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暁天の旗を掲げよ

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●妖狐の里
 夕刻。妖狐の里に妖狐の群れが押し寄せていた。
 何者かに喰われたような跡がある怨霊の妖狐たちが憎しみに濡れ、同胞である妖狐に禍々しい炎を放つ。
「対抗するんだ! こちらも炎を放て!」
 里の妖狐たちも炎を放ち、相殺していく。しかし、怨霊妖狐は数が多い。徐々に里の妖狐たちの手では間に合わなくなっていき、
「ああっ!」
 悲鳴があがる。彼らの住む家が燃えていった。天へと煙がもうもうと舞い上がり、次々と燃え広がる悪意の炎。
 炎の中、彼らは見た。
 怨霊妖狐たちが一斉に戦闘を止め、道を譲り地面へと従順に伏せる中をずんずんと進み出る敵将の姿。それは。

「狸じゃと」

 妖狐の長老が目を瞠った。敵将はかつて妖狐一族との熾烈な覇権争いの末に敗れ、この世から姿を消したはずの妖怪狸の棟梁だったのだ。
 狸はめらめらと邪悪な焔を燃やす盃を手に告げる。

 この里を滅ぼす。だが、時間をやろう。
 3日ののち、再びこの里を襲う。
 それまでに戦力を整えておくがよい。

 その瞳はどこか落胆したような光を宿し、妖狐たちを見下していた。自分の敵である妖狐はこんなに弱かっただろうか? なんと手応えのない。
 その瞳がそう告げていた。

●奇襲作戦
「妖狐の里がひとつ、滅亡の危機にあります」
 グリモアベースの窓際でルベルが正座し、説明する。

 かつて妖狐一族と妖怪狸一族の間に熾烈な争いがあった。
 争いの末に敗れ、この世から姿を消した妖怪狸の棟梁。彼がオブリビオンとして蘇り、妖狐の里を滅ぼそうとしているのだ。それも……、

「妖怪狸の棟梁は、妖怪狸の天下を目指しています。もう彼についていく一族の仲間もいないというのに、蘇った彼にはその認識もないのでしょう。
 妖怪狸の棟梁は現在、神社や社に祀られていた高位の妖狐を殺めて怨霊と変化させ、自分の手下として使役しています。
 妖狐の里を、妖狐を操り襲わせる。悪辣です」

 ルベルは真っ直ぐに猟兵を見上げる。
「皆様は、妖怪狸の棟梁が軍団を引き上げた直後の妖狐の里に到着することになります。
 妖怪狸の棟梁は妖狐の里を完全に滅ぼす意思をもち3日後、再び攻めてきます。
 皆様には現地でまず到着した夜一晩、現地の復興支援を行って頂きます。現地には怪我をしている妖狐や、まだ火が燻ぶっている木製の家があります。怯えている妖狐も多いでしょう。どうぞ力になってあげてくださいませ」

 そして、地図を広げてみせる。
「妖狐の里の南に、森が広がっています。さらにその南には小高い丘があります。
 丘には、妖怪狸の軍が布陣しています。敵軍は3日後に攻めてくるとのことですが、僕たちは、その3日後を待つ必要はございません」
 ルベルは猟兵たちに頭を下げる。そして、告げる。
「怨霊は朝の光を苦手とするもの。到着の夜は現地の支援をして頂き、翌朝、妖怪狸の軍団を奇襲。しかるのちに敵将妖怪狸を撃破してくださいませ」
 初戦を勝利に納めた翌朝だ。猟兵の到着を知らぬ敵将はさぞ油断していることだろう。速さをこそ尊び、一気に叩いて欲しい。なお、現地での戦術は任せる。
 ルベルはそう依頼するのであった。

 転移の間際、ルベルは囁く。
「零れた水は戻らぬもの。世界は、前に進んでいくものです。
 未来へ歩もうとしている人々を過去の亡霊からお救いください。
 どうか、よろしくお願いいたします」


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 今回はサムライエンパイアでの冒険です。

 1章は夕方~夜。妖狐の里の復興を手伝ってあげてくださいませ。
 2章は朝。集団戦です。森を突っ切り奇襲をかけていただきます。
 3章は朝。ボス戦、妖怪狸の棟梁との決戦です。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 冒険 『地域の復興』

POW   :    瓦礫をどかしたり、救援物資を運んだりする

SPD   :    建物や仕事道具の修繕などを行なったりする

WIZ   :    必要な物資の計算したり、意気消沈する民を励ましたり、怪我人の治療をしたりする

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

唐木・蒼
これは、また…好き勝手にやってくれたわね。私達が今ここで何かをできる時間は決して長くはないけど、できる限りの精一杯で支援させてね!
【POW】
技術もないし知識もない、そんな私にできるのはやっぱり力仕事よねぇ。瓦礫の撤去を優先に。まだ火がくすぶってたり熱いかもだから動かしづらいだろうところから。見えざる拳や火焔で手を覆っておけば大丈夫かな?
それに物資の運搬。置き場所なんかは頭のいい人が考えてくれてると思うからとにかくそれに従ってどんどん運びましょう。
あとは炊き出しの手伝い……は、ダメだ皆に行き渡る前に私の胃の中に収まる未来しか見えない!(汗
一段落ついたら、残った炊き出し貰うくらいでお願いするわ。


レイチェル・ケイトリン
瓦礫をどかしたり、救援物資を運んだりするよ。
もちろん優先はけがした人の救助と消火だけどね。
あと、妖狐さんたちにもしてほしいことをきくよ。
妖狐さんたちにもできることはしてもらわないとね。

念動力技能でサイコキネシスを丁寧に使ってけがしてる人を運んだり、
空気をうごかして酸欠にして火を消して、瓦礫をどかして、
救援物資を運ぶよ。

怪我した人を運ぶなら治療してる人に相談するの。

消火や瓦礫をどかすなら建物直してる人に相談するよ。
つかえるのがあるかもね。

救援物資を運ぶなら物資を計算してる人に相談するね。

わたしは救急車で消防車でショベルカーでトラックで、
でもわたしはひとりだから一度にできることをかんがえないとね。


守宿・灯里
祀られていた妖狐の方達を殺めて襲わせるなんて…
なんて酷い…。
怨霊となってしまった魂を救うため、
そして今を生きる方々を守るため、全力を尽くします!

●行動【WIZ】
私は怪我をしている方々を『生まれながらの光』で癒しながら、
1人1人丁寧に、真摯に励まして回ります。

きっと、怪我をしている方はより不安に怯えていると思います。
癒してあげつつ、安心させるように手を取って、
「大丈夫です。私達が必ず守ります。」と励まして回ります。
人との触れ合い・温もりは、何よりのお薬だと思いますので。

私の聖者の力は傷ついている人々のために――。
そう心に思いつつ、時間の限り力の及ぶ限り癒して回ります。


アララギ・イチイ
ふーん、此処の連中は意気消沈しているのねぇ
復讐心でドロドロの状況なら面白いのに、活気が無い状況は全く面白くないわぁ
というわけで、ちょっと活気を入れてみましょうかぁ

召喚・機械人形軍団で人形を呼び出して(メカニック・ハッキング)で戦闘用システムを削除、作業用にアップデートして、森から食べられる物を集めて来る様に指示を出しておくわぁ

食材を集めている間は(救助活動、医術)で怪我人の治療よぉ

食材が集まったら、彼らが好みそうな料理(情報収集・聞き耳で事前調査)を(料理)して、住民に振舞うわぁ(上記の機械人形は手伝いに再利用
ついでに(毒使い)の能力で向精神薬(暴走しない程度の極少量)を入れておきましょうかぁ


目面・真
妖怪狸? 世の中には変わった生き物が多いモノだな。
で、オレ達は妖狐の手助けをすればイイのか?

大体の都合は分かった。ならばオレは腕力にモノを言わせて、物資の運搬を手伝おう。
丁度アームドフォートが整備中でな。着慣れた宇宙服も脱いで、羽織袴で作業しようか。
この包みは軽いな。何が入っているんだ。アブラアゲ?
想像もつかないが、食料かな?
まあイイ、次に行こう。衣服も医療品も足りないだろう。仮設の家屋だって必要だろうから、どんどん運ぶぞ。

それだけじゃナイのか。里の有り様を見れば、片付けも必要だったな。
大事な家財道具まで片付けてしまわないように、笄で瓦礫の隙間を調べてから処分しなければな。


トリテレイア・ゼロナイン
惨い話です。過去の因縁に巻き込まれ訳も分からず襲われるなどと
騎士としてこの窮状に駆け付け、妖狐達を助けましょう

まず怯えている妖狐達に「礼儀作法」と「優しさ」を持って接し、私達が助けにきた猟兵であると伝え安心させましょう

それがすんだら「暗視」で被害を把握し「怪力」で瓦礫をどかして、下敷きになっている方を「手をつないで」引っ張り救助したり、「世界知識」で得た破壊消火の知識を活かしての消火活動に努めましょう

盾に鎖をつけて腰に結び即席の担架にして、負傷者を治療できる場所まで運搬する仕事も行いましょう
私達猟兵が来たからにはもう大丈夫だと「鼓舞」して妖狐達を励ませればよいのですが…


宮落・ライア
POW
邪魔なものとか資材とかを運ぶぞ!
元気に明るく喧しく!
笑顔が元気の証!
はいにこー!
元気のない子供とかが居たら口の端を持って笑顔にしてやるのだよ。
ボク達が守る。ボク達が脅威を倒す。だから子供も大人達を元気にする手伝いをして欲しいのだよ。

【怪力】で一気に大量の資材を持ちながら【ダッシュ】で運ぶぞ!
勢いあまってぶつかりそうになったら【ジャンプ】!
とにかく元気よく働いて【鼓舞】するのだよ!



●それは春の日差しにも似て
 診療所。
 血の滲む包帯で腹を覆い、横たわる妖狐の男がいた。
 脇に息子が座る。息子はどうしていいかわからずに、ただ手を握り身を震わせていた。身動きひとつすれば命が零れてしまう、そんな風に。
「坊、」
 妖狐の男はそんな息子を憐れむような慈しむような眼を向けた。まだ幼い子を悲しませてしまう。この先もずっと。それが辛く、申し訳ない。だが、
「坊、男の子はつよいんだ。いいか、つよく生きろ。
 顔をあげて、前を向いて生きるんだぞ」
 息子は耳を伏せていた。だが、聞こえている。何かを必死に堪えるように歯を食いしばり――、言葉を発すれば堪えているものが決壊してしまう、そんな予感とともに。だが、言葉を返さねばならない、父に応えなければ、と口を開こうとし、

 ――そこに、やわらかな光が差し込んだ。

「こ、この光は」

 光は診療所をあたたかく満たしていく。

 ふわ、ふわ、ふわり、と。

 春の日差しのようにあたたかな光が診療所に注ぎ込む。光が触れれば、たちどころに重傷が癒えていく。
「こ、これは」
 彼らは見た。

 桜が控えめに花開くが如く淡い光。
 花扇があえかに風を薙げば、そよりと風に乗り桜の花が舞うように光粉がひとしく人々へと注がれる。
 花扇操る守巫女は、少女自体が光ともいえた。

 なんと清廉な光だろうか。
 絶望の淵で死に向かい合っていた人々にとって、これ以上の希望はない。
 なんと温かな光だろうか。
 悲しみ無力さに打ちひしがれていた家族にとって、これ以上の奇蹟はない。

 それは、生まれながらの光。

 ――彼らはその光を生涯忘れることはないだろう。

「大丈夫です。私達が必ず守ります」
 そこにいたのは、守宿・灯里(花扇の守巫女・f00469)・
 灯里は近くの怪我人のもとへ膝を付き、手を取る。

 その手は柔らかだ。そして、あたたかい。
「人との触れ合い・温もりは、何よりのお薬だと思います」
 言えば、他の仲間たちも後に続き、倣うように手を取り、励ましていく。

 私の聖者の力は傷ついている人々のために――。
 心に思いつつ、灯里は時間の限り力の及ぶ限り、人々を癒してまわる。

●絶望を希望に塗り替えるために
 診療所の外に人だかりができていた。
 猟兵が救援に駆けつけたらしい、と。

「皆さん、落ち着いてください」
 猟兵たちがひとり、またひとり。姿を人々の前に露わにする。
 ある者は人々へと視線をやり、ある者は周囲の惨状へと視線を走らせ。

「私達は、助けにきた猟兵です」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が礼儀正しく名乗る。身の丈3メートルに届こうかという巨躯。その声は優しい。

「祀られていた妖狐の方達を殺めて襲わせるなんて……なんて酷い……」
 灯里はそっと胸に誓う。怨霊となってしまった魂を救うため、そして今を生きる方々を守るために全力を尽くそう、と。

「これは、また…好き勝手にやってくれたわね」
 妖狐の唐木・蒼(喰らい砕くはこの拳・f10361)が里の惨状に眉を顰めた。
「私達が今ここで何かをできる時間は決して長くはないけど、できる限りの精一杯で支援させてね!」
 宝石のように瞳を煌めかせ、蒼は快活に言う。

 レイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)は念動力を丁寧に操りそのちからを披露しながら支援を申し出る。
「わたし、物を浮かしたり動かしたりできるよ。してほしいことがあったら、言ってください」

「ふーん、此処の連中は意気消沈しているのねぇ。
 復讐心でドロドロの状況なら面白いのに、活気が無い状況は全く面白くないわぁ」
 アララギ・イチイ(ドラゴニアンの少女・f05751)の金の瞳が煌めく。
「というわけで、ちょっと活気を入れてみましょうかぁ」

「妖怪狸? 世の中には変わった生き物が多いモノだな。
 で、オレ達は妖狐の手助けをすればイイのか?」
 目面・真(たてよみマジメちゃん・f02854)が仲間たちに確認した。

「惨い話です。過去の因縁に巻き込まれ訳も分からず襲われるなどと」
 トリテレイアはどこか遠くを想うように呟いた。

 半袖短パンの元気っこスタイルで宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)が走り出した。
「猟兵が助けにきたぞー!」
 明るい声が里中に響く。

 滅びを待つのみだった里に希望の灯が燈る。

●猟兵は、協力することができた。
 レイチェルは優先順位を付けていく。
 レイチェルの能力は汎用性が高いのが特徴だ。だが、レイチェルひとりで一度にできることは限られている。
(まずは、けがをした人の救助と消火)
 それに、と周りを見る。仲間がいる。ひとりでは、ない。

「大体の都合は分かった。ならばオレは腕力にモノを言わせて、物資の運搬を手伝おう」
 真のアームドフォートは現在整備中であった。だが、スペースシップとエンパイアは彼の庭のようなものである。宇宙服を脱ぎ羽織袴姿の真は食糧物資の運搬を手伝う。

 未だ煌々とした火をあげている家屋。
「延焼を防ぎましょう」
 トリテレイアはそう言うと燃えている家屋の周囲、燃え移りそうなものを除去していく。これは彼が世界知識の膨大なデータ群の中から見つけた知識であった。

「手分けしてやればなんとかなるわ」
 蒼は瓦礫に向かう。
「ここに女の人が!」
 救助の声に素早く駆け寄り、ゆらり、と火焔を手に纏わせる。
「技術もないし知識もない、そんな私にできるのはやっぱり力仕事よねぇ」
 蒼は朗らかに笑いながら見た目に見合わぬ力で瓦礫を持ち上げて見せた。花のような容貌に見合わぬ怪力に人々が目を瞠る。
 レイチェルも瓦礫の下にいた妖狐のお姉さんをふわりと浮かせ。トリテレイアも周囲の瓦礫をどかしていく。

 医術の心得があるイチイは瓦礫の下敷きになっていた妖狐のお姉さんをさっと診る。脚を怪我している。骨が折れているだろう。
「こっちにも! こっちにも怪我人がいます!」
「こっちでうちの爺さんが具合が悪いって言ってるんだ」
 方々から救援要請がある。
 診るべき者は多い。イチイは負傷の度合いを素早く判じ、緊急度の高い者から順に応急措置を施していかなければならない。
「このお姉さんは診療所に運びましょうねぇ」
 診療所には癒しのちからを奮う灯里がいる。頼りになる存在であった。
「しっかりなさってください。私達猟兵が来たからにはもう大丈夫です」
 トリテレイアがお姉さんに声をかけながら大盾に鎖をつけて腰へと結ぶ。人ひとりを余裕で載せることのできる即席担架の完成だ。
「画期的な盾の使い方ね」
 蒼が運ぶのを手伝った。

 夜の帳が降り、辺りは闇に包まれようとしていた。
 トリテレイアは暗視により周囲を見渡す。
 彼は幾つもの御伽噺を知っていた。騎士が人々を救い、悪を倒す御伽噺であるような――それらは全て、過去のものであった。
 この惨状を引き起こした狸の亡霊は過去を生きた大将であった。亡霊は過去と現実の区別がついていないのだという。
 過去に襲われた今を助ける。
 彼の緑色のセンサーは確固たる決意と共に夜の闇を見通し、照らす静謐な光となった。

●元気は伝播する
 子どもたちが不安そうな顔で見ている。
 それに気づくとライアはニコっと笑顔を向けた。
「笑顔が元気の証!」
 釣られて笑う子がいた。
「そうそう!」
 ライアはウンウンと頷き、まだ不安そうな子の口の端をふにっと持ち上げて笑顔をつくってあげる。
「はいにこー!」
 見ていた者たちは思わず笑ってしまう。
 子どもたちも一人また一人、笑顔になっていった。
 ガキ大将のように周りの子どもたちを眺め、ライアは腰に手をあげて宣言する。
「ボク達が守る。ボク達が脅威を倒す。だから子供も大人達を元気にする手伝いをして欲しいのだよ」
「大人を元気にする?」
 子どもたちが不思議そうな顔をする。秘密の作戦会議のようにライアが子どもたちに説明すると、子どもたちは元気に立ち上がり。
「ぼく、ごはん作るの手伝う!」
「あたしはお婆ちゃんを励ましてくるわ」
「わたし、狐火が使えるから明かりをつけるの手伝う」
 ひとり、またひとりと自分に出来る事をする意思をもち、笑顔で走っていった。

 子どもたちを見送り、ライアは資材を怪力により大量に抱え、さらにダッシュでひょいひょいと運ぶ。
「ぶつかる! ぶつかる!」
 勢い余ってたまに仲間とぶつかりそうになるが、なんと資材を抱えてジャンプして避ける。その姿はひたすら元気であった。

●大切なもの
「この包みは軽いな。何が入っているんだ。アブラアゲ?」
 箱を軽く振る。空気のように軽いそれは振っても全く音がしない。
 想像もつかないが、食糧というならそうなのだろう。真は深く気にしないことにした。
「まあイイ」
 箱を飯炊き所へと運び入れる。穏やかな風を孕み夜闇に溶けそうな藍の髪がかすかに揺れた。妖狐の少女が走ってくる。
「ありがとう、『お姉さん』」
 妖狐の少女が箱を大切そうに受け取り、にこりと笑った。ふわふわの尾が嬉しそうに揺れている。
 女性と間違われている。思いつつ真は真面目な表情でコクりと頷くと来た道を戻る。間違われるのには慣れていた。
「次に行こう」
 運ばないといけない物はたくさんあった。衣服、医療品、仮設家屋も必要だ。
「どんどん運ぶぞ」

 大方の物資を運搬し終え、額の汗を拭えば未だ片付かぬ瓦礫がある。
「ああ……」
 真は息をついた。
 この瓦礫は人々が昨日まで暮らしの拠点としていた大切な家屋の残骸なのだ。何年、何十年と共に過ごしてきた、家族や里の人々との思い出深き家屋の。
 真は静かに瓦礫の隙間を歩み、笄を駆使して瓦礫の端々まで目を配らせる。

(大事な家財道具まで片付けてしまわないようにしなければな)

 隙間から出て来た折り紙で作られた鶴を手に思う。
「みーちゃん、みーちゃん」
 と、横からそんな声がした。目元をしわしわにしたおばあちゃん妖狐だ。
「これか」
 優しく折り紙を渡せば、おばあちゃん妖狐は大切そうに両手で鶴を抱えた。
「離れて暮らす孫がくれたんですよ。おばあちゃん、ちょっとボケてるんですけどその鶴を孫だと思って大切にしてるんです」
 近くにいた女の人が教えてくれた。

「これ、つかえるかな?」
 瓦礫をどかしつつ、レイチェルも再利用できそうなものを見つけるたび仲間や里の妖狐にきく。
「建物を直したりするのに、つかえるならつかってほしいの」
「そうね、そういう考え方は大切だわ」
 蒼も頷く。
 彼らは瓦礫を慎重に選別していった。

●機械人形たちは列を成し
「そろそろご飯も用意しないとねぇ」
 明るい口調で言うとイチイは燃えるような赤い髪を掻き揚げ、ユーベルコードを発動する。右手で虚空に円を描き、見世物の調子で謳いあげる。
「何が出るかなぁ、何が出るかなぁ~」
 物珍し気に子どもの妖狐が見入っていた。冬毛の狐尾が好奇心に揺れて見守る。
 イチイは子どもにパチりと片目を閉じる。
 そして、イチイは小型の機械人形の軍団を呼び出した。呼び出す際に手を加え、戦闘用のシステムは外して作業用にアップデートする。
「わ、あ」
 子どもがあんぐりと口を開けて驚く。見守る先でずらりと整列した機械人形たちは統制の取れた動きで森へと向かっていく。
 子どもが後を付いていきそうな様子で隊列を見送った。イチイはやんわりと子どもを引き留め、隊列へと手を振る。
「ご飯をいっぱい取ってくるのよぉ」
「ご飯を取ってくるの?」
 子どもがイチイを見上げる。目はまんまるだ。イチイは微笑んだ。
「うん、一緒に待ちましょうねぇ」
 金色の瞳はお月さまのように穏やかな色を湛えていた。

 やり取りに頬をゆるめていた蒼は困ったように言う。
「炊き出しも手伝う、と言いたいところなのだけれど」
 蒼は肩を竦める。ふわり、と狐尾が揺れた。
 傍では別の妖狐の女の子が狐尾のまわりを追いかけてまろんでいる。じゃれているのだ。
「自分で食べてしまいそうだわ」
 ふふ、と顔を見合わせて笑い。
「一段落ついたら、残った炊き出し貰うわね」
 言いながら再び運搬に戻っていった。

「これはどこに置けばいいかしら」
「これはどこに運ぶのがいかな?」
 蒼とレイチェルは相談しながらそれぞれの荷を運んでいく。

●炊き出し
 やがて、診療所の入り口で灯里が仲間たちに手を振った。
「皆さん、炊き出しが用意できました」
 里の者と料理のできる猟兵が一緒に用意した炊き出しだ。イチイはごく少量の向精神薬をスープに混ぜた。
 行列ができる。
「いっぱいあるからねー!」
 ライアが元気に声掛けをしながら器に料理を盛る。
 
 火はすっかり治まっていた。
 里は短時間で驚くほどの復興ぶりを見せ、戦いの傷跡は残しつつも人々の顔は明るい。

●夜明け前
 仲間たちは交代で仮眠を取りながら戦いに備える。
 そして、夜明け前。
「そろそろ行こうか」
 彼らは動き出す。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『憎しみに濡れた妖狐』

POW   :    神通力
見えない【波動】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    鬼火
【尻尾から放たれる怨嗟の炎】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    心眼
【常に相手の思考を読んでいるかのように】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●彼らの奇襲作戦が始まる
 見送り武運を祈ってくれる妖狐たちを背に、彼らは里を出る。

 敵は森を抜けた先、丘の上に陣取っている。
 猟兵の存在にはまだ、気付いていない。
アララギ・イチイ
前の章で召喚した機械人形軍団を再度運用するわぁ(可能なら
155mm榴弾砲を必要数分、引っ張り出して機械人形5人1組で運用、砲兵陣地を構築させておくわぁ
地図から距離や角度を割り出して、長距離から(一斉発射・支援攻撃)、砲弾は榴弾で(範囲攻撃・吹き飛ばし)よぉ
もちろん味方には事前に連絡、誤爆しない様にに被害範囲と射撃時間(奇襲直前の時間?)は注意ねぇ

私自身は羅刹紋の効果で上空を(迷彩)で隠れつつ飛行よぉ
砲撃の着弾観測&UCの爆撃・神の杖の大質量の杭を地上に叩き込むわぁ
UCを使用後は、速射砲×2により(スナイパー)による精密砲撃よぉ

地上で大きな花火(血肉を含む)が咲くのが楽しみだわぁ



●速攻
「奇襲作戦ねぇ、速さをこそ尊び……だったわねぇ」
 敵の軍団は使役される怨霊妖狐だ。数は多いが強さはそれほどでもない。
 敵将とやり合う時は油断はできないが、まずは奇襲を持って有利な戦況をつくる。アララギ・イチイ(ドラゴニアンの少女・f05751)は戦意を高ぶらせた。
「お腹が空いてたのよぉ」
 ドラゴニアンの少女は戦闘を好む。この場合の空腹とはすなわち、戦闘への飢えであった。戦闘の予感に身を震わせながら、イチイは迅速に戦闘準備を進めた。
 この局面で大切なのはとにかく速度であった。

「さ、戦いの時間よぉ」
 イチイは機械人形の軍団のシステムを組み替える。先ほどまで食糧確保に動いてくれていた機械人形たちを労うように目を細めつつ、作業用から戦闘用システムへと移行させた。
 さらに155mm榴弾砲を引っ張り出すと機械人形5人を1組とし運用。砲兵陣地を構築した。

「地形は単純、難しいことじゃないわねぇ……」
 地図から距離や角度を割り出す。味方と軽く打ち合わせをし、地を蹴る。ふわり、空に舞い上がる。高く。高く。
 イチイの肉体に刻まれた羅刹紋が力を奮う。全身は周囲と溶け込むような彩を纏い、隠密度を上げた。

 木々を抜け、周囲には遮るものがもうない。
 広がるのはまだ明けきらぬ空。ひやりと空気は冷たい。
 ぐんぐんと高度を上げれば、もう森があんなに小さい。
 風がふわりと吹き抜ければ、着物の袖が風を孕んで空にはらりと踊る。
 前方には丘がある。
 敵の布陣は丸見えだ。紫焔がみしりと集まる怨霊妖狐の軍勢が丸く取り囲むように敷かれている。ぽかりと空いた中央の空間には敵将がいる。
 上空を警戒していないひどく無防備な陣容。
 ちっぽけな点のような旗が揺らめいている。あれは、妖怪狸の旗か。
 ああ、とイチイは金の瞳を煌めかせた。
「地上で大きな花火が咲くのが楽しみだわぁ」
 その旗を引き倒してやろう、と。

 元より妖怪狸は猟兵の到着をまだ知らない。油断もあり、上空は全くの無警戒であった。
(やっと戦えるわねぇ)
 イチイは獲物を捉えた猛獣のような目で敵軍を捕捉した。定時、機械人形の軍団はイチイの号令に従い一斉に砲撃を開始した。
 着弾を予測したイチイがユーベルコードを発動させている。
 純粋に重い杭が275本生成される。戦闘慣れしているイチイは自らの生み出した杭の数に目を細めた。眼下の大軍を吹き散らすのに充分というには少ない、だが奇襲の効果を与える事を目的とするならばそれは充分な数である。
「針山地獄、この場合は杭山地獄かしらぁ? まぁ、どうせ串刺しだし関係無いわよねぇ」
 舌なめずりをするように言えば、杭もふるりと震えた――まるで、敵を穿つのが待ちきれない、というように。
「うふふぅ、全力で撃つぜぇー♪」
 口の端がつり上がった。蕩けるほどに悦びを湛え。杭が地上へと降り注ぐ。降り注ぐ様は驚くほどに静かだ。まるで、スローモーションのように下っていく。そして、ゆっくりと地に落ち……、

 ドンッ
 ドンッ

 轟音と火花が閃き丘上が一瞬で混乱に陥った。
 同時に杭が大重量を持って丘へ到達。爆音轟き、地震が起きたかのように振動が地表を揺らす。
 それは、一瞬の出来事。
 怨霊妖狐の陣は只の一撃で大きな穴を空けられていた。

「何事かッ」
 陣中で祝勝の美酒を一匹で愉しんでいた妖怪狸が飛び上がる。答える声はない。それもそのはず、彼の周りにいるのは使役している怨霊の妖狐のみなのだ。
「ええい」
 妖怪狸は怨霊の妖狐軍団へと命を下した。
「迎え撃ていッ!」

 ケーン、
 ケーン……、

 怨霊妖狐たちは従順に妖怪狸に従う。彼らにはすでに感情も意思もないのだ。ゆらりゆらりと哀しくも美しい紫煙の炎を揺らめかせ、怨霊妖狐の軍団が丘を下り始める。

「妖狐どもが反撃してきたのか? そんな気概があるようには見えなかったが」
 未だ上空のイチイに気付かぬまま、敵将は頭をひねる。彼はまだ敵が何者なのかを知らないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
予知によりもたらされた情報により奇襲は容易、この期を最大限に活かしましょう

地元の妖狐に付近の地理を教えてもらい「だまし討ち」に最適な奇襲ルートを割り出します。森を移動する際は「暗視」で効率の良い移動経路を辿れるはず。昇る朝日を背に奇襲を仕掛けられたら最上でしょう

奇襲時は機械馬に「騎乗」、「スナイパー」技能を活かして格納銃を発射しながら突撃、接近したら「怪力」で敵を槍や盾で「なぎ払い」、馬で「踏みつけ」最大限の打撃を与えます

敵が態勢を整え始めたら「武器受け」「盾受け」で味方を「かばう」ことで此方の優勢を維持しましょう

…怨霊となり同胞を襲う無念、剣によってでしか払えぬ私の無力をお許しください



●奇襲
「予知によりもたらされた情報により奇襲は容易、この期を最大限に活かしましょう」

 時は少し前へと遡る。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は地元の妖狐の長老へと腰を折る。
「私達はこれより敵将へ奇襲を仕掛けたいと思います」
 長老は目を瞠る。ウォーマシンの騎士兜から無機質なセンサーの光がどこか冷えやかに辺りを照らしていた。付近の地理を問うと長老はこくりと頷く。
 長老が教えてくれると、ウォーマシンのブレインが情報を分析し最適な奇襲ルートを割り出す。

 森は未だ昏い空の下を鬱蒼と茂っていた。ウォーマシンの暗視は先を見通し、事前に割り出した最適ルートを迷わずにトレースする事に成功する。
 他の仲間と相談したタイミングもあった。

 そして今。
 朝日が昇ろうとしている。

 トリテレイアはこの時点での状況を分析する。音もなく騎士兜の奥で計算された結果は良。そして、味方はすでに動き出しているだろう。
 速度をこそ尊び軽い打ち合わせにて動いてはいるが、彼らは連携を得手とする猟兵たちだった。
 猟兵はひとりひとりが猛者であり、自由意思を持ち立ち回る。
 だが、同じ目的を持ち集まった仲間たちはだいたいの場合戦場にてうまく噛み合い、お互いに助け合うことができるのだ。

 トリテレイアは機械馬へと騎乗した。機械仕掛けの白馬は航宙移動能力も備えている高性能かつ巨大な馬だ。木々の間を抜ける。悪が目の前に布陣している。
 彼の知る騎士もまたこのような場面で剣を取り、

 ドンッ
 ドンッ

 味方の放った砲撃が轟く。時は来た。
 騎士は吠えた。

「ウオオオオオオオッ」

 地をも揺るがさんばかりに裂帛の気合を籠めれば、敵軍は地表の騎士へと気を取られた。まさにその時、日の光が眩しく地表に貌を出さんとしていた。
 敵の注意は地表に向けられ、これにより上空から杭を放った味方の安全も確保できるのだ。

 トリテレイアは砲撃に混乱していた陣へと一気に馬駆けする。駆けながら頭部、両腕の格納武器を起動させる。硬質な装甲の表面が音を立てて口を開き突き出すのは凶悪な威力を秘めた銃。
 馬を走らせながら弾丸を湯水の如く乱射すれば、元から崩れかけていた敵陣はもはや迎撃どころではなく只管に混乱するのみ。
 乱れ撃たれし弾丸は圧倒的な厚みを持ち、次々と怨霊妖狐に命中していく。

 ケーン、
 ケーン、

 混乱する怨霊妖狐の声はどこか哀しい。肉薄した白き大盾が怪力のままに揮われれば純然たる暴力は接敵した怨霊妖狐を5、6躰纏めて殴り倒した。
 至近に迫られた怨霊妖狐はひとたまりもなく蹂躙されていく。

「おや」
 ひやり、感じるものがあった。
 トリテレイアは機械馬を操り、高く跳ぶ。馬の下を見えない殺意の波動が過ぎていった。
 続き、機械馬の着地地点目掛けて殺意の波動が押し寄せ、再びトリテレイアは機械馬を跳躍させた。空中では彼が倒した怨霊妖狐の死骸が飛んでくる。
 目立った甲斐があり、敵軍からは集中して狙われている。
 望むところだ。トリテレイアは策の成功を誇る。

 機械馬の足元へと飛ぶ衝撃の波を今度は大盾で防いだ。防ぎつつ、右方より飛んできた怨霊妖狐の死骸を1躰斬り払う。左方より飛んできたもう1躰は銃で撃ち落した。もう1躰が飛んでくれば機械馬が蹴り倒す。
 人馬一体の攻防はそれぞれが機械であるがゆえ疲れを覚えない。味方の盾となり、敵の気を引き続けるのにこれ以上の適任者がいるだろうか。

 冷徹なマシンとして作業的に敵を斬り、殴り倒す騎士は、だが、そっと一言を呟く。
「……怨霊となり同胞を襲う無念、剣によってでしか払えぬ私の無力をお許しください」
 彼の理想は御伽噺の騎士であった。だが、現実は。

 白き騎士の背後では赤き朝日が昇りつつあった。有明の戦場に哀しき妖狐の死骸が点々と散り、そんな戦場を笑うかのように風は高き空を吹き抜ける。

 丘の上では妖怪狸の掲げし過去を象徴するかのような旗がはためいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

守宿・灯里
これから相対するは妖狐の悪霊
殺められた上に操られ、同胞を滅ぼす駒に使われるなんて、
さぞ無念なことでしょう。
その魂を少しでも救うため、私も前に出て力を振るいます!

●行動【WIZ】
心眼への対処はお任せ下さい。
点や線ではなく、回避する隙間もないような面による攻撃では如何でしょう。
ユーベルコードにより檜扇を桜の花嵐に変え、敵を覆う様に攻撃します。

その魂に、どうか安らぎが訪れますように――。
桜の花が、願わくばその憎悪ごと洗い流してくれますように――。

そう願いつつ、倒すことがその魂の救いになると信じて攻撃します。



●花色の風、吹いて
 仲間たちはすでに動き出していた。
「これから相対するは妖狐の悪霊」
 守宿・灯里(花扇の守巫女・f00469)は森の中で呟いた。
「殺められた上に操られ、同胞を滅ぼす駒に使われるなんて、さぞ無念なことでしょう。
 その魂を少しでも救うため、私も前に出て力を振るいます!」
 打ち合わせの際、仲間へも伝えていた決意を改めて胸に、守巫女が戦いに臨む。
 彼女は丘の麓で木々の隙間に身を隠していた。
 仲間たちの初動を待ち、攻勢に出るのだ。
 軽く息を吸う。早朝の空気は、ひんやりと冷たい。
 頭上の葉はかさ、かさと風に揺れてささめいていた。

 ドンッ、
 ドンッ、

 音が轟いた。地面が揺れるほどの衝撃。丘が燃えている。そして、味方が突撃していくのが見える。敵軍は混乱し、注意は先に突撃した味方へと向けられていた。

「打ち合わせによると、あの妖狐たちは心眼を使うのでしたね」
 そっと呟くと 灯里はユーベルコードを発動させる。
 敵陣まで走る必要はなかった。丘の麓、木々の隙間茂みに隠れるようにしながら放つ彼女の技は敵陣半ばまで届く。
 ふと、風がひととき止まる。
 灯里は静謐の中を扇を舞わせた。玲瓏たる声がひと声紡ぐ。

「花神楽が一差、奉納致します――」
 
 檜扇をくるりと優雅に廻し流麗に一差舞えば神聖な法力が場に充ちる。
 夜色の髪がふわりと揺れて広がった。
 舞いながら灯里は思い出す。
 遠き日、こうして自らを空に泳がせるように舞わせていた戦巫女のことを。

 灯里は覚えていた。
 戦巫女は、世界中を旅し、その土地に住まう人々のため……、

「戦って、いました」
 神聖な気持ちを籠めて、ひと仰ぎすれば風が扇に乗り、
「癒して、いました」
 優しい気持ちを籠めて、ふわりと廻せば風が扇から抜けて、
「笑って、いました……」
 咲き綻ぶ笑み。
 宝石のような瞳が想いを籠めて優しい色を湛えて微笑めば、力が充ちる。

 灯里は、檜扇が本体であった。
 檜扇は、かつて檜扇を手に取り戦った巫女の想いを宿した。
 その守るための強き想いは奇跡の力となる。

 人々を守るため。
 味方を支援するため。
 哀しき敵を滅ぼすため。
 今。

 檜扇は桜の花嵐へと姿を変え、風に乗り敵陣へと舞い降りていく。春の到来を告げるかのような柔らかく清らかな花弁は、昇り切らぬ朝日を受けて宝石の如く戦場にきらきらと舞う。

 ケーン、
 ケーン、

 至近距離へと花弁が迫っている事に気付いた怨霊妖狐たちは花嵐の中を跳びまわり、回避しようとする。その動きは素早く、花嵐の軌道を読んでいる様子だった。
 だが、

「覆ってしまえば……」
 灯里はゆるりと花嵐を操る。風から外れ花弁が一斉に統制の取れた動きを見せ、空中を踊る。くるり、と弧を描くように一廻り。

 ひら、ひら、ひらり。

 敵陣を覆うように集わせ、徐々に包囲を狭めれば、覆われた怨霊妖狐たちは逃がれようもなく一網打尽。

 ケーン、
 ケーン、

 遠くで妖狐の鳴き声が聴こえる。
 それは、やはり哀しい響きを伴い耳を打つ。

 見守る先、花弁が触れた怨霊妖狐たちは光を受けて自身も淡い光となり空に溶けるように消えていった。灯里は成功を知る。
 点も線もなく、回避する隙間もないような面による攻撃は敵の回避能力を超え、敵陣を切り崩す。灯里は心眼への対策としてそう策を練ったのだ。

 ふわり、ふわり。
 夜明けの空へと溶けるような哀しき妖狐たちを見守り、灯里はひとり目を伏せる。ほんの一瞬。

 その魂に、どうか安らぎが訪れますように――。
 桜の花が、願わくばその憎悪ごと洗い流してくれますように――。

 灯里は願う。
 そして、灯里は信じる。
 今、彼らを倒すことこそがその魂の救いになるのだ、……と。

 灯里は再び前を見た。真っ直ぐ見つめる先には混乱し、防衛の体を成していない怨霊妖狐の軍団が見える。
 そして、その上。
 丘の頂上ではためいているのは、敵将である妖怪狸の掲げる旗だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
眠りに安息を。死に安寧を。生の終わりを安らかなものに…。
それがぁ!我が家の家訓!
仇は取るからね。だから、もう一度お休み。

【ダッシュ】【残像】で駆け辻斬りのようにすれ違い様に刀の【剣刃一閃】で切り捨てていく。【二回攻撃】
決して迷わない。躊躇しない。死者は死者。それは死した上で弔うべき者。それに対する敬意は弔った後に示す事。今は、望まぬ感情に突き動かされるそれを止める【覚悟】を持つこと。それだけ。



●紫電閃駆
 味方と打ち合わせした時間にはまだ少し早い。

「眠りに安息を。死に安寧を。生の終わりを安らかなものに……。
 それがぁ! 我が家の家訓!」
 宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)は言いながらもすでに走り出していた。激情をそのまま迸らせたような雷鳴の如き疾駆。敵軍の一部がライアに気付く。警告を味方に放つよりも速くライアの剣刃が一線閃き切り捨てた。
 死体が崩れる脇を走り抜け、
「仇は取るからね。だから、もう一度お休み」
 言葉を手向けにもう一撃を走らせれば前方の怨霊妖狐が倒れていく。倒れる姿をライアは見ない。

 ドンッ、
 ドンッ、

 爆風がライアを襲う。味方の砲撃だ。
 爆音の中地面が揺れる。周囲の敵が浮足立つ。ライアは迷わない。味方の砲撃が次々と着弾する中を剣を振りながらひた走る。爆風に煽られても地面が揺れてもライアの疾駆を止めることはできない。その走る後ろには切り捨てられた怨霊狐の死体が積み重なっていった。

 ライアは決して迷わない。
 無骨な大剣は少女が振り回すにはあまりに大きい。
 それを、難なく振り抜き。

 ドゴォッ、

 剣戟に在りまじき凶音と共に敵が沈む。
 躊躇しない。死者は死者。それは死した上で弔うべき者。
 それに対する敬意は弔った後に示す。
 今は、望まぬ感情に突き動かされるそれを止める覚悟を持つ。
「……それだけ」

 後ろから味方の突撃の声が聞こえる。ライアは口の端を上げた。混乱する敵陣の中をライアは走り、次々と敵を斬る。敵影から敵影へ。走る。斬る。
 後ろの味方へと流れていこうとする一群が見えて、ライアは風のように突っ込んだ。身を沈めて衝撃波をやり過ごし、恐るべき脚力で高く跳べば宙でくるりと廻転。群れの真ん中へと食い込み勢いのままに大剣をぐるぐると振り回す。それはまるで台風の目。
 中心から食い散らかされるように一群は崩れていった。
 
 ケーン、
 ケーン、

 丘の上から放たれた新手の怨霊妖狐が衝撃波を放つ。ライアは衝撃波ごと怨霊妖狐を一刀に切り伏せる。絶命を見守ることもなく次へ。
「次!」
 襲い来る怨霊妖狐を一瞬で掠めるように剣先が捉え、一瞬後には敵は息絶えている。
「次!」
 丘の下へ向かう一群を見咎め、弾丸のように猛進。そのまま通過してしまえば背後で群れは地へ崩れ伏した。

 地を抉るほどに力を籠めて踏み込み跳躍すれば勢いは増し、剣の鋭さは増し一瞬で距離を詰めては群れを薙ぐその姿は敵にとっての死神そのもの。

 人を救うため。
 
 渾身の一撃を右に振れば、風に吹き飛ばされた落葉のように敵群が散る。
 負けられない。
 負けない。

 ヒーローになるため。

 鋭く左を薙げば、迫りくる衝撃波が掻き消え、その先にいた一群の敵を散らす。
 止まれない。
 後ろは振り返らない。

 「ボクは、選ばれたんだ」
 『それ』は、呟いた。聞く者はいない。
 疾駆するたびに景色は後ろへと流れ、まるで時間を置き去りにしているかのようだ。
 何体目かももう数えていない。只管に切り伏せ、薙ぎ、打倒し、

「ボクは、託された」
 『それ』は、駆けた。後ろにようやく昇ってきたあたたかな日の光の熱を感じる。頭上にはこの世界に住む人々すべてが見上げることのできる無償の空が広がっている。だが、ライアは後ろを見ない。上も見ない。ライアが見るのは前だけ、敵だけだ。
 今は、味方の声も聞こえない。

「ボクは救われて、だから」
 『それ』は視線を向けた。風が吹けば、空の色のリボンは軽やかに揺れ。月の光を集めたような銀の髪は靡いた。
 赤い瞳は煌々としている。

 ドク、ドクと脈打つ血を感じる。鼓動を感じる。真っ赤な毒が全身を奔り巡る。まるで――そう、敵を倒せと言っているようだ。

「考えない!」
 丘の上で旗が揺れている。
「倒す……」
 ライアは駆けた。丘の頂上へと。

 昇る陽光を背にライアは駆けのぼる。
 その手に幾多の戦場を共駆けした大剣を携えて。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイチェル・ケイトリン
神通力ってわたしのサイコキネシスとにてるの。
だからにがてなこともわかるよ。

念動力と吹き飛ばしの技能で刹那の想いをつかって
敵を攻撃してふっとばすよ。

遠隔操作での攻撃は目標をさだめなきゃいけないから
ふっとばされてたらつかえないもの。

遠隔操作のはやさ、刹那の想いならまけないよ。

わたしがふっとばされたってわたしの心のなかでは
ゆっくりうごいてるからねらえるしね。

敵が炎をつかったら、空気をうごかして酸欠にして消すね。

わたしの心、よめるならよめばいい。

1秒間を24分割にしたなかでかんがえるのがわたしの心の時間。

そのはやさにはついてこさせないもの。

ころされてあやつられちゃってるだけの心が相手ならまけないよっ!



●『コントローラー』の戦い
 頭上では木々が厚く生い茂り、気まぐれな風に葉音を立てていた。

(神通力ってわたしのサイコキネシスとにてる)
 レイチェルは思った。
 敵軍を視界に捉え、呟く。
「だから……にがてなこともわかるよ」

 レイチェルは丘の麓で木陰に潜み、時を待つ。味方と打ち合わせをした時間はもうすぐだ。頭上からかさりと木の葉が舞い降り、

 ドンッ、
 ドンッ、

「……はじまった」
 レイチェルは着弾に合わせ、怨霊妖狐の軍団へ念動力を放った。砲撃から離れた場所にいた怨霊妖狐を吹き飛ばし、砲撃に当たるように。

 ウオオオオオオオッ

 突撃し、一身に敵の攻撃を集める味方がいた。レイチェルは彼を狙う怨霊妖狐を吹き飛ばして援護する。
 遠隔操作での攻撃は目標を定めないといけない。集中を乱したり、吹き飛ばしてしまえば攻撃を邪魔することができるのだ。
 同じように遠隔操作の技を多用するレイチェルは勝手を知っているのだ。専門家とも言えた。

「これがわたしの守り方」
 ――遠隔操作のはやさ、刹那の想いならまけないよ。

 木陰でレイチェルは味方を支援する。それは味方に気付かれぬほど密やかな支援であったが、極めて有効に働き、味方の負担を軽減していた。

 ケーン、
 ケーン、

 怨霊妖狐が遠くで鳴いている。啼いている。
 炎が放たれればレイチェルはすかさず炎の周りの空気を操作する。真空を作り出せば炎はすぐに掻き消えた。
 その支援も、やはり味方に気付かれることのない密やかな技にして全体の戦況へと多大な影響を与えているのであった。

「ころされてあやつられちゃってるだけの心が相手なら、まけないよっ!」
 丘の上から敵の援軍が下るのが見え、レイチェルはユーベルコードを発動させた。

「心のなかで時間よ、とまれ」
 彼女を取り巻く時間がまるで止まっているかのようにゆっくりとなり、その中でレイチェルは策を練り直す。
 敵陣の中で今現在血路を拓いて進んでいる仲間と。
 只管に注目を引き敵の攻撃を集め大立ち回りをしている仲間と。

 どちらの負担が今どれほどで、敵の群れがどちらにどれだけ向かおうとしているか。
 それぞれの味方はどれだけの攻撃を捌けるか。
 どれだけの攻撃をしのげるか。

 止まる時間の中でレイチェルは計算し、的確に敵軍を吹き飛ばしていく。
 敵が心眼を使ってもその吹き飛ばしを予期することはできず、なすすべもなく怨霊妖狐たちは吹き飛ばしを受けていく。
 戦場をコントロールしているのは、間違いなく縁の下の力持ちである支援役であった。
 丘の中腹から麓までの混乱の戦場をレイチェルは真剣な瞳で見つめる。

 ほんの少しさじ加減を誤れば味方が耐久出来る許容量を超えた攻撃が殺到し、味方は1人倒れる。
 1人が倒れればそれを皮切りに、雪崩のように他の味方の負担が増えて続々と味方は倒れていくだろう。
 戦線とはそのようにして崩壊するのだ。

 そして、そうならないためにレイチェルは人知れず支援をするのだった。

 ゆっくりと朝の日が昇ろうとしている。
 周囲はすこしずつ、すこしずつ、明るさを増していった。

 白花めいた容姿が今、誰にも知られずに戦っていた。
 それは静かな戦いで、しかし苛烈な戦いであった。

 ふ、と短い吐息と共にレイチェルはほんの少し丘の上を見た。
 そこには、妖怪狸の掲げる旗が揺れている。
 敵将はそこにいるのだろう。

「……負けないよ」
 レイチェルはそっと呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

目面・真
現れたか。なるほど、オレ達の存在に気付いていなかったか。
ならば好都合だね。かく乱されている様子もあるし。

整備が完了したアームドフォートも担いで、出撃しようじゃないか。
だが、コレはあくまで切り札だ。使いどころはあの妖狐相手ではナイな。

混乱してるところで悪いが、義光で斬り込むよ。
とにかくこの妖狐達の数を減らさなければ、あの化け狸は尻尾すらも見せないのだろう?
頃合いを見て、剣刃一閃で一気に片付ける。苦痛は出来るだけ短い時間で済ませてやりたいのだからな。

彼等はあの里の妖狐と関りがあったのだろうか。
そうでなくても、あの里の妖狐と触れ合ったのだから、他人事ではナイよ。
こういう時は手を合わせるんだったかな?



●一刀一心・義光
「現れたか」
 丘の上にちらりと見えた敵将の姿を見て目面・真(たてよみマジメちゃん・f02854)が呟いた。

「なるほど、オレ達の存在に気付いていなかったか。
 ならば好都合だね。かく乱されている様子もあるし」
 真は整備が完了したばかりのアームドフォートを担いで出撃する。味方が攪乱しているのが見えて乗じるように戦術を練る。
「だが、コレはあくまで切り札だ。使いどころはあの妖狐相手ではナイな」
 切り札は敵将に。そう決め、真が鯉口を緩めるのは『義光』。
 武士の始祖の名を冠した大太刀だ。

 視線の先には攪乱され混乱に陥っている怨霊妖狐の軍団がある。真は駆ける。最も混乱している箇所から切り崩す。場所は判りやすかった。砲撃と味方の突撃で混乱している部位を食い散らすように機敏に突っ込み。
 敵の気を引き耐える味方へと一声掛けた。
「とにかくこの妖狐達の数を減らさなければ、あの化け狸は尻尾すらも見せないのだろう?」
 清らかな月光めいた刃がスラリと抜かれ、次の瞬間には周囲の怨霊妖狐が蹴散らされている。

 寄せられる炎も衝撃波も、あるいは怨霊妖狐が操る死体も傍にいる味方が庇い落としてくれる。ならば、敵の攻撃など構ったことではない。真は踏み込み、刃を踊らせる。剣刃一閃、紫電閃き剣刃が閃く一筋は凄絶な風となり一帯の怨霊妖狐を一気に片付けた。
「苦痛は出来るだけ短い時間で済ませてやりたい」
 淡々と呟かれた言葉には聞く味方全てが共感を示してくれることだろう。

 欠けた陣を補うかのように怨霊妖狐が押し寄せる。斬撃の手応えが残る手を返し真は新手の3体を薙ぎ、
「?」
 ふと視界の隅に駆けつけようとしていた新手が吹き飛ぶのが見えた。敵が減るのは良いことだ。真は吹き飛んだ隙間から交代するようにやってきた後続へと刃を奔らせる。隙のない斬撃は烈しく敵群を切り刻む。
 正面からもう一群が寄れば渾身の一刀で5体を纏めて縦に割く。
 冴える剣戟は白月の舞うにも似て静謐にして凄絶。

 達人の技量。

 地道な研鑽、努力により磨き上げた剣術だ。
 初めて刀を手にしたのはいつだったか。其の世界の日々を思い出す。
 世界は、仮初めだった。
 しかし――、磨き上げた剣術は、揺るぎない強さ、確かな実力として備わっているのだ。
 終わりなき戦いに立ち向かうと誓いし日より揮い続けてきた剣術は伊達ではない。飾りではない。敵を斬り、血路を拓いてきたのは彼の刀と彼自身の技、そして心だ。
「刀は生き様……」
 ふ、と息をつき真は幽かな笑みを浮かべた。

 決して派手ではない。
 だが、見る者すべてを唸らせる紛れもない達人の技量がそこにあった。

 怨霊妖狐が彼らを囲もうとじわりと寄るたび、包囲網が切り刻まれる。背を守るは近くの戦友か、それとも遠くの戦友か。いずれにせよ、この戦場ではひとりではない。皆、戦っているのだ。

 有明の日は昇ろうとしている。

 真はふと思う。
(彼等はあの里の妖狐と関りがあったのだろうか)
 そうでなくても、……と周囲を見渡す。彼らの手による怨霊狐の骸が山となっている。捨て置けばいずれ海へと還るだろう。

(そうでなくても、あの里の妖狐と触れ合ったのだから、他人事ではナイよ)
 里の妖狐を想う。
 戦場の風は涼やかだ。風が通っている。包囲網はもう消えていた。
「こういう時は手を合わせるんだったかな?」
 道が拓けている。丘の上では妖怪狸の旗が揺れて彼らを待っている。
 その先へと往かねばならない、が――、

 真は周囲の骸へとそっと手を合わせた。

 ほんの刹那、風が吹き抜けて動かぬはずの骸の冬毛を揺らしていった。
 さわ、さわ、さわり、と。
 その毛は妖狐の里で見たものと同じ狐のもの。
 かの里の妖狐たちとこの怨霊妖狐が同種の生き物であったことを無言で語っていた。

 この事件を引き起こした首魁が待っている。

 真は骸に背を向け、丘の頂上ではためく目印――旗を仰ぎ見る。
 決戦の時は、近い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

唐木・蒼
殺されて、使役されて、同族を襲わされる…最悪ね。せめて、私地の手で引導を渡してあげるわ。
【POW】重視
派手にやってるわねー…まあ奇襲ってのを考えたら大成功か。私はあれに紛れていこうかな。
混乱極まって逃げ出そうとする敵、落ち着いて制圧攻撃を仕掛けてる猟兵に反撃しようとしてる敵を狙っていきましょう。取り逃がして無差別に人を襲うのを防ぎたいし、何より全員きちんと成仏してほしいから。
標的見つけ次第全速力で接近してUCを叩き込む、それの繰り返し。攻撃は避けずに、恨みと一緒に正面から受け止める。火焔や内気功で防御は大丈夫でしょ、多分。

辛かったわね…任せて、恨みは私達が晴らすから。



●『妖狐』
 見つめる先で味方が戦っている。
 戦端は開かれていた。

「殺されて、使役されて、同族を襲わされる……最悪ね」
 海の色を映したような深青の瞳が感情の波に揺れる。唐木・蒼(喰らい砕くはこの拳・f10361)は丘を見ていた。
 視線の先には憎しみに濡れた怨霊妖狐の軍団がいる。
「せめて、私たちの手で引導を渡してあげるわ」
 決意と共に蒼は戦場へと身を躍らせる。

「それにしても」
 味方が大立ち回りをしているのを見てふっと表情が和らぐ。
「派手にやってるわねー……」
 仲間たちは敵陣の真ん中で乱闘を繰り広げていた。敵の数は多く蹴散らす端から追加で押し寄せる敵が、押し寄せる端からまた蹴散らされ。
「まあ奇襲ってのを考えたら大成功か。私はあれに紛れていこうかな」
 あれだけ派手にやってるならば、と蒼は微笑む。

 ケーン、
 ケーン、

 狂乱状態の怨霊妖狐の中に混乱から逃れようとする者がいた。至近にいては抗いがたい猟兵の暴力を目の当たりにし、距離を取り遠距離から衝撃波や炎を放とうと考えたのだ。
 その前に立ちふさがり蒼は鮮やかに左の拳を叩きこむ。右を繰り出す必要もなく対象が音もなく倒れ伏した。
「ごめんなさいね、逃さないわ」
 くるり、踵を返し次の標的へ走る。

 逃してはいけない。取り逃せば無差別に人を襲うだろうから。
 何より、
「全員、きちんと成仏してほしいから」
 蒼は走る。雪白の頬を薔薇に染め、地を蹴り跳ねるように『妖狐』が走る。羽衣がふわりと風に舞う。

 激情をそのまま迸らせたような衝撃波が前方の怨霊妖狐から放たれた。
「いいわ」
 蒼は避けずに突っ込んでいった。身を差し出すように走り、正面から受け止める。ゆらり、身の内の熱を移したような青の火焔が身体の周囲を巡っていた。
 衝撃波は火焔に遮られて身体まで届くことはない。
 たじろぐような怨霊妖狐へと蒼は渾身の拳を叩きこみ、くるりと跳ねた。一瞬後を別の怨霊妖狐の放った炎が通過する。
「ええ、あなたもよ」
 蒼は優しく告げた。腰布として身に付けていた布を鋭く振るい廻転させればきりきりと怨霊妖狐が捉えられ、怪力のまま振り回されて他の敵を巻き込み絶命した。

 一匹たりとも逃がすつもりはないのだ。
 順番に、と。
 ゆらり感情に釣られたかのように揺れる狐火を奔らせれば一帯が燃え上がる。怨霊妖狐の炎をも包み込み、燃やしてしまう。全て。全て。燃えていく。

 丘上から仲間を狙い今まさに焔を放とうとしている妖狐。怨嗟の篭った鳴き声が胸に刺さるようだ。

 生者を憎むような。
 闇へと落ちた自らを厭うような。
 どうしようもない現実を哀しむような。
 そして、憤りをそのまま怒りへ、恨みへと変えてしまうような。

「……あなたたちが恨むべきなのは、」

 違うでしょう、違うでしょう、と青の瞳は揺れる。
 この妖狐たちは望んでこうなったわけでは、ない。その事実が、妖狐たちの鳴き声と共に蒼の心に波を立てる。
 蒼は無音の雄叫びをあげた。

 ――――ッ!

 無音の咆哮は、しかし周囲一帯の敵の心を震わせ、確かにその心を届けた。
 ハッとしたように怨霊狐たちは『同胞』の声に動きを止め。

 そして、ぺたり、と床に座り込んだ。
 一匹、また一匹。次々と。抵抗の意思を失くしたかのように大人しく蒼の前に座り込む。よく見れば、彼らの体はいずれも一部が何者かに喰われたかのように欠損していた。風が欠けた部分を空しく通って抜けていく。

 ……、

 咆哮が収まる。
 静寂。

 そして、『彼ら』は全て塵となり風の中を消えていった。儚い雪粉のように、さらさらと。熱を宿さぬちいさなちいさな光粉が風に吹かれて、消えてなくなる。

 そっと手をひらき。
 風がふわり、ほんのひと握りの光粉をその手に乗せた。

 ふわ、り。

 光粉は刹那やわらかに蒼を包み込むような温かな気流となり、空に溶けるように消えていった。

 それが、最後だった。
 無数に押し寄せていた怨霊妖狐たちは残らず撃破され、見渡す限り、もう動く敵はいない――、

「辛かったわね……任せて、恨みは私達が晴らすから」

 ぽつり、と零して視線を移す。

 旗が、視える。

 丘の上には倒すべき首魁がいる。
 蒼はその旗を睨んだ。
 そこに、いるのだろう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『狸大将』

POW   :    怨魂菊一文字
【かつての己を岩戸へ封じた霊刀の居合抜き】が命中した対象を切断する。
SPD   :    焔の盃
レベル×1個の【盃から燃え上がる狸火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    八百八狸大行進
レベル×5体の、小型の戦闘用【狸兵団】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は神月・瑞姫です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●暁天の旗を掲げよ
 妖怪狸は丘上で指示を出し続けていた。
 謎の敵を迎え撃て、戦線を立て直せと。しかし、怨霊妖狐たちはその数を急速に減らしていき、ついには全て倒されてしまう。
 旗が、揺れていた。
 徐々に昇る朝の光が丘を照らそうとしている。
 妖怪狸はふるり、と震え。しかし、武器を手に気を高ぶらせる自身をも自覚した。

「そう、だ」
 歯ごたえがないと落胆したのだった。
 妖狐の里を襲った時だ。

「そう、だ」
 いつからだろう。
 妖怪狸は、彼は、ひとりだ。

「……よいだろう」
 妖怪狸は決意した。瞳には闘志を漲らせ。
 彼の軍団を壊滅させた武者を直々に迎え撃とう。

『以前は敗北したが』

『己は、勝つためによみがえったのだ』

「そ、うだ」
 彼は。
 手にした盃がぼうと燃え上がる。炎はゆらゆらと禍々しい色を輝かせ。
「天下を、今度こそ取るのだ」
 自覚した。
 彼は、一度敗れたのだ。仲間たちは、すでにいないのだった。
 それを思い出し。

 オオオオオオオオオッ!!

 妖怪狸は、吠えた。
 旗が背後で風に揺れている。その戦いを見守らんと。
デナーリス・ハルメアス
天下を取る?そのような機会はとうに過ぎましたよ。
貴方も兵を率いる将なら、チャンスの有る無しが肝心だと気が付いているはず。
さあ、未来を食いつぶさないよう、ここで退場願います。

なんとも可愛い狸さんたち。とはいえ、油断のないよう。敵なのですから。
数には数を。エレクトロレギオンで対応します。
私は戦っている機械兵器を衝撃波で援護します。
ほどほどに減らせたら狸の対象に手にした槍を投げつけて他の味方を援護します。


レイチェル・ケイトリン
念動力と吹き飛ばしの技能で刹那の想いをつかいつづけるね。

敵の数と炎の数が多いことにはかわりはないから、
刹那の想いのはやさで対処するよ。
敵を攻撃してふっとばし、炎は酸欠にして消す。
そして、敵の居合抜きもふっとばしてふせぐね。
ほかの猟兵さんをおそうならその攻撃、かばう技能もつかって
ふっとばしてふせぐよ。

敵の旗を見る。あなたは妖狐の里に勝った。
でも、あなたは天下を取りたいとおもっても取ろうとはしていない。

天下自在符を掲げるよ。
いま、天下を取っているのは家光さんたち幕府のひとたち。
あなたがたたかいをいどんだのは平和に暮らしてるだけの民。

武力を民にむけて勝ったというのはただのならずものでしかないんだよ。


宮落・ライア
………。(正面で一呼吸の後)
さぁ!迷い狸!!
この一刀!その一刀に!命を懸けよう!

真正面から正々堂々突っ込む。
搦め手も策も無く【ダッシュ】【ジャンプ】の勢いを乗せた一撃【怪力・捨て身の一撃・衝撃波・激痛耐性】を開幕に叩きつけに掛かる。
その後は【見切り・野生の感・・カウンター・覚悟】などで切り結ぶ。

戦うのは、もう居ない同胞の為?
もう居ない者の為に天下を取るの?
それなら、その思いを全力で込めて。
どれほど歪もうと。それが妄執であろうと。
それが誰かの為って言うならボクがそれを受け止める。
そして必ず止める。


アララギ・イチイ
あら、あの狸が親玉なのねぇ
良い御肉が取れそう、倒した後は狸鍋ねぇ

他の猟兵を相手いる間に、上空から(迷彩)で欺瞞しながら奇襲攻撃よぉ
装備は巨大剣×2、上記の行動で背後に回り込んで背中を(なぎ払う)様に振るうわぁ
そのまま空中に浮遊しながら、2つの巨大剣を身体ごと回転させて、縦斬り、横斬り、って感じで連続攻撃(2回攻撃)ぃ
巨大剣の合間を縫って近接して来た場合は、改造ブーツのドリルキックで(串刺し)する様に(踏みつけ)するわぁ

ある程度、戦闘を楽しめた様なら、一旦下がって無窮・刀塚を使用よぉ
刀類コレクションを複製(4600本?)、全ての刀を相手に叩き付けるわぁ
出来れば綺麗に捌きたかったのだけど残念ぅ


トリテレイア・ゼロナイン
どうやら狸大将は一度敗北し、蘇ったということを理解したようですね
貴方には再び妖狐達に敗北していただきます

妖狐の長老に狐狸大戦当時の妖狐側の軍旗の模様を教えてもらい、「防具改造」で盾にペイントして参戦
「礼儀作法」に則り妖狐達の決闘代理人として戦います

※格納銃は弾切れ
※馬から降りる
狸火や狸兵団から仲間を「かばい」つつ、スラスターを吹かしてのスライディングで狸大将に接近
「武器受け」「盾受け」を使った近接戦闘を仕掛けます
居合抜きを察知したら動きをセンサーで「見切り」手の平で受け止めるように動きUCを使用、刃が止まったらUCを解除して刀を掴み、「怪力」による大盾殴打での「鎧砕き」で勝負を決めましょう


守宿・灯里
今回の非道を私は赦すことは出来ません。
でも、それでも。狸大将の想いだけは聞いておきたいと思います。
それが邪な想いであったとしても、喩え純粋な願いだったとしても。
その言葉を。
その上で。貴方という過去から、私達の今を守ります!

●【WIZ】
狸大将の八百八狸大行進を相殺するように、
味方をサポートするように、UCを使用します。

程々の強さとはいえ、数があっては味方の攻撃が阻害されたり、攻撃を受け負傷してしまうかもしれません。
皆を守るために、狸大将への道を切り拓くために狸兵団を攻撃します!

貴方の想いは聞き届けました。
そのための非道は赦すことは出来ませんが。
けれど、その過去だけは決して忘れずに――


目面・真
潔いな。そう、オマエは自分自身の力だけを信じるしかなくなったのだ。
その怨みと気魄には敬意を表そう。
だが、オマエも分かっているだろう。それだけで勝てるほどオレ達は甘くはないぞ?

ヤツは死力を尽くして戦うだろう。ならばオレも、それに報いなければならない。
アームドフォートをもって打撃するのみ。砲撃でヤツの前進を阻止する。
丘の上から降りてくる時こそ好機。遮蔽物がナイ所を通ろうものなら、瞬時に蜂の巣にしてくれる。
それでもオレに一矢を報いるつもりならば、こちらも絶対零度の爆轟で迎え撃つ。
触覚をも凍らせる爆風で、痛みを感じずに倒れるがイイ。

妖狐達にはあの世で詫びるんだぞ。それがオマエに与えられた最後の役目だ。


唐木・蒼
天下を獲るって?馬鹿じゃないの?そりゃああんたにとっては崇高で気高い理想なのかもね。でも…過去の亡霊が、今を生きる命を踏み躙っていい理由になんてこれっぽちもならないっての。あんたに対しては安らかに、なんて願いはいらないわね。徹底的に打ち負かしてやるわ!
【POW】重視
一緒に戦ってる猟兵は高火力な人が多いし、敵はあの巨体だから結構な大立ち回りになりそうかしら。爆炎や大技に乗じて慎重に近づいて、霊刀を振るう瞬間を狙って一気に懐に飛び込んでUC狙いね。この手でぶん殴らなきゃ気が済まないっての!
炎や狸兵団で近づけなければそっちの処理を優先、大技持ってる味方が存分に振るえてこそ拳も生きるってものよ。



●『敵』
 狸大将の視線の先には6人の猟兵が『視えた』。

 一息吐くと狸大将は軽く首を振る。一振りで放熱したかのように瞳は冷静な色に染まった。手に盃を取る。盃の中、美酒が澄んで揺れる。ひとくち、呷り、もう一度前を見る。狸大将の視線の先には6人の猟兵が『視えた』。

 敵旗をじっと見つめるレイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)。
 大剣を手に佇む 宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)。
 機械馬から降り、大盾を構えるトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 狸大将へと真っ直ぐな視線を向ける守宿・灯里(花扇の守巫女・f00469)。
 刀を鞘に納めアームドフォートを構える目面・真(たてよみマジメちゃん・f02854)。
 そして、妖狐の唐木・蒼(喰らい砕くはこの拳・f10361)。

「やはり、妖狐の手の者か」
 狸大将は目を細める。居並ぶひとりひとりを視ればいずれも強者の圧がある。しかし、勝てない相手ではない、と狸大将は考える。

「天下を獲るって? 馬鹿じゃないの?
 そりゃああんたにとっては崇高で気高い理想なのかもね。
 でも……過去の亡霊が、今を生きる命を踏み躙っていい理由になんてこれっぽちもならないっての」
 蒼は一歩前に出ると高らかに宣言した。
「あんたに対しては安らかに、なんて願いはいらないわね。徹底的に打ち負かしてやるわ!」
「ええ、貴方には再び妖狐達に敗北していただきます」
 隣に歩み出るトリテレイアは大盾を掲げ見せる。盾には軍旗めいた模様がペイントされていた。
「……それは?」
 そっと問いかければ、白騎士がこそりと打ち明ける。
「妖狐の長老に狐狸大戦当時の妖狐側の軍旗の模様を教えてもらいまして」
 旗の模様なのだという。
「懐かしき紋様よ」
 狸大将が嘗ての敵旗を懐かしむように言った。その声は遠き戦いの日々を偲ぶかのよう。
「私たちは妖狐達の決闘代理人として参りました」
 トリテレイアが言えば、狸大将は鷹揚に頷いた。
「なるほど、3日を待たず戦力を整えてそちらから来たと」
 そして、呵呵と大笑する。
「そうであったか。そうであったか、妖狐よ」
 しかし、と狸大将は大盾を見て侮るような眼をした。
「でかい図体をしているが、カラクリではないか。木偶には負けんぞ」
 灯里が、つと前に出た。
「今回の非道を私は赦すことは出来ません」
 でも、それでも。と灯里は狸大将に瞳を向けた。
「貴方の想いだけは聞いておきたいと思います」
 それが邪な想いであったとしても、喩え純粋な願いだったとしても。その言葉を。
 それは想いの宿ったヤドリガミであるがゆえの言葉だった。

 狸大将は膨れた腹をぽんと叩いた。弾みで甲冑が鳴る。
「わしの話を聞きたいと申すか」
「ええ」
 灯里は真っ直ぐに視線を向ける。
「その上で。貴方という過去から、私達の今を守ります!」
「戦うのは、もう居ない同胞の為? もう居ない者の為に天下を取るの?」
 ライアが問う。
「それなら、その思いを全力で込めて。どれほど歪もうと。それが妄執であろうと。
 それが誰かの為って言うならボクがそれを受け止める」
 大剣の切っ先を『敵』へと向け。
「そして必ず止める」
 狸大将は好ましくその視線を受け止めていた。

「妖狐の代理人どもよ」
 太陽は昇る。狸大将は頭の笠をくいと締め。
「わしは、天下を取る」
 凪いだ海のような瞳であった。
 レイチェルが灯里の隣に並び、告げる。
「あなたは昨夜、妖狐の里に勝った。
 でも、あなたは天下を取りたいとおもっても取ろうとはしていない」
 狸大将は目を瞬かせた。
 レイチェルは天下自在符を掲げた。
「いま、天下を取っているのは家光さんたち幕府のひとたち。
 あなたがたたかいをいどんだのは平和に暮らしてるだけの民」
 その瞳は青空のように澄んでいた。
「武力を民にむけて勝ったというのはただのならずものでしかないんだよ」
 狸大将は得心したように頷いた。
「そうじゃな。あの里を滅ぼしても天下を取ったことにはならぬ。その家光とやら、幕府とやらも……わしは倒そう」
 狸大将は盃の美酒をもうひとくち味わい、ほほ笑むようだった。
「この酒をかつては股肱と味わったものよ。だが、」
 ふ、と目を伏せると周囲から小さな狸の足軽が出現した。ぽこ、ぽこ、ぽこと増える足軽はいずれも大将の腰にも届かぬ小ささ。それが、どんどんと増える。三桁にも届き、まだ止まらぬ勢いで増えていく。
 灯里は狸軍団を見てひっそりと危惧する。程々の強さとはいえ、数があっては味方の攻撃が阻害されたり、攻撃を受け負傷してしまうかもしれない、と。
「今となっては仮初の兵団を召喚することしかできぬ」
 空しさを殺すように呟くと狸大将は嗤った。
 盃から、ぼう、と狸火が燃え上がった。6人を取り囲むよう輪となって燃えるそれは猛々しい戦気を象徴するかのように揺らめいている。
「我が力を持って天下を取る。まずは妖狐の代理人……」
 楽しそうに狸大将は呟いた。
「『正々堂々と』かかってくるとよいぞ」
 相手をしてやろう、と狸大将が腹をぽんと叩けば真が一歩前へと歩み出る。
「潔いな。そう、オマエは自分自身の力だけを信じるしかなくなったのだ。
 その怨みと気魄には敬意を表そう」
 敵意を明確に向けながら口の端をあげる。
「だが、オマエも分かっているだろう。それだけで勝てるほどオレ達は甘くはないぞ?」
 狸大将は好戦的に鼻を鳴らすと軽く踏み出すようにしながら右手を刀の柄にかけ、

 戦場に燃え上がる炎。その炎を避け、上空で見守る者がいた。
「あら、あの狸が親玉なのねぇ」
「良い御肉が取れそう、倒した後は狸鍋ねぇ」
 他の猟兵に注意が向いている。上々だ、と。アララギ・イチイ(ドラゴニアンの少女・f05751)が得物を手に降下する。見下ろす先、

「………」
 ライアは正面で一呼吸する。
「さぁ! 迷い狸!!
 この一刀! その一刀に! 命を懸けよう!」
 ライアは真正面から正々堂々突っ込む。
 搦め手も策も無く猛進し、跳ぶ。愚直なまでに真っ直ぐに勢いを乗せた一撃を開幕に叩きこめば、狸大将が鋭く刀を走らせて向かい打つ。
「……!」
 衝撃に手がしびれる。押し出されるように後足を地に付けばじゃり、と音がした。
「この刀は嘗てのわしを岩戸へと封じた霊刀よ」
 狸大将が笑む。
「怨めしい。だが、今は頼もしき菊一文字にわしの魂を預けようぞ」
 刀が禍々しく光り渾身をもって押し切ろうと――、

「グアッ!?」
「あはは、」
 笑い声がした。血しぶきがあがる。激痛。衝撃。突然雷鳴に撃たれたような――、
「――あはは!」
 迷彩を纏ったイチイが上背を襲ったのだ。手には巨大な剣が二振り。空中で体ごと廻転し縦一閃の流麗な斬線を奔らせ、息付く間もなく横の連撃で斬打を加える。絶技。苛烈な連撃に狸大将が悲鳴と共に地を転がった。
 ざざっと小狸の軍団が大将を守るべく猟兵との間に割って入る。

「お……おのれ、もう一匹いたか」
 よろめきながら身を起こす狸大将。傷は深く足元へと血だまりができる。
「いいえ」
 そこへ、静かな声が降りた。
 ハッと戦場の者が視線をやれば、まさに今このタイミングで転移されてきたもう1人の猟兵が現れたところだった。
 名を、デナーリス・ハルメアス(The Waking Dreamer・f01904)。神託により戦いに身を置く知識と記憶の神を崇める神殿の巫女である。
「も、もう1人……!」
 戦慄する狸大将。奇襲により手傷を負った自らと敵の戦力とを一瞬で比較し戦況を分析すれば己が不利が否応なく脳裏にちらついた。
 そんな敵に向かい、どこか天啓を告げるかのように神聖な空気を纏いデナーリスが告げた。
「天下を取る? そのような機会はとうに過ぎましたよ」
 狸大将が土を握る。淡々と声は続く。
「貴方も兵を率いる将なら、チャンスの有る無しが肝心だと気が付いているはず」
 『過去』を還すべく、『未来』の守り手が集っていた。
「さあ、未来を食いつぶさないよう、ここで退場願います」
 狸大将はごくりと喉を鳴らした。喘ぎ、そして、考える。

●乱舞
 狸大将の周囲を無数の小狸軍団が護衛していた。
 正面に対峙するのは8人の猟兵たちだ。

「なんとも可愛い狸さんたち。とはいえ、油断のないよう。敵なのですから」
 デナーリスは味方に注意喚起するとユーベルコードで小型の機械兵器を召喚する。機械兵器が小狸を掃除していく。
「数には数を」
「はい」
 灯里が頷き、同様にユーベルコードを発動させた。
 檜扇『桜』を今ひとたび鮮やかに舞わせ、花祀り。一差奉納すれば霊力が花満ちるが如く無数の桜が舞い踊る。桜が涙を落とすようにぽたりと落ちれば小狸が崩れて消える。
(皆を守るため、狸大将への道を切り拓くために)
 想いのままに鮮やかに舞う花弁はデナーリスの機械兵器と共に狸兵団を襲い、劇的にその数を減らす。
 同時に蒼が小狸の群れを跳ねまわり倒していった。味方の支援をすることが結果として自らの拳を生かすことにもつながると彼女は知っている。そのため、大技を使う味方を援護しようと動いているのだ。
 小狸が蹴散らされ、味方の斬り込む道となる。
「貴方の想いは聞き届けました。そのための非道は赦すことは出来ませんが」
 けれど、その過去だけは決して忘れずに――。
 道を切り拓きし者たちはそっと視線を合わせ、頷いた。

「妖狐達にはあの世で詫びるんだぞ。それがオマエに与えられた最後の役目だ」
 真が砲撃の照準を合わせながら言う。
 蒼は素早く戦力を確認する。
(一緒に戦ってる猟兵は高火力な人が多いわね。敵はあの巨体だから結構な大立ち回りになりそうかしら)
 味方にあわせて動こう、と決意し、仲間の出方を見る。
 視線の先でライアが大剣を手に再び走り出す。
 イチイはユーベルコードを発動させ、蒐集した刀をずらりと披露した。全てを持って切り刻まん、と目を細め。
(今ね! みんなに合わせて!)
 蒼が地を蹴り、狸大将へと迫る。
「……ひとつ」
 その瞬間に狸大将が剛烈なる居合いを放つ。陽光を反射し閃いた苛烈な一刀がまずイチイの放った刀の一陣を弾いた。同時に後ろへと跳べば元いた地へと残りが刺さる。勢いで地面が抉れていた。
「……ふたつ」
 声と共に狸火が輪を縮めるかのように迫り狸大将を守るかのように燃え上がった。近接しようとしていた者の足が一瞬止まる。
「そんな狸火に負けないわ!」
 蒼が対抗するように狐火を放つ。相殺されるように火が消えていく。
 その脇をトリテレイアが走り抜けた。脚部スラスターを吹かしてのスライディングで急速に距離を詰め、
「みっつ」
 狸大将は景気よく頭の笠を放り投げた。天へ。
「!?」
 視線を向けた一瞬の隙に狸大将はくるりと背を向け丘を下っていく。炎を背に燃え上がらせ、逃走しようとしているように見え。
「させない……!」
 レイチェルが炎の周囲の空気に干渉し、炎を消した。
「こら! 待てー!」
 ライアが飛び越えて追う。
 ハッとした様子で他の味方も後を追い始めた。
「逃すわけにはいきません!」
 トリテレイアも滑るように敵を追い。
「往生際が悪いのねぇ」
 イチイが呟く。そして披露していたコレクションの刀を大切に仕舞い、後を追った。灯里とデナーリスも顔を合わせ、共に走る。デナーリスの機械兵器がそれに続いた。
「待ちなさい」
 デナーリスが小竜槍ドロゴンを投擲すれば狸大将の肩当に深々と突き刺さり、下の衣装ごと破りそれらに守られていた冬毛に覆われた身体を無防備に露出する。

 真は冷静に狸大将の背を狙いユーベルコードを発動させる。
「空隙拡散」
 絶対零度の爆轟。爆風が狸大将へと押し寄せる。
「ふんっ」
 狸大将は爆風に向き合うと狸火を燃え上がらせた盃を轟火を正面に掲げて冷気を緩和させた。それでも削ぎ切れない冷気が肩を凍らせていく。
「くう……っ」
「決闘から逃げるとは何事です! それでも武人ですか」
「そうだよ!」
 そこへトリテレイアとライアが追い付いた。トリテレイアが大盾で凍り付いた肩ごと狸大将を殴り倒し、ライアが倒れた敵将の首を斬り落とさんと大剣を振り下ろし――狸大将は死に物狂いでライアの胴へしがみつき、体重を持って引き倒した。狂乱の刀で首を掻っ切ろうとし、
「貴様らに何がわかろうか! 何がわかろうか!」
「――!」
「ライア様!」
 トリテレイアが瞬時に身を呈して庇い傷を負いバランスを崩した3人はそのまま諸共に丘を転がり落ちていく。
「固まって落ちていったぞ」
 アームドフォートの照準を揺らし、ついには頭を振り砲撃を中断した真が呟いた。落ちていった3人は麓の森の中まで転がっていったようだ。
 真は丘を駆けおりる。

●森
 雪崩れ込んだ3人の勢いは凄まじいものだったらしい。森の入り口で木々は何本も横倒しになっていた。

「見失ってしまった? まさか」
 デナーリスが機械兵器に捜索を命じた。
「お二人が心配です、ご無事でしょうか」
 灯里が瞳に案じる色を浮かべ、懸命に周囲に視線を巡らせた。
「はぐれると厄介よぉ」
 イチイが周囲の味方に呼びかけた。ひとりずつはぐれて各個撃破されるのが危険だ、と。
 そう言いながら笑む。彼女の『野生の勘』と『第六感』が告げていた。
「こっちよぉ」
 少し進み、イチイは『聞き耳』を立てる。耳は剣戟を拾った。
 そしてイチイは地面に続く血痕を発見した。走り出す。見つけた、と。
 仲間たちが後に続いた。
 木が折れて横たわっている。彼らはそれを跳び越え、荒れた一角に出る。

「いた……!」

 視線の先、何本もの木を薙ぎ倒して格闘する3人の姿があった。血に塗れながらも霊刀をひたりと構える狸大将、大剣を手に肩で息をする少女とそれを庇うように立ち大盾と装甲を大きく損傷した機械騎士の姿があった。
「わしは、倒れるわけにいかんのだ。天下を、取らねばならん」
 狸大将は駆けつけた猟兵たちにサッと狸火を放った。周囲の木々にも燃え移るが、
「無駄だよ」
 レイチェルがそれらを消してしまう。
「何度やっても、その炎は消してあげるから」
 水そのもののような柔らかな冷たさを湛えた声で告げる。それは敵将にとっては絶望の呼び水ともなった。 
「ええ、何度でも邪魔するわ」
 蒼も狐火を放ち炎を相殺する。炎は完全に消されてしまい、
「氷弾よ、大気を砕け!」
 真が再び爆轟を放つ。絶対零度の氷弾が直進し狸大将の腹を貫く。
「ぐ……!」
 血反吐を吐きつつ、狸大将は刀を支えに立ち続ける。
「痛みを感じずに倒れるがイイ」
 痛みはなかった。それすらも凍り付いたように。

「……まだ、だ」
 狸大将はふるりと頭を振ると再び小狸兵団を召喚した。周囲へと一体、また一体と小狸が湧き始め……、
「いいえ、もう終わりです」
「ええ、終わりですよ」
 灯里とデナーリスが再びユーベルコードを合わせて放てば小狸たちは再び消えていく。
 消えゆく一匹を見送り、狸大将は刀を振りかざす。イチイが跳躍し周囲の木々を足場にくるりと回転、改造ブーツの蹴撃でまるで串刺しするかのようにその腕を踏みつけた。
「グアアアッ」
「ねぇ」
 イチイは獰猛に笑った。周囲にはいつの間にか展開された刀コレクションが舞っている。今度こそ、と容赦なくすべて叩き付ければ血の花が咲く。狸大将が満身創痍で血を吐いた。
「出来れば綺麗に捌きたかったのだけど残念ぅ」
 喉を鳴らすように笑う横をライアがすり抜け、大剣を豪快に振り下ろす。狸大将の右腕をすぱりと斬り落とした。鮮やかな血飛沫と悲鳴があがる。
「さあ、ご退場願いましょう」
 デナーリスが静かに告げる。狸大将はもはや逃れ得ぬ運命を悟りながらも目を血走らせていた。
「おぬしが申したように、わしは兵を率いる将であった」
 それは、過去形であった。
 灯里がそっと仲間たちへと視線を配る。待つようにと。
 その姿に感謝するような眼を向けつつ、狸大将は血を吐きながらも笑んだ。がくり、と地に膝を付き。
「もう、わししかおらぬ。皆死んでしまった。だからこそわしは、死んでいった者たちの分も……、」
 さりげなく刀を左手で取る。
「それが! どんな手段であろうと! 勝者こそが正義よ!」
 ふ、と息を詰め、狸大将は左手で刀を奔らせた。灯里めがけて。
「灯里様!」
 トリテレイアが割り込んだ。刀の動きをセンサーで見切り手の平で受け止める。刹那発動したユーベルコード『無敵城塞』は痛撃を完全に受け止める。
「また貴様か!」
 憎々し気な狸大将へ冷淡にセンサーを向け、トリテレイアは無敵城塞を解除して刀を掴む。
 死力を尽くして戦う相手に報いる。真はその意思を持ちアームドフォートで打撃を繰り出す。刀を掴まれ咄嗟に狸大将は身動きが取れない。慌てて刀を手放すも、時遅く傷を抉るように打撃を受け。
 そして、蒼が一息に懐に飛び込んだ。
「あんたはこの手でぶん殴らなきゃ気が済まないっての!」
 鋭い左拳を叩きこむ。次いで、全力の右ストレートだ。
 同時にトリテレイアが至近から大盾を振るい敵将の胸を狙い怪力による渾身の殴打を繰り出す。鈍い音と共に骨を折り、肉を潰す感触が手応えとして伝わり、敵将が悲鳴の代わりに血泡を零す。やがてガクリと狸の身体から力が抜け、地へと倒れた。静寂が絶命を知らせ、猟兵たちは顔を見合わせて歓声をあげた。

●帰還
 敵将撃破を知らせるべく妖狐の里へと帰還する猟兵たち。彼らの頭上には昇り切った太陽が燦然と輝いていた。太陽を避けるかのように白い雲がすいすいと流れていく。雲を流しているのは、この世界の隅々までも吹き抜けんとする気まぐれで自由な風なのであった。

 子どもたちが走ってくる。ふわり、狐尾をふりながら猟兵たちに見せる瞳は明るい色を宿していた。
「おかえりなさい」
「あたし、お婆ちゃんを元気にしたよ!」
「ぼく、ごはん作ったんだよ」
「わたし、今夜も狐火で明かりをつける約束をしたの」

 大人たちが感謝の意を伝え、長老が頭を下げる。
 折り鶴を手にしたおばあちゃんと怪我の治ったお姉さん、包帯の取れた父親と幼い息子が手をつなぎ、皆笑顔で手を振っている。

 ――それは、春の日差しにも似て。

●完

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト