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迷宮災厄戦⑭〜ザ・レイト・ショー・ウィズ・パジャマ

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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「・・・いやはや、最前線で戦う身ではないものの、これだけ短期間に連続で予知を繰り返していると中々に眠気が辛くなってくるね。キミたちも疲れが溜まってはいないかい? 夏風邪には注意してくれよ?」

 アストリッド・サンドバック(不思議の国の星占い師・f27581)は、眠たそうに目を擦りながら欠伸を噛み殺した。もし必要なら飲んでくれ、と集まった猟兵たちに用意されたのはブラックコーヒー。それと、市販品のエナジードリンクが数種類。アストリッドは天球儀をクルリと操作すると、予知内容について話し始めた。

「却説(さて)、恒例の決まり文句<クリシェ>から語らせてもらうよ。・・・『不思議の国』アリスラビリンスにおける『迷宮災厄戦 (ラビリンス・オウガ・ウォー)』は依然として進行中。オウガ・オリジン、猟書家、そしてボクたち猟兵の戦いも、より一層熾烈になってきたところだね」

 す、と真鍮製の金属環に指を這わせれば、そこから見えてくるのは本日の予知。

「今日の星々の運行から視えた予知を基にすると、キミたちに向かってもらう世界は『おやすみなさいの国』、とってもふわふわな夢の国になる。……なんでも、全体がふわふわとした夢見心地の睡魔に覆われている国になるようだね」

 そこは平時であれば楽園のような国。ふわふわのもこもこで、ゆるふわでふわとろな、誰もがすやすやと眠りに落ちる素敵な空間。ゆるやかに、ひそやかに、延々と睡魔に揺蕩う眠りの国だ。

「―――だが、戦場として考えると、この国は非常に厄介だよ。猟兵といえど、強力な睡魔に襲われて戦うことも満足に行かない。故に……今回、キミたちには、特殊な作戦を実行してもらう必要があるんだ」

 そこまで口にして、アストリッドは一旦言葉を区切った。どこからか取り出したのは複数枚の紙をステープラで留めた束。その紙束の表紙には『パジャマパーティー開催のお知らせ』とポップ体の文字が踊っている。

「キミたちには、全力でパジャマパーティーを楽しんでもらうことになる」

 敵オウガの名は『夢喰いクラゲ』 暗闇と心地よい光で眠気を誘い、心落ち着かせるアロマを周囲に漂わせ、必要とあればその触腕でマッサージすらしてくれる、実に恐るべきオウガである。
 キミたちは、決して睡魔に負けることなく、パジャマパーティーを楽しんで欲しい…! そう力説するアストリッドは、お知らせの紙を参加猟兵に手渡していく。なんでも、直接戦おうとすれば強烈な睡魔に襲われるが、パジャマパーティーをしている間は何故か支障無く行動できるらしい……そう、これは敵オウガを倒すために必要な事なのだ!

「ああ、これは『パジャマパーティー』だからね。各自、自分の寝巻やパジャマは持参で頼むよ。その他、パーティに必要そうな物があったら持ち込むといい。……大切なのは、楽しいパジャマパーティーにすることだ。みんなの準備ができたら、送り出させてもらうよ」
 折角だから存分に楽しんでくるといい、と。実はお祭りやイベントが大好きなアストリッドは、悪戯っぽく微笑んだ。


骨ヶ原千寿
 6作目です。コツガハラと申します。
 補足説明をします。

 この依頼の【プレイングボーナス】は、【パジャマパーティーをしながら戦う】です。ご希望の寝巻、寝具、パジャマがありましたらプレイング中に記載ください。特段の指定が無ければ、こちらでパジャマを用意させていただきます。

 どうぞ、楽しいパジャマパーティーを。
 また、この依頼は来たプレイングから順々に、速度優先で執筆させていただきます。
 頑張って書かせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『夢喰いクラゲ』

POW   :    おやすみなさい
いま戦っている対象に有効な【暗闇と、心地よい明かり】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    良い夢を
【頭部から眠りを誘う香り】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    気持ちよく眠って
【両手】から【気持ちいい振動】を放ち、【マッサージ】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:透人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アハト・アリスズナンバー
クラゲとパジャマパーティー。
アリスラビリンスは何でもありですね……

パーティーするなら人を呼びましょうか。
UCを起動して他のナンバー達を呼びます。
全員寝間着を装備です。私も此間買ったパジャマでも着てましょ。

そしてまくら投げとしましょうか。
此方の枕はこの槍です。槍は最近抱き枕として人気らしいですよ。
【槍投げ】でクラゲに対して【貫通攻撃】します。
刺さってるなら救出するフリで【傷口をえぐる】ことにします。
そして傷口にどぶろくの中身で消毒しつつ【マヒ攻撃】です。

すみませんね。行かなきゃいけない所があるんです。
楽しむのは、またこの戦いが終わって平和になってから。



 その国は、ふかふかのふわふわだった。

 足元にはもふもふの毛布が、ふんわりした布団が敷き詰められている。その布の色と質感は様々で、羽毛のように軽やかな掛け布から、しっとりひんやりした肌触りのブランケットまでバリエーションは豊か。枕の材質も羊毛100%の柔らかい感触の物から、通気性抜群の藤製の枕、果ては首筋をしっかりと支えてくれる高反発ウレタンの枕まで、まさに至れり尽くせりといった様相だ。ここは眠る為の場所、夢を見る為の世界、その名は『おやすみなさいの国』……この国の全ては、おやすみなさいと眠る為に誂えられている。

「クラゲとパジャマパーティー。アリスラビリンスは何でもありですね……」

 そう小さく独り言ちたのは、アハト・アリスズナンバー(アリスズナンバー8号・f28285)だ。その整った顔が視線を向ける先には、布団とベッドのパッチワークになったような世界と、ぼんやりと中空を漂っている敵オウガの姿があった。敵オウガ……『夢喰いクラゲ』の群れである。一見して害が無さそうに見える彼らは、この世界の理に添うようにパジャマめいた柔らかな薄布を纏っていた。どうやら彼らも『パジャマパーティー』の最中であるようで、その半透明の身体と触腕はぼんやりとした発光を繰り返し、仲間たちと会話めいた交流をしているようである。……布に身を包んで光るクラゲの姿は些かシュールな外見となっていたが、アハトはそれをアリスラビリンスらしい光景と納得することにしたようだ。

「・・・パーティーするなら人を呼びましょうか」

 嘆息したアハトがユーベルコードを発動すれば、その背後に神秘の光が満ちる。眩い輝きが落ち着けば、そこに現れるのはアハトと瓜二つの顔をした少女……否、少女『達』だ。その数、総勢84名。整った顔がずらりと立ち並ぶ姿はある種壮観で、その誰もが同じように感情の色の薄い表情を浮かべている。用いられたユーベルコードは【サモン・アリスズナンバー】……つまり、この場に召喚されたのはフラスコチャイルドであるアハトと同一の記憶を保持する別個体たちである。
 全員が寝間着を着用済み、アハトもこの間買ったパジャマを着ている。実質的に猟兵一名なのだが、その規模はUDCアースで表現される所の『修学旅行の二、三クラスの生徒数』に匹敵するであろうか。つまり、『パジャマパーティー』とやらを開催するには十分な頭数である。

「そして、まくら投げとしましょうか」
 そう言い放つアハトが手に取ったのは、愛用の槍『アリスズナンバーランス』である。その形状はどこをどう見ても槍であり、決して枕では無い。だが、彼女が無表情に宣って曰く、此方の枕はこの槍です、とのこと。槍は最近抱き枕として人気らしいですよ、などと、キマイラフューチャーですら通用しなそうな胡乱な内容を呟いている。口調と表情も相まって、冗談なのか本気なのか判別が難しい。
 だが、ひゅっと風切音を立てて投擲された槍が、彼女の視線の先のクラゲを射抜く。成程、どうやら本気であったらしい。上手く貫通できたので20ポイントをゲットです。次の別個体が同じように槍を構えると、同様にして投擲を開始。ああ、こちらは僅かにズレたので10ポイント獲得。次の子は触手を飛ばしただけなので5ポイントですね。
 クラゲたちが抗議するように明滅するのも意に介さず、アハトとその別個体たちは槍投げ……もとい、『枕投げ』を継続。パジャマパーティーといえば枕投げは定番の行事であるからして、彼女たちが行っている行為も広い意味で捉えれば枕投げと強弁する事も可能であるのかもしれない。槍が突き刺さったまま抜けなくなったクラゲには、どれ抜いてやろうと近づいていき、そのままさり気なく傷口を抉っていく。そして消毒だと言わんばかりにドバドバと瓶からどぶろくの中身を傷口にかけていくが、どうやらクラゲたちには傷口に塩を塗られたのと同じようになる様子。どぶろくを浴びせられる端からクラゲたちは元気を失っていく。

「すみませんね。行かなきゃいけない所があるんです」
 無表情めいたアハトは、特に声色も語調も変えることなく淡々と口にした。
 その思考が向かう先は、目の前のふわふわとした眠りと夢の国ではなく、これから戦うことになる別の戦場と別の敵だ。アリスラビリンスにて繰り広げられる『迷宮災厄戦』―――その終わりは未だに見えず、安らかな休息をしている時間は無い。アハトは夢に揺蕩う少女にあらず。その在り方は、他者の物語を幸せに導く者。彼女は夢を見るのではなく、夢見る誰かを守る為に戦う存在。見据えている先にあるのは極めて現実的な脅威と敵で、戦う理由は自分以外の誰かの為である。・・・あるいは、それこそが彼女の『夢』なのか。どこかの世界の、脳髄だけになった少女が見ている果て無き『夢』であるのか……それは、彼女のみしか知り得ぬ事であるのだけれど。

 ―――楽しむのは、またこの戦いが終わって平和になってから。
 アハトは、淡々とクラゲを槍で射抜いた。今度はぴったり真ん中を貫通です。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
※パジャマはお任せします

この不思議な国に適応した相手、ということになるのでしょうか。
恐ろしい……いえ、恐ろしくはありませんが面倒な敵ですね。

パジャマパーティ……とは言っても一人だとそう色々とはできませんが、ひとまず食べ物だけは用意してきました。
以前この世界に来た時に愉快な仲間たちからもらったクッキーやカップケーキ、それにアルダワで買ったチョコレートに……ちょっと多いですが、全て食べきる必要もないでしょう。

番犬代わりに【氷の獣】を召喚、こちらを眠りにつかせるために近寄ってくる敵を襲わせます。
その間お菓子を食べながらパジャマで寝転がっていましょう……こんなこと、故郷ではとてもできませんね。



 視線の先には、ぼんやりと明滅するクラゲの群れ。
 暗闇に点る心地良い明かりと、そこから漂ってくる眠気を誘う甘い香り。その周囲状況を油断無く確認している猟兵は、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)だ。その視点の性質は狙撃に慣れた射手の物。もし己の得物で撃ち抜くのであれば如何にするかと無意識下で推し測りつつも、揺らめくクラゲたちの生態に思いを馳せる。

(この不思議な国に適応した相手、ということになるのでしょうか)
 『おやすみなさいの国』は、アリスラビリンスに所在する幾多の不思議の国の中でも、特に『眠り』に特徴のある国だ。国全体が巨大な寝室と表現して差支えない。安眠と熟睡のために、想像しうる限りの好条件が揃えられた夢の世界。世界そのものが夢なのではなく、この世界に訪れた誰もがそれぞれの夢を見るための場所。毛布に包まれて眠りたい者にはふわふわの毛布が与えられる。広々としたベッドで眠りたい者には、御伽話に登場するお姫様が眠るような、豪奢な天蓋つきキングサイズのベッドが与えられる……そんな国である。

 その国にあって、オウガである『夢喰いクラゲ』は、まさに『おやすみなさいの国』に相応しい存在であった。オウガに進化や環境適応という概念があるかは不明であるものの、アリスや愉快な仲間たちを夢に堕としてしまうクラゲたちは、この国の特性を最大限に活かしている存在といえるだろう。
(恐ろしい……いえ、恐ろしくはありませんが面倒な敵ですね)
 明滅するクラゲたちを見ているだけで、セルマの目蓋も重くなっていく。視界は夜更かしをした時のように少しずつ霞んでいき、戦場であるにも関わらず身体からは緊張が解けていく。鼻腔をくすぐる甘い香りを吸いこめば、吐く息からは全身の無駄な力が抜けていってしまうかのよう。夢を喰らうというクラゲの特性と、『おやすみなさいの国』の性質が、猟兵であろうとも抗いがたい眠気を感じさせていく。

 眠気を振り払うように、セルマは首を振った。彼女が着ているのは、飾り気の無いシンプルな薄青色のパジャマだ。ゆったりとしたデザインのそれは、意匠よりも着心地を優先しているらしい。通気性と保温性を両立させ、締め付け感や生地の重さを感じさせない軽やかな造りとなっている。ここは猟兵としての戦いの場でありつつも、同時に『パジャマパーティー』を楽しまねばならない状況である。普段から戦いに身を置く彼女からすれば防御力など絶無のパジャマで戦場に立つなど考えられないシチュエーションではあったが、これも仕方の無い事かと割り切るしかない。

 セルマが床に敷かれたシーツの上に広げたのは、多種多様なお菓子の山だ。その分量は一人で食べるには多く思えるものの、それでも持ってきてしまった理由は何処にあったか。クッキーやカップケーキは、以前にアリスラビリンスの愉快な仲間たちから貰ったもの。アリスラビリンスの仲間たちは、誰かを歓待するのに甘いお菓子やお茶を振る舞うのを好むのが常だ。記憶の頁を捲れば、アリスや愉快な仲間たちと甘味を共に食べて語らった記憶が想起される。こちらのチョコレートはアルダワ魔法学園で購入した物。アルダワ学生に人気の店で買ったチョコレートだ。お菓子の一つをとっても、そこには世界を巡った記憶が共にある。

 彼女がその身体を横にすれば、その周囲に現れるのは狼の群れだ。無論、普通の狼では無い。セルマのユーベルコードによって呼び出された氷の獣たちである。狼たちは己の主が静かに身を横たえているのを見、そしてクラゲたちがセルマの夢を喰べようと接近を試みるのを察知すると、自分たちが呼び出された理由を理解したようだった。彼らは賢く忠実な狼たちだ。主の休息を邪魔する闖入者に容赦はしない。唸ることも吼えることもせずに、ただ静かに前足と牙でクラゲたちを追い散らす。

 ごろん、と寝転がった姿勢でセルマはぼんやりと思う。・・・こんなこと、故郷ではとてもできませんね、と。
 彼女の故郷は、夜と闇に覆われた世界、異端の神々と吸血鬼が跋扈するダークセイヴァーだ。生まれた街は吸血鬼に支配されていたし、彼女の出自もこのような平穏と安寧からは遠いものであった。猟兵として活動するうちに少しずつ心持ちにも変化のある彼女ではあるが、その根底には故郷である世界の夜と闇が刻まれている。
 寝転んだ姿勢のまま、セルマはお菓子の山に手を伸ばす。掴み取ったのは、一枚のチョコレートだ。包み紙を剥がして、口に含む。広がるのは幸せの味、甘くとろける味だ。周囲の警戒は狼たちに任せていればいい。彼らは極力音も立てないようにして、静かにクラゲたちをこの場から遠ざけている。そう、この場では敵襲に怯える必要は無い。凍える寒さも、嵐の雨風も恐れる必要も無い。甘い菓子は食べきれないほどにまだまだあるし、寝床は柔らかくて快適だ。何も心配しなくていい、ただゆっくりと休めばいい。
 セルマがゆっくりと菓子を食べ、ぼんやりとした思考でつらつらと物思いに耽り、やがては半ば微睡みに揺蕩うまでの間―――氷の狼たちは、彼らの主を守護し続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
大規模メンテナンスの際、演算機能の大部分を落とす時間が私にとって『睡眠』に当たるなら…

この装甲こそが普段着であり、正装であり、パジャマでもあります
そして、この顔自体がナイトキャップなのです…!(強弁)

スペル違いですが、この世界でなら(言葉遊び的意味で)許されるような気も…やはり不安ですので安物ナイトキャップを被っていきましょう

●世界知識によると就寝前に『枕投げ』なる遊びが行われることがあるとか
それに乗っ取り大量の枕を用意してきました
SSW解放軍正式採用手榴弾を中に詰め込んだそれを●怪力で●投擲

…枕と共に騎士の矜持も投げ捨てているような
いえ、猟書家の脅威を削ぐ為、止まる訳にはいかないのです!



 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は数分前の出来事を回想する。
(大規模メンテナンスの際、演算機能の大部分を落とす時間が私にとって『睡眠』に当たるなら…!)
 機械の身体を持つウォーマシンである彼にとって、脳と肉体を休めるための休息は不要である。尤も、当然ながら彼とて永久機関では無いため、時にはメンテナンスも必要となる。単純に破損した外装や摩耗部品を交換するだけならば大した手間では無いが、内部の演算機能や制御装置に関わってくる保守点検ともなれば相応の時間もコストも必要だ。週単位、月単位で定期的にスケジューリングされている予定のそれは、多かれ少なかれ彼の演算機能を制限・縮退させることになる。彼にとっての思考とは、高度な演算が弾き出した計算の統合結果だ。……であるならば、その計算能力が落ちているメンテナンス中の時間は微睡みに、部品交換は睡眠による疲労回復に、ファームウェアのアップデート等は眠る脳の記憶整理に……それぞれ近似するのではないか? トリテレイアはそう考えたのである。
 鋼鉄の装甲を持つ彼に、着用する衣服という概念は無い。その騎士鎧めいた装甲こそが、彼にとっての普段着であり正装に相当するのである。そして、メンテナンス中であろうともそれは変わらない・・・つまり、この姿はパジャマであると言う事も可能なのでは? 論理としては牽強付会で、いささか無理のある論調であったが……なんとかしてアリスラビリンスを救う一助として出撃を試みるトリテレイアは、グリモア猟兵に向かって強弁していた。
(―――そして、この顔自体がナイトキャップなのです…!)

 グリモア猟兵が出した結論は非情だった。彼の手に持たされた『パジャマパーティー開催のお知らせ』には、当該の参加条項が赤ペンでアンダーラインを引かれている。『各自、自分の寝巻やパジャマは持参』 パジャマパーティにパジャマは必須なのである。決して、彼の冗句が詰まらなかったことに対する私的な念晴らしでは無い……いや、「騎士だからナイトってワケか! ナイトキャップだけに! わっはっは!」と爆笑の渦が巻き起こったかといえば、決してそんなことは無かったのであるが。
 閑話休題。『おやすみなさいの国』を訪れることになったトリテレイアの姿は、その頭に安物のナイトキャップ…彼自身、強弁が通るかやはり不安であったのか、自前で用意していた…を被っている。加えて、その3メートル近い機械の身体は、申し訳ばかりの薄い白布で包まれている。古代ローマの湯上がり着のようにゆるやかに装甲を覆う布は、駆動部と干渉しないように余裕をもって着装されている―――宙に浮いているクラゲたちも薄布を纏って群れ集まっているのだ。形ばかりとはいえ、今回の戦いは、あくまでも『パジャマパーティー』なのである。

 ともあれ、無事にアリスラビリンス世界に降り立ったトリテレイアである。その記憶素子から情報を引き出せば、『パジャマパーティー』とは元来、友人宅などに泊まり込み、パジャマ姿で一晩を過ごすという物だ。取り留めもない噂話に興じたり、あるいは若年層の興味の対象である恋だの好意だのについて語り合う物であるらしい。また、集団で旅行する際に旅館やホテルのホテルに宿泊する際にも、それらと同様にして馬鹿話に興じたり、あるいはふざけ合って『枕投げ』なる遊戯を行うこともあるのだとか―――。
 そう、問題となるのは『枕投げ』である。トリテレイアの世界知識に基づいて、彼は大量の枕を用意していた。彼は戦闘用物資収納スペースから無数の枕を取り出すと、それらを土嚢で構築される防御陣地の如くに積み上げる。そして、その一つを掴むと、トリテレイアはユーベルコード【電子と鋼の武芸百般】を発動させた。物体の質量、初速、加速度、重量と空気抵抗を計算によって算出すれば、そこから射出されていく枕の軌道は見事な放物線を描いてクラゲたちに直撃する。
 そして、枕が爆発する。世間一般的には、枕は爆発するような危険物では無い。そんなデンジャラスな代物ならば、『枕を高くして眠る』という形容も生まれなかったであろう。当然であるが、爆発したのは枕そのものではなく内部に隠されていた爆物……SSW解放軍正式採用手榴弾である。機械仕掛けの膂力で投擲された枕は、外見からは想像もつかない殺傷力を秘めてクラゲたちを吹き飛ばしていく。

(…枕と共に騎士の矜持も投げ捨てているような)
 ふと我に返ってしまったトリテレイアが周囲を見渡せば、別の猟兵が槍投げでクラゲを貫き穿っているのが観測できた。その猟兵も、これは枕投げですと主張しながら槍投げを継続しているのだ。それと比較すれば、トリテレイアの方が本来の『枕投げ』に近い内容を実行していると言えるだろう。少なくとも枕を投げているのは事実である。
(・・・いえ、猟書家の脅威を削ぐ為、止まる訳にはいかないのです!)
 トリテレイアは気を取り直すと、枕投げを再開した。大義の為には是も已む無し。必要な行動なのである―――時に手段を選ばず、最善を選択する事も騎士には要求される。今求められているのは猟書家と交戦するための道筋をつけること。ならば、迷いや惑いを感じるよりも、敵オウガを掃討するこそが重要なのだ。
 そう己を納得させると、トリテレイアは枕を夢喰いクラゲに直撃させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

本・三六
アドリブ歓迎不採用OK

楽しげな空気を感じてね、お邪魔するよ

いつもの仮眠用の部屋着を着よう
適当に買った白シャツとペインターパンツ、楽なんだよ?
咄嗟に外出ても怒られないし
枕はよしておこう。無い方が、寝にくいからさ

綺麗な所だ。
そこで飲み物も貰ったし、本を読みながら話し相手でも探そうか
知人オススメの小説、続きが気になってね
ふむ、『Aがそこを通り抜けると奥には……』
ああクラゲ君、明かりをありがとう
不思議なゆらめきだね
?……いや、ちょっと。攻撃されてる?
そういう事なら!

『長楽萬年』発動
ヒーローズマントでクラゲ君をすっぽり【早業】で包もう
光を遮って動きを封じたい
君は先に寝ると良い
ボクはまだパーティを楽しむよ



 オウガを撃滅せんと動き回る猟兵もいれば、『パジャマパーティー』という言葉のの楽しげな空気に誘われて『おやすみなさいの国』にやってくる猟兵もいる。本・三六(ぐーたらオーナー・f26725)もその一人。

 彼の着ている服は仮眠用の部屋着だ。カフェのオーナーでもある彼にとって、休憩中でも急な呼び出しや訪問客はままあること。そういう時、この適当に買った白シャツとペインターパンツといった姿はとても便利だ。咄嗟に外へ出ても怒られないし、何だったらそのまま要り用の物を買いに行ったって不審がられることは無い。フォーマルな場所に出かけるには少しばかりルースなファッションだが、逆に言えばそれ以外の日常的なシチュエーションならば大概押し通せてしまう万能の服装である。
 普段、私室で気楽に寛ぐように。リラックスした状態でアリスラビリンスへと降り立った三六を待ち受けていたのは、体重をかければしっかりと弾力を返す高級ベッドマットレスである。クッション層に高密度スプリングを使用したポケットコイル方式、体圧分散性に優れ、少し硬めの質感ながらどんな姿勢で寝転んでも体重を支えてくれる一品である。―――ああ、枕を使うのはよしておこう。無い方が寝にくく、睡魔に抗って『パジャマパーティー』を楽しめるだろうし。

 三六が周囲を眺めて思うのは、此処は綺麗な所だ、という事だ。基本的に国全体の明かりは薄暗い。それは、決して恐怖を感じさせるような闇夜ではなく、自分の寝室で日光を遮るカーテンを閉めた時のような暗がりだ。所々に浮かんでいるのは間接照明めいて洩れる暖色系の灯り、それに加えてイルミネーションのように不規則に明滅するクラゲたちが漂えば、その空間はお洒落な寝室のように光で演出されたものになる。
 ベッドに体重を預けて、三六は持ち込んだ物品を横に置いた。グリモア猟兵から貰った缶の飲料に、読み止しの本。知人から紹介されたオススメの小説は、話の途中であるが先を期待させる展開が面白く、続きが気になっているところだった。丁度良い機会、とばかりに三六は栞を挟んでいた頁を開き、読書を再開することにした。

『Aがそこを通り抜けると奥には……』
 ふむ、と無意識に手を当てて、三六は読書をする。最初は少し薄暗いかなと思った光量も、途中からはふわふわ浮かぶクラゲが近づいてきたおかげで読み進めるのに良い明るさになった。ああクラゲ君、明かりをありがとう、と声をかけてやれば、言葉が通じたのか明滅する光が変化したような気さえする。その不思議な光の揺らめきは、成程、ペットとしてクラゲを水槽で飼育する人間がいるのも理解できるというもの。更にこの夢喰いクラゲは和薄荷のような涼やかに甘い香りを提供してくれるし、読書を楽しんでいる三六の姿を気に入ったのかボンヤリと近くの空間を漂っているようだ。
 本当にこれがオウガなのだろうか、と三六が訝しみ始めた頃に、夢喰いクラゲは彼に近づいてくると明滅を強くした。

「?……いや、ちょっと。攻撃されてる?」
 攻撃、と言うべきか、はたまた早く夢を見ろとばかりに寝かしつけにきたのか。ともかく、夢喰いクラゲはその習性として周りの生き物たちを夢に堕とし、その夢を喰べる性質を持っている。ある意味において三六は獲物の一人でもあり、読書に集中して中々眠ってくれない彼に苛立ってしまったのか。クラゲはより一層近づくと光の明滅の周期を速め、濃密な甘い香りと柔らかい触腕のマッサージで三六を深い眠りに落そうとしてきた。

 そういう事ならば、と体を翻した三六は、己のヒーローズマントでクラゲをすっぽりと包んでしまう。手際よく端と端を掴んで結んでしまえば、風呂敷で包んだように丸くラッピングされたクラゲは動きが取れなくなってしまう。最初はクラゲも抗議するようにじたばたと跳ねていたものの、やがて諦めたのか元気がなくなったのか、その動きすらも無くなってしまう。よし、と三六が独り言ちれば、そこには布越しに弱々しく光るクラゲの包みが置かれていた。これはこれで寝室用の粋なインテリアのような雰囲気である。

 ―――君は先に寝ると良い。そう不貞寝するクラゲに声をかけると、三六は開いたまま置いていた小説を再び手に取った。さて、どこまで読み進めたのだったか……ああ、そうだ。A君の話だった。佳境に入っていた小説も、そろそろクライマックスになるだろうか。
 まだまだパジャマパーティーは続くのだ。少なくとも、この『おやすみなさいの国』が今回の戦いで戦場となっている間は。ならば、楽しまなければ損というものだろう。三六はまだパーティーを楽しむ心算だし、その思いは小説の残りの頁数と、やがて眠りと夢に落ちていくまでの時間は続いていくだろう。

 ・・・こうして、穏やかな時間は過ぎていく。それは戦場という名には似つかわしくない、『おやすみなさいの国』に相応しい時間だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月12日


挿絵イラスト