迷宮災厄戦⑰〜今日より明日はもっと強くなれる~
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「皆様、お疲れ様でございます」
連日の戦いに挑む猟兵たちをそう労うのは、執事服に身を包んだグリモア猟兵――セバスティアン・ヴァンホーン(真なるお嬢様を探して・f14042)だ。
「お疲れのところ申し訳御座いませんが……今回、皆様には次なる戦場へ向かって頂きたいのです」
UDCアースの文化に詳しい者には、古代ローマ風と言えば伝わるだろうか。
石を積み上げて作り上げられたドーム状の建物は、所謂闘技場と呼ばれるものだ。
今回の依頼は、その闘技場に現れるオブリビオンを討伐して欲しいというものらしい。
「しかし現れるオブリビオンは通常のものとは違うようです……そのオブリビオンは、皆様の昨日の姿――そう、思考能力も、身体能力も、昨日の皆様そのものなのです」
セバスティアンによれば次なる戦場もまた、一筋縄ではいかないようだ。
何故ならば、その闘技場に現れるオブリビオンは猟兵たちそのものと同じ能力を持つというのだ。
身体能力も、思考能力も……それこそ、考え方すら一緒なのかもしれない。
一つだけ違うのは――オブリビオンであること。
世界の――アリスラビリンスの崩壊の為に動いていることくらいであろう。
「敵の強さもまた、皆様と同じもの……当然接戦が予想されます。故に皆様の、一日一日の成長こそが、勝負の鍵となるでしょう」
力か、持久力か、思考か……そうした一日一日の積み重ねこそが、強さを生み出していく。
昨日の己と全く同じ能力を持つのであれば、その一日の成長こそに、勝負の鍵が握られていることだろう。
「皆様、十分に気を付けて行ってらっしゃいませ」
老いたグリモア猟兵は、そう語りながら皆を送り出すのであった。
きみはる
●ご挨拶
お世話になります、きみはるです。
今回はこんな依頼を出させて頂きました。
●依頼について
冒険フラグメントとなります。
相手は昨日の自分ですので、接戦となります。
当然作戦にもよりますが、基本的には成功や大成功でも長期戦となり、苦戦した先に勝利を掴むリプレイとなると思いますので、ご承知おき下さい。
●プレイング募集について
OP公開から締まるまでプレイング募集期間とさせて頂きます。
その為、普段よりかはやや少なめの人数での進行を予定しております。
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『昨日の自分との戦い』
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POW : 互角の強さであるのならば負けない。真正面から迎え撃つ
SPD : 今日の自分は昨日の自分よりも成長している筈。その成長を利用して戦う
WIZ : 昨日の自分は自分自身であるのだから、その考えを読む事ができるはず。作戦で勝つぞ
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ギャスパー・グリムヒルド
「それじゃ始めよっか」
『そだねー』
互いを見る不気味な風景。次の瞬間には互いが相手に物凄い力の[念動力]をぶつけあっていた。周りの地面が砕け空間が歪む。
「(やっぱりボクだなぁ。手始めに念力を当ててくる)」
『(どうせそんな事だろうとは思ったけど、じゃあ次はこれで)』
敵のギャスパーは雷[属性攻撃]である[全力魔法]を繰り出し、本物はその攻撃を[念動力]で空間を歪め、開けた穴の中に飛ばし無効化。
『凄いなぁ。でもこのままじゃ勝負つかないよー』
「大丈夫! ……もうついたから」
『え?』
と砕けた地面で隠し[化術]で作っていた3人目の自分が敵の背後から仙骨槍で貫いた。
「出し惜しみは“ボク”の悪いクセだ」
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「それじゃ始めよっか」
「そだねー」
まるで買い物にでも出かけるような、まるで食事でも始めるかのような……そんな気軽さで殺し合いを始めようとしているのは、殺人ウサギ(キラーラビット)の血を引く時計ウサギ――ギャスパー・グリムヒルド(キラーラビットは今日も笑う・f28370)だ。
普段であれば、どうしたのかと心配をされる……又は、おびえたようなような視線を投げかけられる――そんな言動をしようとも、目の前の白毛兎は何事も無いかのような笑顔をにこにこと浮かべる。
鏡越しのような、自分自身を見つめるという不気味な風景。
どちらもまるで穏やかな日差しを楽しんでいるかのように朗らかに目を細め、そして殺し合いを始めるのだ。
突如として空気が弾けるような音が響き渡る。
突風と共に木々がなぎ倒され、次々と地面に穴が開く。
拉げる大樹が、砕かれる岩が……身じろぎ一つしていない二人の戦いの壮絶さを物語っていた。
天変地異かと見紛う被害を生み出しながらも、ギャスパーは冷静に、そして穏やかに思考を続けていた。
(やっぱりボクだなぁ。手始めに念力を当ててくる)
(どうせそんな事だろうとは思ったけど、じゃあ次はこれで)
まるで長年連れ添った伴侶のように、手を取り合うように互いの思考が理解できる。
最初は此処、次に狙うならば此処、そうして容易に人を肉塊に変えるほどの念動力を放つも、その全てがぶつかり打ち消し合う。
それは即ち、次なる一手をも理解できるということだ。
空気を引き裂くように紫電が舞えば、受け流すかのように樹木をぶつける。
お返しとばかりに火球を放つも、空気を歪め鎮火される。
全てを薙ぎ払う念動力も、匠な魔導を操る技術も互角。
故に拮抗は当然であり、必然だ。
「凄いなぁ。でもこのままじゃ勝負つかないよー」
「大丈夫!……もうついたから」
だが一つ、一つだけ違いがあるのならば……眼前のもう一人の自分は、昨日の自分であるということだ。
故にこのもう一人の自分との闘いという特殊極まりない戦場でさえ、いつも通りの気概で臨むのだ。
「え?」
何が起きたのかわからない……そうした表情を浮かべたまま、オブリビオンたるも一人の自分は血反吐を吐く。
愕然と紅に染まった掌を見つめている彼を背後から貫いたのは、術により生み出された伏兵たるもう一人の自分。
戦況が拮抗することを予知の説明から理解していたギャスパーは、最初から入念な準備をしていたのだ。
「出し惜しみは“ボク”の悪いクセだ」
昨日の自分と今日のボクとの違いは、たった一つ――この戦場に対する理解と覚悟の差。
自身の楽しむ癖を理解しているからこそ、ギャスパーはらしく無くとも全力を尽くす。
それが己を出し抜く唯一の方法だと、理解しているのだから。
「それじゃあね……楽しかった」
兎は嗤う――楽しそうに。
大地に伏し、瞳を濁らせる自分を、楽しそうに眺めながら。
大成功
🔵🔵🔵
波山・ヒクイ
おっす1日前のわっち!早速死ねっ!
…ちっ、やっぱり同じことを考えておったか
わっちが二人居れば同じリスナーを取り合うことになる、言わば最悪の競合相手であると…!
…ふぅ、じゃが…見よ
わっちが投稿したこの動画の再生数、幾つじゃったか覚えておる?
おるよね、わっち毎日チェックしとるもんね
これな…今日1再生増えたんじゃ!
わっちは昨日より、人気配信者への階段を一歩高みに進んでおる
この1再生は、お前では絶対に乗り越えることはできまいっ!
さて、精神的に優位に立った所で
あなたが望む御姿の術!
「わっち」が望んだ姿…昨日より一歩鮮明な「最強の大人気配信者」…の脚を具現化じゃっ!
くらえ必殺、大人気配信者キックーっ!
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「おっす1日前のわっち! 早速死ねっ!」
純然たる殺意と共に、波山・ヒクイ(ごく普通のキマイラ・f26985)は己と全く同じ外見をしたオブリビオンへとバットを振るう。
脳天目掛けて振り下ろされ、肉片をまき散らすはずの金属バットは……同じ外観をした棒とぶつかり合い、辺りに乾いた音を響かせる。
「……ちっ、やっぱり同じことを考えておったか」
相手がこちらへと向ける視線もまた、親の仇かと思えるほどの強い憎しみ。
ヒクイはその感情の原因を十分に理解していた。
何故ならそれは、己の胸中をかき乱す狂おしいほどの激情と同じなのだから。
「わっちが二人居れば同じリスナーを取り合うことになる……言わば最悪の競合相手であると!」
波山・ヒクイは動画配信者である。
数百歳を自称し、大胆に着崩した着物姿に老獪さを感じさせる言葉遣いで得体のしれなさを醸し出し、動画配信サイトでも存在感を示すことに日々全力を尽くしている。
それは全ては人気の為。
人気を得る為に、他社との違いを……自分の色を出すことに必死なのだ。
それは時に、諸刃の剣――もしも自分と同じ存在がいたならば……それはキャラ被りという、最悪の競合相手が産まれたという事実なのだから。
十人程度しかいない配信登録者数が五人となり、百に満たない再生数が半減する可能性を秘めているのだから。
「ふぅ、じゃが……見よ、わっちが投稿したこの動画の再生数、幾つじゃったか覚えておる? おるよね、わっち毎日チェックしとるもんね。これな……今日1再生増えたんじゃ!」
愕然とするもう一人の自分。
それは即ち、彼女にとっての己が動画の世間の評価に対し、ヒクイ本人が認識しているものが、一歩先を言っていること。
つまりは彼女より、ヒクイの方が人気動画投稿者だということなのだ。
「わっちは昨日より、人気配信者への階段を一歩高みに進んでおる……この1再生は、お前では絶対に乗り越えることはできまいっ!」
悔しそうに地面の土を掻きむしる相手は、この上無く隙だらけなもの。
だがそれも無理も無い……ヒクイ自身でさえ、もしももう一人の自分という――キャラ被りこの上無い動画投稿者というライバル心バリバリな相手に負けたら、狂ったように悔しがる自信があるからだ。
「くらえ必殺、大人気配信者キックーっ!」
さらば劣等感を捨てきれぬ敗北者たる自分。
こんにちは、昨日より一歩鮮明な“最強の大人気配信者”たる自分。
自分はきっと、自分が思い描く理想の姿を――ビクトリー・ロードを邁進するのだ。
昨日の自分を糧として、大人気動画配信者え至る道を。
大成功
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ネーヴェ・ノアイユ
昨日の自分が相手……。ですか。互いに手は読めていると考えると……。やはりまずは氷壁にて盾受け出来る状態を整えますよね……。私もそうしてますし。
しばらっくは氷の鋏を飛ばし、防ぎの攻防を……。しかし、これでは埒が明かないと判断してicicle scissorsを作り出し接近戦へ。
……このタイミングも完璧に合うのですね。
これだけ戦っても頭のリボンは狙ってきませんね。何から何までそっくりです……。でも……。なんだか嬉しいですね。アリスである私が昨日とはいえ過去と戦えるなんて。
決着はUCにて。先手で発動し……。上書きしようと空中浮遊した私に向かい場の有利を使用して急接近。胴体目掛けての斬撃にて決めます。
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「昨日の自分が相手……ですか。互いに手は読めていると考えると……」
頭につけた大きなリボンを風ではためかせ、ネーヴェ・ノアイユ(冷たい魔法使い・f28873)は眼前のもう一人の自分へと駆けだす。
互いに互いの手の内は読めているはず。
ならば無駄な読み合いは不要であるとばかり、己と全く同じ外観をしたオブリビオンへ向けて接敵するのだ。
「やはりまずは受けられる状態を整えますよね……」
ネーヴェが得意とするのは、魔力を操ることで生み出す氷を用いた攻撃。
先ずは初手を受け流さんと、敵の攻撃を受ける為の氷壁を作り出す。
しかしその思考は相手も同じ――互いに生み出された氷の盾は、互いを押し倒すかのようにぶつかり合うのだ。
「次の手は……」
盾越しに放たれる氷の鋏が宙を舞い、その柔肌を切り裂かんと飛来する。
しかし相手の動きを読もうとも、その狙いもまた互いに理解が出来るのだ。
故にいくら先の先を取ろうと、カウンター狙いに後の先を狙おうと……その全てが互いに完璧に読み解かれ、刃は小さく氷の壁を傷つけるばかり。
「しかし、これでは埒が明きませんか」
故にネージュは氷の鋏――icicle scissorsを握り、敵の懐へと滑り込む。
それは奇襲としては完璧なタイミング。
そう、本来であれば……敵が全く同じタイミングで飛び出して来さえしていなければ。
「……このタイミングも完璧に合うのですね」
相手もまた驚きの表情を浮かべているのが目に入る。
咄嗟に振るう氷の刃は滑りながら金属音を響かせる。
一撃必殺を狙い首を、動きを鈍らせることを狙い四肢へと刃を振るう。
それは決して捉えることは無いものの、ネージュは理解していた。
本来であれば、最も己にとって大切なリボンを狙うことが一番だと――だが、相手のものだとしても、己にとって大切なリボンと同じものを、決して傷つけることは出来ないのだと。
「ははっ」
戦いの最中だというのに、ネージュはどこか戦いを楽しんでいる自分に気付き笑いがこぼれる。
アリスである自分が、自身の過去と戦えるなどと。
たった一日だけ過去の自分ではあるものの、帰郷を……過去へ還ることを願うアリスにとって、それはどこか甘美な響きなのだ。
「当たる……外れる……どちらに転んでも都合がいいのです」
次なる一手を手中に生み出しながら、ネーヴェ・ノアイユは戦い続ける。
その拮抗した戦いが、永遠に続くことを何処か願いながら。
そして最後は昨日の己に打ち勝つことを、心の底から信じながら。
成功
🔵🔵🔴
琴平・琴子
日々努力は続けておりますが
どちらがより強くなれているか確認しましょう
御機嫌よう昨日の私
スカートの両端を摘まんでご挨拶
昨日の私と今日の私
どちらが強いのか、力比べを致しましょう
昨日の私は確かに戦場を駆け抜けておりました
その足も声も兵隊達の指揮も相変わらず
ですが、それを体験した今日の私はそれ故により強くなった
昨日の私より今日の私の方が喚べる兵隊達が多いです
たった一体、されど一体
余裕を持つ方がより一層
戦場において一歩先へ進めるだけのこと
さようなら昨日の私
私は貴方を超えて昨日より、今もこれからも強くなります
そうして今日の私の糧と成るのだから
無駄ではなかった努力でどうか微笑んで
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「日々努力は続けておりますが……どちらがより強くなれているか確認しましょう」
己と寸分違わぬ外見をしたオブリビオンを見つめ、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は胸を高鳴らせる。
人様に恥じぬよう、胸を張れるよう……琴子は努力を怠らず、日々を過ごしてきたという自負がある。
故に本当に相手が昨日の自分であるならば、本当にその通りの実力があるのであれば……目の前の己に勝つことこそが、日々の彼女の努力を証明することに他ならないのだから。
「御機嫌よう昨日の私……昨日の私と今日の私、どちらが強いのか、力比べを致しましょう?」
琴子はスカートの両端を摘まみ小さくしゃがむことで挨拶をする。
指の動きも、膝の角度も……全てが琴子と全く同じカーテシーを披露する眼前のオブリビオンは、やはり己と同じなのであろう。
その事実が、琴子を高揚させる。
日々の努力は怠ってはいない……その行為自体を疑問に思ったことは無い。
だがその目に見えぬ努力という行為の成果が、こうして明確に体感できるのであれば、それ以上に励みになることは無いのだから。
「一斉射撃準備良し! 放て!」
琴子が用いるは、銃剣を持った玩具の兵隊を召喚するUC――兵隊の行進(ソルジャーズマーチ)だ。
思考も同等――オブリビオンによってもまた玩具の兵隊が召喚されることで戦端が開かれる。
壁に囲まれた闘技場で玩具の兵隊が戦う様は正しく机上遊戯。
しかしそこで飛び交う鉛弾は本物だ。
「昨日の私は確かに戦場を駆け抜けておりました……」
日々戦いに暮れるこの戦争の中で、昨日もまた戦場を駆けていた。
その中で磨かれた兵隊たちの質も、琴子自身の指揮能力も同等。
しかしたった一つ……ほんの一つ、違う部分が存在するのだ。
それは日々の中での成長――たった一体の玩具の兵隊の数が、今日という日の成長により増えていたのだ。
「さようなら昨日の私」
拮抗は必然――次々と兵は倒れ、防ぎきれぬ弾丸により琴子自身も血を流す。
だがたった一体、されど一体。
兵の質も、指揮者の能力も同じであるならば……たった一体の差が戦況を左右する――そしてその差は、時間が経てば経つほどどんどんと大きくなっていくのだ。
「私は貴方を超えて昨日より、今もこれからも強くなります」
二体で一体を倒したならば、数の差は二体となる。
そうして二体、四体と……時を経る毎にその数の差は顕著になっていくのだ。
オブリビオンがその差に気付いた時には既に遅い――大勢は決し、もはや琴子の軍が敵軍んを完全に包囲していた。
「そうして今日の私の糧と成るのだから……無駄ではなかった努力でどうか微笑んで」
だから悔やむなと、そう少女は言葉をかける。
これこそが己の生きる道だと――己の努力の成果だと、堂々と胸を張りながら。
大成功
🔵🔵🔵