ」
片手を掲げ、振り下ろす。
黄金の卵の力で高まった玲の念力が、複製体を操る速度を上昇させる。黄金に染まった神器の複製が、黄金の雨が如く空から降り注ぐ。
空に黄金が閃き、刺し貫かれたストローマンが消えていく。
玲の眼下に見えるのが、地面に突き立った黄金の神器のみとなるのに、あまり時間はかからなかった。
●黄金猟銃
「生みたて、頂きますよ」
黄金のガチョウが生んだ傍から、シリンが黄金の卵を拾って放り投げる。
放り投げる瞬間、視界の端に藁の腕を伸ばすストローマンを見つけ、シリンは精霊猟銃を構えた。
「遅い」
速度重視の風の精霊弾で、藁の腕の手元を撃ち黄金の卵を弾き飛ばす。
あ――と言う感じで藁の腕を伸ばすストローマンの上を跳び越え、シリンは空中で黄金の卵を掴むと、やはり放り投げた。
駆け抜け、撃ち、跳んで。
シリンは黄金の卵を拾っては、それを手元に置かずに放り投げ続ける。
その先は、精霊銛を突き立てた窪地。
先に宣言した通り、そこはもうシリンの陣の中。即ち、そこにあるものはシリンの所有物足り得る。
だが――それだけ黄金の卵を集めていれば、ストローマンが気付かない筈もない。
「狙って来るのは織り込み済みです」
精霊銛のある窪地の方へ向かい出したストローマンに気づいたシリンは、精霊猟銃のハンドグリップをスライドし、残る弾丸を全て排出する。
替わりに込めたのは、火の精霊弾。
「近付かせません」
当たれば炎が爆ぜる弾丸で牽制し、シリンはストローマンを寄せ付けない。
そうしている間にも、精霊銛に黄金の卵の力が集まっていた。その力は、精霊を解してシリンへと伝わっていく。
やがて――シリンの身体が黄金に輝き出した。
「頃合いですね」
突き立てた精霊銛が黄金に輝く陣を背に立って、シリンが精霊猟銃を手放す。
「羽根妖精よ、私に続け」
精霊猟銃が地に落ちる前に、羽根が生えたようにふわりと浮き上がった。
浮かんだだけではなく、幾つも幾つも増えていく。
ピクシー・シューター。
精霊猟銃を複製する、羽根妖精の狩猟術。
複製された精霊猟銃の銃身も、黄金の卵の力で黄金に輝いている。
「狩ったところで得る部位もなさそうですが――あなたは私の獲物」
黄金の精霊猟銃からの一斉射撃。
黄金に輝く火の精霊弾の雨がストローマンに降り注ぎ、藁の身体に火を付け、悉く焼き尽くしていった。
●輝く児童
ヒュッと言う風を割く小さな音が、育代の耳に届いた。
「っ!」
音に気づいて咄嗟に飛び退いた育代の立っていた場所に、五寸釘が突き刺さる。
(「気づかれた? 何で――?」)
迷彩は解いていない筈。
それを確かめようと自身の身体を見下ろして、育代は気づいた。
いつの間にか、うっすらと黄金の輝きに包まれていた事に。
「ポケットに入れてる程度でも、このくらいの効果は出るのね」
その光が、ストローマンにも見えていたのだろう。
「迷彩をかけ直す時間は――なさそうね」
数体のストローマンに狙われている。
ならばと、育代は手を伸ばしそこに現れた縄を掴んだ。
育代が手にしたのは、災厄の呪いを籠められた祟り縄。それは蛇の様にうねり、ストローマンの一体に絡みつく。
『!!』
他のストローマンが五寸釘を放つ寸前、育代はぐんっと縄を引いて、縄が絡んだストローマンを引き寄せた。
幾何学模様を描いて飛来した五寸釘が、藁の身体に突き刺さる。
「あら、仲間割れ? 戦闘中なのにずいぶん余裕ね」
五寸釘塗れになったストローマンを放り投げ、育代は挑発的な笑みを浮かべる。
「あなたたちも、怨念で動いているんでしょう? あたしもよ」
育代は、教育支援用バーチャルキャラクター。
だった――と言うべきだろうか。別に今でもその立場を捨てたわけではないが、子どもたちと接する中で触れたのは、明るい感情ばかりではない。
いじめ被害の怒り、悲しみ。病の苦しみに、死の恐怖。
そうした負の感情が、育代を猟兵にした。
「どっちの力が強いか勝負ね」
祟り縄を手放し、育代は舵輪を投げる。
回転しながら弧を描いて飛んだ舵輪がストローマン達をを叩いて、全く同じ軌道を描いて育代の手に戻ってきた。
舵輪が当たったストローマンに、一見、傷は無い。
だが、育代が舵輪に込めた肉を灼き、骨を蝕む呪詛は、藁の身体を灼いていた。呪詛は通常の手段では癒せない傷も同じ。
そして――呪いが連鎖する。
三度、五寸釘が放たれた瞬間、ストローマン達が揃って転んだ。そこには何もなかった筈なのに、石に躓いた様に。
体勢を崩し、あらぬ方向に放たれた五寸釘は、彼ら自身に降り注ぐ。
自ら放った五寸釘に撃ち抜かれ、ストローマン達が消えていく。その場に残った黄金の卵を拾いあげると、育代の身体を覆う黄金の輝きが強くなった。
「……どうすれば迷彩出来るの、これ?」
黄金に輝く自分の身体と言う未体験の現象に、育代はしばし困惑を隠せなかった。
●ゴールデンセダン
ガン、ゴンッと、藁の拳がセダンの車体を叩いている。
まだ停車したままの普通乗用車は、ストローマンに囲まれていた。
――ガー! ガーッ!
ククガッ、グアッ!
まあ車内で数羽の黄金ガチョウが騒いでいれば、気づかれるのも仕方がない。だけど数羽も確保していたから、普通乗用車は待っていたのだ。
十分な数の黄金の卵が産み落とされるのを。
やがて、普通乗用車のボディの外装が、黄金に輝き出す。
「よーし! 発車の時間だオラ! 掴まれよぉ!」
ガチョウに掴まれと無茶言って、普通乗用車のエンジンが動き出す。
『回転力よし! 熱力変換効率よし! 防圧防塵防熱性能まぁ多分よし! 動作チェックも終えたところで早速掘るといたしますかぁ!』
そればかりか、どこに収納されていたのか、穿孔機が車体前面に現れて、熱力変換型推進装置が動き出し、防圧防塵防熱装甲が車体を覆う。
そして、黄金に染まった穿孔機がゆっくりと回転を始めた。
地中走行モード。
「藁人形はお呼びじゃねえ! 邪魔だ!」
地面を掘り進むための機能をフル回転して、猛然と走り出した普通乗用車は、黄金の旋風となって、ストローマンを蹴散らし、ただの藁くずへと変えていく。
「――終点だぜ、お客さん」
やがて周囲からストローマンがいなくなると、普通乗用車はドアを開けた。
だが――。
――ガ?
――グァ?
黄金ガチョウたちは、何で降りなきゃならないの?と言った様子で、羽根をたたんでぺたんと腹ばいなっている。
「ちょ! おい、なに居座る体勢になってやがる! 降りろっての! 降りねえとお持ち帰りして焼き鳥にすんぞ、オラァ!」
巣が良かったのか、座席を気に入ったのか。
黄金ガチョウと普通乗用車の、新たな戦いが幕を開けた。
●ゴールデンゆたんぽカーニバル
襲われかけたおかげで正気に戻ったうさみっちは、ストローマンの手が届かない空で、改めて黄金の卵を顔の前に掲げた。
そうするだけで、両手が埋まってしまっている。
「こうすれば両手は空くが、俺の身体じゃあ、たくさん所持しろと言われても、両手でもう1個2個抱えるのが精一杯だろうな」
黄金の卵をパーカーのフードに入れて両手を空けたところで、うさみっちは自分のサイズでは限界がある事を認めていた。
「なーんて諦めると思ったか!」
うさみっちには策がある。
空いた両手で掲げた、うさみっちゆたんぽと言う秘策が。
それはただのゆたんぽではない。
「どんどんいくぜ! さむらいっち! まほみっち! ばにみっち!」
ゆたんぽの中から、様々なうさみっちゆたんぽシリーズが、次々取り出される。
最初のうさみっちゆたんぽこそ、うさみっちゆたんぽシリーズが沢山収納されているゆたんぽ、という、ゆたんぽがゲシュタルト崩壊しそうなアイテムである。
「うさみっちシリーズの力、見せてやるぜ!」
うさみっちは念動力で操れる限りのうさみっちゆたんぽシリーズを操り、眼下で黄金の卵を探して彷徨うストローマンにけしかける。
着物姿のさむらいっちの刀がストローマンの藁の腕を叩いて弾き、そこにまほみっちが風の魔法をぶつけ、ばにみっちキャノンが火を噴く。
『――!!?』
ストローマンの体勢が、ぐらりと崩れる。
「今回は入園料はいらねーぜ! 卵だしな!」
そこにぶーんと急降下してきたうさみっち本人が、うさみっちゆたんぽを黄金の卵にコツンッと当てた。
瞬間、うさみっちゆたんぽに吸い込まれるように黄金の卵が消える。
実際に、吸い込まれたのだ。
うさみっちゆたんぽの中に広がる空間。うさみっちシリーズが沢山いるテーマパーク、ゆめのくにうさみっちランドの中に。
「この調子で、どんどん集めてやるぜ!」
うさみっちシリーズで妨害し、うさみっちゆたんぽの中にしまう。
その繰り返しで、うさみっちはストローマンに黄金の卵を渡さず、自分は着実に黄金の卵を集めていく。
――どれだけ、その工程を繰り返しただろうか。
「お? おおお? うさみっちゆたんぽが……光ってる!」
気が付いた時には、うさみっちゆたんぽが黄金の輝きを放っていた。うさみっちゆたんぽだけではない。
さむらいっちの黄金に輝く刀がストローマンの腕を一刀の元に斬り落とし、まほみっちの黄金の杖から放たれた炎がストローマンを焼いていく。
ばにみっちの黄金のキャノンから放たれた砲撃が、ストローマンに風穴を開ける。
うさみっちゆたんぽシリーズも、黄金の卵の力で、ゴールデンうさみっちゆたんぽシリーズにパワーアップしたのだ。
「ふはははは! ゴールデンうさみっち様のお通りだー!」
すっかりいい気になったうさみっちは、ゴールデンシリーズを従え、ストローマンを蹂躙して行くのだった。
●黒金炎
どれだけ走り続けただろうか。
「ええい、うっさい! しかも追いかけるの面倒くさいし! 燃やすわ!」
短気を起こして、フィーナが愛用の杖を構える。
とは言え、フィーナも黄金の卵を取られてばかりではない。既に幾つか拾って腰の辺りに入れてあるし、頭のとんがり帽子の中にも1つ隠している。
所持数で言えば、フィーナの方がずっと有利なのだ。
だからと言って1つ2つだからまあいいか、まだ巻き返しは充分出来るのだからまた集めて上回ればいい――とはならないのが、フィーナである。
例え1つ2つだろうが、目の前で狙っていた獲物を敵に持っていかれて見逃せるほど、フィーナの心は広くない。
そんな生易しい生き方は、してこなかったから。
「藁人形だし燃えやすいんじゃないかしら! ちゃちゃっと燃やすとするわ!」
詠唱省略したフィーナの杖から、黒炎が放たれる。炎はみるみる広がり、ストローマンたちを飲み込んで――。
ぶわっと炎を振り払って、ストローマンが2体になって逃げだした。
「ちぃっ! 卵がまだ足りないみたいね……!」
詠唱省略は、フィーナの常套手段。
仕留め切れず逃げられた理由には考えにくい。他にあると言うのなら、ストローマンに1つ黄金の卵を拾われていると言う現実だ。
だとしたら、もっと黄金の卵が必要だ。
「って言うか、ガチョウ邪魔! うっさい!」
自分で捕まえておいて、フィーナは背中のガチョウに文句を言う。まあ、そんな間近にガチョウが鳴いてれば、うるさいだろう。
だが――フィーナとて、ただ食料扱いだけで捕まえたわけではない。
「そろそろ産みなさいよ!」
――ポンッ!
そんな軽い音と共に、フィーナの足元に黄金の卵が転がって来た。
どこから出て来たのか?
そんなの決まっている。卵は親鳥が産むものだ。
「よし! これで7つ目ー!」
背中の3羽の黄金のガチョウが生んだ黄金の卵をとんがり帽子の中に放り込んで、フィーナが不敵な笑みを浮かべる。
卵を探すよりも、卵を産む元を抑えてしまえ。
「ここからが――スーパーフィーナタイムよ!」
フィーナのトレードマークと言える黒いとんがり帽子とマントが黄金色に輝き出す。輝きは、フィーナの全身に広がっていった。
「其は全てを飲み込む黒き炎、我が眼前に――」
今度は、さっき省略した詠唱もちゃんと唱えて――。
「やっぱ省略! 焼きつくせえぇぇええ!!」
途中で面倒になって省略してフィーナが放った炎は、光を通さぬ黒に黄金の輝きが混ざり合った、フィーナ自身も今までに見た事ない炎になっていた。
ストローマンの内にどれほどの怨念があっても、強化された灼熱の黒金炎は、その怨念すらも飲み込み、焼き尽くしていく。
黒金の炎が消え、フィーナの手が灰の中から黄金の卵を拾いあげた。
「よし! 8つ目!」
フィーナの身体を覆う黄金の輝きが、更に強くなる。
なればこそ。
「ふふん、覚悟しなさい、藁人形ども!」
フィーナが発する黒金炎が、更に轟々と猛り狂う。
これが黄金の卵の力――スーパーフィーナタイム。
フィーナの眼前にいた全てのストローマンが灰燼と焼き尽くされるのに、時間はかからなかった。
●ご自由にどうぞ
なお、フィーナの背中の黄金ガチョウと、普通乗用車の車内の黄金ガチョウがどうなったか。
それは、彼らのみぞ知る事である。
大成功
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