迷宮災厄戦⑰~FATAL DUEL
「そろそろオウガ・オリジンや猟書家どもとの戦いも視野に入ってきたとこかもしれへんな。みんな、お疲れさんや」
呼びかけに応じた猟兵に、シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は明るくねぎらいの言葉をかけ、そしてすぐに真面目な声で言った。
「次に行ってほしいんはな、『過ぎ去りし日の闘技場』って不思議の国や。ここは古代ローマ風の闘技場っぽい国やねんけどな……こっから転送したらすぐ、闘技場の中や。そんで、侵入者の『昨日の姿』が、オブリビオンとして現れることになる……つまり、それぞれ『昨日の自分自身』と戦うことになんねんな」
昨日の自分と今日の自分、違うところはどこだろうか。人間は日々成長しているけれど、一日の差はとてもとても微細だ。
「それでも昨日を知っとる「今日の自分」は『昨日の自分』より強い、て俺は信じとる。二十四時間、千四百四十分、八万六千四百秒。それが今の自分が持っとる、昨日の自分とのアドバンテージや。……なんでもええ、ほんの少しでも、流した汗の数一滴でも勝ってれば、それは有利に繋がんねん……それをほんのひとつでも見出すことが出来れば、戦いは今の自分に一気に有利になる!」
考えてみて、そして戦って撃破してほしい、そうシャオロンは言う。
「ガラにもなく熱いこと言うてもうたけどな、つまりはそーいうことや。転送は俺が引き受けたる、せやからお前らは思いっきり『昨日の自分』にぶちかまして来いや、な!」
男はニヤリと笑って猟兵たちにそう言った。
遊津
遊津です。
こちらはアリスラビリンス、迷宮災厄線のシナリオとなっております。
一章完結、冒険フラグメントとなっておりますが、内容は戦闘となります。
猟兵の『昨日の自分』がオブリビオンとして現れます。戦闘回避は不可能です。
武器・ユーベルコードなどはステータスシートを参照の上描写いたしますが、プレイング内に書いていただければ出来る限り採用いたします。
熱いプレイングをいただければ精一杯お返しする所存です。
当シナリオには以下のプレイングボーナスがあります。
(※プレイングボーナス……「昨日の自分」の攻略法を見出し、実行する。)
こちらのシナリオはオープニング公開後すぐにプレイング受付を開始いたします。
MSページを必ず一読の上、ご参加ください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『昨日の自分との戦い』
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POW : 互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ
SPD : 今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う
WIZ : 昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シル・ウィンディア
昨日の自分…
相手は、高防御に高火力…しかも、やろうと思えば大技も2連射までは可能
よし、ここはめったに使わない手で行くかっ!
遠距離からの攻撃は腰部の精霊電磁砲で
オーラ防御は【貫通攻撃】で突き破れたらいいなって思うけど
ま、硬いだろうからできればラッキー程度だね
本命は…
【限界突破】で【魔力溜め】を行って
【高速詠唱】で隙を減らして【全力魔法】のヘキサドライブ・ブースト
今回は、高機動で勝負っ!
大技は【空中戦】で急加減速の【フェイント】と【残像】を囮に回避だね
効果時間切れそうなタイミングで【多重詠唱】でもう一度っ!
体がボロボロになっても、負けたくない戦いはあるのっ!
攻撃は二刀流の光刃剣と精霊電磁砲で頑張る
「昨日の自分……かぁ」
シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)が指折り数えるのは、「いつもの自分」の戦い方。
ガガガ……重い音がして、闘技場の門が開く。その向こうで空中に浮かんでいるのは、光刃剣と精霊剣の二振りを携えたシルと同じ顔の少女――否、シル自身。
(やっぱり……相手は、高防御に高火力。しかも、やろうと思えば大技も二連射までは可能……!)
――だったら。
「ここは、めったに使わない手で行くかっ!」
あちら側のシルから白い魔力弾が撃ち込まれる。こちらも空に飛び上がって躱せば、魔力団は耳を劈くような音を立てて地面を割る。
けれどシルは知っている。他ならぬ自分の技なのだから、知っている。これは本気でも何でもない、小手調べ程度の威力でこれなのだ。
勿論シルが同じ技を使うことも可能だろう。けれどそれでは千日手にしかならない。昨日の自分を前にして、昨日と同じ技で戦っていては、いつまでも決着がつかないだろう。
それこそが、この不思議の国を難解な戦場たらしめている要素。
だからシルは剣を一本、封印する。代わりに腰部に装着した精霊電磁砲――折りたたみ式のレールキャノンを解放し、撃ち返す。こちらの属性に反応し、あちら側のシルが対応する属性の防御膜を張ったのが見えた。
(駄目……やっぱり突き破れないか……!)
もともと突き破れればラッキー、程度の攻撃だ。自身の防御が堅牢なのは自分自身が嫌になるほどわかっている。
次々と撃ち込まれる魔力砲撃をシルは小回りを利かせて掻い潜っていく。魔力弾が頭のすぐ横をすり抜けていく、それだけで耳が痛む、頭が痛む。これが自分の強さだ。越えるべき――昨日の自分だ。
『“闇夜を照らす、炎よ”――“命育む水よ”――』
あちら側のシルが詠唱を始める。長くゆっくりと聞こえてくるということは、詠唱破棄をしていない。それならば来るのは、超特大級の。
(この詠唱は「エレメンタル・ファランクス」……!? あるいは「エレメンタル・ブラスト」……それとも……!?)
自身のユーベルコードでこの詠唱から始まる呪文は四つほどある。どれも違うが、共通しているのは四属性以上の精霊の力を撚り混ぜた強力な呪文だと言うこと。この先を聞ければ更に二属性が加わるかどうか判別できるが、悠長にそこまで聞いてからでは対処が遅れる可能性が十分にあった。
これから訪れるであろう攻撃に対処ができるよう――シルも詠唱を始めた。
「――“六芒星に集いし精霊達よ!!”」
呪文を紡ぎながら、限界まで魔力を溜め込む。ぶちぶちとどこかの血管が破れた音が聞こえてくる。けれどまだ痛くない、まだ、動ける、まだ、戦える……だから!
『“我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれ”』
「“我にさらなる力を与えよ”――【ヘキサドライブ・ブースト】!!」
詠唱が完成したのは同時だった。襲い来るのは火水風土の四属性を束ねた、その数八百を超える魔力砲撃。闘技場の地面が抉れていく。それらを超超高機動で躱しながら、シルは二対の光翼を背に宙を飛び回る。
体中を暴走する魔力が荒れ狂う。ぼんやりした痛みが全身を襲う。魔力暴走状態に覚醒している代償だ。こうしている間にも、シルの寿命は刻一刻と削れているだろう。
光刃剣を打ち込む。分厚いオーラの盾に阻まれる。その盾ごと斬り裂こうとして、不意にシルの全身から力が抜ける。
(……時間切れ……!?……ううん、もう一度っ……!!)
重ねがけされる【ヘキサドライブ・ブースト】。暴走状態を引き起こす魔法を重ねがけしたのだ、頭が重い。たらり、目から赤い涙が溢れる。
「それ……でも……!!」
(体がボロボロになっても、負けたくない戦いはあるのっ!)
「うああああああっ!!」
シルは吠える。咆哮を上げながら、もう一人の自分へと撃ち込んでいく。
今もまだ、地面を抉るあちら側のシルの【エレメンタル・ファランクス】は途切れていない。それでもシルはまっすぐに自身めがけて翔ぶ。数発の魔力弾がギリギリを掠め、それだけで激しい痛みを身体が訴える。
再び振り降ろした刃。それを防いでいたオーラの盾がぐにゃりと歪む。霧散する感覚が、刃越しにわかる。
握りしめた刃が、昨日の自分自身の胸を抉っていく――。
『あぁ……っ、……!!』
そのまま地面に落ちて叩きつけられる間際、もうひとりのシルは唇だけで何かを紡いだ。
シルはその唇を読んだ。読んでしまった。自分が最後に呼ばうその名前を。
(……ああ)
「あなたは本当に、昨日のわたしだったんだね……――」
シルは地面に座り込む。背中の光翼が消える。身体はもう、限界だった。
シル・ウィンディアは、ここに、間違いなく。昨日の自分に勝ったのだ。
成功
🔵🔵🔴
木々水・サライ
昨日の自分自身と戦う、か。精神攻撃としては最高だろうよ。
っつか昨日の俺って……りんご……うっりんごこわい。
(昨日の自分自身:複製義体を3人呼んで【黒鉄刀】で戦っている姿。リンゴを食べていた。)
いや、昨日の俺は今日の俺ではない。知識の数では、今の俺が有利だからな。
だからこそ俺はUC【二人の白黒人形(モノクローム・ツインズ)】とアイテム【黒い目の四白眼】を使って、昨日の自分を倒す。
昨日の自分は戦闘知識を使わずにオウガを倒している。
ならば、今、知識を2人分活用する方向で行けば倒せるはずだ。
「複製義体で自分自身は見慣れてるが、昨日の自分ってのは見たことねぇな」
「知識量では昨日の俺より今日の俺、ってな」
(昨日の自分自身と戦う、か……精神攻撃としては最高だろうよ)
木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)の前で、闘技場の扉が上がっていく。そこから、もうひとりの自分自身が。昨日の自分が現れる――
(っつーか、昨日の俺って……)
もうひとり、いや、もう四人。昨日の自分が何をしていたか、サライははっきりと思い出せる。何故なら――
身長より長い刀が果汁に塗れている。ユーベルコードで呼び出した三人の複製義体とともに、昨日のサライは……リンゴを食べていた。
「そうだよなあ、リンゴ食ってるよなぁ!!」
そう、昨日のサライは……巨大なリンゴの国を攻略するために、リンゴを食べ進めながらトンネルを掘っていた。
リンゴに対して植え付けられた軽いトラウマに身震いしながら、けれどサライは確信する。
彼らはリンゴを「食べ進めている」時間の自分たち。
「はっ、複製義体で自分自身は見慣れてるが、昨日の自分ってのは見たことねぇな」
サライは考える。昨日の自分が使わず、今日の自分が持っているものとは何か。
リンゴの甘く瑞々しい果汁を滴らせながらあちらのサライが刀を振るう。それを同じ刀で受け止め、サライは自らの後ろに複製義体を呼び寄せた。
(知識だ。知識を使え。リンゴを食い進めている時間の俺達には、食い終わった後の知識はない!……戦闘知識は、今の俺の方に一日の長がある!)
四人分の武力、対二人分の戦闘知識。
サライより遥かに長い刀がぶつかり合う。背後の複製義体が同じ刃を振り回し、あちらのサライが呼び出した複製義体を吹き飛ばす。
(昨日の俺が使ったユーベルコードでは、「黒鉄刀」までは複製できない!こっちに二振りがある分だけ俺たちの有利だ、なんせあっちは……所詮、リンゴを食べる為だけに召喚された複製だからな!!)
あちらのサライが振り下ろした刀を、複製義体とサライ、二人が刃をクロスして防ぐ。複製である以上、そして昨日と今日のほんの僅かな差異である以上、力は互角。二人分の力が刃を跳ね返す。そうして突き出した刀は、もう一体の複製義体を地に沈める。
初戦はオブリビオンであるが故か、地に倒れ伏したあちら側の二体の複製はそのまま地面からでてきた無数の手に引き込まれ、大地に沈んでいく。
これで、二対二。
身の丈よりも長い刃がぶつかり合う。あちらの複製義体が突きを繰り出してくる。その腕をこちらの複製義体が斬りつけ、渾身の力を込めて断ち切る!サイボーグである彼の腕は、切り口をスパークさせながら地面に落ちる。そのままたたらを踏んだところを蹴りを入れ、腹を薙ぎ斬る。三体目の複製義体が、大地に沈んでいった。
「そうだ、もう一個だけ知ってるぜ、昨日の俺……!今だけのお前が持ってる、弱点をなぁ!」
『……なんだ……と!?』
「知識量では……昨日の俺より、今日の俺、ってな」
もうかなり長い間二人の鍔迫り合いは続いていた。サライと昨日のサライ、複製でない木々水サライ同士の一騎打ち、そこに刀を手にしたこちら側の複製義体が加勢する。
あちら側のサライの顔色は悪かった。それは自らの複製義体が三体とも倒れたからでも、敗色が濃厚だからでもない。複製義体が前に出る。あちらのサライと複製義体、互いの刃がクロスする――
その瞬間、サライの蹴りがあちら側のサライの腹部にぶち込まれた。
『が……っは!!』
地面に撒き散らされる白い塊。それは紛うことなきリンゴの果肉だ。
「お前は今、リンゴの食い過ぎで!激しい運動するような腹じゃあねーんだよ!!」
それでもオウガたちには勝てたことを知っている、それは三体の複製の強力あってのこと。一対二、しかも弱点持ちとなれば……勝負は決まったようなものだった。
それでも昨日のサライは木々水サライ。体調が思わしくない、それだけの理由では倒れてはくれなかった。
長い、長い打ち合いの末。あちらのサライに出来た一瞬の隙をついて、こちらの複製義体が真っ直ぐに突き掛かる。それは昨日のサライに深々と突き刺さって。
サライは昨日の自分へと、大きく刃を振り下ろす!
真っ赤な血が飛沫いた。昨日のサライが膝をつき、地面に倒れ伏す。それを大地から伸びた腕が地面の中へと引き込んでいく。
――すべてが終わり、己の複製義体が動きを止めて、勝者はたった一人。
木々水サライは肩で息をしながら、唇をつりあげて笑った。
「俺の勝ちだ」
大成功
🔵🔵🔵
エルヴィン・シュミット
この戦場の話はもう聞いている。
『昨日の自分』がそのままオブリビオンになって現れる、と。
『昨日の自分』がそのまま現れるなら『昨日した事』をそのまましてくる筈。
だから、昨日UCを一発、宛てもなく空に向かって放った。
【ALUETTE】を振るった【SHOW DOWN】。
この戦いの肝要はその一撃を放ってくる事の一点にあると見た。
全ての武装も技能もそのまま同じなら、その『何をしてくるか』で差をつける。
UCを放ってくる一瞬を【見切り】で捉えて斬りつける!
ちょっとした小細工はあっても、この戦いは真正面から切り結ぶ他に無い。
たった一日の差を、この刃にて『斬り』越える!
「そんじゃ…決着付けるか!」
※アドリブ歓迎
ゴゴゴ、と重い音を立てて闘技場の扉が開いていく。
エルヴィン・シュミット(竜の聖騎士・f25530)はそれを静かに待っていた。
木と鉄の扉が完全に開いて、現れたのは「昨日の」エルヴィン。その手に持つのは片手半剣。すっと振り上げたそれをあちらのエルヴィンは振り下ろす。まるで指揮者の持つタクトのように。それに従い現れたのは、機関銃を生やした50騎を越える幻影のドラゴン。
『――粉砕しろ!』
「ちっ、いきなり大技で来やがったか……!!」
弾丸の雨が降り注ぐ中を、エルヴィンは駆ける。少しでも近く、昨日の自分自身へ出来得る限り近づくために。
エルヴィンの持つ片手半剣「ALUETTE」が昨日のエルヴィンの持つそれとぶつかり合う。弾丸が肩を掠める、けれどここまで肉薄すれば幻影ドラゴンも主人を巻き込む事態を危惧するのか、盲滅法に撃っては来られない。埒が明かないと判断したのか、次第に幻影ドラゴンの姿は消え、二人のエルヴィンが闘技場に残された。
「――この戦場のことは、昨日以前から知っていた!お前とこうして切り結ぶことになるだろうこともな!」
『……何が言いたい!』
渾身の力で奮った剣をそれ以上の力で受け止められ、弾き返される。脚を薙ぐように払われる剣の軌道。
……不意に。あちら側のエルヴィンが不可解な挙動を取った。
エルヴィンの唇がつり上がる。昨日のエルヴィンが、誰もいない場所へ向かって――まるで敵が空中にいるような素振りで、片手半剣を振るう。その行動は自分でも意図しないものだったのか、あちらのエルヴィンが理解できないというような表情をする。
その瞬間――明らかに自分を狙っていなかったその一瞬を見計らって、エルヴィンは無防備な昨日の自分自身へと斬りかかり――返す刀で、昨日のエルヴィンをまっすぐに貫いた。
真っ赤な血飛沫が闘技場の乾いた地面へと飛び、ぼたぼたと染み込んでいく。
「……言っただろ、この戦場のことは、もう知っている、ってな」
この不思議の国――“過ぎ去りし日の闘技場”が攻略可能になって、一日以上の時間が経っている。既に同じ戦いを経験していた猟兵たちから何が起きたのか、何と戦ったのかを聞き出すのは容易かった。そうでなくともグリモア猟兵の予知が、この闘技場についてのことを事細かに説明してくれている。
エルヴィンは知っていた。この戦場では、『昨日の自分』がそのままオブリビオンになって現れるのだと。
そのときに思ったのだ。――『昨日の自分』がそのまま現れるなら、『昨日した事』をそのまましてくる筈だ、と。
「だから俺は、昨日。ユーベルコードを一発、宛てもなく空へと向かって放っておいた」
……片手半剣「ALUETTE」を用いた【SHOW DOWN】――近接斬撃武器による、命中した対象を切断する一撃。本来敵に向かって放たれるそれを、敵の存在しない空中に向かって放つ……それは、布石だった。
先程のあちら側のエルヴィンの不可解な技の発動は、それをそのまま模倣したもの。「昨日のエルヴィン自身がとった行動」だ。
「そりゃあ、賭けだったさ。もしも俺が空中に飛んでいる瞬間を狙って放たれたなら、間違いなく避けられない。全てが仇になる。……もちろんそんなことはねぇように、細心の注意を払わせてもらったがな」
お前も知ってるだろうけど、ギャンブルは好きなんだ。エルヴィンは不敵に笑って言う。
「そんじゃ……決着付けるか!」
血を滴らせる刃を、ぞぶりと自分自身の身体から抜く。昨日のエルヴィンは、震える手で同じ片手半剣を構えた。決着に必要なのは、互いにあと一撃となるだろう。
(たった一日。そのたった一日の差を――)
「この一撃で、『斬り』越えるッ!!」
剣はぶつからなかった。真っ直ぐに突き出された昨日の刃を躱して、エルヴィンの刃は昨日の自分自身へと吸い込まれていく。
肩から腹までを大きく切り裂かれた昨日の自分自身が血を流しながら倒れ伏し、エルヴィンは噴き出すその血を自らの身体で受け止める。
大地から土塊の腕が伸びてきて、昨日の自分を地面へと引き込んでいく。もしなにかが変わっていたら、今頃そうして地中へ沈められていたのは己だったかもしれない。今更のように冷や汗が背中を冷たくする。
勝者、『今日を生きる』エルヴィン・シュミット。
――彼は、まさしく昨日の自分との駆けに勝ったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
浅間・墨
昨日:友人と鏡の森の戦場にいた。
獲物は『兼元』を使用。
昨日の私と対峙した瞬間に一気に懐まで踏み込み斬ります。
『使われる前』の速さが乗りきってない時に…崩します。
『今』の私が使用するUCは【黄泉送り『彼岸花』】です。
(早業、破魔、鎧砕き、2回攻撃、鎧無視攻撃、限界突破)
初撃は技同士の衝突で…刀同士の噛み合いで終わるかも。
呼吸がズレて昨日の私に『私』が斬られるかもしれません。
でもそれでも怯まずに足腰と丹田に力を入れて…。
2撃目の…斬り返しの時に全力で斬ることができれば。
まだ未熟な『私』にも勝機があると思います。
もし踏み込みが間に合わなかった場合は。
待ち構えて斬ります。くるところは胸…でしょうから。
古代ローマ様式の闘技場。その闘技場の、相手方の扉が開いていく。
顔を隠す、艷やかな長い黒髪。その姿を目にした瞬間に、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)は昨日の自分自身へ向かって一気に踏み込んだ。
桜色の着物の袖がひらりと揺れた。
(あれが昨日の『私』なら……持っているのは『国綱』)
二尺二寸九分の大刀。対してこちらが手にしているのは二尺三寸三分の大刀『兼元』。
昨日と今日、時間の経過以外に異なるのはそれだけだ。ほんの僅かな刃渡りの違い、しかしどちらも業物。業物同士のぶつかり合いは、即ち使い手が優れる方に軍配が上がる。
昨日の墨が鏡の森の中で使用した剣技は、彼女が持つ中でも最も一番素早く攻撃できるものだった。だから、それを使われてしまっては――追いつけない。
だから、使われる前……速さが乗り切っていない間に、体勢を崩す。
森羅万象を断ち切ることが可能な切れ味を想像し、己が持つ刃を無敵の一振りと化す剣技【黄泉送り『彼岸花』】――目にも留まらぬ早業で、頸を断ち切らんとする。
しかし、この技は、能力に疑念を感じると大幅に切れ味を減する。
初撃は入らないかもしれない、呼吸がずれてしまうかもしれない、踏み込みが間に合わないかもしれない……墨の用心深い性格は時として仇になる。そう、臆するがゆえに剣技の真の能力を出しきれない。
だから――予想したとおりに、初撃は昨日の墨の刃に受け止められた。ギリギリと刀同士が噛み合う……けれど、噛み合ったが故にあちらの墨の刃もその速度を殺される。
互いの刃が火花が散るように軋りあい、そして急に付けられた緩急についてゆけずに吹き飛ばされる。ざりざりざり、墨の雪駄が乾いた地面を削る。
ちゃきり、昨日の墨の手の中で刃が音を立てる。それは彼女が墨にとどめを刺さんとする合図。
(昨日の私が、私に――いいえ、『敵』にとどめを刺すとしたら――)
わかっている。いまだこの手の中から昨日のオウガを屠った感触は失われていない。それをたった一日で忘れてしまうほど、墨は人の心を忘れてしまってはいない。だから、昨日オウガのどこを刃で刺し殺したのか、しっかりと覚えている。
昨日の墨の刃から繰り出される最も速い技、超高速の剣技【地擦り一閃『伏雷』】が真っ直ぐに目指すのは――墨の胸、心の臓。だから墨は咄嗟に信念によって強化された『兼元』を胸の前で構え、足腰と丹田に力を入れて、待ち構える。
ガキィン、鋼同士がぶつかりあう音がした。昨日の墨が超高速で放った技は今日の墨の信じる心によって研ぎ澄まされた刃によって、弾き返され――森羅万象を断ち切る刃は、昨日の墨の持つ『国綱』をも断ち切った。さくり、近くの地面に折れた刀の切っ先が突き刺さる。
長い黒髪が揺れる。国綱を断ち切った兼元は、そのまま昨日の墨の肩を逆袈裟に斬り上げている。流れ出る血が桜色の着物を染め、ぱたぱたと地面へと滴る。
ゆらり、その手が折れた刃をそのままに握りしめる、それが動く前に、墨の刃は昨日の自分の喉元を断ち切った。迸る赤い飛沫を真正面から浴びる。
崩れ落ちるように紅に塗れた昨日の墨は地面に座り込んだ。既に息はない。その黒髪がふわりと広がって、仰向けに倒れ込む。
地面からは土くれの腕が無数に突き出て、昨日の墨の亡骸を地中へと引き込んでいく。
(私は――勝ったのですね。昨日の私に――……)
くらりと熱中症のようなめまいに襲われて、墨は兼元を握りしめた。
大成功
🔵🔵🔵