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迷宮災厄戦⑮〜夏は甘い寒氷に乗って

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●寒氷の森で
 透き通ったパステルカラーが織り成す森では、ベビーピンクの煉瓦がそこかしこに転がっていた。煉瓦だけではない。淡い空色の屋根も崩れ落ちて粉々だ。ミントグリーンのテーブルも、椅子も、棚もすべてが砕けてしまっている。
「これも、こっちも、欠けちゃってるね」
 淡いラベンダー色のウサギがしゅんと肩を落とす。
 甘くて淡く透けるおうちは、オウガによって破壊され、見るも無残な姿となった。
「せっかく作ったのになあ」
 やさしい桃色のクマもまた、箒で片付けながら呟く。
「でもでも、また作ろうよ! 寒天も砂糖もいっぱいあるし!」
 色のついた氷のような動物たちに紛れて、ひとりの人間――アリスが立ち上がる。
 そうだよ、とアリスに同意したのはレモンイエローのイヌだ。
「もっかい作ろ。みんなのおうち」
「……そうね。心休まる場所をまた一から手作りしましょう」
 白いネコもまた、ヒゲを撫でつけながら頷く。
 こうして甘い氷でできたかれらは、甘い氷の森で、めげずに家を建てるのだ。
 辺りに、煮詰めた砂糖のあまぁい香りを漂わせながら。

●グリモアベースにて
「お菓子の家をつくりましょ!」
 ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)の声がこの上なく弾んだ。
「向かってもらうのは、寒氷っていう甘い氷みたいなお菓子でできた森よ」
 寒氷――名にある通り、溶かした寒天を使うお菓子だ。
 煮溶かした砂糖やすり蜜と寒天を合わせて練り、流し箱へ流して固めると綺麗な塊になる。それを型で抜いたり切ったりすれば、可愛らしい氷のような見た目をした『寒氷』の出来上がりとなる。
 森を構成しているすべてがこの寒氷で、歩くとふにふにした感触が足の裏に伝う。
「絵本に出てくるような丸みのある木も寒氷。風に揺れない花も寒氷なの」
 パステルグリーンで出迎えてくれる森。藤の花や桜、カスミソウがそこかしこで咲いていて、足元では、ヒヤシンスやキャンディタフトの花が、身を寄せ合って来訪者を仰ぎ見る。
 言うまでもなくどれも食べられるが、食べるとしても試食ぐらいに済ませよう。
 目的は森を食べることではなく『お菓子の家作り』にある。
「アリスさんたちの作ったお菓子の家がね、オウガに破壊されちゃったのよ」
 オウガから身を守るために作った、何軒ものお菓子の家。
 そのすべてが破壊されたが、アリスや愉快な仲間たちは、再び家作りを始めた。
 安全に森を通過するためにも、美味しそうなお菓子をたくさんつくり、家を再建していこう――というのが今回のお仕事だ。アリスや愉快な仲間たちにとっても、ホッとできる家があるのは有り難い。
 森は寒氷で出来ているが、作るお菓子は寒氷でなくても構わない。
 ただアリスはともかく、愉快な仲間たちは『寒氷』と『綿菓子』しか知らないため、彼らの手を借りる場合は教えつつ行う必要がある。
 それと場所が寒氷でできた森なので、材料にも注意が要る。
「森にあるのは、寒天、水、砂糖各種、食紅とか金箔とかの彩りや飾りに使うものね」
 生クリームやチョコレート、ビスケットといった材料は持ち込む必要がある。
 アリスが作ったのか、幸いにもオーブンやコンロはある。それに、お菓子作りのための調理器具も揃っている――が、愛用している器具や、適したユーベルコードを使うのもいいだろう。
「でも気を付けて。邪悪な子どもたちが、いたずらしにきちゃうから」
 邪悪な子どもたち。
 かれらはオウガに洗脳されているだけなので、傷つけてはならない。
「悪戯はね、違う材料を入れようとしたり、オーブンの火力を勝手に上げたり……」
 作っている最中の家をハンマーで叩き壊す。作業中の身にビスケットの粉や塩をぶちまける。チョコや水飴といった繋ぎが乾ききる前に、壁や屋根のお菓子を引き抜く……などなど、考えられるイタズラは様々だ。
「気をつけてと言ったけど、妨害については油断しなければ大丈夫だと思うわ」
 ただ猟兵に対しては、試食する前の材料に毒を入れたり、猟兵自身をオーブンへ蹴り入れようとしたりと、過激な妨害をしてくるだろう。ある程度の注意力は必要だ。
「それじゃ、準備ができた方から声をかけてね。転送します」
 どうぞ美味しいお菓子を。
 最後にそう言い添えて、ホーラは転送の準備にとりかかった。


棟方ろか
 お菓子の家作り、楽しいですよね。棟方ろかです。
 一章(冒険)のみのシナリオでございます。

●プレイングボーナスについて
 ぜひ、『美味しいお菓子のレシピを用意』しましょう!
(アイテムとして持ち込む必要はありません。所持しているなら持ち込んでもOK)
 レシピがあると、妨害を阻止しやすくなったりと、有利な状況になりやすいです。
 せっかくの不思議の国ですから、ファンシーなレシピで作るのも楽しそうですね。
 ちなみに、何かを焼いたり煮たりしたときに出る煙りや湯気は、ぜんぶ綿菓子になります。

●NPC(アリスと愉快な仲間たち)
 彼らの手を借りてもいいし、特に触れなくても構いません。

 アリス……10歳ぐらいの女の子。クッキーやチョコレートは知っています。
 愉快な仲間たち……パステルカラーの寒氷で出来た二足歩行のウサギさん、クマさん、イヌさん、ネコさん。着ぐるみみたいなフォルムです。お菓子に関しては、寒氷と綿菓子しか知りません。

 成功必要数が少ないので、ビスケットのようにさくっと終わるかと思われます。
 それでは、甘くておいしいひとときを、どうぞ。
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第1章 冒険 『お菓子の家つくり』

POW   :    生地をこねたり伸ばしたり、オーブンの火加減を調節するなど下拵えや準備を担当する

SPD   :    正確に材料を計ったり、綺麗に角がたつくらいにホイップするなど、技術面で活躍する

WIZ   :    可愛い飾りつけや、トッピングで、お菓子を美味しそうにデコレーションする

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シウム・ジョイグルミット
[POW]
アリスに仲間たちー、時計ウサギが手伝いに来たよ
お菓子の森は故郷みたいな場所だから、頑張らないと!

まずは『Hungry Dumpty』召喚!
お腹空いちゃうから、少し寒氷を食べさせてもらうね
どんな味がするのか楽しみだなぁ

食べ終わったら、早速家を建てよー
レシピというか、家の設計図を作ってきたんだ!
寒氷をダンプティの能力で硬いお菓子に変えるよ
壁や屋根はビスケットで頑丈に
皆には溶かしたチョコレートで貼り合わせる手伝いをしてもらおうかな
中は寒氷を敷いて、ふにふに気持ちいい住み心地に
色んな形の寒氷を壁に貼っても可愛いかな

悪い子の気配を感じたら、ダンプティで脅かしちゃおう
反動で洗脳が解けるといいなぁ


キトリ・フローエ
フェアリーランドの壺の中に
小麦粉、卵、バター…お菓子の材料と
味付け用の紅茶の葉っぱとチョコレートを詰め込んで

アリス、みんな、一緒にクッキーを作りましょう!
材料はたっぷり持ってきたから好きなだけ使ってちょうだい
ねえアリス、みんな(愉快な仲間達)にも
クッキーの作り方を教えてあげて
あたしも風の精霊の力で
生地をこねるのをお手伝い…出来るかしら?
火力が足りなかったら火の精霊にお願い
程よい焼き加減で、素早く!

出来上がったら屋根や壁にするだけじゃなくて
クッキータワーも作りたいわ
寒天の土台にクッキーを積み上げて
水飴で固めたらアクセントに綿菓子を散らすの

第六感を働かせて、いたずらっ子を見つけたら
めっ!てするのよ


ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
アドリブ・連携OK


んー、寒氷かー。
それなら丁度いいのがあるね。
【豊穣樹海】を使って、色々なフルーツの成る森を作ろうか。

リンゴにオレンジ、ブドウにモモ、他にも色々な種類の果実を絞って、
寒氷に混ぜ込めば味も色合いも様々なバリエーションが作れるんじゃないかな。
これなら愉快な仲間たちも簡単に手伝えるしね。
カカオもあるから、他にもチョコくらいならアリスと一緒に作れるかな?
力がいる作業は任せてねー。

悪戯に関しては、まああたしは目も耳も勘も良い方だから、
来てもすぐに気付けると思うよ。
見つけたらテンタクルアームで手から蔦を伸ばして捕まえようか。
暴れるなら電撃で気絶させるよ。

さてさて、美味しく出来るといいねえ。


レザリア・アドニス
うわあー、すごく不思議で綺麗でかわいいところですね!
これでお菓子作らなきゃ、勿体無いです

アリスと愉快な仲間たちに挨拶して、よかったら一緒に作りましょう?と
レシピとベースの食材を持ち込んで、トッピングの材料は現地調達
きっといつもと違う面白いものを作れるんですね

というわけでベースのアーモンドタルトを作る
途中は常に悪い子たちの悪戯を警戒
分量多めに作って、道具も目を逸らさないように監視
火の作業時、周りに悪い子がいないかを確認

焼き上がったサクサクのタルトに、出た綿菓子を摘んで味見しつつ、
表面に色とりどりの砂糖を振り、寒氷の花をいっぱい載せる
はい、かわいい花壇と盆栽が出来たの
無事で家を作れるといいね



 カラリカラリとベルが鳴る。淡彩の森に響かせた音は、シウム・ジョイグルミット(風の吹くまま気の向くまま・f20781)が奏でたもの。来訪の第一報は、少女が呼ぶよりも一足先に、不思議の国の住民たちへ伝わった。
「アリスー! 仲間たちー!」
 シウムが呼ぶ頃にはもう、掻き集めた建材や調理器具の合間からひょこひょこと彼らが顔を出していて。
「時計ウサギさん!」
「時計ウサギさんだ!」
 甘く馨しいものを引き連れたシウムの姿を見て、彼らが目を見開く。
「そうだよ、時計ウサギが手伝いにきたんだ!」
 言いながら見渡してみれば、色やかたち、材料は違えどここもまたお菓子の森に違いなく。
 シウムにとってこの国は、郷愁に駆られるにおいがした。
 彼女の近くで、わあ、と声音に煌めきを乗せたレザリア・アドニス(死者の花・f00096)は、鮮麗な双眸に寒氷の森をめいっぱい映す。生ある森とはやはり違い、夢路にいるかのような感覚を抱く。
「すごく不思議で、綺麗で……かわいいところ、ですね……!」
 触れればほのかに冷たく、ざらつきもなく撫でられる寒氷の森。
 薄紗が掛かったような色調はどこか温かく、まろみを帯びて見える。
 おかげでレザリアも幾度となく頷いて。
「これでお菓子作らなきゃ、勿体無いです」
 力説する勢いで呟き、きゅっと拳を握りしめた。
 近くでふふんと得意げに鼻先を鳴らして、キトリが取り出したのは小さな壺。もちろん、ただの陶磁器ではない。
「それじゃ、いくわ!」
 夢も楽しさもいっぱい吸い込めるフェアリーランドの壺から、ぽぽぽんと飛び出したのはお菓子作りの材料たち。
 小麦粉をはじめ、卵にバター、それと味付けに必要な茶葉やチョコレートまでもが、次々と壺からまろび出る。
「お菓子がいっぱいだぁ。こっちも食材を増やすよー」
 一部始終を眺めるペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)は、すぐに豊穣樹海を展開した。それはそれは色とりどりのフルーツが成った、たいそう美しい森だ。豊富な実りは視覚や嗅覚を楽しませるだけでなく、心をも弾ませる。現にアリスも愉快な仲間たちも、わあわあと歓声をあげていて。
「あ。生えてるのは好きに食べていいよー」
「「いいの!?」」
 アリスたちが声を重ねて一驚する。
 あまりに素直な――混じり気のない反応にペトニアロトゥシカは小さく笑い、ゆっくり頷いてみせた。
 はしゃぐアリスたちの雰囲気を後背にして、コーンに乗ったアイスが溶けてしまう前にとシウムが呼び寄せたのは、賑やかなHungry Dumptyだ。ナイフにフォーク、ソーサーといったあらゆる食器の集合体が、あんぐりと口を開けてその時を待つ。
「さあさあほらHungry Dumpty! ボクと一緒に楽しもう!」
 物語の語り部のごとくシウムが誘うと、ダンプティが喜びに打ち震える。同時にシウムは、くぅと切なく鳴いた腹の虫を押さえて。
「ダンプティを呼んでお腹減っちゃったから、少し寒氷をもらうね」
 ひと欠片を口へ放り込む。一瞬感じたひんやりとした感触はすぐに熱で埋もれ、舌触りはつるりと滑らかだ。そこそこの噛み心地はしかし、少し顎の力を強めるだけであっという間に寒氷が崩れてしまう。たとえるなら儚い命。けれど甘い余韻はずっと口の中を漂っていた。
 シウムが食べたのを見てから、ペトニアロトゥシカもそろりと寒氷へ手を伸ばす。指先で押せば沈み、つつけば微かながらぷるりと震える。
「んー、寒氷の国かー」
 顎に添えた指でとんとんとリズムを刻む間、彼女の脳裏へ浮かんだのは、遠くない未来の完成品。元よりそのつもりで迷路を築いたのだ。果物を採り、絞るのに迷いはない。
 彼女の傍で、住民たちへの挨拶を終えたレザリアが、ささやかなお誘いを紡ぐ。
「よかったら、一緒に作りましょう……?」
「一緒に? やったあ、うれしい!」
 アリスが飛び跳ねて喜ぶと、愉快な仲間たちも拍手をしてくれた。
 早速レザリアがレシピを広げると、不思議の国の住民たちも「なんだなんだ?」と好奇心の赴くがまま覗き込む。
「いつもと違うもの、作れると思います」
「? これと違うってこと?」
 愉快な仲間たちが指差したのはもちろん寒氷だ。静かに顎を引いて、レザリアは分量を計り出す。数人分、多めに。
 そこへ、キトリも声をかけた。
「アリス、みんな! クッキーも作りましょう!」
「クッキー!」
「クッキー?」
 嬉々とした声と不思議そうな声が重なる。目を輝かせたアリスと、なんだろなんだろと顔を付き合わせる愉快な仲間たちとで温度差があった。だがキトリはうろたえず、まずアリスへ話を傾ける。
「ねえアリス、みんなにも作り方を教えてあげて」
 みんな――キトリが視線で示したのは、きょとんとした顔の愉快な仲間たちだ。
 うん、とアリスが深く頷くまで、そう時間はかからない。
「よかった。みんなも、材料はたっぷり持ってきたから、好きなだけ使ってちょうだい」
 はあい、と朗らかなアリスの返事が響き、連ねるようにして愉快な仲間も猟兵たちも、片手を挙げて応える。
 せっせとタルト生地を作るレザリアと並んで、キトリもクッキーの材料を合わせていく。子どもたちの邪魔が入る前に、完成させる必要がある。そう考えたキトリは、吹き渡る風の標を辿って精霊を招く。風の精霊と手を組んで彼女が行うのは、言葉に違わぬ生地作り。
「力がいる作業は、あたしに任せてねぇ」
 力こぶ――はあまり出来ないが、力こぶを披露するような仕種でペトニアロトゥシカが二人へ告げる。
 そして頬をぺちりと叩いたシウムも、頑張らないと、と自らを奮い立たせて建設に取り掛かった。
「レシピというか、家の設計図を作ってきたんだ! 大事だよね、これ」
 そこかしこを彩っている淡く優しい寒氷へと、早速シウムがダンプティを向かわせる。ここにあるのは寒氷ばかりだが、しかしダンプティが触れさえすれば、それらも別の菓子へと姿を変える。
「まずはビスケットだね。家を作るんだから、たくさん必要になるし」
 シウムがそう言い放った直後、ダンプティは寒氷を堅めのビスケットにした。
「はいこれ、壁や屋根用にしよう。チョコも溶かすから待ってて」
 シウムから手渡された愉快な仲間たちが、浮き立つ足取りで壁を築き始める。
 そこへ仄かに漂ってきたのは、果物の瑞々しい香気だ。
 リンゴを絞れば甘酸っぱい香りが迸り、オレンジを絞ると爽やかさも巡り出す。こうしてペトニアロトゥシカはブドウやモモなど、幾つもの種類のフルーツを生搾りして、寒氷に混ぜ込んでいった。
「うん、いい感じだねぇ」
 のんびり感心する彼女の前には、今まで森になかった色彩の寒氷たちが並ぶ。
 果汁100%の色と香りも含んだ寒氷の積木は、周りで作業する仲間たちの気も惹いた。
「これなら簡単に手伝えるよねー」
「任せて!」
「うん、がんばるね」
 自分たちも力になれる。そう自信を持ちはじめた愉快な仲間たちが、ペトニアロトゥシカの生み出したフルーツ寒氷を軽々と運んでいく。
 一方シウムはくるり青い瞳を動かして、裸足で歩く気持ち良さを味わえるよう、家の中へ寒氷を敷き詰めていた。
「ほら、踏んでみてよ。ふにふにだよ」
「わ、本当!」
 シウムに手招きされてキトリが床へ降りてみると、妖精の小柄さでも柔らかいのが感じ取れた。
 興味を寄せたペトニアロトゥシカもまた、たくさんの色で描かれた床の上を歩く。
「歩くのが楽しくなりそうだねぇ」
 うっそり微笑む彼女の後ろで、レザリアがオーブンから引き出したのはアーモンドが香るタルトだ。
 扉を開けるた途端、ふわりと浮かび上がった綿菓子も、彼女はきちんとキャッチする。
 そしてサクサク食感が心地好いタルトはまだ熱く、綻んだ花弁をレザリアが僅かに掬い上げた。そこへ綿菓子の帽子をかぶせ、はい、とペトニアロトゥシカたちへレザリアが差し出す。味見役を託したのだ。
「……どう、でしょうか?」
 レザリアが恐る恐る尋ねてみる。
 ひとつ噛めばサクリと歌うタルトと、今にも飛んでいきそうな綿菓子のまろやかな甘味は、ペトニアロトゥシカたちの舌を楽しませた。おいしいと一言で感想を伝えれば、レザリアも胸を撫で下ろして再び食材と向き合う。
 ここまで来たらあとは七色に輝く砂糖をまぶし、寒氷の花を丁寧に乗せていくだけ。
「はい、かわいい花壇と盆栽ができたの」
 タルトで咲いた花が、家にまたひとつ彩りを添える。
 同じ頃、星やハート、丸に四角にと、様々な形の寒氷を壁に貼っていたシウムが、ふと気づいて振り返る。
「なになに? 何作ってるのかな?」
 彼女が尋ねた相手はキトリだ。興味の眼差しで射抜くのは、寒天を土台にしてキトリが積み上げたクッキーたち。
「クッキータワーよ。ひとつあるだけで、景観も随分変わってくるわ」
 へえ、とシウムが感嘆の声を零し、手際よく積まれるクッキーの頂を見上げていく。
 甘く香ばしい香りがまだまだ抜けきらないクッキーの山に、胃が悲しげに訴えてくる。けれどキトリは脇目も振らず水飴を掬いあげ、制作を進めた。
 そのときだ。ふわり浮いたキトリの眼差しが、オーブンへ向かう子どもを発見したのは。
「めっ!」
 すかさずキトリが贈った短い一言に、びくりと跳ねたいたずらっ子は一目散で逃げて行く。
 だが、一度は退散したというのにかれらは再び顔を出した。にたにたと笑う不気味さを醸し出した様相は、普通の子どもとは思えない。
「ダンプティ!」
 シウムの一声は多くを語らずとも意味を為す。カチャカチャと楽しげな音を鳴らしていた食器の集合体が、悪い子の眼前へ飛び出して、わっと脅かせた。
 幼子らしい甲高い悲鳴をあげて逃げ回る子どもたちに、漸く静けさが蘇ったかと思いきや。
 ペトニアロトゥシカの瞬きがややひくつき、違和を知る。感覚が示す先を一瞥すると、めげない懲りない諦めない三拍子揃った邪悪な子どもたちが、チョコレートが乾ききっていないビスケットの壁を引き剥がそうとしていた。
 全力の悪戯に、よくないよぉ、と呟いたペトニアロトゥシカは、手から伸ばした蔦で子どもを捕獲する。
「おとなしくしてなさいってー。ねえ?」
 ジタバタともがく子どもを、ペトニアロトゥシカはそのまま家から離れたところへ置きに行った。
 他の猟兵たちは、暴れる子が連れていかれるのを見届けることなく、家の建築を進めていくだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャム・ドラドス
わしはスポンジケーキを作るとしよう
必要な材料は持ってきたからの
家具にもできるふかふかのケーキを焼こう
飾り付けには寒氷を使っても綺麗じゃろうな
アリスや国の住人が手伝ってくれるなら喜んでレシピを教えよう

細かい作業はわしの喚んだ小人達にも手伝ってもらう
力仕事はわしの出番じゃ
ケーキはメレンゲの泡立て具合がポイント
クリーム状になるまでしっかり掻き混ぜるのじゃ

おや、誰か悪戯なものがいるようじゃ
我の目は誤魔化せぬ、こちらへおいで

いたずらな子供は抱き上げて
高い高いなどしてあやしながら捕まえておこう
ケーキの方は小人達がいるから大丈夫じゃ

どれ、退屈ならじじいがお話をしてあげよう
昔々、あるところに――


コノハ・ライゼ
あら、可愛らしくて綺麗な国だコト
柔らかな色や不思議な感触につい気を惹かれちゃう

折角だからこの淡い色を活かしたいわ
飴細工で少しキラキラを足してみましょうか
持ち込んだ水飴に砂糖を足して、熱して冷ますの
熱い内に色を付けたり形を作ったりがポイントね
寒氷ベースの屋根に幾つか小さな穴を開けて飴細工をはめれば天窓に
半円の傘を作れば照明やランプに

それから壁や建具をアイシングで飾るのはドウかしら
粉糖に卵白と牛乳、好みで色を混ぜるだけ
絞り出して模様や絵を描いたり、ナイフで塗ったりも出来るわ
色も合いそうじゃナイ?

勿論警戒だって忘れずに
【黒管】でくーちゃん放ち、悪いコ達を見付けたらびっくりさせてお帰り願うわネ



 地色はやさしく透けた寒天も、好きな色を溶かし混ぜると無数の彩りを織りなしてくれる。そんな夢のような現実が広がる森で、夢のような丸みを纏った愉快な仲間たちが、せっせと家造りに励む姿は、やはりとても可愛らしく。あら、と思わずコノハ・ライゼ(空々・f03130)の吐息も弾む。
 そう呟いたところで、コノハはふと視線を逸らす。
 早速材料を混ぜ始めたジャム・ドラドス(呪われた竜・f25969)を一瞥してみれば、ジャムはボウルの中にある素材を傾けて見せた。
「わしはほれ、スポンジケーキをな、拵えようかと」
 ケーキ、という単語に反応したらしいアリスや愉快な仲間たちが、こぞってジャムの周りに集う。
 身を乗り出す彼らにジャムも頬を緩めて。
「手伝ってくれるかの?」
「もちろんだよ!」
「そうかそうか、ならレシピを授けよう」
「ほんと!? やったあ!」
 素直に喜びを示す愉快な仲間たちの様子は、ジャムにとっても微笑ましく、そして和やかなものだった。
 一方でコノハが、寒氷へ指の腹を押し当てている。ひんやりした感触。軽く力を入れるだけで、むに、とへこむ。不思議な寒氷でできた不思議の国は、ついついコノハも触れてみたくなるばかり。
「綺麗な国だコト」
 淡くまどろむ色彩もまた、眸を楽しませてくれる。
「飴細工を足してみようカナって」
 飴細工、という煌めく単語に愉快な仲間たちの目線にも熱が篭る。
 なになに、と彼らが興味を示す中、コノハの手練は一回まばたきする度に種々の景色を見せてくれた。
 とろり艶めく水飴は甘く馨しい香をにおい立たせながらも、かたちを取らず、ただただコノハの意志を掬い上げるように色を滲ませていく。熱が冷めぬうち、くるりと絡めとって形状も調えていけば、のみこんだ色も砂糖もすっかり馴染んだ水飴が落ち着いてくれた。
「すごーい! あっという間だった!」
「きらきらだね、綺麗っ」
 アリスや愉快な仲間たちがぴょこんと跳ねて喜ぶ。
「見事なものじゃのう」
 するとジャムも、うんうんと頷きつつ関心を寄せた。
 ふふ、と息だけで笑ったコノハは次に、寒氷を基礎にした屋根材を見つめる。
「今度はどうするの?」
「どうするの?」
「バッチリお披露目するカラ、見てて」
 片目を瞑り微笑んでみせると、やったあ、と嬉しそうな声が重なった。
 何処を撫でてもやはりつるりとした触り心地の寒氷へ、コノハが刻むのは幾つもの小さな穴。抜け落ちたかのようにぽんぽんと空く形は、ほのかな寒氷の色彩へ抑揚にも似た調子をつけていく。
 ホラ、とコノハが促した先――固まった飴細工が綺麗に穴へはまり、空から降る光も彩も採りこむ。
「あれ何!?」
 恐らく硝子などを知らぬであろう愉快な仲間たちは、穴が空いているだけで終わらない窓も初めてのはずで。
 好奇心を寄せる彼らへ、コノハはそっと囁く。まるで秘め事を共有するかのような声音で。
「天窓ヨ」
「天……窓……」
 やがて彼らは覚えたての言葉を楽しむかのように、そればかりを繰り返し口にする。
 その後ろでは、カシャカシャと軽やかな音を奏でて、ジャムがメレンゲを泡立てていた。招かれた陽気な小人たちも彼を手伝い、寒氷をひとつひとつ形作っている。ジャムの泡立てる様をじいっと見ていた愉快な仲間たちが、目を瞠った。
「どんどん変わってく……すごい!」
 ほっほ、とジャムが意識せず笑う。
「こうしての、クリーム状になるまでしっかり掻き混ぜるのが大事じゃ。ほれ」
 まもなくジャムが発した言の通り、ふわふわのメレンゲが姿を現したところで。
「お。できたようじゃの」
 ジャムの意識はケーキへ戻る。焼き上がった香りは何度嗅いでも素晴らしく、ゆえにできたてほわほわのケーキをジャムが取り出す瞬間から、この場にいる者たちが浮き立つ。昇りゆく綿菓子たちも、どこか踊り出しそうだ。
「せっかくじゃからの、飾り付けに寒氷を乗せてみよう」
「いいわネ、色も合いそうじゃナイ?」
 ジャムの案に、半円の傘を作っていたコノハが頷く。
 優しさを添えるパステルカラーでケーキに花を咲かせる。
 不意に、ぴょっと跳ねる音がした。振り向けば黒くて小さな管狐が、子どもたちの周りをくるくる駆け回っていて。
 半円の傘で照明を儲けていたコノハは、あら、と驚きとも笑いとも判断つかぬ一声を零す。それは勿論、管狐に一驚した子らに届いた。
「悪いコはお帰り願うとするわ。……ダメヨ」
 叱りつけるというより宥める言い方で、コノハはいたずらっ子たちを退散させた。
 それでもまだ懲りない童子たちに、おやおや、とジャムも眦を和らげる。
「我の目は誤魔化せぬ、こちらへおいで」
 ちょいちょいと手招くと、いたずらの機を窺うためにか、童たちはジャムのところへ近寄っていく。けれどジャムはひとつ笑うのみで、童の様子に緩みが生じたその一瞬――ジャムは子どもを抱き上げた。
「ほおれ、高い高いじゃ」
 途端に「ぴえっ」とも「きえっ」ともつかぬ声をあげて子どもが驚く。しかしあやしながら捕まえるのはお手の物で、ジャムから逃れるのは簡単ではなかった。動きを封じるという意味でも、こうして接してしまうのが早い。
「どれ、退屈ならじじいがお話をしてあげよう。昔々、あるところに……」
 邪悪な子どもたちは、無数の物語を持つジャムの元で静かにする他なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
清史郎(f00502)と

この花もおかしなの?
花をひとつ摘み
あじみっ

おいしいよ、セイシロウっ
半分差し出し

セイシロウ、どんなおうちにしようか
わたしねえ
わたがしとチーズケーキと、パンケーキはつくったことあるっ

レインボーっ
すごい、つくるつくるっ

型抜き
みんなはなに色が好き?

あおとあかはセイシロウの色
並べて
ふふ

わあっ
焼く姿に拍手

チョコレートたくさんもってきたっ
みんなにもおすそわけ
あじみっ
おいしい?

ねえセイシロウ
やねをコンフィチュールでかざろうよっ
この間一緒に作り方を覚えたそれ
ももっ
大きく切って

いたずらしにやってこないかもしっかりチェック

おうちは食べられないけど
たくさんつくってみんなでティーパーティしよっ


筧・清史郎
オズ(f01136)と

甘味の森か、良いな(超甘党
貰った花をはむり
…ん、甘くて美味だ(ご満悦

菓子作りは好きだ
ではパンケーキを作ろうか
本屋でお薦めされた流行りのレシピ本とやらを買ってきた
(女子力高いキラキラスイーツレシピ本

(本見て
食紅があるので、このレインボーパンケーキとやらを作ろうか
愉快な仲間達にも飾りの星型寒天を作って貰おう
皆で作ると楽しいからな
黄色と水色はオズの様だ(並べ

舞うかの様に華麗に各七彩の生地焼き
チョコの味見も頂こう(微笑み

ああ、それは良いな
共に作ったコンフィチュールは美味だったからな
苺に林檎、桃もあるぞ

悪戯っ子はもう一人の俺に任せ

ふふ、そうだな
沢山作って余った分を皆で楽しく頂こうか



 ぱくり。
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が好奇心を放り込んだ口の中、花は蕩け、綻び、ゆっくり染み入っていく。お菓子でできた花はひんやりしていたが、熱もたぬオズの咥内で、もぐもぐと噛む度ひとひらひとひらと消えていく。
「おいしいよ、セイシロウっ」
 言いながら差し出した一輪の花もまた、淡くやさしい色で筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)を見上げている。
 どれどれと花を食む。よく見る花弁とは異なるつるりとした見目に違わず、ひんやりとした心地が清史郎の唇を撫で、そして舌の上でころりと遊び出した。
「……ん、美味だ。甘味は、やはり良い」
 すっかりご満悦らしい彼の頬は、ふくふくと上がったまま暫く戻りそうにない。
「セイシロウ、おうち、おうちつくるって。どんなおうちにしようか」
 ぱたぱたと辺りを跳ね回り、夢の中のような絶佳を堪能したオズが、声を弾ませる。
「オズは菓子作りの経験があるのか?」
 こてんと首傾ぐ清史郎の手には、まだまだ寒氷でできた草花が摘まれたままだ。
 そんな彼からの問いに、えっと、と呟きつつオズは指折り数えはじめる。
「わたしねえ、わたがしと、チーズケーキと、パンケーキ!」
 作ったことのあるものを、心に飾った想い出の額縁から取り出してきた。
 ほほうと関心するかのように相槌を打った清史郎の面差しは、この上なく穏やかで。
「ではパンケーキを作ろうか」
 そう清史郎が応じた瞬間、オズの双眸で星がきらりと瞬く。
「こうした逸品もあるゆえな」
 清史郎が徐に取り出したるは、寒氷よりも鮮やかな彩りで飾られた表紙――スイーツのレシピブックだ。しかも厚みのある上質な表紙はホログラム加工が成されてキラキラしているだけでなく、指の腹で撫でてみると箔押しで丁寧に菓子やタイトルが縁取られている。
「どうしたの、この本っ」
 思わずオズが尋ねると、清史郎は吐息で笑い、本屋で勧められたのだと話した。流行の最先端をゆくレシピブックだそうだ。
 開いた書を供に、食紅を一列に並べた清史郎がふむと唸る。やさしさを連れた陽の光のような黄色、無邪気さをより集めた賑やかな水色――まるでオズのようだと口端へ笑みを刷き、清史郎は食紅の瓶をとんとんとつつき、そして告げる。
「このレインボーパンケーキとやらを作ろうか」
「レインボー!」
「パンケーキ!」
 幾つかの言葉と声が連なった。わくわくを表情に塗りたくった愉快な仲間たちが、いつのまにか一緒になって清史郎の本を覗き込んでいる。これは僥倖とばかりに清史郎が彼らへ願うのは、飾り作りだ。
「一緒に作っていいの??」
 そう尋ねる愉快な仲間たちへ、もちろん、とオズと清史郎が同時に頷く。
「皆で作ると楽しいからな」
 ――それは彼が、顕現してから知ったこと。

 そうしてすっかり愉快な仲間たちとの型抜きに夢中なオズは、ぽこぽこと生まれる星たちを前に興味を言葉へ換えた。そんなオズの前にある食紅は、深みのある赤と青。一口に赤だ青だと呼ぶのが勿体ないほどの、繊細な色味だ。並べて、小さく笑う。そうすると胸のあたりが、ほくほくするようで。
「あっ、オズさんみてみて!」
 愉快な仲間たちに促されて振り向くと、ふんわり綿菓子が泳ぐ中でパンケーキが焼き上がっていた。
「わあっ、すごいっ」
 七彩が華麗に舞うケーキは、綿菓子をぽぽんと生み出しながら皆の前でお披露目となった。
 そこへ、できたできたと愉快な仲間たちとオズが、星型の寒天を器いっぱいに乗せ、清史郎へ報告しに集まる。パンケーキを間近で眺めるのも目的のひとつだが、オズにはもう一個、考えがあって。
「ねえセイシロウ、やねをコンフィチュールでかざろうよっ」
 覚えたばかりの経験を活かそうと口にしたオズを映し、清史郎のまなこがほのかに揺れる。
「ああ、それは良い。……あのコンフィチュール、美味だったからな」
 思い返すには近しい記憶を起こしていると、桃を大きく切ってほしいとせがむオズに袖を引かれた。
「おうちは食べられないから。他のおかしつくって、ティーパーティしよっ」
 たくさんの色と甘さに包まれて、皆で腹も心も満たすひととき。
 それを提案したオズの双眸が輝くのを知り、そうだな、と清史郎もまた唇へ色を燈す。
「沢山作り、余った分を皆で楽しく頂こうか」
 二人の会話を耳にしていた愉快な仲間たちも、言うまでもなく大喜びだ。
 いつからか潜り込んでいた悪い子は――もう一人の清史郎がゆらりと立ちはだかったおかげで、イタズラどころか近寄るのもままならなかった。
 家が完成し、彼らのティーパーティが笑顔とカラになった皿で終わるまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト