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迷宮災厄戦⑰〜己を囲うことなかれ

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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●過ぎ去りし日の闘技場
 時間とは『質量を持つ物質』である。時間を消費することで時は前に進んでいる。
 消費された過去は見えざる自然現象に寄って、世界の外へと排出される。過去を排出するがゆえに未来が生まれ、時間の流れは止まること無く紡がれていく。

 そうした理の中にある『骸の海』より『過去』が染み出す。
 それ即ち『オブリビオン』である。失われた過去の化身であり、かつて存在した者の姿を持つ世界を滅亡に導く者。

 此処、過ぎ去りし日の闘技場は、古代ローマ風の闘技場である。
 足を踏み入れた者の影が独り歩きするように、『昨日の姿』をした己自身がオブリビオンとして現出する。
 何もかもが同じで、どこかが違う『昨日の姿』。
 それはまさしく『過去の化身』―――オブリビオン。

 生命体の埒外にある者が選ばれるのが猟兵であるというのならば、オブリビオンを打倒せしめる者である。
 故に、この戦場に足を踏み入れた猟兵は『昨日の姿』をした己自身というオブリビオンと戦い、これを打倒しなければならない。

 例えそれが痛みを伴うものであったのだとしても。
 それでも前を向いて未来へと進まなければならない。

 それこそが時間を止めること無く、紡がれていくということなのだから―――。

●迷宮災厄戦
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。此度の戦場は、過ぎ去りし日の闘技場と呼ばれています」
 迷宮災厄戦が始まってからというものの、このアリスラビリンスでは複雑怪奇なる国を猟兵達は踏破してきた。
 だが、今回転移しなければならない不思議の国はさらに風変わりな戦場であった。
 まず、オウガの存在が確認されていない。
 誰も居ない古代ローマ風の闘技場に猟兵は足を踏み入れなければならないのだ。

「はい……ただ、この闘技場に足を踏み入れた方は、必ず『昨日の姿』をしたオブリビオンと戦い勝利しなければなりません」
 それはつまり、ほぼ己自身との戦いになるということだろう。
 昨日より今日の自分が劣っているという確証がないのと同じように、逆もまた然りなのである。過去より滲み出たオブリビオンたる『昨日の自分』に打ち克つ。それが、この過ぎ去りし日の闘技場を抜けるための条件なのだ。

「昨日の自分に打ち克つ方法……それを思いつくのは難しいことかも知れません。自分と戦うというのは、あまりにも難しいことです。誰にでもできるわけでもなければ、誰でもが挑むことができるものでもありません……」
 ナイアルテはそれでも、と思う。
 だが、言葉にはしない。その言葉の先は、ナイアルテが告げる言葉では意味がない。自分自身との戦いの最中に、ナイアルテの言葉は不要である。
 己との戦いは、己自身の中より湧き上がるものでもって成すべきである。そう考えたからこそ、ナイアルテは言葉少なに説明を切り上げる。

「それでは、転移を開始します―――」
 いつもならば頭を下げて見送る。けれど、今回は違う。誰かのためではない。自分自身との戦い。自分のために戦う。
 それがどんな意味を猟兵に齎すのかもわからぬまま、見送らなければならない。

 ただ、ナイアルテは願わずにはいられない。自分ではない誰かのために。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『迷宮災厄戦』の戦争シナリオとなります。

 過ぎ去りし日の闘技場において、『昨日の姿』をした自分自身と戦い、勝利を勝ち取りましょう。

 ※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。

 プレイングボーナス……「昨日の自分」の攻略法を見出し、実行する。

 それでは、迷宮災厄戦を戦い抜く皆さんのキャラクターの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『昨日の自分との戦い』

POW   :    互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ

SPD   :    今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う

WIZ   :    昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

姫川・芙美子
正義の味方同士の戦いなんて不毛です。人間から感謝されない戦いなんてお腹が空くだけなのです。
自分自身との戦い。私にとって鬼門です。

真っ向勝負。「鬼髪」を伸ばし槍の様に尖らせ全力の【貫通攻撃】です。
同じ変幻自在の能力同士、初手一撃で終わらせないと泥仕合になるのは相手も理解してる筈。一瞬でも早く髪槍の穂先を突き立て仕留めた方の勝ちです。…行きます!
【正義の誓い】をたてます。直接人から感謝されなくても、私が戦う事で仲間達の被害が減り先に進む事が出来るなら、それは確かに正義です。
この戦争で大勢の仲間と出会い続けています。今日初めて知り合った仲間達も。
今日一日の出会いの分、今日の私の方が確実に強いのです。



 己を何とするか正しく定義できる者は多くはない。
 己がそうあれかしと思うことは、常に自身を強く照らす光である。その光が生み出す影法師こそが肥大した強迫観念となって、人を突き動かすのだとすれば、過去の化身たるオブリビオンはどれほどの存在であると言えるだろうか。

 ―――正義の味方。

 人の世は常に騒乱に満ちている。それが大なり小なり、人と人とが存在する時、必ず争いは起こる。それが摩擦であるのならば傷負う人々の痛みに呻く声が産み出したのが正義の味方という存在であり、その安寧への感謝から生じる感情を糧とする姫川・芙美子(鬼子・f28908)は、まさに「かくあれかし」と人々が望む姿であったことだろう。
「正義の味方同士の戦いなんて不毛です。人間から感謝されないなんてお腹がすくだけなのです」

 その声は芙美子のものだった。
 まったく同じ声。まったく同じ抑揚。自分であったのならば、きっとこの『過ぎ去りし日の闘技場』で起こる『昨日の姿』をしたオブリビオンとの対決をそう評したであろうと確信ができる。
「……―――自分自身との戦い。私にとって鬼門です」
 昨日と今日の自分。
 そのどちらも同意見だった。僅かな違いだ。昨日と今日。何処に違いがあるのかと言われても、第三者からは見分けが突かないだろう。
 ローマ風の闘技場の忠臣で己の影法師と対峙する芙美子にとって、己同士との戦いというのは、同じ変幻自在の能力故に初手の一撃で終わらせないと泥仕合になることは理解していた。

 それは『昨日の姿』をした自分もまた同じであろう。
 互いが互いに正しく自身を分析している。一瞬でも早く、相手よりも先に髪槍の穂先を突き立てた方の勝利。それを自覚しているからこそ、互いの間合いを詰める。
「人から感謝されない戦いなんてお腹が空くだけなのです―――そうですね。そのとおりです。でも―――!」
 芙美子は多くの仲間と出会い続けた。迷宮災厄戦が始まってから、ずっと様々な猟兵たちと出会い続けている。
 昨日も、今日も。変わらずに出会い続ける。今日はじめて知り合った仲間たちもいる。

 猟兵とは多種多様だ。一人として全く同じ姿をした者はいない。生命の埒外にあるゆえに、同じ猟兵という括りの中にあってなお、規則性のないものだ。
 その出会いが、彼女に如何なる影響を与えるのかは、彼女自身にも計り知れないことだろう。
 昨日までの自分であったのならば、確かにそう言う。自分自身との戦いなど無駄の極地であると。誰からも感謝されない。妖怪である以上、人間の発する感情がなければ、いきてはいけない。
「それでも、直接人から感謝されなくても、私が戦うことで仲間たちの被害が減り、先に進むことができるなら―――!」

 芙美子は『正義の味方』である。
 彼女が立てた正義の誓いは、絶対に全員を護る、という不屈の精神であった。正義の味方は逆境に置いてこそ輝く。
 己の限界は、己が決める。
 己を四角く囲うことはしない。いつだって自分を取り囲む限界という名の囲いを押し広げていく。
「それは確かに正義です。今日一日の出会いの分、今日の私のほうが確実に強いのです」

 それはただの意地であったかもしれない。精神論であったかも知れない。
 けれど、正義の味方にとって、その意志こそが必要不可欠であり前提条件である。昨日よりも今日。今日よりも明日。一歩、一歩踏み出すことを忘れぬ者にこそ、たゆまぬ練磨の果に見える強さが得られるのだから。

 昨日の自分と、今日の自分。
 互いに放った『鬼』の封印された髪の毛が槍のように放たれる。速度も、硬度も、鋭さも、どこにも違いはない。
「昨日の私よりも、今日の私のほうが、一歩、先に踏み込んでいるのです―――!」
 だが、一歩。わずかに一歩『今日の芙美子』が踏み出す足が早い。
 打ち立てられた正義の誓いに偽りはない。
 誰よりも早く、誰よりも強く。間に合わない誰かのために、自分が駆け抜ける。自分が間に合わない時は、他の誰かが助けてくれる。

 仲間という存在を認識した時、自分とは違う誰かがいるとわかった時、はじめて人は己の外殻を知る。
 放たれた髪の槍が『昨日の自分』を刺し穿つ。

 ばらりと眼前に迫っていた髪槍の穂先が芙美子の前で解けて霧散して消えていく。
 過去は過去に。今日の自分もまた過去になるだろう。
 けれど、轍は続いていく。時は一足飛びで進まない。確実な一歩こそが、明日の自分を形作っていく力となるのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
もう少し以前の自分であれば色々と手はありますが、昨日ですか。

まずはフィンブルヴェトでの撃ち合いを。先に引き鉄を引いた方が勝つ……くらいに単純であればよかったのですが。
昨日の自分も【イージスの弾丸】が使えます。
銃も技も見慣れたものですし、互いの弾丸はお互いに弾かれ届くことはないでしょう。

ですが、予備動作から行動を予測している以上先入観でほんの少し見誤ればこの技は成功しない。
普段デリンジャーを隠しているスカートの陰に代わりに複数のナイフを忍ばせ、デリンジャー抜き撃ちと見せかけナイフを投擲します。
それで仕留めるとはいかないでしょうが、できた一瞬の隙にフィンブルヴェトからの銃撃で撃ち抜きます。



 かつての自分と今の自分の違いを明確に上げることはできる。
 過去の自分と現在を生きる自分はこんなにも違うのだと、断言ができる。
 それは己を知る者にとって、薄れゆくはずの記憶の中に楔となる記憶があるからだ。セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)にとって、それは忘れがたい記憶であり、その過去があるからこそ今の自分があるのだと正しく認識できる。
「もう少し前の自分であれば色々と手はありますが、昨日ですか」
 あまりにも近すぎると思った。
 昨日の自分と今日の自分。
 その差異を見つけ出すのは、僅かな、それこそ砂上に落ちた塩の一粒を探すような、そんな違いでしかない。

 不思議の国『過ぎ去りし日の闘技場』は、まさに逃げ場のない闘技場であった。ぐるりと四方を囲む円形のコロッセオ。
 観客は誰一人としていないが、その中心に立つセルマの影が独り歩きするようにして、『昨日の姿』を取る。
 全く同じ銀髪、青い瞳、色白の肌……鏡に写った自分自身であると断言できるほどの存在が目の前に立っていた。
 互いに物言わぬのは、互いが自分自身であると正確に理解しているからだ。

 銃剣アルマスが装着されたマスケット銃、フィンブルヴェトでの打ち合い、先に引き金を引いたほうが勝つ……そうであったのならば、なんとも単純明快な勝負であったことだろう。
 だが、セルマにはユーベルコード、イージスの弾丸(イージスノダンガン)がある。対象のユーベルコードに対し、予備動作を見切り、性格な銃の早撃ちを可能とするユーベルコードがあるのだ。
「―――互いの最大の武器も理解している。まったく同じ動作で変わらぬ技量のまま銃弾は弾かれ、届くことはないでしょう」

 紡ぐ言葉すら重なる。
 互いの思考がまったく同じである証拠であった。そして、セルマ・エンフィールドという猟兵は、強大なる力でもってオブリビオンを打倒する猟兵ではない。
 彼女が持つ最大の武器は、マスケット銃でもなければ、銃剣アルマスの鋭さでもない。
 彼女の猟兵としての最大の力は、研鑽である。
 弛みなく磨かれ続けてきた技量。一日も欠かさずに、されど一日たりとて前日より劣った鍛錬を重ねたことなどない。
 積み重ねた経験と分析が彼女の力を底上げしていく。
 故に、互いは即座に動く。
「―――!」

 互いが瞬時に理解する。
 スカートを跳ね上げ、その影に隠した4丁のデリンジャー。その早撃ちでもって相手の機先を制する。
 だが、『今日の』セルマは違う。
 デリンジャーに手を伸ばさない。いつもと違う獲物に手をのばす。それは投げナイフ。ユーベルコードによって行動を予測するのであれば、ほんの少しでも見誤ればユーベルコードは成立しない。

 何度も何度も反復練習を重ねてきた練磨故に、『昨日の姿』をしたセルマは反射的にデリンジャーに手を伸ばしていた。
 銃弾は彼我の力と距離を覆す最大なる力であろう。非力であったとしてもあらゆるものを覆す力。
 だが、それが機械じかけである以上、動作の数は多くなる。ホルダーから引き抜く。精進を合わせる、引き金を引く。
 たったそれだけで彼我の力は覆る。

 けれど、それよりも早いものがセルマの技術の中にある。
 ナイフの投擲。スローイングナイフ。引き抜きと同時に放つことのできる最小にして最速の動作。
 放たれたナイフは『昨日の自分』の持つデリンジャーの銃口を捕らえた。弾き飛ばされるデリンジャー。
「見誤りましたね」
 それが、『昨日の自分』が聞いた最期の言葉だった。

 いつもと違う行動。相手を観察し、動きを最適化していく鍛錬、練磨を一日多く続けたセルマだからこそできる業。
 一瞬の内に間合いを詰める。
 ナイフの投擲に寄って生まれた一瞬の空白。
 手にしたマスケット銃、フィンブルヴェトの銃口は氷の弾丸を放つ。無駄撃ちする必要はない。
 放った弾丸は過たず。

「鏡合わせのようにはいきませんでしたね。一日にしてならず……」
 それが彼女の練磨が紡いだ一撃であった。
 これからも彼女は愚直とも取れる道のりを征くだろう。どれだけの困難があっても、再び『昨日の自分』が目の前に現れたとしても、セルマはたゆまぬ限り、打ち貫いて進んでいく。

 彼女の人生という戦いは、まだ続いていくのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクサンドル・バジル
【POW】
本当に互角の存在との戦いなんて滅多に出来ることじゃないからな。
やらない理由はないぜ。

殴る蹴る投げる極める、ステゴロに火炎と轟雷(属性攻撃)を織り交ぜて全力で戦います。

※昨日の自分の攻略法
自分の戦闘時のクセは把握している。もちろん、昨日の俺も知っているが、こっちは「昨日の自分と戦う」という情報を得ている。
そのお陰で僅かだが考えておく時間がある。全くと言って良いほど互角なら、その思考の時間が勝負を分ける。
といった感じで一瞬のスキをつきます。
そこで『一撃必殺』を決めます。

ふう、まあ、一日とはいえ過去の自分に負けるようなら生きてる価値はないからな。



 実力伯仲。
 それは近しい実力を持つ者同士に用いられる言葉であろう。ならば、この『過ぎ去りし日の闘技場』において訪れる己の影法師とも言うべき『昨日の姿』をした自分自身に使うには些か足りない言葉であろう。
 完全なる互角。
 それがこの『昨日の姿』をした己というオブリビオンと対峙する時に用いられる言葉であろう。
「本当に互角の存在との戦いなんて滅多にできることじゃないからな。やらない理由はないぜ」
 アレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)にとって闘争とは如何なる意味を持つものであっただろうか。
 古代ローマのコロッセオのような円形の闘技場の中にあって、彼の影が独り歩きするように形つくられていく。
 目の前にはアレクサンドルとまったく同じ姿形をした『昨日の姿』の己自身。不敵に笑う表情すら、そのままであり、これがオブリビオンであるとは信じられなかった。

 だが、時間を消費することに寄って過去を排出した先にある骸の海より滲み出たものがオブリビオンであるというのなら、それは正しくアレクサンドルの『昨日の自分』というオブリビオンであるのだ。
 互いに武器はなく無手。
「殴る蹴る投げる極める。まあ、なんでもありなのがステゴロのいいところだよな」
 なあ、と呼びかける。
 それに同意してしまうのが、笑ってしまうくらいに本当に『昨日の自分』であるのだと自覚する。
 どうしたってステゴロが好きなのだろう。どこまで言っても自分が戦闘屋なのだと自覚する。

 故に、もはや言葉は必要なかった。
 ここからは拳で、己の五体の全てで持って語る以外に術はない。それ以外の術を己は持っていない。
 互いに間合いは同じ。放つ業の間合いも、何もかもが互いに熟知したもの。じり、とコロッセオの砂を噛む足。
「―――ッ!」
 裂帛の気合と共に互いが同時に地を蹴る。
 自分の戦闘時の癖は把握している。当然、『昨日の自分』もまた動揺であろう。だが、唯一『今日の』アレクサンドルが有利であるのだとすれば、それは『昨日の自分と戦う』という情報を得ていることであろう。
 互いの拳が、蹴りが応酬される最中、互いの攻撃をいなし、躱す間隙にもアレクサンドルは思考する時間がある。

 互いの技量がまったくの互角であるというのなら、その思考の余白こそが勝負の明暗を分ける。
「その癖っ、完全に再現するとか―――なぁ!」
 大振りの蹴撃。
 それは完全に勝負を決めに行く際の隙。その強烈なる回し蹴りの一撃を紙一重で躱す。頬を掠める一撃は、それだけでアレクサンドルの脳を揺らす。
 だが、それで倒れるわけにはいかない。
 噛みしめる歯の音が、頭に響く。
 生きる価値とは、一体なんなのか。生きるとはなんであるのか。疑問は常に付きまとう。単純明快であるかもしれないけれど、それでも疑問は湧き上がる。

 生きるとは疑問を抱き続けることであるかもしれない。己の生命の価値を問い続けるように戦い続ける。
 それこそが、アレクサンドルがステゴロにこだわる理由であった。拳の痛みが、体の関節がきしむ音が、彼の意識を鈍らせるのではなく冴え渡らせていく。
「―――一撃、必殺―――!」
 放たれるユーベルコード。大振りの蹴撃を躱し、それでも躱しきれずに受けてしまったかすり傷。
 それでも頭を揺らす衝撃は己の物であっても凄まじい。それをこらえ、放つは頑強なる拳の一撃。
 あらゆるものを破壊する一撃は大振りによって態勢を崩していた『昨日の自分』の鳩尾を穿つ。

 貫く拳の端から霧散して消えていく『昨日の姿』の自分。そこに感傷はないが、それでも息をつく。
「ふぅ、まあ、一日とは言え過去の自分に負けるようなら、生きてる価値はないからな」
 骸の海へと還っていく己の『昨日の姿』をもうアレクサンドルは見ていなかった。
 その瞳が見据えるのは『昨日』ではなく『明日』。
 間違えてはならない。自分が求める生きる価値は、過去にはない。過去にあるのは轍だけだ。
 己が欲しいのは、未だ見ぬ強敵と見果てぬ強さ。それは『明日』という道のりの先にしかないのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「うん、全力で殴り合いだ。」
僕が僕なら、全力で殺しにかかってくるだろうし楽しみだねぇ。

UCで吸血鬼化して戦う。敵も吸血鬼化してくるだろうし、どう相手の再生力を突破するのが問題かな?
うーん、どうしよう。手足吹っ飛ばしてもすぐ生やしそうだしなぁ。
あ、そういえば月のお守りを昨日は外してたんだっけ。いや、首が痒かったんだ…。
んなら、Argentaが刺さりそうだね。銀の槍なら僕でも再生し辛いだろうし。
あ、今の僕は月のお守りをしっかりつけてます。

まあ、ある程度殴り合いを楽しんでからArgentaを使うかな。
血塗れになりそうだけど、楽しそうだししょうがない。

「はっはー、良いね。テンション上がってきたよ。」



『それ』を見た瞬間、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の心は一直線に成ったようだった。
 他の何もかも目に入らなくなる。他の何もかもがどうでもいい。
「うん、全力で殴り合いだ」
 古代ローマを思わせる円形の闘技場『過ぎ去りし日の闘技場』に足を踏み入れた莉亜が相対するのは、『昨日の姿』をした己自身であった。
 互いが、互いを認識した瞬間、彼等はユーベルコード、原初の血統(オリジン・ブラッド)を発動させる。
 金色の瞳が輝き、吸血鬼としての力を解放する。覚醒した吸血技能は、凄まじいほどの強烈さを持って世界に顕現する。爆発的に増大した戦闘力のあふれる力の奔流を互いに叩き込むが如く、莉亜は『昨日の自分』と拳を交える。

 拳を突き出しただけで、互いの腕が吹き飛ぶ。
 蹴撃を放てば、躱したとしても衝撃波が胴を薙ぐ。血が吹き飛び、荒ぶような血風が闘技場に吹き荒れる。
 それでもどちらの莉亜も笑っていた。楽しげに、何もかもを忘れるように互いの姿しか瞳には映っていなかった。
「全力で殺してあげるね―――!」
 笑い声が血風に紛れて広がっていく。だが、戦いは膠着していた。互いに吸血鬼のちからを開放して戦う以上、再生力は同等。攻撃の威力も同じであるというのなら、これ以上ないほどに泥仕合のような様相を呈してしまう。

「―――あ」
 そこで気がついてしまう。なんでもっと早く気が付かなかったのだろう。
 いつもは身につけている月のお守り。金色の三日月の装飾のついた首飾り。あらゆる吸血鬼の弱点を克服させる便利な首飾りを昨日は外していたのだ。
 首が痒かったんだ……と、思い出す。今でも若干かゆいのだが、戦いに赴く以上、装備するものはきちんとするのが流儀である。
 それを昨日していなかったのだ。
「ならさ―――! 今ならこれが、刺さりそうだよね!」
 放たれる銀の槍が『昨日の姿』の莉亜の両手を瞬時に貫く。磔の如く、その両手を封じる。銀の槍であれば、自分自身であろうとも再生しづらい。

 ある程度楽しんだことだし、と莉亜は笑う。
 そう、楽しかったし、血まみれになった時に口の端に溢れた血液は己のものであるが、滅多に味わうことの出来ない猟兵の血。
 そういった意味でも、この戦場に来てよかった。そんなふうに彼は笑うのだ。
「はっはー、良いね。テンション上がってきたよ。もっと楽しませてもらうんだから、敵さんの僕も楽しみなよ!」
 血まみれになりながら、互いに拳と銀の槍が交錯する。
 串刺しにしても飽き足らない。拳で、蹴りで体を吹き飛ばしても尚、味気ない。次々に再生していく体をみやりながら、それでも戦うのをやめない。
 こんなに楽しいことをやめられるわけがない。

「でも、もう十分楽しんだから―――もういいよ」
 凄絶に血まみれの血化粧纏った莉亜は、その手に掲げた銀の槍をきらめかせる。放った穿つ槍の一撃は四肢を貫き闘技場の壁に磔にする。
 ついで追撃の銀の槍が『昨日の姿』の莉亜の体の上を隙間なく打ち込まれ、その姿が人の形を成し得ないまでに穿ち続けた。

 そうして、漸くにして再生することもできないほどに消耗した『昨日の姿』の莉亜は霧散し消えていく。
 ふぅ、と息を吐きだし莉亜はタバコを加える。ユーベルコードの効力が切れた後は、吸血衝動が抑えられるのだが、それでも戦いの後の一服は味わいたかった。
 だが、いくら火をつけようとしてもタバコに火が付かない。
「おかしいな―――、あ……湿気てる」
 あれだけ流血する戦いであったのだから、当然といえば当然であったかも知れない。血液に湿らされて煙草の全てがだめになってしまっていた。

 しかたないなぁ、と嘆息する。
 けれど、疲労感と言うには心地よい。未だに高揚してさえいるような気がする。もっともっと。その思いだけが心のなかで渦巻いていく。
 もはや求めるものは『過去』にはない。
 あるのは『未来』だけ。ならば、立ち止まっている暇はない。湿気た煙草を手向けのように投げ飛ばし、莉亜は静かに闘技場を後にするのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルベナ・ラウンドディー
昨日や今日で私に決定的な違いはありませんよ
なので立場の違いを利用します



戦場到着後、即座にユーベルコード使用
【武器改造】…時限爆弾を一回限定、されど破壊力を倍加したものを使用
その上でハッタリをかまし、動揺を誘ったうえでさっさと勝負を決めに行きます



グリモア猟兵から助言を受けてから来たのですから負けるわけがないでしょう
いつもどおり技だ特徴だを見抜いたうえで送り出してくれました
その攻略法どおりに動きます

…という感じに。読心術くらうまえに投擲して短期決戦です
消耗戦になれば心の強さだとか火事場の馬鹿力とか、計算が難しくなってしまいますから


…卑怯?
いえ、こちらはグリモア猟兵と2人で戦っているだけです



 昨日と今日に明確な違いを求めるのはナンセンスであるのかもしれない。
 殆ど変わらないように思えるからだ。けれど、過去として排出された『昨日』は必ず骸の海へと集積される。
 けれど、それに意を介さない者もいる。円形の闘技場、コロッセオのような古代ローマにあったような風貌の不思議の国、『過ぎ去りし日の闘技場』において、ベルベナ・ラウンドディー(berbenah·∂・f07708)は即座にユーベルコードを発動させる。
 それは造兵廠が服を着て歩ているようなもの(インスタントアーセナル)であった。瞬時に本来は設置型の時限爆弾を改造し、一回限定であるが破壊力を倍加させたものを作り上げる早業は、まさにひとりでに移動する造兵廠と言っても過言ではなかった。

 闘技場の中央へとやってくると、ようやく、というふうにベルベナの影が独り歩きするように彼の前に対峙する。
『昨日の姿』の自分と対峙する。それは思いの外、というよりも、想像よりもずっと自分自身が鏡の前に建っているような錯覚を覚える。
「昨日や今日で私に決定的な違いはありませんよ」
 駆け出す。読心術を使わせる時間すら惜しい。互いの心を読みあえばこそ、消耗戦になるのは見えていた。
 そうなれば、心の強さであるとか、火事場の馬鹿力であるとか、計算の外にある要因によってどちらが倒される側になってしまうかわからなくなってしまう。

 ならば、どうするか。
 短期決戦しかない。互いに初見であれば、このような思考に至ることはなかったであろう。少なくとも『昨日の姿』をしたベルベナには思い至らない思考結果である。
 なぜならば、『昨日の自分』には、グリモア猟兵から齎された情報がない。
 情報がないのであれば、対策を立てるこちらに分があるというものだ。実力伯仲、互角であるというのならば、その情報の差が決定的な差になることは疑いようもない。
「グリモア猟兵から助言を受けてから来たのですから、負けるわけがないでしょう」
 放り投げる時限爆弾。
 その形、性能を『昨日の姿』をしたベルベナも知るところであろう。だが、知らないこともある。
 本来は設置型である爆弾を即座に改造し、手榴弾のように投擲して使えるようにしていたのだ。

 故に、不意を突かれた。
 爆発までの時間に余裕があるとさえ考えさせたのだ。だが、それすらも間違いである。猛烈なる爆発に寄って、『昨日の姿』をしたベルベナが消し飛ぶ。
 事切れる瞬間になにか言っていたようであるが、ふん、と鼻で笑う。
「……卑怯? いえ、こちらはグリモア猟兵と二人で戦っているだけです」
 情報を齎すグリモア猟兵。
 確かに情報は力であろう。だが、その情報をどう活かすかは、猟兵次第である。それ故に、ベルベナは『昨日の自分』を尽く何の一手も出させること無く封殺したのだ。
「言ったでしょう。決定的な違いなどない。それ故に、封殺する術もまたある。全ては計算ですよ。計算」

 軽く自分の額を小突く。
 要は情報の使い方次第なのだ。活かすも殺すも何もかもが自分自身の手の内。
 ならば、必要最低限、最速最短ノーリスクハイリターンで行動するのが肝要なのである。
 あらゆる過去を最速で置き去りにして、ベルベナは闘技場を後にする。
 過去として排出された『昨日の自分』にはもう興味もない。
 彼の瞳はいつだって、前を向く。振り返るのは興味がない。失ったものは過去にしかないのかも知れないけれど、喪ったものを補っていくからこそ、人は生きていけるのだから。

 だから、前を向く。
 その先に自分が求めるのものがあるのだと信じて―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リジューム・レコーズ
敵の全てを知っているという点では非常に有利ですが…思考もほぼ同じですからね…

【SPD・アドリブ連携歓迎】

半端な攻撃はEMフィールドに弾かれる
高威力の直線的攻撃じゃ軌道を予測される
反応が追い付かない速度で高威力の攻撃を繰り出すには…接近戦に持ち込む!
相手も同様の攻撃手段を取ってくるでしょうが敢えて正面からぶつかります
デュアルムーンの連撃にエインセルの打突を織り交ぜ更に月光乱武を起動
EMフィールドが乱れてくれば粒子ダメージも通るはず
その損傷をフィールド中和の判断基準としてブレード光波を射出
この距離で放てば私も損傷は必至
普通は採らない戦術でしょう
少なくも昨日までの私なら
過去を倒すとはこういう事です!



 ウォーマシンにとって、過去とはどれほどの価値あるものであると言えるだろうか。体を構成する機械は稼働時間が増す度に摩耗していく。
 それは避けようのない宿命のようなものであったかもしれない。いつかは朽ちて果ててしまう存在。それはどの生命体であっても同じ宿命であろう。
 そして、この『過ぎ去り日の闘技場』に現れるのは、己の『昨日の姿』をしたオブリビオンである。
「敵の全てを知っているという点では非常に有利ですが……思考もほぼ同じですからね……」
 リジューム・レコーズ(RS02・f23631)は、空より古の闘技場めいた『過ぎ去りし日の闘技場』に舞い降りる。
 そんな彼女の影が蠢き、『昨日の姿』をした自分自身と相対する。
 純白のフライトユニット、シールドブースター、アーマードレスは紛うことなき自分自身と同じ装備。アイセンサーから得られる情報を開示しても、そのどれもが型番まで同じなのである。

「半端な攻撃はEMフィールドに弾かれる……」
「高威力の直線攻撃じゃ軌道を予測される……」
 同じ姿、同じ思考回路を持つ同型機と対峙しているような錯覚を覚える。だが、紛れもなく対峙する相手は己自身。まったく同じ双子以上に同じ存在が砲火を交える時、果たして最期に立つのがどちらであるか知る者は、個々には居なかった。
「反応が追いつかない速度で高威力の攻撃を繰り出すには……接近戦に持ち込む!」
 リジュームと『昨日の姿』のリジュームが同時に動く。
 互いに考えることは同じである。人であるのならば、思考のゆらぎが存在するかも知れない。それは躊躇いと呼ぶものであったり、油断と呼ぶものであったりしたかもしれない。

 けれど、ウォーマシンであるリジュームには無縁のものである。
 互いに最適解と思う行動を最速最短で成すのが機械たるウォーマシン。自機の保存と最大の戦果。それこそがウォーマシンの最定義。
「デュアルムーン、アクティブ! エインセル、イグニッション!」
 荷電粒子の両剣がひらめき、互いに互いの武装がぶつかり合う。荷電粒子の細かい火花が散り、シールドブースターの推進装置が火を吹き凄まじい速度で打撃を繰り出す。
 ぶつかったシールドが砕け、破片が舞い散る中を荷電粒子両剣の剣閃が彩る。火花が飛びながら、互いに一歩も譲らない。
 近距離で決めきなければ、距離をとった瞬間砲撃の嵐が襲いかかることは明白だからだ。
 それ故に互いに距離を詰めるしかない。この近距離で持って雌雄を決するしかないのだ。

「―――プラズマ・パーティクル、ディスチャージ!デュアルムーン、フルドライブ!」
 だが、その最近接戦闘の最中にリジュームは月光乱武(ムーンライト・ランページ)を発動する。それは自機の保存を第一に動くウォーマシンにとって、不可解な行動であった。
 何故、このタイミングで発動する?
 そうなれば、EMフィールドは互いにぶつかりあい、フィールドは中和されるかもしれない。けれど、それは諸刃の剣だ。
 フィールドが中和されるということは、自分自身を護るものさえかなぐり捨てるということにほかならない。

 言ってしまえばナンセンスである。機械の身たるリジュームにとって、あまりにも不可解な行動。
「ええ、普通なら摂らない戦術でしょう―――」
 フィールドが中和された瞬間、ブレード光波が射出される。それは着弾地点を忠臣に大爆発する強烈なる一撃。
 だが、強烈な一撃ということは、EMフィールドに守られていなければ、爆風を自分自身にも晒す自殺行為だ。
 そんなことは許されていない。自機の保存という法則に則っていない。そんなバグのような行動を己が取るはずがない。

「少なくとも昨日までの私なら!」
 爆ぜるブレード光波。爆風が闘技場に巻き起こり、黒煙が外まで濛々と吹き上がる。その黒煙の中から煤だらけの損壊したアーマードレスをパージしながら飛び出すのは、『今日の』リジューム。
 純白の姿は、爆風に煽られ、見る影もない。
「過去を倒すとはこういう事です―――!」
 ウォーマシンの体は機械の体。それ故に摩耗し、消耗していくがゆえに過去の地震よりも弱くなることはあるだろう。
 けれど、己の戦術データ……否、経験は摩耗して消えていくことはない。蓄積されていく経験は、リジュームの中にある確かな彼女自身を常に更新して、力強くしていく。

 幾度の戦いがあった。
 けれど、その全てが無駄にはならない。何一つ取りこぼさずに来たからこそ彼女は『昨日』を乗り越えていく。
 純白がどれだけ煤にまみれようとも、彼女の描く飛行軌道は粒子を纏い、アリスラビリンスの空に一条の光となって刻まれていくのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
…昨日の私か…一応は情報差で有利ではあるが…1日の差で確実に勝てる、と言える戦い方じゃないからな…
…利用するなら情報差、だな…初手に放ってくる攻撃UCを【崩壊せし邪悪なる符号】で相殺…
……術式戦はお互い対抗呪文で相殺される…となれば…
…後は銃撃戦…となるけど…【アヌエヌエ】の照準補正機能をハッキングで狂わせる事でOFFにさせて有利を取るよ…
…そして今日作った『自分の障壁術式を無効化する術式』を刻んだ銃弾で障壁を無効化して銃弾を叩き込もう…
…ただ、最期まで油断は出来ない…死に際、もしくは倒れた振りして一発、ぐらいは「私」は考えるからね…最期まで油断せずその一発を障壁で防…いや、回避しよう…



 己の限界を正しく知る者は、己を囲うことをしない。例え、囲われていたのだとしても、その囲いを徐々に広げ、自身の能力の限界を拡張し続ける。
 それを成長と呼ぶのであれば、限界はないに等しい。人の身、生命であるのであれば、いずれ肉体的な限界が訪れるだろう。
 だが、生命の埒外にある猟兵であるのならば、その限界は無いに等しい。それ故に、己を囲うことをしなければ、猟兵の力は限界を知らない。
 どんな困難に当たったとしても、それを乗り越えるだけの強さを持つからこそ、世界に選ばれたのだから。

「……昨日の私か……一応は情報差で有利ではあるが……一日の差で確実に勝てる、と言える戦い方じゃないからな……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は冷静であった。
 この『過ぎ去りし日の闘技場』に現れる己の『昨日の姿』を前にしても冷静そのものだった。だが、それは対峙する『昨日の姿』の自分もまた同様である。
 寸分たがわぬ自分自身と対峙するという経験は、そうないものであろう。
 それに故に、この戦いにおいて決定打となるのは、情報差だ。

 有無を言わさない初手からのユーベルコードを放つ『昨日の姿』の自分。
 けれど、それは己のユーベルコード、崩壊せし邪悪なる符号(ユーベルコード・ディスインテグレイト)によって相殺される。
 術式に寄る攻撃は互いに対抗呪文で相殺される。それは一瞬、一合でもって互いに理解したことだ。
 ならば、有効であるのは銃撃戦。術式に寄って妨害されない手段であるのならば、ここからは互いの手数がものを言う。
「互いに選ぶ得物は同じ……なら」
 構える術式装填銃アヌエヌエ。
 照準補正機能付の回転式拳銃を構え、駆け出す。だが、ここでもただの打ち合いにはならない。

 電子型解析眼鏡であるアルゴスの眼がきらめく。周囲の情報を収集するセンサー付眼鏡であるが、そのアルゴスの眼が捉えるのは、『昨日の自分』の持つアヌエヌエの自動照準補正機能。
 ハッキングし、それをオフにする。自分自身が扱う道具であるう故にハッキングなど造作もない。
「自動照準に頼ったのが仇となった……便利すぎるのも考えもの」
 瞬間、今日作った『自分の障壁術式を無効化する術式』を刻み込んだ銃弾を放つ。一方的なメタ張り。それこそが情報を相手よりも多く持つということである。
 その一手がまったく同じ存在同士の戦いの天秤を大きく傾けるのだ。

 障壁術式が砕け散り、その弾丸に遅れるように通常弾丸が『昨日の自分』に打ち込まれる。倒れ伏す自分を見る、というのは、あまり気分の良いものではなかったかもしれない。
 けれど、メンカルは気にした様子もなく、倒れ伏す『昨日の自分』へと銃弾を叩き込もうとした瞬間、倒れ伏していた『昨日の自分』が持つアヌエヌエから術式弾が放たれる。
 一瞬の思考。

 死に際、『私』であれば倒れたふりをして一発叩き込もう、一矢報いようとするであろうことは理解できた。
 きっと自分であってもそうする。そうする以外の選択肢などない。だからこそ、油断していなかった。トドメを刺そうとした。
 それ故にその一撃を軽快していたからこそ、メンカルは即座に障壁を展開していた―――。

 であれば、破れていたのは『今日のメンカル』であったことだろう。
「―――だと思った」
 メンカルは障壁を展開しなかった。彼女であればどう考えるか。『私』ならばどうするか。そう、意趣返しだ。
 自分の障壁を無効化する術式。

 それによって己の不意を突かれたのであれば、同じ手で倍返しにする。『私』はそういう思考をする。
 ならば、障壁で受けてしまえば、同じ轍を踏む。それゆえに、メンカルは躱すことにしたのだ。
 身を翻し、ギリギリのところで弾丸が障壁を掠める。砕ける障壁。やはり、あの一瞬で、こちらの術式を看破し、自身もまた術式を組み上げて弾丸に籠めたのだろう。

「自分のことは自分が一番わかっている……そう、確実に勝てるという戦い方をしていないからな……」
 だからこそ、その抗う一撃をメンカルは見抜くことが出来たのだ。
『私』ならばどうするか。
 常に思考し、実験を繰り返す。身に染み付いた習慣のようなものであった。
 それ故に、メンカルは常に『昨日』より一歩先を征く。

『昨日』に別れはいらない。
 それはいつの日にか道程として、振り返った時に知るだけでいいことだ。だから、別れを言う必要がない。いつだって自分という生命の歩んだ轍として、己の記憶に残り続けるのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャム・ジアム
アドリブ歓迎

体に気持ち。人は揺れ動くもの。貴女と私、比べっこと行きましょう?

まずはっ!『しっぽの針』で【暗殺】
貴女もよね?
ダッシュで躱し『ガラス蜘蛛』で【オーラ防御】し針を払い退ける
ええ、終わる訳無い、見えてるわ
忍び寄る謎のレモンの蔦へ
『煌めく溶液』を派手にまき『楔なる鋼』を撃ち着火
燃やし尽くすわ

きっと敵の切り札は『万象の牙』
厄介な「私」が相手だもの
炎の中で『落差の坩堝』発動
【念動力】を『護り現』へ転化しながら
『目黒さん』にガラス蜘蛛を被せて空に放つ
彼女は、空に私をみるはず
昨日の私ならそう

でも攻撃と痛みに耐えての【カウンター】が本命
力を失った貴女の針ごと【念動力】でお返しするわ
ジアムは私だけよ



「体に気持ち。人は揺れ動くもの。貴女と私、比べっこといきましょう?」
 ジャム・ジアム(はりの子・f26053)は『過ぎ去りし日の闘技場』の囲われた円形闘技場の中を疾駆する。
 対峙するのは影より出でし、過去の化身。『昨日の姿』をした己自身。自分という存在が時間を消費し、骸の海へと排出した過去がにじみ出た存在。言うまでもなくオブリビオンである。
 たった一日だけの差。
 そこに明確な違いなど第三者からは分かるべくもない。故に互いに放つのは、しっぽの針。放たれる空飛ぶ針は、放つ主の意志を受けて互いを穿つべく舞うようにきらめく。
「貴女もよね?」

『昨日の』ジアムが言葉を発する。互いに互いの思考が同一であるのならば、その戦術もまた同様である。互いに放った針を躱しながら、互いに交錯するように駆け抜ける。
 放たれた針の数は膨大である。躱しても躱しても、互いを貫かんと空を舞う。魔力纏う水蜘蛛の泡の如き銀の薄布がオーラを纏い、空気の層によって針を止める。
「ええ、終わる訳無い、見えてるわ」
 そう、しっぽの針は囮。地中を履い、忍び寄る謎のレモンの蔦。それすらも互いの思考のうちである。
 そうするであろうことはわかっているのだから、対処も可能である。謎の溶液がぶちまけられ、手にした黒褐色の精霊銃かはら放たれた炎の弾丸が着火し、蔦を焼き尽くす。
 楔なる鋼と呼ばれた精霊銃に彩られた楔石と鋼玉石が炎を受けてきらめく。

 互いの手の内は読み切っている。
 故に、『昨日の自分』が選択するのは―――。

「愛しい貴方たちの輝きを」
 ユーベルコード、万象の牙(スピリトゥアーレ)が幾何学模様を描き複雑に飛翔する。燦然と輝く針は、『今日の』ジアムを包囲する。
 それは針の穴すらほどの隙のない密集陣形。
 切り札と自分が思うのもまたうなずける威容。これだけの針に囲まれて逃げることができるとは思えない。

 それ故に切り札。自分自身が、自分を『厄介な私』と認識しているのであればこその切り札。それだけの大技である。
 蔦を焼き払う炎の中で見上げる。恐れは無いのか。いいや、恐れはあるのかも知れない。ないはずがない。
 恐れを抱かない生命はない。恐れとは根源的な生命への保護装置だ。恐れがあるからこそ、生きることができる。
 燦然と輝く針が全て自分を狙っている。
 けれど、恐れが己の足を止める理由にはなっていない。
「素敵ね、戴くわ」
 震えそうになる唇を噛み締めて、明確な石を持つ。覚悟を持った視線は恐怖すら乗り越える。

 炎の中に立つジアム。
 その温度差はその身を灼くはずだ。けれど、彼女の体は焼けない。急速に温度差を吸収し、力へと転化していく。
 手を掲げる。其処から飛びだったのは、鳥形ロボ。
「目黒さん―――、お願い!」
 放たれるように飛び出した鳥形ロボが銀色の薄布を纏い、空へと舞う。それは雄々しくも煌めく。
 瞬間、『昨日の』ジアムは空を仰ぎ見る。憧れた空。覆われた檻を思い出すが故に、空を見てしまう。
「昨日の私ならそう……」
 空を舞う鳥形ロボの映す空気の層は揺らめく炎に照らされて―――。

 燦然と輝く針がジアムを襲う。
 けれど、駆け出す。激痛が走る。痛みは耐える。堪える。それができる。
「だって私は―――」
 痛いという思いは、どこか遠くに放り投げた。自分に襲いかかる針は突き刺さる度に力を喪っていく。
 傷だらけになりながらも、戦う。過去はどうしたって変えられない。変わらない。変わらない過去だからこそ、ジアムは足を前に踏み出す。
 痛みも、何もかも一切合財をその明色の羽に包んで進む。ユーベルコード、落差の坩堝(アジタート)。

「私はジアム。ジアムは私だけよ」
 温度差を力に転化した念波動が針ごと『昨日の』ジアムへと放たれる。
 その一撃は、『昨日の』ジアムを過去へと吹き飛ばす。忘れてはいけない。あれもまた自分の過去であると。
 あの過去があるからこそ、『今』という自分がある。自分は二人もいらない。
 何もかも抱えて、吹き飛ばした過去でさえ大事に抱えてジアムは未来へ進む。それが、彼女の猟兵としての戦いだからだ。

 彼女の青い瞳は、銀色の薄布まとい、空を舞う鳥の姿を捕らえ、追いかけるように闘技場を後にするのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
参ります

両者同時にUC使用
至近距離の格納銃器スナイパー射撃を織り交ぜつつ超高速近接戦闘
点の射撃、線の斬撃、面の大盾の殴打、時折差し込む操縦するワイヤーアンカーでの捕縛攻撃
同じ電子頭脳が弾き出す最適解の行動パターン
過負荷による限界まで続く千日手…

いいえ
そちらの駆動限界が先に来たようですね

つい数時間前、SSW整備工場で演算装置と駆動部の負荷軽減●防具改造処理を受けていたもので

己が仕事の誇りの為、銀河皇帝打倒の恩を他の世界に返す為
日々違う形で戦う人々の想いと力を騎士として私は託されてきました

それが無い貴方に、負ける道理はありません

胴部を砕き、剥き出しのコアユニットを剣で破壊

戻ったら身体の全交換ですね



 その戦いは静かなる幕開けであった。
 互いに互いの存在を認知した瞬間、お互いの思考は同時に、けれど決して交わることのない思考へとひた走る。
「参ります―――」
 慇懃無礼であることは、変わらない。互いの声が重なって響く。『過ぎ去りし日の闘技場』においてトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、『昨日の姿』をした己自身と対峙していた。
 全く変わらぬ姿かたち。
 有機生命体であったとしても、ここまで精巧に違いがわからないのは、ウォーマシンであるからだろう。
 迷宮災厄戦が始まって以来、常に戦い続けているトリテレイアにとって、装甲の傷は逐一チェックされる部分である。

 確かに昨日のデータを参照すれば、あれが『昨日』までの自分であることがわかる。
 だが、だからといって戦わない理由にはなっていない。互いに思考が同一であるというのならば、即座にユーベルコードが発動する。
 戦機の時間(ウォーマシン・タイム)。それは電子頭脳、白煙を上げる程の駆動部の過負荷を自身へと与え、神速の域にまで達した反応速度でウォーマシンたる機体を戦わせるユーベルコード。

 互いの思考が一致した結果である。同一機体であるからこその千日手。
 至近距離の格納銃器が火を噴く。至近距離であっても関係がない。躱し、演算し、次なる行動へと移る。
「やはり同一機体。追いつけるようですね―――」
 次々と交わされる点の射撃。ばらまかれた銃弾が闘技場の壁に亀裂を産み出していく。砕けた破片が舞い散る光景すらもゆっくりと時間が流れるようであった。
 さらに剣を振るう線。
 互いの剣戟が音を響かせ、その一撃一撃が火花を散らせる。刀身が鈍く輝き、殴打する度に互いの剣の刃が削れ溢れていく。

「そこ―――!」
 放たれたワイヤーアンカーが互いに放たれ、両者の中心で絡みつく。それを剣の一太刀で切り払うと、その隙を逃さぬとばかりに剣閃が翻る。それを返す大盾で受け止め、受け流す。
 同じ電子頭脳がはじき出す演算の値は同じもの。常に最適解を導き出すがゆえに、互いの攻防は一分の隙も見出せぬほどの打ち合い。
 きっとトリテレイア自身でなければ割り込むことも不可能であろうほどの攻撃の応酬は、嵐のようであった。

 こうする他ない。
 一歩でも引けば、一手でも手を抜けば、即座に斬撃と大盾の殴打によって粉砕される。それは互いによく理解していた。千日手とはよく言ったものだ。
 まさに今の状況がそれである。
 同一の機体であるが故にわかる。過負荷に寄る限界まで続く長い戦い。それは同時に互いが起動を維持できなくなるまで続く。
「いいえ。そちらの駆動限界が来たようですね」
 ―――!?
 それは突然起こった。駆動部が、演算装置が異常な熱を持ち始めている。早すぎる。いや、違う。当然の帰結だ。
 迷宮災厄線を戦い抜くのならば、それ相応の代償がいる。
 それは可動部の摩耗であったり、電算装置への圧であったり……様々な過負荷が機体に掛かっている。

 それ故に限界が早く訪れた。
 だが、その理屈が通るのであれば、『今日の』トリテレイアの方が先にオーバーヒートを起こしているはずだ。
 理解できない。『昨日の』トリテレイアのアイセンサーが揺らめく。
「つい数時間前、スペースシップワールド整備工場で演算装置と駆動部の負荷軽減の処理を受けていたもので」
 メンテナンス。
 それこそが、昨日と今日の決定的な違い。道理である。『昨日の』トリテレイアは同一期待であるがゆえに理解も迅速であった。

「己が仕事の誇りの為、銀河皇帝打倒の恩を他の世界に返すため、日々違う形で戦う人々の想いと力を騎士として私は託されてきました」
 それは連綿と紡がれてきた異世界から連なる繋がりである。
 ただスペースシップワールドで生きているだけでは決して得られることのなかった力であろう。
 整備工場での一幕もそうである。
 メカニックに己の体をメンテナンスしてもらう。自己でできないことはないであろう。だが、これもまた違う形で戦う人々の想いである。
 誰かのために。自分ではない誰かの救いのために、それができるトリテレイアに託された想い。

 その結実が、この今日と昨日の決定的な差である。

「―――それが無い貴方に、負ける道理波ありません」
 放たれた大盾の殴打が胴部の装甲板をひしゃげ、脱落する。むき出しになったコアユニットを剣の切っ先が捕らえ、貫く。
『昨日の』トリテレイアの駆動音が消え、炉心が消えていく。アイセンサーは力なく消え失せ、そこにあったはずの重みは、むさんし消えていくことに寄ってなかったことになる。

 けれど、この経験はなかったことにはならない。
 いつまでもトリテレイアの電脳の中に残る。有機生命体であれば、記憶の摩耗も起こったことだろう。
 けれど、彼の電脳はそれを許さない。いつまでも抱えていく。それが幸か不幸かは、トリテレイア自身にしか下せぬ判断であろう。
「戻ったら身体の全交換ですね」
 トリテレイア自身も相当な駆動部に負荷が掛かっている。膝をつくように脚部が砕けるように落ちそうになる。
 だが、その膝を土にまみれさせることはしない。剣を杖のようにし、支えながらトリテレイアは帰路に着く。

 整備してくれた者への感謝があった。
 装甲を磨き上げてくれた。騎士らしく綺羅びやかであり、人々のもとへと駆けつける時に、汚れた機体では不安を払拭できないと。
 だからこそ、磨き上げてくれた機体を汚すわけにはいかなかった。

 合理的ではない。けれど、その不合理こそをトリテレイアは力に変えて、前へと進むのだ。
 それが機械騎士としての矜持であるのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
昨日の自分に無く今の僕にあるもの
それは準備時間だよ

ガトリングガンの攻撃より神気の防御の方が勝るから
お互い決定打にはできない
普通にやれば千日手だね
そうなったら後はお互いに固定しあう
正面からの力比べになると思うよ

だから予めワイヤーガンのワイヤーに
時間をかけて神気を籠めて
固定に対する耐性をつけておこう
普段使う移動用のものではなく
切断用のワイヤーを使うよ

隠れる場所も無い闘技場だから
射出したワイヤーは躱すか防ぐしかない
1回はガトリングガンで防いでも
2回以降は躱すしかないだろうね

そうすれば少しずつ均衡が崩れていくだろうから
相手の動きを止めて勝負をつけよう

小細工なのは癪だけど
今の目的はこの戦争の勝利だからね



「昨日の自分に無く、今の僕にあるもの……それは準備時間だよ」
 その身に邪神を宿す佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)にとって、準備時間とはあらゆるものに対抗するために必要不可欠なものである。
 そして、情報。
 グリモア猟兵から齎される情報は有益そのものであり、それを活かすも殺すも現地に向かう猟兵に委ねられている。
 アリスラビリンス、不思議の国、『過ぎ去りし日の闘技場』において、現れるのはオウガではない。『昨日の自分』であるオブリビオン。つまりは、自分自身である。

 己を知れば百戦危うからず。
 その言葉を思い出す。自身を取り込まく神気の防御は手にした携行型ガトリングガンの銃弾に勝る強度を持つ。
 ならば、それはお互いに決定打にはならない。牽制にはなっても、決定的にならないのであれば、互いの攻撃は通らないけれど、状況を一転させる手を打つ暇もないという千日手へと発展することだろう。
 そうなると後は互いに互いの邪神の権能を使って固定し合う正面からの力比べになるしかない。

 そう、晶は己の中でシュミレートをする。
 庸人の一念(オネスト・エフォート)。それこそが彼女のユーベルコードである。事前に行う情報の整理。
 敵が己であるのならば、情報はいくらでも手に入る。
 仮想敵は己なのだ。そうすれば、普段見えていない己の弱点も見えてくるものである。
「でも、やってみなくちゃわからない……想定の範囲内って言えるように―――!」
 そうして、今まさに晶の目の前には影より染み出したように自分とそっくりな『昨日の』晶が存在している。
 姿形は自分と同一。けれど、戦わなければならない。
 そうしなければならない。互いに互いを滅ぼす。それがオブリビオンと猟兵の戦いであるのだから。

 ワイヤーガンを放つ。放たれたワイヤーアンカーは、飛び道具であり、その初撃を晶であれば、邪神の権能によって停滞させて避けることだろう。
 けれど、そのワイヤーガンの先端は速度を緩めること無く『昨日の』晶へと直進する。
 そう、事前の準備で神気を籠められるだけ籠めていたのだ。固定、停滞を司る停滞に対抗できるように、籠められた神気は正しく発現する。
「でも、その程度なら!」
 ガトリングガンの弾丸がワイヤーガンを撃ち落とす。躱すか防ぐかの二択に持ち込まれた時点で『昨日の』晶は、判断を誤った。
 一度目は撃ち落とせても、二回目以降は躱すしかない。神気を纏ったブレードの付いたワイヤーアンカーは、それだけ厄介な能力を持つと知れたからだ。

「こうやって突き崩していく!小細工なのは癪だけど、今の目的はこの戦争の勝利だからね。目先のことにかまってられないんだ!」
 ガトリングガンの銃弾の雨が神気の防御には弾かれる。だが、その合間を縫うようにして放たれたワイヤーガンのブレードが漸く、『昨日の』晶の身を貫く。
 今しかない。
 駆け出し、互いの神気のフィールドを中和していく。削られ、霧散していく神気の障壁。そこにガトリングガンの至近距離で打ち込めば、例え己の身体を石像に変えたとしても砕け散るしかない。

「自分で自分をなんて、気分は良くないけど! 自分のことは自分がよくわかっているんだから!」
 明滅するガトリングガンの砲口。火薬の匂いが立ち込め、最期に立っていたのは『今日の』晶だった。均衡が崩れてしまえば、力の比べあいにはならない。
 互いに互角であり、無傷であるからこそ成り立つ図式。
 それを打ち崩したのは、入念なる準備のおかげだ。闘技場の中心に霧散し消えていった『昨日の』自分を見送り、晶は前を向く。

 まだまだ迷宮災厄戦は続く。
 それがわかっているからこそ、こんなところで立ち止まってはいられない。最終的な目標が見据えられているからこそ、晶は『昨日』にとらわれない。
 いつだって前進するからこそ、得られるものがある。
 立ち向かわなければ得られないものばかりが彼女にとって必要であるのならば、晶は何も諦めない。

 その意志は困難な敵、自分自身であっても変わることはないのだから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルネ・プロスト
ミラーマッチ、ね
チェスはね、統計によると先手有利なゲームなんだってさ
つまりは先手必勝、陣取りで優位を取った方が勝つ

物理的な攻防を担うは駒盤遊戯
戦場に散り潜み斥候と伝令を担うは森の友達
罠や破壊工作、人形達の修繕で支援全般を担うは道化師団
人形達の動きは同じだろうね
その上で『悪意』で切り込んでくるか『慟哭』で狙撃してくるか
はたまた『安寧』の魔術と幻術で戦線を乱してくるかまでは読めないけど
それは相手も同じこと

ルネは後方指揮に徹しよう
先ずはクイーンのUCで障害物を乱造、情報収集の重要性を上げる
その上で幻術で姿を隠した森の友達の集めた情報を元に駒盤遊戯達を指揮
情報戦で優位に立てば少なくとも負けはしないよ



 その国は『過ぎ去りし日の闘技場』。
 そこへ足を踏み入れた者は、必ず『昨日の姿』をした自分自身と対峙することになる。それが、その不思議の国のルール。
 目の前に現れたルネ・プロスト(人形王国・f21741)の写し身の如き『昨日の姿』をしたオブリビオンを見て、彼女はなんてことはない、というように呟く。
「ミラーマッチ、ね。チェスはね、統計に寄ると先手有利なゲームなんだってさ。つまりは―――」

 展開されるは、駒盤遊戯・陣地錬成(ドールズナイト・ツーク・ツワンク)。
 それはユーベルコード。ドールズナイト・クイーンが放つ炸裂魔法が『昨日の』ルネを狙って放たれる。
 だが、その攻撃は鏡のような写し身である『昨日の』ルネにとっては躱せないものではなかった。
「先手必勝、陣取りで優位を取った方が勝つ」
 そう、そのとおりである。
 陣地を形成することが、ルネという『昨日の姿』をしたオブリビオンを打倒する初手にして最大の一手。
 炸裂魔法が外れたとしても、地形そのものをルネにとって有利な陣地や要塞に再構築する。
 
 一度陣地が形成されてしまえば、砲撃のごとく炸裂魔法を放つドールズナイト・クイーンを止める術はない。
 戦場のあちらこちらに散るように潜む斥候と伝令を担う森のともだち。
 破壊工作や罠、人形たちの修繕で支援を行うは道化師団。
 互いに展開する人形たちの構成は同じである。けれど、決定的に違うのは、ルネを取り囲む陣地の陣容である。
 すでに彼女に有利になるように地形が再構成されている中で、同じ能力、力を持つ人形同士がぶつかればどうなるかは火を見るより明らかである。
「さぁ女帝人形(ママ)、盤面を整えるよ。油断も慢心もいらない、徹底的に追い詰めて!」
 炸裂魔法が次々と放たれ、圧倒的にルネの有利な陣形へと変えていく。

 例え『昨日の』ルネが改めて同じ戦法をとったとしても先手を取った『今日の』ルネは『昨日』よりも一手多い。
「その上で『悪意』で切り込んでくるか、『慟哭』で狙撃してくるか……はたまた『安寧』の魔術と幻影で戦線を見出してくるかまではわからないけれど……」
 裏を返せば、それは相手も同じことである。
 今ルネが相手の手を読み切ろうとするように、『昨日の』ルネもまた同じなのだ。

「でも、情報戦で優位に立てば、少なくとも負けはしないよ」
 それは決定的な差であった。
『昨日の姿』をしたルネが持っておらず、『今日の』ルネが持っているもの。それは情報である。
 先手が重要であると判断したように、彼女の一手は常に『昨日』よりも早く差される。対応が早いのだ。
 圧倒的な対応力で、盤面の如き戦場を支配する。

 それは障害物を乱造し、情報収集の重要性を上げることによって為されたことであった。
 見えないということは、より見えているものへの情報の重要性を増すことになる。そして、あちらからは見えていないが、こちらからは見えているということが戦場を支配するルネには可能だった。
 幻術で姿を隠した森の友達から得られる情報を元に指揮する戦略の冴えは、一手一手が神の如く。
 それに追従しようとする『昨日の』ルネ。指し手は悪くない。けれど、どうしたって一手が足りない。

「―――チェック」
 その声は玲瓏たる響きで持って『過ぎ去りし日の闘技場』に響き渡る。同じルネ・プロストであれば、その一言で勝敗が決したことを理解しただろう。
 数十手先、そこで自身は敗北するのだと悟った瞬間、『昨日の』ルネは霧散し消えていく。骸の海へと還ったのだろう。

 それは静かなる勝利だった。
 けれど、それでいい。誰彼構わず傷つけたいわけではないのだ。だから、この結末が良い。
 ルネは静かに消えていく『昨日の』自分を見つめる。
 自分が此処にいる意味とは何か。その問いかけに過去は答えない。その答えがあるのは、いつだって未来にしかない。
 それを理解し、ルネは前を向く。『昨日』は見ない。そこには求める答えがないのだから―――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

別府・トモエ
「はじめまして、別府・トモエです。……テニスしようぜ」
難しいことは分かんねえけどテニスプレイヤー、競技者としては、昨日の自分に負けられねえな
ザ ベスト オブ 1セットマッチ トモエ・サービス トュー プレイ

サーブ、ステップ、リターン
そもそもまともなリターンが成立するのが珍しい……いい選手だ、よく観察する
フィジカルよし、スキルよし、スタイルよし、スマイルよし、メンタルよし――テニス花丸

「だけどもな」
例えば、誰かに負けるのは試合だからな、あり得るさ
けど自分には負けられねえな
克己こそがアスリートの道なんよ
そっちも御存知の通り別府・トモエって女はさ、ことテニスについて
「死ぬほど負けず嫌いなんだよ!!」



 それは不思議と嫌悪感のある出会いではなかった。
 オブリビオンとして存在するのであれば、それは猟兵にとって倒すべき敵であり、滅ぼすべき存在である。
 それはどんな見た目をしていたとしても、互いに認識できる事実であった。
 けれど、彼女たち―――別府・トモエ(ミステニス・f16217)は、この『過ぎ去りし日の闘技場』において、爽やかな一陣の風が吹き込むほどに清涼なる雰囲気で持って、互いに難く握手を交わす。
「はじめまして、別府・トモエです。……テニスしようぜ」

 そう、トモエは難しいことはわからない。
 ただのテニスプレイヤーである。そして、競技者として昨日の自分に負けるわけにはいかないのだ。メラメラと燃え上がる闘志は、その瞳に輝くようであった。
 同時に、『昨日の』トモエもまた同じである。その瞳に映るのは自分自身であり、燃え盛る闘志は微塵も陰りない清らかなるもの。
 闘技場という名のコートに砂塵吹き荒れる。風の音だけが二人の間に流れる。テニスボールを持った『今日の』トモエが告げる。
「ザ ベスト オブ 1セットマッチ トモエ・サービス トュー プレイ」

 サーブを放つ音が闘技場ならぬコートに響く。ステップを踏み、返してくる。
 放たれたサーブは決して手を抜いたものではなかった。ましてや、互いの実力を探るための牽制でもなかった。
 ただ、渾身のサーブ。それを返す『昨日の』トモエ。
 それに感嘆する。そもそもまともなリターンが成立するのが珍しい彼女にとって、それは新鮮な光景であった。
「……いい選手だ……」
 よく観察する。
 肉体の躍動。筋肉の使い方。己の関節の可動域の把握。ボールを負う視線と視界の選択。何もかもを平行に処理しつつ、自分のなすべきことを成す。思わず漏れた言葉は、二度目の感嘆であった。

「フィジカルよし、スキルよし、スタイルよし、スマイルよし、メンタルよし―――テニス花丸」
 第三者が居たのであれば、それは総ツッコミされるような言葉であった。否。違う。名実ともに彼女は名プレイヤーなのだ。
 ただ、自分の過去を見て、そう評価するのは勇気が要る。だが、本物の天才とは、そういうったものを躊躇しない。
 それが一体どんな出自のものであったとしても、関係がない。良いものは良い。悪いものは悪い。
 ただ純然たる事実だけを語るのだ。
 それ故に、この試合は素晴らしいマッチングになる。その確信が『昨日』と『今日』のトモエの中にある共通認識であった。

「だけどもな」
 それは裂帛の意志。どれだけ素晴らしい相手であろうとも、尊敬できる相手であろうとも譲れないものは存在する。
 誰がどんな理屈屁理屈をこねようとも、変えられないものがある。
「例えば、誰かに負けるのは試合だからな、ありえるさ」
 けど! とトモエが吠える。掲げたテニスラケットが燦然と輝くような、そんな錯覚さえ引きこすような見事なフォーム。
「自分には負けられねえな。克己こそがアスリートの道なんよ」
 放つテニスボールが猛烈なる勢いで放たれる。けれど、それを打ち返してくるのもまたトモエ自身の過去である。

 揺るぎない自身。くじけぬ闘志。食らいついていく。わかっていたことだ。
「そっちも御存知の通り、別府・トモエって女はさ、ことテニスについて―――」
 ギリギリのところで拾う。
 だが、高く跳ね上がったボールは『昨日の』トモエの眼前に。
 決定的なチャンス。『今日の』トモエにとっては、最大のピンチ。誰がどう見ても放たれるスマッシュを返すことはできない。弾丸のごとく放たれるボールがコートに跳ねる。

 だが、忘れてはならない。彼女は、トモエは―――。
「死ぬほど負けず嫌いなんだよ!!」
 それは不可能を可能にする跳躍。拾えないと思われたスマッシュを拾い、返す。立ち上がり、駆け出す。再び放たれる強烈なスマッシュ。
 それをガットが捉えるも、押し返されそうになる。だが、彼女は負けず嫌いだ。それ故に限界など簡単に飛び越える。
 今日の自分が勝てないのならば、明日の自分が。

 などと悠長に言える気性ではない。
 勝つのなら、今!
 裂帛の気合とともに返す一打は、高らかに拳を突き上げたトモエだけが知る勝負の行方であった。
 霧散し消えていく『昨日の』トモエ。
 そこにあったのは勝負に負けてうなだれる姿ではない。涙を湛えながら、こぼれ落ちぬようにやせ我慢をする『昨日の』トモエ。
 勝者は、敗者の涙を見ない。
 拭うこともしない。それは全力を尽くしたが故。またやろう。そう小さくつぶやいてトモエは前に進む。
 いつかまた、『昨日の』トモエになった自分と『未来の』トモエがマッチングする、そんな日を夢見て―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月10日


挿絵イラスト