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迷宮災厄戦⑰〜それが、何より難しい。

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦

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 形容するなら、古代ローマの闘技場に近しい造形、と言うべきだろう。
 円形に作られたコロッセオ。中央にあるリングには、まだ誰も居ない。

 戦うべき相手は、足を踏み入れたものによって変わる。
 鏡写し、過去の自分、侵入者が対峙するのは、過去の自分自身。
 昨日の己を超えられなければ、勝つことは出来ない。
 ――――それが、何より難しいのだが。

 ★


「昨日の自分を超えられるかい?」
 ミコトメモリ・メイクメモリア(メメントメモリ・f00040)は、集った猟兵達に向けて、そう問いかけた。

「迷宮災厄戦、新たな世界は“闘技場の国”。ここに足を踏み入れた侵入者は、“昨日の自分”と対峙することになる」
 たった一日、されど一日。
 今日の自分が、昨日の自分に勝っている保証はどこにあるだろうか。

「自分自身の事だ、どんなユーベルコードを使うか、どう考えて戦うか、何が出来るか――自分が一番良くわかっていると思う」
 ある意味で一番難しく、ある意味で一番御しやすい相手とも言える。

「最大の強みは、やっぱりキミ達が“一日だけ未来を生きている”ということだ。自分自身に対する攻略法を、自分自身で探してほしい」
 ――――真っ向勝負で、正面から戦い抜くか。
 ――――今日の自分は、昨日の自分より成長しているはずだと信じるか。
 ――――昨日の自分が何を考えていたか、その思考を先読みできるか。

「何にせよ、“自分自身”だからって相手は手加減してはくれない。どうか全力で戦って、迷宮災厄戦を、一つ前に進めてほしい」
 頼んだよ、と言葉を添えて、ミコトメモリは猟兵達を見送った。


甘党
 久方ぶりです、甘党です。
 そして迷宮災厄戦です。昨日の自分に勝つんだよ。

◆アドリブについて
 MSページを参考にしていただけると幸いです。
 特にアドリブが多めになると思いますので、
 「こういった事だけは絶対にしない!」といったNG行動などがあれば明記をお願いします。

 逆に、アドリブ多め希望の場合は、「どういった行動方針を持っているか」「どんな価値基準を持っているか」が書いてあるとハッピーです

◆その他注意事項
 合わせプレイングを送る際は、同行者が誰であるかはっきりわかるようにお願いします。
 お互いの呼び方がわかるともっと素敵です。

◆章の構成
 【第一章】は冒険フラグメントです。
フラグメントは冒険となっていますが、
 自分との戦闘リプレイのような形になると思います。

 なおこのシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
=============================
プレイングボーナス……「昨日の自分」の攻略法を見出し、実行する。
=============================

 自分に勝てるのは自分だけです、よろしくおねがいします。
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第1章 冒険 『昨日の自分との戦い』

POW   :    互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ

SPD   :    今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う

WIZ   :    昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夢幻・天魔

【厨二でさえあれば何でも良いので、好き勝手やっちゃって下さい】

フハハハハ!!
コロッセオか
究極の死闘に相応しい舞台ではないか!

俺とまともに戦えるレベルの敵などなかなかおらずに退屈していたところだったが……
ククク……この俺自身が相手であれば、久しぶりに全力が出せそうだ
さあ、至高の戦いを始めようか……

(戦闘が佳境に入ったところで、『異世界での最強にして無敵なる伝説的な俺』を使用)

フッ、なかなか楽しめたが……ここで終わりだ
俺はたった今、新たなる力に覚醒した
絶対切断のこの技の前に、あらゆる防御は無意味
スラッシュ・オブ・ジ・エンド!!

(※天魔は常に新しい妄想で設定をアップデートし続けている)



「フハハハハ――――――ハハハハハハ!」
 コロッセオの中央で高笑いする赤髪の男こそ、夢幻・天魔(千の設定を持つ男・f00720)、その人だった。
 相対するは、同じ姿格好の男、“昨日”の天魔。己の鏡写しを見て、彼もまたハハハハッハ! と笑った。

「どうやら、俺と貴様の考えは同じらしいな」
『ククク……口に出すのも愚かしい。こうして向かい合った時点で運命は定まった、違うか?』
 同一人物、しかも違いは二十四時間だけ、ということもあって、お互い、視線を交わしただけで意図が読めてしまう。
 すなわち――――――。

「俺とまともに戦えるレベルの敵などなかなかおらずに退屈していたところだったが……」
 天魔が、両手を解く。
 その右手には炎、その左手には氷。

『ククク……この俺自身が相手であれば、久しぶりに全力が出せそうだ』
 対する“昨日”の天魔は、風と――雷。

「『さあ、至高の戦いを始めようか……!!』」
 声が重なって、超越者同士(自称)の《終焉戦争(ラグナロク)》が幕を開けた。

 ■

 結論から言うと戦いは苛烈を極めた。
 極めすぎて何があったか、詳細を記すのはここでは憚られる程に色々あった。
 ただ、起こったことだけを記すなら――――――。

 コロッセオ、という建物は、もはやその形状を保たぬほど崩壊していた。
 質実剛健、という印象を与える石畳のリングは、もはや円の形をなしていない。
 赤髪の魔王が、荒野に二人、向かい合って立っている。

 そこに至るまでの仮定は、彼らだけが知っている――――。

「―――さすが俺、と言ったところだな。《残酷なる第四の調べ(ジェノサイド・レコード)》までもを食らって原型を保っているとは――」
『クク、それはこちらのセリフだ。まさか《世界が終わりを告げる刻・極光(アルマゲドン・フレア》を相殺するとは』
「だがこれはどうかな――――――」
『受けて立とう――――――』
 両者が、再び構える。
 二人の手の平の中に、空気の歪みが生じ、風景が歪んでいく。
 いや、いや、これはまさか! おお! 何ということだ!



 ――――空間を、世界そのものを、手のひらの中に圧縮しているのだ!



「虚実破壊――――」
『現実崩壊――――』
 
      ウツロ
「『《 虚 》』」

 アリスラビリンス、小さな“世界”を構成する、“存在”という概念が無に還っていく。
 凄絶すぎる光景は、もはや描写ができないほど凄まじく、絶対的な“破壊”をもたらし、“無”だけが残る。
 はずだった…………!

『――――それでも生きるか! 俺!』
 何もなくなった世界で、“昨日”の天魔が飛ぶ。
 次は何を来れてやろう、どんな一撃ならば“俺”を倒せよう。
 未知なる高揚感に、彼は心躍らせた。
 だが――――。

『――――――?』
 視界が、ゆっくりと落ちていく。
 おかしい。確かに空にその身を躍らせたはずなのに。
 その答えは、遅れてわかった。上半身と下半身が、分たれていたのだった。

「フッ、なかなか楽しめたが……ここで終わりだ」
 すでに、天魔の攻撃は終了していた。
 指を振るう。その結果生じた絶対切断は、“切った”という概念が相手の体に直接生じる。
 回避不能、防御不能の一撃必殺。

「――――スラッシュ・オブ・ジ・エンド」
『…………がはっ、そうか、お前は、明日の俺…………』
「そう――――俺はたった今、新たなる力に覚醒した」
 天魔という男の成長に限界はない。
 天魔という男の進化に限界はない。
 昨日より一歩進んでいる天魔が勝利するのは、当然の帰結だったのだ。

「…………おっと、世界を壊したままでは、せっかく救いに来た意味がないな」
 消えゆく昨日の己には振り返らず、天魔は手を掲げ、告げた。

   クリエイト
「《 創 》」







 ……詳しい描写は差し控えよう(三回目)。
 ただ結果から言えば、“無”になったはずの世界は、何事もなかったこのように元に戻っていた。
 これほどまでの絶対的な力、一体彼は何者なのか、天魔という男とは。
 その謎は、今この場で記すことは出来ない。
 一つの戦いが生じ、一つの戦いが終わり、彼は過去を乗り越えた。
 明確であるのは、ただその事実だけなのだ。

 -夢幻伝(筆者不明) 六十五章 二之刻 より-

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアンネ・アーベントロート

昨日の自分、かぁ。
悲しいことに、私にとっては大した問題じゃないんだよねぇ。
だって昨日の私、猟兵のお仕事してないから戦闘用の催眠グッズ持ってないもん。
私なら当然わかってると思うけど、私の催眠は基本的に催眠グッズ前提だからね。
というわけでさくっと催眠にかけちゃおうか。私自身だから特に遠慮しなくていいしねっ。
まず『催眠・自縛の幻想』で動きを止めて、あとは催眠ペンで顔に命令を書き込んだり、催眠リモコンで操ったり、催眠アプリで幻覚を見せたり。せっかくだしいろいろ試しちゃおう。自分自身で実験ってね。
最終的には転ばせて頭でも打ってもらえば倒せるかな。だって私だし。
……なんだか言ってて悲しくなってきたかも。



「あなたはだんだん動けなくなっちゃ――――嘘でしょ」
 マリアンネ・アーベントロート(ゼーブスタスの催眠術師・f00623)がゆらゆらと紐を通した硬貨を揺らしただけで、
 昨日の自分は、いともあっさり、かくんと意識を手放し、うつろな瞳のままぼうと宙を見上げるだけとなった。

「え、いやあ……こ、こんなに弱いんだ、私…………」
 マリアンネの得意な技術は、いわゆる催眠術である。
 まあ考えたら自己暗示は大得意だから、自分自身を催眠にかけるのはある意味何より慣れている。
 だからこの結果は、当然といえば当然かもしれないのだけど。
 それでも、ものすごくあっさりと落ちてしまった姿を見ると、我のことながら若干ドン引きしてしまった。

『ぅー………………?』
「ごめんね、だって思いついちゃったんだもん……」
 そう、この闘技場は“昨日の自分”と戦う場所だ。
 マリアンネのユーベルコードは、基本的に専用の催眠グッズを使用して発動する。
 そして昨日のマリアンネはオフであった為、それらの装備を全て持っていなかった。

 つまり、こと今回に限って、戦闘能力を持たない無防備な敵vs万全な装備で挑む自分、というヌルゲーマッチングが成立したのである。
 こうなると、もはや催眠かけ放題、やりたい放題、好き放題。
 普段はできない、ちょっと危ない実験もし放題、だって私なんだし。

「ごくり」
 命令を待つ自分の顔を見て、喉を鳴らす。
 表層的に意識を書き換えたり、思い込みをすることは得意だ。
 だけど、自分の深層意識を、催眠術で引きずり出すのは難しい。
 何せ綿密な催眠を自分にかけている途中で、自分の意識を手放す羽目になるからだ。
 その間は無防備になってしまうし、今度は催眠を解く人が居なくなってしまう。
 けれど、今なら……今なら……!

「……あなたの悩みを聞かせなさい、聞かせなさ~い……」
 自分が何に悩んでいるか。わからないというのは意外とよくあることだ。
 ストレスの原因が意外な所にあったり、思いも寄らない事がきっかけだったりすることは、
 催眠術師をやっているからこそ枚挙がない。

『………………』
 はたして、効果はてきめんだった。
 昨日のマリアンネは、両手をすっと上げ――――。

「…………ちょっ!」
 自分の、両胸を鷲掴みにした。
 これがもし他人の行いであったらセクハラ即通報100%有罪確実な、雄々しきつかみ具合であった。

「な、何して、や、やめっ」
『……………………………………』
 ぐにぐにむにむにふにゃふにゃむぐむぐにゅぐにゅぐむにゅにゅにゅ。
 無表情、無感情のまま、一心不乱に己が乳房を揉みしだく自分の姿を客観的に見せられるというのはいかなる心境か。
 それに起因する悩みってなんだ。考えたくない、見ないふりをしていたい。知ろうとするのではなかった。

『……………………んっ─────』
「頭をぶつけて気絶しなさーーーーーーいっ!」
 若干艶めいた声が唇から溢れた瞬間、反射的にそう叫んでしまった。
 はたして、深い催眠術にかかっている昨日のマリアンネは、その命令通り即座に地面に頭部を全力で叩きつけ、
 気絶と言うか流血を伴って、その場で動かなくなった。
 足元から粒子になって消えていくところを見ると、これで決着がついたらしい。

「…………………………………………」
 そして、マリアンネは心になんだかとてももやもやしたものを抱えながら、顔を横に振って、
 この場での戦いを終えたことを確認して、立ち去った。

 目の端にひかる者がみえたのは、きっと気の所為だろう。
 そういう事に、しておこう。

成功 🔵​🔵​🔴​

緋翠・華乃音
昨日の自分よりも今の自分の方が強い理由は無い。
肉体的にも精神的にも、その性能差はゼロに等しい。

……だが。
性能に差は無くとも、こちらには“昨日の自分が敵”という情報がある。
有する情報の差こそ、戦況を左右する大きな要因だ。

先ずはダガーナイフを手に敵の懐へ。
ここでは互角の勝負をすれば良い。

決め手は拳銃による銃撃
超至近距離から至近距離――即ち、拳銃の交戦距離へ。

その“瞳”を持つお前なら見える、分かる。
引き金を引く指が、発射される銃弾が。

回避ではなく銃弾に銃弾をぶつけて逸らすだろうな。
俺の行動だ、読めるさ。
――チェックメイトだ。

眩い閃光弾。

一瞬で視界は元に戻る?
拮抗の崩れるその一瞬で充分なんだよ。



 たった一日で、ヒトが大きく変じるかといえば、大体の場合は否だろう。
 心も体も、努力を、鍛錬を、経験を、積み重ねて積み重ねて積み重ねて、
 その累積の果てにある“何か”に至る為に、ヒトは日々を生きるのだ。

 であれば、少なくとも今日と昨日の自分に大きな差はないだろう、と、
 緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は結論する。
 ヒトが一日の間で増減する体重、変化する体調、状態。
 そういった要素も含めれば、性能差は零に等しい、ともすれば、劣ることすらありえる。

 唯一、勝る点があるとすれば。
 唯一、違う点があるとすれば。

「――――――」
『――――――』
 華乃音と、“昨日”が同時に接敵する。
 敵を前にわざわざ無駄口をたたかないところは、同じ。
 逆手に構えたダガーの刃が擦れあって、耳障りな音を立てる。
 急所を狙ってくるのが手にとるようにわかるから、カウンターで首筋に致死を送り込む。

 それも読まれていて、読まれることを読んでいて、さながら詰将棋のようだった。
 “ゼロレンジ”で行われる必殺のやり取り。
 思考をどこで止めるか、自分なら何手先まで読むか。
 極限の集中、一つ手順を間違えれば、確実に死ぬという領域の攻防を、瞬きの間に“行い”続ける。

 お互いが一撃必殺を片手に持ちながら、決め倦ねる状況。

 必然的に、同じ選択をした。超至近距離にあった二人が、一歩分飛び退いた。
 手を伸ばすだけでは届かない、間合い。
 同時に、懐から拳銃を抜いた。全く同じ動作で、全く同じタイミングだった。

(ああ――――見える、分かるよ)
 華乃音は見る。昨日の己の、その瞳を、
 絞られる瞳孔、究極の動体視力、音速を超える死の塊すら、その動きを見切る紫水晶の色。

       オマエ
(――――――俺なら)

 トリガーは同時に引かれた。
 弾丸は同時に放たれた。
 弾丸と弾丸がぶつかり合う。
 その瞬間、再度、“昨日”が向かってくる。

 打ち合いになったと見せかけて、緩急をつけない再度の超接近戦。
 再び間合いが零にして、その落差で命を奪う。
 そう予測し動いたのだろう。

「――チェックメイトだ」
 ちかり、と弾丸同士が触れた瞬間に火花をきっかけに。
 猛烈な閃光が、周囲の空間を焼いた。



 ――――性能に差がないなら。
 持っているアドバンテージは、ただ一つ、“時間”、そして“情報”。
 “事前に準備をする”という、唯一にして絶対のアドバンテージがあった。
 弾倉に仕込んでおく、その一発目に細工をする時間があった。
 魔術で構築した宝石の弾丸を、装填しておく時間があった。
 衝撃を受けた瞬間砕け散って、まばゆく輝く閃光弾を作る時間があった。

 フォール・ディスバージョン
 《 七 夜 の 星 辰 》 は、向こうだって使えるユーベルコードだが。

 この想定は、なかったはずだ。



 ――――拮抗が崩れてしまえば。
 ――――同じ力を持つもの同士だ。
 ――――優位を取ったほうが勝つに決まっている。

 目が焼かれた一瞬、予測を上回った一瞬、わずかに立ち止まり生じた一瞬。
 それだけ積み重なれば、額に弾丸も届くだろう。
 二発目に仕込んだのは、内側から爆裂する柘榴石の弾丸。
 首から上が吹き飛んで、倒れた自分の姿を見て。

「…………じゃあな」
 その言葉を手向けにして、戦いは終わった。
 ひらり、と宙を舞う瑠璃色の蝶が、どこかへ飛んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌


昨日の自分、かぁ
お夕飯に鯖の味噌煮食べたのは覚えてるけど…他は戦場に予知に駆け回ってて忙しかったしなー
…つまり、多忙な我が身は隙だらけってコトでひとつ、今日の私に軍配が上がるんじゃないかしら?

なるほど、考えもと想いも好みも、ぜーんぶ私通りだわ!
こうも同じだと、双子みたいね
なんて、生憎兄弟なんていないから想像だけれど

呼吸を合わせて一気に接敵
銃で応戦されたなら左右に揺さぶり照準をズラす
剣を振りかざされたなら鍔競り合う
相手は昨日の私。どちらも負ける理由は無い

であれば、答えは簡単よ
私は強い、それを証明してみせる

その息遣い、捉えたわ
絶対安全圏だと思っている眼鏡を一突き
そのお綺麗な目玉を抉ってあげる



 昨日の私って何してたっけかなぁ?
 えーっとお夕飯は鯖の味噌煮だったのは覚えてる、少し甘めの味付けで美味しかった。
 あとはなんだったっけ? ああそうそう、薔薇の迷宮の予知を見て、それからお菓子の家を作りに行って。
 うんうん、思い出してきた、要するにすごく忙しかったんだわ。繁忙期っていうのかしら?
 右に左にてんてこ舞いで、周囲に気を配る余裕なんて全然なかったものだから。

 ――――忙しいと、周りに気が回らないものよね?

 ●

 放たれる弾丸に弾切れがないことを、斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)はよく知っているし、
 ぼがんぼがんと響く砲声に当たれば、細い体は容易に吹っ飛んで、血肉に変わることもよく理解している。

「何せ、私だもんね」
 遠目から銃撃を繰り返す“昨日”の自分。
 過密なスケジュールの果て、精神的な疲労を負った自分なら、何を考えるだろう。

『これ以上疲れるのは嫌だわ』
 まずはこうだろう。
 動き回って飛び回って跳ねたりするような接近戦は選ばない。

『けど敵はきっちり倒さないと』
 安全な距離から射撃で追い詰め、防戦一方に追い込んで削る。
 当たらなければどうということはないが、当たると死ぬのが銃というやつなのだ。

 コロッセオという開けた戦場においては遮蔽物がないので、
 一度相手が銃撃に回ったら、もうこちらは逃げ続けることしか出来ない。
 足を止めたら撃たれる。撃ち返すにも狙いを付ける暇がない。
 我ながら卑怯なことに二丁拳銃の処刑人の名前を関している方は、精神の力を弾丸に変えて自動で装填してくれるすぐれものだ。
 弾切れがない、というのはそういう意味で、要するにジリ貧なのだが。

「この動きが――――」
 苦手でしょう、とばかりに、円を描くように走っていた挙動を、突如左右の揺さぶりに変化する。

『っ』
 あくまで回転式銃である【Executioner】は、連射はできるが乱射はできない。
 一発撃つのに引き金を引かねばならない、素早い動きに連続で対応するのは、それだけで難しくなる。

『なら――――――』
 一歩飛び退いて距離を作りながら、再び指がトリガーを引く。
 一瞬、チカリと光が明滅する。エナジーの収束が一瞬で行われたために、そう見えるのだ。

『光よ貫け!』

  ミラージュ・レイ
 《 光 楼 》の一閃が銃口から放たれる。
 その速度は単純な射撃の比較にはならない。1/80秒に近い速度は、視認出来るものではない。
 脚を貫き、動きを止めたところを、大口径で仕留める――――という手立てのハズだ。

「そう」
 彩萌は、その光を待っていた。

「そう来ると思ってたのよ」
 捉えられない速度でも、その場所に来るとわかっていれば迎撃出来る。
 自分ならそうするだろう、という予測は、パズルのピースのようによくハマる。
 だって彩萌は衝動で動く、理詰めとは縁の遠い女なのだ。
 本能で選んだ最適解を、本能で選んだ最適解で凌駕する。

『――――!?』
 神霊剣が光線を断つ。
 【Executioner】は“精神力を弾丸に変える”銃であるが故に、
 、、、、、、、、、、
 精神的に疲れていたらその威力が弱くなるのは当然の事だ。
 、、、、、、、
 多忙だったから。

「こうも同じだと、双子みたいね」
 一瞬あれば十分だ。
 間合いを詰めるは一歩で済んだ。
 防御も、回避も不可能な距離に、彩萌はすでに至っていた。

「なんて、あいにく兄弟も姉妹もいないから、想像だけれど」
 思考と思想と嗜好がわかる。手にとるように把握できる。
 驚愕の表情。
 きっと悔しいのだろう。きっとしくじったと思っているのだろう。きっと後悔しているのだろう。
 それは、弱い自分の姿だ。負ける自分の姿だ。消える自分の姿だ。
 そんなものは、私ではない。

「だって私は強いもの」
 その証明を成すように、神霊剣が昨日の己を貫いた。
 眼鏡のレンズをぶち砕いて、奥にある眼球を貫いて、頭蓋骨を叩き割って脳を破壊して致死まで至った。

「そのお綺麗な目玉を抉ってあげる――って思ってたんだけど」
 えぐるどころか、潰してしまった。
 まあいいか、と剣を引き抜いて、血を拭って収める頃には、“昨日”の自分の姿が粒子になって消えてくところだった。

「あとまぁ……正直、怒ってたでしょ? 私の目の前に私がでてきたら、私だったら怒るし」
 斬断・彩萌は一人だけだ。
 何人もいらない。
 自分自身の鏡像なんて、許す道理がどこにもない。
 怒りは思考をより素直にする。翻って、怒った自分なんてのは、旗から見てれば醒めるものだ。

「バイバイ」
 過去の自分と決別して、未来に向かって歩き出す。
 さて、明日の自分は、今日の自分に勝てるだろうか。

 ……多分、勝つまでやるんだろうなあと思いながら、戦場を後にしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月13日


挿絵イラスト