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迷宮災厄戦⑰~ひとり戦争

#アリスラビリンス #戦争 #迷宮災厄戦 #一人称リレー形式

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●グリモアベースにて
「UDCアースの古代ローマを彷彿とさせる『闘技場の国』というのがアリスラビリンスにありまして……」
 黒猫を伴ったショートドレス姿の娘が猟兵たちの前で語り始めた。
 グリモア猟兵のリリ・リーボウィッツである。
「その地を皆さんに攻略していただきたいんです。あ? 言うまでもないですが、アリスラビリンスで繰り広げられている迷宮災厄戦の一環としてですよ」
 闘技場の国を制圧することによって、猟書家の一人である『プリンセス・エメラルド』や書架の王『ブックドミネーター』への足がかりを築くことができる。また、大きな戦果を挙げれば、オブリビオン・フォーミュラー『オウガ・オリジン』の力を削ることもできるだろう。
「とはいえ、そう簡単には制圧できないかもしれません。名前の通り、その国には円形闘技場があるのですが、そこで戦う相手は昨日の自分なんですよー」
『昨日の自分』とは比喩ではない。どのような魔法が働いているのかは判らないが、何者かが闘技場に侵入すると、その『何者か』の昨日の姿がオブリビオンとして出現し、行く手を阻むのだ。
「自分自身というのは厄介な相手ですが、付け入る隙はあるはずです。敵は今日の自分ではなく、昨日の自分なんですから。そう、皆さんは敵よりも一日分だけ成長しているんですよー。昨日よりも強くなっているかもしれませんし、昨日よりも賢くなっているかもしれません。それに昨日の自分がまだ食べてない美味しいスイーツとかを味わっていたり、まだ観ていない猫ちゃんのほっこり動画とかを視聴しているかもしれません」
 スイーツやほっこり動画に関する経験が戦闘の役に立つのか? そう尋ねれば、リリはあっけらかんと答えるだろう。
 判りません、と。
 しかし、幸か不幸か、そんな問いを発する猟兵はいなかったので、リリは話を続けた。
「もう一つ、皆さんにとって有利なことがありまーす。それは敵の心身のコンディションを把握していること。昨日の自分の体調等をちょっと思い出してみてください。寝不足だったり、ぽんぽんが痛かったり、外出の予定がないのをいいことに小汚い格好をしていたり、こっぱずかしい記憶がフラッシュバックしたもんだから枕に顔を埋めて足をバタバタさせたりしてませんでしたか? もし、そういう弱点があれば、容赦なく攻め立ててやればいいんですよー」
 弱点の種類によっては、自分自身も精神的にダメージを受けるかもしれないが。
「では、行きましょー!」
 リリは右手でグリモアを取り出し、左の拳を頭上に勢いよく突き上げた。
「昨日の自分が待つ戦場にー!」


土師三良
 土師三良(はじ・さぶろう)です。
 このシナリオは1章で完結する戦争シナリオです。種類は冒険となっておりますが、実際の内容はオブリビオンとの戦闘です。
 執筆ペースがゆっくりめなので、スピードを重視されるかたは御注意ください。

●戦闘とプレイングボーナスについて
 古代ローマ風の円形闘技場で、猟兵の『昨日の自分』の姿をしたオブリビオンと戦います。敵は外見だけでなく、記憶もしっかりコピーしています(ただし、今日の分の記憶はありません)。シリアスに対峙するもよし。ギャグっぽく対応するもよし。
『昨日の自分の攻略法を見出し、実行する』という行為をプレイングに盛り込むと、プレイングボーナスがつきます。
 タイトルは『ひとり戦争』ですが、複数人でタッグやチームを組んで挑んでも構いません。もちろん、敵も同じ面子でタッグやチームを組むことになりますが。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。

 ※オープニング発表直後からプレイングの受付を開始します。

 ※章の冒頭にあるPOW/SPD/WIZのプレイングはあくまでも一例です。それ以外の行動が禁止というわけではありません、念のため。

 ※基本的に一度のプレイングにつき一種のユーベルコードしか描写しません。あくまでも『基本的に』であり、例外はありますが。
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第1章 冒険 『昨日の自分との戦い』

POW   :    互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ

SPD   :    今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う

WIZ   :    昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

トゥンク・ニンケ
【SPD】
ふむふむ、きのうのおいらとの決闘かー
いつもと比べると全然怖くないね!だっておいらだもん!
熊とかライオンじゃなくておいらだよ!?
……な、泣いてないし!

んーと、昨日のおいらは…そうそう!美味しいドングリがいっぱいある場所見つけて食べ過ぎたんだよね
今も食べきれなかったドングリ頬袋に残ってるし!
だから今日のおいらより動きがにぶいはず
でもきのうのおいらに相棒呼ばれたら面倒だから【べちょべちょ弾】で攻撃!
ふふん、昨日のおいらはこれを知らないはず、だって今思い付いたんだから!
身動きできないようにしてから、お腹ベシベシ叩きに行くよ!
昨日食べ過ぎてお腹攻撃されたらまずい状態なのおいら知ってるんだから!



●幕間
 擂り鉢状の観客席に囲まれた闘技場に闘士が現れた。
 その名はトゥンク・ニンケ(ただのリスは人の言葉は話さない・f27145)。
 観客席は無人だったが、たとえ満席だったとしても、彼を歓声で迎える者はいなかったかもしれない。
 闘士には程遠い姿をしていたから。
 人間ではなく、シマリスだったから。
 とはいえ、トゥンクは普通のシマリスではない。体は平均的なシマリスよりも大きいし(といっても、体長は三十センチ弱だが)、武器を持っているし(ただのパチンコだが)、迷彩柄のバンダナを首に巻いている。
 おまけに――
「さあ、来い! 昨日のおいら!」
 ――人の言葉を話すのだ。
 トゥンクの叫びに応じるかのように地面の一部が開き、迫りが上がってきた。
 そこに乗っているのは、迷彩柄のバンダナを首に巻き、パチンコを携えた、体長三十センチ弱のシマリス。
 そう、昨日のトゥンクだ。

●昨日のトゥンク
 目の前においらが立っている。
 こいつは今日のおいらだ。
 ん? おいらから見れば、明日のおいらってことになるのかな? だって、おいらは昨日のおいらだし……って、わけ判んないよ。まあ、どうでもいいか。
「ふむふむ」
 おいらを見ながら、今日のおいらはしたり顔で頷いた。
「おいら自身との決闘かー。いつもの戦いと比べたら、ぜっんぜん怖くないね」
「強がるなよ、今日のおいら」
「強がってないから! マジで怖くないから! だって、おいらだよ? 熊とかライオンじゃなくて、おいらだよ!? 怖がる要素、ゼロじゃん!」
「……泣くなよ」
「な、泣いてないし!」
 いや、泣いてんだろ。てゆーか、おいらも涙が出てきた。こいつの気持ちはよく判る。だって、おいらもおいらだから。

●今日のトゥンク
 おいらには、頼れる相棒がいる。人間でもシマリスでもない。いつでもどこでも駆けつけて(翔つけて?)くれる名無しの鷹さ。
 昨日のおいらにも昨日の相棒がいるのかもしれない。それを呼ばれたら、ちょっと面倒だ。
 だから、先手を打つ!
「食らえー!」
 もらい泣きしていた昨日のおいらに向かって、おいらはパチコンでドングリを発射した。『食らえ』とは言ったけど、それを食ってたのはおいらのほうなんだよね。ずっと頬袋に入れてたんだよ。
「うわ!? ばっちぃな!」
 涎でべちょべちょになったドングリをぶつけられて、昨日のおいらは怯んだ。
 その隙に距離を詰め、お腹めがけてパンチ!
 昨日のおいらは慌てて避けようとしたけど――
「ぐえっ!?」
 ――避けられなかった。べちょべちょが体に張り付いて、動きが鈍くなってるんだ。
 いや、べちょべちょのせいだけじゃない。昨日、おいらは美味しいドングリがいっぱいある場所を見つけたもんだから、調子に乗って食べ過ぎたんだよね(実はさっきのドングリも昨日の残りだ)。
「体が重いだろ? 消化しきれてないドングリがお腹にたっぷり残ってるはずだからな」
 ドングリが詰まってぽっこりしたお腹を何度もベシベシと叩いてやった。これは効くぞぉ。辛いぞぉ。
「ぼげぇぇぇーっ!」
 昨日のおいらは体を『く』の字に折り、聞くも不愉快な声をあげて、見るも不愉快なものを吐き出した。
 そして、力尽きた。
 さらばだ、昨日のおいら……。

 食べ過ぎには気をつけようっと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネーヴェ・ノアイユ
まずは氷壁を作成し安全の確保を……。やはり私である以上同じ手を使ってきますね……。
その後は氷の鋏を精製し……。それを放ちあうことで牽制合戦に。
昨日今日では魔力量などに差は出ませんし……。このままだと泥沼ですが……。だからこそこのまま戦いを引き延ばして……。決着を付けるには私の切り札である猛吹雪を使わないといけない……。そう昨日の自分に思わせられるところまで凌ぎ切りましょう。
昨日の私に焦りが見えてきたら……。わざと隙を作り……。昨日の私に猛吹雪を発動させやすくします。
その猛吹雪に対して……。私はUCを。
今日得た力……。昨日にはない力……。このUCに全力魔法を乗せて反射の威力を上げ押し切ります。



●幕間
 二人目の闘士が入場した。
 白い髪にリボンを巻いた少女。
 アリス適合者のネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)だ。
 当然、迫りに乗って現れた対戦相手もネーヴェである。
 暫しの間、アンニュイな表情で見つめ合う二人。
「念のためにお伺いしますが――」
 最初に沈黙を破ったのは、今日のネーヴェのほうだった。
「――あなたも過去の記憶を失っているのですか?」
「はい」
 と、昨日のネーヴェが頷いた。
「あなたが覚えていないことは私も覚えていません」
「そうですか。まあ、べつに期待はしていませんでしたが……」
「私も期待はしていませんでした」
 二人は同時に溜息をついた。もっとも、気落ちしているようには見えないが。
「では、始めましょうか」
「はい。始めましょう」

●今日のネーヴェ
 突然、昨日の私の姿がぼやけました。
 彼女の目に映る私の姿もぼやけていることでしょう。
 私たちの間を厚い氷壁が遮ったのですから。
 氷壁の数は二枚。一枚は私が魔力で生み出したもの。もう一枚は昨日の私が魔力で生み出したもの。その目的は同じ。盾として使うためです。
 盾があるからには矛もあります。いえ、矛ではなく、鋏ですね。魔力で生成した氷の鋏。
 身の丈ほどもあるそれを二振りの刃に分離して、私は続け様に投じました。
 この場合の『私』というのは私だけのことではありません。昨日の私も同じことを同じスピードでやってのけています。
 彼女の放った刃が私の氷壁の突き刺さりました。
 私の放った刃も彼女の氷壁に突き刺さりました。
 間髪を容れず、私/彼女は新たな鋏を生成して放ちました。またもや氷壁に防がれましたが、それは承知の上。この一連の攻撃は牽制に過ぎません。私にとっても。彼女にとっても。

●昨日のネーヴェ
 氷壁に鋏が突き刺さる度、『キン!』という軽やかな音が響いて耳を楽しませてくれます。しかも、二重奏。私と彼女は同時に鋏を放ってますから。
 何度かの攻撃に耐えられなくなって氷壁が砕け散るのも同時なら、新たな氷壁を生み出すのも同時ですし、鋏で更なる攻撃を加えるのも同時。
 これでは埒があきませんね。
 決着をつけるためには、切り札である『総て凍てつく猛吹雪(スノウストーム)』を使わなくてはいけないようです。
 しかし、今日の私も同じことを考え、タイミングを計っているはず。ここは慎重に……あ? 今日の私の動きが澱みました。
 その澱みから生まれた隙は大きなものではありませんでしたが、私にとっては充分でした。
「束ねるは妬み。放つは憎悪。万象奪う力となれ。総て凍てつく猛吹雪」
 詠唱を終えると同時に私の眼前に吹雪が巻き起こりました。
 その吹雪は獰猛な獣のように唸りをあげて突き進み、氷壁をいとも簡単に撃ち破り、今日の私へと襲いかかりました。
 しかし――
「風花舞いて……一つになれば、すべてを守る煌めきの盾」
 ――吹雪の唸りに紛れて私(この私ではなく、彼女のほうです)の詠唱が聞こえてきました。
 そして、吹雪は消えました。鏡が砕け散るような音とともに。
 いえ、音ばかりではありません。鏡らしきものの破片が舞い散っている様も見えました。
 その破片群の向こうから魔力の奔流が飛び出し――
「……!?」
 ――次の瞬間、私は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられました。
「今日、得た力を……そう、昨日の私にはなかったユーベルコードを使って、吹雪を相殺させていただきました」
 今日の私の声が聞こえてきました。
 しかし、彼女の姿は見えません。
 彼女だけでなく、もう、なにも……見え……な……。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

御宮司・幸村
UC発動後使用技能
先制攻撃、だまし討ち、鎧無視攻撃、鎧砕き、武器受け、2回攻撃、怪力
残像、フェイント、見切り、第六感、オーラ防御、戦闘知識

ふぅん、昨日のおじさんねー…
昨日はオフだから泥酔してたなー
とは言え気の抜けない相手だねー

って言うか目線とか表情読めないし、SPD系ユベコって厄介なの多いんd…

《ユーベルコード、強制発動》
『天の意志』の解釈はMS様に委ねます
以降PC「御宮司・幸村」はPLまたはMSの操作へ譲渡し
操られるがまま適切な活性化UC/技能を使い対象と戦闘を行います
無意識状態は一切の感覚はなく、どちらかが倒れるまで継続し
決着が着いた時解除されます

……だよねー
って、終わって、る?
ま、いっか



●幕間
 三人目の闘士は御宮司・幸村(いいかげんサマナー・f02948)。
 HMDで素顔を隠した、四十路のバトルゲーマーである。
 闘技場の中央に向かう彼の歩みに合わせるかのように、迫りが昇ってきた。乗っているのは昨日の幸村だ。
 今日の幸村が立ち止まると同時に迫りが停止した。
 HMD越しに睨む合う二人の幸村の間を乾いた風が吹き抜けていく。
 すると、昨日の幸村の体がよろめいた。煽られるほどの強風ではなかったにもかかわらず。
 さすがに転倒はしなかったが、昨日の幸村の体が安定することはなかった。右に揺れたかと思えば、左に傾き、前のめりに倒れそうになったかと思えば、大きくのけぞって……出来の悪い弥次郎兵衛のごとき様相。
 その醜態を前にして、今日の幸村はげんなりと呟いた。
「……酒くさぁーい」

●今日の幸村
 昨日はオフだから、おじさんは泥酔してたんだよねー。
 今はもう酒は抜けてるけど、目の前にいる昨日のおじさんのほうはひどいもんだ。千鳥足であっちにフラフラ、こっちにフラフラ。HMDに隠れていない部分は真っ赤になってるし。
 うーん。我ながら、情けない。こうなると判っていたら、呑まなかったのに……いや、判っていたら、もっと呑んでいたかな? 相手が酔っぱらてるなら、こっちのほうが有利だもんね。
 だけど、酔っぱらいとはいえ、油断はできないよー。HMDのせいで目線が判らないし、表情も読めないし、それに自分で言うのもナンだけど、おじさんは厄介なユーベルコードを会得してるからね。
 そのユーベルコードを使われたら、面倒なことにな――

●昨日の幸村
 おじさん、物が二重に見えちゃうんだよねー。深酒しちゃったもんだから。
 だけど、今日のおじさんは二重どころか四重になって迫ってきたよ。つまり、残像を生むほどのスピードで突進してきたってこと。
 避ける余裕なんてありゃしない。おじさんは今日のおじさんの凶器攻撃を受けて(しかも、一度に二発だよ)、地面にブッ倒れちゃった。ちなみに凶器というのはゲーム用のタッチペン。肋骨の間を狙って、的確に突き刺してきた。たまんないな、もぉー。
 追撃を受ける前になんとか立ち上がり、よろめきながらも間合いをあけて、今日のおじさんと対峙した。
「……」
 今日のおじさんは無言で奇妙な構えを見せた。なにやら、様子がおかしい。ははーん。さては『Metafiction †Ambivalent†』を使ったな?
『Metafiction †Ambivalent†』は、天からの意志に自分を操らせるユーベルコード。天からの意志ってのはおじさんにもよく判らないんだけど……PBW(そういうドマイナーな娯楽があるんだけど、知らない?)にたとえるなら、PCの行動をマスターにお任せする感じなのかなー?
 なんにせよ、いいかげんかつチートなユーベルコードだよね。まあ、おじさんも同じユーベルコードを使えるんだけど、あえて自分の力だけで戦おうか。
 ちょっとばかし苦戦するかもしれないけど、最後はこっちが勝つはずだよ。
 この手のシチュエーションでは、卑怯で強力な技を使ったほうが負けると相場が決まってるからねー。

●再び、今日の幸村
 ――るかもしれないよー。
 ……って、あれ? いつの間にか、昨日のおじさんが死んでる。
 いったい、なにが起こったんだろう?
 まあ、いっかー。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ソラスティベル・グラスラン
思えば内心、いつも通りのオブリビオン退治と思ってたのでしょう

敵は昨日の私たち
自分自身の成長を見せつける気で意気揚々と斧を振るえば
考えれば当然でした
彼らはオブリビオン、しかし紛れもなく『私たち』で
『私』を庇い二人分の攻撃を受け、
呆然とする私の目の前であっけなく『ナイくん』(f05727)は消滅した

相棒の死に悲鳴をあげて『私』が駆け寄り
彼の消滅を見届け、激情の【勇者理論】が気炎を上げた

『私』は一人でこちらは二人
負ける道理はなく…しかし私は戸惑い、手間取る
彼女の気持ちが痛いほど分かるから

瀕死となった『私』は死の間際に見間違えたのか、ナイくんに縋りつく
嗚呼、あれは
志半ばで倒れる、私たちの『もしも』


ナイ・デス
ソラ(f05892)と

『私』は私、だから

【念動力で自身吹き飛ばし】
【激痛耐性、限界突破】した速さで近付いて
『クラウモノ』【生命力吸収】する光の一撃
狙うのは……『ソラ』

明日また『私』と戦うとしても、こうなる、ですよね

『ソラ』を庇い、光に喰われ一瞬で消滅する『私』
過去の『ソラ』だからと【覚悟】して、躊躇なく狙える私
過去となってもソラを躊躇なく攻撃はできない『私』

その差が必ず、この結果に

残る『ソラ』は
私が、先に死んでしまった場合の、ソラの姿

ソラを庇って『ソラ』の一撃受け
その隙に、ソラが一撃

瀕死の『ソラ』を抱きとめて
苦しまず逝けるよう、光で包み優しく【生命力吸収】
眠らせるように

おやすみなさい、『ソラ』



●幕間
 四人目と五人目の闘士が一緒に入場した。
 碧色の衣装を纏った、人派ドラゴニアンの娘――ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)。
 赤いマフラーを巻いた、白髪赤眼の少年――ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)。
 例によって例のごとく、地面の一部が開いて迫りが上昇した。昨日のソラスティベルと昨日のナイを乗せて。
「二つの迫りで別個に入場しなかったのは、二人の絆の強さ故――そう考えていいんでしょうか?」
 今日のソラスティベルが首をかしげて呟いた。
「いい、ですよ」
 と、答えたのは今日のナイではなく、昨日のナイだ。
「そうですか。でも、絆の強さなら――」
 今日のソラスティベルが武器を振ってみせた。蒼空の色をした大きな戦斧。
「――私たちだって、負けてませんよ。ねえ、ナイくん?」
「はい、です」
 と、ナイが答えた。
 もちろん、今日のナイである。

●昨日のナイ
「行きますよ、ナイくん!」
「はい、です」
 ソラと一緒に、私は、走り出しました。
 今日の私たちに向かって。
「わたしたちの一日分の成長を見せつけてあげましょう!」
 今日のソラが叫び、迎撃の構えを、取りました。
 もちろん、戦斧を振りかぶった彼女の懐に飛び込んでいくほど、私は愚かでもなければ、自信家でもない、です。
「覚悟してください、です!」
 急停止し、今日のソラを狙ってユーベルコードを発動……させようと思ったのですが、できませんでした。
 できるわけがないのです。
 だって、彼女は、ソラ、だから。
 私に、名前をくれた人、だから……。
「覚悟するのは、そちらのほう、です」
 今日の私が光を放ちました。その光は『クラウモノ』。さっき、私が使おうとしたユーベルコード、です。
 光は私ではなく、ソラのほうに飛んでいきました。
 なぜ、今日の私は昨日のソラを攻撃できるのでしょう? 躊躇もなく、容赦もなく。私には今日のソラは攻撃できないのに……。
 いえ、そんなことを考えている余裕は、ありません。
 こういう時に、私がやるべきことは、ただ一つ、です。

●今日のソラスティベル
 昨日の私に向かって戦斧『サンダラー』を振り下ろそうとした時、私の横を光が通過しました。
 ナイくん(言うまもでなく、本物のナイくんですよ)が撃ち出したユーベルコードの光です。
「きゃー!?」
 光を浴びて、昨日のわたしが悲鳴をあげました。
 いえ、正確に言うと、浴びてはいません。彼女は無傷でした。
 昨日のナイくんが光の前に立ちはだかり、盾となったからです。
 彼が防いだのは光だけではありません。
 私が振り下ろした『サンダラー』もその身に受けました。
「……え!?」
 と、私は思わず声をあげてしまいました。
 だけど、考えてみれば、昨日のナイくんが昨日のわたしを庇うのは当然のことですよね。オブリビオンであるとはいえ、昨日のナイくんは紛れもなく、ナイくんなんですから。そして、昨日のわたしも……。
「ああ!? ナイくん! ナイくーん!」
 悲痛な叫びをあげる昨日のわたしの前で、昨日のナイくんは消滅しました。なにかを言い残す暇もなく。
「ナイくぅぅぅーん!
 昨日のわたしはまだ叫び続けています。その姿は隙だらけ。
 でも、わたしはなにもできず、呆然と立ち尽くしていました。

●昨日のソラスティベル
「ソラ。しっかりして、ください」
 今日のソラくんが今日のわたしを叱咤しました。
 皮肉なことに、それを聞いて先に我に返ったのはわたしのほうです。
 もっとも、胸の中で渦巻く怒りと悲しみが消えたわけではありません。
 むしろ、激しく燃え上がっています。
 許さない。
 許さない。
 許さない。
「うわぁぁぁーっ!」
 喉が潰れんばかりに吠え猛りながら、わたしは『勇者理論(ブレイブルール)』を発動させました。能力を強化するユーベルコードです。
 雷の竜神の化身たる『サンダラー』を構えて飛びかかった相手は、同じ戦斧を持つ者――今日のわたし。
 わたしよりも少し遅れて我に返っていた彼女は紙一重で攻撃を躱しましたが、その動きは精細を欠いています。ナイくんの死を目の当たりにしたことで戸惑い、そして、心を痛めているのでしょう。
 でも、だからといって、戦いをやめるわけにはいきません。やめられるわけがありません。
 許さない。
 許さない。
 許さない。
 絶対に――
「――許さない!」
 もう一人のわたしに向かって、わたしは『サンダー』の刃を水平に走らせました。

●今日のナイ
「許さない!」
 昨日のソラが、戦斧を横薙ぎに、払いました。
 狙いは、今日のソラ。
 でも、彼女には、命中しませんでした。
 私が盾になったから、です。
 昨日の私と、同じように。
「……ナイくん?」
 愕然と目を見開く、昨日のソラ。
 その隙を衝いて、今日のソラが相手の後ろに素早く回り込み、背中めがけて戦斧を、打ち下ろしました。
 悲しそうな顔で。
 とても、悲しそうな、顔で。
「うっ……」
 昨日のソラは、赤い血と呻き声を同時に吐いて、私に倒れ込んできました。
「ナ、ナイくん……」
 私が反射的に抱き留めると、彼女は縋り付きながら、私の名前を呼びました。
 あるいは、私ではなく、昨日の私を呼んだつもりなのかもしれません。
「ナイくん……」
 と、今日のソラも呟きました。彼女が、私に与えてくれた、名前を。
 私は今日のソラに頷いてみせ、もう一度、『クラウモノ』の光を放ちました。
 縋り付いたままの、昨日のソラに、とどめを刺すために。
 苦しまずに逝けるよう、光で優しく包み、眠らせるように……。
 その光が消えた時、昨日のソラも、消えていました。

 おやすみなさい、ソラ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
※大凡動きは同じ

なァ俺よう、昨日…お前ェにゃ今日か、何食ったよ
天麩羅、西瓜、心太に、白玉入りの冷や水
で、晩に蕎麦も食った…だろ?
流石に食いすぎだってんで、俺ァ今日未だなーんにも腹に入れてねェんだ
…さァ、俺がお前ェに何ふっかけるか、分かるかい

柏手で出したカラクリは氷を自動で削る物らしい
ご丁寧に砂糖水付き
こいつで氷をどれだけ食えるか勝負と行こうか
ずるい?知るかってんだ

氷を雪みてえに削るなんて大ぇしたもんだ
かっこみ過ぎてこめかみにクるなァ難儀だが、甘くしただけでこうもうまいたァ贅沢なこった

所詮水よと高も括るが、その水が腹に溜まる事溜まる事
昨日の俺の勢いは見る間になくなるだろう
マ、白玉は余計だったな



●幕間
「しっかし、暑いなぁ、おい」
 六人目の闘士の菱川・彌三八(彌栄・f12195)が目の上に手をかざし、恨めしげに太陽を見上げた。
 髷と着物、そして、名前からも判るように彼はサムライエンパイアの出身だ。
「こっちの国のお天道様も遠慮ってのを知らねえらしい」
「ぼやくな、ぼやくな。あっちの暑さに比べれりゃあ、まだマシなほうじゃねえか」
 手で顔を仰ぎながら、対戦相手が彌三八を宥めた。
『あっち』というのがサムライエンパイアのことだと察し、彌三八は眉間に皺を寄せた。
「なに言ってやがる。てめえは今ここで生まれたばかりのオブリビオンなんだから、あっちにいたことなんざ、一度もねえだろうが」
「実際にいたことはねえが、ここンところに――」
 対戦相手である昨日の彌三八が自分の頭をつついてみせた。
「――ぜぇーんぶ、刻まれてんだ。あっちで生きてきたおめぇの……いやさ、俺の記憶ってのがな」
「いくらなんでも『ぜぇーんぶ』ってことはあるめえよ。俺ぁ、物覚えのいいほうじゃねえからな」
「違えねえや」
 二人の彌三八は同時にニヤリと笑った。

●昨日の彌三八
 南蛮風の石造りの円環の中に髷姿の野郎が突っ立ってるってのは、どうにもちぐはぐな光景だわな。
 それでも絵になってるのは、奴さんの男振りが悪くねえからだ。自惚れをやめれば他に惚れ手なし――そんな川柳があったが、こういうのも自惚れのうちに入るのかねぇ?
「なぁ、俺よう」
 と、今日の俺が言った。
「こんな暑い日に切った張ったなんか、やってらんねえや。別のやり方でいこうじゃねえか」
「べつに構いやしねえが、『別のやり方』ってなあ、なんだ?」
「そうさな。昨日……いや、おめぇにゃ、今日か。今日、なに食ったよ?」
「はぁ?」
 わけの判らねえことを訊いてきやがったな。まあ、いい。答えてやるか。
「天麩羅、西瓜、心太に、白玉入りの冷や水だ」
「晩に蕎麦も食ったろ?」
「ああ、食った」
 さすがに食い過ぎたな。
「さすがに食いすぎだってんで――」
 同じことを言ってやがる。
「――俺ぁ、今日まだなーんにも腹に入れてねぇんだ」
 なんだとぉ?

●今日の彌三八
「さあ、俺がおめぇになにをふっかけるか判るかい?」
 昨日の俺にそう問いかけて、柏手を一つ打ちゃあ、アルダワ魔法学園で言うところの『ガジェット』ってカラクリが出てきた。
 俺の生まれた世界じゃあ、お目にかからねえカラクリだが、使い道は判る。こいつぁ、氷を自動で削る代物だろう。ご丁寧に砂糖水つきと来たもんだ。
 昨日の俺も使い道が判ったらしく、仏頂面をしてやがる。
「おめぇ、まさか……」
「その『まさか』だよぉ。こいつで氷をどれだけ食えるか勝負といこうや」
「汚ねえぞ。腹ン中がからっぽのてめぇのほうに利がありすぎるじゃねえか」
「だったら、やめてもいいぜ。そんかし、おめぇにはこの先ずっと『氷勝負に怖じ気づいて逃げ出した』って噂がついて回ることになる。長屋一を軽く飛び越して、町内一の……いやさ、三国一の臆病もんだって言われるだろうな」
 俺の世界に異国はねえから、正しくは『一国一』なんだが、それだとパッとしねえや。
「この悪党が……」
 昨日の俺はまだ仏頂面のまま。しかし、覚悟は決めたらしい。諸肌を脱いで、自慢の紋々をさらけ出した。
「業腹だが、乗ってやらぁ。矢でも鉄砲でも氷でも持ってこい」
「そうこなくっちゃなぁ」
 例のカラクリに氷を入れると、奇ッ怪な音を立てて、雪みてえなものを硝子の器に次々と吐き出した。仕組みは判らねえが、大ぇしたもんだ。
 で、俺たちはそれを食い始めた。
 一杯、二杯、三杯……かっこみ過ぎて、こめかみにクるなぁ難儀だが、甘くしただけでこうも美味いたぁ、贅沢なこった。
「なかなか美味いな」
 と、昨日の俺も御満悦。
「随分と余裕があるじゃねえか」
 そう言ってやると、奴さんは四杯目を手に取り、鼻で笑った。
「所詮は水よぉ」
 さあて、そいつはどうかな?

 所詮は水かもしれねえが……その水が腹に溜まること溜まること。
 昨日の俺の勢いは見る間になくなって、十二杯目を半分ほどかたづけたところで伸びちまいやがった。我ながら、情けねえ。いや、よく頑張ったほうか?
 まあ、白玉は余計だったなぁ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
俺がもし明日の俺と戦うなら

過去に負ける俺なんて要らない
僅かでも成長してるなら当然未来が勝つ筈
その証を見せやがれ

そんな想いで全力で戦う

昨日の俺も同じ筈
受けて立つぜ

行動
焔摩天の撃合や炎渦の応酬
傷を炎で補いながら
薙ぎ払い焼き払い
相手の剣や骨を砕こうとする

我ながら倒れないしつこい敵は厄介だぜ
けどそろそろ決着をつける
ちょいと搦め手で行く

UC放ち理不尽
即ち「明日の自分が今の自分に負ける未来」を
灰に変える

だから俺の炎が
昨日の俺の炎を喰い破り
昨日の俺をも紅蓮に抱き塵に変えていく

己の全力で
相手の隙を突くってのは
俺らしい戦い方だから
親指上げながら逝くだろう
勿論負けて悔しいだろうけど

未来への決意を込めた曲で葬送



●幕間
 二人の少年が闘技場で対峙していた。
 七人目の闘士の木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)と、その対戦相手である昨日のウタだ。
 風が両者の前髪を揺らし、ほんの一瞬だけ、額の傷が覗いた。同じ形の傷。
「そうそうないよな。こういう形で自分の姿を拝める機会なんて……」
 肩に担いでいた大きな得物をウタは正眼に構えた。刀身に梵字が刻まれた鉄塊剣である。
「鏡を見るのとは違う感じだよな。左右が反対じゃないからよ」
 昨日のウタも同型の鉄塊剣を構えた。
 しかし、構えるだけでは終わらなかった。
 地を蹴って、斬りかかったのだ。

●昨日のウタ
 鉄塊剣『焔摩天』を全力で振り下ろすと、今日の俺は真っ二つに……なるわけねえよな。『焔摩天』で受け止めやがった。
 そのスピードはハンパなかったが(俺の攻撃のスピードだって負けちゃいなかったけどな)、刃と刃がかち合った時の衝撃もまた凄ぇもんだった。手首が折れるかと思ったぜ。
 今日の俺は俺を弾き返すようにして『焔摩天』を跳ね上げ、文字通りに返す刀で振り下ろしてきた。
 だが、今度は俺が『焔摩天』で斬撃を受け止めた(スピードは負けちゃいないって言っただろ?)。しかし、受け止められた時の衝撃に負けず劣らず、受け止めた時の衝撃も凄ぇのなんのって。手首どころか、腕の骨が一本残らずバラバラになるかと思ったぜ。
「やるじゃねえか!」
 体当たりで相手の体勢を崩し、『焔摩天』で一薙ぎ。
「おまえもな!」
 今日の俺は『焔摩天』を地面に素早く突き立てると、太すぎる杖兼細すぎる盾にして、体勢を直すと同時に攻撃を防いだ。
「そこは『俺もな』だろ!」
 と、叫ぶ俺に向かって、今日の俺が『焔摩天』を振り上げる。
 俺はそれを『焔摩天』で受け止め、受け流し、三回目の攻撃を放った。
「確かに!」
 と、今度は今日の俺が叫んだ。例によって、『焔摩天』で『焔摩天』を受け止めながら。
 たいした野郎だぜ。こいつなら、俺に勝てるかもしれねえな。いや、勝たなくちゃいけねえんだ。
 過去の自分に負けるような奴なら、それはもう俺じゃない。
 僅かでも成長してるなら、未来の自分が勝つはずだろ?
 その証を見せやがれ!

●今日のウタ
「うりゃあーっ!」
 何十回目かの斬撃を昨日の俺が放ってきた。
「うりゃあーっ!」
 俺はそれを『焔摩天』で防ぎ、何十回目かの反撃をした。
 ずっと、この調子だ。手傷を負わせたこともあったし、手傷を負わせられたこともあったが、俺もあいつもその度に地獄の炎(俺たちはブレイズキャリバーなんだ)で傷口を塞ぎ、『焔摩天』を振るい続けてきた。まったく、タフというか、しつこいというか……本当に厄介な敵だぜ。向こうもそう思ってるんだろうけどよ。
 だけど、そろそろ決着をつけさせてもらおう。搦め手を使ってな。
「灰になれぇーっ!」
『焔摩天』で空を切ると、そこから炎が迸った。ユーベルコード『ブレイズアッシュ』で生まれた炎だ。
 昨日の俺も『焔摩天』から炎を噴出させた。素早い反応。さすが、俺だな。だけど、『ブレイズアッシュ』の炎は昨日の俺のの炎をたやすく突き破り、奴を包み込んだ。
「な、なんだ! これは!?」
「理不尽な未来を灰に変える炎だ」
 炎に包まれて叫びをあげる昨日の俺に向かって、俺は言ってやった。
「その炎で焼き捨てる。『明日の自分が今の自分に負ける』という理不尽な未来を……」
「……」
 昨日の俺はもう叫んでいない。炎の中で立ち尽くしている。その口元に微笑が浮かんだ……ような気がしたが、揺らめく炎のせいでよく見えなかった。
 だが、奴がサムズアップする様は確かに見えた。

 やがて、炎が消えた。
 昨日の俺を一山の灰に変えて。
 地獄の炎でも溶けないはずの『焔摩天』を跡形もなく溶かし去って。
 俺は自分の『焔摩天』を墓標代わりに突き立て、愛用のギター『ワイルドウィンド』を構えた。
 奏でるのは奴への鎮魂歌。
 それは未来への決意を込めた歌でもある。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザフェル・エジェデルハ
樒(f10234)と共闘

昨日は…
エンパイア産の良い酒を貰って昼から飲んだんだよな
どうせなら良い器で、と思って樒の茶碗を引っ張り出して飲んでたら
えらい剣幕で怒られたっけか
洗って干して、詫びて仕舞になったが…
あんな怒らなくてもいいのになあ(イルディリムにぼやく)

ってことは、酒を飲んだ状態の俺が現れるってことか
酔うほど飲まなかったが、多少反応は鈍るはずだな

ユーベルコード(UC)を戦斧で叩き込み、敵が回避した先を
【第六感】で察知し【衝撃波】で追撃
俺だったら【オーラ防御】で衝撃波を回避するだろうから
オーラ防御を行った直後に再度UCを撃ち込んでダメージを与える

さて、酒が入った自分の動きはどんなもんかね


織部・樒
ザフェルさん(f10233)と行動します
アドリブOK

昨日の自分……
ザフェルさんが私の本体にお酒を注いでいたのを見て
衝撃を受け不貞寝していました
今朝お詫びにと綺麗に磨いて下さったので不問にしましたが
その傷心の隙を突くとしましょう
あと昨日のザフェルさんにはしっかりと反省して頂きたいです

護法を呼び、昨日の私たちに攻撃
二人とも色々な意味で隙があるでしょう
余裕があれば【マヒ攻撃】で自ら攻撃も
或いは此方から先を誘発すべく昨日の出来事を口にするなどしてみます
防御は【見切り】【武器受け】【オーラ防御】等や護法のフォローで対処
敵が倒れる際には今日の自分が機嫌を直した経緯を告げましょうか



●幕間
 八人目と九人目の闘士は対照的な二人組だった。
 長柄の戦斧を携え、小さなドラゴンを肩に乗せた偉丈夫――ザフェル・エジェデルハ(流離う竜・f10233)。
 狩衣を纏った、中性的な容貌の少年――織部・樒(九鼎大呂・f10234)。
 彼らと同じ姿の対戦相手たちも姿を現した。ソラスティベルとナイの時と違い、別々の迫りに乗って。
「おい、樒」
 敵の二人組の様子を伺いながら、ザフェルが隣の相棒に声をかけた。
「あいつら、妙に険悪な感じがするな。というか、昨日の俺はそうでもないけど、昨日のおまえのほうは機嫌が悪そうに見えないか?」
「見えますね。でも、機嫌を損ねたのはザフェルさんのせいですよ」
「えー? 俺、ちゃんと謝っただろうが」
「謝ったのは今朝じゃないですか。あっちにいるわたしは昨日のわたしですから、まだ謝ってもらっていません」
「あー、そういうことか」
 ザフェルは少しばかり決まり悪げな顔をして、樒のほうを見やった。
「念のために訊くけど、今の樒は俺のことを許してくれたんだよな?」
「はい」
 樒は小さく頷いた。
 無表情で。
 目も合わせずに。
「なら、いいんだけど……」
 ザフェルは強張り気味の苦笑を浮かべて樒から視線を外し、肩に乗っているドラゴン――イルディリムに囁いた。
「まだ怒っているように見えるのは気のせいかな?」
「ぎゃう?」
 首をかしげるイルディリムであった。

●昨日の樒
 イルディリムが飛び立ちました。今日のザフェルさんの肩から。そして、昨日のザフェルさんの肩からも。
 二人が同時に走り出したからです。
 両者は正面衝突せんばかりの勢いで一気に間合いを詰めました。
「……っしゃ!」
 と、気合いを発したのは今日のザフェルさん。気合いだけでなく、戦斧も繰り出しました。
「おっと!」
 昨日のザフェルさんは真横に飛び、それを回避。
 戦斧は空を切り、地面に叩きつけられました。大地が揺れ、土塊が跳ね上がり、砂埃が巻き起るほどの強力な一撃です。おそらく、グラウンドクラッシャーでしょう。
 それによって生じた衝撃波が昨日のザフェルさんに向かって飛びました。
 昨日のザフェルさんはオーラの障壁を展開して防御しましたが、その直後に今日のザフェルさんがまたグラウンドクラッシャーを放ち……いやはや、凄まじい攻防です。
 しかし、今日のザフェルさんに比べると、昨日のザフェルさんは動きに切れがないように見えますね。ほんの僅かの差ですけど。きっと、さっきまでお酒を呑んでいたからでしょう。
 お酒か……。
 ちょっとだけ、怒りが蒸し返してきました。
 でも、ここは感情を抑えて、昨日のザフェルさんの援護をしましょう。

●今日の樒
 昨日のわたしが動きを見せました。昨日のザフェルさんに加勢するつもりなのでしょう。
 しかし、そうはいきません。
「護法! 頼みます」
 師匠の形見である錫杖を鳴らすと、腕輪や頭飾りやをつけた美しい子供たち――護法童子が現れ出ました。その数は七十体ほどでしょうか。
 単独で、あるいは何人かと合体して一体となって、護法童子の群れは昨日のわたしに襲いかかりました。
 時に素早く身を躱し、時に錫杖で打ち据え、それらに対処する昨日のわたし。冷静かつ的確に動いているように見えますが……わたしの目はごまかせませんよ。
「あなたは決して勝てませんよ」
 と、わたしは昨日のわたしに揺さぶりをかけました。
「例の件でとても傷つき、怒りに心を惑わされていますからね」
「わたしは怒りなど抱いていません」
「嘘をついても無駄ですよ。あなたが怒っていることはよく判っています。他ならぬ、自分自身のことなのですから」
 そう、ザフェルさんがしでかした『例の件』によって、わたしは非常に傷つき、激しい怒りを覚えました。とはいえ、怒りを爆発させてはいません。その代わり、不貞寝するという行為でザフェルさんに意思を示しましたけどね。
 それが通じたのかどうかは判りませんが、今朝がた、ザフェルさんは謝ってくれました。しかし、さっきも言ったように、昨日のわたしはまだ謝罪を受けていません。不貞寝を決め込んだ時と同じ心境のはず。
 わたしは先程の言葉を繰り返しました。
「あなたが怒っていることはよく判っています」

●昨日のザフェル
 今日の俺と戦っている間も、樒と樒との不穏な会話はずっと聞こえていた。
 きっと、今日の樒の言ってることは間違いないだろう。昨日の樒はとても怒っているんだ。
「……そんなに怒るほどのことでもないよなぁ?」
 と、空を舞うイルディリムにぼやいたのは俺じゃなくて、今日の俺のほうだ。こいつ、ぜっんぜん反省してないな。いや、俺も反省してないけどよ。そもそも、樒が怒ってるなんて、今の今まで知らなかったし。
「うん。そんなに怒るほどのことでもない」
 イルディリムの代わりに答えて、俺は今日の俺に戦斧を打ち込んだ。
「そうだよな」
 その攻撃を躱しつつ、今日の俺が頷いた。
 そして、反撃してきた。
「サムライエンパイア産の良い酒を貰ったもんで――」
「――せっかくだから、良い器で呑みたいと思ったんだよな」
 後を引き取りながら、俺は攻撃を受け流し、すぐさま反撃。
「で、樒の茶碗を引っ張り出してきて、酒を注いで呑んでたら――」
「――樒に見つかっちまった、と」
 今度は今日の俺が後を引き取った。もちろん、俺の攻撃は受け流されてる。
 そこで俺たちは戦いを一時中断し、樒たちに改めて尋ねた。
 二人で同時に。
「そんなに怒るほどのことか?」
「そんなに怒るほどのことか?」
 すると、向こうも二人で同時に答えた。
「怒るに決まってるじゃないですか!」
「怒るに決まってるじゃないですか!」

●今日のザフェル
 樒は茶碗のヤドリガミだ。つまり、俺が酒を呑むのに使った『樒の茶碗』ってのは、あいつの本体ってこと。
「ザフェルさんには――」
 護法童子とやらを昨日の自分にけしかけながら、樒が言った。
「――しっかりと反省していただきたいです」
「だから、反省してるって。ちゃんと謝ったじゃないか」
「こっちのザフェルさんじゃなくて、あっちのザフェルさんに言ってるんですよ」
 昨日の俺を指さす樒。
 すると、昨日の俺はパスでも送るかのように俺を指さした。
「騙されるな、樒! そっちの俺だって、ちっとも反省してないぞ!」
「余計なことを言ってんじゃねえ! だいたい、てめぇのほうは反省以前に謝ってさえいないだろうがよ!」
 俺は昨日の俺への攻撃を再開した。

 戦斧と戦斧で何合か打ち合った末、昨日の俺はついに倒れ伏した。やっぱり、酒が入ってる分、奴の方が不利だったらしい。実に美味い酒だったんだがなぁ。
 間を置かず、昨日の樒も力尽きた。
「最後にこれだけは伝えておきましょう」
 倒れた樒を見下ろして、今日の樒が言った。
「御本人が仰っていたように、ザフェルさんはわたしに謝ってくれました。それにわたしの本体を綺麗に洗ってもくれました。もし、昨日のザフェルさんが生き延びていたら――」
 言葉の途中で昨日の樒は息絶え、煙のように消えてしまったが、今日の樒は最後まで話し続けた。
「――きっと、あなたに謝ってくれたことでしょう」
 いつの間にか、昨日の俺の骸も消えていた。
 はい、戦闘終了。万事解決。これにて一件落着……とはいかねえ。樒に訊いておきたいことがあるんだ。
「もう一回だけ確認するけど、樒は俺のことを許してくれたんだよな?」
「はい。もちろんです」
 樒は即答した。
 そして、俺を真っ直ぐに見据えて問いかけた。
「わたしにも確認させてください。ザフェルさんは本当に反省したんですよね?」
「……あ、ああ。もちろんだよ」
「ぎゃーう?」
 頭の上でイルディリムが鳴いた。『本当かよ?』とでも言うように。

 帰ったら、樒の茶碗をもういっかい丁寧に洗っておこう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニレ・スコラスチカ
敵は昨日のわたし自身……普通に戦えば千日手か相討ちは免れないでしょう。オリジンに至るまでの時間稼ぎとしてはお誂え向きです。

ですが敵はあくまでオブリビオン……異端なのですね?ならば、方法はあります。【審問】を使用。質問は「あなたは異端ですか?」わたしはわたしのユーベルコードを熟知している。真実が何か、理解するでしょう。

わたしは異端審問官。全ての異端に然るべき罰を与え、この世界に平穏をもたらすのが使命。そこに一つの例外も認められません。もし、自分自身が異端ならば……使命に従い、わたしは迷わず自害します。『昨日の自分』なら同じ事を考え、必ず実行するはずです。わたしは、そのように造られたのですから。



●幕間
 闘技場は静かだった。
 聞こえるのは迫りが作動する音だけ。
 新たな対戦者の全身が現れると同時にその音も消えた。
 対戦者は白髪の少女。修繕跡だらけの修道服を身に着け、赤黒い拷問具を手にしている。もっとも、前衛芸術のオブジェのごときその代物を拷問具として(それ以前になんらかの道具として)認識できるのは当人だけだろうが。
 闘技場にはもう一人の『当人』がいた。
 彼女の名はニレ・スコラスチカ(旧教会の異端審問官・f02691)。十人目の闘士にして、白髪の少女のオリジナル。
 自分と同じ容貌の敵を彼女は無言で見つめていた。
 迫りで登場した少女――昨日のニレも同じように今日のニレを見つめていた。
 だが、互いを映し出している瞳の数は合わせて二つだけ。両者ともに左目を眼帯で覆っているのだ。
「試練を与えてくれたことを感謝します」
 初めてニレが言葉を発した。
 目の前にいる敵ではなく、どこにもいない神に向かって。

●今日のニレ
 鏡を介さずに己と対峙するというのは得難い体験ですね。
 こうして眺めていると、自分の姿形が尋常なものでないということを改めて思い知らされます。老婆のごとき白髪、機械仕掛けの義足、修道服の破れ目から覗く黒い聖紋、臍帯で体と繋がった生体拷問具『祝福処刑鋸』……。
 しかし、この異形の身を誰が嘆きましょう? むしろ、これは祝福の産物。見目ばかりでなく、内に宿る力もまた尋常なものではないのですから。そして、その力を以て、異端を狩ることができるのですから。
 では、異端狩りといきましょう――と、声に出さずに宣言して、わたしは『祝福処刑鋸』を振るいました。
 しかし、それは昨日のわたしに届きませんでした。
 彼女もまた『祝福処刑鋸』を操り、攻撃を受け止めたのです。
 二条の異形の鋸歯が噛み合ったのは一瞬。わたしたちは同時に飛び退り、同時に半円を描くように走り、互いの位置が入れ替わったところで同時に『祝福処刑鋸』を放ちました。
 またもや、『祝福処刑鋸』同士が噛み合い、火花が散りました。それに細かい骨片と肉片も。『祝福処刑鋸』はわたしの骨肉から作られた生体拷問具なのです。
 間を置かずに放った三撃目は昨日のわたしの右肩に命中しました。もっとも、わたしの右肩にも昨日のわたしの三撃目が命中しましたが。
 やはり、自分自身を相手にするというのは厄介ですね。普通に戦えば、千日手か相打ちという結果にしかならないでしょう。
 しかし、やりようはあります。
 わたしは異端審問官であり、わたしと同じ姿をしたこの敵はオブリビオン――異端なのですから。

●昨日のニレ
「あなたは異端ですか?」
 今日のわたしがそう問いかけた瞬間、彼女の『祝福処刑鋸』が獣の尻尾のように蠢き、わたしの体を拘束しました。
 これは『審問(インクイゼション)』というユーベルコードですね。この状況では恐るべき技とは言えません。相手の問いに対して真実を答えれば、自動的に拘束が解かれるのですから。
 こんなユーベルコードを使った敵の意図を訝しみつつ、わたしは真実を……そう、『いいえ』という答えを口にしようとしました。
 しかし――
「はい」
 ――できませんでした。
 気付いてしまったのです。自分が異端だということに……。
 何者かの過去の姿(だけでなく、記憶や人格まで)をそっくりそのまま模倣して生まれた存在が異端でなくて、なんだというのでしょう?
『祝福処刑鋸』が真実の答えに反応して体から離れ、わたしはまた自由に動けるようになりました。しかし、戦闘を再開する気は起こりません。
 彼女のほうもわたしを攻撃するつもりはないらしく、ただ黙って見つめています。
「わたしは……異端審問官」
 自分自身にそう言い聞かせながら、わたしは『祝福処刑鋸』を構え直しました。
「すべての異端に然るべき罰を与え、この世界に平穏をもたらすのが使命。そこに一つの例外も認められません」
 そう、例外はないのです。
 わたしは『祝福処刑鋸』を頭上で旋回させました。
 刃が鞭のようにしなり、蛇のようにとぐろを巻き、滅ぼすべき異端者の首に絡みつきました。
 後は少し力を込めるだけ……。

●再び、今日のニレ
 昨日のわたしの首に絡みついていた『祝福処刑鋸』が一気に締まり、彼女の頭を体から切り離しました。
 首の断面から鮮血が噴き上がり、地面を染めていきます。
 そこに昨日の私の頭が落ち、白髪に赤い斑模様をつけながら、転がっていきました。
『祝福処刑鋸』を持っていた手はだらりと下がっていますが、昨日のわたしの体はまだ倒れていません。血を噴き上げながら、堂々と立ち続けています。
 その姿が誇らしげに見えるのは気のせいでしょうか?
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

コルチェ・ウーパニャン
き、昨日のコルチェ……お、思いだせないーっ!?
毎日ウキウキ楽しく漫然と過ごしていたせいでーーっ!!?

……はっ!
(どこかへ電話をかける)

……思い出しました昨日のコルチェ!!
昨日のコルチェはサバイバルに出ていて、
いたいのとんでけアクセサリをつけて、激痛耐性を持っていた!

コルチェ、キケンシールを貼ったピカリブラスターで『零距離射撃』!
ついでに『傷口を抉る』!
コルチェ昨日の戦いで知ったよ……
激痛耐性はただの耐性で、ちょっとガマンができるだけ……
防御力が上がったりとかは特にしてないってことを!
ガマンできるってコルチェが思い込んでる間に、ダメージを貯めてたおーす!
コルチェかしこい!完全勝利!えいえいやー!



●幕間
「おー!?」
「おー!?」
 二人のミレナリィドリールの少女が向かい合い、素っ頓狂な声をあげている。魔法光ファイバーなるものでできた頭髪を点滅させながら。
「そっくりだー!」
「そっくりだー!」
 腕を真っ直ぐに下ろして掌を水平にするというペンギンじみたポーズで二人は上半身を四十五度ほど傾けた。一人は右側に。もう一人は左側に。
「瓜二つだー!」
「瓜二つだー!」
 同じタイミングで逆側に傾ける。魔法光ファイバーが点滅するテンポが速まった。
「他人の空似ならぬ――」
「――本人の激似!」
 またもや同じタイミングで体を真っ直ぐにすると、二人は何歩か後退して、鏡像のごとき相手と距離をあけた。
「むむむー。まさか、こんなに似てるとはー」
「これは思っていた以上に強敵かもしれない」
「でも、今日のコルチェは負けないよ!」
「うん! 昨日のコルチェに勝ってみせる!」
「え? ちょっと待って。こっちのコルチェが今日のコルチェなんだけど?」
「そうだっけ? そっちのコルチェは昨日のコルチェでしょ」
「うーん?」
「うーん?」
 眉を八の字にして首を捻るコルチェ・ウーパニャン(マネキンドールのピカリガンナー・f00698)とコルチェ・ウーパニャン(マネキンオブリビオンのピカリガンナー・Z99999)であった。

●昨日のコルチェ
 ま、いっか。とりあえず、コルチェが昨日のコルチェってことにしておこうっと。あくまでも『とりあえず』だからね。この戦いに勝ったら、コルチェが今日のコルチェになるよ。だけど、明日になっても、今日のコルチェのままなのかなー?
 ……なんてことを考えてたら、今日のコルチェが頭を抱えて唸り始めちゃった。
「んんんー?」
 髪の毛がぴかぴか点滅してる。あの光はお困り色だね。
「どうしたの、今日のコルチェ?」
「昨日のコルチェの弱点を掴むため、昨日のことを思い出そうとしてるんだけど……思い出せなぁーい!」
 あはははー。とんだダメコルチェだ。その点、コルチェは昨日(今日ののコルチェにとっては一昨日だね)のことをちゃーんと覚えて……んんん? ちっとも覚えてなぁーい! こっちのコルチェもダメコルチェ?
「はっ!」
 と、今日のコルチェが頭を抱えるのをやめた。なにか思いついたみたい。ぴかぴか点滅がひらめき色に変わってる。
「もしもーし!」
 え? いきなり、どこかに電話をかけてる!? 超展開だー。コルチェ、ついてけない。
 で、しばらくすると、今日のコルチェは電話を切って――
「思い出しました、昨日のコルチェ!」
 ――最高のドヤ顔を見せつけてきた。ぴかぴか点滅もドヤ顔色。
「思い出したんじゃなくて、電話の相手に教えてもらったんでしょ! ずるーい!」

●今日のコルチェ
 昨日のコルチェが『ずるーい』とか言ってるけど、知りませーん。
 電話で教えてもらった昨日のコルチェの弱点――それは『いたいのとんでけ』的な効果のあるアイテムを持っていたこと。いわゆる、激痛耐性だよ。
 痛みに耐えられるのは弱点どころか特典だと思うでしょ? だけど、そうでもないんだなー。
「とぉー!」
 コルチェはカッコよく叫んで、昨日のコルチェにダッシュ! スパーガン『ピカリブラスター』を素早く抜いて相手に押しつけ、必殺必中のゼロ距離射撃!
『ピカリブラスター』がピカリと閃けば……はい、昨日のコルチェのお腹に穴があきましたー。
 さっきまで『ずるいー』と騒いでた昨日のピカリは――
「あはははー! そんなの痛くないよーだ!」
 ――勝ち誇って笑い始めた。ぴかぴか点滅もドヤ顔色。案の定、激痛耐性が効いてるみたい。
 でも、それはこっちも承知の上。
「コルチェ、昨日の戦いで知ったよ」
 笑い続けてる昨日のコルチェにピカリブラスターを再発射! 狙いは、一発目であいた穴だよ。
「激痛耐性っていうのはただの耐性。ちょっとガマンができるだけで――」
 もう一発、発射!
「――べつに防御力があがるわけじゃないってことを!」
「えっ!?」
 と、驚く昨日のコルチェ。
 だけど、もう遅ーい! 四発! 五発! 六発!
 そして、ラッキーセブンな七発目で――
「んきゃん!?」
 ――昨日のコルチェはついに倒れちゃった。痛くないもんだから、どんだけダメージを受けてるか判らなかったんだね。激痛耐性に頼りすぎたのが運のつき。
 運をつかせたコルチェ、かしこい! コルチェ、えらい! 完全勝利! えいえいやー!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヒトツヒ・シカリ
ソロ参加

お!自分を越えていけ!定番のアレじゃね!アレじゃよ!成長回じゃ!
という事でウチは昨日よりも!もっと、その、ぁー、うん、アレじゃよ!

凡そ戦闘に向いているとは思えない元気子猫
真の姿で何かにならない限りほぼ何もできなかったけれど
大事な人の今までを知って、戦えないままではいけないと少しずつ一歩ずつ、そちらを向き始めた

昨日は夜ふかしでずっと眠かった!寝起き猫(豹だけど)は不安定だから自分が勝つ!

2本の扇を閉じたまま持ち、今風にも、日舞風にも激しく軽やかに優美に風雅に

他の誰かじゃとしばくん抵抗あるけどウチなら問題なし!このふにゃけ猫めー!
あの人の隣に居るには!もっともっと!強く!速く!かっこよく!



●幕間
「うぉぉぉーっ! これは燃える展開じゃのう!」
 高まる期待と興奮を叫び声に変えて発散しているのは、獣の耳と黒い翼と斑模様の尻尾を有したキマイラの男児。
 十一人目の闘士のヒトツヒ・シカリ(禊も祓もただ歌い踊るままに・f08521)だ。
「自分を越えていけぇー! ……っちゅうヤツじゃろ? そう、定番のアレじゃ! アレじゃよ! 所謂一つの成長回じゃ!」
「そう! 成長回じゃあーっ!」
 迫りが作動し、地の底から声が聞こえてきた。
 もっとも、その声の残響が聞こえてきたのは頭上からだ。迫りが昇りきる前に声の主――昨日のヒトツヒが自前の翼で飛び立ったのである。
「ウチはこれで一回りも二回りも……いや、最低でも百回りは成長しちゃるけんね」
 怪気炎を上げながら、昨日のヒトツヒは今日のヒトツヒの前に着地した。
「なに言うてんじゃ、このとーすけが!」
 と、昨日のヒツトヒに詰め寄る今日のヒトツヒ。
「成長すんのはウチじゃ! だって、ウチは昨日よりももっと、その……あー……うん、アレじゃから!」
「おどれこそ、こーへぇなこと言うなや!」
 と、昨日のヒトツヒもずいと前に出た。
「ウチのほうがもっと、その……あー……うん、アレじゃぞ!」
 どちらがより『アレ』なのかは判らないが、語彙は同レベルのようだ。

●今日のヒトツヒ
 実を言うと、ウチはオブリビオンと戦こうた経験はそんなに多くない。
 しかも、その経験のほとんどは記憶に残っとらんのじゃ。途中で意識がプツンと途切れてもうて、気がついた時には戦いが終わっとったりしてのう(真の姿が解放されたんじゃろか?)。
 じゃけど、このままじゃいけん。絶対、このままじゃいけん。そう思うたんじゃ。
 あの人の過去を知ったけえの。
「ある意味、これは――」
 ウチは二本の扇を取り出して、閉じた形のままで左右の手に一本ずつ構えた。
「――ウチの猟兵としてのデビュー戦みたいなもんじゃ」
「そのデビュー戦を引退戦にしちゃる」
 昨日のウチが同じ扇(『意富加牟豆美の扇』っちゅうんじゃよ)を構えた。
「そうやって、やくだらんこと言うとられるのも今のうちじゃ! このふにゃけ猫め!」
 心の中でゴングを鳴らして、ウチは『ふにゃけ猫』こと昨日のウチに殴りかかった。
 じゃけど、他人の目には、殴りかかったんやのうて、踊り始めたように見えたかもしれんのう。クルっと回って、ポンっと飛んで、時には風を切って、時には風に乗って、昨日のウチに近付いては扇で打ち、すぐに退いては、また近付いて……これぞ、ユーベルコード『絢爛武闘』じゃ!

●昨日のヒトツヒ
「他の誰かじゃと、しばくん抵抗あるけど――」
 今日のウチが踊るような動きで何度も何度もしばいてきよる。痛い! 痛い! ぶち痛い!
「――ウチなら、問題なーし!」
 痛いんじゃけど、今日のウチの踊りはなかなか見事なもんじゃ。それに叩かれる度に、こっちも叩き返したくなってきよる。いや、叩いた相手を叩き返したくなるのはあたりまえなんじゃけど、ウチの心に沸き上がってくるのは『やり返したい!』じゃのうて『満足するまで打ち合いたい!』みたいな感情なんじゃ。もしかして、ユーベルコードの作用かしらん?
 まあ、そんな作用があろうがなかろうが、ウチはやられっぱなしのままで終わったりはせんよ。
 反撃開始! 相手の動きに合わせるように舞いながら、二本の扇で打ちまくーる。
 もちろん、今日のウチも相変わらず打ちまくってきよる。これが本当のダンスバトルじゃ! 華麗にして壮絶な打ち合いじゃー! 打って、打たれて、打って、打たれて、打って、打たれて、打たれて、打たれて、打たれて、打たれて……あれ? ウチ、いつの間にか圧されてる?
「あっはっはっはっ!」
 攻撃のテンポをあげながら、今日のウチが笑った。
「どうやら、睡眠時間が勝敗を分けたようじゃのう!」
 そ、そうか! なんか、体が思うように動かんような気がしとったけど、それは寝不足のせいかー! 昨日、ついつい夜更かししてもうたからのう。
「とどめじゃ、寝起き猫!」
 今日のウチがラッシュで攻めてきおった。超スピードで繰り出される『意富加牟豆美の扇』の薄桃色の残像の綺麗なこと……なんて感心する間もなく、ウチはブッ倒れた。這い蹲るような形で。
「よっしゃ! デビュー戦はウチの勝利!」
 今日のウチが叫んどる。這い蹲っとるウチには地面しか見えんけど、どんな顔をして叫んどるのかは想像がつくのう。あと、なにやらカッコよさげなポーズを決めてることも想像がつく。扇を勢いよく開く音が聞こえたけえ。
「じゃけど、まだ足りん! まだまだ足りん! あの人の隣におるためには……もっと、もっと、強く、速く、カッコよくならんと!」
 ああ、そうか。今日のウチは『あの人』のために戦こうとったんか。
 だったら、ウチも……悔いは……な……。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

レンディア・バルフォニー
昨日は休日。出掛けずにダラダラ過ごしていたんだよねぇ
Tシャツに七分丈パンツのゆるい格好だし、うっすら無精髭まで生えちゃってるよ……
ダラダラ過ごしていた俺なら、戦いでもあまり動きたくない筈
遠距離攻撃で楽したいんじゃないかなぁ
という訳で、攻撃を避けつつ間合いを詰めて接近戦に。遠距離攻撃を使いづらくしちゃおう
オニキスを召喚!
オニキスとは今日友達になってね。呼びかけに応えてくれるようになったのさ
つまり、昨日の俺より少しは成長してる筈
それに、こんなネコ科のサラツヤ毛並み動物に乗っていて、昨日の俺は羨ましがることだろう。乗らせても触らせてもあげないけど
俊敏な動きで翻弄し(見切り、ダッシュ)、近接攻撃!



●幕間
「うーん。さすがに場違いかな……」
 と、自分の体を見下ろして呟いたのはセイレーンのレンディア・バルフォニー(朱龍・f27097)。
 確かに彼の出で立ちは古代ローマ風の闘技場に相応しいものではなかった。Tシャツと七分丈のパンツ。おまけに裸足。口元にはうっすらと無精髭が生えている。闘技場という舞台だけでなく、セイレーンという種族に相応しいものでもないかもしれない。
「だらしない格好だなぁ」
 と、Tシャツ姿のレンディアを見て溜息をついた者がいる。
 十三人目の闘士――オリジナルのレンディアだ。
 身に着けているのはセイレンーン用に仕立てられたカジュアルスーツとサングラス。昨日のレンディアほどラフではないが、場違いであることに変わりはない。
「そういえば、昨日はどこにも出かける予定がなかったから、家でダラダラと過ごしていたんだっけ」
「うん。家の中だから、足もこんな感じなんだよね」
 昨日のレンディアは片足を上げ、裸足であることをアピールした。
「靴を持ってたら、貸してくれない? ビーチサンダルとかでもいいからさ」
「俺が昨日の自分のために予備の靴をわざわざ用意してくるような奴だと思う?」
「ぜっんぜん思わないよ。念の為に訊いてみただけ」
 昨日のレンディアは肩をすくめた。
 今日のレンディアも同じ仕草をしてみせた。

●昨日のレンディア
 そりゃあ、俺は少しばかりだらしないし、いいかげんなところもあるけどさ。最低限のTPOってのはわきまえてるつもりだよ。こんなところで戦うことを事前に知ってたら、もっとちゃんとした格好をしてたって。たぶんね。
 まあ、この格好でも戦えないわけじゃない。ささやかながらも武装はしてるからさ。猟兵のたしなみってやつ。
 その『ささやか』な武器の一つであるところの片刃のナイフを俺は構えた。名前は『朧龍』だ。
 それを見て、今日の俺も『朧龍』を……あれ? 構えてない。ルーンソードの『Kili Nahe』もなし。徒手空拳でやり合うつもりかな?
 ふむ。では、フェアプレイ精神に則って、俺も武器を使わずに戦うとしよう。
 ……と、思ったけど、やーめたっと。
「いくよ!」
 その場に立ったまま、俺は『朧龍』を一振り。刃が届く距離じゃないが、問題なし。衝撃波が放たれたからね。
 だけど、敵も然る者。素早く動いて、衝撃波を躱した。
「そう来ると思った」
 と、ニヤリと笑う今日の俺。
 自分自身にドヤ顔をされるってのは、あまり気分のいいもんじゃないな。

●今日のレンディア
『そう来ると思った』ってのはハッタリでもなんでもない。敵が遠距離攻撃を仕掛けてくることは予想がついていた。
 なぜかというと――
 昨日の俺はダラダラ過ごしていた → ダラダラモードなら、あまり動きたくないはず → だから、遠距離攻撃で楽して戦おうとする
 ――こういうわけだ。当然の帰結だね。
 昨日の俺は二発目の衝撃波を放ったけど、俺はそれも回避して、奴に突進した。
 新しい友達を呼びながら。
「おいで、オニキス!」
「え!?」
 と、昨日の俺が目を剥いた。
 驚くのも無理はない。体長が三メートル半ほどもある大きな黒豹がどこからともなく現れたんだから。
 黒豹の名はオニキス。友達になったのは今日だから、昨日の俺にとっては未知の存在だ。
 俺はオニキスの背に飛び乗り、昨日の俺に襲いかかった。人馬一体ならぬ人獣一体。カッコいいだろ?
「そうか。サクラの姿が見えなかったのは――」
 昨日の俺は後方にジャンプして、距離を開けた。サクラっていうのは俺の相棒のアカハネジネズミのことだよ。
「――その豹を恐れて身を隠していたからだな!」
『いや、家で留守番してるだけだよ』と答えようとした矢先、オニキスが跳ねるようにして昨日の俺に再び攻撃をしかけた。激しい動きなので、車酔いならぬ獣酔いしそう。
 昨日の俺は横っ飛びで身を躱した。かなりピンチな状況だけど、その顔に浮かんでいる感情は恐怖や焦りじゃない。
 じゃあ、どんな感情かというと――
「それにしても……良いな、その黒豹! 毛並みがサラサラのツヤツヤじゃないか! しかも、背中に乗せてくれるなんて!」
 ――羨望だ。
 まあ、気持ちは判る。よぉーく判る。俺が昨日の俺の立場だったら、絶対に『乗せてくれ』って頼んじゃうね。
「ちょっと乗せてもらってもいい?」
 そら来た。
「ダーメ。乗らせても触らせてもあげないよ。その代わり――」
 と、俺が話している間もオニキスは確実に昨日の俺を追いつめていく。
「――オニキスのほうがおまえに触ってくれるさ。ただし、かなり荒っぽい触り方だけど」
 言い終えた瞬間、オニキスが昨日の俺に触れた。
 思っていた以上に荒っぽいやり方で。
 喉笛に牙を突き立てるという形で。

●終幕
 ドングリを食べ過ぎた者、切り札のユーベルコードを破られた者、天からの意志に叩き潰された者、大切な人を守るための盾となった者、大切な人を失ったために錯乱した者、何杯ものかき氷をかきこんだ者、理不尽な未来と認識されて炎に焼かれた者、酒のせいで遅れを取った者、相棒の無神経な行動に怒りを抱いていた者、狂信的な信念に従って自身の首を刎ねた者、痛みに鈍いが故に敗北した者、対戦相手の決意を知って悔いなく逝った者、美しい獣に噛み殺された者――昨日の敗者たちの魂を背負って、今日の勝者たちは闘技場を後にした。
 新たな戦いに臨むために。
 明日の勝者になるために。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月16日


挿絵イラスト