迷宮災厄戦の渦中にいる猟兵たちを労う彼の紺瞳は、油断していない。
掌に光が現れる。
「次に戦ってほしいンは、おめえら自身だ」
闘技場の国への道は拓かれた――しかし来訪者は歓迎されない。すべからく侵入者とみなされ、オブリビオンが襲いかかってくるだろう。
それが、猟兵自身だ。
しかし未来の自分でもなければ、今現在の――鏡に写した己でもない。
『昨日の自分』だ。
それは、すでに経験してきた遺物。対策は千差万別であろうが、やってできないことはない。
荊を披き、棘を斬ることになるだろう。
己の弱点を見つめる良い機会になるやもしれない。
「あー、昨日ナニ食った? 今日は、ナニ食うつもり?――俺はね、昨日牛丼だったのォ。で、今日はそれよりイイモノ食おうと思ってる――ってことだよォ」
昨日の自分は変えることはできない。すでに決まっているのだ。だから、今の自分がそれを上回っていくほかない。
でなければ勝てない。
どうやって上回るかは各々のやり方があるだろう。
戦場になるのは闘技場――コロッセオだ。
命を賭して闘うための場所で、オブリビオンは、まさに命を燃やして交戦的に向かってくる。それらには、逃げの一手は存在しない。
「自分が一番得意な戦法で、おめえらを排除しにくっからァ、しっかり迎え討ってくれ」
自分がナニが得意で、ナニが苦手か――得意を活かすにはどうするか。
気をそらすのか、真っ向から迎えるか。
彼は猟兵たちを鼓舞するよう、一笑した。
「頼んだぜ」
鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)の掌にある蒼のグリモアの輝きが導く先は、いばらのコロッセオ。
●荊棘のコロッセオ
場内を見下ろすように客席は何層にもそこにある。
ぐるりと囲まれ、余すことなく見られる。
石造りの円形闘場は、侵入者を拒み、棘を光らせる。
丸い石柱に巻きつく荊棘は、彼らを見下ろす。鮮血のような薔薇を興味津々に咲かせて、熱気を見下ろす。
ここは闘技場――過ぎし己をウツシて闘う、今を輝かせる場所。
藤野キワミ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「迷宮災厄戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================
プレイングボーナス……「昨日の自分」の攻略法を見出し、実行する。
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さあ戦いましょう。藤野キワミです。
プレイングは【OP公開直後】より受け付けを開始いたします。
技能の使い方は明確にプレイングに記載してください。
プレイングの採用の仔細はマスターページに記載しています。
プレイング受付終了は、当マスターページおよびツイッター(@kFujino_tw6)にてお知らせいたします。
では、昨日の己を叩き潰して下さい。
みなさまのプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『昨日の自分との戦い』
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POW : 互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ
SPD : 今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う
WIZ : 昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
香神乃・饗
香神写しで武器を増やして
苦無でフェイントをかけ
地形を利用して近づき
死角から剛糸で縛り暗殺を狙う
それが俺のやり方っす
今日の俺は誉人に頼まれてるんっす
だから、負けないっす
昨日を越えて
再び誉人の所に帰るっす!
牛丼より良いものは
一緒に食べるごはんっす!
おにぎり一つでも、極上のご飯に早変わりっす!
人の心はそういうモノっす!
百年使われた器物になんで魂が宿るかわかるっすか
使った人の心が宿るからっす!
昨日の俺より、今日の俺のほうが
想いがたまっているっす!
だから絶対、負けないっす!
俺を倒すのは、俺っす!
溜めた力で一息に
相打ち覚悟で斬り結ぶっす
なんて
やっぱりいつもの俺はフェイントっす
だから
今の俺の敵を盾にして討つ
●
漆黒の短髪が飾る小麦色に焼けた面には、強い意志が発露した双眸が光る。八重歯が覗く隙もなく引き結ばれた唇は、ぴくりとも動かない。
鏡に映ったように同じ様相なのに、そこにいるのは、別人でしかなくて。
相対した同じ顔に浮かんでいない笑みを、香神乃・饗(東風・f00169)は勝気に刻んでやった。
「今日の俺は誉人に頼まれてるんっす」
耳に蘇るのは、直前に聞かされた鼓舞の声だ。
「昨日の俺は――確か、誉人になにも頼まれてなかったっす。それだけで、今の俺の方が何倍も強いっす」
あの眼に送られてきた。ここまで背を押されてきた。それだけのことで一体どれほどの力が発揮されるか。饗は腹の奥底から湧いてくる力を余すことなく、一片も無駄にすることなく溜め込んでいく。
「だから、負けないっす」
手に握るのは、いつもの苦無。
「『昨日』を越えて、もう一度、ちゃんと誉人のところに帰るっす!」
気合いは入った。心は決まった。大丈夫だ。その姿に惑わされることはない。
昨日、食ったものは変えられない。すでに腹に収めてしまったから。すでに饗の血肉となっているから。
「牛丼よりも良いものは、一緒に食べるごはんっす!」
「一緒に食べるごはんっすか!」
「おにぎり一つでも、極上のご飯に早変わりっす!」
「わかるっす! お前はそれを食ったんっすか!」
「そうっす! 羨ましいっすか!」
そこではっとした。
この会話こそ相手のフェイントになりかねない――思った矢先、やはり、無数の苦無が驟雨の如く襲い掛かって来る。
増幅させた剛糸を傘のように織り広げて、素早く跳び退って距離をあけた。
自分の立ち回り方はよく分かっている。
増やした苦無を放ってきた。その受け手に剛糸を張った――ならば、その次は饗の死角をついてくるだろう。
(「今の俺に見えていないところ――」)
背後の一角に向けて、剛糸をさらに織り直す。剛糸同士が絡まるように地に墜ちた。
瞠目した香神乃を睥睨――饗は言葉を紡ぐ。
「昨日の俺も、今日の俺も、そう変わらないっす――でも、お前は、俺なら知ってるっすよね」
百年使われた器物になぜ魂が宿るのか。
なぜ饗が生まれ、こうして、心を宿して縦横無尽に動くことができるか。
語る言葉の奥に忍ばせた無数の苦無は、音もなく香神乃へと忍び寄る。
幾星霜をかけて向けられた想いが、使ってくれた人の心が沁み込んで染め上げて、命となるほどに溜まって溜まって形を成すのだ。
大事に大事にされてきた。
饗の中には連綿と注がれてきた人の想いがある――いかに不思議な国のシステムとはいえ、簡単に写されて、饗と相対して、我が物顔で振る舞う香神乃は、いけ好かない。
絡まる剛糸の向こうにいる紅半纏へと、無理やり体を捻り、強く地を蹴った。
「昨日の俺より、今日の俺のほうが想いがたまっているっす!」
饗に関わる全ての人の言葉と、向けられた心が一日分多く、饗の力となっている。
手にあるのは、増やす元になる苦無が二本。丹精込めて磨き上げた梅花の苦無――相打ちを覚悟して懐へと駆け込み、渾身の力を込めて一閃、しかし、香神乃もまた苦無で受ける。激しい金属音が弾けた瞬間に跳び退って、操る苦無を踏んで離れていった。
「人の心はそういうモノっす! 優しくされた分だけ、俺は、昨日より強くなってるっす」
「――くっ」
勇猛果敢に対峙した敵と斬り結ぶことだってある――それは香神乃も同じだろう。その特攻がフェイントになることも分かっていたかもしれない。
「だから絶対、負けないっす! 俺を倒すのは、俺っす!」
分かっていても鋭い斬撃をまともに喰らうわけにはいかないだろう。今の香神乃のように躱し距離をとっただろう。
饗の頬に再び勝気な笑みが宿った。
たった一日と侮るな――その一日は、饗にとって、かけがえのない極上の一日だ。
全身全霊の斬撃を隠れ蓑にした無数の苦無が、一瞬のうちに香神乃の背に突き刺さった。
大成功
🔵🔵🔵
地籠・陵也
【アドリブ・連携歓迎】
……昨日の俺自身が相手、か。
ああ、手に取るようにわかるよ、俺自身がどう考えて、どう戦うのか……それは全部「誰も失いたくない」という想いに全部集約されているから。
だってそれが今の俺を作る唯一のモノなんだ。
だから、俺は俺の傷を顧みない。
どれだけ傷つこうが仲間を助けることを最優先にする。
勝算があるとすればそこだ。
敢えて防御はせず、最初は無防備に攻撃を受ける。そして【指定UC】を使用して回復と強化、【浄化】【破魔】【属性攻撃(光)】【高速詠唱】【全力魔法】で畳み掛ける!
昨日の――昔の俺であったなら、護ることは考えても傷を治したりという発想には至らないハズだ……!
●
真っ赤な薔薇を横目で流し見て、地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)は、ぴたりと眼前の男に焦点を定めた。
貌だけを見れば、弟に似ている――否、違う。いくら双子でも、鏡に映したような造作ではない。これは、陵也の風貌だ。
黒く艶やかな短髪。エメラルドを嵌め込んだような双眼は激しく陵也を睨み据え、頬を覆う龍鱗は白銀に輝く。
「……昨日の俺自身が相手、か」
思わず口をついて出てしまった声に、地籠は眉間に皺を寄せた。愛用の武器すら同じものだ。
龍頭を模したバールの銀の輝きは、ひと際強い。
陵也の体から噴き上がる魔力は、一切の迷いなく収斂し、浄化の力帯びていく。
地籠もそれは、同じだった――だが、それは、陵也の想定からはみ出さない。
(「ああ、手に取るようにわかるよ……」)
びょうっと吹き抜けた凍てつく風も、その清廉さに破魔の力が宿されていることも――一体「誰」を守ろうとしているのかは皆目見当もつかないが、それでも。
「お前が俺自身である以上――俺がどう考えて、どう戦うのか……それは、全部わかる」
もう誰も失いたくない。悲しませたくはない。陵也が陵也たらしめる根幹は、揺るがないのだ。
鏡に映したような姿をして、陵也と同じ力を操る存在だとしても、喪失を拒否し恐怖し忌避する――その想いは変わらない。
「だって、それが今の俺を作る唯一のモノなんだ」
地籠は小さくかぶりを振った。その否定の真意は図り損ねたが、敵を受け入れてやるつもりはない。
脚の間を凍気を孕んだ風が抜けていく。体温を奪って、命を凍らせ、その先にある清浄を押し付けてくる。
凍えて動かなくなっていく感覚に、ぞっとした。その風は徐々に温度を下げて空気を凍らせ猛烈な吹雪へと変じていく。凍結の感覚は、全身へと広がっていく。
「そのままだと凍え死ぬことになるぜ――俺は、一向にかまわないけど、ここに来た意味がなくなるじゃないのか」
分かりやすい挑発だ。好戦的に敵意を剥きだしにしてくる地籠は、いっそう魔力を注ぎ、周囲の温度を奪っていく。
だか、陵也はそれを顧みることをしなかった。どれだけ傷つこうが、どれほどの痛みに苛まれようとも、顧みない。
(「勝算があるとすれば、ここだ」)
翠色の双つの眼に激しい力を燻らせる。
護る。助ける。守る、守る、強く、堅牢に、頑健に、盾を、壁を!
「エインセル!」
愛猫の名を呼ぶ。
真白い子猫は、陵也の頬をぺろりと舐めて翡翠の眼をきらりと輝かせた。その光は陵也にかけられた凍結の傷を癒し、新たな力を与えてくれる。
小さな翼を羽ばたかせて、ふわりと飛翔し、小さく高い鳴き声が耳朶を滑る。
無防備に凍結魔法を受けてやった意味を、地籠はようよう理解したらしく、瞠目した。
底上げされた魔力を紡いで練り込み織り上げ、術式を展開する。
聖性は目映く発揮されて、魔を打ち滅ぼす光は槍となって形成された。浄化の風を纏い、陵也の全身全霊をかけたそれが完成する。
「昨日の――昔の俺であったなら」
吐き出す言葉の端々に魔力が発露している。余すことなく、それは槍へと吸収され収束し、収斂していく。
より鋭く、より長く。
「護ることは考えても、傷を治したりという発想には至らないハズだ……!」
みなを護れるのであれば、この身がいくら傷つこうとも構いはしなかった。
光が奔る。
鋭く研ぎ澄まされた尖槍は、一直線に氷結を斬り裂いて、地籠を串刺しにする。
「――――――っ!!」
悲鳴じみた声を聞いたが、それがなにかの意味を成す前に、言葉ではなく音へと変わった。
魔を討ち祓う光の渦が、冷気を霧散させて地籠を消し去ったのだ。
「……――はあ……」
その終息に、陵也は大きく息をついて、エインセルの頭を撫でた。
ほんの少しだけ頬の力は抜けて、ふわりと笑みを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
どうせ荊棘を斬り開くなら、綺麗な華も添えようじゃないの
残念ながら昨日の今日で成長したと胸張れるほど勤勉じゃなくって
ねぇ、分かるデショ昨日のオレ
真っ向勝負、ほんの一日だけ今のが経験で勝ってるもの
「柘榴」構え*オーラ防御展開、負傷は少しでも弾いてきましょ
*カウンター狙い斬りつける……まではどうしたって同じでしょうから
弾きあった隙に【雪骸】で「自分の霊」を喚ぶわ
ほんの少しの経験……今日こうして戦うコトを知ってるってコト
昨日までなら決して選ばなかった『他のナニカの手を借りる』事で*だまし討ち
自分相手でも数が倍なら、どうかしらネ?
自分であろうと構わず*傷口抉り*生命力吸収
昨日より、今日の華のが綺麗なのヨ
●
相対するのは、飄然と泰然と、どこか冷酷に笑む男だった。
朝焼けにも似た薄紫の髪は、絹糸のように煌めく。鋭く尖っている双眸は温度を忘れたような氷そのものだ。
「残念ながら、昨日より成長したかナンテ、分からないケド」
コノハ・ライゼ(空々・f03130)は、対峙する男を軽薄に見つめながら、鼻を鳴らした。
昨日の今日で、ここが変わった、ココが優れている――なんて、胸を張っていえるほど勤勉ではないことは、コノハが一番分かっている。
「ねぇ、分かるデショ、昨日のオレ」
「そうね、分かるワ――だって、オレだもの」
(「それはそれで、気に入らねぇわ」)
胸中でごちて、《柘榴》をくるりと回してみせた。目はひとつも笑っていないのに、白い頬には笑みが張り付いているライゼを睨み据え、オーラの防壁を張り巡らせる。
同じようにナイフをくるくると放り投げ、器用にキャッチしたライゼは、「ふふ、アタシ、フライパンも好きなのヨ」なんて嘯き、それでも驀地に距離を詰めてくる。
多少の負傷は覚悟がある――しかし、それのすべてを被ってやるつもりはさらさらない。
ふっと息を詰めて、折り重ねた気迫は強度を増して、ライゼの一刀を難なく弾き防ぐ。が、それだけで済まないことを直感、ぐっと沈み込んだ体躯は気勢を削ぐことなく一層鋭さを増して、槍のように刺突――コノハの腹を穿たんと放たれた。
(「そうするデショウネ、ほんっと……どこまで同じなのヨ」)
よく見えている。
よく知っている。
こうするだろうと思ったように、ライゼは足を運び、刃を繰り出してくる。
だが――このまま丁々発止を続けてやるつもりだって、無論ない。
軽く火花が散る衝突の瞬間、コノハの足元の影がざわりと揺れた。
「【雪骸】――ユメをみせてあげる」
埒外の力に姿を重ねて現れたのは、亡霊。同じ姿形の三人目のコノハだった。
「……は」
昨日の自分だったなら、決して選ばない一手だ。
全幅の信頼を置く黒い管狐ではない、他のナニカの手を借りることなんぞ、考えもしないだろう。案の定、ライゼは瞠目し美貌を歪めている。
ほんの少しとはいえ、「今日こうして、己の姿をしたものと戦うコトを知っているコト」は、確実なアドバンテージとなってコノハに追い風を吹かせる。
現れたモノがたとえ自分自身だったとしても、ライゼには考えつかないことだろう。
「数が倍なら、どうかしらネ?」
「……どうも、しないデショ。全部喰らってアゲるだけヨ」
軽薄な口調はそのままだったが、向かってくる刃が二本になったことで、ライゼの呼吸は乱れ始める。
ユメの繰る刃が、ライゼの腕を斬りつける――刻まれた溝に紅が滑り彩った。
いくら自分とて手心を加えてやることはなく、一思いに傷口へと刃を突き立て、コノハの《柘榴》も朱に染まっていく。
「どうせ荊棘を斬り開くなら、綺麗な華も添えようじゃないの」
「言ってくれるわ……!」
血と共にライゼの命は、コノハの糧となる。形の良い唇が不敵に弧を描く。
「余すことなく喰ってアゲル」
「冗談ッ! それは、オレが――」
苦し紛れにライゼは刃を一閃させれども、それをひらりと躱して、着地、転瞬、疾駆。
体を入れ替えるように、ユメが音もなくライゼを斬りつけた。よろめいた隙に、コノハの痛烈な斬閃が奔った。
苦虫を噛み潰したように、苦痛に喘ぐそれに同情してやることもない。
ユメと織りなす無限の斬撃を受け続け、そのたびに命を吸い取られ、ライゼの精彩は欠いていく。
白皙の面に咲き誇る真っ赤な薔薇は、いまに散りゆくだろう。
「カハッ――」
大きく見開かれた瞳を見返して、
「昨日より、今日の華のが綺麗なのヨ」
コノハは酷薄に吐き捨てる。
心臓に突き立てたナイフを、さらに捻じ込んで、凄絶に笑んでやった。
大成功
🔵🔵🔵
護堂・結城
かかって来い。
お前が『殺したくても殺せない外道』がここにいるぞ
【POW】
俺の基本戦法はカウンターからの崩し、そこに追撃のUCだ
…故に俺が俺を倒しにくる戦法は最高速の一撃離脱
だから俺は最速のカウンターで迎え撃とう
指定UC発動、空を翔けるマッハの空中戦だ
同じ紫電の武装、衝撃波、怪力、俺ならここ一番で得意を選ぶと知ってる
故に結界術で作った壁を蹴り、急減速で攻撃をかわし大地めがけ殴り落とす
『俺を倒す事』を想定したお前と
『俺を倒しに来た俺を潰す事』を想定した俺
俺が勝つのは当然だろ?
過去が未来を変えてたまるか
…負けてそんな満足そうな顔すんじゃねぇよ
お前も俺なら外道に負けて悔しがれ
…ったく、お休み、よく眠れ
●
眼前の男は、緑と赤のオッドアイを眇めて嗤う。凍気を漲らせ、紫電を纏う双刀を携える姿は、まさに己だった。
否、外道じみた忌むべき姿がそこにある。
護堂・結城(雪見九尾・f00944)は、小さく吐息。
雷鳴轟く白刃の切っ先が、こちらに突きつけられた。護堂の頬に笑みが刻まれる。
(「外道が……!」)
その一言を飲み込んで、《轟雷》に紫電を発露させた。
「かかって来い」
結城の一声。それにつられるよう、驀地に駆け距離をつめてくる。
なによりも己のことだ。それが、そうして疾りくることは、分かっていた――カウンターからの追撃が、結城の定石だ。
それを突き崩すとなれば、カウンターを許さない最高速の一撃を喰らわせにくるだろう。躱す余裕も与えない、反撃の一手すら封じるほどの速さで、膂力に任せた轟烈な一撃になるはずだ。
橙刀が振るわれ、凄まじい雷鳴が轟く。そこここに派手に雷電を走らせ落とすほどに力が漏れて零れる。
(「だったら――」)
それは、結城とて同じだった。諸手に構える斬馬刀に宿る電光は、ひときわ眩しく明滅する。
「お前が『殺したくても殺せない外道』がここにいるぞ」
「俺に殺せない外道なんざいない」
「やれるものなら、やってみろ」
同じ声の応酬は長く続かない。纏った《天駆》にお供竜たちの力を宿す。
叛逆を奏で歌う吹雪く声音は、結城の力を倍増させて、広げた翼で空を叩くように羽ばたく。超音速の世界へといざなう力を纏って、結城は護堂を見下ろす。
「言われんでも!」
空を翔ける二つの影が、空を掻き混ぜ熱し暴風を生み出した――それは結城の想定の範囲内だ。
(「同じ紫電の武装、衝撃波、怪力、俺ならここ一番で得意を選ぶと知ってる」)
無理やりに空気は掻き混ぜられ、そこかしこで圧縮と膨張が繰り返されて、爆発が起こる。
その爆風すらそよ風とばかりに結城は、結界を構築した。
このまま真っ向から衝突し、純然たる力勝負にもっていく――だが。
頑健な壁たる結界は幾重にも張られ、それに脚を着いた瞬間、蹴破られ瓦解、不可視の壁の欠片は猛烈な嵐のように吹き荒れて、結城のスピードを殺していく。
最後の堅壁を蹴り、凄まじい怪力でもって、飛行の軌道を変えた。
向かってくる護堂の眼前から、結城が消えた――ように見えたことだろう。
視認することもままならず、気づいたときには護堂は背を蹴り抜かれていた。
天から墜とす痛烈な踵落としは、一切の情けもなく、よく知った体を大地へと叩き落した。
地を揺るがす衝突音は、土煙を上げて空気を震撼させた。
一瞬遅れて体に衝撃が走った。その振動を受け入れる。
「『俺を倒す事』を想定したお前と、『俺を倒しに来た俺を潰す事』を想定した俺――俺が勝つのは当然だろ?」
力を解いて、深く息をついた結城が、軽やかに着地する。乱れた銀髪は、頬にかかる。それを掻き上げ背へと投げて、ゆっくりと歩き始めた。
爆心地で横たわる姿が、土埃の奥から徐々に鮮明に見え始める。
その背に近づけば、護堂はひゅうっと息を漏らした。
「過去が未来を変えてたまるか」
「――はっ、まったくだよなぁ」
一瞬の空中戦に敗した護堂は墜ちたまま動かない。
だが、彼の頬にはどこか晴れやかな微笑みが浮かんでいた。
その笑みの意味は分からなくはないが、それでも口をついて出るのは、
「……負けてそんな満足そうな顔すんじゃねぇよ――お前も俺なら外道に負けて悔しがれ」
「くやしいけど、でも、おれに、ころせない、げどうは、やっぱりいなかっただろ」
護堂の笑みに息をのんだが、それも一瞬、結城は喉の奥でくつりと笑う。
「……ったく――お休み、よく眠れ」
完全にその影が消えるまで、結城は目を逸らさずにいた。
大成功
🔵🔵🔵
水衛・巽
昨日の自分を打ち破る、ですか
いいでしょう 受けて立ちます
タイマンなら騰蛇か朱雀…
ああいや、自分自身だからこそ
勾陳を憑依させ太刀で斬り合いを望むでしょうね
結界術で防壁を作りつつ第六感で攻撃を読みながら
青龍に盾になってもらい凌ぎます
自分自身のことですから太刀筋はよく知っている
青龍には水流を当ててもらって牽制し
判明した弱点を狙い一撃で決着をつけましょう
自分の弱点を知ることができるのですから
これはこれで有益な機会かもしれませんね
さて、そろそろ散ってもらいましょう『水衛巽』
貴方は昨日の私ですが
所詮ここにに立っている時点でただの「出来のいいマガイモノ」
贋作は真作に叶わぬものと相場が決まっているんですよ
●
荘厳な石造りの闘技場に立つのは、水衛・巽(鬼祓・f01428)の寸分違わぬ男。
どこか挑発的に笑み、この状況を大いに楽しんでいるようでもある水衛は、見れば見るほどに、鏡を覗き込んでいるようだった。
艶やかな髪は鴉の濡れ羽色で、その奥に強く輝く藍色の双眸、唇は美麗な笑みを描く。
然もありなん。
これは、昨日の自分だ。
侵入を防ぐために解き放たれたオブリビオンが、巽の姿形、性質を写し取っているのだ。
家宝も、装束も写し取られていて、巽はうっそりと眉根を寄せた――これを斃せば、この名状しがたい感情も解けて消えるだろう。
ふうと、小さく吐息。
「昨日の自分を打ち破る、ですか」
「こうした趣向も偶には楽しくないですか」
同じ声、同じ抑揚で言葉を紡ぐ水衛は、むしろ泰然と抜刀した。
「いいでしょう。受けて立ちます」
悠然と首肯。
しかし巽の思考はくるくると目まぐるしく回り続ける。
自分ならどうする。
もし自分ならば、この状況をどうする。
遮蔽物はない、相手はただ一人。
(「タイマンなら騰蛇か朱雀……ああいや、自分自身だからこそ、勾陳を憑依させ太刀で斬り合いを望むでしょうね」)
水衛は、果たして勾陳をその身に宿した。
「覚悟はいいですか」
戦の神のなすがまま酷薄に刃を繰り、息をつかせぬ体捌きと剣筋でもって巽に襲い掛かってくる。
黒炎も赤炎も厄介であったろうが、この剣の猛襲もなかなかに厄介だった。
構築した結界は刃を弾く防壁となり、水衛の剣閃の悉くを受けてゆくが、その容赦ない太刀筋に、巽は思わず笑みを零す。
「覚悟もなにも、そのつもりでここまで来ましたので」
よく知った太刀筋だ。
刺突を絡ませ、袈裟懸けに斬り下ろし、舞うように翻りざま横薙ぎに斬り放つ。
肌に感じる次撃を寸でのところで躱し、横っ飛びに間合いから僅かに外れた。
「青龍、あれを暴け」
巽の低い声は、清廉なる水神の息吹に掻き消される。
疲れを知らない――否、己で明確に制御できない猛攻を受けるのは、青龍の生み出す水流。噴き上がる清水は、水衛の足元を掬い、勢いをそのままに転倒させた。止まらない猛攻を無理やりやめさせたのだ。
「では、こちらの手番でしょうか」
告げた瞬間――《川面切典定》は優美な輝きでもって、態勢を崩した水衛へと振り下ろした。
己の弱点を知ることができる機会だ。この機を逃す手はない。
激しく甲高い衝突音、衝撃は腕を突き抜け肩に刺さる。
水面に波紋が浮かぶように、その瞳が揺れた。一呼吸もない間だ。
鎬地で受けられた剣閃は、強引に力のベクトルを変えさせられ――巽に生じた一寸の隙を護るように、青龍の水壁が盾となって聳え立つ。
「手番を譲ったつもりはありませんよ」
水衛の言下、怒涛の斬撃が水壁を両断せんと振るわれた。
「いえ、今は私の手番です――さて、そろそろ散ってもらいましょう『水衛巽』」
巽の宣言に、藍の双眸を瞠った。壁に刃が食い込む、一瞬の拘束、解き放たれた水の弾丸は、水衛の踏み込む瞬間の脚を狙い、均衡を突き崩す。
青龍が生み出した好機に、巽は一気に刃を叩き込む。勾陳を憑依させたそれの鋭さにも劣らない剣が閃き奔る。
「貴方は昨日の私ですが……」
激流に圧され、激痛に喘ぐ水衛を睥睨。太刀が空を斬って、風切り音がいや響く。
「所詮ここに立っている時点でただの『出来のいいマガイモノ』――」
実にマガイモノらしく、忠実に再現されていた。
過去の一時より進まないモノよりも、今を歩む者が勝る。
巽は嫋やかに笑んでやった。
亡霊を弔うときだ――弔辞はいらんだろう。手向け花には、これから咲くであろう徒花で十分だろうて。
一足で間合いを詰める。反撃の時間も、躱す間もない神速の跳躍、同時に突き出された直刃調の刀身は、水衛の腹へと沈んでいく。
大きな抵抗を無視、一切の容赦を捨てた刺突だった。
「贋作は、真作に叶わぬものと相場が決まっているんですよ」
どぉっと崩れ落ちた。
迫真の贋物は腹に真っ赤な徒花を咲かせ、やがて塵芥と化した。
●
荊棘は披かれ斬り捨てられた。
血を塗り沁み込ませたような薔薇の花弁が、ひらはら落ちる。
この先の戦の吉兆を占うように、ひらりはらりと、花弁は筵を広げた。
大成功
🔵🔵🔵